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2019/01/27

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その5)

第4 組合活動類型ごとの検討

 

一 組合集会

 

1 .総論


(要旨)

 ○施設構内の無許可組合集会が正当な組合活動とされることは、5つの最高裁判例が否定している以上ありえない。中止・解散命令・監視・警告書交付は適法なので躊躇する理由はない。

 ○法益権衡論の調整的アプローチは明確に否定されている

 ○懲戒処分とするには就業規則を具備しているうえ、「実質的に企業秩序を乱すおそれ」という抽象的危険説にもとづく説明ができけば違法とされることはまずない。

 ○例外的に施設利用拒否を支配介入としたり、過度に重い不利益処分の事例で違法とする判例もあるが、あくまでも企業秩序の維持を理由とするもので、適切な量定であれば懲戒処分が無効とされることはない

 

 

1.最高裁5判例は無許可集会を明確に正当な行為でないと判示

 

 

 

 最高裁の5判例(●全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58・12・20、●池上通信機事件・最三小判昭63・7・19、●日本チバガイギー事件・最小一判平元・1・19、●済生会中央病院事件・最二小判平元・1・29民集43巻12号1786頁、●オリエンタルモーター事件・最二小判平7・9・8判時1546号130頁)は、決定的な意義があり、 国労札幌地本判決の判断枠組により、企業施設内(屋外含む)の勤務時間内、勤務時間外も含めて、無許諾の組合集会は正当な組合活動ではないから、施設利用の拒否、解散命令、監視、警告書交付等は不当労働行為に当たらないと判示しており、労働委員会等が主張する法益権衡の諸般の事情を勘案する調整的アプローチを明確に排除しているので、有益な先例である。特に最高裁が理論的説示をしている済生会中央病院事件とオリエンタルモーター事件は指導的判例の位置づけである。

 

 

 

2.懲戒処分とする場合に注意を要すること

 

 

 

 ただ、注意を要するのは、上記の最高裁5判例は、懲戒処分事案ではなく、無許可集会強行しただけの理由で懲戒処分に処す例はさほど多くないため、懲戒処分事案の先例も検討しておく必要がある。いずれも就業規則等がよく整備されている事業所の判例といえる。

 

 無許可集会強行、無許可入構強行を懲戒処分事由として判列としては、最高裁判例で●米軍立川基地事件・最三小判昭491129集民113号235頁があるほか、国労札幌地本判決の枠組を引用した級審判例では、●東京城東郵便局事件・東京地判昭59・9・6労判442号、●JR東海鳥飼基地無許可入構(懲戒解雇)事件 ・大阪地判平12・3・29がある。

 

 施設管理権の侵害というよりは争議行為の慫慂の事案だが●熊本地方貯金局事件 熊本地判昭和63・7・18 労判523号27頁が、ストライキの前日午後0時35分ころから局玄関前広場において、全逓組合員約500名が無許可集会を行った際‥‥局管理者の解散命令を無視してあいさつを行った後、団結ガンバローを三唱の音頭をとった等が、全逓熊本地方貯金局支部支部長(郵政事務官)に減給1/10(6か月)の懲戒事由の一つとなっている。

 

 無許可集会を実行したうえ、違法争議行為に参加すれば当然懲戒処分事由となることはいうまでもない。

 

 もっとも、懲戒処分事由とするには、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の「実質的に秩序をみ乱すおそれのない特別の事情」が認められれば懲戒処分は無効とするという判断枠組をクリアする必要もある。

 

 この判断枠組は、抽象的危険説を採用しているので、企業秩序・風紀を乱すおそれという抽象的な説明ができればよく、具象的な業務阻碍がなくてもよいのであるから、クリアするのは容易である。

 

 東京城東郵便局事件のように公労法17条1項で争議行為を禁止されていた郵政省現業の事例で、ストライキが予定され闘争を行っている状況で、組合集会を許可することは、違法行為を助長するおそれがあるので「特別の事情」は認められていない。このことは、地公労法18条1項が適用される地方公営企業も同じことである。

 

 職務専念義務違反もしくは他者の職務専念義務を妨げるおそれのある場所において、勤務時間中(済生会中央病院判決)もしくは、勤務時間中の労働者と、そうでない労働者が混在する時間帯の集会(日本チバガイギー事件)であれ先例は「特別の事情」を認めていない。

 

 一方、例外的に施設利用拒否や無許可集会に対する不利益処分が違法とされた事例としては、◯総合花巻病院事件・最一小判昭60 523のように組合の利用申し入れを拒否したことはなかったにもかかわらず、突然不許可としたのは、組合が上部団体に加盟したことを嫌悪しこれを牽制、阻止するためと認定され、支配介入とされている。◯アヅミ事件・大阪地決昭62・8・21労判503号25号は他の労組やサークル活動と異なる処遇のうえ懲戒免職のような重い処分である。○金融経済新聞社事件・東京地判平15・5・19労判858の役付(営業局参事・次長心得)を解く降格処分としたケースで違法とされている。

 

 とはいえ、この種の例外を過大評価する必要もないのであって、慎重な立場をとるとしても、中止・解散命令や監視、警告を躊躇する理由はなく、ただ、実際に懲戒処分事由とするのは、明らかに企業秩序をみだすおそれのあった無許可企業施設利用にしぼり、過重にならない量定の処分なら安全運転といえると思う。 

 

 

 

(二)各論

 

 

 

1.勤務時間中の無許可集会-正当な組合活動とされる余地なし

 

 

 

●済生会中央病院事件・最二小判平元・1・29民集43巻12号1786頁は、原審の勤務時間中を含む無許可職場集会に対する警告書交付を不当労働行為とした部分について破棄自判した判例だが、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。」としたうえで「病院が本件職場集会(‥‥)に対して本件警告書を交付したとしても、それは、ひっきょう支部組合又はその組合員の労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから、病院(上告人)の行為が不当労働行為に該当する余地はない」と断言した。

 

 

 

 

 

2.違法行為を助長するおそれにより集会を不許可とすることは適法であり、集会開催強行は懲戒事由になる 

 

 

 

●東京城東郵便局事件・東京地判昭59・9・6労判442号45頁

 

 時間帯からみて勤務時間中の集会の範疇といえなくもないが、それは全く問題にもなっていない。

 

 本件は不許可集会強行、欠勤、管理職らに対する暴行を懲戒理由とする郵政職員2名に対する免職処分の取消が訴求された事案で処分を適法としたものである。

 

 昭和4252日、全逓中央本部からの指導により、合理化反対闘争等に向けての団結を強めるため、各課単位で集会を開催することを決定し、これに基づき、郵便課、保険課等で順次集会が開催され、集配課分会においても右の集会を開催するため、同月9日、同課分会執行委員名義で局長に対し、いずれも組合業務を目的として城東局会議室を同月11日及び12日の両日使用したい旨の庁舎使用許可願を提出したか、局長はストライキ体制確立後の組合への便宜供与を認めない東京郵政局の指示に従って許可しなかった。にもかかわらず同月11日午後後47分から516分ころまで、同会議室において、集配課員約四〇名による職場集会が強行された。

 

 裁判所の判断は、不許可集会の強行について、国労札幌地本判決を引用して、全逓本部によるスト決行体制確立、業務規制闘争突入指令発令後の、郵便局内での組合集会開催のための施設の利用を許諾することは、公労法171項違反の違法行為を助長する結果となるおそれが大きいと当局側が判断したことについては、相当な理由があるとして、事案の会議室使用不許可に権利濫用と認めるべき特段の事情はないと判示した。

 

 

 

3.休憩時間・就業時間外等の組合集会等で正当な行為とされなかった事例

 

 

 

●米軍立川基地事件・最三小判昭491129集民113号235頁

 

●三菱重工事件・東京地判昭58・4・28労民集34巻3号279頁労判410号46頁

 

 昼休み中の無許可集会・ビラ配布は労働協約に違反し許されないと判示。

 

●全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58・12・20判時1102号140頁は、休憩室あるいは予備室を利用した職場集会に対する解散命令及び監視行為は不当労働行為に当たらないとする原審の判断を支持したものだが、解散命令が行われた集会というのは以下の2件である。

 

 

 

 集配課休憩室-休憩時間中の全逓組合員約780名が昭和40510日午後035分ごろから

 

 年賀区分室-67515分ごろから545分ごろまで。611日午後020分~055分ごろまで

 

 

 

 いずれも、休憩時間か就業時間外の時間帯だが、年賀区分室の集会について職制は勤務時間中の者がいるかを監視しており、勤務時間のシフトで勤務時間中の者もいる時間帯といえる。最高裁は、休憩時間の集会の解散命令を是認しているのである。

 

 

 

●池上通信機事件・最三小判昭63・7・19判時1293号173頁

 

 

 

 組合集会のための食堂の無許可使用に対する社内放送の利用による中止命令、警告書の交付、集会開催の妨害などを不当労働行為に該当しないとした事例(出典:日本評論社:法律時報臨時増刊「判例回顧と展望」)

 

 本件は昭和5459日、会社の食堂使用不許可通告の後、組合は午後 5 時半過ぎから組合集会を川崎工場食堂で開催しようとしたが、会社側に阻まれ、結局実質的な合同集会は開かれなかった。また、食堂内にいた組合員に対しても会社側は 20 分おきくらいにスピーカーにより集会中止命令をだして集会を妨害した等の事案なので就業時間外の組合集会である。

 

 

 

●日本チバガイギー事件・最小一判平元・1・19労働判例533号17頁

 

 本件は組合が本部社屋一階の食堂を午後5時から使わせてほしいと申入れた。しかし、会社は、工場部門の終業時刻は午後5時であるものの、本部の終業時刻は午後545分であるから、それまでは本部への来客もあり、また、本部の会議室として食堂を使用することもあるので、午後6時以降の使用しか認められないと回答した。そこで、食堂の使用が業務上どうしても都合が悪いのであれば、屋外での報告集会の開催を認めてほしいと申入れた。これに対して会社は、屋外集会であっても本部の従業員の執務に影響する等、施設管理上の理由から屋外集会の開催を拒否した事案で、本件食堂の使用制限及び屋外集会開催の拒否が施設管理権を濫用したものとはいえず、不当労働行為には当たらないとした原審の判断を維持。

 

 本件の集会参加者は勤務時間外だが、本部棟は勤務時間中という状況での集会開催不許可を適法とした事案である。

 

 

 

●国鉄清算事業団(東京北等鉄道管理局)事件・東京高判平429労判61729

 

 東京駅構内における国労の非番者無許可集会の現認・警告メモ、写真撮影を不当労働行為に当たらないとした公労委命令を支持した原判決維持。

 

 

 

●オリエンタルモーター事件・最二小判平7・9・8判時1546号130頁裁判所ウェブサイト

 

 使用者が、労働組合の結成通知以来約九箇月にわたり、組合からの許可願の提出があれば業務に支障のない限り従業員食堂の使用を許可していたところ、就業時間後食堂で行われていた組合の学習会の参加者の氏名を巡回中の守衛が記録したことに反発した組合執行委員長らが右記録用紙を守衛から提出させたことを契機として、組合による食堂使用を拒否したのに対し、組合が、使用者が食堂に施錠するまで五箇月近くの間、無許可で食堂の使用を繰り返し、その間、使用者は食堂の使用に関し施設管理者の立場からは合理的理由のある提案をしたが、これに対する組合の反対提案は組合に食堂の利用権限があることを前提とするかのような提案であったなど判示の事実関係の下においては、使用者が組合に対し組合集会等のための食堂の使用を許諾しない状態が続いていることは、不当労働行為に当たらないとしたもので、就業時間外の組合活動の事案といってよい。

 

 

 

●JR東海鳥飼基地無許可入構(懲戒解雇)事件 ・大阪地判平12・3・29労判790

 

大阪第三車両所に勤務し、JR東海労組の組合員であったX1(組合大三両分会書記長)及びX2(同分会副会長)が、組合員約三〇名とともに、ストライキの決行日の早朝に、企業施設内に入構しようとしたところ、就業規則の規定(争議行為中の関係組合員の会社施設内への立入り禁止等)に基づいてその入構を拒否され、退去命令が出されたが、警戒員らの抑止を実力で排除して入構し、退去通告に従わず、約三〇分間にわたって施設内に滞留し、暴行を働き、暴言を吐くなどしたため、懲戒解雇されたがことから(Xら以外の組合員の一部は勤停止及び戒告処分)、本件懲戒解雇は無効であるとして雇用契約上の地位確認及び賃金支払を請求した事案で、請求を棄却(「被告は明示に業務と関係のない原告らの入構を拒否しているし、原告らの入構目的が組合活動を行うことであったとしても、会社施設内における無許可での組合活動は禁じられているのであるから、入構が正当な組合活動の一環であったともいえず、これを拒否した被告の措置が施設管理権を濫用するものとは到底言い難い」とする。

 

 

 

 

 

4.例外的に集会使用拒否等が不当労働行為とされた事例及び無許可集会の実施等を理由とする処分を無効とした事例

 

 

 

○総合花巻病院事件・最一小判昭60 523労働委員会関係裁判例集20164頁 

 

 6年余の間、病院は、毎年多数回にわたり、その都度の許可をもって、組合の執行委員会および総会のため、講堂、磨工室、地下の手術室等の病院施設の無償利用を認め、組合の利用申し入れを拒否したことはなかったにもかかわらず、突然不許可としたのは、組合が上部団体の医労協に加盟したことを嫌悪しこれを牽制、阻止することためであった、組合運営に対する支配介入にあたるとした原審の判断を是認している。

 

 病院長は院長室に組合委員長、書記長、副委員長などを呼び、医労協に加盟しないよう説得、依頼し、書記長には出産祝を名目に一万円、副委員長に新築祝を名目に二万円を供与した事実があった。

 

 

 

○アヅミ事件・大阪地決昭62・8・21労判503号25号

 

 本件は、研修命令拒否、職場放棄、配転命令拒否等を理由としてされた懲戒解雇を無効とした判例だが、懲戒事由のひとつが、アヅミ労組を脱退し結成された全大阪産業労組アヅミ分会が1回目は使用不許可の指示に反して、2回目は無断で食堂を使用したという事案であるが、食堂は、アヅミ労組やその他のサークルが、事前の届け出をなすことにより、比較的自由に使用されており、本件は勤務時間外かつ食堂の営業時間外に行われる10名前後の集会であるなにもかかわらず、正当な組合と認めていないという理由で不許可とするのは権利の濫用にあたる。また集会が正当な組合活動であるとも判示する。

 

 

 

○国産自動車交通事件・最三小判・平6・6・7労働法律旬報NO.1349は施設管理権に言及することなく、タクシー労働者を組織する「新協力会」が賃金のスライドダウンに反対するため無許可で会社構内(空地)を約三時間半にわたって占拠して開催した臨時大会(出番者も多数参加)に対して、会社が幹部を懲戒解雇した事案で、違法な争議行為あるいは組合活動ではないとして、解雇を無効とした東京高裁平成3年9月19日判決(前記『労働法律旬報』所収)の判断を是認している。高裁の判断は、本件は就労を予定していた者(出番者)も多数参加したことから、実質ストライキであり、構内を無断で使用したことは責任を免れないとしても、それにより大会開催によるストライキが違法にはならないというもの

 

 

 

○中労委(倉田学園学園事件)・東京地判平9・2・27労民集48巻1・2

 

号20頁裁判所ウェブサイト

 

 小会議室の利用に対する警告書の多数回の交付や使用者の退職勧奨行為等につき、いずれも組合の弱体化を意図して行われたものであるなどとして、労働組合法7条3号の支配介入に当たるとした。「‥‥原告が許可制にあくまで固執したのには、組合に対する否認的態度ないし不信感がその根底にあることはK理事等の発言から十分に窺い知ることができるのであり、組合も、職場集会開催にあたっては、当日又は前日に届出をし、その回数も月二ないし三回で、利用時間も始業時刻前又は終業時刻後の約二時間で、集会内容も団体交渉内容の報告等であったというのであり、その間、非組合員の入室を拒否したこともなければ、小会議室の本来の使用目的である職員の娯楽、懇談等の障害になるとの非組合員からの苦情が寄せられたことも認められないし、また、教育上好ましくない結果が生じたとか、学園業務の阻害になったとの事情も認められないというのであるから、組合に譲歩の余地のあることは勿論であるが、原告にも譲歩の余地がないとはいえない。このような状況下で原告が組合に対し、就業規則違反を理由に本件警告書を多数回に亘り交付したということは、被告の認定・判断しているとおり組合の弱体化を企図した行為であり、不当労働行為に該当すると判断されてもやむを得ない‥‥」

 

 

 

〇金融経済新聞社事件・東京地判平15・5・19労判858

 

 休憩時間中の無許可集会強行、始末書提出拒否を理由とする役付(営業局参事・次長心得)を解く降格処分を無効としたのである。

 

 

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その4)

(承前)

九 施設管理権にかかわる事案であるにもかかわらず国労札幌地本判決が引用されず組合等の主張が認められた例

 

○総合花巻病院事件・最一小判昭60 523労働委員会関係裁判例集20164

 

 6年余の間、病院は、毎年多数回にわたり、その都度の許可をもって、組合の執行委員会および総会のため、講堂、磨工室、地下の手術室等の病院施設の無償利用を認め、組合の利用申し入れを拒否したことはなかったにもかかわらず、突然不許可としたのは、組合が上部団体の医労協に加盟したことを嫌悪しこれを牽制、阻止することためであった、組合運営に対する支配介入にあたるとした原審の判断を是認している。

 病院長は院長室に組合委員長、書記長、副委員長などを呼び、医労協に加盟しないよう説得、依頼し、書記長には出産祝を名目に一万円、副委員長に新築祝を名目に二万円を供与した事実があった。

 

○国産自動車交通事件・最三小判・平6・6・7労働法律旬報NO.1349はタクシー労働者を組織する「新協力会」が賃金のスライドダウンに反対するため無許可で会社構内(空地)を約三時間半にわたって占拠して開催した臨時大会(出番者も多数参加)に対して、会社が幹部を懲戒解雇した事案で、違法な争議行為あるいは組合活動ではないとして、解雇を無効とした東京高裁平成3年9月19日判決(前記労働法律旬報所収)の判断を是認している。高裁の判断は、本件は就労を予定していた者(出番者)も多数参加したことから、実質ストライキであり、構内を無断で使用したことは責任を免れないとしても、それにより大会開催によるストライキが違法にはならないとする。

 しかし一方でミツミ電機事件・東京高判昭63・3・31判例タイムズ682号132頁は、本件春闘時の長期ストとピケにかかわる幹部責任追及としての懲戒解雇の効力が争われた事件で、一審と異なり懲戒解雇を正当化した。会社は、争議中の集会、デモ、泊まり込み、ビラ貼付・赤旗掲揚も懲戒解雇の理由となっており、地位保全処分命令の取消をめた訴訟であるが、争議中の組合によって行われた会社の物的施設の無断利用が、正当な組合活動として是認する余地はなく、その利用を拒否したことが使用者の権利濫用には当たらないとしている。

 

〇金融経済新聞社事件・東京地判平15・5・19労判858

 休憩時間中の無許可集会、始末書提出拒否を理由とする役付(営業局参事・次長心得)を解く降格処分を無効とした。

 

 

 

 

第三 B系統 地方自治法238条の47項号(旧4項)の目的外使用許可の裁量処分の判断枠組 

 

一 呉市立中学校教研集会使用不許可事件 最三小判平18.2.7の判断枠組の意義

 

 呉市立中学校教研集会使用不許可事件 最三小判平18.2.7 民集602401頁(使用不許可処分を違法とする)は、広島県教組が広島県教研集会会場として呉市立二河中学校の施設の使用を申し出、校長が、職員会議を開いた上、支障がないとして、いったんは口頭で使用を許可する意思を表示した後に、市教委が、過去の右翼団体の妨害行動を例に挙げて使用させない方向に指導し、自らも不許可処分をするに至ったというものだが、組合側が不当に使用を拒否されたとして損害賠償を求めた事案で、一審、二審とも県教組が勝訴、最高裁は本件不許可処分を裁量権の濫用と認定し上告を棄却したというものだが、最高裁が初めて、学校施設の目的外使用の諾否の判断の性質、司法審査のありかたを明らかにした。

 同判決は裁量処分の権利濫用の有無について、従来の重大な事実誤認や社会通念からの顕著な逸脱という社会通念審査(最小限審査)に加えて、「判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くことがないかを検討」する判断過程合理性審査[本田滝夫2007]を採用し、審査密度を濃くした審査方法を示したことが注目され、指導的判例の位置づけになっている。

 しかも同判決の判断過程審査方式は、学校施設のみならず、公立の福祉施設や、市庁舎の職員組合に対する便宜供与にいたるまで判断枠組として引用されているので影響力が大きい。

 というのも学校施設は地方自治法238条の4第7項(旧4項)にいう行政財産であり、したがって、公立学校施設をその設置目的である学校教育の目的に使用する場合には、同法244条の規律に服することになるが、これを設置目的外に使用するためには、同法238条の4第7項(旧4項)に基づく許可が必要であるが、これは、これは地方自治体及び地方公営企業の庁舎も同じことだからである。

  判批[本田滝夫2007]は判旨を6項目に分けているが、学校教育特有の項目を除くと以下の5項目とみなすことができる。

  

判旨1 学校教育上支障がなくても不許可とする管理者の裁量を認める

 

  目的外使用の許可は「学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかであるが、そのような支障がないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく、行政財産である学校施設の目的及び用途と目的外使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるものである。」

 

判旨2 裁量権の濫用として違法となるかどうかは、社会通念審査+判断過程合理性審査による

 

 「管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として3違法となるとすべきものと解するのが相当である。」

 

判旨3 職員団体の使用の必要性が大きいからといって管理者に受忍義務はないとする国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54103と類似の説示。

 

 「教職員の職員団体は、教職員を構成員とするとはいえ、その勤務条件の維持改善を図ることを目的とするものであって、学校における教育活動を直接目的とするものではないから、職員団体にとって使用の必要性が大きいからといって、管理者において職員団体の活動のためにする学校施設の使用を受忍し、許容しなければならない義務を負うものではないし、使用を許さないことが学校施設につき管理者が有する裁量権の逸脱又は濫用であると認められるような場合を除いては、その使用不許可が違法となるものでもない。」

 

 厳密に言えば地方自治法238条の4第7項(旧4項)の目的外使用許可の判断枠組みは一般私企業の指導判例である国労札幌地本判決とはかなり違う。同判決は「当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては‥‥正当な組合活動として許容されるところであるということはできない。」という特段の事情論であるが、風穴は開けられていないし、行政裁量のような、判断過程合理性審査はとらないのであるから、一般私企業の施設管理権とは一線を画しているが、受忍義務はないという趣旨は同じということである。

  

判旨4 従前の運用と異なる取扱についての判断枠組

 

 「従前、同一目的での使用許可申請を物理的支障のない限り許可してきたという運用があったとしても、そのことから直ちに、従前と異なる取扱いをすることが裁量権の濫用となるものではない。もっとも、従前の許可の運用は、使用目的の相当性やこれと異なる取扱いの動機の不当性を推認させることがあったり、比例原則ないし平等原則の観点から、裁量権濫用に当たるか否かの判断において考慮すべき要素となったりすることは否定できない。」

 

判旨5 事実関係に過大考慮・過小考慮定式を当てはめる判断枠組

 

 「本件不許可処分は、重視すべきでない考慮要素を重視するなど、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており、他方、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。」

 

 本件使用不許可が裁量権の濫用という結論に導いたのが以下のように、判断過程合理性審査における過大考慮・過小考慮定式を当てはめたことにある。

 

(1)当然考慮すべき事項を十分考慮していない

 

A 教研集会は教育特例法19条、20条(平成15年改正で21条・22条)の趣旨にかなう自主研修であることを考慮してない

 

 「教育研究集会は、被上告人の労働運動としての側面も強く有するもの‥‥教員らによる自主的研修としての側面をも有しているところ、その側面に関する限りは、自主的で自律的な研修を奨励する教育公務員特例法19条、20条[平成15年改正で21条・22条・引用)の趣旨にかなうものであり‥‥使用目的が相当なものである」

 

 コメント-これが本件を裁量権の濫用とする決め手ともいえる。一審広島地判平14.3.28民集602443号は、市教委に積極的に研修の場として学校施設を確保すべき配慮義務があるとし、本件を、目的外使用の問題ではなく、設置目的に沿った使用の問題と捉えているような行論を展開している[安藤高行2010]。こまの、最高裁も教研集会に好意的だった一審の論理構成に引きずられた感がしないでもない。

 新進気鋭の行政法学者の仲野武志[2007]は、教研集会には教職員の人事、労働条件等の分科会もあり、純粋に労働運動として性格が表れており、自主的研修としての性格と、労働運動としての性格を別個の対象事実として捉え、労働運動としての性格を重視したとしても適正な考慮であるはずと批判的な見解を示している。ている。

 

 

B 学校施設でなく他の公共施設を利用する場合利便性に大きな差違があることを考慮してない。

 

 「教育研究集会の中でも学校教科項目の研究討議を行う分科会の場として、実験台、作業台等の教育設備や実験器具、体育用具等、多くの教科に関する教育用具及び備品が備わっている学校施設を利用することの必要性が高いことは明らかであり、学校施設を利用する場合と他の公共施設を利用する場合とで、本件集会の分科会活動にとっての利便性に大きな差違があることは否定できない。」

 

(2)重視すべきでない考慮要素を重視している(過大考慮)

 

A 右翼団体の妨害行動は過大考慮である

 

 「過去‥‥学校に右翼団体の街宣車が来て街宣活動を行ったことがあったという‥‥しかしながら、本件不許可処分の時点で、本件集会について具体的な妨害の動きがあったことは認められず(‥‥実際には右翼団体等による妨害行動は行われなかった‥‥)、本件集会の予定された日は、休校日である土曜日と日曜日であり、生徒の登校は予定されていなかったことからすると、仮に妨害行動がされても、生徒に対する影響は間接的なものにとどまる可能性が高かった」

 

B 教研集会の政治的性格は過大考慮である

 

「教育研究集会の要綱などの刊行物に学習指導要領や文部省の是正指導に対して批判的な内容の記載が存在することは認められるが、いずれも抽象的な表現にとどまり、本件集会において具体的にどのような討議がされるかは不明であるし、また、それらが本件集会において自主的研修の側面を排除し、又はこれを大きくしのぐほどに中心的な討議対象となるものとまでは認められないのであって、本件集会をもって人事院規則14-7所定の政治的行為に当たるものということはできず、また、これまでの教育研究集会の経緯からしても、上記の点から、本件集会を学校施設で開催することにより教育上の悪影響が生ずるとする評価を合理的なものということはできない。」

る。

 

 コメント-仲野武志[2007]はこの説示についても、人事院規則14-7第6項の犯罪構成要件にならない限り使用目的の相当性の考慮対象事項になせないと解されるが、そのような絞り込みの根拠は必ずしも明確でないと疑問を呈し、全体として過大考慮・過小考慮の判定の根拠は脆弱だとする。最高裁は不許可処分を違法とする論理の脆弱性を補強するために、従前の運用と異なる取扱から「推認」された「動機の不当性」(処分は、県教委等の教育委員会と被上告人との緊張関係と対立の激化を背景として行われたことを指すものと思われる)を補強論理としているが、これがなければこの判例は批判を免れることができなかったと述べているが同感である。

 

 私は、最高裁が行政財産の目的外使用不許可の司法審査で、過大考慮・過小考慮定式を加えたことに批判的な見方をとる。

 なぜならば、この審査方式の先例が神戸市立工業高等専門学校においてエホバの証人のが剣道実技履修の拒否のため原級留置となったため退学処分とされた事案で、処分は、裁量権の範囲を超える違法なものした最二小判平8・3・8民集50巻3号469頁である。

 これは信教の自由や教育を受ける権利という人権にかかわる深刻な問題で、違憲判断にしてもよさそうな事案、密度の濃い司法審査であるのは当然であってそれに対して本件は管理者が広範な裁量権を有する庁舎管理権の事案で同列の問題とはいえないからである。

 とはいえ、最高裁の先例として確立している以上、行政財産の目的外使用不許可は、過大考慮・過小考慮定式による判断過程の合理性審査に耐えられる判断でなければならないことになったとえるのだ。

 以下下級審判例を検討することとするが、結論を先に言えば、教研集会使用不許可が違法とされたことは、決して裁判所が組合活動に好意的になったことを意味しないし、過大考慮・過小考慮定式による判断過程審査が、教研集会以外で組合側に有利に働くことはあまりないと考えられる。

 

二 教研活動以外の組合集会や労働組合への便宜供与で大多数の判例は目的外使用不許可を適法としている

 

 地方自治法238条の47項号(旧4項)の組合活動等の目的外使用の使用相当性、それなりに判例は蓄積している。呉市立中学校教研集会使用不許可事件・最三小判平18.2.7以降、教研集会の不許可処分は違法とされているが、呉市立中学校判決以前のものも含め、組合集会等、教研集会以外は殆ど使用不許可処分を適法としているといってよい。

 もっとも近年の組合事務所使用不許可(大阪高判27・6・2)や分会会議といった日常的な組合活動ですら使用不許可処分を適法(大阪地判平291220)とした事例は、大阪市独自の条例(組合への便宜供与を禁止した大阪市労使関係に関する条例第12条)を適用した判断だが、広島県の判例は、そのような条例がなくとも教職員組合の定期総会や、人事委員会報告集会のような組合集会の学校施設使用不許可処分を適法としており、呉市立中学校判決以前の判例のため、その判断枠組にもとづくものではないが、呉市立中学校判決の判断過程審査方式をとったとしても結論はかわらないだろう。

 教研集会以外、唯一例外的に組合活動へ便宜供与拒否を違法としたのは、福岡県教職員組合鞍手直方支部事件・福岡高判平16120判例タイムズ1159号149頁であるが、組合加入勧誘のオルグ活動を目的とした分会会議の施設利用の拒否という事案があるくらいである。

 

1.地方自治法238条の47項号(旧4項)の目的外使用不許可を適法とした判例

 

 大阪市教職員組合分会会議使用不許可事件・大阪地判平291220が大阪市労使関係条例のもとでは、ふだんの組合簾活動である分会会議ですら不許可を適法としている、もっともこれは大阪市の条例のもとでのものである。しかし、条例がなくても広島県高教組「人事委員会報告説明会」県立高校体育館使用拒否事件・広島地判平14328がストライキの実施の賛否を問う批准投票が実施等を理由として、広島県高教組定期総会学校施設使用不許可事件 広島地判平1729がストライキを視野に入れた活動方針等を理由として使用不許可を適法としている。

 

●鹿児島県立大島高校等6カ所の学校施設目的外使用不許可事件(鹿高教組主催ミュージカル公演不許可)事件・福岡高裁宮崎支部判昭60.3.29判タ574

 本件鹿高教組主催ミュージカルの「ああ野麦峠」公演が主任制形骸化闘争としてなされた主任手当拠出運動の一環であり‥‥本件公演の会場として本件学校施設の使用を許可することは主任制度をめぐる‥‥教職員間の対立、緊張を一層昂め、紛争が激化増大して学校運営に支障をきたし‥‥ミュージカル公演は学校教育の目的上明らかに支障がないとはいえないので、不許可処分は憲法に違反しないと述べ、裁量権の濫用にもあたらないとする。

 

●広島県高教組「人事委員会報告説明会」県立高校体育館使用拒否事件・広島地判平14328、裁判所ウェブサイト(公立高校施設利用不許可)

 広島県高教組が毎年開催している「人事委員会の報告」集会を県立高校で開催しようとして、同校体育館の使用を申し入れが拒否された事案。

 当該集会では、組合員にストライキの実施の賛否を問う批准投票が実施されることになっており、集会の内容に一部、争議行為を禁止する公務員法371項の規定に抵触するものが存在することが明らかで、施設管理上、学校教育上の支障に該当するとして、不許可行為は適法であるとしたが、不許可を文書で通知する義務に違反した点を違法とし、教育長の責任を認め10万円の賠償を命令した。

 なお、この判例は、呉市立学校教研集会の使用不許可が裁量権を逸脱したと判示した広島地判平14.3.28民集602443号と同じ裁判体が同日に判決を下したものである。

  

●福岡県教職員組合鞍手直方支部事件・福岡地判平14625判例タイムズ1159号154頁

 原告県教職員組合A支部のB小学校分会が、そのオルグ活動(組合加入勧誘)のためB小学校施設の使用許可を同小学校校長に求めたところ、校長がこれを拒否したため、校長の本件不許可処分は裁量権を逸脱した違法な処分であるとして、損害賠償を求めた事案で、本件不許可処分に裁量権の逸脱はないとして、請求を棄却した事例。ただし控訴審は違法とする

 

●広島県高教組定期総会学校施設使用不許可事件 広島地判平1729-裁判所ウェブサイト

(公立高校の施設利用不許可)

 高校の体育館で定期総会を開催するための使用許可申請の校長による不許可処分を適法とした。

 広島県高教組の支部である原告がそれぞれの事務局のある高校の体育館で定期総会を開催するための使用許可申請の校長による不許可処分を適法とした。その理由の要所は以下のとおりである。

 本件各大会が開催された平成14年4月20日は土曜日で部活動その他への影響はなかった、施設管理上の支障は特に認められない。しかしながら、本件各大会を学校施設で開催することは学校教育上の支障を来すといわざるを得ない。

 第1に、本件各大会の内容は第49回各大会と大略同じであるところ、第49回定期大会(府中地区)ではストライキを視野に入れた組合活動が提言された上、ストライキの方針であったが最終的に不満を残しつつもストライキを回避するに至った経緯が詳細に報告され、第49回定期総会(三次地区)では、高教組がストライキを配置し、諸要求実現のために戦う方針であると組織決定され、「確定闘争は職場闘争の集大成です。だからこそ日常的な職場闘争をさらに強化していくことが、最大の課題だと思います。」と提言されている。もっとも地公法37条1項は地方公務員の争議行為を禁止しているのであって、争議行為を視野に入れた活動方針を示すだけでは、直ちに地公法37条1項に反するものではない。しかしながら、ストライキ権が確立されたことの報告や、ストライキを視野に入れた活動方針、「ストライキを基軸とした通年的な戦いを堅持」などの内容からすれば、生徒、父兄等が公教育に対して不信を抱くことは想像に難くなく、学校教育上の支障を肯定する事情として考慮するのが相当である。

 第2に、主任制に反対し、学校組織の見直しと確立を提言している第49回各大会の内容には、学校教育法施行規則65条1項、22条の3第1項に抵触するものが含まれていたと認められる。

 第3に、卒業式等での国旗掲揚等を強制すべきではないとの立場を明確にし、強制阻止に向けた活動を展開すべきであると提言されているところ、文部省告示である学習指導要領に反している以上、生徒、県民等が公教育への不信を抱くことは否定できない。

 第4に、、第49回定期大会(府中地区)において、次回の参議院選挙で新社会党から立候補する予定の者を組織推薦し支援することが決定されたこと、第49回定期総会(三次地区)においも同様に決定されたことが報告されたが、公教育においては政治的中立性が求められるのであって学校教育上の支障を肯定する事情として考慮すべきである。

 

●広島県高教組教研集会使用不許可事件・広島高判昭18125判時1937号95頁

(公立学校の施設利用拒否)

 教研集会開催目的の県立高等学校の教室や体育館等の使用申請について不許可を適法とする。

 

○●大阪市労連、市職、市従、学給労等組合事務所使用不許可事件・大阪高判27・6・2判時2282号28頁(原判決変更。平成24年の使用不許可処分のみ違法、平成25・26年の不許可処分は適法)

◯●大阪市労組・大阪市労働組合総連合組合事務所使用不許可事件・大阪高判27・6・26判時2278号32頁(原判決変更。平成24年の使用不許可処分のみ違法、平成25・26年の不許可処分は適法)

 一審判断を一部変更。平成24年の目的外使用申請不許可では、前年度の許可満了の3ヶ月前に、何らの前触れもなく不許可の方針を表明した処分であるので違法とするが、大阪市労使関係に関する条例の規定及び行政事務スペースの欠如を理由としてなされた平成25年、26年の不許可処分を適法とする。同条例12条を労働組合等に対する便宜供与はほぼ例外なく行われないものと解したうえ、条例制定には十分に理由があり、支配介入には当たらず、憲法28条にも違反しない。又労組法上は、最小限の広さの事務所の供与を許容しているが使用者の義務ではなく奨励するものでもないとし、被控訴人らは、本件事務室部分を権原なく占有しているというべきであって明渡請求は理由がある、この間の相当使用料額は1か月17万6830円となることが認められ、明渡済みまでの使用料相当損害金を支払う義務を負うと判示した。

 

●枚方市組合事務所使用料徴収処分取消請求事件・大阪地判平28328掲載TKC

 市長が職員会館における組合事務所の使用料を徴収することとしたことにつき、裁量権を逸脱又は濫用したものとは認められないとする。「公有財産の使用に関する受益者負担の要請が強まっており‥‥市議会等において、組合事務所の無償使用についての質疑がなされ、住民監査請求もなされるなど‥‥関心が高まり、大阪府下においても組合事務所の使用料を徴収する自治体が増加しつつあったことなどといった‥‥゜状況下において、市長が、原告による組合事務所の‥‥使用料の減免申請に対し、組合事務所が収益を目的としない使用に当たるものの、「市長が特に必要と認めるもの」に当たらないとした判断は‥‥相応の合理性が認められる。」

 

●大阪市教職員組合分会会議使用不許可事件・大阪地判平291220判タ1452号131頁(大阪市労使関係に関する条例第12条にもとづく組合分会会議の施設利用不許可を適法とする)

 教職員組合、延べ44回にわたり学校施設の目的外使用許可を申請したところ、各校長は、大阪市労使関係に関する条例第12条「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は、行わないものとする。」にもとづき各校長は、同申請をいずれも不許可とした不許可処分につていて無形損害が生じたと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項につき損害賠償請求した事案で、件各校長に裁量権の逸脱及び濫用があったとはいえないとして原告の請求を棄却。

 「労働組合等が、憲法28条及び各種法令によって、当然に使用者の所有し又は管理する施設を組合活動のために利用する権利を保障されているということはできず、使用者において、労働組合等による上記利用を受忍しなければならない法的義務を負うと解すべき理由はないのであって、このことは、従前、組合活動のための施設利用の許可が繰り返し行われてきたという事情があったとしても、変わるものではない」と説示し、国労札幌地本事件最三小判昭541030、済生会中央病院事件最二小判平元・11211、オリエンタルモーター事件最二小判平798を引用する。

 

  2.地方自治法238条の47項号(旧4項)の目的外使用不許可を違法とした判例

 

 大阪市庁舎の組合事務所使用不許可事件・大阪高判27・6・2は、前年度の許可満了の3ヶ月前に、何らの前触れもなく不許可の方針を表明した平成24年度のみ違法とされ、大阪市労使関係に関する条例の規定及び行政事務スペースの欠如を理由としてなされた平成25年、26年の不許可処分を適法としており、従って組合活動で目的外使用不許可を違法としているのは下記のとおり主として教研集会なのである。これは最高裁判例がある以上追従していくほかない。

 ただ例外的に福岡県教職員組合鞍手直方支部事件・福岡高判平16120組合加入勧誘のオルグ活動を目的とする分会会議用不許可を裁量権の濫用としているが、校長が不許可とした動機として、事前に4人の教職員が勧誘の対象とされていることを知り組合勧誘の会議に応じたくない職員への配慮があり、この動機は本来当事者の問題であるのに組合の組織化に干渉している心証がもたれている事例である。 

 

○呉市立中学校教研集会使用不許可事件・広島地判平14.3.28民集602443

○呉市立中学校教研集会使用不許可事件・広島高判平15918民集60巻2号471頁、裁判所ウェブサイト

 教職員組合が第49次広島県教育研究集会の会場として、呉市立中学校の体育館等の学校施設の使用を申し出、いったん、中学校校長から口頭で、これを了承する返事を得たのに、その後、不当にその利用を拒否されたとして、国家賠償法1条、3条に基づき、損害賠償を求めた事案。棄却

 「教育研究集会は、被控訴人の労働運動という側面を強く有するものであるが、過去48回にわたって行われた教育研究集会は、1回を除いて、学校施設を利用して開催されてきたことを考慮すると、県教委及び各市町村の教育委員会も、教育研究集会の教員などによる自主研修としての側面を尊重し、その便宜を図ってきたものであると認めることができ、以上の経過及び教育公務員特例法19条、20条の趣旨に照らすと、各教育委員会としては、被控訴人が教育研究集会を行える場を確保できるよう配慮する義務があったものといえる。」

  

○福岡県教職員組合鞍手直方支部事件・福岡高判平16120判例タイムズ1159号149頁裁判所ウェブサイ

  控訴人県教職員組合A支部のB小学校分会が、組合加入勧誘のオルグ活動のためB小学校施設の使用許可を同小学校校長に求めたところ、校長がこれを拒否したため、校長の本件不許可処分は裁量権を逸脱した違法な処分であるとして、損害賠償を求めた事案の控訴審で、使用者は教職員以外の外部の者を含むものではないこと、使用目的が控訴人の組合活動の一環たる分会会議であり、憲法28条の趣旨からもその団結権が尊重されるべきであること、被控訴人は、A校長が本件許可申請についてこれを不許可とした理由の一として、事前に組合加入勧誘の対象者がC、D、E及びFの4名であることを聞き及んでおり、その中には、当日休暇を取ろうか、出席を断ったら気まずくなるだろうかと動揺している者、授業に関して生徒及びその保護者との間のトラブルで神経をすり減らすような関係が続いで悩んでいる者、妊娠障害で苦しみ、特別休暇を繰り返している者がいたため、校長としては正常な授業を維持するためには授業と直接関係のないことで教員らにこれ以上の精神的負担をかけさせないように配慮する必要があったし、激しい組合加入勧誘がなされることも予想されたので、上記対象者の精神的負担を軽減させたり、組合加入勧誘による学校内での組合員と非組合員との気まずい人間関係が生じることを危惧しなければならなかった旨主張したが、そもそも上記主張のような組合加入勧誘に関連する行為についての事情ないし危惧は、それ自体、基本的には勧誘者ないし組合とその勧誘対象者各自の個々的対応に委ねられるべき性質のものであり、控訴人傘下の分会会議のために学校の施設の使用を不許可とする根拠としては薄弱であるといわざるを得ないなどとして、校長の行なった不許可の裁量判断は不合理で、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱、濫用として違法であるとして、原判決を変更し、請求を一部認容した事例。 

  

○呉市立中学校教研集会使用不許可事件・広島地判平14.3.28民集602443

 

○呉市立中学校教研集会使用不許可事件・最三小判平1827 民集60巻2号401頁、裁判所ウェブサイト

 

  教職員組合が第49次広島県教育研究集会の会場として、呉市立中学校の体育館等の学校施設の使用を申し出、いったん、中学校校長から口頭で、これを了承する返事を得たのに、その後、不当にその利用を拒否されたとして、国家賠償法1条、3条に基づき、損害賠償を求めた事案。棄却。

 公立学校の学校施設の目的外使用を許可するか否かは、原則として、管理者の裁量にゆだねられており、学校教育上支障がない場合であっても、行政財産である学校施設の目的及び用途と当該使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により許可をしないこともできる。 公立学校の学校施設の目的外使用を許可するか否かの管理者の判断の適否に関する司法審査は、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものである。

 

 公立小中学校等の教職員によって組織された職員団体がその主催する教育研究集会の会場として市立中学校の学校施設を使用することの許可を申請したのに対し、市教育委員会が同中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き、児童生徒に教育上悪影響を与え、学校教育に支障を来すことが予想されるとの理由でこれを不許可とする処分をした場合につき、〔1〕教育研究集会は、上記職員団体の労働運動としての側面も強く有するものの、教員らによる自主的研修としての側面をも有していること、〔2〕前年の第48次教育研究集会まで1回を除いてすべて学校施設が会場として使用されてきていたこと、〔3〕上記申請に係る集会について右翼団体等による具体的な妨害の動きがあったことは認められず、上記集会の予定された日は休校日である土曜日と日曜日であったこと、〔4〕教育研究集会の要綱などの刊行物に学習指導要領等に対して批判的な内容の記載は存在するが、いずれも抽象的な表現にとどまり、それらが自主的研修の側面を大きくしのぐほどに中心的な討議対象となるものとまでは認められないこと、〔5〕当該集会の中でも学校教科項目の研究討議を行う分科会の場として学校施設を利用する場合と他の公共施設を利用する場合とで利便性に大きな差違があることは否定できないこと、〔6〕当該中学校の校長が職員会議を開いた上で支障がないとし、いったんは口頭で使用を許可する意思を表示した後に、市教育委員会が過去の右翼団体の妨害行動を例に挙げて使用させない方向に指導し、不許可処分をするに至ったことなど判示の事情の下においては、上記不許可処分は裁量権を逸脱したものである。

(民集の要約から引用)

 

○都立王子養護学校事件・東京地判平18.6.23判タ1239169頁(都障労組の教研集会の使用不許可処分を違法とする)

 

◯大阪市労組組合事務所使用不許可事件・大阪地判平26910判時2261号128頁

(組合事務所使用不許可を違法と目的外使用許可処分の義務付けと国家賠償請求を認める)控訴審は一部変更

 

◯大阪市立西九条小学校等教研集会使用不許可処分事件・大阪地判平261126判時2259号114頁(使用不許可処分を違法と国家賠償法上の違法も認める)

 

○大阪市立西九条小学校等教研集会使用不許可処分事件・大阪高判平271013判時2296号30頁(大阪市側敗訴部分一部取消、使用不許可処分は違法だが国家賠償法上の違法、過失は認められない)

 

 

3.大阪市庁舎組合事務所使用不許可事件・大阪高判27・6・2の意義

 

 近年の呉市立学校事件の判断枠組によった高裁判例の理論的説示でもっとも重要な判例といえる。大阪市庁舎組合事務所使用不許可事件・大阪高判27・6・2は、組合寄りだった一審の一部変更判決だが、実質大阪市側の勝訴である。

労働組合等の便宜供与を禁止する大阪市労使関係条例を憲法28条。14条、地方自治法、労組法に違反しないとしたうえで、大阪市庁舎内の組合事務所の平成2526年度使用不許可を適法とし、占有している部分の明け渡しと、使用料相当の損害金の支払いを命じた。

 本件は、4つの事件からなる。

第1事件・平成24年度の組合事務所使用不許可処分を団結権等の侵害とし国家賠償法条の損害賠償金の支払いを求めるもの。第2事件が不許可処分後も組合事務所として占有している事務室部分について明け渡しを求めるとともに不法行為に基づき使用料相当損害金の支払いを求めるもの。第3・4事件が、大阪市労使関係条例制定後の平成25・26年度の組合事務所使用不許可処分を団結権等の侵害とし国家賠償法条の損害賠償金の支払いを求め、加えて第4事件は許可処分の義務づけを求めた。

 原審は第1、3、4事件の不許可処分を取り消し、許可処分を義務づけ、無形損害を認め、第2事件は却下。労働組合等の便宜供与を禁止する大阪市労使関係条例を適用違憲とする。

 高裁は第1事件のみ原審の判断を維持し、第3~4事件は地裁の判断を否定、同条例を合憲であり、労組法や地公法にも違反しない「適正かつ健全な労使関係の確保を図るため」「法的権利とはされていない労働組合に対する便宜供与を一律に禁止するのは不相当とはいえない」として、組合事務所を退去させ行政事務スペースを確保する必要を認め、使用不許可処分を適法としたうえ、第2事件も地裁の判断占有部分の明け渡しと使用料相当の損害金の支払いを命じた。

 

 コメント-団結権等の支障の有無・程度をも考慮すべき要素としているのは、原審、高裁も同じだが、原審(地裁判決)には「団結権等を侵害するおそれがないか配慮しなければならない」という言辞があり、最高裁が認めてはいない配慮義務に言及したのは組合に寄りすぎる説示といえる。

 高裁は、労組法は便宜供与を受ける権利を組合に付与するものではないし、問題となるのは、組合を嫌悪し、弱体化する意図、不当労働行為であるが、原審がH市長に団結権を侵害する意図が継続的にあったとするのに対し、高裁は、H市長は労使癒着の構造を改め、市民感覚に会うように是正を求めたのであって、組合を嫌悪し、支配介入する意図までは認められないとする。

 ただし、第1事件についてのみ市長が3ヶ月前に何の前触れもなく不許可の方針を示し、事務方の説明も詳細に亘るものではなく、あまりに性急だったとして、社会通念に反し違法としたのである。

 これは私の見解だが、本件は行政庁の庁舎管理に関する事案だが、高裁判決は大筋で、一般私企業の施設管理権判例の判例法理とのアナロジーで行政庁の裁量を語ってよいことを示しており、それゆえ、行政財産の先例(地方自治法238条の4第7項の目的外使用不許可処分)である呉市立中学校事件の判断枠組みのみならず、札幌地本事件最三小判昭541030民集336676(ビラ貼り戒告処分を適法とする)、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786(無許可集会警告を適法とする)、オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130頁(無許可食堂利用拒否を適法とする)といった私企業の代表的な先例を引用している。これらの先例は、団結権等との法益権衡による調整的アプローチを否定しており、許諾のない労組の勝手な施設利用は正当な組合活動でないと判示するものである。

 原審のような、団結権等への配慮云々という判断枠組は先例に反する。もしも原審の判断が維持されたとするならば、不許諾施設利用は、労働基本権によって正当化されないとする一般私企業の判例法理と著しく乖離したものとなった。

 この点、高裁は最高裁の先例に沿った無難な判断をとった。団結権等に支障を及ぼす支障の有無・程度をも考慮すべき要素とすることについて原審同様に認めるとしても、オリエンタルモーター事件最二小判平798が説示する「使用者が労働組合による企業施設の利用を拒否する行為を通して労働組合の弱体化を図ろうとする場合に不当労働行為が成立し得ることはいうまでもない」(総合花巻病院事件・最一小判昭60 523労働委員会関係裁判例集20164頁という先例にもとづくと考えられる)のと同様の趣旨と理解してよいだろう。 

 

 結論として、呉市立中学校教研集会使用不許可事件 最三小判平18.2.7の判断枠組では自主研修としての教研集会は許可されなければならないだろうが、その他の大多数の組合活動を許可するか否かは、管理者の裁量権の範囲とみてよいのである。

 私の考えは大阪市のように日常的な分会会議のような便宜供与まで認めないのはやり過ぎに思うが、少なくとも、他の職員の職務専念への集中を妨げたり、休憩時間の自由利用を妨げたり、その後の作業能率を低下させるおそれがある組合活動、実際の就労現場に接近した組合活動はむろんのこと、ストライキを前提とした闘争スケジュールが明確になった時点で、組合活動の会議室利用、構内の集会利用などの便宜供与は中止命令してよいと考える。これはスト決行体制確立、業務規制闘争突入指令発令後の便宜供与を禁止する郵政省の方針を是認した東京城東郵便局事件・東京地判昭59・9・6労判442号45頁という先例もあることであり、地方自治法238条の47項号(旧4項)の目的外使用不許可の判断過程審査にも耐えられるので相当なものと判断できるからである。

 

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2009 「労働契約法と企業秩序・職場環境(1) <論説> 」広島法学332

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2008 「判例解説 学校使用不許可処分損害賠償事件」『法令解説資料総覧』295号

山本隆司

2010「判例から探究する行政法第23回行政裁量(1)」法学教室359

渡辺章

2011『労働法講義 下 労使関係法・雇用関係法Ⅱ』信山社2011 

 

2019/01/26

2018年アメリカ合衆国の労働組合組織率

 合衆国労働省は毎年1月下旬頃に労働組合の組織率を発表してますが、今年は1月19日でした。
 https://www.bls.gov/news.release/union2.nr0.htm
 2018年の労働組合加入率10.5 percentでした。民間企業は6.4 percent、公共部門は33.9 percent。
  1935年全国労使関係法(NLRA)は、我が国のように1つの事業所に複数組合が併存することのない排他的交渉代表制度をとっているが、労働組合が承認され団体交渉権を得るには、適正な交渉単位で従業員の3割の署名によりNLRB(全国労働関係局)の監督下の選挙で、過半数の支持を得て認証を受けた組合だけである。
  つまり、交渉代表選挙にもちこむ段階でまずハードルがある。そのうえ交渉代表選挙で勝たないと組合は承認されない制度で、会社側も対抗した言論活動ができるので、否決されることも多いのである。
  組合が組織化されると、制限的労働規則に縛られ、人員の配置が硬直化し仕事の効率が悪くなるほか、日本のような内部昇進のような制度は組合のない企業でとられているので内部昇進を望む人や、組合不在企業も風通しのよい企業風土や従業員にフレンドリーな政策で努力しているから、組合を望まない従業員も多いのである。
    従って米国の企業の労使関係のかなりの部分が、集団的労使関係ではなく、労働者個人との個別契約といえる。
    ノースカロライナが組合加入率が低い理由はいくつかあり、ひとつは州公務員は団体交渉が禁止されていて、労働組合が存在しない。ただし従業員協会という団体はあって議員への陳情は行なっている(バージニアも団体交渉禁止)。また一般論として南部は組合嫌いとされ組織化が難しいとされる、もともと繊維産業など製造業がさかんな土地だったが、温情主義的な経営手法で組合の組織化を阻止してきた歴史がある。むろんビジネスフレンドリーな労働権州(”Right-to-Work ( RTW ) Law”とは組合加入と組合費の支払いを義務づける組合保障協定を否定するものである。端的にいえばユニオンショップとエージェンシーショップの禁止)でもある。(つまり労働権とは組合に加入せず勤労する権利なので反労働組合なのであって、我が国でいう労働基本権とは反対の概念です。)

加入率の低い州
(前回の大統領選挙結果)
1位ノースカロライナ2.7% 労働権州(トランプ)
1位サウスカロライナ2.7% 労働権州(トランプ)
3位ユタ州4.1% 労働権州(トランプ)
4位テキサス4.3% 労働権州(トランプ)
4位バージニア4.3% 労働権州(クリントン)
6位ジョージア4.5% 労働権州(トランプ)
7位アイダホ4.7% 労働権州(トランプ)
8位アーカンソー4.8% 労働権州(トランプ)
9位ルイジアナ5.0% 労働権州(トランプ)
10位ミシシッピ州5.1% 労働権州(トランプ)
加入率の高い州(前回の大統領選挙結果)
1位ハワイ23.1%(クリントン)
2位ニューヨーク22.3%(クリントン)
3位ワシントン州19.8%(クリントン)
4位アラスカ18.5%(トランプ)
5位ロードアイランド17.4%(クリントン)
6位コネチカット16.0%(クリントン)
7位ミネソタ15.0%(クリントン)
8位ニュージャージー14.9%(クリントン)
9位カリフォルニア14.7%(クリントン)
10位ミシガン14.5% 労働権州(トランプ)

2019/01/24

衝撃大きい、コンビニ大手の成人雑誌排除決定

 オリンピック開催にあたって外国人客の配慮等を理由に、八月末をもって、取り扱わなくなるというが、東京でも下町のほうのコンビニは、成人雑誌の売り場面積も大きいし、けっこう目立つところに陳列されている、それだけ需要があるということだ。若い女性も買い物にきているけど、何とも思ってない感じですよ。
 売り上げは落ちており全体の1%にすぎないと報道されているが、地域の客層によっては売りたい店主もいるはずなのに、取引させないように締めつけるのはやりすぎ。
 オリンピックを口実に、喫煙規制、LGBT運動の尊重、成人雑誌潰しがなされるわけですが、余計なお世話でした。。
 オリンピックもマンネリでいいかげん飽きてきたし、たんに競技スポーツの祭典じゃない、実質政治運動がオリンピックの正体なら反対すべきでした。
 
 私は、自動販売機で売られた頃から成人雑誌を購入していたし、もちろんビニール本も買ったことはある。この手の出版文化に親しみがあるのでとても遺憾に思う。
 買う理由は、好色なのではなく性欲の代償充足、リア充で彼女がいれば別ですが、そうでない人圧倒的に多いわけですから、性欲を解消せず、リアル世界で手を出すと痴漢やセクハラで捕まる時代ですから必要な商品ですよ。
 この手の出版物が流通したおかげで、暴力的犯罪や性犯罪は抑止されていると思います。社会の安定に貢献してきた、効用を評価すべきです。
 大手出版社の上品なグラビアで満足できない場合は、無名のモデルを使った成人雑誌にも手が伸びることはあるだろう。
 ビールを買ったついでにきょうはこれで抜くかと言って買えなくなるわけで、コンビニエンスではなくなりますね。
 今回の出来事でコンビニが嫌いになりました。
 米国の「ダラーゼネラル」「ファミリーダラー」「ダラーツリー」「99セントオンリーストア」に行ったことはないがたぶん成人雑誌は置いてないだろう。
 しかし日本の基層文化は性に対しておおらか。そもそも性革命は、進駐軍が日本の女性と接触して大胆なので驚き、タブーのない日本の性文化が世界に輸出されて始まったもの。日本独自の商品陳列があって何が悪いと開き直るべきだった。
 

2019/01/20

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その3)


(二)「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」とされた事例
(追加挿入)
  *目黒電報電話局判決の判断枠組引用せずとも「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」が認定されたとしては事例は以下のとおり
 
   
7  休憩時間の自由利用を妨げ、作業能率の低下のおそれ

  「就業時間外であつても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのある」目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13民集31-7-974、同趣旨のものとして大日本エリオ事件・大阪地判平元・4・13労判538号6頁「本件署名活動は施設内において、しかもその趣旨説明、説得を伴っていたことから、被告の施設管理権、秩序維持権を侵害したうえ、休憩中の他の従業員の由に休憩する権利をも相当程度妨げたと推認され、これをもって正当な組合活動であったということは到底できない」と説示し譴責処分を適法とする。
8 違法な行為をあおり、そそのかすことを含むもの

 ビラの内容につき「違法な行為をあおり、そそのかすことを含むものであつて、職場の規律に反し局所内の秩序を乱すおそれ」目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13民集31-7-974。
 ビラではなく、集会について同趣旨のものとして東京城東郵便局事件・東京地判昭59・9・6労判442号45頁がスト決行体制確立、業務規制闘争突入指令発令後の、郵便局内での組合集会開催のための施設の利用を許諾することは、違法*行為を助長する結果となるおそれが大きいと当局側が判断したことについては、相当な理由があるとして、事案の会議室使用不許可に権利濫用と認めるべき特段の事情はないと判示し、不許可集会強行、欠勤、管理職らに対する暴行を理由とする郵政職員2名に対する懲戒免職処分を有効とする。
 *注意すべき点として、最高裁の無許可集会(施設利用)等の5判例は、全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58・12・20、池上通信機事件最三小判昭63・7・19、日本チバガイギー事件・最一小判平元・1・19、済生会中央病院事件最二小判平元・1・12・11、オリエンタルモーター事件・最二小判平7・9・8は、施設利用の拒否、無許可集会に対する監視、解散命令、警告書交付は不当労働行為に当たらないとしたもので懲戒処分事案ではない。
 全逓新宿郵便局事件の休憩室や予備室の無許可集会については郵政省の就業規則第二一条で「組合事務室以外の庁舎の一時的な使用を申し出たときは、庁舎使用許可願を提出」することになっており、最高裁が是認した控訴審判決は、郵政省の就業規則第二一条にもとづき「一般の庁舎の目的外使用の場合と全く同様に、許可願を提出して承認を受けた上でなければ、該集会のために休憩室を使用することはできない」等説示するが、組合の休憩室の排他的使用によつて、非組合員等の休憩時間の自由利用を妨げるとか、予備室の集会は勤務時間中の者とそうでない者が混在する時間帯のものだが、勤務中の職員の離脱を促す影響といった実質的に秩序をみだすおそれについては何の言及もない。
 これは、懲戒処分事案でないためと思われるが、たんに許可願を提出していないだけでは形式的規則違反にすぎず、処分を行う場合は抽象的でよいが理由づけが必要ではないかと思われる。
 類似した事案では、前記東京城東郵便局事件・東京地判昭59・9・6のほか全逓長崎中央郵便局事件・長崎地判昭59・2・22労判441号カードが、中止命令されているにもかかわらず、施設内の無許可職場集会強行は懲戒処分事由となっている。
 
七 休憩時間中、就業時間外の組合活動-管理権を侵害し、企業秩序をみだすおそれのある組合活動は規制できる

(施設内における休憩時間中の行動を規制しても労働基準法第34条第3項違反にはならない)
 リーディングケースは●米軍立川基地出勤停止事件・東京高判昭40・4・27労民集16巻2号317頁で、全駐労組合員10名が、米軍の許可なく休憩時間中に基地内の食堂、休憩室その他の場所で職場報告会等の組合活動を行ったことを理由とする出勤停止処分を適法とした。使用者は、労働基準法第34条第3項の規定により、労働者に対して休憩時間を自由に利用させる義務を負うが、使用者がその事業施設に対する管理権を有する以上、右権利の行使として施設内における労働者の休憩時間中の行動を規制しても、それが労働による疲労の回復と労働の負担軽減を計ろうとする休憩制度本来の目的を害せず、かつ右管理権の濫用とならないかぎり、違法ということはできないと判示。
 ●日本ナショナル金銭登録機懲戒解雇事件・東京地判昭42・10・25労民集18巻5号1051頁も同趣旨の判断を示している。
 最高裁判例は2つあり、●米軍立川基地事件・最三小判昭49・11・29集民113号235頁は 「一般に労働者は、休憩時間中といえども、その勤務する事業所又は事務所内における行動については、使用者の有する右事業所等の一般的な管理権に基づく適法な規制に服さなければならない‥‥‥もつとも、労働者は、通常、休憩時間中も勤務場所における滞留を余儀なくされるものであるから、使用者の管理権に基づく労働者の行動規制も無制限であることをえず、管理上の合理的な理由がないのに不当な制約を課する場合には、あるいは労働基準法の前記規定に違反するものとして、あるいは管理権の濫用として、その効力を否定せられることもありうるというべきであるが、管理権の合理的な行使として是認されうる範囲内における規制であるかぎりは、これにより休憩時間中における労働者の行動の自由が一部制約せられることがあつても、有効な規制として拘束力を有し、労働者がこれに違反した場合には、規律違反として労働関係上の不利益制裁を課せられてもやむをえない」と判示した。
 続いて●目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13民集31-7-974が「休憩時間の自由利用といつてもそれは時間を自由に利用することが認められたものにすぎず、その時間の自由な利用が企業施設内において行われる場合には、使用者の企業施設に対する管理権の合理的な行使として是認される範囲内の適法な規制による制約を免れることはできない。また、従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律に基づく制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない‥‥局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であっても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあつて、その内容いかんによつては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるのであるから、これを局所管理者の許可にかからせることは、前記のような観点に照らし、合理的な制約ということができる。」としており、同事件は政治活動の事案だが、その判旨が組合活動なも及ぶことは既に述べたとおりで、休憩時間の組合活動についても施設管理権を侵害し、企業秩序みだすおそれのある行動は規制したとしても、労働基準法第34条第3項としならないことは明白であるといえる。 
 本件は、政治活動事案だが、組合活動も同判決の判旨が適用されるのは明らかなことである。
 同趣旨の下級審判例として、●国労兵庫支部鷹取分会事件・神戸地決昭63・3・22労働判例517号52頁のほか、●大日本エリオ事件・大阪地判平元・4・13労判538号6頁は「本件署名活動はその趣旨説明、説得を伴っていたことが認められる。そして、休憩時間中においては他の労働者が休憩時間を自由に利用する権利を有していることが尊重されなければならないから、これを妨げる行為を当然にはなしえないと解すべき」としている。
八 正当な組合活動ではなく懲戒事由となることを認めたにもかかわらず懲戒処分が不当労働行為とされた例


 ○国・中労委(医療法人光仁会)事件・東京高判平21・8・19労判1001号94頁( 平21・2・18東京地判の控訴審) 「 当裁判所も,本件組合旗設置を正当な組合活動ということはできず‥‥懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが,本件懲戒処分(停職3か月,その間,賃金不支給,本件病院敷地内立入禁止)は,懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くものであり,また‥‥,甲野理事長に交替した後の労使関係においては控訴人の補助参加人(組合)に対する嫌悪を十分に推認できるのであるから,本件懲戒処分は‥‥組合活動に対する嫌悪を主たる動機として,補助参加人の下部組織の分会長であるBに対して著しく過重なものとして科されたものと認めるのが相当であり,本件懲戒処分は労組法7条3号の不当労働行為に当たるものと判断する。」
 懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠く場合は、たとえ正当な組合活動でなくも不当労働行為となることがあるので注意したい。

稀勢の里引退で思ったこと

 十一月場所と初場所1度も勝てなかったが、東横綱は機械的に初日小結、二日目前頭筆頭と番付を下げていくワリが厳しすぎた。
 審判部長が同門なんだからもう少し楽な相手とあてる配慮があってもよかった。幕内上位が強すぎて、安全パイと思える力士が思い当たらないが、初日御嶽海じゃなくて正代あたりでよかったのでは。
 昔は同門とあたらなかったし、双葉山全盛時代は東西制で、双葉山は強いけれども横綱の初日の相手は前頭九枚目とか十枚目の力士があてられていたことから比較すると厳しくなったといえる。
 昔は一場所十日とか十一日程度だったが、双葉山時代人気で客をさばききれないため十五日制になった。人気が低下しても十五日制は維持されたうえ、東西制も廃止、本場所も増え総当たりになって、昔より厳しくなったといえるのである。
 横綱在位中の勝率は「綱の重みに押しつぶさた」栃ノ海より低く、年6場所制以降で最低の成績なので引退勧告されてしかたないレベル。昔、大阪横綱の宮城山が弱すぎて「炭団横綱」と揶揄されたが8連敗でそのエピソードを思い出した。
 とはいえ、白鵬の連勝記録を止めて、双葉山の名誉を守ったのも稀勢の里だし、約5年間の大関時代の成績は安定していて、ほぼ10勝以上のことが多く、負け越しは1回だけ。
 とくに平成16年春から13勝、13勝、12勝の好成績であり、優勝がなくても大関時代の実績を加味してこの時点で横綱に昇進させるべきだった。そうすれば横綱としてワースト成績にはならなかつたはずである。
 

2019/01/16

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その2)

 (承前)

 

第二 一般私企業に適用される判例法理 (企業秩序論)の判断枠組詳論

 

 概略は前章で示したが、ここでは詳しく述べる。

 

一 企業秩序論

 

 最高裁が昭和50年代に案出した企業秩序論の一連の判例は、以下のとおり企業秩序の維持確保のために、企業には従業員に対し(1)規則制定権(2)業務命令権(3)企業秩序回復指示・命令権(4)懲戒権等を有するとし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることにより、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務を負うとする。但し、最高裁は、使用者が労働者に懲戒を行うためには、あくまでも就業規則の記載(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676)とその周知(フジ興産事件・最二小判151010労判8615頁)が必要としているのでその点は注意を要する。

 

 「‥‥企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもつて一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があつた場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができる‥‥けだし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできない」

 (富士重工業原水禁運動調査事件・最三小昭521213民集317103)

 

 「企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであつて、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である。」

(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676)

 

「労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種制裁罰である懲戒を課することができる」

(関西電力事件・最一小判昭5898判時1094121)

 

 

二 企業施設内では無許諾の組合活動は正当な組合活動に当たらない

 

 労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権利を侵し、企業秩序を乱すものであつて、正当な組合活動に当たらない。

 (国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676の要約)

 

三 受忍義務説の明確な否定 

 

 「労働者は、企業の所有し管理する物的施設の利用をあらかじめ許容されている場合が少なくない()‥‥雇用契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において‥‥ 企業秩序に服する態様において利用するという限度にとどまる‥‥労働組合又はその組合員であるからといつて、使用者の許諾なしに右物的施設を利用する権限をもつているということはできない。もつとも‥‥(いわゆる企業内組合)の場合にあっては‥‥物的施設を利用する必要性の大きいことは否定することができない‥‥が、労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものである‥‥利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない。」

 

 (国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676はプロレイバー学説を明確に否定した。このことは憲法28条が認める労働基本権といえども契約その他、市民法秩序で認められている権原なくして、私有財産を利用し得る何らの権限を与えるものではないことを示す[河上和雄1980])

 

 「本件職場集会‥‥いずれもその時期にこれを開催する必要性が認められること」を特段の事情として、警告書の交付を不当労働行為とした原判決を 破棄自判し「権利の濫用であると認められるような特段の事情があるかどうかの判断に際し、病院の管理する物的施設を利用して職場集会を開く必要性を強調することができない‥‥同様に、労働時間中に職場集会を開く必要性を重視して、それが許されるとすることができないことも‥‥当然である」と説示。

 (済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786

 

「(いわゆる企業内組合)は、当該企業の物的施設内をその活動の主要な場とせざるを得ないのが実情であり、その活動につき企業施設を利用する必要性の大きいことは否定することができない。しかし、労働組合が当然に使用者の所有し管理する企業施設を利用する権利を保障されているということはできず、労働組合による企業施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであって、労働組合にとって利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業施設を使用者の許諾なしに組合活動のために利用し得る権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業施設の利用を受忍しなければならない義務を負うと解すべき理由はない‥‥組合事務所の貸与を受けていないことから食堂の使用を認められないと企業内での組合活動が困難となること、上告人が労働委員会の勧告を拒否したことなどの事情を考慮してもなお、条件が折り合わないまま、上告人が組合又はその組合員に対し食堂の使用を許諾しない状態が続いていることをもって、上告人の権利の濫用であると認めるべき特段の事情があるとはいえ」ない。(オリエンタルモーター事件・最二小判平798判時1546130頁、これは食堂の使用を一切不許可としたことは、施設管理権の濫用に当たるという控訴審東京高判平21121労民集416971頁の判断を破棄自判したものである)

 

 

四 企業施設内の組合活動につき法益衡量による調整的アプローチの否定

 

  国労札幌地本判決の判例法理は、法益衡量による調整的アプローチを否定する。「必要性が大きい実情を加味し」諸般の事情を総合考慮し、法益権衡の立場に立って評価診断しようとする違法性阻却説を排斥している。

  例えば池上通信機事件最三小判昭63719判時1293は、 「組合員が無許諾で従業員食堂を組合活動のために使用した場合に組合又はその責任者の責任を追求し処分の警告を発するなどしたのは‥‥施設管理権の正当な行使として十分是認することができる」と判示した控訴審(東京高判昭59830労民集3534459頁)の判断を是認しているが、伊藤正巳の結果的同意意見が「特段の事情論」に法益権衡論を組みこんだ評価診断を主張している[渡辺章2011 184頁]。しかしこれは一裁判官の先例に反した勝手な見解にすぎず、多数意見は認めていないことを逆に示すものである。

  日本チバガイギー事件・最一小判平元・119労働判例5337頁は、組合が団体交渉報告集会を本部社屋1 階の食堂を午後5 時から使いたいという申し入れに対し、会社は、工場部門の終業時刻は午後5 時とはいえ、本部の終業時刻は午後5 45 分で、それまでは本部への来客もあり、午後6 時以降の使用しか認められないなどとした事案で一審東京地判昭60425労民集362237頁は本件食堂の使用の申出に対し許可しないことが権利の濫用と認められるような特段の事情はないとして、これを業務上ないし施設管理上の支障に藉口した不当労働行為とした中労委命令を取り消した。控訴審(東京高判昭601224労民集366785頁)でも一審の判断を維持し、上告審は原判決を是認しているが、中労委の上告趣意は「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」としており、これも法益権衡ないし法益調整論を「特段の事情」に組み込んで、判例法理を変質させ風穴を開けようとする趣旨であるが、最高裁はこれを明確に退けたといえる。

  従って、仮に労働委員会が法益権衡論の調整的アプローチをとって不当労働行為としても救済命令取消訴訟では覆る。中労委の業務上ないし施設管理上の支障に藉口した不当労働行為という見解を真に受ける必要はない。そのため先例として日本チバガイギー事件を引用した。

 

五 具象的な業務阻害がないことは、無許可組合活動を正当化しない

 

  「本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等の事情のあることは‥‥判断を左右するものとは解されない」

 (国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676

 「本件職場集会‥‥によって病院の業務に直ちに支障が生ずるものではないこと、本件職場集会‥‥事実上の休憩時間にされたか昼休みに終了しないため若干労働時間に食い込んだにすぎないこと、本件職場集会‥‥参加者は業務に支障のない者であり、参加した者も途中業務に支障が生ずれば自由に退出するなどしていたこと」から本件警告書の交付が、権利の濫用と認められる特段の事情があるとした原判決を破棄自判し、「その開催を許さないことが病院の権利の濫用であるとみとめられるような特段の事情があるとも解されない」と説示 (済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786 

「本件で問題となっている施設が食堂であって、組合がそれを使用することによる上告人の業務上の支障が一般的に大きいとはいえないこと」は「権利の濫用であると認めるべき特段の事情があるとはいえ」ない(オリエンタルモーター事件・最二小判平798判時1546130頁)

 

六 懲戒処分の客観性を確保するための目黒電報電話局事件判決の判断枠組

 

 「公社就業規則‥‥は、‥‥前記のように局所内の秩序風紀の維持を目的としたものであることにかんがみ、形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときには、右規定の違反になるとはいえないと解するのが、相当である。」

(目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974)

 言い換えると「就業規則の目的に鑑みれば、形式的に各規定に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右諸規定の違反になるとはいえない」という判断枠組である。つまり実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められれば懲戒処分は無効とされる。

 

()「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」とは抽象的危険説によるもので直接的具象的業務阻害ではない

 

 最高裁は目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974で、具体的危険説(「現実かつ具体的に経営秩序が紊され経営活動に支障を生じる行為」でなければ施設管理権の発動ができないとする)を退け、抽象的危険説を確立した判例である。

 抽象的危険説とは施設管理権の侵害ないし作業能率の低下等の「おそれ」、すなわち、経営秩序の侵害に対する抽象的な危険が存すれば禁止しうるとするものである[高木紘一1978]。

 なお、目黒電報電話局事件は政治活動の事案で、組合活動ではないが、その判断枠組は組合活動にも適用されることは判例法理上必然であり【註1、実際組合活動事案に多く引用されている。 

 

(二)「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」とされた事例

 

 「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」が認定された例は以下のとおり、

 

1.目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974

 

 1)政治活動に対して

 「従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあり、また、それが使用者の管理する企業施設を利用して行われるものである以上その管理を妨げるおそれがあり、しかも、それを就業時間中に行う従業員がある場合にはその労務提供業務に違反するにとどまらず他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であっても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強い」

 

 2)反戦プレートの勤務時間中着用に対して

 「注意力のすべてが職務の遂行に向けられなかつたものと解されるから、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき義務に違反し、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱す点‥また、勤務時間中に本件プレートを着用し同僚に訴えかける‥‥行動は、他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、よって他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げるおそれのあるものであるから、この面からも局所内の秩序維持に反する他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であっても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがある」

 

 3)ビラ配り

「上司の適法な命令に抗議し、また、局所内の政治活動、プレートの着用等違法な行為をあおり、そそのかすことを含むものであつて、職場の規律に反し局所内の秩序を乱すおそれのあつた」

 

2.国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676

 ロッカーへのビラ貼り

「当該部屋を使用する職員等の目に直ちに触れる状態にあり、かつ、これらのビラは貼付されている限り視覚を通じ常時右職員等に対しいわゆる春闘に際しての組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼす‥‥、ビラの貼付を許さないこととしても、それは、鉄道事業等の事業を経営し能率的な運営によりこれを発展させ、もつて公共の福祉を増進するとの上告人の目的にかなうように、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保する、という上告人の企業秩序維持の観点からみてやむを得ないところである」

 同趣旨のものとしてエッソ石油事件・東京地判昭621223労判5097頁「貼付されたビラは債権者の従業員や来客等債権者の事務室へ出入りする者の目に直ちに触れる状態にあり、かつ、これらのビラは貼付されている限り視覚を通じ常時従業員等に対する組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼすものとみられるし(‥‥)、また、ビラ貼付について賃貸人のTBSから抗議を受けているのである。このような点を考慮すると、本件ビラ貼付は、債権者の業務遂行上、また施設の管理上現実の支障をもたらしている」とする。

 

4.JR東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030判時162638

 組合バッヂ着用

「本件組合バッヂ着用行為は‥‥組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから‥‥職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり‥‥これを勤務時間中に行うことは‥‥たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという‥‥職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。」

 

 以上の主要判例の説示するところ、以下の行為は文句なしに実質に企業秩序を乱すおそれがあると認定され懲戒処分は適法と判断される

 

5.職務専念義務違反行為

 

 「職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき義務に違反し、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱す」目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974 同趣旨JR東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030判時162638

 

6.他人の職務専念義務を妨げるおそれ

 

「他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、よって他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げるおそれのある」 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974

「同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれ」JR東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030判時162638

 

 この点について最高裁判例に批判的な労働法学者からも肯定的な評価がなされている。

 例えば菊池高志[1983]「労働者は単に自己の約定労働債務を履行するにとどまちない義務を負うであろう。多数労働者が密接な関連、協力関係に元って業務が遂行される近代的経営の現実に立てば他の労働者の義務履行の障害とならないよう配慮すべき義務を負うと考えることにも合理性があろう」

 

 中嶋士元也[1992]は企業秩序論の内容範囲機能を次の5点にまとめている。

1.服務規定・懲戒規定設定権限

2.企業秩序維持権限にもとづく具体的指示命令権

1)労務提供への規律機能

()労働者の職務専念義務の発生

()他人の職務専念義務への妨害抑制義務

(2)労務履行に関する附随機能(信義則機能)

(3)秩序違反予防回復の機能

3.施設管理の機能

4.企業秩序違反の効果(懲戒機能)

5.その他の機能

 三井正信[2009]は「企業においては共同作業秩序の維持・確保が要請されることになるのはいうまでもない。ことの性質上、共同作業秩序の侵害は協働して働く多くの労働者に重大な影響を及ぼしてその労働の正常な遂行を妨げる可能性ないしおそれを生じさせ、その企業の円滑な運営にとっても障害となるといえよう。つまり集団的・組織的な協働体制に組み込まれた労働者が債務の本旨に従って自己の労働義務を履行することができるためにはそのための職場環境整備の一環として共同作業秩序が維持されなければならず、また使用者も企業の円滑な運営を行うためには共同作業秩序=企業秩序を必要とする。」

 他人の職務専念義務の妨害=共同作業秩序の侵害=企業秩序の侵害との論理を展開している。

 

 

(三)「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」とないとして就業規則な違反せず懲戒処分を無効とした例

 

 ビラ配り事案で数例ある。

 

1.明治乳業福岡工場事件・最三小判・昭58111判時1100151

 

 本件は明治乳業労働組合福岡支部長が休憩時間中に工場内食堂で就業規則一四条「会社内で業務外の集合又は掲示、ビラの配布等を行なうときは予め会社の許可を受け所定の場所で行なわなければならない。」等に違反して行なわれた赤旗選挙号外・日本共産党法定ビラ配布に対する戒告処分を「企業施設の管理に支障をきたし企業秩序を乱すおそれ」はないとして無効とした原審を維持したもの。

 ビラの配布は、食事中の従業員数人に一枚ずつ平穏に手渡し、他は食卓上に静かに置くという方法で行われたものであって、従業員が本件ビラを受け取るかどうかは全く各人の自由に任され、それを閲読するかあるいは廃棄するかもその自由に任されていた。また、右の配布に要した時間も数分間であった。

 上告審は「本件ビラ配布は、許可を得ないで工場内で行われたものであるから、形式的にいえば前記就業規則一四条及び労働協約五七条に違反するものであるが‥‥形式的に右各規定に違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が工場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解される(‥‥)。そして、前記のような本件ビラの配布の態様、経緯及び目的並びに本件ビラの内容に徴すれば、本件ビラの配布は、工場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められる場合に当たり、右各規定に違反するものではないと解するのが相当」と説示する。

 

 横井大三判事の反対意見は、政治活動は、高度の社会的利害の対立や思想上の反目を包蔵しており、それが企業内において行われるときは、職場に不必要な緊張、摩擦、軋轢を生じさせ、ひいてはその規律を乱し、作業能率を低下させ、企業運営に支障を来す可能性が多分に存し、実質的に就業規則違反とするが、本件は就業規則や労働協約で政治活動が禁止しておらず、たんにビラ配布の問題として処理されているが、政治活動禁止の明文規定があれば、懲戒処分は有効とされた可能性がある。

 

2.アヅミ事件・大阪地決昭62821労判50325

 本件ビラ配布行為は、昼休みきわめて平穏な態様でなされ、内容や表現もとりたてて問題と取れたてて問題とすべき部分はないのだから、形式的には就業規則違反であっても企業秩序・風紀をみだすおそれのない特別の事情(目黒電報電話局事件判決の判断枠組)が認められ、懲戒事由に該当しないとする。

 

3.倉田学園(大手前高(中)校・五三年申立)事件・最一小判平61220民集4881496

 

「形式的には就業規則一四条一二号所定の禁止事項に該当する。しかしながら、右規定は被上告人の学校内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮を目的としたものと解されるから、ビラの配布が形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの内容、ビラ配布の態様等に照らして、その配布が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的には右規定の違反になるとはいえず、したがって、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは許されないというべきである(‥‥)。

 右の見地に立って本件ビラ配布について検討すると、本件各ビラは、いずれも職場ニュースと題する上告参加人の機関紙であるところ、本件各ビラの内容は、香川県下の私立学校における労使間の賃金交渉の妥結額(‥‥)、被上告人との間で予定されていた団体交渉の議題(‥‥)、右団体交渉の結果(同月一六日配布のもの)など、上告参加人の労働組合としての日ごろの活動状況及びこれに関連する事項であって、違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものではない。また、本件ビラ配布の態様をみると、本件ビラ配布は丸亀校の職員室内において行われたものではあるが、いずれも、就業時間前に、ビラを二つ折りにして(‥‥片面印刷のものは、印刷面を内側にして)教員の机の上に置くという方法でされたものであって、本件ビラ配布によって業務に支障を来したことを窺わせる事情はない‥‥本件ビラ配布は、始業時刻より一五分以上も前の、通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯に行われたものであって、前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、本件事案の実情にそぐわない。

 したがつて、本件ビラ配布については、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものということができ、本件各懲戒処分は、懲戒事由を定める就業規則上の根拠を欠く違法な処分というべきである。」

 

 これ以外にもあるが倉田学園事件が著名である。いずれも就業時間外に平穏な態様で配布され、ビラの内容も不当なものではないことから、実質的に秩序をみだすものではないという特別の事情が認められた例である。

 とはいえ休憩時間や就業時間外であるからよいというものでは必ずしもないと考える。就業時間外のビラ配りであっても、配布の場所、態様によっては、日本エヌ・シー・アール出勤停止事件・東京高判昭52714労働関係民事裁判例集2856411頁に(通路巾の狭い各通用口を長い一列縦隊となって通過することが多く、ビラを受け取らない出勤者には次ぎから次ぎにと胸元前方にビラが差し出され通行に渋滞を来しかねないこと状況)によっては、無許可での工場敷地内でのビラ配りの懲戒処分が是認されている例もあるし、国労兵庫支部鷹取分会事件・神戸地決昭63322労働判例51752頁は「ビラ配布等に利用する場合には、休憩時間中であっても、利用の態様如何によっては使用者の施設の管理を妨げる虞れがあり、他の社員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては企業の運営に支障を及ぼし、企業秩序が乱される虞れがあるから、使用者がその就業規則で労働者において企業施設をビラ配布等に利用するときは事前に使用者の許可を得なければならない旨の規定を置くことは、休憩時間の自由利用に対する合理的な制約であると解すべき」と説示しているとおりである。

 

【註1】大成観光事件リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659の新村正人調査官判解は目黒電報電話局事件最高裁判決について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」と記しているように、その判旨が組合活動に適用されることに疑う余地などない。

 

 

引用・参考

 

河上和雄

1980「企業の施設管理権と組合活動--昭和541030日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」法律のひろば3311980

菊池高志

1983「労働契約・組合活動・企業秩序 『法政研究』49(4) 1983

高木紘一

1978「政治活動の禁止と反戦プレートの着用-目黒電報電話局事件」ジュリスト666

中嶋士元也

1992「最高裁における『企業秩序論』」季刊労働法157

三井正信

2009「労働契約法と企業秩序・職場環境(1) <論説> 」広島法学332

渡辺章

2011『労働法講義 下 労使関係法・雇用関係法Ⅱ』信山社

2019/01/14

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その1)

第一 地方公営企業に適用できるいわゆる施設管理権の3つの系統の判例法理

 

 

一 小論の目的

 

 我が国の労組法は、労働組合の資格要件や労働委員会制度などを規定するが、集団的労働法上の実体的な権利義務についての記述は少なく、団体行動(組合活動及び争議行為)の中心テーマである正当な行為であるか否かは、大部分が判例・学説の解釈に委ねられている。

 したがって労働委員会の命令以外に救済命令取消訴訟等判例の膨大な蓄積があるが、裁判所が案出した判例法理、先例の判断枠組が決め手になるのである。

 この小論は、地方公営企業における庁舎管理権ないし施設管理権の発動、つまり労務指揮権の及ばない勤務時間外休憩時間等も含めた庁舎構内(企業施設内)の組合活動(集会の開催、演説行為、ビラ貼り、ビラ配り、旗上げ、マスコット闘争、抗議行動その他の示威行為、他の職員の執務妨害、募金活動、署名活動、政治活動、立て看等工作物の設置)当該事業所以外の組合員による点検・オルグ活動、ピケッティング、外部の者の立ち入り、面会の強要、物品販売、保険勧誘等を規制していくために、その法的根拠となる判例法理の概略を整理して説明することが目的である。 

 

 

 判例法理を分類して以下の3つの系統の総てが地方公営企業に適用できると考える。

 

 3つの系統の判例法理とは

 

(一)一般私企業に適用される判断枠組。企業秩序論の判例法理

 

 指導的判例は、国労札幌地本事件最三小判昭541030民集336676(ビラ貼り戒告処分を適法とする)主な引用判例は、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786(無許可集会警告を適法とする)、オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130頁(無許可食堂利用拒否を適法とする)など多数

 

 上記の判例法理の要所を示せば以下のとおりである。

 

 企業の管理する施設は、企業秩序に服する態様において利用されなければならない

 

 労働者は、企業の所有し管理する物的施設の利用をあらかじめ許容されていても、雇用契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、 企業秩序に服する態様において利用するという限度にとどまる。

 

 使用者の許諾なしに物的施設を利用する権限を有さず、使用者に受忍義務はない

 

 労働組合又はその組合員であるからといって、使用者の許諾なしに物的施設を利用する権限を有さない。もっとも企業内組合においては当該企業の物的施設を利用する必要性の大きいことは否定できないが、物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものである。必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を利用しうる権限を取得し、また、使用者において組合活動のためにする施設の利用を受忍しなければならない義務を負う理由はない。

 

③権利の濫用と認められる特段の事情がない限り正当な組合活動に当たらない

 

 使用者の許諾を得ないで企業施設を利用して組合活動を行うことは、使用者の有する権利の濫用と認めせれるような特段の事情が認められ場合を除いて、正当な組合活動にはあたらない。

 

 使用者は、無許諾施設利用に対して、中止、原状回復等の指示、命令のほか規則の定めるところに従い、懲戒処分を行うことができる

 

  使用者は、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる。

 

 以上は若干言い換えをしたものの、大筋で、国労札幌地本判決の説示と同じである。

 

 なお、オリエンタルモーター事件最二小判平798が説示する「使用者が労働組合による企業施設の利用を拒否する行為を通して労働組合の弱体化を図ろうとする場合に不当労働行為が成立し得ることはいうまでもない」は総合花巻病院事件・最一小判昭60 523労働委員会関係裁判例集20164頁、が病院施設利用を拒否するに至った真の理由は、組合の上部団体加入を嫌悪し、これを牽制、阻止することに他ならなかったとして、組合運営に対する支配介入と判示した先例にもとづくと考えられるが、こうした権利の濫用と認められる特段の事情がない限り、施設の利用拒否が不当労働行為とはされない。

 

 

(二)行政財産の目的外使用(地方自治法238条の4第7項)の判例法理

 

 公用財産としての水道局の庁舎は行政財産であり、公有財産であり、企業用資産でもある。

 地方公営企業は、地方公共団体と別個の独立した法人格を有さないので、企業用資産も地方公共団体に帰属し、地方自治法上の行政財産として規制を受けるのは、企業用資産の範疇も同じことであるから、地方自治法238条の47項(旧4項)の目的外使用「行政財産はその用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる」の判例法理も適用される。

 なお東京都水道局の場合、地方自治法238条の47項の行政財産の目的外使用は、東京都公有財産規則ではなく、東京都水道局固有資産規程で運用がなされている。

 行政財産は行政執行の物的手段であり行政目的のために利用され、その用途のみに用いるのが本来のもので、原則として私法上の運用を禁止している(自治法238条の41項)が、市町村合併や少子化にともなう庁舎や学校の空きスペースを効果的に活用したいとの要望により、平成18年度地方自治法の改正で余裕スペースの貸付制度等が設けられており[奥宮京子・高橋哲也2015]、本来の用途と目的外で活用することは政策的に認められているのであって、目的外使用許可それ自体が非難される要素はないといえるだろう。 

 最高裁が学校施設の目的外使用について初めて判断を下した呉市立二河中学校事件・最三小判平1827民集602401(教研集会使用不許可を違法とする)の判旨が、学校施設以外でも多く引用されていて、判断枠組として定着している。

主な引用判例・大阪市組合事務所使用不許可処分事件・大阪高判平2762判時228228頁(平成24年度のみ違法、平成2526年度は適法とする)、枚方市組合事務所使用料徴収減免申請不許可事件・大阪地判平28328掲載TKC(使用料徴収を適法とする)、大阪市教職員組合分会会議使用不許可事件・大阪地判平291220掲載TKC(不許可を適法とする)など。 

 指導的判例の呉市立二河中学校教研集会使用不許可処分事件・最三小判平1827の判断枠組は、地方自治法238条の47項(旧4項)の目的外使用許可について、用途と目的外使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできると、管理者に裁量を認めたうえで、次のように裁量権の濫用として違法となるかどうかの判断枠組を説示した。

 「その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査において、‥‥その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。」と従来の重大な事実誤認や社会通念からの顕著な逸脱という社会通念審査(最小限審査)に加えて、判断過程合理性審査[本田滝夫2007]を採用し、審査密度を濃くした審査方法を示したことが注目された。

そして本件を裁量権の濫用とした決め手は、判断過程合理性審査に過大考慮・過小考慮定式を当てはめたことである。

 「本件不許可処分は、重視すべきでない考慮要素を重視するなど、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており、他方、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。」

重視すべきでない考慮要素とは過去に学校に右翼団体の街宣車が来て街宣活動を行ったことがあったという不許可の理由であり、当然考慮すべき事項として教研集会は自主的で自律的な研修を奨励する教育公務員特例法19条、20[平成15年改正で21条・22]の趣旨にかなうことなどを挙げている。

 従って当局は処分をする際の考慮事項(事実関係について過大考慮・過小考慮定式の審査に耐えられる必要がある)について注意しなければならないということである。

 しかし一方で、「職員団体にとって使用の必要性が大きいからといって、管理者において職員団体の活動のためにする学校施設の使用を受忍し、許容しなければならない義務を負うものではないし、使用を許さないことが学校施設につき管理者が有する裁量権の逸脱又は濫用であると認められるような場合を除いては、その使用不許可が違法となるものでもない。」という国労札幌地本判決の趣旨をなぞって、受忍義務を明確に否定しているのであって、教研集会不許可を違法としたことから、組合活動一般に好意的になったわけではない。

 というのも 一般私企業一般に適用される判断枠組である国労札幌地本事件最三小判昭541030は、無許諾の企業施設内組合活動は正当な組合活動としないものである。このことは憲法28条が認める労働基本権といえども契約その他、市民法秩序で認められている権原なくして、私有財産を利用し得る何らの権限を与えるものではないことを示す[河上和雄1980]。

労働基本権は市民法秩序を超克し、所有権、財産権の侵害を正当化するというプロレイバー学説を明確に否定しているのである。

同判決を引用する主要な判例も、労働委員会がとりがちな権利の濫用となる特段の事情論に法益権衡論的な諸般の事情を勘案する調整的アプローチを否定しており【註1】、行政庁の裁量であっても、私企業における先例と著しく乖離した判断はとれないはずだからである。

 とはいえ判断過程合理性審査に団結権等に配慮義務があるという組合寄りの下級審判例(大阪市組合事務所使用不許可処分事件・大阪地裁平26910)が存在する。

 しかしこの判断は、控訴審の大阪高判平2762により否定されている。同判決は、組合が無許諾で行政財産を利用する権限がないことを明示し、私企業の施設管理権の指導判例である国労札幌地本事件最三小判昭541030

の判例法理とのアナロジーで、行政裁量を論じているのだ[武井寛2015]。

 同判決が判断枠組として引用しているのは呉市立二河中学校事件・最三小判平1827であるが、国労札幌地本事件最三小判昭541030、済生会中央病院事件最二小判平元・11211、オリエンタルモーター事件最二小判平798といった私企業の先例も参照指示され、それに準拠した判断をとっている。

 この趣旨からすると行政財産の目的外使用(地方自治法23847項)としての組合活動も、一般私企業の施設管理権の判断枠組と著しく乖離するようなことにはならない。

 もっとも大阪高判平2762においても原審と同様、団結権等の支障の有無・程度をも考慮すべき要素としているが、その意味するところは、オリエンタルモーター事件最二小判平798が説示する「使用者が労働組合による企業施設の利用を拒否する行為を通して労働組合の弱体化を図ろうとする場合に不当労働行為が成立し得る」という趣旨と概ね同じと考えられる。使用許可の判断過程で団結権等の支障を考慮するということは、配慮義務をさすものではない。

 

 

(三)財産管理法制とは無関係な管理作用の発動としての庁舎管理権の判例法理

 

 主なものとして昭和郵便局(全逓昭和瑞穂支部)事件・最一小判昭57107 民集36102091(掲示板撤去を適法とする)、全国税足立分会事件・最二小判昭59127労判425号30頁(掲示紙撤去を適法とする)、墨田民商(向島税務署)事件・東京高判昭525・30刑事裁判月報956291頁(集団陳情者等の立入阻止を適法とする)など。

 

 昭和郵便局(全逓昭和瑞穂支部)事件・最一小判昭57107は組合掲示板一部撤去を適法としたものだが、掲示板の利用関係につき、庁舎管理権に基づく掲示物の使用許可によって事実上使用を許可されたものであり、その許可の性質は講学上の「許可」、すなわち一般的禁止の解除であって、これにより「「当該場所を使用するなんらかの公法上又は私法上の権利を設定、付与する意味ないし効果を帯有するものではなく‥‥国有財産法一八条三項にいう行政財産の目的外使用の許可にも当たらない‥‥本件掲示板ないし庁舎壁面についての使用権ないし利用権を取得するものではない‥‥庁舎管理者は、庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるときは、右許可を撤回することができる‥‥」と説示し、組合側に占有利用の権利性がない以上、原状回復請求及び債務の不履行を理由とする損害賠償請求は理由がないと判示した。

 

 墨田民商(向島税務署)事件・東京高判昭525・30は下級審判例だが、その理論的説示は明解である

「‥‥税務署の庁舎は、右のように公用物であるから、道路や公園のように公共の用に供される行政財産と異なり、一般公衆が自由に出入りしたりすることのできるものではないが、納税義務者、徴収義務者その他税務署の所掌事務に関し用件のある者は、その用件に関して税務署内へ平穏に立入る自由が認められていることはいうまでもない。‥‥‥‥しかし‥‥税務署長は、税務署の業務が円滑かつ能率的に遂行されるための措置を講ずる権能と責務を有するものであり、外来者の税務署庁舎内への立入りを認めることによって執務に支障をきたすような事態の発生が客観的にも予測されるなど、税務署長において同庁舎内の秩序を維持するために必要があると認めるときは、庁舎管理権に基づき、外来者の庁舎内立入りを禁止することができるものと解するのが相当である。‥‥庁舎管理権は、単に公物である庁舎の物的状態を保持する権能のほか、庁舎内における業務の遂行を確保し、秩序を維持する権能を含み、その権利行使の結果、庁舎の出入りに関して対人的規制が生ずることも許容されるものと解すべきである。」

 

三 3つの判例法理がいずれも地方公営企業に適用されると判断する根拠

 

 

(一)地方公営企業も私企業一般に適用される企業秩序論の判例法理を適用してよい理由

 

 一般私企業に適用され、利用価値が高いのは、昭和50年代に最高裁が案出したAの企業秩序論であり、なかんずく国労札幌地本事件・最三小判昭541030の判断枠組である。

 企業施設内において使用者が許諾していない組合活動は、権利の濫用が認められる特段の事情がある場合を除いて正当な組合活動に当たらないと判示し、使用者に中止・解散・退去命令権、警告、原状回復指示、懲戒権を認めている。

 この判例法理が卓越している理由を一口で云えば、受忍義務説の明確な否定、法益衡量による調整的アブローチを否定しプロレイバー学説を粉砕したことにある。判例は安定的に維持され今日では法的常識となっている。

 ところで国鉄の判例が一般私企業の先例とされているのは、最高裁が国鉄の懲戒処分の法的性質を私法上の行為と判示(国鉄中国支社事件・最一小判昭45228民集28166)し、電電公社においても労働関係を私法上の行為と判示したためである(目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974)。

 したがって、企業秩序論は原則として官公庁の庁舎管理権とは一線を画しているという見方ができる。

 一方、現業国家公務員について、郵政省の郵便局職員につき、長野郵政局長事件・最二小判昭49719民集285897 が、勤務関係は公法関係と判示している。

 地方公営企業については、名古屋市水道局事件・最一小判昭5664労判36757頁が勤務関係を公法関係と判示しており、懲戒処分は行政処分であって、私法上の行為とはされていないので、私法上の労働関係とされている三公社の先例が直ちに適用されるのかという疑問が生じるところではある。

 しかしながら全逓新宿郵便局事件・最三小判昭581230判時1102140頁(郵便局局舎内の無許可組合集会に対する解散の通告、監視等を不当労働行為に当たらないと判示)が国労札幌地本事件・最三小判昭541030の判断枠組を引用していることから、企業秩序論の判例法理は勤務関係が公法関係である職場の判断枠組にも適用されている。

 最高裁が是認した原判決東京高判昭55430労民312544は「企業主体が国のような行政主体である場合と、また私人である場合とで異なるものではない」と述べ企業秩序論が汎用できることを説示しており、この趣旨から地方公営企業にも企業秩序論の判例法理に準拠した判断をとることができるとみてよいだろう。

 加えて、近年の大阪市組合事務所使用不許可処分事件・大阪高判平2762判時228228頁が、労働組合等が当然に行政財産を組合事務所として利用する権利を保障されてはいないと説示し、これは、企業の物的施設を行政財産に言い換えただけで、その論拠となる先例として、国労札幌地本事件最三小判昭541030民集336676、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786、オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130頁を参照指示していることから、A系統の先例は勤務関係が公法関係の庁舎管理であってもそれに準拠した判断を示しているので、先例としての意義を有していると見なして差支えない。 

 

 

(二)地方自治法23847項(旧4項)の目的外使用許可の裁量処分に関する判例法理は適用範囲が不確定としても地方公営企業にも適用される

 

1 呉市立中学校事件・最三小判平1827の判例法理の影響力

 

 近年、地方自治法238条の4項第7項(旧4項)の目的外使用許可の裁量処分に関する判例が蓄積している。

 例えば20年ほど前の広島県における教職員組合に対して集会等に学校施設の目的外使用許可した慣行を見直したことや、平成25年制定大阪市労使関係条例12条が「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は、行わないものとする」と定めたことによる目的外使用許可処分に対して、組合側が、不当であるとして国家賠償法上の損害賠償を求める訴訟である。

 なかでも呉市立二河中学校教研集会使用不許可事件・最三小判平1827民集602401(使用不許可処分を違法とする)において、最高裁が初めて学校施設の目的外使用許可に裁量があることを認め、裁量処分について従来の社会観念審査と異なる処分の際の考慮事項(判断過程)の審査を行う方式をとったことが注目され、指導的判例の位置づけになっている。

 同判決の判断過程審査方式は、学校施設のみならず、公立の福祉施設や、市庁舎の職員組合に対する便宜供与にいたるまで、下記のとおり特許使用とは思われない、一次的使用の事例まで、広範囲にわたって判断枠組として引用され影響力が大きいのである。

 

 

***呉市立中学校事件・最三小判平1827を引用する判例***

 

○都立王子養護学校事件・東京地判平18.6.23判タ1239169頁(都障労組の教研集会の使用不許可処分を違法とする)

●大阪市立人権センター事件大阪地判平203.27判タ1300177頁(部落解放同盟支部事務所の目的外使用不許可処分を適法とする)

●杉並区立和田中「夜スペシャル」目的外使用許可処分違法確認等請求事件・東京地判平22・3・30判時208729頁(私塾連携有料補習授業の目的外使用許可及び使用料免除を適法とする)

●渋谷区行政財産目的外使用許可取消請求等事件 東京地判平25611判例地方自治383号22頁(在日トルコ人子弟のための教育事業に対する、学校施設の一部の目的外使用許可及び使用料免除を適法とする)

◯大阪市労組組合事務所使用不許可事件・大阪地判平26910判時2261128

(組合事務所使用不許可を違法と目的外使用許可処分の義務付けと国家賠償請求を認める)◯大阪市立西九条小学校等教研集会使用不許可処分事件・大阪地判平261126判時2259114頁(使用不許可処分を違法と国家賠償法上の違法も認める)

○●大阪市労連、市職、市従、学給労等組合事務所使用不許可事件・大阪高判2762判時228228頁(原判決変更。平成24年の使用不許可処分のみ違法、平成2526年の不許可処分は適法)

◯●大阪市労組・大阪市労働組合総連合組合事務所使用不許可事件・大阪高判27626判時2278号32頁(原判決変更。平成24年の使用不許可処分のみ違法、平成2526年の不許可処分は適法)

○大阪市立西九条小学校等教研集会使用不許可処分事件・大阪高判平271013判時2296号30頁(大阪市側敗訴部分一部取消、使用不許可処分は違法だが国家賠償法上の違法、過失は認められない)

●枚方市組合事務所使用料徴収処分取消請求事件・大阪地判平28328掲載TKC(市長が組合事務所の使用料減免を認めないことに違法性はない)

●大阪市教職員組合分会会議使用不許可事件・大阪地判平291220判タ145211頁(大阪市労使関係に関する条例第12条にもとづく組合分会会議の施設利用不許可を適法とする)

 

 

2 呉市立中学校事件・最三小判平1827の判例法理の適用範囲の問題

 

1)庁舎管理権は財産管理法制になじまなない部分もあり、庁舎等の目的外使用に当たるすべての場合に適用されるものではない

 

 しかし、問題はこの判例法理の適用範囲である。結論を先にいうと不確定といえるので、どうであっても対応できるようにしておくのが肝要といえる。

 

 通常、地方自治法の解説書で地方自治法28条項47号(旧4号)の目的外使用許可の典型的として例示しているのはまず厚生施設、食堂、売店、理髪室や記者クラブ等広報施設といった占有権を設定する特許使用である。短期間のものとしては講演会、研究会や、災害時の応急施設利用が挙げられている。

 使用許可の範囲は、東京都の場合、東京都公有財産規則の29条の2に列挙されている・水道局の場合は東京都固有資産規定の32条に列挙されている事柄である。石原都知事が推進したロケーションボックスも行政財産の目的外使用とされている。

 しかしながら、官公庁の庁舎管理権は、理論的に財産管理法と公物管理法に区別できるのであり、財産管理法制とは無関係の管理作用としての庁舎管理権の発動も当然あるのだから、地方自治法等の行政財産の管理法制で一元的に把握されるべきものではない。

 国の省庁においては、地方自治法28条の47項(旧4項)と同様の目的外使用の規定があるのは国有財産法186項(旧3項)である。

組合掲示板の利用関係につき、国有財産法とは無関係の庁舎管理の管理作用ととらえる最高裁の先例がある。

昭和郵便局(全逓昭瑞支部)掲示板撤去事件・最一小判昭5710.7 民集36102091(郵便局長による掲示板の一部撤去を適法とした)であるが、国家公務員の職場における組合掲示板の利用関係について、組合側の主張(使用賃貸契約で行政財産の特許使用であるとして原状回復請求、債務不履行による損害賠償請求)を退け、下級審の国有財産法18条3項(現行では6項)の目的外使用とする見解も退け、掲示物の掲示の一括許可が庁舎管理権の行使として掲示板の許可使用を認めるものすぎず、公法上又はその私法上その使用権又は利用権を設定するものではなく、国有財産法18条3項(現行では6項)所定の行政財産の目的外使用にもあたらないとした。

 郵政省庁舎管理規程の運用通達は「『庁舎等の一部をその目的外に使用を許可する』とは、国有財産法一八条‥‥に定める使用許可ではなく、申出によって庁舎管理者がその権限のわく内で事実上使用することを許可するものであって、権利を設定する行為ではない。‥‥」として、国有財産法18条3項所定の行政財産の目的外使用の許可は、行政財産に占有権を設定するような場合にのみに関わるものに限定しているが、最高裁は郵政省運用通達の枠組を是認したのである。

 村上敬一調査官判解も、国有財産法18条3項の規程が掲示物の掲示や物品の移動販売その他の一切の庁舎等の目的外使用に当たるすべての場合に適用されると解することは到底できないと述べているとおりである。

 この趣旨からすると、一般論として掲示板に限らず一時的短時間無償で集会のために会議室、休憩室等を目的外使用許可すること、外来者の物品移動販売や、保険の勧誘も、財産管理法上の目的外使用許可ではなく、それとは関係ない管理作用としての事実上の許可とみなしてよい。

 墨田民商事件・東京高判昭525・30刑事裁判月報956291頁で適法とされた、税務署における集団陳情者の庁舎内立入阻止も、国有財産法とは直接関係ない庁舎管理権の発動といえる。

 したがって郵政省に限らず、一般に官公庁では財産管理法と公物管理法、あるいは特許使用と許可使用を区別し庁舎管理を行っているとみることができ、東京都についていえば財産管理法に相当するのが東京都公有財産規則、東京都水道局場合は、東京都水道局固有資産規定、公物管理法が各庁舎管理規程ということができるだろう。

 組合が日常活動として行う支部・分解役員会議、あるいは旗開きなど行事、その他組合員の会議等の会議室利用は、許可使用であって特許使用とはいえない。闘争時の庁舎構内、事務室内での示威行為を含む決起集会、旗、幟、横断幕、立看その他の工作物の設置、庁内でも更新、示威行為、ゼッケン、鉢巻、腕章等の着用、物品移動販売、保険の勧誘も含めこれらの許可、不許可についていえば固定資産規程の使用許可申請にはなじまない事柄といえるだろう。

 これを財産管理法制と結びつけて使用権・利用権を設定した行為とみなす必要は必ずしもないといえる。

 ところで東京都庁内管理規則(水道局の規則も若干違いがあるがほぼ同じ)は、第4条に禁止事項が列挙され、庁内管理者が特別の事情があり、かつ、公務の円滑な遂行を妨げるおそれがないと認めた場合、禁止事項を解除して許可することができるとなっているが、この許可が地方自治法28条所定の目的外使用許可にあたるとは特に記載もないので、そのように解する理由はなく、庁舎管理規程にもとづいて、中止命令、解散命令を行う場合(そうした現実の事例を知らないが)、地方自治法の行政財産管理法制とは無関係の管理作用ということになるだろう。

 

2)とはいえ学校施設では組合の施設利用は、例外なく地方自治法238条の47項の目的外使用の事案とされているので無視できない

 

 しかしながら、注目すべきは近年、以下のような学校施設の判例で、教職員組合の定期総会等規模の大きな集会のみならず、組合分会の会議といった日常的な組合活動の会議室利用にいたるまで、地方自治法23847項(旧4項)の目的外使用の事案とされている。

●広島県高教組「人事委員会報告説明会」県立高校体育館使用拒否事件・広島地判平14328、裁判所ウェブサイト(不許可処分は適法。ただし不許可を文書で通知する義務に違反した点を違法として教育長の責任を認め10万円の賠償を命令)

●広島県高教組定期総会学校施設使用不許可事件 広島地判平1729-裁判所ウェブサイト(高校の体育館で定期総会を開催するための使用許可申請の校長による不許可処分を適法とする)

●大阪市教職員組合分会会議使用不許可事件・大阪地判平291220TKC(大阪市労使間関係条例12条にもとづく不許可を適法とする)

 一連の判例をみると、特許使用と許可使用の違いは議論になっておらず、例えば   大阪地判平291220では大阪市立学校管理規則11条において、「学校の施設及び設備の貸与については、校長の意見を聞いて教育委員会が許可する。ただし、軽易又は定例の事項については校長が許可する。」と定められ、通達(昭和2485日市教育長通ちょう)に基づき、学校施設の1日以内の目的外使用の許可に関する事務については、授業及び管理上支障のないときに限り、各学校長により実施されているが、これを地方自治法23847号の目的外使用としているのである。

 そうすると、短時間の施設利用は財産管理法制と無関係と主張しても、組合側が地方自治法23847号の目的外使用と主張してくることがありうるから、呉市立中学校事件判決の審査方式に対応した論理を当局側が用意しておく必要がある。

 

【註1】例えば池上通信機事件最三小判昭63・7・19判時1293は、 「組合員が無許諾で従業員食堂を組合活動のために使用した場合に組合又はその責任者の責任を追求し処分の警告を発するなどしたのは‥‥施設管理権の正当な行使として十分是認することができる」と判示した控訴審(東京高判昭59・8・30労民集35巻3・4号459頁)の判断を是認しているが、伊藤正巳の結果的同意意見が「特段の事情論」に法益権衡論を組みこんだ評価診断を主張している[渡辺章2011 184頁]。しかしこれは一裁判官の先例に反した勝手な見解にすぎず、多数意見は認めていないことを逆に示すものである。

  日本チバガイギー事件・最一小判平元・1・19労働判例533号7頁は、組合が団体交渉報告集会を本部社屋1 階の食堂を午後5 時から使いたいという申し入れに対し、会社は、工場部門の終業時刻は午後5 時とはいえ、本部の終業時刻は午後5 45 分で、それまでは本部への来客もあり、午後6 時以降の使用しか認められないなどとした事案で一審東京地判昭60・4・25労民集36巻2号237頁は本件食堂の使用の申出に対し許可しないことが権利の濫用と認められるような特段の事情はないとして、これを業務上ないし施設管理上の支障に藉口した不当労働行為とした中労委命令を取り消した。控訴審(東京高判昭60・12・24労民集36巻6号785頁)でも一審の判断を維持し、上告審は原判決を是認しているが、中労委の上告趣意は「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」としており、これも法益権衡ないし法益調整論を「特段の事情」に組み込んで、判例法理を変質させ風穴を開けようとする趣旨であるが、最高裁はこれを明確に退けたといえる。

 

 

引用・参考

奥宮京子・高橋哲也

2015「はんれい最前線 余裕教室の活用施策をめぐる対立に司法判断 : 教育委員会が学校法人等に対し行った学校施設目的外使用の使用料免除は適法 : 裁判所[東京地裁平成25.6.11判決]判例地方自治392河上和雄

1980 「企業の施設管理権と組合活動--昭和541030日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」法律のひろば331

武井寛

2015「大阪市庁舎内組合事務所不許可処分と労使関係条例-条例制定による「便宜供与」廃止」季刊教育法25115

本多滝夫

2007「平成18年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1332〕」3940

渡辺章

2011『労働法講義 下 労使関係法・雇用関係法Ⅱ』信山社184

2019/01/13

入手資料整理192

11157武井寛「大阪市庁舎内組合事務所不許可処分と労使関係条例-条例制定による「便宜供与」廃止」季刊教育法251 2015
コメント
 呉市立中学校判決の判断枠組、大阪市労使関係条例の評価、施設管理権とアナロジーで行政庁の裁量を語ることができることなど原審(大阪地裁平26・9・10)と控訴審(大阪高裁平27・6・26)双方の批評である。著者は高裁判決や大阪市の条例に批判的だが、私は高裁判決を評価し、なるほど大阪市労使関係条例は、地方自治法との整合性につき疑問との批判があるにせよ、結果的に合憲・適法との司法判断をたことの意義は大きいとみる。
 本件は、4つの事件からなる。
第1事件・平成24年度の組合事務所使用不許可処分を団結権等の侵害とし国家賠償法条の損害賠償金の支払いを求めるもの。第2事件が不許可処分後も組合事務所として占有している事務室部分について明け渡しを求めるとともに不法行為に基づき使用料相当損害金の支払いを求めるもの。第3・4事件が、大阪市労使関係条例制定後の平成25・26年度の組合事務所使用不許可処分を団結権等の侵害とし国家賠償法条の損害賠償金の支払いを求め、加えて第4事件は許可処分の義務づけを求めた。゜
 原審は第1、3、4事件の不許可処分を取り消し、許可処分を義務づけ、無形損害を認め、第2事件は却下。労働組合等の便宜供与を禁止する大阪市労使関係条例を適用違憲とする。
 高裁は第1事件のみ原審の判断を維持し、第3~4事件は地裁の判断を否定、同条例を合憲であり、労組法や地公法にも違反しない「適正かつ健全な労使関係の確保を図るため」「法的権利とはされていない労働組合に対する便宜供与を一律に禁止するのは不相当とはいえない」として、組合事務所を退去させ行政事務スペースを確保する必要を認め、使用不許可処分を適法としたうえ、第2事件も地裁の判断占有部分の明け渡しと使用料相当の損害金の支払いを命じた。
 団結権等に支障を及ぼす支障の有無・程度をも考慮すべき要素としているのは、原審、高裁も同じだが、原審(地裁判決)には「団結権等を侵害するおそれがないか配慮しなければならない」という言辞があり、最高裁が認めてはいない配慮義務に言及したのは組合に寄りすぎる説示といえる。高裁は、労組法は便宜供与を受ける権利を組合に付与するものではないし、問題となるのは、組合を嫌悪し、弱体化する意図、不当労働行為であるが、原審がH市長に団結権を侵害する意図が継続的にあったとするのに対し、高裁は、H市長は労使癒着の構造を改め、市民感覚に会うように是正を求めたのであって、組合を嫌悪し、支配介入する意図までは認められないとする。ただし、第1事件についてのみ市長が3ヶ月前に何の前触れもなく不許可を方針を示し、事務方の説明も詳細に亘るものではなく、あまりに性急だったとして、社会通念に反し違法としたのである。
 これは私の見解だが、本件は行政庁の庁舎管理に関する事案だが、高裁判決は大筋で、一般私企業の施設管理権判例の判例法理とのアナロジーで行政庁を裁量を語ってよいことを示しており、それゆえ、行政財産の先例(地方自治法238条の4第7項の目的外使用不許可処分)である呉市立中学校事件の判断枠組みのみならず、札幌地本事件最三小判昭54・10・30民集33-6-676(ビラ貼り戒告処分を適法とする)、済生会中央病院事件最二小判平元・1・12・11民集43-12-1786(無許可集会警告を適法とする)、オリエンタルモーター事件最二小判平7・9・8判時1546号130頁(無許可食堂利用拒否を適法とする)といった私企業の代表的な先例を引用している。これらの先例は、団結権等との法益権衡による調整的アプローチを否定しており、許諾のない労組の勝手な施設利用は正当な組合活動でないと判示するものである。
 原審のような、団結権等への配慮云々という判断枠組は先例に反する。もしも原審の判断が維持されたとするならば、許許諾施設利用は、労働条件によって正当化されないとする一般私企業の判例法理と著しく乖離したものとなった。
 この点、高裁は最高裁の先例に沿った無難な判断をとった。団結権等に支障を及ぼす支障の有無・程度をも考慮すべき要素とすることについて原審同様に認めるとしても、オリエンタルモーター事件最二小判平7・9・8が説示する「使用者が労働組合による企業施設の利用を拒否する行為を通して労働組合の弱体化を図ろうとする場合に不当労働行為が成立し得ることはいうまでもない」(総合花巻病院事件・最一小判昭60・ 5・23労働委員会関係裁判例集20集164頁という先例にもとづくと考えられる)のと同様の趣旨と理解してよいたろう。 
11158奥宮京子・高橋哲也「市長と労組、事務所退去をめぐるバトルの行方は?」判例地方自治 407 2016
高裁と原審と双方に言及、比較的平易
11159大島佳代子「大阪市労使関係条例に関する条例12条の合憲性」新・判例解説Watch憲法№4 17巻 2015 地裁の判批
11160人見剛「大阪市労使関係に関する条例に基づく学校使用不許可処分の違法性」法学セミナー726 条例12条は比例原則に違反し違法無効とする論理構成もありえたとする。。
2015
11161奥宮京子・高橋哲也「はんれい最前線 余裕教室の活用施策をめぐる対立に司法判断 : 教育委員会が学校法人等に対し行った学校施設目的外使用の使用料免除は適法 : 裁判所[東京地裁平成25.6.11判決]判例地方自治392 2015
目的外使用についてわかりやすい解説
11162 渡部正和「施設利用の組合活動と違法性--最高裁昭和54年10月30日判決に関連して」警察学論集 33(3) 1980
 ビラ貼りのみならず、オルグ活動での立ち入りにも言及したうえで、労働法上の違法と刑法上の違法との違いを説明。有益だ。

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