私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその2)
承前
(3)国労札幌地本ビラ貼り事件昭和54・10・30民集33-6-647について
(3)国労札幌地本ビラ貼り事件昭和54・10・30民集33-6-647について
事案は大略して次のとおりである。国労は昭和44年春闘に際して各地方本部に対してビラ貼付活動を指令した。原告らは支部・分会の決定を受けて「合理化反対」「大幅賃上げ」等を内容とする春闘ビラ(ステッカー)を勤務時間外に職員詰所等ににある自己又は同僚組合員の使用するロッカーに、セロテープ、紙粘着テープによって少ない者は2枚、最も多い者は32枚貼付した(原告以外の組合員も含めて総計310個のロッカーに五百数十枚のビラを貼った)。原告らは貼付行動の際、これを現認した助役ら職制と応酬、制止をはねのけた。
この行為が掲示板以外での掲示類を禁止した通達に違反し、就業規則に定めた「上司の命令に服従しないとき」等の懲戒事由に該当するとして、戒告処分に付し、翌年度の定期昇給一号俸分の延伸という制裁を課したため、原告らは戒告処分の無効確認を請求して訴えたものである。
一審(札幌地判昭47・12・22判時709)は被告国鉄勝訴、原審(札幌高裁昭49・12・28は一転して原告国労札幌支部組合員の請求を全面的に認めたが、最高裁第三小法廷は全員一致で原判決破棄自判して、原告の請求を終局的に斥けた。
この行為が掲示板以外での掲示類を禁止した通達に違反し、就業規則に定めた「上司の命令に服従しないとき」等の懲戒事由に該当するとして、戒告処分に付し、翌年度の定期昇給一号俸分の延伸という制裁を課したため、原告らは戒告処分の無効確認を請求して訴えたものである。
一審(札幌地判昭47・12・22判時709)は被告国鉄勝訴、原審(札幌高裁昭49・12・28は一転して原告国労札幌支部組合員の請求を全面的に認めたが、最高裁第三小法廷は全員一致で原判決破棄自判して、原告の請求を終局的に斥けた。
企業秩序論の3つめの最高裁判例である。富士重工事件は企業秩序違反行為の社内調査協力拒否に関して、目黒電報電話局事件は施設内での政治活動事案であったが、国労札幌事件は企業施設内での組合活動事案で、本件はロッカーのビラ貼りであるが、集会・演説その他企業施設を利用する組合活動全般の判断枠組みを示しており、多くの判例で引用される指導判例の位置づけにある。
判旨は労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが、使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであつて、正当な組合活動にはあたらないとするものである。
判旨は労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが、使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであつて、正当な組合活動にはあたらないとするものである。
A 国労札幌地本事件判決の意義
1. プロレイバー学説「受忍義務説」の否定
1. プロレイバー学説「受忍義務説」の否定
判決は「労働組合が当然に当該企業の物的施設を利用する権利を保障されていると解すべき理由はなんら存しないから‥‥‥使用者の許諾なしに右物的施設を利用する権限をもっているということはできない。‥‥‥利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない」と判示し明確に受忍義務説を否定した。
学説多数説であった受忍義務説とは、組合活動の場合は、施設利用について使用者に受忍義務があるとするものである(たとえば籾井常喜1965 183頁 片岡曻・大沼邦博1991 321頁)。立論の基礎は憲法28条の団結権、団体行動権をプロ・レ-バー的に広く解釈し、それは私人間効力の及ぶもので使用者の権利や自由(その中心は財産権、具体的には労務指揮権や施設管理権)を一定の制約の契機が含まれていると解する。その根底にある思想は、憲法28条を、近代市民法秩序の核心である財産権、所有権、営業の自由を制約する契機として理解し、市民法秩序を超克し階級闘争としての労働運動を支援するというイデオロギー的背景を持つ学説である。
受忍義務説を採用した下級審判例としては、刑事事件で全電通東海電通局ビラ貼事件名古屋地判昭38・9・28判時359があり「使用者の施設管理権も労働者の団結権保障とのかねあいから、‥‥権利の本質的な意味で制約をうけ、そこから生じる使用者の不利益は使用者において受忍すべき場合がある。」と受忍義務を団結権保障のコロラリーとして承認する判断をとつている。
事案は昭和34年年3月全電通役員が中心となって東海電気通信局庁舎の正面玄関やガラス窓等に、不当処分撤回、大巾賃上げ等を求める趣旨のビラ約四千枚を糊で貼付した行為が、庁舎の外観を著しく汚したものとして刑法260条の建造物損壊罪に問われたものであるが、同条の構成要件に至ってないとし、軽犯罪1条33号も労使の紛争状態の組合活動については同法は適用されないと断じ、仮に本件ビラ貼りが形式上建造物損壊に当たるとしても、それは組合活動の一環として合法的であり、違法性を欠き無罪であるとした(控訴審名古屋高判昭39・12・28判時407では破棄自判有罪)。
しかしプロレイバー側でも、受忍義務説の論理に批判があって、団結権は施設管理権を当然に制約する明確な内容は与えられていない(小西国友1975)、使用者の団交応諾義務(労組法7条2項)や組合活動の妨害・介入の禁止(労組法7条3項)みと無関係に受忍義務を課す実定法上の根拠はなく、受忍義務とはすなわち便宜供与義務になるから、経費援助の肯定は経費援助禁止の原則((労組法2条但書3号、7条3号)と矛盾する(下井隆史1980)との指摘がある。(なお小西、下井が主張する違法性阻却説も、後述するがこの判決の判断枠組みでは排除するものであることが判例の蓄積によって明らかになっている)
また下級審判例で受忍義務説を否定した判例としては、動労甲府支部ビラ貼り事件東京地判昭50・7・15判時784(中川幹郎チーム)が、「助士廃止粉砕」などと記載したビラ約三千五百枚を鉄道管理局庁舎内に貼った行為は、使用者の所有権や施設管理権「管理及び運営の目的に背馳し、業務の能率的正常な運営を一切排除する権能」を強調する一方、たとえ企業内組合の場合であっても組合活動のために企業施設を利用する「権限」を当然有するものではないとし、それが認められない以上、使用者が無断ビラ貼りを「受忍」すべきいわれはなく、当該のビラ貼りは使用者の所有権ないし施設管理権の侵害にあたるとして、ビラ貼り事件で初めて、労働組合や組合員に損害賠償責任を認め、ビラはがし代142,300円の支払いを動労側に命じ、明確に受忍義務を否定したリーディングケースである。
ビラ配布事案であるが日本エヌ・シー・アール事件東京高判裁昭52・7・14判時86881は組合活動は原則として就業時間外に事業場外においてなすべきことを明確に述べ、受忍義務説を排除した判例と評価できる。
「一般に事業場は、当然に使用者の管理に属し、労働者は、自己の労働力を使用者に委ねるために事業場に出入りを許され、就業時間中は使用者の指揮命令に従い労務に服する義務を負うものであり、労働組合は労働者が団結により経済的地位の向上を図ることを目的として自主的に結成加入した団体であって、使用者から独立した別個の存在である。従って、労働者の労働組合活動は原則として就業時間外にしかも事業所外においてなすべきであって、労働者が事業上内で労働組合活動をすることは使用者の承認のない限り当然には許されず、この理は労働組合運動が就業時間中の休憩時間に行われても、就業時間外に行われても変わりがないと解すべきである」と説いた。こうした下級審判例の説示を企業秩序論として構成しなおしたのが国労札幌地本判決といえるだろう。
企業施設は使用者の所有管理に属し、市民法(私法)理論からすれば、労働組合の利用権は当然には認められないものである。したがって受忍義務説の否定は、労働組合に実定法で与えられたもの以上の、市民法秩序を超える権利を付与されるものではないことを示した判決と評価してもよい。
学説多数説であった受忍義務説とは、組合活動の場合は、施設利用について使用者に受忍義務があるとするものである(たとえば籾井常喜1965 183頁 片岡曻・大沼邦博1991 321頁)。立論の基礎は憲法28条の団結権、団体行動権をプロ・レ-バー的に広く解釈し、それは私人間効力の及ぶもので使用者の権利や自由(その中心は財産権、具体的には労務指揮権や施設管理権)を一定の制約の契機が含まれていると解する。その根底にある思想は、憲法28条を、近代市民法秩序の核心である財産権、所有権、営業の自由を制約する契機として理解し、市民法秩序を超克し階級闘争としての労働運動を支援するというイデオロギー的背景を持つ学説である。
受忍義務説を採用した下級審判例としては、刑事事件で全電通東海電通局ビラ貼事件名古屋地判昭38・9・28判時359があり「使用者の施設管理権も労働者の団結権保障とのかねあいから、‥‥権利の本質的な意味で制約をうけ、そこから生じる使用者の不利益は使用者において受忍すべき場合がある。」と受忍義務を団結権保障のコロラリーとして承認する判断をとつている。
事案は昭和34年年3月全電通役員が中心となって東海電気通信局庁舎の正面玄関やガラス窓等に、不当処分撤回、大巾賃上げ等を求める趣旨のビラ約四千枚を糊で貼付した行為が、庁舎の外観を著しく汚したものとして刑法260条の建造物損壊罪に問われたものであるが、同条の構成要件に至ってないとし、軽犯罪1条33号も労使の紛争状態の組合活動については同法は適用されないと断じ、仮に本件ビラ貼りが形式上建造物損壊に当たるとしても、それは組合活動の一環として合法的であり、違法性を欠き無罪であるとした(控訴審名古屋高判昭39・12・28判時407では破棄自判有罪)。
しかしプロレイバー側でも、受忍義務説の論理に批判があって、団結権は施設管理権を当然に制約する明確な内容は与えられていない(小西国友1975)、使用者の団交応諾義務(労組法7条2項)や組合活動の妨害・介入の禁止(労組法7条3項)みと無関係に受忍義務を課す実定法上の根拠はなく、受忍義務とはすなわち便宜供与義務になるから、経費援助の肯定は経費援助禁止の原則((労組法2条但書3号、7条3号)と矛盾する(下井隆史1980)との指摘がある。(なお小西、下井が主張する違法性阻却説も、後述するがこの判決の判断枠組みでは排除するものであることが判例の蓄積によって明らかになっている)
また下級審判例で受忍義務説を否定した判例としては、動労甲府支部ビラ貼り事件東京地判昭50・7・15判時784(中川幹郎チーム)が、「助士廃止粉砕」などと記載したビラ約三千五百枚を鉄道管理局庁舎内に貼った行為は、使用者の所有権や施設管理権「管理及び運営の目的に背馳し、業務の能率的正常な運営を一切排除する権能」を強調する一方、たとえ企業内組合の場合であっても組合活動のために企業施設を利用する「権限」を当然有するものではないとし、それが認められない以上、使用者が無断ビラ貼りを「受忍」すべきいわれはなく、当該のビラ貼りは使用者の所有権ないし施設管理権の侵害にあたるとして、ビラ貼り事件で初めて、労働組合や組合員に損害賠償責任を認め、ビラはがし代142,300円の支払いを動労側に命じ、明確に受忍義務を否定したリーディングケースである。
ビラ配布事案であるが日本エヌ・シー・アール事件東京高判裁昭52・7・14判時86881は組合活動は原則として就業時間外に事業場外においてなすべきことを明確に述べ、受忍義務説を排除した判例と評価できる。
「一般に事業場は、当然に使用者の管理に属し、労働者は、自己の労働力を使用者に委ねるために事業場に出入りを許され、就業時間中は使用者の指揮命令に従い労務に服する義務を負うものであり、労働組合は労働者が団結により経済的地位の向上を図ることを目的として自主的に結成加入した団体であって、使用者から独立した別個の存在である。従って、労働者の労働組合活動は原則として就業時間外にしかも事業所外においてなすべきであって、労働者が事業上内で労働組合活動をすることは使用者の承認のない限り当然には許されず、この理は労働組合運動が就業時間中の休憩時間に行われても、就業時間外に行われても変わりがないと解すべきである」と説いた。こうした下級審判例の説示を企業秩序論として構成しなおしたのが国労札幌地本判決といえるだろう。
企業施設は使用者の所有管理に属し、市民法(私法)理論からすれば、労働組合の利用権は当然には認められないものである。したがって受忍義務説の否定は、労働組合に実定法で与えられたもの以上の、市民法秩序を超える権利を付与されるものではないことを示した判決と評価してもよい。
2 施設管理権の脆弱性の解消
判決は、次のように企業秩序論を説示する。
「思うに、企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであつて、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である」
「思うに、企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであつて、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である」
この企業秩序論の判例法理が最高裁によってが案出された最大の理由は「施設管理権」の脆弱さと空隙を埋める必要性があったと解する。
すなわち、終戦直後、経営者が直面した生産管理闘争のようなきわめて悪質な争議行為や経営内での団結示威その他無許可組合活動に対し、組合規制力を強化するための使用者は「経営権」を確立する必要があった。
当初経営者は企業内組合活動を規制する根拠を、労働規律から施設利用までカバーする「経営権」に求めていたが、包括的な経営権の観念を裁判所が必ずしも受け入れなかったために根拠は「労務指揮権」+「施設管理権」であるとされるようになった。
しかし、「労務指揮権」はその法的根拠を労務当事者の契約に求めざるをえず、「施設管理権」の主張も脆弱性を有していた。その根拠を所有権・占有権という物権的権利に求める限り、所有権の一部をなし、建物、敷地等の会社施設を維持、保全、改良する具体的機能として内容づけられることとなり、妨害排除の物権的請求権か、無権利者による無断利用、毀損行為をとらえて行う不法行為にともなう賠償請求という、民法上の主張にとどまり従業員懲戒の根拠としては難点があったのである。
また労務指揮権+物的維持管理権限に限定された施設管理権の主張は、直接労務指揮権限をもって規律しえない時間帯である、休憩時間、就業時間前、就業後の組合活動について空隙を残すことになった(菊地高志1973)
このことはプロレイバー労働法学につけ込む隙を与えた。受忍義務説の論理構成は「施設管理権」とは元来法律用語ではなく、昭和28・9年頃使用者側から主張された政策概念としたうえ、所有権・占有権の一つの機能として位置づけ、物的管理権に限定して承認するというものであった(西谷敏1980})。それゆえ「物的管理権である以上、施設管理権は組合活動に対して直接向けられるべきものではない」とされる。(峯村光郎1969 161頁、本多淳亮1964 21頁)。
つまり受忍義務説に潰すには、施設管理権を侵害するような行為を懲戒するには理由づけが必要であり、それには施設管理権を企業秩序と関連づける必要があった。懲戒処分は企業秩序の維持の目的をもって制定されるからである。
以下時岡肇調査官の判解をそのまま引用する。―ー本判決が「施設管理権」 という用語を用いずに 「職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限」と判示したのは。以上のようにな理由から物的施設の管理運用を施設の所有権(物的管理権)のみから理論づけないで使用者の企業秩序維持のため必要な措置をとりうる機能も含む趣旨、すなわち人的・物的両面を含む使用者の権限として構成したことを明らかにしたものーーである。
すなわち、終戦直後、経営者が直面した生産管理闘争のようなきわめて悪質な争議行為や経営内での団結示威その他無許可組合活動に対し、組合規制力を強化するための使用者は「経営権」を確立する必要があった。
当初経営者は企業内組合活動を規制する根拠を、労働規律から施設利用までカバーする「経営権」に求めていたが、包括的な経営権の観念を裁判所が必ずしも受け入れなかったために根拠は「労務指揮権」+「施設管理権」であるとされるようになった。
しかし、「労務指揮権」はその法的根拠を労務当事者の契約に求めざるをえず、「施設管理権」の主張も脆弱性を有していた。その根拠を所有権・占有権という物権的権利に求める限り、所有権の一部をなし、建物、敷地等の会社施設を維持、保全、改良する具体的機能として内容づけられることとなり、妨害排除の物権的請求権か、無権利者による無断利用、毀損行為をとらえて行う不法行為にともなう賠償請求という、民法上の主張にとどまり従業員懲戒の根拠としては難点があったのである。
また労務指揮権+物的維持管理権限に限定された施設管理権の主張は、直接労務指揮権限をもって規律しえない時間帯である、休憩時間、就業時間前、就業後の組合活動について空隙を残すことになった(菊地高志1973)
このことはプロレイバー労働法学につけ込む隙を与えた。受忍義務説の論理構成は「施設管理権」とは元来法律用語ではなく、昭和28・9年頃使用者側から主張された政策概念としたうえ、所有権・占有権の一つの機能として位置づけ、物的管理権に限定して承認するというものであった(西谷敏1980})。それゆえ「物的管理権である以上、施設管理権は組合活動に対して直接向けられるべきものではない」とされる。(峯村光郎1969 161頁、本多淳亮1964 21頁)。
つまり受忍義務説に潰すには、施設管理権を侵害するような行為を懲戒するには理由づけが必要であり、それには施設管理権を企業秩序と関連づける必要があった。懲戒処分は企業秩序の維持の目的をもって制定されるからである。
以下時岡肇調査官の判解をそのまま引用する。―ー本判決が「施設管理権」 という用語を用いずに 「職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限」と判示したのは。以上のようにな理由から物的施設の管理運用を施設の所有権(物的管理権)のみから理論づけないで使用者の企業秩序維持のため必要な措置をとりうる機能も含む趣旨、すなわち人的・物的両面を含む使用者の権限として構成したことを明らかにしたものーーである。
(つづく)
引用・参考
片岡曻・大沼邦宏
1991『労働団体法』青林書院
菊地高志
1973「組合のビラ配布と施設管理権-日本ナショナル金銭登録事件を中心として-ー」日本ナショナル金銭登録機事件横浜地裁昭43・2・9判決 労判172号
小西国友
1975「ビラ貼付と施設管理権」季刊労働法95号
下井隆史
1980「労働組合のビラ貼り活動に関する再論」判タ406号
時岡肇『最高裁判所判例解説民事篇昭和54年度』 339頁
西谷敏
1980「施設管理権の法的性格とその限界」『法学雑誌』大阪市立大学法学会26(3・4)
本多淳亮
1964『業務命令施設管理権と組合活動』労働法学出版
峯村光郎
1969『経営秩序と団結活動』総合労働研究所
籾井常喜
1965『経営秩序と組合活動-不当労働行為の法理経営秩序と組合活動』総合労働研究所
片岡曻・大沼邦宏
1991『労働団体法』青林書院
菊地高志
1973「組合のビラ配布と施設管理権-日本ナショナル金銭登録事件を中心として-ー」日本ナショナル金銭登録機事件横浜地裁昭43・2・9判決 労判172号
小西国友
1975「ビラ貼付と施設管理権」季刊労働法95号
下井隆史
1980「労働組合のビラ貼り活動に関する再論」判タ406号
時岡肇『最高裁判所判例解説民事篇昭和54年度』 339頁
西谷敏
1980「施設管理権の法的性格とその限界」『法学雑誌』大阪市立大学法学会26(3・4)
本多淳亮
1964『業務命令施設管理権と組合活動』労働法学出版
峯村光郎
1969『経営秩序と団結活動』総合労働研究所
籾井常喜
1965『経営秩序と組合活動-不当労働行為の法理経営秩序と組合活動』総合労働研究所
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