目次
Ⅱ 懲戒処分はいかなる根拠でどの程度可能か
一、地公労法11条1項に違反し争議行為を指導もしくは参加した職員の解雇及び懲戒処分について
(一)地公労法11条1項の合憲性、懲戒処分の適法性を是認した先例
(二)地方公営企業職員の身分取扱の概略
(三)地公労法12条解雇と懲戒処分の違い
(四)争議行為を理由とした懲戒処分の効力を是認した指導判例等
1.神戸税関事件最三小判昭52・12・20民集31-7-1101、判時874、判タ357
(1)この指導判例の意義
A中郵判決や都教組判決を拡大解釈し違法性の弱い争議行為の懲戒処分を無効とする下級審判例を明確に否定したこと
B 争議行為禁止違反に懲戒処分はなじまないとするプロレイバー学説を明確に否定
C 競合説是認により争議期間中の業務命令や職務専念義務を否定するプロレイバー学説を否定
○先例としての「操業の自由4判例 」
ア.朝日新聞社西部本社事件(朝日新聞小倉支店解雇事件)最大判民集6-9-857
イ.羽幌炭礦事件最大判昭33・5・28刑集12-8-1694
ウ.進駐軍横浜事件 最二小判昭33.6.20刑集12-22-50
エ. 山陽電気軌道事件最二小決53・11・15 刑集32-8-1855 判時907
D 懲戒権者に広範な裁量権を認め、懲戒処分の司法審査について消極的な原則を示す
2.四国財務局(全財務四国地本高松支部)事件最三小判昭52・12・20民集31-7-1225判時874
3.全逓東北地本事件最三小判昭和53.7.18 民集32巻5号1030頁、労判302号
(1)統一的集団行動の争議行為であっても、個人に対する懲戒責任を問えることを明確にした指導判例
ア 要旨
イ.違法争議行為をした個人に対し責任を問える否かについて下級審判例と学説
①A説を採用した下級審判例-七十七銀行事件第仙台地判昭45・5・29労民集21-3-689
②A説籾井常喜1962
③A説片岡曻1960
④A説片岡曻1969
⑤A説川口実1959
⑥A説橋詰洋三1971
⑦A説山本博1971
⑧B説 個人責任を問えなければ違法争議を掣肘できないとし、組合の責任とは別個に違法行為者としての個人責任を免れないとした下級審判例
三井化学染料事件福岡地判32・7・20労民集8巻4号503頁
⑨B説田辺公二1965
⑩B説菅野和夫1971
⑪A説よりB説に改説、川口実1971
⑫B説慶谷淑夫1970
(2)公労法違反の争議行為に対して、18条解雇と損害賠償請求はできるが、国家公務員法による懲戒処分は許されないとする下級審判例を明確に否定
(3)公労法17条1項違反の争議行為に「正当なもの」を認める余地はないとした
(4)公務員が争議行為を行うことは非行として懲戒処分ができるとした
4.日本専売公社山形工場事件 最一小昭和56.4.9 民集35-3-477頁 判タ442号
(1)二審仙台高判昭53・3・31
(2)上告審判決抜粋
5.佐教組懲戒処分取消請求事件最一小判昭63・1・21判時1284、判タ675
(1)一審佐賀地判昭46・8・10判タ286
(2)二審福岡高判昭58・5・27
(3)上告審判決抜粋
6.総理府統計局事件 最二小昭60・9・18労判467
7. 全運輸近畿支部兵庫分会事件最二小判昭60.11.8民集39-7-1375判時1178
(1)本判決の意義
(2)一審大阪地判昭54・8・30抜粋
(3)上告審抜粋
(4)一審ではどのような組合の主張が排斥されたか
(5)一審における当局側の反論
8.電電公社長岡局事件 最一小判昭62・2・19労判510
9.全林野広島営林署分会事件最三小判昭62・3・20判時1228
(1)一審広島地判昭51・4・21
(2)二審広島高判昭57・8・31
(3)上告審
(4)伊藤正巳裁判官の補足意見
10.全林野旭川地本事件最二小昭62・3・27労判496
(1)一審旭川地判昭50・7・17判タ328
(2)二審札幌高裁昭57・10・27裁判所ウェブサイト
(3)上告審
(4)林藤之輔裁判官の補足意見
11.北九州市交通局事件最一小判昭63・12・8民集42-10-738判時1314、中労委ウェブサイトデータベース
(1) 争議行為の概略
(2)一審福岡地判昭52・11・18判時874号
(3)二審福岡高判昭55・12・22労民31巻 5号1033頁
A 判示事項概略
B 判決
(4)上告審
(5)岩淵正紀調査官解説の要所
(6)三六協定締結、更新の拒否と争議行為の成否
A 三六協定締結拒否闘争の悪質性
(A)三六協定の反市民法的特質
(B)業務指揮権を奪い取る職制麻痺闘争としての三六協定締結拒否闘争
B 岩渕正紀調査官解説について
C 先例としての都水道局事件高裁判決の評価
Ⅱ 懲戒処分はいかなる根拠でどの程度可能か
一、地公労法11条1項に違反し争議行為を指導もしくは参加した職員の解雇及び懲戒処分について
(一)地公労法11条1項の合憲性、懲戒処分の適法性を是認した先例
北九州市交通局事件最高裁第一小法廷昭和63年12月8日判決(民集42-10号-739、判時1314号)は、全逓名古屋中郵事件大法廷昭和52.5.4判決(刑集31-3-182)が国営企業職員の争議行為禁止が合憲として挙げた理由は地方公営企業の場合にもあてはまるとして、地公労法11条1項を合憲とし、三六協定締結・更新拒否による超過勤務拒否闘争、民間ディーラー整備員の入構拒否、五割休暇闘争等を同条違反として北九州交通局労組役員(いずれも交通局に勤務する市職員)三人に停職六月、五人に停職三月、四人に停職一月、一人を戒告とする懲戒処分を適法としている。
次いで北九州市小倉西清掃事業所事件最高裁第二小法廷昭和63年12月9日判決(民集42-10-880、判時1314号)が地公労法付則四項によって地方公営企業職員以外の単純な労務に雇用される一般職の地方公務員に準用される同法一一条一項の争議行為禁止規定を合憲とし、勤務時間職場集会、管理者への抗議行動を行った北九州市労小倉支部長、同支部執行委員を停職三月とする懲戒処分を適法とした。
さらに北九州市病院局事件最高裁第三小法廷平成元年4月25日判決(判時1336号)が、同じく単純な労務に雇用される一般職の地方公務員に準用される地公労法一一条一項の争議行為禁止規定を合憲とした上で、市立病院の24時間ストを企画、指導した市一般職員に対する懲戒免職等の処分を適法としている。
よって最高裁のすべての小法廷が争議行為を禁止する地公労法11条1項を合憲とし争議行為に対する免職・停職解雇等の懲戒処分を適法としているから、それは確立された判例である。
なお、当時の谷伍平市長は、国鉄門司鉄道管理局長、東海道新幹線支社長を経て、自民党・民社党の推薦で北九州市長(1967年~1987年)に就任した人物だが、前任者が社会党の市長だったことから労組に甘い体質の是正を公約として、ストライキには厳正な態度で臨んだため、結果的に北九州市の事件が指導的な判例となったのである。
(二)地方公営企業職員の身分取扱の概略
地方公務員といっても一般職員と、公営企業職員とは身分取扱に大きな違いがある。
○労働関係-企業職員は、地公法は適用されず、地公労法による。地公労法の定めのない場合は、労働組合法、労調法が適用され、一般職員が適用除外となっている最低賃金法が適用され、一般職員に一部適用除外となっている、労基法、船員法が災害補償の部分を除いて全面適用となる。
また企業職員には人事委員会、公平委員会は関与しない。
○任用は一般職員と同じ、地公法に定めるところによる。
○給与は、地公法は適用されず法38条による。
○給与以外の勤務条件も、地公法は適用されず、管理者が企業管理規程で定める。
○分限・懲戒は、地公法の定めるところによる。
○服務は地公法の定めるところによるが、争議行為の禁止は地公労法による。政治的行為については管理職員を除いて地公法36条の政治的行為の制限は適用されない。(細谷芳郎2013?226~227頁)
そうしたことで、地方公営企業の労働の関係については一般地方公務員とは異なり私法関係とされる。都水道局時間外労働拒否事件東京高裁昭和43.4.26判決『判例タイムズ』222号202頁がそうであるが、ここでは都水道局時間外労働拒否事件 東京地裁昭和40・12・27判決『労働関係民事裁判例集』16巻6号1213頁を抜粋(一部略)して引用する。
「企業法〔地方公営企業法を指す〕は、地方公営企業の職員の身分取扱いについては原則として地公労法の定めるところによるものとし(三六条)、地方公務員法の職階制、給与、勤務時間その他の勤務条件、政治行為の制限等に関する規定は、職員に適用しない旨(三九条)を定めており、地公労法は‥‥職員の労働関係について原則的に労働組合法、労働関係調整法を適用するものとし(四条)、その労働条件に関しては団体交渉及び労働協約の締結を認め(七条二項)、右協定の内容が当該地方公共団体の条例、規則、予算に抵触する場相手の措置をも定めている(八ないし十条)‥‥もっとも、地方公務員法の任用(一五ないし二二条)、分限及び懲戒(二七ないし二九条)、服務(三〇ないし三五条、三八条)等に関する規定は、地方公営企業の職員に対してもその適用があるけれども、これらの事項でも労働条件と目すべきものについては、なお団体交渉、労働協約、苦情処理、調停、仲裁の対象となりうるところである。(地公労法七条二項)。以上によると地方公営企業の職員の労働関係については‥‥私法的規律に服する契約関係とみるのが相当であり‥‥」とする。
民間私企業における労働契約関係と公務員の勤務関係とを区別する考え方もあったが、公共企業体においては私法関係とする考え方が下級審で定着したため、最高裁は、下級審裁判例を追認し、国鉄中国支社事件判決・最一小昭49・2・28民集28巻1号66頁、判時733号において国鉄職員の懲戒処分は行政処分でなく私法上の行為であるとした。また目黒電報電話局事件判決・?最三小昭52・12・13民集31巻7号974頁電電公社について「公社はその設立目的に照らしても企業性を強く要請されており、公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係とその本質を異にするものではなく、私法上のものであると解される。」としており、地方公営企業もこの点については別異に解釈することはない。
従って、職場の規律維持に関して、三公社五現業や私企業に関する判例法理は、地方公営企業においても適用できる。
(三)地公労法12条解雇と懲戒処分の違い
公務員の争議行為禁止規定と罰則の有無、争議行為を行った職員の身分上の取扱いをまとめると以下のとおりである。


国公法98条3項の、「任命又は雇用上の権利」とは、分限上の保障(75条以下」、懲戒上の保障(82条以下)と解され、職員が争議行為等を行ったときは、それを理由として不利益な取り扱いをされたとしても、その職員は法令に基づいて保有する「任命又は雇用上の権利」を国に対して主張できないことを明らかにしたもの(注解法律学全集51997 251頁)とされ、地公法37条2項も同様の趣旨であるが地方公営企業職員はこの規定は適用されない。
地公労法12条の「解雇することができる」というのは、公労法18条とは同趣旨規定であり、文言の若干の違いがあるが同じ解釈でよいとされている。
これは通常解雇の規定と考えられ、職員の義務不履行に対する制裁である懲戒処分とは異なるものとされる(高松地裁昭41・3・31労民集17-2-19)。解雇するか否か二者択一の選択しかない点でも、懲戒処分と異なる。しかし、実質懲戒処分の性質と同じとの見解もある(昭28・3・4「いわゆる公労法一八条による解雇の性質について」法制局一発二四号)。
地公労法12条につき[峯村光郎1971 291頁]の解説は「第一一条の禁止規定に違反する行為をした職員を解雇するのが立前であるという趣旨であって、実際に解雇するどうかの決定は地方公共団体の裁量によることになる(昭二七・九・一三労発一六五号労政局長発と同府現知事あて、同旨昭三四・七・八労働法規課長発東京都交通局長あて内翰)。なお本条により解雇に該当する行為が地方公務員法に規定する懲戒事由にも該当するときは、地公法による懲戒免職その他の懲戒処分をすることができる。‥‥」とする。 公労法18条解雇について「争議行為について民事免責を認めないから‥‥争議行為を理由に当該職員を解雇しても不当労働行為にはならないし‥‥損害賠償の請求もできる」[峯村1971 163頁]とするが、地公労法12条も同じことである。損害賠償の請求については地公労法四条により労組法八条が適用されないことになっているので、地方公営企業においてもこの点は同じである。
但し、膨大な判例の蓄積のある公労法17条違反の争議行為の事案でも、公労法18条解雇の事案としては、電電公社長岡局事件最一小判昭62・2・19労判510などがあるが、懲戒処分や刑事事件と比較すると適用事例はさほど多くないように思える。地公労法12条解雇について前記都水道局事件(東京高判昭43・4・26労民集19-2-623)がそうであるが、これは12条解雇を無効とした例である。
むしろ懲戒処分が一般的である。つまり、争議行為禁止に違反する行為は、地公法の定める法令等遵守義務、上司の職務上の命令に従う義務等に違反するので懲戒事由となるので、解雇か否かの選択しかない12条の適用より、懲戒処分のほうが実務的な対応といえるのである。
実際、地公労法適用職場での11条1項違反による懲戒処分が適法であることは、前示し(一)のとおりである。
前示の北九州市交通局事件判決が重要な判例であることはいうまでもないが、しかしながら、懲戒処分の効力それ自体は主要な争点になっていない。それは神戸税関(全税関神戸支部)事件最高裁第三小法廷判決昭和52年12月20日?民集31-7-1101以下の先例ですでに決着がついている問題だからでるが、が、この観点で重要な先例について順次取り上げることとする。
(四)争議行為を理由とした懲戒処分の効力を是認した指導判例等
争議行為を理由とした懲戒処分を適法とした 判例は大量にあるが、リーディングケース、指導的な判例とされるもに絞って取り上げる。
1.神戸税関事件最三小判昭52・12・20民集31-7-1101、判時874、判タ357
本件は、昭和36年における勤務時間内くい込み集会、繁忙期の怠業、超過勤務拒否等の争議行為等に指導的な役割を果たした全税関神戸支部幹部三名の懲戒免職処分を適法としたものであり、国家公務員は、私企業における労働者と異なって争議行為を禁止され、争議行為中であることを理由に当然に、上司の命令に従う義務(国公法98条1項)、職務に専念すべき義務(同法101条1項)、勤務中に組合活動を行ってはいけない義務(当時の人事院規則14-1第3項)等を免れないとした。
また懲戒権者の広範な裁量権を是認し、社会観念上著しく妥当を欠くもの、裁量権付与の目的逸脱・濫用したものでない限り違法にならないと判示した。
争議行為を理由とする懲戒処分について最高裁の初めての判断を示したもので、被引用判例が110と多数あるように懲戒処分の有効性についての指導判例といえる。
(1)この指導判例の意義
A 中郵判決や都教組判決を拡大解釈し違法性の弱い争議行為の懲戒処分を無効とする下級審判例を明確に否定したこと
全逓東京中郵事件判決(最大判昭41・10・266刑集20-8-901)以来争議行為禁止規定の限定解釈の流れから続出していた、懲戒処分の適用についても一層のしぼりをかけた下級審判例を明確に否定したのが本判例の第一の意義と指摘できる。
例えば神戸税関事件の第一審判決(神戸地裁昭和44・9・24)「争議行為であっても‥‥違法性の弱いものについては、国公法九八条五項で禁止する争議行為には当たらないものというべき」という。この立場に立つ裁判例としては(イ)山形地判昭44・7・16(鶴岡市職事件、労旬712号)(ロ)佐賀地判昭46・8・10(佐教組事件判時640号)(ハ)東京地判昭和46・10・15(都教組事件、判時645号)(ニ)高松高判昭和46・12・24(全財務四国地本事件労旬八〇五)。とくに都教組事件東京地裁判決が問題になる。地公法三七条一項は「(イ)公共性の強い職務に従事する地方公務員の、(ロ)国民生活の全体を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあり、(ハ)他の手段による制限ではそのおそれを避けることができない争議行為に限って、これを禁止したものと解すべきである」として、そもそも刑事事件である最高裁都教組勤評事件判決の論理を、民事事件にも適用し貫徹してしまうのである。〔外尾健一「公務員の争議行為と懲戒処分-神戸税関事件」ジュリスト増刊(労働法の判例第二版)〕
しかし全農林警職法判決、岩教組学力調査判決は、都教組勤評判決、全司法仙台判決のいうところの国公法や地公法は争議行為のうち違法とされるものとされないものを区別し、さらに違法とされる争議行為についても違法性の強いものと弱いものを区別したうえ、刑事制裁を科されるのはそのうちの違法性の強い争議行為に限るものとする趣旨ではないとした以上、違法性の弱い争議行為につき懲戒処分を無効とする論理が成り立たないのは当然のことである。
B 争議行為禁止違反に懲戒処分はなじまないとするプロレイバー学説を明確に否定
そもそもスト禁止法規違反の争議行為に対して懲戒処分はなじまず、科し得ないとする懲戒処分を無効とした裁判例として東京地判昭46・1・12(全逓都城郵便局事件、労民集22-6-1030、判時658号)があるが、この判例は当時の争議行為実行者の懲戒処分に否定的だった労働法学の多数説に従ったものである。
つまりプロレイバー学説は、労働基本権確立、階級的戦闘的組合活動支援の立場から、争議行為の権利は、集団的行動の権利であり、団体的組織的行動である争議行為は、職務秩序に違反する職員の個別的非違を制裁する懲戒制裁とは論理的性格を異にするので、原則として懲戒処分を科しえないとするのである。[室井力1978]
これに対して、争議行為は争議行為禁止規定に違反すると同時に上司の職務命令への服従義務ならびに職務専念義務にも違反することとなり、当然に、国公法八二条の懲戒事由に該当するという見解が対立し、行政事務はこの立場に立っている。本件の最高裁判決は、原審の判断を退けて後者の見解を採用した[宮田三郎1986]と解説しているとおりである
つまり神戸税関判決は、行政当局の処分事例として一般的にとられていた争議行為禁止規定が他の服務規定違反とが競合的重畳的に成立するとする説(競合説)を是認した。
越山安久の判例解説(最高裁判所判例解説民事篇昭和52年414頁以下)によると、「争議行為禁止規定とその他の服務規定とは、その趣旨、目的、保護法益を異にし、その双方に違反する以上、競合的に適用されるのは当然である」というものである。
つまり国家公務員が争議行為を行った場合、争議行為を禁止した国公法98条2項(本件では旧98条5項)、法令または上司の職務上の命令に違反に従う義務を定めた98条1項、職務専念義務を定めた101条1項、組合活動により勤務中の職員の勤務を妨げてはならない義務を定めた人事院規則14-1第3項、場合によっては信用失墜行為を禁止した国公法99条に違反することになる。
競合説是認の意味は大きい。争議行為は集団行動であるが、争議行為でない公務員の個別的非違行為を懲戒制裁する場合にふつう適用される、上司の職務上の命令に従う義務、法令を遵守する義務、職務専念義務やその他の規則の違反にも該当することを明らかにすることによって争議行為を行った個々の職員に対する懲戒処分を承認したという意味が、非競合説よりより明確なものになったのである。
集団行動であっても個々の職員の行為の総和であり、個々の職員の非違行為としても責任が問うことができることを明確にした意義がある。
これを地方公営企業にあてはめれば、争議行為を行うことは、争議行為を禁止する地公労法11条1項に違反すると同時に、法令等及び上司の職務上の命令に従う義務を定めた地公法32条、勤務時間中の職務専念義務を定めた地公法35条に違反し、争議行為禁止規定と服務規定の双方に競合重畳的に適用され、地公法29条による懲戒処分が正当化されるということである。
C 競合説是認により争議期間中の業務命令や職務専念義務を否定するプロレイバー学説を否定
最高裁は、使用者は次の四判例で、使用者は、労働者側がストライキを行っている期間中であっても非組合員等を使って、操業を継続することできることを明らかにしている。。いずれも争議権が認められている私企業等の判例であり、従ってそもそも争議行為が禁止されている公務員等の職場において争議期間中であるから従業員に対し業務命令できないということはないとするのが道理だが、プロレイバー学説では業務命令を否認している。この問題に決着をつけたのが、公務員の職場では神戸税関判決であり、上司の命令に従う義務違反、職務専念義務違反として懲戒処分することができることを明らかにした以上、争議行為期間中、就労命令等、その他の労務指揮権が組合よって掣肘される理由はないのである。
○先例としての「操業の自由4判例」
ア.朝日新聞社西部本社事件(朝日新聞小倉支店解雇事件)最大判民集6-9-857
これは解雇の効力が争われた事案で、部長級の非組合員が印刷局活版部の罷業対策として四版の大組みにとりかかろうとしたところ、活版部員約30名がスクラムを組んで3名の部長を取り囲んで作業をたまたげたので、版組作業を断念して引き揚げたが、一部長が無理矢理引っ張れ出されて左手小指に治療日数五日を要する傷害を被った。これがため当日発行の新聞は平常通り輸送されたのは僅かに五万九千部、列車に積遅れたためトラックで輸送されたもの九万八千部で他の四七万部は全部一日遅れとなった。
最高裁大法廷は争議行為の時に生じた行為についても、就業規則を適用して解雇することができる。会社は正当な争議行為中の組合員の部署を他のいかなる者をもってしても代置することができない」と定めてある団体協約の失効後、組合員外の者の作業を暴行脅迫をもって妨害するような行為は、同盟罷業の本質と手段方法を逸脱したものであって、正当な争議行為とはいえないと判示したが、次の通り、正当な争議行為は消極的限度にとどまるものであり、使用者側の業務遂行行為を暴行脅迫により妨害できないことを明らかにしている。。
「当時上告人等組合員側のした行為は単なる職場占拠に止まらず、被上告人会社側の非組合員職員によつてなさんとした業務の遂行を暴行脅迫をもつて妨害したものであつて、違法な争議行為であることは寔に明瞭といわねばならない。けだし、同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであつて、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し暴行脅迫をもつてこれを妨害するが如き行為は、叙上同盟罷業の本質とその手段方法を逸脱したものであつて到底これを目して正当な争議行為と解することはできないのである。そしてこの事は法令等に特別の規定が存しない限り労働事情の如何によつて右解釈を左右されるものとは考えられない。若しそれ所論の如く使用者側による所謂切り崩し又はスト破り行為等の行われる恐れありというだけでは、未だもって上告人等労働者側の前示行為を正当化せんとする根拠とはなし難いものと解せられるのである。」
イ.羽幌炭礦事件最大判昭33・5・28刑集12-8-1694
事案はスト決行派がストに反対した組合脱退者及び非組合員による採炭業務を制止し、出炭業務を不能にするため軌道上でスクラムを組んだり坐り込むなどして電車の運行を阻止したものであり、「長時間にわたり、一〇〇余名の者と共に電車軌道上およびその附近に座り込み又は立塞り或はスクラムを組み且つ労働歌を高唱する等の挙に出で、同会社電車運転手R等の運転する電車の運行を阻止し威力を用いて同会社出炭業務を妨害した」ことは「諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる」として威力業務妨害罪の成立を認めたもので、争議期間中であっても操業の自由があること、正当な争議行為は消極的限度にとどまるものとする先例を追認し、以下のようにピケッティングの犯罪成否の判断基準を示し指導判例となっている。
「同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであつて、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業労の遂行行為に対し暴行脅迫をもつてこれを妨害するがごとき行為はもちろん、不法に、使用者側の自由意思を抑圧し或はその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されないものといわなければならない(‥‥)。されば労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するため執られた労働者側の威力行使の手段が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には刑法上の威力による業務妨害罪の成立を妨げるものではない。」
?
ウ 進駐軍横浜事件 最二小判昭33.6.20刑集12-22-50
本件は駐留軍横浜陸上輸送部隊に勤務する日本人労務者により組織された労働組合が、、非組合員等の運転手を使った輸送業務に対し、実力による妨害行為に及んだもので、威力業務妨害罪、暴力行為等処罰に関する法律違反(示多衆威力業務妨害罪)の成立を認めている。本件も争議行為の最中であっても、非組合員等を使って継続操業の自由が使用者にあることを示している。
「‥‥憲法二八条は勤労者の団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障しているが、この保障も勤労者の争議権の無制限な行使を許容し、それが国民の平等権、自由権等の基本的人権に優立することを是認するものではなく、従つて勤労者が労働争議において不法に使用者側の自由意思を抑圧するような行為をすることは許されないこと及び同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものであるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであつて、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自ららなさんとする業務の遂行行為に対し暴行脅迫をもつてこれを妨害するがごとき行為は、右同盟罷業の本質とその手段方法を逸脱したものであつて、正当な争議行為と解することのできないことは、すでに当裁判所の判例が示しているところである(昭和二三年(れ)一〇四九号同二五年一一月一五日大法廷判決、刑集四巻一一号二二五七頁、昭和二四年(オ)一〇五号同二七年一〇月二二日大法廷判決、民集六巻九号八五七頁)。原判決の確定した事実によれば、被告人三名は駐留軍横浜陸上輸送部隊に勤務する日本人労務者により組織された同部隊労働組合の組合員であつたが、同組合は昭和二八年七月二八日から七二時間ストライキに入つたところ、同月二九日午前六時四〇分頃判示場所の右部隊バス通用門からストライキに参加しなかつた同部隊勤務の日本人運転手B外六名が駐留軍軍人、軍属等を輸送するためa駅に赴くべく各一台のバスを運転し一列縦隊で順次出門しようとするや、被告人三名は右通用門前においてピケラインを張つていた組合員約三〇名位と共謀の上、その出門を阻止しようとして右門前において、一、被告人Cはバスを一台も出すなと呼びながら組合員数名とともに右Bの運転するバス前面の道路上に寝転んで、その進行を停止せしめ、二、被告人Dは所携の赤旗竹竿を右B運転のバス運転台窓からバスのハンドルめがけて突き込み、三、被告人Eは組合員数名とともに右B運転のバス内に乗り込み、車外の組合員等と呼応して同人を運転台窓から多衆の威力を示し且つ数名共同してバスの外に押し出して転落せしめる暴行を加えて、Bをしてバスの運転を不能ならしめると同時に、同人に続いてバスを運転して出門しようとしたF外四名の出門をも不能ならしめ多衆の威力を示して右B外五名の運転業務を妨害したというのであつて、かかる被告人らの所為が、争議権の行使として許された範囲内の行動ということができないことは前記判例の趣旨に徴し明らかであるばかりでなく、不法に威力を用いて使用者側の業務を妨害したものというのほかないのであるから、原判決には所論のような違憲、違法はないと云わなければならない。(なお昭和二七年(あ)四七九八号同三三年五月二八日大法廷判決参照)‥‥」
エ.山陽電気軌道事件最二小決53・11・15 刑集32-8-1855 判時907
山陽電軌とは山口県西部を営業範囲とするバス、電気軌道(現在廃止)による旅
客運送業である。
本件は、神戸税関判決より後の最高裁決定だが、ストライキに対抗する性格を有するストライキ中の操業が法的に保護されるか否かが直接の争点となり、ストライキ中の操業が法的に保護されること。組合側の計画していた争議行為に対抗するためにとられた措置であるという理由で業務性を失うことはないことを明らかにした決定的な意義のある裁判例である。先例として、上記の三判例(朝日新聞西部本社事件、羽幌炭礦事件、進駐軍横浜事件)を引用したうえね、違法性阻却判断基準として久留米駅事件方式をとり、建造物侵入罪、威力業務妨害罪、傷害罪の成立を認めた原判決を認容する決定である。
事案は昭和36年春闘に際し団体交渉が難航し、私鉄中国地方山陽電軌支部組合(約500名)のストライキが必至の情勢になったところから、会社側は第二組合員(約800名)によるバス運行を図り、予め車両の分散をはじめ、支部組合がストライキに入った日以降は、第三者の管理する建物等を選び、営業の終わった貸し切り車等から順次回送する方法で数カ所に車両を分散し、保全管理していたところ、(1)支部組合員Aらは多数の威力を示して会社が取引先の甲整備工場に、またDらは系列下の乙自動車学校に預託中のバスをそれぞれ多数の組合員ととも搬出しようとして建造物に立ち入った。建造物侵入罪、共同正犯(130条60条)。(2)支部組合員らBは、組合員多数による威力を用いて会社が運行させていたバスを停車させ、運転手を強いて立ち退かせそのバスを確保した。威力業務妨害罪、共同正犯(234条233条60条)。(3)支部組合員Cせらは、路上に駐車中のバスを確保するために、約300名の組合員と共に会社側要員丙丁を殴打し傷害を負わせ、該バスを支部組合事務所まで得慣行確保した威力業務妨害罪、傷害罪、共同正犯、観念的競合(234条、233条、204条、60条54条1項前段)棄却。[中村2010 126頁]
(決旨)
使用者は、労働者測がストライキを行つている期間中であつても、操業を継続することができることは、当裁判所の判例の趣旨とするところであるへ昭和二四年(オ)一〇五号同二七年一〇月二二日大法廷判決民集六巻九号八五七頁、同二七年(あ)第四七九八号同三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一六九四頁、同三一年(あ)第三〇六号同三三年六月二〇日第二小法廷判決・刑集一二巻一〇号二二五〇頁参照)。使用者は、労働者側の正当な争議行為によつて業務の正常な運営が阻害されることは受忍しなければならないが、ストライキ中であつても業務の遂行自体を停止しなければならないものではなく、操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができると解すべきであり、このように解しても所論の指摘するいわゆる労使対等の原則に違背するものではない。従つて、使用者が操業を継続するために必要とする業務は、それが労働者側の争議手段に対する対抗措置として行われたものであるからといつて、威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務としての性格を失うものではないというべきである。 。
‥‥‥そうすると、会社のした右車両分散等の行為は、ストライキの期間中もこれに参加しないd所属の従業員によつて操業を継続しようとした会社が、操業を阻止する手段として支部組合の計画していた車両の確保を未然に防いで本来の運送事業を継続するために必要とした業務であつて、これを威力業務妨害罪によつて保護されるべき業務とみることに何の支障もないというべきである。以上と同趣旨の原判断は相当として是認できる。
‥‥‥ストライキに際し、使用者の継続しようとする操業を阻止するために行われた行為が犯罪構成要件に該当する場合において、その刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、当該行為の動機目的、態様、周囲の客観的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない(前掲、昭和三三年五月二八日大法廷判決、同四三年(あ)第八三七号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻三号四一八頁、同四六年(あ)第一〇九五号同五〇年八月二七日第二小法廷判決・刑集二九巻七号四四二頁、同四八年(あ)第一二三一号同五〇年一一月二五日第三小法廷判決・刑集二九巻一〇号九二八頁参照)。
‥‥‥本件争議においては、会社側の強い関与を背景に誕生し支部組合に比較するときわめて会社寄りの山労が存在し、この山労が会社従業員の三分の二近くを擁して会社の操業継続に協力したこと、これら山労の存在及び行動が労使間にかなりの力の不均衡を生ぜしめ支部組合側の争議権行使の実効を著しく減殺するものであつたこと、しかし、これらの事実は、一面においては、支部組合として争議突入の当然の前提として受容すべき事柄の一つであつたことなど、前記認定に現われている諸般の事情及び所論の指摘する交通産業における特殊性をすべて考慮に入れ、法秩序全体の見地から考察するとき、本件車両確保行為は到底許容されるべきものとは認められない。
そうすると、威力業務妨害罪又は建造物侵入罪に該当する本件車両確保行為には刑法上の違法性に欠けるところはない‥‥‥」
他方プロレイバー学説は、争議中の操業は、市民的自由権ではあっても争議権との対抗の中では権利性を失い、法律上の特別の保護を受けることのない事実行為ないし自由放任行為にすぎない(片岡曻「使用者の争議対抗行為」労働法実務体系6 106頁、本多淳亮「争議中の操業について」労働法16 100頁、浅井清信 労働法論208、近藤正三「争議中の操業と施設管理権」浅井還暦労働争議法論)。とするものだが、山陽電軌事件判決で完全に否定されてたといってよい。
地公労法適用の職場についていえば、地公労法11条2項で作業所閉鎖をしてはならないとしており、これはロックアウトできない趣旨と理解されているが、争議行為が行われても業務は継続して行うことが前提であり就労命令等は当然のことと思える。
争議権のある私企業でもストライキ中の操業は法的保護があるといきちんとした判例がある以上、地方公営企業の管理職が最高裁判例で否定されているプロレイバー学説を根拠に業務命令をしないというあり方は、労組に労務指揮権を掣肘されているあり方といえるし、違法行為を正さない姿勢は不適切な労務管理であるといえる。
D 懲戒権者に広範な裁量権を認め、懲戒処分の司法審査について消極的な原則を示す
神戸税関判決は「懲戒処分およびその内容の選択を懲戒権者の裁量に委ね、社会観念上の著しい不当、裁量権付与の目的逸脱・濫用の場合に限って司法統制を可能なものとしている‥‥公務員の懲戒処分の性格につき、単なる労使関係の見地からではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することを本質的内容とする勤務関係の見地から、処分権が課せられることを強調し懲戒権者の広範な裁量と司法審査の消極性を導いている」[田村1999]
この基準は、下級審がプロレイバー学説を根拠に安易に懲戒処分無効判決をできないものとした理解でき、いわゆる相場よりもやや重い懲戒処分であっても司法部は干渉しないことを意味しているものともいえるから、懲戒権者の広範な裁量権を与えるものであるる
。逆にいうと、違法争議行為があっても懲戒処分をしないもしくは、機関責任だけをとって、率先助勢者の処分を行わないとか、組合との不透明な癒着とも思われるような実害の小さい処理がなされる根拠にもなりうるので、これは地方議会のチェックが必要であるといえる。
2.四国財務局(全財務四国地本高松支部)事件最三小判昭52・12・20民集31-7-1225判時874
本件は勤務評定反対闘争において「オールA・公開」等の要求貫徹のため十数日間にわたり違法行為を繰り返し、能力適正等を記入済みの勤務状況報告書を当局の意思に反し組合において保管した、局長退出妨害行為といった粗暴性を帯びた行為もあったという事実関係のもとでの大蔵省財務局職員の懲戒免職を適法としたもので、判決の論理は神戸税関判決と同じである。
この判例で注目したいのは勤務中に頭上報告(マイク放送)行為が、事務室全体に聞こえる程度の大きさであったが執務中の職員の妨害になったとして懲戒処分の対象となっていることであり、引用できる判例といえることである。
(マイク放送関連)
昭和37年10月2日のマイク放送について
「全財組区愛四国地本及び高松支部において‥‥三七年九月二八日‥‥一審被告に対し勤務評定に関する合同交渉を申し入たが、‥‥交渉が進捗しなかったところ、その間において一〇月一日午後二時頃、一審被告が各課長からそれぞれ第一表停車に勤務状況報告書を交付して、勤務評定実施を命ずるや、組合側は直ちに掲示板、局庁舎食堂入口等に「勤評反対」「オールA・公開」等と記載したアジビラを貼付する等これに対抗する措置に及んだ。かような状況下において。一審原告Kが、一〇月二日午後四時五分頃勤務時間中、四国財務局の階上、階下事務室において、前後約五分間にわたり、携帯拡声器で、第一次評定者に対し、勤務状況報告書に記入しないことを要請する趣旨の放送を行なった。‥‥当時階下事務室には約三〇名の職員が執務しており、また階上の事務室にも約三〇名の職員が執務していた。そして右放送の音量は、無職員のなす電話の通話の邪魔になりかねない程度のものであり、各事務室全体に聞こえる程度の大きさであったのである。従って、いずれの事務室においても執務中の職員の妨害になった。‥‥‥」
10月5日の放送について
「一〇月五日午後三時頃勤務時間中、右原告Tが、局階上事務室において、携帯拡声器を用い、執務中の職員に対して午前中の局長と共闘役員との会談及びその後の状況について約四、五分にわたり放送した。そうして、M総務課長がS総務係長をして、この放送の中止命令を伝達させたのであるが、同原告は右中止要求を受けた後も、なおこの放送を続けたのである。右放送の当時、局階上事務室において執務していた職員は焼く三〇名であり、右放送は、形態拡声器によって、階上広間事務室全体に聞こえる程度の大きさでなされ、執務中の職員がその方に気を取られていたのであるから、その口調が淡々としたものであったかに否かなどにかかわらず、執務中の職員がこの放送によって執務を妨害されたことは明らかである。」
懲戒事由に当たるかの判断
「一審原告Kは公務員として職務専念義務があるにもかかわらず、前認定のとおり、勤務時間中において、本件勤評反対闘争の目的達成のためで第一次評定者に対し‥‥勤務状況報告書を記入しないでくれと要請する放送を、前認定の相当時間にわたって行ない、勤務中の他の職員の執務を妨害する結果を惹起したのであるから、その際用いた言語が刺激的なものであったかどうかは問うまでもなく、その行為の態様からみて、他に特段の事情がない限り、この放送は違法を免れないというべきである。‥‥その放送の内容、並びに時間、方法などの態様からみて、及びそれが多数の職員の執務の妨害になっている事実等からすれば、本件放送は、本件勤評反対闘争の一環として行われた組合活動であるが、たやすく組合運営のため必要最小限度のものとはいえないものであって、勤務時間中の組合活動としては正当なものとは認められず、あえて当局の中止命令等を待つまでもなく、違法を免れないものというべきである。‥‥Kはみだりに職務を放棄して右マイク放送により他の職員むの勤務を妨害したというべきである。」
「一審原告Tの放送に対しS係長が制止したのは‥‥M総務課長がその中止命令を伝達させたものであり、その制止にもかかわらずTはその放送を続けたのである。‥‥右放送そのものがその際、内容的にも、時機的にも組合側にとってある程度必要なものであり、淡々と報国が行われたものであったとしても、前認定の右行為の態様からみて、勤務時間中の組合活動として全く違法性を欠くものとはいえない。従って右原告Tの子非初が、みだりに職務を放棄して、放送を行ない、もって職員の執務を妨害したものとされるのは止むを得ない。」
3.全逓東北地本事件最三小判昭和53.7.18 民集32巻5号1030頁、労判302号
本件は昭和40年賃上げ等を目的とする各拠点局における53分間、52分間、46分ないし4時間46分のストライキの決定・実施及び、原告が直接又は共謀の上行ったビラはり、集団交渉要求、集団示威行動、無断入室、ピケ解除拒否、無許可集会、同集会参加のそそのかし、あおり等の行為が正当な組合活動の範囲を逸脱し違法としたうえ、前記行為を理由とする全逓東北地本執行委員長(組合専従)の懲戒免職を適法とした判決であるが、注意を要するのは、上告人地本委員長の懲戒免職は、組合幹部としての責任を問うているものではなく、スト・庁内デモ・ビラ貼り等の指導をすべて現認したうえでなされたものである。また過去に7回停職処分を受けた経歴もあるうえに本件の行為を繰り返したことから免職もやむをえないとした判断である。
(1)統一的集団行動の争議行為であっても、個人に対する懲戒責任を問えることを明確にした指導判例
ア 要旨
全逓東北地本懲戒免職事件判決は争議行為と個人に対する懲戒責任の問題に決着をつけたと言う意味で重要な先例である。
つまり争議行為は、組合の統一的集団的行為であり、これに参加する個々の組合員の行為は、かかる集団的行為の一環としてなされるものであるから、争議行為が違法であっても、争議行為の主体である組合のみが責任を負うべきであり、個々の組合員に対して懲戒その他個別契約上の追及することは許されないという多数説(プロレイバー学説)及び、それを受け容れ組合員個人の行為として懲戒責任を問いえないとした下級審判例である七十七銀行事件仙台地判昭45・5・29労民集21巻3号689頁を明確に否定し、「争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも、多言を要しない」と断言したことが最大の意義といえる。
判決の要所
「公共企業体等の職員につき争議行為を禁止した公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、既に当裁判所の判例とするところである(‥‥五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁[引用者註ー全逓名古屋中郵判決])。したがつて、郵政職員が禁止を犯して争議行為を行つた場合には、法令遵守義務を定めた国家公務員法(以下「国公法」という。)九八条一項、信用失墜行為避止義務を定めた同法九九条、職務専念義務を定めた同法一〇一条一項等に違反したものとして同法八二条一号に該当し、更に行為の態様によつては同条三号にも該当することがあり、懲戒処分の対象とされることを免れないと解すべきである。この場合に、公労法三条一項が労働組合法(以下「労組法」という。)七条一号本文の適用を除外していないことを根拠として、公労法一七条一項違反の争議行為のうちにもなお労組法七条一号本文の「正当な行為」にあたるものと然らざるものとがあるとし、右「正当な行為」にあたる争議行為については国公法八二条による懲戒処分をすることができないというような解釈は、これを採用することができない。けだし、公労法三条一項によれば、公共企業体等の職員に関する労働関係については、公労法の定めるところにより、同法に定めのないものについてのみ労組法の定めるところによるべきものであるところ、右職員の争議行為については公労法一七条一項にいつさいの行為を禁止する旨の定めがあるので、その争議行為について更に労組法七条一号本文を適用する余地はないというべきであるからである。公労法三条一項が労組法の右規定の適用を除外していないのは、争議行為以外の職員の組合活動については公労法に定めがないので、これに労組法の右規定を適用して、その正当なものに対する不利益な取扱を禁止するためであって、公労法一七条一項違反の争議行為についてまで「正当な行為」なるものを認める意味をもつものではない。また、労働者の争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも、多言を要しないところである。 」
イ.違法争議行為をした個人に対し責任を問える否かについて下級審判例と学説
ここでは懲戒責任を問えないとするプロレイバー学説(多数説)をA説、懲戒責任を問えるとする学説をB説とする
①A説を採用した下級審判例
七十七(しちじゅうしち)銀行事件第仙台地判昭45・5・29労民集21-3-689
「懲戒は個別的労働関係において遵守が期待される就業規則ないし服務規律違反について個別労働関係の主体たる地位においてその責任を問うものであるから、集団的労働関係にある労働組合の活動に参加した組合員の行為は、それが正当な組合活動であれば違法な行為(殺人、放火、暴力行為等その違法が明白かつ重大でももはや社会的に組合活動と評価できない行為をいうのではない)であっても、労働組合の行為として不可欠のものと認められるかぎり、これを組合員個人の行為として懲戒責任を問い得ないのである。‥‥このことは、組合幹部が機関活動として行う行為についても当然いえるのであって、組合幹部の故に使用者との関係で特別に重い企業秩序維持に対する責任を負うべき合理的根拠はなく、したがって、組合幹部がその権限と義務とに基づいて行なう行為、例えば争議行為の企画、提案大会における推進、争議中の指令、指揮等はたとえその争議行為が違法であっても、機関の活動として団体たる組合自身の行為と評価すべきものであるから、個人として使用者から懲戒責任を問われるべき性質のものではない」
判旨はたとえ違法行為であっても組合員個人の責任を問い得ないというプロレイバー学説を採っており、これが政治ストを是認した唯一の下級審判例という特異な判例であるが。昭和53年7・18全逓東北地本事件最高裁第三法廷判決で明確に否定されたので、組合側が七十七銀行事件判決を根拠に懲戒処分に反対することはできない。
②A説籾井常喜1962「使用者による争議責任追及の限界」季刊労働法45号
「争議中にあっては、労働者には、使用者の指揮・支配から公然と離脱する権利が保障されているのである。したがって、争議中、組合の統括のもとでおこなった組合員の行為にたいしては、使用者の労務指揮の権限が及ぶいわれはない‥‥組合員の行為は、単に個々の組合員の行為おこなう組合員の集積というべきものではなく、団結意思に基づく団体行動なのである。それは個人的行為に還元できない、質の全くちがった行動様式であり‥‥この団体行動の性質は、それが違法だからといって個人的行為に分解されるべき筋合のものではない‥‥‥」
③A説片岡曻「懲戒権の根拠と限界」『菊池勇夫教授六十年祝賀記念 労働法と経済法の理論』有斐閣1960所収469頁以下
「‥‥服務規律の維持を目的とする就業規則の規定を争議中の労働者の行為に適用して懲戒処分を行うことは許されない‥。‥‥‥争議時に当然適用を排除せらるべき服務規律については、労働者側に個人としても団体たる労働組合としても懲戒その他の責任を生じる余地がない。‥‥団体たる労働組合の行為としての争議行為のように、本来個別労働関係の主体としての地位をはなれた行為であり、従って個別労働者としての地位において責任を問いえないものについて懲戒の責任を問題とする余地がないものと考える。つまり、労働組合内部の正規の機関の指示や決定にもとづく行為はもちろん、かりに明示の指示・決定がない場合にも、組合の活動として判断せられうべき目的・態様のもとになされたと認められる場合は、労働組合の行為といわなければならないから、もはや関与した個々の労働者につき懲戒の責任を問うことは許されない」
④A説片岡曻1969「公務員の争議行為と不利益処分」季刊労働法73号14頁
「たとい労働組合の争議行為が違法であるとしても、個々の組合員の行為が当該争議行為を組成し、その圏内にある行為と認められるかぎり、これを独立の行為として、使用者との関係における個別契約法的評価にさらし、使用者からの懲戒その他の民事上の責任の追及を許容することはできない‥‥」
⑤A説川口実1959「違法争議行為と懲戒」季刊労働法32号
「‥‥争議行為は『二面的に集団的な本質』をもっているから、個別的な関係を規律する就業規則の懲戒条項を適用する余地はない。‥‥殺人・放火というような争議行為からはみ出た行為のみ非難すべき‥‥違法争議行為の責任についてはせいぜい組合が損害賠償責任を負うにとどまると解すべきである」(ただし後に改説)
⑥A説橋詰洋三1971「官公労働者の労働法上の地位-現業公務員を中心に-」判タ263
27頁「‥‥争議行為は、これに参加する個々行為の単なる総計ではなく、それを超絶した一個独自の集団行動として社会的・政治的に機能し、かかるものとして法的に評価の対象となり、従ってその正当不当、または合法違法を評価しうるものではない‥‥」
⑦A説山本博1971「公務員の争議行為責任の法理」法律時報43巻12号
22頁「‥‥国公労法の諸規定は‥‥個別公務員の一般的服務関係に関するものであることは明らかである。争議行為はこのような一般的服務の否定の上に立つところの異質の集団的現象である‥個別公務員の一般的服務に関する規定を拡張彎曲して適用しようとするのは解釈論としても合理性を欠く」
ほかにもあるが引用はこの程度にとどめる。上記の学説はいずれも階級的でミリバントな労働運動を支援する学説で、集団的組織的行為であっても個人の個別の責任が逃れられるとしいのは市民法の論理に反対するものであるが、全逓東北地本判決で明確に否定された。
⑧B説 個人責任を問えなければ違法争議を掣肘できないとし、組合の責任とは別個に違法行為者としての個人責任を免れないとした下級審判例
三井化学染料事件福岡地判32・7・20労民集8巻4号503頁
「組合の決定に基く組合活動といってもそれが違法な争議行為であるときは組合自身の責任(例えば損害賠償責任)を生ずることは勿論、当該違法行為者自身においても個人責任を負うべきものだと言わなければならない。けだし組合の決定に基き、組合のためにする行為だからといってこの行為に基く結果の責任をすべて組合に転嫁することを認めるにおいては、行為が行為者の判断、意欲、決意に基づく価値行為たる本質をないがしろにし近代法の基本理念に背馳するそしりを免れないばかりでなく、組合の名のもとに違法行為を敢えてする組合員の行為を阻止し得ない事態を招来するからである。‥‥違法組合活動をなした者はその行為によって生ずることのある組合の責任とは別個に違法行為者としての個人責任を免れない‥‥」
名判決だと思うが、この法理は20年後の全逓東北地本判決で確定したのである。
⑨B説田辺公二1965『労働紛争と裁判』弘文堂
43歳で急逝した英米法に精通した学者。名著「同盟罷業権について」を収録し死後出版された全集の2巻である。司法研修所教官、水戸地裁判事、東京地裁判事を歴任。
違法争議行為の責任問題については、組合員の個別責任を否定するプロレイバー労働法学の見解について次のように批判する。
「‥‥労務提供の拒否などを「誘致」することが争議行為の本質だという考えに立ってみますと、争議行為というものは多くの組合員相互の誘致、さらにこれによって生ずる共同の労務放棄行為というものから成りたっている。そういう非常に緊密な精神的・有機的な共同活動である。これは株主が年に一度総会に来て、ごく形式的に会社の運営に関与するのとは根本的に違っていまして、組合員がこれに関与している程度がきわめて高いのであります。ですから一般の民法学者にこの問題を議論してもらえば、やはり組合と争議を指導した組合幹部から、さらに参加した組合員の全部にまで、理論上は一応責任が及ぶという結論になるのではないか。‥‥ドイツの学説でも‥‥たとえその行為が違法でも指令に違反して参加しないということは、到底期待できないということから、この責任をのがれさせようとした。しかし、この説は、結局一般に認められるには至らなかったのであります。違法な命令に従ったからといって、やはり責任は免れないというのが一般の刑法なり不法行為の考え方で、これはなかなか簡単には破れない‥‥」
ようするに、個人責任を否定するプロレイバー学説は、ドイツですら認められない反市民法理論、とんでもといわざるをえない。
⑩B説菅野和夫1971「違法争議行為における団体責任と個人責任(一)ー損害賠償責任の帰属の問題として」『法学協会雑誌』88巻2号
「‥‥違法行為者は自己を拘束する他人の命令に従ったことをもってその責任を免れる一般的根拠となしえないこと責任法の基本原則である‥‥争議行為の「二面集団的本質」は、「個人の埋没」ばかりでなく、個人の「実行行為性」をも意味しうる‥‥団体法的見解の個人責任否定論は、まず、不法行為法や契約法の基本原則からその当否が疑われるようなあまりにも広範な無責任の結論を導いており、しかもその十分な理由づけを行っていない‥‥」
⑪A説よりB説に改説、川口実1971「争議行為に対する責任追求としての懲戒処分(四・完)」法学研究(慶大)44巻12号11頁
「懲戒は抽象的には解雇の自由にもとづいてはいるが、具体的には就業規則の適用として捉えられ、実質的には労使間における信義則違反行為として評価されるにいたったのである‥‥違法争議行為が実質的に信義則に反する場合は、その違法性に応じて、各段階の懲戒処分が加えられ、その処分が同時に信義則違反として無効になるかどうかが具体的に判断されることになる‥‥」
⑫B説慶谷淑夫1970「一般公務員の争議行為、政治活動による行政処分の問題点」『法律のひろば』23巻12号12頁
「個々の労働者は、使用者と労働契約を締結することによって企業内に編入され企業秩序に服することになるのであり、このような関係は、労働契約関係が続く限り存続し、それは争議行為が行われたからといって変わるものではない。ただ争議行為が正当であれば、企業秩序違反の責任を問わないというだけであり、もし違法な争議が行われ、企業秩序を侵害すれば、当然企業秩序違反として懲戒事由に該当することは明らか‥‥」
市民法において、違法行為が上位者の指図に拘束される組織的集団行動であっても個人は責任を問われるのは当然のこと。集団行動だから個人責任は問わないというのは、前近代なら「打ちこわし」等ありうるが、近代市民社会ではありえない。たとえば地下鉄サリン事件の実行犯5人のうち4人が死刑、一人は無期懲役である。自分が辞退しても他人がやるから同じこととして気が進まなかった実行犯もいたということだが、だからといって責任はのがれられないのである。
争議行為だけが市民法と異なる論理で貫徹するというプロレイバー学説に論理性はない。
(2)公労法違反の争議行為に対して、18条解雇と損害賠償請求はできるが、国家公務員法による懲戒処分は許されないとする下級審判例を明確に否定
(3)公労法17条1項違反の争議行為に「正当なもの」を認める余地はないとした
違法の「相対性」を前提とする下級審判例(都城郵便局事件東京地判裁昭46・11・12労民集22巻6号1030頁、江戸川・昭島郵便局事件東京地判昭48・6・28労民集24巻3号345頁と本件の一審・二審)が、公労法違反の争議行為が行われた場合でも、その目的及び態様に徴し労組法7条1項(労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、その労働者を解雇し、不利益な取扱いをすることは不当労働行為とする)所定の正当性を具備するときは、公労法一八条による解雇又は損害賠償の請求することができるにとどまり、行為者に対して国公法による懲戒処分は許されないというほぼプロレイバー学説に依拠する判断を下していたが、これを否定した。公労法3条1項は労組法7条1号本文の適用を除外しないが、公企体職員の労働関係については、公労法に定めのないものについてのみ労組法の定めによるととされており、公労法17条1項は一切の行為を禁止する定めがあるので、その争議行為について「正当な行為」なるものを認める余地はないとした。これは全逓名古屋中郵判決と共通するものであるが(矢崎秀一調査官解説参照)、地公労法も構造は同じであり、地公労法の定めないものについてのみ労組法の定めによるとしているので同じことだといえる
(4)公務員が争議行為を行うことは非行として懲戒処分ができるとした
争議行為を行った場合は、法令遵守義務、職務専念義務に違反するということはすでに神戸税関事件判決で示されていたことだが、新たに信用失墜避止義務にも違反するとして職員の個別責任を問えると明確に述べた。要するに公労法違反の争議行為は「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」(国公法八二条三号)に該当し、違法争議行為は当然に「官職の信用を傷つけ、官職の不名誉となる行為」(国公法九九条)として懲戒処分できる。
4.日本専売公社山形工場事件 最一小昭和56.4.9 民集35-3-477頁 判タ442号
昭和44年4月17日専売公社山形工場包装課職員(全専売仙台地方部山形支部包装分会組合員)が全専売本部指令に基づき、午前8時から11時10分(3時間10分)巻上げたばこ(ハイライト・わかば)の20本入箱詰等の担当業務につかず(部分スト)、農協会館での集会に参加したことにつき、公労法17条1項、日本専売公社就業規則68条1号に違反し、日本専売公社法24条1項に該当するとしてスト参加者を戒告処分に処したことが懲戒権の濫用に当たるかが争われ、最高裁は、公労法17条1項は公社職員に限って適用されないと解する理由はなく、懲戒処分を有効とした原判決を是認し、上告を棄却したものである。
本件は、ストの企画、実践、指導者でない、単純不就労組合員に対する懲戒処分を有効としたという点で意味がある判例といえる。原判決の仙台高裁判決は実務上参考になるところを多く述べており有用である。
一審山形地裁昭和47.11.27判決は、全逓東京中郵判決を基礎として、専売公社の事業については憲法28条の趣旨から公労法17条1項(争議行為禁止)が適用されないとし、懲戒処分を無効とした。
(1)二審仙台高判昭53・3・31
昭和52・5・4名古屋中郵大法廷判決の趣旨に従って、公労法17条1項は合憲であり、公者職員に適用することは憲法に違反せず、昭和52・12・20神戸税関事件第三小法廷判決に基づいて戒告処分についても濫用はなく有効として、一審判決を取り消した。懲戒処分の効力について次のようににいう。
「‥‥本件争議行為は、参加者こそ山形工場包装部門という公社の全製造現場からいえば小規模で小数の労働者がした三時間一〇分という単純な不就労行為であり、その影響による包装の滞貨も三日位で解消したというものであるが、本部と本社間で行われていた専売職員全体の賃上げ交渉が四月一五日に物わかれに終り、本部が公労委に調停を申請しようとする段階において、公労協第一波ストライキとして本部中央闘争の指示において行われたいわゆる部分ストライキであり、その規模、態様からいって公労法一七条において禁止する争議行為に該当することは明らかというべきである。専売職員については、公労法第一七条の禁止する争議行為を解釈上長期かつ大規模で、現実にたばこの供給に重大な支障をもたらすおそれにのあるもの、少なくとも財政にもたらすおそれのある態様のものに限定すべき であるとする被控訴人らの主張は採用できない。」
「‥‥公労協統一第一波ストライキに 関する準備指令がだされ、山形工場などにおいて部分ストライキが計画されたのち、再三にわ たり本部および山形支部に対し公労法第一七条に違反する争議行為をしないよう警告し、同月一五日頃には被控訴人ら山形支部の組合員個人宛にも業務の正常な運営を阻害する行為に参加することを禁止し、万一参加した場合には、就業規則等にもとづき単純参加者といえども厳重な処分をする旨の業務命令を庁内の掲示、放送さらには組合員の家庭に対する郵送によつて徹底したことに加えて、本件争議行為中にも、山形支部執行委員長宛に、開催中の集会が職場の 秩序を乱し業務の正常な運営を妨げるものであるからただちに解散し、職員を職場に復帰させ るよう再三通告したのにもかかわらず、本件争議行為がスト指令どおり行なわれたという事実 が認められる(警告に従わなかつたこと自体は被控訴人らも争っていない)のであるから、被 控訴人らのこのような警告違反の行為が、日本専売公社職員就業規則第六八条第一号に定める 「社内で暴行・強迫等の乱暴を働き、または風紀、秩序等をみだした者」という要件に該当するとして公社が同条の懲戒処分の対象としたことに違法な点はないというべきである。ちなみ に同就業規則第五条は、職員は、法令および諸規程を守り互に人格を尊重し、かつ上長の職務 の命令に従い、秩序を正しくして就業しなければならないと規定しているのであり、右の規 定と前示第六八条一号を対照すれば、本件のように上司からの再三の警告に反して行動したこ とが秩序を乱したことに該当すると解されても止むを得ないというべきである。
被控訴人らは、本件争議行為は労働者が団結して集団としてその労務の提供を拒否し、使 用者の指揮命令を排除して正常な企業秩序の維持運行を阻害する組織的団体的行為であるとこ ろ、争議に入った場合は、懲戒制度が機能する平等の使用者の正常な業務、企業秩序の確立を 保障する基礎が失われるとともに、平常時の個別的労働関係を規律する個別的制裁である懲戒 処分は争議行為に親しまないから、かりに争議行為が違法であるとしても争議行為に参加した ことを懲戒処分の対象とすることはできないと主張するが、労働者の争議行為が懲戒権を排除し得るのは、その争議行為が目的および態様において正当とみなされる場合に限られるのであって、本件争議行為のように違法な争議行為の場合は、これを組成した個々の労働者の行為が 個別的労働関係上の規制を受けることは当然と考えられるから、被控訴人らの主張は採用できない。
また、公労法第一八条は、同法第一七条違反の争議行為禁止の規定に違反した者は解雇さ れるものとし、公社就業規則(‥)によると、右違反者については、公社においては右規則第五五条の免職の規定の対象者として取り扱い、懲戒処分の対象として 明文の規定をもうけていないことが明らかであるが、公労法第一八条は違法な争議行為を行 なつた者に対し、これを経営から排除し得ることを規定したにとどまるものであって、同条 が存在することが、解雇にまでいたらない不利益を職員に与えることを禁止していると解す ることはできないから、公労法第一七条に違反した職員に対し公社法に定める懲戒をなし得ることは明らかである。そのほか、被控訴人らの本件争議行為が懲戒処分の対象とならない という被控訴人らの主張は採用し難い。
最後に本件懲戒処分懲戒権の濫用にあたるかどうかを検討する。
本件懲戒処分である戒告処分が‥‥定期昇給、昇格、特別加給等の賃金上の不利益のほか、賃金を基礎として算出す退職手当、退職一時金、退職年金等の共済組合の長期給付、出産費、配偶者出産費等の同短期給付、業務災害における災害補償等の算定に影響を及ぼす不利益処分であることは当事者間に争いがなく‥‥Mについては.本件争議行為による賃金カット額は八一三円であるのに対し、戒告による昇給延伸による不利益は昭和四五年ーケ年において金一〇五円であることが認められるなど、一般に宗祇行為による賃金カットよりも戒告処分に伴う経済的不利益ははるかに大きく、しかも昇給延伸に伴なう不利益は、公社に勧務している期間回復し難いところから、その制裁は決して軽微とはいいがたいものであり、被控訴人らは三時間一〇分の単純不就労という本件争議行為の態様と処分の不利益が均衡を失しているという不満のほか、昭和四一年以前と昭和四八年以降においては、争議行為自体は反覆されているのにもかかわらず、単純参加者については懲戒処分がなされていないことから同種稀行為者との不平等感を有し、あわせて前示のようにのように公社側自体専売職員の争議権は解放されるべきであるという姿勢を公言しながら、 本件懲戒処分を維持していることの不当性を強調していることが明らかであるが‥‥公社側は、昭和四一年までは公労法一七条違反の争議行為に対し指導的役割を果たした者についてのみ懲戒処分を行ない、単純参加者については賃金上の差別を伴わない訓告または厳重注意の内部的措置を講じていたが、違法な争議行為を防止し得なかったので、昭和四二年から単純参加者に対しても懲戒処分を行うこととし、本件争議行為についても参加者にに対し、一律に、懲戒処分としてはもっとも軽い戒告処分を選択したこと、また‥‥交渉が決裂したとみるべき段階ではなかつたのに、被控訴人は、公労協統一ストというスケジュール闢争の一環として、しかもスト権奪還という政治目的もかねて‥‥公社側の再三の警告を無視して本件争議行為におよんだ とい違法性を高度のものと評価する態度があったことが認められる。このような当事者双方方の主張を懲戒処分の適否の判定の基準、すなわち.裁判所が懲戒処分の適否を審査するにあたっては、懲戒権者と同一の立場にたって懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかな る処分を選択すべきであったかを判断し、.その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずベきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量量権を濫用したと認められる場合に限り遑法であると判断すべき基準(最高裁判所第三小法廷昭和五二年一二月二〇日判決など)にてらして検討すると、前示し被控訴人らの主張の諸事情によっては、いまだ、懲戒権である公社が本件懲戒処分を賦課した当時、社会観念上著しく妥当を欠くと認められるほど裁量権を濫用したとは認め難いといわざるを得ず、懲戒権濫用の主張もしたがって採用し難いということになる。」
(2)上告審判決抜粋
上告棄却
「公共企業体等労働関係法一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは当裁判所の判例であり(当裁判所‥‥五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁)また、右規定を日本専売公社職員に適用する場合に限ってこれを異別に解すべき理由がないことも、右の判例に照らして明らかである。」
(3)谷口正孝裁判官の補足意見。
私も、公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)の適用をうける三公社、五現業の職員の労働基本権とその制約については、多数意見の引用する当裁判所大法廷判決の判示する基本的見解に従うべきものであり、公労法一七条一項が右職員及び組合の争議行為を禁止したことをもつて憲法二八条に違反するものではないとした結論については賛成する。
なお、専売公社の職員及び組合については、専売事業の公共性の特質にかんがみ、その正常な運営の確保と専売職員の労働基本権の保障とを調和させた立法政策が望まれることは理解できないわけではないが、そのことは立法政策の問題であって、特に、専売公社のみを他の公社等と区別して同公社職員及び組合について公労法一七条を適用することが憲法二八条に違反するとまで断ずることはできない。
次に、公労法は、同法一七条一項に違反する行為の効果について、直接これを定める規定として同法一八条の規定を設けているのであるが、同条による解雇は、当該職員の行為を企業秩序維持の立場から個別的な違法行為としてとらえてされる懲戒処分とは異なり、むしろ争議行為の禁止に実効をもたせるための分限上の処置に類似する特別の措置とみるべきであろう。この解雇の性質について、私は前記大法廷判決に示された団藤裁判官、環裁判官の各意見に賛成するものである。
そうだとすると、公労法一七条一項の規定に違反したこと自体を理由として、直ちに懲戒の事由とすることは許されないものといわざるをえない。しかしながら、そのことは、職員が争議行為に伴い事実上使用者の業務上の管理を離れて組合の管理に服したことをもつて、労働契約関係の適法な一時的消滅とみることを理由づけるものではなく、労働者の争議行為が使用者の懲戒権を排除できるのは、その争議行為が目的及び態様において正当と認められる場合に限られるというべきである。従つて、職員及び組合の争議行為が公労法一七条一項によつて禁止されている以上、争議行為を組成した個々の職員の行為が労働契約上の義務違背となり、個別的労働関係上の規制を受け、当該職員の行為が企業秩序に違反すると認められる場合、懲戒処分の事由となることは避け難いことといわざるをえない」
5.佐教組懲戒処分取消請求事件最一小判昭63・1・21判時1284、判タ675
最高裁は昭和52年に国公法違反の争議行為、昭和53年に公労法違反の争議行為に対する懲戒処分を適法とする判断を下しているが、本件は地公法37条1項に違反する争議行為が行われた場合、懲戒事由を定めた地公法29条1項によって懲戒処分は免れないとし、争議行為=懲戒処分を直結する判断を示した。また懲戒処分の対象を違法性の強い争議行為に限定する上告人らの主張は一蹴したのであって、これも重要な指導判例と考える。[蔦川1989]
懲戒処分について「それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したものと認められる場合でない限り違法とならない」という神戸税関事件最高裁判決を引用し地方公務員事件にもこの基本論を採用している。
事案は石川達三の小説『人間の壁』のモデルとなった大きな反響を呼んだ佐教組事件の行政罰の是非をめぐるもので、佐賀県教組が定員削減反対、昇給・昇格の完全実施等を目的として昭和32年2月14日から3日間、いわゆる3・3・4割休暇闘争を実施した。佐賀県教委は、佐教組役員9名に対し闘争を企て、遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおる等の行為に及んだのは、地公法37条1項後段に違反するとして、停職一月~六月の懲戒処分に付したが、その懲戒処分取消請求訴訟である。
(1)一審佐賀地判昭46・8・10判タ286
本件は懲戒処分取消請求訴訟で、一審は地公法37条1項につき都教組勤評事件大法廷判決昭44・4・28の限定解釈(公務員の争議行為の制限規定は国民生活全体の保護を目的とするものであり、争議行為のうちきわめて短時間の同盟罷業の如きは必ずしも右規定に違反するとはいえず、また右規定に違反する争議期間中にには職員団体の本来の目的逸脱、暴力、不当長期にわたるように、違法性の強いものとその他弱いものがあり、これに対するあおり行為も争議行為に通常随伴するものとそうでないものとがあって、刑事罰の対象となるものは違法性の強い争議行為につき争議行為に通常随伴しないあおり行為に限定される-判タ286解説)の立場に立ち、本件休暇闘争は、人事委員会が代償措置の機能を充分に果たしてない状態のもとで実施され、その教育に与えた影響もかならずしも重大であるとはいえないので、地公法三七条一項で禁止している争議行為に該当しないと判示し、本件懲戒処分を取り消した。
(2)二審福岡高判昭58・5・27
全農林警職法事件大法廷判決昭48・4・25、岩教組学力調査大法廷判決昭51・5・21が、都教組事件などで示された争議行為の限定解釈を排斥し、争議行為全面一律禁止が合憲である旨判示したのを受けて、地公法37条1項は一切の地方公務員の争議行為を禁止しており、そのように解しても憲法28条に違反しないとするのが最高裁判例で確立されているから、特段の理由がない限りこれに従う義務があるところ、人事委員会が争議行為禁止の代償措置としての機能を喪失している場合には地方公務員がその正常な運営を要求して相当な範囲を逸脱しない手段態様で争議行為に出たとしても違法ではないが、当時の県財政の状況から、人事委員会の勧告が実施されなかったことをもって代償機能を果たしていなかったと断定できないとしたうえで、次のように懲戒処分を有効であるとした。
「(一)地公法三七条一項に後段の「企て」「共謀」「そそのかし」「あおる」等の行為は、当該争議行為に不可欠か、通常随伴するものである限り、正当な組合活動であると評価され、懲戒処分の対象とされないとか、争議行為を懲戒処分の対象とすることは、必要な限度を越える不利益であって、憲法二八条に違反するとかの主張については、地公法三七条が一切の争議行為を禁止していると解する前記最高裁判所の確立した判例に従う限り、到底これを採用することはできない。
(二)争議行為に参加した組合員又はこれを企画指導した組合幹部の行為は、個別労働関係の当事者としての労働者の行為につき個別責任を追及することを本質とする地公法二九条一項の懲戒規定の対象にならないとの主張については、争議行為が集団的行為であるからといって、その集団性の故に争議行為の参加者個人としての行為の側面が当然に失われるものではないから、組合決定に基づく争議行為といっても、それが違法なものであるときには、組合自体の責任を生ずることがあるのは勿論、当然違法行為者自身においても個人責任を免れないものといわなければならない。‥‥
(四)‥‥地公法二九条一項によれば、懲戒処分として戒告、減給、停職及び免職の四種類が定められているが、そのいずれを選択するかは、懲戒権者たる控訴人の裁量に委ねられているものであって‥‥それが社会観念上著しく妥当性を欠き裁量権を濫用したと認められるものでない限り、違法とはならないものと解すべきである(最高裁判所第三小法定昭和五二年一二月二〇日判決‥‥)。」
「‥‥本件処分は、いささか重きに失する感じを免れないが‥‥社会観念上著しく妥当性を欠くほど重きに過ぎるとまでは認められない」
(3)上告審判決抜粋
上告棄却
「地方公務員法三七条一項の規定が憲法二八条の規定に違反するものでないことは、当裁判所の判例(‥‥五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁)とするところであり、これと同旨の原審の判断は正当である‥‥‥(中略)‥‥
地方公務員が争議行為を行つた場合には、地方公務員法三七条一項の規定に違反するものとして同法二九条一項の規定による懲戒処分の対象とされることを免れないものと解すべきであり、同項の規定の適用に当たり、同法三七条一項の規定により禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設け、更に、右規定に違反し違法とされる争議行為に違法性の強いものと弱いものとの区別を立てて、右規定違反として同法二九条一項の規定により懲戒処分をすることができるのはそのうち違法性の強い争議行為に限るべきものと解することはできない(前掲大法廷判決及び最高裁‥‥五二年一二月一〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。‥‥
地方公務員に懲戒事由がある場合において懲戒権者が裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したものと認められる場合でない限り違法とならないものと解すべきである(前掲最高裁第三小法廷判決参照)。
本件についてみるに、原審の確定した事実関係に徴すると、本件休暇闘争を行つた佐賀県教職員組合の組合員の心情には酌むべき点が存するといわなければならないが、佐賀県は、当時、極度の財政逼迫状態にあり、赤字団体として地方財政再建促進特別措置法に則り財政の再建を行おうとしていたものであり、給与の遅払い、定数削減、定期昇給・昇格発令延伸、昇給差額放棄等の措置も、右のような財政事情のもとでやむなくとられたものであること、本件休暇闘争は三日間にわたり、三日間で県下小中学校の教職員の延べ約八割七分にも及ぶ約五二〇〇名が参加して行われたものであり、それが教科の進度に遅れを生じさせ、児童生徒に精神的な不安、動揺を与えたことは否定できないこと、上告人らはそれぞれ、佐賀県教職員組合の役員として、本件休暇闘争を企画し又はその遂行を指導推進したものであることなど原判示の諸事情を考慮すれば、本件懲戒処分はいまだ社会観念上著しく妥当を欠くものとまでは認められず、本件懲戒処分が懲戒権者にゆだねられた裁量権の範囲を超え、これを濫用したものということはできない。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。‥‥」
6.総理府統計局事件 最二小昭60・9・18労判467
昭和36年10月26日統計職組は午前9時頃から9時20分頃までの間統計局裏門において職員約80名の参加をえて勤務時間内の職場大会を実施した。これに対し当局はピケなどに参加した約400名に対し有給休暇請求を承認せず賃金カットとしたが、統計職組は賃金カット理由を求める運動を行うため、11月8・9・16・17日の各休憩時間に部外者を含む80~100名の職員を集めて勤務時間に食い込むオルグ活動を開催したほか、当該職場の係長らに対し、長い時間で一時間内外にわたって、話し合いを強要し、その執務を妨げ、かつ他の職員の勤務を妨げた。対して総理府総務長官は統計局職組委員長を免職、副委員長1人と執行委員1人を停職四か月、その他執行委員など3人を減給三か月の懲戒処分に付した。 一審東京地判昭50・12・24判時806は原告らの各所為は違法な争議行為であるとして懲戒処分を適法とした。東京高判昭55・5・16訴務31-5も棄却、上告審も棄却。
7. 全運輸近畿支部兵庫分会事件最二小判昭60.11.8民集39-7-1375判時1178
(1)本判決の意義
本件は、運輸省大阪陸運局長による、違法職場大会であいさつ、演説等を行い指導的な役割を果たした全運輸近畿陸運支部分会役員に対する戒告処分の懲戒処分取消し請求訴訟である。
全運輸とは運輸省の港湾建設局と港湾・航海関係附属機関を除き、管理職員を除く職員の大多数をもって組織され、本件ストライキ当時の組合員の総数は約7570名であった。昭和44年全運輸は国公共闘・公務員共闘統一行動の一環と人事院勧告完全実施等の要求貫徹のため、勤務時間に食い込む職場大会の実施を指令し、同年11月12日全運輸近畿陸運支部は、大阪陸運局本局分会は、15分、その他の分会は20分勤務時間に食い込む早朝職場大会の実施を伝達した。
原告Kは、本件ストライキ当時全運輸近畿支部兵庫分会分会長の地位にあったところ、右分会が右同日兵庫県陸運事務所庁舎玄関前横において、右要求貫徹を目的として行った勤務時間にくい込む職場大会に就業命令を無視して参加し、このため、当日の勤務時間中午前八時三○分から同四二分までの一二分間にわたり職務を放棄し、その際分会長として「あいさつ及び職場大会の意義」について演説を行い主たる役割を果たした。
О総務課長は、あいさつをおこなっていた分会長に近づき八時二十五分頃「この大会は無許可であるからすぐ解散せよ」と命令、同三十六分にも「時間内にくい込む集会は違法だからすぐ解散しなさい」と命令、さらに四○分頃自らがプラカードを持って、分会員内を歩きまわるなど、解散・職場復帰命令が発せられている。
原告Nは全運輸近畿支部兵庫分会副分会長の地位にあったところ、右分会が右同日八時三三分から同五〇分までの約一七分にわたり兵庫県陸運事務所姫路支所構内入口横のひろばにおいて、右要求貫徹を目的として行った勤務時間にくい込む職場大会に参加し、その際副分会長として「所長交渉の経過報告及び決議文の朗読」を行い主たる役割を果たした。
A姫路支所長は、午前八時三五分頃、T副分会長に組合旗が立ててあること及び勤務時間にくい込む右大会は違法であることを口頭で注意し、さらに同四九分ごろ、参加者全員に対し、解散するよう口頭で命じている。
なお、原告Nは、勤務場所は兵庫県陸運事務所(本所)輸送課であるが前日に行われた所長交渉に姫路支所勤務のT副分会長が出席していないため、交渉経過を本職場大会に報告するため、有給休暇を取得し、前日より姫路分会に泊まり込んで参加したものである。
(兵庫分会以外の分会での職場大会の状況を省略する)
原告らの各行為は、組合役員として他の者と共に勤務時間にくい込む職場大会に参加した点において国公法九八条二の項前段所定の争議行為に該当し、右大会おいて組合役員として、参加者に対し、あいさつ、経過報告、決議の朗読、演説、がんばろう三唱の音頭などを行った点において同法九八条二項後段所定の「そそのかし」「あおり」行為に該当するので、同法条項に違反し、同法八二条一号に該当する。‥‥事前に上司から勤務時間にくい込む職場大会は明らかに違法であるから参加しないよう警告されていたにもかかわらず、右行為を行ったことは情状が重いとして、戒告処分としたものである。
なお、本件昭和44年11月13日の本件職場大会の闘争では戒告処分は43名であり、本部役員1名、支部役員8名、分会三役34名であった。本件闘争は、全運輸中央本部の責任者について企画指導の立証を充分にする資料を収集できなかったため、各職場大会毎に実行行為者をとらえ、主たる役割を果たした者を各職場大会毎原則1人につき戒告処分にするという方針のもとに行われた。
(昭和48年から昭和50年までの闘争は、分会役員は処分されていないが、その理由は、職場大会が陸運事務所構内でなく、現認できなかったことと、遅刻者が交通ストのためと申告し、争議行為参加の事実認定ができなかったことである。本部役員15名、支部三役20名が戒告処分を受けている)
一審大阪地判昭54・8・30は原告の主張を全て排斥し請求棄却、二審大阪高判昭57・2・25も一審判決を全面的に支持し控訴を棄却、上告審も棄却。
国公法が禁止する争議行為を指導したことを服務規律違反として懲戒処分することが適法であることは昭和52・12・20神戸税関判決があり決着がついていることで、リーディングケースではないけれども、調査官解説のある重要判例とされているのは、本件が出勤簿整理時間内に終了した職場大会で、就業命令が不当だとの主張がなされ、出勤簿整理時間を正面から問題にした先例がなかっためで、出勤簿整理時間の設定は、一般職に属する国家公務員の勤務時間を短縮し、出勤簿整理時間中の職務に従事する義務を免除したものと解することはできないと最高裁が初めて判示したことによる。
出勤簿整理時間とは、通勤の交通機関が著しく混雑する地域において、始業時刻からある程度の時間(例えば30分)出勤簿を引上げず整理時間内に押印すれば始業時刻に出勤した扱いとする慣行で、事実上出勤猶予時間のような外観を呈していた。平成初期までは官庁で広く行われていたが、この判決の影響もあって10年ほどで廃止されたように記憶している。今日では始業時刻より前にカードリーダーを通さないと遅刻になるので、整理時間の設定はなくなった。
従って、今日的観点での意義はむしろそれよりも、職場大会においてあいさつ、交渉経過報告、決議の朗読、演説、がんばろう三唱の音頭を取る等、指導的な役割をすることは、国公法九八条二項後段所定の「そそのかし」「あおり」行為に該当するのものとして違法であり、当然懲戒処分も適法であることを明確にしたこと。
本件の副分会長N原告のように有給休暇を取得し、勤務地でない事業所の勤務時間内職場大会で指導的な役割を果たした場合、それは同盟罷業に参加したとはいえず職務専念義務違反にはならないが、国公法が違法とする「そそのかし」「あおり」行為に該当するとして、懲戒処分は適法であるということを明確にしたこと。
たとえ出勤簿整理時間であっても、勤務時間にくい込む職場大会で違法な争議行為であり、参加している組合員に対し、「解散命令」「職務命令」を発することは当然で、職員は右命令に拘束され従うべき義務を負うということがより明確になったということを本判決の意義として認めてよいと思う。
又、本件は処分の対象を職場大会ごとに1人としているため、同様の役割を果たした組合役員でも処分されずにすんだケースがあるが、このような選択的に懲戒処分を賦課するあり方であっても裁量権の範囲として是認しているのである。
(2)一審大阪地判昭54・8・30抜粋
「‥‥出勤簿整理時間の設定は、職員の勤務時間を変更し、当該時間内の勤務を免除するとの効力を有するものではないから、職員は、出勤簿整理時間内に出勤した場合には、当然に当局の支配管理下にあり、労働供給義務を負うものというべきであり‥‥他の目的のために自由に使用・行動し得る時間ではない‥‥それ故、当局は、出勤簿整理時間内に出勤した職員に対し、職務命令を発することができるのは当然であり、まして‥‥本件職場集会に参加している職員に対して「解散命令」或いは「職務命令」を発したことはなんら瑕疵はなく、職員は右命令に拘束され、従うべき義務を負うものというべきである。‥‥
‥‥本件職場大会は、公務員として負担する職務専念義務に違反し、労務供給義務の提供を拒否したものということができ‥‥それ自体必然的に業務の正常な運営を阻害する行為ということができるから‥‥国公法九二条二項所定の争議行為に該当する‥‥
原告らは、国公法九八条二項所定の争議行為は、長時間かつ大規模な職務放棄をおこなったため、右業務に大混乱が生じる場合である旨主張するのであるが、公務員の行う争議行為である限り、同法条項に規定するその規模、状況等によって区別すべき理由のないことは明らかである(‥最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決参照)。
‥‥国公法九八条二項後段所定の「あおり」「そそのかし」とは、国公法九八条二項前段に定める違法行為を実行させる目的をもって、他人に対し、その行為をなさしめるよう仕向ける行為を総称し、必ずしもこれによって現実に相手方が影響を受けること及び業務の正常な運営を阻害する行為が行われることを要しない‥‥
‥‥本件職場大会において原告Hが分会長としてあいさつをした行為、原告Kが分会長としてメッセージと祝電を朗読した行為、原告Kがあいさつと職場大会の意義について演説した行為、原告Nが副分会長として所長交渉の経過報告について演説し決議文を朗読した行為、原告Tが分会長として団結がんばろうの音頭をとった行為‥‥原告Nが支部長としてあいさつをし、人事院勧告に対する閣議決定の不当性を説明した行為は。いずれも‥‥「あおり」ある遺棄「そそのかし」行為に該当するものということができる。‥‥
原告Nは、本件職場大会当日、年次有給休暇をとることによって就労義務を免れれたものということができるのだが、だからといって公務員として国公法九八条二項に違反する争議行為を行うことまで許されるものではないのである。
なお[原告三名]を除くその余りの原告らの本件職場大会等におけるあいさつ等の行為は、午前八時三〇分以前に行われたのだから、右行為は違法性がない旨主張するかのごとくであるので附言するに‥‥本件職場集会が違法なものであるから、原告らの行為が本件職場大会における一行為としておこなわれるものである限り、それが行われた時期如何によって違法性の有無が左右されるものではないのである。
原告らが本件処分をもって不当労働行為と主張する‥‥本件職場大会前に警告書を発し、周到な準備をしたうえで‥‥本件各処分をしたことは団結に対する弾圧である‥‥しかしながら、本件職場大会に対し就業命令を発し、又、本件職場大会前に右大会に参加しないように警告書をはっしたとしても‥‥国公法九八条二項に違反する違法な行為である限り、被告局長らが右違法行為を看過することなく右のようなに措置をとり、或いは各処分を行うことし当然のことというべきであり‥‥不当労働行為を推認することはできない。
原告らは、本件職場大会における原告らの行為は、労働組合としての団体行動であるから、右行為について個人責任或いは幹部責任を問うことができないと主張する。
しかしながら、集団的労働関係である争議行為の場においても個別的労働関係が解消されるものではないから、当該違法行為における組合員の行為を個人的行為の側面でとらえたうえで、そのことを理由に組合員に対し、個別的労働関係の責任である懲戒責任を追求することができるものというべきである。‥‥
原告らは、原告らの行為はいずれも組合中央からの方針、指令に従い、組合員としての当然の義務を果たしたにすぎないから、原告らをとくに選択して懲戒処分に付する合理的な理由がないとも主張するが、既に説示したごとく本件職場大会は国公法に違反する違法な争議行為であるから、仮に組合の指令があったとしても、それは国公法に優先するものではないこと当然というべきであり、右指令を従ったことをもって違法な争議行為に参加したなどの原告らの行為を何ら正当化するものではないし‥‥本件各処分を受けるに至ったとしても、何ら不合理なものということはできない。‥‥
裁判所は公務員に対する懲戒処分の適否を審査するにあたり、懲戒権と同一の立場に立って、懲戒処分の適否を審査するにあたり、懲戒権者と同一の視点に立って、懲戒処分をすべきであったかどうか、又、懲戒処分をする場合にいかなる選択をすべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁昭和五二年一二月二〇日第三小法定判決)。
(3)上告審抜粋
本件職場大会の開催が国公法九八条二項前段の規定にいう争議行為に該当するとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。‥‥?
国公法二八条一項前段は、同法二条に規定する一般職に属する職員(以下「職員」という。)の給与、勤務時間その他勤務条件に関する基礎事項は、法律によって定められ、法律によって変更されるべきことなどを規定し、勤務時間及びその割振については、一般職の職員の給与に関する法律一四条一項が、「職員の勤務時間は、休憩時間を除き、一週間について四十時間を下らず四十八時間をこえない範囲内において、人事院規則で定める。」と規定し、同条四項本文が、「勤務時間は、特に支障のない限り、月曜日から土曜日までの六日間においてその割振を行い、日曜日は、勤務を要しない日とする。」と規定している。これを受けた人事院規則一五―一「職員の勤務時間等の基準」は、一週間の勤務時間を四四時間と定め(四条)、その割振は、会計検査院及び人事院の職員以外の職員については内閣総理大臣が定めるものとし(五条一項)、その原則的な基準として、月曜日から金曜日までの五日間においては一日につき八時間となるように、土曜日においては四時間となるように割り振るものとしている(六条一項)。これに基づき、内閣総理大臣は、「政府職員の勤務時間は、休日を除き次の通りとし、日曜日は勤務を要しない日とする。月曜日から金曜日まで午前八時三十分から午後五時まで。但し、その間に三十分の休憩時間を置く。土曜日午前八時三十分から午後零時三十分まで。」と定めている(政府職員の勤務時間に関する総理府令(昭和二四年総理庁令第一号一項)。?
このように、職員の勤務時間及びその割振は、法律及びその委任に基づく人事院規則等によって定めることとされ、右法規に基づかないでこれを変更することは認められていないものというべきである。?
ところで、原審の認定するところによると、兵庫県陸運事務所においては、勤務時間の開始時刻である午前八時三〇分からおおむね午前九時ころまでの間出勤簿整理時間と称する取扱いがされているが、これは、出勤簿管理の必要上、官署の長が勤務時間管理員に対して発した職務命令によって定められているものであり、右時間内に出勤簿の整理を完了することを命ずると共に、右時間内に出勤して出勤簿に押印した職員については勤務時間の開始時刻までに出勤したものとして取り扱うこととされていたというのである。上告人らは、右の出勤簿整理時間の設定によって職員に対し右時間について職務に従事する義務が免除されたものである旨を主張するのであるが、もし右出勤簿整理時間の設定がその時間中の職務に従事する義務を免除するものであるとすれば、それは勤務時間を短縮し、その割振を変更するものにほかならないところ、法規に基づかないで勤務時間を短縮し、その割振を変更することが許されないものであることは前記のとおりであるから、出勤簿整理時間の設定が、勤務時間を短縮し、出勤簿整理時間中の職務に従事する義務を免除したものと解することはできないものというべきである。?
また、上告人らは、右出勤簿整理時間の設定及びその実施により、職員に対し右時間中の職務に従事する義務を免除するという内容の慣行が成立している旨を主張するのであるが、右のような内容は職員の勤務時間及びその割振を定めた前記規定に抵触することが明らかであるから、前記のような取扱いが相当期間継続して行われて来たものであるとしても、出勤簿整理時間中の職務に従事する義務を免除するという内容の慣行が成立する余地はないものといわなければならない。右と同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はなく、右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。‥‥
本件職場大会における上告人らの行為が国公法九八条二項後段に規定する「そそのかし」又は「あおり」に該当するとした原審の判断は正当であって、原判決に所論の違法はなく、所論引用の各判例に抵触するところもない。‥‥
上告人Nが年次休暇の承認を受けたことにより本件職場大会当日の職務に従事する義務を免除されていたとしても、そのことによって同上告人につき国公法九八条二項後段の規定する「そそのかし」又は「あおり」の責任を問い得なくなるわけのものではない旨を説示したものであつて、同上告人の右当日の行為が同項前段の争議行為(同盟罷業)に当たるとしたものではないと解すべきであるから、原判決に所論の違法はない。‥‥」
(4)一審ではどのような組合の主張が排斥されたか
本判決は一審の段階で原告の主張すべて排斥していることで気持ちのよい判例なのである。以下は組合側の主張のピックアップである。
○兵庫分会における職場集会でO総務課長が分会長に近づき解散命令をしたり、プラカードをもって歩き回ったことは大会の妨害行為である。
○原告Kは8時22分から29分まで挨拶をおこなったが、分会長として当然の正当な行為であり「主たる役割を果たした」とは目しえない
○職場大会は何ら業務の正常な妨害をしていない。すなわち通常兵庫県陸運事務所の職員は、午前9時から同15分の間に出勤し、登録事務の受付は9時~、車検の受付は同30分~
○大会にしようした場所は、右時刻当局において使用する必要性がなかったし、従来の例からいってその使用を許可されたこともなかったのであり、分会長及び分会員が無届使用を理由とする解散命令や、何ら業務上の必要間内就業命令に従わず大会を進行しても何らその責に問われる理由はない。分会は当局がなんら措置をしていないのに保安要員をおいて、大会中に業務が発生しても対応できるようにしていた。
○本件職場大会は出勤簿整理時間内のものであり業務阻害を生じさせていないので争議行為ではなく、団体活動・組合活動である。
○窓口業務も開始されていないのに、職員に対して職務命令を発することのできない時間であり、就業命令や解散命令は職員を拘束しない。
○就業命令等は組織敵視、組合の集会をつぶし、組合の団結を破壊することにある。
○原告らの本件職場大会の行為は、労働組合としての団体行動であるから、組合員個人として、或いは組合幹部としての懲戒責任(個人責任、幹部-支部長・分会長責任)を問えない。団体的違法争議行為についていかなる個人責任も生じ得ない。
○原告らの各行為は、全運輸近畿支部の支部長または分会責任者とし組合中央からの方針、指令を忠実に実行したものであり、組合中央によって勤務時間のくいこみ時間、集会の態様まですべて定められ‥‥これに自動的に組み入れられていったのである‥‥これに反した行動をとれば、原告らは組合の団結を破壊したことになり、組合の統制処分を受けることになる。従って原告ら、中央闘争本部などからの指令に基づく組合員としての当然の義務を果たしただけであって、使用士やとの国との官位で、原告らを特別に選択して懲戒処分に付する合理的な理由はない。
○本件職場大会が国公法98条2項に違反するとしても、違法性の程度は極めて軽微である。しかも各処分は何らの権限もない支部長、分会長、副分会長に対する詩文であり、本件処分により昇給延伸の措置がとられ、原告らが受ける給与上の損失は一人当たり29万円から140万円に達するのは苛酷である。
○原告Nの処分について、年休件行使の目的が本件職場大会の参加であったことは、組合員である係長が知っていることで、総務課長が局人事課に打診したうえで「家事都合との理由を書いてもらえば認めよう」ということになったにもかかわらず、処分がなされたのはだまし打ちである。
(5)一審における当局側の反論
当局側の主張は次のようにしっかりして穴がない。
○国公法において争議行為であるためには業務の正常な運営を阻害することを要するとされているが、業務阻害とは、労調法などの場合と異なり業務阻害の危険性をもって足りる。
○本件職場大会が、業務阻害がなかったとはいえない。受付時間前であっても、外部からの電話照会や外来者は皆無でない。出勤簿整理時間は、受付開始時間が到来すれば、ただちに正常業務に入れるように来客受付体制を整えるべき時間であるのに、職場大会を開催すれば、右のような体制を整えることは不可能である。また全運輸中闘の追加指令は前日からの出張、当日の出張は事前にやめさせることを基本とし、当日の出張は実力行使後としており、これだけでも業務阻害といえる。
○有給休暇中の者は労務提供義務を免除されるが、国家公務員としての服務上の規律に従わなければならない。
○原告らの主張は、要するに、争議行為は、労働組合という一個独立の団体行動であるから、それが違法な場合でもすべて団体が責任を負うべきで、その構成員個人の行為は、組合の行為に吸収され、独立の評価を受ける余地がないということにあるが、その団体性をいかに強調しようともかに強調しようとも、そのことから、直ちに個々の参加者が責任を負担しないという結論を導き出すことはできない。
争議行為が、一般的に、労働者の団結体たる労働組合の統一的、集団的行為であることは原告の主張のとおりであるが、他面において、争議行為は団体構成員たる組合員の共同に意欲された個別行為の集合であることも事実である。すなわち、争議行為は個々の組合員の積極的、具体的行為なくして成り立ち得ない。これを端的に表現すれば、争議行為は労働組合の行為であると同時に、個々の組合員の行為でもある。そして、個々の組合員は労働組合と別個独立の法的主体であり、従って、違法な争議行為については、労働組合が団体としての責任を負うのとは別に、個々の組合員が責任を負うのは当然である。
違法争議行為の責任はすべて労働組合にのみ帰せられるべきであるという見解かからすれば、違法争議行為が刑罰法規に触れるときも、刑事責任を負うべきは組合のみとなってしまう。このような帰結が、個々の違法行為者がなした行為について刑事責任を負わなければなんらないという刑事法の一般原則に背馳するものであることは論ずるまでもない。又、不不法行為責任について、近代法の下においては、人は自己の行為についてのみ責任を負うという自己責人又は個人責人の原則が確立されている。違法な争議行為が不法行為を構成するとき、第一次的にその責任をおうべきは行為者個人であり、その行為者が組成する団体が責人を負うのは別個の法理によらなければならず、決してその逆はありえない。決してその逆ではあり得ない。さらに、違法な争議行為が労働契約上の債務不履行を構成するとき、その責人は契約当事者たる個々の労働者について生ずるものであり、組合がかかる風紀の履行責任を負うことはきない。原告の主張は‥‥近代法の建前を立論で何ら根拠のないものといわなければならない。
元来、争議権の保障は、正当な争議行為に限り、これを労働法上団体行動として保障することである。争議行為は業務の正常な運営を阻害する行為であるから、一般市民法上は、刑事、民事の責任が生じ得るべきものであるが、これらの責任を免責し、又は争議行為を理由とする解雇などの不利益取扱いを禁止することに争議行為の権利性が認められる。このような争議権の保障は正当な争議行為に限られており、争議行為が不当、違法なときには、それは労働法上もはや団体行動として保障されず‥‥正当な争議行為に与えられる免責的利益を享受できないのである。換言すれば、違法争議行為は労働法上の団体行為ではなく、法的に個々の労働者の個別行為として契約秩序や服務規律に服することになる。もちろん、争議行為が労働組合の行為であるという側面から、組合としても責任を負うべきことが生じ得るが、‥組合の責任と個々の労働者の責任とは独立別個のものとして併存するのである。
正当な争議行為の民事免責を定める労組法八条は、「労働組合又はその組合員」に対し賠償を請求することができない旨規定し、本来免責なき場合に組合個々人が使用者に対し債務不履行ないし不法行為による責任を負うことあるべきを当然予定している。又、同法一二条は、法人の不法行為能力に関する民法四四条の規定、法人たる労働組合に準用するものとしているが、民法の右規定の解釈上、法人と共に機関個人の責任が生ずるものと解されている。そして、労組法一二条は、同法八条に規定する組合の正当な争議行為については、右準用を除外する旨明らかにしている。
原告らの主張によれば、このような労組法上の規定は、誤りであるか、適用ないし準用する余地がないことにならざるをえないが、かかる解釈が法条の文理に著しく抵触し、とうてい成り立つものではないことは明らかである。
なお、原告らの主張は「労働組合が争議行為を行う場合には、組合員たる個々の労働者は企業秩序の支配から離脱し、組合の統制に服することになるから通常の企業秩序を前提とする懲戒処分を課することはできない」との趣旨を含むものとも解される。
しかしながら個々の労働者は使用者と労働契約を締結することによって、企業組織内に編入され企業秩序に服することになるのであって、このような関係は労働契約が存続する限り継続するものである。他方、労働者が労働組合に加入すれば、労働組合の団体統制に服することになるが、この両者の関係は別個独立のものとして併存し、その間に優劣の関係はない。労働者を企業秩の支配から離脱させることはたとえ労働組合であっても使用者の意思に反し自由になし得るものではない。従って、争議行為が労働組合の団体行動として展開されるものだからといって、争議行為によって使用者と個々の労働契約関係が消滅するわけではなく、それが争議行為であるということのみによって、組合員たる労働者が企業秩序の拘束から離脱するという効果を生ずる理由はない。
一般的に懲戒は、企業秩序、服務規律の維持、確保を目的とするが、かかる目的の達成は企業が存続する限り存続するのであって、労働組合が争議行為を決定し実施したからといって当然に失われるものではない。正当な争議行為に対して問責できないのは別として、違法な争議行為についてまで使用者の統制が及ばないとする根拠はない。‥‥‥‥
‥‥従って争議行為が集団的性格をもつということを理由に、個々の職員の行為について、法律の規定に基づきその懲戒責任を問うことを妨げるべき理由は全くない。
8.電電公社長岡局事件 最一小判昭62・2・19労判510
全電通は、昭和36年春闘において、賃上げ、時短、要員の算出基準、配慮に関する協約の締結を要求したが、当局は賃上げ要求の一部を除いて要求を拒否し、要員問題については団交に応じられないとの態度をとったため、各県支部の拠点局で3月16日始業時(長岡局は7時20分)から10時までの勤務時間内職場集会を実施することとし、新潟県支部では、長岡電報電話局を拠点とし、組合員多数が前日から局舎内に坐り込み、ピケをはり、管理職員の入局を阻止するとともに、当日の勤務予定者19名を含む長岡分会員(全組合員動員、保安要員なし)、支部組合員ら1700~1800名が右職場集会を実施したが、ストの実施、戦術の決定等に参画し、ピケを指導する等の行為をした全電通新潟県支部執行委員(専従)2名を公労法18条により解雇したもので、解雇の有効性が争われた。
本件は、2時間40分の時限ストとはいえ、管理職の入局も妨げるマスピケが実施され、保安要員もないという点で悪質に思える。
一審新潟地判昭44・11・25労民20-6、二審東京高判昭56・9・30訴務28-4ともに18条解雇を有効とした。上告審棄却。
9.全林野広島営林署分会事件最三小判昭62・3・20判時1228
全林野は定員外作業員・臨時作業員の常用化・常勤性の付与を要求して(A)昭和45年12月11日全国67営林署において約4時間のストを実施した。(B)昭和46年4月23日全国72営業署において約4時間のストを実施した。又全林野は(C)春闘共闘の一環として大幅賃上げを要求し、昭和46年4月30日全国20営林署で約4時間。5月20日全国21営業所で2時間約2時間50分の各ストを実施したが、本件は(B)のストに参加した現場作業員に対する1ヶ月減給10分の1の懲戒処分の取消請求訴訟である。
(1)一審広島地判昭51・4・21
東京中郵判決・都教組判決の趣旨に沿って、本件程度のストライキは公労法17条1項が禁止しているとき解しがたいしし、懲戒処分を違法として取消した。
(2)二審広島高判昭57・8・31
名古屋中郵判決に従って公労法17条1項の組合側の主張をしりぞけたうえ、本件懲戒処分は裁量権を濫用したものとは認められないとして、一審を棄却した。
(3)上告審
棄却
「公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは当裁判所の判例とするところであり(‥‥五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁)、また、右規定を国有林野事業に従事する一般職に属する国家公務員(以下「林野職員」という。)に適用する場合に限ってこれを別異に解すべき理由がないこと、及び国家公務員法八二条の規定を適用するに当たり、林野職員の行う争議行為に公労法一七条一項の規定により禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設けなくとも憲法二八条に違反するものでないことも、右の判例に照らして明らかである。これと同旨の見解のもとに本件争議行為が公労法一七条一項に違反するとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨はいずれも採用することができない。‥‥?
団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約(‥‥ILO九八号条約)四条は労働者の争議権を保障した規定ではないから、同条が労働者の争議権を保障したものであることを前提とする所論憲法九八条二項違反の主張は、失当である。‥‥?
林野職員が、上司の職務上の命令に反し、公労法一七条一項の禁止を犯して争議行為を行った場合には、国家公務員法九六条一項、九八条一項、一〇一条一項に違反したものとして、同法八二条の規定による懲戒処分の対象とされることを免れない。また、右の争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも、多言を要しないところである(‥‥五三年七月一八日第三小法廷判決・民集三二巻五号一〇三〇頁参照)。これと同旨の見解のもとに本件懲戒処分を適法とした原審の判断は、正当として是認することができる。‥‥原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件懲戒処分が懲戒権の濫用に当たらないとした原審の判断は、正当として是認することができる」
(4)伊藤正巳裁判官の補足意見
「公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、すでに当裁判所の確立した判例であり、公労法一七条一項の規定を国有林野事業に従事する一般職に属する国家公務員に適用する場合に限ってこれを別異に解すべき理由がないことも、多数意見のとおりであると考えるが、なお、本件が比較的単純な労務に従事する現場作業員による約四時間の単なる労務の不提供を内容とする同盟罷業の単純参加行為に対し、一か月間一〇分の一の減給処分をもつて臨んだ懲戒処分の事案であることに鑑み、懲戒権の濫用の有無について、私の意見を述べておきたいと考える。?
公労法一七条一項が現業公務員等の争議行為を一律全面的に禁止したことをもつて直ちに憲法二八条に違反するものとはいえず、公労法三条一項は、同法一七条一項に違反してされた争議行為に対する民事法上の効果として、労働組合法八条の規定の適用を除外することを定め、また公労法一八条は、同法一七条の規定に違反する行為をした職員は解雇される旨を規定していることに徴すれば、同法一七条一項違反の職員の行為が勤務関係上の規律ないし職場秩序に違反するものである限り、右の事由をもつて懲戒処分の事由とされることは免れ難いものといわなければならない(この点において、公労法上特別の罰則のない同法一七条一項違反の争議行為に対する刑事罰の問題とは同一に論ずることはできないものと考える。)。?
しかしながら、懲戒処分は、被処分者たる職員に係る非違行為の違法性の程度の比例したものでなければならないことはいうまでもなく、公務員も憲法二八条にいう勤労者に当たるものと解される以上、原則的にはその保障を受けるべきものであるから、公労法一七条一項は一律全面的に争議行為を禁止し、職員が争議行為を行った場合には違法の評価を免れないものとはいえ、その違法性の程度については、憲法二八条に定める労働基本権の保障の趣旨と公労法が公共企業体等の職員について争議行為を禁止することによって擁護しようとする国民全体の共同利益との調和の観点に照らし、均衡を失することのないようこれを評価すべきものである。そして、この点について、国家公務員法及び地方公務員法が、いわゆる非現業の公務員の争議行為に対する刑事制裁について、争議行為又は怠業的行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者だけを処罰することとし、同盟罷業、怠業その他単なる労務不提供のような不作為を内容とする争議行為又は怠業的行為の単純参加行為については処罰の対象から除外しているが、これは国民全体の共同利益のために争議行為又は怠業的行為を禁止することと右の公務員の生存権、労働基本権の保障との調整を図る趣旨に出たものであり、争議行為又は怠業的行為そのものの原動力となる指導的行為と単純参加行為との間に違法性の程度に格段の差異があることを認めているものであると解されること(国家公務員法九八条二項、一一〇条一項一七号、地方公務員法三七条一項、六一条四号参照)、また、多数意見の引用する大法廷判決において、たとえ公労法一七条一項違反の争議行為が他の法規の罰則の構成要件を充たすことがあっても、それが同盟罷業、怠業その他単なる労務不提供のような不作為を内容とする争議行為である場合には、単純参加者についてはこれを処罰から解放して指導的行為に出た者のみを処罰するのが法秩序全体の趣旨であると解するのが相当であると判示されていることが参考になるものと考える。?
右のような観点からすれば、本件において、上告人ら現場作業員が全林野労働組合の組合員として同組合本部の指令及び同組合大阪地方本部役員の指導に従って行った約四時間の単なる労務の不提供を内容とする同盟罷業の単純参加行為に対し、一か月間一〇分の一の減給処分をもつて臨むことが、その行為の違法性の程度に比して権衡を失していないか、いささか疑念の余地がないではない。しかし、同盟罷業の単純参加者に対しては懲戒処分として常に裁定の戒告処分しか課し得ないとすることも明らかに不合理であり、公務員に対する懲戒処分は、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝に当たる者の裁量に委ねられているものであつて、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものであることに鑑みれば(‥‥五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)、上告人らに対する本件懲戒処分が社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を濫用したものとは認められないとした原審の判断は、その確定した事実関係のもとにおいて、これを違法なものと断ずることはできないものと思われる。」
10.全林野旭川地本事件最二小昭62・3・27労判496
本件は全林野が昭和46年春闘に際し大幅賃上げ等を目的として三回にわたりストを実施し、全林野旭川地本の三営林署分会で1時間45分ないし4時間の職場集会を行ったことに対する141名に対する下記の懲戒処分の取消訴訟である。
原告は美瑛営林署長、旭川営林局長、名寄営林署長、羽幌営林署長によって任用された国有林野事業に従事している全林野組合員である。
○減給三月(1名)、減給一月(49名)
処分理由 昭和46年4月23日に違法な職場放棄に参加した。
職場放棄時間 4時間
違反事項 公労法17条1項、国公法96条1項(服務の根本基準)、98条1項(上司の職務命令に従う義務)、99条(信用失墜行為の禁止)、101条1項(職務専念義務)
適用条項 国公法82条各号
(ほかに1名が4月30日の職場放棄4時間で減給1ヶ月)
○戒告(47名)
処分理由 昭和46年5月20日に違法な職場放棄に参加した。
職場放棄時間 2時間19分~2時間40分(46名)、1時間45分(1名)
違反事項 公労法17条1項、国公法96条1項(服務の根本基準)、98条1項(上司の職務命令に従う義務)、99条(信用失墜行為の禁止)、101条1項(職務専念義務)
適用条項 国公法82条各号
○停職三月(3名地本委員長専従、地本副委員長専従、地本書記長専従)、
○停職一月(2名地本執行委員長)
○停職20日間(1名地本執行委員専従)
以上6名の違反事項は公労法17条1項、国公法99条 適用条項は国公法82条1号、3号
○停職10日間(地本執行委員6名)
違反事項 公労法17条1項、国公法96条1項(服務の根本基準)、98条1項(上司の職務命令に従う義務)、99条(信用失墜行為の禁止)、101条1項(職務専念義務)
適用条項 国公法82条各号
(1)一審旭川地判昭50・7・17判タ328
中郵判決に従い、参加者に対する懲戒処分につき、公労法17条1項に限定解釈をした上、同法に禁止された争議行為にあたらないとしてとして取消した。
(2)二審札幌高裁昭57・10・27裁判所ウェブサイト
昭52・5・4全逓名古屋 中郵事件大法廷判決、昭53・7・18全逓東北地本事件第三小法定判決、昭56・4・9専売公社山形工場事件第一小法廷判決に従って「本件ストライキは、いずれも公労法一七条一項に違反する違法なものであり、原判決添付の処分等一覧表の処分の事由、職場集会実施場所、職場集会および職場に復帰するまでの職務放棄間の各欄に記載の各被控訴人の行為は、それぞれ同表の違反事項欄記載の法条に違反し、適用条項欄記載の法条に該当するということができる。」とした上で、「全林野が実施した昭和四四年一一月一三日から昭和四七年五月二五日までの間のストライキに参加した者は、本件ストライキの参加者を含め、その全員が戒告以上の懲戒処分に付されたが、その後昭和五一年一二月一六日までの間に実施したストライキに参加した一般組合員(単純参加者)は、戒告以上の懲戒処分には付されず、訓告、厳重注意等の処分を受けたに過ぎないこと、右のストライキの単純参加者に対する処分の程度の変化は、昭和四八年四月二七日、同年の春闘の収拾にあたり、政府と春闘共闘委員会との間に、労働基本権問題については、第三次公務員制度審議会の答申が出された場合は、これを尊重する、政府は労使関係の正常化に努力する等の趣旨の項目を含む七項目の合意がなされたこと、同年九月三日、公務員制度審議会が政府に対して答申を行つたこと、同年一一月一六日、ILOの結社の自由委員会が、全逓等の官公労組、総評が出していた提訴について、同理事会に対し、スト参加者に報酬上の恒久的不利益や経歴にまで差別のつく制裁は避けるべきである、ストの起るたびに処分すべきであるとは考えない等の趣旨を含む報告を行ったこと等に基づいて政府、組合側双方の間に労使関係正常化について特別の努力が払われていたという事情が考慮されたことに因るものであり、本件懲戒処分が行われた当時には、右のような事情は存しなかったことが認められる。したがって、全林野旭川地本が実施した昭和四八年二月一〇日から昭和五一年一二月一六日までの間のストライキの単純参加者が、戒告以上の懲戒処分を受けなかったということから、本件ストライキの単純参加者である被控訴人らに対し戒告以上の懲戒処分をなしたことが、懲戒権の濫用であるということはできない。そして、他に、被控訴人らに対してなされた本件各懲戒処分が、社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者に委ねられた裁量権の範囲を超えこれを濫用したものというべき事実を認めるに足りる証拠はない‥‥」とし、懲戒処分は違法ではないとした。
(3)上告審
棄却
「公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和四四年(あ)第二五七一号同五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁)、また、右規定を国有林野事業に従事する一般職に属する国家公務員に適用する場合に限ってこれを別異に解すべき理由がないこと、及び国家公務員法八二条の規定の適用に当たり、右の国家公務員の行う争議行為に公労法一七条一項の規定により禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設けなくても憲法二八条に違反するものでないことも、右の判例に照らして明らかである。これと同旨の見解のもとに本件争議行為が公労法一七条一項に違反するとした原審の判断は、正当として是認することができる‥‥団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約(昭和二九年条約第二〇号。いわゆるILO九八号条約)四条は労働者の争議権を保障した規定ではないから、同条が労働者の争議権を保障したものであることを前提とする所論憲法九八条二項違反の主張は、その前提を欠く‥‥」
(4)林藤之輔裁判官の補足意見
私は、公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでなく、また、公労法一七条一項の規定を国有林野事業に従事する一般職に属する国家公務員に適用する場合に限ってこれを別異に解すべき理由はないとする法廷意見に賛成するものである。ただ、上告代理人は、上告人らは、そのほとんどが国有林野事業の現場作業に従事する作業員で、本件争議行為においては短時間に限って単に労務を提供しなかっただけであり、国有林野事業の業務の性質及び右争議行為の態様に照らせば、本件争議行為が国民生活に重大な障害をもたらすものでないことは明らかであり、したがって、これに対して公労法一七条一項の規定を適用することは許されない旨主張する(上告理由第一点の第四)ので、この点について私の考えているところを一言付け加えておきたい。?
憲法で保障された労働基本権の制限は、労働基本権の尊重と国民生活全体の利益の擁護とが調和するように決定されるべきものである(‥‥四一年一〇月二六日大法廷判決・刑集二〇巻八号九〇一頁参照)。現業の職員の従事する業務も、多かれ少なかれ、また、直接と間接との相違はあっても、等しく国民生活全体の利益と密接な関連を有するものであり、右職員の罷業、怠業等が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは否定できないから、国民生活全体の利益を擁護するため右職員の争議行為を一律全面的に禁止しても、やむを得ない措置として合理性を有するというべきである。公労法一七条一項の規定が現業の職員の争議行為を一律全面的に禁止したことをもって憲法二八条に違反するものということができないとする結論は、右の観点から肯定できるものである。そして、公労法一七条一項に違反する行為をした職員は、その行為が勤務関係上の規律に違反する場合には、懲戒等の制裁の対象とされることを免れないが、右争議行為の禁止の規定は、国民生活全体の利益を擁護するためのやむを得ない措置として設けられたものであるから、右規定に反する争議行為の違法性は、当該行為が国民生活全体の利益に及ぼす影響の程度に応じて強弱の差があるものというべきであり、したがって、争議行為を行った職員に対し懲戒処分を行うとしていかなる処分を選択するかを判断するに当たっては、当該争議行為が国民生活全体の利益に及ぼす影響の程度を重要な要素として考慮すべきであるといわなければならない。ところで、争議行為が国民生活全体に及ぼす影響の程度については、事案に即して具体的に判断しなければならないことはいうまでもないが、一般的には、その影響の程度は、各現業の業態、参加職員の職務内容、争議行為の態様及び規模等により異なるものであるということができる。本件についてこれをみるに、原審の確定したところによれば、本件争議行為は、全林野労働組合の指令に基づき全国の拠点となった分会で行われたものであるが、上告人らを含む争議参加者のうちの多くは、常用作業員又は定期作業員として雇用され、生産手A、B、造林手、機械造林手などとして国有林野事業の現場作業に従事するものであり、その態様は単なる労務の不提供であり、時間も短時間に限られていたというのであり、国有林野事業の業務の性質及び右争議行為の態様等からみれば、右争議行為による作業の遅れ等は、その後における作業計画の中で吸収することが可能であり、それによる国民生活全体への影響の程度はそれほど大きなものではないと考えられるから、右争議行為の違法性は比較的軽微であるといわなければならない。しかも、右常用作業員及び定期作業員は、一般職に属する国家公務員ではあるものの、身分の不安定な非常勤の職員であり、その処遇も定員内職員には及ばないものである。それ故、上告人らのうちの単純参加者に対してされた一か月又は三か月減給一〇分の一(ちなみに私企業における減給の制裁は、労働基準法九一条により一回の額が平均賃金の一日分の半額に制限されているから、本件の一か月減給一〇分の一は、標準作業日数を月二五日とみた場合私企業における右最高限度額の五倍に相当する。)という懲戒処分の内容については、行為の違法性の程度及び上告人らの身分に徴して疑問がないわけではないのである。?
以上のとおり、私は、本件懲戒処分は、これを懲戒の裁量権の行使が妥当であったかどうかという点からみると、問題にする余地があると考えるが、公労法一七条一項の規定は、現業の職員の争議行為を一律全面的に禁止したものであると解すべきであり、上告人らが同法二条二項二号に該当する職員であることは否定することができないところであるから、前記のような事情が存するからといって、上告人らの行った本件争議行為に同法一七条一項の規定を適用することが許されないということはできないのである。」
この補足意見は名古屋中郵判決によって否定された東京中郵判決の内在的制約論を引用している点で疑問をもつ。
11.北九州市交通局事件最一小判昭63・12・8民集42-10-738判時1314、中労委ウェブサイトデータベース
本件は懲戒処分を不当労働行為として取消した地労委の救済命令を使用者側が不服とし救済命令取消訴訟であるが、一審救済命令支持、二審救済命令取消し、上告審棄却。
最高裁が初めて地公労法11条1項を合憲と判示したうえ、北九州市交通局労組合意のもとに三六協定の締結更新を前提とした超過勤務が平常勤務として組み入れられていたところ、超過勤務自体に関する格別の要求を有していた事情は認められないのに、財政再建計画阻止という要求を貫徹するための手段として、三六協定の締結、更新を拒否し、組合員に時間外勤務を拒否させて、超勤拒否闘争を実施したが、これは地公労法11条1項の禁止する争議行為に当たるとした。
(1) 争議行為の概略
本件は大略して次のような事件である。
北九州市の交通事業は独占地域である若松区を除いて、西鉄バスと競合関係にあり、旧五市時代から承継した事業も含め赤字が累積し昭和40年に1億6000万円に達したため、運賃改訂、給与改定、人員削減、高齢者退職完全実施、ワンマンカーへの移行等による財政再建計画案を作成し、北九州市交通局労組と協議を重ねだが意見の一致をみず、自治省の指示に従った最終案を昭和42年6月15日市議会に上程し(7月3日本会議可決)、6月21日~23日、6月27日から7月1日まで及び7月3日三六協定締結、更新拒否による超過勤務拒否闘争、ディーラー整備員入構拒否、完全点検闘争、休暇闘争が行われた。一審判決では超勤拒否、安全点検、あるいは年休要求と、いろいろ名目は違っても自らの事業所における業務阻害を目的とした争議行為ないしはそれに付随した争議手段であったとしている。
闘争によるバスの欠行率は、6/21 8.04%、6/22 8.55%、6/23 4.19% 、6/27 8.48%、6/28 8.60%、6/29 3.90%、6/30 6.62%、7/1 6.40%、7/2 1.47%、7.3 36.79%であった。
北九州市交通局長は、以上の参加人及び訴外X1ほか一二名の行為 が、同市交通事業の業務の正常な運営を阻害する行為であって、地公労法という第一一条一項に違反し、北九州市交通局就業規程第九〇条一一号、地方公務員法第二九条第一項第一、第三号に該当するので、前記の如き争議の計画、指導及び実行を行った執行委員長もしくはその他の役員である前記訴外X1ほか一二名に対し、昭和四二年八月二日付をもって懲戒処分を行った。
停職6か月3人(X1、X2、X3バス運転手、うち1人執行委員長、)。停職3か月4人(X4、X5、X6、X7、X8バス運転手3人と事務1人、うち書記長1人、副執行委員長1人)、停職1か月4人(X9、X10、X11、X12バス運転手2、車掌1、整備士1、うち中央委員1人)。
*註 北九州市交通局就業規程
第90条 職員が次の各号の一に該当するときは、免職の処分をする。
(11)同盟罷業、怠業、その他局の正常な運営を阻害する行為をしたとき、もしくはこのような行為を共謀し、そそのかしまたはあおったとき。
争議行為の詳細は次のとおり(一審判決で引用される使用者側の説明)
参加人は、昭和四二年六月一一日頃から本庁舎及び整備工場にある整備課事務所に合理化反対等のビラを多数貼付し、更に同月一五日、戦術委員会で同月二一日ないし二三日の超過勤務拒否闘争、同月二七日ないし同年七月一日の超過勤務拒否闘争及び完全点検闘争、同月三日のストライキを決定し、当局の警告を無視してこれを実施した。その具体的事実関係は、以下述べるとおりである。
昭和四二年六月二一日から同月二三日までの間の状況
参加人は六月二一日から同月二三日までの三日間、第一波実力行使超過勤務拒否闘争と称し労働基準法第三六条の規定にもとづく協定(以下「三六協定」 という。)の締結を拒否し、北九州市立養護学校スクールバスおよび福岡行き 定期便を除く全ての部門で超過勤務を拒否し争議行為を行った。
? 北九州市交通局においては運行ダイヤの編成にあたっては事業管理者への諮問機関として労使双方の委員によって構成されるダイヤ審議委員会の審議を経て定められていたが、本件紛争当時の公示ダイヤは参加人側の同意のもとに一日約九勤務の超過勤務ダイヤを組み入れており、超過勤務拒否が行われれば正常なダイヤ運行に支障をきたすことは労働組合も充分承知のうえでこれを争議行動の手段として行ったものである。
六月二一日前述のとおり参加人が超過勤務を拒否したので整備関係の勤務時間外の整備作業が困難となり、当局としては何とかして業務の正常な運営を維持しようとして、いすず自動車、ニッサン自動車、ふそう自動車の各ディーラーに整備業務を依頼した。またこのことを参加人に申し入れたところX6書記長は「ディーラー整備員の入構は認めない。あえて入構を強行するなら実力を もって阻止せざるをえない。」と答え各営業所においてディーラーの派遣した整備員の入構について次のとおり妨害した。
イ 二島営業所関係?
? 同日午後三時三〇分頃当局の要請に応じてふそう自動車のディーラー整備員二名が来たが、構門付近にてX3、X9両執行委員外組合員六~七名が整 備員の車の前面にピケを張り横に長椅子を二脚並べ整備員の入構を阻止した。
これに対しY2整備課長が両執行委員らに整備員の入構を妨害しないよう再 三にわたり申入れたが聞き入れず結局整備員を入構させることができなかった。?
また同日午後四時頃日産自動車のディーラー整備員が来たが構内付近でX7、X9両執行委員が直接整備員に「入構されては困る」などと云って入構を阻止した。
ロ 折尾営業所関係
同日午後四時頃当局の要請に応じて、いすず自動車北九州支店のディーラー整備員三名が整備作業を行うべくやってきたが、X10 執行委員は「組合が 承認していないのにディーラー達を中に入れて作業させることはけしからん」「ディーラーの者をスト破りに入れることは不都合だ。絶対阻止する」などと抗議し、整備員が乗ってきた車が動くことができないように組合員と共に取巻き入構を阻止した。
ハ 小石営業所関係?
同日午後四時三〇分頃、二島営業所で入構できなかったふそう自動車のカーディーラー整備員をつれて小石営業所に来たY3管理係長に対しX2執行委員外組合員一五~一六名が取巻き激しく抗議し、入構を阻止した。
六月二二日折尾営業所において二番勤務の運転手が出勤せず超過勤務拒否により代行者を充てることができなかったことからY4営業所長が欠行ダイヤを代替乗務し一回目のダイヤを運行した後、二回目のダイヤを運行するため乗務しようとしたところX10、X11 両執行委員が「管理職による運行は認めないことを組合の機関で決定している」と抗議し、Y5職員課長が再三にわたり運行 を阻止しないよう申し入れたがききいれず、やむなくY5職員課長はY4営業 所長に乗務を命じ運行しようとしたが、組合員一〇数名がバスの前面にピケットを張り運行を阻止した。
このためY5職員課長は運行を強行すれば怪我人が出る虞れがあるので運行を断念した。この結果二番勤務のその後のダイヤは欠行した。
なお参加人は許可なく局庁舎にポスター、プラカード類を掲示することは庁舎管理規程により禁止されていることを知りながら六月一一日頃から本庁舎の屋内外の窓、屋内の壁、廊下等および整備工場にある整備事務所の屋内外の窓や壁などに合理化反対に関するものあるいは職制を個人的に中傷もしくは攻撃するものなど多数のビラを貼付し当局の再三にわたる撤去要請、撤去命令 にもかかわらずこれを無視し続けた。
このような事態に際して当局は撤去命令が実行されないので、ビラを貼付した参加人の手を措りずに庁舎管理規程第六条の規定によって当局の費用で外部から作業員を雇い入れ、撤去作業を始めたのである。これに対し参加人は激しく抗議し作業を妨害し撤去作業を中止させるに至ったのである。
すなわち六月二二日午後一時頃からY6庶務係長が作業員と共に本庁舎のビ ラの撤去作業を始めたが、多数の組合員がおしかけて「何故?ぐのか」等と云ってY6係長らに激しく抗議し、そのような状態に外部から雇い入れた作業員もおじけづいてしまい撤去作業を中止せざるを得なくなった。
同日折尾駅前案内所に出向いていた撤去作業の責任者のY7庶務課長に対し、X10、X11両執行委員外組合員一〇数名が「何故ビラ撤去を指示したのか、中止させよ」などと云ってビラ撤去作業の中止をせまり激しく抗議した。
同日午後一時頃整備工場の整備事務所においてY2整備課長が作業員に指示をしてビラの撤去作業を始めたが、X6書記長、X9執行委員外組合員四名が来て作業員がビラを?いでいるのを中止させ、Y2整備課長に対し激しく抗議し、Y2整備課長は「組合が庁舎管理規程に違反して無断で貼ったものだから 撤去する。」と云ったがX9らは激昂し大声で抗議を繰り返し、Y2整備課長はやむなく撤去作業を断念した。
? また当局がビラ撤去を中止した後の午後四時頃X9執行委員ら組合員一四~一五名は整備課事務所に来て、Y2整備課長が強く制止したにもかかわらず、同事務所の窓硝子に五〇~六〇枚のビラを貼付した。
昭和四二年六月二七日から七月一日までの間の状況?
参加人は六月二七日から七月一日までの五日間第二波実力行使、超過勤務拒否、車両の完全点検斗争と称する争議行為を行った。
超過勤務拒否斗争は前述のとおりである。完全点検斗争は次のような方法で行われた。 北九州市交通局においては出庫前三〇分間乗務員を始業点検に従事させることと定めており乗務員は局所定の始業点検表に従い車両を点検し、運行管理者に経果を報告し確認または指示を受けることが義務づけられている。
ところが右期間において参加人は完全点検斗争と称して運転手が行う始業点検にことさら執行委員を加え運行にまったく支障のないささいな欠陷をとりあげ完全に修理整備しなければ運行させないとしつように抗議し出庫を遅らせたりあるいは出庫を不能にしたりしたものである。
イ 二島営業所関係
七月一日午前五時三〇分頃からX5副執行委員長、X3、X7両執行委員の三名が順次出庫する車両について各運転手と共に始業点検を行い三~四台の車 両(ツーマン用)についてパイロットランプ(乗降扉のドアの開閉を示す)の点滅不良をみつけ、Y8営業所長に対し修理しなければ出庫させないと云ってきた。Y8営業所長は「パイロットランプの点滅不良は何ら運行には差し支えない」と出庫を命じた。しかし上記三名の組合員はあくまでこれを容れずその 結果バス運行に欠行をもたらした。
ロ 小石営業所関係
六月二七日午前五時すぎY8営業所長が点検斗争に備えて代車にするつもりで二島営業所から貸切用バスを運転して小石営業所に赴き車を構内に入れたところ、X8執行委員は車のキーを預っておく、代車には使わせない旨云って車 両のキーをはずして所持し続け、Y8営業所長がキーの返還を求めたが拒絶した。?
七月一日午前五時二〇分頃から午前八時頃までにかけX2、X8両執行委員が順次出庫する車両について各運転手と共に始業点検を行い四~五台の車両についてバッテリー液が不足しているから液を補給しなければ運行できないとY 9営業所長に対し云って来た。Y9営業所長はバッテリー液は定期的に整備課の方で点検補充しており運行に支障のない旨云いわたしたが、X2、X8両名はバッテリー液の補充をしなければ運行させないなどと云って運行阻止した。
昭和四二年七月三日の状況
参加人は財政再建計画案が市議会で議決される予定の七月三日に第三派の実力 行使、休暇斗争、超過勤務拒否斗争と称して多数の組合員が一斉に休暇をとりダイヤの大幅な欠行を生じる争議行動を行った。
これに対し当局は業務阻害を目的とした休暇申請については承認しない方針を、その申請を拒否したのであるが、参加人はその承認を強要し各営業所等 において次のような紛争を生じさせた。
イ 小石営業所関係
七月二日午前九時半頃から営業所事務室において、X2、X8両執行委員外多数の組合員がY9営業所長およびY10 係長を取り囲み、七月三日の休暇承認を要求して激しく抗議を行った。午後一時頃まで「休暇を認めよ」「認められない」との応酬が続き、午後一時半ごろY7庶務課長が来所し同人とX2、X8ら組合員との間で同じようなやりとりが続いた。Y9営業所長らは「病気の 者は病気休暇として認めるので医師の診断書を提出するよう」指示したが、X2、X8らは「診断書料がいる」「日曜日で診断書がとりにくい」などと云ってY9営業所長らの指示を受け容れず、休暇申請をそのまま認めるよう要求した。
午後三時に至りY9営業所長らは組合側の激しい抗議に抗しきれずやむなく 休暇を承認した。
七月二日午後二時すぎ、小石営業所においてY9営業所長は七月三日の同営業所のワンマン五番勤務の乗務員が欠員となることを知り、七月三日が休日の予定となっていた北九州市交通局新労働組合所属のZ1運転手に休日振替による出勤を命じた。
七月三日午前四時四〇分頃X2、X8両執行委員ら組合員多数がY9営業所長に対し「労働組合が超過勤務拒否斗争として三六協定の締結を拒否しているときであり、Z1運転手の振替勤務を取り消すよう」要求して激しく抗議した。Y9営業所長らは「Z1運転手の振替勤務は休日の振替えによるもので休日出勤でない。三六協定の有無にはかかわりない」旨反論したが組合側の激しい抗議に抗しきれずやむなくZ1運転手の振替勤務を取消した。
ロ 二島営業所関係
七月二日午前一〇時頃X3執行委員外組合員二〇名が本庁舎二階事務室においてY5職員課長、Y11 自動車課長およびY8営業所長に対し、七月三日の休暇を承認せよと激しくせまり、Y5職員課長が「七月三日は労働組合が休暇斗争を予定しており、業務に支障をきたすので、当日の休暇は承認できない」と 承認を拒否したのに対し激しく抗議を繰り返し、休暇承認を強要し、Y5職員課長らはつるしあげの中で抗しきれずやむなく当日の休暇を承認した。
? 七月三日午前五時頃点呼場において、X3執行委員外数名の組合員が当日の年次有給休暇の承認を激しく要求し、Y8営業所長が「当日は労働組合の休暇斗争が予定されており、また超過勤務拒否が行われているので、交替勤務者がいないので期日を変更するよう」と繰り返し述べ当日の休暇承認を拒否した。
? これに対しX3ら組合員は「病気の者はどうするか」と詰問し、Y11自動車課長が「病気の者は乗務させるわけにいかない」と答えると、すかさずX3は休暇申請の理由を病気のためと書き替えるよう組合員に指示し病気を理由にした 申請書を一括してY8営業所長に提出した。Y8営業所長は病気の者は医師の 診断書を添えて病気休暇の申請をするように云ったが、組合員らは「早朝で医師は起床していない」「初診料等がいる」等といって激しく抗議を続けこのため午前七時頃Y8営業所長らは長時間の組合側の激しい抗議に抗しきれずやむなく当日の休暇を承認した。
ハ 折尾営業所関係? ?
七月三日午前四時二〇分頃からX1執行委員長、X6書記長、X10、X11 両執行委員外組合員多数がY4営業所長、Y5職員課長に対し、当日の休暇承認を激しく要求し、Y4営業所長が「当日の年次有給休暇は認められない」「病気の者は医師の診断書を付して病気休暇の手続をとるよう」申し渡した。これに対し組合側は「従来から病気理由の年次有給休暇を認めているではないか」「他の営業所では診断書がなくても年次有給休暇を認めているではないか」などと激しく抗議し、午前七時すぎ、Y4営業所長らは長時間の激しい抗議に抗しきれずやむなく休暇を承認した。
ニ 整備課関係
七月三日午前四時三〇分頃から午前八時二〇分頃まで整備課事務所において X3、X9両執行委員、X12中央委員外組合員多数がY2整備課長に対し、当日の休暇不承認について激しく抗議し、その際X12中央委員は激昂し、Y2整備課長の机の上にあった木製の補職名札を手にして机の上を激しくたたき机上のガラスを破損した。
(2)一審福岡地判昭52・11・18判時874号
組合側は、地労委に救済を申立、福岡地労委は昭和47年 4月26日処分の取消しを命令したので、使用者側が不服として救済命令取消訴訟を提起したが一審請求を棄却。
(抜粋)
「地公労法第一一条一項は‥‥およそ一切の争議行為を禁ずるかにみえる文言である。従って若し本条項を争議の全面一律禁止の規定としてのみ解釈運用しなければならないとすれば、本条項による労働基本権の制約は‥‥著しく合理性を欠き、違憲であるか、もしくはその疑いが極めて強いということになる。何故ならば、公務員の特殊性に応じて争議権を制約するにせよ、その態様には多くの方法が考えられるのに(労働関係調整法第三五条の二、第三六条ないし第三八条、電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律第三条、船員法第三〇条等参照)、争議主体、争議態様その他前述の条件を顧慮することなく全面一律に争議を禁止することは、憲法第二八条による労働基本権保障の趣旨に甚だしく背馳するからである。
このように考えると、地公労法第一一条一項は、地方公営企業の業務もしくは職員の職務の公共性の強弱、争議行為の種類、態様、規模等を考慮し、労働基本権の尊重保障によって実現される法益と争議行為を禁止することによって保護される法益を衡量し、なお住民生活全体の利益を害し、住民生活への重大な障害をもたらし、もしくはそのおそれがあるものとして合理的判断により禁止したものと解釈するのが相当である。
(略)
六 不当労働行為の成立について
1 本件争議行為の検討
本件昭和四二年六月二一日から二三日まで、同月二七日から七月一日まで及び同月三日の参加人及びその組合員(‥‥)の行動が、超勤拒否、安全点検、あるいは年休要求と、いろいろ名目は違っても要するに自らの事業所における業務阻害を目的とした争議行為ないしはそれに付随した争議手段であったことは、前記認定の事実にてらして明らかであり、その意味で年休申請も労働者の私的生活上の必要に基くものではなく、その実質はストライキであった。
そこで、右期間に発生した個別の紛争の評価は別として、以上の争議行為が地公労法第一一条一項で禁止された争議行為に該当するかどうかを判断する。
‥‥本件交通事業の規模、市民利用度、独占の度合い(‥‥)、争議の規模、態様(‥‥)、争議の結果(‥‥)、本件争議に参加した参加人所属の組合員らの職種(乗務員、整備員主体)等を検討するに、その期間において延べ九日に及び、争議の性質上ダイヤの運休が不規則に生じたため、乗客の混乱もある程度発生した事実はあるが、本件交通事業の内容は民間企業のそれと異るところはなく、その独占状態等を考慮しても公共性の度合いは特段に強いとはいえず、本件程度の争議を禁止してまで守らなければならなかったほど地方住民の共同利益に対する侵害が重大であり、住民生活への重大な障害があった(‥‥)とは考え難い。
従って、本件争議行為が地公労法第一一条一項によって禁止された争議行為にあたるとは認められず、全体としてみるときは正当な労働組合の活動であったと判断するのが相当である。
2 本件争議期間中に発生した個別の紛争について
‥‥
(イ) 六月二二日折尾営業所におけるY4営業所長の代替乗務阻止(訴外X10、同X11、同X6関与)、
(ロ) 六月二七日小石営業所におけるY8営業所長に対する代車準備阻止(訴外X8関与)、
(ハ) 七月三日小石営業所におけるZ1運転手振替勤務阻止(訴外X2、同X8関与)、
(ニ) 七月三日整備課事務所における訴外X12のガラス破損行為
は正当な組合活動とは認め難く違法評価をうけざるを得ないが、これと不当労働行為との関係は後述する。
その余の争議手段ないし紛争について。
ディーラー整備員の入構就労拒否については違法とするほどのものがなかったことは前記の通りである。
ビラ貼りに関しては、その手段方法に若干穏当を欠くものがあったことは否定できないが、前記の如く全体としての争議そのものが違法とは認められない以上、直ちに争議時の文書活動として正当性を否定することは相当でない。なお、本件認定の程度のビラ貼りで、建物の効用を減損せしめたとも認められない。
点検闘争についてもこれが通常の業務のうちで行われたものであるなら格別、原告が地公労法第一一条一項の争議禁止を文言通りに全面一律禁止と解して組合による一切の争議行為を認めない立場で臨んでいたわけであるから、参加人はこれに対していわゆる順法闘争のかたちで争議を行ったものと推認される(‥‥)。従って、就業命令に対する抗議活動のかたちで業務阻害が行われたことは自然のなりゆきであり、その中に暴行脅迫にわたる行為がない限り(‥‥)特に違法と目すべきものはない。
年休闘争についても点検闘争と同旨の理由により、特に違法と目すべきものはない。
(略)
3 原告は、前記の如く訴外X1ほか一二名に対する懲戒処分を行ったが、その主たる理由は同人らが夫々組合役職にある者として企画・指導して行った本件の争議が全体として地公労法第一一条一項(及びこれをうけた北九州市交通局就業規程第九〇条一一号)に違反ないし該当する点にあったことは疑いがない。
本件争議中には、前記の如く違法評価を免れない若干の個別行為は認められるが、その不当性は、原告が争議そのものの違法を主張して為した争議対策に対する行為として考えれば、おおむね軽微であり、本件懲戒処分を為した真の理由は原告の主張は別として、かかる不当性の軽微な当該個別行為にあるとは認められないからである。
してみると、本件懲戒処分は、右訴外人らが夫々組合の役職にある者として昭和四二年六月二一日から同年七月一日までの間にいわゆる三波にわたる争議を企画、指導関与して実施した点に決定的な動機があったというべきである。そうすると、その争議が全体としてみる限り、地公労法第一一条一項の禁止する争議行為に該当せず、従って参加人組合の正当な行為と評価される以上、本件懲戒処分は、労働者が労働組合の正当な行為をしたことの故をもって為された不利益取扱いであると認めるのが相当である。
七 本件救済命令の正当性
そうだとすると、被告が本件懲戒処分が労働組合法第七条一号の不当労働行為を構成すると判定して発した本件命令は結果において相当であり、これを取消すべき瑕疵は認められない。
(3)二審福岡高判昭55・12・22労民31巻 5号1033頁
原判決を取消し、福岡地労委の救済命令を取り消す。
A 判示事項概略
○地方公営企業労働関係法11条1項は、憲法28条に違反しない
○労働組合が超過勤務の正当性を是認しながら超過勤務に関する労働条件自体ではなく、労使間の他の紛争について自己の要求を貫徹する手段として三六協定の締結ないし更新を拒否することは、同盟罷業に該当する。
○労働組合の参加しているダイヤ編成審議会の審議を経て定められたダイヤ編成において、超勤が恒常化され、それを拒否すれば平常のダイヤ運行に支障を来す状況の下で労働組合が三六協定の締結ないし更新拒否により超勤拒否闘争を行ったことが地方公営企業労働関係法11条1項に禁止する争議行為に当る。
○地方公営企業におけるピケは、争議行為の適法性を前提とし、争議権保障の範囲内で許されるものであって、地公労法により争議行為が禁止されている以上、本件ピケは正当な組合活動ということはできない。
○地方公営企業における安全点検闘争は、単に交通安全配慮の仕業点検ではなく、組合の要求貫徹の手段としてなすものであるから、業務の正常な運営を阻害する行為に該当する。
○ 地方公営企業における年次有給休暇闘争は、組合の指令に基づき組合員全員が一斉に職場を離脱し、業務の正常な運営の阻害を狙った同盟罷業ということができ、争議行為に該当する。
○地方公営企業における超勤拒否闘争、ピケ、安全点検闘争、年次有給休暇闘争は、地公労法及び市就業規則に違反するものであるから、同闘争を企画、指導、実行させた組合幹部に対する停職等の処分は不当労働行為に該当しない。
○地方公営企業労働関係法4条は争議行為以外の職員の組合活動につき労働組合法7条1号本文を適用しているにとどまり、地方公営企業労働関係法11条1項に禁止する争議行為には、労働組合法の該規定を適用する余地はない。
良性の判決といえる。丁寧にも交通局長が懲戒処分の根拠に挙げてない地公法32条違反でもあるということを説明している。
B 判決抜粋
二 本件懲戒処分の発令について
地公労法第一一条一項は、「職員及び組合は、地方公営企業に対して同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。また、職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、又はあおってはならない」旨規定し、同法第一二条は、前条の規定に違反する行為をした者を解雇することができる旨規定する。そしてまた、地方公務員法第三二条は、職員に対し法令等や上司の職務上の命令に従う義務を課しており、同法第二九条一項は、同法に違反した職員につき免職その他の懲戒処分をすることができる旨規定しているところ‥‥参加人が第一波ないし第三波の実力行使としてした超勤拒否闘争、完全点検闘争、一斉休暇闘争につき、訴外Bが参加人の執行委員長としてこれを計画指導し、同F及び同Eが副執行委員長、同Gは書記長、訴外Mを除くその余の訴外人ら八名はいずれも執行委員として、いずれも前記闘争行為の計画に関与した行為、更に、訴外Bの七月三日の折尾営業所における前記認定の行為(休暇闘争の煽動)、同Eの前記認定の同日の若松渡し場案内所における管理職によるバス運行を阻止した行為、同Fの同月一日の二島営業所における完全点検闘争を実行した行為、同Gの七月三日折尾営業所における休暇闘争煽動の各行為、同Cの前記認定の六月二一日小石営業所におけるデイーラー整備員の入構阻止、同月二七日及び七月一日同営業所における完全点検闘争の実行、同月二日同営業所における行為(休暇闘争の煽動)、同月三日同営業所におけるR運転手の振替勤務阻止の各行為、同Dの前記認定の六月二一日二島営業所におけるデイーラー整備員の入構阻止、七月一日同営業所における完全点検闘争の実行、同月二日及び同月三日本庁舎、同営業所及び整理事業所における休暇闘争煽動の各行為、同Iの前記認定の六月二七日小石営業所における代替車のキーを取上げてその運行阻止、七月一日同営業所における完全点検闘争の実行、同月二日同営業所における行為(休暇闘争の煽動)、同月三日同営業所におけるR運転手の振替勤務阻止の各行為、同Hの前記認定の七月一日同営業所における完全点検闘争の実行行為、同Jの前記認定の六月二一日二島営業所におけるディーラー整備員の入構阻止、同月二二日整備事務所におけるビラ撤去作業の妨害及びビラ貼付、七月三日整備事務所における休暇闘争煽動の各行為、同Lの前記認定の六月二二日折尾駅前案内所におけるS庶務課長に対するビラ撤去作業中止要求による同作業の妨害、同日折尾営業所における管理職によるバス運行の阻止、七月三日同営業所における休暇闘争煽動の各行為、同Kの前記認定の六月二一日折尾営業所におけるディーラー整備員の入構阻止、同月二二日同営業所における管理職によるバス運行の阻止、同日折尾駅前案内所におけるS庶務課長に対するビラ撤去作業中止要求による同作業の妨害の各行為、同Mの前記認定の七月二日二島営業所における休暇闘争の煽動、七月三日整備事務所における休暇闘争の煽動及びT整備課長の机のガラスを木製の名札で叩いて割った行為は、いずれも地公労法第一一条一項、北九州市交通局就業規程第九〇条一一号の規定等に違反するものであるとして、地方公務員法第二九条一項一号及び三号に基づき、同四二年八月二日、右訴外人らを本件懲戒処分に付したものであることが認められる。
三 本件各闘争と地公労法第一一条一項該当性等について
1 先ず、参加人は、超勤拒否(三六協定締結ないし更新拒否)は、三六協定のない状態における超勤拒否であるから、違法視される理由はない旨主張する。
そこで、参加人の本件超勤拒否すなわち三六協定の締結ないし更新拒否が地公労法第一一条一項の争議行為になるか否かにつき考える。超過勤務に関する三六協定を締結するか否かは、原則として、労働組合ないし労働者の自由に属するところであるから、労働組合が超過勤務自体の労働条件に関する労使間の意見不一致のため、同協定の締結ないしは更新を拒否したとしても、これをもつて直ちに違法とすることはできないことはいうまでもないところである。しかし、労働組合が、当該事業の運営が超過勤務に依存すること、すなわち、超過勤務の正当性を是認しながら、超過勤務に関する労働条件そのものではなく、労使間の他の紛争についての自己の要求を貫徹する手段として三六協定の締結ないし更新を拒否し、超勤を拒否することは、争議行為(同盟罷業)に該当するものと解するのが相当であるところ、参加人が本件三六協定の締結ないし更新を拒否し、組合員の超勤を拒否させるに至った経緯並びにその態様はさきに認定したとおりであって、同事実からすると、控訴人の交通事業におけるバスの平常の運行ダイヤは、参加人も加わったダイヤ編成審議会の審議を経て定められたものであり、一日九勤務が超勤ダイヤとして編成されていて超勤が恒常化され、超勤の拒否があれば平常のダイヤ運行に支障を来たす状況にあつたところ、参加人の前記三六協定の締結ないし更新拒否による超勤拒否闘争は、超勤の恒常化(正当性)を認めながら、控訴人の財政再建計画に関する参加人の要求を貫徹するための手段としていたものであり、かつ、控訴人の交通業務の正常な運営を阻害するためにしたものであつて、地公労法一一条一項の禁止する争議行為に該当するものといわざるをえない。
よつて、参加人の右主張は理由がない。
2 次に、参加人は、ディーラー整備員の入構阻止及び管理職による自動車の運行阻止は、いずれもスト破りに対するピケッティングであつて、正当な組合活動である旨主張する。
しかし、ピケッティングは、争議行為の実効性を確保するための手段として意義を有するものであつて、当該争議行為の適法性を前提とし、争議権保障の範囲内においてのみ許されるものであるところ、参加人に対しては後記のように地公労法第一一条一項により争議行為が禁止されているのである以上、ピケッティングによる前記阻止行為はいずれも違法であって、正当な組合活動ということはできない。よって、参加人の右主張は理由がない。
3 更に、参加人は、完全点検闘争は、北九州市交通局自動車乗務員服務心得第四一条による仕業点検として義務付けられた通り行つたに過ぎない旨主張する。
しかし、すでに認定したように、本件完全点検闘争は、単に交通安全の配慮から入念に仕業点検したということではなく、実質的には、参加人の要求を貫徹する手段として業務阻害を行おうとするものであつて、いずれも自動車の運行に差支えない整備状況であったのに、上司の出庫命令に従わず、自動車の運行を阻止したことは、いずれも地公労法第一一条一項の業務の正常な運営を阻害する行為に該当するものというべきである。よつて、参加人の右主張も理由がない。
4 また、参加人は、年次休暇闘争は、法律によって与えられた権利を行使したものであつて、争議行為ということはできない旨主張する。
年次休暇の権利は、労働基準法第三九条一、二項の要件を充足することによって、法律上当然に労働者に生ずる権利であって、年次休暇の利用目的は、労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、労働者の自由であり、本来使用者の干渉を許さないものである。しかし、いわゆる一斉休暇闘争は、労働者がその所属事業所において、その業務の正常な運営の阻害を目的として、組合等の指令により全員一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱するものであつて、その実質は年次休暇に名をかりた同盟罷業にほかならない。したがつて、その形式いかんにかかわらず、本来の年次休暇権行使ではないのであるから、これに対する使用者の時季変更権の行使もありえないものである(最高裁判所昭和四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号二一〇頁参照)。ところで、本件における休暇闘争は、さきに認定したように、参加人の指令に基づき、組合員である職員が全員一斉に休暇届を出すことによって職場を離脱し、控訴人の業務の正常な運営の阻害を狙ったものであつて、一種の同盟罷業ということができ、地公労法第一一条一項により禁止された争議行為に該当するものというべきである。よつて、参加人の右主張は理由がない。
5 ところで、参加人は、地公労法第一一条一項の規定は、地方公営企業職員の争議行為を全面的一律に禁止したもので、勤労者の団体行動権を保障した憲法第二八条に違反し無効である旨主張する。
(一)地公労法第一一条一項の規定は、その文理上、地方公営企業の職員及び組合に対し、同盟罷業その他一切の争議行為を禁止しているものということができる。
(二)ところで、地方公営企業に勤務する職員も、憲法第二八条の勤務者として、同条の保障を受けるものというべきである。
しかし、地方公営企業の職員は地方公務員であるから、身分及び職務の性質・内容において非現業の地方公務員と多少異なるところはあっても、等しく公共的職務に従事する職員として、実質的に地方の住民全体に労務を提供する義務を負う点においては、両者の間に基本的な相違はなく、地方公営企業の職員が争議行為に及ぶことは右のような地位の特殊性と職務の公共性と相容れず、また、それによる業務の停廃が地方住民ないし国民全体の共同利益を害し、それら住民等の生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは、非現業の地方公務員、国家公務員ないしは公労法の適用を受ける五現業、三公社等公共企業体の職員の場合と選ぶところはない。
そして、地方公営企業の職員は、非現業の他の地方公務員と同様、財政民主主義に表われている議会制民主主義の原則により、その給与その他の勤務条件が法律ないし地方議会の定める条例・予算の形で決定さるべき特殊な地位にあり、団体交渉権・労働協約締結権を保障する地公労法も条例・予算その他地方議会からの制約を認めている(地方公営企業法第四条、第二四条二項、第三八条四項、地公労法第八ないし第一〇条)。また、地方公営企業の事業は、利潤の追求を本来の目的としておらず、その労使関係には、私企業におけるような市場の抑制力が働かないため、ここでは争議権は、適正な勤務条件を決定する機能を果すことはできず、かえつて議会における民主的な手続によってなさるべき職員の勤務条件等の決定に対し不当な圧力となり、これをゆがめるおそれがある。したがつて、これら職員の地位の特殊性や職務の公共性からして、地方住民全体ないし国民全体の共同利益のため、法律がその争議権に制約を加えてもやむを得ないものといわなければならない。
そしてまた、地方公営企業の職員についても、憲法によってその労働基本権が保障されている以上、この保障と住民ないし国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれるようすることは、憲法の趣意と解されるから、その労働基本権の一部である争議権を禁止するにあたつては、相応の代償措置が講じられなければならないところ、現行法制をみるに、同職員は、地方公務員として法律上その身分の保障を受け、給与については生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従業者の給与その他の事情を考慮して条例で定めなければならない(地方公労企業法第三八条三、四項)とされている。そして、特に地公労法は、当局と職員との間の紛争につき、労働委員会におけるあっせん、調停、仲裁の制度を設け、その第一六条一項本文において、「労働委員会の仲裁裁定に対しては、当事者は、双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならず、また、地方公共団体の長は、当該仲裁裁定が実施されるように、できるだけ努力しなければならない。」と定め、さらにまた、同項但し書は、当該地方公営企業の予算上又は資金上、不可能な資金の支出を内容とする仲裁裁定については、第一〇条を準用して、それを地方公共団体の議会に付議して、同議会の最終的決定に委ねることにしているのである。これらは、職員ないし組合に労働協約締結権を含む団体交渉権を付与しながら、争議権を否定する場合の代償措置として、よく整備されたものということができ、右職員の生存権擁護のための配慮に欠けるところはないものというべきである。
以上により、地公労法第一一条一項による争議行為の禁止は憲法第二八条に違反するものではないと解する(最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁、同昭和五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁、同昭和五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁参照)。
よつて、参加人の前記主張は理由がない。
四 結論
以上のとおり、地公労法第一一条一項は、地方公営企業の職員及び組合の一切の争議行為を禁止し、また、職員並びに組合の組合員及び役員は右禁止された行為を共謀し、そそのかし、又はあおってはならない旨規定しているのであるから、右職員及び組合役員が右法令の禁止に違反して争議行為を行い、あるいは右争議行為を共謀し、そそのかし、又はあおった場合には、法令遵守義務を定めた地方公務員法第三二条に違反したものとして、同法第二九条一項一号及び三号に該当し、懲戒処分の対象とされることを免れないと解すべきである。そして、この場合に、地公労法第四条が労働組合法第七条一号本文の適用を除外していないことを根拠として、地公労法第一一条一項違反の争議行為のうちにもなお、労働組合法第七条一号本文の「正当な行為」にあたるものと然らざるものがあるとし、右「正当な行為」に当る争議行為については、地方公務員法第二九条一項一号による懲戒処分をすることができないというような解釈は、これを採用することができない。けだし、地公労法第四条によれば、地方公営企業の職員に関する労働関係については、地公労法の定めるところにより、同法に定めのないものについてのみ労働組合法の定めるところによるべきものであるとされているところ、右職員の争議行為については、地公労法第一一条一項において一切の争議行為を禁止する旨定めているので、その争議行為につき更に労働組合法第七条一号本文を適用すべき余地はないからである。地公労法第四条が労働組合法の右規定の適用を除外していないのは、争議行為以外の職員の組合活動については地公労法に定めがないので、これに労働組合法の同規定を適用して、その正当なものに対する不利益な取扱いを禁止するためであって、地公労法違反の争議行為についてまで「正当な行為」なるものを認める意味をもつものではない。また、労働者の争議行為は集団的行動であるが、その集団性の故に参加人個人の行為としての面が失われるものでないから、違法争議行為に参加した個人の責を免れ得ないことはいうまでもないところである(最高裁判所昭和五三年七月一八日第三小法廷判決・民集三二巻五号一〇三〇頁参照)。
これを本件についてみるに、さきに認定したところからすると、参加人がした前記認定の第一波ないし第三波の超勤拒否闘争、完全点検闘争、一斉休暇闘争は、いずれも地公労法第一一条一項の争議行為に該当するものというべく、訴外Bはその執行委員長としてこれを計画指導し、同F及び同Eはその副委員長、同Gはその書記長、訴外Mを除くその余の訴外人八名はいずれもその執行委員として、戦術会議において前記争議行為を計画し、組合員をして同争議行為を行わせたものであること、更にまた、訴外Bが七月三日折尾営業所で、多数の組合員と共に、U営業所長らに対し組合員の休暇承認を激しく要求したこと(休暇闘争のあおり行為といえる。)、同Eが同日、若松渡し場で管理職によるバスの運行を阻止したこと、同Fが同月一日、二島営業所で点検闘争を実行し、V営業所長の出庫命令を拒否してバスを欠行させたこと、同Gが、六月二二日、整備事務所で当局のビラ撤去作業を妨害し、七月三日、折尾営業所で前記Bらと共にBと同様の休暇闘争のあおり行為をしたこと、同Cが、六月二一日、小石営業所でディーラー整備員の入構を阻止し、七月一日、同営業所で完全点検闘争を実行し、P営業所長の命令を拒否してバスの運行を阻止し、同月二日、同営業所で多数の組合員と共にP営業所長らを取囲み、長時間にわたり、組合員の休暇承認を激しく要求し(休暇闘争のあおり行為といえる。)、同月三日、同営業所でR運転手の振替勤務を阻止したこと、同Dが、六月二一日、二島営業所でピケを張り、ディーラー整備員の入構を阻止し、七月一日、同営業所で完全点検闘争を実行し、V営業所長の出庫命令を拒否してバスを欠行させ、同月二日及び三日、本庁舎・同営業所及び整備事務所でO職員課長、V営業所長、T整備課長らに対し、多数の組合員と共に組合員の七月三日の休暇承認を激しく要求(休暇闘争のあおり行為といえる。)したこと、同Iが、六月二七日、小石営業所でV営業所長が点検闘争に備え、代車にするつもりで二島営業所から運転してきた貸切用バスのキーを取上げ、七月一日、同営業所で完全点検闘争を実行し、P営業所長の命令を拒否してバスの運行を阻止し、同月二日、同営業所で前記Cらと共に同人と同様の休暇闘争のあおり行為をし、同月三日同営業所でR運転手の振替勤務を阻止したこと、同Hが、六月二一日、二島営業所でデイーラー整備員の入構を阻止し、七月一日同営業所で完全点検闘争を実行し、V営業所長の出庫命令を拒否してバスを欠行させたこと、同Jが、六月二一日、二島営業所でピケを張り、デイーラー整備員の入構を阻止し、同月二二日整備事務所で当局のビラ撤去作業を妨害し、更に、同日、当局の制止をきかず同事務所の窓ガラスにビラ五、六〇枚を貼付し、七月三日、同事務所で前記Dらと共にD同様休暇闘争のあおり行為をしたこと、同Lが、六月二二日、折尾駅前案内所で多数の組合員と共に、S庶務課長に対しビラ撤去作業の中止を激しく要求してビラ撤去作業を妨害し、同日、折尾営業所でピケを張り、U営業所長の欠行ダイヤの代替運行を阻止し、七月三日、同営業所で前記B、Gらと共に同人らと同様休暇闘争のあおり行為をしたこと、同Kが、六月二一日、同営業所でディーラー整備員の入構を阻止し、同月二二日、同営業所でピケを張り、U営業所長の欠行ダイヤの代替運行を阻止し、同日、折尾駅前案内所で多数の組合員と共にS庶務課長に対しビラ撤去作業の中止を激しく要求して、ビラ撤去作業を妨害したこと、同Mが、七月三日、整備事務所で前記D、Jらと共に、同人ら同様休暇闘争のあおり行為をし、その際、T整備課長の机のガラスを木製の名札で叩いて割ったこと等、以上の訴外人らの各行為は、地公労法第一一条一項及び北九州市就業規則第九〇条一一号に違反し、また、地方公務員法第三二条にも違反するものであつて、同法第二九条一項一号及び三号の懲戒事由に該当するものといわなければならない。
よつて、控訴人が右条項を適用して、右訴外人らを懲戒に付した本件懲戒処分は相当であって、訴外人に対する本件各懲戒処分が労働組合法第七条一号本文の不当労働行為に該当するいわれはないものといわなければならない。
(4)上告審
棄却
「‥‥地公労法は、現業地方公務員たる地方公営企業職員の労働関係について定めたものであるが、同法一一条一項は、「職員及び組合は、地方公営企業に対して同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。また、職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、又はあおってはならない。」と規定し、これを受けて同法一二条は、地方公共団体は右規定に違反する行為をした職員を解雇することができる旨規定し、また、同法四条は、争議行為による損害賠償責任の免責について定めた労働組合法八条の規定の適用を除外している。しかし、地公労法一一条一項に違反して争議行為をした者に対する特別の罰則は設けられていない。同法におけるこのような争議行為禁止に関する規定の内容は、現業国家公務員たる国の経営する企業に勤務する職員(以下「国営企業職員」という。)及び公共企業体職員の労働関係について定めた公共企業体等労働関係法(昭和六一年法律第九三号による改正前のもの。以下「公労法」という。)におけるそれと同一である。
ところで、国営企業職員及び公共企業体職員につき争議行為を禁止した公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところであるが(昭和四四年(あ)第二五七一号同五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁、名古屋中郵事件判決)、この名古屋中郵事件判決が右合憲の根拠として、国営企業職員の場合について挙げている事由は、(1) 公務員である右職員の勤務条件は、国民全体の意思を代表する国会において、政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮を経たうえで、法律、予算の形で決定すべきものとされていて、労使間の自由な団体交渉に基づく合意によって決定すべきものとはされていないこと、(2) 国営企業の事業は、利潤の追求を本来の目的とするものではなくて国の公共的な政策を遂行するものであり、かつ、その労使関係には市場の抑制力が欠如しているため、争議権は適正な勤務条件を決定する機能を十分に果たすことができないこと、(3) 国営企業職員は実質的に国民全体に対してその労務提供の義務を負うものであり、その争議行為による業務の停廃は国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがあること、(4) 争議行為を禁止したことの代償措置として、法律による身分保障、公共企業体等労働委員会による仲裁の制度など相応の措置が設けられていること、の四点に要約することができる。
そこで、名古屋中郵事件判決が右合憲の根拠として挙げた各事由が地方公営企業職員の場合にも妥当するか否かを検討する。
地方公営企業職員も一般職の地方公務員に属する者であるが、一般職の地方公務員の勤務条件は、国家公務員の場合と同様、政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により、国民全体の意思を代表する国会が定める法律及び住民の意思を代表する地方議会が定める条例、予算の形で決定されるべきものとされているのであつて、そこには、私企業におけるような団体交渉による決定という方式は当然には妥当しないというべきである(最高裁‥‥五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁(岩手県教組事件判決)参照)。そして、このような一般職の地方公務員の勤務条件決定の法理について、地方公営企業職員の場合にのみ別異に解すべき理由はない。現行法規上、地方公営企業職員の勤務条件の決定に関しては、当局と職員との団体交渉を経てその具体的内容の一部が定められることが予定されており(地公労法七条)、しかも、条例あるいは規則その他の規程に抵触する内容の労働協約等の協定にもある程度の法的な効力ないし意義をもたせている(同法八条、九条)などの点において、団体交渉が機能する余地を比較的広く認めているが、これは、憲法二八条の趣旨をできるだけ尊重し、また、地方公営企業の経営に企業的経営原理を取り入れようとする立法政策から出たものであつて、もとより法律及び条例、予算による制約を免れるものではなく、右に述べた一般職の地方公務員全般について妥当する勤務条件決定の法理自体を変容させるものではない。
次に、地方公営企業の事業についても、その本来の目的は、利潤の追及ではなく公共の福祉の増進にあり(地方公営企業法(以下「地公企法」という。)三条)、かつ、その労使関係には市場の抑制力が働かないため、争議権が適正な勤務条件を決定する機能を十分に果たすことができないことは、国営企業の事業の場合と同様である。
また、地方公営企業職員が実質的に住民全体に対しその労務提供の義務を負っており、右職員が争議行為に及んだ場合の業務の停廃が住民全体ひいては国民全体の共同利益に少なからぬ影響を及ぼすか、又はそのおそれがあることも、国営企業職員の場合と基本的には同様である。もつとも、地公労法の適用される地方公営企業は、法律上具体的に列挙されているものに限定されず(地公労法三条一項)、その種類、内容、規模等には、種々のものが含まれうるが、その事業は、あくまでもその本来の目的である公共の福祉を増進するものとして、公益的見地から住民ないし国民の生活にとつて必要性の高い業務を遂行するものであるから、その業務が停廃した場合の住民ないし国民の生活への影響には軽視し難いものがあるといわなければならない。
更に、争議行為を禁止したことの代償措置についてみるに、地方公営企業職員は、一般職の地方公務員として、法律によって身分の保障を受け、その給与については、生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定めなければならないとされている(地公企法三八条三項)。そして、職員と当局との間の紛争については、国営企業職員及び公共企業体職員についての公共企業体等労働委員会(現国営企業労働委員会)のような特別の紛争処理機関は設置されていないものの、労働委員会によるあっ旋、調停、仲裁の途を開いたうえ、一般の私企業の場合にはない強制調停(地公労法一四条三号ないし五号)、強制仲裁(同法一五条三号ないし五号)の制度を設けており、仲裁裁定については、当事者に服従義務を、地方公共団体の長に実施努力義務を負わせ(同法一六条一項本文)、予算上資金上不可能な支出を内容とする仲裁裁定及び条例に抵触する内容の仲裁裁定は、その最終的な取扱いにつき議会の意思を問うこととし(同法一六条一項ただし書、一〇条、一六条二項、八条)、規則その他の規程に抵触する内容の仲裁裁定がなされた場合は、規則その他の規程の必要な改廃のための措置をとることとしているのである(同法一六条二項、九条)。これらは、地方公営企業職員につき争議行為を禁止したことの代償措置として不十分なものとはいえない。
以上によれば、名古屋中郵事件判決が公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反しないことの根拠として国営企業職員の場合について挙げた各事由は、地方公営企業職員の場合にも基本的にはすべて妥当するというべきであるから、地公労法一一条一項の規定は、右判決の趣旨に徴して憲法二八条に違反しないことに帰着する。論旨は、ひっきよう、名古屋中郵事件判決の立場とは異なる独自の見解を前提として原判決を論難するものであつて、採用することができない。
論旨は、上告参加人の労働基準法三六条所定の協定(以下「三六協定」という。)締結、更新の拒否による本件超勤拒否闘争が地公労法一一条一項の禁止する争議行為に当たるとした原判決は、法令の解釈適用を誤り、かつ、判例違反を犯すものである、というのである。
原審の適法に確定した事実関係は、(1)上告参加人は、被上告人の提示する本件財政再建計画の実施を阻止するため、昭和四二年六月一〇日ころ、組合員の投票によってストライキを行うことを決定し、これを受けて、上告参加人の戦術委員会は、同月二一日から二三日まで超勤拒否闘争を、同月二七日から同年七月一日まで超勤拒否闘争及び安全点検闘争を、同年七月三日に超勤拒否闘争及び一斉休暇闘争を行うことを決定した、(2)被上告人経営のバスの運行ダイヤは、労使の委員によって構成されるダイヤ編成審議会の議を経て定められていたが、当時の公示ダイヤは、上告参加人の同意のもとに一日九勤務が時間外勤務ダイヤとして編成されており、被上告人の交通局においては、このダイヤを実施するために超過勤務が恒常化していて、超過勤務拒否があれば、平常のダイヤ運行に支障を来す状況にあつた、(3) 右運行ダイヤを実施するため、被上告人と上告参加人との間において従来から三六協定が締結、更新されてきたが、上告参加人は、本件財政再建計画についての労使の交渉が難航することが予想されるようになった同年四月ころから、同協定を一日ないし数日の期間を定めて締結、更新しつつ事態の推移をみていたところ、同年六月一五日本件財政再建計画案が市議会に上程されるや、前記戦術委員会の決定どおり超勤拒否闘争を行うこととし、バスの正常な運行のための同協定の締結、更新方の当局の要望を拒否して、右決定に係る期間各部門において組合員に時間外勤務を拒否させた、というのである。
これによれば、被上告人の交通局においては、従来から上告参加人同意のもとに三六協定の締結、更新を前提とした超過勤務が平常勤務として組み入れられてきたところ、上告参加人は、当該超過勤務自体に関する勤務条件については格別の要求を有していた事情は認められないのに、本件財政再建計画の実施阻止という要求を貫徹するための手段として、三六協定の締結、更新を拒否し、組合員に時間外勤務を拒否させて本件超勤拒否闘争を実施したということになるから、右超勤拒否闘争は、地公労法一一条一項の禁止する争議行為に当たるものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。また、所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。‥‥」
(5)岩淵正紀調査官解説の要所
○争議行為禁止の合憲性
岩教組学力テスト事件大法廷判決の判示を踏襲
「地方公営企業職員も一般職の地方公務員に属する者であるが、一般職の地方公務員の勤務条件は、国家公務員の場合と同様、政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により、国民全体の意思を代表する国会が定める法律及び住民の意思を代表する地方議会が定める条例、予算の形で決定されるべきものとされているのであつて、そこには、私企業におけるような団体交渉による決定という方式は当然には妥当しないというべきである」がポイントであるが、これは全農林警職法判決に倣った説示であり、国と地方の違いを考慮していないとの異論はないわけでもない。しかも、地方公営企業職員は、労働組合を結成することが認められ(地公法労法五条)、団体交渉権が与えられていて、具体的な勤務条件の一部は団体交渉により決定することが予定されている(同法七条)、また地方公営企業には労働基準法が全面的に適用される地公法(三九条一項)、したがって時間外労働又は休日労働させる場合には過半数の労働者が組織する労働組合がある場合はその労働組合と三六協定を締結しなければならない。
しかしながら、地方公営企業は独立採算制(地公企法17条、17条の2第2項)をとっているが、独立した法人格を有さず、法的な経営主体は地方公共団体である。憲法15条にいう「公務員」は国家公務員と地方公務員の両方が含まれることは明らかであり、実質的に、その使用者はで国民であって、労務提供義務を国民に対して負うという意味において憲法上同一の地位を負う。地方公共団体の財政等に重大なかかわりをもつ地方公務員の勤務条件を基本的に法律および条令、予算で定められるべきことは。憲法の予定しているところである。したがって勤務条件の決定につき私企業におけるような団体交渉による決定という方式は当然に妥当しないという点においては、国家公務員と地方公務員に本質な違いはないとみることができるのであり、調査官は妥当な判断としている。
(6)三六協定締結、更新の拒否と争議行為の成否
A.三六協定締結拒否闘争の悪質性
(A)三六協定の反市民法的特質
労働基準法の三六協定のような強行法規は世界的に類例のないものである。民法の契約の相対効という基本原則に反する点で。契約自由の原則に反するもの、このような制度があること自体、労働基準法が反市民法的、社会主義的法制といわなければならない。(なお、合衆国の公正労働基準法(FLSA)は1938年6月ニューディールの最後の立法であり、立法趣旨はあくまでも失業対策である。40時間以上に割増賃金を課しているが、三六協定のような労働協約を強要する制度はない。割増賃金を払わないことだけを違法とするものである。全国労使関係法は、NLRBが監督する組合代表選挙により過半数の支持を得た組合に排他的な団対交渉権を保障しているが、労働協約の締結を強要しない。もしそれをすると憲法違反の疑いがあるからである。先進的なオーストラリアやニュージーランドの新自由主義な労働立法では時間外労働の賃率は個別交渉で契約自由とし、労働組合の関与を否定するものである)
この制度は、労働組合による団体交渉を促進する政策的意図のもとに労働協約の締結による集団的取引による労働関係を基本とする1960年代まで一般的なモデルとした時代の遺物であるのに、共産党、その他の勢力に押され、厚労省が今日になって厳格適用を強調する政策を展開していることも私は批判的な考えである。
現実には過半数組合のない企業は多くあるのであって、英米では労働組合ではなく、労働条件は個別交渉による労働契約であるケースが主流になり今日の趨勢からして、あるいは私的自治、契約自由、古典的自由主義、新自由主義的な立場からすれば、労働時間規制とともに悪法の一つだといわなければならない。
*
労働基準法は、原則として一週間について40時間、一日について8時間を超えて労働させてはならないとし、これを法定労働時間というが、法定労働時間をこえる時間外労働は、「災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合」(33条1項)、労基法8条1ないし15号列挙の「その他官公署」の公務員について「公務のために臨時の必要がある場合」。(33条3項)のほか、事業主が、事業場ごとに、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合、労働組合がない場合は従業員の過半数代表者と書面による協定を所轄労働基準監督署長に届け出た場合(36条)に、法定労働時間を超えて適法に労働させる効果を発生させるというものである。
地方公務員は原則論としては三六協定を締結しなければならないとされる(地公法58条3項、地公企法39条1項)が、非現業の地方公務員は労基法33条3項によれ時間外勤務を命じられるため、三六協定が締結されるのは非現業の地方公務員だけである。
実際問題、パートタイムを別として、フルタイムで長期雇用を前提とする従業員は時間外労働が平常時においても、余裕のある企業でも少なくとも繁忙期において期待されている職場がほとんどと考えられ、8時間労働で完結する業種などほとんど考えにくく、繁忙期はむろんのこと時間外労働が不可欠であることはいうまでもない。しかも今日では顧客第一主義が浸透し、顧客に対する肌理の細かい迅速な対応が求められ、従業員に権限委譲が進み、高業績と成果が求められることもあり、定時で帰れるほど仕事は甘くないことからしても、三六協定の締結は当然のことといえる。今日でこそ、行政の指導によりノー残業デーなどが流行っているが、昔は定時出勤、定時退庁を組織的におこなえば、それは遵法闘争ないし怠業の一種として白い眼でみられていたものであることを忘れてはならない。
なお三六協定が締結されている場合、労働者は定めるところに従い、時間外労働義務があるということは、日立武蔵工場事件最一小平3・11・28(三六協定が締結されている状況の残業拒否等を理由とする懲戒解雇を是認)で確定した判例となっている。
(B)業務指揮権を奪い取る職制麻痺闘争としての三六協定締結拒否闘争
三六協定締結という強行法規が反市民法的と私が断言するのは、使用者の業務指揮権を無効にする目的で事実上の争議行為として利用されたことである。国労や全逓などが「遵法闘争」の一つの手段として三六協定の締結、更新を拒否し、超勤拒否闘争と云う戦術は昭和20~30年代から繰り返され大きな混乱をもたらした。
むろん民間企業でも時間外労働拒否闘争はなされるが、三六協定締結拒否をスケジュール闘争に組込むことにより職場での組織強化に巧みに利用したのが官公労であったといえる。
郵政省人事局『新しい管理者』昭和41年5月第六章によると「特に全逓の場合は春、夏、秋、冬、スケジュール闘争を行い、三六協定もこれを戦術に利用し、一年の相当部分の期間を超勤拒否している状態である。これは日本だけに見られる現象であり、全逓がいまだに闘争至上主義から脱脚しきれないでいる」(「新しい管理者(昭和41年5月・郵政省人事局編) 『労働法律旬報』646号 1967)と組合運動のありかたを批判しているのである
スケジュール闘争については、昭和40年のドライヤー報告でも批判されており、それを受けてのことであろうが、一年の相当部分を超勤拒否というのも世界的にみても異常なことだろう。
実は、国鉄の職場が荒れたのも元をたどれば三六協定の現場締結が原因であると国鉄OBの升田嘉夫氏が断言している(升田2011)。
1980年代国鉄における職場規律の乱れが国会でも追及されるようになり、国民・世論の厳しい批判を受けたことは周知のとおりである。
昭和56年10月・11月に開かれた第95回国会の衆議院及び参議院の行財政改革における特別委員会においては、国鉄におけるヤミ慣行、ヤミ協定、ヤミ休暇、ポカ休等の問題がとり上げられ、職場規律の乱れが指摘され。また昭和57年3月頃から一部の新聞、月刊誌等において鉄労の内部告発をもとに、国鉄労使悪慣行の実態「ヤミ手当」「カラ超勤」「ブラ日勤」「突発休」「時間内洗身入浴」「時間内の食事の仕度」「助役の下位職代務」「現場協議における管理職のつるし上げ」等の職場規律の乱れについて厳しい批判が展開されたのである。報道は、国鉄の現場管理者の弱腰・軟弱とそれを制度的に保障する現場協議制を諸悪の根源とみなしていた。
現場協議制は近年ではJR北海道の一連の事故や不祥事でも報道で指摘されていたことであるが、問題の現場協議制は三六協定の現場締結から始まった慣行であった。
三六協定は期間を定めて締結されるが、これを逆手にとって、春闘や合理化闘争のときは三六協定を締結しないというやり方により、長時間勤務や休日出勤の負担を現場管理職(駅長・区長・助役)におしつける闘争手段をとった。組合の意向で下位職務を助役などが代務せざるをえなくする悪しき慣行がつくられたのである。
三六協定の締結単位は労使間の合意があれば管理局単位でも駅・区などの現場単位でも有効だったので、国労は現場の組合組織を強くし「職場団交権」「現場協議制」を確立する手段として、例えば東京地本は昭和41年9月から管理局本局・駅・車掌区等の現場ごとに締結する方式をとったのである。
国労の酒井企画部長が「この三六協定の現場締結は‥‥形式的に押印するにしても、これによって分会長の地位を現場長に認めさせることとなり、‥‥‥明らかに職場団交を確立する突破口を開いたのである」 (国労編『国鉄労働組合の現場交渉権』)と述べているように、国労は三六協定の現場締結による分会の地位上昇を梃子として昭和41年「現場における団体交渉権制度確立」を申入れた。
当局は国鉄の現業機関は輸送業務を専一に行う場であり、現場長には業務の遂行と労務指揮の権限のみを与えており、労働問題処理に適していないとして反対の立場だったが、昭和42年12月19日の公労委仲裁委員会の勧告を受入れ現場協議機関を設けられることなった。
国鉄OBの升田嘉夫氏は現場協議制こそ「国鉄関係の労使を陰湿な内線状態に陥れ、職場規律を根底から掘り崩す要因になった」(升田2011 131頁)と述べている。現場協議制は抵抗闘争、非協力闘争という名の職制麻痺闘争の場を提供し、管理職の負担を増大させ業務遂行の障害となった。元をたどれば三六協定の現場締結により分会長の力が強まったことからはじまったことなのである。
B 岩渕正紀調査官解説について
岩渕調査官はこれについては大きく分けて3つの見解があると説明している。
A説(吾妻昭俊「遵法闘争の法理」『季刊労働法』15号)
争議行為とは使用者の業務の正常な運営を阻害する、右の「業務の運営」とは法令に従った業務の運営に限られるものではなく、現に行われている通常の業務をいうものと解されるから、三六協定を締結するか否かは本来労働者側の自由に属すること事柄ではあっても、超勤自体が通常の業務に含まれている場合には、右協定の締結、更新を拒否することは業務の正常な運営を阻害するものであり争議行為にあたる。
B説(内閣法制局意見昭32・9・9法制局一発22号(前田正道編『法制意見百選』766頁)
もっぱら他の争議行為目的のための争議手段として三六協定の締結、更新を拒否するときは争議行為にあたり、そうではなく、超勤に関する労働条件そのものを改めることを目的として協定の締結、更新を拒否する場合には争議行為に当たらない。
C説(松岡三郎『條解労働基準法上』443頁、西村信雄ほか『労働基準法論』187頁、野村平爾『労働関係調整法(法律学全集)』106頁)
法外超勤は三六協定が締結されてはじめて可能であるから、協定の成立前に右超勤を前提とする正常な業務の運営というものは存在しえない。従前三六協定が結ばれていたからといって、直ちにその終了後、それを更新する義務が労働者側に課せられているとはいえないから、右期限経過後は新たに労使双方の意見の合致により協定の締結されることが法外超勤の前提になる。したがって、労働者側が新協定の締結を拒否したからといって業務の正常な運営を阻害したことにはならない。
岩渕正紀調査官解説は、「本判決は、一般論としては右三説のうちどの立場をとるのか明らかにせず、本件の事案のもとにおいて、参加人組合が三六協定の締結、更新を拒否した超過勤務拒否闘争は争議行為にあたると判断したものであるが、三六協定の締結更新を前提とした残業が恒常化している職場において、労働者が、三六協定の締結、更新を拒否することを、他の要求を貫徹するめの手段として用いたと認められる場合に、争議行為の成立を認めたものであるから、基本的には、B説かそれに近い立場を前提としている‥‥」と述べる。
三六協定の締結、更新を拒否することと争議行為の成否について最高裁としては初の判断である。
最高裁調査官解説はあくまでも調査官個人の見解であるが、判例の解釈としては標準的なものとして受け取られていることからみて、岩渕調査官がB説に近いと論評していることの意味は大きい。
あらためて、昭和32・9・9法制意見の要所は次のとおりであるが非常にまわりくどい文章である。
「‥‥労働関係の当事者間に時間外労働又は休日労働以外の事項につき労働関係の不一致が存在する場合において、使用者の側から協定更新の申入があるのを利用し、当該申入にかかる時間外又は休日の労働ないしその労働ないしその条件が、労働者の福祉にとって受け入れられるかどうかの判断をはなれ、もっぱら、右に述べたような当事者の主張に不一致の存する労働関係に関してその保持する主張を貫徹するのに有利であるかどうかの判断に基づき、ただその目的を達成するがためにのみ、当該組合が協定の更新を拒否することがありうるとすれば、そのような当該協定の更新の拒否することがありうるとすれば、そのような当該協定の更新の拒否は、もともと法がその本旨に適合するものとしてその生起することを予定しているものとはいいがたい。この場合において当該協定の更新の拒否が労働関係調整法第七条にいわゆる『業務の正常な運営を阻害する』ところの行為にあたるかどうかにかかるわけである。むろん労働組合が当該協定の更新を拒否すること自体は、業務の運営を左右することそれ自体ではなく、協定の更新が拒否され、使用者が労働者をして適法に時間外又は休日の労働をさせることができないこととなる結果、はじめて、業務の運営が左右されることになるには違いない。しかし、協定の更新の拒否が必然的に業務の影響を及ぼすことは確かなことであり‥‥‥」
「ところで、『業務の正常な運営』とは、業務の運営であって、経験則に照らし、経常・普通の状態にあると客観的に認められるものをいうと解されるが、特定の事業場において時間該又は休日の行われていることが常態であり、また、そういうことが行われることによってのみ当該事業場における業務の運営が経常・普通の状態にあると客観的に判断しうるような事情の存するときは、労働組合が当該協定の有効期間の満了により、時間外又は休日の労働が行われなくなった場合は、当該事業場における『業務の正常な運営』が阻害されることになるといいうるであろうと考えられる。してみれば、このような事情のもとに労働組合が当該協定の更新を拒否する行為は、争議行為にあたるといいうることになろう。」
本件は控訴審判決が「バスの平常の運行ダイヤは、参加人も加わったダイヤ編成審議会の審議を経て定められたものであり、一日九勤務が超勤ダイヤとして編成されていて超勤が恒常化され、超勤の拒否があれば平常のダイヤ運行に支障を来たす状況にあつたところ、参加人の前記三六協定の締結ないし更新拒否による超勤拒否闘争は、超勤の恒常化(正当性)を認めながら、控訴人の財政再建計画に関する参加人の要求を貫徹するための手段としていたものであり、かつ、控訴人の交通業務の正常な運営を阻害するためにしたものであつて、地公労法一一条一項の禁止する争議行為に該当するものといわざるをえない。」としているように、バスの平常ダイヤの運用が超過勤務を前提としたものであったことと超勤拒否闘争の目的が財政再建計画の阻止の一点に絞られていた事例なので、B説が争議行為と認定する事案の典型のようなものであったから、わかりやすい事例といえる。
問題は、バスの平常ダイヤの運行というほど、毎日の経常業務ではないが、例えば水道局の配水管の付替え、敷設等の工事やその監督業務など、夜間に作業が随時行われる場合など、毎日の経常業務ではなくても、頻繁に時間外労働が行われるケースでの超勤拒否闘争、事務系でも時間外、休日出勤せざるをえない業務が、毎日でなくてもそれなりに平常業務に組込まれている場合の判断、闘争目的の一部に時間労働の縮減等の要求などが含まれるが、主たる闘争目的が別の紛争にある場合について、争議行為とされるかは、この判例では決着がついていないといえる。
しかしながら、本判決から超勤しなければバスの平常ダイヤが運行できなくなるような特殊なケースに限って争議行為と認定した事例と狭く解釈しなければならない理由はない。少なくとも、B説(法制意見)は「業務の正常な運営」とは必ずしも厳格な法律的意味において「適法な業務の運営」と解すべきでなく、労使関係における慣行的事実も考慮において、慣行的に期待される「通常の業務運営」をさすという石井照久『新版労働法』367頁の考え方をとっていることから、B説に近い考え方を示す本判決はよりプロレイバー学説といえるC説を退けており、「三六協定の成立前に右超勤を前提とする正常な業務の運営というものは存在しえない」といったような超勤拒否闘争が全面的に合法であるという説はなりたないことは明白なのである。
C 先例としての都水道局事件高裁判決の評価
岩渕調査官は「上告理由において引用する東京高判昭43・4・26労民集19-2-623は、地方公営企業において三六協定なしに時間外勤務をする慣行が行われており、公務のために臨時の就労があったとしても、その時間外勤務命令を拒否する行為が地公労法一一条一項に当たるものと解することはできないとした事例であるが、この件は当該事業場では三六協定は締結されておらず、また時間該勤務手当等の要求に関する労使間の交渉がまとまっていなかったため、職員が時間該勤務命令に従った事案であって、本件とは事案を異にするもの」としているが、これは都水道局事件東京高判昭43・4・26判タ222で、昭和37年4月の水源渇水による第二次制限給水作業に関する事案である。
もっと正確にいうと、水道局と東水労本部と昭和36年8月に「三六協定」とされるものは締結されており、超勤時間の最高限度と有効期間を定め、さらに具体的な協定は支所、部局単位で締結することになっていたが、北一支所長と北一支部長は三六協定について合意が得られず協定を届け出ていなかったのであり、その都度組合支部と時間外労働の条件を交渉して時間外勤務を行う慣行であった。なお東水労はこのような作業に、昼夜交替勤務制の職員や、臨時の雇い上げに反対していた事情もある。組合員は、昭和37年4月16日から勤務時間外の午後10時と午前5時の二回制水弁を操作する作業の要請を受けこれを行った。北一支部は北一支部長に対し、組合員に14時間15分相当の超勤手当と翌日の完全休養を要求し、支所長は4月20日まで認めたが、4月21日以降の作業は支部要求を認めなかったので、時間外労働を拒否し、その理由として三六協定が締結されていないということを言い出した事案で、局は組合の就労阻止行動が地公労法11条1項に違反するとして、12条によりXら4名(中央委員・青年婦人部長、支部書記長、中央委員・支部長、支部執行委員・組織部長)を解雇したものである。一審東京地判昭40・12・27労民16-6-121は、水道局が主張した「業務の正常な運営」とは日常的慣行的に行われている現実の業務形態であるという主張を否定し、慣行化、状態化を正常な運営視できないとし、労働法規侵犯としたうえで、法の趣旨は事業場毎の協定であるとし、12条解雇を無効とした。控訴審も棄却し解雇を無効としたが、東水労本部との協約は労基法36条が要求している協定の内容ではなく、各支部を拘束しないとして、三六協定は成立していないとしている。(渡辺章1974参照)
都水道局事件控訴審判決は組合側勝訴となっているが、昭和30年代の支所単位では三六協定を締結せずに、その都度組合と交渉するというやり方で屡々超勤拒否が正当化されるというやり方では、ライフラインを預かる公営企業であるのに屡々組合要求で屡々業務が左右されてしまうことを意味し、好ましいあり方とは思えず、市民法感覚でいえば争議行為そのものといえるのに争議行為でないとした同判例につき疑問がある。
北九州市交通局事件は組合が恒常化を認めている事案で、そうでない都水道局事件と事案を異にするので明示的な判例変更をするものではないが、北九州市交通局事件最高裁判決はB説の法制意見に近い立場をとり当時水道局側が主張して石井照久説に近いことからみても、いずれにせよ、三六協定締結拒否を争議行為と判断したことから、類似の事案は、クロといわないでも少なくともグレイゾーンの問題となるのであり、シロと言い切った都水道局事件高裁判決の先例的意義は弱まったとみてよいと思う。
12.北九州市清掃事業局小倉西清掃事務所事件最二小判昭63・12・9民集42-10-880判時1314
前日の北九州交通局事件最一小判昭63・12・8で地方公営企業職員の争議行為を理由とする懲戒処分を適法とし、最高裁として地公労法11条1項が合憲とする判断を初めて下したのであるが、本件は、地公労法附則4項により地方公営企業以外の単純な労務に雇用される一般職の地方公務員に準用される地公労法11条1項を合憲とする初めての判断を下した判決である。
事案は以下の懲戒処分取消訴訟である。
X1市労(北九州市役所労働組合)本部執行委員・青年部長 懲戒免職
X2小倉支部支部長 停職三月
X3同支部執行委員 停職三月
昭和43年10月8日公務員共闘の全国統一行動の一環として、市労は始業時から1時間のストを実施したが、小倉西清掃事務所では作業員114名中100名の市労組合員が午前8時~同57分までの間、職場集会を開催した。その際、X1は、A書記長とともに右集会において挨拶し、X2は司会をつとめ、X3は職務命令書を一括返上したほか、X2、X3はスト不参加者に対する説得行為をなし、また、職務命令書をもって所長ら管理職の入室を阻止し、X1、X2は副所長のマイクによる命令に激しく抗議する等した。
同日、屎尿車が不足したので、小倉東事務所から予備車を借りて作業を行なおうとしたとこうとしたところ、組合はこれに反発し、X1ら三名は管理職らに強く抗議し、暴言を吐く等した。
清掃事業所の作業員の勤務時間は午前8時から午後3時50分までとなっていたが、現実には厳守されない傾向にあったので、小倉西事務所では、表黒、裏赤の木の名札を用いて、管理職立会いのもとで出欠勤状況を把握することとしたが、市労はこれに反対し、A書記長及びX1ら3名の指導のもとで、作業員約100名が職場集会を開催した。また、A書記長とX1ら3名を含む20~30名は事務所においかけ、前記措置に激しく抗議する等し、X1、X3は管理職に暴言を浴びせる等した。(労判534の概要82頁より引用)
一審は本件は違法な争議行為ではないとして懲戒処分を違法としたが、二審は地公労法11条1項を合憲として争議行為は一律全面的に違法とした上、X2・X3の停職三月を適法としたが、X1の懲戒免職は平等取扱の原則に反し裁量権を逸脱し違法とした。上告審は、棄却、原判決を維持した。
(1)一審福岡地判昭51・7・22判時837
地公労法11条1項の趣旨は、地方公共企業体等の業務もしくは職員の職務の公共性の強弱と争議行為の種類、態様、規模とを相関関係的に考慮し、その公共性の度合、争議行為の態様等に照らして住民生活全体の利益を害し、住民生活への重大な障害をもたらす虞れのある争議行為に限りこれを禁止するところ、本件ストライキは同条項の禁止する争議行為には該当せず、懲戒権を乱用したものとして違法であるとして、懲戒処分を取り消した。
(TKC参照)
本件は岩教組学力テスト判決より後の判決であるにもかかわらず、一律禁止ではなく、東京中郵判決のような違法とされない争議行為があるという見解のようであるが、当時の判例変更の流れに抗した判例といえる。
(2)二審福岡高判昭57・4・27判タ473
一審判決の一部取消、一部棄却であるが、一審判決とは異なり、先例に従って地公労法11条1項は争議行為を一律全面的に禁止するものであるとした上で、X1の懲戒免職については平等取扱原則上問題があり裁量権の範囲を逸脱した違法があるとしたが、X2・X3の停職三月は違法はないとして原判決を取り消したものである。
以下の判決理由は組合側の主張を明快に退けた上、地公法の適用法条についての判断など大変参考になる判例といえる。
(要所)
全農林警職法事件判決、岩教組学力テスト事件判決、全逓名古屋中郵事件判決、神戸税関事件判決、全逓東北地本事件判決等の先例が、地公労法11条1項と同旨の規定である国公法98条2項、地公法37条1項及び公労法17条1項は「いずれも憲法二八条に違反するものではなく、右各条項が公務員及び公共企業体職員の争議行為を一律全面的に禁止するものと解すべき」としたのであり、「少なくとも本件の如き争議行為禁止に違反した身分上の責任を問うについては当裁判所もこれに従うのが相当と解するところ、右判例の法理は地公法一一条一項にも妥当し、特に異別に解すべき理由もないと判断される‥‥
‥‥被控訴人らは、控訴人が本来地方公共団体と職員各個人間の個別的勤務関係を前提に、その職員各個人の義務違背に対する制裁として行われるべき懲戒処分につき、集団的組織的労働関係を対象とする地公労法一一条一項の争議行為禁止規定を適用することは誤りであり、また、争議行為は労働組合の統一集団行動であって、個々の組合員の行為 の集積でなく、個人的行為に還元できない異質のものであるから、たとえ違法な争議行為であっても、それに参加したことの故をもって、組合役員や一般組合員が制裁を受ける筋合にはないとも主張する。
しかしながら、一般に労働者の争議行為が使用者の懲戒権を排除できるのは、その争議行為が目的及び態様において正当と認められる場合に限られると解されるところ、地公労法の適用を受ける職員の争議行為が認められないこと前記のとおりであるから、職員が争議行為に伴い事実上使用者の業務上の管理を離れ、組合の管理に服したとしても、労働契約関係の適法な一時的消滅とみることはできず、右争議行為を組成した 個々の職員の行為が労働契約上の義務違背と評価され、それが企業秩序を乱すものと認められるとき、個別的労働関係上の規制を受け、懲戒処分の事由となることは避けがたいところであり、また、労働関係の法的特殊性を考慮しても、個々の職員の行為が争議行為という集団的行動の中に解消し、何らの法的考慮の対象にもならないと解することはできない。被控訴人らのこの点の主張も採用できない。
‥‥被控訴人らの前記各行為の懲戒処分事由該当の有無について考えてみる。
一被控訴人らの一〇月八日における行為の評価
(一)一〇月八日の小倉西清掃事務所における勤務時間内の職場集会は、被控訴人らの所属する市労が自治労の決定した方針に従い、一〇月八日の始業時から一時間のストライキを行うことを決定し、右決定に基づいて、実際には始業時午前八時から同八時五七分まで開催されたものであるが、被控訴人らが清掃作業員約一〇〇名と共にこれに参加し、かつ、組合役員として右集会を主宰し指導したこと、引続いて行われた清掃車借用についての抗議行動によって業務の阻害を生じたことは前記のとおりである。
そして、市労が右ストライキの実施を計画して後、控訴人は市労に対し、職員がストライキを行うことは違法であるから中止するよう警告書を発するとともに、職員個々人に対しても、同様の警告書と職務命令書を交付して、当日職務に服するよう命じていたところ、被控訴人らはこれに違背して職務を放棄したものである。
また、被控訴人らは右の違法争議を実施するに際し、同清掃事務所の所長以下管理職が、清掃作業員らに就労を命ずるとともに、その作業配置をすべく作業員詰所に入室しようとしたところ、被控訴人X1は三度、被控訴人X2、同X3はそのうち一度、右入室を実力をもって阻止したものであり、その違法であることはいうまでもなく、更に、被控訴人X1、同X2のマイク放送に対する抗議も、違法な争議行為の中止を呼びかけ、職員に就労を指示する中畑副所長の正当な職務行為に対するものであつて、その発言内容とともに違法たるを免れない。
(二)次に、被控訴人らは--〇月八日の右職場集会に引続き、小倉西清掃事務所が清掃車を他から借用したことに対し、やはり勤務時間内にその職務を放棄して抗議行動を行ったものであるが、その違法である‥‥右の抗議に際して、被控訴人X1が所長の机上のガラスを手拳で激しく叩いた行為は、そのためガラスに新たな破損を生じたとまでは認めえないこと前記のとおりであるが、抗議の際の発言内容の粗暴さと相まって、その違法であることは明白である。
‥被控訴人らの一〇月二六日における行為の評価
(一)一〇月二六日午前の小倉西清掃事務所における当局側による出退勤確認のための名札点検の実施に反対し、これを阻止すべく行われた市労の決定に基づく勤務時間内の職場集会、引続き行われた職務を放棄しての抗議行動といった一連の争議行為に‥‥組合役員として指導的役割を果したことは前記のとおりであるが、その違法であることにっいては、もともと地公労法一一条一項により争議行為そのものが許されていないことのほか、原判決‥‥に説示のとおりである‥‥。
(二)更に被控訴人X1は、同日午後退庁時前に同清掃事務所が早速実施に移そうとした名札の点検を粗暴な言動をもって妨害したものであるが、前記のとおり、出退勤確認のための名札点検の問題については、同清掃事務所は当初一〇月二六日から実施方針ではあったが、当日、所側と市労の代表者との話合の結果、近日中に改めて交渉するとの合意ができ、その際、所側からは同日の点検を中止する旨の明言はなかったが、右交渉に加った被控訴人X2においてこれを点検中止と速断し、被控訴人X1ほか組合員に後日改めて交渉するのでそれまで点検の実施はない旨報告していたことから、被控訴人X1としては所側が合意を無視して一方的に点検を強行するものと憤慨し、右の妨害行動に出たものであることが窺われるが、本来当局の管理運営事項につき、合意の内容を十分に確認することなく直接妨害行動に出たことは、その発言内容、妨害の態様と併せて違法であることに疑問はない。
三 被控訴人らの前記各行為の該当法条
地方公務員法は、同法二七条三項において「職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、懲戒処分を受けることがない。」旨、職員の身分保障をはかるため懲戒処分事由を限定しているが、その処分事由としては同法二九条一項が「職員が左の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。」とし、地公法等の法律又はこれに基づく条例、規則もしくは規程に違反した場合(-号)、職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合(二号)、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合(三号)を列挙しているところ、また同法は職員の服務義務
として、三二条が法令等及び上司の命令に従う義務を、三三条が信用を失墜する行為の避止義務を、三五条が職務に専念する義務をそれぞれ規定している。
(一)そして右によれば、一〇月八日における被控訴人らのいずれも職務放棄を伴う職場集会及び清掃車借用に対する抗議行動への参加が、争議行為を禁止した地公労法一一条一項に該当するとともに、上司の職務命令に従う義務、職務専念義務を定めた地公法三二条、三五条に違反することは明らかであり、また、その際行われた被控訴人らによる管理職の作業配置のための入室阻止、被控訴人X1、同X2よるマイク放送への抗議、更には被控訴人X1が所長の机上のガラスを激しく叩いての抗議は、信用失墜行為の避止義務を定めた地公法三三条に違反するものと解され、いずれも同法二九条一項一、二号の懲戒事由に該当することになる。
(二)次に、一〇月ニ六日における被控訴人らの勤務時間内の職場集会及び引続き職務を放棄して行われた抗議行動への参加が、地公労法一一条一項及び地公法三二条、三五条にそれぞれ違反し、また、被控訴人X1による同日退庁時の名札点検実施に対する妨害行為が地公法三三条に違反するものと解されること前同様であり、したがって、いずれも同法二九条一項一、二号の懲戒事由に該当することになる。
‥‥被控訴人らの懲戒権濫用の主張について検討する。
一 ところで、地公法二九条一項は前記のとおり「職員が左の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。」として、四種の懲戒処分を定めているが、同法は、職員に同法所定の懲戒事由がある場合、懲戒権者が懲戒処分を行うかどうか、これを行うときいかなる処分を選択すべきかを決するにっいて、公正であるべきこと(ニ七条一項)、平等取扱いの原則(一三条)及び不利益取扱いの禁止(五六条)に違反してはならないことを定めている。そして、その他の点については具体的な基準を設けておらず、懲戒権者が懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、影響等のほか、当該職員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合して行う判断に委ねられ、その裁量に任されているものと解さるる。したがって、右の裁量はもとより恣意にわたることをえないものであるが、懲戒権者が右金量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。
二 そこで、被控訴人らに対する控訴人の裁量権行使の当否を考えてみるに、被控訴人らの一〇月八日、一〇月ニ六日両日の各勤務時間内の職場集会とこれに続く各抗議行動は、それ自体、地公労法一一条の争議行為の禁止に違背し、あるいは同法七条にいう管理運営事項についての抗議行動として違法であるにとどまらず、約一時間及び一時間三〇分に及ぶ職務の放棄により、それぞれ前記したような業務の阻害を現に生じており、被控訴人らは組合役員としてこれに参加し、かっ、指導的役割を担当したのであるから、その責任は軽視しえないものがある。しかもその際、被控訴人らは、一〇月八日には管理職の正当な業務である作業配置のための入室を実力をもって阻止し、あるいは粗暴な言動をもって抗議を行っているのである。これらの事実からすれば、右各職場集会、抗議行動に至る事情、経過等にっき被控訴人らの主張するような諸点を考慮したとしても,少くとも被控訴人X2、同X3に対する各停職三月の処分が、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱したものと
までは認めがたい。
‥‥これに対し、被控訴人X1に対する処分は懲戒免職であるところ、懲戒免職が被処分者から職員たるの地位を剥奪し、本人及び家族の生活の基盤を危険にさらすのみならず、地方公務員等共済組合法一一一条一項、同法施行令二七条一項二号により長期給付金のうち一定割合について支給を受けえないものとし、社会的、経済的に極めて重大な不利益をもたらすものであり、停職処分との間に格段の差があることはいうまでもない‥‥‥(略)‥‥
‥‥X1の免職処分についてみるに、前記のとおり地公法二七条は懲戒処分の選択について平等取り扱いの原則違反してはならないことを定めているところ‥‥X1は‥‥いささか情状が重いのであるが、
‥激しい言動についてもその場に居合わせた田の被控訴人らも共同の責任を負うべきものであることを考えると、他の被控訴人が停職三月の処分に止まり、またSが何らの処分を受けていないことと対比すると‥‥平等の原則上問題があるものというべく、さらに‥古典こ争議行為をした職員は単純労務職員でその争議による滞貨も弱いものであること等諸般の事情を総合すると、被控訴人X1に対する本件懲戒免職処分は社会観念城著しく妥当性を欠き裁量権を逸脱したものというべきである。」
(3)上告審
棄却。
X1の懲戒免職は違法、X2・X3の停職三月は適法とする原判決を維持
(130号事件 被上告人X1)
原審の判断は是認することができる。
(131号事件 上告人X2・X3)
‥‥上告理由について
一 論旨は、地方公営企業労働関係法(以下「地公労法」という。)附則四項により地方公営企業職員以外の単純な労務に雇用される一般職の地方公務員(以下「単純労務職員」という。)に準用される同法一一条一項の争議行為禁止規定が憲法二八条に違反しないとした原判決は、同条の解釈適用を誤ったものである、というのである。
二 よって考えるに、地方公営企業職員の労働関係について定めた地公労法(一七条を除く。)は、同法附則四項により単純労務職員の労働関係にも準用されるが、同法一一条一項は、「職員及び組合は、地方公営企業に対して同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。また、職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、又はあおってはならない。」と規定している。そして、同法一二条は、地方公共団体は右規定に違反する行為をした職員を解雇することができる旨を規定し、また、同法四条は、労働組合又はその組合員の損害賠償責任に関する労働組合法八条の規定の適用を除外している。しかし、地公労法一一条一項に違反して争議行為をした者に対する特別の罰則は設けられていない。同法におけるこのような争議行為の禁止に関する規制の内容は、国の経営する企業に勤務する職員(以下「国営企業職員」という。)及び公共企業体職員の労働関係について定めた公共企業体等労働関係法(昭和六一年法律第九三号による改正前のもの。以下「公労法」という。)におけるそれと同じである。
ところで、国営企業職員及び公共企業体職員につき争議行為を禁止した公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところであるが(‥五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁 名古屋中郵事件判決)、この名古屋中郵事件判決が公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反しないとする根拠として、国営企業職員の場合について挙げている事由は、(1) 公務員である右職員の勤務条件は、憲法上、国民全体の意思を代表する国会において、政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮を経たうえで、法律、予算によって決定すべきものとされており、労使間の自由な団体交渉に基づく合意によって決定すべきものとはされていないのであつて、右職員については、労使による勤務条件の共同決定を内容とする団体交渉過程の一環として予定された争議権は、憲法によって当然に保障されているとはいえないこと、(2) 国営企業の事業は、利潤の追求を本来の目的とするものではなく、国の公共的な政策を遂行するものであり、かつ、その労使関係にはいわゆる市場の抑制力が欠如しているため、争議権は適正な勤務条件を決定する機能を十分に果たすことができないこと、(3) 国営企業職員は実質的に国民全体に対してその労務を提供する義務を負っており、その争議行為による業務の停廃は国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがあること、(4)争議行為を禁止したことの代償措置として、法律による身分保障、公共企業体等労働委員会による仲裁の制度など相応の措置が講じられていること、の四点に要約することができる。?
三 そこで、名古屋中郵事件判決が公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反しないとする根拠として挙げた右各事由が単純労務職員の場合にも妥当するか否かを検討する。?
1 地方公務員の勤務条件は、政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により、国会及び地方議会が定める法律及び条例、予算に基づいて決定されるべきものとされている。この場合には、私企業におけるような団体交渉による労働条件の決定という方式が当然には妥当せず、争議権は、団体交渉の裏付けとしての本来の機能を発揮する余地に乏しいのである。右のような勤務条件決定の法理は、既に最高裁昭和四四年(あ)第一二七五号同五一年五月二一日大法廷判決(刑集三〇巻五号一一七八頁 岩手県教組事件判決)において非現業地方公務員につき示されたところであるが、この理は、現業地方公務員たる単純労務職員についても妥当するものといわなければならない。たしかに、地公労法は、単純労務職員に対し団結権を付与している(附則四項、五条。なお、附則四項、地方公営企業法三九条一項、地方公務員法五二条ないし五六条により、単純労務職員については職員団体に関する規定も適用される。)ほか、いわゆる管理運営事項を除き、労働条件に関し、当局側との団体交渉権、労働協約締結権を認めており(附則四項、七条)、しかも、条例あるいは規則その他の規程に抵触する内容の労働協約等の協定にもある程度の法的な効力ないし意義をもたせている(附則四項、八条、九条)。しかし、このような労働協約締結権を含む団体交渉権の付与は、憲法二八条の当然の要請によるものではなく、その趣旨をできる限り尊重しようとする立法政策から出たものであつて、もとより法律及び条例、予算による制約を免れるものではなく、右に述べた地方公務員全般について妥当する勤務条件決定の法理を変容させるものではない。
2 単純労務職員の従事する業務は住民の福祉の増進を目的とするものであり、かつ、その労使関係にはいわゆる市場の抑制力が働かず、争議権が単純労務職員の適正な労働条件を決定する機能を十分に果たすことができないことは自明の理である。?
3 単純労務職員の従事する業務の種類、内容等は、法律上具体的に限定されていないが、右職員は実質的に住民全体に対しその労務を提供する義務を負つており、その業務は当該地域関係住民の福祉を増進し、その諸生活の利益に密接な関係を有するものであつて、それが争議行為により停廃した場合には、行政運営に支障を生ぜしめ、地域関係住民の諸生活の利益ひいては国民全体の共同利益に悪影響を生ぜしめるおそれがあるものといわざるを得ない。?
4 更に、争議行為を禁止したことの代償措置についてみるに、単純労務職員は、一般職の地方公務員として、法律によつて身分の保障を受け、その給与については、生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定めなければならないとされている(地公労法附則四項、地方公営企業法三八条三項)。加えて、地公労法は、単純労務職員が労働委員会に対し労働組合法二七条の規定による申立てをすることができる(附則四項、四条)ほか、一定の場合に同委員会があつ旋、調停、仲裁を行うことができる(附則四項、四条、一四条、一五条、労働組合法二〇条、労働関係調整法一〇条ないし一六条)こととしている。このうち、特に、右の調停、仲裁についてみると、地公労法は、一般の私企業の場合にはない強制調停(附則四項、一四条三号ないし五号)、強制仲裁(附則四項、一五条三号ないし五号)の途を開いており、仲裁裁定に対しては、当事者に服従義務を、地方公共団体の長に実施努力義務をそれぞれ負わせ(附則四項、一六条一項本文)、予算上資金上不可能な支出を内容とする仲裁裁定及び条例に抵触する内容の仲裁裁定は、その最終的な取扱いにつき議会の意思を問うこととし(附則四項、一六条一項ただし書、一〇条、一六条二項、八条)、規則その他の規程に抵触する内容の仲裁裁定がされた場合は、必要な規則その他の規程の改廃のための措置をとることとしている(附則四項、一六条二項、九条)のである。これらは、単純労務職員に対し争議権を否定する場合の代償措置として不十分なものということはできない。?
四 以上によれば、名古屋中郵事件判決が、国営企業職員の場合について、公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反しないことの根拠として挙げた前記各事由は、単純労務職員の場合にも基本的にはすべて妥当するから、地公労法附則四項により単純労務職員に準用される同法一一条一項の規定は、右判決の趣旨に徴して、憲法二八条に違反しないに帰するというべきであり、これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、独自の見解を前提として原判決を論難するものであつて、採用することができない。‥‥」
13.北九州市病院局事件最三小判平元・4・25判時1336、判タ719
本件も懲戒処分取消訴訟で、地公労法11条1項を合憲とした上で、昭和42年給食・清掃・整備等の民間委託化による市立病院職員266人を分限免職とする等の北九州市の財政再建計画に反対して、地公法37条1項、地公法11条1項に違反し、12月14日市の一般行政職員の約1時間の職場放棄と、同月15日二か所の病院職員24時間の同盟罷業を企画、指導、参加をした組合役員(いずれも北九州市の事務吏員)に対する地公法による懲戒処分(免職1名、停職一月~六月4名)を適法としたものである。
これで最高裁の三つの小法廷がすべて、地公労法11条1項を合憲としたので、確定的なものとした。また小倉西清掃事務所事件では裁量権の濫用とされた懲戒免職を本件では適法とした点なども意義を認めることができる。
少し詳しく経過を述べれば事案は大筋で次のとおりである。
北九州市は昭和38年に旧小倉等五市が合併して発足したが、旧五市の赤字を引き継ぎ、石炭・鉄鋼産業の不況に伴う税収入の鈍化、失業者の多発による社会保障費の増大、各種特殊特別会計収支の悪化により、昭和40年頃から財政が顕著に悪化した。
昭和42年谷伍平市長は自治省と協議のうえ組織改革を行い、地公企法全面適用の病院局を設置して具体的財政再建計画を作成し、42年12月8日の議会に提出、15日に可決しているが、労働条件に関するものとして次のような改革があった。1)給食・清掃・整備業務は民間に委託し、266人を減員する、2)高齢職員は退職勧告する、3)給料表は国家公務員に準じたものとする、4)期末勤勉手当は国家公務員を上回らないものとする、5)特殊勤務手当24種を15種廃止する、6)勤務時間拘束週43時間制を週48時間制として、人件費を削減するというものであった。
組合側は11月11日に再建計画案を知り強く反発、4回の団体交渉を重ねたが、12月5日より、市職が1割の休暇期闘争、6日から市労、水道労組など市労連参加の組合、7日より市職労が休暇闘争に入った。一方自治労現地闘争本部は同月5日、闘争委員会を開き、市議会の最終段階で病院24時間スト、全職場1時間ストの決行を決定、6日には第5回の団体交渉が行われたが交渉は空転し、現地闘争本部は、スト実施の方針を決定し、7日ら非常事態宣言を発した。(なお組合は現地組合だけでは対処できない問題として自治労本部への要請し11月21日安養寺自治労本部書記長を本部長とする現地闘争本部が設置されたのであり、市職、病院労組などの市労連参加の組合は同本部の指揮下に入っていた。現地闘争本部では266人の分限免職を阻止することを最優先課題とし、病院局や各商社前での坐り込み、八幡・門司病院では超勤拒否闘争が行われていた。)
12月7日北九州市長谷伍平は記者会見して、「市労連が予定されているストライキを実施した場合は厳しい処分を行う」と警告を発した‥‥病院労組は同月六日福岡県地方労働委員会に対し‥‥交渉促進等の調停を申請し、同地労委は同月11日‥‥労使双方の事情聴取を行ったがその席上、病院局長が‥‥H執行委員長に対し、スト体制は是非といてもらいたい。そのうえで団体交渉をしよう。」と要請したが‥‥組合側が‥‥拒否した。‥‥同月12日ころ、同月14日に市職、市労による始業時から1時間の職場集会を‥‥翌一五日に病院労組による門司病院及び八幡病院における24時間ストを実施することを決定‥‥市当局は同月13日市長、市教育委員会名義で各職員に対し、同月14日及び15日は定められた勤務時刻に出勤して職務を遂行するようにとの職務命令書を交付し、さらに、同日午後五時頃から約二時間にわたり‥‥谷市長は、自治労現地闘争本部と話合いをし、谷市長は組合側に対し病院・水道両事業の窮状と財政再建の重要性を訴えたが‥‥物別れに終わった。‥‥組合側が13日付で右職場集会・実力行使の通告をしたのに対し、市当局は同月14日には病院職員に対し、翌15日の勤務につき病院長名義の同旨の職務命令書を交付した。
なお、15日市議会において再建計画が議決された後、病院当局は、病院労組と6回、病院評議会と10回団体交渉し、行政整理対象の266人に対する就職あっせん等の特別措置、勤務時間、給料表、特殊勤務手当の整理について譲歩したが、組合側は分限免職絶対反対の主張を繰り返し、実質的交渉に入ろうとしなかったのであり、基本的に対立したままであった。
(1)一審福岡地判昭55・5・7判時980、労判341
財政再建計画が266人の分限免職を含み、職員の勤務条件に重大な変更を及ぼすものであるにもかかわらず当局の態度は性急にすぎ、本件ストライキは違法であるけれども、14日のストは1時間にすぎず、15日の24時間ストについても、混乱を避ける諸種の措置をとっており、市当局の団交義務を尽くしたとはいえないとしたうえで、X1市労連・病院労働組合の執行委員長の懲戒免職は裁量権を濫用し違法とした。但し停職一月~六月の4名の懲戒処分は相応のものとして裁量権を濫用していないとした。
(2)二審福岡高判昭58・9・29判タ534
一審の当局の団交義務を尽くしていないとの判断を明確に否定したうえで、X1に対する懲戒免職についても裁量権を濫用したものではないとして、懲戒処分をすべて適法とした。
この判決はできが良い。団交義務の違反の有無、程度の判断につき特に参考になる。
(要所の抜粋)
「 一審原告らは、集団的労働関係における争議行為に対して、個別労働関係を規律する地公法三〇条以下の義務規定を適用して同法二九条による懲戒処分を行うことはできない旨主張する。
しかし、争議行為が集団的行為であるからといって、その集団性の故に争議行為参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではないから、組合決定に基づく争議行為といっても、それが違法なものであるときには、組合事態の責任の生ずることがあるのはもちろん、当該違法行為者自身においても個人責任を免れないものといわなければならず、地公法三七条以下の服務規律を適用して同法二九条一項に基づく懲戒処分を行うことは許されるものというべきである(最高裁判所第三小法廷昭和五三年七月一八日判決‥)。
したがって‥一審原告らの各行為は、信用失墜行為避止義務を定めた地公法三三条に違反し、また組合専従者‥‥を除く、その余の各一審原告らが‥‥職務に従事するよう命ぜられていたにもかかわらず、‥‥スト当日職場を離脱してその職務を放棄した行為は、職務命令遵守義務を定めた同法三二条、職務専念義務を定めた同法三五条に違反するものというべきである。
‥‥懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する部分が他の公務員及び社会に与える影響など諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるもの解せられ、懲戒権者の判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してなされるものであるから、公務員につき法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うとどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を行うかどうか‥‥およそ裁量権者の裁量に任せられており、懲戒権者の右の裁量権の行使としての懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる務場合に限り当該懲戒処分を違法とすべきものである(最高裁判所第三小法廷昭和五二年一二月二〇日判決‥)。
右の見地に立って、一審原告らに対する本件各懲戒処分を濫用したものと認められるかどうかについて検討する。
地公法は、地方公務員たる職員は勤務条件の維持改善をはかることを目的として職員団体を結成することができるものとし(同法五二条一項、三項)、当局は登録を受けた職員団体から職員の給与・勤務時間、その他の勤務条件に関し適法な交渉の申入れがあった場合には、これに応じなければならないこととしており(同法五五条一項)、また、地公労法は、地方公共団体の経営する企業に勤務する職員につき、労働組合を結成できるものとし(同法五条一項)、その労働関係については地公労法のほか労働組合法及び労働関係調整法が適用されるものとし(地公労法四条)、労働協約締結権を認めている(同法七条)のであるから、職員の勤務条件について、地方公共団体の当局も誠実に団交すべき義務があるのは当然である。
本件再建計画の策定及び同再建計画の市議会への上程等は、元来、地公法五五条三項管理運営事項と解されるが、しかし、前示のとおり、本件再建計画案は、二六六名の分限免職昭余分をはじめとして病院事業に勤務する職員の勤務条件に重大な影響を及ぼす事項が含まれているのであるから、右再建計画案のうち勤務条件に関連する事項を昭・病院当局と労働組合との団体交渉事項となし、同事項の諸問題解決のため、市・病院当局は誠実に団体交渉に応ずべきものであったといえる。しかして、本件においては‥‥市・病院当局と労働組合との間で、現実に行われた団体交渉、その他の折衝等の経緯が、実力行使としての本件争議行為との関係でいかなる意味を有していたかが問題とされなければならない。
そこで、右見地から、市労連、病院労組と市・病院当局との間の交渉についしてみれば、前示のとおり、本件再建計画案が市労連ら正式に提示され団体交渉が開始されたのは、市議会の議決の一箇月前の昭和四二年一一月一五日であり、以来、市議会議決までもたれた市労連、病院労組との交渉回数は、合計五回、一回二、三時間で、右交渉は当局から本件再建計画案に含まれている病院職員の分限免職、給料表改正等の説明及びこれに対する若干の質疑応答と当局側に労使交渉により計画の手直しをする意思があるのかどうかをめぐる論議とがなされたにすぎず、右の点からすれば、右交渉事項の重要性から比して交渉回数・時間、交渉経過において右団体交渉の実効性には問題を残したかのようである。しかし‥‥市労連は、実際には、右団体交渉を行う前から本件再建計画案の内容をある程度予想し、これを合理化案あるいは二六六名の首切り案であるとし、なかでも二六六名の分限免職にさいては、これに断固反対する意向と全面的に対決する姿勢を繰り返し確認・決定し、右再建計画案阻止のための闘争を基本として集団による具体的行動を中核にすえ、対当局交渉を二義的なものとする方針を固め、したがって団体交渉その他当局側との折衝の機会が設けられたり、効率的な交渉方法の提案がなされても積極的実質的交渉に入る態度を示さず、手続問題などに時間を費し、形式的な話合いに終始したが、一方当局も給料表の改正など勤務条件等は譲歩の余地ありとしてある程度柔軟な姿勢を示しながらも二六六名の分限免職を財政再建計画の重要な柱の一つとし変更不可能なものとなしていたのであって、右のような基本的対立によって双方妥協の余地のなさこそが前記団体交渉を実りなきものに終わらせ、本件争議行為につながっていったことが明らかである。なお、本件再建計画議決後の団体交渉の実情も本質的には右と異ならなかった。
しかして、これに、前示認定の事実によれば認められるとおり、市・病院当局が当時の財政窮迫状態を打開するため、本件再建計画が必要かつ緊急のものとし、またそうすることにつき十分な根拠があり、さらにこれが現実に市財政の健全化に寄与したことを考慮に入れるならば、本件において市・病院当局が誠実に団体交渉を行う義務を十分に尽くさなかったものとはとうていなし難いものというべきである。
‥本件争議行為の状況、すなわち、一二月一四日のストは勤務時間に一時間喰い込む程度であったとはいえ、職場離脱が一部の職場ではなく全体で一斉に、かつ、市・病院当局の職務命令、警告を無視して強行され、一二月一五日の門司病院及び八幡病院における争議行為は公共性の高い医療部門におけるピケによるストライキであって、職員の多数をして職員の多数をして終日職務を放棄させたばかりでなく、外来患者数を通常に比し一五ないし二九%に減少させ、住民の生命と安全に危険な影響を及ぼす恐れのあるもので、‥‥大きな混乱を避けるための諸種の措置がとせれているとしても‥‥危険防止の観点から問題がなかったわけではなく‥‥市・病院当局がやむを得ず講じた緊急対策に負うところが大井のであって‥‥違法性の強いものであった。
‥‥本件各争議行為は、自治労中央本部安養寺書記長を長とする自治労現地闘争本部の指導により実施されたものであるが、‥‥具体的な闘争方針の提案を受け、これを単組として検討し、これを実行したものであるところ、現地闘争副本部長あるいは市職及び病院労組、市労連の各執行委員長として最高責任者の立場であったHは本件争議行為の企画、立案に関与したものであり、その主導的役割の下に、その余の一審原告らは、現地武藤そう本部の闘争委員あるいは市職の各役員として本件各争議行為の準備及び実施に各自の役職に応じた指導的な役割を果たしたものであるから、右のように違法な本件各争議行為にいて、それ相応の責任を免れ得ないものである。
以上のとおりであって‥‥一審原告らの本件無核行為の性質・態様・情状、各組合役職、その他前記任手の諸事情に照らせば、本件処分が社会観念上著しく妥当性を欠くものとなすことができず‥‥本件処分が懲戒権者である一審被告に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用してなされたという一審原告の主張は採用することができない。‥‥」
(3)上告審
棄却
「‥‥地方公務員法三七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判決(‥‥五一年五月二一日判決・刑集三〇巻五号一一七八頁)の判示するところであり、また、地方公営企業に勤務する一般職の地方公営企業労働関係法一一条一項の規定が、同法附則四項の規定により右地方公営企業職員以外の単純な労務に雇用される一般職の地方公務員に準用される場合を含めて、憲法二八条に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判決(五二年五月四日判決・刑集三一巻三号一八二頁)の趣旨に徴して明らかである(同六三年一二月八日第一小法廷判決・民集四二巻一〇号七三九頁、六三年一二月九日第二小法廷判決・民集四二巻一〇号八八〇頁参照)。これと同趣旨の原審の判断は正当‥‥‥
地方公務員に懲戒事由がある場合において懲戒権者が裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したものと認められる場合でないかぎり違法とならないと解すべきところ、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、上告人らに対する本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいえず、懲戒権者に任された裁量権の範囲を超え、これを濫用したものとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。‥‥」
坂上壽夫裁判官の補足意見と、伊藤正己裁判官の反対意見は略す。
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