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2018/08/19

私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその6)

承前

 

2.国鉄・JR判例の検討

 

 ここでは、私鉄と同業種といえる国鉄、JRにおけるリボン闘争、組合バッジ等事件の判例を分析して、私鉄総連春闘ワッペン問題を攻略するにあたって有効な手法とは何かを明らかにしていきたい。

 

(1)国労青函地本リボン闘争事件

 

 本件リボン闘争とは、国労が昭和45年春闘に際し三月中旬ころから全国各支部に闘争指令を発し、右指令に基づき青函地本は同月二〇日ころよりリボン闘争を含む職場点検闘争に入ることを各職場分会に指令した。

 これにより国鉄青函局管内では国労組合員が同年三月二〇日から五月八日にわたって「大巾賃上げを斗いとろう、16万5千人合理化紛砕」と書いた黄色のリボン(縦10㎝横3.5㎝)制服に着用して勤務に就いた。

 当局は再三に亘って取り外しを指示したが、従わなかった組合員延べ492名を訓告処分に付し、このうち54名が国鉄総裁を相手取って訓告処分無効確認と損害賠償請求の訴訟を起こしたものである。

 一審はリボン着用を正当な組合活動として訓告処分を無効としたが、控訴審ではリボン闘争を違法とする逆転判決となった。

 

 

ア 国労青函地本リボン闘争事件 函館地判昭47519判時66821

 

(ア)要旨

  

 一審函館地裁は、訓告処分を無効とし、訓告1回につき2500円の慰藉料の支払を命じた(一部認容、一部却下)。リボン闘争は、職務専念義務にも服装規定にも違反しないと判示した。

 

(イ)国鉄側の反論 抜粋

 

 二 反論の一(勤務中のリボン着用行為等の違法性)

1 日本国有鉄道法第三二条は、日本国有鉄道職員の服務の基準として「職員は、その職務を遂行するについては誠実に法令および日本国有鉄道の定める業務上の規程に従がわなければならず、又、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない」旨を規定し、国家公務員法第九六条第一項、第九八条第一項、第一〇一条第一項とほゞ同様のことを規定している。

 原告らは、本件の勤務中のリボン着用行為は組合員の連帯意識と団結強化をはかるとともに、団結を示威する組合活動である旨主張しているが、このことは原告らが勤務時間中組合活動をしたことを自認し、又、組合の被告に対するデモンストレーシヨンないし示威運動をしたことを認めるものである。

 原告らが執務をとりながら他方示威運動等の組合活動をすることは、職務に専念していることにならないばかりか、次に述べる服制についての法律や日本国有鉄道の定める規程にも違反するものである。

 すなわち、被告日本国有鉄道の職員に対しては、その勤務中の服装について種々の規定(安全の確保に関する規程第一四条、職員服務規程第九条、営業関係職員の職制及び服務の基準第一四条、服制及び被服類取扱基準規程第三条・第九条、鉄道営業法第二二条等)が設けられ、現場の職員に対し制服(作業服を含む。)を着用し、服装を整えて勤務することを命じている。

 法律又は被告日本国有鉄道が、その職員に対し、服装上の規制をなす目的ないしその必要性は

(一) 国鉄の性格が公共の福祉を増進することを目的としているため、その職員も公共の福祉のために勤務し、公正中立かつ品位を保持して執務することが必要であるため(日本国有鉄道法第一条、就業規則第四条)。

(二) 職員が職務を執行する場合、旅客公衆に対し、国鉄職員であることを識別させると共に、不快感をあたえないため(鉄道営業法第二二条)。

(三) 職員が執務する場合、制服を着用し服装を整えることによって、或は又定められた作業服を着用することによって職務に対する認識心構えができ、そのため注意力が集中され、それにより列車・自動車の運転、船舶の運行の安全が確保されると共に、自己の身体の安全をも保持できるため(安全の確保に関する規程第一四条、運転取扱基準規程第一八条)

等である。

 したがつて、日本国有鉄道の職員のうち、制服の定のある職員は正規の服装を整えて執務することが、被告日本国有鉄道に対する職務を遂行するについての義務となっているものであり、職員がこの義務を履行することによって職場の規律が維持されるもので、リボン、ゼツケン、腕章、はち巻をつける等正規外の服装をして就労することは右労働義務の本旨に従った履行とはならないものであるばかりでなく、職場の規律を紊し、被告日本国有鉄道の業務の正常な運営を妨げることになるものである。

 

三 反論の二(本件訓告は原告らの権利を何ら侵害していない)

 原告らは、「被告職制の右行為は原告らの正当な憲法上の権利を故意又は重大な過失によって侵害したものである」と主張しているが、労働者の団結権、団体行動権が憲法上保障されているといつても、それにより、直接労使間の具体的な権利義務関係が発生するものではなく、国家が勤労者に対して、積極的に関与、助力して、その実現をはかる責務のあることを明らかにしたものである。

 しかも、憲法上保障されている労働者の団結権、団体行動権といえども絶対無制限のものではなく、使用者の有している権利と妥当な調和を保ちつつ、その範囲内においてなるべく保障しようという趣旨のものであつて、団結権や団体行動権が保障されている民間企業の労働者においても、就労義務と組合活動とは厳格に区別せられるべきものであつて、団結権、団体行動権が保障されているからといつて、組合活動の名の下になにをしても許されるというものではない。

 しこうして、いつたん、就労状態に入った以上、使用者の労務指揮権にしたがつて、誠実にその義務を履行すべきであって、使用者の労務指揮権の行使によって、組合活動が事実上阻止される結果となるとしても、これを以て、直ちに団結権の侵害とか団結権保障の精神にもとるものとして違法視すべき事柄ではない。

 まして、公労法により、団体行動権の制限を受けている日本国有鉄道の職員である原告らが、既述の法律や業務運営の必要上設けた諸規程に違反した故をもつて、上司より注意を受けたり、訓告を受けたことが、直ちに原告らの団結権を侵害したものということはできない。

四 反論の三(本件リボン着用は職場内慣行になっていない)

 

(ウ)判決書・抜粋

 

1 職務専念義務違反について

 ‥‥労働者の職務専念義務とは、使用者から要請されている一定の精神的ないし肉体的活動力を完全に提供すべき義務を意味するにすぎないと解すべきであるから、ある行為がこの義務に違反するかどうかは、それが勤務時間中の組合活動か否かによって一律に決せられるべきものではなく、当該行為の性質内容を具体的に検討したうえ、労働者が当該行為をなすことによってその精神的ないし肉体的活動力を完全に提供しなかつたことになるのかどうかによって判断すべきである。従って勤務時間中の組合活動であっても、右の意味で労働力を完全に提供していると評価されるときには、何ら職務専念義務に違反していないというべきである。

 ‥‥しかして、右リボンの着用はこれを制服等に付けることによって一切の有形的行為を終了しその後は格別の行為を必要としないものであるから、該リボンに記載された文言の内容にかゝわらず当該職種に要請される労務に精神的、肉体的に全力を集中することが可能であり、職務専念義務と両立し得ないものと解することはできない。

 ‥‥原告らが勤務時間中本件リボンを着用したことにより職務の遂行上注意力が散漫となり支障をきたしたものと認めるに足りる証拠はない。

 ‥‥本件リボンに記載されている文言が、労働者ないし労働組合の要求として不当なものであるとは認め得ないし、また、原告らの職種、本件リボンの形状およびその着用態様に照らすと、本件リボンを着用することによって原告らの服装がそれ自体で社会通念上異状ないし不快なものとなるとは言い難い。そうであるならば、労働者ないし労働組合が、団結権ないし団体行動権に基づいて、団結示威ないし連帯感強化行為として本件リボンを着用したこと自体を違法ないし不当な組合活動ということはできず、本件リボン着用行為は、それ自体としては正当な組合活動であつたと評価される。

 ‥‥本件リボンの着用によりこれら輸送の安全を害し、その正常な運営を阻害し或いは職場の公共性に支障をきたしたものと思料される特段の事情も認め難いところである。

 ‥‥本件リボンを着用したことは職務専念義務に反するものとは認め難いものといわなければならない。‥‥

2 服装違反について

(二)‥‥使用者が労働者の服装に関してなす規制は、労働者の労務提供義務の履行の態様を定めたものと解されるから、服装の規制が許されるのは、それが使用者の業務の遂行上合理的な理由がある場合に限られるのである。そして、合理的な理由の有無は、使用者の業務の性質や内容および当該労働者の職務内容について十分考慮して判断すべきことはもちろんであるけれども、このような点を考慮してもなおなんらの合理的な理由がないのに服装の規制をなすことは許されない。被告の前記「服制及び被服類取扱基準規程」第九条第三項も叙上の見地から解釈すべきであって、右規定があるからといつて他に何ら正当な理由なく、それが着用することを命じられていないとの理由によって社会通念上相当と認められる服飾類の着用を禁止することは許されない。‥‥。

(三) 被告は右服装の規制をなす目的ないし必要性について

‥‥国鉄職員であることの識別について考えると、本件リボン着用によって国鉄職員であることの識別に支障を来すものとは考えられない。また、旅客公衆に対する「不快感」の点についてみると、前記のような原告らの職務の内容、本件リボンの形状、大きさ、内容からみて通常の健全な社会的感覚を有する者に本件リボンの着用が不快感を与えるものとは考えられない。もつとも、多数の旅客公衆の中には不快感を抱く者がいるであろうことは否定できないけれども、その不快感は労働組合やその活動に対する個人的悪感情を原因とするものであろうと考えられる。しかしそのような現代の正常な労働法感覚に反する悪感情からくる不快感はなんら考慮すべきではない。

 第三に諸々の「安全の確保」については、ただ注意力の集中の点で問題となりうるが、これが余りにも抽象的な危険性であることは、さきに職務専念義務違反の判断において述べたとおりであり、これをもつて本件リボンの着用を禁止することは許容し難い。

 その他本件リボン着用行為によって被告の業務の遂行に支障を来したことを認めるに足りる証拠はない。

 以上のように考えると、社会通念、現代人の労働法的知識および感覚ならびに経験則に照らしても、本件リボン着用行為が被告が主張する服装の規制をなす目的ないし必要性に背馳しているとは認められず、本件リボン着用行為が服制違反になるものとしてこれを規制する合理的理由を見出すことができない。

3 職場の規律違反又は職務命令違反との関係

 (略)

4 むすび

 以上、本件リボンの着用が憲法、公労法等によって保障される団結権、団体行動権に基づくさゝやかな組合活動であることを思えば、これが格別の支障を生ずると認め難い本件においてはこれを正当なものとして許容すべきものというべきである。

七 本件訓告処分の効力

 本件リボン着用行為が法律および被告の定めた諸規程に違反しているとは認められないこと、被告が原告らに対し本件リボンの着用を禁止したことに合理的理由があつたとは認められないことおよび原告らの本件リボン着用行為が正当な組合活動と認められることは前記のとおりである。‥

 

 国鉄は控訴した

 

イ. 国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529判時7046 

 

(ア)要旨

  原判決中控訴人の敗訴部分を取消、被控訴人の請求をいずれも棄却する逆転判決。リボン着用は職務専念義務に違反し、鉄道営業法第22条及び国鉄の服装に関する定めに違反し違法であり、取外し命令に従わない職員の訓告処分を適法とした。リボン闘争を違法とする判断枠組を示したリーディングケースである。

 

 

(イ)判決書・抜粋

 

 1 職務専念義務違反について

 日本国有鉄道法第三二条第二項は、「職員は、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない。」と規定する。その趣旨は、日本国有鉄道の職員は、勤務中は、法令等による特別の定めがある場合を除き、その精神的、肉体的活動力の全てを職務の遂行にのみ集中しなければならず、その職務以外のために、精神的、肉体的活動力を用いることを許さないとするものである。そして、これが法律に特に明記されているのは、右の趣旨の職務専念義務が、国鉄職員としての基本的な義務であり、国鉄職員が右義務を適正に果すことによって、はじめて、国鉄の目的である鉄道事業等の能率的な経営による公共の福祉の増進(日本国有鉄道法第一条参照)が可能となるからである。

 国鉄職員が勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、通常はこれによって当然に職務に対する注意力がそがれるから、かかる行為または活動をすることは、原則として職務専念義務に違反するものであり、ただ、その行為または活動が職務専念義務に違反しない特別の事情がある場合、すなわち、その行為または活動が職員の職務に対する精神的、肉体的活動力の集中をなんら妨げるものでないと認められる特別の事情がある場合に限り、その行為または活動は違法の評価を免れることができる。そして、かかる特別の事情の存否は、その行為または活動の性質、態様等を総合して判断すべきものであるが、特別の事情があるとするためには、その行為または活動が職員の職務に対する精神的、肉体的活動力の集中を妨げないことが確定される必要があり、その行為または活動が職員の右活動力の集中を妨げるおそれが存するときは、特別の事情があるということはできない。このように、職員の行為または活動が職務専念義務に違反するかどうかは、それが職務の遂行と関係があるかどうか、その行為または活動が職務に対する精神的、肉体的活動力の集中を妨げないものであるかどうかによって決せられるものであり、その行為または活動によって、具体的に業務が阻害される結果が生じたか否かは、右の判断とは直接関係がないものというべきである。

 そこで、右の見地から、被控訴人らの本件リボンの着用が職務専念義務に反するものであるかどうかを検討する。

 ‥‥被控訴人ら組合員は、本件リボンを着用することにより、国労の要求を明らかにし、これを支持する意思をあらためて自己確認するとともに、組合員の団結を固め、使用者に対する示威と国民一般に対する教宣活動とすることを目的としたものであることが認められる。右事実によれば,本件リボンの着用は、組合活動としてなされたものであり、被控訴人らの職務の遂行とまつたく無関係であることは明白であるから、本件リボンの着用によって、職務に対する精神的、肉体的活動力の集中がなんら妨げられなかつたと認められない限り、被控訴人らが本件リボンを勤務時間中に着用したことは、職務専念義務に違反するものといわねばならない。

 被控訴人らは、本件リボンの着用は労働義務の履行ないし円満な労務提供の義務の履行に実質的、具体的な支障がなく、そのおそれもないと主張する。本件リボンの着用行為は、有形的な行為としては、これを制服等につけることによって、その一切を終了するものであり、物理的には被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものではない。しかし、前記のとおり、被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、したがつて‥‥勤務の間中、組合員相互に本件リボンの着用を確認し合い、これを着用していない組合員には着用を指導していたものであつて、本件リボンの着用が精神的に被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものでなかつたとは到底認めることはできない。かえつて前記のような本件リボン着用の経緯、態様よりすれば、被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものというべきであり、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでなかつたことは明らかである。 

 よって、被控訴人らが勤務時間中本件リボンを着用したことは、職務専念義務に違反するものである。

2 服装違反について

 国鉄職員の服装については、鉄道営業法第二二条は「旅客及公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ」と規定し、この規定の趣旨を受けて、安全の確保に関する規程第一四条、職員服務規程第九条、営業関係職員の職制及び服務の基準第一四条、服制及び被服類取扱基準規程第三条、第九条等の定めがなされ、被控訴人らのような現業に従事する職員に対し、制服(作業服を含む。以下同じ。)を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられていることは、当事者間に争いがない。‥‥控訴人の服制及び被服類取扱基準規程では、現場職員の制服等の制式と着装方を定め、これを職員に貸与するものとし(第三条)、かつ「被服類には、腕章、キ章及び服飾類であって、この規程に定めるもの及び別に定めるもの以外のものを着用してはならない」(第九条第三項)と規定して、本件リボンのようなものの着用を禁じている。

 国鉄職員は、「その職務を遂行するについて、誠実に法令及び日本国有鉄道の定める業務上の規程に従わなければならない」(日本国有鉄道法第三二条第一項)のであり、被控訴人らの本件リボンの着用は、前記法律及び規程、なかんずく服制及び被服類取扱基準規程第九条第三項に反することが明白であるから、違法なものといわねばならない。

 被控訴人らは、使用者が労働者の服装について規制することができるのは、業務の遂行上その規制をすべき合理的な理由がある場合に限られるところ、本件リボンについては、その着用を禁止しなければならない合理的な理由はないと主張する。しかし、前記のとおり、国鉄職員のうち旅客及び公衆に対する職務を行なう者については、鉄道営業法第二二条によって、制服の着用が義務づけられており、また、直接右法条に該当しない者であっても、現業に従事する者について、公共の福祉の増進を目的とする国鉄の職員としての公正中立と品位を保持し、旅客公衆に対し国鉄職員であることの識別を可能ならしめ、かつ不快感を与えることを防止し、その職務が旅客公衆の身体、財産の安全にかかわるものとして、特に強く要請される職場規律の保持を確保するために、制服を着用すべきものとすることが必要であるから、控訴人の前記の諸規程において、被控訴人ら現業に従事する職員に対し制服を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられていることは、十分合理的な根拠を有するものであり、そして、右制服に、定められた服飾類以外の物を着用することを禁止することも、制服の性質、趣旨よりすれば、これを不合理な規制ということはできない。しかも、これを実質的に考察しても、旅客公衆は、国鉄職員であることとその職員の職務の内容を職員の制服と制服に着用された腕章、徽章等によって識別するのであるから、国鉄職員が着用するリボン、プレート等はその職務に関するものと考えることは当然であり、したがつて、国鉄職員が制服の上に職務と無関係のリボン、プレート、腕章等の記号を着用するときは、いたずらに誤解、混乱を招くおそれがあるから、これを禁止することについては十分の根拠があるものである。また、本件リボンは、前記のとおり組合活動として着用されたもので、その内容は組合の要求を記載したものであるところ、‥‥被控訴人ら国鉄職員がこれを着用して勤務していることに対し旅客公衆の中には不快感を抱く者があることは十分予想される。被控訴人らは、そのような不快感は反組合的感情で保護するに値しないと主張するが、しかし、その不快感が、本件リボンの内容である国労の要求内容に対する不満にあるのではなく、被控訴人らが職務に従事しながら本件リボンを着用して組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安によるものであるときは、国鉄が公共の福祉の増進を目的とする公法人で、その資本は全額政府が出資していることを考えると、右の趣旨の旅客公衆の不快感は十分理由があるものであつて、これを単なる反組合的感情にすぎないものということはできない。さらに、本件リボンと職場の規律、秩序の関係についても、本件リボンが前記のとおり国労の要求を記載したもので、これを着用することによって国労の団結をはかるものであるところ、国鉄内には、国労のほか、これと対立関係にある鉄道労働組合があることは顕著な事実であり、本件リボンの着用が鉄労組合員その他組合未加入者に心理的な動揺を与え、‥‥国労の組合員の中にも指令に反し本件リボンを着用しなかつた者が相当数あつたことが認められるが、これらの者にも精神的な重圧となったことも十分考えられ、勤務時間中の本件リボンの着用は、その勤務の場において、不要に職場の規律、秩序を乱すおそれのあるものというべきである。以上の次第で、本件リボンの着用を禁止すべき合理的な理由がないとの被控訴人らの主張は採用できない。

 よつて、本件リボンの着用は、控訴人の服装に関する定めに違反するものであり、法律及び控訴人の規程の遵守を求める法律に反する違法のものである。

3 職場内慣行について

 ‥‥控訴人がリボン闘争を容認したことはなく、本件のようなリボンの着用が職場内慣行となっていたと認める余地はない。

 よつて、この点の被控訴人らの主張は失当である。

4 むすび

 以上詳述したとおり、被控訴人らの本件リボンの着用は、職務専念義務に違反し、服装に関する定めにも違反する、違法のものである。

 被控訴人らは、本件リボンの着用は、団結権、団体行動権の行使としてなされた正当な組合活動であると主張する。本件リボンの着用が組合活動として行なわれたことは前記のとおりであるが、これが被控訴人らの基本的義務である職務専念義務に違反するものであり、かつ控訴人の服装に関する定めにも違反するものであってしかも、認定事実のとおり、被控訴人らは、一ケ月以上もの長期間、職務の時間の間中本件リボンの着用を継続していたものであるから、本件リボンの着用は、被控訴人らの団結権、団体行動権の行使として許容される限度を超えるものといわねばならず、被控訴人らの主張は採用できない。

四 本件訓告処分の適否

 ‥‥懲戒の基準に関する協約第一条第一号の「日本国有鉄道に関する法規又は令達に違反した場合」及び第三号の「上司の命令に服従しない場合」に該当することは明白であり、被控訴人らの訓告処分は、いずれも適法である。

 被控訴人らは、本件訓告処分は、労働組合法第七条第一号に違反し無効であると主張するが、被控訴人らの本件リボンの着用が正当な組合活動に当らないことは前記のとおりである‥‥

 

2). 国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529に示された厳格な職務専念義務論は、近年の国労バッジ事件判例で踏襲されている

 

ア、厳格な職務専念義務論の行方

 

  国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529はリボン闘争を違法とするリーディングケースであり、「日本国有鉄道法第三二条第二項‥その趣旨は‥‥国有鉄道の職員は、勤務中は、法令等による特別の定めがある場合を除き、その精神的、肉体的活動力の全てを職務の遂行にのみ集中しなければならず、その職務以外のために、精神的、肉体的活動力を用いることを許さないとするものである。‥‥勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、通常はこれによって当然に職務に対する注意力がそがれるから、かかる行為または活動をすることは、原則として職務専念義務に違反する‥‥その行為または活動によって、具体的に業務が阻害される結果が生じたか否かは、右の判断とは直接関係がないものというべき」と判断枠組を示したうえで、「本件リボンの着用行為は、有形的な行為としては、これを制服等につけることによって、その一切を終了するものであり、物理的には被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものではない。しかし、前記のとおり、被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、したがつて‥‥勤務の間中、組合員相互に本件リボンの着用を確認し合い、これを着用していない組合員には着用を指導していたものであつて、本件リボンの着用が精神的に被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものでなかつたとは到底認めることはできない。‥‥本件リボンを着用することにより、組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものというべきであり、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでなかつたことは明らかである。」

 この厳格な職務専念義務論は、 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974によって採用され、公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した。これは最高裁判例なので決定的な意義があった。

 

 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659の新村正人調査官判解は目黒電報電話局事件判決について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」としているが、これが法律家の標準的見解であり、通説でもある。

 

 例えば 菊池高志[1983]によれば、目黒電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべきとしており、この見方が有力なのである。

 ちなみに国鉄中国支社事件判決・最一小昭49228民集28166において日本国有鉄道法31条1項に基づく懲戒処分は、行政処分ではなく、私法上の行為としているから、国鉄職員懲戒処分の判例についても、公労法17条1項の争議行為が禁止されている点は別として異なるとはいえ、私企業一般の先例となりうる。

 

 ところが、大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、リボン闘争について最高裁が初めて判断を下し、本件リボン着用を就業時間中の組合活動として、労働組合の正当な行為にあたらないとし「原審の判断が結論において正当」としながら、最高裁自身の理由を示さず目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974を先例として引用なかったのである。

 引用せずとも同判決を踏襲した判断とみるのが有力ではあるが、理論的説示がなかったために、玉虫色的解釈を可能とし、定着していたリボン闘争違法論をやや混迷化させた印象を与えている。

 しかしながら、このことによって厳格な職務専念義務論の私企業への適用判断が行方不明になったわけではない。

 企業秩序論の無許可集会事案であるが、済生会中央病院事件最二小判平元・1211民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」と判示しているように、大筋で最高裁は一般私企業、組合活動においても、目黒電報電話局判決を引用せずとも踏襲している判断を示しているといえるのである。

 

 また、大成観光事件最高裁判決以降、純粋な組合活動事案で厳格な職務専念義務論をとっている下級審判例はけっこうある。ここでは6判例を引用しておく。

 

 

△国鉄鹿児島自動車営業所事件 鹿児島地判昭63627判時1303143頁裁判所ウェブサイト

 

「国鉄職員は国家公務員法の適用を受けないものの、公務員とみなされ(日本国有鉄道法三四条)、使用者たる国民に対してその勤務時間中は職務に専念すべき義務があり(同法三二条二項)、その肉体的、精神的活動を職務の遂行にのみ集中しなければならないものであるから、組合員バッチの着用が右職務専念義務に反するものである場合は、使用者としても、組合員に対して勤務中はバッチを外すべきことを命じうる」

 

●西福岡自動車学校腕章事件 福岡地判平7920労判695号133頁裁判所ウェブサイト

 

「組合活動である本件腕章着用闘争が労働組合の正当な行為であったか否かについて検討すると、一般に、労働者は労働契約に基づき、就業時間中その活動力をもっぱら職務の遂行に集中させるべき職務専念義務を負うものであって、就業時間中に組合活動を行うことはその具体的態様にかかわらず右職務専念義務に反するものであるから、使用者の明示・黙示の承諾や労使慣行が成立しているなど特別の事情がない限り、労働組合の正当な行為にはあたらないものと解するのが相当である」

 

 

●JR東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030判時162638

 

「本件就業規則三条一項の「社員は、被控訴人事業の社会的意義を自覚し、被控訴人の発展に寄与するために、自己の本分を守り、被控訴人の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない。」という規定は、社員の職務専念義務という観点からは、社員は、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。‥‥そして、労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり、‥‥本件組合バッヂ着用行為は、前示のとおり、組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、被控訴人の社員としての職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという被控訴人社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。 また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない」

 上記説示では、職務遂行に支障がなくても違反とも述べている。注目すべきは、わざわざ「労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっている」と述べ、職務専念義務をたんに、JR東日本就業規則3条1項の就業規則に反しているという観点だけではないことを示しているという点でパーフェクトに近い説示といえるだろう。

 判決の要旨は、勤務時間中に組合バッヂを着用する行為は、それが労働組合員であることを顕示して組合員相互間の組合意識を高め、使用者及び他の労働組合に所属する社員との対立を意識させ、注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであったと認められる等判示の事実関係の下においては、当該行為により職務の遂行が阻害される等の具体的な実害が発生しないとしても、企業秩序の維持に反するものであり、職務専念義務、勤務時間中の組合活動の禁止、服装の整正義務を定める就業規則の各規定に違反するとし、厳重注意や夏期手当の減額支給等の措置は不当労働行為に当たらないとした。

 なお上告審最二判平10・7・17労判744号15頁は「原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない」として棄却している。

 

△JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件・東京高判平11224判時1665号130頁裁判所ウェブサイト

 

「本件就業規則三条は、服務の根本基準について定め、同条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定している。これは、社員がその就業時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないこと、すなわち職務以外のことを就業時間中に行ってはならないことを意味するものである。ところで、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は、国鉄の分割民営化の過程で国労から多くの組合員が脱退していく中で、国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。

 なお、参加人らは、本件組合バッジの着用によって現実の職務遂行に支障を生じないので、本件組合バッジの着用は右規定に違反するものではないと主張するが、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきであり、参加人らの右主張は、採用することができない」

 この判決は上記説示部分は、JR東海(新幹線支部)R東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030とほぼ同じといってよいが結論は異なる。

 国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意、訓戒、55名に対し夏季手当5%減額の措置を不当労働行為とする。国労バッジの着用は、就業規則の服装整正規定違反、就業時間中の組合活動禁止規定違反、職務専念義務規定違反であり企業秩序を乱すものであるとし、取外し命令、懲戒、不利益処分を禁止するものではない。しかしながら「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても,それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」と述べ、「敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し」バッジ取外しの指示・指導等は「執拗かつ臓烈なもので,平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり」「就業規則の書き写しの作業などは,嫌がらせ」であり、「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入)に該当するとした。

 本件は、類似の事案で、JR東海新幹線支部判決が不当労働行為に該当しないと判示ししたのと食い違った結論を示している。本件JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件東京高判平11224の上告審最一小決平111111労働判例770号32頁は不受理なので、最高裁はどちらかというと不当労働行為にあたらないとするJR東海新幹線支部判決の判断に好意的と理解することはできると思う。

 

 

●JR西日本大阪国労バッチ事件 東京地判平241031別冊中央労働時報143420

 

「(ア)参加人の就業規則3条1項が,「社員は,会社事業の社会的意義を自覚し,会社の発展に寄与するために,自己の本分を守り,会社の命に服し,法令・規程等を遵守し,全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定して従業員に職務専念義務を課し,その具体化として,同20条3項が,「社員は,勤務時間中又は会社施設内で会社の認める以外の胸章,腕章等を着用してはならない。」と規定し,同23条が,「社員は,会社が許可した場合のほか,勤務時間中に又は会社施設内で,組合活動を行ってはならない。」と規定しているのは,‥‥勤務時間内における原告の本件組合バッジの着用が,形式的にいえば,就業規則3条1項,20条3項,23条に違反し,勤務時間中の組合活動を禁止した労働協約6条にも違反するものであることは明らかである。

 もっとも,就業規則は,企業経営の必要上,従業員の労働条件を明らかにするとともに,企業秩序を維持・確立することを目的とするものであるところ,その解釈・適用に当たっては,憲法28条が労働者に労働基本権を保障する一方,憲法29条が使用者に財産権を保障していることの趣旨にかんがみ,団結権と財産権との調和と均衡を図るべきであるから,形式的に上記各規定に違反するようにみえる場合であっても,実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは,上記各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である(最高裁判所昭和52年12月13日第三小法廷判決・民集31巻7号974頁参照)。

(イ)これを本件についてみるに,原告が勤務時間中に着用していた本件組合バッジが,縦1.2cm,横1.3cm四方の長方形の金属板状のものであり,黒地に金色のレールの断面図と「NRU」の文字(「国鉄労働組合」を英訳したNational Railway Unionの頭文字)とがテザインされており,裏側にあるピンを衣類に刺し,留具でピンを留めて着用する形状のものであることは,前提事実(4)ア記載のとおりであり,本件組合バッジは,必ずしも大きく目立つものではなく,国労の主義・主張が具体的に記載されているわけでもない。しかしながら,上記(1)で認定した国労と国鉄又は参加人を含むJR各社との労使対立の歴史の中では,国労の組合バッジの着用は,国労組合員が組合員であることを対外的に示すとともに,組合員相互間の団結・連帯の意識の向上という思想を外部に表明するための象徴的行為であるということができる。その後,国労と国鉄分割民営化と同時に設立されたJR各社とが,平成8年8月以降労使協調路線を打ち出し,平成11年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結し,平成12年3月以降中労委に係属していた不当労働行為救済命令申立事件を和解で終結するとともに,国労が四党合意の受入れを決議する中,国労の組合バッジの着用の意味合いは,労使協調路線を採用した国労執行部に対する抗議の意志の表明を含むものに変容したということができるが,原告の本件組合バッジの着用は,自らが国労組合員であることを対外的に示すとともに,その思想を共有する組合員との間の団結・連帯の意識を向上させ,一定の思想を外部に表明する行為であることには,変わりがないというべきである。

 他方で,一般私企業において,従業員は,労働契約を締結して労務提供のために企業に入ることを許されたのであるから,労働契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において,かつ,企業秩序に服する態様において,勤務時間中に行動することが認められているものであるところ,分割民営化前の国鉄においては,職場規律が弛緩し,ヤミ協定,悪慣行が横行し,企業秩序が乱れていたため,分割民営化による国鉄改革の必要性が叫ばれる中,事業を承継した参加人においては,これを是正するため,違法行為に対しては厳正に対処し,職務専念義務を徹底させることが求められていたということができる。そうすると,国労の組合バッジの勤務時間中の着用は,参加人の従業員としての職務の遂行には直接関係のない行為であることが明らかであるし,当該行為の趣旨・意味合いを考えた場合,勤務時間中,職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反するばかりでなく,ほかの従業員の意識が当該組合バッジに注がれることによって,勤務時間中に心理的影響を受けるおそれもあるというべきである。しかも,後記‥‥で判示するとおり,原告の従事した車両の検査修繕作業においては,事故防止のために所持品の落下に細心の注意を注ぐ必要があり,作業に不必要な物を現場に持ち込むことが禁止されていたことを認めることができる。

(ウ)以上によれば,本件組合バッジの着用は,企業秩序を乱すおそれのある行為であるといわざるを得ないから,実質的にみても,就業規則に違反するものというべきである。

 したがって,就業規則違反を理由とする本件各訓告は違法ではなく,本件各訓告等は,不利益取扱いの不当労働行為には当たらない。」

 

 

●JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止事件 東京高判25327別冊中央労働時報1445号50頁

 

 「補助参加人らは,〔1〕国労バッジ着用は労務提供義務と矛盾なく両立し,業務阻害性はなく,職務専念義務,服装整正義務に違反するとはいえない,〔2〕国労バッジ着用の組合活動としての必要性等を考慮すれば,国労バッジ着用行為には正当性があると主張するので,以下検討する。

(ア)補助参加人らの主張〔1〕について

 本件就業規則3条1項に定める職務専念義務は,社員は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

 そして,労働契約においては,労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労務契約の重要な要素となっているから,職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり,その行為が服装の整正に反するものであれば,就業規則20条3項に違反するといわなければならないし,また,それが組合活動としてされた場合には,そのような勤務時間中の組合活動は就業規則23条に違反するものといわなければならない。

 P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労組合員の中でも国労バッジ着用を止める者が大多数となっていく中で,国労内少数派として着用を継続したものと認められるが,国労執行部ないしは原告に対し,国労内少数派としての意思を表明し,また国労内における多数派に対し,少数派との対立を意識させるものといえ,また同時に,国労組合員のうち,自らの意思により国労バッジを着用していない者に対しても心理的影響を与え,当該組合員が職務に精神的に集中することを妨げるおそれがあるものであるから,かかる行為は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反し,また服装整正にも反するものとして,企業秩序を乱すものといわざるを得ない。

 補助参加人らは,国労バッジ着用に業務阻害性はないと主張するが,上記就業規則違反が成立するためには,現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当であり,補助参加人らの主張は採用することができない。」

 

 国労バッジとは,縦1.2cm,横1.3cm四方の長方形の金属板状のものであり,黒地に金色のレールの断面図と「NRU」の文字(「国鉄労働組合」を英訳したNational Railway Unionの頭文字)とがテザインされたものである。

 国労側の主張にみられるようにリボンやワッペンとは違って闘争的色彩はそれ自体はないようにも思えるし、たんに組合所属をあらわすたけという見方はありうる。

 また私鉄総連の春闘ワッペンのように目測で直径78cm、2018年のように赤色の原色を用いて目立つようなものではないといえる。

 私鉄の多くは、各労働組合の組合員らが、就業時間中に当該組合所属を表示する組合バッジや私鉄総連の定めた統一組合バッジを着用していることがあり、これに対して会社側はその着用を禁止していないということも国労側の主張にみられるが、小さなバッジまで徹底して禁止するJRの労務管理は私鉄との対比ではかなり厳しいともいえなくもない。

 しかし、上記の判例のように小さなバッジですら企業秩序をみだすものとして禁止でき、離脱命令、懲戒も可能であることを示しているが、企業秩序定立権の判例法理の趣旨からすればで当然のことともいえる。

 平成24年の東京地裁や平成25年の東京高裁といった比較的近年の判例が厳格な職務専念義務論を判示していることは、心強く思える。いずれも具体的乗務阻害がなくとも、それを着用していることが旅客の安全な輸送、鉄道の業務それ自体に支障がないということによって、正当化されることはないことも述べているのである。

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