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2018年8月の5件の記事

2018/08/22

私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその7)

承前

 

3)国労バッジ事件とはなんだったのか

 

  国労バッジ着用を理由とする、本来業務外し、厳重注意、訓告処分、夏季手当減額、出勤停止が不当労働行為にあたるかが争われた判例が多数あるのは、JR各社が、昭和62年発足以来着用規制を徹底したためである。JRの就業規則はよくできている。

三条(服務の根本基準)

 社員は、原告事業の社会的意義を自覚し、原告の発展に寄与するために、自己の本分を守り、原告の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない(一項)。

二〇条(服装の整装)

 制服等の定めのある社員は、勤務時間中、所定の制服等を着用しなければならない(一項)。

社員は、勤務時間中に又は原告施設内で原告の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない(三項)。

二三条(勤務時間中等の組合活動)

 社員は、原告が許可した場合のほか、勤務時間中に又は原告施設内で、組合活動を行ってはならない。

 組合バッジ着用はたんに上記に違反するだけでなく、期末手当の支給額は、賃金規程一四三条及び一四五条の規定により、成績率により増額又は減額されるが、減額については、懲戒処分(減給、戒告)及び訓告のほか、勤務成績が考慮されるところ、勤務成績については、減率適用者調書が作成され、その中で、厳重注意を含む賞罰、服装違反の注意回数、業績、態度等について具体的に記載されている。

 要するに、服装違反の注意回数はボーナス査定にひびく制度設計にはじめからなっているのである。

 にもかかわらず国労は、JR発足以前から、組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示し,組織としても不当労働行為救済申立てを行ってきたのである。

 国労が方針を転換したのは平成8年7月以降労使協調路線へ変更してからである。平成11年3月18日の臨時全国大会において国鉄分割民営化による国鉄改革を承認する旨を決議し、平成11年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結した。
 自由民主党,公明党,保守党及び社会民主党の4党は,国労に対し,平成12年5月30日,四党合意を提示し,国労本部は,同日,その受入れを決定した。もっとも,国労組合員のうちJR各社に不採用とされた国労闘争団のメンバーは,国労本部の四党合意の受入れに反対したものの,国労は,平成12年7月1日以降3回にわたる全国大会を経て,平成13年1月27日,四党合意の受入れを盛り込んだ方針案を採択するに至った。

 国労は、平成14年3月末以降は,組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり、平成18年11月には、バッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げている。国労は,組合バッジ着用に関し,機関決定違反として統制処分をするまではしないが、支持はしないこととなった。JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件 東京地判平24117労判106718頁によれば平成15年7月以降国労バッジ着用者は1人となった。その者も退職したので、現在では組合バッジの着用規制は完全なものとなっていると考えられる。

 

 

 ここで問題となっている国労バッジとは実は大きさで2種類あるのである通常着用していたのは、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルの四角形で、黒地に金色のレールの断面と「NRU」の文字をデザインしたものであり、「NRU」は「国鉄労働組合」を英訳した「National Railway Union」の頭文字をとったものである。

 これと別にワッペン式大型バッジがあり、通称「くまんばち」と呼ばれ、デザインは本件組合バッジとほぼ同様であるが、縦二・六センチメートル、横二・八センチメートルと大きく、これは主に何らかの闘争時などを中心に着用された。この大型バッジについては、国鉄当局は、本件組合バッジと区別し、ワッペンの一種であるとして、国鉄末期に規制を行った。

 国鉄鹿児島自動車営業所事件 最三小判平5611判時1446151頁(管理者に準ずる地位にある職員が組合員バッジの取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令が違法とはいえないとされた事例 )が昭和60年の事案だが、縦約二六ミリメートル、横約二八ミリメートル布製であり、「くまんばち」の大きさに相当する。

 

 着用規制の経過等については、下記の3判例の判決書から抜粋する。

 

 

 

. JR東海新幹線支部国労バッジ事件 東京高判平91030判時1626号38頁

(厳重注意や夏期手当の減額支給等の措置は不当労働行為に当たらないとした判決)

 

 運輸大臣は、昭和五七年三月四日、国鉄に対し、「‥‥総点検を実施し、調査結果に基づき厳正な措置を講じることが必要である」旨指示した。これを受けて、‥‥国鉄は、昭和六〇年九月までの間に八次にわたり職場規律の総点検を行ったが、いずれの総点検においても組合バッヂの着用状況についての調査項目はなかった。

 

 国労は、分割民営化反対等を主張し、昭和五九年八月一〇日、二時間のストライキを実施したほか、昭和六〇年春ころ、ワッペン着用闘 争を行った。国鉄当局は、ワッペン着用闘争について、同年九月一一日、五万九二〇〇人の国労所属組合員に対して処分

 

 国鉄は、昭和六一年一月一三日、動労、全施労及び鉄労との間で、「労使共同宣言(第一次)」を締結した。‥‥諸法規を遵守すること、リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整えること‥‥などが掲げられていた。‥‥国労は、その締結を拒否した。

 

 国鉄は、昭和六一年三月五日‥‥職員管理調書を作成するよう通達を発した。‥‥評定事項として、業務知識、技能、責任感、協調性、職場の秩序維持、服装の乱れ、勤務時間中の組合活動等二一項目について記入することとされていたが、組合バッヂについては触れられていなかった。

 

 国労は、昭和六一年一〇月九、一〇日に伊豆修善寺において臨時全国大会を開催したが、雇用と組織を守るために「大胆な妥協」をし、分割民営化の推進を内容とする「労使共同宣言」の締結を提案した執行部案は否決され、引き続き国鉄の分割民営化に反対する方針が確認された。

 

 動労、鉄労は、昭和六二年二月二日、日本鉄道労働組合、鉄道社員労働組合などとともに鉄道労連を結成した。

 国労は、昭和六一年四月一日において組合員数一六万五四〇三人、組織率六八・六パーセントであったが、昭和六二年二月一日には組合員数六万二一六五人、組織率二七・三パーセント、同年四月一日には組合員数四万四〇一二人に減少した。

 国労を脱退した者は、同年二月二八日、鉄道産業労働組合を結成したり、鉄労、動労などに加入するなどした。

 

 本件就業規則の制定等

 国鉄は、昭和六一年一二月三日、本社内に東海旅客鉄道株式会社設立準備室を設置し、この準備室において、本件就業規則の原案を作成し‥‥(六二年)四月一日の始業時刻に社員個人用の本件就業規則の抄録が配布され‥‥社達第一号により本件就業規則を施行するとともに、総達第九号により本件賃金規定を施行した後、労働組合の意見聴取を経て、本件就業規則を所轄労働基準監督署に届け出た。

 期末手当の支給額は、本件賃金規程一四三条及び一四五条の規定に基づき、成績率により増額又は減額されるが、減額については、懲戒処分(減給、戒告)及び訓告のほか、勤務成績が考慮されるところ、勤務成績については、減率適用者調書が作成され、その中で、厳重注意を含む賞罰、服装違反の注意回数、業績、態度等について具体的に記載されている。

‥‥昭和六二年四月、各労働組合との間に、同内容の労働協約を締結したが、労働協約六条には、組合員(専従を除く。)は、被控訴人から承認を得た場合を除き、勤務時間中に組合活動を行うことはできない旨の定めがある。

 

 (国労)東京地本は、昭和六一年一〇月三一日、指令第六号により、その時点では国鉄改革法案が衆議院を通過し、参議院の審議に入った段階であったが、この段階での当面のたたかいとして、「国労バッヂの完全着用を図ること」などを指令し、また、昭和六二年三月三一日、指示第一六〇号により、「国労バッヂは全員が完全に着用するよう再度徹底を期することとする。」などの指示を出した。

 

 国鉄時代には、国労以外の他の労働組合も組合バッヂを作成し、組合員に配布しており、各労働組合の組合員は、組合バッヂを着用していたが、被控訴人が発足した同年四月には、国労以外のほとんどの他の労働組合の組合員は、組合バッヂを外しており、同月下旬には、組合バッヂを着用していたのは、国労所属組合員のみという状況であったが、国労所属組合員であるという連帯感を互いに確認し合って、仲間意識、組合意識を高め、国労のもとに団結するシンボルとして着用されていた。

 

組合バッヂ着用規制の経過

(1)東海旅客鉄道株式会社設立準備室の山田室長は、昭和六二年三月二六日、関係各人事、厚生(担当)課長に宛てて、「社章の着用について」と題する事務連絡を行い、その中で、社章を同年四月一日の始業時から、勤務時間中は全社員着用することなどのほか、組合バッヂ等の着用はさせないことを連絡し、この指示を受けた新幹線総局は、同月三〇日、労働課長名で各長に宛てて、本件就業規則二〇条三項で組合バッヂの着用を禁止していることを全社員に同日以降掲示等により周知徹底させることを指示し、各長は、各職場に、組合バッヂの着用の禁止とこれに従わない場合の懲戒の対象となることを掲示した。

 

 さらに、同準備室青柳名で、同年三月三一日、関係各総務担当課長に対し、「社章、氏名札及び組合バッヂ等の着用状況報告について」と題する事務連絡を行い、同年四月一日に勤務を開始する現業社員の、社章、氏名札及び組合バッヂ等の着用状況を報告するよう求めた。

 そして、被控訴人は、同月九日に各機関の総務担当課長に対し、同月一〇日に各総務担当課(科)長及び各庶務助役に対し、それぞれ総務課長名で、「特に着用を認める胸章、腕章等について」と題する事務連絡を行い、勤務時間中又は会社施設内において着用することができる胸章、腕章等の範囲を明示し、組合バッヂが含まれないことが示された。

 ‥‥昭和六二年四月一三日、総務部勤労課長から各人事(担当)課長に宛てて、また、新幹線運行本部長から現場長に宛てて、「組合バッヂ着用者等に対する注意・指導について」と題する事務連絡を行い、勤務時間中に組合バッヂを着用している社員に対しては、本件就業規則三条第一項、二〇条三項、二三条に違反する行為であることを通告し、直ちに取り外すよう注意・指導を繰り返すこと、注意・指導に際しては、社員個別に行い、その状況を克明に記録すること、それにもかかわらず取り外さない場合には、本件就業規則違反として懲戒処分もあり得ることを通告すること、社章・氏名札不着用者に対しても、同様に注意・指導を徹底すること、これを行わない現場長、助役は労働契約不履行となることなどを連絡した。(以下略)

 

.JR東日本(神奈川・国労バッジ)事件・東京高判平11224判時1665号130頁裁判所ウェブサイト

(組合バッジ着用を理由とする訓告、厳重注意の処分、夏季手当の減額支給措置を不当労働行為とする)

 

 運輸大臣は、昭和五七年三月四日、国鉄に対し、いわゆるヤミ手当や突発休、ヤミ休暇、現場協議の乱れ等の悪慣行などについては、誠に遺憾なことであり、これら全般について実態調査を行う等総点検を実施し、調査結果に基づき厳正な措置を講じることが必要である旨の指示をし、これを受けて、国鉄総裁は、同月五日、各機関の長に対し、職場規律の総点検及び是正を指示する通達を発した。この総点検は、国鉄の全現業機関四八三一箇所を対象として行われたが、‥‥国鉄は、いわゆる悪慣行、ヤミ協定の即時解消、現場協議の乱れの抜本的正、現場管理者のバックアップ体制の確立、職場管理体制の充実等について緊急に全力を挙げて取り組むこととした。その後、国鉄は、昭和六〇年九月までに八次にわたる職場規律の総点検を行い、その結果に基づき、問題点の是正・改善等に取り組んだ(なお、いずれの総点検においても、組合バッジの着用状況についての調査項目はなかった。

 

 国労は、分割民営化反対等を主張し、昭和五九年八月一〇日に二時間のストライキを実施したほか、昭和六〇年に入ってワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年九月一三日、右闘争に参加した約五万九二〇〇人の国労所属組合員に対して戒告、訓告等の処分をした。さらに、国労は、昭和六一年四月一〇日から一二日まで、国鉄の分割民営化方針等に抗議して、ワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年五月三〇日、右闘争に参加した約二万九〇〇〇人の国労組合員に対し、戒告又は訓告の処分をした。

 

 国鉄は、昭和五九年七月一九日、国労、鉄労、動労、全施労及び全動労に対し、組合分会と現場責任者との間で職場単位で行われてきた現場協議制度が悪しき労使関係を生み出してきたとして、同年一一月三〇日に有効期間が満了する「現場協議に関する協約」の改訂案を提示し、同日までに交渉がまとまらなければ右協約を再締結しない旨を通告した。この結果、鉄労、動労及び全施労は、右改訂案どおりの協約を締結したが、国労及び全動労と国鉄との交渉は決裂し、国労及び全動労について右協約は失効した。

 また、国鉄は、昭和六〇年一〇月二四日、国労に対し、国労が派遣や休職などのいわゆる余剰人員対策に対して非協力の態度をとっていることを理由に、同年一一月三〇日で期限切れとなる「雇用の安定等に関する協約」について再締結しない旨通告し、両者間では、同年一二月一日以降無協約の状態となった。一方、国鉄は、動労、鉄労及び全施労との間で、同年一一月三〇日、期限を昭和六二年三月三一日として右協約を再締結した。

 さらに、国鉄は、昭和六一年一月一三日、「労使共同宣言(第一次)」の締結を各組合に提案した。‥‥諸法規を遵守すること、リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整えること、点呼妨害等企業人としてのモラルにもとる行為の根絶に努めること、必要な合理化は、労使が一致協力して積極的に推進すること‥‥が掲げられていた。この提案に対し、鉄労、動労及び全施労は受諾したが、国労は、拒否した。

 国鉄総裁は、昭和六一年三月五日、各機関の長に対し、八次にわたる職場規律の総点検の集大成として、職員個々の実態把握を統一的に行うため職員管理調書を作成するよう通達を発した。この職員管理調書は、同年四月二日時点の職員(管理職を除く。)について、昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までを調査対象期間として作成されたが、一般処分、労働処分等を含む七項目の特記事項のほか、評定事項として業務能力、知識等に関すること及び勤務態度に関することについて記入することとされていた(労働処分については、昭和五八年七月二日に処分通知を行った「五八・三闘争」から記入することとされたが、動労は昭和五七年一二月以降争議行為を行わなくなり、動労組合員に対する最後の処分通告は昭和五八年三月二六日であるため、動労組合員の労働処分歴は右調書には記載されないことになった。)。右の評定事項の勤務態度に関することの中の「服装の乱れ」の項目は、「リボン・ワッペン、氏名札、安全帽、安全靴、あご紐、ネクタイ等について、指導された通りの服装をしているか。」というものであり、組合バッジについては言及されていなかった(なお、「勤務時間中の組合活動」の項には、ワッペン着用、氏名札未着用については「服装の乱れ」の項で回答することとの注意書がある。)。

 

 国労は、昭和六一年一〇月九日、一〇日の両日、伊豆修善寺で臨時全国大会を開催したが、雇用と組織を守るために分割民営化反対をやめて労使共同宣言を締結するという国鉄当局との「大胆な妥協」を目指す執行部案は否決され、引き続き国鉄の分割民営化に反対していく方針が確認された。

 他方、鉄労、動労、日本鉄道労働組合(同年一二月一九日に真国鉄労働組合と全施労が統合され、組合員約一万名で結成された。)及び鉄道社員労働組合(昭和六二年一月二三日に組合員約三万名で結成された。)は、同年二月二日、新会社における一企業一組合の実現を目指し、鉄道労連を結成した。

 また、国労を脱退した旧主流派によって各地域ごとに結成された鉄道産業労働組合(鉄産労)は、同月二八日、その連合組織として鉄産総連を結成した。

 以上のような状況の下で、昭和六一年五月には組合員約一六万三〇〇〇名(組織率六八・三パーセント)を有する国鉄内最大の労働組合であった国労は、その組合員を昭和六二年二月には約六万四七〇〇名(同二九・二パーセント)、さらに、同年四月には約四万四〇〇〇名と急激に減少させた。なお、昭和六一年五月当時の他組合の組合員数は、動労が約三万一三五〇名(組織率一三・一パーセント)、鉄労が約二万八八七〇名(同一二・一パーセント)、全施労が約一五九〇名(同〇・七パーセント)であったが、昭和六二年二月には、鉄道労連が約一二万六〇〇〇名(同五五パーセント)、鉄産総連が約二万一〇〇〇名(同九パーセント)という状況となっていた。

3 就業規則の制定等

 控訴人の就業規則(以下「本件就業規則」という。)は、国鉄本社内に設置された東日本旅客鉄道株式会社設立準備室がその原案を作成し、昭和六二年三月二三日に控訴人の創立総会を経て制定された。同年四月一日には、いずれの現業機関においても各詰所にこれが備え付けられて社員が自由に閲覧し得る状態におかれ、‥‥控訴人は、各労働組合の意見聴取を経て、同年五月中旬ころまでに右就業規則を所轄労働基準監督署に届け出た。

 控訴人の賃金規程(昭和六三年八月人達第一二号による改正前のもの。以下同じ。)

のうち、期末手当の額の減額に関連する規定は‥‥減額に係る成績率については、一〇〇分の五減の事由として減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者と定められている‥‥これに関して作成される期末手当減額調書には、業績(問題意識、成果)、態度(執行態度、協調性等)、処分の有無、服装(組合バッジ着用等の注意回数等)について記入することとされている。

4 組合バッジの着用状況等

(一)本件組合バッジは、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルの四角形で、黒地に金色のレールの断面と「NRU」の文字をデザインしたものであり、「NRU」は「国鉄労働組合」を英訳した「National Railway Union」の頭文字をとったものである。国労の組合バッジは、国労結成後間もない昭和二三年に制定され、昭和四一年に組合結成二〇周年を記念して、現在のデザインに変更された。本件組合バッジは、国労に加入した際、国労手帳とともに組合員に無償で支給され、国鉄時代には、国労組合員は、国労からの指令等がなくても、自発的にこれを制服や作業服の胸や襟等に付けて着用していた。

 国鉄における職員の服装の整正については、就業規則六条に「職員は、服装を端正にし、常に職員としての規律と品位を保つように努めなければならない。」及び「職員は、総裁(又はその委任を受けた者)の定めるところに従って、制服等を着用し業務に従事しなければならない。」と定められ、また、「服制及び被服類取扱基準規程」の一六条に「被服類には、腕章、キ章、服飾等であって、この規程に定めるもの及び別に定めてあるもの以外のものを着用してはならない。」と定められていたので、国鉄が着用を認めたもの以外のキ章に当たるとして本件組合バッジの着用を禁止することも可能であったが、国労以外の労働組合の組合員もそれぞれ組合バッジを着用しており、国鉄当局がその取り外しを指導したり、着用を理由に処分したことはなかった(なお、国労のワッペン式大型バッジは、通称「くまんばち」と呼ばれ、デザインは本件組合バッジとほぼ同様であるが、縦二・六センチメートル、横二・八センチメートルと大きく、これは主に何らかの闘争時などを中心に着用された。この大型バッジについては、国鉄当局は、本件組合バッジと区別し、ワッペンの一種であるとして、国鉄末期に規制を行った。)

 

 

 国鉄分割民営化の過程で‥‥国労から多くの組合員が脱退していく中で、本件組合バッジを組合団結のシンボルとする国労組合員は、国労の組織防衛上の見地からその着用を続けていた。東京地本は、昭和六一年一〇月三一日、闘争指令を発し、その中で、当面の闘いとして、「国労バッチの完全着用をはかること。」などの指令を出し、さらに、昭和六二年三月三一日、各支部執行委員長に対し、「国労バッチは全員が完全に着用するよう再度徹底を期すこととする。」などの指示を出すに至り、本件組合員らは、就業時間中に本件組合バッジを継続的に着用した。

 

 

 国鉄分割民営化の過程で‥‥国労から多くの組合員が脱退していく中で、本件組合バッジを組合団結のシンボルとする国労組合員は、国労の組織防衛上の見地からその着用を続けていた。東京地本は、昭和六一年一〇月三一日、闘争指令を発し、その中で、当面の闘いとして、「国労バッチの完全着用をはかること。」などの指令を出し、さらに、昭和六二年三月三一日、各支部執行委員長に対し、「国労バッチは全員が完全に着用するよう再度徹底を期すこととする。」などの指示を出すに至り、本件組合員らは、就業時間中に本件組合バッジを継続的に着用した。‥‥。

 国鉄時代には、動労、鉄労など国労以外の他の労働組合も、組合バッジを作成し、組合員に配付しており、各労働組合の組合員は、組合バッジを着用していたが、控訴人が発足した昭和六二年四月には、国労以外の他の労働組合の組合員のほとんどは組合バッジを外しており(鉄道労連は、同月一日付け機関誌に「着けよう鉄道労連バッジ」との呼び掛けを掲載したが、鉄道労連の下部組織の東鉄労組合員はこれを着用しなかったし、東鉄労としては、会社発足の困難な途上において労使がいらざる紛争の種を作るべきではないとして、所属組合員が就業時間中に組合バッジを着用することがあれば、強力に指導して外させる方針であった。)、同月下旬ころには、控訴人の社員で組合バッジを着用していたのは、ほぼ国労組合員のみというに等しい状況であった。

 

組合バッジ着用規制と本件処分に至る経緯

 

 国鉄の東日本旅客鉄道株式会社設立準備室の小柴次長は、昭和六二年三月二三日、東日本地区各機関総務(担当)部長(次長)に対し、「社員への「社員証」「社章」「氏名札」の交付等について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、控訴人発足に当たって全社員に交付すべき社員証、社章及び氏名札は、勤務箇所長から直接社員一人一人に手渡しで交付すること、組合バッジを着用している場合には、組合バッジを外させるとともに、社章を着用させることを指示した。右指示に従い、勤務箇所長は、社員に対し、同年四月一日又はその前後にされた社章等の交付の際、組合バッジを取り外すよう指導した。

 

 控訴人の人事部勤労課嶋副長は、昭和六二年四月七日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「社章及び氏名札等の着用状況調査について」と題する事務連絡を行い、各現業機関の社員を調査対象として同月一日から同月七日までの間の社章、氏名札及び組合バッジの常態的な着用状況の報告を求め、特に、組合バッジ着用者数については、系統別に組合別人員数を計上することを求めた。さらに、同副長は、同月二三日、調査期間を同年五月七日から同月一三日までとして同様の調査及び報告を求める「社章、氏名札等の着用状況調査について(第2次)」と題する事務連絡を行った。右二回の調査の結果報告によると、組合バッジ着用者は、第一次調査で五六四五名(全体の八・八パーセント)、第二次調査で二七九八名(同四・四パーセント)であり、そのほとんどが国労組合員であった。

(三)控訴人の人事部勤労課長は、昭和六二年四月二〇日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「社章、氏名札着用等の指導方について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、「組合バッヂ着用者に対しては、服装違反である旨注意を喚起して、取り外すよう注意・指導すること。その際の注意等に対する言動を含めた状況を克明に記録しておくこと。繰り返し注意・指導を行ったにもかかわらず、これに従わない社員に対しては、「就業規則」、「社員証、社章及び氏名札規程」に違反するとして厳しく対処することとし、人事考課等に厳正に反映させることとされたい。」と指示した。これを受けて、東京圏運行本部の総務部人事課長及び勤労課長は、関係現業機関の長に対し、翌二一日、同旨の事務連絡を行い、さらに、同月二八日、「服装等の整正状況のは握について」と題する事務連絡を行って、決められた服装をしない社員の整正状況について個人別把握を行うよう指示した。さらに、控訴人の人事部勤労課長は、同年五月二一日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「服装違反者に対する注意・指導の徹底について」と題する事務連絡を行い、「依然として管理者の注意・指導に従わず、服装違反を繰り返している社員が見受けられることは甚だ遺憾である。」として、更に強力に注意・指導の徹底を行い、直ちに改善されるよう取り組むべきことを指示した。

 控訴人の人事部長は、昭和六二年五月二八日、関係各機関の総務部長等に対し、「服装違反者に対する方針について」と題する事務連絡を行い、「未だ多数の者がこれら管理者の注意・指導に従わず、社章、氏名札を着用せず、組合バッヂ等を着用して勤務に就いていることは誠に遺憾であるといわざるをえない。」として、「これら服装違反者に対して、従前の注意・指導を踏まえて一層の改善をはかるべく、さらに強力に取り組まれたい。」と指示した。その中で、同人事部長は、「社章、氏名札の未着用及び組合バッヂ等を着用して勤務した者に対しては、厳正に対処せざるを得ないことをここに警告する。」旨の警告文の案文を示して、これを参考に「各現場での点呼、掲示等により社員に対して周知徹底を図り、改善の実をあげるとともに、貴職におかれては現場の実態について完全に把握し、厳正な対処の準備を図られたい。」と指示した。これを受けて、東京圏運行本部総務部長は、同日、各現業機関の長に対し、「服装違反者に対する方針について」と題する事務連絡を行い、その中で、右案文と同内容の東京圏運行本部長名による警告文案を示し、これを参考として会社の右方針の周知徹底を図るべきこと等を指示し、翌二九日、各現業機関において、右文案どおりの警告文が掲示された。

 以上のような経緯を経て、控訴人は、昭和六二年六月一二日、本件組合バッジを着用していた本件組合員らのうち原判決別紙組合員目録1記載の者に対し、本件処分を行い、

さらに、同年の夏季手当について、本件組合員らに対し、賃金規程一四五条三項に定める成績率(減額)の対象者に該当するとして、本件減額措置を行った。

 

 

ウ JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件 東京地判平24117労判106718

 

(エ)包括和解をめぐる動き

a 中労委は,平成16年9月16日及び平成17年1月21日,中労委に係属していた国鉄の分割・民営化と会社発足に伴う職員の配属発令並びにその後の兼務・配転等発令に関連する事件13件について和解勧告を行い,国労と原告JR東日本は,これを受諾して和解が成立した(甲2)。

b 中労委は,平成17年10月31日,中労委に継続していた昇進試験に関連する事件9件についても和解勧告を行い,国労と原告JR東日本は,これを受諾して,都労委係属事件14件を含む合計23件について和解が成立した

 さらに,P10及び原告P1ら8名は,同月5日,国労中央本部及び東日本本部に対し,原告JR東日本の不当労働行為体質は何一つ変わっていないにもかかわらず労働委員会係争事件を全面的に取り下ろす今回の和解は原告JR東日本への全面屈服にほかならないなどとする抗議文を提出したが,中央本部及び東日本本部ともに回答しなかった。

d 中労委は,平成18年11月6日,国労組合員の会社への採用問題を除き,出向・配転等に関連する事件30件,バッジ処分事件11件及びその他不利益取扱い等に関連する事件2件の合計43件の抗争事件について和解勧告を行い,国労及び原告JR東日本は,これを受諾して,出向・配属等の不当労働行為が争われた都労委ほか3県労委の係属事件6件,バッジ処分の都労委係属事件10件及びその他の不利益取扱い等の都労委係属事件2件を含む合計61件について和解が成立した。

 これにより,P10及び原告P1ら8名並びにその他国労組合員による個人申立て事件を除き,国労と原告JR東日本との間の労働委員会における係争事件は全て終結した。

(4)前提事実及び上記認定事実等を基に検討する。

ア 前提事実(4)ア記載のとおりの国労バッジの形状及びその着用が身体的活動としての労務提供に格別支障を生じさせないことからすれば,その違反行為の内容に照らし本件各処分の量定については異論を差し挟む余地もないではない。加えて,前記のとおり,国労が,昭和62年3月末に国労バッジ着用指示を出していたこと,原告JR東日本と国労とが分割民営化を巡って対立してきた経緯があること等に照らせば,国労バッジ着用行為に対する本件各処分(出勤停止5日または10日であって,賃金等の減額のみならず夏季手当15%の減額を伴う重い処分である。)が,原告JR東日本の国労に対する嫌悪の念に発したものであるとする見方も成り立ち得る余地はあろう。

イ しかし,原告JR東日本は,国労組合員等の組合バッジの着用について,昭和62年4月の設立当初から一貫して厳正に処分する姿勢を示し,実際に違反者に対し訓告等の処分を繰り返し行っていたものであり,平成14年3月28日の本件警告文の掲出は,時期的に四党合意に関し与党からの三党声明が出された時期(平成14年4月26日)と近接しているものの,設立当初からの基本的な方針に沿う,その延長線上の行動であったということができる。原告JR東日本設立以降,本件警告書掲出までの間でみても,P10らの国労バッジ着用による就業規則違反行為は約15年間にわたり多数回に及ぶもので,かつ,同人らが何ら態度を変える様子もなく違反行為を反復,継続していたことからすれば,その処分量定を加重していくこと自体には合理的な理由があるものであって,過重な処分がなされたことのみを理由に,直ちに,本件各処分が不当労働行為意思の発現であると認めることはできない。

 当初は組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示し,組織としても不当労働行為救済申立てを行うなどしてきた国労が,平成14年3月末以降は,組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり,平成18年11月には,バッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げていること,国労は,組合バッジ着用に関し,機関決定違反として統制処分をするまではしないが,支持はしないという態度であること,平成15年7月以降は国労バッジ着用者がP10のみとなり,P10が再就職して国労バッジの着用を止めた後,その活動を引き継いで行おうとする動きもなかったこと等にかんがみれば,P10のバッジ着用行為に組合活動としての保護が与えられるのは前記のとおりであるとしても,遅くとも本件各処分の対象となった平成19年ころには,既にその組合活動としての色彩が後退し,P10の個人的行為の側面が強くなっていたことは否定できないところである。

オ 以上の諸事情を考慮すれば,前記ア記載の事情を考慮しても,本件各処分から原告JR東日本の支配介入の意思が推認されるとはいえず,本件各処分が支配介入に当たるということはできない。

(5)以上のとおり,原告JR東日本が本件各処分を行う決定的な動機が,四党合意の受入れに反対するP10及び原告P1ら8名の国労内少数派の存在を嫌悪したことにあると認めることはできないから,本件各処分を支配介入行為であると認めることはできない。

2018/08/19

私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその6)

承前

 

2.国鉄・JR判例の検討

 

 ここでは、私鉄と同業種といえる国鉄、JRにおけるリボン闘争、組合バッジ等事件の判例を分析して、私鉄総連春闘ワッペン問題を攻略するにあたって有効な手法とは何かを明らかにしていきたい。

 

(1)国労青函地本リボン闘争事件

 

 本件リボン闘争とは、国労が昭和45年春闘に際し三月中旬ころから全国各支部に闘争指令を発し、右指令に基づき青函地本は同月二〇日ころよりリボン闘争を含む職場点検闘争に入ることを各職場分会に指令した。

 これにより国鉄青函局管内では国労組合員が同年三月二〇日から五月八日にわたって「大巾賃上げを斗いとろう、16万5千人合理化紛砕」と書いた黄色のリボン(縦10㎝横3.5㎝)制服に着用して勤務に就いた。

 当局は再三に亘って取り外しを指示したが、従わなかった組合員延べ492名を訓告処分に付し、このうち54名が国鉄総裁を相手取って訓告処分無効確認と損害賠償請求の訴訟を起こしたものである。

 一審はリボン着用を正当な組合活動として訓告処分を無効としたが、控訴審ではリボン闘争を違法とする逆転判決となった。

 

 

ア 国労青函地本リボン闘争事件 函館地判昭47519判時66821

 

(ア)要旨

  

 一審函館地裁は、訓告処分を無効とし、訓告1回につき2500円の慰藉料の支払を命じた(一部認容、一部却下)。リボン闘争は、職務専念義務にも服装規定にも違反しないと判示した。

 

(イ)国鉄側の反論 抜粋

 

 二 反論の一(勤務中のリボン着用行為等の違法性)

1 日本国有鉄道法第三二条は、日本国有鉄道職員の服務の基準として「職員は、その職務を遂行するについては誠実に法令および日本国有鉄道の定める業務上の規程に従がわなければならず、又、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない」旨を規定し、国家公務員法第九六条第一項、第九八条第一項、第一〇一条第一項とほゞ同様のことを規定している。

 原告らは、本件の勤務中のリボン着用行為は組合員の連帯意識と団結強化をはかるとともに、団結を示威する組合活動である旨主張しているが、このことは原告らが勤務時間中組合活動をしたことを自認し、又、組合の被告に対するデモンストレーシヨンないし示威運動をしたことを認めるものである。

 原告らが執務をとりながら他方示威運動等の組合活動をすることは、職務に専念していることにならないばかりか、次に述べる服制についての法律や日本国有鉄道の定める規程にも違反するものである。

 すなわち、被告日本国有鉄道の職員に対しては、その勤務中の服装について種々の規定(安全の確保に関する規程第一四条、職員服務規程第九条、営業関係職員の職制及び服務の基準第一四条、服制及び被服類取扱基準規程第三条・第九条、鉄道営業法第二二条等)が設けられ、現場の職員に対し制服(作業服を含む。)を着用し、服装を整えて勤務することを命じている。

 法律又は被告日本国有鉄道が、その職員に対し、服装上の規制をなす目的ないしその必要性は

(一) 国鉄の性格が公共の福祉を増進することを目的としているため、その職員も公共の福祉のために勤務し、公正中立かつ品位を保持して執務することが必要であるため(日本国有鉄道法第一条、就業規則第四条)。

(二) 職員が職務を執行する場合、旅客公衆に対し、国鉄職員であることを識別させると共に、不快感をあたえないため(鉄道営業法第二二条)。

(三) 職員が執務する場合、制服を着用し服装を整えることによって、或は又定められた作業服を着用することによって職務に対する認識心構えができ、そのため注意力が集中され、それにより列車・自動車の運転、船舶の運行の安全が確保されると共に、自己の身体の安全をも保持できるため(安全の確保に関する規程第一四条、運転取扱基準規程第一八条)

等である。

 したがつて、日本国有鉄道の職員のうち、制服の定のある職員は正規の服装を整えて執務することが、被告日本国有鉄道に対する職務を遂行するについての義務となっているものであり、職員がこの義務を履行することによって職場の規律が維持されるもので、リボン、ゼツケン、腕章、はち巻をつける等正規外の服装をして就労することは右労働義務の本旨に従った履行とはならないものであるばかりでなく、職場の規律を紊し、被告日本国有鉄道の業務の正常な運営を妨げることになるものである。

 

三 反論の二(本件訓告は原告らの権利を何ら侵害していない)

 原告らは、「被告職制の右行為は原告らの正当な憲法上の権利を故意又は重大な過失によって侵害したものである」と主張しているが、労働者の団結権、団体行動権が憲法上保障されているといつても、それにより、直接労使間の具体的な権利義務関係が発生するものではなく、国家が勤労者に対して、積極的に関与、助力して、その実現をはかる責務のあることを明らかにしたものである。

 しかも、憲法上保障されている労働者の団結権、団体行動権といえども絶対無制限のものではなく、使用者の有している権利と妥当な調和を保ちつつ、その範囲内においてなるべく保障しようという趣旨のものであつて、団結権や団体行動権が保障されている民間企業の労働者においても、就労義務と組合活動とは厳格に区別せられるべきものであつて、団結権、団体行動権が保障されているからといつて、組合活動の名の下になにをしても許されるというものではない。

 しこうして、いつたん、就労状態に入った以上、使用者の労務指揮権にしたがつて、誠実にその義務を履行すべきであって、使用者の労務指揮権の行使によって、組合活動が事実上阻止される結果となるとしても、これを以て、直ちに団結権の侵害とか団結権保障の精神にもとるものとして違法視すべき事柄ではない。

 まして、公労法により、団体行動権の制限を受けている日本国有鉄道の職員である原告らが、既述の法律や業務運営の必要上設けた諸規程に違反した故をもつて、上司より注意を受けたり、訓告を受けたことが、直ちに原告らの団結権を侵害したものということはできない。

四 反論の三(本件リボン着用は職場内慣行になっていない)

 

(ウ)判決書・抜粋

 

1 職務専念義務違反について

 ‥‥労働者の職務専念義務とは、使用者から要請されている一定の精神的ないし肉体的活動力を完全に提供すべき義務を意味するにすぎないと解すべきであるから、ある行為がこの義務に違反するかどうかは、それが勤務時間中の組合活動か否かによって一律に決せられるべきものではなく、当該行為の性質内容を具体的に検討したうえ、労働者が当該行為をなすことによってその精神的ないし肉体的活動力を完全に提供しなかつたことになるのかどうかによって判断すべきである。従って勤務時間中の組合活動であっても、右の意味で労働力を完全に提供していると評価されるときには、何ら職務専念義務に違反していないというべきである。

 ‥‥しかして、右リボンの着用はこれを制服等に付けることによって一切の有形的行為を終了しその後は格別の行為を必要としないものであるから、該リボンに記載された文言の内容にかゝわらず当該職種に要請される労務に精神的、肉体的に全力を集中することが可能であり、職務専念義務と両立し得ないものと解することはできない。

 ‥‥原告らが勤務時間中本件リボンを着用したことにより職務の遂行上注意力が散漫となり支障をきたしたものと認めるに足りる証拠はない。

 ‥‥本件リボンに記載されている文言が、労働者ないし労働組合の要求として不当なものであるとは認め得ないし、また、原告らの職種、本件リボンの形状およびその着用態様に照らすと、本件リボンを着用することによって原告らの服装がそれ自体で社会通念上異状ないし不快なものとなるとは言い難い。そうであるならば、労働者ないし労働組合が、団結権ないし団体行動権に基づいて、団結示威ないし連帯感強化行為として本件リボンを着用したこと自体を違法ないし不当な組合活動ということはできず、本件リボン着用行為は、それ自体としては正当な組合活動であつたと評価される。

 ‥‥本件リボンの着用によりこれら輸送の安全を害し、その正常な運営を阻害し或いは職場の公共性に支障をきたしたものと思料される特段の事情も認め難いところである。

 ‥‥本件リボンを着用したことは職務専念義務に反するものとは認め難いものといわなければならない。‥‥

2 服装違反について

(二)‥‥使用者が労働者の服装に関してなす規制は、労働者の労務提供義務の履行の態様を定めたものと解されるから、服装の規制が許されるのは、それが使用者の業務の遂行上合理的な理由がある場合に限られるのである。そして、合理的な理由の有無は、使用者の業務の性質や内容および当該労働者の職務内容について十分考慮して判断すべきことはもちろんであるけれども、このような点を考慮してもなおなんらの合理的な理由がないのに服装の規制をなすことは許されない。被告の前記「服制及び被服類取扱基準規程」第九条第三項も叙上の見地から解釈すべきであって、右規定があるからといつて他に何ら正当な理由なく、それが着用することを命じられていないとの理由によって社会通念上相当と認められる服飾類の着用を禁止することは許されない。‥‥。

(三) 被告は右服装の規制をなす目的ないし必要性について

‥‥国鉄職員であることの識別について考えると、本件リボン着用によって国鉄職員であることの識別に支障を来すものとは考えられない。また、旅客公衆に対する「不快感」の点についてみると、前記のような原告らの職務の内容、本件リボンの形状、大きさ、内容からみて通常の健全な社会的感覚を有する者に本件リボンの着用が不快感を与えるものとは考えられない。もつとも、多数の旅客公衆の中には不快感を抱く者がいるであろうことは否定できないけれども、その不快感は労働組合やその活動に対する個人的悪感情を原因とするものであろうと考えられる。しかしそのような現代の正常な労働法感覚に反する悪感情からくる不快感はなんら考慮すべきではない。

 第三に諸々の「安全の確保」については、ただ注意力の集中の点で問題となりうるが、これが余りにも抽象的な危険性であることは、さきに職務専念義務違反の判断において述べたとおりであり、これをもつて本件リボンの着用を禁止することは許容し難い。

 その他本件リボン着用行為によって被告の業務の遂行に支障を来したことを認めるに足りる証拠はない。

 以上のように考えると、社会通念、現代人の労働法的知識および感覚ならびに経験則に照らしても、本件リボン着用行為が被告が主張する服装の規制をなす目的ないし必要性に背馳しているとは認められず、本件リボン着用行為が服制違反になるものとしてこれを規制する合理的理由を見出すことができない。

3 職場の規律違反又は職務命令違反との関係

 (略)

4 むすび

 以上、本件リボンの着用が憲法、公労法等によって保障される団結権、団体行動権に基づくさゝやかな組合活動であることを思えば、これが格別の支障を生ずると認め難い本件においてはこれを正当なものとして許容すべきものというべきである。

七 本件訓告処分の効力

 本件リボン着用行為が法律および被告の定めた諸規程に違反しているとは認められないこと、被告が原告らに対し本件リボンの着用を禁止したことに合理的理由があつたとは認められないことおよび原告らの本件リボン着用行為が正当な組合活動と認められることは前記のとおりである。‥

 

 国鉄は控訴した

 

イ. 国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529判時7046 

 

(ア)要旨

  原判決中控訴人の敗訴部分を取消、被控訴人の請求をいずれも棄却する逆転判決。リボン着用は職務専念義務に違反し、鉄道営業法第22条及び国鉄の服装に関する定めに違反し違法であり、取外し命令に従わない職員の訓告処分を適法とした。リボン闘争を違法とする判断枠組を示したリーディングケースである。

 

 

(イ)判決書・抜粋

 

 1 職務専念義務違反について

 日本国有鉄道法第三二条第二項は、「職員は、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない。」と規定する。その趣旨は、日本国有鉄道の職員は、勤務中は、法令等による特別の定めがある場合を除き、その精神的、肉体的活動力の全てを職務の遂行にのみ集中しなければならず、その職務以外のために、精神的、肉体的活動力を用いることを許さないとするものである。そして、これが法律に特に明記されているのは、右の趣旨の職務専念義務が、国鉄職員としての基本的な義務であり、国鉄職員が右義務を適正に果すことによって、はじめて、国鉄の目的である鉄道事業等の能率的な経営による公共の福祉の増進(日本国有鉄道法第一条参照)が可能となるからである。

 国鉄職員が勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、通常はこれによって当然に職務に対する注意力がそがれるから、かかる行為または活動をすることは、原則として職務専念義務に違反するものであり、ただ、その行為または活動が職務専念義務に違反しない特別の事情がある場合、すなわち、その行為または活動が職員の職務に対する精神的、肉体的活動力の集中をなんら妨げるものでないと認められる特別の事情がある場合に限り、その行為または活動は違法の評価を免れることができる。そして、かかる特別の事情の存否は、その行為または活動の性質、態様等を総合して判断すべきものであるが、特別の事情があるとするためには、その行為または活動が職員の職務に対する精神的、肉体的活動力の集中を妨げないことが確定される必要があり、その行為または活動が職員の右活動力の集中を妨げるおそれが存するときは、特別の事情があるということはできない。このように、職員の行為または活動が職務専念義務に違反するかどうかは、それが職務の遂行と関係があるかどうか、その行為または活動が職務に対する精神的、肉体的活動力の集中を妨げないものであるかどうかによって決せられるものであり、その行為または活動によって、具体的に業務が阻害される結果が生じたか否かは、右の判断とは直接関係がないものというべきである。

 そこで、右の見地から、被控訴人らの本件リボンの着用が職務専念義務に反するものであるかどうかを検討する。

 ‥‥被控訴人ら組合員は、本件リボンを着用することにより、国労の要求を明らかにし、これを支持する意思をあらためて自己確認するとともに、組合員の団結を固め、使用者に対する示威と国民一般に対する教宣活動とすることを目的としたものであることが認められる。右事実によれば,本件リボンの着用は、組合活動としてなされたものであり、被控訴人らの職務の遂行とまつたく無関係であることは明白であるから、本件リボンの着用によって、職務に対する精神的、肉体的活動力の集中がなんら妨げられなかつたと認められない限り、被控訴人らが本件リボンを勤務時間中に着用したことは、職務専念義務に違反するものといわねばならない。

 被控訴人らは、本件リボンの着用は労働義務の履行ないし円満な労務提供の義務の履行に実質的、具体的な支障がなく、そのおそれもないと主張する。本件リボンの着用行為は、有形的な行為としては、これを制服等につけることによって、その一切を終了するものであり、物理的には被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものではない。しかし、前記のとおり、被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、したがつて‥‥勤務の間中、組合員相互に本件リボンの着用を確認し合い、これを着用していない組合員には着用を指導していたものであつて、本件リボンの着用が精神的に被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものでなかつたとは到底認めることはできない。かえつて前記のような本件リボン着用の経緯、態様よりすれば、被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものというべきであり、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでなかつたことは明らかである。 

 よって、被控訴人らが勤務時間中本件リボンを着用したことは、職務専念義務に違反するものである。

2 服装違反について

 国鉄職員の服装については、鉄道営業法第二二条は「旅客及公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ」と規定し、この規定の趣旨を受けて、安全の確保に関する規程第一四条、職員服務規程第九条、営業関係職員の職制及び服務の基準第一四条、服制及び被服類取扱基準規程第三条、第九条等の定めがなされ、被控訴人らのような現業に従事する職員に対し、制服(作業服を含む。以下同じ。)を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられていることは、当事者間に争いがない。‥‥控訴人の服制及び被服類取扱基準規程では、現場職員の制服等の制式と着装方を定め、これを職員に貸与するものとし(第三条)、かつ「被服類には、腕章、キ章及び服飾類であって、この規程に定めるもの及び別に定めるもの以外のものを着用してはならない」(第九条第三項)と規定して、本件リボンのようなものの着用を禁じている。

 国鉄職員は、「その職務を遂行するについて、誠実に法令及び日本国有鉄道の定める業務上の規程に従わなければならない」(日本国有鉄道法第三二条第一項)のであり、被控訴人らの本件リボンの着用は、前記法律及び規程、なかんずく服制及び被服類取扱基準規程第九条第三項に反することが明白であるから、違法なものといわねばならない。

 被控訴人らは、使用者が労働者の服装について規制することができるのは、業務の遂行上その規制をすべき合理的な理由がある場合に限られるところ、本件リボンについては、その着用を禁止しなければならない合理的な理由はないと主張する。しかし、前記のとおり、国鉄職員のうち旅客及び公衆に対する職務を行なう者については、鉄道営業法第二二条によって、制服の着用が義務づけられており、また、直接右法条に該当しない者であっても、現業に従事する者について、公共の福祉の増進を目的とする国鉄の職員としての公正中立と品位を保持し、旅客公衆に対し国鉄職員であることの識別を可能ならしめ、かつ不快感を与えることを防止し、その職務が旅客公衆の身体、財産の安全にかかわるものとして、特に強く要請される職場規律の保持を確保するために、制服を着用すべきものとすることが必要であるから、控訴人の前記の諸規程において、被控訴人ら現業に従事する職員に対し制服を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられていることは、十分合理的な根拠を有するものであり、そして、右制服に、定められた服飾類以外の物を着用することを禁止することも、制服の性質、趣旨よりすれば、これを不合理な規制ということはできない。しかも、これを実質的に考察しても、旅客公衆は、国鉄職員であることとその職員の職務の内容を職員の制服と制服に着用された腕章、徽章等によって識別するのであるから、国鉄職員が着用するリボン、プレート等はその職務に関するものと考えることは当然であり、したがつて、国鉄職員が制服の上に職務と無関係のリボン、プレート、腕章等の記号を着用するときは、いたずらに誤解、混乱を招くおそれがあるから、これを禁止することについては十分の根拠があるものである。また、本件リボンは、前記のとおり組合活動として着用されたもので、その内容は組合の要求を記載したものであるところ、‥‥被控訴人ら国鉄職員がこれを着用して勤務していることに対し旅客公衆の中には不快感を抱く者があることは十分予想される。被控訴人らは、そのような不快感は反組合的感情で保護するに値しないと主張するが、しかし、その不快感が、本件リボンの内容である国労の要求内容に対する不満にあるのではなく、被控訴人らが職務に従事しながら本件リボンを着用して組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安によるものであるときは、国鉄が公共の福祉の増進を目的とする公法人で、その資本は全額政府が出資していることを考えると、右の趣旨の旅客公衆の不快感は十分理由があるものであつて、これを単なる反組合的感情にすぎないものということはできない。さらに、本件リボンと職場の規律、秩序の関係についても、本件リボンが前記のとおり国労の要求を記載したもので、これを着用することによって国労の団結をはかるものであるところ、国鉄内には、国労のほか、これと対立関係にある鉄道労働組合があることは顕著な事実であり、本件リボンの着用が鉄労組合員その他組合未加入者に心理的な動揺を与え、‥‥国労の組合員の中にも指令に反し本件リボンを着用しなかつた者が相当数あつたことが認められるが、これらの者にも精神的な重圧となったことも十分考えられ、勤務時間中の本件リボンの着用は、その勤務の場において、不要に職場の規律、秩序を乱すおそれのあるものというべきである。以上の次第で、本件リボンの着用を禁止すべき合理的な理由がないとの被控訴人らの主張は採用できない。

 よつて、本件リボンの着用は、控訴人の服装に関する定めに違反するものであり、法律及び控訴人の規程の遵守を求める法律に反する違法のものである。

3 職場内慣行について

 ‥‥控訴人がリボン闘争を容認したことはなく、本件のようなリボンの着用が職場内慣行となっていたと認める余地はない。

 よつて、この点の被控訴人らの主張は失当である。

4 むすび

 以上詳述したとおり、被控訴人らの本件リボンの着用は、職務専念義務に違反し、服装に関する定めにも違反する、違法のものである。

 被控訴人らは、本件リボンの着用は、団結権、団体行動権の行使としてなされた正当な組合活動であると主張する。本件リボンの着用が組合活動として行なわれたことは前記のとおりであるが、これが被控訴人らの基本的義務である職務専念義務に違反するものであり、かつ控訴人の服装に関する定めにも違反するものであってしかも、認定事実のとおり、被控訴人らは、一ケ月以上もの長期間、職務の時間の間中本件リボンの着用を継続していたものであるから、本件リボンの着用は、被控訴人らの団結権、団体行動権の行使として許容される限度を超えるものといわねばならず、被控訴人らの主張は採用できない。

四 本件訓告処分の適否

 ‥‥懲戒の基準に関する協約第一条第一号の「日本国有鉄道に関する法規又は令達に違反した場合」及び第三号の「上司の命令に服従しない場合」に該当することは明白であり、被控訴人らの訓告処分は、いずれも適法である。

 被控訴人らは、本件訓告処分は、労働組合法第七条第一号に違反し無効であると主張するが、被控訴人らの本件リボンの着用が正当な組合活動に当らないことは前記のとおりである‥‥

 

2). 国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529に示された厳格な職務専念義務論は、近年の国労バッジ事件判例で踏襲されている

 

ア、厳格な職務専念義務論の行方

 

  国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529はリボン闘争を違法とするリーディングケースであり、「日本国有鉄道法第三二条第二項‥その趣旨は‥‥国有鉄道の職員は、勤務中は、法令等による特別の定めがある場合を除き、その精神的、肉体的活動力の全てを職務の遂行にのみ集中しなければならず、その職務以外のために、精神的、肉体的活動力を用いることを許さないとするものである。‥‥勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、通常はこれによって当然に職務に対する注意力がそがれるから、かかる行為または活動をすることは、原則として職務専念義務に違反する‥‥その行為または活動によって、具体的に業務が阻害される結果が生じたか否かは、右の判断とは直接関係がないものというべき」と判断枠組を示したうえで、「本件リボンの着用行為は、有形的な行為としては、これを制服等につけることによって、その一切を終了するものであり、物理的には被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものではない。しかし、前記のとおり、被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、したがつて‥‥勤務の間中、組合員相互に本件リボンの着用を確認し合い、これを着用していない組合員には着用を指導していたものであつて、本件リボンの着用が精神的に被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものでなかつたとは到底認めることはできない。‥‥本件リボンを着用することにより、組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものというべきであり、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでなかつたことは明らかである。」

 この厳格な職務専念義務論は、 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974によって採用され、公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した。これは最高裁判例なので決定的な意義があった。

 

 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659の新村正人調査官判解は目黒電報電話局事件判決について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」としているが、これが法律家の標準的見解であり、通説でもある。

 

 例えば 菊池高志[1983]によれば、目黒電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべきとしており、この見方が有力なのである。

 ちなみに国鉄中国支社事件判決・最一小昭49228民集28166において日本国有鉄道法31条1項に基づく懲戒処分は、行政処分ではなく、私法上の行為としているから、国鉄職員懲戒処分の判例についても、公労法17条1項の争議行為が禁止されている点は別として異なるとはいえ、私企業一般の先例となりうる。

 

 ところが、大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、リボン闘争について最高裁が初めて判断を下し、本件リボン着用を就業時間中の組合活動として、労働組合の正当な行為にあたらないとし「原審の判断が結論において正当」としながら、最高裁自身の理由を示さず目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974を先例として引用なかったのである。

 引用せずとも同判決を踏襲した判断とみるのが有力ではあるが、理論的説示がなかったために、玉虫色的解釈を可能とし、定着していたリボン闘争違法論をやや混迷化させた印象を与えている。

 しかしながら、このことによって厳格な職務専念義務論の私企業への適用判断が行方不明になったわけではない。

 企業秩序論の無許可集会事案であるが、済生会中央病院事件最二小判平元・1211民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」と判示しているように、大筋で最高裁は一般私企業、組合活動においても、目黒電報電話局判決を引用せずとも踏襲している判断を示しているといえるのである。

 

 また、大成観光事件最高裁判決以降、純粋な組合活動事案で厳格な職務専念義務論をとっている下級審判例はけっこうある。ここでは6判例を引用しておく。

 

 

△国鉄鹿児島自動車営業所事件 鹿児島地判昭63627判時1303143頁裁判所ウェブサイト

 

「国鉄職員は国家公務員法の適用を受けないものの、公務員とみなされ(日本国有鉄道法三四条)、使用者たる国民に対してその勤務時間中は職務に専念すべき義務があり(同法三二条二項)、その肉体的、精神的活動を職務の遂行にのみ集中しなければならないものであるから、組合員バッチの着用が右職務専念義務に反するものである場合は、使用者としても、組合員に対して勤務中はバッチを外すべきことを命じうる」

 

●西福岡自動車学校腕章事件 福岡地判平7920労判695号133頁裁判所ウェブサイト

 

「組合活動である本件腕章着用闘争が労働組合の正当な行為であったか否かについて検討すると、一般に、労働者は労働契約に基づき、就業時間中その活動力をもっぱら職務の遂行に集中させるべき職務専念義務を負うものであって、就業時間中に組合活動を行うことはその具体的態様にかかわらず右職務専念義務に反するものであるから、使用者の明示・黙示の承諾や労使慣行が成立しているなど特別の事情がない限り、労働組合の正当な行為にはあたらないものと解するのが相当である」

 

 

●JR東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030判時162638

 

「本件就業規則三条一項の「社員は、被控訴人事業の社会的意義を自覚し、被控訴人の発展に寄与するために、自己の本分を守り、被控訴人の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない。」という規定は、社員の職務専念義務という観点からは、社員は、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。‥‥そして、労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり、‥‥本件組合バッヂ着用行為は、前示のとおり、組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、被控訴人の社員としての職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという被控訴人社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。 また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない」

 上記説示では、職務遂行に支障がなくても違反とも述べている。注目すべきは、わざわざ「労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっている」と述べ、職務専念義務をたんに、JR東日本就業規則3条1項の就業規則に反しているという観点だけではないことを示しているという点でパーフェクトに近い説示といえるだろう。

 判決の要旨は、勤務時間中に組合バッヂを着用する行為は、それが労働組合員であることを顕示して組合員相互間の組合意識を高め、使用者及び他の労働組合に所属する社員との対立を意識させ、注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであったと認められる等判示の事実関係の下においては、当該行為により職務の遂行が阻害される等の具体的な実害が発生しないとしても、企業秩序の維持に反するものであり、職務専念義務、勤務時間中の組合活動の禁止、服装の整正義務を定める就業規則の各規定に違反するとし、厳重注意や夏期手当の減額支給等の措置は不当労働行為に当たらないとした。

 なお上告審最二判平10・7・17労判744号15頁は「原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない」として棄却している。

 

△JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件・東京高判平11224判時1665号130頁裁判所ウェブサイト

 

「本件就業規則三条は、服務の根本基準について定め、同条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定している。これは、社員がその就業時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないこと、すなわち職務以外のことを就業時間中に行ってはならないことを意味するものである。ところで、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は、国鉄の分割民営化の過程で国労から多くの組合員が脱退していく中で、国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。

 なお、参加人らは、本件組合バッジの着用によって現実の職務遂行に支障を生じないので、本件組合バッジの着用は右規定に違反するものではないと主張するが、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきであり、参加人らの右主張は、採用することができない」

 この判決は上記説示部分は、JR東海(新幹線支部)R東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030とほぼ同じといってよいが結論は異なる。

 国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意、訓戒、55名に対し夏季手当5%減額の措置を不当労働行為とする。国労バッジの着用は、就業規則の服装整正規定違反、就業時間中の組合活動禁止規定違反、職務専念義務規定違反であり企業秩序を乱すものであるとし、取外し命令、懲戒、不利益処分を禁止するものではない。しかしながら「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても,それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」と述べ、「敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し」バッジ取外しの指示・指導等は「執拗かつ臓烈なもので,平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり」「就業規則の書き写しの作業などは,嫌がらせ」であり、「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入)に該当するとした。

 本件は、類似の事案で、JR東海新幹線支部判決が不当労働行為に該当しないと判示ししたのと食い違った結論を示している。本件JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件東京高判平11224の上告審最一小決平111111労働判例770号32頁は不受理なので、最高裁はどちらかというと不当労働行為にあたらないとするJR東海新幹線支部判決の判断に好意的と理解することはできると思う。

 

 

●JR西日本大阪国労バッチ事件 東京地判平241031別冊中央労働時報143420

 

「(ア)参加人の就業規則3条1項が,「社員は,会社事業の社会的意義を自覚し,会社の発展に寄与するために,自己の本分を守り,会社の命に服し,法令・規程等を遵守し,全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定して従業員に職務専念義務を課し,その具体化として,同20条3項が,「社員は,勤務時間中又は会社施設内で会社の認める以外の胸章,腕章等を着用してはならない。」と規定し,同23条が,「社員は,会社が許可した場合のほか,勤務時間中に又は会社施設内で,組合活動を行ってはならない。」と規定しているのは,‥‥勤務時間内における原告の本件組合バッジの着用が,形式的にいえば,就業規則3条1項,20条3項,23条に違反し,勤務時間中の組合活動を禁止した労働協約6条にも違反するものであることは明らかである。

 もっとも,就業規則は,企業経営の必要上,従業員の労働条件を明らかにするとともに,企業秩序を維持・確立することを目的とするものであるところ,その解釈・適用に当たっては,憲法28条が労働者に労働基本権を保障する一方,憲法29条が使用者に財産権を保障していることの趣旨にかんがみ,団結権と財産権との調和と均衡を図るべきであるから,形式的に上記各規定に違反するようにみえる場合であっても,実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは,上記各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である(最高裁判所昭和52年12月13日第三小法廷判決・民集31巻7号974頁参照)。

(イ)これを本件についてみるに,原告が勤務時間中に着用していた本件組合バッジが,縦1.2cm,横1.3cm四方の長方形の金属板状のものであり,黒地に金色のレールの断面図と「NRU」の文字(「国鉄労働組合」を英訳したNational Railway Unionの頭文字)とがテザインされており,裏側にあるピンを衣類に刺し,留具でピンを留めて着用する形状のものであることは,前提事実(4)ア記載のとおりであり,本件組合バッジは,必ずしも大きく目立つものではなく,国労の主義・主張が具体的に記載されているわけでもない。しかしながら,上記(1)で認定した国労と国鉄又は参加人を含むJR各社との労使対立の歴史の中では,国労の組合バッジの着用は,国労組合員が組合員であることを対外的に示すとともに,組合員相互間の団結・連帯の意識の向上という思想を外部に表明するための象徴的行為であるということができる。その後,国労と国鉄分割民営化と同時に設立されたJR各社とが,平成8年8月以降労使協調路線を打ち出し,平成11年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結し,平成12年3月以降中労委に係属していた不当労働行為救済命令申立事件を和解で終結するとともに,国労が四党合意の受入れを決議する中,国労の組合バッジの着用の意味合いは,労使協調路線を採用した国労執行部に対する抗議の意志の表明を含むものに変容したということができるが,原告の本件組合バッジの着用は,自らが国労組合員であることを対外的に示すとともに,その思想を共有する組合員との間の団結・連帯の意識を向上させ,一定の思想を外部に表明する行為であることには,変わりがないというべきである。

 他方で,一般私企業において,従業員は,労働契約を締結して労務提供のために企業に入ることを許されたのであるから,労働契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において,かつ,企業秩序に服する態様において,勤務時間中に行動することが認められているものであるところ,分割民営化前の国鉄においては,職場規律が弛緩し,ヤミ協定,悪慣行が横行し,企業秩序が乱れていたため,分割民営化による国鉄改革の必要性が叫ばれる中,事業を承継した参加人においては,これを是正するため,違法行為に対しては厳正に対処し,職務専念義務を徹底させることが求められていたということができる。そうすると,国労の組合バッジの勤務時間中の着用は,参加人の従業員としての職務の遂行には直接関係のない行為であることが明らかであるし,当該行為の趣旨・意味合いを考えた場合,勤務時間中,職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反するばかりでなく,ほかの従業員の意識が当該組合バッジに注がれることによって,勤務時間中に心理的影響を受けるおそれもあるというべきである。しかも,後記‥‥で判示するとおり,原告の従事した車両の検査修繕作業においては,事故防止のために所持品の落下に細心の注意を注ぐ必要があり,作業に不必要な物を現場に持ち込むことが禁止されていたことを認めることができる。

(ウ)以上によれば,本件組合バッジの着用は,企業秩序を乱すおそれのある行為であるといわざるを得ないから,実質的にみても,就業規則に違反するものというべきである。

 したがって,就業規則違反を理由とする本件各訓告は違法ではなく,本件各訓告等は,不利益取扱いの不当労働行為には当たらない。」

 

 

●JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止事件 東京高判25327別冊中央労働時報1445号50頁

 

 「補助参加人らは,〔1〕国労バッジ着用は労務提供義務と矛盾なく両立し,業務阻害性はなく,職務専念義務,服装整正義務に違反するとはいえない,〔2〕国労バッジ着用の組合活動としての必要性等を考慮すれば,国労バッジ着用行為には正当性があると主張するので,以下検討する。

(ア)補助参加人らの主張〔1〕について

 本件就業規則3条1項に定める職務専念義務は,社員は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

 そして,労働契約においては,労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労務契約の重要な要素となっているから,職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり,その行為が服装の整正に反するものであれば,就業規則20条3項に違反するといわなければならないし,また,それが組合活動としてされた場合には,そのような勤務時間中の組合活動は就業規則23条に違反するものといわなければならない。

 P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労組合員の中でも国労バッジ着用を止める者が大多数となっていく中で,国労内少数派として着用を継続したものと認められるが,国労執行部ないしは原告に対し,国労内少数派としての意思を表明し,また国労内における多数派に対し,少数派との対立を意識させるものといえ,また同時に,国労組合員のうち,自らの意思により国労バッジを着用していない者に対しても心理的影響を与え,当該組合員が職務に精神的に集中することを妨げるおそれがあるものであるから,かかる行為は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反し,また服装整正にも反するものとして,企業秩序を乱すものといわざるを得ない。

 補助参加人らは,国労バッジ着用に業務阻害性はないと主張するが,上記就業規則違反が成立するためには,現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当であり,補助参加人らの主張は採用することができない。」

 

 国労バッジとは,縦1.2cm,横1.3cm四方の長方形の金属板状のものであり,黒地に金色のレールの断面図と「NRU」の文字(「国鉄労働組合」を英訳したNational Railway Unionの頭文字)とがテザインされたものである。

 国労側の主張にみられるようにリボンやワッペンとは違って闘争的色彩はそれ自体はないようにも思えるし、たんに組合所属をあらわすたけという見方はありうる。

 また私鉄総連の春闘ワッペンのように目測で直径78cm、2018年のように赤色の原色を用いて目立つようなものではないといえる。

 私鉄の多くは、各労働組合の組合員らが、就業時間中に当該組合所属を表示する組合バッジや私鉄総連の定めた統一組合バッジを着用していることがあり、これに対して会社側はその着用を禁止していないということも国労側の主張にみられるが、小さなバッジまで徹底して禁止するJRの労務管理は私鉄との対比ではかなり厳しいともいえなくもない。

 しかし、上記の判例のように小さなバッジですら企業秩序をみだすものとして禁止でき、離脱命令、懲戒も可能であることを示しているが、企業秩序定立権の判例法理の趣旨からすればで当然のことともいえる。

 平成24年の東京地裁や平成25年の東京高裁といった比較的近年の判例が厳格な職務専念義務論を判示していることは、心強く思える。いずれも具体的乗務阻害がなくとも、それを着用していることが旅客の安全な輸送、鉄道の業務それ自体に支障がないということによって、正当化されることはないことも述べているのである。

2018/08/15

私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその5)

3)大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659をどう評価すべきか

 

前回 

 

http://antilabor.cocolog-nifty.com/blog/2018/08/post-13ec.html

  

承前

キ 結論(まとめ)

 

その1 本件リボン闘争を争議行為ではなく就業時間中の組合活動とした意義は有益である

 

 法廷意見はその理由を何も説示していないが、新村正人調査官判解が詳しく解説しており、原審のいう使用者に対する団結示威の作用、機能を直ちに争議行為とする根拠はないと述べている。最高裁はリボン闘争が類型的に争議行為に当たらないとする見解に好意的とも言っている。リボン闘争を争議行為としてとらえ正当性の限界を確定する理論的作業は困難というほかなく、積極的に解することはまずないのではないか。そうするとストライキと併用するケースを別として、労働組合側がリボン闘争は争議行為であるとして労組法8条の適用があると主張しても認められることはまずないといえる。

 リボン闘争が一般的に就業時間中の組合活動であるとすると、済生会中央病院事件最二小判平元・1211民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」勤務時間中の無許可集会に対する警告書交付は「労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎない」ので不当労働行為にあたらないと判示しており、この趣旨からすると無許可集会とリボン闘争を別異に解する理由もないから厳格な職務専念義務論にこだわらなくても企業秩序論的脈絡から封じることが可能と考える。

 

その2 判例法理上、目黒電報電話局事件判決の厳格な職務専念義務論が引用されてなくても同判決を踏襲もしくは依拠した判決と評価すべきであるが、しかし法廷意見に引用と理論的説示がない以上、労働組合側に反論の余地を与えており、実務的には企業秩序論に依拠してリボン闘争に対峙していく手法が堅実

 

 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974を引用することもなく、最高裁自身の理由を述べずに本件リボン闘争を組合活動の正当な行為にあたらないとしているが、目黒電報電話局事件判決を踏襲ないし依拠した判断とみるのが判例法理上の必然である。とすれば大筋で原審の一般的違法性を是認した判決とみなすのが妥当である。

 

 目黒電報電話局事件・最三小判昭521213民集317974公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した。

 新村正人調査官判解は目黒電報電話局事件判決について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」としているが、これが法律家の標準的見解であり、通説でもある。

 例えば 菊池高志[1983]によれば、目黒電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべきとしており、この見方が有力なのである。

(上記の見解に反対し、あくまでもこれは政治活動事案、公共部門の実定法の解釈で事案を異にするとして先例拘束性を認めない伊藤正己補足意見はプーレイバー的左派的な少数意見にすぎないが、裁判長の環昌一も目黒局事件判決では、反戦プレート着用を懲戒処分理由とは認めない見解を補足意見で示していることから、4人のち2人という半数の判事が左派で目黒局事件判決に批判的な立場のため先例拘束性を無視したので同判決は引用されなかったと推測できる。)

 

 しかし、いかに調査官解説が、目黒局判決は組合活動にも私企業にも適用されるのは判例法理上必然といっても、2判事の抵抗で法廷意見に引用と理論的説示がない以上、本件事案は正当な組合活動ではないとするものの、原審のリボン闘争の一般的違法性を是認していないとの解釈も一理あるため、リボン闘争を正当化する余地もあるとした伊藤正己補足意見に依拠してプロレイバー側に反論の余地を与えてしまっており、実務的には厳格な職専義務論だけでリボン闘争を封じこめることは少し厳しいように思える。目黒局判決を引用させなかった2判事の抵抗は不当に思えるが、実務的にはこのことによりリボン闘争を完封させないようにした影響は残念ながらある。

 実際、多くの判例が目黒局判決の判断枠組を引用しているが、比較的多いのが、形式的な就業規則違反では懲戒処分できないとする部分であり、職務専念義務論を引用する判例は少なく教員が国旗掲揚に抗議するため青いリボンを着用した国立ピースリボン事件・東京地判平18726裁判所ウェブサイトや、「OBJECTION HINOMARU KIMIGAYO」等と印刷したトレーナーを着用した都立南大沢学園養護学校事件・東京地判平29522TKCぐらいで、いずれも地方公務員法違反の事案である。 

 もちろん私は、使用者の私法上の権利を侵害する受忍義務説を否定し、リボン闘争を違法と判示した、本件一審東京地判昭50311の中川幹郎チーム判決、同じく国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48529の意義を高く評価し職場の規律秩序の正常化に寄与した意義を認めるが、厳格な職専義務=労働契約上の誠実労働義務の線だけで押し切る一本調子的な議論はそれなりの抵抗があるため、伊藤正己補足意見の主張の多くを否定し、今日まで安定的に維持されている企業秩序論の判例法理な依拠した手法で服装闘争に対峙していくのが堅実と考える。

 またフジ興産事件最二小判平151010判時1840144頁が、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定め、適用を受ける労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判示している以上、いずれにせよ就業規則等によって企業秩序を定立する必要がある。

 

その3 単独少数意見にすぎない伊藤正己補足意見が影響力を持っているのは異常である。主張の多くが企業秩序論の最高裁判例によって否定されていることから論外のトンデモ説といえる。

 

○「使用者の業務を具体的に阻害することのない行動は、必ずしも職務専念義務に違背するものではない」というが

 企業秩序論の判例法理は抽象的危険説で、具体的危険説は完全に否定されている。下記の最高裁判例は業務を具体的に阻害することのないことから経営内の無許可組合活動を正当化できないことを明らかにしている。

 

 既に引用した目黒電報電話局事件判決のほか

◇国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676

「本件ビラ貼付により‥‥業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等の事情のあることは‥‥いまだもつて上記の判断を左右するものとは解されない」

◇済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786

 無許可集会の警告書交付が病院の業務に直ちに支障が生ずるものではないことなどを理由に不当労働行為とした原判決を破棄自判

◇オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130

「組合がそれを使用することによる上告人の業務上の支障が一般的に大きいとはいえないこと‥‥などの事情を考慮してもなお‥‥、上告人の食堂使用の拒否が不当労働行為に当たるということはできない。 

 

○「職務専念義務に違背する行動にあたるかどうかは、使用者の業務や労働者の職務の性質・内容、当該行動の態様など諸般の事情を勘案して判断されることになる」と法益権衡的な諸般の事情を勘案する調整的アプローチを主張するが、企業秩序論判例はこれを明確に否定している。

 

◇日本チバガイギー事件最一小判平元・119労判5337頁3号

 労働組合の食堂使用および敷地内屋外集会開催の不許可が不当労働行為に当たるかが争われた。中労委の上告趣意書が法益権衡論である。上告趣意は「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」とする。この法益調整比較衡量は国労札幌地本判決が否定したプロレイバー学説の受忍義務説にかぎりなく近づいていく意味で判例法理の否定といってもよい。

 最高裁は集会不許可を「業務上ないし施設管理上の支障に藉口」するもので不当労働行為にあたる中労委の判断を違法とする原判決を維持し、「本件食堂の使用制限及び屋外集会開催の拒否が施設管理権を濫用したものとはいえず、したがって、右使用制限等が労働組合法七条三号所定の不当労働行為に当たらないとした原審の判断は、正当として是認することができ」るとして中労委の上告を棄却しているので調整的アプローチを否認したのである。

 

◇オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130

 組合執行委員長らによる守衛への暴言、脅迫を契機として業務に支障のない限り食堂の集会利用等の使用を承認してきた慣行を変更し不許可とした事案につき、東京地判平2221労判559号は不当労働行為に当たらないとして、中労委の救済命令を違法として取消した。ところが、控訴審東京高判裁平成21121労判583号は、それでは組合活動が著しく困難となるとして、不当労働行為に当たるとした。控訴審の判断が法益権衡論である。

 これに対し上告審最高裁第二小法廷判決は控訴審の判断を覆し、これまで業務に支障のない限り使用を認めてきたとしても、それが食堂の使用について包括的に許諾していたということはできないし、食堂の無許可使用を続けてきた組合の行為は正当な組合活動に当たらないとした。さらに条件が折り合わないまま、施設利用を許諾しない状況が続いていることをもって不当労働行為には当たらないとしたことから、調整的アプローチはとらないことを維持した判例といえる。

 

○「就業時間中において組合活動の許される場合はきわめて制限されるけれども、およそ組合活動であるならば、すべて違法の行動であるとまではいえない」とする見解も否定されている

 

 先に引用した済生会中央病院事件最二小判平元・1211民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」としているので、就業時間中の無許可組合活動が正当化される余地はなくなったといえる。

 

  上記引用した判例はすべて無許可集会等いわゆる企業施設の利用に関する判例で、リボン闘争とは事案を異にするとの反論があるかもしれないが、関西電力事件・最一小判昭589.8判時1094121頁は電力会社従業員が就業時間外に会社社宅にビラを配布したことに対してなされた譴責処分の効力が争われたところ、労働者には労働契約上労務提供義務とともに企業秩序を遵守すべき義務があるから、職場外の職務の遂行に関わらない労働者の行為であっても企業秩序に関係を有する場合、使用者が懲戒を課し規制の対象とすることも許されると判示しているように、施設管理権に限定することなく、企業秩序論の射程は広い。

 指導判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676が「思うに、企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであつて、企業は、その構成員に対してこれに服することを求め」ることができるとしており、ここでいう企業秩序とは、人的要素と物的施設の両者を総合した範疇であるから、ロッカーに貼るビラと同様、従業員の身体に着用するリボンや、ワッペンも企業秩序定立維持の観点から禁止できることは当然のことと考える。

 

 

その4 本件は原審の一般違法性を是認せず、特別違法性だけを認めたという解釈は難点があり、是認できないが、仮にそうだとしても有益な面がないわけではない。

 

 花見忠[1982]は、判旨にあらわれた限りでは、この判例を一般違法についての判断まで是認した趣旨と読むことはやや無理で、特別違法の観点からする判断、「一流ホテルにおける従業員の接客勤務態度に対する要請からみて『就業時間中に行われた組合活動』として正当な行為には当たらないとしたもの」との見解である。

 なるほど、原審の一般的違法性を是認したとの説示はない、しかし法益権衡論的な諸般の事情を勘案する調整的アプローチをとることはありえない。組合活動判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676がそれを否定しているので、先例と矛盾するからである。

 原審のホテル業務に関連した特別違法性の説示は諸般の事情を勘案するアプローチではなく、一般違法性だけでも十分であるのに、一般違法性を補強し、ダメ押しする論理として展開されているのであって、就業時間中のリボン闘争でも適法とされる場合があることを示唆する伊藤補足意見とは本質的に異なる。

 とはいえ、一般的違法性の是認は判文では不確定としつつも、少なくとも原審の特別違法性の論点を是認していることは間違いないとする趣旨なら、そのような解釈であっても有益な面はある。

 というのは原審のいう特別違法性「リボン闘争は、労使が互いに緊張していることをまあたりに現前させるので、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てる」という、左派の伊藤正己判事ですら認めているのであるが、ホテル業に限らず、従業員が客面に出るサービス提供業務一般に広くいえることであって、鉄道事業にもあてはまる。

 例えば、大手私鉄の主要路線では、有料着席ライナーを運行するようになったが、京王ライナーでは、空気清浄機が具えられたうえ、しばしの間お寛ぎください云々とのアナウンスが流れるのである。ところが着席状況を確認するため、車掌が各車両を見回るが、春闘シーズンには、私鉄総連のワッペンを着用し客にみせつけている。

 春闘ワッペンをみせつけて、第三者である乗客に春闘との連帯を訴えかける行為は、有料着席ライナーの指定席券を買った乗客が求める「休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁なことといえる」のであって、原審の説示した特別違法性は、他業種にも広く該当するといえるからである。

2018/08/12

私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその4)

3)大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659をどう評価すべきか

 

目次

ア、はじめに

(ア)多数意見の何が問題か

(イ)訴訟経過

A 事件の概要

B 東京都地労委命令昭47919

C 東京地判昭50311

D 東京高判昭5289

(ウ)最高裁自身の理由が示されていない意味

A 左派2判事の存在

B 企業秩序論に批判的な判事が半数では理論的説示は不可能

イ、論点1「誠意に労務に服すべき労働者の義務」に言及しなかった問題点

ウ、論点2 目黒電報電話局事件最高裁判決が引用されていない問題

エ、論点3 リボン闘争の一般的違法性を是認しておらず未解決の部分を残しているという判例批評は妥当か

オ、論点4 本件リボン闘争を争議行為ではなく、組合活動とみなした理由

カ、論点5 伊藤正己補足意見は単独少数意見にすぎず、主張の多くが最高裁判例で否認されているにもかかわらず過大評価されている

引用・参考文献

 

ア、はじめに

 

(ア)多数意見の何が問題か

 

裁判長環昌一、横井大三、伊藤正己、寺田治郎各裁判官全員一致の法廷意見の主要部分は以下の通り。

https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/han/h00209.html

 

 「‥‥本件リボン闘争について原審の認定した事実の要旨は、参加人組合は、昭和四五年一〇月六日午前九時から同月八日午前七時までの間及び同月二八日午前七時から同月三〇日午後一二時までの間の二回にわたり、被上告会社の経営するホテルオークラ内において、就業時間中に組合員たる従業員が各自「要求貫徹」又はこれに添えて「ホテル労連」と記入した本件リボンを着用するというリボン闘争を実施し、各回とも当日就業した従業員の一部の者(九五〇ないし九八九名中二二八ないし二七六名)がこれに参加して本件リボンを着用したが、右の本件リボン闘争は、主として、結成後三か月の参加人組合の内部における組合員間の連帯感ないし仲間意識の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という効果を重視し、同組合自身の体造りをすることを目的として実施されたものであるというのである。

 そうすると、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」

 

 本件はリボン闘争について最高裁が初めて判断を下し、これを就業時間中の組合活動として、労働組合の正当な行為にあたらないとし「原審の判断が結論において正当」とした(上告棄却)。

 とにかく減給・けん責処分を不当労働行為とした東京都地労委の救済命令を取消した原審の判断を最高裁が維持したのだから、法的にも実務的にも労働組合側に厳しい判決とはいえるが、「原審の判断が結論において正当」というときはその前に最高裁自身の理由を示すのが通例であるが、本件判旨はそれがない。

 このため、判文を読むかぎりでは原審の一般的違法性を是認したのか、伊藤正己補足意見のように顧客に不快感や嫌悪感を与え、ホテルの品格を損なうという本件の特殊事情を重視したものかは不明である。

 使用者は就業時間中の組合活動である限り大筋でリボン闘争を受忍する義務はない、否定的な判断を示したとも受け取ることができるが、理論的説示がないためリボン闘争について未解決の部分を残したとする評価もある。このためにそれぞれの立場で都合がよいように玉虫色的に解釈される傾向があるという問題がある。

 しかし、この判決から35年以上経過しても私鉄総連などワッペン闘争は行われており、これを法的に評価する場合、この先例をどう評価するかはかなり重要であるから、多数意見に最高裁自身の理論的説示がなかった意味を吟味し今日的観点から再評価したいというのが本稿の趣旨である。

 

(イ)訴訟経過

 

A 事件の概要

 

 昭和4510月、ホテルオークラ(従業員約1200人)の従業員で組織するホテルオークラ労働組合(組合員約300人)が結成三か月後、賃上げ闘争の一環として、2回にわたってリボン闘争を行った。

リボンは直径56センチの花形に長さ6センチ幅2センチの白地に「要求貫徹」「ホテル労連」という文字を黒や朱色で印刷されていたもの。第1回のリボン闘争は106日から8日午前7時まで、リボン着用者は約226名(客面に出た者約25名)、7日は276名(客面に出た者約59名)であった。

 会社はリボンを外すよう説得し、担務変更などの対抗策を講じたが、組合は無視しリボン闘争を強行したため、組合三役らの6名の幹部責任を問い、就業規則にもとづいて減給処分とした。

第2回のリボン闘争は、処分撤回の目的で団交決裂後の1028日午前7時から30日午後12時まで実行され、リボン着用者は28256名(客面に出た者は約50名)、29243名(同じく約49名)だった。119日賃金紛争は妥結し、11 日再び組合三役を譴責処分とした。

 

  

B 東京都地労委命令昭47919不当労働行為事件命令集47348

https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/mei/m00332.html

 

ホテルオークラ労働組合及びホテル労連は、減給及び譴責処分を労組法71号及び3号に違反するとして東京都地労委に救済を申し立て、東京都地労委は、労組法71号の不当労働行為に該当するとして、処分の取り消し、減給分の賃金の支払いを命じた。

命令の内容は、リボン闘争は、組合の団結を誇示し、団体交渉を有利に導くための日常的業務阻害行為であり、争議行為の一類型に存することは疑いないから、従業員の平常時に関する規律である就業規則をこれに適用することは誤りとした。またリボン着用者は出勤者のおよそ四分の一、しかも客面にでた者はその五分の一程度であり、会社と組合役員との間に若干の紛争があったとはいえ、この事態が勤務秩序を不当に乱したとは認められないとしている。

  

 C 東京地判昭50311民集364681判時77696

https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/han/h00003.html

 

 会社側は救済命令を不服として東京地裁に行政訴訟を提起した。

東京地裁判決はリボン闘争による団結示威の機能領域の異別という視点から、組合活動の面と争議行為の面とにわけて考察したうえ、「いわゆる組合活動の面においても、争議行為の面においても、労働組合の正当な行為ではありえないというべき」と断じ、救済命令を取消した。

 労働側が殆ど勝てないため地獄の東京地裁民事19部と恐れられた中川幹郎裁判官チームの有名な判決である。

 

 (判決理由の要約)

 

○組合活動としてのリボン闘争の一般的違法性

 

 労働者の連帯感を昂揚し、その士気を鼓舞するための集団示威は労働組合が自己の負担及び利益においてその時間及び場所を設営しておこなうべきもので、勤務時間の場で労働者がリボン闘争による組合活動に従事することは、人の褌で相撲を取る類の便乗行為であるというべく、経済的公正を欠く。労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下でのリボン闘争は、誠意に労務に服すべき労働者の義務に違背し違法であり、使用者はそれを受忍する理由はない。

 

○争議行為としてのリボン闘争の一般的違法性

 

 使用者の指揮命令に従って業務を遂行しつつ、それに乗じて団結の示威を行うことは、心理上の二重機能的メカニズム、一面従順、他面反噬という精神作用を分裂させて二重人格の形成を馴致する虞れがあり、労働人格の尊厳を損なう性質のものであるのに加え、リボン闘争に対して使用者が、賃金カット、ロックアウトで対抗するのは困難であって、労使間の公平の原則に悖るため、争議行為としても違法であり、使用者が受忍する理由もない。

 

○特別違法性

 

 リボン闘争は、労使が互いに緊張していることをまあたりに現前させるので、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てることなり、ホテルの品格、信望につき鼎の軽重を問われ、客の向背を左右することは必定。ホテル業の使用者において忍受しなければならない理由はさらにない。

 

 労働委員会は不服として控訴した。

 

D 東京高判昭5289民集364702

 https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/han/h00077.html

 

 控訴棄却、若干付加訂正したが一審の判断を維持。 労働委員会が不服として上告した。

 

 

(ウ)最高裁自身の理由が示されていない意味

 

 

A 左派2判事の存在

 

 4判事の結論は一致したとしても、その判断にいたる理由がまとまらなかったのは、先例である目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の判旨を批判している左派(非主流派)の2判事(弁護士出身の環昌一、学者出身の伊藤正己各判事)の存在を指摘できる。

 2判事は下記のような重要な労働事件で補足意見や反対意見を記し、プロレイバー学説に近い発言をしており、最高裁の主流派の考え方とは明らかに違う。

 仮に横井大三(高検検事長出身)、寺田治郎(高裁長官出身)各判事が主流派で先例拘束性に基づいて判断したとしても、22ではまとまらなかったということは容易に推測できる。

 

a)裁判長 環昌一判事の司法判断の傾向-左派、プロレイバー

 

 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の補足意見はビラの配布行為が、勤務時間内における組合活動をあおる行為にあたるものであることは否定しないとして戒告処分を適法とする一方、反戦プレート着用を懲戒処分理由としては公社就業規則の懲戒処分事由のいずれにも該当しないとしており、多数意見の論理構成を批判している。

○全逓名古屋中郵事件最高裁大法廷判決昭525・4民集313182 反対意見

 公労法17条1項の争議行為禁止規定に違反する争議行為は、刑事免責されないと判示して、東京中郵判決を判例変更した画期的判例だが、環判事は、五現業及び三公社の職員の争議行為も正当なものは刑事法上違法性が阻却されるという反対意見を述べている。

○神戸税関懲戒処分事件最三小判昭521220民集31-7-1101 反対意見

 公務員の争議行為を理由とする懲戒免職等を最高裁が初めて是認した指導判例であるが、環判事は賛同し難いとしている。

○全逓プラカード懲戒事件最三小判昭551223民集347959 反対意見

 郵便集配を職務とする国家公務員が、勤務時間外にメーデーに参加し、「アメリカのベトナム侵略に加担する佐藤内閣打倒‥‥」と記載された横断幕を掲げて行進したことを理由とする戒告処分を合憲適法とした判決で伊藤正己判事は多数意見であるが、環判事は懲戒処分を違法であるとの反対意見である。

 

b)伊藤正己判事の司法判断の傾向-プロレイバーに近い、嫌らしい意見を書く

 

○目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974

 本件補足意見は、同判決を批判するものであり、先例と認めていない。職務専念義務について厳格な理論を執拗に批判しているうえ、同判決のプレート着用が政治活動にあたること、実定法で職務専念義務の規定されている公共部門の職場における活動であつたことにおいて、本件とは事案を異にするので先例ではないとしているが、この見解は、先例無視、謝った解釈であることは後述する。

 

○広島営林署事件最三小判昭62320判時1228 補足意見  

 林野職員の約4時間のストライキ参加に対し1か月10分の1の減給処分を適法とした判決だが、伊藤補足意見は、同盟罷業の単純参加行為に対し、減給処分をもって臨むことが、その行為の違法性の程度に比して権衡を失していないか、いささか疑念の余地がないとする。

 

○池上通信機事件最三小判昭63・7・19判時1293 補足意見

 組合集会のための食堂の無許可使用に対する社内放送の利用による中止命令、警告書の交付をいわゆる施設管理権の指導判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676の判例法理にもとづき不当労働行為に当たらないとした原審を維持した判決である。

 伊藤正己補足意見は国労札幌地本判決の判断法理である『権利の濫用と認められるような特段の事情』に法益権衡的な違法性阻却の判断枠組みを設定し、風穴を開けようとする試みを行ったのがこの補足意見であるが[渡辺章2011、これは判例法理を変質させる性格のプロレイバー寄りの少数意見にすぎず、このような見解はその後も採用されたことはない。

 

「労働組合又はその組合員が当該施設を利用して行う組合活動が常に正当性がないということはできず‥‥特段の事情があるかどうかについては、硬直した態度で判断するのではなく、当該施設の利用に関する合意を形成するための労使の努力の有無、程度が勘案されなければならないことはもちろんであるが、さらに、いわゆる企業内組合にあっては当該企業の物的施設を利用する必要性が大きい実情を加味し、労働組合側の当該施設を利用する目的(とくにその必要性、代替性、緊急性)、利用の時間、方法、利用者の範囲、労働組合によって当該施設が利用された場合における使用者側の業務上の支障の有無、程度等諸般の事情を総合考慮して判断されるべきものであると考える」

 

類似の意見を中労委、下級審が試みているが、それは受忍義務説を否定した国労札幌地本判決の意義を否定するに等しく、先例の判断枠組に依拠しながら例外的な部分を拡張して、判例法理を換骨奪胎していこうという非常にいやらしい意見なのである。

 この考え方は下記の最高裁判例によりよって明確に棄却されており、この補足意見は破綻したといえる。

日本チバガイギー事件最一小判平元・119労判5337頁3号

済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786

オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130

 

○北九州市病院局事件最三小判平元・425判時1336128

 

 市長部局、教育委員会の1時間職場離脱、市立二病院(門司・八幡)の1日の同盟罷業を企画し遂行したことを理由とする市職執行委員長兼病院労組執行委員長の懲戒免職、その他組合幹部3名の停職六月を裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものではなく適法とするものであるが、伊藤正己判事は、市立病院の24時間ストについて日曜休日なみの診療体制が維持されていたとして懲戒免職が違法性の程度と対比して著しく均衡を失し違法との反対意見・補足意見を記している。

 その他北九州市事件最三小判平元6・20労判552の4判決に補足意見及び反対意見を記している。

 

 上記に示すように最高裁非主流派が半数をしめる小法廷では、理論的説示は不可能である。仮に非主流派の言い分を通せば先例と矛盾することになるからである

 

 

  B 企業秩序論に批判的な判事が半数では理論的説示は不可能

 

 昭和5289日の控訴審から、上告審判決昭和57413日まで5年近く経過しているが、その間に重要な判例法理の進展があった。最高裁が案出した企業秩序論の判例法理である

 富士重工原水禁事情聴取事件最三小判昭521213民集31-7-1037、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974、国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676である。

 とくに目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974は類似事案であり、国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676は、企業施設内の無許可組合活動に受忍義務はないと言いきった判例である

 本件原審も受忍義務説を否定しており、そもそもプロレイバー学説の受忍義務説を初めて否定したのが、中川幹郎チームの動労甲府ビラ貼り事件・東京地判昭和50715判時784なのである。

 原判決は、プロレイバー学説にみられる使用者の私法上の権利と労働基本権の法益権衡ないし調整論や、それにもとづく受忍義務説を明確に排除し、市民法(私法上の権利)・秩序重視を打ち出してきている点で、最高裁の企業秩序論と類似性、親近性があるといえる。 

 それゆえ、最高裁判例法理の進展を踏まえ本件上告審でも企業秩序論に関連づけた説示があってもよかったはずである。

 原判決は、就業規則に言及することもなく、労働組合の自主的対抗性の観点の理論的説示と、労働契約上の誠意に労務に服すべき義務に反するとして一刀両断にリボン闘争を違法としている。私はこれを名判決だと思うが、今日的観点では、就業規則を無視した議論は成り立たず(例えばフジ興産事件最二小判平151010判時1840144頁は、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定め、適用を受ける労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判示)、やや強引な印象を否めない。

 企業秩序論は一刀両断に違法とする論理とは異なり、企業が定立した企業秩序に実質的に反しているか否かで経営内の組合活動その他の正否を画定するものである。

 企業は、従業員に対し企業秩序に服することを求める権利があり、それは就業規則や労働協約に拠って定立され、企業秩序を乱した行為をした場合。実質的に就業規則等に反していれば具体的な業務阻害がなくても、法益権衡論による総合的事情を勘案する必要もなく、正当な行為な行為とみなさないというものである。

 この趣旨からすると、本件懲戒処分に適用された就業規則は、「第68条(2)この規則、会社の諸規程、諸通達に違反したとき、(3)勤務中会社の指定した服装以外のものを着用したとき」は出勤停止、減給に処する。但し情状により譴責に止めることがあるとするものであり、仮に客面に出ずとも、リボン着用が特殊は雰囲気かもしだしそれをみた他の従業員の職務への集中を妨げ、注意を散漫にするおそれ等の抽象的な理由等、あるいは不要に、職場の規律秩序風紀を乱すおそれがある、この規則が正常かつ能率的な業務運営を維持するために必要等の理由で、本件は形式的な就業規則違反でなく、実質的に規則に反し秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情は認められないのであるから、企業秩序論の判例法理から懲戒処分も是認できるし、正当な組合活動とはみなされないと評価されるのであって、そのような説示も可能であったか、そのような先例を引用した説示がいっさいないのは、既にのべたとおり2裁判官が、先例を認めない非主流派の立場にあるからである。

 

イ、論点1「誠意に労務に服すべき労働者の義務」に言及しなかった問題点

 

 本件最高裁判決がわかりにくい理由は、原審が「労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下でのリボン闘争は、誠意に労務に服すべき労働者の義務に違背し違法」としているのに、原審の判断を維持しつつも誠実労働義務に反し違法と言い切らない点にある。

 しかしながら、左派の伊藤正己補足意見も、原審の特別違法性の部分は是認し、リボン闘争は、「労働者の職務を誠実に履行する義務」と両立しないと述べており、結論は同じなのであるから、誠実労働義務の内容について不一致だったので言及がなかったとみてよい。

 

○実定法上の職務専念義務と労働契約上の誠実労働義務は同一内容とするのが通

 

 リボン闘争の先行する下級審判例(国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48529労民集243257、神田郵便局腕章事件・東京地判昭49527労民集25323、全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51130労民集2711、全建労事件・東京地判昭52725行裁集2867680等)と、目黒電報電話局事件判決は、下記の通り実定法上(国家公務員法96条、日本国有鉄道法第32条第2項、日本電信電話公社法第324)の職務専念義務違反としている。

 

●国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48529労民集243257

 本件はリボン闘争を違法とするリーディングケースで、国鉄職員が勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、具体的な業務阻害がなくても、職務に対する精神的・肉体的活動の集中を妨げない特別の事情がある場合を除いて国鉄法32条2項の職務専念義務に違反するとしたうえで、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものであるから、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでないことは明らかであり、職務専念義務違反とした。

 

 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974

 数日間継続して、作業衣左胸に、青地に白字で「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書いたプレートを勤務時間中に着用した行為に対する戒告処分を適法としたもの。

 判決理由は、局所内の政治活動を禁止する就業規則にたんに形式的に違反するだけではなく、実質的にみても局所内の秩序をみだすと判定し処分を是認しているが、職務専念義務論は、プレート着用が職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱しているから、実質的に就業規則違反になるという脈絡で展開されており、直接職務専念義務違反として処分を適法としている下級審判例と異なるが、その内容は、国労青函地本リボン闘争事件の判旨を踏襲しており、同じといえる。

 つまりプレート着用が公社就業規則5条2項の局所内の政治活動を禁止した規定に違反する行為とした。ただし、この就業規則は局所内の秩序風紀の維持を目的としたものであることにかんがみ、形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局所内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないという判断枠組を示したうえで、大筋以下の2点で実質的に局所内の秩序を乱すもしくは乱すおそれがあるので、就業規則違反として懲戒事由となると結論する。

 

a)職務と無関係な同僚への訴えかける行動は、職務の遂行と無関係な行動であり、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱している

b)他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、よって他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあることは局所内の秩序維持に反する。


 a)について同判決は、公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した。

 菊池高志[1983]によれば目黒電報電話局判決は「勤務中は‥‥職務以外のことは行ってはならないのが職務専念義務であると言う。そうである以上、職務専念義務違反の判断は、職務以外の行為があったという事実さえ認められれば目的、態様、行為の及ぼす影響などは改めて吟味を要旨はないこととなる」とするが、これが普通の解釈である

 

 国労青函事件札幌高裁判決や、目黒電報電話局事件上告審判決が示した職務専念義務論が、私企業の労働契約上の誠実労働義務と同一内容といえるかについては議論があるが、通説は同一内容とみなす。

「職務専念義務」あるいは「誠意に労務に服すべき義務」というにしても、法的に考えるならば、両者の義務は職場規律を遵守し、就業時間中仕事以外のこといっさいかんがえてはならない義務として使用されており、「誠意に労務を提供する義務」は職務専念義務と同一内容をもつものと考えられる[石橋洋1982]

 加えて最高裁は、国鉄中国支社事件判決・最一小昭49228民集28166において日本国有鉄道法31条1項に基づく懲戒処分は、行政処分ではなく、私法上の行為としているから、国鉄職員懲戒処分の判例は、公労法17条1項の争議行為が禁止されている点は異なるとはいえ、私企業一般の先例なのである。

 目黒電信電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、私企業一般の先例なのである。

 とすれば、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべき[菊池高志1983]という見方が有力なのである。

 とりわけ目黒局事件判決は最高裁判例であり無視できず、本件上告審においても、通説に従って雇用契約上の誠意に労務に服すべき労働者の義務において、被用者はその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならず、誠実労働義務違反というには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件としないとなぞった説示してもよいのに、それをしていないのは目黒電報電話局事件判決に批判的なプロレイバー2裁判官の存在であることは既に述べたとおりである。(次節の論点に続く)

 しかし職務専念義務=誠実労働義務を、本件上告審判決が説示しなかったことによって、目黒局事件判決等の論理構成が否定されたわけではもちろんない。裁判官の構成の特殊な事情で先例を引用しなかっただけといえる。

 目黒電報電話局事件判決は政治活動事案だが、下記の通り組合活動も含めて多くの判例がその判断枠組を引用しており、指導的判例として評価してよいのである。その引用のされ方は、必ずしも使用者側の立場ではない。形式的な就業規則違反では懲戒処分できないとい判断枠組もよく引用されているのが特徴である。

 もっとも職務専念義務の説示自体の引用は少ない、教員が国旗掲揚に抗議するため青いリボンを着用した国立ピースリボン事件や「OBJECTION HINOMARU KIMIGAYO」等と印刷したトレーナーを着用した都立南大沢学園養護学校事件といった公立学校教員の事件くらいである。これは、私企業では企業秩序論から、無許可組合活動を禁止できるので、非現業公務員を除いて厳格な職専義務論にこだわる必要性が少なくなったという事情によるものだろう。

 

 

○目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974を引用している判例

 

明治乳業福岡工場事件・最三小判昭58・11・1判時1100号511頁(政治活動)

電電公社帯広電報電話局事件・最一小判昭61・3・13労判470号(職員の精密検診)

倉田学園(大手前高(中)校・53年申立)事件・最三小判平6・12・20民集48-8-1496(ビラ配り)

JR東海(国労バッジ新幹線支部)事件・東京高判平9・10・30判時1626号38頁(組合バッジ)

大和交通事件・大阪高判平11・6・29労判773号50頁(タクシーパレード)

金融経済新聞社(賃金減額)事件・東京地判平15・5・9労判858号117頁(休憩時間中の集会)

国立ピースリボン事件・東京地判平18726裁判所ウェブサイト

産業能率大学教員解雇事件・東京地判平2224TKC

エスアールエル事件・東京地判平24227TKC(ビラ配り)

JR西日本(国労バッジ訓告処分)事件・東京地判平241031 別冊中央労働時報1434号20頁

JR東日本国労バッジ事件・東京地判平24117労判1067号18頁

JR西日本(動労西日本戒告処分等)事件・東京地判平26825労判1104号26頁(ビラ配り)

 都立南大沢学園養護学校事件・東京地判平29522TKC

 

 

 

 ウ、論点2 目黒電報電話局事件最高裁判決が引用されていない問題

 

(要旨)目黒電報電話局事件最高裁判決が引用されてなくても同判決を踏襲もしくは同判決に依拠した判決と法的には評価できるとみるのが有力である。しかし実務的には直接職務専念義務論から違法性を指摘するのではなく企業秩序論に依拠したほうが堅実である。

 

 伊藤正己補足意見は、目黒電報電話局事件・最三小判昭521213を「プレート着用が組合の活動でなかったこと、‥‥その着用が政治活動にあたること、それが法律によって職務専念義務の規定されている公共部門の職場における活動であったことにおいて、本件とは事案を異にする」先例とみなさない見解を示しているが、これはあくまで勝手な持論述べた少数意見にすぎず、先例無視といえる。

 なぜならば 新村正人調査官判解は目黒電報電話局事件最高裁判決について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」これは明確に伊藤補足意見を否定する見解でありこちらのほうが法律家の標準的な見解として信用できるからである。

 最高裁調査官の仕事は、当該事案の争点等の整理、過去の判例や学説の分析を裁判官に提示するが、結論の方向性を示すことはない。とはいえ担当の調査官が目黒電報電話局判決の判旨は組合活動にも私企業にも適用されることは「判例法理上必然」と言い切っていることは、多数意見が引用していないとしても先例拘束性から目黒電報電話局判決を踏襲している判決であると理解するのが有力と考える。

 このことは、裁判官の構成で左派が1人であれば、同判決に依拠した判断を示していた可能性を示唆するものである。

 同趣旨の判例批評としては菊池高志[1983]。多数意見は直接言及していないが、目黒電報電話局事件判決を強く意識した判決とする(言及があるのは伊藤正己補足意見であるが、多数意見が目黒局判決を強く意識したものであるからこそ、補足意見で批判しているという構図が成り立つ)。

 つまり、大成観光という一般私企業労使の関係においても、目黒電報電話局事件上告審判決と同様の判断枠組に立ち得る以上、大成観光リボン闘争事件上告審判決同事件判決は、組合活動が就業時間中の行為であるという事実さえ認定できれば、その結果・影響等を考慮することに立ち入ることなく判断を下し、これをもって足れりとできるのであって、先例の引用がないのは不可解としても、目黒電報電話局事件上告審判決を踏襲したものと解釈できるのである。

実質的に目黒電報電話局事件上告審判決の職務専念義務違反論に依拠した判決とみなしている点は、西谷敏[1983]の判例批評も同じ見解である。

 

 補足すれば、目黒電報電話局事件の判列法理は、組合活動における受忍義務説を明確に否定した国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30に踏襲されている。

 日テレ報道番組コメンテーターとしても活躍された河上和雄による判批[1980]は、「本判決が、具体的企業の能率阻害を判示せず、抽象的な企業秩序の侵害のおそれのみをもって、施設管理権の発動を認めている点は‥‥目黒電報電話局事件に関する最高裁判決(昭和五二・一二・一三)の延長線上にある判示として、あらためていわゆる抽象的危険説を確立したもの」と評されているとおりである。

 つまり目黒電報電話局判決に依拠した判決とする解釈が有力という観点では、大筋で原審のいう一般的違法性を是認した考え方に近いものであり、国労札幌地本ビラ貼り事件判決にも踏襲されている、抽象的危険説(業務の具体的阻害がないことは組合活動を正当化しない)、法益権衡的な、総合的事情を勘案した調整的アプローチを排除していることを意味するので、伊藤補足意見の主要な部分は失当ということになる。

 とはいえ、実務的には、本判決が目黒電報電話局判決を引用しなかった影響は小さくない。

 先に述べたとおり、目黒電報電話局判決の職務専念義務論を引用しているのは、企業秩序労が適用されない非現業公務員の懲戒処分に関する判例であり、JRの一連の国労バッチ事件でも、就業規則にある職務専念義務違反としているが、目黒電報電話局判決の該当部分は引用されていない。

 実務的にいえば左派2判事の抵抗は、服装闘争に対して企業秩序論や就業規則を介さずストレートに職務専念無義務違反=誠実労働義務違反としてバッサリ違法判断するような手法を低調にした原因にはなっている。

 したがって実務的には服装闘争に対して中止命令や懲戒を行うには、安定的に維持されている企業秩序論の判例法理にもとづいて、JR各社にみられるように、就業規則等で、職務専念義務の明文化、就業時間中の無許可組合活動の禁止の明文化、会社が認めていない、腕章、徽章、襟章、胸章等の着用の禁止を明文化しておくことが堅実な対策といえるのである。

 ただ、かりに実務的に目黒局判決の引用は難しいとしても一方で、石橋洋[1982]は「昭和四十八年以降の下級審判例においてリボン等着用等を違法とする違法とする考え方が顕在化し、定着しつつあっただけに、最高裁がリボン闘争の正当性を否定する見解を明らかにしたことは、最高裁の主観的意図にかかわらず、受忍義務説を否定するリボン等着用闘争違法判決における正当性評価の判断枠組を追認し、集大成する意義をもつことになる‥‥」というように、目黒局判決にこだわらずとも、大筋でリボン闘争の受忍義務説を否定してきた下級審判例の傾向を追認したものとの評価もあるから、国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48529労民集243257、神田郵便局腕章事件・東京地判昭49527労民集25323、全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51130労民集2711、全建労事件・東京地判昭52725行裁集2867680等、リボン闘争等を違法とする判断を大筋で肯定した判決とみてよいのであって本判決が、なにか労働組合側に有利な要素のある判例とはいえない。

 

 

エ、論点3 リボン闘争の一般的違法性を是認しておらず未解決の部分を残しているという判例批評は妥当か

 

 花見忠[1982]は、判旨にあらわれた限りでは、この判例を一般違法についての判断まで是認した趣旨と読むことはやや無理で、特別違法の観点からする判断、「一流ホテルにおける従業員の接客勤務態度に対する要請からみて『就業時間中に行われた組合活動』として正当な行為には当たらないとしたもの」との見解である。

 しかし、顧客に不快感や嫌悪感を与え、ホテルの品格を損なうという特殊事情を重視して結論を支持しているのは伊藤正己補足意見であって一少数意見に引きずられた見解といえる。

伊藤補足意見が主張する法益権衡的な諸般の事情を勘案するアプローチは原審が否認した東京都地労委命令にもみられるが、原審は東京地労委命令の論理構成を全面的に否認するものであって、最高裁判決多数意見が企業秩序論の先例を否定している調整的アプローチをとったうえでの判断とることはありえないし、一言も言ってないのにそのように断定することは不可能である。

 しかも原審のホテル業務に関連した特別違法性の説示は諸般の事情を勘案するアプローチではなく、一般違法性だけでも十分であるのに、違法の論理を補強し、ダメ押しする説示として展開されているのであって、就業時間中のリボン闘争でも適法とされる場合があることを示唆する伊藤補足意見とは本質的に異なる。

 とはいえ、一般的違法性の是認は判文では不確定としつつも、少なくとも原審の特別違法性の論点を是認していることは間違いないとする趣旨なら、そのような解釈であっても有益な面はある。

 というのは原審のいう特別違法性「リボン闘争は、労使が互いに緊張していることをまあたりに現前させるので、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てる」という、それは左派の伊藤正己判事ですら認めている趣旨は、ホテル業務に限らず、サービス提供業務一般に広くいえることであって、鉄道事業にもあてはまる。

 例えば、近年大手私鉄の主要路線で有料着席ライナーが運行するようになったが、京王ライナーでは、しばしの間お寛ぎください云々とのアナウンスが流れるのである。着席状況を確認するため、車掌が各車両を見回るが、春闘シーズンには、私鉄総連のワッペンを着用し客にみせつけている。

 これは有料着席ライナーの指定席券を買った乗客が求める「休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁なことといえる」のであって、原審の説示した特別違法性は今日的問題、他業種にも広く該当するといえるからである。

 本件ホテルオークラは、VIPが宿泊する一流ホテルであり、それゆえリボン着用のまま客面で出るようなことは極力避けたいという使用者側の事情はよくわかるが、それがリボン闘争と違法した決め手などとするのは限定的に解釈しすぎだろう。

 とはいえ、本判決は本件事案について組合の正当な行為ではないとしているだけで、リボン闘争一般について未解決の部分を残している解釈は否定できないし、そのような読み方も可能である。本件は懲戒処分事案であるが、少なくともリボン着用が債務の本旨を履行しないものとして賃金カットしたり労務提供を拒否したりする事案については最高裁の判断がないから未解決とはいえるだろう。

 しかし、本判決をいかに労働組合側に有利なニュアンスがあると解釈したとしても、国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030以降,組合活動に対して企業秩序定立権に関する判例法理が最高裁によって案出され、同判決は指導判例とされ、同判決を引用する判決は多く、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786、オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130頁等、その判例法理は安定的に維持されていることから、既にのべたとおりそれは就業規則や労働協約を根拠とすることが前提となるが、企業秩序論の脈絡からリボン闘争等に対し中止命令し、懲戒に付すことも可能である。

 例えば組合バッジの事案でJR東海新幹線支部国労バッジ事件 東京高判平91030判時162638頁がそうである。

 したがって、本件最高裁判決が未解決の部分を残したとしても、リボン闘争を就業時間中の組合活動ととらえる限り、それが正当化される余地は小さいものだということができる。

もっとも、JR東日本神奈川国労バッチ事件 東京高判平11224判時1665130頁のように就業規則に実質的に違反しているから懲戒、不利益処分を禁止するものではないとしつつも「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても,それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべき」として不当労働行為にあたるとされる判例もあり、正当な組合活動でないという評価が、不当労働行為に当たらないという評価に直結しないので注意が必要ではある。

 要するに、企業秩序風紀規律の維持のために業務に無関係な徽章の着用を禁止するのであって、労働組合に対する嫌悪の意図などが決定的な動機でなければよい。

 

 

オ、論点4 本件リボン闘争を争議行為ではなく組合活動とみなした理由

 

 リボン闘争が争議行為なのか、その他の組合活動とするかは、当然にその法的性格を異にし、労組法7条1号との関係においても正当性の判断がことなりうるし、学説では労組法8条の民事免責を争議行為について認め、その他の組合活動について否定する見解があるので、重要な論点である

 東京地労委命令は争議行為とした。原審は本件リボン闘争を組合活動と争議行為の両面を兼ねそなえたものと捉え、いずれにしても違法としているが、最高裁は本件リボン闘争を争議行為ではなく就業時間中の組合活動とした。

 西谷敏[1983]によれば従来の判例・学説は伊藤補足意見の示している立場、リボン闘争自体が労務の停止に等しい場合は争議行為であるが一般には類型として争議行為には該当しないとするので、従来説にしたがったものとみることができるが、多数意見が伊藤補足意見と同趣旨であるかは判文では不明である。

 新村正人調査官の判解は、多数意見が説示してない、本件リボン闘争を争議行為とみなさない意味を説明しているが、原審の論理構成で、争議行為としているのは、一般論として、リボン闘争は作用、機能面において使用者に対する団結示威という一面があることを指摘しているにすぎず、具体的事実に基づいて争議行為とは認定していないので問題があると述べている。

 リボンの着用に嫌悪、異和感をもつ使用者に対して心理的圧迫を与えており、要求を知らせるとともに団結力を誇示し、第三者(顧客)ら対しても労使対立状況を知らせる作用、機能を有しているからといって、それが直ちに争議行為に当たるものとする根拠はないと述べている。

 それゆえ、原審の争議行為という認定は採用しなかったのであって、結局最高裁はリボン闘争が類型的に争議行為に当たらないとする見解に好意的なのだという。

そうすると、奥山明良[1989]はリボン闘争が類型として争議行為を構成しうるか、積極的に解した場合の正当性の基準や具体的範囲等も明らかでなく、未解決の問題として残されたと批評しているが、リボン闘争を争議行為としてとらえ、正当性の限界を確定する理論的作業は困難というほかなく、積極的に解することはまずないのではないか。

 つまり労働組合側がこれは就業時間中の組合活動でなく争議行為だと言い張り、労組法8条の適用があると主張するとしても、ストライキと併用している場合を別として、リボン闘争それ自体を争議行為と裁判所が認定する可能性はかなり小さいのではないか。

 

カ、 論点5 伊藤正己補足意見は単独少数意見にすぎず、主張の多くが最高裁判例で否認されているにもかかわらず過大評価されている

 

 伊藤補足意見が影響力を有しているとの見解がある。裁判所が服装戦術について否定的にもかかわらず、労働委員会命令の傾向は、服装戦術を団結活動の一環としてとらえ、服装規定にもとづく懲戒処分の不当労働行為性を認定するとされている。その根拠が伊藤補足意見なのだという。

 松田保彦[1982]によれば、「伊藤裁判官の補足意見により‥‥労働委員会が実態に即し、不当労働行為制度の趣旨を生かす判断を行う余地が残されるようになった」と肯定的評価がなされている。

 しかし、多数意見に理論的説示がないからといって単独の少数意見を相対的に高く評価する根拠はないばかりか、伊藤補足意見は、リボン闘争が争議行為の類型には当たらないとした以外の主要な主張は、先例を無視した勝手な持論であり,後の最高裁判例においても伊藤補足意見の趣旨は完全に否定されていることから、影響力を持つ事自体が不当である。

 逐一検討すれば下記のとおりである。

 

 目黒電報電話局事件・最三小判昭521213を「プレート着用が組合の活動でなかったこと、‥‥その着用が政治活動にあたること、それが法律によって職務専念義務の規定されている公共部門の職場における活動であつたことにおいて、本件とは事案を異にする」と先例ではないとしている意見について

 

 繰り返しになるが 新村正人調査官判解は目黒電報電話局事件最高裁判決について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」と述べ、伊藤補足意見は否定されており、こちらが通説である。

 

 「使用者の業務を具体的に阻害することのない行動は、必ずしも職務専念義務に違背するものではない」「職務専念義務に違背する行動にあたるかどうかは、使用者の業務や労働者の職務の性質・内容、当該行動の態様など諸般の事情を勘案して判断されることになる」とのプロレイバー学説に拠った意見について

 

 この見解は目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の先例に反するほか、具体的な業務阻害がないことは、企業施設内の組合活動を正当化しないこと、法益権衡論的な総合的に諸般の時用を勘案する調整的アプローチを否定する判旨は下記の判例にみられることであって最高裁によって明確に否定されている主張である。

国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676

済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786

オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130

 

○「就業時間中において組合活動の許される場合はきわめて制限されるけれども、およそ組合活動であるならば、すべて違法の行動であるとまではいえない」とする意見について

 

 就業時間中の組合活動はすべて違法とまでいえないとする見解は、先に引用した済生会中央病院事件最二小判平元・1211民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」としたうえで、勤務時間中の無許可集会に対する警告書交付は「労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎない」ので不当労働行為にあたらないと判示したことによって、勤務時間中の無許可組合活動が正当化される余地はなくなったのであって、伊藤補足意見は完全に否定されているというべきである。

 

 引用・参考文献

 

 石橋洋

1982「組合のリボン闘争戦術と実務上の留意点-大成観光(ホテルオークラ)事件」労働判例391号【ネット公開】

1987「企業内政治活動・ビラ配布の自由と企業秩序 : 目黒電報電話局事件・明治乳業事件判決を素材として」季刊労働法142【ネット公開】

奥山明良

1989「リボン闘争――大成観光事件」別冊ジュリスト101244

樫原 義比古

1985「就業時間中のリボン闘争の正当性」法政論叢 21【ネット公開】

門田信男

1982「ホテル従業員のリボン着用闘争[重要判例解説][労働判例]:大成観光事件」季刊労働法124189

河上和雄

1980「企業の施設管理権と組合活動--昭和541030日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」法律のひろば331

菊池高志

1983「労働契約・組合活動・企業秩序」法政研究 49(4)【ネット公開】

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1978「いわゆる服装斗争の法的考察 : 人権規定の第三者効力との関連において」商経論叢27【ネット公開】

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小西国友

1983 組合活動に関する正当性の判断基準--大成観光事件を契機として-- 」『 判例時報 1067

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1975「協約自治の限界と政治活動禁止条項の効力-日本パルプ工業事件を中心に-」労判229

佐藤時次郎

1974「国労青函地本訓告処分無効確認損害賠償請求控訴事件 : 勤務時間中のリボン着用行為は職務専念義務等に違反」大東法学 創刊

新村正人

1986ホテル業を営む会社の従業員で組織する労働組合が実施したいわゆるリボン闘争が労働組合の正当な行為にあたらないとされた事例 法曹時報381

1987最高裁判所判例解説民事篇昭和57年度373頁)

高木紘一

1978「政治活動の禁止と反戦プレートの着用-目黒電報電話局事件」ジュリスト666

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1974「企業内における政治活動の自由-横浜ゴム事件・東京高裁判決をめぐって-」労働法律旬報850

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1982「ホテルオークラ労組員のリボン闘争事件」法律のひろば357

中嶋士元也

2002「就業時間中の組合活動――(1)大成観光事件,(2)JR東日本(神奈川・国労バッジ)事件――」別冊ジュリスト165200

西谷敏

1983「リボン闘争と懲戒処分――大成観光事件」ジュリスト臨時増刊792226

河上和雄

1980「リボン闘争の正当性-ホテル・オークラ事件最高裁判決」ジュリスト711

はやししうぞう

1982「労組員のリボン闘争についての最初の最高裁判例」時の法令1149

古川陽二

2016「就業時間中の組合活動:大成観光事件」〔労働判例百選 第9版〕別冊ジュリスト230176

松田保彦 

1982「いわゆるリボン闘争の正当性-ホテルオークラ事件」・法学教室22

宮橋一夫

1983「いわゆるリボン闘争の違法性」『警察学論集』365

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1980「憲法二八条とリボン闘争」法政論叢 16【ネット公開】

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1982「最高裁「リボン着用行動違法論」批判」季刊労働法12570

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1979「労働判例研究」法政研究 45(3-4)【ネット公開】

山口浩一郎

1982 「リボン闘争の違法性と使用者の対抗手段--最高裁「ホテルオ-クラ事件」判決を契機として」『労働法学研究会報』 33(20)

吉田美喜夫・2009「就業時間中の組合活動:大成観光事件」〔労働判例百選 第8版〕別冊ジュリスト197184

脇田滋

1997 「組合バッヂ着用を理由とする一時金減額の不当労働行為性/JR東海(新幹線支部)事件」法律時報692

渡辺章

2011『労働法講義下労使関係法雇用関係法Ⅱ』信山社出版

 

2018/08/03

谷川とむ議員を支持します

 

LGBT立法に反対すると表明されたことを支持します。

 米国においてLGBT運動は、公民権法に人種、性別、出身国等に加えて「セクシャル・オリエンテーションやジェンダー・アイデンティティ」による差別禁止を加えることを要求しているが、実現していない。

 ただし20州で性的指向の差別を禁止する法があるけれども各地でトラブルが起き、市民権委員会が同性愛を道徳的に承認しない人々を虐める事態になっており、性的指向等に関する差別禁止規定をもうける法制は強く反対である

 

 201865日の連邦最高裁判決Masterpiece Cakeshop, Ltd. v. Colorado Civil Rights Commissionは、宗教的信念によりゲイカップルを祝うカスタムウェディングケーキの提供を拒否したケーキ店がコロラド州の差別禁止法違反とされ、コロラド市民権委員会は従業員の再教育を要求したうえ、サービスを拒否したケーキ職人をナチナチスや奴隷所有者と同じ人権無視の輩、同性愛恐怖症、頑固者その他の暴言が吐かれ、利益の大きいウェディングケーキ事業から撤退せざるをえなくなったという事案だが、最高裁は72でケーキ店に有利な判決を下した。コロラド州法は宗教にもとづく差別を禁止しており、法律の公正な施行でなく不適切な対応としている。

 私がLGBT運動を不快におもうのは、それ西洋文明規範、至福千年の道徳的教訓を棄て去ることを要求するからである。

 プラトンは生殖と無関係な不毛な交わりを反自然的行為とし、男色行為は、一方の男性を女性の地位に下落させるので禁止すべきとした。

 アリストテレスは神に祝福される結婚という形態を介しての生殖行為は自然な行為なので善、同性愛、獣姦そのたの不自然な性行為は悪とした。肛門性交を反自然的行為として道徳的に承認しないのは西洋文明では正統的な思想であり規範である。

 保守的キリスト教徒は、男色行為は神に背く大罪とする。その論拠として創世記12728節、創世記22324節、レビ記2013節、マタイ1946節、ロマ書12632節等がある。

 私は聖書思想を否定するLGBT運動のような新奇な思想を嫌う。知の巨人たるプラトンやアリストテレス、アウグスティヌス、トマスの方を信用する。宗教、哲学的見地から離れて自然な感情からいっても、アナルセックスがノーマルだという認識をもつことを強制される理由など一つもないのである。 

 それに追従して人権尊重、多様性を唱える政治家も不快である。結局人権尊重の名のもとに、近代市民的自由、取引の自由、契約の自由、私的自治に干渉し、自由裁量を制約していく社会主義的運動であり、自由企業体制を侵食していくもの。あるいは人口8%といわれる票欲しさのためのもの。欧州人権条約なんて私からすれば糞くらえ、今のEUは世俗化のきわみにある文明規範から逸脱した腐った国々で、その政策をまねるべきではない。

 我が国では、同性愛者を敵視、虐待する文化的背景はなく、戦国時代の念友をピークとする男色行為文化が存在した。左大臣藤原頼長が同時発射は至高の快楽と台記に記しているとおりである。多数のオネエ系タレントが活躍するように、もともと寛容な社会であるので、LGBTを積極的に支援する政策に疑問をもつし、同性愛を道徳的に承認しない人々の自由を制約、迫害する立法になりやすいことを懸念する。

 ソチ五輪でEU首脳が問題視したのは「同性愛宣伝禁止法」であり、我が国にはもともと男色行為は犯罪ではなかったし、そのような法制も存在しない。また近年EU基本権庁が問題視したのはチェコの亡命手続きで、同性愛者という申告を確認するために、異性間のポルノグラフィを見せて、陰茎容積測定をすることがプライバシー侵害というものである(山本直『EU共同体のゆくえ)2018110P)。我が国ではそうしたことは行われていないのであり、他国から非難されることは何もない。

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