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2018/09/24

春闘ワッペンの法的評価(その1)

 目次

1.就業時間中の組合活動とみなされる

2.服装闘争は大多数の判例が否定的評価をとっている

()組合活動に関する大筋の判例傾向

()服装闘争等に関する判例の大筋の傾向

 

2.春闘ワッペンは労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよい

() 私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのは判例法理上必然である 

()予想される反論に対する再反論

A 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は当該事案の判断にすぎず、リボン闘争が一般的に違法とは云っていないとの反論

う反論

B 伊藤正己補足意見は、就業時間中の組合活動はすべて違法でなく、具体的な業務阻害のない行為を是認しているという反論

C 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の厳格な職務専念義務論を引用していないので、組合活動に適用されるかは未解決の問題であるとする反論

 

 3.春闘ワッペンの取り外し命令等を行ったとしても労組法7条1項の不当労働行為にあたるとされることはない(組合活動として正当な行為とされることはない)

 

(1)今更ながら国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529でリボン闘争が違法とされている以上、それが民鉄のワッペン闘争であれ、同じ結論となることは必定

 

(2)国労バッジ事件判例はJR各社の就業規則違反として組合バッジ着用を理由とする不利益措置を適法としており、バッジよりも大きくて目立つ春闘ワッペンを規制できないということは絶対にありえない

 

A JRにおいて組合バッジ着用禁止をめぐる紛争が起きた経緯と終息

B  国労バッジ事件主要判例が示すように、組合バッジ着用は就業規則違反の限定解釈の判断枠組で実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められてないので、春闘ワッペンも同じことである

C 労組法73号の支配介入にあたるとする国労バッジ判例も存在するが、労組法71項の不当労働行為にあたらず、就業規則違反として禁止できることは認めている

D 国労バッジ事件等でバッジ着用等が正当な行為とした判例も少数あるが、いずれも地裁判例であり控訴審ではその判断は否定されている

 

 

 

 

1.就業時間中の組合活動とみなされる

 

 私鉄総連の春闘ワッペン着用行為が、争議行為か組合活動かという問題は、当然にその法的性格を異にし、労組法7条1号との関係においても正当性の判断が異なりうるし、学説では労組法8条民事免責を争議行為について認める見解があるので、重要な論点である。

 しかし、リボン闘争について最高裁が初めて判断を下した大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、これを就業時間中の組合活動として、労働組合の正当な行為にあたらないと判示しているため、類似事案である春闘ワッペンも就業時間中の組合活動とされることは間違いない。

 大成観光リボン闘争事件の原審は、リボン闘争について組合活動の面と争議行為の面と両面があると考察しているが、最高裁は争議行為とみなさなかった。

 理由は判文では不明だが、新村正人調査官判解が詳しく解説しており、原審のいう使用者に対する団結示威の作用、機能を直ちに争議行為とみなす根拠はないと断定的に述べている。最高裁はリボン闘争が類型的に争議行為に当たらないとする見解に好意的とも言っている。

 仮に争議行為にするとしても正当性の限界を確定する理論的作業は困難というほかなく、積極的に解することはないだろう。そうするとストライキと併用するケースを別として、労働組合側がリボン闘争は争議行為と主張し労組法8条の適用があると主張しても認められることはないだろう。

 したがって以下、ワッペン着用行為を就業時間中の組合活動と捉え法的な評価を行う。

 

 

2.服装闘争は大多数の判例が否定的評価をとっている

 

()組合活動に関する大筋の判例傾向

 

 我が国の労働法では労働組合の正当な行為は保護されるが、何が正当な行為か否か具体的な定めはなく、労働委員会命令や救済命令取消訴訟等の判例、学説によって判断していくことになる。

 我が国では1970年代まで、階級闘争・ミリバントな労働運動を支援するプロレイバー労働法学が司法にも影響力を有し、憲法28条を使用者の私法上の権利(所有権・財産権)の制約を正当化させる権利として捉え、法益調整論的に使用者は組合活動に対し受忍義務を負うとして、使用者の業務指揮権や施設管理権を制約ないし掣肘する学説を展開していた。

 しかし最高裁で左派が減少した石田和外コート末期に、マスピケ事犯である国労久留米駅事件最大判昭48425刑集273418において、組合に有利な可罰的違法性論の適用を排除したことから、判例傾向は決定的に市民法秩序重視・プロレイバー学説否認の流れとなった。

 企業内組合活動の受忍義務を明確に否定した下級審判例の嚆矢が東京地裁中川徹郎チームの大成観光リボン闘争事件 東京地判昭50311民集364681(リボン闘争を違法とする)、動労甲府支部ビラ貼り事件東京地判昭507 .15判時784(ビラ貼りに対し初めて損害賠償を認める)であり、管理及び運営の目的に背馳し、業務の能率的正常な運営を一切排除する権能を強調し、後の企業秩序論の基礎となる論理を示したといえる。

 昭和50年代には最高裁によって企業秩序論の判例法理が案出され、受忍義務説、法益衡量による調整的アブローチ、具体的危険説といったプロレイバー学説が明確に排斥され、使用者に企業秩序定立権が認められ、被用者は企業行秩序遵守義務を負うことが明らかにしている。(組合活動の判例ではないが富士重工業原水禁運動調査事件・最三小昭521213民集317103、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974、関西電力社宅ビラ配り事件・最一小判昭589.8判時1094121頁、組合活動では国労札等幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676)、とくに企業内組合活動に関する指導判例となっている国労札幌地本判決を引用する判例は多く(池上通信機事件最三小判昭63719判時1293、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786、オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130頁等)、判例法理は安定的に維持されていることから、経営内の組合活動の規制は今日では当然のものとされているのである。

 

()服装闘争等に関する判例の大筋の傾向

 

 就業時間中にリボン、腕章、ワッペン、鉢巻、ゼッケン、組合バッジ等を着用しながら労務提供(いわゆる服装闘争)することが、債務の本旨に従った履行といえるのか、労組法によって保護される組合活動の正当な行為といえるのか、その着用を理由とする取り外し命令、訓告、戒告、減給、期末手当減額、出勤停止処分等の不利益処分、あるいは就労拒否、配置転換、本来業務外し等の措置が適法かなどについては膨大な判例の蓄積がある(別表のとおり)。

 労働委員会命令の傾向は、服装戦術を団結活動の一環としてとらえ、服装規定にもとづく懲戒処分の不当労働行為性を認定する傾向があるが、裁判所(救済命令取消訴訟)になると正当な組合活動とされる例は少なく、大多数の判例は服装闘争を正当な組合活動とみなしていないし、不利益処分について労組法7条1号の不当労働行為に当たらないとする。

 ノースウエスト航空事件・東京高判昭471221労判速8059が初めて腕章着用の就労を職務専念義務違反と判示した判例である。

 国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529判時7046頁では、リボン着用は職務専念義務に違反し、国鉄の服装に関する定めにも違反し違法であり、取外し命令に従わない職員の訓告処分を是認とした。リボン闘争を違法とする判断枠組を示したリーディングケースである。同様にリボンや腕章着用を違法とした判例として神田郵便局腕章事件・東京地判昭49527労民集25323、全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51130労民集2711、全建労事件・東京地判昭52725行裁集2867680等がある。

 大成観光リボン闘争事件 東京地判昭50311民集364681判時77696頁(控訴審も支持)は、労働者の連帯感を昂揚し、その士気を鼓舞するための集団示威は労働組合が自己の負担及び利益においてその時間及び場所を設営しておこなうべきもので、勤務時間の場で労働者がリボン闘争による組合活動に従事することは、人の褌で相撲を取る類の便乗行為であるというべく、経済的公正を欠く。労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下でのリボン闘争は、誠意に労務に服すべき労働者の義務に違背し違法であり、使用者はそれを受忍する理由はないと説示、さらに使用者の指揮命令に従って業務を遂行しつつ、それに乗じて団結の示威を行うことは、心理上の二重機能的メカニズム、一面従順、他面反噬という精神作用を分裂させて二重人格の形成を馴致する虞れがあり、労働人格の尊厳を損なう性質のものと述べるなど、労働組合側に厳しい判断を示し、リボン闘争は組合の正当な行為でなく違法としている。

 最高裁が初めてリボン闘争について判断を下した大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、「本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」としたが、第三小法廷4人のうち左派プロレイバー(反主流派)が2人という異例の構成のため、先例についての法的評価が一致するはずがなく、結論にいたった最高裁としての理由が示されていない。判文で理論的説示がないことは、リボン闘争に否定的な下級審の傾向を追認したとする解釈がある一方、判文上は当該事案に限定しての判断のため、玉虫色的解釈がなされる要因となっている。しかし、この先例をホテル業に限定した判断であってケースバイケースで正当な行為とすることもありえるといったような労働組合側に有利に解釈することは他の最高裁判例との整合性からみて無理がある。

 それ以降現在にいたるまで服装闘争類似事案の判例も多数蓄積しているが、JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388(上告審最三小判平10717労判74415頁も原判決の判断を支持)が、組合バッチを着用したこと理由とする夏期手当支給5%減、賃金規定の昇給欠格条項該当者とする不利益措置は、労組法7条1項の不当労働行為にはあたらないと判示し、平成20年代の下級審判例である、JR西日本大阪国労バッチ事件・東京地判平241031別冊中央労働時報143420頁やJR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718頁がJR東海(新幹線支部)高裁判決の理論的説示を踏襲していることから、近年においても労働組合に有利といえる状況はないといえる。

 総合的に判断しておよそ私鉄総連の春闘ワッペン闘争については下記の立論により否定的な法的評価ができる。

 

 

 

2.春闘ワッペンは労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよい

 

() 私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのは判例法理上必然である

 

 まず労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよいと考える。労働者は、雇用契約に基づき職務専念義務を負っており、就業時間中の組合活動は違法である。

 近年の組合バッジ着用事案の判例でも「労働者は、就業時間中は使用者の指揮命令に服し労務の提供を行う義務を負うものであって、勤務時間中の組合活動は、原則として右義務に違反する‥‥労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり‥‥」(JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388)と判示しているとおりである。

 この判断の根拠になっているのは引用こそされてないが目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の職務専念義務論である。

 同判決は公社法三四条二項の職務専念義務規定を「‥職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではない」として厳格に解釈したことはよく知られている。

 同判決は公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」と判示し、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべき(菊池高志「労働契約・組合活動・企業秩序 『法政研究』49(4) 1983【ネット公開】 )とする見解が通説である。

 つまり職務専念義務というのは公務員法制の実定法に限られず、私企業の雇用契約でも同じことである。

 なお、目黒局事件のプレートは「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書かれたもので政治活動の事案だが、組合活動についても同判決の判断枠組が適用されることは判例法理上当然の帰結といわなければならず、そうでないとする大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413伊藤正己補足意見は先例無視の勝手な見解だといわなければならない。 

  この点については大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659新村正人調査官判解が明確に述べている。

 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」と解説しており、大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は当該リボン闘争を組合の正当な行為にあたらないとした理由を示していないが、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の判断を踏襲しているという解釈がなされるのは、それが法律家の標準的見解であるためである。 (踏襲していると述べているのは菊池高志前掲判批だが、新村正人判解、石橋洋「組合のリボン闘争戦術と実務上の留意点-大成観光(ホテルオークラ)事件」労働判例3911982【ネット公開】や西谷敏「リボン闘争と懲戒処分――大成観光事件」ジュリスト臨時増刊7922261983も同趣旨を言っている)

 なお目黒局判決に後続する企業秩序論判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676とそれを引用する多くの判例が、使用者は無許諾の企業施設内組合活動の受忍義務はないこと、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786によって就業時間中の無許諾組合活動が正当化されることはないことを明らかにしており、法益衡量の調整的アプローチを明確に否定していることから、職務専念義務は、政治活動を禁止する場合適用されるが、組合活動には適用されないということは、他の判例との整合性みてありえないことである。

 以上のことから私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのであり、東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558頁では、同社の就業規則八条「従業員は、会社の諸規程および上長の指示にしたがい、……誠実にその義務を遂行しなければならない。」が引用され、「労働者は誠実に職務に従事すべき義務を負うことは、労働契約の性質から当然のことである。したがつて、労働者が勤務時間中にその職務と関係のない行為を行うことは原則として右義務に違反することとなり、この場合に右義務違反が成立するためには必ずしも現実に職務の遂行が阻害されるなどの実害が発生することまでは要しないものというべきである。そして、被告会社の前記就業規則八条の定めも、このことを明らかにしたものと解される。」と判示しているとおりである。

 本件は、狭山差別裁判粉砕等、裁判の不当を訴える内容の縦10センチメートル、横14センチメートルの硬質プラスチック製のプレートを制服の左胸部に着用してした就労申入れを拒否した事案で組合活動ではないが、現在の東急電鉄の就業規則は不明だが、民鉄の就業規則を引用して厳格な職務専念義務論を述べた先例としてその意義が認めなければならない。

 だだし、この論点については労働組合側から反論も予想できるので再反論も示しておきたい。

 

()予想される反論に対する再反論

 

A 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は当該事案の判断にすぎず、リボン闘争が一般的に違法とは云っていないとの反論

 

 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、「本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」としたが、最高裁としての理由を示さなかったことから、判旨にあらわれた限りでは、この判例を一般違法についての判断まで是認した趣旨と読むことはやや無理で、特別違法の観点からする判断、一流ホテルにおける従業員の接客勤務態度に対する要請からみて正当な行為にあたらないとする見解 (花見忠「リボン闘争の正当性--ホテル・オ-クラ事件最高裁判決」『ジュリスト』 771 1982)がある。

 しかし最高裁は昭和50年代以降企業施設内の無許諾の組合活動は企業秩序をみだすものとして受忍義務がないとする、使用者の企業秩序定立権という判例法理を案出し(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676)、この判例法理は、安定的に維持(池上通信機事件最三小判昭63719判時1293、日本チバガイギー事件最一小判平元・119労判53373号、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786、オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130)されているが、従業員は企業秩序遵守義務があるのであって、これらの判例は使用者の権利と団結権とを法益調整するという考え方はとらないのであって、法益衡量的な諸般の事情を勘案する調整的なアプローチを否定しており、具体的な業務阻害のないことは無許可組合活動を正当化しないことを明確にしている。ケースバイケースの判断はとらないのである。したがってホテル業だからダメでその他の業種なら正当化される余地があるとする根拠はない。

 例外としては、権利の濫用とみなされる特段の事情がある場合だが、この判断枠組で風穴は開けられていない。

 仮に百歩譲って、特別違法性だけを認めた判例とする花見説を認めたとしても、原審のいう特別違法性「リボン闘争は、労使が互いに緊張していることをまあたりに現前させるので、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てる」という説示は、ホテル業に限らず、従業員が客面に出るサービス提供業務一般に広くいえることで注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことあって、鉄道事業にもあてはまるのである。

 例えば、大手私鉄の主要路線では、通勤客に対し寛ぎや快適さを提供する有料着席ライナーを運行するようになったが、京王ライナーでは、空気清浄機が具えられたうえ、しばしの間お寛ぎください云々とのアナウンスが流れるのである。ところが、2018年2月22日デビュー以降、三週間程度が春闘時期にあたり、車掌は春闘ワッペンを制服の腹の部分に取り付けていた。直径7から8㎝で赤い円形のためかなり目立つ。着席状況を確認するため、車掌が各車両を見回るが、春闘ワッペンをみせつけて、第三者である乗客に春闘との連帯を訴えかける行為は、400円の有料着席ライナーを利用する乗客が求める「休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁なことといえる」のであって、原審の説示した特別違法性は、鉄道事業にもあてはまるというべきである。したがって大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413を逆手にとって、ワッペン着用に有利に解釈する妥当性はないのである。

 

B 伊藤正己補足意見は、就業時間中の組合活動はすべて違法でなく、具体的な業務阻害のない行為を是認しているという反論

 

 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413の伊藤正己判事の単独補足意見は、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213は事案を異にするので先例とみなさないとし、「就業時間中に‥‥およそ組合活動であるならば、すべて違法の行動であるとまではいえない」とか「業務を具体的に阻害することのない行動は、必ずしも職務専念義務に違背するものではない」としている。

 この補足意見については、「伊藤裁判官の補足意見により‥‥労働委員会が実態に即し、不当労働行為制度の趣旨を生かす判断を行う余地が残されるようになった」(松田保彦「いわゆるリボン闘争の正当性-ホテルオークラ事件」・法学教室221982)と肯定的評価をする批評がある。

 しかしこれは明らかに変である。伊藤補足意見は、リボン闘争が争議行為の類型には当たらないとした以外の主張は、組合活動に好意的な立場で先例を無視した勝手な持論を言っているだけのものであり、最高裁の主流の考え方に異論を示しただけのものであるめ。上記引用した企業秩序論の最高裁判例においても伊藤補足意見の趣旨は完全に否定されていることから、単独の補足意見が影響力を持つ事自体が不当である。

 例えば済生会中央病院事件最二小判平元・1211民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」としたうえで、勤務時間中の無許可集会に対する警告書交付はそれが業務に支障をきたさない態様であっても「労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎない」ので不当労働行為にあたらないと判示しており、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213こそ引用してないが、最高裁は同判決の職務専念義務論を踏襲した判断をとっているとみてよいし、済生会中央病院事件判決によって無許諾の就業時間内組合活動が正当化される余地はなくなったというべきであるし、業務に具体的阻害のない態様であることは正当化する理由にはならないことを重ねて確認した判決といえる。先に引用した伊藤補足意見の趣旨を完全に否定されている。

 

C 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭5212134の厳格な職務専念義務論を引用していないので、組合活動に適用されるかは未解決の問題であるとする反論

 

 目黒局判決が引用されてないのは、第三小法廷の4名中2名裁判長環昌一判事と、伊藤正己判事が左派プロレイバーであり、勤務時間中は、注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないとする目黒電報電話局事件判決に批判的な見解をとっていたため小法廷の意見が一致しなかったため推定できる。伊藤判事は補足意見で同判決を批判しているし、環裁判長は、目黒局判決の結果的同意意見となる補足意見で、反戦プレート着用は懲戒処分理由と認めていないことから明らかなことといえる。

 しかし、左派2判事が先例拘束性を認めなかったことで、目黒電報電話局事件判決の先例としての意義を否定されるものではないし、既にのべたとおり、同判決の判断枠組は、私企業においても組合活動においてもそれが適用されることは判例法理上の必然であり、大成観光事件上告審判決は、当該リボン闘争を組合の正当な行為にあたらないとし、組合幹部への減給、訓告処分を是認するものであるから、引用されずとも同判決を踏襲した判断をとったとみるとの妥当である。

 大成観光事件以降の判例では本節、冒頭に述べたJR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388頁も厳格な職務専念義務論をとっており、上告審最三小判平10717労判74415頁も原判決の判断を支持しているだけでなく、それ以外に目黒局判決の参照指示こそないが、同趣旨、もしくは本文をそのまま引用し、厳格な職務専念義務論をとる下級審判例として以下の判例がある。

 東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558

 国鉄鹿児島自動車営業所事件 鹿児島地判昭63627判時1303143頁裁判所ウェブサイト(組合バッジ着用は職務専念義務違反で禁止できるとしたうえで、管理者に準ずる地位にある職員が、取外し命令を無視して組合員バッジの着用をやめないことから、通常業務から外し降灰除去作業をさせたことが、懲罰的目的であり業務命令権の濫用とする。控訴審の判断も同じ。最三小判平5611判時1466151頁裁判所ウェブサイトは、原判決破棄自判。本件降灰除去作業は、労働契約に基づく付随的業務としての環境整備作業の範囲を越えるものではなく、懲罰的、報復的目的を認定することは失当とする)

 西福岡自動車学校腕章事件 福岡地判平7920労判695133頁裁判所ウェブサイト、

 JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件・東京高判平11224判時1665号130頁裁判所ウェブサイト

(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意、訓告、55名に対し夏季手当5%減額の措置につき国労バッジの着用は、就業規則の服装整正規定違反、就業時間中の組合活動禁止規定違反、職務専念義務規定違反であり企業秩序を乱すものであるとし、取外し命令、懲戒、不利益処分を禁止するものではない。しかしながら「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入)に該当するとした。)

 JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイト

 JR西日本(大阪)国労バッチ事件 東京地判平241031別冊中央労働時報143420

 JR東日本(神奈川)国労バッチ出勤停止事件 東京高判25327別冊中央労働時報1445号50頁

 JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538

 

 もっとも目黒局判決の参照指示があって職務専念義務論を引用しているのは国立ピースリボン事件・東京地判平18726裁判所ウェブサイトと都立南大沢学園養護学校事件・東京地判平29522TKCといった地方公務員の国旗・国歌をめぐる抗議活動の事案にすぎない。

 参照指示のある判例が少ないという点で左派2判事の抵抗により理論的説示をしなかった影響を引きずったともいえるが、とはいえ目黒電報電話局事件判決の職務専念義務論は、私企業の組合活動の多くの判例でそれと同じ判断を示しているのであって、先例としての価値を有していることに疑う余地がない。

 よって、この論点については労働組合側がら反論があっても再反論が可能である。

 もっとも理論的に労働契約上の誠実労働義務違反で違法といっても、懲戒処分に付すにはフジ興産事件最二小判平151010判時1840144頁が、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定め、適用を受ける労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判示している以上、就業規則を根拠としない懲戒処分は無理があるから。実務的には企業秩序論の脈絡から対応していくことがより堅実とはいえる。

 

 

 3.春闘ワッペンの取り外し命令等を行ったとしても労組法7条1項の不当労働行為にあたるとされることはない(組合活動として正当な行為とされることはない)

 

 民鉄と同業種である国鉄ではリボン闘争とワッペン型大型バッジに関する判例、JRでは組合バッジに関する判例が多数あるが、その判例傾向からみて、就業規則を整備を前提としていえば、類似事案である民鉄の私鉄総連春闘ワッペンについて、取り外し命令や不利益扱いを行ったとしても労組法7条1項の不当労働行為にあたるとされることはないと断言できる。

 

1)今更ながら国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529でリボン闘争が違法とされている以上、それが民鉄のワッペン闘争であれ、同じ結論となることは必定 

 

  国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529判時7046頁が、リボン闘争を違法とするリーディングケースであることは既に述べた。事案は、国労が昭和45年春闘に際し全国各支部に闘争指令を発し、青函地本は320日ころよりリボン闘争を含む職場点検闘争に入ることを各職場分会に指令した。これにより国労組合員が同年320日から58日にわたって「大巾賃上げを斗いとろう、165千人合理化紛砕」と書いた黄色のリボン(縦1.0㎝横3.5㎝)を制服に着用して勤務に就いた。当局は再三に亘って取り外しを指示したが、従わなかった組合員延べ492名を訓告処分に付し、このうち54名が国鉄総裁を相手取って訓告処分無効確認と損害賠償請求の訴訟を起こしたものである。

 一審函館地判昭47519判時66821頁はリボン着用を正当な組合活動として訓告処分を無効としたが、控訴審ではリボン闘争を違法とする逆転判決となった。

 この判例は「‥‥国有鉄道の職員は、勤務中は、法令等による特別の定めがある場合を除き、その精神的、肉体的活動力の全てを職務の遂行にのみ集中しなければならず、その職務以外のために、精神的、肉体的活動力を用いることを許さないとするものである。‥‥勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、通常はこれによって当然に職務に対する注意力がそがれるから、かかる行為または活動をすることは、原則として職務専念義務に違反する‥‥その行為または活動によって、具体的に業務が阻害される結果が生じたか否かは、右の判断とは直接関係がないものというべき」と職務専念義務を厳格に解釈した判断枠組を示したことで知られ、これが最高裁(目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974)によって採用されたことにより、職場規律維持、正常化の原点となったことで高く評価されるべきである。

 国鉄時代のリボン着用禁止の根拠となったのは、職務専念義務(国鉄法322項の「職員は、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない。」)のほか服装整正規定がある。

 鉄道営業法第22条は「旅客及公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ」と規定し、この規定の趣旨を受けて、安全の確保に関する規程第14条、職員服務規程第9条、営業関係職員の職制及び服務の基準第14条、服制及び被服類取扱基準規程第2条、第9条等の定めがなされ、現業に従事する職員に対し、制服(作業服を含む)を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられており、服制及び被服類取扱基準規程では、現場職員の制服等の制式と着装方を定め、これを職員に貸与するものとし(第3条)、かつ「被服類には、腕章、キ章及び服飾類であって、この規程に定めるもの及び別に定めるもの以外のものを着用してはならない」(第9条第3項)と規定していた。

 国鉄法の職務専念義務は、私企業の労働契約上の誠実労働義務にもあてはまることはすでに述べたとおりである。また国鉄中国支社事件判決・最一小昭49228民集28166において国鉄の懲戒処分は、行政処分でなく、私法上の行為と判示しているので、国鉄においては公労法171項で争議行為が禁止されていたことを除いて、国鉄判例は私企業においても先例となるのである。

 青函地本事件札幌高裁判決は次のように説示する。

 「‥‥被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、したがって‥‥勤務の間中、組合員相互に本件リボンの着用を確認し合い、これを着用していない組合員には着用を指導していたものであつて、本件リボンの着用が精神的に被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものでなかったとは到底認めることはできない。‥‥組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものというべきであり、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでなかつたことは明らかである。よって、被控訴人らが勤務時間中本件リボンを着用したことは、職務専念義務に違反するものである」 

 「国鉄職員のうち旅客及び公衆に対する職務を行なう者については、鉄道営業法第二二条によって、制服の着用が義務づけられており、また、直接右法条に該当しない者であっても、現業に従事する者について、公共の福祉の増進を目的とする国鉄の職員としての公正中立と品位を保持し、旅客公衆に対し国鉄職員であることの識別を可能ならしめ、かつ不快感を与えることを防止し、その職務が旅客公衆の身体、財産の安全にかかわるものとして、特に強く要請される職場規律の保持を確保するために、制服を着用すべきものとすることが必要であるから‥‥現業に従事する職員に対し制服を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられていることは、十分合理的な根拠を有するのであり、そして、右制服に、定められた服飾類以外の物を着用することを禁止することも、制服の性質、趣旨よりすれば、これを不合理な規制ということはできない。‥‥また、本件リボンは、前記のとおり組合活動として着用されたもので、その内容は組合の要求を記載したものであるところ、‥‥被控訴人ら国鉄職員がこれを着用して勤務していることに対し旅客公衆の中には不快感を抱く者があることは十分予想される。被控訴人らは、そのような不快感は反組合的感情で保護するに値しないと主張するが、しかし、その不快感が、本件リボンの内容である国労の要求内容に対する不満にあるのではなく、被控訴人らが職務に従事しながら本件リボンを着用して組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安によるものであるときは、国鉄が公共の福祉の増進を目的とする公法人で、その資本は全額政府が出資していることを考えると、右の趣旨の旅客公衆の不快感は十分理由があるものであつて、これを単なる反組合的感情にすぎないものということはできない。さらに、本件リボンと職場の規律、秩序の関係についても、本件リボンが前記のとおり国労の要求を記載したもので、これを着用することによって国労の団結をはかるものであるところ、国鉄内には、国労のほか、これと対立関係にある鉄道労働組合があることは顕著な事実であり、本件リボンの着用が鉄労組合員その他組合未加入者に心理的な動揺を与え、‥‥国労の組合員の中にも指令に反し本件リボンを着用しなかつた者が相当数あつたことが認められるが、これらの者にも精神的な重圧となったことも十分考えられ、勤務時間中の本件リボンの着用は、その勤務の場において、不要に職場の規律、秩序を乱すおそれのあるものというべきである。‥‥よつて、本件リボンの着用は、控訴人の服装に関する定めに違反するものであり、法律及び控訴人の規程の遵守を求める法律に反する違法のものである。」

 むろん、リボンとワッペンに相異はある。私鉄総連の春闘ワッペンには、具体的な要求項目の記載はない。ワッペンの記載は、民鉄協会と合同して行っている「公共交通利用促進」というスローガン、西暦と「春闘」、私鉄総連の英訳の頭文字、電車やバスのデザインである。

 しかし「春闘」とは2月ころから労働組合が一斉に賃上げ等を要求する闘争を意味することは明らかであり、ワッペンは直径78㎝はあり目につきやすいという点ではリボンと比較しても遜色はない。

 旅客公衆は「春闘」という文字をみて、使用者に対する団結示威というだけでなく、乗客にも春闘への連帯を訴えかける教宣活動と受けとめるの。したがって、旅客公衆が「職務に従事しながら‥組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安」を抱くことは、国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529の説示と基本的には同じことというべきである。 国鉄の複数組合と、民鉄では事情が異なるかもしれないが、その部分を除き、民鉄と国鉄の就業規則が異なる点を留保したとしても国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529の説示するところは春闘ワッペンを同列に論じてよいと考える。

 

 

 (2)国労バッジ事件判例はJR各社の就業規則違反として組合バッジ着用を理由とする不利益処分を適法としており、バッジよりも大きくて目立つ春闘ワッペンを規制できないということは絶対にありえない

 

A JRにおいて組合バッジ着用禁止をめぐる紛争が起きた経緯と終息

 

 初めに国労バッジ事件とはなんであったかについて一応説明しておく。

  国労バッジを着用し、上司の指示の取り外し命令に従わなかったことを理由とする不利益取扱が不当労働行為に該当するか否かが争われた救済命令取消訴訟が多数ある。

 これは国労がJR発足以前から、組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示していたのに対し、JR各社は昭和624月発足以来就業規則や賃金規定を根拠として着用規制を徹底して行ったことによる紛争である。

 国鉄時代には、動労、鉄労など国労以外の他の労働組合も、組合バッジを作成し、組合員に配付しており、各労働組合の組合員は、組合バッジを着用していたが、JR発足の昭和624月には、国労以外の他の労働組合の組合員のほとんどは組合バッジを外したのである。

  国労バッジとは実は大きさで2種類ある。通常着用していたのは、縦1.1㎝、横1.3㎝の四角形で、黒地に金色のレールの断面と国の英訳の頭文字をとった「NRU」の文字をデザインしたものである。

 これと別に布製のワッペン式大型バッジがあり、通称「くまんばち」と呼ばれ、デザインはほぼ同様であるが、縦2.6㎝、横28㎝と大きく、主に闘争時などを中心に着用された。国鉄当局は、これをワッペンの一種であるとして、国鉄末期から規制を行っている。国鉄鹿児島自動車営業所事件 最三小判平5611判時1446151頁(管理者に準ずる地位にある職員が組合員バッジの取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令を適法とする)が昭和60年の国鉄時代の事案だが、布製の「くまんばち」の事案であるから、本件はワッペンに関する判例とみなすべきである。

 しかし大多数の国労バッジ判例は小型の組合バッジの事案なにのである。

 

 以下、ここでは主としてJR東日本(神奈川・国労バッジ)事件・東京高判平11224判時1665号130頁裁判所ウェブサイト(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意または訓告処分、55名に対し夏季手当5%減額の措置をとったことが不当労働行為に当たるかが争われた)の判文より引用する。

 国労は、分割民営化反対等を主張し、昭和59810日に2時間ストライキを実施したほか、昭和60年に入ってワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年913日、闘争に参加した約59200人の国労所属組合員に対して戒告、訓告等の処分をした。さらに、国労は、昭和61410日から12日まで、国鉄の分割民営化方針等に抗議して、ワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年530日、闘争に参加した約29000人の国労組合員に対し、戒告又は訓告の処分をした。

 このことから、国鉄末期にワッペンの規制を行っていたことが明らかである。

 国鉄は、昭和61113日、「労使共同宣言(第一次)」の締結を各組合に提案した。諸法規を遵守すること、リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整えること、必要な合理化は、労使が一致協力して積極的に推進すること‥‥が掲げられていた。この提案に対し、鉄労、動労及び全施労は受諾したが、国労は、拒否した。

 しかし小型の組合バッジは取締の対象にはなっていなかった。

 国鉄総裁は昭和613月に八次にわたる職場規律の総点検の集大成とし職員管理調書の作成を通達しているが、勤務態度に関することとして「服装の乱れ」という項目があり、「リボン・ワッペン、氏名札、安全帽、安全靴、あご紐、ネクタイ等について、指導された通りの服装をしているか。」を評定事項としているが、組合バッジについては言及されていない。

  国労は昭和615月には組合員約163000名(組織率683パーセント)を有する国鉄内最大の労働組合であったが、昭和622月には約647000(同292パーセント)、さらに、同年4月には約440000と急激に減少させた。組合バッジを組合団結のシンボルとする国労組合員は、国労の組織防衛上の見地からその着用を続けていた。東京地本は、昭和611031日、闘争指令を発し、その中で、当面の闘いとして、「国労バッチの完全着用をはかること。」などの指令を出し、さらに、昭和62331日、各支部執行委員長に対し、「国労バッチは全員が完全に着用するよう再度徹底を期すこととする。」などの指示を出している。

 一方、JR東日本発足時には、東鉄労(動労、鉄労、国労脱退者の一部を糾合)の組合員は国鉄時代の慣行をやめ鉄道労連のバッジを着用しなかった。会社発足の困難な途上において労使がいらざる紛争の種を作るべきではないとして、所属組合員が就業時間中に組合バッジを着用することがあれば、強力に指導して外させる方針だったという。

 JR東日本の調査によれば、62年4月の組合バッジ着用者は、5645名(全体の88%)、同年5月の調査で2798名(同44%)であり、そのほとんどが国労組合員であった。

 JRの就業規則は昭和62323日に制定されたが以下の3ヶ条が、組合バッジ着用を禁止する根拠になっている。

 

第3条の1 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。

第20条の3

 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。

第23条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。

 

 また賃金規程(昭和六三年八月人達第一二号による改正前のもの。)には、期末手当の額の減額に関連する規定があり、減額に係る成績率については、5%減の事由として減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者と定められている。これに関して作成される期末手当減額調書には、業績(問題意識、成果)、態度(執行態度、協調性等)、処分の有無、服装(組合バッジ着用等の注意回数等)について記入することとされている。

 なお、昭和62423日付けのJR東日本と国労東日本鉄道本部との労働協約では,経営協議会及び団体交渉など原告から承認を得た場合のほか,勤務時間中の組合活動を行うことはできないことを約定している(同協約第6条)

 国鉄の東日本旅客鉄道株式会社設立準備室の小柴次長は、昭和62323日、東日本地区各機関総務(担当)部長(次長)に対し、「社員への「社員証」「社章」「氏名札」の交付等について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、JR発足に当たって全社員に交付すべき社員証、社章及び氏名札は、勤務箇所長から直接社員一人一人に手渡しで交付すること、組合バッジを着用している場合には、組合バッジを外させるとともに、社章を着用させることを指示した 

 つまり、使用者側は、JR発足時から組合バッジ着用を認めない方針だった。これは国鉄末期の点検項目にもなかったことである。以下、筆者の感想であるが、JRの就業規則はよくできていて、組合バッジ着用は、職務専念義務違反、服装規定違反、無許可組合活動の3ヶ条に違反するのみならず、服装指導の回数によって、期末手当5%減額事由となる賃金規定があるため、バッジを取外さなければ、いわゆるボーナスが減額されてもやむをえないような設計に初めからなっていたといえるのではないか。

 民鉄の実態から比較すれば厳しいあり方といえるだろうが、職務専念義務の徹底は、国鉄末期の職場規律の乱れに対する国会や世論の批判を受けてのものと理解することもできる。

  人事部勤労課長は、昭和62420日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「社章、氏名札着用等の指導方について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、「組合バッヂ着用者に対しては、服装違反である旨注意を喚起して、取り外すよう注意・指導すること。その際の注意等に対する言動を含めた状況を克明に記録しておくこと。繰り返し注意・指導を行ったにもかかわらず、これに従わない社員に対しては、「就業規則」、「社員証、社章及び氏名札規程」に違反するとして厳しく対処することとし、人事考課等に厳正に反映させることとされたい。」と指示した。これを受けて、東京圏運行本部の総務部人事課長及び勤労課長は、関係現業機関の長に対し、翌21日、同旨の事務連絡を行い、さらに、同月28日、「服装等の整正状況のは握について」と題する事務連絡を行って、決められた服装をしない社員の整正状況について個人別把握を行うよう指示した。さらに、人事部勤労課長は、同年521日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、更に強力に注意・指導の徹底を行い、直ちに改善されるよう取り組むべきことを指示した。

 このように、組合バッジの取り外し指導は徹底して行われていたのである。

 国労が労使協調路線へ方針を転換したのは平成87月以降であり、平成11年年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結した。平成1811月包括和解によりバッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げている。JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件 東京地判平24117労判106718頁によれば、JR東日本は組合バッジ着用者に対する処分を年2回程度の割合で実施していった。被処分者は、平成3年9月の処分で2000人を割り込み、平成8年9月の処分で1000人を割り込み,平成14年3月には314人(全従業員の0.4%)になっていた。平成143月末以降は、組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり、国労は、組合バッジ着用に関し、機関決定違反として統制処分をするまではしないが、支持はしなくなったとする。平成157月以降国労バッジ着用者は1人となった。その者も退職したので、少なくともJR東日本では現在では組合バッジの着用者はいないとみてよいだろう。

 つまり、会社側が企業秩序を定立するため、しかるべき就業規則を制定し、ワッペン・リボンはもちろんのこと、小型の組合バッジであれ、企業秩序遵守義務に反するものとして、徹底して禁止することができるということは、JRの労務管理の実績で証明されたことなのである。

 

 B  国労バッジ事件主要判例が示すように、組合バッジ着用は就業規則違反の限定解釈の判断枠組で実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められてないので、春闘ワッペンも同じことである

 

 国労バッジ判例はいくつかの類型に分けることがであるが、第1の類型が主要判例といえるもので、以下の7例が、第1の類型組合バッジ着用を理由とする不利益取扱が不当労働行為には当たらず適法との判断を下している。

JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・ 東京地判平71214判時1556141

JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388

JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・最三小判平10717労判74415

JR西日本(大阪)国労バッジ事件・東京地判平241031別冊中央労働時報143420

JR東日本(神奈川)国労バッジ・出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718

 ここでは代表的な判例である東京高判平91030(組合バッジ着用を理由とする厳重注意、夏季手当5%減額、賃金規定の昇給欠格条項該当措置は不当労働行為に当たらないとした)を引用する。理論的説示は概ね完璧に近く、最高裁に支持されているため 代表的な判例としてよいのである。平成20年代の判例は、後述する第2類型も含めて、この判決を踏襲した理論的説示をしている。

 要点だけ述べれば組合バッジ着用はJRの前記就業規則3条、20条、23条に違反する。

 就業規則に違反することは明らかであるが、先例である目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974は不利益処分の客観的合理性を確保するため就業規則の限定解釈をする判断枠組を示しているのでこの審査をバスしないと就業規則違反とはならないことになっている。

 目黒局判決の判断枠組は「‥‥秩序風紀の維持を目的としたものであることにかんがみ、形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときには、右規定の違反になるとはいえないと解するのが、相当である」というものである。

 東京高判平91030も「文言上形式的には本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である」と目黒局判決の判断枠組を引用してその審査を行っているが、以下のとおり実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情はないと判定するのである。

 「本件組合バッヂ着用行為は、‥‥組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、‥‥職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという‥‥職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。」

 要するに、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用いていないことは職務専念義務に違反し企業秩序を乱しているということ、他の社員が職務に集中できないおそれ、注意力を散漫にするおそれがあること(抽象的危険)により実質的に企業秩序をみだしていると認定した目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の説示とほぼ同じ趣旨である。

 後段の部分については、私鉄総連の春闘ワッペンは、複数組合のあるJRと違う環境であり少数組合の国労とは違って殆どすべての社員を着用していることから、国労バッジ事件と同列状況が違うとの反論がありうるが、すべての非管理職社員が着けているとしても、自ら着用することが組合活動を意識しながら職務を行うことで職務専念義務に反しているだけではなく、目立つものであるから、就業時間中に他の社員の春闘バッジが目に入ることでも、団結意思の相互確認、闘争参加意識、春闘を意識することとなり、組合員間の連帯を高め闘争に向けて士気の鼓舞する意味と作用を有するともいえるから、注意力のすべてを職務遂行に向けることを妨げるおそれがあり、組合の指示にしたがって着用しているかを相互に確認する行為がなされるだけでも、就業時間中に注意力を散漫にするおそれがあるといえるのであり、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められることはありえない。

 ちなみに目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213以降の企業橘序論判例は、抽象的危険説をとり、具体的業務阻害がないことを理由に組合活動が正当化されることはないことを明示している。

 つまりワッペンを禁止するのに具象的な業務阻害を説明する必要はない。2014年2月15日午前0時半すぎに、東急東横線元住吉駅で、大雪の影響で電車が追突し乗客65人が負傷した事故があった。2月15日というとだいたい春闘ワッペンを着用しだす時期である。事故の原因については究明されていることであり、その時、運転指令室や乗務員がワッペンを着けていたかどうかは知らない。仮に着けていたとしても春闘ワッペンを意識した雑念が事故と関係しているという根拠はないから無関係だろう。しかし、ワッペンはたんに抽象的な理由、それが目に触れるため他の社員の職務専念義務を妨げるおそれがあるというだけでも企業秩序をみだすものとして禁止できるのである。

 

 C 労組法73号の支配介入にあたるとする国労バッジ判例も存在するが、労組法71項の不当労働行為にあたらず、就業規則違反として禁止できることは認めている

 

 国労バッジ判例の第2の類型は、組合バッジ着用は就業規則違反として禁止できるとしたうえで、あるいは、不利益措置は労組法1条の不当労働行為にあたらないとしたうえで、労組法73号の支配介入にあたるとするものである。

 JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイト(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意または訓告処分、55名に対し夏季手当5%減額の措置をとったことが不当労働行為に当たるかが争われた)は、国労バッジ着用について「国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。‥‥本件組合バッジの着用は、本件就業規則三条一項、二〇条三項及び二三条に違反するものであった。したがって、控訴人が本件組合員らによるこれら本件就業規則違反をとがめて本件就業規則等にのっとり懲戒その他の不利益処分を行う権限を有することは、明らかである」としている点は、前記JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・東京高判平91030と同趣旨といえるので、実はこの判例も、服装闘争を規制する側に有益な判例なのである。

 しかしながら「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので、一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても、それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには、その使用者の行為は、これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」と述べ、「敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し」バッジ取外しの指示・指導等は「執拗かつ臓烈なもので,平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり」「就業規則の書き写しの作業などは,嫌がらせ」であり、「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入、労組法7条3号)にあたるとする。

 具体的に何を支配介入の論拠としているかだが、国労に対する敵意と嫌悪感を露骨に示す言動として、松田常務取締役の会社に対する反対派(国労)を断固として排除する旨の発言。住田社長の東鉄労との一企業一組合が望ましいとして、国労を攻撃し、このような迷える子羊を救って東鉄労の仲間に迎え入れていただきたいとして、東鉄労の組合員らに対し、国労組合員の国労からの脱退、東鉄労への加入を促す働き掛けを期待する発言など多くの根拠が示されている。

 この判断によれば、労働組合の正当な行為ではないから、直ちに不当労働行為にあたらないということにはならず、労組法7条3号の支配介入にあたることがありうることを示している。

 なるほど、国鉄の末期頃まで国労以外の組合員も組合バッジを付けていた。国鉄末期の八次に及ぶ職場規律の総点検でも組合バッジは問題にされていない。

 原判決東京地判平987判タ957114 (次節の第3類型)によれば動労委員長時代の松崎東鉄労委員長が「駄目な労働組合には消滅してもらうしかなく、駄目な組織はイジメ抜く」旨述べていたことと関連して、機関紙による組合バッジ着用呼び掛けにもかかわらず、東鉄労の組合員が組合バッジを着用しないことについては、原告と東鉄労との間で事前の話し合いが行われ、東鉄労が労使協調関係を維持するとともにこれを誇示し、あるいは国労の対決路線を際立たせる意図の下に、組合バッジ不着用を決定したことが窺われるとの見方が示されている。

 この趣旨からすると会社と多数組合が示し合わせて、少数組合を弱体化し追い詰める手段として組合バッジの取り締まりを行ったという図式になる。

 もっともJR東日本神奈川事件とは第一次から第四次まであり、JR東日本(神奈川)国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718頁は不当労働行為にあたらないとしているし、JR東日本(神奈川)国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538頁は上記に引用したような脈絡で支配介入は認めていないから、労組法7条3項の支配介入にあたるかは裁判体によって異なった判断をとっている理解するほかない。

 仮に、JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11224に説得力があるとしても、引用した支配介入の根拠とされるものは、JR東日本の労務管理の特殊な事情であるから、一般論として使用者側に服装規制を委縮させるような性格のものではない。

 またJR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538頁甲事件も前記第一次神奈川事件高裁判決と同類型ともいえる判例で、組合バッジ着用に対する不利益処分(労組法71号)の不当労働行為は認められないとする一方、平成143月以降の国労バッジ着用行為に対する極端な厳罰化は,国労バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた原告が,国労執行部の方針転換を認識するに至り、これを機に国労内少数派の勢力を減殺し,国労執行部の方針に加担したものと認められるので労対組法73号の支配介入にあたるとするものである。

 

 2つの高裁判決(JR東日本(神奈川)第一次国労バッジ事件・東京高判平11224判時1665130頁と、JR東日本(神奈川)国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538頁)は決して労働組合に有利な判断を示したものではない。

 とくに後者は直近の高裁判決として注目してよい。これは原判決東京地判平25328別冊中央労働時報144317頁の判断を一部補正のうえ支持したものであるが、甲事件、乙事件とも労組法71項(不利益取扱い)にあたらないとする一方、甲事件について

73項(支配介入)にあたり不当労働行為にあたるとするものである。

 東京高判平251128は労組法71項の不当労働行為にあたらないとする説示は次のように述べている

 

「(2)不利益取扱い(労組法7条1号)の成否(正当性の有無)

 労組法7条1号の不当労働行為は,組合活動のうち,「正当な行為」について成立するので,以下,その正当性について検討する。

ア 就業規則との関係

 国鉄では,職場規律の乱れや巨額の赤字が問題となり,職場規律の乱れを是正するための措置が講じられるとともに,分割民営化による改革が進められることになる中で、JR東日本は、そのような状況にあった国鉄の事業の一部を引き継いで設立されたものであって、乱れていた職場規律等を正し、これを厳正に維持して、職場での事業執行の態勢を根本的に立て直すことが強く求められていたことや、JR東日本が行う鉄道事業は、多くの利用者の日常生活、社会経済活動に不可欠な公共性の高い事業であり,日々、不特定多数の利用者の生命、身体の安全に直結する性質の事業であることから、時刻表に沿った運転業務を安全かつ確実に遂行することができるように、従業員の職務専念義務を規定して適正な職務遂行を求め、これを服装面から規制することによって就業時間中の組合活動を原則として禁止するなどの就業規則を定めたことは,十分に合理性が認められるというべきである。

 そして,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,職務専念義務について定める就業規則3条1項,社員の服装の整正について定める同20条3項,勤務時間中の組合活動を禁止する同23条にそれぞれ違反し,原則として,その正当性が否定されるものであると認められる。

イ 正当性に関する補助参加人らの主張について

 補助参加人らは,〔1〕国労バッジ着用は労務提供義務と矛盾なく両立し,業務阻害性はなく,職務専念義務,服装整正義務に違反するとはいえない,〔2〕国労バッジ着用の組合活動としての必要性等を考慮すれば,国労バッジ着用行為には正当性があると主張するので,以下検討する。

(ア)補助参加人らの主張〔1〕について

 本件就業規則3条1項に定める職務専念義務は,社員は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

 そして,労働契約においては,労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労務契約の重要な要素となっているから,職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり,その行為が服装の整正に反するものであれば,就業規則20条3項に違反するといわなければならないし,また,それが組合活動としてされた場合には,そのような勤務時間中の組合活動は就業規則23条に違反するものといわなければならない。

 P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労組合員の中でも国労バッジ着用を止める者が大多数となっていく中で,国労内少数派として着用を継続したものと認められるが,国労執行部ないしは原告に対し,国労内少数派としての意思を表明し,また国労内における多数派に対し,少数派との対立を意識させるものといえ,また同時に,国労組合員のうち,JR東日本による不利益処分を回避するために自らの意思で国労バッジの着用を取り止めた者に対して,不利益処分に屈せず,依然として国労執行部の上記方針に抗議し,反対の意思を表明するために国労バッジを着用している者がいることを示すとともに,任意に国労バッジの着用を断念した者を暗に非難し,精神的な負担をも感じさせる効果を併せ持つものであって,当該組合員が職務に精神的に集中することを妨げるおそれがあるものであるから,かかる行為は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反し,また服装整正にも反するものとして,企業秩序を乱すものといわざるを得ない。

 補助参加人らは,国労バッジ着用に業務阻害性はないと主張するが,上記就業規則違反が成立するためには,現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当であり,補助参加人らの主張は採用することができない。‥‥‥‥

ウ 小括

 以上により,補助参加人らによる国労バッジ着用行為は,就業規則3条1項,20条3項,23条に反し,実質的に企業秩序を乱すおそれのない事情も認めることができず,正当性を認めることができない。

 よって,本件各処分等について,労組法7条1号の不当労働行為は認められない。」

 

 平成25年の判例でもBで引用した第1類型の判例と同じ説示をしており、JRとほぼ同様な就業規則を備えてさえいれば、春闘ワッペンが労働組合の正当な行為とされる余地はないことは明らかである。

 

 甲事件が労組法73項の支配介入と判断されたのは、社会通念上,許容される加重の範囲を逸脱して不相応に厳しい内容であって,行為と処分との均衡を失っているものと認められるときは,その加重された処分は社会的に許容されるものではないとしたうえで、以前の処分と比較して量定、頻度において極端に加重されており、均衡を欠き、他の非違行為に対する処分との不均衡だったためである。類似した判例としては、国・中労委(医療法人光仁会)東京高判平21119労判100194頁がある。組合分会長が106日間にわたって病院正門の左右に計4~5本、赤地に白抜きで「団結」等と記された組合旗を無許可で設置した事案だが、組合旗設置を正当な組合活動ということはできず懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが、停職3か月、その間、賃金不支給、本件病院敷地内立入禁止という懲戒処分は、懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くものであり、組合活動に対する嫌悪を主たる動機としてなされたものとして不当労働行為(労組法7条3号の支配介入)に該当するとした。

 要するに、就業規則違反の組合活動については、使用者に受忍義務はないし、懲戒処分に付すことができるが、懲戒事由と比較して著しく過重だった場合は、組合活動に対する嫌悪を主たる動機とみなされ支配介入とそれることがあるということである。

 しかしその点を留意して、適切な量定の不利益処分は否定していないということであるから、JR東日本(神奈川)国労バッチ減給処分等事件という最新の判例は、服装闘争を規制する側にとって有益なものといえる。

 

D 国労バッジ事件等でバッジ着用等が正当な行為とした判例も少数あるが、いずれも地裁判例であり控訴審でその判断は否定されている。

 

 予想される、労働組合側の反論として、国労バッジ判例には、正当な行為とした判例もある反論もありうるが、再反論すれば、全体からすれば少数であり、地裁の判断で、控訴審では否定されていることである。

 まず、JR西日本(国労広島地本)国労バッジ事件・ 広島地判平51012判タ851201頁は、「組合バッジの着用行為は、形式的には就業規則二〇条に違反するものの、保護されるべき正当な組合活動である」とした。これを第3の類型と分類してもよい。 しかし控訴審の広島高判平10430判タ977124頁裁判所ウェブサイト一部破棄自判、一部棄却で、目黒局判決のような厳格な職務専念義務論を否定しつつも「職務専念義務違反とならない例外に該当する場合とはいえない。‥‥組合バッジ着用行為を本件減率査定事由としたことから直ちにそのことが不当労働行為に該当するとはいえないが、それは他の事情との衡量のなかで相対的に考慮されなければならないものと解すべきである」とやや曖昧な判断を示しつつ、組合バッジの着用行為はそれのみでは減率の理由として相当でないとしているが、大型バッジを着用して勤務した行為は小型のバッジについて述べた以上に減率事由となるとしている。大型バッジとは布製のもので、通称「くまんばち」と呼ばれ、縦2.6cm、横2.8㎝と大きく、これは主に何らかの闘争時などを中心に着用された。この大型バッジについては、国鉄当局がワッペンとみなして規制していたものであり、少なくともワッペン状のものは正当な行為としていない含意がある。

 広島高裁の判断は、これまで引用してきた東京高裁の判断と比較するとぬるく、異色の判例だが、少なくとも地裁が説示した組合の正当な行為とした点は是認していない。

 次に第3の類型といえるのは、JR東日本神奈川国労バッチ事件・東京地判平987判タ957114 であるが、組合バッジ着用を理由とする厳重注意、訓告処分、夏季手当減額等を不当労働行為とした神奈川県地労委の救済命令を是認し、組合バッジの着用は、就業規則に違反せず、組合活動としての正当性を認めている。ただし、不当労働行為は7条1項ではなく7条3項(支配介入」に該当するとしている。

 しかし控訴審の東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイトは、棄却結論において一審の判断を維持したとされるが、既に引用したとおり、本件組合バッジの着用行為を正当な行為とし説示していない。本件就業規則203項、23条及び31項にそれぞれ違反するものであり、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとは到底いえないとし、本件就業規則違反をとがめて懲戒その他の不利益処分を行う権限を有することは、明らかであるとしたうえで、しかしながら国労を嫌悪し,組合員を脱退させ弱体化させようとの意図の下にそれを決定的な動機としてバッジの取り外し、指導を行ったものとして不当労働行為(支配介入・労組法7条3号)にあたるとした判例である。

 その他の国労バッジ事件判例の多くは、組合バッジの着用行為は就業規則違反として禁止できるとしていることは既に述べたとおりである。

 もっとも本荘保線区国労ベルト事件・ 秋田地判平21214労判69028頁か、羽越本線出戸駅信号場構内で作業を行っていた国労組合員が、上着を脱いだ状態で、バックルに国労マークの入ったベルトを着用していたところ、ベルトを取り外すよう命じられ、さらに就業規則の書き写し等を内容とする教育訓練を命じた事案であるが、ベルトの着用は、就業規則三条の職務専念義務に違反するものではないとしたうえで、本件教育訓練はしごきであって、正当な業務命令の裁量の範囲を明らかに逸脱した違法があるとし、二十万円の慰謝料を認めた。

 控訴審仙台高判秋田支部平41225労判69013頁も原審を維持、上告審最二小判平8223労判69012頁も棄却している。しかし国労マークのバックルのあるベルトと、団結示威行為で「春闘」と記載されているワッペンと同列に扱える事案とはいえない。

 このほか神戸陸運事件 神戸地判平9930労判72680頁は本件腕章着用乗務行為は、労務を誠実に遂行する義務に違反するものでなく、正当な組合活動の範囲内の行為とし、腕章着用等を理由に乗務を拒否(労務受領拒否)したことを不当労働行為と認め、バックペイ等を命じた地労委の救済命令を適法としている。しかし私鉄総連ワッペンを着用の事案は労務受領拒否の事案と異なるし、同様の事案で違法とする判例も多い。神田郵便局腕章事件 東京地判昭49527労民集253236頁勤務中に赤地に白く「全逓神田支部」と染め抜いた腕章を着用した行為は就業規則に違反し、職務専念義務に違反する。取外し命令を拒否したことを理由としてされた郵便課窓口係から同課通常係への担務変更命令が適法としたうえで、担務変更命令を無視して職務放棄をしたことによる減給処分を適法と判示し、控訴審東京高判昭51225訟務月報223740頁も原審の判断を支持。三井鉱山賃金カット事件・福岡地判昭46315労民集222268は「不当処分反対、三川通勤イヤ!」「抵抗なくして安全なし」等と書きつけた組合員のゼッケンの着用が、就業時間中の会社構内における情宣等を禁止する労働協約の条項に違反し、正当な組合活動とはいえないと判示した。沖縄全軍労事件・那覇地判昭51421労民集272228は在日米軍基地の従業員が赤布の鉢巻を着用して労務を提供することは、雇用契約上の債務の本旨に従った履行の提供とはいえないとして賃金カットを適法と認めた。控訴審福岡高那覇支判昭53413労民集292253も一審を支持している。

 いずれにせよ、JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388頁以下引用した多くの判例が労働組合の正当な行為とはみなしていないのだから、十分再反論可能である。

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