6.総理府統計局事件 最二小昭60・9・18労判467
昭和36年10月26日統計職組は午前9時頃から9時20分頃までの間統計局裏門において職員約80名の参加をえて勤務時間内の職場大会を実施した。これに対し当局はピケなどに参加した約400名に対し有給休暇請求を承認せず賃金カットとしたが、統計職組は賃金カット理由を求める運動を行うため、11月8・9・16・17日の各休憩時間に部外者を含む80~100名の職員を集めて勤務時間に食い込むオルグ活動を開催したほか、当該職場の係長らに対し、長い時間で一時間内外にわたって、話し合いを強要し、その執務を妨げ、かつ他の職員の勤務を妨げた。対して総理府総務長官は統計局職組委員長を免職、副委員長1人と執行委員1人を停職四か月、その他執行委員など3人を減給三か月の懲戒処分に付した。 一審東京地判昭50・12・24判時806は原告らの各所為は違法な争議行為であるとして懲戒処分を適法とした。東京高判昭55・5・16訴務31-5も棄却、上告審も棄却。
7. 全運輸近畿支部兵庫分会事件 最二小昭60.11.8判決 民集39-7-1375判時1178
(1)本判決の意義
本件は、運輸省大阪陸運局長による、違法職場大会であいさつ、演説等を行い指導的な役割を果たした全運輸近畿陸運支部分会役員に対する戒告処分の懲戒処分取消し請求訴訟である。
全運輸とは運輸省の港湾建設局と港湾・航海関係附属機関を除き、管理職員を除く職員の大多数をもって組織され、本件ストライキ当時の組合員の総数は約7570名であった。昭和44年全運輸は国公共闘・公務員共闘統一行動の一環と人事院勧告完全実施等の要求貫徹のため、勤務時間に食い込む職場大会の実施を指令し、同年11月12日全運輸近畿陸運支部は、大阪陸運局本局分会は、15分、その他の分会は20分勤務時間に食い込む早朝職場大会の実施を伝達した。
原告Kは、本件ストライキ当時全運輸近畿支部兵庫分会分会長の地位にあったところ、右分会が右同日兵庫県陸運事務所庁舎玄関前横において、右要求貫徹を目的として行った勤務時間にくい込む職場大会に就業命令を無視して参加し、このため、当日の勤務時間中午前八時三○分から同四二分までの一二分間にわたり職務を放棄し、その際分会長として「あいさつ及び職場大会の意義」について演説を行い主たる役割を果たした。
О総務課長は、あいさつをおこなっていた分会長に近づき八時二十五分頃「この大会は無許可であるからすぐ解散せよ」と命令、同三十六分にも「時間内にくい込む集会は違法だからすぐ解散しなさい」と命令、さらに四○分頃自らがプラカードを持って、分会員内を歩きまわるなど、解散・職場復帰命令が発せられている。
原告Nは全運輸近畿支部兵庫分会副分会長の地位にあったところ、右分会が右同日八時三三分から同五〇分までの約一七分にわたり兵庫県陸運事務所姫路支所構内入口横のひろばにおいて、右要求貫徹を目的として行った勤務時間にくい込む職場大会に参加し、その際副分会長として「所長交渉の経過報告及び決議文の朗読」を行い主たる役割を果たした。
A姫路支所長は、午前八時三五分頃、T副分会長に組合旗が立ててあること及び勤務時間にくい込む右大会は違法であることを口頭で注意し、さらに同四九分ごろ、参加者全員に対し、解散するよう口頭で命じている。
なお、原告Nは、勤務場所は兵庫県陸運事務所(本所)輸送課であるが前日に行われた所長交渉に姫路支所勤務のT副分会長が出席していないため、交渉経過を本職場大会に報告するため、有給休暇を取得し、前日より姫路分会に泊まり込んで参加したものである。
(兵庫分会以外の分会での職場大会の状況を省略する)
原告らの各行為は、組合役員として他の者と共に勤務時間にくい込む職場大会に参加した点において国公法九八条二の項前段所定の争議行為に該当し、右大会おいて組合役員として、参加者に対し、あいさつ、経過報告、決議の朗読、演説、がんばろう三唱の音頭などを行った点において同法九八条二項後段所定の「そそのかし」「あおり」行為に該当するので、同法条項に違反し、同法八二条一号に該当する。‥‥事前に上司から勤務時間にくい込む職場大会は明らかに違法であるから参加しないよう警告されていたにもかかわらず、右行為を行ったことは情状が重いとして、戒告処分としたものである。
なお、本件昭和44年11月13日の本件職場大会の闘争では戒告処分は43名であり、本部役員1名、支部役員8名、分会三役34名であった。本件闘争は、全運輸中央本部の責任者について企画指導の立証を充分にする資料を収集できなかったため、各職場大会毎に実行行為者をとらえ、主たる役割を果たした者を各職場大会毎原則1人につき戒告処分にするという方針のもとに行われた。
(昭和48年から昭和50年までの闘争は、分会役員は処分されていないが、その理由は、職場大会が陸運事務所構内でなく、現認できなかったことと、遅刻者が交通ストのためと申告し、争議行為参加の事実認定ができなかったことである。本部役員15名、支部三役20名が戒告処分を受けている)
一審大阪地判昭54・8・30は原告の主張を全て排斥し請求棄却、二審大阪高判昭57・2・25も一審判決を全面的に支持し控訴を棄却、上告審も棄却。
国公法が禁止する争議行為を指導したことを服務規律違反として懲戒処分することが適法であることは昭和52・12・20神戸税関判決があり決着がついていることで、リーディングケースではないけれども、調査官解説のある重要判例とされているのは、本件が出勤簿整理時間内に終了した職場大会で、就業命令が不当だとの主張がなされ、出勤簿整理時間を正面から問題にした先例がなかっためで、出勤簿整理時間の設定は、一般職に属する国家公務員の勤務時間を短縮し、出勤簿整理時間中の職務に従事する義務を免除したものと解することはできないと最高裁が初めて判示したことによる。
出勤簿整理時間とは、通勤の交通機関が著しく混雑する地域において、始業時刻からある程度の時間(例えば30分)出勤簿を引上げず整理時間内に押印すれば始業時刻に出勤した扱いとする慣行で、事実上出勤猶予時間のような外観を呈していた。平成初期までは官庁で広く行われていたが、この判決の影響もあって10年ほどで廃止されたように記憶している。今日では始業時刻より前にカードリーダーを通さないと遅刻になるので、整理時間の設定はなくなった。
従って、今日的観点での意義はむしろそれよりも、職場大会においてあいさつ、交渉経過報告、決議の朗読、演説、がんばろう三唱の音頭を取る等、指導的な役割をすることは、国公法九八条二項後段所定の「そそのかし」「あおり」行為に該当するのものとして違法であり、当然懲戒処分も適法であることを明確にしたこと。
本件の副分会長N原告のように有給休暇を取得し、勤務地でない事業所の勤務時間内職場大会で指導的な役割を果たした場合、それは同盟罷業に参加したとはいえず職務専念義務違反にはならないが、国公法が違法とする「そそのかし」「あおり」行為に該当するとして、懲戒処分は適法であるということを明確にしたこと。
たとえ出勤簿整理時間であっても、勤務時間にくい込む職場大会で違法な争議行為であり、参加している組合員に対し、「解散命令」「職務命令」を発することは当然で、職員は右命令に拘束され従うべき義務を負うということがより明確になったということを本判決の意義として認めてよいと思う。
又、本件は処分の対象を職場大会ごとに1人としているため、同様の役割を果たした組合役員でも処分されずにすんだケースがあるが、このような選択的に懲戒処分を賦課するあり方であっても裁量権の範囲として是認しているのである。
(2)一審判決抜粋
「‥‥出勤簿整理時間の設定は、職員の勤務時間を変更し、当該時間内の勤務を免除するとの効力を有するものではないから、職員は、出勤簿整理時間内に出勤した場合には、当然に当局の支配管理下にあり、労働供給義務を負うものというべきであり‥‥他の目的のために自由に使用・行動し得る時間ではない‥‥それ故、当局は、出勤簿整理時間内に出勤した職員に対し、職務命令を発することができるのは当然であり、まして‥‥本件職場集会に参加している職員に対して「解散命令」或いは「職務命令」を発したことはなんら瑕疵はなく、職員は右命令に拘束され、従うべき義務を負うものというべきである。‥‥
‥‥本件職場大会は、公務員として負担する職務専念義務に違反し、労務供給義務の提供を拒否したものということができ‥‥それ自体必然的に業務の正常な運営を阻害する行為ということができるから‥‥国公法九二条二項所定の争議行為に該当する‥‥
原告らは、国公法九八条二項所定の争議行為は、長時間かつ大規模な職務放棄をおこなったため、右業務に大混乱が生じる場合である旨主張するのであるが、公務員の行う争議行為である限り、同法条項に規定するその規模、状況等によって区別すべき理由のないことは明らかである(‥最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決参照)。
‥‥国公法九八条二項後段所定の「あおり」「そそのかし」とは、国公法九八条二項前段に定める違法行為を実行させる目的をもって、他人に対し、その行為をなさしめるよう仕向ける行為を総称し、必ずしもこれによって現実に相手方が影響を受けること及び業務の正常な運営を阻害する行為が行われることを要しない‥‥
‥‥本件職場大会において原告Hが分会長としてあいさつをした行為、原告Kが分会長としてメッセージと祝電を朗読した行為、原告Kがあいさつと職場大会の意義について演説した行為、原告Nが副分会長として所長交渉の経過報告について演説し決議文を朗読した行為、原告Tが分会長として団結がんばろうの音頭をとった行為‥‥原告Nが支部長としてあいさつをし、人事院勧告に対する閣議決定の不当性を説明した行為は。いずれも‥‥「あおり」ある遺棄「そそのかし」行為に該当するものということができる。‥‥
原告Nは、本件職場大会当日、年次有給休暇をとることによって就労義務を免れれたものということができるのだが、だからといって公務員として国公法九八条二項に違反する争議行為を行うことまで許されるものではないのである。
なお[原告三名]を除くその余りの原告らの本件職場大会等におけるあいさつ等の行為は、午前八時三〇分以前に行われたのだから、右行為は違法性がない旨主張するかのごとくであるので附言するに‥‥本件職場集会が違法なものであるから、原告らの行為が本件職場大会における一行為としておこなわれるものである限り、それが行われた時期如何によって違法性の有無が左右されるものではないのである。
原告らが本件処分をもって不当労働行為と主張する‥‥本件職場大会前に警告書を発し、周到な準備をしたうえで‥‥本件各処分をしたことは団結に対する弾圧である‥‥しかしながら、本件職場大会に対し就業命令を発し、又、本件職場大会前に右大会に参加しないように警告書をはっしたとしても‥‥国公法九八条二項に違反する違法な行為である限り、被告局長らが右違法行為を看過することなく右のようなに措置をとり、或いは各処分を行うことし当然のことというべきであり‥‥不当労働行為を推認することはできない。
原告らは、本件職場大会における原告らの行為は、労働組合としての団体行動であるから、右行為について個人責任或いは幹部責任を問うことができないと主張する。
しかしながら、集団的労働関係である争議行為の場においても個別的労働関係が解消されるものではないから、当該違法行為における組合員の行為を個人的行為の側面でとらえたうえで、そのことを理由に組合員に対し、個別的労働関係の責任である懲戒責任を追求することができるものというべきである。‥‥
原告らは、原告らの行為はいずれも組合中央からの方針、指令に従い、組合員としての当然の義務を果たしたにすぎないから、原告らをとくに選択して懲戒処分に付する合理的な理由がないとも主張するが、既に説示したごとく本件職場大会は国公法に違反する違法な争議行為であるから、仮に組合の指令があったとしても、それは国公法に優先するものではないこと当然というべきであり、右指令を従ったことをもって違法な争議行為に参加したなどの原告らの行為を何ら正当化するものではないし‥‥本件各処分を受けるに至ったとしても、何ら不合理なものということはできない。‥‥
裁判所は公務員に対する懲戒処分の適否を審査するにあたり、懲戒権と同一の立場に立って、懲戒処分の適否を審査するにあたり、懲戒権者と同一の視点に立って、懲戒処分をすべきであったかどうか、又、懲戒処分をする場合にいかなる選択をすべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁昭和五二年一二月二〇日第三小法定判決)。
(3)上告審抜粋
本件職場大会の開催が国公法九八条二項前段の規定にいう争議行為に該当するとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。‥‥
国公法二八条一項前段は、同法二条に規定する一般職に属する職員(以下「職員」という。)の給与、勤務時間その他勤務条件に関する基礎事項は、法律によって定められ、法律によって変更されるべきことなどを規定し、勤務時間及びその割振については、一般職の職員の給与に関する法律一四条一項が、「職員の勤務時間は、休憩時間を除き、一週間について四十時間を下らず四十八時間をこえない範囲内において、人事院規則で定める。」と規定し、同条四項本文が、「勤務時間は、特に支障のない限り、月曜日から土曜日までの六日間においてその割振を行い、日曜日は、勤務を要しない日とする。」と規定している。これを受けた人事院規則一五―一「職員の勤務時間等の基準」は、一週間の勤務時間を四四時間と定め(四条)、その割振は、会計検査院及び人事院の職員以外の職員については内閣総理大臣が定めるものとし(五条一項)、その原則的な基準として、月曜日から金曜日までの五日間においては一日につき八時間となるように、土曜日においては四時間となるように割り振るものとしている(六条一項)。これに基づき、内閣総理大臣は、「政府職員の勤務時間は、休日を除き次の通りとし、日曜日は勤務を要しない日とする。月曜日から金曜日まで午前八時三十分から午後五時まで。但し、その間に三十分の休憩時間を置く。土曜日午前八時三十分から午後零時三十分まで。」と定めている(政府職員の勤務時間に関する総理府令(昭和二四年総理庁令第一号一項)。
このように、職員の勤務時間及びその割振は、法律及びその委任に基づく人事院規則等によって定めることとされ、右法規に基づかないでこれを変更することは認められていないものというべきである。
ところで、原審の認定するところによると、兵庫県陸運事務所においては、勤務時間の開始時刻である午前八時三〇分からおおむね午前九時ころまでの間出勤簿整理時間と称する取扱いがされているが、これは、出勤簿管理の必要上、官署の長が勤務時間管理員に対して発した職務命令によって定められているものであり、右時間内に出勤簿の整理を完了することを命ずると共に、右時間内に出勤して出勤簿に押印した職員については勤務時間の開始時刻までに出勤したものとして取り扱うこととされていたというのである。上告人らは、右の出勤簿整理時間の設定によって職員に対し右時間について職務に従事する義務が免除されたものである旨を主張するのであるが、もし右出勤簿整理時間の設定がその時間中の職務に従事する義務を免除するものであるとすれば、それは勤務時間を短縮し、その割振を変更するものにほかならないところ、法規に基づかないで勤務時間を短縮し、その割振を変更することが許されないものであることは前記のとおりであるから、出勤簿整理時間の設定が、勤務時間を短縮し、出勤簿整理時間中の職務に従事する義務を免除したものと解することはできないものというべきである。
また、上告人らは、右出勤簿整理時間の設定及びその実施により、職員に対し右時間中の職務に従事する義務を免除するという内容の慣行が成立している旨を主張するのであるが、右のような内容は職員の勤務時間及びその割振を定めた前記規定に抵触することが明らかであるから、前記のような取扱いが相当期間継続して行われて来たものであるとしても、出勤簿整理時間中の職務に従事する義務を免除するという内容の慣行が成立する余地はないものといわなければならない。右と同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はなく、右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。‥‥
本件職場大会における上告人らの行為が国公法九八条二項後段に規定する「そそのかし」又は「あおり」に該当するとした原審の判断は正当であって、原判決に所論の違法はなく、所論引用の各判例に抵触するところもない。‥‥
上告人Nが年次休暇の承認を受けたことにより本件職場大会当日の職務に従事する義務を免除されていたとしても、そのことによって同上告人につき国公法九八条二項後段の規定する「そそのかし」又は「あおり」の責任を問い得なくなるわけのものではない旨を説示したものであつて、同上告人の右当日の行為が同項前段の争議行為(同盟罷業)に当たるとしたものではないと解すべきであるから、原判決に所論の違法はない。‥‥」
(4)一審ではどのような組合の主張が排斥されたか
本判決は一審の段階で原告の主張すべて排斥していることで気持ちのよい判例なのである。以下は組合側の主張のピックアップである。
○兵庫分会における職場集会でO総務課長が分会長に近づき解散命令をしたり、プラカードをもって歩き回ったことは大会の妨害行為である。
○原告Kは8時22分から29分まで挨拶をおこなったが、分会長として当然の正当な行為であり「主たる役割を果たした」とは目しえない
○職場大会は何ら業務の正常な妨害をしていない。すなわち通常兵庫県陸運事務所の職員は、午前9時から同15分の間に出勤し、登録事務の受付は9時~、車検の受付は同30分~
○大会にしようした場所は、右時刻当局において使用する必要性がなかったし、従来の例からいってその使用を許可されたこともなかったのであり、分会長及び分会員が無届使用を理由とする解散命令や、何ら業務上の必要間内就業命令に従わず大会を進行しても何らその責に問われる理由はない。分会は当局がなんら措置をしていないのに保安要員をおいて、大会中に業務が発生しても対応できるようにしていた。
○本件職場大会は出勤簿整理時間内のものであり業務阻害を生じさせていないので争議行為ではなく、団体活動・組合活動である。
○窓口業務も開始されていないのに、職員に対して職務命令を発することのできない時間であり、就業命令や解散命令は職員を拘束しない。
○就業命令等は組織敵視、組合の集会をつぶし、組合の団結を破壊することにある。
○原告らの本件職場大会の行為は、労働組合としての団体行動であるから、組合員個人として、或いは組合幹部としての懲戒責任(個人責任、幹部-支部長・分会長責任)を問えない。団体的違法争議行為についていかなる個人責任も生じ得ない。
○原告らの各行為は、全運輸近畿支部の支部長または分会責任者とし組合中央からの方針、指令を忠実に実行したものであり、組合中央によって勤務時間のくいこみ時間、集会の態様まですべて定められ‥‥これに自動的に組み入れられていったのである‥‥これに反した行動をとれば、原告らは組合の団結を破壊したことになり、組合の統制処分を受けることになる。従って原告ら、中央闘争本部などからの指令に基づく組合員としての当然の義務を果たしただけであって、使用士やとの国との官位で、原告らを特別に選択して懲戒処分に付する合理的な理由はない。
○本件職場大会が国公法98条2項に違反するとしても、違法性の程度は極めて軽微である。しかも各処分は何らの権限もない支部長、分会長、副分会長に対する詩文であり、本件処分により昇給延伸の措置がとられ、原告らが受ける給与上の損失は一人当たり29万円から140万円に達するのは苛酷である。
○原告Nの処分について、年休件行使の目的が本件職場大会の参加であったことは、組合員である係長が知っていることで、総務課長が局人事課に打診したうえで「家事都合との理由を書いてもらえば認めよう」ということになったにもかかわらず、処分がなされたのはだまし打ちである。
(5)一審における当局側の反論
当局側の主張は次のようにしっかりして穴がない。
○国公法において争議行為であるためには業務の正常な運営を阻害することを要するとされているが、業務阻害とは、労調法などの場合と異なり業務阻害の危険性をもって足りる。
○本件職場大会が、業務阻害がなかったとはいえない。受付時間前であっても、外部からの電話照会や外来者は皆無でない。出勤簿整理時間は、受付開始時間が到来すれば、ただちに正常業務に入れるように来客受付体制を整えるべき時間であるのに、職場大会を開催すれば、右のような体制を整えることは不可能である。また全運輸中闘の追加指令は前日からの出張、当日の出張は事前にやめさせることを基本とし、当日の出張は実力行使後としており、これだけでも業務阻害といえる。
○有給休暇中の者は労務提供義務を免除されるが、国家公務員としての服務上の規律に従わなければならない。
○原告らの主張は、要するに、争議行為は、労働組合という一個独立の団体行動であるから、それが違法な場合でもすべて団体が責任を負うべきで、その構成員個人の行為は、組合の行為に吸収され、独立の評価を受ける余地がないということにあるが、その団体性をいかに強調しようともかに強調しようとも、そのことから、直ちに個々の参加者が責任を負担しないという結論を導き出すことはできない。
争議行為が、一般的に、労働者の団結体たる労働組合の統一的、集団的行為であることは原告の主張のとおりであるが、他面において、争議行為は団体構成員たる組合員の共同に意欲された個別行為の集合であることも事実である。すなわち、争議行為は個々の組合員の積極的、具体的行為なくして成り立ち得ない。これを端的に表現すれば、争議行為は労働組合の行為であると同時に、個々の組合員の行為でもある。そして、個々の組合員は労働組合と別個独立の法的主体であり、従って、違法な争議行為については、労働組合が団体としての責任を負うのとは別に、個々の組合員が責任を負うのは当然である。
違法争議行為の責任はすべて労働組合にのみ帰せられるべきであるという見解かからすれば、違法争議行為が刑罰法規に触れるときも、刑事責任を負うべきは組合のみとなってしまう。このような帰結が、個々の違法行為者がなした行為について刑事責任を負わなければなんらないという刑事法の一般原則に背馳するものであることは論ずるまでもない。又、不不法行為責任について、近代法の下においては、人は自己の行為についてのみ責任を負うという自己責人又は個人責人の原則が確立されている。違法な争議行為が不法行為を構成するとき、第一次的にその責任をおうべきは行為者個人であり、その行為者が組成する団体が責人を負うのは別個の法理によらなければならず、決してその逆はありえない。決してその逆ではあり得ない。さらに、違法な争議行為が労働契約上の債務不履行を構成するとき、その責人は契約当事者たる個々の労働者について生ずるものであり、組合がかかる風紀の履行責任を負うことはきない。原告の主張は‥‥近代法の建前を立論で何ら根拠のないものといわなければならない。
元来、争議権の保障は、正当な争議行為に限り、これを労働法上団体行動として保障することである。争議行為は業務の正常な運営を阻害する行為であるから、一般市民法上は、刑事、民事の責任が生じ得るべきものであるが、これらの責任を免責し、又は争議行為を理由とする解雇などの不利益取扱いを禁止することに争議行為の権利性が認められる。このような争議権の保障は正当な争議行為に限られており、争議行為が不当、違法なときには、それは労働法上もはや団体行動として保障されず‥‥正当な争議行為に与えられる免責的利益を享受できないのである。換言すれば、違法争議行為は労働法上の団体行為ではなく、法的に個々の労働者の個別行為として契約秩序や服務規律に服することになる。もちろん、争議行為が労働組合の行為であるという側面から、組合としても責任を負うべきことが生じ得るが、こまの組合の責任と個々の労働者の責任とは独立別個のものとして併存するのである。
正当な争議行為の民事免責を定める労組法八条は、「労働組合又はその組合員」に対し賠償を請求することができない旨規定し、本来免責なき場合に組合個々人が使用者に対し債務不履行ないし不法行為による責任を負うことあるべきを当然予定している。又、同法一二条は、法人の不法行為能力に関する民法四四条の規定、法人たる労働組合に準用するものとしているが、民法の右規定の解釈上、法人と共に機関個人の責任が生ずるものと解されている。そして、労組法一二条は、同法八条に規定する組合の正当な争議行為については、右準用を除外する旨明らかにしている。
原告らの主張によれば、このような労組法上の規定は、誤りであるか、適用ないし準用する余地がないことにならざるをえないが、かかる解釈が法条の文理に著しく抵触し、とうてい成り立つものではないことは明らかである。
なお、原告らの主張は「労働組合が争議行為を行う場合には、組合員たる個々の労働者は企業秩序の支配から離脱し、組合の統制に服することになるから通常の企業秩序を前提とする懲戒処分を課することはできない」との趣旨を含むものとも解される。
しかしながら個々の労働者は使用者と労働契約を締結することによって、企業組織内に編入され企業秩序に服することになるのであって、このような関係は労働契約が存続する限り継続するものである。他方、労働者が労働組合に加入すれば、労働組合の団体統制に服することになるが、この両者の関係は別個独立のものとして併存し、その間に優劣の関係はない。労働者を企業秩の支配から離脱させることはたとえ労働組合であっても使用者の意思に反し自由になし得るものではない。従って、争議行為が労働組合の団体行動として展開されるものだからといって、争議行為によって使用者と個々の労働契約関係が消滅するわけではなく、それが争議行為であるということのみによって、組合員たる労働者が企業秩序の拘束から離脱するという効果を生ずる理由はない。
一般的に懲戒は、企業秩序、服務規律の維持、確保を目的とするが、かかる目的の達成は企業が存続する限り存続するのであって、労働組合が争議行為を決定し実施したからといって当然に失われるものではない。正当な争議行為に対して問責できないのは別として、違法な争議行為についてまで使用者の統制が及ばないとする根拠はない。‥‥‥‥
‥‥従って争議行為が集団的性格をもつということを理由に、個々の職員の行為について、法律の規定に基づきその懲戒責任を問うことを妨げるべき理由は全くない。
8.電電公社長岡局事件 最一小判昭62・2・19労判510
全電通は、昭和36年春闘において、賃上げ、時短、要員の算出基準、配慮に関する協約の締結を要求したが、当局は賃上げ要求の一部を除いて要求を拒否し、要員問題については団交に応じられないとの態度をとったため、各県支部の拠点局で3月16日始業時(長岡局は7時20分)から10時までの勤務時間内職場集会を実施することとし、新潟県支部では、長岡電報電話局を拠点とし、組合員多数が前日から局舎内に坐り込み、ピケをはり、管理職員の入局を阻止するとともに、当日の勤務予定者19名を含む長岡分会員(全組合員動員、保安要員なし)、支部組合員ら1700~1800名が右職場集会を実施したが、ストの実施、戦術の決定等に参画し、ピケを指導する等の行為をした全電通新潟県支部執行委員(専従)2名を公労法18条により解雇したもので、解雇の有効性が争われた。
本件は、2時間40分の時限ストとはいえ、管理職の入局も妨げるマスピケが実施され、保安要員もないという点で悪質に思える。
一審新潟地判昭44・11・25労民20-6、二審東京高判昭56・9・30訴務28-4ともに18条解雇を有効とした。上告審棄却。
9.全林野広島営林署分会事件最三小判昭62・3・20判時1228
全林野は定員外作業員・臨時作業員の常用化・常勤性の付与を要求して(A)昭和45年12月11日全国67営林署において約4時間のストを実施した。(B)昭和46年4月23日全国72営業署において約4時間のストを実施した。又全林野は(C)春闘共闘の一環として大幅賃上げを要求し、昭和46年4月30日全国20営林署で約4時間。5月20日全国21営業所で2時間約2時間50分の各ストを実施したが、本件は(B)のストに参加した現場作業員に対する1ヶ月減給10分の1の懲戒処分の取消請求訴訟である。
(1)一審広島地判昭51・4・21
東京中郵判決・都教組判決の趣旨に沿って、本件程度のストライキは公労法17条1項が禁止しているとき解しがたいしし、懲戒処分を違法として取消した。
(2)二審広島高判昭57・8・31
名古屋中郵判決に従って公労法17条1項の組合側の主張をしりぞけたうえ、本件懲戒処分は裁量権を濫用したものとは認められないとして、一審を棄却した。
(3)上告審
棄却
「公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは当裁判所の判例とするところであり(‥‥五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁)、また、右規定を国有林野事業に従事する一般職に属する国家公務員(以下「林野職員」という。)に適用する場合に限ってこれを別異に解すべき理由がないこと、及び国家公務員法八二条の規定を適用するに当たり、林野職員の行う争議行為に公労法一七条一項の規定により禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設けなくとも憲法二八条に違反するものでないことも、右の判例に照らして明らかである。これと同旨の見解のもとに本件争議行為が公労法一七条一項に違反するとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨はいずれも採用することができない。‥‥
団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約(‥‥ILO九八号条約)四条は労働者の争議権を保障した規定ではないから、同条が労働者の争議権を保障したものであることを前提とする所論憲法九八条二項違反の主張は、失当である。‥‥
林野職員が、上司の職務上の命令に反し、公労法一七条一項の禁止を犯して争議行為を行った場合には、国家公務員法九六条一項、九八条一項、一〇一条一項に違反したものとして、同法八二条の規定による懲戒処分の対象とされることを免れない。また、右の争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも、多言を要しないところである(‥‥五三年七月一八日第三小法廷判決・民集三二巻五号一〇三〇頁参照)。これと同旨の見解のもとに本件懲戒処分を適法とした原審の判断は、正当として是認することができる。‥‥原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件懲戒処分が懲戒権の濫用に当たらないとした原審の判断は、正当として是認することができる」
(4)伊藤正巳裁判官の補足意見
「公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、すでに当裁判所の確立した判例であり、公労法一七条一項の規定を国有林野事業に従事する一般職に属する国家公務員に適用する場合に限ってこれを別異に解すべき理由がないことも、多数意見のとおりであると考えるが、なお、本件が比較的単純な労務に従事する現場作業員による約四時間の単なる労務の不提供を内容とする同盟罷業の単純参加行為に対し、一か月間一〇分の一の減給処分をもつて臨んだ懲戒処分の事案であることに鑑み、懲戒権の濫用の有無について、私の意見を述べておきたいと考える。
公労法一七条一項が現業公務員等の争議行為を一律全面的に禁止したことをもつて直ちに憲法二八条に違反するものとはいえず、公労法三条一項は、同法一七条一項に違反してされた争議行為に対する民事法上の効果として、労働組合法八条の規定の適用を除外することを定め、また公労法一八条は、同法一七条の規定に違反する行為をした職員は解雇される旨を規定していることに徴すれば、同法一七条一項違反の職員の行為が勤務関係上の規律ないし職場秩序に違反するものである限り、右の事由をもつて懲戒処分の事由とされることは免れ難いものといわなければならない(この点において、公労法上特別の罰則のない同法一七条一項違反の争議行為に対する刑事罰の問題とは同一に論ずることはできないものと考える。)。
しかしながら、懲戒処分は、被処分者たる職員に係る非違行為の違法性の程度の比例したものでなければならないことはいうまでもなく、公務員も憲法二八条にいう勤労者に当たるものと解される以上、原則的にはその保障を受けるべきものであるから、公労法一七条一項は一律全面的に争議行為を禁止し、職員が争議行為を行った場合には違法の評価を免れないものとはいえ、その違法性の程度については、憲法二八条に定める労働基本権の保障の趣旨と公労法が公共企業体等の職員について争議行為を禁止することによって擁護しようとする国民全体の共同利益との調和の観点に照らし、均衡を失することのないようこれを評価すべきものである。そして、この点について、国家公務員法及び地方公務員法が、いわゆる非現業の公務員の争議行為に対する刑事制裁について、争議行為又は怠業的行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者だけを処罰することとし、同盟罷業、怠業その他単なる労務不提供のような不作為を内容とする争議行為又は怠業的行為の単純参加行為については処罰の対象から除外しているが、これは国民全体の共同利益のために争議行為又は怠業的行為を禁止することと右の公務員の生存権、労働基本権の保障との調整を図る趣旨に出たものであり、争議行為又は怠業的行為そのものの原動力となる指導的行為と単純参加行為との間に違法性の程度に格段の差異があることを認めているものであると解されること(国家公務員法九八条二項、一一〇条一項一七号、地方公務員法三七条一項、六一条四号参照)、また、多数意見の引用する大法廷判決において、たとえ公労法一七条一項違反の争議行為が他の法規の罰則の構成要件を充たすことがあっても、それが同盟罷業、怠業その他単なる労務不提供のような不作為を内容とする争議行為である場合には、単純参加者についてはこれを処罰から解放して指導的行為に出た者のみを処罰するのが法秩序全体の趣旨であると解するのが相当であると判示されていることが参考になるものと考える。
右のような観点からすれば、本件において、上告人ら現場作業員が全林野労働組合の組合員として同組合本部の指令及び同組合大阪地方本部役員の指導に従って行った約四時間の単なる労務の不提供を内容とする同盟罷業の単純参加行為に対し、一か月間一〇分の一の減給処分をもつて臨むことが、その行為の違法性の程度に比して権衡を失していないか、いささか疑念の余地がないではない。しかし、同盟罷業の単純参加者に対しては懲戒処分として常に裁定の戒告処分しか課し得ないとすることも明らかに不合理であり、公務員に対する懲戒処分は、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝に当たる者の裁量に委ねられているものであつて、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものであることに鑑みれば(‥‥五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)、上告人らに対する本件懲戒処分が社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を濫用したものとは認められないとした原審の判断は、その確定した事実関係のもとにおいて、これを違法なものと断ずることはできないものと思われる。」
10.全林野旭川地本事件最二小昭62・3・27労判496
本件は全林野が昭和46年春闘に際し大幅賃上げ等を目的として三回にわたりストを実施し、全林野旭川地本の三営林署分会で1時間45分ないし4時間の職場集会を行ったことに対する141名に対する下記の懲戒処分の取消訴訟である。
原告は美瑛営林署長、旭川営林局長、名寄営林署長、羽幌営林署長によって任用された国有林野事業に従事している全林野組合員である。
○減給三月(1名)、減給一月(49名)
処分理由 昭和46年4月23日に違法な職場放棄に参加した。
職場放棄時間 4時間
違反事項 公労法17条1項、国公法96条1項(服務の根本基準)、98条1項(上司の職務命令に従う義務)、99条(信用失墜行為の禁止)、101条1項(職務専念義務)
適用条項 国公法82条各号
(ほかに1名が4月30日の職場放棄4時間で減給1ヶ月)
○戒告(47名)
処分理由 昭和46年5月20日に違法な職場放棄に参加した。
職場放棄時間 2時間19分~2時間40分(46名)、1時間45分(1名)
違反事項 公労法17条1項、国公法96条1項(服務の根本基準)、98条1項(上司の職務命令に従う義務)、99条(信用失墜行為の禁止)、101条1項(職務専念義務)
適用条項 国公法82条各号
○停職三月(3名地本委員長専従、地本副委員長専従、地本書記長専従)、
○停職一月(2名地本執行委員長)
○停職20日間(1名地本執行委員専従)
以上6名の違反事項は公労法17条1項、国公法99条 適用条項は国公法82条1号、3号
○停職10日間(地本執行委員6名)
違反事項 公労法17条1項、国公法96条1項(服務の根本基準)、98条1項(上司の職務命令に従う義務)、99条(信用失墜行為の禁止)、101条1項(職務専念義務)
適用条項 国公法82条各号
(1)一審旭川地判昭50・7・17判タ328
中郵判決に従い、参加者に対する懲戒処分につき、公労法17条1項に限定解釈をした上、同法に禁止された争議行為にあたらないとしてとして取消した。
(2)二審札幌高裁昭57・10・27裁判所ウェブサイト
昭52・5・4全逓名古屋 中郵事件大法廷判決、昭53・7・18全逓東北地本事件第三小法定判決、昭56・4・9専売公社山形工場事件第一小法廷判決に従って「本件ストライキは、いずれも公労法一七条一項に違反する違法なものであり、原判決添付の処分等一覧表の処分の事由、職場集会実施場所、職場集会および職場に復帰するまでの職務放棄間の各欄に記載の各被控訴人の行為は、それぞれ同表の違反事項欄記載の法条に違反し、適用条項欄記載の法条に該当するということができる。」とした上で、「全林野が実施した昭和四四年一一月一三日から昭和四七年五月二五日までの間のストライキに参加した者は、本件ストライキの参加者を含め、その全員が戒告以上の懲戒処分に付されたが、その後昭和五一年一二月一六日までの間に実施したストライキに参加した一般組合員(単純参加者)は、戒告以上の懲戒処分には付されず、訓告、厳重注意等の処分を受けたに過ぎないこと、右のストライキの単純参加者に対する処分の程度の変化は、昭和四八年四月二七日、同年の春闘の収拾にあたり、政府と春闘共闘委員会との間に、労働基本権問題については、第三次公務員制度審議会の答申が出された場合は、これを尊重する、政府は労使関係の正常化に努力する等の趣旨の項目を含む七項目の合意がなされたこと、同年九月三日、公務員制度審議会が政府に対して答申を行つたこと、同年一一月一六日、ILOの結社の自由委員会が、全逓等の官公労組、総評が出していた提訴について、同理事会に対し、スト参加者に報酬上の恒久的不利益や経歴にまで差別のつく制裁は避けるべきである、ストの起るたびに処分すべきであるとは考えない等の趣旨を含む報告を行ったこと等に基づいて政府、組合側双方の間に労使関係正常化について特別の努力が払われていたという事情が考慮されたことに因るものであり、本件懲戒処分が行われた当時には、右のような事情は存しなかったことが認められる。したがって、全林野旭川地本が実施した昭和四八年二月一〇日から昭和五一年一二月一六日までの間のストライキの単純参加者が、戒告以上の懲戒処分を受けなかったということから、本件ストライキの単純参加者である被控訴人らに対し戒告以上の懲戒処分をなしたことが、懲戒権の濫用であるということはできない。そして、他に、被控訴人らに対してなされた本件各懲戒処分が、社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者に委ねられた裁量権の範囲を超えこれを濫用したものというべき事実を認めるに足りる証拠はない‥‥」とし、懲戒処分は違法ではないとした。
(3)上告審
棄却
「公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和四四年(あ)第二五七一号同五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁)、また、右規定を国有林野事業に従事する一般職に属する国家公務員に適用する場合に限ってこれを別異に解すべき理由がないこと、及び国家公務員法八二条の規定の適用に当たり、右の国家公務員の行う争議行為に公労法一七条一項の規定により禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設けなくても憲法二八条に違反するものでないことも、右の判例に照らして明らかである。これと同旨の見解のもとに本件争議行為が公労法一七条一項に違反するとした原審の判断は、正当として是認することができる‥‥団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約(昭和二九年条約第二〇号。いわゆるILO九八号条約)四条は労働者の争議権を保障した規定ではないから、同条が労働者の争議権を保障したものであることを前提とする所論憲法九八条二項違反の主張は、その前提を欠く‥‥」
(4)林藤之輔裁判官の補足意見
私は、公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでなく、また、公労法一七条一項の規定を国有林野事業に従事する一般職に属する国家公務員に適用する場合に限ってこれを別異に解すべき理由はないとする法廷意見に賛成するものである。ただ、上告代理人は、上告人らは、そのほとんどが国有林野事業の現場作業に従事する作業員で、本件争議行為においては短時間に限って単に労務を提供しなかっただけであり、国有林野事業の業務の性質及び右争議行為の態様に照らせば、本件争議行為が国民生活に重大な障害をもたらすものでないことは明らかであり、したがって、これに対して公労法一七条一項の規定を適用することは許されない旨主張する(上告理由第一点の第四)ので、この点について私の考えているところを一言付け加えておきたい。
憲法で保障された労働基本権の制限は、労働基本権の尊重と国民生活全体の利益の擁護とが調和するように決定されるべきものである(‥‥四一年一〇月二六日大法廷判決・刑集二〇巻八号九〇一頁参照)。現業の職員の従事する業務も、多かれ少なかれ、また、直接と間接との相違はあっても、等しく国民生活全体の利益と密接な関連を有するものであり、右職員の罷業、怠業等が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは否定できないから、国民生活全体の利益を擁護するため右職員の争議行為を一律全面的に禁止しても、やむを得ない措置として合理性を有するというべきである。公労法一七条一項の規定が現業の職員の争議行為を一律全面的に禁止したことをもって憲法二八条に違反するものということができないとする結論は、右の観点から肯定できるものである。そして、公労法一七条一項に違反する行為をした職員は、その行為が勤務関係上の規律に違反する場合には、懲戒等の制裁の対象とされることを免れないが、右争議行為の禁止の規定は、国民生活全体の利益を擁護するためのやむを得ない措置として設けられたものであるから、右規定に反する争議行為の違法性は、当該行為が国民生活全体の利益に及ぼす影響の程度に応じて強弱の差があるものというべきであり、したがって、争議行為を行った職員に対し懲戒処分を行うとしていかなる処分を選択するかを判断するに当たっては、当該争議行為が国民生活全体の利益に及ぼす影響の程度を重要な要素として考慮すべきであるといわなければならない。ところで、争議行為が国民生活全体に及ぼす影響の程度については、事案に即して具体的に判断しなければならないことはいうまでもないが、一般的には、その影響の程度は、各現業の業態、参加職員の職務内容、争議行為の態様及び規模等により異なるものであるということができる。本件についてこれをみるに、原審の確定したところによれば、本件争議行為は、全林野労働組合の指令に基づき全国の拠点となった分会で行われたものであるが、上告人らを含む争議参加者のうちの多くは、常用作業員又は定期作業員として雇用され、生産手A、B、造林手、機械造林手などとして国有林野事業の現場作業に従事するものであり、その態様は単なる労務の不提供であり、時間も短時間に限られていたというのであり、国有林野事業の業務の性質及び右争議行為の態様等からみれば、右争議行為による作業の遅れ等は、その後における作業計画の中で吸収することが可能であり、それによる国民生活全体への影響の程度はそれほど大きなものではないと考えられるから、右争議行為の違法性は比較的軽微であるといわなければならない。しかも、右常用作業員及び定期作業員は、一般職に属する国家公務員ではあるものの、身分の不安定な非常勤の職員であり、その処遇も定員内職員には及ばないものである。それ故、上告人らのうちの単純参加者に対してされた一か月又は三か月減給一〇分の一(ちなみに私企業における減給の制裁は、労働基準法九一条により一回の額が平均賃金の一日分の半額に制限されているから、本件の一か月減給一〇分の一は、標準作業日数を月二五日とみた場合私企業における右最高限度額の五倍に相当する。)という懲戒処分の内容については、行為の違法性の程度及び上告人らの身分に徴して疑問がないわけではないのである。
以上のとおり、私は、本件懲戒処分は、これを懲戒の裁量権の行使が妥当であったかどうかという点からみると、問題にする余地があると考えるが、公労法一七条一項の規定は、現業の職員の争議行為を一律全面的に禁止したものであると解すべきであり、上告人らが同法二条二項二号に該当する職員であることは否定することができないところであるから、前記のような事情が存するからといって、上告人らの行った本件争議行為に同法一七条一項の規定を適用することが許されないということはできないのである。」
この補足意見は名古屋中郵判決によって否定された東京中郵判決の内在的制約論を引用している点で疑問をもつ
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