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2018/09/02

私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその8完)

 3)結論

国労バッジ判例の評価と私鉄総連春闘ワッペン問題への応用

 

.判例の類別

 

 データベース上、国労バッジ事件等で検出されるのは下記のとおりである、実際にはもっと多くの判例があるはずで、例えばJR東日本神奈川事件は第1次~第4次まであるとされている。

 

A△国鉄鹿児島自動車営業所事件・ 鹿児島地判昭63627判時1303143頁裁判所ウェブサイト

B△国鉄鹿児島自動車営業所事件・ 福岡高裁宮崎支判平元・918判タ725115頁裁判所ウェブサイト

C●国鉄鹿児島自動車営業所事件・最三小判平5611判時1466151頁裁判所ウェブサイト

D○本荘保線区国労ベルト事件・秋田地判平21214労判69028

E○本荘保線区国労ベルト事件・ 仙台高判秋田支部平41225労判69013

F○本荘保線区国労ベルト事件・最二小判平8223労判69012

G○JR西日本(国労広島地本)事件)・ 広島地判平51012判タ851201

H●JR西日本(国労広島地本)事件・広島高判平10430判タ977124頁裁判所ウェブサイト

I●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・ 東京地判平71214判時1556141

J●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388

K●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・最三小判平10717労判74415

L〇JR東日本神奈川第一次国労バッチ事件・東京地判平987判タ957114

M△JR東日本神奈川第一次国労バッチ事件・東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイト

N△JR東日本神奈川第一次国労バッチ事件・最一小決平111111労働判例77032

О●JR西日本大阪国労バッチ事件・東京地判平241031別冊中央労働時報143420

P●JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718

Q△JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京地判平25328別冊中央労働時報144317

R△JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538

S△JR東日本国労神奈川国労バッチ減給処分等事件 最一小決平27122

 

 上記の判例を類別すると次のとおりである  

 

1類型

 

 組合バッジ等の着用は就業規則等に違反し、労働組合の正当な行為とはいえず、取外し命令、厳重注意、訓告、夏期期末手当の減額等の使用者の措置は適法であり不当労働行為にはあたらない

 

 JR東海新幹線支部国労バッジ事件がI(地裁)、J(高裁)、K(最高裁)この判断で一貫している(J判決は、最高裁が不当労働行為に該当しないとした原審の判断は、正当として是認するとしているので重要)。最近の判例であるОのJR西日本大阪国労バッチ事件の地裁判決、PのJR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件の地裁判決がJ判決をほぼ踏襲した理論的説示しており、有益である。

 上記は小型バッジの事案だが、Cの最高裁国鉄鹿児島自動車営業所事件判決は、大型布製バッジ(ワッペンに近い)の事案で、この類型にあてはまる。

 

2類型

 

 組合バッジ等の着用は就業規則等に違反し、労働組合の正当な行為とはいえず、厳重注意、訓告、夏期期末手当の減額といった使用者の措置自体を禁止するものではないが、国労を嫌悪し,組合員を脱退させ弱体化させようとの意図の下にそれを決定的な動機としてバッジの取り外し、指導を行ったものとして不当労働行為(支配介入・労組法7条3号)にあたるとする。

 

 MのJR東日本神奈川第一次国労バッチ事件高裁判決がこの判断を示した。QとRのJR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件地裁、高裁判決は、Mの論理構成を精緻化し、バッジ着用に対する不利益処分(労組法71号)の不当労働行為は認められないとする一方、平成14年3月以降の国労バッジ着用行為に対する極端な厳罰化は,国労バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた原告が,国労執行部の方針転換を認識するに至り、これを機に国労内少数派の勢力を減殺し,国労執行部の方針に加担したものと認められるので労組法7条3号の支配介入にあたるとするものである。

 この判断によれば、労働組合の正当な行為ではないから、直ちに不当労働行為にあたらないということにはならず、労組法7条3号の支配介入にあたることがありうることを示している。ただし、PのJR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件の地裁判決は、同じJR東日本のケースだか、不当労働行為にあたらないとしており、支配介入にあたるかどうかは判断が分かれている。

 具体的に何を支配介入の論拠としているかだが、Mの高裁判決によれば、国労に対する敵意と嫌悪感を露骨に示す言動として、松田常務取締役の会社に対する反対派(国労)を断固として排除する旨の発言。住田社長の東鉄労との一企業一組合が望ましいとして、国労を攻撃し、このような迷える子羊を救って東鉄労の仲間に迎え入れていただきたいとして、東鉄労の組合員らに対し、国労組合員の国労からの脱退、東鉄労への加入を促す働き掛けを期待する発言など多くの根拠が示されている。Lの地裁判決では動労委員長時代の松崎東鉄労委員長が「駄目な労働組合には消滅してもらうしかなく、駄目な組織はイジメ抜く」旨述べていたことと関連して、機関紙による組合バッジ着用呼び掛けにもかかわらず、東鉄労の組合員が組合バッジを着用しないことについては、原告と東鉄労との間で事前の話し合いが行われ、東鉄労が労使協調関係を維持するとともにこれを誇示し、あるいは国労の対決路線を際立たせる意図の下に、組合バッジ不着用を決定したことが窺われるとの見方が示されている。

 しかしながら、上記引用した支配介入の根拠とされる事柄はJR東日本に特殊な事情といえるもので、バッジ着用に対する不利益処分が労組法71項の不当労働行為にはあたらないことを比較的最近の判例であるPとRが示している以上この類型の判例も使用者側に有益であることは、第1類型とさほどかわらないとみてよいと思う。

 

3類型 

組合バッジの着用は形式的には就業規則違反であっても正当な労働組合活動であり不利益処分は不当労働行為にあたる

 

 GのJR西日本(国労広島地本)事件)の地裁判決と、LのJR東日本神奈川第一次国労バッチ事件の地裁判決がそうであるが、組合活動の正当な行為とした点はいずれも高裁判決で否定されているのであるから、少なくともJRの就業規則のもとでは正当な組合活動とはされないことは明らかである。

 

 その他の類型にもあるが、大筋では、第1類型、第2類型に絞って考えてよいと思うので、JRの就業規則のもとでは、判例はバッジ着用は正当な組合活動とはみなされず、不利益処分それ自体は違法とはされないことを明らかにしていると言い切ってさしつかえない。

 

. 組合バッジ着用に対する取りはずし命令、不利益処分の根拠、就業規則違反の判定について

 

(ア)就業規則 (これはJR各社共通と考えられる)

 (服務の根本基準)

第三条 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。

2(略)

(服装の整正)

第二〇条 制服等の定めのある社員は、勤務時間中、所定の制服等を着用しなければならない。

2 社員は、制服等の着用にあたっては、常に端正に着用するよう努めなければならない。

3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。

(勤務時間中等の組合活動)

第二三条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。

(懲戒の基準)

第一四〇条 社員が次の各号の一に該当する行為を行った場合は、懲戒する。

(1)法令、会社の諸規程等に違反した場合

(2)上長の業務命令に服従しなかった場合

(3)職務上の規律を乱した場合

(4)ないし(12)(略)

(懲戒の種類)

第一四一条 懲戒の種類は次のとおりとする。

(1)ないし(3)(略)

(4)減給 賃金の一部を減じ、将来を戒める。

(5)戒告 厳重に注意し、将来を戒める。

2 懲戒を行う程度に至らないものは訓告する。

(二)原告の賃金規程のうち、期末手当の額の減額に関連する規定は、次のとおりとなっている(昭和六三年八月人達第一二号による改正前)。

(調査期間)

第一四二条 調査期間は、夏季手当については前年一二月一日から五月三一日まで、年末手当については六月一日から一一月三〇日までとする。

(支給額)

第一四三条 期末手当の支給額は、次の算式により算定して得た額とし、基準額については、別に定めるところによる。

基準額×(1-期間率±成績率)=支給額

(成績率)

第一四五条 第一四三条に規定する成績率は、調査期間内における勤務成績により増額、又は減額する割合とする。

2(略)

3 成績率(減額)は、調査期間内における懲戒処分及び勤務成績に応じて、次のとおりとする。

ア 出勤停止 一〇/一〇〇減

イ 減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者五/一〇〇減

(三)また、賃金規程のうち、昇給号俸からの減号俸に関連する規定は、次のとおりとなっている。

(昇給の所要期間及び昇給額)

第二二条 昇給の所要期間は一年とし、その昇給は、四号俸(以下「所定昇給号俸」という。)以内とする。(略)

2(略)

(昇給の欠格条項)

第二四条 昇給所要期間内において、別表第八に掲げる昇給欠格条項(以下「欠格条項」という。)に該当する場合は、当該欠格条項について定める号俸を昇給号俸から減ずる。(略)

2(略)

別表第八(第二四条)昇給欠格条項

1(略)

2懲戒処分

処分一回につき 所定昇給号俸の一/四減

(略)

3 訓告

二回以上 所定昇給号俸の一/四減

4 勤務成績が特に良好でない者 所定昇給号俸の一/四以上減

 「勤務成績が特に良好でない者」とは、平素社員としての自覚に欠ける者、勤労意欲、執務態度、知識、技能、適格性、協調性等他に比し著しく遜色のある者をいう。

 

 期末手当の支給額は、本件賃金規程一四三条及び一四五条の規定に基づき、成績率により増額又は減額されるが、減額については、懲戒処分(減給、戒告)及び訓告のほか、勤務成績が考慮されるところ、勤務成績については、減率適用者調書が作成され、その中で、厳重注意を含む賞罰、服装違反の注意回数、業績、態度等について具体的に記載されている。

 

(イ)労働協約

 各労働組合との間に、同内容の労働協約を締結しているが、労働協約六条には、組合員(専従を除く。)は、会社から承認を得た場合を除き、勤務時間中に組合活動を行うことはできない旨の定めがある。

 

 (ウ)労働契約上の義務

 J判決は「労働者は、就業時間中は使用者の指揮命令に服し労務の提供を行う義務を負うものであって、勤務時間中の組合活動は、原則として右義務に違反する」という一般論に言及し「勤務時間中に組合活動を行うことはできない旨の定めがある労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素である」とも述べている。

 

 判例は、組合バッジ着用が就業規則の3条、20条、23条いずれも違反するとする。J、M、О、P判決は、3条の「全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」を職務専念義務を定めたものとしたうえで「たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならない」と厳格に解釈されており、特に引用はされていないが、国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529判時7046頁、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974という先例を踏襲した解釈をしているのであり、これだけ判例の蓄積がある以上、JRでなくても、同様の就業規則を定めれば、同様の解釈となることは明らかである。

 就業規則で職務専念義務の明文規定がなくても、労働契約上の誠実労働義務という観点から厳格な職務専念義務の解釈はできるだろうが、就業規則に明文がないことは、労働組合側につけいる隙を与えることとなり、より安全策としてはJRのように就業規則でも明示しておくことが無難とはいえる。

 なお、後述する東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558頁では東急電鉄の就業規則八条「従業員は、会社の諸規程および上長の指示にしたがい、……誠実にその義務を遂行しなければならない。」が引用され、これについて同判決は「労働者は誠実に職務に従事すべき義務を負うことは、労働契約の性質から当然のことである。したがつて、労働者が勤務時間中にその職務と関係のない行為を行うことは原則として右義務に違反することとなり、この場合に右義務違反が成立するためには必ずしも現実に職務の遂行が阻害されるなどの実害が発生することまでは要しないものというべきである。そして、被告会社の前記就業規則八条の定めも、このことを明らかにしたものと解される。」と判示しており、誠実労働義務の規定から厳格な職務専念義務があると解釈されている。

 ところで就業規則は 「それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との問の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習」が成立しているとされ「その法的規範性」が認められる(秋北バス事件・最大判昭43.12.25民集22133459頁)。上記の3条服務の根本基準、20条服装の整正、23条勤務時間中等の組合活動等の就業規則は、鉄道事業が、国民の社会経済生活に不可欠のものであって公共性の極めて高い事業であるとともに、不特定多数の利用客の生命、身体及び財産の安全に深く関わるものであるから、公共事業にふさわしい労務の提供と企業秩序の乱れから利用客の生命、身体及び財産の安全を脅かすような事態の発生することを防止するだけでなく、特に付け加えれば服装の整正は、車掌や駅係員のように客面に立つ社員の場合、快適な鉄道利用を求める乗客に不快感や違和感をもたれることがない意味も含めて、社員に適正な職務遂行を求める意味で合理的な労働条件であることはいうまでもない。国労バッジ事件判例はJRの就業規則が合理的な労働条件であることを承認している。

 また、最高裁は、昭和50年代に企業秩序定立権という判例法理を案出し、富士重工業原水禁運動調査事件・最三小昭521213民集3171037は、「労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う」と判示した。企業秩序の定立とは就業規則や労働協約等によって定立されるものであると一般的には解されている。

 国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676は、「企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため‥‥企業秩序を定立し‥‥その構成員に対してこれに服することを求めうべく‥‥規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる」とした。本件はいわゆる施設管理権の指導判例であるが、使用者が許諾しない企業施設内組合活動は、必要性が大きいこと、具体的な業務阻害がないことをもって正当化されないこと、受忍義務説を否定し法益権衡的な調整的アプローチはとらないことを明確にした判例法理である。

 企業秩序定立権の射程は広く、施設管理権にとどまるものではない。関西電力社宅ビラ配布事件・最一小判昭5898判時1094121頁裁判所ウェブサイトは、「労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種制裁罰である懲戒を課することができる」と判示しているとおりである。関西電力事件判決は企業秩序論が包括的広範にわたることを示している。

 もっとも、労働者に企業秩序遵守義務があるといっても、フジ興産事件最二小判平151010判時1840144頁が、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定め、適用を受ける労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判示している以上、就業規則を根拠としない懲戒処分は無理がある。 

 この点、組合バッジ事件での適正手続上の問題は、JRの場合、就業規則がしっかりしているので完全にクリアしている、しかも賃金規定で期末手当については、服装違反の注意回数が勤務成績に考慮され。減額の対象となることも明文となっており申し分ないといえる。

 ところで、就業規則違反として、不利益処分が適法とされるには、J判決等が「形式的に右各規定に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右諸規定の違反になるとはいえない」という目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の判断枠組を示しているようにこれをクリアする必要がある。

 J判決(JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388)は「文言上形式的には本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である」としたうえで「本件組合バッヂは,そこに「NRU」の文字がデザインされているにすぎず、具体的な主義主張が表示されているわけではない。しかし、本件組合員等の本件組合バッヂ着用行為は、‥‥組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、‥‥職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという‥‥職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。」としていて、実質的に企業秩序をみだすものと認定されている。

 要するに、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用いていないことは職務専念義務に違反し企業秩序を乱しているということ、他の社員が職務に集中できないおそれ、注意力を散漫にするおそれがあること(抽象的危険がある)により実質的に企業秩序をみだしていると認定しており、これは大筋で抽象的危険説を採用した目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の説示とほぼ同じ趣旨である。

 具体的な業務阻害は要件ではないのであるから、JR就業規則3条、20条、23条と同様の就業規則を備えていれば、これだけ判例が蓄積している以上会社が認めていないワッペンやバッジを着用した場合、実質的に違反しない特別の事情が認められることはまずありえないといってよい。

 縦1.1㎝、横1.3㎝という小さな組合バッジですら注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあると裁判所が判定している以上、直径78cmとずっと大きく原色で目立つワッペンが同様に判定されないなどということはありえない。

(なお、上記の目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の判断枠組を引用して、形式的な違反であって実質的に違反しない特別な事情が認められ懲戒処分を無効とした判例として、明治乳業福岡工場事件・昭58111判時1100511頁と、倉田学園(大手前高(中)校・53年申立)事件・最三小判平61220民集4881496があり、いずれもビラ配りの事案である。明治乳業福岡工場事件は昼の休憩時間に食堂において赤旗号外や共産党の参議院議員選挙法定ビラを手渡しまたは食卓に静かに置くという態様のビラ配りであった。本件は政治活動ともいえるが、就業規則で政治活動を禁止していないためたんにビラ配りの問題として扱われ、工場内の秩序を乱すことのない特別の事情が認められたけれども政治活動の禁止規定があれば違った判断になったとも考えられ、就業規則で明文規定を設けることの重要性を指摘できる。

また倉田学園事件は就業時間前に職員室において、ビラを二つ折りにして、机の上に置いたというもので、業務に支障を来していないこと、ビラの内容も団体交渉の結果や活動状況で違法・不当な行為をそそのかす内容が含まれていないため、無許可で職場ニュースを配布したことを理由とする組合幹部の懲戒処分は就業規則上の根拠を欠く違法な懲戒処分と判示した。なお企業秩序論は、勤務時間外や休憩時間における企業施設内組合活動を規制できるので上記2判例は例外的判例といえる。

ちなみに休憩時間、就業時間外の無許可集会について中止命令を是認している判例としては国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030を引用した以下のような判例があるが、JRの就業規則23条は「社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」としており、勤務時間中のみならず会社施設内の無許可組合活動を禁止しており、ぬかりないものとなっている。

●全逓新宿郵便局事件最三小判決昭581210労判421

 休憩時間の無許可組合集会の中止命令。監視は不法労働行為にあたらない。

●三菱重工業事件東京地判昭58428労判410

 昼休時間中の食堂前広場における無許可集会は正当な組合活動として許容されないと判示。

●東京城東郵便局事件東京地判昭5996労判442

 闘争指令下の集会であることを理由に休憩時間等の休憩室、予備室、会議室における無許諾組合集会会議室の使用を認めないことは、権利の濫用とは認められず、解散命令に従わず、無許可集会強行に積極的な役割を果たすことは懲戒理由に該当する。

●日本チバガイギー事件最一小判平元・19労判533

 工場は就業時間外だが本部棟が就業時間内の時間帯において食堂利用及び屋外集会開催不許可を不当労働行為に当たらないとする原判決を是認。

●国鉄清算事業団(東京北等鉄道管理局)事件東京地判平373労判594

東京駅構内遺失物取扱所裏における非番者無許可集会の警告・メモ・写真撮影は不当労働行為に当たらないと判示。

● 熊本地方貯金局事件 熊本地判昭和63718 労判52327)

 

 

 以上のことから、国労バッジ判例とくに最高裁によって支持されているJR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388頁等を根拠として、就業規則を前提としてワッペン闘争を抑止できることは明白なものとなっており、これを私鉄総連春闘ワッペン問題に応用することができると考える。

 

 

. 私鉄総連ワッペン問題への応用と企業秩序論のウイークポイント

 

 既に述べたように国鉄は昭和60年、61年の国労のワッペン闘争に対しては大量処分を行っている。昭和62年のJR発足以降は、小型組合バッチの取りはずし等、服装指導も徹底された(この点については会社によって温度差はあったかもしれないが)。JRの就業規則3条、20条、23条や賃金規定は、ワッペンやバッジ着用を完全に禁止できる実質を備えていたのである。

 国労は平成11年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結して方針を転換し、平成14年3月末以降は、組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり、この頃からバッジ着用を組織的としては支持しなくなったとみられている。平成18年11月には、包括和解によりバッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げているから、バッジやワッペンの問題は解決済みといってよいだろう。

 ところが対照的に民鉄はそうではない。服装に対してルーズなのである。私は各社の就業規則は調査してないが、下記の労働判例で東京急行電鉄の事例が引用されているので、民鉄の就業規則の問題はある程度指摘できると思う。

 

(ア)東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558頁から昭和54年当時東急はワッペン・バッジを許容していたことは明らか

 

  要旨

(昭和54年10月30日バス会社の整備作業に従事する従業員がいわゆる狭山裁判の不当を訴える内容の縦10センチメートル、横14センチメートルの硬質プラスチック製のプレートを制服の左胸部に着用してした就労申入れを拒否した会社の措置につき、右就労申入れは、債務の本旨に従った労務の提供であると解することはできず、また、同人は、上司らからその取外しを説得されたにもかかわらず、右会社の措置はやむを得ない正当なものであるとして、右従業員の不就労時間中の賃金請求を棄却した事例)

 

 要所抜粋

 原告は、本件当日、被告会社自動車部淡島営業所に出社して所定の制服(作業服)に着替えた上、上着の左胸部に本件プレートをピンで留めて着用し、同営業所事務室で午前九時から始まる点呼に臨んだ。原告が着用していた本件プレートは、縦一〇センチメートル、横一四センチメートルの硬質プラスチック製透明ケースの中に「対権力差別糾弾実力闘争で狭山再審棄却を阻止せよ、狭山差別裁判粉砕、石川氏奪還、狭山スト・職場放棄で決起せよ、労働者狭山スト共闘、労活評東急班」と大きく記載した紙片を入れたものであり、その形状はおおむね別紙図面記載のとおりであつた。(中略)

 就業規則八条は「従業員は、会社の諸規程および上長の指示にしたがい、……誠実にその義務を遂行しなければならない。」と定め、九条は、「従業員は、勤務時間中所定の社員章または制服制帽を着用しなければならない。」と定め、九六条一項は、「従業員は、安全管理者その他関係者の指示にしたがい、別に定める安全作業心得を守り、常に職場を整理整頓し災害防止に努めなければならない。」と定めており、また、自動車部係員服務規程六条は、「自動車部係員は、所定の制服を着用し、常に服装に注意するとともに、懇切丁寧な態度をもつて、旅客および公衆に接しなければならない。」と定めているほか、就業規則九六条一項の規定に基づく自動車部安全作業心得四条六項は、服装の整備として「腰に手拭を下げたり、その他不要のものを身につけないこと。」と定めている(以上の各規定が存在することは当事者間に争いがない。)。なお、被告会社におけるバス整備作業員の制服の着用状況については、公衆の目から離れた場所で行われ、かつ、安全上も支障のない作業の場合には、夏季に上長の裁量により制服の上着を脱ぐことが黙認されることもあつたが、これ以外の場合には、勤務時間中は制服の着用が励行されていた。

三 労務提供及び就労拒絶の適否

 以上の認定事実に基づいて、本件プレートを着用しての就労の申入れが、労働契約上、債務の本旨に従った労務の提供といえるかどうか、この申入れを拒絶した被告会社の措置が正当かどうかについて検討する。

1 労働者は誠実に職務に従事すべき義務を負うことは、労働契約の性質から当然のことである。したがつて、労働者が勤務時間中にその職務と関係のない行為を行うことは原則として右義務に違反することとなり、この場合に右義務違反が成立するためには必ずしも現実に職務の遂行が阻害されるなどの実害が発生することまでは要しないものというべきである。そして、被告会社の前記就業規則八条の定めも、このことを明らかにしたものと解される。

 また、就業規則九条、自動車部係員服務規程六条は、公共の交通機関としての被告会社の事業遂行に当たり、従業員に制服の着用を義務づけることにより、このような業務に従事する者としての品位の保持、職場規律の維持を図り、もつてその対外的信頼を確保するとともに、交通の安全に寄与するとの趣旨に出たものと解される。したがつて、これらの規定によって直接に義務づけられているのは制服を着用することであつて、これらの規定がそれ以上に所定の制服以外のものは一切着用してはならないとする趣旨のものとまでは解し得ないとしても、制服の着用によって得られる右効用を減殺するものを付加着用することは、これらの規定に反するものといわなければならない。

 更に、就業規則九六条一項は、災害防止の見地から、災害を発生させるおそれのある行為を禁じているのであつて、同項の規定に基づいた自動車部安全作業心得四条六項が「腰に手拭を下げたり、その他不要のものを身につけないこと。」と規定しているのは、この趣旨を具体化し、所定の制服以外に安全を阻害し災害を招来するおそれのあるものの着用を禁じているものと解されるから、このようなおそれのあるものを所定の制服の上に着用することは、これらの規定に反することになるのは明らかである。‥‥本件プレートの着用が原告の職務と無関係なものであることは明らかであるところ、プレートを着用して就労することは、就労を行いつつ、同時に、プレートに表示された一定の表現活動を継続して行うことにその意義及び目的があるのであるから、単に、プレートを着用すればそれで一切の行為が完了し、爾後は着用者の提供する労務に欠けるところがないものとはいい難く、むしろ、着用者においては、就労中に職務とは関係のない自己の表現活動を行うことから、必然的にプレートを着用しつつ就労していることを常に意識せざるを得ないものである。したがつて、プレートの着用によって直接には職務遂行に障害が生じないとしても、着用者は職務上の注意力の集中を欠くといわなければならないから、誠実に職務に従事すべき義務に違反するものということができる。

 また、本件プレートは硬質プラスチック製であって、縦一〇センチメートル、横一四センチメートルというプレートとしては著しく大きなものであるうえ、その着用方法もピンで制服上着の左胸部に留めたというにすぎないのであるから、これを着用することは、その記載内容とも相まって制服着用の効用を減殺することは否定できず、更に、これを着用した上で作業に従事するときは、作業内容及び作業姿勢のいかんによっては作業に支障を来すおそれもあることは前記認定のとおりであり、その結果、原告自身あるいはその同僚に対する事故を誘発するおそれもないとはいえない。したがつて、本件プレートの着用は、前記の各服装関係規定にも抵触するものである。

 本件プレート着用行為は、以上のように労働契約や就業規則で定められた義務に違反するが、これに加えて、本件プレートが表示する内容は、いわゆる狭山裁判に関するものであつて、それ自体被告会社の支配可能な領域外の事柄であるばかりか、その文言中には職場の同僚に対して職場放棄を呼び掛ける趣旨の記載もあり、その形状がプレートとしては著しく大きなものであることをも併せ考慮すれば、原告が本件プレートを着用して就労するときは、職場の同僚の注意をこれに引き付けてその職務に対する注意力を低下させ、また、職場内に違和感を醸成して職場秩序を乱すおそれがあつたものということができる。

(中略)

 原告は、本件プレートの着用は正当な組合活動として行われたものである旨主張する。

 しかし、前記認定事実によれば、原告は、部落解放問題に対する自己の個人的見解に基づいて自らの判断で本件プレートの着用を行ったものであるから,これは労働組合としての活動ではないことが明らかであるし、仮に、組合活動の意味を広くとらえ、これをも組合活動に当たると解したとしても、勤務時間中に組合活動をすることが当然に許容され、この場合に賃金も当然に支給されるべきであるとする理由はないから、この点に関する原告の主張は失当である。

2 次に、原告は、勤務時間中にワツペン、プレート等を着用して就労することは、被告会社においてこれを許容しており、労働者の慣行的権利として承認されている旨主張する。 

 そして、いわゆる春闘の期間中に、東急労働組合の組合員がワツペン、バツジを着用して就労したことがあることは当事者間に争いがない。しかし‥‥右のワツペン及びバツジの着用については、東急労働組合から被告会社に対して着用の旨の連絡及びこれについての配慮方の要請があり、被告会社においてその形状、大きさ、材質等からみて安全上支障がないことなどを確認のうえ、これを容認しているにすぎないことが認められる。

 次に、腕章、ネームプレート及びリボンを撮影した写真であることに争いがない‥‥会社は従業員に対し、就労中に自動車検査員の腕章や検査主任者のネームプレートを着用させ、年末年始の安全総点検期間などには全員にその趣旨のリボンを着用させていることが認められる。しかし、右各証拠によれば、これらの着用は、東京陸運局や社団法人日本自動車整備振興会等からの指導により、被告会社が職務の遂行に必要かつ有意義なものとして着用を命じたものであること、これらの腕章、ネームプレート等は、その材質が柔らかいビニール製や布製であったり、あるいは、その形状が本件プレートに比して小さなものであつて、着用した際の作業に対する支障の程度も本件プレートに比して僅少なものであることが認められ、本件プレートの着用とはその性質を異にするものである。


                 ***

 

 

 この事件は昭和54年であるから40年以上前のものである。判例から、本件はバス部門であるが、大手私鉄の就業規則の緩さを国鉄やJRとの比較で指摘できる。

 東急の自動車部係員服務規程六条は、「自動車部係員は、所定の制服を着用し、常に服装に注意するとともに、懇切丁寧な態度をもつて、旅客および公衆に接しなければならない。」と定めているほか、就業規則九六条一項の規定に基づく自動車部安全作業心得四条六項は、服装の整備として「腰に手拭を下げたり、その他不要のものを身につけないこと。」とあるだけである。

 服務規程六条は文面上、制服の着用の指示しているだけであって、判決書は、「所定の制服以外のものは一切着用してはならないとする趣旨のものとまでは解し得ない」としており、プレート着用者に反論の余地を与えてしまっている。

 JRの就業規則20条における「勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない」との規定、旧国鉄の服制及び被服類取扱基準規程における、現場職員の制服等の制式と着装方を定め、これを職員に貸与するものとし(第三条)、かつ「被服類には、腕章、キ章及び服飾類であって、この規程に定めるもの及び別に定めるもの以外のものを着用してはならない」(第九条第三項)と規定していることと比較して明らかにルーズである。 

 にもかかわらず、本件プレートを服務規程六条違反としているのは、プレートが縦10センチメートル、横14センチメートルの硬質プラスチック製で著しく大きいものであるため、「制服の着用によって得られる右効用を減殺するものを付加着用することは、これらの規定に反するものといわなければならない。」という巧妙な反論が用意されていたためである。

 この趣旨だと、もっと小さなバッジ等であれば制服着用の効用を減殺しないとのり再反論が成り立つので、この規則は労務管理上組合に配慮したものと推測できる。

 さらにこの判決書では「東急労働組合の組合員がワッペン、バツジを着用して就労したことがあることは当事者間に争いがない。しかし‥‥右のワツペン及びバツジの着用については、東急労働組合から被告会社に対して着用の旨の連絡及びこれについての配慮方の要請があり、被告会社においてその形状、大きさ、材質等からみて安全上支障がないことなどを確認のうえ、これを容認しているにすぎないことが認められる。」とあり、ワッペンは組合からの配慮方の要請にもとづき容認しているというのである。

 東急以外の会社もそうであるのか、この判文では不明だが、会社はワッペンの取り外し命令はしていない。この問題についての組合とはなあなあの関係というか、あえて対立を回避している労務管理との心証をもつし、鉄道部門の服務規定が引用されていないので不明だが、自動車部と同様の規定だとすると、就業規則でもワッペン着用を禁止していないのかもしれない。

 なお、鉄道営業法22条「旅客及公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ」とあり客面に立つ鉄道係員は、制服着用を義務づけている、この条文からただちに業務外の徽章の着用禁止を引き出す解釈はやや強引に思えるので、やはり就業規則で、会社が認めていない腕章、胸章等の着用を禁止する必要があるだろうが、それをしていない可能性が高い。

 もっとも、この事件は、企業秩序論の判例法理が定着する以前のものであり、プロレイバー学説がまだ影響を持っていた時期であるが、昭和54年当時少なくとも東急は、バッジもワッペンも許容していたことは明らかである。その後どうなったかはわからないが、今年も春闘ワッペンが着用されている以上、当時の労務管理とさほどかわらないものとも推測できるのである。いずれにせよ、当該大手私鉄については、就業規則、労働協約、労務管理いずれも問題がありそうだ。

 

(イ)企業秩序論のウイークポイント

 

 さんざん述べてきたように、判例は一般にリボン、腕章、ワッペン着用を勤務時間中の組合活動として正当な行為にあたらないとしており(例外もあるが下級審判例で少数)、使用者には受忍義務はない。労働契約上の誠実労働義務(=職務専念義務)に反し違法とする見解もかなり有力である。

また昭和50年代に、最高裁が企業秩序論の判例法理を案出したため、従業員には企業秩序遵守義務があることが明らかになった。したがってリボンやワッペン等の着用はたんに職務専念義務違反というだけでなく、他の社員の職務への集中を妨げるおそれ、注意力を散漫にするおそれがある以上、共同作業秩序をみだしており、この脈絡では正当化される余地はないというべきである。

 私が問題にしているのは小型の組合バッジではない、直径78cmあり、原色などで目立つ春闘ワッペンであるからなおさら正当化の余地はない。

 ところが最高裁が案出し判例法理、企業秩序論には一つだけ死角というか弱点がある。それは組合が強い場合、使用者側の権利を掣肘して、就業規則の制定や、中止命令をさせない体制、使用者側が正当な行為とは一般には評価されない組合活動も受忍してしまうと機能しないということである。

国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676は、受忍義務説を明確に否定した判例なのだが、就業時間中であれ休憩時間その他であれ、企業施設内の組合活動は使用者が許諾しているか労働協約で認められている場合を除いて、使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いて、中止命令や懲戒処分ができるというものである。

 企業秩序の定立とは就業規則や労働協約ということになるが、組合との対立回避、もめごとを避けるため、あるいは相手のメンツ重んじて、共同作業秩序は犠牲にするとい判断を使用者側がとる場合、あえて、無許可集会、演説行為の禁止、ビラ貼りの禁止、会社で認められた以外の胸章、腕章着用禁止などの規則を制定せず、企業秩序をみだす組合活動があっても放置する。組合側に懲戒処分とならないように配慮する労務管理がありうるのである。要する企業には受忍義務はないが、諸般の事情からあえて受忍してしまうという選択肢である。 

 企業秩序定立権があってもそれを発動しないことで、一般には正当な行為とされないことも認める。大手私鉄各社もこのように労働組合に業務指揮権、企業秩序定立権を掣肘されている不健全な労務管理がなされているのではないかと私は疑っている。

 労働組合側は会社が許容していることにより春闘ワッペン着用を正当化し、誠実労働義務といっても、雇用契約関係において労働者が負う義務とは基本的に使用者の指揮命令に服することなのだから、格別取り外し命令がない以上、使用者の指揮に従って就労しており、違法ではないと主張するだろう。

まず鉄道会社に苦情を出しても、少数のお客様は春闘ワッペンが不快だと仰るかもしれない。職務に従事しながら春闘ワッペンを着用して組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信をもたれるかもしれないが、あなたのような一部の利用者に不信をもたれたところで、企業としての評価が下がることはない。現実にワッペン着用放置を批判するマスメディアは存在しない。少数の利用者にクレームに配慮することよりも、会社としては労働組合との円滑な関係を維持するためそのメンツを重んじることのほうが、よほど有益なことなので、こうした問題で対立することは避けたいから、第三者から企業秩序定立権を掣肘されているといわれようが、これからも春闘ワッペンによる勤務時間中の団結示威を認めていきたいと言うかもしれない。しかも近年は官製春闘となり、安倍政権も春闘による賃上げを支持していることであるから安倍政権への忖度から春闘ワッペンを許容せざるをえないと言うかもしれない。自民党が連合にすり寄った政策をやっている以上、政治家から文句をいわれることはないとして、高を括っているのかもかもしれない。

国労は、昭和六一年四月一日において組合員数一六万五四〇三人、組織率六八・六パーセントであったが、昭和六二年二月一日には組合員数六万二一六五人、組織率二七・三パーセント、同年四月一日には組合員数四万四〇一二人に減少した。

国労バッジ事件は少数組合に対するもので私鉄総連とは違うというかもしれない。

 

()結論

 

しかし、もし会社側がそうした物言いをするのであれば、旅客、公衆をばかにした話である。利用客のなかで連合などの組織労働者は一部である。春闘に連帯したくない利用客も多数いるはずだ。組合の闘争による賃上げでなく成果主義により昇進、昇給を望む勤労者もいれば、コンスピラシー、取引自由の制限としての労働組合自体を嫌う私のような立場は少数だとしても、本来組合の費用と便益で行うべき団結示威と一般利用客に対する教宣活動を就業時間中に行うことは人の褌で相撲を取る便乗行為そのものである、不快に思って当然なことなのだ。乗客の多くは口に出さなくても何かおかしいとは感じているはず。

目黒電報電話局事件・最三小判昭521213民集317974公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した。

大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659新村正人調査官判解は目黒電報電話局事件判決について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」としているが、これが法律家の標準的見解であり、通説でもある。

 菊池高志[1983]によれば、目黒電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべきとしており、この見方が有力なのであり、先に述べた国労バッジ判例や東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558頁でもそのように判示されている。

 真面目な多くの勤労者は、こうした判例法理にもとづいて就業時間中は注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事すべく職務に精励しているのに、通勤時間中に春闘ワッペンによる団結示威をみせつけることを許容しているのは、市民法秩序への挑戦であり、大手私鉄当該各社は遵法精神に基づいてまじめに職務に専念して働いている勤労者に対して、嘲け笑う態度を示すものともいえるのである。

 しかも車掌や駅係員は車内放送やマイク放送で乗客にマナー違反を注意したり、定時運行に協力させたり、各種の指示を出す。もちろん駆け込み乗車を注意したりするのは安全対策上のことであり、係員の仕事だからそれ自体を否定するわけではないが、自らは春闘ワッペンを着用して、世間一般では正当な組合活動ではない、企業秩序遵守義務に反する、誠実労働義務違反とされる行為をしておきながら、人様には言うことをきけといわんばかりの注意、指図をするのは、乗客側からすれば合点がいかない事柄なのである。

 人様に指図する前にまず襟を正せといいたくもなるのである。

 東京メトロ永田町駅の係員も春闘シーズンはワッペンを着用していた。最高裁や国会といった国家中枢の最寄り駅でありながら、一般には正当な行為とはされず、職務専念義務違行為たる春闘ワッペン着用で団結示威をみせつけ、人の褌で相撲をとる便乗行為を憚りなくおこなっている。最高裁の職員はそれをみて不信に想っているだろう。秩序を重んじる立場からは市民法秩序への挑戦そのものに思える。やめされるべきなのである。

 会社の政策を変えて貰うしかない。JR並に就業規則・賃金規定を整備し、労務管理を厳ししく行うことを要求する。JRに見倣えなどというのは、民鉄の矜恃もあるからできないというかもしれないが、この際やってもらうしかない。このまま悪慣行が是正されずずるずると既成事実化するとはなにがなんでも阻止すべきなのだ。

 もとより、私は自由企業体制の観点から労使関係や労務管理について、政府や第三者が干渉することには反対である。労務管理は経営者の裁量によるものであり、株主でもないのに文句をいう筋合いはないし、私鉄は国鉄のように公共の福祉を目的とする公法人ではない。

しかし鉄道事業は,国民の社会経済生活に不可欠の公共性の極めて高い事業であるとともに,乗務員、駅係員の職務は不特定多数の利用客の生命、身体及び財産の安全に深くかかわるものであるから、職務規律が強く求められ、その労務の提供のあり方と企業秩序の乱れについては関心をもたれて当然なのであって、旅客・公衆の立場から従業員の職務専念義務の履行、服装の整正について相応の労務管理が求めてよいと考える。

とくに東京メトロは国と東京都が株主の公的資本会社でもあるから、国会や都議会で問題提議してよいはず。国民や都民は議員を通じて労務管理に注文を出してよいと考える。したがってまず東京メトロを突破口としてこの問題を解決していきたいと考える。

 


 

〔付録 国鉄・JR 国労バッジ事件判例一覧〕

 

△国鉄鹿児島自動車営業所事件・鹿児島地判昭63627判時1303143頁裁判所ウェブサイト

 

 (管理者に準ずる地位にある職員が国労バッジ(大型布製)の取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令につき、勤務中はバッチを外すべきことを命じうるが、7・8月という暑さの中、10日間もの間長時間にわたり広さ1200平方メートルの営業所構内の降灰除去作業を1人で行わせたことにつき、右作業命令は、組合員バッチの離脱命令に従わなかったことに対して懲罰的に発せられたもので、業務命令権行使の濫用であって違法とし十万円の慰謝料も認める。控訴)

 

 

△国鉄鹿児島自動車営業所事件・ 福岡高裁宮崎支判平元・918判タ725115頁裁判所ウェブサイト

  控訴棄却、上告

 

 

●国鉄鹿児島自動車営業所事件・最三小判平5611判時1466151頁裁判所ウェブサイト

 

( 原判決破棄自判。自動車営業所の管理者に準ずる地位にある職員が、取外し命令を無視して組合員バッジの着用をやめないため、同人を通常業務である点呼執行業務から外し、営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令は、右作業が職場環境整備等のために必要な作業であり、従来も職員が必要に応じてこれを行うことがあったなど判示の事情の下においては、違法なものとはいえないとした。本件降灰除去作業は、当時鹿児島市民全体が一般的に負担していた作業内容等と比較しても、具体的作業量からみて労働契約に基づく付随的業務としての環境整備作業の範囲を越えるものではない。懲罰的、報復的目的を認定することは失当)

 

 

○本荘保線区国労ベルト事件・ 秋田地判平21214労判69028

 

(羽越本線出戸駅信号場構内で作業を行っていた国労組合員が、上着を脱いだ状態で、バックルに国労マークの入ったベルトを着用していたところ、ベルトを取り外すよう命じ就業規則の書き写し等を内容とする教育訓練を命じた事案であるが、本件ベルトの着用は、広い意味における組合活動としての一面があることは否定できないけれども、具体的な主義主張を表示するものではなく、単に国労組合員であることを表示するものに過ぎず、ベルトの着用は、就業規則三条の職務専念義務に違反するものではないとしたうえで、本件教育訓練はしごきであって、正当な業務命令の裁量の範囲を明らかに逸脱した違法があるとし、20万円の慰謝料を認めた)

 

 

○本荘保線区国労ベルト事件・仙台高判秋田支部平41225労判69013

 

(棄却。本件ベルトは、社会通念上その形状、意匠等の点で格別一般人に嫌悪感、不快感を与えたり、奇異な感を抱かせるようなものではなく、‥‥被控訴人に対して本件ベルトの着用を禁止する合理的理由は見い出し難い。上告)

 

 

○本荘保線区国労ベルト事件・最二小判平8223労判69012

 

棄却

 

 

○JR西日本(国労広島地本)]事件・広島地判平51012判タ851201

 

 ( 国労の組合バッジは、いずれも小さく目立たないものであり、また、具体的な主義主張が表示されているものでもないから、その着用行為は、原告らの労働を誠実に履行すべき義務と支障なく両立し、被告の業務を具体的に阻害することのない行為であって、原告らの職務専念義務に違背するものではなく、更に、就業規則二三条‥‥が禁止する勤務時間中の組合活動にも該当しない」から、組合バッジ着用等を理由として夏季一時金の減率査定(5%カット)を行ったことが考課査定権の濫用に当たる。 組合バッジの着用行為は、形式的には就業規則二〇条に違反するものの、保護されるべき正当な組合活動であると認められるのであり、これを本件減率査定の理由としたことは、勤務成績の査定の根拠として合理性を欠くものであり、更に、正当な労働組合活動をした組合員を不利益に取り扱うものとして、不当労働行為意思が存在するものと推認するのが相当である。

 

 

●JR西日本(国労広島地本)事件・広島高判平10430判タ977124頁裁判所ウェブサイト

 

(要旨)

 原判決を取消し,一部を除き請求を棄却。組合バッジを着用することは職務専念義務違反とならない例外に該当する場合とはいえない。組合バッジの着用行為のみを夏季期末手当減率の理由とした者以外の減率査定には合理性が認められ,裁量権の濫用とはいえないとした)

三 組合バッジ着用行為を減率事由とすることの不当労働行為該当性の有無

(一)‥‥本件組合バッジは、縦約一・一センチメートル、横約一・三センチメートルの大きさであり、四角形の金属版の表面には黒地に金色でレールマークと「MRU」のローマ字が表示されていることが認められる(なお、以下「組合バッジ」と称するときは右大きさのバッジを指し、この大きさを越えるバッジについては個別に判断する。)。したがって、右組合バッジは小さく目立たないもので、また具体的な主義主張が表示されているものでもない。

‥‥国鉄時代において、国労以外の労働組合も組合員がそれぞれの組合のバッジを着用していたが、国鉄が。‥‥全職場一律に組合バッジにつきその取り外しを指導したり着用を理由に処分したことはなかったとの前記認定を左右するものではない。

 ‥‥国鉄時代において、国鉄改革の一環として職場規律の問題が重要な課題として重視された時期でさえも、組合バッジの着用が職場規律の問題と関連するものとして指摘されたことはなく、八次に及ぶ職場規律の総点検においても組合バッジの着用状況が調査項目として取り上げられたことはなかったことが認められる。

3 組合バッジ着用に関する就業規則等の規定は次のとおりである。

 ‥‥一審被告の就業規則二〇条三項は、「社員は勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」と規定していることが認められるところ、前記一審原告らの着用していた国労の組合バッジは、いずれも右の規定にいう「胸章、腕章等」に該当すると解される。

 ‥‥就業規則二三条は、「社員は会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」と規定していることが認められ、‥‥一審被告と国労との間で昭和六二年四月三〇日に締結された労働協約の六条は勤務時間中の組合活動は会社から承認を得た場合のほかはできない旨規定しているところ、一審原告らは、前記争いのない事実に記載のとおり、国労組合員として積極的に組合活動を行っていたものであり、組合バッジの着用行為は、組合員間の連帯感を高め国労組合員としての団結を維持しようとする目的のもとになされていたものと推認されるから、組織防衛的意味合いからなされたとしても、国労組合員としての組合活動の一種であると認められ、したがって文言上は右就業規則二三条及び労働協約六条で禁止された組合活動に相当するものと解される。

 次に‥‥就業規則三条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務に専念しなければならない」と規定していることが認められる。

4 そこで本件組合バッジの着用が右各規定に違反するか否かを検討する。

(一)就業規則は労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者の意見を聴くものの、使用者が一方的に制定するものであるから、就業規則の解釈にあたっては、単にその文言によってのみではなく、その規則制定の趣旨を勘案したうえで、憲法をはじめ労働にかかわる法律等各種の法令に適合するように解釈すべきである。

(二)本件組合バッジが就業規則二〇条三項所定の「胸章、腕章等」に該当すると解され、その着用が同二三条及び労働協約六条で規制されている組合活動と解されることは前記のとおりである。そこで、就業規則三条についてみるに、一般に労働者は、労働契約を締結することにより、所定の勤務時間中は使用者の指揮命令に服して稼働すべき職務専念義務を負うから、同条はこの趣旨を規定したものというべきであるところ、職務に専念するということは、労務提供を誠実に履行することを意味しており、労務提供を誠実に行うに必要な限度でその身体的活動あるいは精神的活動を集中することが求められているのであるが、他方、勤務時間中全ての身体的、精神的活動を勤務のみに集中し、職務以外のことに一切注意を向けてはならないというような、全人格的な従属関係まで求められていると解することはできないことはいうまでもない。

 しかしながら、本件組合バッジは一審被告のみならず、その社員である他組合員もその存在を周知していたこと、及び一審原告中本件組合バッジを着用した者が自己の所属する組合の組織維持を期して着用したことは弁論の全趣旨により認められるところであり、そのような職場において右の意図をもって本件組合バッジを着用することは職場内に組合意識を持込み当該組合の存在を主張する結果をもたらすことは明らかであるばかりでなく、他組合員を刺激し職場に無用の混乱を惹起することを一審被告において危惧することは使用者として当然の配慮であるといわざるをえない。このような中で本件組合バッジを着用することは右の職務専念義務違反とならない例外に該当する場合とはいえない。

 前記のとおり、本件組合バッジは小さく目立たないもので、また具体的な主義主張が表示されているものでもなく、これまでその着用について利用客から苦情が寄せられたことはなく,また、前記のとおり職場において社員間の対立や混乱が現実化したことはなかったことは右認定判断を左右し得ないものというべきである。

5 一審被告が従来の国鉄時代の反省に立って新会社の運営をするにつき、職場規律を重点項目としたこと自体は当然のこととして是認できることであるが、組合バッジの着用は、国鉄改革の論議の中で具体的には取上げられず、かつ国鉄時代には問題にされなかった項目であり、かつその規制は団結権の制限に関わる事項であるから、これを理由に本件減率査定事由とすることは慎重でなければならない。それゆえ、組合バッジ着用行為を本件減率査定事由としたことから直ちにそのことが不当労働行為に該当するとはいえないが、それは他の事情との衡量のなかで相対的に考慮されなければならないものと解すべきである。 

四 各一審原告に対する減率査定の裁量権逸脱の有無

 (略)

〔組合バッジの着用行為はそれのみでは減率の理由として相当でないとしているが、大型バッジを着用して勤務した行為は小型のバッジについて述べた以上に減率事由となるとしている〕。

[以上の理由により、一審原告15名の本件減率査定には、合理性が認められるから裁量権の濫用に該当せず、不当労働行為にも当たらないが、一審原告8名の本件減率査定には、いずれにも合理性が認められないから裁量権の濫用に該当する]とした。

 

 

●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・ 東京地判平71214判時1556141

 

 要旨

(組合バッヂを着用していた労働者に対して厳重注意や訓告、夏期手当の減額支給等の措置が不当労働行為であるとして東京都地労委が救済命令を発したので、原告JR東海がその取り消しを求めた事案において、再三の注意・指導を無視して組合バッヂを着用していた組合員等に対し厳重注意をしたことには何らの問題とされるところはなく、夏期手当の減額支給等の措置は、原告の裁量権の範囲を超えた措置であったということはできず、不当労働行為意思によるものとは認められないとして、救済命令を取り消した。)

 

 要所抜粋

 本件就業規則二〇条は社員の服装の整装について定め、この三項は社員の勤務時間中の又は原告施設内での原告の認める以外の胸章、腕章等の着用を禁じているところ、同条の解釈として、同条の禁止対象となるのは右胸章等の着用によって職場規律の紊乱又は業務阻害が現実に発生する場合あるいはこの具体的な発生のおそれのある場合に限られるとの解釈をすることは相当ではなく、右胸章等の着用自体がこのような発生のおそれがある場合であるとしてこれらを例示的に列挙して禁じているものと解すべきである。本件就業規則二三条は、社員に対し原告が許可した以外の勤務時間中の又は原告施設内での組合活動を禁じているところ、同条の解釈として、同条の禁じている組合活動は正当でない組合活動であって、正当な組合活動は同条の禁じるところではないとの解釈は妥当でなく、正当でない組合活動は勿論のこと、正当な組合活動も同条の禁じるところと解すべきである。‥‥本件組合バッヂ着用行為は、本件就業規則三条に違反するとともに、本件就業規則二三条及び二〇条三項にも違反することは明らかである。

 

 

●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388

 

 要旨

(棄却。勤務時間中に組合バッヂを着用する行為は、それが労働組合員であることを顕示して組合員相互間の組合意識を高め、使用者及び他の労働組合に所属する社員との対立を意識させ、注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであったと認められる等判示の事実関係の下においては、当該行為により職務の遂行が阻害される等の具体的な実害が発生しないとしても、企業秩序の維持に反するものであり、職務専念義務、勤務時間中の組合活動の禁止、服装の整正義務を定める就業規則の各規定に違反するとし、厳重注意や夏期手当の減額支給等の措置は不当労働行為に当たらないとした。上告)

 

 要所・抜粋

 本件就業規則は、企業経営の必要上従業員の労働条件を明らかにするとともに、企業秩序を維持・確立することを目的とするものであるが、その解釈・適用に当たっては、前記憲法の趣旨に従い、団結権と財産権との調和と均衡が確保されるようにされなければならないところ、右各規定の目的に鑑みれば、形式的に右各規定に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右諸規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である(最高裁判所昭和四七年(オ)第七七七号、同五二年一二月一三日第三小法廷判決・民集三一七号九七四頁参照)〔引用者註目黒電報電話局事件〕。

 したがって、本件組合員等の本件組合バッヂ着用行為が、文言上形式的には本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当であるが、そのような特別の事情が認められない限り、右各規定違反になるものといわなければならない。

(二)(1)そこで、次に、本件において、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情があると認められるか否かについて検討するに、一般私企業において、従業員は、労働契約を締結して、労務提供のために企業に入ることを許されたものであるから、労働契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、かつ、企業秩序に服する態様において、勤務時間中行動することが認められているものであるところ、被控訴人の場合‥‥国鉄時代には、職場規律が弛緩し、ヤミ協定、悪慣行が存在していたことから、新会社においては、同じ轍を踏まないため、設立までには、これらを是正し、違法行為に対しては厳正な処分を行い、職務専念義務を徹底させることが求められていたのであり、このような是正措置の上に立って、新会社の運営が行われることが要請されていたものである‥‥。

(2)したがって、本件就業規則三条一項の「社員は、被控訴人事業の社会的意義を自覚し、被控訴人の発展に寄与するために、自己の本分を守り、被控訴人の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない。」という規定は、社員の職務専念義務という観点からは、社員は、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

 そして、労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり、その行為が服装の整正に反するものであれば、本件就業規則二〇条三項に違反するといわなければならないし、また、それが組合活動としてされた場合には、そのような勤務時間中の組合活動は本件就業規則二三条、労働協約六条に違反するものといわなければならず、また、右規定違反が成立するためには、現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当である。

(三)(1)本件についてこれをみるに‥‥本件組合バッヂの形状は、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルで、黒字の金属板に、金色の線路の断面図が描かれたものに「NRU」の文字(国鉄労働組合を英訳した「NATIONAL RAILWAY UNION」のイニシャル)がデザインされたものであり‥‥本件組合バッヂは、国労に加入した際、国労手帳とともに組合員に無償で支給され、国鉄時代には、国労の指令等がなくとも、国労所属組合員は、自発的にこれを制服等の胸や襟に着用していたことが認められる。

 このように本件組合バッヂは,そこに「NRU」の文字がデザインされているにすぎず、具体的な主義主張が表示されているわけではない。しかし、本件組合員等の本件組合バッヂ着用行為は、前示のとおり、組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、被控訴人の社員としての職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという被控訴人社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。 

 また、本件組合バッヂの着用行為は、国鉄の分割民営化に反対する東京地本が昭和六二年三月三一日に出した「国労バッヂは全員が完全に着用するよう再度徹底を期することとする。」などを内容とする指示第一六〇号に従ってされたものであることに照らせば、使用者及び分割民営化に賛成した他の労働組合の組合員に対して、国労の団結を示そうとする意味があるものというべきであり、これにより、国鉄改革法に従って新会社の運営を推進しようとする使用者及び分割民営化に賛成した他の労働組合の組合員との対立を意識させ、そのことによってこれらの者が注意力を職務に集中することを妨げるおそれのあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったというべきである。

 このような次第であるから‥‥、前記各規定に違反するというためには、現実に職務遂行が害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないのであって、本件組合バッヂを着用した者が、顧客と接触の多い車掌であるか、あるいは、運転所、保線所、電気所など接客頻度の低い部署に所属する者であるかによっては、その違反の情状に差異が生じ得ることはあっても、前記各規定の違反の成否に差異を生じるものではないといわなければならない。本件組合バッヂの着用により現実の職務遂行に支障を生じるものではないから、本件組合バッヂの着用は前記各規定に違反するものではない旨の控訴人及び控訴人補助参加人等の主張は採用することができない。

 ‥‥本件就業規則は、従来の国鉄とは異なる新しい企業秩序の維持・確立に向けて、すべての社員を対象として制定されたものであって、‥‥本件就業規則及び右事務連絡が国労及び国労所属組合員にねらいを定めたものであったと認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。控訴人補助参加人等の右主張も採用することはできない。

8‥‥本件措置をもって、被控訴人が国労を嫌忌するがゆえに、国労の組織を弱体化させるために支配介入した不当労働行為であると認めることはできず、他に本件措置が労働組合法七条三号所定の不当労働行為に該当すると認定するに足りる証拠はない。 

 

 

 ●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・最三小判平10717労判74415

 

(棄却、国労バッジ着用に対する厳重注意および夏期手当の5%減額の措置を支配介入の不当労働行為に該当するという都労委の救済命令を取り消した原審判断を維持する)

 

 「所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、本件措置が不当労働行為に該当しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

 

 

 〇JR東日本神奈川国労バッチ事件・東京地判平987判タ957114

 

(要旨)

 組合バッジ着用を理由とする厳重注意、訓告処分、夏季手当減額、業務外し等の不当労働行為とした神奈川県地労委の救済命令取消請求訴訟で、本件バッジ着用が、形式的には就業規則に抵触するが、リボン、ワッペンと異なり抗議意思や要求が表示されていたわけではなく、また特段の身体的・精神的活動を必要とするものでないため、労務提供義務の誠実な履行を妨げるおそれがなく、職務専念義務に違反しないこと、及び、本件処分や減額措置は組合員らが受ける不利益がきわめて大きいため国労に対する特別の意図があったとの疑いを払拭できず、原告が嫌悪する国労所属の本件組合員らに対する不利益な取扱いを通じて国労に打撃を与え、その勢力を減殺し、組織を弱体化させることを主たる動機として行ったものであり不当労働行為意思が認められるとして労委命令を相当とする

 

要所・抜粋

(一)労働者は、所定の勤務時間中は使用者の指揮命令に服して労務を提供すべき義務を負うから、勤務時間中の組合活動は、原則として右義務に違反するものとして正当性を有しないが、勤務時間中の組合活動であっても、労働者の労務の提供に支障を与えず、使用者の業務の運営に障害を生じさせるものでない場合には、例外的に正当性を肯定するのが相当である。

 これを本件組合員らによる本件組合バッジの着用についてみるに、本件組合バッジは、その着用者が国労組合員であることを表象するとともに、これを着用することによって着用者に国労への帰属意識を持たせ、国労組合員の団結意思を確認し、団結心を高める心理作用を営むものといえるから、本件組合員らが勤務時間中に本件組合バッジを着用した行為は、形式的には、就業規則二三条所定の勤務時間中の組合活動に該当するといわざるを得ない。

(二)そこで、勤務時間中の組合活動に該当する本件組合員らによる本件組合バッジの着用が、例外的に正当性を肯定すべき場合に該当するか、否かについて検討する。

(1)本件組合バッジの形状は先に見たとおり小さくて目立たないものであり、具体的な主義主張や要求事項が表示されているわけではなく、レールの断面を図案化した絵柄に国労を表すNRUのイニシャルが付されたものにすぎない。その着用は、組合員が着用している制服の襟又は胸にバッジが付いているという静的状態であって、国労への帰属意識、団結意思の確認、団結意思を高める心理作用とはいっても、それらが本件組合バッジによって象徴されるというにすぎず、そのための特段の身体的又は精神的活動を必要とするものではないから、職務に対する精神的集中を妨げるものとはいえない。しかも、本件組合バッジが国労の組合員であることを表象するものであることが一般に周知されていたことを示す証拠もないから、本件組合員らがこれを着用して業務に就いたとしても、物理的にも社会的にもその労務の提供を妨げたり、疎かにし又は誤らせる虞を生じさせるようなものではない。すなわち、本件組合バッジの着用は、本件組合員らの労務提供義務の履行と支障なく両立するものと認められるのであるから、その着用自体が原告の業務の運営に障害を生じさせるものとはいえない。したがって、本件組合員らによる本件組合バッジの着用は、例外的に正当性を認められる場合に該当するものと解するのが相当である。

 就業規則三条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」として、社員の職務専念義務を規定している。右の職務専念義務は、原告と社員との間の労働契約に基(ママ)くものであるから、労働契約上要請される労務提供を誠実に履行する義務を意味すると解するのが相当である。そして、その専念義務の具体的内容は、当該具体的な労務提供義務を誠実に履行する上で必要な限度において考慮すべきであって、勤務時間中における職務以外の身体的活動及び精神的活動であっても、およそ右の義務に違反しないとされるものがあることは否定できないのであるから、身体的であると精神的であるとを問わず、社員は勤務時間中すべての活動力を職務のみに集中し、職務以外のことには一切注意力を向けてはならないというような、いわば全人格的な従属関係を肯認することはできない。右にいう職務専念義務の違反が認められるためには当該活動が労務提供義務の誠実な履行を妨げ、又は疎かにする客観的な虞がある場合でなければならないと解するのが相当である。したがって、職務以外の社員の身体的、精神的活動であっても、労務提供義務の履行としてなすべき身体的、精神的活動と矛盾なく両立し、かつ、業務を阻害する客観的な虞のない場合には、職務専念義務に違反するものということはできない。

 これを本件についてみるに‥‥、本件組合バッジの着用は、本件組合員らの労務提供義務の誠実な履行と矛盾なく両立するものといえるし、原告の業務を阻害する客観的な虞があるとはいえないから、本件組合員らが本件組合バッジを着用したことが就業規則三条一項の職務専念義務に違反するということはできない。

4 不当労働行為の成否について

(2)鉄道労連が、昭和六二年四月一日付け機関紙において「着けよう鉄道労連バッジ」と組合員に呼び掛けたのに鉄道労連下部組織の東鉄労の組合員が着用しなかったことや、本件処分に関して松崎東鉄労委員長が昭和六二年六月二〇日号の「公益レポート」のインタビュー記事で「……権利だからといって無茶なことをするのは良くないという点で、私たちは会社側と話をしてきた経緯もありますから……」等と述べていることに、動労委員長時代の松崎東鉄労委員長が「駄目な労働組合には消滅してもらうしかなく、駄目な組織はイジメ抜く」旨述べていたことを併せ考えると、機関紙による着用呼び掛けにもかかわらず、東鉄労の組合員が組合バッジを着用しないことについては、原告と東鉄労との間で事前の話し合いが行われ、東鉄労が労使協調関係を維持するとともにこれを誇示し、あるいは国労の対決路線を際立たせる意図の下に、組合バッジ不着用を決定したことが窺われるのである。

(3)原告は、就業規則によって全社員に対して一律に組合バッジの着用を禁止したにもかかわらず、本件組合員らがこれに応じなかったことから、本件措置がとられたにすぎないと主張する。しかしながら、原告は、協調関係にある東鉄労(住田社長は、前記のとおり、東鉄労とは手を携えてやっていきたいと思うとまで述べている。)が、原告の意向に同調して組合バッジを着用しなくなり、組合バッジを着用しているのが国労組合員のみとなったことを十分認識していたことは、右の事実から明らかというべきである。

(八)以上に認定、判断したところを総合して考察すると、原告は、原告の方針にことごとく反対して原告に敵対する国労を嫌悪しており、その解体ないしは弱体化を望んでいたところ、原告が本件組合員らに対して行った本件措置を含む一連の措置は、原告が嫌悪する国労所属の本件組合員らに対する不利益な取扱いを通じて国労に打撃を与え、その勢力を減殺し、組織を弱体化させることを主たる動機として行ったものと認めるのが相当であるから、国労(参加人ら組合)に対する支配介入行為というべきであり、労働組合法七条三号所定の不当労働行為に該当する。

 

 

△JR東日本神奈川国労バッチ事件・東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイト

 

 要旨

(棄却、国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意、訓戒処分、55名に対し夏季手当5%減額の措置を不当労働行為とする。国労バッジの着用は、就業規則の服装整正規定違反、就業時間中の組合活動禁止規定違反、職務専念義務規定違反であり企業秩序を乱すものであるとし、取外し命令、懲戒、不利益処分を禁止するものではない。しかしながら「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても,それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」と述べ、「敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し」バッジ取外しの指示・指導等は「執拗かつ臓烈なもので,平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり」「就業規則の書き写しの作業などは,嫌がらせ」であり、「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入)に該当するとした。)

 

 要所・抜粋

 参加人らは、就業規則の秩序維持条項による組合活動規制に関しては、就業規則の文言の形式的該当性とは別に、企業秩序を現実に阻害するなど、当該規則の達成すべき目的に実質的に違反するような行為かどうかという基準によって合理的判断を行うべきであるとし、本件就業規則二〇条三項は、同条一項の規定とあいまって、労務提供のために必要かつ合理的な服装整正を目的とする条項であるから、着用した際に目立たず、所属組合を抽象的な線路のマークと組合名の頭文字の組合せで示すのみの本件組合バッジは、右規則の趣旨に実質的に反するものではなく、また、本件組合バッジの着用は、伝統的な言葉の意味からすれば、組合活動とはいえず、仮にこれを組合活動と呼んだとしても、業務に支障を生じさせたり、職場の秩序を乱すものではないので、本件就業規則二三条に実質的に違反するものではなく、さらに、本件組合バッジは着用者にとって組合に所属する自己の同一性を表すものにすぎず、その着用は職務への専念を妨げるものではないので、本件就業規則三条一項に違反するものでもないと主張するので、以下これらの点について検討する。

(一)本件就業規則二〇条は、社員の服装の整正について定め、同条三項は、「社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」と規定しているところ、本件組合バッジが右の「会社の認める以外の胸章、腕章等」に該当することは明らかである。

 もっとも、右規定は、服装の整正によって職場内の秩序風紀の維持を目的としたものであるから、形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である。そして、前記認定のとおり、本件組合バッジは、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルの四角形で、この中にレールの断面と国労の頭文字である「NRU」の文字が表示されているというものであり、具体的な主義主張が直接表示されているわけではない。しかし、前記認定の事実によれば、国鉄の分割民営化の過程で、国労は、一貫してこれに反対する方針を採り、控訴人及び分割民営化に賛成する他の組合と対立する状況にあり、本件組合員らによる本件組合バッジの着用は、国労から多くの組合員が脱退し、国労が弱体化、孤立化していく中で、東京地本から繰り返し出される着用の指示の下でされたものであるから、本件組合バッジ自体に具体的な主義主張の記載ないし表示がされていなくても、本件組合員らは、これを着用することによって、その着用者が国労の組合員であることを顕示して同僚の国労組合員との結束を高めるとともに、国労組合員であっても自らの意思で本件組合バッジを着用していない他の社員に心理的影響を与え、さらに、国労組合員以外の者に対して国労の団結を示そうとして、本件組合バッジを着用したものと認められるのであって、このような事情を考慮すると、本件組合バッジの着用につき職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとは到底いえない。

(二)本件就業規則二三条は、「社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」と規定しているところ、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は、国鉄の分割民営化の過程で国労から多くの組合員が脱退していく中で、国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、組合活動というべきであり、右規定に違反するというべきである。

 また、前記(一)で述べたところと同様に、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとはいえない。

(三)本件就業規則三条は、服務の根本基準について定め、同条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定している。これは、社員がその就業時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないこと、すなわち職務以外のことを就業時間中に行ってはならないことを意味するものである。ところで、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は‥‥国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。

 なお、参加人らは、本件組合バッジの着用によって現実の職務遂行に支障を生じないので、本件組合バッジの着用は右規定に違反するものではないと主張するが、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきであり、参加人らの右主張は、採用することができない。

 以上のとおりであるから、参加人らの主張は採用することができず、本件組合員らの本件組合バッジの着用行為は、本件就業規則二〇条三項、二三条及び三条一項にそれぞれ違反するものであるというべきである。

三 不当労働行為の成否について

 ‥‥労働組合の多くが労働協約の改訂や再締結、更には労使共同宣言の締結を行って労使協調関係を強めていく中で、国労は、これらを拒否し、国鉄当局との対立関係を強めていたこと、(三)このような姿勢をとる国労に対し、国鉄ないし控訴人の幹部は、敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し、特に‥‥松田常務取締役においては、会社に対する反対派(国労)を断固として排除する旨発言し、また、控訴人の住田社長においては、東鉄労との一企業一組合が望ましいとして、国労を攻撃し、このような迷える子羊を救って東鉄労の仲間に迎え入れていただきたいとして、東鉄労の組合員らに対し、国労組合員の国労からの脱退、東鉄労への加入を促す働き掛けを期待する発言もしていたこと、(四)‥‥国鉄は、職員管理調書の作成に当たり、動労組合員の労働処分歴は記載されないような取扱いをし、人材活用センターへ主に国労組合員を配置し、国労及び動労に対して提起されていた前記二〇二億円の損害賠償請求訴訟について動労に対する訴えのみを取り下げるなど、国労を孤立化させることになる施策を進め、分割民営化に当たっての国鉄の承継法人への採用に当たっても、不採用者の多くが国労組合員であったこと、(五)‥‥本件組合バッジ取り外しの指示・指導等は、組織的に行われ、その具体的な方法・態様も‥‥(三)‥‥執拗かつ熾烈なもので、平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり、特に、本件組合バッジの取り外しを拒否した国労組合員に対して命じた本件就業規則の書き写しの作業などは、嫌がらせ以外の何物でもないといわざるを得ないものであり‥‥(六)しかも‥‥国労組合員に対し、上司等から、組織的と思われる態様で、国労からの脱退の勧奨がされたこと‥‥。

 そして、これらの事実を合わせ考えるならば、控訴人が本件組合員らに対して本件組合バッジの取り外しを指示・指導等した行為及び本件組合バッジを着用していたことを理由に本件組合員らに対してした本件措置は、控訴人が‥‥国労を嫌悪し、国労から組合員を脱退させて、国労を弱体化し、ひいてはこれを控訴人内から排除しようとの意図の下に、これを決定的な動機として行われたものと認めざるを得ず、したがって、控訴人の右一連の行為は、国労(参加人ら)に対する労働組合法七条三号にいう不当労働行為(支配介入)に該当するものといわなければならない。

 

 

△JR東日本神奈川国労バッチ事件・最一小決平111111労働判例77032

 

 本件は、民訴法三一八条一項の事件に当たらないとして不受理

 

 

●JR西日本大阪国労バッチ事件・ 東京地判平241031別冊中央労働時報143420

 

 要旨

(国労バッチ着用を理由とする平成12年、13年の訓告と同年の夏季手当減額を不当労働行為とした大阪府労働委員会の救済命令につき、会社側は不服として中労委に再審査申し立てしたところ、初審命令を取り消したので、原告側が中労委の処分を取り消しを求めた事案で、東京地裁は本件組合バッジの取外しの注意・指導は,労働組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図を決定的動機として行われたものであると認めることはできず,の不当労働行為に当たるということはできないとして、原告の請求を棄却)

 

 要所抜粋

オ 参加人設立後の国労組合員の組合バッジの着用を巡る労使の状況

 国労は,昭和62年から平成5年頃までの間,参加人による国労組合員の組合バッジ着用の服務規律違反に起因した勤務成績不良に基づく昇給又は一時金の減額等が不利益取扱いの不当労働行為に当たるとして,救済命令の申立てを行う方針であったが,平成6年度以降,上記の不利益取扱いの不当労働行為を主張して救済命令の申立てをしておらず,平成8年2月頃当時になると,国労内部においても,組合バッジの着用は組織的に行うものというよりも,個人闘争の意味合いで着用しているのが現状であるとの認識が広がっていた。

 そのような中,参加人は,平成8年10月に株式上場を控え,上場企業にふさわしい職場規律の確立と企業秩序の遵守に努める必要があるとの判断の下,更なる職場規律の是正の徹底を図ることとし‥‥文書を示して,職場規律の是正に係る参加人の取組の趣旨のほか,組合バッジ着用に対する注意・指導を強化する期間を設定すること,厳重注意を受けても引き続き注意・指導を受けた者に対しては「訓告」を発令することなどを説明した。‥‥

 

 その一方で‥‥国労が平成11年3月18日の臨時全国大会において国鉄分割民営化による国鉄改革を承認する旨を決議した結果,大阪配属事件を含む西日本本部の下部組織である労働組合と参加人との間に係属していた多くの不当労働行為救済命令申立事件は,平成12年3月から平成13年4月までの間にすべて和解によって解決した。

カ 国労による四党合意の受入れ

 自由民主党,公明党,保守党及び社会民主党の4党は,国労に対し,平成12年5月30日,下記内容の四党合意を提示し,国労本部は,同日,その受入れを決定した。もっとも,国労組合員のうちJR各社に不採用とされた国労闘争団のメンバーは,国労本部の四党合意の受入れに反対したものの,国労は,平成12年7月1日以降3回にわたる全国大会を経て,平成13年1月27日,四党合意の受入れを盛り込んだ方針案を採択するに至った。

 ‥‥厳重注意を受けた者の数は,平成8年3月に388名に上っていたものの,同年12月には77名まで減少し,平成12年3月には厳重注意を受けた者3名,訓告処分を受けた者11名(合計わずかに14名)となり,平成13年3月には更に厳重注意を受けた者4名,訓告処分を受けた者5名(合計9名)に減少した。

(2)判断

 ア 不利益取扱いの不当労働行為の成否について

(ア)参加人の就業規則3条1項が,「社員は,会社事業の社会的意義を自覚し,会社の発展に寄与するために,自己の本分を守り,会社の命に服し,法令・規程等を遵守し,全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定して従業員に職務専念義務を課し,その具体化として,同20条3項が,「社員は,勤務時間中又は会社施設内で会社の認める以外の胸章,腕章等を着用してはならない。」と規定し,同23条が,「社員は,会社が許可した場合のほか,勤務時間中に又は会社施設内で,組合活動を行ってはならない。」と規定しているのは,前提事実(3)ア(ア)記載のとおりであるところ,勤務時間内における原告の本件組合バッジの着用が,形式的にいえば,就業規則3条1項,20条3項,23条に違反し,勤務時間中の組合活動を禁止した労働協約6条にも違反するものであることは明らかである。

 もっとも,就業規則は,企業経営の必要上,従業員の労働条件を明らかにするとともに,企業秩序を維持・確立することを目的とするものであるところ,その解釈・適用に当たっては,憲法28条が労働者に労働基本権を保障する一方,憲法29条が使用者に財産権を保障していることの趣旨にかんがみ,団結権と財産権との調和と均衡を図るべきであるから,形式的に上記各規定に違反するようにみえる場合であっても,実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは,上記各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である(最高裁判所昭和52年12月13日第三小法廷判決・民集31巻7号974頁参照)〔目黒電報電話局事件〕。

(イ)これを本件についてみるに,原告が勤務時間中に着用していた本件組合バッジが,縦1.2cm,横1.3cm四方の長方形の金属板状のものであり,黒地に金色のレールの断面図と「NRU」の文字(「国鉄労働組合」を英訳したNational Railway Unionの頭文字)とがテザインされており,裏側にあるピンを衣類に刺し,留具でピンを留めて着用する形状のもの‥‥,本件組合バッジは,必ずしも大きく目立つものではなく,国労の主義・主張が具体的に記載されているわけでもない。しかしながら,上記‥‥(1)で認定した国労と国鉄又は参加人を含むJR各社との労使対立の歴史の中では,国労の組合バッジの着用は,国労組合員が組合員であることを対外的に示すとともに,組合員相互間の団結・連帯の意識の向上という思想を外部に表明するための象徴的行為であるということができる。その後,国労と国鉄分割民営化と同時に設立されたJR各社とが,平成8年8月以降労使協調路線を打ち出し,平成11年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結し,平成12年3月以降中労委に係属していた不当労働行為救済命令申立事件を和解で終結するとともに,国労が四党合意の受入れを決議する中,国労の組合バッジの着用の意味合いは,労使協調路線を採用した国労執行部に対する抗議の意志の表明を含むものに変容したということができるが,原告の本件組合バッジの着用は,自らが国労組合員であることを対外的に示すとともに,その思想を共有する組合員との間の団結・連帯の意識を向上させ,一定の思想を外部に表明する行為であることには,変わりがないというべきである。

 他方で,一般私企業において,従業員は,労働契約を締結して労務提供のために企業に入ることを許されたのであるから,労働契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において,かつ,企業秩序に服する態様において,勤務時間中に行動することが認められているものであるところ,分割民営化前の国鉄においては,職場規律が弛緩し,ヤミ協定,悪慣行が横行し,企業秩序が乱れていたため,分割民営化による国鉄改革の必要性が叫ばれる中,事業を承継した参加人においては,これを是正するため,違法行為に対しては厳正に対処し,職務専念義務を徹底させることが求められていたということができる。そうすると,国労の組合バッジの勤務時間中の着用は,参加人の従業員としての職務の遂行には直接関係のない行為であることが明らかであるし,当該行為の趣旨・意味合いを考えた場合,勤務時間中,職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反するばかりでなく,ほかの従業員の意識が当該組合バッジに注がれることによって,勤務時間中に心理的影響を受けるおそれもあるというべきである。しかも,‥‥原告の従事した車両の検査修繕作業においては,事故防止のために所持品の落下に細心の注意を注ぐ必要があり,作業に不必要な物を現場に持ち込むことが禁止されていたことを認めることができる。

(ウ)以上によれば,本件組合バッジの着用は,企業秩序を乱すおそれのある行為であるといわざるを得ないから,実質的にみても,就業規則に違反するものというべきである。

 したがって,就業規則違反を理由とする本件各訓告は違法ではなく,本件各訓告等は,不利益取扱いの不当労働行為には当たらない。(原告は,組合バッジ着用を禁止する就業規則が国労の解体を意図するものとして,その制定自体が不当労働行為であるとも主張する。しかしながら,組合バッジ着用の禁止が国労の解体を意図するものであると認めることはできない。また,そもそも参加人が行う鉄道事業は,国民の社会経済生活に不可欠の公共性の極めて高い事業であるとともに,不特定多数の利用客の生命,身体及び財産の安全に深くかかわるものであるから,公共事業にふさわしい労務の提供と企業秩序の乱れから利用客の生命,身体及び財産の安全を脅かす事態の発生することを防止するという観点から,従業員の職務専念義務を規定して適正な職務遂行を求め,これを服装の面から規制するとともに,勤務時間中の組合活動を原則として禁止することには,十分な合理性が認められるというべきである。しかも,参加人の就業規則の制定に当たっては,労働組合の意見聴取手続も経由されている。以上によれば,上記就業規則の制定自体が不当労働行為に当たるということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。)。

イ 支配介入の不当労働行為の成否について

(ア)使用者の人事上の措置が,従業員の就業規則違反を理由としてされたものであっても,労働組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものであると認められるときは,例外的に,その使用者の行為を全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たると解するのが相当である。

(イ)これを本件についてみるに,本件各訓告は,就業規則違反を理由とするものであり,懲戒処分に至らない人事上の措置にとどまるものであるし,それが,厳重注意よりも重く期末手当の減額を伴うものであったとしても,参加人が,平成8年10月の株式上場を控え,職場規律の是正の徹底を図るという背景事情の下,組合バッジの取外しの注意・指導に一向に従わず,厳重注意を繰り返し受けていた違反者につき,より重い訓告を選択することを決定したことには,相応の合理性があり,決定に至る手続も適正であったことを認めることができる。また,厳重注意,訓告に至るまでの注意・指導は組織的かつ厳格に実施されており,何ら恣意性はうかがわれない一方,訓告に当たっては,昇給欠格要件に該当することを回避するように配慮するなど謙抑的運用が図られていた上,厳重注意・訓告後の苦情申告の手続も用意されていたということができる。そして,訓告を受けた場合に期末手当が減額されることは,就業規則上の関係規定に基づくものであって,それが,金額・方法等に照らして不相当であるということもできない。

(ウ)以上によれば,本件各訓告等が,労働組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図を決定的動機として行われたものであると認めることはできないし,ほかにこれを認めるに足りる証拠はないから,本件各訓告等は,支配介入の不当労働行為にも当たらないというべきである。

 

 

●JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718

 

要旨

(救済命令取消請求訴訟。中労委は国労バッジ着用を続けたことを理由とする(1〕平成20年1月26日付けで5日間の,〔2〕同年10月31日付け及び〔3〕平成21年9月29日付けで各10日間の各出勤停止処分を不当労働行為にあたるとして救済命令を発令したが、一部取り消す。就業規則違反行為は約15年にもおよんで再三反復継続していたことからすれば業務に対する支障がない行為ではあるがそれに対する処分の加重性には合理的理由があり,さらに国労は昭和62年の会社発足以来組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示し,組織としても不当労働行為救済申立てを行うなどしてきたが,平成14年3月末以降は,組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり,平成18年11月には,バッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げているのであって、平成15年7月以降は国労バッジ着用者が○○のみとなり,本件各処分の対象となった平成19年ころには,既にその組合活動としての色彩が後退し,個人的行為の側面が強いなどとして不当労働行為には当たらないとした。)

 

 要所抜粋

 ‥‥JR東日本の就業規則3条において,「社員は,会社事業の社会的意義を自覚し,会社の発展に寄与するために,自己の本分を守り,会社の命に服し,法令,規程等を遵守し,全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」‥‥社員は,勤務時間中,その注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事するという厳格な職務専念義務を負うことを定めたものであると解され,上記のような国鉄時代の職場規律の状況や国鉄改革の経緯等にかんがみれば,このような厳格な職務専念義務を定めることにも合理的な理由があるというべきである。

 なるほど,本件バッジは,そこに「NRU」と国労を示す文字がデザインされているにすぎず,その大きさは約1センチ四方のものであって,具体的な主義主張が記載されているわけでもない。しかし,前記のとおり,国労バッジは,国労東京地本が昭和62年に全組合員に着用の徹底を指示していたものであり‥‥‥国労組合員であることを顕示して組合員相互の団結・連帯の意識を高めるものである。そして,国労バッジには,これを着用していない他の国労組合員に対しても,当該着用者が国労組合員であることを顕示して訴えかける心理的効果を有する側面があるのは否定できないことからすれば,同バッジの着用は,実質的に組合活動としての意味を有し,上記の意味での職務専念義務に違反するものであって,それが身体的活動としての労務提供に格別支障を生じさせないことを考慮しても,企業秩序を乱すおそれがない特段の事情があるとはいえない。

ウ 以上の点に加えて,本件各処分の対象となった時期(平成19年4月16日以降)には,既に,就業規則で定められたもの以外は組合バッジに限らず着用しないという服装整正に関する職場規律が確立していたといい得ること,それにもかかわらず,P10は,平成22年2月の退職時まで国労バッジの着用を継続したこと等の諸事情にかんがみれば,本件において,P10の国労バッジ着用を正当な組合活動と認めることはできない。

 

(3)支配介入の成否について

ア 以上のとおり,P10の国労バッジ着用は,就業規則3条1項,20条3項及び23条に違反するものであるから,原告JR東日本が,P10の国労バッジ着用について就業規則等に則り懲戒その他の不利益処分を行い得ることは明らかである。

 しかし,使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といえる面があるとしても,当該組合活動に対して行われた懲戒処分が同活動の態様等に比して著しく過重なものであって,当該処分が使用者の当該組合に対する嫌悪の念に発していると認められるなど,それが労働組合に対する団結権の否認又は労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときは,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たる場合があり得るというべきである。

 (中略)

ア ‥‥本件各処分(出勤停止5日または10日であって,賃金等の減額のみならず夏季手当15%の減額を伴う重い処分である。)が,原告JR東日本の国労に対する嫌悪の念に発したものであるとする見方も成り立ち得る余地はあろう。

イ しかし,原告JR東日本は,国労組合員等の組合バッジの着用について,昭和62年4月の設立当初から一貫して厳正に処分する姿勢を示し,実際に違反者に対し訓告等の処分を繰り返し行っていたものであり,平成14年3月28日の本件警告文の掲出は,時期的に四党合意に関し与党からの三党声明が出された時期(平成14年4月26日)と近接しているものの,設立当初からの基本的な方針に沿う,その延長線上の行動であったということができる。原告JR東日本設立以降,本件警告書掲出までの間でみても,P10らの国労バッジ着用による就業規則違反行為は約15年間にわたり多数回に及ぶもので,かつ,同人らが何ら態度を変える様子もなく違反行為を反復,継続していたことからすれば,その処分量定を加重していくこと自体には合理的な理由があるものであって,過重な処分がなされたことのみを理由に,直ちに,本件各処分が不当労働行為意思の発現であると認めることはできない。

 また,P10や原告P1ら8名が,国労内部において四党合意に反対し,これを受諾する国労執行部の姿勢を批判していたことは事実であるが,国労バッジの着用と四党合意に対する反対姿勢との間には直接の関連性はなく(国労バッジが四党合意反対運動の象徴となっていたわけでもなく,本件全証拠に照らしても,両者の結び付きを窺わせる事情は認められない。),‥‥四党合意に反対するP10らの存在を嫌悪して国労バッジ着用に関しあえて過重な処分を行ったとする被告国の主張に直ちに左袒することは困難である。

 そして‥‥P10の違反行為自体が軽微であるとはいい難いし,原告JR東日本には,他にも再三の注意指導にもかかわらず出勤遅延を繰り返した従業員に対し,順次量定を加重し,出勤停止処分をするに至った事例もあること‥‥に照らしても,重い処分を受けたからといって,それが直ちに不当労働行為意思の発現であると認めることはできない。

エ さらに,当初は組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示し,組織としても不当労働行為救済申立てを行うなどしてきた国労が,平成14年3月末以降は,組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり,平成18年11月には,バッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げていること‥‥,国労は,組合バッジ着用に関し,機関決定違反として統制処分をするまではしないが,支持はしないという態度であること,平成15年7月以降は国労バッジ着用者がP10のみとなり,P10が再就職して国労バッジの着用を止めた後,その活動を引き継いで行おうとする動きもなかったこと等にかんがみれば,P10のバッジ着用行為に組合活動としての保護が与えられるのは前記のとおりであるとしても,遅くとも本件各処分の対象となった平成19年ころには,既にその組合活動としての色彩が後退し,P10の個人的行為の側面が強くなっていたことは否定できないところである。

オ 以上の諸事情を考慮すれば,前記ア記載の事情を考慮しても,本件各処分から原告JR東日本の支配介入の意思が推認されるとはいえず,本件各処分が支配介入に当たるということはできない。

 

 国(中労委)が控訴

 

 

●JR東日本神奈川国労バッチ事件・東京高判25327別冊中央労働時報144550

 

(棄却。本件は、職場規律確立の一環として、所属組合にかかわらず就業規則に違反する勤務時間中の組合バッジ着用の禁止を指示、徹底し、バッジ処分を行ったものであり、本件警告文の掲出及び処分量定の加重の目的は、職場規律の確立、維持にあることに変わりはなく、国労や国労内少数派を嫌悪して処分を行ったものではない。国労内少数派を嫌悪して本件警告文の掲出や国労バッジの着用に関しあえて過重な処分をしたとは認められない。)

 

 

△JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京地判平25328別冊中央労働時報144317

 

 要旨

(救済命令取り消し訴訟、棄却。平成12年5月30日になされた四党合意について,国労は,平成13年1月27日,これを受諾し,さらに,平成14年3月末ころ,国労バッジ着用処分について,組織として救済申立てをしない方針に転換した。国労の上記方針の転換の時期と相前後する平成14年3月28日,原告は本件警告書の掲出を行い,国労バッジ着用行為に対し,従前行っていた1年度2回の訓告よりも処分を加重する旨を通告した。 6名はその後の調査期間(平成14年4月から同年6月まで)経過後も国労バッジ着用行為を続けたため,これを止めるまで減給以上の処分を受けた。

 本件警告書掲出前にされていた処分と,掲出後にされた処分は,後者の方が格段に大きな経済的不利益をもたらすものと認められるが,この極端な厳罰化は,組合バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた会社が,組合執行部の方針転換を認識するに至り,これを機に,組合内少数派の組合活動を一掃しようとの意図に基づき行ったものであると推認することができることから,組合内少数派の勢力を減殺し,組合執行部の方針に加担したものと認められ,支配介入を構成し不当労働行為が成立するとした)。

 

 要所抜粋。

 

 原告は,昭和62年4月7日,各機関に対し,各現業機関の社員を対象に同月1日から7日までにおける社章,氏名札及び組合バッジの常態的な着用状況についての調査・報告を指示した。上記調査結果によると,1303か所の現業機関の6万4105名中,正規の服装をしていた者が5万8376名(91.1%),組合バッジ着用者が5645名(8.8%)であり,そのうち国労組合員が5634名を占めていた。

 原告は,昭和62年4月20日,各機関に対し,組合バッジ着用者に対し,服装整正違反であることの注意喚起をし,繰り返し注意・指導を行ったにもかかわらず,組合バッジを外さない社員に対しては,人事考課等に厳正に反映するなど厳しい対象を行うことを指示した。また,同年5月28日,原告は各機関に対し,服装違反者に対する方針を示し,現場の実態について完全に把握し,厳正な対処の準備を図るよう指示し,この後も,一貫して組合バッジ着用について,その取り外しを指導,注意し続けていた。

 そして,昭和62年6月,原告は組合バッジ着用者に対し,初めて服装整正違反を理由として4883名に対して厳重注意処分ないし訓告処分を発令して以降,本件警告書掲出前の平成13年9月まで,概ね年2回,組合バッジ着用行為に対する処分を行った。被処分者数は,平成3年9月には2000名を割り込み,平成9年3月には1000名を割り込み,平成13年9月には345名(全体の0.5%)となっていた。

(2)本件警告書について

ア 本件警告書の内容等

 平成14年3月28日に掲出された本件警告書は,「例外的一部の社員」が,「(中略)組合バッジを着用するなどの就業規則違反を繰り返し,中には数十回の訓告を受けながらなお是正することのない社員も見受けられる」とし,今後,なおこのような違反行為をあえてする社員に対しては,「さらに厳正な処分を行わざるを得ない」ことを警告している。4 争点(4)本件警告書の掲出後,P1ら9名に対し服装整正違反を理由に訓告,減給処分及び出勤停止処分をしたことは不当労働行為(労組法7条1号,3号)に該当するか。)について

(1)国労バッジ着用行為は,労働組合の組合活動といえるか

ア 国労による国労バッジ着用指示等

 国労の東京地方本部は,昭和62年3月31日,国労バッジ着用指示をし,昭和62年以降,原告による国労バッジ着用行為に対する処分につき,組合として,第1次ないし第4次国労バッジ事件にかかる救済申立てを東京都労委や神奈川県労委等に行うなどした。

 第1次国労バッジ事件は,神奈川県労委が救済申立てを認容する救済命令を発し,平成11年11月11日に,最高裁判所の上告不受理決定により確定した。

イ 国労の,国労バッジ着用行為についての方針転換

 平成12年5月30日に四党合意がなされた後,国労内では,四党合意の受入れを巡って議論がなされたが,平成13年1月27日,四党合意を受諾するに至った。

 国労は,さらに,国労バッジ着用に関する集会を開き,これ以上国労バッジ着用で不利益を被ることを避けたいと意見表明し,国労バッジを外そうという議論が行われ,本件警告書掲出時である平成14年3月末ころ,国労は,国労バッジ着用行為に対する処分について,組織として救済申立てをしない方針に転換した。

 そして,従前国労が労働委員会に申し立てていた国労バッジ着用行為に対する処分についての救済命令申立事件については,P1ら9

(ア)‥‥国労は,国労バッジ着用について,昭和62年当初に着用を指示し,原告が国労バッジ着用行為に対する処分を行ったことについて神奈川県労委等に救済申立てを行うなどしたものの,その後,平成11年には第1次国労バッジ事件が終局を迎え,平成13年ころには,国労の集会で国労バッジを外そうという議論がなされ,平成14年の本件警告書掲出後の国労バッジ着用処分については,組織として救済申立てを行っておらず,平成18年包括和解に至っているのであるが,これを全体としてみると,国労としては,遅くとも平成14年ころには,国労バッジ着用について積極的に支持をすることはなく,原告との係争についても,これを回避する方針に転換したものと認められる。

(ウ)‥‥平成14年から平成20年ころまでの,国労バッジ着用に対する国労の方針としては,これを積極的には支持しないものの,組合としての統制処分を行うこともなく,昭和62年当初の指示を撤回することもなく,結局,個人の判断に委ねる状況であったと認められる。

(エ)そして,P1ら9名は,上記のとおり国労内少数派として四党合意,三党声明に対し救済申立てを行うなどの活動をしていたのであるが,国労バッジ着用に関する国労の方針が,個人の判断に委ねられるという状況のもとで,P1ら9名としては,昭和62年当初の国労の着用指示に従い,一貫して国労バッジ着用を継続し,国労内少数派組合員として,少数派同志の仲間意識を高め,国労内執行部に対する批判的な行動として,また,国労の自主的,民主的運営を志向するものとして国労バッジ着用行為を継続したものと認められる。

(オ)したがって,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労の組合内少数派の組合活動として行われたものと認められる。 

オ 小括

 したがって,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,不当労働行為制度の保護の対象となる組合活動に該当する。

(2)不利益取扱い(労組法7条1号)の成否(正当性の有無)

 労組法7条1号の不当労働行為は,組合活動のうち,「正当な行為」について成立するので,以下,その正当性について検討する。

ア 就業規則との関係

 国鉄では,職場規律の乱れや巨額の赤字が問題となり,職場規律の乱れを是正するための措置が講じられるとともに,分割民営化による改革が進められることになる中で,原告は,その国鉄の事業の一部を引き継いだのであるから,原告が,かかる設立の経緯を踏まえ,職場規律を確立して企業秩序を維持するために,職務専念義務,服装の整正,勤務時間中の組合活動の禁止等を定める就業規則を制定したことには,十分な合理性が認められる。

 そして,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,職務専念義務について定める就業規則3条1項,社員の服装の整正について定める同20条3項,勤務時間中の組合活動を禁止する同23条にそれぞれ違反し,原則として,その正当性が否定されるものであると認められる。

イ 正当性に関する補助参加人らの主張について

 補助参加人らは,〔1〕国労バッジ着用は労務提供義務と矛盾なく両立し,業務阻害性はなく,職務専念義務,服装整正義務に違反するとはいえない,〔2〕国労バッジ着用の組合活動としての必要性等を考慮すれば,国労バッジ着用行為には正当性があると主張するので,以下検討する。

(ア)補助参加人らの主張〔1〕について

 本件就業規則3条1項に定める職務専念義務は,社員は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

 そして,労働契約においては,労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労務契約の重要な要素となっているから,職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり,その行為が服装の整正に反するものであれば,就業規則20条3項に違反するといわなければならないし,また,それが組合活動としてされた場合には,そのような勤務時間中の組合活動は就業規則23条に違反するものといわなければならない。

 P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労組合員の中でも国労バッジ着用を止める者が大多数となっていく中で,国労内少数派として着用を継続したものと認められるが,国労執行部ないしは原告に対し,国労内少数派としての意思を表明し,また国労内における多数派に対し,少数派との対立を意識させるものといえ,また同時に,国労組合員のうち,自らの意思により国労バッジを着用していない者に対しても心理的影響を与え,当該組合員が職務に精神的に集中することを妨げるおそれがあるものであるから,かかる行為は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反し,また服装整正にも反するものとして,企業秩序を乱すものといわざるを得ない。

 補助参加人らは,国労バッジ着用に業務阻害性はないと主張するが,上記就業規則違反が成立するためには,現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当であり,補助参加人らの主張は採用することができない。

ウ 小括

 以上により,補助参加人らによる国労バッジ着用行為は,就業規則3条1項,20条3項,23条に反し,実質的に企業秩序を乱すおそれのない事情も認めることができず,正当性を認めることができない。

 よって,本件各処分等について,労組法7条1号の不当労働行為は認められない。

(3)支配介入(労組法7条3号)の成否

ア 支配介入の成否の判断基準

 使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても,それが労働組合の結成に対する嫌悪の意図や労働組合の団結権ないしその自主的運営を否定する意図を決定的な動機として行われたと認められるときには,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入(労組法7条3号)に該当するというべきである。そこで,以下,本件における支配介入の成否を検討する。

イ 原告と国労との間の国労バッジ着用処分をめぐる係争の推移

 国労が,国労バッジ着用処分に対する救済申立てを,東京都労委,神奈川県労委,埼玉県労委及び千葉県労委等に行い,このうち,第1次国労バッジ事件については,平成11年11月11日,最高裁判所の上告不受理決定により確定し,その余の事件については,平成18年包括和解により終了した。

ウ P1ら9名の組合活動,国労内での位置づけ等

 そして,P1ら4名等は,四党合意及び三党声明に対して,不当労働行為救済申立てを行い,本件警告書掲出後の国労バッジ着用処分について,国労が組織として救済申立てをしない中,個人として救済申立てを行い,また,平成18年包括和解の際も,和解に反対し,当事者としてP1ら9名を追加するよう申し立てるなど,P1ら9名の組合活動は,一貫して国労執行部に反対するものであった。

エ 原告発足後の組合バッジ着用行為に対する処分の推移

 原告は,原告発足時から,組合バッジ着用について調査し,服装整正違反であることを注意喚起し,取り外すよう注意,指導してきた。原告は,昭和62年6月,組合バッジ着用者4883名(原告の全従業員の5.9%)に対して,服装整正違反として初めて厳重注意処分ないし訓告処分を発令した。その後,処分内容が訓告処分に加重された後も,平成3年3月の処分時までは被処分者が2000名を上回っていたが,同年9月の処分時には2000名を下回り,平成8年9月の処分時には1000名を,平成12年3月の処分時には500名をそれぞれ下回るなど,被処分者数(すなわち,それぞれの処分時まで組合バッジ着用行為を継続していた者)は減少を続け,本件警告書掲出直前の平成14年3月の被処分者数は314名(原告の全社員比率0.4%)まで減少していた。(甲4,乙83~93,乙107)

 本件警告書掲出後の平成14年4月1日以降も,127名(対全社員比0.2%)が組合バッジ着用を継続したが,そのうち101名は同年6月までに組合バッジ着用を止めたため,平成14年7月の,上記警告書掲出後初めての処分の際も,処分内容を訓告のまま据え置かれ,この際に,処分内容を減給に加重された者は,同年7月1日以降も組合バッジ着用を継続した26名(対全社員比0.04%)にとどまった。

オ 本件警告書掲出前後の処分の均衡

 ここで,減給処分や出勤停止処分の不利益の程度について検討する。

 本件警告書掲出前にされていた同一年度2回の訓告処分では,期末手当において成績率各5/100減,定期昇給において昇給号俸1/4減となるものの,月額給与の不利益はなかった。これに対して,本件警告書掲出以後にされた減給処分は,期末手当(夏季又は年末)において成績率10/100減,定期昇給において1回の処分で昇給号俸1/4減,月額給与は1回の処分につき平均賃金日額の1/2減となった。さらに,出勤停止処分では,期末手当(夏季又は年末)において成績率15/100減,定期昇給において1回の処分で昇給号俸2/4減,月額給与は出勤停止処分の日数分の減となった。なお,定期昇給は,同一年度内に減給処分4回又は出勤停止処分2回以上の処分を受ければ昇給されないこととなる。

 以上のとおり,本件警告書掲出前にされていた処分と,掲出後にされた処分は,後者の方が格段に大きな経済的不利益をもたらすものと認められ,組合バッジ着用行為を継続したことによる処分の加重であることを考慮してもなお,本件警告書掲出以前の処分と比較して量定,頻度において極端に加重されており,均衡を欠くものと認められる。

カ 他の処分との不均衡等

 原告では,本件警告書掲出後に,氏名札を着用しない現業の従業員に対し,1度訓告処分にし,その後再度氏名札不着用が認められたため,戒告処分を2度行った例があると認められるが(証人P32・12,25,26頁)が,本件警告書掲出後であるにもかかわらず,初回の戒告後の氏名札不着用に対して,処分量定を加重することなく再度戒告処分にしており,同時期の組合バッジ着用処分との均衡を欠いているといえる。

 さらに,原告と同様,国鉄の分割・民営化により発足したJR西日本は,原告と概ね同内容の就業規則等を定め,昭和62年から組合バッジ着用行為に対する処分を行ってきたところ,平成9年度から平成18年度まで,各年度内1回のみの訓告処分にとどめ,処分量定の加重も行わなかったと認められ‥‥,組合バッジ着用行為は,その行為態様に大きな差がでることは考えにくいことを考慮すると,他社の処分であるとはいえ,同じ組合バッジ着用行為に対する処分としては,差が大きいというべきであり,この点でも,均衡を欠いているといえる。

キ 国労執行部による国労バッジ着用行為についての方針転換との時期的附合性

 ‥‥国労執行部は,平成14年3月末ころ,国労バッジ着用処分については,以後,組織として救済申立てをしないとの方針に転換したが,本件警告書の掲出がなされたのは,かかる国労執行部の方針転換の時期と極めて近接していることが認められる。

ク 評価

(ア)組合バッジ着用行為に対する処分の経緯をみると,本件警告書掲出前にされていた処分と,掲出後にされた処分とでは,後者がその量定,頻度において極端に加重されていることが認められ,かかる処分は,原告における氏名札不着用に対する処分や,原告の同業他社における組合バッジ着用行為に対する処分と比較しても,明らかに過重であるというべきである。この点,被処分者において,平成14年に至るまで繰り返し処分を受けてきたにもかかわらず,なお,組合バッジ着用行為を継続する行為が職場規律の確立に反する面も無視できないところであるが,平成14年3月の処分時点での組合バッジ着用者数は,原告発足当初からみても,また原告の全社員数との比較においても既に大幅に減少しており,加えて,組合バッジ着用を継続していた者の着用の態様も,従前と変わらないと認められるのであるから,平成14年3月の時点で,特に処分量定,頻度を加重しなければならない特段の事情,必要性はなかったものと認められる。

 そうであるにもかかわらず,上記時期に本件警告書の掲出を行い,以後の国労バッジ着用継続者に対して,経済的不利益が大きい量定,頻度で処分を行っており,かかる処分の加重は,当時のP1ら9名の国労バッジ着用継続の態様だけでは合理的に説明することができないといわざるを得ない。

(イ)そして,原告による本件各処分は,国労の国労バッジ着用を積極的に支持しないとの方針転換の時期と極めて近接しているところ,国労執行部の国労バッジ着用に関する方針転換については,原告は,従前,国労を申立人とする不当労働行為救済申立事件の被申立人という立場から,国労が組織として国労バッジ着用処分について不当労働行為救済申立てを行わなくなったこと等を通じて容易に認識することができたことがうかがわれ,実際,本件警告書掲出前に,原告は,国労バッジ着用についての国労内の方針が転換したことを認識していたことが認められる。

(ウ)そうすると,原告の平成14年3月以降の国労バッジ着用行為に対する極端な厳罰化は,国労バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた原告が,国労執行部の方針転換を認識するに至り,これを機に,国労内少数派の組合活動を一掃しようとの意図に基づき行ったものであると推認することができるというべきである。

(エ)そして,原告による本件各処分は,国労内少数派の勢力を減殺し,国労執行部の方針に加担したものと認められるのであり,国労内における国労バッジ着用についての方針等について,支配介入があったものと認められ,不当労働行為(労組法7条3号)が成立する。

 

 

△JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538

棄却

 

△JR東日本国労神奈川国労バッチ減給処分等事件 最一小決平27122

(棄却、不受理)

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