東京都水道局の争議行為対応等労務管理を是正を求める意見具申 その3
(承前)
令和6年12月18日
東京都水道局は、4類型の違法行為.外形上犯罪構成要件該当行為、職場の秩序を乱す行為を広範に許容し、平成16年3月後藤都議の質問の対応として行った東岡職員部長通知による頭上報告の警告以外、いっさい職務命令を行わない。最高裁が否認しているプロレイバー学説による脱法的不適切な労務管理・庁舎管理がなされており、抜本的是正を求める意見具申 その2
(公開用・簡略版-実際に知事等に送ったものから実名や固有名詞等の一部等を省略したうえ、文章をやや簡略化したもの)
東京都水道局は事実上、全水道東水労の違法争議行為と外形上犯罪構成要件該当行為を正当業務として扱い就業命令.中止解散命令等の職務命令を行わず、規律ある業務の運営体制を確立することを放棄し、違法行為を助長していることが、コンプライアンス経営宣言に反し、地公労法11条1項の保護法益である住民全体の利益を侵害しているので是正されるべきでありその改善策を提案するというのが意見書の基本的趣旨です。
目次
第Ⅱ部 東京都水道局の労務管理の包括的改革 1
(Ⅰ) 就業規則の整備 1
一 要旨 1
二 東京都水道局就業規則追加案 3
三 明文規程を追加する目的と理由・法的根拠 4
(一) 対組合活動方針の全面的転換 4
(二)無許可の演説・集会・組合活動の禁止(追加案1と2)の目的と運用について 6
1 東岡職員部長通知は解消し演説行為等は全面的に禁止事項とする 6
2 集会は平時、会議室等の施設利用は広範に認める 8
3 集会.演説行為で施設利用拒否と中止・解散命令を義務とするケース 9
4 集会規制の根拠となる判例1(企業秩序論系) 9
(1)最高裁5判例は無許可集会を明確に正当な行為でないと判示 10
(2)懲戒処分する場合に注意を要すること 10
(3)各論 10
A 勤務時間中の無許可集会-正当な組合活動とされる余地なし 10
B 違法行為を助長するおそれにより集会を不許可とすることは適法 10
C 休憩時間.就業時間外の集会で正当な組合活動とされなかった事例 11
D 例外的に集会使用拒否等が不当労働行為とされた事例 12
5 集会規制等の根拠となる判例2(財産管理法制系) 12
(三)他の職員の職務遂行、職務専念を妨げる行為の禁止(3) 14
(四)業務外の徽章・胸章・腕章等の着用禁止(4) 14
1 春闘ワッペンの取り外し命令の根拠とする 14
2 春闘ワッペンの法的評価=就業時間中の組合活動とみなされる 15
2 服装闘争判例は正当な行為と認めていない 15
(1)国労青函地本リボン闘争事件 ・札幌高判昭48.5.29労民24-3-257 16
(2)大成観光リボン闘争事件・ 東京地判昭50.3.11民集36-4-681 17
(3)目黒電報電話局反戦プレート事件.最三小判昭52.12.13民集31-7-974 18
(4)大成観光リボン闘争事件・最三小判昭57.4.13民集36-4-659 19
3.春闘ワッペンは労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよい 19
(1) 私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用される 19
(2)予想される組合側の反論に対する再反論(長文になるのでせ註記に移す) 20
(六)業務外の車両.旗.幟.プラカード.横断幕.立看板等の持ち込み、設営。集団行進、示威行為等の禁止 20
(七)文書・印刷物の配布の時・態様・内容の規制(8) 24
1 平時は無許可配布を認めるが、闘争態勢では許可制 24
2 ビラ配り判例の分析と対応 25
(1)行為態様.場所.時間について 25
A 半強制的なビラ受け取りを促す態様、狭い入口でのビラ配り 25
B 就業中の従業員のいる時間帯 25
C 就業時間前.休憩時間 25
D 敷地の境界、敷地外のビラ配り 26
E 内容 26
F 就業規則の明文規定 26
(2)ビラ配りへの警告、処分を適法、妨害禁止の仮処分申請を却下 26
(3)ビラ配り等の懲戒処分を無効 27
(七) 組合掲示板以外のビラ貼りの禁止(8) 29
1 無許可ビラ貼りは正当な組合活動でないことは確定している 29
2ビラ貼り取り締まりの根拠 31
(1)国労札幌地本事件最三小判昭54.10.30に至るまでの判例の進展 31
(2) 国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭54.10.30 31
(3)懲戒処分等の判例 32
(4) 損害賠償請求判例 33
(5)仮処分申請 33
(6)建造物損壊罪.器物損壊罪 33
(7)建造物侵入罪 34
(8)使用者の自救行為について 34
(八)組合掲示板の不都合な掲示物の撤去 34
(九)局所内の政治活動の禁止は検討したが、今回の提案では見送る 37
(十)煙突闘争類似事案について 38
(十一)その他追加した規則について 39
第Ⅱ部 東京都水道局の労務管理の包括的改革案
(Ⅰ) 就業規則の整備
一 要旨
就業規則に🔶局所構内における無許可集会、演説行為禁止、🔶局所構内における無許可組合活動の禁止、🔶他の職員の業務を妨害もしくは職務専念を妨げる行為の禁止、🔶業務外の徽章、胸章、腕章等の着用の禁止、🔶不適切な掲示物の禁止など新設する。
主たる目的は職場環境を適正良好に保持し規律のある業務運営態勢を確立するため、昭和50年代に最高裁が案出した企業秩序論の判例法理にもとづき、法益調整論、受忍義務説の調整的アプローチを排除した労務管理を行う。
野放図に容認していた正当でない組合活動等、違法行為と秩序を乱す行為を取り締まる根拠を明文化するためである。
最高裁は私企業において懲戒処分の前提として就業規則の記載(国労札幌地本事件.最三小判54.10.30)と周知(フジ興産事件.最二小判平15.10.10)を求めており、規則の明文化が必要なのである。
水道局は公法上の勤務関係だが、私企業判例の企業秩序論に準拠できる。(詳しくは「第Ⅰ部(Ⅳ)パラダイムチェンジの手法について(一)企業秩序論による管理を徹底すべし」)を参照されたい。規則の明文規定がないと管理職や監察指導課が違法行為を野放しにする口実になり、労働組合との不透明な癒着の要因となっているのでこの改革は必須である。
二 東京都水道局就業規則追加案
下記を水道局処務規程第七章服務心得に編入する。なお現行第58条は項目9と重複するので削除する。
1 職員は、許可なく、局所施設内で、業務外の集会、演説、放送又はこれらに類する行為を行ってはならない。
2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない
3 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない。
4 職員は、勤務時間中に又は局所施設内で上司が認める業務外の徽章、胸章、腕章等を着用してはならない(解釈としては、ゼッケン、鉢巻、プレート、ワッペン、バッジ、政治的文言等のプリントされたTシャツの着用を含める)
5 職員は、庁舎、局施設構内において、許可なく業務外の目的で車両.旗.幟.拡声器.プラカード.横断幕.立看板.テントその他工作物を持込んだり、設営してはならない。又、許可なく業務外の目的で、泊まり込み、座り込み、通行規制、集団行進をしてはならない。
6 職員は、庁舎、局施設のその秩序維持等について庁舎管理規程に基づく庁舎管理者の指示に従わなければならない。
7 職員は、同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をしてはならない。また、職員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし若しくはあおってはならない。
8
(1)職員は、局所内で、文書若しくは図画等を配布する場合、職場の規律.秩序をみだすおそれのない平穏な方法又は態様でなければならない。通行の妨害もしくは混乱をもたらす態様、受け取りを強要する態様、職員の休憩時間の自由利用を妨げる態様で行ってはならない。又、局が庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるとき、無許可配布を禁止するものとする。
(2)職員は局が許可しないメッセージ性のある旗やマグネットシート、煙突状の小物、マスコット、短冊を机上、什器等に設置、陳列、貼付してはならない。
(3)職員は、局所内で業務外の文書又は図画を掲示する場合には、あらかじめ指定された場所に許可された文書等以外、掲示してはならない。局は庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるときは、右許可を撤回することができる。
(4)以下に該当する文書又は図画等を配布又は掲示は中止、撤去命令の対象となる。
一 業務の正常な運営を妨げるおそれのあるもの。
二 地公労法11条1項等が禁止する違法行為を慫慂、そそのかし、あおるもの。
三 信用失墜行為に該当するおそれのあるもの
四 違法な掲示物、名誉毀損又は誹謗中傷に該当するおそれのあるもの
五 公の秩序良俗に反するおそれのあるもの。
六 組合旗、激文、寄せ書き、幕の掲出など示威、闘争的言辞の掲示物。
七 その他著しく不都合なもの。
9 職員は、みだりに欠勤し、遅刻し、若しくは早退し、又は上司の許可を得ないで、執務場所を離れ,勤務時間を変更し、若しくは職務を交換してはならない
10 職員は、みだりに業者、物品販売、保険の勧誘、当該事業所に勤務していない職員等を職場に立ち入らせてはならない。職場の規律.秩序をみだすおそれのある署名.募金活動をしてしならない。
11 職員は、職場において、みだりに飲酒し、又は酩酊してはならない。
以上の規程は、水道局処務規程に追加する。
三 明文規程を追加する目的と理由・法的根拠
(一) 対組合活動方針の全面的転換
(受忍義務説による組合による管理権の掣肘を排斥し、最高裁が案出した企業秩序の判例法理に依拠した労務管理に移行させる41頁八パラダイムチェンジの手法と同趣旨)
東京都水道局は、プロレイバー学説の受忍義務説によって、勤務時間内外いかんをとわず、正当でない組合活動、違法行為、外形上犯罪構成要件該当行為が広範に許容され、一切中止・解散命令はされないため、特に闘争期間は騒がしく殺気立ち、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢が全く確保されない職場であった。
官公労はプロレイバー学説(階級闘争としての戦闘的労働組合を支援する労働法学)に依拠し、以下のように組合活動に対する懲戒処分や職務命令の不当性を主張してきた。全水道東水労も大筋で同じと考えられる。
(1)懲戒処分は個別職務秩序違反者に対する制裁で、集団的組織的行動である争議行為にはなじまない。争議行為が違法であるとしても組合の統一的意思のもとに組織されていることから、集団的性格を有するという事実に変わりはなく、個々の組合員の行為は独立した行為として個人の責任を追及できない。
(2)闘争期間に管理者が業務命令することは労働基本権の趣旨に反し不当、あるいはストライキに突入した場合もはや上司の指揮・支配から離脱しているので業務命令できない。
(3)争議権は本質的に「業務妨害権」であり、同盟罷業による業務妨害状態を有効に維持するためにピケッティングは争議行為の範囲にあるとし、一定程度の実力行使も許される。争議行為は労働組合の正当業務である。
(4)争議中の操業(業務運営)は、争議権との対抗の中では権利性を失なう。
(5)業務運営や施設管理に多少の支障が生じたとしても、直ちに組合活動の正当性が否定されるわけではない。示威ないし圧力行動たる実質を有する組合活動の場合にも、受忍義務が使用者に課され、それに対応する法的保護が労働者や労働組合に与えられることは基本的に承認されなければならない(受忍義務説)
以上のような組合側の論理を東京都や東京都水道局が大筋で呑んでいる状況に今日でもかわりない。それゆえ争議行為時にも職員一般に対し警告せず、就業命令もいっさいしない。
ただし職員のリークがあって、平成16年3月17公営企業委員会で後藤雄一都議が勤務時間中の頭上報告が職務専念義務違反行為ではないかと指摘したことから、東岡職員部長が消極的ながら対応せざるをえず、頭上報告は賃金カットする旨の警告をする旨の警告をするよう通知し、所属長要請行動は昼休みに移行するという改革はあった。
しかしながら東岡職員部長通知では本部役員のオルグ演説、業務阻害行為は職務専念義務違反にあたらないので警告なし。昼休み事務室内の集会・演説は全面的に許諾し、地公労法11条1項後段の違法行為である「あおり」を全面的に認めているだけでなく、休憩時間をずらして勤務している職員の職務専念を妨げている等の弊害は除去するものではなく、明らかに欠陥があり、後藤氏の追及が不十分だった。
もっとも勤務時間中の大勢の組合員が職務を離脱して所長の執務妨害行為、怒鳴り散らしつるし上げる行為がなくなり、勤務時間中の頭上報告が自粛傾向となったのは事実であり、殺気だった職場環境が改善されたのは事実だが、正当でない組合活動が広範に許容されている実態に変わりないのである。
平成16年より令和元年の間に6回の1時間スト、その他の争議行為が繰り返されてきたことに鑑みれば、東岡職員部長通知は、争議行為の抑止にほとんど役にたたなかったと評価できるのである。
そこで、対組合活動の労務管理の方針を根本的に変更すべきである。
最高裁が2回にわたって受忍義務説を明示的に否認(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭54.10.30 、 呉市立二河中学校事件.最三小判平18.2.7)している以上、昭和52以降累次の「企業秩序論」の判例法理に沿った、労務管理、施設管理に方針を転換する。
すなわち富士重工業原水禁運動調査事件.最三小判昭52.12.13は、譴責処分を無効とした事案だが、企業は、企業秩序を維持確保するため、必要な諸事項を規則をもつて一般的に定め、また、企業秩序に違反する行為には、業務上の指示、命令を発し、又は懲戒処分を行うことができる。けだし労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものではないとした。
国労札幌地本事件最三小判昭54.10.30は、「職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢」を確保する企業の権限を明言した点、画期的な意義がある。
昭和44年春闘に際し、職員詰所のロッカー310個に五百数十枚のビラを貼付行動の際、現認した職制と応酬、制止をはねのけた組合員に対する戒告処分を適法とした事案だが、「労働者は、企業の所有し管理する物的施設の利用をあらかじめ許容されていても、雇用契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、 企業秩序に服する態様において利用するという限度にとどまる」「労働組合又はその組合員が使用者の所有し管理する物的施設であって定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないもの」であり許諾を得ない施設利用は「使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動として許容され」ないとする。
これに対して「特段の事情」に法益権衡論を持ち込んで風穴を開けようという試みがあったが、最高裁は排斥している。
日本チバガイギー事件.最小一判平元.1.19労判533号7頁でも工場は勤務時間外だか事務棟は勤務時間中での施設内集会不許可事案で、中労委は、上告趣旨において「権利の濫用」を広く解釈し「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」と述べ、「業務上ないし施設管理上の支障に藉口」するもので不当労働行為にあたるとしたが、棄却しているので、この両権利の調和を図るべきとの見解を退けたことになる。
当該施設を利用する目的等を総合考慮して判断する調整的アプローチを明確に退けたものであって、指導判例の趣旨に沿った純法理的な判断で一貫している。
また企業秩序論の優れているところは、抽象的危険説を採用している点であって、職務の専念を妨げるおそれ、作業能率を低下するおそれ、端的にロッカーのビラ貼りにつき、組合の主張を訴えかけるもので、能率的な環境とはいえないという理由でよく、具象的業務阻害があることを証明する必要はない。
但し、最高裁判例は懲戒処分の前提として私企業においては就業規則の記載(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件・最三小判昭54.10.30)と周知(フジ興産事件.最二小判平15.10.10判時1840号144頁)が必要としているので就業規則が整備されていることが前提になる。水道局は公法上の勤務関係であり、懲戒処分の前提として地公法29条32条等の適条によるが、規則違反は32条により懲戒処分理由となるので大筋で同じことであり、懲戒処分を円滑に進めるには明文の規則が必要。それゆえ、JRグループの就業規則で、勤務時間内外を問わない無許可組合活動、無許可集会.演説禁止の明文規程を設けることを強く提言するものである。
これは一職員として強く望むものである。囚われの聴衆でアジ演説を聴かされ、ビラ貼りや赤旗が視覚に入ってくるのは職務に集中できないばかりか、敵対的不愉快な職場環境であり、業務機器の隠匿、職場占拠のような業務妨害も肯定される。企業秩序論が優れているのは職務専念妨害抑制義務があることを明らかにしたことである(目黒電報電話局事件.最三小判昭52.12.13)。職務専念は妨害されない秩序を確立することを第一に望む。東京都は昭和52年や54年に確立された判例法理をいまだに認めていないという点で、時代遅れも甚だしく、昭和40年代の雰囲気が残っている職場風土を変える必要がある。
ただし、目黒電報電話局事件.最三小判昭52.12.13は「形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときには、右規定の違反になるとはいえないと解する」と言う判断枠組を示し、形式的規則違反で実質的に秩序を乱すおそれのない特別の事情があるとき、ビラ配りの事案で、処分が無効にされた事例がある。
しかし本意見書が問題視している、闘争指令下の執務室内もしくは庁舎駐車場等での集会.演説、地公労法11条1項後段の違法行為がなされるおそれがある。あるいは他の職員の職務への集中を妨げ、作業能率を低下させるおそれのある、あるいは来客や業者の駐車場利用を妨げる等は客観的事実なので、形式的違反にすぎないとされることありえない。
もとより、規則で禁止しても、管理職が違法行為を助長する組合活動を許諾してしまっては意味がないので、運用解釈にそった、施設利用不許可、強行した場合の中止.解散命令、記録、写真撮影、現認検書の上申を徹底して義務づけるものとする。
以上のとおり、今後は当局が「職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢」を確保する企業の権限にもとづく管理に加えて、適宜、行政財産の目的外使用(地方自治法238条の4第7項)の目的外使用不許可の広範な裁量権最行使などを加味して、労務管理、庁舎管理をおこない正常な業務運営の確保を行う方針とすることを当局に強く求める。
企業秩序論は労働法学者からも肯定的な評価がなされている。
例えば菊池高志[1983]「労働者は単に自己の約定労働債務を履行するにとどまちない義務を負うであろう。多数労働者が密接な関連、協力関係に元って業務が遂行される近代的経営の現実に立てば他の労働者の義務履行の障害とならないよう配慮すべき義務を負うと考えることにも合理性があろう」
中嶋士元也[1992]は企業秩序論の内容範囲機能を次の5点にまとめている。
1.服務規定.懲戒規定設定権限
2.企業秩序維持権限にもとづく具体的指示命令権
(1)労務提供への規律機能
(イ)労働者の職務専念義務の発生
(ロ)他人の職務専念義務への妨害抑制義務
(2)労務履行に関する附随機能(信義則機能)
(3)秩序違反予防回復の機能
3.施設管理の機能
4.企業秩序違反の効果(懲戒機能)
5.その他の機能
三井正信[2009]は「企業においては共同作業秩序の維持.確保が要請されることになるのはいうまでもない。ことの性質上、共同作業秩序の侵害は協働して働く多くの労働者に重大な影響を及ぼしてその労働の正常な遂行を妨げる可能性ないしおそれを生じさせ、その企業の円滑な運営にとっても障害となるといえよう。つまり集団的.組織的な協働体制に組み込まれた労働者が債務の本旨に従って自己の労働義務を履行することができるためにはそのための職場環境整備の一環として共同作業秩序が維持されなければならず、また使用者も企業の円滑な運営を行うためには共同作業秩序=企業秩序を必要とする。」
他人の職務専念義務の妨害=共同作業秩序の侵害=企業秩序の侵害との論理を展開している。
平成13年当時の中央支所長は私に聴きたい人がいるから、演説はやらせるんだ。地公労法11条1項後段の頭上報告は正当業務という扱い。笹十郎副支所長は、ビラが視覚に入って不愉快な職場環境というのは認めない。郷に入れば、郷に従え、「ストライキで戦うぞ」といったビラが視覚にちらつく環境になれるようなれと私に言った。正当でない組合活動と違法行為、執務妨害を断固容認し組合との円滑な関係を維持していくことこそ管理職の責務ということになっている、この体質はながら条例改正以降も変わってない。職場風土は変えるべきである。そうでないかぎり、いくら東京都がDXや未来型オフィスをやったって、敵対的不愉快な職場環境を提供している三流官庁といってさしつかえないのである。
(二)無許可の演説・集会・組合活動の禁止(追加案1と2)の目的と運用について
1 職員は、許可なく、局所施設内で、業務外の集会、演説、放送又はこれらに類する行為を行ってはならない。
2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない
1 東岡職員部長通知は解消し演説行為等は全面的に禁止事項とする
平成16年3月17日の公営企業委員会における後藤雄一都議の質問の対応として、執務室内勤務時間内の演説行為(頭上報告)は下記の平成16年3月の東岡職員部長通知より、職務専念違反なので警告し、1か月で累積30分以上の職務離脱で賃金カットする方針となっている。
東岡職員部長 「原則として勤務時間外に行うように求めるということと、勤務時間中に行う場合については、やめるように警告をすると。やめない場合については、その事実を確認して賃金カットをするというふうに通知をしました。」
しかし今後は、東岡通知を解消したうえ、演説者の出勤時限前、休憩時間等時間外も含め、事務室内での演説行為はすべて不許可、強行したばあい中止.解散命令をすることとする。賃金カットだけでなく、懲戒処分事由となることがありうるものとする。
東岡通知では以下のような違法行為が禁止できない大きな欠陥があるためである。
平成26年2月の中野営業所監理団体業務移転阻止闘争における○○所長の対応は、まず勤務時間内の練馬営業所属の本部委員のオルグ演説(地公労法11条1項条後段違反)につき、有給休暇をとっているという理由で認容され、人事課主催の管理団体派遣説明会に職員の出席を阻止するため廊下でのピケッティング(11条1項後段違反)も認めており、さらに停職中の本部中執書記長の勤務時間内のオルグ演説(11条1項後段違反)も認容し、退去命令が行われない状況があり、事務室内で頭上報告と同様演説や示威行為がなされるこのような違法行為の助長の再発防止のため規則上明文規定が必要。
モデル規則に示したJRグループ、旧郵政省、電電公社、国立大学法人東北大学の規則を示したが庁舎内の演説は禁止事項であるから、明文で演説行為を禁止していない東京都のほうが異常なのである。
モデル1 JRグループ就業規則
第20条
3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。
第22条1項 社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配付その他これに類する行為をしてはならない
第23条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない
モデル2 JR東海の基本協約
「第9章 組合活動
第1節 総則
(組合活動)
第216条 会社は、組合員の正当な組合活動の自由を認め、これにより不利益な扱いをしない。」
「第4節 組合による企業施設の利用
(組合事務所)
(略)
(一時的利用)
第226条 組合は、会社の施設、什器等を一時的に利用する場合は、会社に申し出、その許可を得なければならない。
2 前項の申し出は、使用の目的、責任者名、時間、人数等を明示して書面で行うものとする。
3 会社は、組合が前項の規定に違反した場合、もしくは申し出と異なる使用方をした場合には、使用の許可を取り消すことができる。
(掲示)
第227条 組合は、会社の許可を得た場合には、指定された掲示場所において、組合活動に必要な宣伝、報道、告知を行うことができる。
2 会社は、業務上の必要が生じた場合には、前項で指定した掲示場所の変更または取消しをすることができる。
3 組合は、会社の指定した組合掲示場所以外の場所に、掲示類を掲出してはならない。
(掲示内容)
第228条 掲示類は、組合活動の運営に必要なものとする。また、掲示類は、会社の信用を傷つけ,政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し、または職場規律を乱すものであってはならない。
2 掲示類には、掲出責任者を明示しなければならない。
(違反の措置)
第229条 会社は、組合が前2条の規定に違反した場合は、掲示類を撤去し、掲示場所の使用の許可を取り消すことができる。」
(以上出典.東海旅客鉄道(組合ビラ配布等)事件.東京地判平成22.3.25労判1011より)
第261条 争議行為中、当該争議行為に関係する組合員は、会社の施設、構内、車両への立入及び物品の使用をすることができない。
(出典.JR東海(懲戒解雇)事件.大阪地判平12.3.29労判779)
モデル3
郵政省就業規則一三条七項は、「職員は、庁舎その他国の施設において、演説若しくは集会を行ない、又はビラ等のちょう付、配布その他これに類する行為をしてはならない。ただし、これらを管理する者の事前の許可を受けた場合は、この限りでない。」
郵政省庁舎管理規程七条は、「庁舎管理者は、庁舎等において、演説、ビラ等の配布、その他これに類する行為をさせてはならない。ただし、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、これを許可することができる。」
(出典.東京城東郵便局事件.東京地判昭59.9.6労判442)
モデル4 電電公社の就業規則
就業規則第五条第六項は、「職員は、局所内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしようとするときは、事前に別に定めるその局所の管理責任者の許可を受けなければならない。」
七項は、「職員は、局所内において、選挙運動その他の政治活動をしてはならない。」
(出典.目黒電報電話局事件.東京地判昭45.4.13民集37-1-1019)
モデル5 国立大学法人東北大学規則
4 職員は、許可なく、本学の施設内で、業務外の集会、演説、放送又はこれらに類する行為を行ってはならない。
この規則の目的は、第一に地公労法11条1項後段の違法行為である「唆し」「あおり」の禁止である。勤務時間内の頭上報告はスト権一票投票のよびかけ、闘争課題の説明、指令伝達、スト配置日の日程、戦術の説明、交渉経過報告、勤務時間内3割、2割動員の決起集会参加の呼びかけ、三六協定破棄闘争により超勤拒否の徹底の指示などがあり、大声でアジ演説がなされることがある。容認すること自体当局が違法行為に加担したことになるからである。
また、事務室内での昼休み集会は基調報告、交渉経過報告、決議文朗読、決意表明演説、拍手がもとめられ、鯨波、頑張ろう三唱がおこなわれるので、「唆し」「あおり」そのものであるから、これを認めることは当局が違法行為を助長することになるから禁止理由となる。
また無許可組合活動の禁止条項により、庁舎構内駐車場等でなされる支所.拠点での動員決起集会、庁内デモ等示威行為の取り締まりの根拠とする。オルグ、ピケット、動員集会等で本部役員や他の支部分会組合員等の外来者の建造物侵入禁止の根拠とする。
スト待機(スト配置前日から当日の深夜.未明にかけて事務室内に組合役員が待機する)、スト突入指令(地公法11条1項後段違反)、スト準備のためセキュリティを破って庁舎に出入りする行為であり。職務命令による排除の根拠を与える。
第二の理由として規則により管理意思を明示して建造物侵入罪、不退去罪等に問えるようにするためである。
第三の理由は、「昼休み集会」等が、他の職員の職務専念妨害になるおそれが大きいことである。地公労法違反の「あおり」でないとしても、休憩時間であれ、休憩時間をずらして勤務している「昼当番」等の職員がおり、近くで演説行為がなされていることは、職務の集中をさまたげ、電話の相手の声が聞き取りにくくなるなど、業務に影響をきたす、少なくとも作業能率を低下させるおそれがあるので、禁止する理由がある。
出勤時限の8時半より前であったとしても、時差出勤で勤務中の職員がいる場合があるほか、勤務中の職員がいない場合でも、スタンバイしている職員は、囚われの聴衆の状況であり、勤務時間内と同じことで、アジ演説を聴かされて、その余韻から作業能率が低下させるおそれのある行為であるので禁止理由となる。
職場にいると組合の訴えかけを常に聴かされるというのは能率的でない職場環境なのであり、「職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢」確保する権限が当局にあるので、執務室内の演説行為を排除すべきとの判断であるが正当なものである。加えて水道局の事務室は水道事業目的に使用されるもので行政財産の目的外使用(地方自治法238条の4第7項)の目的外使用不許可という観点でも規制できるのである。
つまり「当該企業に雇用される労働者のみをもつて組織される労働組合(いわゆる企業内組合)の場合にあっては、当該企業の物的施設内をその活動の主要な場とせざるを得ないのが実情であるから、その活動につき右物的施設を利用する必要性の大きいことは否定することができないところではあるが‥‥‥利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない(国労札幌地本ビラ貼り事件.最三小判54.10.30)」
「職員団体にとって使用の必要性が大きいからといって、管理者において職員団体の活動のためにする学校施設の使用を受忍し、許容しなければならない義務を負うものではないし、使用を許さないことが学校施設につき管理者が有する裁量権の逸脱又は濫用であると認められるような場合を除いては、その使用不許可が違法となるものでもない。また、従前、同一目的での使用許可申請を物理的支障のない限り許可してきたという運用があったとしても、そのことから直ちに,従前と異なる取扱いをすることが裁量権の濫用となるものではない。(呉市立中学校教研集会使用拒否事件.最三小判平18.2.7)」
労働組合の教宣活動(宣伝、報道、告知)については、組合掲示板の便宜供与のほか、印刷物、組合ニュース、機関紙等の配布は後段で述べるように、多くの企業と同様、許可制にしても問題はないにもかかわらず、平常時の無許可配布を認める考え方で提案しているので、組合活動には相当に配慮してあるので、演説を許可する必要はないという判断である。
2 集会は平時、会議室等の施設利用は広範に認める
郵政省就業規則及びその運用通達は、国有財産の使用に関する取扱いにつき、「組合から組合事務室以外の庁舎の一時的な使用を申し出たときは、庁舎使用許可願を提出させ、業務に支障のない限り、必要最小限度において認めてさしつかえないこと。」と規定している(全逓新宿郵便局事件 東京高裁判決昭55.4.30労判340)。
したがって旧郵政省では、平常時には組合に便宜供与する。水道局においても旧郵政と同じ基本方針とする。世田谷営業所太子堂分室には平成26年より5年在籍し、支部執行委員会を毎月実施するため、会議室を午後6時頃から1~2時間程度利用していたが、使用許可願は出していないはずである。また水道局職員であっても当該事業所以外に勤務している組合役員が参集するが、誰が何人出席するのか届け出させるべきで、外部からの出入りは管理者が把握すべきである。
また平成21年中野営業所では目標管理制度の形骸化闘争の一環として申告書を提出する5月に、昼休みに会議室で申告書の書き方(数値目標を書かない、組合が考案した雛形どおりに記入する。役員へコピーの提出)の指導を弁当付きで実施していたほか、中野営業所と世田谷営業所では中央労働金庫の金融商品についての営業活動を事務室内で実施している、若手や新人に金融商品の説明と勧誘がある。
これは許可することとする。庁舎管理規程では物品販売と保険の勧誘は禁止されているが、中央労働金庫だけは組合活動の一貫として特別に事務室の接客コーナーを便宜供与する。組合との信頼関係で入室を認めるが、本来業務で使用する接客コーナーの利用のため庁舎使用許可願の提出が条件である。
平時の会議室利用、組合活動については集会内容に踏み込まなくてよいと思う。組合加入の勧誘活動に関し施設利用不許可が違法な処分とされた福岡県教職員組合鞍手直方支部事件.福岡高判平16.1.20判タ1159といった例がある。
このほか組合の運営で電気代を払う条件でコーヒーやコーラの自動販売機設置を無償で許可されているので組合は収益を得ているほか、組合事務室を支部レベルで便宜供与しているし、組合掲示板のほか、分会レベルでは事務室はなくても書類等組合の管理物を収納する什器を無許可で慣例的に使用を認めていることであるが、ファックスの利用、コピー機の使用の便宜供与は特段問題視せず、私の提案では、違法行為と秩序を乱すおそれのある正当でない組合活動だけを規制する趣旨である。
ところで、大阪市議会は平松邦夫市長時代の平成20年3月28日に突如チェック.オフ廃止条例が提案され即日可決したほか、平成24年7月30日に可決した大阪市労使関係に関する条例では第12条で「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は、行わないものとする」とし、条例成立後の組合事務所の施設利用不許可は司法においても適法とされ大阪市教職員組合分会会議使用不許可事件.大阪地判平29.12.20判タ1452号131頁は、大阪市労使関係に関する条例第12条にもとづく組合分会会議の施設利用不許可を適法とする。教職員組合が延べ44回にわたり学校施設の目的外使用許可を申請したところ、各校長は、大阪市労使関係に関する条例第12条にもとづき各校長は、同申請をいずれも不許可とした不許可処分につていて無形損害が生じたと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項につき損害賠償請求した事案で、件各校長に裁量権の逸脱及び濫用があったとはいえないとして原告の請求を棄却しており、組合活動に厳しい方針をとっているが、本意見書はあくまでも企業秩序論等の判例法理に沿った規制をするだけであり、とくに平時の便宜供与は認めているので大阪市のような厳しい方針をとる趣旨では全くない。
要するに私の提案は大阪市などよりずっと組合活動に好意的な案であり、受け入れやすいものとしているのである。
3 集会.演説行為で施設利用拒否と中止・解散命令を義務とするケース
以上述べたことを要約すると禁止するのは以下のとおり
(1) 事務室内の演説行為(頭上報告・オルグ演説等)
休憩時間.出勤時限前も認めない。違法な同盟罷業のオルグ活動のほか、それ自体は違法ではないにせよ無投票組合役員選挙の候補者演説も認めない(理由.執務室は時限前であれ囚われの聴衆の状態でアジ演説を聴かされるのは、勤務時間中と同じであり、異様な雰囲気を醸し出し、作業能率を低下させる。目的外使用を認めるにふさわしくない、水道事業でない事柄について施設使用を認めない権限が当局にはある。大抵の企業では執務室の演説行為は禁止している)。
(2) 他の職員の職務への集中・専念を妨害する態様
(3) 庁舎構内のデモ行進、鯨波等示威行為
(4) 事務室外の庁舎構内に集会についてはストライキを配置した時点で施設利用拒否
(5) 前項(1)(3)(4)と重なるが、地公労法11条1項後段の違法行為がなされるおそれがあると判断される場合。
4 集会規制の根拠となる判例1(企業秩序論系)
〇一般に、企業は、これを構成する人的要素及びその所有、管理する物的施設の両者を統合し、合理的、合目的的に配備組織するための企業秩序定立.維持権限を有し、その一環として、職場環境を適正良好に保持し、規律ある業務の運営態勢を確保するため、一般的規則又は具体的指示、命令によってその物的施設の使用を禁止又は制限する権限(施設管理権)を有する(JR東海(懲戒解雇)事件・大阪地判平12.3.29労判779)
○施設構内の無許可組合集会が正当な組合活動とされることは、5つの最高裁判例が否定している以上ありえない。中止・解散命令・監視・警告書交付は適法なので躊躇する理由はない。
○法益権衡論や労働基本権と使用者の権利との調整的アプローチは明確に否定されている。
○懲戒処分とするには就業規則を具備しているうえ、「実質的に企業秩序を乱すおそれ」という抽象的危険説にもとづく説明ができれば違法とされることはまずない。
○例外的に施設利用拒否を支配介入とし、過度に重い不利益処分の事例で違法とする判例もあるが、あくまでも企業秩序風紀の維持を理由とするもので、適切な量定であれば懲戒処分が無効とされることはない
(1)最高裁5判例は無許可集会を明確に正当な行為でないと判示
最高裁の5判例(●全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58.12.20、●池上通信機事件・最三小判昭63.7.19、●日本チバガイギー事件・最小一判平元.1.19、●済生会中央病院事件・最二小判平元.1.29民集43-12-1786、●オリエンタルモーター事件・最二小判平7.9.8判時1546号130頁)は、決定的な意義があり、国労札幌地本判決の判断枠組により、企業施設内の勤務時間内、勤務時間外も含めて、無許諾の組合集会は正当な組合活動ではないから、施設利用の拒否、解散命令、監視、警告書交付等は不当労働行為に当たらないと判示しており、労働委員会等が主張する法益権衡の諸般の事情を勘案する調整的アプローチを明確に排除しているので、有益な先例である。特に最高裁が理論的説示をしている済生会中央病院事件とオリエンタルモーター事件は指導的判例の位置づけである。
(2)懲戒処分する場合に注意を要すること
ただ、注意を要するのは、上記の最高裁5判例は、警告・中止命令等が不当労働行為に当たらないとするもので、懲戒処分事案ではなく、無許可集会を強行しただけの理由で懲戒処分に処す例はさほど多くないため、懲戒処分事案の先例も検討しておく必要がある。
無許可集会強行、無許可入構強行を懲戒処分事由とした判列としては、最高裁判例で●米空軍立川基地事件・最三小判昭49.11.29訟務月報21-2-421があるほか、国労札幌地本判決の枠組を引用した下級審判例では、●東京城東郵便局事件・東京地判昭59.9.6労判442、●全逓長崎中央郵便局事件・長崎地判昭59.2.29労判441カード●JR東海鳥飼基地無許可入構(懲戒解雇)事件・大阪地判平12.3.29労判742がある。
施設管理権の侵害というよりは争議行為の慫慂の事案だが●熊本地方貯金局事件・熊本地判昭和63.7.18労判523が、ストライキの前日午後0時35分ころから局玄関前広場において、全逓組合員約500名が無許可集会を行った際‥‥局管理者の解散命令を無視してあいさつを行った後、団結ガンバローを三唱の音頭をとった等が、全逓熊本地方貯金局支部支部長(郵政事務官)に減給1/10(6か月)の懲戒事由の一つとなっている。
無許可集会を実行したうえ、違法争議行為に参加すれば当然懲戒処分事由となることはいうまでもない。
東京城東郵便局事件のように公労法17条1項で争議行為を禁止されていた郵政省現業の事例で、ストライキが配置され業務規制闘争を行っている状況で、組合集会を許可することは、違法行為を助長するおそれがあるので「特別の事情」は認められていない。このことは、地公労法18条1項が適用される地方公営企業も同じことである。
職務専念義務違反もしくは他者の職務専念義務を妨げるおそれのある場所において、勤務時間中(済生会中央病院判決)もしくは、勤務時間中の労働者と、そうでない労働者が混在する時間帯の集会(日本チバガイギー事件)であれ先例は「特別の事情」を認めていない。
一方、例外的に施設利用拒否や無許可集会に対する不利益処分が違法とされた事例としては、◯総合花巻病院事件・最一小判昭60. 5.23のように組合の利用申し入れを拒否したことはなかったにもかかわらず、突然不許可としたのは、組合が上部団体に加盟したことを嫌悪しこれを牽制、阻止するためとされ、支配介入に当たる。◯アヅミ事件・大阪地決昭62.8.21労判503号25号は他の労組やサークル活動と異なる処遇のうえ懲戒解雇と重い。○金融経済新聞社事件・東京地判平15.5.19労判858は無許可集会だけで役付(営業局参事・次長心得)を解く降格処分とされた事案で違法とされている。
とはいえ、例外を過大評価する必要はなく、中止.解散命令や監視、警告を躊躇する理由はなく、ただ、実際に懲戒処分事由とするのは、過重にならない量定の処分なら安全運転といえる。
無許可集会の強行は、抗議して暴行した場合以外、それだけで懲戒処分とせず、実際のストが実行された場合のみ懲戒処分事由の一つとする安全運転でよいと考えている
(3)各論
A 勤務時間中の無許可集会-正当な組合活動とされる余地なし
●済生会中央病院事件・最二小判平元.1.29民集43巻12号1786頁は、原審の勤務時間中を含む無許可職場集会に対する警告書交付を不当労働行為とした部分について破棄自判した判例だが、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。」としたうえで「病院が本件職場集会(‥‥)に対して本件警告書を交付したとしても、それは、ひっきょう支部組合又はその組合員の労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから、病院(上告人)の行為が不当労働行為に該当する余地はない」と断言した。
B 違法行為を助長するおそれにより集会を不許可とすることは適法
●東京城東郵便局事件・東京地判昭59.9.6労判442号45頁
本件は不許可集会強行、欠勤、管理職らに対する暴行を懲戒理由とする郵政職員2名に対する免職処分の取消が訴求された事案で処分を適法としたものである。
昭和42年5月2日、全逓中央本部からの指導により、合理化反対闘争等に向けての団結を強めるため、各課単位で集会を開催することを決定し、これに基づき、郵便課、保険課等で順次集会が開催され、集配課分会においても右の集会を開催するため、同月9日、同課分会執行委員名義で局長に対し、いずれも組合業務を目的として城東局会議室を同月11日及び12日の両日使用したい旨の庁舎使用許可願を提出した、局長はストライキ体制確立後の組合への便宜供与を認めない東京郵政局の指示に従って許可しなかった。にもかかわらず同月11日午後4時7分から5時16分ころまで、同会議室において、集配課員約40名による職場集会が強行された。
地裁は、不許可集会の強行について、国労札幌地本判決を引用して、全逓本部によるスト決行体制確立、業務規制闘争突入指令発令後の、郵便局内での組合集会開催のための施設の利用を許諾することは、公労法17条1項違反の違法行為を助長する結果となるおそれが大きいと当局側が判断したことについては、相当な理由があるとして、事案の会議室使用不許可に権利濫用と認めるべき特段の事情はないと判示した。
C 休憩時間.就業時間外の集会で正当な組合活動とされなかった事例
●米軍立川基地事件・最三小判昭49.11.29訟務月報21-2-421、全駐労組合員10名が、米軍の許可なく休憩時間中に基地内の食堂、休憩室等で職場報告会等の組合活動を行ったことを理由とする出勤停止処分を適法とした。
●三菱重工事件・東京地判昭58.4.28労民集34-3-279 昼休み中の無許可集会.ビラ配布は労働協約に違反し許されないと判示。
●全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58.12.20判時1102号140頁は、休憩室あるいは予備室を利用した職場集会に対する解散命令及び監視行為は不当労働行為に当たらないとする原審の判断を支持したものだが、解散命令が行われた集会というのは以下の2件である。
集配課休憩室-休憩時間中の全逓組合員約7.80名が昭和40年5月10日午後0時35分ごろから
年賀区分室-6月7日5時15分ごろから5時45分ごろまで。6月11日午後0時20分~0時55分ごろまで
いずれも、休憩時間か就業時間外の時間帯だが、年賀区分室の集会について職制は勤務時間中の者がいるかを監視しており、勤務時間のシフトで勤務時間中の者もいる時間帯といえる。最高裁は、休憩時間の集会の解散命令を是認しているのである。
●全逓長崎中央郵便局事件・.長崎地判昭59.2.29労判441カード.刑事裁判資料246号139頁
「全逓支部は45年12月1日より年末闘争に突入し、同支部保険分会は、同日午後5時頃から、男子休憩室において‥‥分会集会を開いた、5時25分頃、Y庶務課長が、無許可集会であることを理由に、解散を命じ、分会員がこれをとり囲んで抗議していたところ、被告人Y1が‥‥同課長に対し、腕組みした左肘で顎を一回突き上げる暴行を加え、さらに5時35分頃、A労働課長が加わり、再三にわたって解散命令を発したところ、被告人Y1は、腕組した姿勢で同補佐を押して数メートル後退させ、右肘で同人の股間を一回蹴る暴行を加え(後略)。」「本件有形力の行使は可罰的違法性に欠けるものはなく(以下略)」「労働組合又はその組合員が使用者との合意ないし許諾がないまま企業の物的施設を利用して組合活動を行うときは、これらの者に対して利用を許さないことが、当該物的施設につき使用者の権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合‥‥を除いては施設管理権に抵触するものであ」るから、「地下食堂及び地下男子休憩室の無届利用行為も、長崎中央郵便局長の庁舎管理権限を侵すものとして正当なものとすることはできず、‥‥即刻解散等を命じたことは不法不当なものということはできない」と判示。
●池上通信機事件・最三小判昭63.7.19判時1293号173頁
本件は昭和54年5月9日、会社の食堂使用不許可通告の後、組合は午後 5 時半過ぎから組合集会を川崎工場食堂で開催しようとしたが、会社側に阻まれ、結局実質的な合同集会は開かれなかった。また、食堂内にいた組合員に対しても会社側の社内放送の利用による中止命令、警告書の交付、集会開催の妨害などつき、不当労働行為に該当しないとした。
●日本チバガイギー事件・最小一判平元.1.19労判533号
本件は組合が本部社屋一階の食堂を午後5時から使わせてほしいと申入れた。しかし、会社は、工場部門の終業時刻は午後5時であるものの、本部の終業時刻は午後5時45分であるから、それまでは本部への来客もあり、また、本部の会議室として食堂を使用することもあるので、午後6時以降の使用しか認められないと回答した。そこで、食堂の使用が業務上どうしても都合が悪いのであれば、屋外での報告集会の開催を認めてほしいと申入れた。これに対して会社は、屋外集会であっても本部の従業員の執務に影響する等、施設管理上の理由から屋外集会の開催を拒否した事案で、本件食堂の使用制限及び屋外集会開催の拒否が施設管理権を濫用したものとはいえず、不当労働行為には当たらないとした原審の判断を維持。
●国鉄清算事業団(東京北等鉄道管理局)事件・東京高判平4.2.9労判617号29頁
東京駅構内遺失物取扱所裏の敷地における国労の非番者無許可集会の現認.警告メモ、写真撮影を不当労働行為に当たらないとした公労委命令を支持した原判決維持。
●オリエンタルモーター事件・最二小判平7.9.8判時1546
使用者が、労働組合の結成通知以来約九箇月にわたり、組合からの許可願の提出があれば業務に支障のない限り従業員食堂の使用を許可していたところ、就業時間後食堂で行われていた組合の学習会の参加者の氏名を巡回中の守衛が記録したことに反発した組合執行委員長らが右記録用紙を守衛から提出させたことを契機として、組合による食堂使用を拒否したのに対し、組合が、使用者が食堂に施錠するまで五箇月近くの間、無許可で食堂の使用を繰り返し、その間、使用者は食堂の使用に関し施設管理者の立場からは合理的理由のある提案をしたが、これに対する組合の反対提案は組合に食堂の利用権限があることを前提とするかのような提案であったなど判示の事実関係の下においては、使用者が組合に対し組合集会等のための食堂の使用を許諾しない状態が続いていることは、不当労働行為に当たらないとしたもので、就業時間外の組合活動の事案といってよい。
●JR東海鳥飼基地無許可入構(懲戒解雇)事件・大阪地判平12.3.29労判790号
大阪第三車両所に勤務し、JR東海労組の組合員であったX1(組合大三両分会書記長)及びX2(同分会副会長)が、組合員約三〇名とともに、ストライキの決行日の早朝に、企業施設内に入構しようとしたところ、就業規則の規定(争議行為中の関係組合員の会社施設内への立入り禁止等)に基づいてその入構を拒否され、退去命令が出されたが、警戒員らの抑止を実力で排除して入構し、退去通告に従わず、約三〇分間にわたって施設内に滞留し、暴行を働き、暴言を吐くなどしたため、懲戒解雇されたがことから(Xら以外の組合員の一部は勤停止及び戒告処分)、本件懲戒解雇は無効であるとして雇用契約上の地位確認及び賃金支払を請求した事案で、請求を棄却(「被告は明示に業務と関係のない原告らの入構を拒否しているし、原告らの入構目的が組合活動を行うことであったとしても、会社施設内における無許可での組合活動は禁じられているのであるから、入構が正当な組合活動の一環であったともいえず、これを拒否した被告の措置が施設管理権を濫用するものとは到底言い難い」とする。
D 例外的に集会使用拒否等が不当労働行為とされた事例
○総合花巻病院事件・最一小判昭60. 5.23労働委員会関係裁判例集20集164頁
6年余の間、病院は、毎年多数回にわたり、その都度の許可をもって、組合の執行委員会および総会のため、講堂、磨工室、地下の手術室等の病院施設の無償利用を認め、組合の利用申し入れを拒否したことはなかったにもかかわらず、突然不許可としたのは、組合が上部団体の医労協に加盟したことを嫌悪しこれを牽制、阻止することためであった、組合運営に対する支配介入にあたるとした原審の判断を是認している。
病院長は院長室に組合委員長、書記長、副委員長などを呼び、医労協に加盟しないよう説得、依頼し、書記長には出産祝を名目に一万円、副委員長に新築祝を名目に二万円を供与した事実があった。
○アヅミ事件・大阪地決昭62.8.21労判503号25号
本件は、研修命令拒否、職場放棄、配転命令拒否等を理由としてされた懲戒解雇を無効とした判例だが、懲戒事由のひとつが、アヅミ労組を脱退し結成された全大阪産業労組アヅミ分会が1回目は使用不許可の指示に反して、2回目は無断で食堂を使用したという事案であるが、食堂は、アヅミ労組やその他のサークルが、事前の届け出をなすことにより、比較的自由に使用されており、本件は勤務時間外かつ食堂の営業時間外に行われる10名前後の集会であるなにもかかわらず、正当な組合と認めていないという理由で不許可とするのは権利の濫用にあたる。また集会が正当な組合活動であるとも判示するが、本件はあくまでも少数組合社員の懲戒解雇の例である。
○国産自動車交通事件・最三小判.平6.6.7労働法律旬報1349施設管理権に言及することなく、タクシー労働者を組織する「新協力会」が無許可で会社構内(空地)を約三時間半にわたって占拠して開催した臨時大会(出番者も多数参加)に対して、会社が幹部を懲戒解雇した事案で、違法な争議行為あるいは組合活動ではないとして、解雇を無効とした東京高裁平成3年9月19日判決の判断を是認している。本件は就労を予定していた者(出番者)も多数参加したことから、実質ストライキであり、構内を無断で使用したことは責任を免れないとしても、それによりストライキが違法にはならないというもの。
○中労委(倉田学園学園事件)・東京地判平9.2.27労民集48巻1.2号20頁
小会議室の利用に対する警告書の多数回の交付や使用者の退職勧奨行為等につき、いずれも組合の弱体化を意図して行われたものであるなどとして、労働組合法7条3号の支配介入に当たるとした。「‥‥原告が許可制にあくまで固執したのには、組合に対する否認的態度ないし不信感がその根底にあることはK理事等の発言から十分に窺い知ることができるのであり、組合も、職場集会開催にあたっては、当日又は前日に届出をし、その回数も月二ないし三回で、利用時間も始業時刻前又は終業時刻後の約二時間で、集会内容も団体交渉内容の報告等であったというのであり、その間、非組合員の入室を拒否したこともなければ、小会議室の本来の使用目的である職員の娯楽、懇談等の障害になるとの非組合員からの苦情が寄せられたことも認められないし、また、教育上好ましくない結果が生じたとか、学園業務の阻害になったとの事情も認められないというのであるから、組合に譲歩の余地のあることは勿論であるが、原告にも譲歩の余地がないとはいえない。このような状況下で原告が組合に対し、就業規則違反を理由に本件警告書を多数回に亘り交付したということは、被告の認定.判断しているとおり組合の弱体化を企図した行為であり、不当労働行為に該当すると判断されてもやむを得ない‥‥」
本意見書の提案は日常的な組合活動の便宜供与を否定していないのでこのケースは該当しない。
〇金融経済新聞社事件・東京地判平15.5.19労判858
休憩時間中の普段より大きな声を出した事務室内ミーティング無許可強行、始末書提出拒否を理由とする役付(営業局参事.次長心得)を解く降格処分(月額2万8千円の役付手当剥奪)を無効とした。
この降格処分は実質長期にわたる減給処分ともいえ、たんに無許可集会の実施だけで処分としては重過ぎると言う趣旨だろう。
5 集会規制等の根拠となる判例2(財産管理法制系)
地方自治法238条の4項7項号(旧4項)の目的外使用許可の裁量処分については、指導判例である◯呉市立二河中学校事件・最三小判平18.2.7民集60-2-401(教研集会使用不許可を違法とする)の判旨が、学校施設以外でも多く引用されていて、判断枠組として定着しているが、決め手は「教育研究集会は‥‥労働運動としての側面も強く有するもの‥‥教員らによる自主的研修としての側面をも有しているところ、その側面に関する限りは、自主的で自律的な研修を奨励する教育公務員特例法19条、20条[平成15年改正で21条.22条]の趣旨にかなうものであり‥‥使用目的が相当なものである」という判断をとったことにあり、目的内使用に近い認識といえる。しかし以下のような集会使用拒否について司法は適法と判断している。
●鹿児島県立大島高校等6カ所の学校施設目的外使用不許可事件(鹿高教組主催ミュージカル公演不許可)事件・福岡高裁宮崎支部判昭60.3.29判タ574号
本件鹿高教組主催ミュージカルの「ああ野麦峠」公演が主任制形骸化闘争としてなされた主任手当拠出運動の一環であり‥‥本件公演の会場として本件学校施設の使用を許可することは主任制度をめぐる‥‥教職員間の対立、緊張を一層昂め、紛争が激化増大して学校運営に支障をきたし‥‥ミュージカル公演は学校教育の目的上明らかに支障がないとはいえないので、不許可処分は憲法に違反しないと述べ、裁量権の濫用にもあたらないとする。
●広島県高教組「人事委員会報告説明会」県立高校体育館使用拒否事件・広島地判平14.3.28、裁判所ウェブサイト
広島県高教組が毎年開催している「人事委員会の報告」集会を県立高校で開催しようとして、同校体育館の使用を申し入れが拒否された事案で、 当該集会では、組合員にストライキの実施の賛否を問う批准投票が実施されることになっており、集会の内容に一部、争議行為を禁止する地公法37条1項の規定に抵触するものが存在することが明らかで、施設管理上、学校教育上の支障に該当するとして、不許可行為は適法であるとしたが、不許可を文書で通知する義務に違反した点を違法とし、教育長の責任を認め10万円の賠償を命令した。
●広島県高教組定期総会学校施設使用不許可事件・広島地判平17.2.9-裁判所ウェブサイト(公立高校の施設利用不許可)
高校の体育館で定期総会を開催するための使用許可申請の校長による不許可処分を適法とした。
本件各大会が開催された平成14年4月20日は土曜日で部活動その他への影響はなかった、施設管理上の支障は特に認められない。しかしながら、本件各大会を学校施設で開催することは学校教育上の支障を来すといわざるを得ない。
第1に、前年の第49回定期大会(府中地区)ではストライキを視野に入れた組合活動が提言された上、ストライキの方針であったが最終的に不満を残しつつもストライキを回避するに至った経緯が詳細に報告され、(三次地区)では、高教組がストライキを配置し、諸要求実現のために戦う方針であると組織決定された。ストライキ権が確立されたことの報告や、「ストライキを基軸とした通年的な戦いを堅持」などの内容からすれば、生徒、父兄等が公教育に対して不信を抱くことは想像に難くなく、学校教育上の支障を肯定する事情として考慮するのが相当であるとした。
第2に、主任制に反対し、学校組織の見直しと確立を提言している第49回各大会の内容には、学校教育法施行規則65条1項、22条の3第1項に抵触するものが含まれていたと認められる。
第3に、卒業式等での国旗掲揚等を強制すべきではないとの立場を明確にし文部省告示である学習指導要領に反している以上、生徒、県民等が公教育への不信を抱くことは否定できない。
第4に、第49回定期大会(府中地区.三次地区)において、次回の参議院選挙で新社会党から立候補する予定の者を組織推薦し支援することが決定されたことは、公教育においては政治的中立性が求められるのであって学校教育上の支障を肯定する事情として考慮すべきである。
○●大阪市労連、市職、市従、学給労等組合事務所使用不許可事件.大阪高判27.6.26判時2282号28頁(原判決変更。平成24年の使用不許可処分のみ違法、平成25.26年の不許可処分は適法)
◯●○●大阪市労組.大阪市労働組合総連合組合事務所使用不許可事件.大阪高判27.6.26判時2278号32頁(原判決変更。平成24年の使用不許可処分のみ違法、平成25.26年の不許可処分は適法)
一審判断を一部変更。平成24年の目的外使用申請不許可では、前年度の許可満了の3ヶ月前に、何らの前触れもなく不許可の方針を表明した処分であるので違法とするが、大阪市労使関係に関する条例の規定及び行政事務スペースの欠如を理由としてなされた平成25年、26年の不許可処分を適法とする。同条例12条を労働組合等に対する便宜供与はほぼ例外なく行われないものと解したうえ、条例制定には十分に理由があり、支配介入には当たらず、憲法28条にも違反しない。又労組法上は、最小限の広さの事務所の供与を許容しているが使用者の義務ではなく奨励するものでもないとし、被控訴人らは、本件事務室部分を権原なく占有しているというべきであって明渡請求は理由がある、この間の相当使用料額は1か月17万6830円となることが認められ、明渡済みまでの使用料相当損害金を支払う義務を負うと判示した。(上告審平最二小決成29.2.1棄却.不受理 掲載TKC)
●枚方市組合事務所使用料徴収処分取消請求事件.大阪地判平28.3.28掲載TKC
市長が職員会館における組合事務所の使用料を徴収することとしたことにつき、裁量権を逸脱又は濫用したものとは認められないとする。「公有財産の使用に関する受益者負担の要請が強まっており‥‥市議会等において、組合事務所の無償使用についての質疑がなされ、住民監査請求もなされるなど‥‥関心が高まり、大阪府下においても組合事務所の使用料を徴収する自治体が増加しつつあったことなどといった‥‥状況下において、市長が、原告による組合事務所の‥‥使用料の減免申請に対し、組合事務所が収益を目的としない使用に当たるものの、「市長が特に必要と認めるもの」に当たらないとした判断は‥‥相応の合理性が認められる。」
●大阪市教職員組合分会会議使用不許可事件.大阪地判平29.12.20判タ1452号131頁(大阪市労使関係に関する条例第12条にもとづく組合分会会議の施設利用不許可を適法とする)
東京都水道局の場合、地方自治法238条の4第7項の行政財産の目的外使用は、東京都公有財産規則ではなく、東京都水道局固有資産規程で運用がなされている。
具体的には、全水道東水労の分会が電気メータをつけて電気代を支払うことを条件として、無償でコーヒー、清涼飲料等の自動販売機の設置を許可している。
一般論として行政財産の目的外使用は売店や記者クラブ、長期にわたって庁舎を占有する形態か、政策として石原都知事が推進したロケーションボックス(下水道局は映画「シンゴジラ」のロケ地を提供)や、東日本大震災の教訓から災害時の帰宅困難者滞在施設といった事案が対象のようで、都や水道局の庁舎管理規程は、国の官庁と違って、地方自治法の財産管理上の規定ではなく目的外使用についての言及がないことから、当局が全面的に許容している施設構内駐車場等での決起集会や執務室内を占拠する集会、庁舎内デモ行進、示威行為、スト待機者のセキュリティ破りの深夜立ち入り行為など本意見書が問題とする組合活動の多くは地方自治法238条の4第7項とは無関係な庁舎管理権の問題として取り上げてよいように思える。
つまり私のこの提案は、企業秩序論の判例法理にもとづく庁舎管理とするものである。行政財産の目的外使用の不許可という形で、組合活動の規制もできるので活用の余地はあるので判例を引用した。
(三)他の職員の職務遂行、職務専念を妨げる行為の禁止(3)
3 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない。
モデルは人事院規則17-2 第7条2項
「職員は、職員団体のためその業務を行ない、又は活動することによって、他の職員の職務の遂行を妨げ、又は国の事務の正常な運営を阻害してはならない。」
郵政事業庁就業規則13条6項
「職員は、職場において、他の職員の執務を妨げ、その他秩序を乱す言動をしてはならない。」
東京都水道局に類似する同規則はなく、国の官庁と同じく、他者の職務専念義務への妨害抑制義務を規則化すべきである。
職務専念義務への妨害抑制義務については、目黒電報電話局事件・最三小判昭52.12.13が「勤務時間中における本件プレート(「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と記載)を着用し同僚に訴えかけるという‥‥行動は、他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し‥‥局所内の秩序維持に反する」と説示し、他の労働者の職務専念を妨げる行為であるとして、その他の非違行為を含めて戒告処分を適法としており、規則化を期待して然るべきである。又、春闘ワッペン着用を禁止する根拠にもなるので有益である。
四国財務局勤評闘争事件・最三小判昭52.12.20においては、組合役員が事務室において携帯拡声器を用い、執務中の職員に対し局長との会談について約4、5分にわたり放送したことが、職員の執務を妨害したと認定され、勤務時間中の午後二時より30分間、職務を放棄し、組合役員約9名とともに、総務課長室において机を取り囲み、同課長に対して勤評反対闘争の結果措置等について大声で荒々しく抗議要求を行ったことが、同課長の勤務をの妨害したと認定され、その他の非違行為を含めて懲戒免職を適法としている。
ところが東京都においては、勤務中に頭上報告、オルグ演説、集会を囚われの聴衆の状況で演説を聴かされ、職務の集中を妨げる行為が当然のようになされ、事務室内でなさける昼休み集会であれ、休憩時間をずらして勤務中の職員はいるので同じことであり、所属長要請行動のような多衆の威圧のもとに管理職の執務妨害ですら非違行為とされず容認してきた経緯がある。
勤務時間中の組合活動の問題は平成16年に頭上報告等後藤雄一都議が質問し、その対応として「東岡職員部長通知」により勤務時間内の活動は賃金カットの警告がなさけるようになったが(第Ⅰ部(Ⅳ)六平成16年3月17日後藤雄一都議質問の影響34頁参照)、始業時間前の頭上報告であってもアジ演説を聴かされた余韻で作業能率に影響するおそれがあり、能率的、適正良好な職場環境、規律のある業務運営とはいえないという観点から規制してしかるべきである。今回は規則で明文化し、休憩時間や勤務時間外も含めて取り締まりの根拠とするものである。
(四)業務外の徽章・胸章・腕章等の着用禁止(4)
1 春闘ワッペンの取り外し命令の根拠とする
4 職員は、勤務時間中に又は局所施設内で上司が認める業務外の徽章、胸章、腕章等を着用してはならない(解釈としては、ゼッケン、鉢巻、プレート、ワッペン、バッジ、政治的文言等のプリントされたトレーナー、Tシャツの着用を含める)
モデルはJRグループ就業規則
第20条の3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない
運用解釈としては、リボン、ワッペン、鉢巻、ゼッケン、プレート、バッジのほか、政治的なスローガンをプリントされているトレーナー等の着用を含め服装闘争全般、組合の組織的行動だけでなく、組織されていない個人的行動も含めて取り締まる。
これは、主に全水道東水労の春闘ワッペン着用闘争をやめさせる目的の規則である。近年は見かけなくなったが10年前頃まで配布していた。実際には、着用しない組合員も多かったが役員は着用していた。また闘争を再開する可能性もあるので予防のため規則になる。
腕章は役員がオルグ演説や頭上報告で用いるほか、過去に赤い腕章着用のまま勤務する職員もいた。これらも規制する。
春闘ワッペンは私鉄総連のワッペンと似ており、ビニール製直径6~7センチである。私は私鉄総連(私が見たところでは東京メトロ.東急.京浜急行.京成.東武については着用率が高く、京王は着用時期が短くやってない社員もいる。小田急は着用を確認していない)の駅員や乗務員、東急バス等バスの運転手のワッペン着用も非常に不愉快であり、バス運転手など制服をハンガーにかけて着用せず態度も悪いケースがある。
第Ⅲ部特に東京メトロについては株を手放すまえに国会と都議会から注文をつけてもらいたいと思っているが、東京急行電鉄の昭和54年当時の就業規則は「従業員は、勤務時間中所定の社員章または制服制帽を着用しなければならない」としているが会社が認めないワッペンの着用を禁止していないようである。私鉄各社が禁止できていないのは、東京都水道局と全く同じ、企業秩序維持権を行使していないなのである。
春闘ワッペンの法的評価は、私鉄であれ、水道局では公衆の目に触れる頻度の高さの違いだけであり、大筋で同じ。この点JRグループは冒頭の就業規則等のもとに、会社発足当初から、国労バッジの取り外しを徹底的に指導しており、結果として、平成15年頃には着用者がいなくなった。企業秩序論による労務管理を徹底して成功している事例なので、それにならった労務管理を東京都も取り入れることを強く要求する。
結論を先にいうと、類似事案の判例は蓄積しており、明文の規則にもとづいて、春闘ワッペンの取り外し命令や、職務命令に従いない場合の不利益賦課が労組法7条1号の不当労働行為とされることはないから、勤務時間中に組合行動を意識させ職務の集中を妨げるおそれがあり、職務専念義義務違反にあたる。適正良好で能率的な職場環境を確保すべく取り締まっていくべきである。
端的に一言でいえば、業務外の徽章等禁止の就業規則を明文化すれば、確実に取り締まりができる。それは、ワッペンよりずっと小さくて目立たない国労バッジ事件で就業規則違反として夏期手当減額措置を適法としている判決があるので、それは着用者の職務専念義務違反だけでなく、それが視覚に入ることによる他の職員の職務専念妨害、能率的な業務運営態勢なので規制できるという趣旨である。
JR東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平9.10.30判時1626号(最二小判平10.7.17労判744.中労委DB組合バッヂ着用の厳重注意と夏期手当減額の措置を不当労働行為に当たらないとして都労委の救済命令を取消した原判決を支持)
「本件組合バッヂ着用行為は‥‥本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから‥‥職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり‥‥これを勤務時間中に行うことは‥‥たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという‥‥職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。」
腕章その他の服装闘争も大筋で同じ企業秩序論にもとづく理由でよいわけである。
2 春闘ワッペンの法的評価=就業時間中の組合活動とみなされる
私鉄総連の春闘ワッペン着用行為が、組合活動か争議行為という問題は、当然にその法的性格を異にし、労組法7条1号との関係においても正当性の判断が異なりうるし、私企業では労組法8条の民事免責を正当な争議行為ならば認めることになるので、重要な論点である。
リボン闘争について最高裁が初めて判断を下した大成観光リボン闘争事件最三小判昭57.4.13民集36-4-659は、これを就業時間中の組合活動として、労働組合の正当な行為にあたらないと判示しているため、類似事案である私鉄総連の春闘ワッペンや全水道東水労のワッペンも就業時間中の組合活動とされることは間違いない。
大成観光リボン闘争事件の原判決は、リボン闘争について組合活動の面と争議行為の面と両面があると考察しているが、最高裁は争議行為とみなさなかった。
理由は判文では不明だが、新村正人調査官判解では、原審のいう使用者に対する団結示威の作用、機能を直ちに争議行為とみなす根拠はないと断定的に述べている。最高裁はリボン闘争が類型的に争議行為に当たらないとする見解に好意的とも言っている。
仮に争議行為にするとしても正当性の限界を確定する理論的作業は困難というほかなく、積極的に解することはないだろう。そうするとストライキ当日を別として、私企業で労働組合側がリボン闘争は争議行為と主張し労組法8条の適用があると主張しても認められることはないだろう。
したがって以下、ワッペン着用行為を就業時間中の組合活動と捉え法的な評価を行う。
3 服装闘争判例は正当な行為と認めていない
就業時間中にリボン、腕章、ワッペン、鉢巻、ゼッケン、組合バッジ等を着用しながら労務提供することが、債務の本旨に従った履行といえるのか、労組法によって保護される組合活動の正当な行為といえるのか、その着用を理由とする取り外し命令、訓告、戒告、減給、期末手当減額、出勤停止処分等の不利益処分、あるいは就労拒否、配置転換、本来業務外し等の措置が適法かなどについては判例の蓄積がある。
労働委員会命令の傾向は、服装戦術を団結活動の一環としてとらえ、服装規定にもとづく懲戒処分の不当労働行為性を認定する傾向があるが、裁判所(救済命令取消訴訟)になると正当な組合活動とされる例は少なく、大多数の判例は服装闘争を正当な組合活動とみなしていないし、不利益処分について労組法7条1号の不当労働行為に当たらないとする。
ノースウエスト航空事件・東京高判昭47.12.21労判速805-9が初めて腕章着用の就労を職務専念義務違反と判示した判例である。神田郵便局事件・東京高判昭51.2.25訟務月報22-3-740は勤務中に赤地に白く「全逓神田支部」と染め抜いた腕章を着用し、取りはずし命令に従わないことを理由とした担務変更命令を放棄したことによる減給処分を適法とする。
国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48.5.29判時704号6頁では、リボン着用は職務専念義務に違反し、国鉄の服装に関する定めにも違反し違法であり、取外し命令に従わない職員の訓告処分を是認とした。リボン闘争を違法とする判断枠組を示したリーディングケースである。同様にリボン闘争を違法とした判例として全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51.1.30労民集27-1-1、全建労事件・東京地判昭52.7.25行裁集28-67-680等がある。
(1)国労青函地本リボン闘争事件 ・札幌高判昭48.5.29労民24-3-257
国労が昭和45年春闘に際し全国各支部に闘争指令を発し、青函地本は3月20日ころよりリボン闘争を含む職場点検闘争に入ることを各職場分会に指令した。これにより国労組合員が同年3月20日から5月8日にわたって「大巾賃上げを斗いとろう、16万5千人合理化紛砕」と書いた黄色のリボン(縦1.0㎝横3.5㎝)を制服に着用して勤務に就いた。当局は再三に亘って取り外しを指示したが、従わなかった組合員延べ492名を訓告処分に付し、このうち54名が国鉄総裁を相手取って訓告処分無効確認と損害賠償請求の訴訟を起こしたものである。
一審函館地判昭47.5.19判時668号21頁はリボン着用を正当な組合活動として訓告処分を無効としたが、控訴審は破棄自判し処分を適法とした。
この判例は「‥‥国有鉄道の職員は、勤務中は、法令等による特別の定めがある場合を除き、その精神的、肉体的活動力の全てを職務の遂行にのみ集中しなければならず、その職務以外のために、精神的、肉体的活動力を用いることを許さないとするものである。‥‥勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、通常はこれによって当然に職務に対する注意力がそがれるから、かかる行為または活動をすることは、原則として職務専念義務に違反する‥‥その行為または活動によって、具体的に業務が阻害される結果が生じたか否かは、右の判断とは直接関係がないものというべき」と職務専念義務を厳格に解釈した判断枠組を示したことで知られ、最高裁(目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52.12.13民集31-7-974)もこの判断を採っている。
国鉄時代のリボン着用禁止の根拠となったのは、職務専念義務(国鉄法32条2項の「職員は、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない。」)のほか服装整正規定がある。
鉄道営業法第22条は「旅客及公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ」と規定し、この規定の趣旨を受けて、安全の確保に関する規程第14条、職員服務規程第9条、営業関係職員の職制及び服務の基準第14条、服制及び被服類取扱基準規程第2条、第9条等の定めがなされ、現業に従事する職員に対し、制服(作業服を含む)を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられており、服制及び被服類取扱基準規程では、現場職員の制服等の制式と着装方を定め、これを職員に貸与するものとし(第3条)、かつ「被服類には、腕章、キ章及び服飾類であって、この規程に定めるもの及び別に定めるもの以外のものを着用してはならない」(第9条第3項)と規定していた。
水道局では鉄道営業法のような制服着用の義務はないから鉄道員よりルーズといえる。
国鉄法の職務専念義務は、私企業の労働契約上の誠実労働義務にもあてはまる。また国鉄中国支社事件判決.最一小昭49.2.28民集28-1-66において国鉄の懲戒処分は、行政処分でなく、私法上の行為と判示しているので、国鉄においては公労法17条1項で争議行為が禁止されていたことを除いて、国鉄判例は私企業においても先例となるのである。
札幌高裁は次のように説示する。「‥‥被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、したがって‥‥勤務の間中、組合員相互に本件リボンの着用を確認し合い、これを着用していない組合員には着用を指導していたものであつて、本件リボンの着用が精神的に被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものでなかったとは到底認めることはできない。‥‥組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものというべきであり、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでなかつたことは明らかである。よって、被控訴人らが勤務時間中本件リボンを着用したことは、職務専念義務に違反するものである」
「国鉄職員のうち旅客及び公衆に対する職務を行なう者については、鉄道営業法第二二条によって、制服の着用が義務づけられており、また、直接右法条に該当しない者であっても、現業に従事する者について、公共の福祉の増進を目的とする国鉄の職員としての公正中立と品位を保持し、旅客公衆に対し国鉄職員であることの識別を可能ならしめ、かつ不快感を与えることを防止し、その職務が旅客公衆の身体、財産の安全にかかわるものとして、特に強く要請される職場規律の保持を確保するために、制服を着用すべきものとすることが必要であるから‥‥現業に従事する職員に対し制服を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられていることは、十分合理的な根拠を有するのであり、そして、右制服に、定められた服飾類以外の物を着用することを禁止することも、制服の性質、趣旨よりすれば、これを不合理な規制ということはできない。‥‥また、本件リボンは、前記のとおり組合活動として着用されたもので、その内容は組合の要求を記載したものであるところ、‥‥被控訴人ら国鉄職員がこれを着用して勤務していることに対し旅客公衆の中には不快感を抱く者があることは十分予想される。被控訴人らは、そのような不快感は反組合的感情で保護するに値しないと主張するが、しかし、その不快感が、本件リボンの内容である国労の要求内容に対する不満にあるのではなく、被控訴人らが職務に従事しながら本件リボンを着用して組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安によるものであるときは、国鉄が公共の福祉の増進を目的とする公法人で、その資本は全額政府が出資していることを考えると、右の趣旨の旅客公衆の不快感は十分理由があるものであつて、これを単なる反組合的感情にすぎないものということはできない。さらに、本件リボンと職場の規律、秩序の関係についても、本件リボンが前記のとおり国労の要求を記載したもので、これを着用することによって国労の団結をはかるものであるところ、国鉄内には、国労のほか、これと対立関係にある鉄道労働組合があることは顕著な事実であり、本件リボンの着用が鉄労組合員その他組合未加入者に心理的な動揺を与え、‥‥国労の組合員の中にも指令に反し本件リボンを着用しなかつた者が相当数あつたことが認められるが、これらの者にも精神的な重圧となったことも十分考えられ、勤務時間中の本件リボンの着用は、その勤務の場において、不要に職場の規律、秩序を乱すおそれのあるものというべきである。‥‥よって、本件リボンの着用は、控訴人の服装に関する定めに違反するものであり、法律及び控訴人の規程の遵守を求める法律に反する違法のものである。」
私鉄総連の春闘ワッペンには、具体的な要求項目の記載はない。ワッペンの記載は、民鉄協会と合同して行っている「公共交通利用促進」というスローガン、西暦と「春闘」、私鉄総連の英訳の頭文字、電車やバスのデザインである。
しかし「春闘」とは2月ころから労働組合が一斉に賃上げ等を要求する闘争を意味することは明らかであり、ワッペンは直径6~7㎝はあり目につきやすいという点ではリボンと比較しても遜色はない。全水道東水労のものも形状はだいたい同じ。
旅客公衆は「春闘」という文字をみて、使用者に対する団結示威というだけでなく、乗客にも春闘への連帯を訴えかける宣伝と受けとめる。したがって、旅客公衆が「職務に従事しながら‥組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安」を抱くことは、国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48.5.29の説示と基本的には同じことというべきである。それが水道局で行われる場合も同じである。
(2)大成観光リボン闘争事件・ 東京地判昭50.3.11民集36-4-681
事案は、昭和45年10月、ホテルオークラ(従業員約1200人)の従業員で組織する労働組合(組合員約300人)が結成三か月後、賃上げ闘争の一環として、2回にわたってリボン闘争を行った。リボンは直径5~6センチの花形に長さ6センチ幅2センチの白地に「要求貫徹」「ホテル労連」という文字を黒や朱色で印刷されていたもの。第1回のリボン闘争は10月6日から8日午前7時まで、リボン着用者は約226名(客面に出た者約25名)、7日は276名(客面に出た者約59名)であった。会社はリボンを外すよう説得し、担務変更などの対抗策を講じたが、組合は無視しリボン闘争を強行したため、組合三役らの6名の幹部責任を問い、就業規則にもとづいて減給処分とした。
第2回のリボン闘争は、処分撤回の目的で団交決裂後の10月28日午前7時から30日午後12時まで実行され、リボン着用者は28日256名(客面に出た者は約50名)、29日243名(同じく約49名)だった。11月9日賃金紛争は妥結し、11 日再び組合三役を譴責処分とした。 組合側は、東京都地労委に救済を申し立て、東京都地労委は、労組法7条1号の不当労働行為に該当するとして、処分の取り消し、減給分の賃金の支払いを命じた。会社側は救済命令を不服としする行政訴訟を提起した。
東京地裁は、リボン闘争による団結示威の機能領域の異別という視点から、組合活動の面と争議行為の面とにわけて考察したうえ、「いわゆる組合活動の面においても、争議行為の面においても、労働組合の正当な行為ではありえないというべき」と断じ、救済命令を取消した。
(判決理由の要旨)
○組合活動としてのリボン闘争の一般的違法性
労働者の連帯感を昂揚し、その士気を鼓舞するための集団示威は労働組合が自己の負担及び利益においてその時間及び場所を設営しておこなうべきもので、勤務時間の場で労働者がリボン闘争による組合活動に従事することは、人の褌で相撲を取る類の便乗行為であるというべく、経済的公正を欠く。労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下でのリボン闘争は、誠意に労務に服すべき労働者の義務に違背し違法であり、使用者はそれを受忍する理由はない。
○争議行為としてのリボン闘争の一般的違法性
使用者の指揮命令に従って業務を遂行しつつ、それに乗じて団結の示威を行うことは、心理上の二重機能的メカニズム、一面従順、他面反噬という精神作用を分裂させて二重人格の形成を馴致する虞れがあり、労働人格の尊厳を損なう性質のものであるのに加え、リボン闘争に対して使用者が、賃金カット、ロックアウトで対抗するのは困難であって、労使間の公平の原則に悖るため、争議行為としても違法であり、使用者が受忍する理由もない。
○特別違法性
リボン闘争は、労使が互いに緊張していることをまあたりに現前させるので、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てることなり、ホテルの品格、信望につき鼎の軽重を問われ、客の向背を左右することは必定。ホテル業の使用者において忍受しなければならない理由はさらにない。
労働側が殆ど勝てないため「地獄の東京地裁民事19部」と恐れられた中川幹郎裁判官チームの判決である。下線部で示すよう特徴的な表現のある判決として名高い。なお、控訴審東京高判昭52.8.9民集36-4-702は一審の判断を支持し棄却。
(3)目黒電報電話局反戦プレート事件.最三小判昭52.12.13民集31-7-974
本件は政治活動であるが、服装闘争判例とみす。判断枠組みは組合活動でも先例となる。
数日間継続して、作業衣左胸に、青地に白字で「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書いたプレートを勤務時間中に着用した行為等に対する戒告処分を適法とした。
判決理由は、局所内の政治活動を禁止する就業規則にたんに形式的に違反するだけではなく、実質的にみても局所内の秩序をみだすと判定し処分を是認しているが、職務専念義務論は、プレート着用が職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱しているから、実質的に就業規則違反になるという脈絡で展開されており、直接職務専念義務違反として処分を適法としている下級審判例と異なるが、その内容は、国労青函地本リボン闘争事件の判旨を踏襲しているといえる。
つまりプレート着用が公社就業規則5条2項の局所内の政治活動を禁止した規定に違反する行為とした。ただし、この就業規則は局所内の秩序風紀の維持を目的としたものであることにかんがみ、形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局所内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないという判断枠組を示したうえで、大筋以下の2点で実質的に局所内の秩序を乱すもしくは乱すおそれがあるので、就業規則違反として懲戒処分を適法と結論する。
a)職務と無関係な同僚への訴えかける行動は、職務の遂行と無関係な行動であり、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱している
b)他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、よって他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げる おそれがあることは局所内の秩序維持に反する。
a)について同判決は、公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した。
菊池高志[1983「労働契約.組合活動.企業秩序 『法政研究』49(4)]によれば目黒電報電話局判決は「勤務中は‥‥職務以外のことは行ってはならないのが職務専念義務であると言う。そうである以上、職務専念義務違反の判断は、職務以外の行為があったという事実さえ認められれば目的、態様、行為の及ぼす影響などは改めて吟味を要旨はないこととなる」とするが、これが普通の解釈である
国労青函事件札幌高裁判決や、目黒電報電話局事件上告審判決が示した職務専念義務論が、私企業の労働契約上の誠実労働義務と同一内容といえるかについては議論があるが、通説は同一内容とみなす。
「職務専念義務」あるいは「誠意に労務に服すべき義務」というにしても、法的に考えるならば、両者の義務は職場規律を遵守し、就業時間中仕事以外のこといっさいかんがえてはならない義務として使用されており、「誠意に労務を提供する義務」は職務専念義務と同一内容をもつものと考えられる[石橋洋「組合のリボン闘争戦術と実務上の留意点-大成観光(ホテルオークラ)事件」労働判例391号1982]。
加えて最高裁は、国鉄中国支社事件判決.最一小昭49.2.28民集28-1-66において日本国有鉄道法31条1項に基づく懲戒処分は、行政処分ではなく、私法上の行為としているから、国鉄職員懲戒処分の判例は、公労法17条1項の争議行為が禁止されている点は異なるとはいえ、私企業一般の先例なのである。
目黒電信電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、私企業一般の先例なのである。
とすれば、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべき[菊池高志前掲1983]という見方が有力なのである。
(4)大成観光リボン闘争事件・最三小判昭57.4.13民集36-4-659
最高裁が初めてリボン闘争について判断を下した大成観光リボン闘争事件最三小判昭57.4.13民集36-4-659は、「本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」とした。
この結論は妥当であるが、第三小法廷4人のうち横井大三(高検検事長出身)、寺田治郎(高裁長官出身)判事の主流派2人と左派プロレイバー(反主流派)が2人(弁護士出身の環昌一裁判長、学者出身の伊藤正己各判事)という構成のため、先例についての法的評価が一致せず、結論にいたった最高裁としての理由が示されていない。目黒電報電話事件最高裁第3小法廷判決は本件控訴審の後のものであるので、本件上告審においても、目黒局事件判決を引用し、雇用契約上の誠意に労務に服すべき労働者の義務において、被用者はその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならず、誠実労働義務違反というには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件としないとなぞった説示してもよいはずなのに、それをしていない。
判文で理論的説示がない理由は、目黒電報電話局判決に半数の2判事が批判的なためである。
しかし理論的な説示がなくしも、結論は正当な行為とされていないのだから、リボン闘争に否定的な下級審の傾向を追認したとする解釈をとってよいように思える。
ただし当該事案に限定しての判断のため、玉虫色的解釈がなされる要因となっている。この先例をホテル業に限定した判断であってケースバイケースで正当な行為とすることもありえるといったような労働組合側に有利に解釈することは、次節で述べるとおり他の最高裁判例との整合性からみて無理がある。
服装闘争類似事案の判例も多数蓄積しているが、JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件.東京高判平9.10.30判時1626号388頁(上告審最三小判平10.7.17労判744号15頁も原判決の判断を支持)が、組合バッチを着用したこと理由とする夏期手当支給5%減、賃金規定の昇給欠格条項該当者とする不利益措置は、労組法7条1号の不当労働行為にはあたらないと判示し、平成20年代の下級審判例である、JR西日本大阪国労バッチ事件.東京地判平24.10.31別冊中央労働時報1434号20頁やJR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件.東京地判平24.11.7労判1067号18頁が JR東海(新幹線支部)高裁判決の理論的説示を踏襲していることから、近年においても労働組合に有利といえる状況はないといえる。
総合的に判断しておよそ春闘ワッペン闘争については下記の立論により否定的な法的評価ができる。
3.春闘ワッペンは労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよい
(1) 私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用される
まず労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよいと考える。労働者は、雇用契約に基づき職務専念義務を負っており、就業時間中の組合活動は違法である。
近年の組合バッジ着用事案の判例でも「労働者は、就業時間中は使用者の指揮命令に服し労務の提供を行う義務を負うものであって、勤務時間中の組合活動は、原則として右義務に違反する‥‥労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり‥‥」(JR東海新幹線支部国労バッジ事件.東京高判平9.10.30判時1626号388頁)と判示しているとおりである。
この判断の根拠になっているのは引用こそされてないが目黒電報電話局反戦プレート事件.最三小判昭52.12.13民集31-7-974の職務専念義務論である。
同判決は公社法三四条二項の職務専念義務規定を「‥職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではない」として厳格に解釈したことはよく知られている。
同判決は公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」と判示し、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべき(菊池高志前掲 1983 )とする見解が通説である。
つまり職務専念義務は公務員法制の実定法に限られず、私企業の雇用契約でも同じことである。
なお、目黒電報電話局反戦プレート事件.最三小判昭52.12.13民集31-7-974は、ベトナム反戦プレート着用という個人的な政治活動の事案だが、組合活動についても同判決の判断枠組が適用されることは判例法理上当然の帰結といわなければならず、そうでないとする大成観光リボン闘争事件最三小判昭57.4.13伊藤正己補足意見は先例無視の勝手な見解だといわなければならない。
この点については大成観光リボン闘争事件・最三小判昭57.4.13民集36-4-659新村正人調査官判解が目黒電報電話局判決は「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」と解説しており、大成観光リボン闘争事件・最三小判昭57.4.13は理由を示していないが、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52.12.13の判断を踏襲しているという解釈が法律家の標準的見解といえる。 (菊池高志前掲判批だが、石橋洋前掲判批や西谷敏「リボン闘争と懲戒処分――大成観光事件」ジュリスト臨時増刊792号226頁1983、プロレイバー側の学者も同趣旨を言っている)
なお目黒局判決に後続する企業秩序論判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件・最三小判昭54.10.30民集33-6-676とそれを引用する多くの判例が、使用者は無許諾の企業施設内組合活動の受忍義務はないこと、済生会中央病院事件・最二小判平元.1.12.11民集43-12-1786によって就業時間中の無許諾組合活動が正当化されることはないことを明らかにしており、法益衡量の調整的アプローチを明確に否定していることから、職務専念義務は、政治活動を禁止する場合適用されるが、組合活動には適用されないということは、他の判例との整合性からみてありえないことである。
以上のことから私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのであり、東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60.8.26労民集36巻4.5号558頁では、同社の就業規則八条「従業員は、会社の諸規程および上長の指示にしたがい、……誠実にその義務を遂行しなければならない。」が引用され、「労働者は誠実に職務に従事すべき義務を負うことは、労働契約の性質から当然のことである。したがつて、労働者が勤務時間中にその職務と関係のない行為を行うことは原則として右義務に違反することとなり、この場合に右義務違反が成立するためには必ずしも現実に職務の遂行が阻害されるなどの実害が発生することまでは要しないものというべきである。そして、被告会社の前記就業規則八条の定めも、このことを明らかにしたものと解される。」と判示しているとおりである。
本件は、狭山差別裁判粉砕等、裁判の不当を訴える内容の縦10センチメートル、横14センチメートルの硬質プラスチック製のプレートを制服の左胸部に着用してした就労申入れを拒否した事案で組合活動ではないが、現在の東急電鉄の就業規則は不明だが、民鉄の就業規則を引用して厳格な職務専念義務論を述べた先例としてその意義が認めなければならない。
(2)予想される組合側の反論に対する再反論(長文になるのでせ註記に移す)
(六)業務外の車両.旗.幟.プラカード.横断幕.立看板等の持ち込み、設営。集団行進、示威行為等の禁止
5 職員は、庁舎、局施設構内において、許可なく業務外の目的で車両.旗.幟.拡声器.横断幕.立看板.テントその他工作物を持込んだり、設営してはならない。又、許可なく業務外の目的で、局施設内に侵入、泊まり込み、座り込み、通行規制、集団行進、警備会社の警備解除をしてはならない。
東京都の庁舎管理規則と水道局庁舎管理規程は、以前は穴の多いものだったが、オリパラ開催に伴う警備強化のため令和2年に大きな改正がなされ、禁止事項が増加した。概ね法務省や裁判所の規則をモデルにしているものと思えるが、これは組合活動というよりも外来者の抗議活動や面会の強要などに対応できるものとした感がある。庁舎管理規程とは別に職員に限定した就業規則として庁舎管理規程と同様の禁止事項を設けることは郵政省などの例があるので、就業規則でも庁舎管理規程と同様の規則を制定してよいと考える。
モデル 法務省
左の写真は、霞が関の東京家庭裁判所の構内にある看板を撮影したもの。東京法務局のある九段第二合同調査にも同文の立て札があるので、法務省や裁判所ではどこも同じと考えられるが、これは組合対策というより陳情、抗議行動の来庁者対策といえるが、庁舎管理規程と重複する部分はあっても、職員に対する就業規則で規定して万全を期す。
旗上げ行為や立て看板は、スト当日だけでなく、闘争期間や支部の決起集会時にみられ、私が勤務した場所では、江東営業所や千代田営業所は巨大な立て看板が出されるほか、千代田営業所では来客用駐車場に多数の組合旗が掲出される。闘争期間はビラだけでなく、旗が掲出されることがあり、寄せ書きをした組合旗か陳列されたりすることもある。都庁前の決起集会では、車両や旗、幟が持ち込まれるほか、平成16年の業務手当闘争では都庁前の集会参加者が、第二庁舎に旗や幟持参のままなだれこみ、庁舎内を練り歩くデモ、座り込みが行われているが、退去命令等は行われていない。
本庁はセキュリティゲートが設置されたので、突入して練り歩くことは困難になったが、出先の事業所にはセキュリティゲートなどなく、鉢巻やゼッケン、腕章は前段の規則で規制しているのでそれと合わせて、規則を明文化し、撤去命令、退去命令の根拠する趣旨である。
庁舎管理規程の改訂でも懲戒処分は可能だが、就業規則で規定して万全を期す。
モデル 最高裁判所庁舎管理規程
裁判所の庁舎等の管理については、最高裁判所において裁判所の庁舎等の管理に関する規程(昭和四三年六月一〇日最高裁判所規程第四号)を制定している。
その規程中には次のような定めがなされている。
(目的外使用)
第八条 管理者は、前二条に定める場合のほか、庁舎等をその目的以外の目的のために使用させてはならない。ただし、管理者が相当と認めるときは、その使用を許可することができる。
(許可条件)
第九条 管理者は、前三条の許可をする場合において、条件を付することができる。
(掲示)
第十条 管理者は、庁舎等において広告物、びら、ポスター、立看板その他これらに類する物の掲示(展示を含む。以下同じ。)をさせてはならない。ただし、管理者が相当と認めるときは、その掲示を許可することができる。
2 前項の許可は、管理者が掲示の場所及び期間を指定して行なう。
3 管理者は、第一項に掲げる物が許可を受けないで掲示されたとき、又は前項の指定に違反して掲示されたときは、掲示をした者に対し、その撤去を命じなければならない。
4 管理者は、第一項に掲げる物を掲示した者が前項の命令に従わないとき、その者若しくはその所在が判明しない等のため前項の命令をすることができないとき、又は緊急の必要があると認めるときは、これを撤去しなければならない。
(退去命令等)
第十二条 管理者は、庁舎等において次の各号の一に該当する者に対し,その行為若しくは庁舎等への立入りを禁止し、又は退去を命じなければならない。ただし、管理者が第九号又は第十号に該当する者に対し、庁舎等の管理に支障がないものと認め、その行為を許可した場合は、この限りでない。
一ないし八(省略)
九 旗、のぼり、プラカード、拡声機、その他これらに類する物を持ち込み、又は持ち込もうとする者
十 はちまき、ゼッケン、腕章、その他これらに類する物を着用する者
十一 前各号に掲げる者のほか、庁舎等の管理に支障がある行為をし、又はしようとする者
2 管理者は、庁舎等の管理のため必要があると認めるときは、庁舎等において、文書、図画、びら、その他これらに類する物を頒布し、又は頒布しようとする者に対し、その行為若しくは庁舎等への立入りを禁止し、又は退去を命じなければならない。
3 省略
(撤去命令)
第十三条 管理者は、庁舎等にある次の各号に掲げる物について、その所有者又は所持者に対し、その撤去又は搬出を命じなければならない。ただし、第四号又は第五号に掲げる物について、管理者が庁舎等の管理に支障がないものと認めた場合は、この限りでない。
一ないし三(省略)
四 旗、のぼり、プラカード、拡声機、その他これらに類する物
五 はちまき、ゼッケン、腕章、その他これらに類する物
六 前各号に掲げる物のほか、庁舎等の管理に支障を生じ、又は支障を生ずるおそれがある物
2 管理者は、庁舎等の管理のため必要があると認めるときは、庁舎等にある第十二条第二項に掲げる物についてその所有者又は所持者に対し、その撤去又は搬出を命じなければならない。
3 管理者は、第一項各号及び前項に掲げる物の所有者又は所持者が前二項の命令に従わないとき、これらの者若しくはその所在が判明しない等のため、前二項の命令をすることができないとき、又は緊急の必要があると認めるときは、これを撤去し、又は搬出しなければならない。
裁判所以外の各省庁における庁舎等管理規程も、ほぼ同様の条項が存在する
(出所国労札幌地本ビラ貼り事件最三小判昭54.10.30上告趣意書)
旗上げ行為、横断幕規制等の根拠となる判例は以下のとおり
○北見郵便局事件・札幌地判昭50.2.26判時771号3頁
北見郵便局の庁舎管理者である同郵便局長の許可を受けることなく、通用門の両側の鉄柵に全逓旗が各2本ずつ計4本、入口に立看板が1枚立てられ、図書室前の鉄柵に横断幕2枚張られた。郵便局長は組合書記局に撤去するよう命じたが応じず、管理職により撤去作業を始めたところ、原告ら組合員が妨害行為をしたことが懲戒事由の一つとされておりそれ自体は違法であるとしている。郵政省庁舎管理規程によると、庁舎管理者の許可なく広告物またはビラ、ポスター、旗、幕その他これに類するものを掲示、掲揚または掲出したときは、その撤去を命じ、これに応じないとき庁舎管理者はみずから撤去することができる旨規定されている(六条、一二条)。全逓旗、横断幕および立看板はいずれも北見郵便局長の事前の許可を得ないで掲出されたものであり、原告はその撤去命令に従なかったのであるから、同局長はみずからこれを撤去することができると説示する。
●北見郵便局懲戒免職事件・札幌高判昭54.3.29判時940号114頁
スト指導その他を理由とする懲戒免職を違法とした一審を破棄し適法とする。庁舎管理者の許可を得ないで掲出された組合旗、横断幕及び立看板を管理者側が撤去しようとするのは正当な職務行為であり、右撤去作業を妨害した行為が国家公務員法99条(信用失墜行為の禁止)に違反し、同法82条1号、3号に該当するとした。
●ミツミ電機事件・東京高判昭63.3.31判タ682号132頁
争議中の集会、デモ、泊込み、ビラ貼付、赤旗掲揚等を理由として組合役員になされた懲戒解雇を是認。
○国鉄松山電気区事件・高松高判平元.5.17労判540号52頁
組合旗を撤去した電気支区長に対して暴言、暴行に及んだ国労愛媛支部書記長の懲戒免職を解雇権の濫用として無効とした原審を支持。(懲戒免職が重過ぎるとの判断とみられる)
●平和第一交通事件・福岡地判平3.1.16労経速1423号3頁
組合旗の撤去、処分警告書の交付等を不当労働行為とした労委命令を取消し、施設管理権の行使として是認された例であるが、国労札幌地本事件最高裁判決を引用したうえ「組合が掲揚した組合旗は、昭和六一年六月一〇日ころにはその数が二〇本に及び、原告事務所の美観を著しく損ない、通行人や乗客に奇異な印象を与えるものであることが認められ、‥‥、組合が依然として組合旗等の掲揚を中止しないために、やむをえず掲揚されていた組合旗等を自力で撤去し、無断で組合旗を掲揚していた組合員に対し、再発防止のための責任追及及び処分の警告を発したものであって‥‥必要な施設管理権の行使であって、組合が企業内組合として団結を示すために掲揚することが必要であることを十分考慮に入れても、それゆえに組合が原告の施設を使用できる当然の権利を有するものではなく、原告が組合の組合旗掲揚を受忍する義務もないというべきである。」と説示。
●ミツミ電機事件・東京地八王子地判平6.10.6.24労働判例674号45頁
組合の行った座り込み.デモ.ビラ貼付.赤旗掲揚.立て看板等を理由とする、組合委員長の解雇を是認。
●社団法人全国社会保険協会連合会(鳴和病院)事件・東京地判平8.3.6労判693号81頁
組合旗撤去は不当労働行為に当たらないとする中労委命令を支持。
「本件組合旗は、縦約数十センチメートル、横約一メートルで、掲揚場所も正面玄関のほぼ真上に当たる屋上であり、歩道から鳴和病院構内に入る地点からも、また、道路を隔てた向かい側からも見通せる非常に目につきやすい位置に掲揚されたことを認めることができる。‥‥使用者は、施設管理権を有しているのであるから、施設の使用を制限することは、これが施設管理権の濫用と認められる特段の事情がない限り適法であって、施設の使用」と説示。
組合旗については全国一般労働組合長崎地本.支部事件というのがあり、以下のように懲戒処分を肯定したもの不当労働行為としたものがあるが組合旗の掲出自体は違法であり、信用棄損にもなりうる。但し組合旗だけで停職3か月が重過ぎ組合活動に対する嫌悪を主たる動機としたと判断する判例があるということである。
●全国一般労働組合長崎地本・支部(光仁会病院・組合旗)事件・長崎地判平18.11.16
全国一般労組長崎地本長崎合同支部(医療法人光仁会)事件とは平成16年、長崎市にある精神科専門の医療法人光仁会病院(精神病床561床、従業員271名=当時)と全国一般労組長崎地本長崎合同支部(長崎地区の中小企業.商店など労働者が職種.企業を越えて組織された組合、組合員数221人、光仁会病院の組合の分会は61名)との間で夏期賞与支給をめぐって4回の団体交渉が行われたが妥結に至らなかったことから、分会長及び組合員らは、抗議行動として、赤地に白抜き文字で「団結」「全国一般」「長崎地本」などと記された組合旗を病院正門の左右両側に及び公道に面した位置に計5本を設置した。これに対して病院は再三にわたり撤去を求めたが組合は正当な組合活動であるとして応じず、約3ヶ月半にわたり設置しつづけたために、病院は、組合旗設置行為が施設管理権及び所有権を侵害する違法行為として分会長に対して停職3ヶ月の懲戒処分を科したという事案で、病院側が組合旗設置行為の違法を前提に、原告医療法人が被告らに対し損害賠償を求めた甲事件及び丙事件と、懲戒処分の無効を前提に、被告が原告医療法人に対し賃金請求をするとともに、被告組合支部及び被告が原告医療法人に対し損害賠償を請求する乙事件の3事件が併合審理され、被告組合支部と分会長の請求を棄却し、医療法人側の損害賠償請求を一部認容した。
判断枠組として昭和54年最判(国労札幌地本事件)が引用され、本件事実関係によれば、本件組合旗設置行為は、約三か月半も継続したものであり、しかも、四本の組合旗は公道に面した場所に掲揚され、残り一本の組合旗も正門を入ってすぐの場所に掲揚されていて、組合旗の大きさ、色彩、記載された文字等に照らすと、これらを見る者の視覚を通じて、組合活動を展開している旨の訴えかけを行う効果を十分に有していたものと認められる。そのため、本件組合旗設置行為により軽視することのできない信用毀損の損害を被ったのであって、被告組合支部はその執行委員会の決定に基づき、違法な本件組合旗設置行為に及んだのであるから、民法七〇九条による不法行為責任を負うものである。また、分会長は、違法な本件組合旗設置行為を実際に実行した主体の一人であり、その個人責任が否定されることにはならず、民法七〇九条による不法行為責任を負うものである。
原告が、病院施設に掲揚された組合旗を目にした医療従事者、患者及びその家族、近隣住民、金融機関、行政機関等から、悪しき評価を受け、本件組合旗設置行為によりその信用を害されたのは明らかである。原告は、精神に障害を負った患者の治療を行うための精神科の病院を経営しているため、その静謐な環境と相反する本件組合旗設置行為に対する一般の評価も厳しくなったものと考えられ、本件組合旗設置行為による信用毀損の損害が認められる。本件組合旗設置行為による原告光仁会の損害額は、合計275万5千円とした。また懲戒処分の内容として、三か月の停職処分が重すぎるということはできないと判示した。
□全国一般労働組合長崎地本・支部(光仁会病院.組合旗)事件.福岡高判平20.6.25労判1004号134頁
本件、組合旗設置行為は違法であるから、不法行為責任を負う。また正当な組合活動とはいえず、就業規則上の懲戒事由に該当するが、使用者の敵対的行動や団体交渉に対する消極的態度に反発したことにも起因し、当該懲戒処分は組合やその活動に対する敵意の発現であったとも考えられ、組合員に対する停職処分は、行為内容と対比してあまりに均衡を失し、社会通念上合理性を欠き無効とする。(TKC参照)
「本件のように、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権利を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動には当たらないものと解するのが相当である(昭和54年最判参照)。
そして、控訴人丁原ら組合員は、被控訴人の許諾を受けることなく、光仁会病院の病院施設に本件組合旗を設置したものであるから、被控訴人が本件組合旗の設置を許さないことをもって権利の濫用であるということがいえない限り、本件組合旗設置行為等は、被控訴人の施設管理権を侵害し企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動ということはできず、違法というべきである。‥‥‥本件組合旗設置行為等は違法であって、不法行為を構成するというべきである。そして、控訴人丁原は控訴人組合の決定に基づいて本件組合旗を設置したものであるから、同控訴人らが不法行為責任を負うことは明らかであり、また、控訴人組合本部についても、同控訴人は控訴人組合の上部組織であって、実質的にも指揮監督関係にあったものと認められるから、民法715条に基づく責任(使用者責任)を負うというべきである。
本件懲戒処分のような、使用者の懲戒権の行使には裁量が認められているのであるが、これがその原因となった行為との対比においてはなはだしく均衡を失し、社会通念に照らして合理性を欠くなど裁量の範囲を超えてなされた場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である(最高裁昭和49年2月28日判決.民集28巻1号66頁、最高裁昭和50年4月25日判決.民集29巻4号456号参照)。
これを本件についてみると、本件組合旗の設置は正当な組合活動とはいえないのであるから、‥‥約108日間の長期間にわたって本件組合旗を撤去しなかったものであって、‥‥その情状は決して軽くはないというべきである。
しかしながら、控訴人組合が本件組合旗設置を決意したのは、被控訴人の控訴人組合に対する敵対的行動や団体交渉に対する消極的態度に反発したことにも起因するものであったこと、本件組合旗の設置期間が長期に及んだのは、被控訴人が、本件組合旗の設置に対抗して、本件ビラを配布したり本件日の丸等を設置し、さらに、その間に行われた団体交渉にも消極的な態度で臨んだことにも起因していること、本件懲戒処分は、3か月間にわたって賃金を支給せず、かつ光仁会病院の敷地内にも立入りができないという厳しい処分であるにもかかわらず、被控訴人の理事会においては、今まで組合旗が設置してなされた組合活動に懲戒権が行使されたことはないことや、光仁会病院における過去の懲戒権行使の事例について検討した形跡はなく、ただ、本件組合旗の設置期間が108日間であったから3か月の停職にするという薄弱な理由で本件懲戒処分を決定していること、労働協約の一括しての解約通告においても、被控訴人において事前にその必要性の有無等を真摯に検討したことをうかがわせる資料はないこと、被控訴人は、本件ビラに控訴人組合を揶揄するような内容の記載をし、従業員からも組合側が設置したと誤解されるような横断幕を設置し、また、本件懲戒処分直後から光仁会病院の正門にガードマンを配置して控訴人丁原の立入りを阻止しており、これらの行動と本件組合旗設置前からの被控訴人の敵対的態度とを併せると、被控訴人には控訴人組合やその組合活動に対する敵意がうかがわれ、本件懲戒処分はその発現であったとも考えられること、以上の事実を総合して考えると、本件懲戒処分は、本件組合旗設置行為等の行為内容と対比してあまりに均衡を失するものといわざるを得ず、社会通念上合理性を欠くというべきである。したがって、本件懲戒処分は権利の濫用として無効である。‥‥ 」
なお、本件組合旗の設置による信用毀損等の無形の損害として、8月5日に取引銀行の担当課長が、翌6日に医療技術者養成学校の関係者が、9月30日に保健所の担当者が、10月25日に常勤医師が、同月28日には取引銀行の担当者が、それぞれ被控訴人の関係者に苦言を呈したり、被控訴人を敬遠するなどの状況になり、病院の信用が毀損されたことは明らかであるとし、損害は150万円をもって相当と認めた。
◯国.中労委(医療法人光仁会)事件東京地裁平21.2.18労判981号38頁
◯国.中労委(医療法人光仁会)事件.東京高判平21.8.19労判1001号94頁
(七)文書・印刷物の配布の時・態様・内容の規制(8)
1 平時は無許可配布を認めるが、闘争態勢では許可制
8(1)職員は、局所内で、文書若しくは図画等を配布する場合、職場の規律.秩序をみだすおそれのない平穏な方法又は態様でなければならない。通行の妨害もしくは混乱をもたらす態様、受け取りを強要する態様、職員の休憩時間の自由利用を妨げる態様で行ってはならない。又、局が庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるとき、無許可配布を禁止するものとする。
全水道東水労は、毎週発行される東水労ニュース、不定期の東水労新聞、支部ニュースで教宣活動を行っているほか、中央労働金庫の商品サービスの宣伝、アンケート、その他の印刷物を主として机の上に配布する。闘争時は朝ビラ情宣といって、楯列左右に組合員がならんで、通行者を挟んで次々ビラを差し出し半強制的に受け取らせるビラ配りがなされるが、電電公社やJRの規則がそうだが、多くの企業は許可制にしていると考えられ、ビラ、印刷物の配布は許可制としても勿論よいわけである。
しかし全面許可制にすると、管理職が組合から支配介入などといいがかりを恐れるあまり審査がなおざりになり、配布される量も多いことからいずれ形骸化することを見込んで、私の提案は、業務遂行を妨げず、平穏な態様、半強制的に受け取らせる態様でないもの、違法行為の慫慂等の内容がないものなら、無許可配布の余地を残している、より現実的な労務管理とした。
ただし、ストライキが配置され、闘争態勢に入った時点で、無許可廃止を禁止できる規程とした。朝ビラ情宣は当局も争議行為と認めている勤務時間内3割動員決起集会の当日になされることがあり、闘争課題と交渉経過、ストや三六協定破棄の日程を示すもので、「そそのかし」「あおり」に当たる印刷物であるから規制する理由があるし、そういうビラが配布されるおそれというだけで理由になるので、闘争が終了するまでは許可制とする。許可制であるが、反対派のビラなど認めてもよいのであって全面的禁止ではない。
モデル国立大学法人東北大学職員就業規則
第37条 職員は、本学の施設内で、次のいずれかに該当する文書又は図画を配布又は掲示してはならない。
一 教育、研究その他本学の業務の正常な運営を妨げるおそれのあるもの
二 第34条に規定する信用失墜行為等に該当するおそれのあるもの
三 前条に規定する政治的活動等に該当するおそれのあるもの
四 他人の名誉の毀損又は誹謗ひぼう中傷等に該当するおそれのあるもの
五 公の秩序に反するおそれのあるもの
六 その他本学の業務に支障をきたすおそれのあるもの
2 職員は、本学の施設内で、文書若しくは図画を配布若しくは掲示する場合、又は業務外の集会若しくは演説を行う場合は、業務の正常な遂行を妨げる方法又は態様で行ってはならない。
3 職員は、本学の施設内で文書又は図画を掲示する場合には、あらかじめ指定された場所に掲示しなければならない。
4 職員は、許可なく、本学の施設内で、業務外の集会、演説、放送又はこれらに類する行為を行ってはならない。
東北大学の規則では許可制でなく無許可ビラ配りの余地を与えている。国立大学法人に移行する際、議論してこのような規則となったといわれる。
ビラ配りも、国労札幌地本判決の判断枠組が適用される。したがって近年の西日本旅客鉄道(動労西日本)事件東京高判平27.3.25別冊中央労働時報1506号78頁のように「ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性から直ちにビラ配布行為が許容されることにならない」、企業施設構内のビラ配りは、就業規則により事前許可のないビラ配りを禁止でき、配布の時間や態様を規制できるのは当然のことである。
しかし、ビラ配りは正当な行為とされる余地のないビラ貼りと違って、懲戒処分を無効とする判例も少なくない。
目黒電報電話局事件.最三小判昭52.12.13の「実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、就業規則違反になるとはいえない」という判断枠組を引用して正当な行為とする判例が倉田学園(大手前高(中)校.五三年申立)事件.最一小判平6.12.24労民集48巻8号1496頁等いくつかあるほか、懲戒解雇のような重い処分は無効とされるケースが少なくないので、その点注意を要する。
したがって、就業規則で無許可ビラ配りを禁止しても、組合側は、それが実質的に企業秩序を乱すおそれがなく、事業場の規律を乱さない時間帯及び配布の態様であることを主張することによって無許可ビラ配りを正当化する余地が残されている。
許可制でもよいが、全面許可制でないほうが受け入れやすいためその方針とした。
運用は、規則のとおり、無許可配布を原則としつつ職場の規律.秩序をみだすおそれのない平穏な方法又は態様でなければならない。通行の妨害もしくは混乱をもたらす態様、受け取りを強要する態様、職員の休憩時間の自由利用を妨げる態様があった場合は中止命令をする。又、局が庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるとき(ストライキを配置した闘争期間は違法行為を慫慂する文書の配布のおそれがあるので、無許可配布を禁止するものとする。
許可制にしないで、平時は無許可配布を可能にしたのは、以下のような判例を参考にしたということである。
2 ビラ配り判例の分析と対応
(1)行為態様.場所.時間について
A 半強制的なビラ受け取りを促す態様、狭い入口でのビラ配り
●日本エヌ.シー.アール出勤停止事件.東京高判昭52.7.14労民28巻5.6号411頁
使用者の警告制止にもかかわらず無許可で使用者の所有ないし占有する工場の敷地内において従業員に対し組合活動としてビラ)を配布する行為を継続したことを理由としてなされた出勤停止処分を有効とする。
事案は大磯工場(2007年閉鎖)構内における就業時間前のビラ配りである。
「大磯工場では従業員のうち相当多数が国鉄平塚駅前から被控訴会社大磯工場構内まで乗り入れる通勤バス三台に一台約七〇名宛分乗して午前七時三五分頃から午前七時五五分頃までの間に三回に分れ順次到着出勤するので従業員が前叙のように通路巾の狭い各通用口を長い一列縦隊となって通過することが多く、ビラを受け取らない出勤者には次ぎから次ぎにと胸元前方にビラが差し出され通行に渋滞を来しかねないこともあって、出勤者のうち職制でない従業員の多数は一応ビラを受け取っていた。しかし、前叙のとおりNCR労組が結成されていたこともあり、従業員に手渡された「おはようみなさん」が其の場に捨てられ、散乱することも多かつた」
「出勤してくる従業員を巾約一.六メートルの工場内通路の片側ないし両側にならんで迎え、出勤者一名に対し通路手前にならんだ者から順次一名が出勤者の前に「おはようみなさん」を差し出し、出勤者が受け取らなければ、次にならんだ者が続いてその出勤者の前にビラを差し出し、雨天のため従業員が雨具等を所持していたこともあって、混乱がないではなかった」 といった態様である。
判決は「あくまで組合ビラ配布は自由であるという独自の立場に固執し、被控訴会社の協議に応ぜず、指示に従わず、前叙のとおり一過的にもせよ、繰りかえし大磯工場の敷地建物の機能を害した各控訴人の所為は相当でなく、これを正当な組合活動であると認むべき特段の事由は認められない。そして、‥‥本件懲戒処分は被控訴会社の適法な懲戒権の範囲内にあり、他意はないと認められるから、控訴人らの不当労働行為の主張もまた採用し難い」と判示した。
類似したケースは水道局でもある。闘争期間に3割動員決起集会がなされるときに行われる、西部支所の朝ビラ情宣では、職員通用口に組合員が右側に4~5人、左側に同数が並び、登庁する職員をはさみ、次々とビラを差し出す、半強制的にとらせる。通用口の狭い事業所や雨の日には傘をたたんだりするため混乱することがありうるので、これ態様だけの問題でなく、ビラの内容が指令の伝達、違法行為参加の慫慂なので、許可しないのが妥当である。
B 就業中の従業員のいる時間帯
●日本工業新聞社事件.東京地判平22.9.30が、原告合同労組が無許可で配布した機関紙を、会社が回収し、制限した行為は、施設管理権の行使として許容される範囲内であり、配布に事前許可を求めることが支配介入にあたらないと判示したが、事案は平成6年2月1日午後6時過ぎ、Sビル5階の会社内を含む3か所において、会社の従業員のほか産経新聞編集局及び夕刊フジ編集局の従業員等に対し、原告の組合機関紙を約500部配布したこと(その配布時間帯には、多数の会社の従業員ほか上記各編集局の従業員等が就業中であったこと、Eら会社役員は、Aら3名による会社内での同組合機関紙の配布行為を制止しようとしたが、Aら3名は、それに従わず、その配布を実行したこと等の事案であることから、就業中の従業員のいる時間帯はビラ配りを禁止できると考える。
また●西日本旅客鉄道岡山駅(動労西日本)事件東京高判平27.3.25別冊中央労働時報1506号75頁「本件ビラ配布について、手渡し等による交付の態様自体は、比較的平穏な方法で行われたものと認めることができるものの、配布時間の点においては、配布を受けた相手方社員には手待ちによる業務中の者があって、その全員が休憩時間中又は業務終了後であったとは認められず、職場規律及び職場秩序を乱すおそれがないとまでは認められないものといわざるを得ない」として訓告処分を是認している。
C 就業時間前.休憩時間
○倉田学園(大手前高(中)校.五三年申立)事件.最一小判平6.12.24労民集48巻8号1496頁が、就業時間前の通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯にビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであるなど判示の事実関係の下においては、右のビラの配布は、学校内の職場規律を乱すおそれがないため、正当な組合活動とされている。
就業時間外.休憩時間であることからビラ配りが容認されるものではないことも明らかである。●三菱重工事件.東京地判昭58.4.28は労働協約違反として許されないとしており、政治活動事案だが、●日本アルミニウム建材事件.東京高判昭61.8.19休憩時間での配布であっても、就業規則所定の「事業場の規律を乱したとき」に当たるとしている。●国労兵庫支部鷹取分会事件.神戸地決昭63.3.22労働判例517号52頁は「ビラ配布等に利用する場合には、休憩時間中であっても、利用の態様如何によっては使用者の施設の管理を妨げる虞れがあり、他の社員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては企業の運営に支障を及ぼし、企業秩序が乱される虞れがあるから、使用者がその就業規則で労働者において企業施設をビラ配布等に利用するときは事前に使用者の許可を得なければならない旨の規定を置くことは、休憩時間の自由利用に対する合理的な制約であると解すべき」としているとおりである。●大日本エリオ事件.大阪地判平元.4.13労判538は、ビラでなく署名活動事案だが「本件署名活動はその趣旨説明、説得を伴っていたことが認められる。そして、休憩時間中においては他の労働者が休憩時間を自由に利用する権利を有していることが尊重されなければならないから、これを妨げる行為を当然にはなしえないと解すべき」として譴責処分を是認している。
私の提案は平時、事前許可制でないので判例よりゆるい対応だが、支障があればみなおしていく。
D 敷地の境界、敷地外のビラ配り
○住友化学名古屋製造所事件.最二小判昭54.12.14は就業時間外に会社の敷地内ではあるが事業所内ではない、会社の正門と歩道との間の広場(公開空地)でのビラ配りに対する懲戒処分を無効にしている。○不当労働行為に対する損害賠償請求事件.広島地判平26.10.30は、近隣の商業施設でのビラ配布を違法ではないとしている。
しかし●関西電力社宅事件.最一小判昭58.9.8は就業時間外、社宅でのビラ配布、●中国電力事件.広島高判平元.10.23は地域住民に配布した事案で●東急バス事件.東京地判平29.2.3TKCも駅前でのビラ配布であるがビラの内容に基づいて、懲戒処分を是認している。判例はケースバイケースといえる。
E 内容
●関西電力社宅事件.最一小判昭58.9.8は、大部分事実に基づかず、又は事実を歪曲して誇張し、会社を誹謗中傷するものであり、従業員の企業に対する不信感を醸成し、企業秩序を乱すおそれがあるとして、譴責処分を是認している。同趣旨の判例は少なくないが、一方○福岡西鉄タクシー事件.福岡地判平15.1.30 ビラは記載内容において不正確、不適切、誇張にわたる面はあるものの、過度に挑発的な表現を用いて、ことさらに職場秩序を乱す意図を感じさせる程度には至っておらず、一部に事実の裏付けのある記載もあり、組合員に注意を喚起しようとした目的自体は不当とは言い難いとして懲戒解雇を無効とする。●中国電力事件.広島高判平元.10.23判例時報1345号128頁
「島根原発の社員は地元の魚は食べません」「その放射能がみなさんの頭の上に降ってきます」などの記載を含むビラを配布したことを理由とする組合役員の懲戒処分につき、本件ビラにはその主要部分について虚偽事実の記載があり懲戒処分を支持する。判例はケースバイケースといえる。
F 就業規則の明文規定
◯明治乳業福岡工場事件.最三小判昭58.11.1は組合支部長の地位にある従業員が昼の休憩時間に食堂において赤旗号外や共産党の参議院議員選挙法定ビラを食堂において、手渡しまたはと食卓に静かに置くという態様のビラ配りについて工場内の秩序を乱すことのない特別の事情が認められる場合は就業規則違反とみなすことができないという判断をしているが、本件は、就業規則や労働協約で政治活動を禁止していなかったので、ビラ配りの問題として扱われた。しかし、●日本アルミニウム建材事件.東京高判昭61.8.19労働協約で「社内においては一切の政治的活動を行わない」と規定しているために、休憩時間に「赤旗」「日本共産党」等を引用した印刷物等を配布したことを理由とする出勤停止処分が是認されている。従って、就業規則の記載の有無は大きいのである。
私の提案では政治的なビラ配布自体禁止していない。支障があれば再検討する。
(2)ビラ配りへの警告、処分を適法、妨害禁止の仮処分申請を却下
●日本ナショナル金銭登録機懲戒解雇事件.東京地判昭42.10.25労民18巻5号1051頁
休憩時間中のアカハタ号外配布を理由とする組合支部委員長に対する懲戒解雇は不当労働行為に当たらない。労働基準法第三四条第三項が休憩時間を自由に利用させることを使用者に命じているのは、労働者に義務を課するなどしてその休憩を妨げることを禁じたものであつて、労働者が休憩時間中いかなる行為をも自由にできることを保障したものではない。従って、労働者は休憩時間中法の禁ずる行為をすることができないのは勿論、使用者がその事業場の施設及び運営について有する管理権にもとづいて行う合理的な禁止には従わなければならないと判示。企業内政治活動禁止のリーディングケース。
●横浜ゴム事件.東京高裁判決昭48.9.28労働法律旬報851号
横浜ゴム労組上尾支部執行委員2名が、施設内における三ないし四回の『アカハタ』の配布.勧誘行為が就業規則所定の企業内政治活動を禁止状況に違反すること。さらに勤務時間中に勤務につかなく、注意されたことに対して棒を振り上げ反抗した、あるいはあやまって器具を損壊したという三~四年前の就業規則違反を理由とする懲戒解雇処分に対して、地位保全の仮処分申請を提起したもので、一審は懲戒処事由としてはささいな事実であり実害もなかったとして無効とする判決であったが、控訴審では懲戒解雇を有効とした。
「企業と雇傭契約を締結した者(従業員)は職場の規律を守り、誠実に労務を提供すべき契約上の義務を負うものであり、企業の施設又は構内において労務の提供と無関係な政治活動を自由に行い得るものとすれば、もともと高度の社会的利害の対立、イデオロギーの反目を内包する政治活動の性質上、従業員の間に軋轢を生じせしめ、職場の規律を乱し、作業能率を低下させ、労務の提供に支障をきたす結果を招くおそれが多分にあるから、使用者が企業の施設又は構内に限ってこれらの場所における従業員の政治活動を禁止することには合理的な理由があるというべき‥‥」
●倉田学園大手前高松高等学校事件.東京地判平2.4.9労働判例.重要労働判例総覧91年版33頁
始業時間前の職員室における組合ビラ配布を理由とした前執行委員長に対する訓告及び戒告処分は不当労働行為に当たらない。
●倉田学園大手前高松高等学校.最一小判平2.12.25労判600号9号
上告棄却。始業時間前の職員室における組合ビラ配布を理由とした前執行委員長に対する訓告及び戒告処分は不当労働行為に当たらない。
●倉田学園(大手前高(中)校)五三年申立)事件.高松高判平3.2.29民集48-8-1651頁
無許可で職場ニュースを配布したことを理由とする組合ニュースを配布した
ことを理由とする組合幹部の懲戒処分は不当労働行為に当たらないとした。
●JR東日本(国労高崎地本)事件.東京高判平5.2.10労働関係民事裁判例集
44巻1号95頁
出向先の会社の門前で出向制度を批判する演説、ビラ配布等の情報宣伝活動をした組合員らに対し使用者がした出勤停止の懲戒処分につき、労働組合側が出向先企業に向けて情報宣伝活動を行うこと自体は許されるとしても、その内容、方法、態様等は、出向先企業に対し不当に不安動揺を与えたり、出向先企業の出向元企業に対する信頼を失わせ、もって出向元企業の出向制度の円滑な実施に不当な影響をもたらすようなものではないことが要求され、交渉の対象となる出向制度自体の破壊につながるおそれのある行動をすることは、特段の事情のない限り労働組合の正当な活動の範囲内にはないとし懲戒処分は著しく重く不相当なものとはいえないとして、不当労働行為に当たらないとした。
●東京医療生活協同組合立入禁止等請求事件.東京地判平7.9.11労働判例682号37頁
職員の解雇撤回を求めて病院内で行われた、ビラ配り、連呼、ゼッケン着用旗掲示などの活動について、病院側が差止請求を認容。
●JR西日本岡山駅(動労西日本)事件東京地判平26.8.25労働判例1104号26頁
組合員は、本件ビラ配布以前においても、会社に許可を得ないまま、施設内のホワイトボードにビラを貼付して厳重注意を受けたり、その他、本件ビラ配布以外にも30回ほど会社に無許可で施設内におけるビラ配布を行っていたものであって、本件訓告は労組法7条1号の不当労働行為に該当しない
●JR西日本岡山駅(動労西日本)事件東京高判平27.3.25別冊中央労働時報1506号78頁
訓告処分が会社の合理的裁量を逸脱する不当に重いものではないと原判決を維持
1審被告は、本件ビラ配布について、社員の職務専念上又は業務上支障をきたしたり、職場秩序を乱したりするおそれのほとんどない場所で行われ、とりわけ、岡山駅2階営業事務室内個人用小ロッカー前通路及び同駅2階男子ロッカー室(休養室)については、営業区域に隣接しながらも明確に区別され、業務を遂行する場所のように社員に緊張感を持つことが求められる場所とは明らかに異なるものであって、業務との関係性は希薄であり、その配布の態様は、相応の配慮がされ、会社の業務運営に支障を及ぼさないような平穏なものである上、本件ビラの内容も、組合の情報や主張の伝達を図るものであって、職場秩序を乱すおそれがあると評価されるようなものでないことからすれば、職場秩序を乱すおそれがあるとはいえない特別の事情があったものであり、また、組合は.会社から組合掲示板が貸与されず、組合の情報伝達活動や組織拡大の呼びかけの手段がほぼビラ配布に限られ、ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性があった旨を主張する。
しかし、本件ビラ配布については、職場規律及び職場秩序を乱すおそれがないとまでは認められず、上記特別の事情があるとは認められないこと、ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性から直ちにビラ配布行為が許容されることにならない‥‥」
●東急バス事件.東京地判平29.2.3TKC
駅のバスターミナルにおいて本件ビラを配り、被告の信用を失墜させたとして、被告から、平均賃金の1日分の2分の1を減給する旨の懲戒処分を受けたところ、本件ビラの配布は懲戒事由に当たらないし、これを理由とする懲戒処分は不当労働行為に該当し無効であると主張して、被告に対し、雇用契約に基づき、減額された賃金及び遅延損害金の支払いを求めるとともに、無効な懲戒処分が不法行為に当たると主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料等の支払いを求めた事案において、「安全運転にも支障をきたしかねない事態です。会社はこのような状況を知りながら、何ら改善の手段をとらず、このような状況を黙認していました。」等の記載が事実に反するか、事実を誇張又はわい曲して記載したものと認められる等のことから、懲戒処分は有効であり、不法行為法上の違法も認められないとして、原告の請求をいずれも棄却。
(3)ビラ配り等の懲戒処分を無効
○大和タクシー外二社事件.広島地判昭57.2.17労判387号カード
本社及びLPGスタンドのある場所の路上での宣伝、ビラ配布に対する管理職の妨害行為と、就業時間中の組合活動に対する警告書の交付を不当労働行為とする。
○西日本重機事件.最一小判昭58.2.24労判408号50頁
始業時の直前、昼休みのビラ配布に対する警告書の交付を不当労働行為とする。
◯日本チバガイギー事件.東京地判昭60.4.25労民集36巻2号237頁
本件で配布されたビラは誹謗、中傷し職場秩序を乱すものではなく、配布された時間も早朝、就業時間前であり、配布場所も業務に支障を生じるような場所ではではなかった。ビラ配布によってその場で喧噪や混乱状態を生じたという事情も認められないことから、本件ビラ配布の警告は、権利の濫用であると認められる特別の事情がある場合に該当し、組合活動に対する支配介入とした。控訴審東京高判昭60.12.24労民集36巻6号785頁でも一審の判断維持
◯大鵬薬品事件.徳島地判昭61.10.31労判485号36頁
会社構内で、上部団体の支援を受けて集会を開き、これと合わせて駐車場や正門出入口付近で帰宅する従業員を対象に組合への参加を呼びかけること等を内容とするビラを配布するというものであったが、このとき集会やビラ配布の現場には原告の課長等の管理職が多数これを包囲するようにして、監視の目を光らせた。そのため帰宅する従業員のなかにはビラの受取りを躊躇する者もあり、駐車場や正門出入口でのビラ配布では十分な活動の実効をあげ得ないと判断した組合は、三回目のビラ配布活動を行うころから、配布の時間を正午から午後一時までの休憩時間帯とし、場所を従業員食堂の出入口からその内部、さらには休憩室.娯楽室へと切り換えていったという事案での管理職による警告書交付が不当労働行為に当たるとした労委命令を支持。
○アヅミ事件.大阪地決昭62.8.21労判503号25号
また本件ビラ配布行為は、昼休みきわめて平穏な態様でなされ、内容や表現もとりたてて問題と取れたてて問題とすべき部分はないのだから、形式的には就業規則違反であっても企業秩序.風紀をみだすおそれのない特別の事情(目黒電報電話局事件判決の判断枠組)が認められ、懲戒事由に該当しないとする。
○倉田学園(大手前高(中)校.53年申立)事件.高松地判昭62.8.27労民集48巻8号1605頁、倉田学園(大手前高(中)校.57年申立)事件.高松地判昭62.8.27労判509号69頁
無許可で職場ニュースを配布したことを理由とする組合幹部の懲戒処分は権利の濫用であり、正当な組合活動として、不当労働行為を認めた労委命令を支持する。
◯博多第一交通事件.福岡地決平2.6.3労働判例564号38頁
組合が配布したビラの内容は、不適切もしくは不穏当な箇所が存したのではないかとの疑念も存在するが、会社と組合間の一連の労使紛争は、主に会社側の組合員に対する強引かつ執拗ないやがらせや脱退工作に端を発するものであること、また、本件ビラの配布は、会社の幹部による組合の切り崩しに対して組合の組織を防衛することを目的として行なわれたものであることなどから、本件ビラの配布行為は適法といえ、この行為を理由としてなされた組合執行委員長の解雇は、使用者に許された懲戒権行使の範囲を著しく逸脱したものというべきであり、解雇権の濫用となり無効である。
◯国鉄清算事業団(JR九州)事件.福岡地小倉支部平2.12.18労働判例575号11頁
「国労では、毎年六月に全国大会、八ないし九月に中央大会、一〇ないし一二月に支部大会、一二月に分会大会が開かれ、右各大会の代議員を選ぶために選挙が行われていること、右代議員選挙のため運動としては各職場を回って数分の間にビラを配布し、演説を行うという形式をとってきたこと、昭和五七年ころ以降国鉄では職場規律の確立、総点検が言われ、また、第二てこの入口には「勤務者以外許可なく入室を禁ずる。」旨の張り紙があるが、手待ち時間など勤務時間中に、オルグ隊が第二てこ中継運転室及び門操下りに入っても、管理者にオルグ活動を制止されたことはなかったこと‥‥国鉄は、国労が従来の慣習の是正に反協力的であったり、国鉄再建策としての分割民営化にあくまで反対し、そのため抗議行動をしてきたことに対して差別的ともみられる強硬な姿勢をとり、国労の指令を守る国労組合員に対して懲戒処分をするほか、管理者らをしてその組合活動を実質的に妨害してきた‥‥中継運転室及び門操下りで本件オルグ活動を行うにあたって施設管理者の許可を得ていないものの、オルグ活動を行っても職場秩序を乱したと認められない特別の事情があるというべきである。」本件は争議行為のオルグでなく国労代議員選挙のオルグである。
◯住友学園.大阪地判平6.11.13労判674号22頁労判674号.22頁
学校批判のビラ配布を理由とする懲戒解雇を解雇権の濫用として無効とする。
「本件ビラは、入試説明会に来校した生徒(中学三年生)にも配付されたものと一応認められるから‥‥教育的配慮に欠けるとの謗りは免れない。‥‥債権者からは、学園改革のための緊急避難的行為であるとの反論はあろうが、生徒にまで配付するというのは行き過ぎである。‥本件 ビラ配付は、その内容が正確性に欠ける点や配付方法が教育的配慮に欠ける点において一応は懲戒事由に当たるといえるが、その程度はさほど重大であるとは思われない‥‥.」
○住吉学園事件.大阪地決平6.11.22労働判例674号22頁
ビラの内容が多少不正確であっても程度は軽微として、ビラ配布によってなされた解雇を無効する。
○倉田学園(大手前高(中)校.五三年申立)事件.最一小判平6.12.24労民集48巻8号1496頁)
一部破棄自判、一部破棄差戻。
私立学校の職員室内で、教職員が使用者の許可を得ないまま組合活動としてビラの配布をした場合において、右ビラが労働組合としての日ごろの活動状況等を内容とするもので、違法不当な行為をあおり又はそそのかすこと等を含むものではなく、右配布の態様も、就業時間前の通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯にビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであるなど判示の事実関係の下においては、右のビラの配布は、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものとして、使用者の許可を得ないで学校内でビラの配布等をすることを禁止する旨の就業規則に違反しない。
○医療財団法人みどり十字事.福岡地小倉支判平7.4.25労働判例680号69頁
ビラ配布によってなされた解雇を無効。
◯四日市北郵便局事件.津地方裁判所四日市支部平7.5.19労判682号91頁
管理職らが郵政労組員らに対し、ビラ配布の妨害、給与の貯金口座振込強要、挨拶をしないことを口実とした降格.退職の強要などを行ったことにつき慰謝料請求を認容。
○中労委(倉田学園学園事件).東京地判平9.2.27労民集48巻1.2号20頁裁判所ウェブサイト
労働組合による無許可ビラ配布を理由とした組合執行委員長等に対する警告書の交付、組合員に対する労務担当者の発言、会議室の無許可使用を理由とした組合執行委員長に対する警告書の交付及び使用者の退職勧奨行為につき、いずれも組合の弱体化を意図して行われたものであるなどとして、労働組合法7条3号の支配介入に当たるとした。
○中央タクシー事件.徳島地判平10.10.16TKC掲載
被告会社の女性従業員の仮処分事件の裁判支援活動に伴って、原告組合委員長らが、被告代表者の名誉を毀損するビラ等を駅前等で配付したことを就業規則違反として解雇および出勤停止処分を受けたことに対して、ビラ配付は正当な組合活動であるとして、懲戒処分を無効とした。
○全日本運輸一般労働組合千葉地域支部事件.東京高判平11.11.24判例時報1712号
被告(被控訴人)らが原告(控訴人)の取引先に対して、具体的事実を摘示して原告が不当労働行為を行った旨を明らかにした要望書を送付した行為によって、原告の名誉.信用が毀損されたとして、不法行為に基づく損害の賠償を求めたところ、棄却されたため、原告が控訴した事案において、表現内容の真実性、表現方法の相当性、表現活動の動機、態様、影響等を総合すると、被告らの送付行為は、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲のもので、違法性はないから、不法行為に当たるとはいえないとして、控訴を棄却。
○東急バス(チェック.オフ停止等)事件.東京地判平18.6.14労働判例923号68頁
被告は、東急バス労組に対しては、日常的に被告職場内で情宣活動(ビラ配布、掲示板使用等)を行うことを認め、春闘時などには、各職場(営業所)において組合旗や横断幕を使用した職場集会を行うことを容認しているが、原告組合に対しては、ビラ配布等について警告書を発して処分をほのめかし、施設内情宣活動を禁止している‥‥、東急バス労組に対する便宜供与の程度と比較すると、組合員数(弁論の全趣旨によれば、東急バス労組には約一六〇〇名の被告従業員の大半が加入しているが、原告組合に加入する被告従業員は十数名程度であると認められる)の差を考慮しても、その取扱いの差に合理的な理由があるとは解されず‥‥他労働組合と比べて極端な差別的取扱いといわざるを得ない郵便物受取り上の便宜供与につき複数の労働組合を極端に差別することは不当労働行為に当たるから、差別的取り扱いを受けた労働組合は会社に対して、不法行為を理由とする損害賠償を請求できる。
◯JR東海(組合ビラ配布等)事件.東京地判平22.3.25別冊中央労働時報1395号42頁
東海旅客鉄道株式会社が、その管理者による呼出に応じなかった被告補助参加人分会の書記長に対し、1日半にわたり無許可ビラ配布の事情聴取を行い、その中で、顛末書の提出を求め、さらに、就業規則の書き写しを命じた行為等がいずれも労働組合法7条3号の不当労働行為に当たると判断され、その旨等を記載した文書の交付を命ずる救済命令を発せられた原告が、同命令の取消しを求めた事案において、上記事情聴取、顛末書の提出及び本件就業規則総則服務規程の書き写しを命じたことは、被告補助参加人らの組合運営への支配介入に当たるというべきであり、本件事情聴取における管理職の対応、認識等に照らすと、当該支配介入に係る不当労働行為意思も認めうるから、上記原告の行為は、労働組合法7条3号の不当労働行為に該当する等として、原告の請求を棄却した事例。
私の提案では、より安全運転のため職場の規律.秩序をみだすおそれのない平穏な態様での無許可配布を認めておりゆるい体制なので、上記の判例のような問題は起きないと考える。但し、ストライキを配置し状況、明らかに違法行為の慫慂を内容とするビラ、平穏でない態様のものは中止命令をしていくという方針を提案している。
(七) 組合掲示板以外のビラ貼りの禁止(8)
1 無許可ビラ貼りは正当な組合活動でないことは確定している
(3)職員は、局所内で業務外の文書又は図画を掲示する場合には、あらかじめ指定された場所に許可された文書等以外、掲示してはならない。局は庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるときは、右許可を撤回することができる。
(4)以下に該当する文書又は図画等を配布又は掲示は中止、撤去命令の対象となる。
一 業務の正常な運営を妨げるおそれのあるもの。
二 地公労法11条1項等が禁止する違法行為を慫慂、そそのかし、あおるもの。
三 信用失墜行為に該当するおそれのあるもの
四 選挙運動.国民投票その他の政治活動に該当するもの
五 名誉毀損又は誹謗中傷に該当するおそれのあるもの
五 公の秩序良俗に反するおそれのあるもの。
六 組合旗、寄せ書きの掲出などの示威。
七 その他著しく不都合なもの。
モデル JRグループ就業規則
第22条1項 社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配付その他これに類する行為をしてはならない
モデル2 郵政省(手続きが細かいのが特徴 東京地判昭54.2.27労民集30-1-202より)
国有財産法では、各省各庁の長は、その所管に属する行政財産を管理しなければならない(第五条)ところ、各省各庁の長は、その所管に属する国有財産に関する事務の一部を、部局等の長に分掌させることができる(第九条第一項)ものとされている。
郵政省の組織に属する行政機関において遂行する事業及び行政事務の用に供する庁舎等の適正な管理を行なうことを目的として庁舎等の取締りに関し必要な事項を定めることにより、庁舎等における秩序の維持、犯罪の防止、業務の正常な遂行、清潔の保持及び災害の防止を図るため、規程が制定され、昭和40年11月20日から施行された。規程によれば、庁舎等の取締りに関する責任者(庁舎管理者)は、郵便局については郵便局長であり(第二条第一項)、庁舎管理者は、法令等に定めのある場合のほか、庁舎等において、広告物又はビラ.ポスター、旗、幕、その他これに類するものの掲示、掲揚又は掲出をさせてはならないが、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、場所を指定してこれを許可することができる(第六条)。また、庁舎管理者は、右許可をする場合においては、必要な条件を付し、又は関係者等の守るべき事項を指示することができ(第八条第一項)、右条件又は指示に違反して掲示された広告物等については、庁舎管理者は、その所有者等に対し、その物の撤去又は搬出を命ずるものであり(第一二条第一項)、所有者等が右命令に従わないとき又は庁舎等における秩序維持のため緊急の必要があると認めるときは、みずからこれを撤去又は搬出することができる(同条第二項)ことになっている。
規定の解釈、運用等に関しては、昭和41年3月10日、運用通達が発せられ、これによれば、規程第六条の広告物等の取扱いについて、庁舎管理者は、広告物等の掲示、掲揚又は掲出について申出があつたときは、その内容が法令違反にわたるもの、政治的目的を有するもの、郵政事業もしくは官職の信用を傷つけるようなものまたは人身攻撃にわたるものは、庁舎等における秩序維持等に支障があるものとして許可しないこと、広告物、ビラ.ポスター類の掲示について、組合等恒例的に掲示しようとする者があるときは、掲示申出ごとの許可に代えて掲示許可願を提出させ、あらかじめ一括的に許可してさしつかえないこと、この掲示許可は、右の許可しない場合にあたるものは掲示しないことと撤去又は搬出に関し規程第一二条第二項と同趣旨の事項とを記載した掲示許可書を交付して行うものとすることとなっている。
モデル3 国立大学法人東北大学 職員就業規則
3 職員は、本学の施設内で文書又は図画を掲示する場合には、あらかじめ指定された場所に掲示しなければならない。
企業の許諾なしにビラ貼りをすることは、正当な組合活動とはならないことを明らかにした国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭54.10.30は決定的な意義があり、ビラ貼りは争議前であれ、争議中であれ結論に違いはないと解される[河上和雄1980]。従ってビラ貼りを正当な組合活動と言えないこともないとした下級審判例は大阪高判昭58.3.30以降見当たらず、1980年代以降、国労札幌地本判列の判断枠組に従って懲戒処分は是認され、撤去費用の損害賠償請求、ビラ貼り禁止の仮処分申請の認容が通例となっている。
従って、刑事事件についても無許諾ビラ貼りは正当な組合活動ということはできず、労組法1条2項の適用はなく、組合活動なるが故に違法性が阻却されるという理論構成をとれない[河上和雄1980]のであるから、建造物損壊罪や器物損壊罪の構成要件に該当すれば同罪が成立するとみてよいだろう。
また建造物侵入罪については、ビラ貼り目的で特定郵便局に侵入した事案で、全逓釜石支部大槌郵便局事件.最二小判昭58.4.8刑集37巻3号215頁が、管理者側に有益な先例といえる。
要するに無許可ビラ貼りは正当な組合活動ではないと決着がついている事柄であり、ビラ配りがケースバイケースの司法判断もありうるのに対して、態様いかんにかかわらず、取り締まっていくべきなのである。
モデルのうち東北大学職員就業規則を参考とした。郵政省のように細かく規定すべきだが、とりあえず、東北大学並でよいのではないかと考えた。
あらかじめ指定された場所とは組合掲示板のことである。ビラ貼りは平成16年に後藤都議が西部支所のビラ貼りの写真をインターネットに公表したのち、職員部監察指導課が、写真を撮り、ビラの枚数を報告するようになったころから低調となったがそれ以前はおびただしい数のビラ貼りが連日のようになされていた。千代田営業所では支所集会のさいは勤務時間中に屋内階段の壁面、エレベーターホールの壁にびっしり貼られ、勤務時間中でもかまわず貼っていた。通常は五時十五分以降、管理職は大抵定時退庁するので、ただちにセロテープでビラ貼りをしている。現在管理職も若手の時は組合役員に指図され、ビラ貼りをしていた。何日も貼らせておく管理職もいた、はがさないでそのままであることもしばしばある。撤去した後は組合が財産と主張するので組合に返還している。
管理職がビラ貼りを制止したりパトロールすることは全くないので、西部支所で管理職が三六協定破棄で組合役員に経常業務を指図され、下位職務をやらされている時間にビラ貼りをしているのである。一時自粛傾向にあったとはいえ、近年は復活しつつあり、令和4年度はビラ貼りだけの夏季闘争が行われている。私のメモでは次の通り「8月1日ビラはり一階廊下に60枚 夏季闘争勝利 浄水場業務移転誠実な回答を 徴収の混乱の責任をとれ、都民サービス低下云々、2階に13枚」
ビラ貼りについて国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭54.10.30が、無許可ビラ貼りは正当な組合活動ではないとしているから、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するという企業秩序維持の観点から管理職はこれを許さないとの意思を明確にして、今後ビラ貼りはパトロールして、ビラ貼りを指導したりビラ貼りを現認したときは制止し、貼付作業中止.解散命令をするべきである。
2ビラ貼り取り締まりの根拠
(1)国労札幌地本事件最三小判昭54.10.30に至るまでの判例の進展
我が国の労働運動では大衆闘争の一環として団結力の高揚、要求のアピール、示威活動としてビラ貼り戦術は広範に行われ、プロレイバー労働法学は、団結権、争議権の行使の具体的内容であるとして支持していた。
もっとも、昭和54年以前ビラ貼りと関連して30件近くの懲戒処分の効力が争われた下級審判例があるけれども、多くの場合特別の理論を述べることなく、貼られたビラの枚数、場所、貼り方、内容等諸般の事情を考慮して直ちに正当な組合活動か否かを判断し、最終的な懲戒処分の効力はともかく、3分の2の判例が正当な組合活動ではないとしており、学説の司法への影響はさほど大きくなかった[山口浩一郎1980]。
また最高裁は刑事事件で、東邦製鋼事件.最三小決昭47.3.28判時667号95頁と関扇運輸事件.最一小決昭47.4.13判時667号103頁は、ビラ貼りが、建造物損壊罪の構成要件に該当するとしながら、正当な争議行為であるとして違法性を阻却し無罪とする原審の判断を是認している。
しかしながらこの種の可罰的違法性論は国労久留米駅事件最大判昭48.4.25刑集27-3-418によって否定されたのである。
ビラ貼り事件で転換点といえるのが春闘仙台駅(仙台鉄道管理局)ビラ剥がし事件.最二小判昭48.5.25刑集27-5-1115である。列車車体に貼られたビラを剥がす職員の行為について「もとより日本国有鉄道の本来の正当な事業活動に属し、作業の方法態様においても特段の違法不当は認められない特別違法な点は認められない」とし正当な事業活動としてビラ自力撤去を認めたのである。
また商大自動車教習所事件.中労委命令昭50.6.18労経速892号は、大阪地労委の救済命令がビラ撤去通告や自力撤去が組合活動を阻害し支配介入にあたるとするのは一面的にすぎるとし、労働委員会がはじめて自力撤去を是認した事である[山口浩一郎1980]。
続いて動労甲府支部ビラ貼り損害賠償請求事件.東京地判昭50.7.15労民集26巻4号567頁という中川幹郎チームの名判決は、ビラ約3500枚を鉄道管理局庁舎内の壁、扉、窓ガラス等に糊によってはり付けた事案で。使用者の所有権や施設管理権「管理及び運営の目的に背馳し「業務の能率的正常な運営を一切排除する権能」を強調する一方、使用者が無断ビラ貼りを「受忍」すべきいわれはないとして、労働事件で初めてビラ貼りの損害賠償責任を認めたことと「受忍義務説」を明示的に否定した点で画期的な判決と評価する。
(2) 国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭54.10.30
国労札幌地本事件とは大略して次の通りである。国労は昭和44年春闘に際して各地方本部に対してビラ貼付活動を指令した。原告らは支部.分会の決定を受けて「合理化反対」「大幅賃上げ」等を内容とする春闘ビラ(ステッカー)を勤務時間外に国鉄札幌駅の小荷物、出札、駅務、改札、旅客などの各係事務室内、同駅輸送本部操連詰所および点呼場に、札幌運転区検修詰所に備え付けの自己又は同僚組合員の使用するロッカーに、セロテープ、紙粘着テープによって少ない者は2枚、最も多い者は32枚貼付した(原告以外の組合員も含めて総計310個のロッカーに五百数十枚のビラを貼った)。原告らは貼付行動の際、これを現認した助役ら職制と応酬、制止をはねのけた。
この行為が掲示板以外での掲示類を禁止した通達に違反し、就業規則に定めた「上司の命令に服従しないとき」等の懲戒事由に該当するとして、戒告処分に付し、翌年度の定期昇給一号俸分の延伸という制裁を課したため、原告らは戒告処分の無効確認を請求して訴えたものである。
二審札幌高判昭49.8.28は、組合が積極的に要求目標を掲げて団体行動を行なう場合において必要な情宣活動を行なうためには組合掲示板だけを使用しても不十分であるとし、居住性は勿論、その美観が害われたものとは認めがたいこと、業務が直接阻害されあるいは施設の維持管理上特別に差支えが生じたとは認め難いこと等の諸般の事情を考え合すとビラ貼付行為は、正当な組合活動として許容されると判示したが、最高裁は原判決を破棄自判し原告の請求を終局的に退けた。
「貼付されたビラは当該部屋を使用する職員等の目に直ちに触れる状態にあり、かつ、これらのビラは貼付されている限り視覚を通じ常時右職員等に対しいわゆる春闘に際しての組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼすものとみられるのであって、‥‥本件ロッカーに本件ビラの貼付を許さないこととしても、それは、鉄道事業等の事業を経営し能率的な運営によりこれを発展させ、もって公共の福祉を増進するとの上告人の目的にかなうように、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保する、という上告人の企業秩序維持の観点からみてやむを得ない‥‥上告人の権利の濫用であるとすることはできない。‥‥‥剥離後に痕跡が残らないように紙粘着テープを使用して貼付され、貼付されたロッカーの所在する部屋は旅客その他の一般の公衆が出入りしない場所であり‥‥本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等の事情‥‥‥は、‥‥判断を左右するものとは解されない‥‥。従って被告人らのビラ貼付行為は‥‥‥上告人の企業秩序を乱すものとして、正当な組合活動であるとすることはできず」上司が「中止等を命じたことを不法不当なものとすることはできない」と判示する。
要するにビラは視覚的に組合活動に関する訴えかけを行う効果があり、企業秩序維持をみだすおそれがあるという抽象的論理で施設管理権は発動できるのであり、具象的に業務阻害がないことで、ビラ貼りを正当化できないことを示している。法益衡量的な判断は必要ないのであって、企業秩序維持の観点から使用者が許諾しない意思を明確にもち、就業規則を具備さえすれは、この判決によって、ビラ貼りが正当な組合活動とされる余地はなくなった。
最高裁は国労札幌地本のビラ貼りを「春闘の一環として行われた組合活動」と認定しているが、河上和雄によれば、争議前のものであれ、争議中のものであれ結論に違いはないと解すべきと評する。
最高裁は全逓名古屋中郵事件.最大判昭52.5.4民集31-3-182において、民事、刑事を通じて一元的に違法性を理解する立場をとっているため、国労札幌地本事件は懲戒処分の事案であったが、使用者の許諾なきビラ貼りは、刑事的にも正当な組合活動とはいえないのであって、労組法1条2項の適用はなく、従って組合活動なるがゆえに違法性が阻却されるという論理構成はとれないものとしたと評している。
そうすると東邦製鋼事件.最三小決昭47.3.28判時667と関扇運輸事件。最一小決昭47.4.13判時667が、ビラ貼りが、建造物損壊罪の構成要件に該当するとしながら、正当な争議行為であるとして違法性を阻却し無罪とした判例は、先例としての意義を失ったものと理解してよい。
ビラ貼りについては、懲戒処分の有効性が争われた事案のほか、損害賠償請求、ビラ貼付禁止の仮処分申請(仮処分決定異議申立)、刑事事件と多岐にわたるが、下級裁判所の多くは先例である昭和54年10月30日最高裁判決の論旨に従い、無許諾のビラ貼りを正当な組合活動ではないと判断しており、正当な組合活動とみなされる余地は今日においてはないといって差し支えないと思う。
ビラ貼りを正当な組合活動と言えないこともないとした下級審判例は大阪高判昭58.3.30桜井鉄工所事件以降知らない。今日ではビラ貼り闘争を認めている企業.官庁は、施設管理権が組合によって掣肘されており正常な業務運営を放棄していると否定的に評価してよい。
(3)懲戒処分等の判例
ここでは国労札幌事件を除いて主として懲戒処分判例を示す。国労札幌地本判決は、特に目黒電報電話局事件.最三小判昭52.12.13の「実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、就業規則違反になるとはいえない」という判断枠組を引用していないが、ビラ貼りが組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼす以上、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため禁止することはやむをえないとし、特別の事情論は認められない趣旨を述べているので、この判断枠組は格別問題にならないので、懲戒処分が適法とされて当然なのである。
●九建日報社救済命令取消事件.福岡地判昭43.8.30労民集19巻4号1092頁は、合同労働組合の分会長である従業員が、「日緯条約を粉砕しよう」というポスター一枚及び「日韓条約批准阻止、小選挙区制反対」「憲法じゆうりんに抗議する福岡県民集会」云々の記載のあるポスター11枚を会社の社屋一階入口左側便所の壁面に貼付し、会社の再三にわたる撤去ならびに指定場所へのはりかえの指示、命令を拒否したため、会社が2度にわたり出勤停止処分に付したにもかかわらず、出勤停止期間中会社の指示、制止を無視して連日出社し、就労を強行したことを理由とした諭旨解雇を是認する。
●東京郵政局事件.東京地判昭46.3.18判時624は、ビラを撤去しようとした課長代理を突いて転倒させた郵政職員に対する減給処分、貼付行為についても戒告処分を適法としたが、次のように説示する。
「全逓労働組合もしくはその組合員が、組合活動としてならば庁舎管理者の許可を受けないでもビラの貼付等のため庁舎を当然に使用し得るとなすべき実定法上の根拠はなく、たとえ組合活動としてなされる行為であっても、それが庁舎管理権を不当に害するが如きものは、もとより許されないところであるといわなければならない。
郵便局庁舎などは、郵政大臣の管理に係る行政財産であって(国有財産法第三条、第五条)、その本来の目的である国の営む郵便事業の達成のために供用されるべきもので、庁舎管理者の許可ある場合を除いては、何人も右目的以外のために使用することは許されないものである。郵政省就業規則第一三条第七項の規定は、郵便局庁舎などをその本来の使用目的に供することによって国の営む郵便事業の達成に資する目的から郵便局庁舎などに勤務する職員に対する服務規律として当該郵便局庁舎などにおける演説、集会、ビラの貼付等の行為を、その目的、内容、態様の如何に拘わらず、全面的に禁止、規制せんとするものであることが明らかである。」
●北九州市若松清掃事務所事件.福岡地判昭56.8.24訟務月報28巻1号109は 事務室の窓ガラス、壁等に約50枚のビラを貼付した行為を理由とする戒告処分を是認。
●朝日新聞社西部本社事件.福岡高判昭57.3.5労民集33-2-231は 約1か月間にわたり総数約1万8000枚のビラを見学者通路の壁、正面玄関のガラス扉、社屋の外壁等に貼付した行為は正当な組合活動として許容されず、組合支部委員長に対する停職3日間の懲戒処分が不当労働行為に当たるとした救済命令を違法として取消した
●麹町郵便局事件.東京高判昭58.7.20判時1049号75頁は、郵便局庁舎にステッカーを貼付した行為は、郵政省就業規則に違反し訓告処分を適法とする。最二小判昭60.6.17労判456号は上告棄却。
●和進会阪大病院事件.京都地判昭59.7.5労判439号44頁は、新規採用された3人のアルバイトを退職に追い込むため、組合員をあおり、そそのかすなどして右3名に対し共同絶交行為や専用掲示板以外の食堂.売店.喫茶室等の入口に無許可で貼付することを指示した組合長の解雇を是認。
●戸塚郵便局事件.横浜地判昭59.10.25労民集37-4.5-407は、郵便局庁舎の窓ガラス、コンクリート塀等にビラ125枚糊付けして貼付したうえスプレー塗料による落書が、建造物を損壊したという公訴事実により起訴休職処分された事案で、一審無罪にもかかわらず処分を取消さなかったことは違法ではないとした。東京高判昭61.10.28労民集37-4.5-401
●ミツミ電機事件.東京高判昭63.3.31判タ682号132頁は、春闘時の長期ストとピケにかかわる幹部責任追及としての懲戒解雇の効力が争われた、一審と異なり懲戒解雇を正当化した。会社は、争議中の集会、デモ、泊まり込み、ビラ貼付.赤旗掲揚も懲戒解雇の理由となっており、争議中の組合によって行われた会社の物的施設の無断利用が、正当な組合活動として是認する余地はなく、その利用を拒否したことが使用者の権利濫用には当たらないとされた。
●エッソ石油(出勤停止処分)事件.名古屋地判平6.10.17労判664号18頁は、
約一年間にわたり1万枚のビラを強力接着剤で貼付、ゼッケン着用、店内デモ、ピケによる入退場阻止等の行為をしたことを理由とする出勤停止処分を適法とする。
●ミツミ電機事件.東京地八王子地判平6.10.24労働判例674号45頁は組合の行った座り込み.デモ.ビラ貼付.赤旗掲揚.立て看板等を理由とする、組合委員長の解雇を是認する。
○九州女子学園事件.福岡地小倉地判平5.8.9労判714号77頁
原告らの煙突闘争.リボン闘争.ビラ貼付.プラカード闘争.ビラ配布につきその態様.期間に照らして行き過ぎで違法であり、正当な組合活動といえないとしつつも、処分歴もなく懲戒解雇はいささか酷であるとして解雇権の濫用として無効とする。
●医療法人南労会事件.大阪地判平9.4.30労経速1641号3頁は、 ビラ貼付のほか暴言、誹謗中傷、脅迫、強要につきその行為の内容、態様、頻度等に鑑みるとき、その情状は極めて重いので、本件懲戒解雇を相当とする。
●七福交通事件東京地判平10.3.3労判738号38頁は営業用自動車へのステッカー貼付その他の理由による懲戒解雇を有効とする。
(4) 損害賠償請求判例
下記の通り、ビラの撤去清掃費用の損害賠償請求が認められている
●動労甲府支部ビラ貼り損害賠償請求事件.東京地判昭50.7.15労民26-4-567は、ビラ約3500枚を鉄道管理局庁舎内の壁、扉、窓ガラス等に糊によってはり付けた事案で、労働事件で初めてビラ貼りの損害賠償責任を認めた。
●帝国興信所岐阜支店事件.岐阜地判昭56.2.23判時1005号167頁は国労札幌地本事件最三小判昭54.10.30の判断枠組を引用し、支店事務所のビラ貼りは管理権の侵害として撤去費用の請求を是認した。
●大久保製壜所事件.東京地判昭58.4.28判時1082号134頁は会社の建物等にビラを貼付したことについて、ビラ撤去費用の損害賠償責任を肯定した
●エッソ石油事件.東京地判昭63.3.22判時1273号132頁は全国石油産業労働組合協議会スタンダード.ヴァキューム石油労働組合エッソ本社支部の本件ビラ貼付行為により貼付されたビラを剥離、徹去し、また、マジックインキや墨による落書を消去した費用の損害賠償請求を認めた。
●総評全国一般東京ユニオン.神谷商事事件.東京地判平6.4.28判時1493号139頁、総計17万1700枚の正面玄関、1階エレベーターホール等のビラ貼付の損害賠償を認める。
(5)仮処分申請
下記の通りビラ貼付禁止の仮処分の申請を認容する判例がある
●エッソ.スタンダード石油事件.東京地決昭56.12.25労民集32-6-988は本社ビルに1ヶ月の間5万7千枚のビラの貼付された事案で、建物の美観や来客の信用を失うという理由からビラ貼付禁止の仮処分の申請が認められた。
●日東運輸事件.大阪地決昭60.5.16労判454号44頁は全日本港湾労働組合関西地本が抗議行動の一環として、コンテナ輸送トラクター等の車体にビラを貼付した事案で、不当な組合活動としたうえで、48台の車両につきビラ貼付禁止の仮処分申請を認めた。
●エッソ石油事件.東京地判昭62.12.23労判509号7頁はビラ貼り禁止の仮処分決定の異議申立を却下したもので、「ビラは貼付されている限り視覚を通じ常時従業員等に対する組合活動に関する訴えかけを行う効果」に言及している。
●灰孝小野田レミコン.洛北レミコン事件.東京地判昭63.1.14労判515号53頁はコンクリートミキサー車へのビラ貼付禁止の仮処分申請を認容。
(6)建造物損壊罪.器物損壊罪
刑事事件では、東海電通局事件.最三小決昭41.6.10刑集20-5-374が、全電通東海地本役員らによる東海電気通信局庁舎に3回にわたり糊で貼付した所為は、ビラの枚数が1回に約4500枚ないし約2500枚という多数であり、建造物の効用を減損するものとして、建造物損壊罪の成立を認めており、金沢タクシー事件.最一小判昭43.1.18刑集22巻1号32頁はビラ貼による建造物損壊罪、器物損壊罪の成立を認め、平和タクシー争議事件.最三小判昭46.3.23刑集25巻2号239頁は、ビラの貼られた状況がガラスの殆んど全面をおおっている以上、窓ガラスとしての効用を著しく滅却し、器物損壊罪が成立するという原審の判断を維持している。
東北電通局事件.仙台高判昭55.1.24 判タ420号148頁は、「全電通東北地方本部」等と青、赤字に白抜き印刷した縦37.3㎝.横12.5㎝のビラ及び、手書きの13×18.8㎝のビラ、合計約5501枚を、ドアガラス、窓ガラス、タイル張り壁面その他、建物1Fの東西南北四面と地下の一部にわたりぐるりと貼られ、玄関や通用口のガラス扉にはびっしりと集中的に貼りめぐらされ、その他の部分にはやや乱雑に貼られた事案で、本件建物は実用建築物ではあるが、新築後間もない近代的ビルとして市街地に相応の美観と威容を備えており、大量のビラ貼りにより、その美観と威容が著しく侵害されたものと認められ、刑法260条にいう建造物の損壊をもたらしたとする。
しかし、国鉄小郡駅事件.最三小判昭39.11.24刑集18-9-610は駅長室内や入口等64枚のビラをメリケン粉製の糊で貼りつけた行為は建造物損壊罪.器物損壊罪が成立しないとした原審の判断を是認したうえ、軽犯罪法1条33号の罪に変更した点についても、起訴当時すでに公訴の時効は完成していた。建造物侵入罪以外は無罪としている。
(7)建造物侵入罪
全逓釜石支部大槌郵便局事件.最二小判昭58.4.8刑集37巻3号215頁は有益な判例である。
事案は、1973年春闘において全逓岩手地本釜石支部が、計画どおり大槌郵便局(特定局)にビラ貼りを行うこととし、昭和48年4月16日午後9時半頃、被告人支部書記長、支部青年部長両名は他の6名とともに、同日午後9時30分ころ、施錠されていなかつた通用門と郵便発着口を通り、宿直員M(分会長だった)に「おうい来たぞ。」と声をかけ、土足のまま局舎内に立ち入った。被告人ら庁舎内の各所や庁舎外の一部に、ビラ合計約1000枚を貼りつけた。一方、管理権者たるN局長は、同月17日朝、釜石局駐在のA東北郵政局労務連絡官から、全逓が他局でビラ貼りをしているから注意するよう警告され、局長代理と交替で局舎の外側から見回ることし、同日午後10時過ぎ、ビラが貼られているのを発見、若干のやりとりの後、10時45分頃被告人らは退出したというもので、建造物侵入罪で起訴された。
二審仙台高判昭55.3.18刑集37巻3号304頁は本罪の「侵入」とは「当該建造物の事実上の管理支配を侵害し、当該建造物内の事実上の平穏を害すること」であるところ、本件は宿直員が入室を許諾していること、郵便局長も特段の措置をとらず、立入拒否の意思が外部に表明されていなかったことから、建造物侵入罪の構成要件に該当しないとして原判決を維持して無罪とした。
しかし上告審は「刑法130条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである」として破棄差戻した。
(差戻控訴審仙台高判昭61.2.3で有罪。被告人両名に罰金八千円)
上告審判決は、立ち入りの目的等につき次のように言及する。「ビラ貼りは‥‥庁舎施設の管理権を害し、組合活動の正当性を超えた疑いがあるから、管理権者としては、このような目的による立入りを受忍する義務はなく、これを拒否できる‥‥‥本件においては、被告人らの本件局舎内への立入りは管理権者である右局長の意思に反するものであり、被告人らもこれを認識していたものと認定するのが合理的である。局舎の宿直員が被告人らの立入りを許諾したことがあるとしても、右宿直員は管理権者から右許諾の権限を授与されていたわけではないから、右宿直員の許諾は右認定に影響を及ぼすものではない。‥‥」
この趣旨からすると、ビラ貼りに限らず、管理権を侵害する組合活動を規則違反と明示するか、管理権者が容認していないと合理的に判断される場合には、建造物侵入罪は成立することになる。
東京都水道局では管理職が全水道東水労の組合役員に職務命令することはなく、郵政と違ってビラ貼りのパトロールや、現認して制止することは一切管理職はやらないので、勤務時間外でも午後5時15分以降ただちに、勤務時間中でもかまわずビラ貼りをする。
したがって組合役員らが午後9時頃に特定郵便局に立ち入ってビラを貼るというような事案はないが、建造物侵入罪は、当該事業所の職員ではない組合役員のオルグ、ピケ等の立入、支所での決起集会で外来者の立入、スト待機における深夜、未明の立入が相当する。
東京都水道局長は組合活動もしくは争議行為目的の無断夜間立入は認めないとの管理意思を明示して犯罪を成立させるようにすべきである。
(8)使用者の自救行為について
河上和雄[1980]は、春闘仙台駅(仙台鉄道管理局)事件.最二小判昭48.5.25刑集27-5-1115が正当な事業活動としてビラ自力撤去を認めており、自救行為というより事業活動として正当という観点からビラの自力撤去を認めるのが判例の傾向とする。
しかし、組合側はビラ等が財物だと主張することがある。とはいえ、河上は「通常のビラの場合、それを使用者の許諾なしに物的施設に貼った段階で所有権が消滅する(所有権の放棄を擬制するか、或いは民法242条、243条の付合の理論となろうか。)と解するのが正しいであろう。その意味で多くの場合、ビラの自力撤去が法的に問題とされることはない‥‥」とする。
東水労はビラを財物として撤去したのち返還を求めているが、上記の方針に改めてよいのではないかと考える。
(八)組合掲示板の不都合な掲示物の撤去
以下に該当する文書又は図画等を配布又は掲示は中止、撤去命令の対象となる。
一 業務の正常な運営を妨げるおそれのあるもの。
二 地公労法11条1項等が禁止する違法行為を慫慂、そそのかし、あおるもの。
三 信用失墜行為に該当するおそれのあるもの。
四 違法な掲示物、名誉毀損又は誹謗中傷に該当するおそれのあるもの。
五 公の秩序良俗に反するおそれのあるもの。
六 組合旗、激文.寄せ書き.幕の掲出など示威、闘争的言辞の掲示物。
七 その他著しく不都合なもの。
平成11年以前に在籍した、江東営業所では組合掲示板には「闘争宣言」が大書して掲示されていたが、郵便局や税務署では撤去対象になっている。水道局ではもちろん放置。平成12年より在籍した千代田営業所では「ストライキで戦うぞ」とのステッカーが一年中はられていて執務室からみえる状態であった。また自治労連東水労の掲示版には赤旗に激と書かれ寄せ書きが掲示されていた。
地公労法11条1項後段のあおり、そそのかしに当たるものは撤去されなければならない。撤去対象は原則として違法なものとなる。組合旗の寄せ書きの掲出も示威であり闘争参加の表明であり、組合の教宣活動ではなく闘争を志向した掲示物として撤去の対象とする。私の提案では政治活動を知り締まりの対象から外しているのでゆるい感じはされるかもしれないが、従来組合掲示板に貼られたものについて、美観のうえで掲示板からはみ出しているものを注意する職制もいないわけではなかったが、闘争宣言等、国の各省庁でなされていた掲示物を撤去することはしていないので、今回違法な掲示物は撤去させることを規則化することは意味がある。根拠は以下の最高裁判例である。
国家公務員の職場における組合掲示板の利用関係について、●昭和郵便局(全逓昭瑞支部)掲示板撤去事件.最一小判昭57.10.7民集36-10-2091(郵便局長による掲示板の一部撤去を適法とした)がリーディングケースである。が、国家公務員の職場における組合掲示板の利用関係について、組合側の主張(使用賃貸契約で行政財産の特許使用であるとして原状回復請求、債務不履行による損害賠償請求)を退け、下級審の国有財産法18条3項(現行では6項)の目的外使用とする見解も退け、掲示物の掲示の一括許可が庁舎管理権の行使として掲示板の許可使用を認めるものすぎず、公法上又はその私法上その使用権又は利用権を設定するものではなく、国有財産法18条3項(現行では6項)所定の行政財産の目的外使用にもあたらないとした。
郵政省庁舎管理規程の運用通達は「『庁舎等の一部をその目的外に使用を許可する』とは、国有財産法一八条‥‥に定める使用許可ではなく、申出によって庁舎管理者がその権限のわく内で事実上使用することを許可するものであって、権利を設定する行為ではない。‥‥」として、国有財産法18条3項所定の行政財産の目的外使用の許可は、行政財産に占有権を設定するような場合にのみに関わるものに限定しているが、最高裁は郵政省運用通達の枠組を是認したのである。
村上敬一調査官判解も、国有財産法18条3項の規程が掲示物の掲示や物品の移動販売その他の一切の庁舎等の目的外使用に当たるすべての場合に適用されると解することは到底できないと述べているとおりである。
◯全国税東京足立分会事件.東京地判昭52.2.24判時850●東京高判昭57.3.10労判385●最二小判昭59.1.27労判425は、当局の組合掲示板のビラ撤去作業を妨害し、10分ないし20分間職務放棄したことが国公法82条各号に該当するとして、戒告処分に付された事案につき、本件懲戒処分を適法とした事例(出典:日本評論社:法律時報臨時増刊「判例回顧と展望」)原告は、昭和41年10月14日及び15日、足立税務署総務課長、総務課長補佐、総務係長らが同署長の命を受けて同署庁舎一階にある全国税足立分会の使用にかかる掲示板(以下、本件組合掲示板という。)に掲示されていた「ストライキ宣言」等掲示紙(以下、本件掲示紙という。)を撤去しようとしたところ、次の行為を行つた。
1 昭和四一年一〇月一四日
「(1)同日午後二時三八分ころ、同総務課長らが本件掲示紙を撤去していた際、他の職員とともに本件組合掲示板前にかけつけ、暴言を吐きながら同課長らの胸を肘で押すなどして遂に同課長らの撤去行為を不能ならしめ、その間、再三にわたり同課長らが伝達した署長の職場復帰命令に従わず、同三時五分ころまでの間ほしいままに職場を放棄し、かつ、同課長らの右職務の遂行を妨げた
(イ)「ストライキ宣言」これは、総評及び公務員共闘連名の昭和四一年一〇月一二日付のもので、その末尾に「われわれは一六〇万公務員労働者の統一と団結をかため、総評に結集するベトナム反戦、最賃制確立、炭労首切り合理化阻止の全労働者とともに敢然としてたたかい、要求実現をめざし、『一〇.二一』統一ストライキを全力をあげてたたかい抜くことを宣言する。」と記載されており、その大きさは新聞紙二頁(縦五四.五センチメートル、横八一.三センチメートル)をひとまわり拡大した程度のものであつた。
(ロ)「秋闘四大要求獲得のため統一ストライキで闘おう」(以下、「秋闘四大要求獲得」と略する。)これは、総評発行のポスターであり、右の標題のほか、四大要求の内容として1公務員労働者の大幅賃上げを闘いとろう!2全国一律最低賃金制を闘いとろう!3アメリカのベトナム侵略にスト抗議しよう!4石炭合理化に反対し、炭鉱労働者と住民の生活権を守ろう!と記載されており、その大きさは新聞紙一頁(縦五四.五センチメートル、横四〇.六センチメートル)程度のものであつた。
(ハ)「全国一律の最低賃金制をストライキで闘いとろう」(以下、「最低賃金制」と略する。)これは総評発行のステッカーであり、右文言が記載されていて、その大きさは新聞紙一頁の四分の一(縦四〇.六センチメートル、横一三.六センチメートル)を若干小さくした程度のものであつた。
されば、税務の職場内においてかかる文書を掲示した本件掲示行為が国公法九八条二項後段の規定に違反するものであることは論をまたない。
なお、付言すれば、この統一ストライキは、公務員共闘さん下の職員団体による一時間の勤務時間内職場集会の開催を含み、また、当時分会が日刊態勢のもとに組合機関紙を発行する等極めて活発な組合活動を行い、かつ、統一行動に参加を呼びかける文書を配布していた事実等から判断すると、本件掲示は、当時分会員をして右勤務時間内職場集会等を実行させ、職務の停廃を招来させる危険性を多分に有したものであるが、税務職員は前記のように国家の財政収入中の租税収入確保をその職務とし、国家の存立ひいては国民の生活、福祉に密接な関係を有する極めて公共性の強い職務であって、その職務の停廃は全く許されないものである。
本件掲示物の内容は、前記のとおりストライキをあおり、そそのかすものであり、その掲示場所は庁舎内でしかも納税者等の通行人の多い一階の廊下であって、部内の職員はもちろんのこと部外者の目にも容易に触れる所であつた。よつて、仮に分会にストライキ実行の意思がなかったとしても、これをそのまま放置するならば、被告がストライキを容認しているかの如き誤解を招くおそれがあるとともに、職場秩序維持の見地からも極めて不当なものであることはもとより、部外者からも税務行政の信用を失う結果となる事情が存したものであり、国有財産法及び国公法に照らして違法不当たるを免れないものであつた。」
ストライキ宣言や総評発行のポスター撤去が妥当であるという判断は、東京都水道局でも闘争宣言党、違法争議行為をあおり、そそのかすも掲示神が貼られる場合があり、地公労法11条1項後段違反行為であり、この種の掲示物は撤去してしかるべきである。
同判決は掲示板の性格について昭和郵便局判決を踏襲する判断をとっている。「庁舎管理者による庁舎等における広告物等の掲示の許可は、専ら庁舎等における広告物等の掲示等の方法によってする情報、意見等の伝達、表明等の一般的禁止を特定の場合について解除するものであって、右許可の結果許可を受けた者は右のような伝達、表明等の行為のために指定された場所を使用することができることとなるが、それは、禁止を解除され、当該行為をする自由を回復した結果にすぎず、右許可を受けた者が右行為のために当該場所を使用するなんらかの公法上又は私法上の権利を設定され又はこれを付与されるものではなく、また、右許可が国有財産法18条3項にいう行政財産の目的外使用の許可にもあたらないと解すべき」
組合掲示板の掲示物は組合に公法上、私法上の権利を設定され付与するものではないので、違法な文言のある掲示物は撤去されてもやむをえないというものである。
郵政当局が撤去した全逓の闘争宣言等の掲示物とは次のようなものであった。全逓損害賠償請求(新宿局.空港局.静岡局)事件東京地判昭54.2.27労民集30-1-202
闘争宣言
郵政当局の激しい「合理化」攻撃のなかで斗つている、全の青年部の仲間たち!全国の全逓の仲間は各職場生産点で四つの重点目標と沖縄協定紛砕、佐藤内閣打倒、等政治課題を結合し、七一秋期年末斗争勝利を掲げ、いつせいにたちがあつた。わが新宿支部も十一月十九日より三六協定を切り、秋期年末斗争に突入した、我々支部青年部も今日ここに斗いのノロシをあげる!
いま郵政当局は「合理化」にみあつた職員づくりを本質的なねらいとし、目標管理の導入、労働協約の無視、権利、慣行の剥奪、処分の乱発、胸章着用の強要、ブラザー制度の導入、職場、寮と二十四時間管理、差別、減額措置、等々きちがいじみたしめつけを露骨に強行してきている。七〇年後半に職場にはりめぐらしてきた小集団管理体制を基礎としてアメリカ式労務管理をてこに職制の専制支配を結合して職場から斗う全逓を破カイしようとしているのだ、全逓組合員の脱退への煽動、第二組合の擁護と新郵会の育成強化の動向は、なによりもこれを証明している。
さらに郵政当局は、資本主義体制の経済危機をのりこえるため、我々郵便労働者に対し第二組合、新郵会をもつて企業危機意識をあおり郵政のための人柱となれといつている!
こうして思想攻撃と全逓破カイをワンセツトにし、職場の民主主義を踏みにじり職場の軍国主義化を急ピツチでおし進めてきている、これは十一月十七日政府自民党のフアツシヨ的な沖縄協定強行「採決」の暴挙と一体のものである。我々は決して許さない!
郵政当局が「明るい職場をつくるため」といつていることは決して我々のための明るい職場づくりではないことを!日本独占資本と政府自民党の「安保ハン栄論」が、ひとにぎりの支配者階級のためのハン栄でしかなかつたように、ことごとくでたらめであることを!我々は五体を通して知っている、こんにちまでなめさせれてきたこの苦しみを決して忘れることはできないのだ
我々常任委員会は職場は労働と生活の場所であり、団結の拠点であると考える、郵政当局の「合理化」攻撃をはねのけ七一秋期年末斗争における四つの重点目標
一 減額措置紛砕
一 年末手当三ケ月獲得
一 時短、反合理化
一 昨年末斗争の十二、一四労変確認
これら要求を断固勝ちとり、同時にアメリカ帝国主義に加担し再び我々を侵略戦争の尖兵にしようとする佐藤自民党政府を糾弾し、日米軍事同盟の条約化である沖縄協定紛砕、佐藤内閣打倒、日中国交回復の勝利へむけ中核となつて断固斗うことをここに宣言する
一九七一年十一月二十四日
全逓新宿支部青年部
七一秋期年末斗争勝利総決起集会
(別紙二)
十一.一〇沖縄スト連帯職場集会
十一月一〇日(水)PM12:15~
局会議室
沖縄返還協定批准阻止!!
佐藤反動政府打倒!!
秋期年末斗争勝利!!
横山の暴力的職場支配粉砕!!
全逓空港支部団結ガンバロー!!
全逓空港支部執行委員会
次節で述べるとおり、局所内の政治活動の禁止は今回の提案では見送ることとした。国家公務員の職場では「佐藤内閣打倒」等の政治的ポスターは撤去対象としているが、それは国家公務員に政治活動の規制があるためで、地方公営企業職員にはそれがないので、違法性という観点で不透明。あくまで、闘争宣言やストライキで戦うぞ等の地公労法11条1項後段に違反する、違法行為と態様として闘争を志向し不適切なものにしぼって撤去対象とすることとした。
もちろん政治的ポスターは不快だが、私の提案の主たる目的は、明確な違法行為の規制にあるのでこのような方針とするものである。
(九)局所内の政治活動の禁止は検討したが、今回の提案では見送る
(見送り)職員は,勤務時間中又は局施設構内で、局の許可のない選挙運動、国民投票その他の政治活動を行ってはならない。
モデルJRグループの就業規則
第22条1項 社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配付その他これに類する行為をしてはならない。
2項 社員は,勤務時間中に又は会社施設内で,選挙運動その他の政治活動を行ってはならない。
電電公社の就業規則
就業規則第五条第六項は、「職員は、局所内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしようとするときは、事前に別に定めるその局所の管理責任者の許可を受けなければならない。」と、同条第七項は、「職員は、局所内において、選挙運動その他の政治活動をしてはならない。」
現状は、局所内の政治活動を禁止する明文規定がないので政治活動は許容されている。今後予測される憲法改正の国民投票など、頭上報告等で組合の主張の呼びかけがなされ、職務の集中を妨げるなど職場の規律をみだすおそれがあるから、規程を新設する提案を検討したが結論は見送りとする。
国家公務員は人事院規則一四―七で、公選による公職の選挙において、特定の候補者を支持し又はこれに反対すること。 特定の政党その他の政治的団体を支持し又はこれに反対すること。 特定の内閣を支持し又はこれに反対すること。五 政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し又はこれに反対すること。 国の機関又は公の機関において決定した政策(法令、規則又は条例に包含されたものを含む。)の実施を妨害すること。など厳しく政治的行為が制限され、公立学校の教育公務員も国家公務員の例によるが、とされている。
一方、地方公務員法36条は公の選挙又は投票において投票をするように、又はしないように勧誘運動をすること。署名運動を企画し、又は主宰する等これに積極的に関与すること。三 寄附金その他の金品の募集に関与すること。四 文書又は図画を地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他地方公共団体又は特定地方独立行政法人の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させることを禁止しているが、国家公務員ほど厳しくはないといえる。
これに対し水道局(地方公営企業)の管理職は地公法36条が適用されるが、職員一般は適用除外で、政治活動の制限というものはないのである。
全水道東水労は全労協系なので、社民党の地区委員会が営業所を訪ねてきて組合に対し動員など依頼はあるし、平成27年4月の世田谷区長選挙では保坂展人区長の再選祝勝会に参加した職員もいるが、そのような選挙にかかわる活動も全然問題はないというべきある。
従って職員には、政治的行為の制限がないわけで、職場から離れたところでの余暇時間での政治活動は規制できない。
しかし、局施設又は構内において労務の提供と無関係な政治活動を自由に行い得るものとすれば、もともと高度の社会的利害の対立、イデオロギーの反目を内包する政治活動の性質上、職員の間に軋轢を生じせしめ、職場の規律を乱し、作業能率を低下させるおそれが多分にあるから、使用者が企業の施設又は構内に限ってこれらの場所における従業員の政治活動を禁止することには合理的な理由があるし、水道事業の運営や事業所の掲示物には政治的中立性が要求されるとものとみてよい。
しかし職員が政治活動を制限されていないことは、政治活動が禁止されている国家公務員と大きな違いがある、それをふまえるとともに、組合活動と政治活動は不可分なところがあり、上部団体の全労協と友好な政治団体や労働団体、市民運動、たとえば、原水禁や反原発運動、部落解放同盟とか北朝鮮系の団体の友好関係、活動も支援しており、政治活動を禁止するとしても線引きが難しいように思う。
組合の掲示板で特定の政策の推進、全労協と友好団体の政治集会の案内などが掲示されることはしばしばあり、頭上報告で政治集会参加をよびかけることもあるが、例えば囚われの聴衆の状況でなされる勤務時間内頭上報告では平成20年代前半は、中野営業所では日常的に報告があり、例えば平成22年9月25日 に横須賀ヴェルニー公園における原子力空母ジョージ.ワシントン母港化撤回のための集会(主催者発表で2700人参加)とか頭上報告でこの種の政治集会の告知、よびかけがなされることがあった。組合掲示板には、世田谷営業所太子堂分室の平成末期の事例であるが、「辺野古移転反対」とか、狭山事件に関するボスターが貼られる。新宿営業所などでは9条改正反対のポスターもあったがこうした政治色のある情宣活動について私は不快に思うが、組合掲示板の枠内ということで受忍するものとした。今回の提案では規則化を見送ることとした。規則化せずとも執務室内の演説行為は内容いかんにかかわらず規制する提案にしているので、頭上報告で政治集会の参加呼びかけ等は規制できると考えたからである。
私の考えていた規制の趣旨について述べる。
政治活動は全面的に禁止せず、ビラ配布による選挙運動は許可し、掲示板の政治的言論は留保とし、禁止としないが、挙ポスターは、組合役員の選挙は組合掲示板の枠の範囲で認める、国政や地方選挙、区長等の選挙ポスターは認めないというやや歯切れの悪い方針である。決着がつきにくいし線引きが難しいので提案をやめた。
また組合は、国政選挙等において推薦候補を東水労新聞や東水労ニュースで組合員に周知し、平成28年の都知事選挙では鳥越俊太郎氏と政策協定を結び、令和6年の知事選では小池都知事を支持しない声明を東水労ニュースで周知したりしたが、組合が政策協定を結ぶのは自由であるし、組合員に周知も必要なので、それ自体問題視しない。
実際に水道局では組合の役員が頭上報告等で、これこれの候補者をよろしくと依頼するなどの積極的活動はない。組合本部のオルグ演説で一度だけ、平成7年の都知事選挙で自民党推薦の無所属石原信雄氏を推薦するのは心苦しいが、自社さ政権で連立している以上協力することになったとの説明があった程度にすぎないわけで、選挙のとき印刷物配布による推薦者周知は問題ないと考えている。
ちなみに2024年10月21日東水労ニュースでは「10/27衆議院選挙で政権交代を実現しよう 東水労組織推薦候補者の全員当選を」とあり組織推薦者候補は 東京3区 阿部裕美子(立憲民主党)、5区 手塚仁雄(立憲民主党)、6区 落合貴之(立憲民主党)、9区 山岸一生(立憲民主党)、11区 阿久津幸彦(立憲民主党)、15区 酒井なつみ(立憲民主党)、東京19区 末松義規(立憲民主党)、22区 山花郁夫(立憲民主党)、30区 五十嵐えり(立憲民主党)、千葉6区 原田義康(社会民主党)、東京都比例代表 桜井夏来(社会民主党)、比例代表の推薦 東京23区在住⇒社会民主党、多摩地域.各県在住⇒立憲民主党
なお平成27年の世田谷区長選挙告示前に世田谷営業所太子堂分会役員が、たぶん社民党の地区委員会の要請を受けて、保坂展人氏のポスターを使ってない組合掲示板と称する場所に貼りだした。更衣室の近くで目に触れるのは職員だけであるが、公職選挙法はよく知らないが事前選挙ポスターで、政党や政治活動を行う団体がその政治活動のために使用するポスターは告示前なら掲示できるとされている。このポスターがそれにあたるかは確定できないが、無所属なので顔写真は独りだった。職員は政治活動が禁止されていないので抗議しにくかったが、職場で政治家のポスターを見るのは不快であり、庁舎に区長の事前選挙ポスターを許すのは水道局が区長支持の立場の表明と解釈せざるをえないとして所長に苦情を言った。結果的には外されることとなったが法的根拠が不明である。
組合掲示板の法的性格は昭和郵便局事件.最二小判昭57.10.7が郵便局の組合掲示板設置は、国有財産法18条の行政財産の目的外使用許可によるものではない。組合に壁面の使用権、利用権を付与したものではないと判示しているので、適切でない掲示物は庁舎管理権の発動で撤去できることは前述のとおりである。職員自体は政治的活動の制限がないとしても、企業秩序維持権、庁舎管理権を侵害して政治活動は行えないはずなので、局所内の政治活動の禁止は可能だが、今回はなによりも地公労法11条1項違反の問題解決が優先なので、局所内政治活動の規制は見送る。
(十)煙突闘争類似事案について
(2)職員は局が許可しないメッセージ性のある旗やマグネットシート、煙突状の小物、マスコット、短冊を机上、什器等に設置、陳列、貼付してはならない。
全水道東水労は、ビラ貼りやすでにのべた春闘ワッペンのほか、平成15~16年頃、14.5×4.5cmのマグネットシートで「お客様センターNОストライキで戦うぞ! 完結型受付防衛‥‥」とか「イラク戦争反対.自衛隊派遣反対」と言った文言のある組合の主張が印刷されたものが配布され、机や什器、戸棚などに貼り付ける闘争が行われたほか、団扇に組合の要求項目を印刷したもの、組合のロゴのある手ぬぐいやボールペン、クリアファイル、ティシュペーパーなど組合グッズを配布することがある。平成10年前後において、江東営業所では七夕の時期に笹飾りが机に設置され、短冊に要求項目を書いてアピールする闘争があった。水道局では見ていないが円筒状の小物に組合の要求項目を書いて机上に置く 「煙突闘争」、マスコットを置いてアピールするマスコット闘争という活動もありうる。マグネットシートについてはビラに類するものとして無許可掲示物として禁止することも可能であるが、短冊や煙突等の設置による闘争等にも備え上記の規則のを明文規程を追加することとした。
事務室内に掲出、設置する組合旗の寄せ書きで団結を誇示の禁止も明文化した。笹飾り等は撤去命令してしかるべきである。ただ団扇や手ぬぐい、ボールペンなどの組合グッズも不愉快ではある。しかし判例が乏しく、組合グッズの類似事案としては本荘保線区国労ベルト事件 仙台高判秋田支部平4.12.25労判690.仙台高裁秋田支部判平4.12.25労判690.最二小判平8.2.23労判690(バックルに国労マークの入ったベルト取り外し命令に従わなかった組合員を就業規則の書き写しを命じる)を不当労働行為とする判例があるので、組合グッズの配布禁止は今回は見送ることとした。
このほか組合活動では、組合役員が抱えている組合の管理物を保管する什器など取り決めもなく、慣行として組合役員が勝手に使用している感があるほか、闘争時の立て看なども駐輪場などに保管を勝手に認めている問題や、コピー機の使用などの問題はある。本部発行のニュースは印刷されたものを配布しているが支部.分会の発行のニュースやビラ、組合集会に提出する資料など、紙は組合で用意していても、局がリース契約しているコピー機を使うことが多い。私が経理をやっていたときは、コピー機にカウンターがついていて、月末に経理担当者が確認して基本リース料ブラス複写枚数分の料金を払っている。しかし、無断コピー機利用の判例はあるが、処分を無効とした例で少なく、些末な問題なので黙認することとする。むしろ、収益を得ていると考えられる自動販売機の設置が無償便宜供与で電気代の支払いだけ、組合事務室もそうだろうが、そちらのほうが問題であると考えているが、今回は特段提案しないこととする。
(十一)その他追加した規則について
9 職員は、みだりに欠勤し、遅刻し、若しくは早退し、又は上司の許可を得ないで、執務場所を離れ,勤務時間を変更し、若しくは職務を交換してはならない
10 職員は、みだりに業者、物品販売、保険の勧誘、当該事業所に勤務していない職員等を職場に立ち入らせてはならない。職場の規律・秩序をみだすおそれのある署名・募金活動をしてしならない。
11 職員は、職場において、みだりに飲酒し、又は酩酊してはならない。
9については郵政事業庁の規則をそのまま用いたものである。水道局の規則にはみだりに離席してしらないという庶務規程はあるが、実際に理由のない離席に職務命令することはない。この規程は発展的に解消する。職務の交換については明文規程の必要があると判断した。昼当番拒否闘争の防止のため必要、休憩時間を午後1時以降にずらして、昼休みの窓口対応と、電話対応するのが昼当番で、協約でも休憩時間をずらして業務命令できることになっているが、昼当番に指定された職員が、組合役員と職務を交換し、組合役員は昼休み当番を拒否し、管理職に職務を命じるというものである。ただし管理職は経常業務に慣れてないので、不明な点をサポートするというもので不完全就労でありながら給与は支給される。いやがらせともいえるが、争議行為の一類型であり、これを就業規則違反とするものである。
理由のない離席については、勤務時間中の洗身入浴の問題がある。
10については中央労働金庫の営業活動は目的外使用許可により事務室内でも認めることはすでに述べたとおりで、署名.募金活動については組合活動でしばしばあることだが、ビラ配りと同じく無許可で可能とする。ただし説得活動を伴うもの。休憩時間であっても休憩時間の自由利用の妨げになるような態様など、中止命令可能な在り方とした。
(大日本エリオ事件.大阪地判平元.4.13労判538号6頁は「本件署名活動はその趣旨説明、説得を伴っていたことが認められる。そして、休憩時間中においては他の労働者が休憩時間を自由に利用する権利を有していることが尊重されなければならないから、これを妨げる行為を当然にはなしえないと解すべき」として譴責処分を是認している)。勤務時間内であれ、社民党地区委員会の動員要請の面会や、中央労働金庫との打ち合わせは勤務時間中であれ従来どおり認める。ただ、来庁者名簿の記載と、時間を申請させ、業務外のことであるので月間累積30分以上で賃金カットとする。
なお正月の旗開きや忘年会の会議室利用については、7~8年前まで飲食を伴った会合がなされていたが、職員部の判断で会議室利用の酒類の持ち込みが禁止されたため、旗開きなどの会議室利用は近年知らない。これはビールケースが出入口に置かれ付近の住民に誤解を招くとの趣旨のようだが、郵政省は規則で職場での飲酒を禁止する規則があるので、明示することとしたのはたんに当局の意向に追随しただけである(追加案11)。
註
A 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13は当該事案の判断にすぎず、リボン闘争が一般的に違法とは云っていないとの反論
大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13民集36-4-659は、「本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」としたが、最高裁としての理由を示さなかったことから、判旨にあらわれた限りでは、この判例を一般違法についての判断まで是認した趣旨と読むことはやや無理で、特別違法の観点からする判断、一流ホテルにおける従業員の接客勤務態度に対する要請からみて正当な行為にあたらないとする見解 (花見忠「リボン闘争の正当性--ホテル・オ-クラ事件最高裁判決」『ジュリスト』 771 1982)がある。
しかし最高裁は昭和50年代以降企業施設内の無許諾の組合活動は企業秩序をみだすものとして受忍義務がないとする、使用者の企業秩序定立権という判例法理を案出し(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭54・10・30民集33-6-676)、この判例法理は、安定的に維持(池上通信機事件最三小判昭63・7・19判時1293、日本チバガイギー事件最一小判平元・1・19労判533号7頁3号、済生会中央病院事件最二小判平元・1・12・11民集43-12-1786、オリエンタルモーター事件最二小判平7・9・8判時1546号130頁)されているが、従業員は企業秩序遵守義務があるのであって、これらの判例は使用者の権利と団結権とを法益調整するという考え方はとらないのであって、法益衡量的な諸般の事情を勘案する調整的なアプローチを否定しており、具体的な業務阻害のないことは無許可組合活動を正当化しないことを明確にしている。ケースバイケースの判断はとらないのである。したがってホテル業だからダメでその他の業種なら正当化される余地があるとする根拠はない。
例外としては、権利の濫用とみなされる特段の事情がある場合だが、この判断枠組で風穴は開けられていない。
仮に百歩譲って、特別違法性だけを認めた判例とする花見説を認めたとしても、例えば、大手私鉄の主要路線では、通勤客に対し寛ぎや快適さを提供する有料着席ライナーを運行するようになったが、京王ライナーでは、空気清浄機が具えられたうえ、しばしの間お寛ぎください云々とのアナウンスが流れるのである。ところが、2018年2月22日デビュー以降、三週間程度が春闘時期にあたり、車掌は春闘ワッペンを制服の腹の部分に取り付けていた。直径7から8㎝で赤い円形のためかなり目立つ。着席状況を確認するため、車掌が各車両を見回るが、春闘ワッペンをみせつけて、第三者である乗客に春闘との連帯を訴えかける行為は、400円(当時)の有料着席ライナーを利用する乗客が求める「休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁なことといえる」のであって、原審の説示した特別違法性は、鉄道事業にもあてはまるというべきである。したがって理論的説示がない大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13を逆手にとって、ワッペン着用に有利に解釈する妥当性はない。
B 伊藤正己補足意見は、就業時間中の組合活動はすべて違法でなく、具体的な業務阻害のない行為を是認しているという反論
大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13の伊藤正己判事の単独補足意見は、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13は事案を異にするので先例とみなさないとし、「就業時間中に‥‥およそ組合活動であるならば、すべて違法の行動であるとまではいえない」とか「業務を具体的に阻害することのない行動は、必ずしも職務専念義務に違背するものではない」としている。
この補足意見については、「伊藤裁判官の補足意見により‥‥労働委員会が実態に即し、不当労働行為制度の趣旨を生かす判断を行う余地が残されるようになった」(松田保彦「いわゆるリボン闘争の正当性-ホテルオークラ事件」・法学教室22号1982)と肯定的評価をする批評がある。
明らかに間違っている。伊藤補足意見は、リボン闘争が争議行為の類型には当たらないとした以外の主張は、組合活動に好意的な立場で先例を無視した勝手な持論を言っているだけのものであり、最高裁の主流の考え方に異論を示しただけのものである。上記引用した企業秩序論の最高裁判例においても伊藤補足意見の趣旨は完全に否定されていることから、伊藤補足意見に引きずられる理由などない。
例えば済生会中央病院事件最二小判平元・12・11民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」としたうえで、勤務時間中の無許可集会に対する警告書交付はそれが業務に支障をきたさない態様であっても「労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎない」ので不当労働行為にあたらないと判示しており、同判決によって無許諾の就業時間内組合活動が正当化される余地はなくなったというべきであるし、業務に具体的阻害のない態様であることは正当化する理由にはならないことを重ねて確認した判決といえる。先に引用した伊藤補足意見の趣旨を完全に否定されている。
C 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13は目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・134の厳格な職務専念義務論を引用していないので、組合活動に適用されるかは未解決の問題であるとする反論
目黒電報電話局判決が引用されてないのは、第三小法廷の4名中2名裁判長環昌一判事(左派、名古屋中郵判決で反対意見)と伊藤正己判事は左派プロレイバーであり、勤務時間中は、注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないとする目黒電報電話局事件判決に批判的な見解をとっていたため小法廷の意見が一致しなかったため推定できる。伊藤判事は補足意見で同判決を批判しているし、環裁判長は、目黒局判決の結果的同意意見となる補足意見で、反戦プレート着用は懲戒処分理由と認めていないことから明らかなことといえる。
しかし、半数の左派2判事が先例拘束性を認めなかったことで、目黒電報電話局事件判決の先例としての意義を否定されるものではないし、既にのべたとおり、同判決の判断枠組は、私企業においても組合活動においてもそれが適用されることは判例法理上の必然であり、大成観光事件上告審判決は、当該リボン闘争を組合の正当な行為にあたらないとし、組合幹部への減給、訓告処分を是認するものであるから、引用されずとも同判決を踏襲した判断をとったとみるとの妥当である。
大成観光事件以降の判例では本節、冒頭に述べたJR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平9・10・30判時1626号388頁も厳格な職務専念義務論をとっており、上告審最三小判平10・7・17労判744号15頁も原判決の判断を支持しているだけでなく、それ以外に目黒局判決の参照指示こそないが、同趣旨、もしくは本文をそのまま引用し、厳格な職務専念義務論をとる下級審判例として以下の判例がある。
東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60・8・26労民集36巻4・5号558頁
国鉄鹿児島自動車営業所事件 鹿児島地判昭63・6・27判時1303号143頁は、(組合バッジ着用は職務専念義務違反禁止できるとしたうえで、管理者に準ずる地位にある職員が、取外し命令を無視して組合員バッジの着用をやめないことから、通常業務から外し降灰除去作業をさせたことが、懲罰的目的であり業務命令権の濫用とする。控訴審の判断も同じ。最三小判平5・6・11判時1466号151頁裁判所ウェブサイトは、原判決破棄自判。本件降灰除去作業は、労働契約に基づく付随的業務としての環境整備作業の範囲を越えるものではなく、懲罰的、報復的目的を認定することは失当とする。
西福岡自動車学校腕章事件 福岡地判平7・9・20労判695号133頁、
JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件・東京高判平11・2・24判時1665号130頁裁判所ウェブサイト
(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意、訓告、55名に対し夏季手当5%減額の措置につき国労バッジの着用は、就業規則の服装整正規定違反、就業時間中の組合活動禁止規定違反、職務専念義務規定違反であり企業秩序を乱すものであるとし、取外し命令、懲戒、不利益処分を禁止するものではない。しかしながら「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入)に該当するとした。)
JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11・2・24判時1665号130頁裁判所ウェブサイト
JR西日本(大阪)国労バッチ事件 東京地判平24・10・31別冊中央労働時報1434号20頁
JR東日本(神奈川)国労バッチ出勤停止事件 東京高判25・3・27別冊中央労働時報1445号50頁
JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平25・11・28別冊中央労働時報1455号38頁
もっとも目黒局判決の参照指示があって職務専念義務論を引用しているものとしは国立ピースリボン事件・東京地判平18・7・26裁判所ウェブサイトと都立南大沢学園養護学校事件・東京地判平29・5・22TKCといった地方公務員の国旗・国歌をめぐる抗議活動の事案がある。が可能である。
もっとも理論的に労働契約上の誠実労働義務違反で違法といっても、懲戒処分に付すにはフジ興産事件最二小判平15・10・10判時1840号144頁が、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定め、適用を受ける労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判示している以上、就業規則を根拠としない懲戒処分は避けたいので、実務的には企業秩序論の脈絡から対応していくことが堅実であり、明文規定は必要と考える。
5 国労バッジ判例多数はJR各社の就業規則違反として組合バッジ着用を理由とする不利益処分を労組法7条1号の不当労働行為に当たらないとしており、バッジよりも大きくて目立つ春闘ワッペンが規制できないということは絶対ない
(1)組合バッジ着用禁止の経緯と終息
国労バッジを着用し、上司の指示の取り外し命令に従わなかったことを理由とする不利益取扱が不当労働行為に該当するか否かが争われた救済命令取消訴訟が多数ある。
これは国労がJR発足以前から、組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示していたのに対し、JR各社は昭和62年4月発足以来就業規則や賃金規定を根拠として着用規制を徹底して行ったことによる紛争である。
国鉄時代には、動労、鉄労など国労以外の労働組合も、組合バッジを作製し、組合員に配付しており、各労働組合の組合員は、組合バッジを着用していたが、JR発足の昭和62年4月には、国労以外の他の労働組合の組合員のほとんどは組合バッジを外したのである。
国労バッジとは大きさで2種類ある。通常着用していたのは、縦1.1㎝、横1.3㎝の四角形で、黒地に金色のレールの断面と国の英訳の頭文字をとった「NRU」の文字をデザインしたものである。
これと別に布製のワッペン式大型バッジがあり、通称「くまんばち」と呼ばれ、デザインはほぼ同様であるが、縦2.6㎝、横2.8㎝と大きく、主に闘争時などを中心に着用された。国鉄当局は、これをワッペンの一種であるとして、国鉄末期から規制を行っている。国鉄鹿児島自動車営業所事件 最三小判平5・6・11判時1446号151頁(管理者に準ずる地位にある職員が組合員バッジの取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令を適法とする)が昭和60年の国鉄時代の事案だが、布製の「くまんばち」の事案であるから、本件はワッペンに関する判例とみなすべきである。
しかし大多数の国労バッジ判例は小型バッジの事案なのである。
以下、ここでは主としてJR東日本(神奈川・国労バッジ)事件・東京高判平11・2・24判時1665号130頁裁判所ウェブサイト(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意または訓告処分、55名に対し夏季手当5%減額の措置をとったことが不当労働行為に当たるかが争われた)の判文より引用する。
国労は、分割民営化反対等を主張し、昭和59年8月10日に2時間ストライキを実施したほか、昭和60年に入ってワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年9月13日、闘争に参加した約5万9200人の国労所属組合員に対して戒告、訓告等の処分をした。さらに、国労は、昭和61年4月10日から12日まで、国鉄の分割民営化方針等に抗議して、ワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年5月30日、闘争に参加した約2万9000人の国労組合員に対し、戒告又は訓告の処分をした。
国鉄は、昭和61年1月13日、「労使共同宣言(第一次)」の締結を各組合に提案した。諸法規を遵守すること、リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整えること、必要な合理化は、労使が一致協力して積極的に推進すること‥‥が掲げられていた。この提案に対し、鉄労、動労及び全施労は受諾したが、国労は、拒否した。
しかし小型の組合バッジは取締の対象にはなっていなかった。
国鉄総裁は昭和61年3月に八次にわたる職場規律の総点検の集大成とし職員管理調書の作成を通達しているが、勤務態度に関することとして「服装の乱れ」という項目があり、「リボン・ワッペン、氏名札、安全帽、安全靴、あご紐、ネクタイ等について、指導された通りの服装をしているか。」を評定事項としているが、組合バッジについては言及されていない。
国労は昭和61年5月には組合員約16万3000名(組織率68・3パーセント)を有する国鉄内最大の労働組合であったが、昭和62年2月には約6万47000(同29・2パーセント)、さらに、同年4月には約4万40000と急激に減少させた。組合バッジを組合団結のシンボルとする国労組合員は、国労の組織防衛上の見地からその着用を続けていた。東京地本は、昭和61年10月31日、闘争指令を発し、その中で、当面の闘いとして、「国労バッチの完全着用をはかること。」などの指令を出し、さらに、昭和62年3月31日、各支部執行委員長に対し、「国労バッチは全員が完全に着用するよう再度徹底を期すこととする。」などの指示を出している。
一方、JR東日本発足時には、東鉄労(動労、鉄労、国労脱退者の一部を糾合)の組合員は国鉄時代の慣行をやめ鉄道労連のバッジを着用しなかった。
JR東日本の調査によれば、62年4月の組合バッジ着用者は、5645名(全体の8.8%)、同年5月の調査で2798名(同4.4%)であり、そのほとんどが国労組合員であった。
JRの就業規則は昭和62年3月23日に制定されたが以下の3ヶ条が、組合バッジ着用を禁止する根拠になっている。
第3条の1 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。
第20条の3
社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。
第23条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。
また賃金規程(昭和六三年八月人達第一二号による改正前のもの。)には、期末手当の額の減額に関連する規定があり、減額に係る成績率については、5%減の事由として減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者と定められている。これに関して作成される期末手当減額調書には、業績(問題意識、成果)、態度(執行態度、協調性等)、処分の有無、服装(組合バッジ着用等の注意回数等)について記入することとされている。
なお、昭和62年4月23日付けのJR東日本と国労東日本鉄道本部との労働協約では,経営協議会及び団体交渉など原告から承認を得た場合のほか,勤務時間中の組合活動を行うことはできないことを約定している(同協約第6条)
国鉄の東日本旅客鉄道株式会社設立準備室の小柴次長は、昭和62年3月23日、東日本地区各機関総務(担当)部長(次長)に対し、「社員への「社員証」「社章」「氏名札」の交付等について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、JR発足に当たって全社員に交付すべき社員証、社章及び氏名札は、勤務箇所長から直接社員一人一人に手渡しで交付すること、組合バッジを着用している場合には、組合バッジを外させると ともに、社章を着用させることを指示した 。
つまり、JR発足時から組合バッジ着用を認めない方針だった。JRの就業規則は非常によくできていて、組合バッジ着用は、職務専念義務違反、服装規定違反、無許可組合活動の3ヶ条に違反するのみならず、服装指導の回数によって、期末手当5%減額事由となる賃金規定があるため、バッジを取外さなければ、ボーナスが減額されてもやむをえないような設計に初めからなっていた。
人事部勤労課長は、昭和62年4月20日、関係各機関の勤労担当課長に対し、「社章、氏名札着用等の指導方について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、「組合バッヂ着用者に対しては、服装違反である旨注意を喚起して、取り外すよう注意・指導すること。繰り返し注意・指導を行ったにもかかわらず、これに従わない社員に対しては、「就業規則」、「社員証、社章及び氏名札規程」に違反するとして厳しく対処することとし、人事考課等に厳正に反映させることとされたい。」と指示した。これを受けて、東京圏運行本部の総務部人事課長及び勤労課長は、関係現業機関の長に対し、翌21日、同旨の事務連絡を行い、さらに、同月28日、「服装等の整正状況のは握について」と題する事務連絡を行って、決められた服装をしない社員の整正状況について個人別把握を行うよう指示した。
国労が労使協調路線へ方針を転換したのは平成8年7月以降であり、平成11年年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結した。平成18年11月包括和解によりバッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げている。JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件 東京地判平24・11・7労判1067号18頁によれば、JR東日本は組合バッジ着用者に対する処分を年2回程度の割合で実施していった。被処分者は、平成3年9月の処分で2000人を割り込み、平成8年9月の処分で1000人を割り込み,平成14年3月には314人(全従業員の0.4%)になっていた。平成14年3月末以降は、組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり、国労は、組合バッジ着用に関し、機関決定違反として統制処分をするまではしないが、支持はしなくなったとする。平成15年7月以降国労バッジ着用者は1人となった。その者も退職したので、現在では組合バッジの着用者はいないはず。
つまり、会社側が企業秩序を定立するため、しかるべき就業規則を制定し、ワッペン・リボンはもちろんのこと、小型の組合バッジであれ、企業秩序遵守義務に反するものとして、徹底して禁止することができるということは、JRの労務管理の実績で証明されたことなのである。
(2) 国労バッジ事件主要判例が示すように、組合バッジ着用は就業規則違反の限定解釈の判断枠組で実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められてないので、春闘ワッペンも同じことである
国労バッジの判例は多数あるが以下7例を第1類型の範疇として示す。組合バッジ着用を理由とする不利益取扱が不当労働行為には当たらず適法との判断を下している。
JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・ 東京地判平7・12・14判時1556号141頁
JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・東京高判平9・10・30判時1626号388頁
JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・最三小判平10・7・17労判744号15頁
JR西日本(大阪)国労バッジ事件・東京地判平24・10・31別冊中央労働時報1434号20頁
JR東日本(神奈川)国労バッジ・出勤停止処分事件・東京地判平24・11・7労判1067号18頁
ここでは代表的な判例である東京高判平9・10・30(組合バッジ着用を理由とする厳重注意、夏季手当5%減額、賃金規定の昇給欠格条項該当措置は不当労働行為に当たらないとした)を引用する。理論的説示は概ね完璧に近く、最高裁に支持されているため 代表的な判例としてよいのである。平成20年代の判例は、後述する第2類型も含めて、この判決を踏襲した理論的説示をしている。
先に要点だけ述べれば組合バッジ着用はJRの前記就業規則3条、20条、23条に違反する。
就業規則に違反することは明らかであるが、先例である目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13民集31-7-974は不利益処分の客観的合理性を確保するため就業規則の形式的適用を避ける判断枠組を示しているのでこの審査をパスしないと就業規則違反とはならないことになっている。
東京高判平9・10・30も「文言上形式的には本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である」と目黒局判決の判断枠組を引用してその審査を行っているが、以下のとおり実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情はないと判定するのである。
「本件組合バッヂ着用行為は、‥‥組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、‥‥職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという‥‥職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。」
要するに、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用いていないことは職務専念義務に違反し企業秩序を乱しているということ、他の社員が職務に集中できないおそれ、注意力を散漫にするおそれがあること(抽象的危険)により実質的に企業秩序をみだしていると認定した目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13の説示とほぼ同じ趣旨である。
後段の部分については、私鉄総連の春闘ワッペンは、複数組合のあるJRと違う環境であり少数組合の国労とは違って殆どすべての社員を着用していることから、国労バッジ事件と状況が違うとの反論がありうるが、仮にすべての非管理職社員が着けているとしても、自ら着用することが組合活動を意識しながら職務を行うことで職務専念義務に反しているだけではなく、目立つものであるから、就業時間中に他の社員の春闘バッジが目に入ることでも、団結意思の相互確認、闘争参加意識、春闘を意識することとなり、組合員間の連帯を高め闘争に向けて士気の鼓舞する意味と作用を有するともいえるから、注意力のすべてを職務遂行に向けることを妨げるおそれがあり、組合の指示にしたがって着用しているかを相互に確認する行為がなされるだけでも、就業時間中に注意力を散漫にするおそれがあるといえるのであり、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められることはありえない。
それが水道局であっても同じことである。
つまりワッペンを禁止するのに具象的な業務阻害を説明する必要はない。2014年2月15日午前0時半すぎに、東急東横線元住吉駅で、大雪の影響で電車が追突し乗客65人が負傷した事故があった。これは国交省が大雪時に徐行運転させるきっかけになった事故である。2月15日というと春闘ワッペンを着用しだす時期である。事故の原因については究明されていることであり、その時、運転指令室や乗務員がワッペンを着けていたかどうかは知らない。仮に着けていたとして春闘ワッペンを意識した雑念が事故と関係しているという根拠を示すことはできないけれども、ワッペンはたんに抽象的な理由、それが目に触れるため他の社員の職務専念義務を妨げるおそれがあるというだけでも企業秩序をみだすものとして禁止できるのである。
(3)労組法7条3号の支配介入にあたるとする国労バッジ判例も存在するが、労組法7条1号の不当労働行為にあたらず、就業規則違反として禁止できることは認めている
国労バッジ判例の第2の類型は、組合バッジ着用は就業規則違反として禁止できるとしたうえで、あるいは、不利益措置は労組法に7条1号の不当労働行為にあたらないとしたうえで、労組法7条3号の支配介入にあたるとするものである。
JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11・2・24判時1665号130頁(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意または訓告処分、55名に対し夏季手当5%減額の措置をとったことが不当労働行為に当たるかが争われた)は、国労バッジ着用について「国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。‥‥本件組合バッジの着用は、本件就業規則三条一項、二〇条三項及び二三条に違反するものであった。したがって、控訴人が本件組合員らによるこれら本件就業規則違反をとがめて本件就業規則等にのっとり懲戒その他の不利益処分を行う権限を有することは、明らかである」としている点は、前記JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・東京高判平9・10・30と同趣旨といえる。
しかしながら「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので、一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても、それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには、その使用者の行為は、これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」と述べ、「敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し」バッジ取外しの指示・指導等は「執拗かつ臓烈なもので,平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり」「就業規則の書き写しの作業などは,嫌がらせ」であり、「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入、労組法7条3号)にあたるとする。
具体的に何を支配介入の論拠としているかだが、国労に対する敵意と嫌悪感を露骨に示す言動として、松田常務取締役の会社に対する反対派(国労)を断固として排除する旨の発言。住田社長の東鉄労との一企業一組合が望ましいとして、国労を攻撃し、このような迷える子羊を救って東鉄労の仲間に迎え入れていただきたいとして、東鉄労の組合員らに対し、国労組合員の国労からの脱退、東鉄労への加入を促す働き掛けを期待する発言など多くの根拠が示されている。
なるほど、国鉄の末期頃まで国労以外の組合員も組合バッジを付けていた。国鉄末期の八次に及ぶ職場規律の総点検でも組合バッジは問題にされていない。
原判決東京地判平9・8・7判タ957号114頁 (次節の第3類型)によれば動労委員長時代の松崎東鉄労委員長が「駄目な労働組合には消滅してもらうしかなく、駄目な組織はイジメ抜く」旨述べていたことと関連して、機関紙による組合バッジ着用呼び掛けにもかかわらず、東鉄労の組合員が組合バッジを着用しないことについては、原告と東鉄労との間で事前の話し合いが行われ、東鉄労が労使協調関係を維持するとともにこれを誇示し、あるいは国労の対決路線を際立たせる意図の下に、組合バッジ不着用を決定したことが窺われるとの見方が示され、会社と多数組合が示し合わせて、少数組合を弱体化し追い詰める手段として組合バッジの取り締まりを行ったという図式になる。
もっともJR東日本神奈川事件とは第一次から第四次まであり、JR東日本(神奈川)国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24・11・7労判1067号18頁は不当労働行為にあたらないとしているし、JR東日本(神奈川)国労バッチ減給処分等事件・東京高判平25・11・28別冊中央労働時報1455号38頁は上記に引用したような脈絡で支配介入は認めていないから、労組法7条3項の支配介入にあたるかは裁判体によって異なった判断をとっている理解するほかない。
仮に、JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11・2・24に説得力があるとしても、引用した支配介入の根拠とされるものは、JR東日本の労務管理の特殊な事情であるから、一般論として使用者側に服装規制を委縮させるような性格のものではない。
またJR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平25・11・28別冊中央労働時報1455号38頁甲事件も前記第一次神奈川事件高裁判決と同類型ともいえる判例で、組合バッジ着用に対する不利益処分(労組法7条1号)の不当労働行為は認められないとする一方、平成14年3月以降の国労バッジ着用行為に対する極端な厳罰化は,国労バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた原告が,国労執行部の方針転換を認識するに至り、これを機に国労内少数派の勢力を減殺し,国労執行部の方針に加担したものと認められるので労組法7条3号の支配介入にあたるとするものである。
2つの高裁判決(JR東日本(神奈川)第一次国労バッジ事件・東京高判平11・2・24判時1665号130頁と、JR東日本(神奈川)国労バッチ減給処分等事件・東京高判平25・11・28別冊中央労働時報1455号38頁)は決して労働組合に有利な判断を示したものではない。
とくに後者は直近の高裁判決として注目してよい。これは原判決東京地判平25・3・28別冊中央労働時報1443号17頁の判断を一部補正のうえ支持したものであるが、甲事件、乙事件とも労組法7条1号(不利益取扱い)にあたらないとする一方、甲事件について7条3号(支配介入)にあたり不当労働行為にあたるとするものである。
東京高判平25・11・28は労組法7条1号の不当労働行為にあたらないとする説示は次のように述べている。
「JR東日本が行う鉄道事業は、多くの利用者の日常生活、社会経済活動に不可欠な公共性の高い事業であり,日々、不特定多数の利用者の生命、身体の安全に直結する性質の事業であることから、時刻表に沿った運転業務を安全かつ確実に遂行することができるように、従業員の職務専念義務を規定して適正な職務遂行を求め、これを服装面から規制することによって就業時間中の組合活動を原則として禁止するなどの就業規則を定めたことは,十分に合理性が認められるというべきである。
そして,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,職務専念義務について定める就業規則3条1項,社員の服装の整正について定める同20条3項,勤務時間中の組合活動を禁止する同23条にそれぞれ違反し,原則として,その正当性が否定されるものであると認められる。
補助参加人らは,〔1〕国労バッジ着用は労務提供義務と矛盾なく両立し,業務阻害性はなく,職務専念義務,服装整正義務に違反するとはいえない,〔2〕国労バッジ着用の組合活動としての必要性等を考慮すれば,国労バッジ着用行為には正当性があると主張するので,以下検討する。
「本件就業規則3条1項に定める職務専念義務は,社員は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。
そして,労働契約においては,労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労務契約の重要な要素となっているから,職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり,その行為が服装の整正に反するものであれば,就業規則20条3項に違反するといわなければならないし,また,それが組合活動としてされた場合には,そのような勤務時間中の組合活動は就業規則23条に違反するものといわなければならない。
P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労組合員の中でも国労バッジ着用を止める者が大多数となっていく中で、国労内少数派として着用を継続したものと認められるが、国労執行部ないしは原告に対し,国労内少数派としての意思を表明し,また国労内における多数派に対し、少数派との対立を意識させるものといえ、また同時に,国労組合員のうち、JR東日本による不利益処分を回避するために自らの意思で国労バッジの着用を取り止めた者に対して、不利益処分に屈せず、依然として国労執行部の上記方針に抗議し、反対の意思を表明するために国労バッジを着用している者がいることを示すとともに,任意に国労バッジの着用を断念した者を暗に非難し,精神的な負担をも感じさせる効果を併せ持つものであって,当該組合員が職務に精神的に集中することを妨げるおそれがあるものであるから,かかる行為は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反し,また服装整正にも反するものとして,企業秩序を乱すものといわざるを得ない。
補助参加人らは,国労バッジ着用に業務阻害性はないと主張するが,上記就業規則違反が成立するためには,現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当であり,補助参加人らの主張は採用することができない。‥‥‥‥ 以上により,補助参加人らによる国労バッジ着用行為は,就業規則3条1項,20条3項,23条に反し,実質的に企業秩序を乱すおそれのない事情も認めることができず,正当性を認めることができない。よって,本件各処分等について,労組法7条1号の不当労働行為は認められない。」
なお、国労バッジ事件等でバッジ着用等が正当な行為とした第3類型のも少数あるが、いずれも地裁判例であり控訴審でその判断は否定されている。
もっとも本荘保線区事件・ 秋田地判平2・12・14労判690号28頁か、羽越本線出戸駅信号場構内で作業を行っていた国労組合員が、上着を脱いだ状態で、バックルに国労マークの入ったベルトを着用していたところ、ベルトを取り外すよう命じられ、さらに就業規則の書き写し等を内容とする教育訓練を命じた事案であるが、ベルトの着用は、就業規則三条の職務専念義務に違反するものではないとしたうえで、本件教育訓練はしごきであって、正当な業務命令の裁量の範囲を明らかに逸脱した違法があるとし、二十万円の慰謝料を認めた。 控訴審仙台高判秋田支部平4・12・25労判690号13頁も原審を維持、上告審最二小判平8・2・23労判690号12頁も棄却している。筆者は疑問なしとしないが、組合マーク付きのバックルによる組合活動は珍しい例といえる。
このほか神戸陸運事件 神戸地判平9・9・30労判726号80頁は本件腕章着用乗務行為は、労務を誠実に遂行する義務に違反するものでなく、正当な組合活動の範囲内の行為とし、腕章着用等を理由に乗務を拒否(労務受領拒否)したことを不当労働行為と認め、バックペイ等を命じた地労委の救済命令を適法としている。
一方、三井鉱山賃金カット事件・福岡地判昭46・3・15労民集22-2-268は「不当処分反対、三川通勤イヤ!」「抵抗なくして安全なし」等と書きつけた組合員のゼッケンの着用が、就業時間中の会社構内における情宣等を禁止する労働協約の条項に違反し、正当な組合活動とはいえないと判示した。沖縄全軍労事件・那覇地判昭51・4・21労民集27-2-228は在日米軍基地の従業員が赤布の鉢巻を着用して労務を提供することは、雇用契約上の債務の本旨に従った履行の提供とはいえないとして賃金カットを適法と認めた。控訴審福岡高那覇支判昭53・4・13労民集29-2-253も一審を支持している。
都立南大沢学園養護学校事件・最一小判令元10・31TKCは、過去の処分歴として「平成17年12月1日,上記(カ)の不起立行為を契機に受講を命ぜられて同年7月21日に受講した服務事故再発防止研修において,日の丸,君が代強制反対と書かれたゼッケンを着用し,同研修の担当者から再三ゼッケンを取るよう言われたにもかかわらず,これを着用し続け,同研修の担当者に対し,ゼッケンを取るようにとの発言を撤回せよ等の発言を繰り返し,同担当者席に居座るなどして,同研修の進行を妨げたことが地公法33条及び35条に違反するとして,減給10分の1,1月の処分を受けた。(乙イ7)」
(コ)平成20年3月31日,当時の所属校である東京都立南大沢学園養護学校の同月24日の卒業式において,国歌斉唱の際は定められた席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱することを命ずる旨の職務命令を受けていたのに,国歌斉唱の際,起立しなかったことが地公法32条及び33条に違反するとともに,平成19年10月3日,同月9日,同月11日,同月12日,同月15日,同月16日から同月19日までの間,同月22日,同月26日,同月30日,同年11月1日,同月7日,同月12日から同月15日までの間,同月20日,同年12月5日及び同月6日,同校での勤務中に,左胸及び背部に,「強制反対 日の丸 君が代」又は「OBJECTION HINOMARU KIMIGAYO」等と印刷された服を着用し,このことについて,再三にわたり,校長及び同校副校長から注意指導を受け,同年10月18日及び19日には,校長から,その服を着用しないようにとの職務命令を受けていたのに,その後も上記のとおり着用を続けたことが,地公法32条,33条及び35条に違反するとして,停職6月の処分を受けた。」と記載されているが、本件の国歌を斉唱することを命ずる旨の職務命令を受けていたのに,国歌斉唱の際,起立しなかったこと等による停職六月という重い処分を適法としている。
したがって先例に従うとリボン、プレート、ワッペン、バッジ、腕章、ゼッケン、鉢巻、スローガン等文言が記載されたトレーナーの着用は規制できる。組合グッズのベルトは規制できないということになる。
いずれにせよ、JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平9・10・30判時1626号388頁以下多くの判例が労働組合の正当な行為とはみなしていないのだから、類似事案のワッペン着用が正当な行為とされることはありえないので管理職は自信をもって取り外し命令を行うべきである。
« 12月20日全水道東水労2時間スト中止と19日から20日の経過 | トップページ | 東京都水道局の争議行為対応等労務管理を是正を求める意見具申 その4(完) »
「東京都労務管理批判」カテゴリの記事
- 東京都水道局の対労働組合の労務管理の是正を求める意見具申(2024.12.31)
- 東京都水道局の争議行為対応等労務管理を是正を求める意見具申 その4(完)(2024.12.22)
- 東京都水道局の争議行為対応等労務管理を是正を求める意見具申 その3(2024.12.22)
- 12月20日全水道東水労2時間スト中止と19日から20日の経過(2024.12.21)
« 12月20日全水道東水労2時間スト中止と19日から20日の経過 | トップページ | 東京都水道局の争議行為対応等労務管理を是正を求める意見具申 その4(完) »
コメント