三、 ビラ配り
(一)総論
ビラ配りも、国労札幌地本判決の判断枠組が適用される。したがって近年の西日本旅客鉄道(動労西日本)事件東京高判平27・3・25別冊中央労働時報1506号78頁のように「ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性から直ちにビラ配布行為が許容されることにならない」し、企業施設構内のビラ配りは、就業規則により事前許可のないビラ配りを禁止でき、配布の時間や態様を規制できるのは当然のことである。
しかし、ビラ配りは正当な行為とされる余地のないビラ貼りと違って、懲戒処分を無効とする判例も少なくない。
目黒電報電話局事件・最三小判昭52・12・13の「実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、就業規則違反になるとはいえない」という判断枠組を引用して正当な行為とする判例が倉田学園(大手前高(中)校・五三年申立)事件・最一小判平6・12・24労民集48巻8号1496頁等いくつかあるほか、懲戒解雇のような重い処分は無効とされるケースが少なくないので、その点注意を要する。
したがって、就業規則で無許可ビラ配りを禁止しても、組合側は、それが実質的に企業秩序を乱すおそれがなく、事業場の規律を乱さない時間帯及び配布の態様であることを主張することによって無許可ビラ配を正当化する余地が残されている。
1.行為態様・場所・時間について
(1)半強制的なビラ受け取りを促す態様、狭い入口でのビラ配り
●日本エヌ・シー・アール出勤停止事件・東京高判昭52・7・14が、出勤してくる従業員を巾約1.6mの工場内通路の片側ないし両側にならんで迎え、出勤者一名に対し通路手前にならんだ者から順次一名が差し出し、出勤者が受け取らなければ、次に並んだ者が続いてその出勤者の前にビラを差し出し、雨天のため従業員が雨具等を所持していたこともあって、混乱がないではなかったという状況でのビラ配布を理由とする懲戒処分を是認していることから、出勤者の入口で縦隊となった半強制的にビラを受け取らせるような態様は禁止できると考える。
(2)就業中の従業員のいる時間帯
●日本工業新聞社事件・東京地判平22・9・30が、原告合同労組が無許可で配布した機関紙を、会社が回収し、制限した行為は、施設管理権の行使として許容される範囲内であり、配布に事前許可を求めることが支配介入にあたらないと判示したが、事案は平成6年2月1日午後6時過ぎ、Sビル5階の会社内を含む3か所において、会社の従業員のほか産経新聞編集局及び夕刊フジ編集局の従業員等に対し、原告の組合機関紙を約500部配布したこと(、その配布時間帯には、多数の会社の従業員ほか上記各編集局の従業員等が就業中であったこと、Eら会社役員は、Aら3名による会社内での同組合機関紙の配布行為を制止しようとしたが、Aら3名は、それに従わず、その配布を実行したこと等の事案であることから、就業中の従業員のいる時間帯はビラ配りを禁止できると考える。
また●西日本旅客鉄道岡山駅(動労西日本)事件東京高判平27・3・25別冊中央労働時報1506号75頁「本件ビラ配布について、手渡し等による交付の態様自体は、比較的平穏な方法で行われたものと認めることができるものの、配布時間の点においては、配布を受けた相手方社員には手待ちによる業務中の者があって、その全員が休憩時間中又は業務終了後であったとは認められず、職場規律及び職場秩序を乱すおそれがないとまでは認められないものといわざるを得ない」として訓告処分を是認している。
(3)就業時間外・休憩時間
目黒電報電話局事件・最三小判昭52・12・13の「就業規則に形式的に各規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に企業秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右諸規定の違反になるとはいえない」という判断枠組によって懲戒処分を無効とした判例がいくつかある。
○倉田学園(大手前高(中)校・五三年申立)事件・最一小判平6・12・24労民集48巻8号1496頁が、就業時間前の通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯にビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであるなど判示の事実関係の下においては、右のビラの配布は、学校内の職場規律を乱すおそれがないため、正当な組合活動とされている。
同趣旨の判例として政治活動であるが、○明治乳業福岡工場事件・最三小判・昭58・11・1、組合ビラでは◯アヅミ事件・大阪地決昭62・8・21、○JR東海(組合ビラ配布等)事件・東京地判平22・3・25、○エスアールエル事件・東京地判平24・2・27TKC掲載がそうである。
しかし、就業時間外・休憩時間であることからビラ配りが容認されるものではないことも明らかである。●三菱重工事件・東京地判昭58・4・28は労働協約違反として許されないとしており、政治活動事案だが、●日本アルミニウム建材事件・東京高判昭61・8・19休憩時間での配布であっても、就業規則所定の「事業場の規律を乱したとき」に当たるとしている。●国労兵庫支部鷹取分会事件・神戸地決昭63・3・22労働判例517号52頁は「ビラ配布等に利用する場合には、休憩時間中であっても、利用の態様如何によっては使用者の施設の管理を妨げる虞れがあり、他の社員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては企業の運営に支障を及ぼし、企業秩序が乱される虞れがあるから、使用者がその就業規則で労働者において企業施設をビラ配布等に利用するときは事前に使用者の許可を得なければならない旨の規定を置くことは、休憩時間の自由利用に対する合理的な制約であると解すべき」としているとおりである。
(4)敷地の境界、敷地外のビラ配り
○住友化学名古屋製造所事件・最二小判昭54・12・14は就業時間外に会社の敷地内ではあるが事業所内ではない、会社の正門と歩道との間の広場(公開空地)でのビラ配りに対する懲戒処分を無効にしている。○不当労働行為に対す
る損害賠償請求事件・広島地判平26・10・30は、近隣の商業施設でのビラ配布を違法ではないとしている。
しかし●関西電力社宅事件・最一小判昭58・9・8は就業時間外、社宅でのビラ配布、●中国電力事件・広島高判平元・10・23は地域住民に配布した事案で●東急バス事件・東京地判平29・2・3TKCも駅前でのビラ配布であるがビラの内容に基づいて、懲戒処分を是認している。
(5)内容
●関西電力社宅事件・最一小判昭58・9・8は、大部分事実に基づかず、又は事実を歪曲して誇張し、会社を誹謗中傷するものであり、従業員の企業に対する不信感を醸成し、企業秩序を乱すおそれがあるとして、譴責処分を是認している。同趣旨の判例は少なくないが、一方○福岡西鉄タクシー事件・福岡地判平15・1・30 ビラは記載内容において不正確、不適切、誇張にわたる面はあるものの、過度に挑発的な表現を用いて、ことさらに職場秩序を乱す意図を感じさせる程度には至っておらず、一部に事実の裏付けのある記載もあり、組合員に注意を喚起しようとした目的自体は不当とは言い難いとして懲戒解雇を無効とする。○やまばと会員光園事件・山口地判下関支部平21・12・7ビラの内容は、被告の名誉、信用を毀損するものであるが、本件ビラ配布の目的は全体としては被告における職員及び組合の苦しい現状を地域住民に知らしめ組合活動に理解と支援を求めるものと評価することができ、正当な組合活動、同様な趣旨の判例も少なくないので、内容に基づく懲戒の見極めはプロの意見も聴く必要があるかもしれない。
(6)就業規則の明文規定
◯明治乳業福岡工場事件・最三小判昭58・11・1は組合支部長の地位にある従業員が昼の休憩時間に食堂において赤旗号外や共産党の参議院議員選挙法定ビラを食堂において、手渡しまたはと食卓に静かに置くという態様のビラ配りについて工場内の秩序を乱すことのない特別の事情が認められる場合は就業規則違反とみなすことができないという判断をしているが、本件は、就業規則や労働協約で政治活動を禁止していなかったので、ビラ配りの問題として扱われた。しかし、●日本アルミニウム建材事件・東京高判昭61・8・19労働協約で「社内においては一切の政治的活動を行わない」と規定しているために、休憩時間に「赤旗」「日本共産党」等を引用した印刷物等を配布したこを理由とする出勤停止処分が是認されている。
従って、就業規則の記載の有無は大きいのである
(二)各論
1.ビラ配り等に対する警告、懲戒処分が不当労働行為は懲戒事由として有効とした判例、ビラ配り妨害禁止の仮処分申請の却下、損害賠償請求を認容する判例(組合活動のみならず政治活動を含む)
●日本ナショナル金銭登録機懲戒解雇事件・東京地判昭42・10・25労民集18巻5号1051頁
休憩時間中のアカハタ号外配布を理由とする組合支部委員長に対する懲戒解雇は不当労働行為に当たらない。労働基準法第三四条第三項が休憩時間を自由に利用させることを使用者に命じているのは、労働者に義務を課するなどしてその休憩を妨げることを禁じたものであつて、労働者が休憩時間中いかなる行為をも自由にできることを保障したものではない。従って、労働者は休憩時間中法の禁ずる行為をすることができないのは勿論、使用者がその事業場の施設及び運営について有する管理権にもとづいて行う合理的な禁止には従わなければならないと判示。企業内政治活動禁止のリーディングケース。
●日本ナショナル金銭登録機ビラ配り・出勤停止処分事件・横浜地判昭48・2・9労民集24・11・2号
使用者の再三の警告にもかかわらず、無許可で、工場通用口において、出勤してくる従業員に対し組合活動としてビラを配布する行為を継続したことを理由としてした出勤停止処分を有効とする。
「‥‥大磯工場においては、昭和四〇年四月一二日以前は同工場入口においてビラを手渡すといつた配付方法がとられていなかつたこと、支部のとった配付方法に対し被告会社は配付につき被告会社の許可をとるよう再三申入れ警告をなしていること、配付場所の通路が狭いため従業員の出勤に混乱を生ずることは皆無ではなく、特に雨天の日には混乱を生ずる場合のあつたこと、「おはようみなさん」の配付については被告会社はビラボツクスを設置して配付方法を考えていること等の事実が明らかであつて‥‥原告らの行為を正当な組合活動として肯定しうる特段の事由は認められない。 ‥‥本件懲戒処分を課したことは被告会社の有する適法な懲戒権の範囲内にある‥‥」と判示。
●横浜ゴム事件・東京高裁判決昭48・9・28労働法律旬報851号
横浜ゴム労組上尾支部執行委員2名が、施設内における三ないし四回の『アカハタ』の配布・勧誘行為が就業規則所定の企業内政治活動を禁止状況に違反すること。さらに勤務時間中に勤務につかなく、注意されたことに対して棒を振り上げ反抗した、あるいはあやまって器具を損壊したという三~四年前の就業規則違反を理由とする懲戒解雇処分に対して、地位保全の仮処分申請を提起したもので、一審は懲戒処事由としてはささいな事実であり実害もなかったとして無効とする判決であったが、控訴審では懲戒解雇を有効とした。
「企業と雇傭契約を締結した者(従業員)は職場の規律を守り、誠実に労務を提供すべき契約上の義務を負うものであり、企業の施設又は構内において労務の提供と無関係な政治活動を自由に行い得るものとすれば、もともと高度の社会的利害の対立、イデオロギーの反目を内包する政治活動の性質上、従業員の間に軋轢を生じせしめ、職場の規律を乱し、作業能率を低下させ、労務の提供に支障をきたす結果を招くおそれが多分にあるから、使用者が企業の施設又は構内に限ってこれらの場所における従業員の政治活動を禁止することには合理的な理由があるというべき‥‥」
●日本エヌ・シー・アール出勤停止事件・東京高判昭52・7・14労働関係民事裁判例集28巻5・6号411頁
使用者の警告制止にもかかわらず無許可で使用者の所有ないし占有する工場の敷地内において従業員に対し組合活動としてビラ)を配布する行為を継続したことを理由としてなされた出勤停止処分を有効とする。
事案は大磯工場(2007年閉鎖)構内における就業時間前のビラ配りである。
「大磯工場では従業員のうち相当多数が国鉄平塚駅前から被控訴会社大磯工場構内まで乗り入れる通勤バス三台に一台約七〇名宛分乗して午前七時三五分頃から午前七時五五分頃までの間に三回に分れ順次到着出勤するので従業員が前叙のように通路巾の狭い各通用口を長い一列縦隊となって通過することが多く、ビラを受け取らない出勤者には次ぎから次ぎにと胸元前方にビラが差し出され通行に渋滞を来しかねないこともあって、出勤者のうち職制でない従業員の多数は一応ビラを受け取っていた。しかし、前叙のとおりNCR労組が結成されていたこともあり、従業員に手渡された「おはようみなさん」が其の場に捨てられ、散乱することも多かつた」
「出勤してくる従業員を巾約一・六メートルの工場内通路の片側ないし両側にならんで迎え、出勤者一名に対し通路手前にならんだ者から順次一名が出勤者の前に「おはようみなさん」を差し出し、出勤者が受け取らなければ、次にならんだ者が続いてその出勤者の前にビラを差し出し、雨天のため従業員が雨具等を所持していたこともあって、混乱がないではなかった」 といった態様である。
判決は「あくまで組合ビラ配布は自由であるという独自の立場に固執し、被控訴会社の協議に応ぜず、指示に従わず、前叙のとおり一過的にもせよ、繰りかえし大磯工場の敷地建物の機能を害した各控訴人の所為は相当でなく、これを正当な組合活動であると認むべき特段の事由は認められない。そして、‥‥本件懲戒処分は被控訴会社の適法な懲戒権の範囲内にあり、他意はないと認められるから、控訴人らの不当労働行為の主張もまた採用し難い」と判示した。
●目黒電報電話局事件・最三小判昭52・12・13民集31-7-974
日本電電公社目黒電報電話局施設部試験課勤務の職員Xが、昭和42年6月16日から22日まで「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書かれたプレートを着用して勤務したところ、これを取り外すよう上司から再三注意を受けた。同月23日Xはこの命令に抗議し、ワッペン・プレートを胸につけることを呼びかける目的で、「職場の皆さんへの訴え」と題したビラ数十枚を、休憩時間中に職場内の休憩室と食堂で手渡しまたは机上におくというという方法で配布した。
電電公社は上記プレート着用行為が就業規則の五条七項「職員は、局所内において、選挙活動その他の政治活動をしてはならない」に違反する。ビラ配布行為は五条六項「職員は、局所内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしようとするとき、事前に別に定める管理責任者の許可を受けなければならない」に違反し懲戒事由に該当するとして、Xを戒告処分に付したが、その効力について争われた事件である。一、二審は原告の主張を認容し、戒告処分を無効としたが、最高裁は破棄自判して一、二審の判断を覆した。
「一般私企業においては、元来、職場は業務遂行のための場であって政治活動その他従業員の私的活動のための場所ではないから、従業員は職場内において当然には政治活動をする権利を有するというわけのものでないばかりでなく、職場内における従業員の政治活動は、従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあり、また、それが使用者の管理する企業施設を利用して行われるものである以上その管理を妨げるおそれがあり、しかも、それを就業時間中に行う従業員がある場合にはその労務提供業務に違反するにとどまらず他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であっても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強いものといわなければならない。したがつて、一般私企業の使用者が、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべきであり‥‥‥‥局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であっても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあって、その内容いかんによっては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるのであるから、これを局所管理者の許可にかからせることは、前記のような観点に照らし、合理的な制約ということができる。」
また「特別の事情説」という就業規則違反の客観性を確保する判断枠組を示し「形式的には就業規則第一四条に違反することは明らかである。しかし、もともと就業規則は使用者が企業経営の必要上従業員の労働条件
を明らかにし職場の規律を確立することを目的として制定するものであって、とくに右第一四条は、その体裁、目的からして会社内の秩序風紀の維持を目的としたものであるから、形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が会社内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのを相当とする。」というものだが、「本件ビラの配布は、休憩時間を利用し、大部分は休憩室、食堂で平穏裡に行われたもので、その配布の態様についてはとりたてて問題にする点はなかつたとしても、上司の適法な命令に抗議する目的でされた行動であり、その内容においても、上司の適法な命令に抗議し、また、局所内の政治活動、プレートの着用等違法な行為をあおり、そそのかすことを含むものであつて、職場の規律に反し局所内の秩序を乱すおそれのあつたものであることは明らかであるから、実質的にみても、公社就業規則五条六項に違反し、同五九条一八号所定の懲戒事由に該当するものといわなければならない。」とする。
●大日本印刷事件・東京地判昭59・12・21判例時報1139号129頁
夏季一時金交渉の大詰段階で、競業他社の妥結額について誤った情報を記載したビラ(共産党支部ニュース)を作成し、これを就業時間外に会社の近くで配布したことを理由としてなされた解雇を無効としたが、出勤停止を有効とした。
●関西電力社宅ビラ配布事件・大阪高判昭53・6・29労働関係民事裁判例集2
9巻3号371頁、裁判所ウェブサイト
就業時間外に会社社宅にビラを配布したことに対してなされた譴責処分の効力が争われたところ、事案のビラの内容は全体として会社を中傷誹謗するものであり、本件ビラ配布は懲戒事由に該当するとした。
●岩手女子高校事件・仙台地判58・3・31労判413号75頁
校門前での生徒への組合文書配布に対する警告書交付は不当労働行為に当たらない。
●三菱重工事件・東京地判昭58・4・28労民集34巻3号279頁労判4
10号46頁
昼休み中の無許可集会・ビラ配布は労働協約に違反し許されない。
●関西電力社宅・最一小判昭58・9・8判例時報1094号121頁、裁判所ウェブサイト
労働者の配布したビラの内容が、大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲して使用者を非難攻撃し、全体として使用者を中傷誹議するもので、右ビラの配布により労働者の使用者に対する不信感を醸成して企業秩序を乱し、又はそのおそれがあつたときは、右ビラの配布は、就業時間外に職場外において職務遂行に関係なく行われたものであつても、就業規則に定める懲戒事由の一つである「その他特に不都合な行為があつたとき」にあたり、使用者が、これを理由に懲戒として労働者を譴責したことにつき、裁量権の範囲を逸脱したものとは認められない。
●岩手女子高校事件・仙台高判昭60・6・28労判校門付近における、父兄に私学助成運動に対する賛同と署名を呼びかける文書を、登校してくる生徒に配布する行為に対して、学校長名義で、就業規則に違反するので以後同様の行為があった場合は処分する旨の警告書を発したことは不当労働行為に当たらない。
●日本アルミニウム建材事件・東京高判昭61・8・19労働関係民事裁判例集3
7巻4・5号342頁
労働協約に「会社は組合員の政治的活動並びに公職就任の自由を認める。但し組合員は労働時間中及び社内においては一切の政治的活動を行わない。」などと規定されている企業において、昼の休憩時間中に、会社施設内で、「選挙期間中でも自由にできる政治活動」又は「選挙期間中だれにでもできる選挙運動」と題し、「赤旗」、「日本共産党」等を引用した印刷物等を配布したことが、就業規則所定の「事業場の規律を乱したとき」に当たるとして、右の行為をした従業員に対し、3日の出勤停止処分をしたことに、懲戒権の濫用はないとした事例
●国労兵庫支部鷹取分会事件・神戸地決昭63・3・22労働判例517号5
2頁
(ビラ配り妨害排除のための組合による仮処分申請却下)
鷹取工場内の休憩所において、債権者が発行するビラその他の印刷物の配布を行うことに対し、ビラを取りあげたり、懲戒処分をほのめかす等して配布行為を妨害したり、右配布行為者に対し、配布行為を行ったことを理由に懲戒及び不利益取扱いをしてはならないとする仮処分申請を却下。
ビラ配布等に利用する場合には、休憩時間中であっても、利用の態様如何によっては使用者の施設の管理を妨げる虞れがあり、他の社員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては企業の運営に支障を及ぼし、企業秩序が乱される虞れがあるから、使用者がその就業規則で労働者において企業施設をビラ配布等に利用するときは事前に使用者の許可を得なければならない旨の規定を置くことは、休憩時間の自由利用に対する合理的な制約であると解すべきであり(最高裁判所昭和五二年一二月一三日判決、同昭和五四年一〇月三〇日判決参照)、従って、前記就業規則の規定が有効であることはいうまでもない。このことは、そのビラ配布等が債権者の組合活動として行われるものであること、債権者が債務者の企業内組合であることを考慮に入れても、同様である。
以上の見地に立って本件をみるに、本件仮処分申請は、休憩時間中、前記詰所における組合活動としてのビラ配布の妨害禁止及びこれを理由とする懲戒や不利益取扱いの禁止を求めるものであって、限られた局面においてではあっても、右のような就業規則の適用を一般的、抽象的に排除することに帰するから、このような結果を仮処分によって実現することは許されないというべきである。
●中国電力事件・広島高判平元・10・23判例時報1345号128頁
「島根原発の社員は地元の魚は食べません」「その放射能がみなさんの頭の上に降ってきます」などの記載を含むビラを配布したことを理由とする組合役員の懲戒処分につき、本件ビラにはその主要部分について虚偽事実の記載があり懲戒処分を支持す。
●倉田学園大手前高松高等学校事件・東京地判平2・4・9労働判例・重要労働判例総覧91年版33頁
始業時間前の職員室における組合ビラ配布を理由とした前執行委員長に対する訓告及び戒告処分は不当労働行為に当たらない。
●倉田学園大手前高松高等学校・最一小判平2・12・25労判600号9号
上告棄却。始業時間前の職員室における組合ビラ配布を理由とした前執行委員長に対する訓告及び戒告処分は不当労働行為に当たらない。
●倉田学園(大手前高(中)校)五三年申立)事件・高松高判平3・2・29
最高裁判所民事判例集48巻8号1651頁
無許可で職場ニュースを配布したことを理由とする組合ニュースを配布した
ことを理由とする組合幹部の懲戒処分は不当労働行為に当たらないとした。
●宮城県教委(仙台市立通町小学校)事件・仙台地判平3・3・27労働判例588号53頁
本件は、成田空港二期工事反対闘争に参加し逮捕された事案での懲戒免職処分を是認したものだが、原告が昭和50年6月18日「10・20三里塚で中曽根を倒そう」等の見出しで10・20集会への参加を呼びかける「三里塚ニユース(No3)」という謄写版ずりのビラ他の教職員が退勤した午後五時四五分ころ、通町小学校の職員室において、個人名を書いた封筒に本件ビラを入れて全職員の机上に配布し、翌一九日本件ビラの配布を知った同小学校校長は、午前八時三〇分頃から職員室で行われた朝の打合せで、本件ビラが教育の場にふさわしくないものであると指摘し、全職員には原告に返還等するか廃棄するようにとの処置を指示し、原告に対しては配布した本件ビラの回収を命じたが、原告は応じなかったことを、職務命令に従う義務違反とする懲戒事由を是認している。
控訴審仙台高判平4・8・27労働判例618号27頁も原判決を維持。
●JR東日本(国労高崎地本)事件・東京高判平5・2・10労働関係民事裁判例集
44巻1号95頁
出向先の会社の門前で出向制度を批判する演説、ビラ配布等の情報宣伝活動をした組合員らに対し使用者がした出勤停止の懲戒処分につき、労働組合側が出向先企業に向けて情報宣伝活動を行うこと自体は許されるとしても、その内容、方法、態様等は、出向先企業に対し不当に不安動揺を与えたり、出向先企業の出向元企業に対する信頼を失わせ、もって出向元企業の出向制度の円滑な実施に不当な影響をもたらすようなものではないことが要求され、交渉の対象となる出向制度自体の破壊につながるおそれのある行動をすることは、特段の事情のない限り労働組合の正当な活動の範囲内にはないとし懲戒処分は著しく重く不相当なものとはいえないとして、不当労働行為に当たらないとした。
●大阪相互タクシー・相互不動産事件・大阪地決平6・4・15労働経済判例速報1
543号21頁
使用者代表者が参加する予定の寺院の落慶法要の日に、労働組合が当該寺院の参道で行う予告をしている宣伝活動等の組合活動の禁止の仮処分を求めたケースで、寺院周辺地域内であえて面会を実現しようとつきまとう等のことは許されないから、その限度で組合活動を禁止する仮処分命令を発することができるとした。
●東京医療生活協同組合執行文付与の訴請求事件・東京地判平6・1・28判例タイムズ851号286頁
原告は、原告を債権者、被告らを債務者として、債務者が債権者所有の土地建物に立ち入ることや同所においてビラ配りをすることなどを禁じ、これに違反した場合には債権者に対して1日につき金20万円を支払うことを命じる仮処分決定正本による債務名義を有しているところ、債務者が右決定に違反する行為をしているとして、原告が、被告に対し、本件決定正本につき、強制執行のため、原告に執行文を付与することを求めた事案において、本件決定により禁止される行為は、禁止区域及び禁止行為態様は客観的に定められていて明確であり、禁止表現内容についても明らかであるので、被告らの表現行為が、その行為態様及び場所において本件決定により禁止されたものに当たるか否かは容易に判断することができ、表現行動を広範に事前抑制し、被告らの表現行動を著しく侵害するものではないなどとして、訴えを認容した事例。
●東京医療生活協同組合立入禁止等請求事件・東京地判平7・9・11労働判例682号37頁
職員の解雇撤回を求めて病院内で行われた、ビラ配り、連呼、ゼッケン着用旗掲示などの活動について、病院側が差止請求を認容。
●延岡学園事件・宮崎地方裁判所延岡支部平10・6・17労判752号60頁
学校法人の教員(組合員)が校内でリボンを着した行為及び生徒に争議行為に係る文書を配布した行為は、組合と右法人間の協定及び勤務規定に違反する行為であり、教員に対する懲戒解雇は不当労働行為に当たらないとした。
●上原学術研究所事件・大阪地判平11・2・17労働判例763号52頁
原告財団の従業員である分会長らが組合の要求を訴えるビラを作成して配付等したが、理事長への面会強要や自宅周辺での街頭宣伝活動をしたこと等であったため、それらの組合の行為は原告財団らを誹謗中傷するものであるとして、分会長らと組合を相手方として損害賠償とビラ配付等の差止めを求めたイ事件では損害賠償を認めたが、前述の組合の行為等を理由とする懲戒処分が組合の弱体化を企図してなされた違法なものであるとして損害賠償を求めたロ事件においては、懲戒処分の真の意図が分会の弱体化にあったとして、損害賠償請求を認めた。
●区立中学校教諭分限免職事件・東京地判平21・6・11
本件戒告処分、本件各研修命令及び本件分限免職処分の違憲性、違法性を主張して、本件戒告処分及び本件分限免職処分の各取消並びに本件各研修命令の無効確認等を求めた事案において、原告が、教師という立場で、特定の者を誹謗する記載のある本件資料を授業の教材として作成、配布することは、公正、中立に行われるべき公教育への信頼を直接損なうものであり、教育公務員としての職の信用を傷つけるとともに、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であり、懲戒事由該当性が認められるとした。
●日本工業新聞社事件・東京地判平22・9・30労働経済判例速報2088号3頁
原告合同労組が補助参加人会社施設内において無許可で配布した機関紙を、補助参加人会社が回収し、あるいは制限した行為は、施設管理権の行使として許容される範囲内であり、配布に事前許可を求めることが支配介入にあたるとは言えないし、訴外企業内労組との関係で中立保持義務に違反するとも認められないから、配布妨害の禁止等を求める救済命令申立てを棄却した中労委命令は適法であるとした。
●明治大学情宣活動禁止等請求事件・東京地判平24・12・13判例タイムズ13
91号176頁
元明大生協従業員らは、今後予定されている明治大学の入学試験日において、各校舎付近で、拡声器を用いて演説を行い、受験会場に向かう受験生に対して大学を糾弾する旨のビラを配布するなどの情報宣伝活動を行うことが予想され、大学の本件差止め請求は、明治大学の入学試験日において、各校舎の半径200m以内での情報宣伝活動等大学の行う業務の平穏を害する一切の行為の差止めを求める限度で理由があるとした。
●JR西日本岡山駅(動労西日本)事件東京地判平26・8・25労働判例1104号26頁
組合員は、本件ビラ配布以前においても、会社に許可を得ないまま、施設内のホワイトボードにビラを貼付して厳重注意を受けたり、その他、本件ビラ配布以外にも30回ほど会社に無許可で施設内におけるビラ配布を行っていたものであって、本件訓告は労組法7条1号の不当労働行為に該当しない
●JR西日本岡山駅(動労西日本)事件東京高判平27・3・25別冊中央労働時報1506号78頁
訓告処分が会社の合理的裁量を逸脱する不当に重いものではないと原判決を維持
1審被告は、本件ビラ配布について、社員の職務専念上又は業務上支障をきたしたり、職場秩序を乱したりするおそれのほとんどない場所で行われ、とりわけ、岡山駅2階営業事務室内個人用小ロッカー前通路及び同駅2階男子ロッカー室(休養室)については、営業区域に隣接しながらも明確に区別され、業務を遂行する場所のように社員に緊張感を持つことが求められる場所とは明らかに異なるものであって、業務との関係性は希薄であり、その配布の態様は、相応の配慮がされ、会社の業務運営に支障を及ぼさないような平穏なものである上、本件ビラの内容も、組合の情報や主張の伝達を図るものであって、職場秩序を乱すおそれがあると評価されるようなものでないことからすれば、職場秩序を乱すおそれがあるとはいえない特別の事情があったものであり、また、組合は.会社から組合掲示板が貸与されず、組合の情報伝達活動や組織拡大の呼びかけの手段がほぼビラ配布に限られ、ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性があった旨を主張する。
しかし、本件ビラ配布については、職場規律及び職場秩序を乱すおそれがないとまでは認められず、上記特別の事情があるとは認められないこと、ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性から直ちにビラ配布行為が許容されることにならない‥‥」
●東急バス事件・東京地判平29・2・3TKC
駅のバスターミナルにおいて本件ビラを配り、被告の信用を失墜させたとして、被告から、平均賃金の1日分の2分の1を減給する旨の懲戒処分を受けたところ、本件ビラの配布は懲戒事由に当たらないし、これを理由とする懲戒処分は不当労働行為に該当し無効であると主張して、被告に対し、雇用契約に基づき、減額された賃金及び遅延損害金の支払いを求めるとともに、無効な懲戒処分が不法行為に当たると主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料等の支払いを求めた事案において、「安全運転にも支障をきたしかねない事態です。会社はこのような状況を知りながら、何ら改善の手段をとらず、このような状況を黙認していました。」等の記載が事実に反するか、事実を誇張又はわい曲して記載したものと認められる等のことから、懲戒処分は有効であり、不法行為法上の違法も認められないとして、原告の請求をいずれも棄却。
●豊中市教委事件・大阪地判平30・3・26TKC
職務命令を受けていたにもかかわらず、同職務を離れ、同校の敷地内で、校長の許可を得ることなく、原告自身が卒業式に参加できないことや君が代に反対であること等を記したビラを保護者に配布したり、式場の外側から繰り返し叫んだことなどを理由に、市教委から1か月間給料月額の10分の1を減給する旨の懲戒処分を受けたことについて、同処分が違法であると主張して、被告(豊中市)に対し、その取消しを求めた事案において、市教委の判断に、懲戒権者としての裁量権の逸脱・濫用があるということはできないとして、原告の請求を棄却した事例。
2.ビラ配り等を理由とする懲戒処分等を無効とした判例
○山恵木材解雇事件・東京地判昭40・4・28民集25巻4号529頁
本件ビラ貼り、配布はストライキ中の組合活動として正当な行為であり、解雇を不当労働行為として無効とする。
○東洋ガラス通常解雇事件・横浜地川崎支決昭43・2・27労民集19巻1号労民集19巻1号161頁
自己の休憩時間中に、作業中の同僚に対し交通料金値上反対および国鉄による米軍のジェット燃料輸送反対の署名を依頼したことによる解雇が、権利の濫用として無効とする。使用者は元来労働者に休憩時間を自由に利用させなければならないものであるから、職場規律保持上これに制限を加えるのはやむを得ないとしても必要の限度内にとどまるべきであり、重い咎めをうけるべき筋合のものではない。」
○日本ナショナル金銭登録機懲戒解雇事件・東京高判昭44・3・3労民集20巻
2号227頁
休憩時間中に事業場内の食堂においてアカハタ号外を従業員多数に対し配布した行為を理由とする懲戒解雇を無効とする。具体的危険説の判例。控訴人は赤旗号外を30~50枚位、昼休みに蒲田工場の食堂内で食事中の組合員または非組合員たる従業員多数に対し平穏に無料で配付し、任意に受取られたもので、その受領、閲読、保存または廃棄についても何ら強制的なものがなく、政治活動としては最も平穏、軽微なものであって、その内容が共産党の主義主張であっても、自他の休息、疲労回復を妨げ、その他被控訴人会社の生産に直接影響するものでないとし、政治活動をしたことにならないとする。
○住友化学名古屋製造所事件・最二小判昭54・12・14判時956号114頁
就業時間外に本件ビラを配布したものであり、また、その配布の場所は、会社の敷地内ではあるが事業所内ではない、会社の正門と歩道との間の広場であって、当時一般人が自由に立ち入ることのできる格別会社の作業秩序や職場秩序が乱されるおそれのない場所であるビラ配布行為は施設管理権を不当に侵害するものでないとして懲戒処分を無効とした原審の判断を是認。
○大和タクシー外二社事件・広島地判昭57・2・17労判387号カード
本社及びLPGスタンドのある場所の路上での宣伝、ビラ配布に対する管理職の妨害行為と、就業時間中の組合活動に対する警告書の交付を不当労働行為とする。
○西日本重機事件・最一小判昭58・2・24労判408号50頁
始業時の直前、昼休みのビラ配布に対する警告書の交付を不当労働行為とする。
○明治乳業福岡工場事件・最三小判・昭58・11・1判時1100号151
頁裁判所ウェブサイト
休憩時間中に工場内食堂で就業規則等に違反して行なわれた赤旗選挙号外・日本共産党法定ビラ配布に対する戒告処分を「企業施設の管理に支障をきたし企業秩序を乱すおそれ」はないとして無効とした原審を支持。
(横井大三判事の反対意見あり)
○あけぼのタクシー事件・福岡高判昭59・3・8労働関係民事裁判例集35巻
2号79頁
ビラの内容、営業車への書込闘争を理由としてなされた組合委員長、書記長に対する懲戒解雇を不当労働行為とした労働委員会命令を維持した原判決を支持。
○八重洲無線事件・東京地判昭60・3・18例時報1147号150頁
◯日本チバガイギー事件・東京地判昭60・4・25労民集36巻2号237頁
本件で配布されたビラは誹謗、中傷し職場秩序を乱すものではなく、配布された時間も早朝、就業時間前であり、配布場所も業務に支障を生じるような場所ではではなかった。ビラ配布によってその場で喧噪や混乱状態を生じたという事情も認められないことから、本件ビラ配布の警告は、権利の濫用であると認められる特別の事情がある場合に該当し、組合活動に対する支配介入とした。控訴審東京高判昭60・12・24労民集36巻6号785頁でも一審の判断維持
◯大鵬薬品事件・徳島地判昭61・10・31労判485号36頁
会社構内で、上部団体の支援を受けて集会を開き、これと合わせて駐車場や正門出入口付近で帰宅する従業員を対象に組合への参加を呼びかけること等を内容とするビラを配布するというものであったが、このとき集会やビラ配布の現場には原告の課長等の管理職が多数これを包囲するようにして、監視の目を光らせた。そのため帰宅する従業員のなかにはビラの受取りを躊躇する者もあり、駐車場や正門出入口でのビラ配布では十分な活動の実効をあげ得な
いと判断した組合は、三回目のビラ配布活動を行うころから、配布の時間を正午から午後一時までの休憩時間帯とし、場所を従業員食堂の出入口からその内部、さらには休憩室・娯楽室へと切り換えていったという事案での管理職による警告書交付が不当労働行為に当たるとした労委命令を支持。
○アヅミ事件・大阪地決昭62・8・21労判503号25号
また本件ビラ配布行為は、昼休みきわめて平穏な態様でなされ、内容や表現もとりたてて問題と取れたてて問題とすべき部分はないのだから、形式的には就業規則違反であっても企業秩序・風紀をみだすおそれのない特別の事情(目黒電報電話局事件判決の判断枠組)が認められ、懲戒事由に該当しないとする。
○倉田学園(大手前高(中)校・53年申立)事件・高松地判昭62・8・27労民集48巻8号1605頁、倉田学園(大手前高(中)校・57年申立)
事件・高松地判昭62・8・27労判509号69頁
無許可で職場ニュースを配布したことを理由とする組合幹部の懲戒処分は権利の濫用であり、正当な組合活動として、不当労働行為を認めた労委命令を支持する。
◯博多第一交通事件・福岡地決平2・6・3労働判例564号38頁
組合が配布したビラの内容は、不適切もしくは不穏当な箇所が存したのではないかとの疑念も存在するが、会社と組合間の一連の労使紛争は、主に会社側の組合員に対する強引かつ執拗ないやがらせや脱退工作に端を発するものであること、また、本件ビラの配布は、会社の幹部による組合の切り崩しに対して組合の組織を防衛することを目的として行なわれたものであることなどから、本件ビラの配布行為は適法といえ、この行為を理由としてなされた組合執行委員長の解雇は、使用者に許された懲戒権行使の範囲を著しく逸脱したものというべきであり、解雇権の濫用となり無効である。
◯国鉄清算事業団(JR九州)事件・福岡地小倉市判平2・12・18労働判例575号11頁
「国労では、毎年六月に全国大会、八ないし九月に中央大会、一〇ないし一二月に支部大会、一二月に分会大会が開かれ、右各大会の代議員を選ぶために選挙が行われていること、右代議員選挙のため運動としては各職場を回って数分の間にビラを配布し、演説を行うという形式をとってきたこと、昭和五七年ころ以降国鉄では職場規律の確立、総点検が言われ、また、第二てこの入口には「勤務者以外許可なく入室を禁ずる。」旨の張り紙があるが、手待ち時間など勤務時間中に、オルグ隊が第二てこ中継運転室及び門操下りに入っても、管理者にオルグ活動を制止されたことはなかったこと‥‥国鉄は、国労が従来の慣習の是正に反協力的であったり、、国鉄再建策としての分割民営化にあくまで反対し、そのため抗議行動をしてきたことに対して差別的ともみられる強硬な姿勢をとり、国労の指令を守る国労組合員に対して懲戒処分をするほか、管理者らをしてその組合活動を実質的に妨害してきた‥‥中継運転室及び門操下りで本件オルグ活動を行うにあたって施設管理者の許可を得ていないものの、オルグ活動を行っても職場秩序を乱したと認められない特別の事情があるというべきである。
◯住友学園・大阪地判平6・11・13労判674号22頁労判674号・22頁
学校批判のビラ配布を理由とする懲戒解雇を解雇権の濫用として無効とする。
「本件ビラは、入試説明会に来校した生徒(中学三年生)にも配付されたものと一応認められるから‥‥教育的配慮に欠けるとの謗りは免れない。‥‥債権者からは、学園改革のための緊急避難的行為であるとの反論はあろうが、生徒にまで配付するというのは行き過ぎである。
‥‥本件ビラ配付は、その内容が正確性に欠ける点や配付方法が教育的配慮に欠ける点において一応は懲戒事由に当たるといえるが、その程度はさほど重大であるとは思われない‥‥・」
○住吉学園事件・大阪地決平6・11・22労働判例674号22頁
ビラの内容が多少不正確であっても程度は軽微として、ビラ配布によってなされた解雇を無効する。
○倉田学園(大手前高(中)校・五三年申立)事件・最一小判平6・12・2
4労民集48巻8号1496頁)
一部破棄自判、一部破棄差戻。
私立学校の職員室内で、教職員が使用者の許可を得ないまま組合活動としてビラの配布をした場合において、右ビラが労働組合としての日ごろの活動状況等を内容とするもので、違法不当な行為をあおり又はそそのかすこと等を含むものではなく、右配布の態様も、就業時間前の通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯にビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであるなど判示の事実関係の下においては、右のビラの配布は、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものとして、使用者の許可を得ないで学校内でビラの配布等をすることを禁止する旨の就業規則に違反しない。
○医療財団法人みどり十字事・福岡地小倉支判平7・4・25労働判例680号6
9頁
ビラ配布によってなされた解雇を無効。
◯四日市北郵便局事件・津地方裁判所四日市支部平7・5・19労判682号91頁
管理職らが郵政労組員らに対し、ビラ配布の妨害、給与の貯金口座振込強要、挨拶をしないことを口実とした降格・退職の強要などを行ったことにつき慰謝料請求を認容。
○中労委(倉田学園学園事件)・東京地判平9・2・27労民集48巻1・2号20頁裁判所ウェブサイト
労働組合による無許可ビラ配布を理由とした組合執行委員長等に対する警告書の交付、組合員に対する労務担当者の発言、会議室の無許可使用を理由とした組合執行委員長に対する警告書の交付及び使用者の退職勧奨行為につき、いずれも組合の弱体化を意図して行われたものであるなどとして、労働組合法7条3号の支配介入に当たるとした。
○中央タクシー事件・徳島地判平10・10・16TKC掲載
被告会社の女性従業員の仮処分事件の裁判支援活動に伴って、原告組合委員長らが、被告代表者の名誉を毀損するビラ等を駅前等で配付したことを就業規則違反として解雇および出勤停止処分を受けたことに対して、ビラ配付は正当な組合活動であるとして、懲戒処分を無効とした。
○全日本運輸一般労働組合千葉地域支部事件・東京高判平11・11・24判例時報1712号153頁
被告(被控訴人)らが原告(控訴人)の取引先に対して、具体的事実を摘示して原告が不当労働行為を行った旨を明らかにした要望書を送付した行為によって、原告の名誉・信用が毀損されたとして、不法行為に基づく損害の賠償を求めたところ、棄却されたため、原告が控訴した事案において、表現内容の真実性、表現方法の相当性、表現活動の動機、態様、影響等を総合すると、被告らの送付行為は、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲のもので、違法性はないから、不法行為に当たるとはいえないとして、控訴を棄却。
○福岡西鉄タクシー事件・福岡地判平15・1・30労働判例848号56頁
タクシー乗務員として被告に勤務していた原告が、ビラを被告従業員に配布したことによる懲戒解雇の効力を争った事案において、本件ビラは記載内容において不正確、不適切、誇張にわたる面はあるものの、過度に挑発的な表現を用いて、ことさらに職場秩序を乱す意図を感じさせる程度には至っておらず、一部に事実の裏付けのある記載もあり、組合員に注意を喚起しようとした目的自体は不当とは言い難いことからすれば、本件ビラの配布は被告就業規則の懲戒解雇事由に該当しないとした。
○福岡西鉄タクシー事件・福岡高判平15・12・1労働判例867号12頁
本件ビラ配布が懲戒解雇事由に当たらないと原判決を維持。
○東急バス(チェック・オフ停止等)事件・東京地判平18・6・14労働判例923号68頁
被告は、東急バス労組に対しては、日常的に被告職場内で情宣活動(ビラ配布、掲示板使用等)を行うことを認め、春闘時などには、各職場(営業所)において組合旗や横断幕を使用した職場集会を行うことを容認しているが、原告組合に対しては、ビラ配布等について警告書を発して処分をほのめかし、施設内情宣活動を禁止している‥‥、東急バス労組に対する便宜供与の程度と比較すると、組合員数(弁論の全趣旨によれば、東急バス労組には約一六〇〇名の被告従業員の大半が加入しているが、原告組合に加入する被告従業員は十数名程度であると認められる)の差を考慮しても、その取扱いの差に合理的な理由があるとは解されず‥‥他労働組合と比べて極端な差別的取扱いといわざるを得ない郵便物受取り上の便宜供与につき複数の労働組合を極端に差別することは不当労働行為に当たるから、差別的取り扱いを受けた労働組合は会社に対して、不法行為を理由とする損害賠償を請求できる。
○やまばと会員光園事件・山口地判下関支部平21・12・7労働判例1002号68頁
社会福祉法人である被告から懲戒解雇された原告が、解雇は不当労働行為であるなどとしてその効力を争った事案で、本件ビラの内容は、被告の名誉、信用を毀損するものであるが、本件ビラ配布の目的は、全体としては被告における職員及び組合の苦しい現状を地域住民に知らしめ、組合活動に理解と支援を求めるものと評価することができ、その他の一切の事情を考慮すれば、本件ビラの配布は、正当な労働組合活動として社会通念上許容される範囲内のものとして違法性が阻却されるか、そうでないとしても、その違法性の程度は、懲戒解雇に値するほどに重大なものではないとして、本件解雇は解雇権の濫用とする。
◯JR東海(組合ビラ配布等)事件・東京地判平22・3・25別冊中央労働時報1395号42頁
東海旅客鉄道株式会社が、その管理者による呼出に応じなかった被告補助参加人分会の書記長に対し、1日半にわたり無許可ビラ配布の事情聴取を行い、その中で、顛末書の提出を求め、さらに、就業規則の書き写しを命じた行為等がいずれも労働組合法7条3号の不当労働行為に当たると判断され、その旨等を記載した文書の交付を命ずる救済命令を発せられた原告が、同命令の取消しを求めた事案において、上記事情聴取、顛末書の提出及び本件就業規則総則服務規程の書き写しを命じたことは、被告補助参加人らの組合運営への支配介入に当たるというべきであり、本件事情聴取における管理職の対応、認識等に照らすと、当該支配介入に係る不当労働行為意思も認めうるから、上記原告の行為は、労働組合法7条3号の不当労働行為に該当する等として、原告の請求を棄却した事例。
○エスアールエル事件・東京地判平24・2・27TKC掲載
会社が、ストライキに参加した組合員について無断欠勤扱いをし、次期雇用契約の期間を通常の有期雇用契約の4分の1に短縮したことは、労働組合法7条1号の不利益取扱いに該当するとしたものだが、平成20年3月19日、日野ラボの構内に立ち入り、組合ビラを配布した件につき、「ビラ配布による組合活動の重要性にかんがみると、当該ビラ配布により使用者の「秩序風紀を乱すおそれ」があると認められない場合には、当該ビラ配布は、上記「労働組合の正当な行為」に該当するものと解されるところ(最高裁昭和52年12月13日第三小法廷判決・民集31巻7号974頁、最高裁平成6年12月20日第三小法廷判決・民集48巻8号1496頁)、本件組合役員3名は、時間、場所、配布の態様等について一定の配慮をしてビラ配布を行ったことがうかがわれる上、そのビラ配布により原告の業務に具体的な支障が発生した事実も認められない。しかも配布ビラは他の従業員(とりわけ夜間勤務のスタッフ社員)に向け、ストライキに対する理解を求めることを目的としたものであり、原告においても、ビラの配布自体は制止してはいるものの、構内からの退去は求めていない。以上に加え、従前、原告はビラ配布に対して懲戒処分を行った経緯がないことなどを併せ考慮すると本件組合役員3名の上記ビラ配布は、原告検体受付課の「秩序風紀を乱すおそれ」がないもので、上記「労働組合の正当な行為」に該当する」と判示。
○不当労働行為に対する損害賠償請求事件・広島地判平26・10・30裁判所ウェブサイト
本件分会の組合員らは、平成22年9月18日及び同年10月17日、マックスバリュやアクロス等の商業施設において、「P2社長は組合つぶしをやめろ!」「会社は組合と誠実に交渉せよ」等と記載されたビラを配布した。
平成22年10月15日、ストライキに入った平成22年11月4日、乗務停止処分及び無線配車停止処分を通知した、報復の意図や組合活動を萎縮させようと意図するものと推認され、原告組合に対する支配介入に該当する。
組合が配付したビラには、「時給530円はひどすぎる」、「組合つぶしに走るB1社長」、「やくざを使って脅す」などの記載がなされている。
この「時給530円」や「組合つぶし」といった表現は、やや誇張した部分はあるものの、虚偽の事実を記載したとまでは認められない。
また、「やくざを使って」という表現については、少なくとも、会社がそのような行為をしたと被告補助参加人が信じることに相当の理由があると認められる。
以上のとおり、被告補助参加人の組合員が配布したビラの内容は、真実あるいは真実と信じるについて相当の理由があると認められ、仮に原告の名誉又は信用を侵害する場合であっても、相当性の範囲内にあると認められる。
本件ビラ配布行為については、P店管理事務所から原告に抗議があったことは認められる。しかし、被告補助参加人の組合員は、ビラ配布に当たっては、P店等の敷地内に侵入しないように注意を払っており、拡声器等を使用することなく、商業施設の平穏を乱すような態様で行われたとは認められない。
したがって、本件ビラ配布行為は、組合活動としての正当性を失わせるほどに違法な態様で行われたものではなく、社会通念上許容された範囲内で行われたものと認められる。
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