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2019/01/16

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その2)

 (承前)

 

第二 一般私企業に適用される判例法理 (企業秩序論)の判断枠組詳論

 

 概略は前章で示したが、ここでは詳しく述べる。

 

一 企業秩序論

 

 最高裁が昭和50年代に案出した企業秩序論の一連の判例は、以下のとおり企業秩序の維持確保のために、企業には従業員に対し(1)規則制定権(2)業務命令権(3)企業秩序回復指示・命令権(4)懲戒権等を有するとし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることにより、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務を負うとする。但し、最高裁は、使用者が労働者に懲戒を行うためには、あくまでも就業規則の記載(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676)とその周知(フジ興産事件・最二小判151010労判8615頁)が必要としているのでその点は注意を要する。

 

 「‥‥企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもつて一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があつた場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができる‥‥けだし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできない」

 (富士重工業原水禁運動調査事件・最三小昭521213民集317103)

 

 「企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであつて、企業は、その構成員に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である。」

(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676)

 

「労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種制裁罰である懲戒を課することができる」

(関西電力事件・最一小判昭5898判時1094121)

 

 

二 企業施設内では無許諾の組合活動は正当な組合活動に当たらない

 

 労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権利を侵し、企業秩序を乱すものであつて、正当な組合活動に当たらない。

 (国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676の要約)

 

三 受忍義務説の明確な否定 

 

 「労働者は、企業の所有し管理する物的施設の利用をあらかじめ許容されている場合が少なくない()‥‥雇用契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において‥‥ 企業秩序に服する態様において利用するという限度にとどまる‥‥労働組合又はその組合員であるからといつて、使用者の許諾なしに右物的施設を利用する権限をもつているということはできない。もつとも‥‥(いわゆる企業内組合)の場合にあっては‥‥物的施設を利用する必要性の大きいことは否定することができない‥‥が、労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものである‥‥利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない。」

 

 (国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676はプロレイバー学説を明確に否定した。このことは憲法28条が認める労働基本権といえども契約その他、市民法秩序で認められている権原なくして、私有財産を利用し得る何らの権限を与えるものではないことを示す[河上和雄1980])

 

 「本件職場集会‥‥いずれもその時期にこれを開催する必要性が認められること」を特段の事情として、警告書の交付を不当労働行為とした原判決を 破棄自判し「権利の濫用であると認められるような特段の事情があるかどうかの判断に際し、病院の管理する物的施設を利用して職場集会を開く必要性を強調することができない‥‥同様に、労働時間中に職場集会を開く必要性を重視して、それが許されるとすることができないことも‥‥当然である」と説示。

 (済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786

 

「(いわゆる企業内組合)は、当該企業の物的施設内をその活動の主要な場とせざるを得ないのが実情であり、その活動につき企業施設を利用する必要性の大きいことは否定することができない。しかし、労働組合が当然に使用者の所有し管理する企業施設を利用する権利を保障されているということはできず、労働組合による企業施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであって、労働組合にとって利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業施設を使用者の許諾なしに組合活動のために利用し得る権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業施設の利用を受忍しなければならない義務を負うと解すべき理由はない‥‥組合事務所の貸与を受けていないことから食堂の使用を認められないと企業内での組合活動が困難となること、上告人が労働委員会の勧告を拒否したことなどの事情を考慮してもなお、条件が折り合わないまま、上告人が組合又はその組合員に対し食堂の使用を許諾しない状態が続いていることをもって、上告人の権利の濫用であると認めるべき特段の事情があるとはいえ」ない。(オリエンタルモーター事件・最二小判平798判時1546130頁、これは食堂の使用を一切不許可としたことは、施設管理権の濫用に当たるという控訴審東京高判平21121労民集416971頁の判断を破棄自判したものである)

 

 

四 企業施設内の組合活動につき法益衡量による調整的アプローチの否定

 

  国労札幌地本判決の判例法理は、法益衡量による調整的アプローチを否定する。「必要性が大きい実情を加味し」諸般の事情を総合考慮し、法益権衡の立場に立って評価診断しようとする違法性阻却説を排斥している。

  例えば池上通信機事件最三小判昭63719判時1293は、 「組合員が無許諾で従業員食堂を組合活動のために使用した場合に組合又はその責任者の責任を追求し処分の警告を発するなどしたのは‥‥施設管理権の正当な行使として十分是認することができる」と判示した控訴審(東京高判昭59830労民集3534459頁)の判断を是認しているが、伊藤正巳の結果的同意意見が「特段の事情論」に法益権衡論を組みこんだ評価診断を主張している[渡辺章2011 184頁]。しかしこれは一裁判官の先例に反した勝手な見解にすぎず、多数意見は認めていないことを逆に示すものである。

  日本チバガイギー事件・最一小判平元・119労働判例5337頁は、組合が団体交渉報告集会を本部社屋1 階の食堂を午後5 時から使いたいという申し入れに対し、会社は、工場部門の終業時刻は午後5 時とはいえ、本部の終業時刻は午後5 45 分で、それまでは本部への来客もあり、午後6 時以降の使用しか認められないなどとした事案で一審東京地判昭60425労民集362237頁は本件食堂の使用の申出に対し許可しないことが権利の濫用と認められるような特段の事情はないとして、これを業務上ないし施設管理上の支障に藉口した不当労働行為とした中労委命令を取り消した。控訴審(東京高判昭601224労民集366785頁)でも一審の判断を維持し、上告審は原判決を是認しているが、中労委の上告趣意は「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」としており、これも法益権衡ないし法益調整論を「特段の事情」に組み込んで、判例法理を変質させ風穴を開けようとする趣旨であるが、最高裁はこれを明確に退けたといえる。

  従って、仮に労働委員会が法益権衡論の調整的アプローチをとって不当労働行為としても救済命令取消訴訟では覆る。中労委の業務上ないし施設管理上の支障に藉口した不当労働行為という見解を真に受ける必要はない。そのため先例として日本チバガイギー事件を引用した。

 

五 具象的な業務阻害がないことは、無許可組合活動を正当化しない

 

  「本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等の事情のあることは‥‥判断を左右するものとは解されない」

 (国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676

 「本件職場集会‥‥によって病院の業務に直ちに支障が生ずるものではないこと、本件職場集会‥‥事実上の休憩時間にされたか昼休みに終了しないため若干労働時間に食い込んだにすぎないこと、本件職場集会‥‥参加者は業務に支障のない者であり、参加した者も途中業務に支障が生ずれば自由に退出するなどしていたこと」から本件警告書の交付が、権利の濫用と認められる特段の事情があるとした原判決を破棄自判し、「その開催を許さないことが病院の権利の濫用であるとみとめられるような特段の事情があるとも解されない」と説示 (済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786 

「本件で問題となっている施設が食堂であって、組合がそれを使用することによる上告人の業務上の支障が一般的に大きいとはいえないこと」は「権利の濫用であると認めるべき特段の事情があるとはいえ」ない(オリエンタルモーター事件・最二小判平798判時1546130頁)

 

六 懲戒処分の客観性を確保するための目黒電報電話局事件判決の判断枠組

 

 「公社就業規則‥‥は、‥‥前記のように局所内の秩序風紀の維持を目的としたものであることにかんがみ、形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときには、右規定の違反になるとはいえないと解するのが、相当である。」

(目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974)

 言い換えると「就業規則の目的に鑑みれば、形式的に各規定に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右諸規定の違反になるとはいえない」という判断枠組である。つまり実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められれば懲戒処分は無効とされる。

 

()「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」とは抽象的危険説によるもので直接的具象的業務阻害ではない

 

 最高裁は目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974で、具体的危険説(「現実かつ具体的に経営秩序が紊され経営活動に支障を生じる行為」でなければ施設管理権の発動ができないとする)を退け、抽象的危険説を確立した判例である。

 抽象的危険説とは施設管理権の侵害ないし作業能率の低下等の「おそれ」、すなわち、経営秩序の侵害に対する抽象的な危険が存すれば禁止しうるとするものである[高木紘一1978]。

 なお、目黒電報電話局事件は政治活動の事案で、組合活動ではないが、その判断枠組は組合活動にも適用されることは判例法理上必然であり【註1、実際組合活動事案に多く引用されている。 

 

(二)「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」とされた事例

 

 「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」が認定された例は以下のとおり、

 

1.目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974

 

 1)政治活動に対して

 「従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあり、また、それが使用者の管理する企業施設を利用して行われるものである以上その管理を妨げるおそれがあり、しかも、それを就業時間中に行う従業員がある場合にはその労務提供業務に違反するにとどまらず他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であっても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強い」

 

 2)反戦プレートの勤務時間中着用に対して

 「注意力のすべてが職務の遂行に向けられなかつたものと解されるから、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき義務に違反し、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱す点‥また、勤務時間中に本件プレートを着用し同僚に訴えかける‥‥行動は、他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、よって他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げるおそれのあるものであるから、この面からも局所内の秩序維持に反する他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であっても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがある」

 

 3)ビラ配り

「上司の適法な命令に抗議し、また、局所内の政治活動、プレートの着用等違法な行為をあおり、そそのかすことを含むものであつて、職場の規律に反し局所内の秩序を乱すおそれのあつた」

 

2.国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676

 ロッカーへのビラ貼り

「当該部屋を使用する職員等の目に直ちに触れる状態にあり、かつ、これらのビラは貼付されている限り視覚を通じ常時右職員等に対しいわゆる春闘に際しての組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼす‥‥、ビラの貼付を許さないこととしても、それは、鉄道事業等の事業を経営し能率的な運営によりこれを発展させ、もつて公共の福祉を増進するとの上告人の目的にかなうように、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保する、という上告人の企業秩序維持の観点からみてやむを得ないところである」

 同趣旨のものとしてエッソ石油事件・東京地判昭621223労判5097頁「貼付されたビラは債権者の従業員や来客等債権者の事務室へ出入りする者の目に直ちに触れる状態にあり、かつ、これらのビラは貼付されている限り視覚を通じ常時従業員等に対する組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼすものとみられるし(‥‥)、また、ビラ貼付について賃貸人のTBSから抗議を受けているのである。このような点を考慮すると、本件ビラ貼付は、債権者の業務遂行上、また施設の管理上現実の支障をもたらしている」とする。

 

4.JR東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030判時162638

 組合バッヂ着用

「本件組合バッヂ着用行為は‥‥組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから‥‥職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり‥‥これを勤務時間中に行うことは‥‥たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという‥‥職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。」

 

 以上の主要判例の説示するところ、以下の行為は文句なしに実質に企業秩序を乱すおそれがあると認定され懲戒処分は適法と判断される

 

5.職務専念義務違反行為

 

 「職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事すべき義務に違反し、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱す」目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974 同趣旨JR東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030判時162638

 

6.他人の職務専念義務を妨げるおそれ

 

「他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、よって他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げるおそれのある」 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974

「同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれ」JR東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030判時162638

 

 この点について最高裁判例に批判的な労働法学者からも肯定的な評価がなされている。

 例えば菊池高志[1983]「労働者は単に自己の約定労働債務を履行するにとどまちない義務を負うであろう。多数労働者が密接な関連、協力関係に元って業務が遂行される近代的経営の現実に立てば他の労働者の義務履行の障害とならないよう配慮すべき義務を負うと考えることにも合理性があろう」

 

 中嶋士元也[1992]は企業秩序論の内容範囲機能を次の5点にまとめている。

1.服務規定・懲戒規定設定権限

2.企業秩序維持権限にもとづく具体的指示命令権

1)労務提供への規律機能

()労働者の職務専念義務の発生

()他人の職務専念義務への妨害抑制義務

(2)労務履行に関する附随機能(信義則機能)

(3)秩序違反予防回復の機能

3.施設管理の機能

4.企業秩序違反の効果(懲戒機能)

5.その他の機能

 三井正信[2009]は「企業においては共同作業秩序の維持・確保が要請されることになるのはいうまでもない。ことの性質上、共同作業秩序の侵害は協働して働く多くの労働者に重大な影響を及ぼしてその労働の正常な遂行を妨げる可能性ないしおそれを生じさせ、その企業の円滑な運営にとっても障害となるといえよう。つまり集団的・組織的な協働体制に組み込まれた労働者が債務の本旨に従って自己の労働義務を履行することができるためにはそのための職場環境整備の一環として共同作業秩序が維持されなければならず、また使用者も企業の円滑な運営を行うためには共同作業秩序=企業秩序を必要とする。」

 他人の職務専念義務の妨害=共同作業秩序の侵害=企業秩序の侵害との論理を展開している。

 

 

(三)「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」とないとして就業規則な違反せず懲戒処分を無効とした例

 

 ビラ配り事案で数例ある。

 

1.明治乳業福岡工場事件・最三小判・昭58111判時1100151

 

 本件は明治乳業労働組合福岡支部長が休憩時間中に工場内食堂で就業規則一四条「会社内で業務外の集合又は掲示、ビラの配布等を行なうときは予め会社の許可を受け所定の場所で行なわなければならない。」等に違反して行なわれた赤旗選挙号外・日本共産党法定ビラ配布に対する戒告処分を「企業施設の管理に支障をきたし企業秩序を乱すおそれ」はないとして無効とした原審を維持したもの。

 ビラの配布は、食事中の従業員数人に一枚ずつ平穏に手渡し、他は食卓上に静かに置くという方法で行われたものであって、従業員が本件ビラを受け取るかどうかは全く各人の自由に任され、それを閲読するかあるいは廃棄するかもその自由に任されていた。また、右の配布に要した時間も数分間であった。

 上告審は「本件ビラ配布は、許可を得ないで工場内で行われたものであるから、形式的にいえば前記就業規則一四条及び労働協約五七条に違反するものであるが‥‥形式的に右各規定に違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が工場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解される(‥‥)。そして、前記のような本件ビラの配布の態様、経緯及び目的並びに本件ビラの内容に徴すれば、本件ビラの配布は、工場内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められる場合に当たり、右各規定に違反するものではないと解するのが相当」と説示する。

 

 横井大三判事の反対意見は、政治活動は、高度の社会的利害の対立や思想上の反目を包蔵しており、それが企業内において行われるときは、職場に不必要な緊張、摩擦、軋轢を生じさせ、ひいてはその規律を乱し、作業能率を低下させ、企業運営に支障を来す可能性が多分に存し、実質的に就業規則違反とするが、本件は就業規則や労働協約で政治活動が禁止しておらず、たんにビラ配布の問題として処理されているが、政治活動禁止の明文規定があれば、懲戒処分は有効とされた可能性がある。

 

2.アヅミ事件・大阪地決昭62821労判50325

 本件ビラ配布行為は、昼休みきわめて平穏な態様でなされ、内容や表現もとりたてて問題と取れたてて問題とすべき部分はないのだから、形式的には就業規則違反であっても企業秩序・風紀をみだすおそれのない特別の事情(目黒電報電話局事件判決の判断枠組)が認められ、懲戒事由に該当しないとする。

 

3.倉田学園(大手前高(中)校・五三年申立)事件・最一小判平61220民集4881496

 

「形式的には就業規則一四条一二号所定の禁止事項に該当する。しかしながら、右規定は被上告人の学校内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮を目的としたものと解されるから、ビラの配布が形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの内容、ビラ配布の態様等に照らして、その配布が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的には右規定の違反になるとはいえず、したがって、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは許されないというべきである(‥‥)。

 右の見地に立って本件ビラ配布について検討すると、本件各ビラは、いずれも職場ニュースと題する上告参加人の機関紙であるところ、本件各ビラの内容は、香川県下の私立学校における労使間の賃金交渉の妥結額(‥‥)、被上告人との間で予定されていた団体交渉の議題(‥‥)、右団体交渉の結果(同月一六日配布のもの)など、上告参加人の労働組合としての日ごろの活動状況及びこれに関連する事項であって、違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものではない。また、本件ビラ配布の態様をみると、本件ビラ配布は丸亀校の職員室内において行われたものではあるが、いずれも、就業時間前に、ビラを二つ折りにして(‥‥片面印刷のものは、印刷面を内側にして)教員の机の上に置くという方法でされたものであって、本件ビラ配布によって業務に支障を来したことを窺わせる事情はない‥‥本件ビラ配布は、始業時刻より一五分以上も前の、通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯に行われたものであって、前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、本件事案の実情にそぐわない。

 したがつて、本件ビラ配布については、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものということができ、本件各懲戒処分は、懲戒事由を定める就業規則上の根拠を欠く違法な処分というべきである。」

 

 これ以外にもあるが倉田学園事件が著名である。いずれも就業時間外に平穏な態様で配布され、ビラの内容も不当なものではないことから、実質的に秩序をみだすものではないという特別の事情が認められた例である。

 とはいえ休憩時間や就業時間外であるからよいというものでは必ずしもないと考える。就業時間外のビラ配りであっても、配布の場所、態様によっては、日本エヌ・シー・アール出勤停止事件・東京高判昭52714労働関係民事裁判例集2856411頁に(通路巾の狭い各通用口を長い一列縦隊となって通過することが多く、ビラを受け取らない出勤者には次ぎから次ぎにと胸元前方にビラが差し出され通行に渋滞を来しかねないこと状況)によっては、無許可での工場敷地内でのビラ配りの懲戒処分が是認されている例もあるし、国労兵庫支部鷹取分会事件・神戸地決昭63322労働判例51752頁は「ビラ配布等に利用する場合には、休憩時間中であっても、利用の態様如何によっては使用者の施設の管理を妨げる虞れがあり、他の社員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては企業の運営に支障を及ぼし、企業秩序が乱される虞れがあるから、使用者がその就業規則で労働者において企業施設をビラ配布等に利用するときは事前に使用者の許可を得なければならない旨の規定を置くことは、休憩時間の自由利用に対する合理的な制約であると解すべき」と説示しているとおりである。

 

【註1】大成観光事件リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659の新村正人調査官判解は目黒電報電話局事件最高裁判決について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」と記しているように、その判旨が組合活動に適用されることに疑う余地などない。

 

 

引用・参考

 

河上和雄

1980「企業の施設管理権と組合活動--昭和541030日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」法律のひろば3311980

菊池高志

1983「労働契約・組合活動・企業秩序 『法政研究』49(4) 1983

高木紘一

1978「政治活動の禁止と反戦プレートの着用-目黒電報電話局事件」ジュリスト666

中嶋士元也

1992「最高裁における『企業秩序論』」季刊労働法157

三井正信

2009「労働契約法と企業秩序・職場環境(1) <論説> 」広島法学332

渡辺章

2011『労働法講義 下 労使関係法・雇用関係法Ⅱ』信山社

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