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2025/10/19

東京都水道局における対組合活動労務管理等の是正要求(32項目包括的改善策提案)

                                                                                             平成71027

 

 

都議会議員、国会議員の先生方へ

 

 

                       川西 正彦

                     (東京都水道局元職員65歳)

東京都水道局における対組合活動労務管理等の是正要求   

(32項目包括的改善策提案)

公開用versionこのversionは固有名詞を隠し、公開に適さないと思った部分をカットしたもの

 

   東京都水道局は、平成16年3月17日公営企業委員会後藤都議の質問対応として、東岡職員部長が指示した頭上報告の賃金カットの警告を例外として、全水道東水労の正当でない組合活動を広範に許容し、いっさい就業命令・中止解散命令等職務命令を行わない。最高裁が否認しているプロレイバー学説による脱法的な労務管理・庁舎管理がなされ、違法争議行為と外形上犯罪構成要件該当行為を事実上正当業務として扱い、規律ある業務の運営体制を確立することを放棄し、違法行為を助長、支援していることが、地公労法11条1項の保護法益である住民全体の利益を侵害しているので是正されなければならず、その改善策を提案するのが意見書の基本的趣旨です。(附録・第Ⅲ部で東京メトロの私鉄総連春闘ワッペン取締り要望)

 

 

意見書の趣旨 

 

   取るに足らない者が恐る恐る謹んで上申します、軽輩でありながら、不躾にも長文の文書を送りつける無礼をお許しください。これは、たんに投書に近い趣旨のもので、スルーを想定し、厚かましくも回答を求めるものでは全くありません。さしあたり御一方でもご笑覧いただければ幸甚に存じますとの趣旨のものであります。公式の陳情や請願は今後の成り行きで検討することにします。

   私は、昭和53年都立園芸高校園芸科卒、入都(総務局で採用され都立大事務局勤務)、昭和59年水道局に転出し多摩NT、品川、江東、千代田、水道特別作業隊、水道緊急隊、世田谷、新宿各営業所等に勤務、ぺいぺいのまま主任にもなれず令和2年退職、平成7331日まで杉並営業所勤務の非正規再任用で任期終了。本意見書は、平成612月に都議会議員の一部の方と、知事、水道局総務部長、職員部長に郵送、上司には直接提出したものを一部修正したものです。

   昨年の意見書は何の反響もなく取り上げていただくことはできなかった。この問題はもっと早い時期に現職のうちに解決すべき事柄でした。現職でなければ、改革が検証できないため後悔しています。

   また退職したことにより私自身の労働条件の問題ではなくなりました。職務専念妨害、業務妨害、管理職による就労妨害が放置されている状況を敵対的職場環境として苦情を述べる形式はとれなくなりました。

   にもかかわらず、それでも不正を憎み、都の組織的な違法行為助長支援を許せないので、再度、32項目是正勧告として都議会の先生方等に上申するものであります。

   現職でなくても、一都民として、地方公共団体直営の東京都水道局において正当でない組合活動が広範に許容され、当局が、地公労法111項、前段、後段いずれの違法行為をも著しく助長、加担するうえ、非組合員の就労の権利を侵害し、ストライキ時非組合員をストに参加させるための事故欠勤処理による不正会計支出等の労務管理は、同条項の保護法益である「住民全体の利益」に背馳するだけでなく、水道局長によるコンプライアンス経営宣言とも整合せず、公的問題として糾弾し、議会に是正措置をとるよう圧力をかけていただくことをお願いしたいというものです。政治的な介入で問題解決する以外にないからであります。

   こいつは、東京都に対するヘイトスピーチをやっている。在職中に虐められたので恨みつらみを言っているのだろという見方でもかまわないが、意趣返しではない。私の労務管理改革の提案はネットでも昨年12月分は公開しており(プログ川西正彦の公共政策研究)、今回の改定版も一部省略、固有名詞等を除いて(ブログ川西正彦の公共政策研究)で修正公開しています。さらに(YouTube川西正彦の公共政策研究)で逐次、解説動画をアップする予定でインフルエンサーによる拡散に期待し、反響をみて賛成者が多くなれば公式の陳情も考えたいと思います。

   第Ⅰ部で、労務管理の何が問題なのか解決策など説明、全水道東水労の争議行為の概略→要求項目要旨→主要な要求内容の説明となります。第Ⅱ部で包括的改革案(私案の新方針32項目の是正すべき項目を列挙)の提示し、その根拠として判例等も数多く引用しているので、実務的にも使えます。問題は複雑多岐広範に及ぶうえ、提案の根拠となる判例法理も説明するため長文になりました。

  この意見書の売りは、たんに当局の誤った法解釈、不正や違法行為の助長、加担を糾弾するにとどまらず、ソリューション、包括的具体的解決策を提示し建設的な内容だということです。私のアイデアは公益目的のため引用明示する必要はなく、勝手に使っていただいてけっこうです。無償奉仕して差し出すのは、良心的趣旨です。

 

 

(一)東京都水道局の労務管理は何が悪いのか 主要な論点

 

   最大の問題点を要約すると東京都水道局では、争議中の操業(業務運営)は、争議権との対抗の中では権利性を失なうという最高裁が否定しているプロレイバー学説に管理職は従うことになっていて、違法ストに対抗する業務命令(就業命令)を放棄していること。国労広島地本組合費請求事件・最三小判昭50.11.28、全逓横浜中郵前ピケ事件・差戻後控訴審東京高判昭47.10.20外多数の判例が、違法ストライキの内部統制権を否認しており、組合員であれ非組合員であれ、スト参加を促す勧誘や説得を受忍する義務はないとしているのに、受忍させようとする。ストライキ完全防衛を管理職が支援し加担、職員の就労の権利と義務の侵害が著しい。

   もっと簡潔に言えば労働組合と共謀して管理職がスト破りは許さないとして、スト防衛に全面協力し職員の就労権を侵害することが組織ぐるみの方針になっていることである。主要な論点は以下のとおり。

 

1 プロレイバー学説墨守の(最高裁により明示的に否認された)脱法的・法外的労務管理

 

2 組織ぐるみ管理職による違法行為、外形上犯罪構成要件該当行為の助長、支援

1違法行為に中止命令・就業命令等の職務命令をしない。組織ぐるみで管理職は正常な業務運営の確保を放棄している。(本番の同盟罷業だけでなく、恒常的にある地公労法111項後段所定の「唆し」「あおり」を全く取り締まっていない

 

2)ストライキに対抗して非組合員やストに反対の組合員に業務命令をしない。スト破りを認めない組合の指図に管理職が従っている。操業維持の業務命令をやらないことは、著しく違法行為に加担し、労務指揮権の放棄であり、ストライキ完全防衛に協力することが管理職の任務になっている。

 

(3)1時間ストライキ(同盟罷業)は平成20年・22年・26年・令和元年に決行されているが、管理職が就労したいと申し出る職員を敵視し、職員の就労する権利と義務を侵害し、ピケットラインを越えてはならないとして、非組合員を締め出しそうとすることがある。就業規則違反(ICカードリーダの出勤入力をしてはならない)を命令することもある。

 

4)ストライキ時、管理職は、組合の説得に応じ、ピケットラインを越えない非組合員には勤務実態がないのに賃金を詐欺的に受給させる「事故欠勤」を認め不正会計を行っている。仮にピケで就労が阻まれる事実があるとしても民法5361項により支払い義務はないので不正な支給といえる。

 

5)懲戒処分の範囲・量定の現状はストを企画、決定し指令した組合中央の機関責任(全水道東水労は本部中央闘争委員)のみが懲戒処分の対象で、各事業所でストを実践指導し、実行行為者である大多数の組合役員は懲戒責任を問う対象にはじめから外している(平成221210日ストから支部長を訓告にしているがこれは懲戒ではない)。このため本部中闘を処分するため警告は組合本部委員長あては行っているが、職員一般には、警告に値しないインチキな訓示がされるだけで、非常に組合に有利な在り方といえる。

  本部中闘は、闘争課題の説明等の15分程度のオルグ演説のため各事業所を回るだけにすぎず、朝ビラ情宣、組合員の意思統一のための昼休み集会の主宰、2割動員、3割動員勤務時間内決起集会の動員指令、ステッカー闘争(ビラ貼り)の指導、所属長要請行動、超勤拒否闘争において定時退庁の指令、管理職に下位職務の指図、スト待機、スト指令、非組合員へピケットラインを越えず、ICカードリーダで出勤入力することはスト破りなので許されないとして、組合に従うよう説得、スト当日の集会の主宰、演説等は、すべて各事業所の支部・分会役員等が実践指導しているのであって、本部中闘の下につく活動家の本部委員、本部中闘以外の中執、統制委員、支部分会役員以下の懲戒責任は問われない東京都の方針は実質、争議行為を正当業務として認めているに等しい。

 

3 積極的業務妨害、シットダウンストライキ、業務用機器の隠匿等、私企業でも刑事免責されない犯罪構成要件該当行為も東京都は是認している。

 

4 最高裁が否定する受忍義務説により正当でない組合活動が容認され、施設管理権の発動がなされない。組合に労務指揮権と庁舎管理権が掣肘されている。

 

5 三六協定破棄闘争という職制麻痺闘争が毎年数日間は必ず行われる。水道局は年度毎更新の時間外労働協定で、組合の意向次第で月日を指定して一方的破棄を認めているうえ、組合の正当な権利として、組合の意向に全面的に従い、時間外の労務指揮権を凍結し、組合員による管理職の下位職代務の指図などのいやがらせを許容しているが、内閣法制局意見昭3299法制局一発22号や北九州市交通局事件・最一小判昭63128に照らして争議行為の疑いが濃いのみならず、仙台鉄道管理局事件・最二小判昭48525は、労基法の労働時間制限を超える業務であっても刑法上保護されると判示しているので、法内超勤はもちろん必要な業務は違法承知で職務命令する方向で是正すべき。

 

  私は陳情やロビー活動の経験はなく作法は知りません。都政の諸問題があり、議員の先生方が御多忙なことは重々承知しており、地味な問題で票にもならないし、私自身実績のない人間なので相手にされることはないと踏んでおります。

  また全水道東水労は全労協(旧社会党系)の傘下で、昨年7月都知事選も組合ビラで小池都知事不支持表明もしているが、連合東京とも協力関係はあります。知事与党は連合東京と政策提携があるので組合の既得権に触れる問題はとりあげないと考えています。

  というより、平成21年中野営業所長で後に監察指導課長や労務課長に栄転した〇〇〇〇(現在は退職)からおまえは「愉快犯」だとなじられたことがある。当局から否定的人格とラベリングされた人間なのでまず相手にしてもらえないと思う。

  しかし意見書の提案の多くは、常識的なもので、国の各省庁の争議行為対応実務と、東京都は全く違うので、各省庁やまともな自治体の対応に准じた実務にすべきと言うにすぎず、労基法では違法であっても業務命令せよという三六協定破棄闘争の対応も国鉄などはやってきたことで、特に目新しい提案というものはないと考えます。

  しかも大義名分があります。地方公営企業等の労働関係に関する法律(以下地公労法)111項を合憲とした北九州市交通局事件・最一小判昭63128は、争議行為禁止の制約原理を「住民全体ひいては国民全体の共同利益」と説示しており、従って東京都水道局が最高裁判例で否認されたプロレイバー学説に依拠し、組織総ぐるみ、非組合員職員も含め総ぐるみで、争議行為に協力、助長、加担し、違法.犯罪構成要件該当行為を容認、実行している実態は、「住民全体‥‥国民全体の共同利益」という保護法益を否認、侵害していると糾弾されて当然です。

  全逓東京中郵事件・最大判昭41.10.26の内在的制約論とか都教組勤評事件・最大判昭44.4.2の争議行為通常随伴行為不罰論は明示的に判例変更されています。強い違法性がないとか、国民生活への影響の程度とか関係ありません。短時間のストで、水運用センター、浄水場は保安要員なので水供給に支障がないという反論は争議行為を正当化する理由には全くなりません。

  そこで、手法としてネットで問題提議と解決策を提示し、インフルエンサーによる拡散に期待し、都民の皆様の支持を得ることとします。世論の後押しがあれば、議員も取り上げざるをえなくなる。水道局長が令和元年12月にコンプライアンス経営宣言をしてくれたおかげで、攻める方が圧倒的に有利なので、論戦になったら負けることはありえません。

  なお第Ⅲ部で、特殊会社東京地下鉄駅員等の職務専念義務違反である私鉄総連春闘ワッペン着用禁止要請も「おまけ」で付けたと言う口実で、国と都が株主であるため国会議員にも上申したいと考えています。非現業公務員の協約締結権付与という政治課題(私は反対)が、福田内閣のときからくすぶっていて、野党は賛成しているので、公務員の争議行為は政治問題だからです。

 

平成16年以降の1時間ストライキ

 ★平成16730

1時間ストライキ

(業務手当完全防衛闘争)

和泉庁舎の水道特別作業隊に勤務し保安要員の職場だったが、西部支所と西部建設事務所はスト。

★平成161011時間ストライキ

(業務手当完全防衛闘争)

同上

平成20319日 1時間スト 西部支所等は来客用駐車場で集会

同盟罷業 和泉庁舎の水道特別作業隊に勤務し保安要員の職場であったが、唐突にストライキがあった。西部支所と西部建設事務所はスト。

平成221210日 1時間スト

中野営業所 駐車場で集会

〇〇所長就業命令なし

同盟罷業私の記録では2323日付発令処分は全水道東水労本部中央闘争委員会5名の最大16日間の停職処分[1時間ストライキと17日の勤務時間執務室内職場集会を理由とする]と各支部長に対する訓告(1時間ストライキ)これは前例がなく初めてだが、懲戒処分でなく痛くない。

平成26124日 1時間スト 中野営業所 駐車場で集会 〇〇所長就業命令なし。

同盟罷業 争議行為が続行しているにもかかわらず処分は2625日発令と異様に早く猪瀬氏辞任に伴う都知事選告示の翌日、私の記録では全水道東水労は、本部中闘停職182人、停職161人、停職71人、ほかに下水道局2人、支部長28人に対する訓告処分。

令和元年1220日 1時間スト 新宿営業所〇〇 所長 事務室内ピケッティング容認 事務室内集会に就業命令等なし、外形上犯罪構成要件該当行為容認。

同盟罷業+積極的に業務遂行を妨害する職場占拠(シットダウンストライキ、)、加えて業務用機器の隠匿により業務遂行を不能にするきわめて悪質な態様。

(令和226日発令の全水道東水労の処分は、本部中闘停職131人、停職101人、停職71人もう一人と支部長26名の訓告処分)。

 

 

(二)何を要求するか 要点

 

 結論は第Ⅱ部にある32項目であるが、長文なので冒頭、簡潔に主要な項目の要点だけ述べる

1  闘争態勢での便宜供与の中止

 ストライキを配置し、闘争態勢となった時点で庁舎構内の組合活動の勤務時間内外いかんを問わず便宜供与を禁止し、中止・解散命令を徹底的に行う。

(違法行為の「あおり」そのものである頭上報告、オルグ活動、執務室内の昼休み集会、庁舎構内の決起集会)

2  服務の示達の廃止、警告及び就業命令書に切り替える

  現行の職員向け訓示は、違法行為と文言を排除することが「お約束」になっているが、職員一般に対し、同盟罷業 は地公労法111項違反の違法行為であるので、これに参加した場合は必要な措置をとらざるを得ないとの文言を必ず挿入する。(私の警告及び就業命令書の提案→第Ⅱ部四97 141頁)

3 ストライキ決行当日、現行では違法行為を放置するのが、管理職の務めとなっているが、スト集会参加者に対しては、解散職場復命令・就業命令を徹底的に行い、指導者等の現認検書上申を義務付ける。

4  ストライキ当時管理職は組合と共謀し、非組合員等をピケットラインの通過を妨害したり、事故欠勤を強要してはならず、業務命令により非組合員とスト反対の組合員による操業を継続させる(組合員であれ、非組合員であれ就業の権利と義務があり、違法スト参加の勧誘・説得に応じる義務はない)。

5  組合の説得に応じ、職務を離脱した勤務実態がない非組合員の事故欠勤申請は却下し、これを認めた場合は管理職らを処分する。

6  従来懲戒責任を問われなかった、本部中闘以外の中執、本部委員、統制委員、支部・分会役員が、ストを実践指導した場合、戒告以上の処分を最低、分会単位で一人は行うようにする

7   三六協定破棄闘争の対応の抜本的見直し。たとえ労基法上違法でも、必要な業務の職務命令は行う。

8   プロレイバー学説と決別し、最高裁の判例法理に即した争議行為対応実務とする。職務命令や懲戒処分の根拠としての、就業規則、労働協約に不備がある。特に、集会・演説行為、無許可組合活動の禁止、他の職員の業務妨害及び職務専念を妨げる行為の抑止義務は絶対必要なので整備する。(私の提案する就業規則・労働協約追加案は→第Ⅱ部三86頁)

   なお、上記の方針は常識的なもので組合に厳しいものでは全くなく、大阪市の平成20年チャックオフ廃止、組合活動の便宜供与的禁止(平成24年労使関係条例12条)、平成242526年組合事務所の使用不許可。枚方市の平成26年組合事務所使用料徴収等について判例など一応知っているが、そうした政策を提言するものではない。

 

 

(三)内部統制評価報告書は重大な不備なしとするが問題はある

 

 そうはいっても、水道局はコンプライアンス経営宣言している以上、きちんとしているのではないかと疑念を持つ方もおられると思うが、私は当局のコンプライアンスプログラムに不備があると思うし、再発防止策も一般論に終始し組合役員と本局中枢との不透明な癒着というタブーに触れていないのが問題である。

 都水道局は、平成24年収賄、平成26年水運用センターОBによる入札妨害事件の関与、平成30年入札談合関与で公正取引委員会の立入りの不祥事を受けて、再発防止策に取り組み、局長は令和元年12月にコンプライアンス経営宣言し、令和3年より不祥事の発見、対応を目的としたリスクマネジメントとして局横断的な内部統制の取り組み(コンプライアンスプログラム)を実施し、令和5年度の内部統制評価報告書によれば重大な不備はなく是正すべきものはないとされています。

 3事件のうち特異なのは、平成269月水運用センターOB X氏が逮捕された公契約関係競売入札妨害事件である。X氏は都を退職後も「水運用センター」に出入りし、係長ら3名から最低制限価格を聞き出したというものだが、産経新聞が特集記事を組み、組織風土に由来する特徴的な事件と報道されている。

 水道局では毎年悉皆の汚職非行研修などは以前からやっていることで、リスクは百も承知なはずであるのに、係長一人はX氏が人事に影響力があるから漏らしたというのである。

 普通考えられないことであり、X氏が大物だとしてもなぜ退職したのに影響力があるのか。全水道東水労支部書記長を長く勤めていて子分がたくさんいたとの報道(産経ウェブサイト東京都水道局OBが入手した「究極の秘密」2014/10/3)がある。ここでは産経記事が触れていないことを述べたいと思います。

水道局汚職等防止策検討結果報告書 の事件の概要(一部略

 (1) 水道局元職員で、コンサルタント会社社長のXは、平成25年2月中旬頃、 水道局発注の配水設備関連工事の指名競争入札で、現職の担当係長Aから最低制限価格 に関する情報を聞き出した上、同年3月、電気通信工事業者Yに 最低制限価格に近い金額を教え、約96088千円(最低制限価格との差22000円)で落札させた。 平成26108日、Xは、公契約関係競売等妨害(刑法第96条の6第1項)の 容疑で起訴され、Y及びAは、同罪により、それぞれ略式命令による罰金刑を受けた。

(2) 水道局の係長Bは、平成236月~243月 までの間に、それぞれ1件の当局発注の配水設備関連工事の指名競争入札に関し、水運用センターの執務室内において、来訪したXから最低制限価格を聞かれ、いずれも最低制限価格に近い金額を教示した。 地方公務員法違反(第34条第1項前段及び第60条第2号)の罪で、略式命令による罰金刑を受けた。A及びBは、Xが、当局在職時から、管理職を含む人事について大きな声で話していたなどの言動から、当局の人事等に影響力を持っているかのように誤信し、Xに情報を 漏らしてしまったものであり、金品等の見返りは一切受けていなかった。

  (3) 水道局の主任Cは、平成2311月中旬頃、当局発注の情報通信設備関連工事の指 名競争入札1件に関し、水運用センター庁舎内の業務従事者室に赴き、同室に常駐して いたYに対し、最低制限価格が記載されている「最低制限価格算出書」を手渡した。 平成2611月7日、Cは、地方公務員法違反(第34条第1項前段及び第60条 第2号)の罪で、略式命令による罰金刑を受けた。

 

 私は内部事情の生臭い話については無知です。本庁に勤務したことはないし知り合いもいない。ただX氏とは面識があり、事件の背景はある程度推測できるものがある。

 実はX氏とは、平成20年にサービス推進部管轄の水道特別作業隊の組織改正で廃止となり、給水部の別の事業所と統合して給水部直轄の新組織である水道緊急隊に再編されたとき、私が二級事業所の経理を担当し、初年度の水道緊急隊でも勤務しているが、本局給水部組織改正担当より執務室、仮眠室や食堂の改修と電話配線の再配置移設は、水運用センターのX氏にまかせればよいこと。それ以外の契約は水特隊の予算を執行してもらう(予算は組織改正を前提に編成していないから)と伝えられていた。そうした事情でX氏が業者を連れて見積もりに来た時、目で挨拶した程度で話したことはないが一応面識はある。X氏はまかせておけば大丈夫とされ評判が非常に良い人物だった。

 その頃、組織改正で営業所等の統廃合のラッシュだった。X氏が東水労との交渉が最終的に妥結後、短期間で庁舎の改装工事と電話配線の新設移設等の工事を一手に担って発注し仕事を手際よくこなしていたと聴いている。いずれも緊急性ゆえ随意契約と考えられます。それゆえ本局中枢部局から頼りにされ、局が組織改正、合理化を推進するにあたり欠かせない大功労者といえます。

 水特隊廃止時も12月下旬に組合は組織改正を承認したが、執務場所のレイアウトとか細部の組合との協議が長引き2月半ばまで続いた。改修工事で動くのはその後である。

 ところで定例監査(出先は1月、本局は2月)終了後の年度末に随意契約できる部署といえば水運用センターなどの出先の二級事業所です。本局の予算執行は1月で終了すると聴いています。しかし、二級事業所は23月に契約できます。平成2023月の水特隊の最後の時期、私はX氏の改修日程に合わせて、仮眠用寝台の解体、産廃処理、同じ建物内だが年度末の引越しの契約をしました。履行期日の指定のある案件で緊急の随意契約としました。

 一方X氏は電気職の主任で、電話配線の工事を所轄する水運用センターに長期在籍と報道されているが、電気職の職場はほかにもあるのに、年度末随意契約でかなり大きな金額を発注できる部署に長期にわたって在任していたようだ。これは職員部とX氏の不明朗な癒着を疑ってよいと思う。

 組合役員は別としても通例では五年目に異動したくなくても転勤になる。配置換えを拒否できる組合役員だったと考えられる。あるいは当局に重宝されていたので職員部の忖度があり長期在任したとみるのが自然だ。

 年度末の随意契約の書類は 翌年の定例監査の対象にはならない。1月実施の定例監査以降の契約書類は見られることはない。二級事業所経理担当として監査準備にかかわって知ったことである。1月の監査で監査員に提出する契約書類は4月から直近の契約まで。もちろん、事後経理部出納課で書類の審査はありますが監査には見られずに済む。

 X氏が発注元の年度末の契約で某事業所の組織改正のとき、既に退職した課長代理が、どうせ随意契約で監査はないから便乗してこのさい戸棚も新調してくれと注文したものだ。けっこう高価なものを納品してくれたよという軽口をたたいていたのを聴いたことがある。文書保存期間を過ぎ廃棄されているので今となって確かめようもないが、監査でチェックされないので高額の随意契約をしていた可能性はあると思う。

 組合との交渉の妥結が長引くと短期間の納期の工事を発注せざるをえない事情というべきだが、本局中枢はX氏が随意契約をさかんにやっていることは把握していただろうし、たとえ真面目な人であれ、随意契約すると業者と癒着したりツーカーの関係になりやすいリスクがあることもわかっていたはずである。そういう部署の担当は適宜、配置換えすべきである。

 通常、監査があれば随契や、特定のメーカーの製品を指定する契約、特命随意契約は厳しくみられる。でも年度末の緊急性のある随意契約は監査されない制度上の死角があるのです。

 職員部がX氏を配置換せず見過ごしていたことは、増長させる要因になったのではないか。

 また係長Bは「Xが、当局在職時から、管理職を含む人事について大きな声で話していたなどの言動から、当局の人事等に影響力を持っているかのように誤信し」とされているが、誤信と断定する根拠が不明である。組合役員は異動希望調書を組合員から提出させているが、通常、3月末の人事異動は本人への内示の少し前に組合役員に開示され、不本意な転勤は苦情処理で組合が対応する。内示直前まで組合が把握していることはないと思っていた。しかしなぜX氏は人事に詳しく影響力があったとされるのか。X氏は長年支部役員を務め、内示よりかなり前に情報を得たもしくは職員部とのやり取りがあったと疑わせる発言なのである。職員部長が再発防止策の中心なので、その問題は隠蔽捨象された感がある。

 再発防止策として利害関係者等からの「働き掛け」を受けにくい職場環境の確保 「関係者以外立入禁止」掲示等による来訪者への注意喚起 、立入禁止区域の明確化、 名札の着用・来訪者受付簿等による入出管理 、 執務室入室基準の策定  、 ネームプレート着用の徹底  、 庁舎内の事業者等常駐の再点検  、 庁舎レイアウト整備の検討などだが、今でもオルグで出入り自由、来訪者名簿に記入なしに退去命令など庁舎管理権を発動しない職場風土に切り込んでいないし、一般論としての対策にとどまっている。汚職非行やコンプラ研修にかなりの時間をかけ繰り返しやっているが、この事件の背景は研修の不足ではなく、本局中枢や上司がX氏を甘やかしてきたことにあるというべき。

 平成28年にはビールケースなど住民に見られて誤解を招かないように旗開きなど庁舎内会議室の利用条件として飲酒の禁止、令和2年にはオリパラ開催の警備強化か組合対策か不明だが、知事部局と横並びで庁舎管理規程の立ち入りについての事項が追加されるなど改訂されていますが、しかし根本的な問題として、行政財産の目的外使用、地公労法111項違反行為、労務指揮権、施設管理権の組合の奪取、掣肘その他の問題については全く取り上げられていません。コンプライアンスプログラムが全く問題視していない事柄を本意見書では取り上げます。

 

 なお本件の追及は知事部局にも及ぶことになる。争議行為対応実務の大筋は同じと考えられるからです。

 水道局生抜きであれ、知事部局から異動した管理職であれ争議行為に好意的な体質は同じです。

 仮に都議会議員から水道局職員部監察指導課長に、なぜ、ストライキ当日の集会に対し国の省庁のように解散警告、就業命令せよと指示しないのですか、支部分会役員は戒告処分をすることもないという意味は何と質問したとき、知事部局でも同じなので、これはオール都庁の方針であって水道局に特殊な事情じゃないと反論すると思う。

 局長は各部長あてに建前上、地公法30条を引用して服務規律維持の確保を部長級に示達するだけで、争議行為対応実務の具体的な方針には関与しない。実務的指示は職員部の職掌で局長に責任が及ばないようになっている。

 実務的指示は職員部監察指導課が文書を各部庶務担当課長あてに出し、各事業所の管理職は、その文書のコピーを受けるが、庶務担当課長から指示がなければ何もやらない。

 各事業所で実態に応じた対応ができるようになっているが、1時間ストの場合、職員部監察指導課に集会場所やストライキ参加者(賃金カット)の人数を報告することは義務付けられているが、就労命令・職場復帰命令とスト指導者、率先助勢者の現認検書の上申といった国の各省庁で当然なされていることの指示はない。

 神戸税関事件・最三小判昭52.12.20が、争議行為中の就業命令は適法としているにもかかわらず、組合側の論理に従い就業命令は団結破壊などしてやらない方針なのである。都と組合との間で不透明な癒着があるとみなすほかない。違法行為を助長していることは東京都という組織全体の問題なのです。

 本意見書の提案は、まず就業規則に無許可集会・演説、無許可組合活動、他の職員の職務専念妨害を禁止する明文規定を設ける。職務命令の根拠を明確にし、企業秩序論の判例法理にもとづいて職場環境を適正良好に保持し規律ある運営態勢を確保するよう抜本的に職場風土を改革するものである。私企業では就業規則の記載と周知が懲戒処分の前提であり、地方公務員法2911号、32条の適条をより明確にするため規則の明文整備は絶対必要である。

 提案では職員すべてに、同盟罷業は違法行為なので必要な措置をとるとの警告と、就業命令を行うことになる。従来やっていないことをやるので、当然組合側の抗議活動も想定して対策する必要もある。しかしそれは、国の省庁やまともな自治体の方針に合わせるだけのことで、目新しいことではなく、何十年間もおろそかにしてきたこと。

 また同盟罷業の懲戒処分は、全水道東水労においては本部中央闘争委員会34名に限られており、本部中闘以外の中執、本部委員・統制委員、支部・分会役員はいっさい懲戒処分の対象にはならず守られていた(但し、過去3回の同盟罷業で支部長が訓告となっているがこれは懲戒処分ではない)。この方針は改めスト指導者や率先助成者の現認検書の上申を義務づけたい。各分会単位各事業場のスト指導者最低1名を戒告、悪質な態様では複数以上を処分のうえ、量定を加重する案を提示します。当然反発が想定できる。

 懲戒処分基準の事実上の変更なので団体交渉に応じる必要がある。ステップを踏んでいく必要があるだろう。

 

 令和6年の秋季年末闘争は1031日のスト権投票で92.77%の高率でストライキは批准され、オルグ活動、昼休み集会、所属長要請行動、支所合理化拠点動員決起集会2割動員、ビラ貼り、三六協定破棄闘争、本庁ふれあいモール3割動員がなされ1220日に2時間ストを配置し闘争期間に入ったが、ストは中止となった。

 しかし前回のスト決行から6年経過し、経験則から、平成20年以降ほぼ3年おきにやっていた実績あり、そろそろストを決行してもよさそうな時期にきているといえます。

 但し、特に悪質と考えているのは、上の表にない平成262月中野営業所の監理団体業務移転拒否徹底抗戦である。実力で4月から7月に移転時期を延期させた闘争である。本闘争が26年に越年となって124日にストライキ、その後、〇〇分会書記長が移転業務のため固定資産・備品の帳簿の現品確認に来た本庁職員を〇〇課長補佐に指図して追い返し、〇〇所長に業務移転委託化関連業務の業務命令の凍結を強要する、つまり組合が労務指揮権を奪う、部分的業務管理態様の争議行為が続行したのである。

 本部委員〇〇〇〇が人事課の派遣説明会参加阻止のピケやオルグがあり、監理団体への一時的派遣は希望があっても手を挙げない。承諾しないよう、分会がオルグして、業務移転を難航させる戦術をとった。220日停職中で出入り禁止のはずの本部書記長〇〇〇が勝手に侵入しオルグ活動をし、最終的に組合のメンツを忖度せず、4月移転を強行しようとしたとしてサービス推進部担当者を中野営業所に呼び出し謝罪を強要した。

 ストから12日という超スピードで、争議は続行しているのに平成2625日に本部中闘の最大停職18日処分と、支部長の訓告が処分発令された。現認検書が上申されないので、審査する必要もないので、短期間なのである。

 2月初旬発令の懲戒処分のスケジュールは過去一年間について行うとあらかじめ決まっていて、猪瀬辞任に伴う都知事選告示直後、2月の定例都議会の前に処分をさっさとすませ、議会や新知事から処分の量定など注文されたりしないようにしている。

 移転業務に非協力徹底抗戦のあおりや、局の業務の妨害、所長の経常業務以外の労務指揮権を凍結させるなどの悪質な争議行為がなされているのに、いっさい問題視されていない。ガバナンス上欠陥があることは明白なので、それゆえ改革が必要なのだ。

 

目次

 

意見書の趣旨 1

(一)東京都水道局の労務管理は何が悪いのか 主要な論点. 2

(二)何を要求するか 要点. 3

(三)内部統制評価報告書は重大な不備なしとするが問題はある. 4

第Ⅰ部 問題点の提起と提案の要旨. 11

一 全水道東水労の争議行為、大衆行動等の違法性の概略. 11

(一) ながら条例改正の意義は認めるが争議行為抑止には役にたっていない. 11

(二) 管理職に争議行為の正当性を承認させ組合側に取り込む闘争スタイル. 12

(三) 全水道東水労の平成12年以降の主な争議行為. 13

(四)闘争期間の大衆行動. 15

◇全水道東水労闘争期間のスケジュールの例. 15

令和元年年末闘争と春闘(新宿営業所). 15

令和4年の都労連闘争と局内年末闘争の動向(杉並営業所の出来事のメモ). 15

令和5年 年末局内闘争の例. 16

二 要求項目 要旨. 18

(総論)プロレイバー学説に依拠した悪弊の一掃. 18

(一)国の各省庁やまともな自治体と同じ、争議行為対応実務を強く要求する. 18

(二) 平成16年3月の東岡職員部長通知を廃止し、就業規則を整備する. 21

1 職務専念妨害避止義務の就業規則は絶対必要なので加える. 22

2 勤務時間内外如何を問わず無許可組合活動、無許可演説・集会の禁止は絶対必要. 22

モデル1 JRグループ就業規則. 22

モデル2 JR東海の基本協約. 22

モデル3 郵政省就業規則. 23

モデル4 電電公社就業規則. 23

モデル5 国立大学法人東北大学規則. 23

(三)闘争指令下の昼休み集会等の中止・解散命令の徹底. 23

(四)闘争体制での組合活動の便宜供与禁止. 23

(五)スト対策本部の立ち上げ、非組合員を総動員する. 23

(六)管理職に組合役員より争議行為目的の支持要請、職務命令等をしない要請の拒否義務づけ. 24

(七)三六協定破棄は違法承知でも業務命令する方針に変更. 24

(八)組合が管理職に下位職代務を押し付けるいやがらせの拒否義務付け. 24

(九)従来なかったストライキの事前「警告」と就業命令書交付の義務付け. 24

(十)ストライキ当日の労務管理の全面的見直し. 24

1 組合に操業権を否定する権限などなく、業務は管理職対応とする組合の要請はきっぱり拒否すること. 24

2 管理職による非組合員締め出し、就労阻止の命令の禁止. 24

3 三六協定未締結でも労務指揮権を放棄してはならない. 24

4スト集会に参加する組合員及び組合の説得により職務離脱する非組合員に対就業命令を徹底的にやり、スト指導者、率先助成者等の現認検書上申を義務付ける. 25

5 ピケッティング等の取り締まり. 25

6 業務妨害に対して、管理意思を明示して威力業務妨害罪を成立させる. 25

7 ピケットラインを通過しない非組合員を事故欠勤とすることは不正給与支出なので禁止、申請者と承認する管理職は詐欺行為として処分する. 25

(十一)ストライキ待機は退去命令し建造物侵入罪を成立させる. 25

(十二)懲戒処分の対象を拡大し、安心して違法行為ができる職場を改革すべき. 25

(十三)昼休み当番(窓口電話業務)拒否は争議行為なので業務命令する. 26

(十四)勤務時間内洗身入浴は賃金カットの対象とする. 26

(十五)保険の勧誘員は中央労働金庫以外の立入を禁止すべき. 26

三 主要な要求項目. 27

(一)当局が違法行為を助長、協力、援助、便宜供与している在り方の是正. 27

1 地公労法11条1項後段所定の「唆し」「あおり」を全面的に容認、中止・解散・就業命令をしない在り方を是正すべし  27

1-1 闘争指令下の「昼休み集会」は不許可、中止命令の徹底を. 28

1-2 勤務時間内3割動員集会と2割動員集会は解散・退去命令し、決起集会の外来動員者は住居侵入罪が成立するようにせよ  30

1-3 スト当日の集会の中止・解散命令等を東京都は一切やらない問題. 31

1-4スト当日就業命令を徹底的にやるのが官公庁の通例 しかし東京都はやらない. 32

2 最大の悪弊は東京都がストライキに対抗して操業行為を控えること(組合と共謀し労務指揮権を放棄しストライキ完全防衛に協力態勢をとる). 34

2-1ストによる操業妨害の効果を減殺させる争議対抗行為としての業務命令をさせない体制. 34

2-2 管理職が就労したい職員にピケットライン尊重を指示する悪弊. 35

2-3 管理者の対応が違法行為とみなす根拠. 37

3東京都水道局は 積極的業務妨害・外形上犯罪構成要件該当行為を許容している. 41

(二)東京都は違法行為責任を団体である労働組合が負担、指令に従う個々の労働者に懲戒責任は問えないという誤った法解釈により、本部中闘以外の懲戒責任を問わないので、事実上争議行為を正当業務としている慣行の是正. 42

1 全逓勝利の昭和46年都城郵便局地裁判決の組合側の主張がまかりとおっている不思議. 42

2 インチキで事前警告としては意味をなさない「服務の示達」慣行. 43

◇服務の示達の最近の例. 43

◇「職員のみなさまへ」. 43

3 小括. 44

(三) 労務指揮権を凍結させる組合の業務管理を受容れている. 44

(四)三六協定破棄闘争時に労務指揮権を凍結する慣行の見直し. 45

四 補遺(各論). 46

(一)東水労は1時間ストが多用されるが北海道教委のスト参加者全員戒告処分を最高裁が適法としており、短時間ストだから処分を遠慮する理由はない。. 46

(二)本部中央闘争委員の停職13日程度で騙されないでください. 48

(三)全水道東水労の積極的業務妨害の対応問題 (公務員ストと刑事免責について判例の変遷). 49

🔶名古屋中郵判決が指導判例とされる経緯. 49

🔶東京中郵判決の違法性二元論は違法性一元論へ. 51

🔶争議行為違反に罰則がなくても他の罰則の構成要件を充足している場合にその罰則を適用できる. 51

🔶「久留米駅事件方式」の総括明確化. 52

(四)「通常随伴行為不罰論」に沿った東京都の労務管理は違法行為を助長. 53

(五)スト破りに対する実力ピケや強制的阻止は正当な行為ではないのに、東京都の管理職がスト全員参加を促すのは間違っている  55

1 プロレイバー学者には組合の行為であれば市民刑法規範では暴力犯罪とされる実力行使であっても免責されると言う人もいた  56

(1)刑事免責の比較法. 56

2強制力は暴力でないから容認されるという野村平爾の学説. 58

3 藤木英雄東大教授の刑法学説は国鉄久留米駅事件判決で粉砕された. 59

4 先進国の雇傭法では労働組合に強制力を付与していない. 60

(六)英米におけるストに参加しないで就労する権利について(補遺). 62

第Ⅱ部 東京都水道局の労務管理の包括的改革案. 66

一 平成16年3月東岡職員部長通知の全面的見直しと労務管理改革の必要性 66

(一) 平成16年3月東岡職員部長通知と疑問点. 66

(二) 後藤都議質問の背景、ながら条例改正について. 68

(三) 東岡職員部長通知は、やむをえず行った例外措置. 68

(四) 平成16年東岡通知以前の状況との相違点とその内実. 70

2 頭上報告. 70

2-1 頭上報告とは. 70

1 所属長要請行動. 71

2-2平成16年以降も勤務時間内の頭上報告は行われている. 71

2-3 「平成16年3月東岡職員部長通知」の何がよくないのか. 72

2-3 小括. 73

二 東京都においては労務管理の方針の刷新、パラダイム転換の必要がある. 73

(一)プロレイバー学説に依拠した労務管理の異常性. 73

(二) 企業秩序論にもとづく管理を徹底すべし. 74

1 企業運営の諸権利を統合する上位概念. 74

3 企業秩序論の労務管理はわかりやすく有益. 76

🔶施設構内の無許可組合集会が正当な組合活動とされることは、国労札幌地本判決を引用した以下5つの最高裁判例が否定している以上ありえない. 76

2 法益権衡論、調整的アプローチの排除. 76

🔶プロレイバー学説の受忍義務説は明示的に否定されているから、組合に主導権をとられることは絶対ない. 76

🔶私企業では懲戒処分とするには就業規則を具備していること(無許可組合活動.集会の禁止)+その周知+「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」が懲戒処分の前提になる. 76

4 モデルはJRグループ. 77

◇JRグループ就業規則. 77

◇JRグループ賃金規程. 78

◇JRグループ基本協約. 79

(三)行政財産の目的外使用(地方自治法238条の4第7項)の判例法理について. 80

(四)財産管理法制とは無関係な管理作用の発動としての庁舎管理権判例法理の活用. 82

三 就業規則の整備の必要性. 82

◇ 東京都水道局就業規則・労働協約追加案. 83

四 東京都水道局労務管理及び庁舎管理31項目是正勧告(包括的改革案). 84

(一)闘争期間等の組合活動対策. 84

1 頭上報告-不許可・中止命令. 84

1-1新方針. 84

1-2新方針の理由と根拠. 84

1-3新規則違反. 85

1-4処分. 85

1-5取締りの根拠となる主な判例. 85

2 組合中執及び本部委員のオルグ演説-不許可・退去命令. 88

2-1新方針. 88

2-2根拠. 88

2-3 処分. 89

2-4水道局におけるオルグ演説の実例. 89

2-5取締りの根拠となる主な判例. 90

3  ストライキ対策本部の設置. 93

3-1 新方針. 93

3-2非組合員全員対策本部入りの意義. 94

4 闘争指令下の昼休み集会-不許可・中止命令. 96

4-1 新方針. 96

4-2 新方針の根拠. 96

4-3新規則違反. 96

4-4 処分. 96

4―5 過去の事例. 97

4―6 取締りの根拠となる判例. 98

5 ストライキを配置し闘争に突入した時点で便宜供与の禁止. 100

5-1 新方針. 100

5-2新方針の根拠. 100

5-3 新規則違反. 100

5-4 取り締まりの根拠となる判例. 100

5-5処分. 102

6 闘争指令下の本庁・支所・合理化拠点の動員決起集会-不許可・解散命令. 102

6-1 新方針. 103

6-2 新方針の根拠. 103

6-3新規則違反. 103

6-5 処分. 104

6-6 取締の根拠となる判例. 104

(1)無許可職場集会の解散命令は不当労働行為を構成しない. 104

7 所属長要請行動-不許可・退去命令. 112

7-1新方針. 112

8三六協定破棄闘争(職制麻痺闘争)-違法でも業務命令する方針に改革すべし. 113

8-1 問題点の提起. 113

8-2 新方針. 115

8-3 新方針の理由その1-三六協定破棄闘争は争議行為の疑いが極めて濃い. 115

8-4 新方針の理由その2-労基法違反の時間外労働でも職務の執行は違法にならないとする先例. 120

8-5 新方針の理由その3-労基法上違法就労でも正当な事業活動として刑法上保護される意義. 127

8-9ストライキ決行時の非組合員を締め出す目的で三六協定破棄している問題点. 130

8-10ストライキ決行時の非組合員を締め出す目的で三六協定破棄の対抗策. 131

8-11 結論(三六協定破棄闘争の対応). 131

9 「服務規律確保の周知(服務の示達)」の訓示は廃止して「警告及び職務命令書」に切りかえる. 132

9-1「服務の示達」というインチキな慣行. 132

9-2「服務の示達」の実例. 134

9-3「職員の皆さんへ」の掲示は形骸化. 134

9-4比較的近年の厚生省の争議行為対応との比較. 134

9-5 その他官庁・私企業の警告の事例との比較. 135

9-6 東京都の「服務の示達」で「違法行為」とは絶対言わない理由. 137

9-7新しい警告書の提案. 138

9-8 新方針. 139

10 スト待機-深夜未明の滞留不許可. 139

10-1 スト待機とは. 139

10-2新方針. 140

10-3先例. 140

10-4根拠. 140

10-5 処分. 140

11 ストライキ準備行為-中止命令. 141

11-1 新方針. 141

11-2 根拠. 141

12 ピケッティング-中止命令. 141

12-1 新方針. 141

12-2根拠. 141

12-3処分. 142

13ストライキ当日の集会の中止・解散命令、職場復帰命令の徹底. 142

13-1 新方針. 142

13-2 根拠. 142

14 ストライキ時、営業所の必要業務の管理職対応はやめる. 143

14-1 新方針. 143

15 非組合員の出勤時限前の入庁を締め出し「事故欠勤」とする方針を廃止し、就業命令する. 143

15-1 新方針. 143

15-2 職員の就労する権利と法令遵守義務を否定する東京都の管理職の悪質さ. 144

15-3 非組合員の就労する権利の否定は違法. 144

15-4 組合の統制を受けないで就労する権利の否定は違法. 145

15-5 地公労法11条2項違反の疑い. 146

15-6 「勤務時間等規程」「処務規程」「事務処理要領」違反の強要は職権を逸脱で違法性が強いのでやめる. 146

15-7 ストライキ時の非組合員の事故欠勤は違法性の強い不正会計. 146

15-8 根拠. 147

15-9処分. 147

16 積極的業務妨害(職場占拠・シットダウンストライキ)-刑事処分も検討. 147

16-1 新方針. 148

16-2 根拠. 148

16-3処分. 153

17 積極的業務妨害(業務用機器の隠匿)-刑事処分も検討. 153

17-1 新方針と処分. 153

17-2 根拠. 154

17-3 類似事案判例 車両確保戦術等. 154

18 昼当番拒否闘争を是認せず、就業命令する. 159

18-1新方針と処分. 160

18-2 根拠. 160

19 組合役員による労務指揮権の奪取による、業務妨害、業務管理は拒否. 160

19-1 新方針. 160

19-2 根拠. 160

20 同盟罷業の懲戒処分の在り方を改める. 161

20-1 本部中闘に懲戒処分を限定しているというのは、組合に非常に有利な在り方。. 161

20-2 争議行為が集団組織的行動で、指令に従っているだけの組合役員個人の責任は問われないという学説は否定されていのにこだわる東京都の異常さ. 162

20-3 1時間半以下の同盟罷業の処分例との対比 水道局の処分は妥当か. 165

20-4 新方針. 168

21 ビラ貼り-パトロールし現認制止する. 168

21-1 新方針. 168

21-2 根拠. 169

21-3処分. 169

21-4 取り締まりの根拠 となる判例. 169

22ビラ配り-闘争態勢に入った時点で実質許可制に. 172

22-1新方針. 173

22-2 根拠. 174

22-3処分. 174

22-4 ビラ配り判例の分析と対応. 174

23 組合掲示板の公務秩序に反する掲示物の撤去-不適切なものは撤去. 178

23-1 新方針. 178

23-2根拠. 179

23-3 処分. 179

23-4 取締りの根拠となる判例. 179

24マグネットシートの貼付、赤旗の寄書き、煙突闘争等-ビラ貼りと同じ対応. 181

24-1根拠. 181

24-2処分. 181

25 春闘ワッペン、赤腕章-取り外し命令. 182

25-1 新方針. 182

25-2根拠. 182

25-3処分. 182

25-4 根拠となる判例. 182

26 組合旗掲出、掲揚・横断幕・立看板設置-禁止. 190

26-1 新方針. 190

26-2根拠. 190

26-3 根拠となる判例. 190

(二)闘争期間以外の問題. 194

27 庁内管理規程で禁止の保険勧誘行為が認められている問題. 194

27-1 新方針. 195

27-2 根拠. 195

28 組合の土日出勤規制に都合よく作られている水道局庁内管理規程の改正の必要性. 195

28-1 新方針. 196

29 夏28度、冬20度の通達の空調温度設定は出先の庁舎では守られていない. 196

29-1 新方針. 197

30 組合による目標管理制度の自己申告形骸化闘争に管理職が屈している問題. 197

31 営業所における勤務時間内浴室のシャワー利用(洗身入浴)の問題. 197

31-1 千代田営業所の悪質な事例について. 198

32 東京都水道局庁内管理規程は令和二年に改正されたがなお改正が必要. 199

第Ⅲ部 国会議員と都議会議員への要望私鉄総連組合員の春闘ワッペン着用を規制すべき 203

(引用・参考文献). 218

 

リンクしていないが 参考文献の前に 第Ⅳ部 質問に対する想定問答 を追加しました。

 

 

 

 

 

 第Ⅰ部 問題点の提起と提案の要旨

 

 

一 全水道東水労の争議行為、大衆行動等の違法性の概略

 

  恒常的・頻繁かつ積極的業務妨害もあり悪質

 

(一) ながら条例改正の意義は認めるが争議行為抑止には役にたっていない

 

 

 まず三羽ガラスと称される都議会議員主導の改革である平成15年「職員団体のための職員の行為の制限の特例に関する条例」(通称ながら条例)改正以降の状況の変化について述べますが、結論として、その意義は大きいけれども、争議行為抑止にはなっていない。

 また職員のリークがあったと考えられるが、平成16317日公営企業委員会で後藤雄一都議が所属長要請行動や頭上報告等について質問、職務専念義務違反を指摘したため、東岡職員部長が、組合活動は原則として勤務時間外にさせるよう、頭上報告等は賃金カットの警告をすると答弁した。

 このため平成20年代は頭上報告に対し警告を行うようになったので、勤務時間内組合活動は自粛傾向となり闘争期間の殺気だった騒々しさが薄れたのは事実である。しかしそれ以外は一切職務命令しない方針は同じで、後藤都議の質問で問題が本質的に解決したわけでは全くない。

(平成15年ながら条例改正の意義と、平成16317後藤都議の質問とその対応である東岡職員部長通知については第Ⅱ部の一66頁詳しく説明しているので参照されたい)

 つまり、その後1時間ストが6回決行されている。平成16年に業務手当廃止をめぐって4か月に及ぶ大きな闘争があり、7月と10月に1時間ストライキ、勤務時間内34割動員決起集会は6回以上、本庁舎局長室前廊下座り込み、10月に9日連続の超過勤務拒否闘争などあらゆる戦術を尽くした。平成20年以降の主な争議行為は1時間の時限ストが4回あり、平成26年まで3年おきにストが決行されている。 

 その後6年たって令和元年決行以来スト突入はない。 

 東水労は令和51221日に2時間ストを配置し、4年間不実施のストライキを決行する雰囲気があったが、当局が繁忙事業所の増員を最終回答したことから、ストは延期、124日にも1時間ストを配置したが最終的に当局の回答を受け入れストは中止されている。令和6年もストライキは中止となっている。

 昭和4050年代には官公労ストは頻繁にあり、年に23回ストライキ実施する年もあった。平成以降公務員のストは激減している状況からみて全水道東水労のストライキは相対的にみて頻繁かつ、当局が争議行為と認定している勤務時間内3割動員集会は毎年34回実施されるので、恒常的に争議行為のある職場の実態は何も変わっていないのだ。

 なお都労連(都庁職、都教組、都高教、東交を含む)の賃金確定闘争は平成111112日以降時限ストを決行していない(ただし都庁職は平成10年にもストを決行している)。

 地方公務員一般職で争議行為が組合の正当業務でないことが確定したのは昭和51年大法廷判決、地方公営企業職員は昭和63年の最高裁判決である。公務員ストは平成以降激減しているが、その理由は地方公務員法614号であおりの罪、あおりの企ての罪の罰則規定があるが、組合の主張するあおりの限定解釈は退けられており平成初期までに最高裁で確定したので、組合事務所に家宅捜索、検挙のリスクもあるからだろう。水道局はこの罰則は適用されないが、むろん違法行為なので解雇や懲戒処分はできるし、地公労法には罰則がなくても刑事免責はないので、争議行為もしくはそれに付随する行為として、業務妨害罪や住居侵入罪等の構成要件該当行為があれば、違法性が阻却されることはない。にもかかわらず、違法行為が抑止されていないのは東京都の労務管理に問題があるということである。

 

(二) 管理職に争議行為の正当性を承認させ組合側に取り込む闘争スタイル

 

   全水道東水労(令和元年の組合員総数は2,778名、組織率77.2%上部団体は全労協・旧社会党系)のスケジュール闘争は、オルグ演説により、毎年11月初め頃(秋季・年末闘争)と2月末頃(春闘)の2回にスト権一票投票が呼びかけられ、近年では毎回92%以上の高率で批准され、年最低34回(11月、1212回、3月)時限ストライキを配置し闘争体制をとる。「大衆行動」と称する組合員大衆を各戦術に動員して参加させる闘争態勢をとる。

   特徴的な戦術としては「所属長要請行動」である。大衆団交スタイルの多衆の包囲と威圧のもとに所属長に争議行為の目的の正当性を認めさせ、交渉当局に分会の要請を伝える走狗にして、管理職を組合側に取り込む目的のものである。

   役員が号令し、組合員は職務を離脱して所長席前に陣取り、言うことをきかなければ怒号が飛び交い、吊るし上げる態様のもので、執務妨害だが、解散・就業命令はやらず受容れるのが東京都のならわしで、闘争期間中の職務命令はさせないのが組合の方針でありそれに従っている。

   実際に平成12年度千代田営業所長は本局に組合の要請を伝達したようだ。要請行動とは組合の考えを受け容れよというものだから、労務指揮権や庁舎管理権の発動をさせない含みもある。それゆえ、闘争シーズンは騒々しく殺気立っていた。国の省庁なら、執務妨害行為で懲戒処分が普通だが、東京都では執務妨害は事実上、組合の「業務妨害権の行使」として認めている実態が今でもある。

  しかし所属長要請行動は、平成16317日公営企業委員会で後藤雄一都議が水道局北部支所の勤務時間内の「所属長要請行動」で机に穴を開けた事件や頭上報告が職務専念義務違反ではないかと質問したことを契機として、当局は勤務時間中の「所属長要請行動」や組合の演説行為(頭上報告やオルグ演説)等、野放図に認めていた状況をあらためざるをえなくなり、質問に対する東岡創示職員部長の下記引用する答弁で示されている通知により、昼休み等時間外に移されたので、近年では低調になっている。

東岡職員部長 「原則として勤務時間外に行うように求めるということと、勤務時間中に行う場合については、やめるように警告をすると。やめない場合については、その事実を確認して賃金カットをするというふうに通知をしました。」

 所属長要請行動を勤務時間中にやらなくなったのは事実である、しかしそれは許諾する必要のないものである。

(最新の例は令和6125日に西部支所と営業と配水を統合した支部の所属長要請行動が昼休みにあった)。

 このほか大衆行動としては、ステッカー(ビラ)貼り、朝ビラ情宣、「昼休み集会」(闘争化課題を確認し組合員の意思統一を図る)、「勤務時間内職務離脱2割、3割等動員決起集会」(支所・合理化拠点・都庁構内、組合員の志気を鼓舞、昂揚させストライキ決行に向け態勢を固める集会)、「三六協定一方的破棄超勤拒否闘争」(職制麻痺闘争)がある。

 その他、団結組合旗の寄書きの掲出などの戦術をみたことがある、最近は見てないがかつては春闘のワッペン着用闘争も行われていた。平成16年の業務手当闘争の頃までは、本庁第二庁舎内デモ、庁内廊下座り込み、青年女性部独自行動。部会独自行動もさかんに行われていた。ただ本庁については近年はテロ対策でIDカードのタッチでパスする必要があり庁内デモ行進等は困難となった。

 懲戒処分については、水道局長名義で、組合執行委員長に対しては違法行為であるとして「中止の申し入れ」という実質警告書を出しているので、ストライキが決行された場合、ストライキの企画と決定、指令を理由として組合の機関責任を問うという形で、本部中央闘争委員会の34名を停職処分とする。過去最大平成26年の停職18日である。令和元年のストは最大停職13日であった。

 懲戒責任は本部中闘に限定し、責任をかぶせる形になる。実際にオルグ活動、大衆行動への動員等、ストライキを共謀・実践・指導する本部委員・支部分会役員以下は、(支部長が・23年以降の処分発令から訓告処分となったがこれは懲戒ではない)、指令に従っている組合員は違法行為を実践指導しても懲戒責任は問わないというのが、東京都の方針である。

 本部中闘だけ責任をとらせる方針は、争議行為は組織的集団行動だから、指令に従って組合員の義務としてストを実行する組合役員以下の責任は問うことは許さないという組合側の見解に従ったものと考えられる。かつて全逓などが主張していたことと同一である。

 違法争議行為について組合は責任を負うが、個々の職員は団体行動なので責任を負わないというのがプロレイバー学説であって、東京都はこれに近似した対応をとっているのである。

 しかし、全逓東北地本懲戒免職事件・最三小判昭53.7.18民集3251030が「労働者の争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも、多言を要しない」と判示しているのであって団体行動だからスト参加者個人の懲戒責任などないというプロレイバー学説は明示的に否定されている。東京都は、組合側の主張に取り込まれていて、最高裁判例を無視しており糾弾されてしかるべきである。

 当局と労組の癒着のもとに本部委員・支部分会役員がどんなに悪質なことを繰り返しても懲戒処分しない方針は組合役員を増長させている。規律ある業務の運営態勢を確保するために、抜本的な改革を提言するというのが本意見書の趣旨であります。

 むろん懲戒処分の対象や量定は、懲戒権者に広範な裁量権があるけれども、議会が懲戒処分方針に干渉することは可能である。例えば昭和58107日の大分県教組・高教組の2時間スト(定時制は1時間)は、小中高全職員の78.4%がストに参加したが、9年ぶりに参加者全員に懲戒処分(減給又は戒告)が発令された。

 それは前年7月の大分県議会で、自民党等が前年のスト処分につき、県教委が「文書訓告者が違法ストを重ねた場合は、懲戒処分の強い姿勢で臨む」と言明してきたのに、軽い処分に止めたことで議会が空転、教育委員長は辞意を表明し、「今後‥‥従前より厳しい措置で対処する」旨言明し混乱を収拾した経緯による(大分県教組人勧スト事件・大分地判平5119判時1457)。控訴審福岡高裁平12106判タ1108は本件処分を適法としている。

 

三) 全水道東水労の平成12年以降の主な争議行為 

 

 争議行為は恒常的に行われていることだが、時限ストライキ(同盟罷業)を中心に表にしたもの。29分職場大会などは省略しており見落としがあるかもしれない。懲戒処分を記録しているのは、平成22年以降である。

 

★平成111112

1時間ストライキ

同盟罷業 都労連スト

★平成16730

1時間ストライキ

(業務手当完全防衛闘争)

同盟罷業 通常ストライキを12回配置した局内闘争では職場離脱3割動員決起集会は多くても2回だが、この闘争では630日、713日、22日、28日と第二庁舎前15時より4回決行している。当時私は保安要員の水特隊勤務で争議に巻き込まれてないが、たまたま本庁に交換便業務で立ち寄ったとき、第二庁舎前集会終了後、鉢巻をし、組合旗や幟を持った組合員が庁舎に雪崩こんで、練り歩くデモ行進を目撃した。退去命令や監視はなく、案内所の女性が唖然として見ていた。このほか726日、27日は14時より第二本庁舎内座り込み2割動員。この闘争は1022日まで続く長期の闘争となった。このほか、以前より行われていたことだが、623日から730日まで「ステッカー闘争」「立看板闘争」が指令されている。西部支所では横断幕。過去の例では千代田営業所は倉庫に、東一・支所江東営業所は駐輪場に立看板が置かれていて、闘争時に千代田営業所は1階屋根付き駐車場、東一支所・江東営業所は正面玄関前ロータリーに出していた。

★平成16101

 

同盟罷業 1時間ストライキ(業務手当完全防衛闘争)

★平成1610月(業務手当完全防衛闘争)

22日の3時間ストライキは中止されたが、その前段で101321日9日間の三六協定破棄超勤拒否闘争、15日通常の闘争ではやらない午後14時から第2庁舎前で職場離脱4割動員決起集会が行われている。1020日は午前9時より第二庁舎座り込みが行われた。局長は、妥結後、交渉経過の組合役員による勤務時間内職場報告を許可するなど組合にサービスし全職場で組合の演説が行われた。

★平成1872628日昼休み当番拒否闘争

21営業所で実施。昼休みは、午後0時から1時だが、労働協約で休憩時間を1時以降にずらして勤務させることができるとしており、組合が昼休み当番(窓口と電話応対23名)を引上げ、管理職対応と宣言し、管理職に下位職を代務させるいやがらせのような闘争である。正常な業務運営ではなく、地公労法111項違反の指名スト(部分スト)ともいえるし、組合による部分的業務管理ともいえる。当局は争議行為と認定していない。

当局の方針は、業務命令をせず、組合の指図に従う。営業所長と応援体制として営業所以外の本庁や出先の管理職が動員され昼当番という下位職代務をやらせるというものである。

平成20319日 1時間スト 西部支所・西部建設事務所は来客用駐車場で集会

同盟罷業 和泉庁舎の水道特別作業隊に勤務し全員保安要員の職場であったが、西部支所と西部建設事務所は始業時から1時間のストライキを実施した。

このストは東京都水道局事件・東京地判平2566労判1081に「水道局長は、同月17日、同月19日の始業時から2時間として予定されていたストライキが実施された場合に、お客さま対応等の業務に万全を期すため、全管理職員の出勤時間を午前8時とすること、X営業所においては、事業所長である原告のほか、研修・開発センター研修課長を応援者として営業所窓口応援体制をとることを通知した。」との記載がある。

平成221210日 1時間スト

中野営業所 駐車場で集会

〇〇所長就業命令なし

同盟罷業私の記録では2323日付発令処分は全水道東水労本部中央闘争委員会5名の最大16日間の停職処分[1時間ストライキと17日の勤務時間執務室内職場集会を理由とする]と各支部長に対する訓告(1時間ストライキ)これは前例がなく初めてだが、懲戒処分でなく痛くない。

平成231031日~2日と4日昼休み当番拒否闘争 管理職は闘争を全面的に容認し、代務として管理職を動員して対応している。

昼休み当番業務を組合が業務管理し組合役員が管理職に電話当番や、料金支払いのレジ業務を指図する(実質労務指揮権を組合がはく奪)する争議行為。

足立営業所の監理団体業務移転の提案に反発して、突然〇〇分会委員長が当局の提案に反対するため2名配置の昼休み当番を引き上げ、電話と窓口を管理職対応とすると宣言。組合役員が管理職に指図して下位職務を代務させるいやがらせである。当番の職員は組合役員と当番を勝手に交代し、組合役員は管理職に仕事を押し付けるが後ろのみえないところで控えていて、経常業務に不慣れな管理職に質問があったら、こう端末を操作するとか、回答するとか、指図する役となる。中野では昼休み当番は窓口のレジと電話と2人体制であるので、営業所長(後に監察指導課長、労務課長の〇〇〇〇)と、もう1名は西部支所配水課長もしくは給水課長が応援で昼休み当番にあたっていた。昼休み当番は不完全就労だが賃金カットはしていないと〇〇が言っていた。

 

平成26124日 1時間スト 中野営業所駐車場で集会 〇〇所長就業命令なし。

同盟罷業 組合は中野営業所の監理団体業務移転の延期を交渉していたが、提案通り41日との回答だったため、ストを決行。争議行為が続行しているにもかかわらず処分は2625日発令と異様に早く猪瀬氏辞任に伴う都知事選告示の翌日、私の記録では全水道東水労は、本部中闘停職182人、停職161人、停職71人、ほかに下水道局2人、支部長28人に対する訓告処分。

★平成26128日~2月下旬 中野営業所業務移転拒否闘争

〇〇所長は外来者の本部委員の勤務時間内オルグ、退去命令できず、人事課説明会ピケ容認、組合の移転準備の業務命令をさせない工作により、管理職は職務命令を凍結して闘争に加担。

争議行為は続行し、中野営業所では監理団体業務移転業務拒否闘争で徹底抗戦、実力で4月から7月に移転時期を延期させている。220日停職中の本部書記長〇〇が勝手に侵入しオルグ演説した。これに先立ち129日本部委員の〇〇〇〇が勤務時間中に、団結して派遣に手を挙げないことで、当局を交渉に引きずり込む戦術のオルグのほか、職員部人事課の監理団体派遣説明会の前でピケを張り業務を妨害、また〇〇中野分会書記長が、本庁サービス推進部職員が、固定資産、備品リストの現品照合のため来庁したところ、〇〇課長補佐(営業係長)を闘争指令に従うのが組合員の義務など言って本庁職員の作業を断るよう指図して、本庁職員を追い返す積極的な業務妨害があった。さらに〇〇所長に移転関係の業務命令を出さないよう指図するなど悪質な行為が行われた。最終的にはサービス推進部担当者に謝罪を強要し、7月移転に日程を変更させた。実力で3か月移転を遅らせたことを組合は誇っている。組合が労務指揮権を奪ってしまう違法行為でも当局はいっさい問題視していない。

管理職は業務命令ができないというガバナンス問題は全く解決されていない。

令和元年1220日 1時間スト 新宿営業所 〇〇〇〇所長 事務室内ピケッティング容認 事務室内集会に就業命令等なし、外形上犯罪構成要件該当行為容認。

同盟罷業+積極的に業務遂行を妨害する職場占拠(シットダウンストライキ)、加えて業務用機器の隠匿により業務遂行を不能にするきわめて悪質な態様。外形上威力妨害罪の構成要件該当行為も公然となされる。

(令和226日発令の全水道東水労の処分は、本部中闘停職131人、停職101人、停職71人もう一人停職3日は未確認と支部長26名の訓告処分)。

 

 令和元年新宿営業所の態様は、積極的業務妨害で、私企業でも正当な争議行為として刑事免責されないものであって悪質といえる。

 

 

四)闘争期間の大衆行動

 

◇全水道東水労闘争期間スケジュールの実例 

 

令和元年年末闘争と春闘(新宿営業所)

令和元年 123日(月)


5波決起集会16時から各支部3割動員)都庁ふれあいモール 賃金カット


12月4日(火)


昼休み集会 給水課分室執務室(闘争課題を確認し組合員の意思統一を図る集会)


12月5日(水)


三六協定破棄闘争17時15分~24時


12月6日(木)


早朝1時間ストライキ配置(延期)、三六協定破棄闘争0時~24


12月17日(月)


昼休み集会 給水課分室執務室

 6波決起集会1515分~各支部3割動員)都庁ふれあいモール 賃金カット


12月18日(火)


三六協定破棄闘争17時15分~24時


12月19日(水)


三六協定破棄闘争0時~24時    

午後、組合役員の〇〇らが非組合員をオルグ、出勤入力せずとも所長に事故欠勤を要請すると述べる。       


12月20日(木)


早朝1時間ストライキ決行 スト集会は執務室内 演説者 〇〇・〇〇・〇〇ともう一人  シットダウンストライキ  組合員は賃金カット、非組合員でスト参加は事故欠勤で局が給与付与  三六協定破棄闘争0時~24


令和2 114日(火)


7波決起集会1615分~各支部3割動員 都庁ふれあいモール 賃金カット


1月17日(金)


早朝1時間統一行動配置日 中止


2月28日(金)


スト権一票投票 批准率9435


3月6日(金)


決起集会16時から各支部3割動員)都庁ふれあいモール 賃金カット


3月10日(火)


三六協定破棄闘争17時15分~24時


3月11日(水)


三六協定破棄闘争0時~24時


3月12日(木)


早朝1時間ストライキ中止

 上記の表では11月初めのスト権一票投票と11月中旬の都労連闘争は省略している。この頃は支所・合理化拠点の動員集会が行われてなかった時期だが、平成中期と近年はある。ステッカー(ビラ)貼り闘争は指令されているはずだが、新宿営業所では1220日スト当日、組合旗掲出に加えに事務室内に貼りだされたのみ。所属長要請行動も通常はあるが確認していない。

 

令和4年の都労連闘争と局内年末闘争の動向(杉並営業所の出来事のメモ) 

 

10月20日(木)826分から30分チャイムが鳴って終わるあとまで、演説、〇〇が中央委員をやることとなったが、あと1年半で退職するので、役員募集していること。メインは111日のスト権一票投票を呼び掛け。早めに不在者投票も受け付ける。100%の投票により批准を目指すと声をはりあげ、最後に昨日の所長の見解については、三六協議の超勤増加の問題など組合も取り組むのでご協力云々と声をはりあげる。

10月25日(火)朝 所長が〇〇と朝長い話、そのあと本部中執の〇〇がきて、各課オルグ演説をやるとのこと。

8時33分中執〇〇のオルグ演説111日スト権一票投票の呼び掛け。演説内容「人事委員会勧告はコロナ渦と物価高で不当だとして都労連闘争の課題を説明、局内闘争については、砧浄水場と長澤浄水場の業務移転、夜間待機が7か所から2か所にして緊急隊の業務とするのは無茶苦茶で容認できない。また営業所の業務移転も提案される可能性がある局は全営業所移転を計画しており、警戒が必要。株式会社東京水道‥‥‥とても円滑な移行はできない。スト権一票投票は高率の批准を」とぶちあげて43分に終了、最後に〇〇が、棄権は絶対ないように、不在者投票の受付など告知。自販機の値上げについて係をまわって説明、1015分くらい。

10月26日(水) 昼12時半ころ、エントランスベンチ前で保険勧誘現認。

11月1日(火)スト権一票投票 休憩室 811分に〇〇大声で呼びかけ。書記長会議17時から

11月2日(水) 頭上報告823分から28分、分会棄権なしは97%、全体では94%で批准と説明。11111時間ストをかまえる、三六破棄間違えないように。昨日渋谷営業所業務移転の提案、白紙撤回を求めて局内闘争に協力を、組合非加入の方はぜひ加入してほしい。あとでお願いする。

11月8日(火)所長と営業係長が〇〇と三六破棄の窓口対応について話す。庶務課長と〇〇話し合い。〇〇本部中闘より〇〇に中野営業所の委託職場で問題点を洗い出すためヒアリングの要請あり、〇〇に頼んでいた。

11月9日(水)目標管理、自己申告面接、スト当日閉めるとの話をきいた。

11月11日(金)都労連スト配置日は中止 三六協定531分締結の目立つ表示がエントランス自動ドア、カードリーダにある。

8時22分より29分まで頭上報告、期末手当、月例賃金の妥結内容、7時に中央委員会がありコロナ禍で未明まで中央委員70人、本部中闘と本部委員10名が詰めているのはよくないということで、議長団に一任、その後2時間待ったとのこと。

その後、局内闘争の課題の説明、渋谷営業所の移転、4か月では難しい、中野での経験あり越年になるとの見込みで闘争に協力をとゆっくりした調子で説明。

その後〇〇は〇〇との雑談でタクシーにより251分に戻ってきたと語っていた。

11月30日(水)〇〇と庶務課長、8時半云々、ピケット態勢の話か、裏の通用門から入りますと言っていた。

12月5日(月)朝ビラは机においているだけ3分ぐらいの頭上報告825分頃 資料がないので昼休み集会はしない。所長に要請し所長に話を伝えてきたとも言った。

あすから3日間三六破棄、超勤命令できなくなる。労基法上問題になると説明。

12月7日(水)

 17時24分から30分配水課若手組合員8人程度が集団で2階通路の壁面ビラはり。1

管理職は帰宅しておらず基本的に黙認。

12月8日(木)ストライキ配置日延期825分から腕章した〇〇が頭上報告 ストは22日に延期し2時間に上乗せ、三六協定は締結、戦略と経営プラン見直しという回答を得られなかった。次回ストに向けて13日の3支部合同集会の呼びかけ。最後に組合加入の呼びかけ。

12月13日(火440分頃まで支所2割動員決起集会。半地下ターンテーブル付近の集会 20人程度いた。机を持ち出し演壇として、組合旗やビラ貼りがある状況で、経営プラン云々という最後の部分の演説と、団結用意の掛け声があって頑張ろう三唱の締めくくりの部分を現認した。

12月15日(木)所長 ストの示達について〇〇に報告か、来週のストときこえた。

12月21 日(水)配水課役員の指図で8人がビラ貼り、2階廊下、天井も営業所近くも120枚程度 1729分前後

(多分20日から三六協定破棄闘争と思うが、記録はとっていない)

12月22日(木)ストライキ配置日だが、妥結したので中止。頭上報告 〇〇 分会長兼中央委員 渋谷営業所の業務移転は押し返すことができず、ただし、葛飾の1名退職派遣を増員させた。徴収サイクル問題について、三六協議(月30時間以上の超勤は組合との協議が必要)が日常茶飯事、健康管理を要請、待機廃止の緊急隊移管は、再来年と219日に延期で妥結、ただし緊急隊の事務職でできるのか正月以降継続協議、頭上報告は、今年はこれで最後なので協力ありがとうございましたと言ってしめくくる。

昨日のビラは、1枚残してきれいにとられていた。

朝、所長、営業担当課長代理、〇〇、3者で深刻な話をしていたので何かと思ったら、昨日スト待機でセキュリティに不具合、所長と〇〇が不具合との話をしていた。そのあと、別の組合役員と20分ぐらい〇〇が話、その前に、〇〇とも話、410分とか430分と言っていた。そのころ〇〇が侵入したのが原因らしい。〇〇は警報もならなかったので問題ないと思っていたなどと話していた。

 

令和5年 年末局内闘争の例

 

11月28日(火)

中執のオルグ演説午前8時半ころ、支部役員の〇〇と中執の〇〇が所長に挨拶、〇〇がそこでやると指差し、所長は許諾。30分より44分までまず、司会の〇〇が中執の〇〇を紹介し、〇〇が約13分間演説。局内闘争の課題、墨田荒川営業所の業務移転に伴う定員削減と、他の営業所の派遣割合の削減、目黒営業所の過員を暫定とするなどの重要な闘争になると説明‥‥業務繁忙の改善に不満があり121日の拡大窓口では交渉打ち切りも辞さずという意気込みで臨むとし、21日にストを構え、8日の支所集会、19日のふれあいモールでの勤務時間内3割動員決起集会の日程を説示、19日より3日間の三六協定破棄闘争は、局に24時間態勢で業務を行うのに組合の協力がいかに必要かを自覚させるためのものと争議行為意思を表明。闘争への協力をよびかけ。最後に〇〇が125日の昼休み集会と、19日の賃金カットの動員決起集会の呼びかけなどがあり終了。

12月5日(火)

昼休み集会

12月8日(金)

支所決起集会(2割動員)

12月19日(火)

都庁ふれあいモール決起集会3割動員)三六協定破棄闘1715分~24

12月20日(水)

三六協定破棄闘争0時~24時

12月21日(木)

ストライキ中止 三六破棄締結

 

 スケジュール闘争で毎年恒常的になされている争議行為、大衆行動と称する戦術について述べる。

 

 勤務時間内離脱3割動員決起集会は近年では年間34回動員指令され、最近は都庁本庁構内の集会に限定されているが、平成前期は支所集会も3割動員で回数も多かったように記憶している。3割動員は当局が争議行為と認定しているので賃金カットする。争議行為と認定する理由は聴いてないが、たぶん、佐教組懲戒処分事件・最一小判昭63.1.21判時12843割・3割・4割休暇闘争を争議行為としているためだろう。コロナ渦自粛期を除いて、年中行事です。午後3時半ころから開催されるとしても、本庁以外は1回につき組合員3割の職員が3時間程度の欠務となる。

 かつては動員組合員を役員が引率するなど闘争期間中組合員は必ず1回動員集会に参加することになっていたが、近年は低調に思え、実際3割欠務しているかどうかはわからない。平成16年の4か月続いた業務手当完全防衛闘争では、3割動員や4割動員は6回程度行われている。当時は相当の人数が参加していたと思われる。2割動員集会は当局が争議行為と認定していないので、年次有給休暇の時間給の取得を認めて全面的に容認されているが、闘争指令下では3割動員であれ2割動員であれ、集会それ自体が地公労法111項後段の「そそのかし」「あおり」そのものであるため違法と評価できる。

 最新の例は令和6126日の支所拠点決起集会で、西部支所では1530分から1時間、半地下業務用駐車場のターンテーブルの周り、演壇となる机に、大きな組合旗が2つ掲出、北部支所配水支部の旗かあった。ざっとみて50名が動員されており、下水道局からも来ているようで、半数以上は外来者とみられる。

 動員というのはほとんど組合員の責務と認識されている状況だが、当局が3割動員を争議行為と認定している以上、違法であるから指令を受忍する義務もないのである。

 また当局は適法としているが、悪質な職制麻痺闘争であり争議行為の疑いが濃い三六協定一方的破棄(超勤拒否)闘争も戦術の大きな柱になっている。これは国労や全逓が得意としていた三六協定未締結の戦術と類似するものである。時間外の下位職業務を助役におしつける国労と同じく、水道局でも組合の指図で、経常業務を管理職にやらせるいやがらせがある。国鉄では三六協定が未締結でも業務命令しており、労働基準法に違反する業務命令に基づく業務であっても、刑法上の保護を失うものではないことは最高裁の先例(仙台鉄道管理局事件・最二小判昭48525)で明らかだが、水道局の場合は組合の言いなりで、時間外の労務指揮権が消滅するという組合の解釈に従って労務指揮権を凍結していることが問題である。平成5年度は113月に営業所では7日間の三六協定破棄定時退庁の闘争があった。特に大きな闘争でもない限り年間10日以上に及ぶことはない。ただし、業務手当防衛闘争で平成1610月には9日間連続の超過勤務拒否を全局で行うなど、1時間ストよりも影響の大きい事実上の争議行為が行われた。ほかにも平成1612月配水部会等だけで6日間連続など行われている。

 また東京都水道局においては、国の省庁のように、闘争期間の庁舎構内の便宜供与拒否をやらないので、事務室内等の「昼休み集会」、オルグ演説、支所等構内で実行される。地公労法111項後段の違法行為である「そそのかし」「あおり」そのものである違法行為が全面的に許容されるのである。

 闘争指令下、執務室内でなされることの多い「昼休み集会」は闘争課題を確認し、組合員の意思統一を図り、ストライキ決行に向け志気を鼓舞する集会であるが、平成163月東岡職員部長通知により、勤務時間の頭上報告が自粛傾向となったため代わりに重視されており、年間2回程度あり大きな闘争で増加する。管理職は全面的に容認し許諾しているが、昼休みでも勤務時間中の職員はいるので職務専念妨害になるだけでなく、集会の演説それ自体が、地公労法111項後段「そそのかし」「あおり」に該る違反行為なので、取り締まるべきだが、平成163月東岡職員部長通知が勤務時間外なら良いという言質があるため、違法行為であっても容認されている状況にある。管理職は休憩時間の組合活動の規制はできないと言うが、労基法34条第3項を争点として最高裁は「休憩時間中といえども、その勤務する事業所又は事務所内における行動については、使用者の有する一般的な管理権に基づく適法な規制に服さなければならない」(米空軍立川基地事件.最三小判昭49.11.29)「企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない」(目黒電報電話局事件.最三小判昭52.12.13)とあれ当然、庁舎管理権により規制できることである。規制できるのに、規制していないのは東岡職員部長通知が容認と解釈されているからである。

 

◆昼休み集会の実例

 

  • 平成23年7月7日 昼休み事務室内職場集会 中野営業所の記録
  •  

 火曜日に分会長と書記長が所長とミーティングをしていたから、たぶん一斉職場会実施のすりあわせだろうが、まず85分登庁したところ敷地内で書記長ともうひとりがビラを配ると同時に昼休み職場集会参加をよびかけていた。12時半前に集会基調報告のビラが配られ、書記長が電気をつけた。12時半に事務室のほぼ中央に位置した分会書記長の司会ではじまり、分会長の挨拶10分ほど、さらに書記長による基調報告か決議文の朗読と拍手、最後に分会長の、こぶしをあげて頑張ろう三唱がなされた。1251分には終了。

 その間、所長は所長席に不在で、喫煙室に隠れ。集会が終わるとすぐ戻ってきた。集会は監視しないということがすりあわせされていたのだろう。

 内容は、3月の局内課題春闘では東日本大震災と計画停電対応のため、超過勤務拒否闘争とストを中止した経緯があり、十分な回答を得られてないとの理由で、予算編成前の今の時期に現業職員の人員要求と、8月に(株)PUCに委託業務となる板橋営業所の執行体制の問題、とりわけ三六協定の締結関係もはっきりしていないなどという問題をつきつけるなどと言っていた。さらに下水道の機構定数問題も課題として挙げ、728日に29分スト、26日以降3日間の超過勤務拒否闘争、職制への要請行動、勤務時間内職場離脱集会動員(21日3時半から都庁第二庁舎前の3割動員決起集会-当局も認定する違法行為)とステッカー(ビラ貼り)闘争を行うと闘争の日程を指示した。

 

  • 平成23年11月2日 昼休み事務室内組合集会 中野営業所の記録

 1031日(月)から全水道東水労のスト賛成投票を経ない状態で組合分会の指令による昼休み当番拒否闘争(部分スト)が4日までの予定で続いているが、さらに112日には昼休みの組合集会が事務室内で行われた。私は所長に中止命令を出すよう進言したが、できないとはっきり言った。ただ立ち位置を一メートルほど奥にずらした。

 正午前、支所から昼休み当番拒否闘争対応のため動員された代替業務の管理職が到着、その人は電話番となり、所長がレジ係に着いた。正午に分会書記長が1027足立営業所の(株)PUCへの業務移転とメータ下流側漏水調査業務の見直し強行提案を許さないという趣旨の抗議文というものを配りだしたことと、所定の監視位置に、分会二役が着かず、分会執行委員2人が着いたため、昼休み集会をやってこれを決議文朗読するんだなと直感したことから、所長に昼休み事務室内集会をやりそうな気配だが、聴いたところ、所長は知らないと返答あり、昼休み事務室内の組合集会について警告書を交付し、解散命令を出すよう文書で申し出ていたこともあり、中止命令を進言したところ、就業時間中でないから無理とはっきり拒絶したうえ、ただし休憩時間の妨げになるという趣旨はわかるとして、騒音を小さくするよう対応する云々と言ってお茶を濁した。

 12時30分になって、消灯(環境計画のための省エネ)していた事務室内の蛍光灯を分会長がつけた。書記長がこれからやることを所長に告げたところ、立ち位置を1メートルほど前回よりずらすよう指導しただけで、集会を認めたため、赤腕章をした分会書記長の司会で始まった。1232分に分会長の基調演説がはじまり、よく通る声だった。まず漏水調査業務の見直しにつき2年前に提案を撤回させたのにまたむしかえしてきたものと非難、244月からの足立営業所の業務移転の提案については、今年1月の妥結内容では板橋営業所の業務移転を組合は認めるが、業務が安定して運営できるか検証がなければ、足立営業所の提案は控えるというものだったが、この妥結を反故にされたということであった。水道局からの派遣職員と、監理団体PUCプロパーの職員の割合は、1年目が7対3、2年目が5対5。3年目が3対7ということだが、少ないとも5対5までの2年目までは、検証作業が必要という組合の言い分を述べた。42分より分会中央委員が、B4の紙いっぱいに書かれている、強硬提案を許さない抗議文を朗読した。それが終わったのが、1248分、自然と拍手が起きて、その後司会の分会書記長が再度拍手で確認をと言ったので、再び拍手が起き、かなりの騒音となった。その後、今回はシュプレヒコールがなく、ただ、組合書記長より、本日の2割動員への積極参加の呼びかけと、目標管理の自己申告、自己評定、異動希望調書のコピーを役員に提出を求める発言、118日のスト権批准投票の呼びかけ、当日休む人は不在者投票をなどと述べ、その他の発言もあったが集会は約20分で終了した。なお、この日は比較的来客は少なかった。しかし騒音は窓口業務に影響を与えたし、業務の正常な運営態勢とはいえない。昼休み時間も営業時間なのである。私自身休憩時間の静穏を妨げられ非常に不快であった。

 

 ステッカー闘争(ビラ貼り)はかつてさかんだったが、後藤都議がネットで西部支部の状況の写真を発表したころ自粛傾向に推移したが、近年は再び貼られる傾向になってきている。庁内管理規程違反であり、無許可ビラ貼りは正当な組合活動ではないということは昭和54年判例で確定していることなので取り締まるべきである。

 上記に述べたとおり毎年のように争議行為がなされ、恒常的、常態です。違法行為は抑止されず、管理職には抑止する意欲も全くない。実際、職制の労務指揮権、施設管理権の掣肘を目的とする所属長要請行動は低調となったにもかかわらず、管理職が組合に取り込まれており、平成16年以降ストライキは6回実行され、平成163月東岡職員部長通知は争議行為抑止には役立っていない。

 

 

二 要求項目 要旨

 

 要求項目は第Ⅱ部の32項目であるが、ここでは要旨を簡略化して示す。

 

(総論)プロレイバー学説に依拠した悪弊の一掃

 

  東京都水道局は、令和元年にコンプライアンス経営宣言しているにもかかわらず、最高裁判例が明示的に否認している組合側の論理(プロレイバー学説)に依拠した労務管理を長年行っていること自体、脱法的、法外的である。

 正当な組合活動と評価されない行為を広範に容認し、違法行為と犯罪を著しく助長している職員部監察指導課の前例踏襲の争議行為対応は刷新されなければならない。一般職員に事前警告をせず警告に値しない偽装の訓示であったり、争議行為時に就業命令をやらないとか知事部局も同じと考えられ、たんに水道局特有の問題ではなく東京都全体の左翼体質改善が求められる。

 

(一)国の各省庁やまともな自治体と同じ、争議行為対応実務を強く要求する

 

 国の省庁の争議行為対応実務では、事前警告とスト当日の集会の解散・職場復帰命令、就業命令が重視され、必須である。懲戒処分の手続きとしては、指導者、率先助勢者の現認、現認検書の上申という手順となるが、これも必須で、東京都では下表のとおり就業命令も現認、検書の上申もやらない。国の省庁の実務と全く違う。

 全農林賃金闘争等懲戒処分事件・東京地判平2419判時13493頁に本省からの指示が記されている、「農林省は、昭和46622日、全農林中央執行委員長に対して、ストライキの実施に対して厳正な措置をとる考えである旨の農林事務次官名義の警告書を交付するとともに、下部機関の管理者に対して秘書課長名義の通達を発し、勤務評定に関する全農林との話合いの方法のほか、勤務時間内職場大会の実施についての全農林の下部組織への事前警告、(スト当日集会に対する)解散警告及び職務復帰命令の発出、指導者、率先助勢者及び参加者の確認等、右各ストライキへの対応策を指示した。」(地方自治体によっては、事前警告のほか就業命令を交付するケースも少なくない)。

 

     国の省庁

      都水道局

 

 

 

事前警告(役員)

 

 執行委員長、下部組織役員に警告(例えば「違法な争議行為を行った場合には、厳正な措置をとらざるを得ない」)平成31113日全医労の29分勤務時間に食い込む集会・国立西多賀病院の実例)

 本部執行委員長には中止の申し入れを行っており、これは警告に相当する。

 監察指導課より各事業場の下部組織役員は中止の申し入れをする指示があるが、実際に見たこともないし、文言も決められておらず、現場の裁量となっており、実際なされているかは不明。                   

 

 

 

事前警告(職員一般)

 全職員に警告する(例えば「このような違法行為には、絶対に参加しないようにして下さい。もしこれに参加した場合には、関係法令に照らし、必要な措置をとらざるをえない」上記と同じ西多賀病院の例)

 局長名の服務規律確保の示達にもとづく、文言が定められてない訓示を行うよう職員部監察指導課長より庶務担当課長あてに指示されるが、インチキな慣行で、違法行為という文言が絶対入らないため地公法291号、32条の適条はないことを示唆するので、「警告」とはいえない。

 

ストライキ当日スト集会に対し

 解散・職場復帰命令、就業命令を徹底的にやる(口頭・携帯マイク・プラカード・懸垂幕等)。

 (平成31113日全医労の1923分勤務時間に食い込む集会。国立西多賀病院[仙台市]の事務部長Sは大会参加者に対し、勤務時間前の同日午前818分及び19分に、構内の無許可使用を理由に解散命令を発し、勤務時間に入った午前830分、31分及び36分の3回にわたり、本件職場大会は時間内の職場大会で違法であるとの理由による解散命令及び就業命令を発した)

 林野庁や郵政は集会が庁舎構内でなく、施設や支援者近くの路上、空地等スト集会がなされることがあるが、職制はその場合でも職場復帰・就業命令を行っている。

 解散命令・就業命令はいっさいやらない。違法行為は放置、拱手傍観するだけ。

 

 

現認体制

ストの実践指導者、率先助成者を現認し、現認検書を上申する。

 1時間ストの報告事項はスト参加人数と集会の場所のみで、集会の演説者名の報告は求められてない。但し頭上報告形式の29分職場集会は、演説者も報告するので、支部長訓告のケースもあった。賃金カットの対象者を確定することが主目的。

 

 東京都は組合と職員と異なる対応になっていて、職員一般には警告に値しない訓示がマイク放送等でなされる。違法行為と絶対に言わない「お約束」なので、服務規律違反にしないことが裏メッセージになっている。

実例 グループウェア

服務の示達

〇〇〇〇/水道局(世田谷営業所)20161215

 

 世田谷営業所職員各位

 全水道東京水道労働組合は、「2016秋季年末闘争勝利」等と称し、1219日(月)午後315分から都庁ふれあいモールで3割動員決起集会を、1221日(水)午前830分から1時間ストライキをそれぞれ計画している模様です。

 また東京水道労働組合も1221日(水)午前830分から1時間ストライキをそれぞれ計画している模様です。

 集会等の行動に参加するために、多数の職員が職場を離れ、かつ、権限ある上司の承認なく勤務しない等の行為に及ぶことは、当局業務の正常な運営に支障を生じさせるばかりでなく都民の信頼に背く結果となることは明らかです。

 各職員おいては、全体の奉仕者として公共の利益のために全力を挙げて職務を遂行してください。

 

 上記のように違法行為なので厳正な措置をとらざるを得ないとか、必要な措置をとらざるをえないといった、文言を欠いているので「警告」に値しないし、就労命令でもない。

 それは、[違法行為とは言わない=地公法291号の適条はありえない]との裏メッセージがあり、ストをやってもあなたがたは懲戒処分にしないから安心してくださいというメッセージであるから、片八百長のような奇妙な慣行なのである。それは、本部中闘だけ停職処分にして、それ以外のスト実践指導者の違法行為は断固保護されなければないことになっているからである。

 東京都が争議時に就業命令をやらないのは、闘争期間に管理者が業務命令することは労働基本権の趣旨に反し不当、団結破壊、組合敵視である。あるいはストライキに突入した場合もはや上司の指揮・支配から離脱しているので業務命令できないという学説に従っているのと、組合により非組合員等に業務命令して操業継続をさせずスト完全防衛のためでもある。

 しかし、神戸税関事件・最三小判52220民集3171101が、争議時であれ上司の命令に従う義務があると判示しているので、公務員の職場では明示的に最高裁が就業命令できないという学説を否定したのであって、40年近く経過しているにもかかわらず、東京都が最高裁判例を無視していることは著しくコンプライアンスに反すると言わなければならない。

 なお、国の三公社五現業の懲戒処分の方針は、昭和48年頃に処分を段落としして緩めた経緯はあるにせよ、昭和32年から方針は一貫していたと考える。すなわち第一次岸内閣は昭和32927日の公共企業体等の職員の労働組合の争議行為についての閣議了解において、公労法171項違反者は服務規律違反として免職その他の懲戒処分を免れないことを明確に示した。

 この閣議了解では、組合が「合法的な実力行使」と称している勤務時間内職場集会、休暇闘争、遅刻選出、早退戦術、定時出勤、超過勤務拒否、遵法闘争、担務変更拒否、滞留業務処理拒否等も、名目如何を問わず171項違反の争議行為であるとし、刑事上、民事上の免責を受けず、不当労働行為の救済を受けることはできず、公労法18条により解雇されることになるとしたうえで、「職員は、各公社法または国家公務員法の規定に基き、法令及び業務上の諸規定に従うべきことはもちろん、上司の職務上の命令に従って誠実に職務を遂行する義務を負うもものであるから以上揚げたところに該当する行為は、一般に服務規律違反の行為ともなるもので、それが組合の指令において行われた場合であっても、同様である。従って、右の如き服務規律違反の行為をした職員は、各公社法、又は国家公務員法に定めるところにより、免職その他の懲戒処分を免れないことはいうまでもない。」とする[峯村光郎1971 144頁以下]。

 東京都は国の方針とは全く違う。地公労法の111項違反行為につき同法は12条で解雇をなしうると規定するのみだが、昭和3478日労働省労政局労働法規課長発・東京都交通局労働部長宛回答における労働省の見解は「一二条の規定による解雇をなしうることはもちろん、地公法第二十九条の規定により懲戒免職その他の懲戒処分をなしうるが、そのいずれかによるかは、当該職員について任命権を有するものが決定しうるものである。‥‥」とする。地公法29条は「職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。一号 この法律若しくは‥‥又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合(以下略)」とあり、違法行為は地公法32条(法令遵守義務・上司の職務上の命令に忠実に従う義務等)の服務規律違反として懲戒処分が可能という理屈になっている。神戸税関懲戒免職事件最三小判昭52.12.20民集31-7-1101により争議行為禁止規定違 反と、服務規律違反規程とが競合的重畳的に成立することが明示されたので、争議行為は服務規律違反の懲戒処分になじまないとするプロレイバー学説は否定されているのであるが、東京都は本部中闘以外、懲戒責任を問わない方針で、国と比較すると非常に組合に有利なものとなっているのは、事実上、都と組合との間に不透明な癒着があるとみてよいだろう。

 

 

(二) 平成16年3月の東岡職員部長通知を廃止し、就業規則を整備する

 

 

 平成16317日公営企業委員会、後藤雄一都議の勤務時間内頭上報告の質問に対する東岡職員部長の答弁(「原則として勤務時間外に行うように求めるということと、勤務時間中に行う場合については、やめるように警告をすると。やめない場合については、その事実を確認して賃金カットをするというふうに通知をしました。」経緯詳細は第Ⅱ部一68頁参照)で示された方針は、都議の質問に対する場当たり的対応にすぎず、職務専念義務違反以外の理由で警告することはない。頭上報告の演説行為は、闘争課題の説明、指令や闘争日程の伝達、地公労法111項後段が禁止する「あおり」「唆し」の違法行為であるケースが多く、その違法性は勤務時間外であれ同じことである。

 また職務専念義務違反にならない本部中執や本部委員(本部中闘の下につく活動家)のオルグには警告できない(中野営業所では平成2625日本部委員の〇〇〇〇(当時練馬営業所勤務)が勤務時間中925分より32分まで、事務室内で業務移転拒否闘争のオルグ演説がなされたが、その時、〇〇所長が「平成163月東岡職員部長通知」による賃金カットの警告をやったが、〇〇は「なんだおまえは有給休暇を取っているんだ」と所長を罵倒、所長が引き下がって黙り込んだ)。また「平成163月東岡職員部長通知」は演説の内容や事務室内で行われる執務中の職員への影響などは考慮されず重大な欠陥があるので廃止し、無許可演説・集会、無許可組合活動、他の職員の職務専念妨害抑制義務等の就業規則を整備したうえ、勤務時間内外いかんにかかわらず演説行為は禁止事項とするべきである。

 事務室は水道業務の執務の目的で使用されるものであり、それ以外の用途、目的での使用は禁止する権限が当局にはある。囚われの聴衆での演説行為はそれが就業時限前のスタンバイの状態であれ、勤務時間中であれ、休憩時間であれ、アジ演説を聴かされなければならないというのは能率的で規律のある適正良好な職場環境ではないからである。

 国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭54.10.30民集336676「利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない」

 呉市立中学校教研集会目的外使用拒否事件・最二小判平18.2.7民集602443「職員団体にとって使用の必要性が大きいからといって、管理者において職員団体の活動のためにする学校施設の使用を受忍し、許容しなければならない義務を負うものではない」という判断枠組みがあり、目的外利用であり、違法性や他の職員の職務専念妨害その他の相当な理由のある執務室での組合の情宣やオルグのための演説行為を禁止しても不当労働行為とされることは先例に依拠してありえない。

 私の提案は闘争期間でなければ会議室等は、業務に支障のない最小限の範囲で組合の集会を認めるものだし、組合の情宣活動として印刷物、機関紙、ニュース等のビラ配布については、平時は無許可制とする提案であり、普通の企業よりゆるいものとしている。組合掲示板も従来どおり認める。情宣活動の弾圧ということにはならない。

 最高裁の案出した法益権衡を否定した企業秩序維持権の行使(秩序をみだすおそれ、違法行為、正当でない組合活動等に中止命令を確実に行う)よる労務管理に移行させること。現状は国労札幌地本事件最三小判54.10.30や呉市立二河中学校事件・最三小判平18.2.7で明示的に否定された受忍義務説により、正当でない組合活動に対し、秩序維持権、施設管理権を行使せず、行政財産の目的外使用を許可なく広範に許容しているので抜本的な改革が必要。

 JRでは就業規則のほか労働協約でも無許可組合活動、業務以外の構内立入を禁止しており、そのような労務管理に改めることを強く提案する。

 

1 職務専念妨害避止義務の就業規則は絶対必要なので加える

 

 国家公務員に適用される人事院規則17272に「職員は、職員団体のためその業務を行ない、又は活動することによって、他の職員の職務の遂行を妨げ、又は国の事務の正常な運営を阻害してはならない。」

 公社時代の郵政事業庁就業規則136に「職員は、職場において、他の職員の執務を妨げ、その他秩序を乱す言動をしてはならない。」との規則があるが、東京都水道局にはない。

 東京都は組合に法外な業務阻害権を認めたい左翼体質のため、頭上報告の職務専念妨害やストライキ時のシットダウンストライキは、職場占拠・マス・ピケによる物理的就労妨害の犯罪構成要件該当行為も容認したいがためにこのような規則を設けることには、組合を刺激するので絶対反対するだろうが、職務専念妨害避止義務は必要である。

 この規則がないから常に組合の意向に沿わない職員は組合から攻撃され、業務妨害される懸念をもって仕事をせざるをえない状況にあるからである。この敵対的職場環境の受忍を強いられる状況は打開されるべきだ。

 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974は職務専念義務を厳格に解釈した判例として著名だが、裏返した論理で、職務専念妨害避止義務を従業員に義務付けることができるし、そうすべきだということを明らかにした判例でもある。使用者が職務専念と誠実労働義務を求める以上、共同作業秩序を維持するためにも当然、まともな企業なら職務専念妨害避止義務を職員に課すことは当然のことである。

 

2 勤務時間内外如何を問わず無許可組合活動、無許可演説・集会の禁止は絶対必要

 

 野放図に正当でない組合活動を許容する労務管理からの転換が必要。しっかりした企業なら、昭和50年代に最高裁が案出した企業秩序維持権の判例法理にもとづいて禁止していること。

 ところが、東京都はそうでないのは昭和54年に最高裁が明示的に否定したプロレイバー学説受忍義務説を信奉しているからである。

 以下のようにまともな官庁や企業で制定している就業規則が東京都水道局にはないので絶対必要である。

 また業務外の演説行為と集会はと東京都水道局庁内管理規程五条の禁止事項にも明文規定がないので加える。

 就業規則と庁内管理規程の両方で明文規定が望ましいが、就業規則は不許可、中止・解散・退去命令の根拠として規絶対必要。

 

モデル1 JRグループ就業規則

 

20条 

3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。

221項 社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配付その他これに類する行為をしてはならない

23条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない

 

モデル2 JR東海の基本協約

 

第9章 組合活動

第1節 総則

(組合活動)

第216条 会社は、組合員の正当な組合活動の自由を認め、これにより不利益な扱いをしない。

第4節 組合による企業施設の利用

(組合事務所)

(略)

(一時的利用)

226条 組合は、会社の施設、什器等を一時的に利用する場合は、会社に申し出、その許可を得なければならない。

2 前項の申し出は、使用の目的、責任者名、時間、人数等を明示して書面で行うものとする。

3 会社は、組合が前項の規定に違反した場合、もしくは申し出と異なる使用方をした場合には、使用の許可を取り消すことができる

(掲示)

227条 組合は、会社の許可を得た場合には、指定された掲示場所において、組合活動に必要な宣伝、報道、告知を行うことができる。

2 会社は、業務上の必要が生じた場合には、前項で指定した掲示場所の変更または取消しをすることができる。

3 組合は、会社の指定した組合掲示場所以外の場所に、掲示類を掲出してはならない。

(掲示内容)

228条 掲示類は、組合活動の運営に必要なものとする。また、掲示類は、会社の信用を傷つけ、政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し、または職場規律を乱すものであってはならない。

2 掲示類には、掲出責任者を明示しなければならない。 

(違反の措置)

229条 会社は、組合が前2条の規定に違反した場合は、掲示類を撤去し、掲示場所の使用の許可を取り消すことができる。」

(以上出典・東海旅客鉄道(組合ビラ配布等)事件・東京地判平成22325労判1011より)

261条 争議行為中、当該争議行為に関係する組合員は、会社の施設、構内、車両への立入及び物品の使用をすることができない。

(出典・JR東海(懲戒解雇)事件・大阪地判平12329労判779

 

モデル3 郵政省就業規則

 

郵政省就業規則一三条七項は、「職員は、庁舎その他国の施設において、演説若しくは集会を行ない、又はビラ等のちょう付、配布その他これに類する行為をしてはならない。ただし、これらを管理する者の事前の許可を受けた場合は、この限りでない。」

郵政省庁舎管理規程七条は、「庁舎管理者は、庁舎等において、演説、ビラ等の配布、その他これに類する行為をさせてはならない。ただし、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、これを許可することができる。」

(出典・東京城東郵便局事件・東京地判昭5996労判442

 

モデル4 電電公社就業規則

 

 就業規則第五条第六項は、「職員は、局所内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしようとするときは、事前に別に定めるその局所の管理責任者の許可を受けなければならない。」

 七項は、「職員は、局所内において、選挙運動その他の政治活動をしてはならない。」

(出典・目黒電報電話局事件・東京地判昭45413民集3711019

 

デル5 国立大学法人東北大学規則

 4 職員は、許可なく、本学の施設内で、業務外の集会、演説、放送又はこれらに類する行為を行ってはならない。

上記のような規則は東京都水道局に必要である

 

私の提案する就業規則・労働協約追加案は→第Ⅱ部三86頁

 

 

(三)闘争指令下の昼休み集会等の中止・解散命令の徹底

 

 事務室内で行われるケースがほとんどの「昼休み集会」では基調報告ないし交渉経過報告、決議文朗読、採択、組合員代表決意表明、頑張ろう三唱等鯨波がなされ、一部略式の場合もあるが、端的に闘争課題を説明し、組合員の意思統一を図り、志気を鼓舞し同盟罷業の遂行をあおるもので、地公労法111項後段で禁止する「そそのかし」「あおり」そのものであるのに、管理職は全面的に容認している。

 闘争指令下の昼休み集会、本庁・支所・合理化拠点構内の決起集会、指令伝達等オルグ演説、違法行為を慫慂するビラ貼り、ビラ配りも含め、不許可・中止・解散・退去命令を義務付けること。監視・写真撮影・録音も行う。管理意思を明示して当該事業所以外の組合員のオルグ、ピケ、動員集会の立入に対し退去命令し、建造物侵入罪等を成立させるようにすべきである。

 

 

(四)闘争体制での組合活動の便宜供与禁止

 

 

 東水労がストライキを配置し闘争態勢に入った時点で、組合活動の便宜供与の禁止を義務付けること。以下の国の省庁の実務に準拠した方針に変更する。旧郵政省では地方郵政局の指示により徹底されていた

 東京城東郵便局事件・東京地判昭59.9.6によれば全逓本部によるスト決行体制確立、業務規制闘争突入指令発令後の、局内での組合集会開催のための施設の利用を許諾することは、違法行為を助長する結果となるおそれが大きいと当局側が判断したことについては、相当な理由があるとして、会議室使用不許可に権利濫用と認めるべき特段の事情はないと判示し、不当労働行為とされることはない。

 無許可集会等の強行は中止・解散命令と、現認検書の上申を義務づける。

 

(五)スト対策本部の立ち上げ、非組合員を総動員する

 

 ストを配置した闘争時にはストライキ対策本部を立ち上げ、管理職でない非組合員を全員召集して警戒および情報蒐集、組合員らの行動の監視、確認、組合員らによる違法行為の阻止、排除等の任務を与えること。抗議で荒れる職場対策として特別査察チームを編成し、違法行為・犯罪行為抑止のためオール都庁で協力態勢を構築する。

 

(六)管理職に組合役員より争議行為目的の支持要請、職務命令等をしない要請の拒否義務づけ

 

 所属長要請行動は、交渉ではなく、多勢の威圧のもと管理職に争議目的を承認させ組合側に取り込む趣旨なので、拒否を義務づける。このほか組合役員より職務命令をさせない等の、労務指揮権に干渉する要請に従わないことを義務づける。

 

(七)三六協定破棄は違法承知でも業務命令する方針に変更

 

 三六協定一方的破棄闘争(平成5年度は9日間、長くて3日連続だが、平成16年は9日連続で破棄)では、管理者の業務命令権は消失することはなく、法定時間内はもちろん、それを超えて労基法上違法であっても、職務の執行が具体的権限を欠いて違法となるものではないとの最高裁判例にもとづき、必要な業務命令は行うこと。

 また労基法33条により災害発生時は三六協定未締結でも業務命令できることなど周知・徹底することとし、緊急災害対応の初動で遅れることがないようライフラインを預かる企業として責任を果たすべき。

 

(八)組合が管理職に下位職代務を押し付けるいやがらせの拒否義務付け

 

 三六協定破棄闘争で、組合が時間外の経常業務を「管理職対応」として押し付けるいやがらせを拒否し、業務命令すること。

 

(九)従来なかったストライキの事前「警告」と就業命令書交付の義務付け

 

 争議行為に対する職員部監察指導課が各庶務担当課長宛ての「服務の示達」にもとづく一般職員への訓示は、同盟罷業が違法行為であり、これに参加した場合は関係法令に照らし必要な措置をとる等の言及がなく、就業命令でもないことから、「警告」に値しない。地公法291号、32条の適条による懲戒はやらないことが「お約束」であることを示唆し、むしろ違法行為を助長する趣旨となっている。見え透いた片八百長のようなインチキな慣行を改め、違法行為には必要な措置をとる等の「警告」と就業命令書の交付に切り替える。就労を申し出る職員を出来るだけ多くするよう努めることとする。

私の警告及び就業命令書の提案→第Ⅱ部四9-7 141頁

 

(十)ストライキ当日の労務管理の全面的見直し

 

1 組合に操業権を否定する権限などなく、業務は管理職対応とする組合の要請はきっぱり拒否すること

 

 労組側は、ストライキ時の職員を使った業務遂行をしてはならないとして当局の操業権を否定し、当局が非組合員やスト反対組合員に業務命令をして操業を維持させない方針であり、当局も組合に従い、保安要員以外の必要業務を管理職対応としているが、この要求は不当なもので呑む理由はなく、全職員に業務命令し、非組合員はもとより組合員も切り崩して、同盟罷業参加者を一人でも減らすよう管理職に義務づける。

 

2 管理職による非組合員締め出し、就労阻止の命令の禁止

 

 管理職が組合の要請に従い、ストライキ防衛に協力するため非組合員は組合の説得を受忍することを事実上の義務としてビケットラインを通過してはならず、出勤時限前にICカードリーダにより電磁的に出勤入力することを禁止する場合がある。

 就業の権利と義務のある職員を事業場から締めだす慣例が職員部監察指導課承認のもと行われている。就業規則に定められ服務上の基本的な義務を現場の管理職が勝手に変更することは権限を逸脱し、職員の就労する権利と義務を否定するものであるからこの慣例は廃止する。

 管理職が職員にピケットライン通過の禁止を命じた場合は、権限を逸脱し、組合と共謀して違法行為に加担したものとして懲戒処分の対象とする。

 

3 三六協定未締結でも労務指揮権を放棄してはならない

 

 スト前日から当日は組合が三六協定破棄するのが通例だが、職務命令に労基法強行規定の違反があつたとしても就労を拘束的に義務付ける部分の効力に影響を及ぼし得るにとどまり、職務執行の権限を付与する性質の部分についての効力にまで消長をきたすべき理由はない(仙台鉄道管理局事件・最二小判昭48525)。業務命令が労基法上違法であるからといって、それに基づく業務が刑法234条の業務に該当しないというものではない。刑法上保護される業務としては業務主体がその地位において行なう業務であれば足りるので(倉敷駅信号所事件・岡山地判昭50117)、組合のいいなりとなり業務命令権や施設管理権を放棄しないことを義務付ける。

 スト前日から当日は組合が三六協定破棄するのが通例だが、組合の主張のように時間外において労務指揮権が消滅するものではないので、労務指揮権や施設管理権を放棄しないことを義務付ける。

 

 

4スト集会に参加する組合員及び組合の説得により職務離脱する非組合員に対就業命令を徹底的にやり、スト指導者、率先助成者等の現認検書上申を義務付ける

 

 従来全く行ってない、ストライキ当日の集会参加者に、中止・解散・職場復帰命令、就業命令を徹底して行うことを義務づけ、監視・写真撮影・録音もする。司会者、演説者等その内容を記録し、現認検書の上申を義務付ける。

 組合集会に参加しないが組合と管理職の指図により職場を離脱している非組合員に対しても就業命令する。

 職員部監察指導課の文書では、スト決行の際、集会の解散・就業命令を発したり、ストで指導的役割を果たした、もしくは率先助勢者の現認検書の提出を義務付けていない。各事業所のスト集会等違法行為の実行行為者は組合の意向を汲んで、懲戒処分を避ける体制となっている。過去3回のストでは、支部長の訓告処分をやってるが、これは懲戒処分ではない。スト指導実行行為者を懲戒処分の対象から外すのは適切でないので、その前提となる、就業命令等を必須とする。地公労法111項前段(集会の演説者等は後段の「唆し」「あおり」も懲戒事由になる)、地方公務員法2911号、2号、3号、32条、33条、35適条による懲戒処分の対象となる。

 

 

5 ピケッティング等の取り締まり

 

 庁舎構内のピケッティングは、違法行為の慫慂それ自体が地公労法111項後段違反であり、包囲、通行妨害は庁舎管理規程違反として、中止、退去命令し、監視、写真撮影し、現認検書の上申を義務づける。

 小人数の場合は、地公労法111項後段所定の禁止事項の違反として戒告以上の処分対象とし、もし物理的に就労を阻止する大量動員ピケもしくは類似行為の職場占拠があった場合、管理意思を明示して威力業務妨害罪を成立させる。刑事処分の検討があってよい。少なくとも実行行為者の懲戒処分の量定は重くする。

 

 

6 業務妨害に対して、管理意思を明示して威力業務妨害罪を成立させる

 

 多衆で執務室を占拠し業務遂行を不可能にするシットダウンストライキや業務用機器隠匿による積極的業務妨害を行う組合分会がある。庁舎管理者は管理意思を明示し、業務遂行を物理的に不可能とする職場占拠は、退去・解散命令する。業務用機器の隠匿等による業務妨害に、強行した場合の威力業務妨害罪を成立させる。

 

 

7 ピケットラインを通過しない非組合員を事故欠勤とすることは不正給与支出なので禁止、申請者と承認する管理職は詐欺行為として処分する

 

 非組合員にも就業命令を徹底する。組合の説得に応じてピケラインを通過せず就労しない非組合員を「事故欠勤」とする措置は組合との共謀しスト防衛のためであり、職員部も組織的に容認しているものである。ピケラインを通過しない、職務放棄している場合は実質スト参加者なので、賃金カットとする。

 水道局処務規程55条「事故欠勤」とは「職員は、交通機関の事故等の不可抗力の原因により勤務できない」場合に適用されるもので、勤務実態なく給与を支給するのは不正会計支出であり、詐欺行為であるだけでなく、その目的が非組合員に業務命令しストに対抗した操業をさせない。スト完全防衛である。違法性が強く推定されるので、勤務実態がないのに申請した非組合員と事故欠勤を承認した管理職を懲戒処分とする。

 通説は、第一組合がストを決行し、ストに参加しない第二組合員や非組合員が第一組合員のピケに阻まれて、就労が事実上不能となった場合においては、使用者は民法五三六条一項によりその支払義務を免れる。

 支払い義務がないのに勤務実態のない非組合員に給与を支払っているのは、組合費で賃金カット分を補償できないためであり、実質ストライキ防衛のため違法行為に加担するための支出と言う意味でも不正会計といえる。

 

(十一)ストライキ待機は退去命令し建造物侵入罪を成立させる

 

 ストライキ前日から当日の未明、「ストライキ待機」と称し、組合役員がストライキの準備のため、庁舎の警報装置などのセキュリティを破って深夜未明に執務室を出入りしたり寝泊りする慣行を庁舎管理者は承認しているが、組合員へのスト突入指令の伝達、スト集会の準備等違法行為目的での庁舎利用であり、セキュリティ破りをやめさせ、管理意思を明示、パトロールにより退去命令し、建造物侵入罪を成立させること。

 

(十二)懲戒処分の対象を拡大し、安心して違法行為ができる職場を改革すべき

 

 全水道東水労の過去3回の同盟罷業の懲戒処分等は以下のとおりである。

 

平成221210日 1時間スト

 

同盟罷業私の記録では2323日付発令処分は全水道東水労本部中央闘争委員会5名(下水道局職員含)の最大16日間の停職処分[1時間ストライキと17日の勤務時間執務室内職場集会を理由とする]と各支部長に対する訓告これは前例がなく初めてだが、懲戒処分でなく人事記録に載るだけなので痛くない。スト集会参加の組合員は賃金カット(組合が補償する)

平成26124日 1時間スト 

同盟罷業 争議行為が続行(中野営業所業務移転拒否闘争)しているにもかかわらず処分は2625日発令と異様に早く猪瀬氏辞任に伴う都知事選告示の翌日、私の記録では全水道東水労は、本部中闘停職182人、停職161人、停職71人、ほかに下水道局2人、支部長28人に対する訓告処分。スト集会参加の組合員は賃金カット

令和元年1220日 1時間スト

 

同盟罷業 令和226日発令の全水道東水労の処分は、本部中闘停職131人、停職101人、停職71人、支部長26名の訓告処分。スト参加組合員は賃金カット

 

 東京都の懲戒処分は、組合の機関責任(企画、決定及び指令の発出)のみを問う形式で、水道局の全水道東水労の場合、本部中央闘争委員のみにしぼっており、実際に各事業場のスト集会実行行為者、ストを実践指導している本部委員・統制委員・支部・分会役員等が懲戒処分に付されることはない。各事業所の組合員は組合活動で不利益賦課させないという組合の方針に従った対応になっているので、安心して違法行為の慫慂「あおり」「そそのかし」という違法行為ができる職場となっている。

 これは、争議行為は違法であっても団体たる労働組合の行為としての、本来個別労働関係の主体としての地位をはなれた行為であるから、指令に従って組織の義務としてストを指導している個々の組合役員は責任を問われないとするプロレイバー学説を当局が呑んでいるためだが、この組合側の主張は、全逓東北地本懲戒免職事件・最三小判昭53.7.18民集3251030において明示的に否定しているので、東京都の懲戒処分方針は左翼体質で異常である。

 各事業所でストに指導的役割を果たした場合は、本部委員、統制委員、支部・分会役員のほか、無役の組合員、管理職においても率先助勢した場合は、戒告以上の処分の対象とする方針に改める。

 私案は事業所スト集会毎の指導者につき最低一人は戒告にする。悪質な場合は複数以上の処分で量定も加重する。

 また、年間34回恒常的に行われている3割動員勤務時間内職場集会であるが、当局も争議行為と認めているので賃金カットだけはする(組合が闘争資金から補償するのが通例)。争議行為と認定しているのは、佐教組懲戒処分事件・最一小判昭63.1.21334割休暇闘争を争議行為としているためだろうが、動員1回につき3時間程度の欠務であるから、年間9時間ぐらい動員に行っている組合員はざらにいる。ベテランの組合員ではスト参加も含め累計100時間以上欠務している人も沢山いるはずである。例えば3年間で15時間の欠務といった基準で戒告等処分対象とすべきである。

 

(十三)昼休み当番(窓口電話業務)拒否は争議行為なので業務命令する

 

 昼休み当番とは営業所で窓口のレジと電話の受け手23名が、所長の命令で午後0時から1時まで勤務する当番で、労働協約で、休憩時間を午後1時以降にずらして勤務させることができるとしているので正当な業務命令であるが、平成1872628日昼休み当番拒否闘争があり、平成231031中野分会分会長の頭上報告で足立営業所監理団体移転の提案に抗議すると称し、昼休み当番を引上げ、管理職対応とすると演説し4日間行われたが、当局の対応は、組合のいいなりであり、本庁も含め、営業所以外の管理職の動員表が作成され。唯々諾々とされて代務を行うことになっている。組合が下位職務を管理職に指図する部分的業務管理、営業部会だけの指名ストともいえるので、地公労法111項違反の違法行為であるから業務命令する方針に切り換え、従わない場合は懲戒処分とする。形式上、組合役員が代務し仕事を拒否するもので、賃金カットも行われていないし、職員部は争議行為とも認定していない。めったにやらないが、今後もありえないわけではない。

 

(十四)勤務時間内洗身入浴は賃金カットの対象とする

 

 シャワー、洗身入浴に関する内規、運用の見直し、洗身入浴が労働時間に含まれないことは最高裁判例で確定しており、賃金カットの対象としていないのは不適切なので是正する。

 

(十五)保険の勧誘員は中央労働金庫以外の立入を禁止すべき

 

 十年以上前から苦情を言っていることだが、水道局の西部支所管内の事業所によって、水道局庁内管理規程五条八号で禁止事項となっている保険の勧誘をエントランス、廊下でなどを惰性で禁止なのに許可しているため、多数の保険会社(少なくとも第一生命、住友生命、明治安田生命、日本生命)の勧誘員でうるさい状況がある。地方自治法238条の47項の行政財産の目的外使用不許可とし、庁舎内に保険の営業目的での立入禁止、従わない場合退去命令する。ただし中央労働金庫の営業宣伝活動のみ組合活動の一貫として目的外使用を特別に認め組合に配慮する。組合を信頼し、入室名簿に記入すれば立入禁止エリア室内も可として便宜供与する。違法行為でない組合活動は平時には認める方針である。

 

 

 

三 主要な要求項目

 

 ここでは主要なテーマにつき理論的に詳しく説明する

 

 

(一)当局が違法行為を助長、協力、援助、便宜供与している在り方の是正

 

 地方公営企業の職員と組合は、地公労法111項により争議行為が禁止されている。北九州市交通局事件・最一小判昭63.12.8民集42107は、同条項を合憲としたうえ、三六協定未締結の超過勤務拒否、ディーラーの立入妨害、5割休暇闘争を争議行為として地方公務員法第2911号、3号適条の懲戒処分を適法とし(但し控訴審が32条も適条とすべきとする)、附則により地公労法111項が准用される単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員につき、北九州市清掃事業局事件・最二小判昭63.12.9民集4210880も争議行為につき地方公務員法第29111号、2号、3号、同法第32条、第33条、第35条及び地公労法111項の適条による懲戒処分を合憲にして適法と判示、北九州市病院局事件・最三小判平元.4.25判時1336も類似の判例であり、最高裁の3つの小法廷が、地公労法111項を合憲として懲戒処分を是認しているから、地方公営企業等の争議行為が組合の正当業務ではないことは確定していることである。

 東京都水道局における全水道東水労の時限ストライキ(同盟罷業)は平成16年以降令和5年まで16年間で6回の頻度だが、それ以外の争議行為は毎年のようにある。全水道東水労は毎年スケジュール闘争で当局も争議行為と認定している3割動員職場離脱集会等の違法行為を恒常的に実施し(年34回)、昼休み集会等(年2回程度)、地公労法111項後段違反行為は、ストが決行されなくても恒例のようになされている。それは、当局が争議行為を正当業務として扱っているためだといわなければならない。最高裁判例は無視されている。

 各事業場の管理職は、職務命令を発せず、違法行為を抑止することを全くしていないから違法行為を助長しているということである。

 今後は庁舎管理として便宜供与拒否(地方自治法238条の47項の行政財産の目的外使用として拒否してもよい)、強行する場合の中止・解散・退去命令、職場復帰命令、就業命令を徹底するとともに、組合が労務指揮権、施設管理権に介入することの拒否を強く要求する。

 

 

1 地公労法11条1項後段所定の「唆し」「あおり」を全面的に容認、中止・解散・就業命令をしない在り方を是正すべし

 

🔷闘争指令下において事務室内の闘争課題を説明し意思統一を図るオルグ演説、指令伝達、「昼休み集会」や、本庁・支所・合理化拠点決起集会等は「唆し」「あおり」そのものであるから不許可・中止・解散・退去命令する方針に改める。

🔷組合がストライキを配置した時点で闘争期間中の組合活動の便宜供与を停止すべき。

🔷争議行為中、職場復帰命令、就業命令を一切やらない方針の是正。

🔷ストライキ決行当日のスト参加慫慂、ピケティング、当日の集会演説者、頑張ろう三唱の音頭取り等は、違法な「唆し」「あおり」であるから、不許可、中止・解散・就業命令等を徹底し、現認検書の上申を義務付ける

  「そそのかし」「あおり」は、国家公務員法110116号、地方公務員法614号で罰則規定がある。公共企業体等労働関係法(略して公労法・現行政執行法人の労働関係に関する法律)と地方公営企業等の労働関係に関する法律(略して地公労法)には罰則規定はなく、水道局の場合、地方公務員法614号は適用除外なので、たんに「そそのかし」「あおり」だけでは刑事処分にはならない。しかし「そそのかし」「あおり」が違法行為である以上、法令遵守義務等の服務規律違反として、懲戒処分の理由となる(例えば北九州市交通局(昭和441113日事件)・福岡高判昭53427判タ366、北九州市減給日額二分一懲戒処分事件・福岡地判昭56629労判368、現業職員給料表分離反対闘争等懲戒免職処分事件(北九州市)・福岡地判昭591226判例地方自治13)。

 ところが東京都の労務管理では、事実上、争議行為を合法的正当業務として扱っており、都教組勤評事件・最大判昭4442の「あおる」行為とは主として被扇動者の感情に訴える方法で、その興奮・高揚を惹起させることを意味し争議行為に通常随伴して行われる方法より違法性の強い方法による扇動が対象であり争議行為に通常随伴して行われる方法より違法性の強い方法による扇動が対象であるとする「争議行為通常随伴行為不可罰論」(四補遺(五)で補足説明)に依拠して「そそのかし」「あおり」は職務命令等により取り締まることがない。

 しかし全農林警職法事件・最大判昭48425、国家公務員法のあおり等処罰規定は、字義どおり、すべての公務員の一切の争議行為を一律全面的に禁止するものであり、その違反行為について、争議行為に通常随伴する組合役員の指令発出等を含めてすべてのあおり行為を処罰できるものとしている。さらに岩教組学力調査事件・最大判昭51521は「地公法614号の規定の解釈につき、争議行為に違法性の強いものと弱いものとを区別して、前者のみが‥‥同号にいう争議行為にあたるものとし、更にまた、右争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、又はあおる等の行為についても、いわゆる争議行為に通常随伴する行為は単なる争議参加行為と同じく可罰性を有しないものとして右規定の適用外に置かれるべきであると解しなければならない理由はなくいわゆる都教組事件(最大判昭44.4.2)は、上記判示と抵触する限度において、変更すべきものである」。明示的に判例変更されているのであって、日教組スト事件・最一小平成元・1218で「あおり」を限定的に解釈はしないことが確認されており、平たくいえば 行動指令の発出伝達、スト実施体制確立のための活動、闘争指令下での演説、集会は「そそのかし」「あおり」になる。狭く解釈する必要はない。

 「そそのかし」「あおり」を合法的に扱っている都水道局の方針は、法外的、脱法的、左翼体質といえる。

 違法行為の慫慂の放置は、違法行為を助長する。北九州市交通局事件.最一小判昭63.12.8は、争議行為禁止の制約原理を「住民全体ひいては国民全体の共同利益」と説示しているので、住民全体の共同利益の侵害に当局が加担していることになる。コンプライアンスに著しく反し、都民の信頼に背くゆえ、厳しく是正されなければならない。

 

 

1-1 闘争指令下の「昼休み集会」は不許可、中止命令の徹底を

 

 

 主として事務室内でなされる。ストライキを配置した闘争期間で、年間23回程度ある。闘争課題を確認し、組合員の意思統一を図り、ストライキに向けて士気を鼓舞する集会である。

 

「昼休み集会」を水道局の管理職は許諾ないし容認し、中止.解散命令をいっさいやらない。

私が記録している令和元年以前の事務室内昼休み集会は以下のとおり、カッコ内主な演説者

1)中野営業所事務室内 平成23年7月7日(分会役員)

2)中野営業所事務室内 平成23年11月2日(分会役員)

3)中野営業所事務室内 平成23年12月9日(分会役員)

(実況見分記録後述)

4)中野営業所事務室内 平成24年3月8日(分会役員)

5)中野営業所事務室内 平成25年11月2日(支部.分会役員)

6)中野営業所事務室 平成26128日(本部委員)

7)中野営業所事務室内 平成26年2月12日(支部.分会役員)

上記は実況見分記録あり。なお、これ以外に勤務時間内の頭上報告多数、勤務時間内オルグ演説、抗議演説もあるが、上記は純然たる昼休み集会をピックアップしたもの。

8)西部支所給水課新宿分室 令和元年124日 

9)西部支所給水課新宿分室 令和元年1217

 

  令和6123日(火)の例

12時26分〇〇が〇〇総括課長代理に話しかけたので、許諾をとったものと思われる。

〇〇が、昼休み集会決議(案)の紙を、各席に配りだし、昼休み集会が始まる。在席していたのは、16人程度、課長代理3名在籍、所長は不在。昼当番2人が勤務中。

28分~29分 司会 中央委員〇〇

 指令により昼休集会すると宣言、検針担当と収納担当の間の什器付近で演説に立つ。まず、〇〇が経過報告すると発言。

30分~37分 支部長〇〇

 提案は杉並・港の政策提携団体TW業務移転、退職派遣(都職員の身分を離れての一時的に出向し戻る制度)の割合5割とのものだが、局直営7カ所TW13カ所となり局で働く職場は狭くなる。退職派遣は勧めることができない。TWは‥‥‥‥TWにも組合員がいるので労働条件を検証していくことを訴え、実際、港営業所では退職派遣を希望する人がいない状態で、TW社員の面倒をみるのも大変である。TW委託の流れを変えるようにしていきたい云々。

 もう一つは徴収サイクルの変更について組合と事前協議せず強行したため、2023年度に1営業所、24年度に3営業所1名増員したが、1年限りということだが繁忙状況に変わらない。本日3日に専門委員会があり徴収サイクルは〇〇分会長、TW委託問題は〇〇で3日の次は10日が予定されている。今後の日程6日の支所拠点決起集会、18日の3割動員、19日最終回答日、20日スト配置を背景に戦っていくと発言。

37分~39分中央委員〇〇

支部で明後日5日に所属長要請行動があるので参加を促した。決議文朗読を〇〇分会長にふる

40分から47分 分会長〇〇

決議文を朗読

 闘争課題を列挙し、最後に「東水労はあらためて三六破棄戦術を構え、12月闘争戦術、昼休み集会、所属長要請行動、今後の日程6日拠点決起集会、2割動員、183割動員決起集会、20日のスト配置で闘っていく」でしめくくった。

48分司会 中央委員〇〇

 決議文採択の拍手を求め、検針担当を中心に拍手が起きた。最後に6日決起集会、18日決起集会、20日ストの日程を繰り返し発言して協力を要請して終了。

 多くのケースでは団結用意頑張ろう三唱の鯨波がなされる。ケースとしては少ないが、組合員代表の決意表明をすることもあるが、この時は行われず簡略化された集会であった。

 

 「昼休み集会」の違法性は明白である。ストライキ態勢で組合員の意思統一を図る目的だから、地公労法111項後段が禁止する「唆し」「あおり」(演説あおり・オルグあおり)そのものであると断言できる。

「そそのかし」とは「違法行為を実行させる目的をもって、公務員に対し、その行為を実行する決意を新に生じさせるに足りる慫慂行為をすること」(外務省秘密漏えい事件・最一小判昭53531刑集323457)と定義される。

「あおり」とは「違法行為を実行させる目的をもって、他人に対し、その行為を実行する決意を生じさせるような、又は、すでに生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えること」(全農林警職法事件・最大判昭48425刑集27454、岩教組学力調査事件・最大判昭51521刑集3051178)と定義される。

 

 例えば、北九州市減給日額二分一懲戒処分事件・福岡地判昭56629労判368は、昭和4412月北九州市水道局工務部配水課技術吏員で、市職労本部執行委員専従が、清掃事業局西港清掃工場業務第一係詰所において、同詰所にいた清掃作業員らに対し、年末休日出勤をしないよう呼びかけた等につき減給処分とされた事案で、年末休日について市職員労働組合が出勤拒否の指令を出し、清掃職員が統一的集団的に年末休日勤務を拒否したことは、地公労法11条1項に禁止される争議行為に該当し、これを指揮した組合執行委員である原告の行為も同条の禁止する「そそのかし」、「あおり」にあたる(TKCの要約の要旨)として処分を適法とした。また現業職員給料表分離反対闘争等懲戒免職処分事件(北九州市)・福岡地判昭591226判例地方自治13は昭和41年に現業職員の給料表を一般行政職員の給料表から分離することへの反対等を目的とした32日間にわたる争議行為及びごみ収集方式の変更への反対を目的とした2日間の争議行為を企画、指導し、あおり、これに参加したなどとして、市職員労働組合の役員らに対してした懲戒免職処分が、懲戒権の濫用に当たらず有効とされた事例だが、地公労法111項後段が禁止する「あおり」の懲戒事由とは次のようなケースである。

〇原告が、昭和41413日午前8時ころから同825分ころまで小倉清掃事務所葛牧現場事務所において同清掃事務所職員ら約100人を集めて行われた勤務時間内集会終了後、同集会に参加していた職員に対し、「今から運転手は車を車庫に持つていけ。それからの行動は委員に指示しているから指示に従え。」と呼びかけ、職場離脱をあおり、そそのかし、このため職員約80人が職場離脱したことが認められ‥‥

〇原告が、45日午前8時ころ小倉清掃事務所葛牧現場事務所において職員約200人に対し「全員動員に参加してくれ。」などと約10分間にわたって呼びかけ、職場離脱をあおり、そそのかし、職員約100名を職場離脱させ‥

 

 東京都水道局では昼休み集会その他のオルグ演説で、本庁や支所等の職場離脱決起集会の動員呼びかけ(このうち3割動員し当局も争議行為と認めている)などは闘争シーズンなら頻繁に行われ、全面的に容認されていることであるが、地公労法111項後段違反であることは前記判例と同じことである。

 強い違法性がなければ正当などいう理屈は半世紀前に明示的に否定されている。日教組スト事件・最一小平成元・1218刑集431388は、日教組の昭和49年春闘411日全一日ストにつき、地方公務員法614号のあおりの罪により、当時のМ・М日教組委員長を懲役六月、またМ・T都教組委員長を懲役三月、いずれも執行猶予一年に処した原判決を支持したものだが、組合側の上告趣意書では「あおり」を次のように限定的に解釈されるべきとする。

「闘争体制、スト体制を確立することなどを目的とするにとどまるものはふくまれない‥‥「あおり」は感情に訴えるものであり、感情に訴える要素のないものを「あおり」となしえない‥‥それ自体において現実に争議行為の原動力となり、現実にその実行を誘発する危険があるとみとめられる真剣さないし迫力を有するもの、あるいはそのような行為があれば、争議行為が現実に実行され、またそのような行為がなければ争議行為が実行されることが困難であるような力を有するもの」

しかし、この趣意は、最高裁により退けられたのであって、限定解釈はしないと決着がついている。

 集会の演説行為は「唆し」「あおり」にあたる。代表的な判例は全運輸近畿陸運支部(大阪陸運局)事件・大阪地判昭54.8.30、大阪高判昭57.2.25民集3971478、最二小判昭60.11.8民集3911375、昭和441113日の15分ないし20分勤務時間に食い込む各職場大会の事案であるが、争議行為当日であれ、その前の組合員の意思統一を図りストライキに向けて志気を鼓舞する集会でも同じことである。

 一審は、集会におけるあいさつ、メッセージと祝電の朗読、職場大会の意義の演説、所長交渉の経過の演説、決議文朗読した行為、団結頑張ろう三唱等が国公法982項後段所定の『あおり』『そそのかし』に当たるとした。

  二審は「あいさつ」「職場大会の意義についての演説」「所長交渉の経過報告」「決議文の朗読」などの行為は「そそのかし」「あおり」に該当し、とりわけ「あおり」のうち「既に生じている決意を助長させる勢いのある刺激を与える」ことに該当するとした。

   上告審は「本件職場大会における上告人らの行為が国公法九八条二項後段に規定する『そそのかし』又は『あおり』に該当するとした原審の判断は正当」と判示し、戒告処分を適法としている。戒告処分に処せられた者43名の内訳は、全運輸本部役員1名、支部三役8名、分会三役34名である。

   ところが東京都の管理職は地公労法111項後段所定の「そそのかし」「あおり」を組合業務として当然のものとして違法行為と全く認識していない。違法行為を助長しているのは重大なコンプライアンス違反であるので、中止・解散・退去命令を徹底すべきである。

 組合の指令伝達をする頭上報告、本庁・支所・合理化拠点での決起集会も同じことである。旧郵政省と同様に、全水道東水労が、ストライキを配置し闘争体制に入った時点で、労働組合には庁舎内の便宜供与を禁止する方針を強く提案する。東京城東郵便局事件・東京地判昭59.9.6労判442は、指導判例の国労札幌地本事件最三小判54.10.30の判断枠組により、全逓本部によるスト決行体制確立、業務規制闘争突入指令発令後の、郵便局内での組合集会開催のための施設の利用を許諾することは、公労法171項違反の違法行為を助長する結果となるおそれが大きいと当局側が判断したことについては、相当な理由があるとして、会議室使用不許可に権利濫用と認めるべき特段の事情はなく不当労働行為には当たらないと、司法も認めていることである。

 東京都の管理職が「そそのかし」「あおり」を違法行為と認識しないのは、半世紀前に判例変更(全農林警職法.岩教組学テ事件)された争議行為通常随伴行為不罰論を信奉している左翼体質もしくは組合との不透明な癒着といわざるをえないのである。

 

   また管理職(平成22年当時の中野営業所長〇〇、のち経理部管理課長、職員部監察指導課長、労務課長)は労基法34条第3項(休憩時間の自由利用)により昼休みは組合活動を規制できないと断言し、執務室内のストライキ決行体制のため闘争課題を確認し組合員の意思統一を図る「昼休み集会」を許諾していた。他の管理職も同様である。

   しかし、労基法34条第3項を争点として最高裁は「休憩時間中といえども、その勤務する事業所又は事務所内における行動については、使用者の有する一般的な管理権に基づく適法な規制に服さなければならない」(米空軍立川基地事件.最三小判昭49.11.29)「企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない」(目黒電報電話局事件.最三小判昭52.12.13)と説示し休憩時間中の局所内における演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等についても局所の管理責任者の事前の許可を受けなければならない旨を定める電電公社の就業規則が休憩時間の自由利用に対する合理約な制約であると判示した。昼休みや勤務時間外の集会の中止・解散命令が不当労働行為に当たらないとする判例は多数あるので当然、施設管理権の行使として規制できるのであって、労務課長にまでなった〇〇の見解は間違っている。東京都の管理職の法解釈がすべて組合寄りで是正されるべき。

 

 

1-2 勤務時間内3割動員集会と2割動員集会は解散・退去命令し、決起集会の外来動員者は住居侵入罪が成立するようにせよ

 

 平成612月闘争のスケジュールは杉並営業所では次のとおりだった。

12月3日 昼休み集会 営業所事務室内

12月5日 支部所属長要請行動(昼休み)

12月6日 2割動員支所拠点決起集会  1530分から1時間 半地下業務用駐車場

(当局は時間休取得で参加を認めている。他の事業所や下水道局職員からも動員される。)ビラ貼り40枚ほどがあり11日でも撤去されてない「ストライキで闘おう」とのあおりに相当する文言もある)

12月18日 3割動員決起集会 都庁ふれあいモール 1530分~

3割動員は当局が争議行為と認定しているので、賃金カットとなり、その分は闘争資金より組合が補償する)

12月181715分以降五、20日まで三六協定破棄闘争。

12月20日早朝2時間スト予定だったが中止、三六協定も締結。中執〇〇が交渉経過報告で演説。

 なお、ストを決行した令和元年の12月闘争は昼休み集会は2回 124日と17日。以前はストライキ配置の山場を2回設定し、3割動員が月内に2回あることもあった。

 

  毎年、スケジュール化され実施されている大衆行動のうち当局が争議行為と認定しカットしているものとして勤務時間内3割動員決起集会がある。たぶん佐賀県教組事件(最一小判昭63.1.21判時12843日間の334割休暇闘争を争議行為と認定しているためである。ストライキ態勢を固めるため、闘争課題を確認し組合員を意思統一し、士気を鼓舞、昂揚させる趣旨の集会である。集会・示威行為が都庁本庁構内、支部構内、合理化対象の事業所で行われる。

   3割動員集会の内容は監視したことはないが、大筋で前節の昼休み集会と同じ流れ、挨拶、闘争課題の説明、基調報告、交渉経過報告等の演説があり、決議文朗読、採択、組合員代表決意表明演説、団結用意頑張ろう三唱の鯨波でしめくくるものと考えられる。

   演説や音頭取りで登壇する者は、すべて「唆し」「あおり」の違法行為と断言できることは前節で述べたとおりである。

   平成12年頃の中央支所3割動員集会では、庁舎内を練り歩くデモも行われていた。また組合旗多数が掲出され、立て看設置、おびただしい数のビラが庁舎内壁面に勤務時間中でもかまわず貼られていた。

   争議行為と認定している3割動員集会でも、本庁でも支所でも監視、現認体制はとっていない。監視、写真撮影、現認体制、中止・解散・退去命令を徹底すべきである。

   勤務時間内3割動員集会は毎年最低34回実施されている。2割動員集会は休暇取得で認めており、平成初期は1回の闘争で必ず1回は動員集会に参加するよう役員が指導していた。2割動員も含めるとかなりの回数になる。

   3割動員の場合、少なくとも13時間は欠務となる。毎年2回動員に行けば、20年間で累積120時間の欠務となるが、賃金カット(組合が補償する)だけで懲戒されることはない。

   当局が争議行為とみなしていない本庁、支所及び合理化拠点の2割動員集会は、有給休暇の休みをとって支所傘下の事業所、その他本部指令で割り当てられた他の事業所の水道局・下水道局職員が集まるものだが、監視・退去命令等、中止・退去命令を徹底すべきである。集会じたいは争議行為でなくても、理由は昼休み集会と同じく、集会自体が地公労111項後段に禁止されている「あおり」「そそのかし」であり違法行為の強度の慫慂を目的とする集会を黙認することは違法行為の助長になるからだ。

   西部支所では令和4年は1213440分頃まで半地下駐車場ターンテーブル周辺で集会があり、20名程が参加し、机を持ち込み演壇として、組合旗やビラ貼りがある状況で、経営プラン云々という最後の部分の演説と、団結用意の掛け声があって頑張ろう三唱の締めくくりの部分を現認した。

   最新の例は令和61261530分からの2割動員決起集会で、やはり半地下駐車場ターンテーブル周辺で集会があり、50名程が参加し、机を演壇として、組合旗2つとビラ貼りがある状況でなされていた。

   平成15年頃の千代田営業所の支所集会は3割動員だったが、おびただしい数のビラが貼られ、立看板のほか、多くの組合旗が掲出され、都税事務所との合同庁舎の来客用駐車場で開催されたので業務阻害態様といってよい。

   行政財産の目的外使用不許可の裁量処分(地方自治法238条の47項)という観点でも不許可ができるし、水道業務と無関係な目的で構内に滞留する他の事業所に勤務する動員組合員は、違法行為目的の建造物侵入として退去命令すべきである。

   むろん水道局事業所は、公共の用に供される行政財産と異なり、一般公衆が自由に出入りしたりすることのできるものではないが、所掌業務に関し用件のある者は、職員であれ、住民であれ平穏に立入る自由が認められることはいうまでもない。

   工事検査、設計審査、管路図の閲覧、諸申請、営業所窓口での料金、手数料の支払い、その他水道事業所掌業務に関連して業者が多く、水道局及び東京水道の事業所を訪れており、ベンチが置かれ外来者の一時的な滞留は認められている。

  しかし組合活動は目的外使用であり、決起集会の目的・内容が違法行為をあおる違法行為そのものである。庁舎管理者は業務が円滑かつ能率的に遂行されるための措置を講ずる権能と責務を有するものであり、外来者の立入りを認めることによって、違法行為を助長すると予測される場合は、立ち入り不許可、退去命令してしかるべきなのである。理由のある外来者の立入阻止行為は合法であり、●墨田民商(向島税務署)事件・東京高判昭52.5.30判時882が参考になるだろう。

  都庁構内のふれあいモールの決起集会については、「公開空地」という特性により建造物侵入罪の成立が可能なのかという問題だけで、東京都が管理する敷地である以上、庁舎構内の取り締まりとして支所集会と同じ対応でよい。令和2年に庁舎管理規程も改定されているので違反する行為として取り締まるべきであり、組合は違法行為の慫慂、あおり、そそのかしをやりたいならば自らの負担及び利益において、庁舎構内を離れて集会会場を用意するか、もしくは市民団体等の抗議活動のように公道上で道路占用許可をとって行うべきである。

  昭和50年代以降最高裁が案出した企業秩序論の判例法理にもとづいて取り締まりを徹底しているJRグループの就業規則のように、◇社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配付その他これに類する行為をしてはならない等、規則の整備をすべきである。

 支所内に動員されてくる組合員の構内立ち入りを禁止するために、建造物侵入罪や不退去罪が成立させるためにも必要である。

  • 全逓釜石支部大槌郵便局ビラ貼り事件・最二小判昭58.4.8は、全逓岩手地本釜石支部は、大槌郵便局(特定局)にビラ貼りを行うこととし、昭和48416日午後9時半頃、役員ほか8名が、分会長だった宿直員の許諾のもとに立ち入り、一千枚のビラ貼りを行った事案で、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは建造物侵入罪は成立するという判断枠組を示し、犯罪の成立を認めた。これは管理者側に有利な判例と評価されているので利用すべきだ。

  要するに無許可集会、無許可組合活動を禁止、就業規則違反、違法行為目的の立ち入りを認めない管理意思を規則制定等により明確に示し周知すれば犯罪は成立する。しかし当局は犯罪を成立させたくないので規則化しないし、管理意思も示さない。当局と組合の不透明な癒着というほかない。

 

1-3 スト当日の集会の中止・解散命令等を東京都は一切やらない問題

 

◆スト当日の集会は、中止・解散・退去命令、就業命令を徹底し、たんに職務専念義務違反だけでなく法令遵守義務違反として、監視、写真撮影、現認体制をとるべき。

 

  スト当日の集会の「あいさつ」「職場大会の意義についての演説」「所長交渉の経過報告」「決議文の朗読」等演説者や頑張ろう三唱の音頭取りはすべて違法な「そそのかし」「あおり」に該ることは、次節に引用する全運輸近畿陸運支部事件・最二小判昭60.11.8の判示で確定している。

   国の官庁などで、スト当日の集会を実践指導する組合役員をはじめ、参加職員全員に対して中止命令や就業命令するのが通例であるが、違法行為であり、職務専念義務違反というだけでなく、演説者は違法な「そそのかし」「あおり」に該るので、職務命令は当然というのが普通の官庁である。しかし東京都水道局ではこの違法行為が何千回されようがいっさい中止命令もなく、懲戒処分から保護されているということは、非常に癪にさわる事柄なのである。

   全水道東水労の直近の同盟罷業は令和元年1220日の1時間ストライキである。新宿営業所で、スト集会は、営業所分会と給水課分会が合同して始業時から930分近くまで実施され、営業内検針担当エリアに、組合旗を掲出、ビラを壁面に貼り、約40名が占拠し座り込む形でなされ、支部組合役員の〇〇〇〇、〇〇〇〇、〇〇〇〇と給水課一名が、司会、交渉経過報告、ストライキの意義について演説、決議文朗読、頑張ろう三唱などを行った。

   新宿営業所長の〇〇〇〇はスト参加の組合員に対し、中止・解散・退去・就労命令はいっさい行っていない。

   また役員の〇〇〇〇は、紙で塞いだICカードリーダ前に立ち、非組合員に出勤記録を入力しないようピケを張り、私を所内から出るよう指図して、違法行為を強度に慫慂したが、これらの地公労法111項違反行為、外形上威力業務妨害罪の犯罪構成要件該当行為(1937年に流行した米国のシットダウンストライキの態様に近く、刑事免責がないので当局が管理意思を明確にしなければ犯罪は成立する-指導判例である名古屋中郵事件最大判昭52.5.4の判断枠組43頁か55頁か107頁参照)に対して、いっさい中止・退去命令、就労命令等を行っていない。

   私は〇〇所長にスト集会参加者に就労命令すべきと進言したがやらない。集会での演説者など現認検書を上申すべきだと進言したが、やらないと断言し、業務阻害態様の集会を是認した。

   平成221210日の1時間ストライキで、中野営業所では駐車場でスト集会(ウォークアウトなので新宿より悪質ではない)をやったが、〇〇〇〇所長は職場復帰命令をしていない。平成26124日の1時間ストライキも、中野営業所は駐車場で集会、〇〇所長も職務命令なし。

   管理職が職務命令をやらない理由は、職員部監察指導課長名での庶務担当課長あての文書の指示では、スト参加者の人数と、集会場所を報告することになっているが、国の省庁のように当日の就業命令を指示されておらず、指導的役割を果たした者、率先助勢者の現認、監視、写真撮影等、懲戒処分の前提となる現認検書の上申も指示されていないためである。

   国の官庁やまともな自治体では、スト当日の就業命令は管理職の重要な任務である。東京都では上級部署の通知、示達に従うことがコンプライアンスとされており、就業命令は指示されていないから、違法行為を容認することがコンプライアンスになってしまっている。

   水道局は組織ぐるみで初めから取り締まる気はさらさらない。2通の文書が庶務担当課長宛てに形式的に通知されるだけである。水道局長名で部長級あて文書は建前上、地公法30条を引用して服務規律維持の確保を示達するもので、それを受けるかたちで「服務の示達」について、職員部監察指導課長が、庶務担当課長あての文書で具体的な指示をするが、警告していることが確認できるのは、水道局長名で全水道東水労執行委員長、自治労連系東水労(ごく少数の組合)執行委員長あての中止の申し入れだけであり、各事業所の支部分会役員には中止の申し入れを指示しているが、文言、形式(口頭か文書交付する)も決まっておらず、実際行われていることは確認できない。国の省庁では必ず行っている、職員一般に同盟罷業は違法行為なので必要な措置をとるなどの等の事前警告は行われない。実際はストライキに協力するのが通例である。

   なお営業所ではスト当日は外部の管理職が一人派遣されるが、ストの取り締りや監視のためでなく、職員の代務として窓口・電話対応するためである。これも組合が業務は管理職対応とし、職員を使って業務をさせない指図にしたがっているためである。

   東京都は公然と組合側の論理に従った実務なので職務命令はやらない主義になっている。

   代表的なプロレイバー学説として籾井常喜「使用者による争議責任追及の限界」季刊労働法451962があるが、「争議中にあっては、労働者には、使用者の指揮・支配から公然と離脱する権利が保障されているのである。したがって、争議中、組合の統括のもとでおこなった組合員の行為にたいしては、使用者の労務指揮の権限が及ぶいわれはない」とする。

   東京都の管理職はこの学説を信奉しているようだが、神戸税関事件最三小判昭52.12.20以降累次の判例で就業命令ができないと言う学説は明示的に否定されているも既に述べたとおり。

   事実上最高裁判例よりプロレイバー学説を優位とする東京都管理職は確信的左翼と考えられるのである。

 

 

1-4スト当日就業命令を徹底的にやるのが官公庁の通例 しかし東京都はやらない

 

運輸省 全運輸近畿陸運支部事件・最二小判昭60.11.8(二審大阪高判昭57.2.25民集39-7-1478一審大阪地判昭54.8.30民集39ー7ー1408)

 

   昭和441113日に勤務時間に1520分食い込む職場集会での「あいさつ」「職場大会の意義についての演説」「所長交渉の経過報告」「決議文の朗読」を行なった点において国家公務員法982項後段所定の「そそのかし」、「あおり」行為に該当すると原審の判断は正当として、組合支部・分会役員の戒告処分を適法としているが(戒告処分に処せられた者43名の内訳は、全運輸本部役員1名、支部三役8名、分会三役34名。本件では各分会の集会を指導したもの1名に限定して処分)その前提となる当日の解散命令・職場復帰命令は以下のとおり徹底的にやっている。 

 

〇兵庫県陸運事務所

 兵庫分会(本所)における職場集会は、兵庫県陸運事務所玄関前横庭において、午前820分頃から同42分頃まで47名の組合員が参加して行なわれた。右大会の進行は、開会宣言から始まり、分会長原告Kがあいさつ及び職場大会の意義について約7分間演説を行い、その後書記長らから経過報告、メッセージの紹介、闘争宣言の朗読がなされ、がんばろう三唱し、労働歌を合唱して終了した。その間O総務課長は、分会長原告Kに対し、午前825分ころ「この集会は無許可であるからすぐ解散せよ」との、又、同36分頃「時間内にくい込む大会は違法であるからすぐ解散しなさい。」との解散命令を口頭で伝え、さらに同40分頃、全参加者に対し、プラカードに解散・職場復帰命令を記載して伝達している。  

 

   一審は、「国公法九八条二項後段所定の「あおり」「そそのかし」とは、国公法九八条二項前段に定める違法行為を実行させる目的をもつて、他人に対し、その行為をなさしめるよう仕向ける行為を総称し、必ずしもこれによって現実に相手方が影響を受けること及び業務の正常な運営を阻害する行為が行われることを要しないものと解すべきである。」としたうえで、本件職場大会において、あいさつをした行為、メッセージと祝電を朗読した行為、あいさつと職場大会の意義について演説した行為、所長交渉の経過について演説し、決議文を朗読した行為、団結がんばろう三唱の音頭をとつた行為、人事院勧告に対する閣議決定の不当性を説明した行為は、いずれも国公法九八条二項後段所定の争議行為の「あおり」或いは「そそのかし」行為に該当するものということができると述べた。

   二審(棄却)は本件職場大会において控訴人らが参加者らに対して行なった「あいさつ」「職場大会の意義についての演説」「所長交渉の経過報告」「決議文の朗読」は「そそのかし」「あおり」に該当し、とりわけ「あおり」のうち「既に生じている決意を助長させる勢いのある刺激を与える」ことに該当するものであるとした。

   上告審(棄却)は本件職場大会における上告人らの行為が国公法九八条二項後段に規定する「そそのかし」又は「あおり」に該当するとした原審の判断は正当であると判示している。

 

厚生省 全日本国立医療労組事件・最三小判平14.11.26労判840(一審東京地判平11.4.15判時1724)

   平成31113日、全国の国立病院等(現在は独立行政法人)の支部において、11年ぶりに組合員約25,000人が、勤務時間に29分以内食い込む方針で職場大会を開催したが 「西多賀病院(仙台市)の事務部長Sは大会参加者に対し、勤務時間前の同日午前818分及び19分に、構内の無許可使用を理由に解散命令を発し、勤務時間に入った午前830分、31分及び36分の3回にわたり、本件職場大会は時間内の職場大会で違法であるとの理由による解散命令及び就業命令を発したが、大会参加者らはこれを無視して本件職場大会を敢行した」とあり、国の省庁では就業命令は必須の義務である。

 

税関(大蔵省) 神戸税関事件・最三小判昭52.12.20(一審神戸地判昭44.9.24民集317-1164)

    昭和36105日午前840分頃から本庁舎前で開かれた‥‥当局は、午前95分、(職場大会)中の約200名の職員に対して‥‥本庁舎総務課文書係事務室及び別館図書室のいずれも道路に面した窓から、「職場集会に参加中の職員各位に通知します。勤務時間内の職場集会は業務に支障を来たし、かつ、国家公務員法違反になりますから、直ちに職場において執務して下さい。昭和36105日午前95分神戸税関長遠藤胖」と記載した懸垂幕を掲出すると同時に、右各窓ぎわに設置した携帯マイクを使用して、文書係事務室から総務係長が午前910分頃まで繰り返えし、また図書室から人事係長が数回に亘り、右懸垂幕の記載事項を放送した。

 

北九州市清掃事業局小倉西清掃事務所事件・最二小判昭63.12.9民集42-10-880(一審福岡地判昭51.7.22民集42-10-940)

   地公労法附則によって地方公営企業職員以外の単純な労務に雇用される一般職の地方公務員に準用される同法111項の争議行為禁止規定を合憲とし、昭和431081時間ストで勤務時間内職場集会指導し、当局の清掃車借用について抗議行動を行ったことなどを理由として、Y市労支部長、Z支部執行委員に対する停職三月とする処分を適法とした先例である。

   Yは右職場集会の主催者の地位にあって同事務所に所属する市労組合員にその参加を呼びかけ、司会をなした。Xは市労青年部が今後組合の先頭に立って活躍しなければならない旨演説し、Zは職務命令書を集約し一括して返却すること及び組合員に対して職場集会に参加するよう呼びかける。管理職に対する詰所への三回にわたる入室阻止行為(一審は認定せず)。副支所長のマイク放送抗議(Z以外は一審で認定せず)。清掃車を民間業者から借り上げたことへの抗議。Xが抗議の際所長の机上のガラスを叩いて破損した(一審は、元々ガラスはひびが入っていてセロテープが貼られていたと認定)

   本件は事前警告のほか職務命令書を交付しており、スト当日就業命令も行っている。職務命令書の一括返還のよびかけは処分理由になっている。

 「108日午前815分前後にN副所長が事務所からマイク放送により職場集会をやめて職務に就くよう、三回にわたり繰り返し職務命令した。そこで原告Mは詰所二階の入口から事務所に一人で赴き所長に対し「組合が事務所に貸しているマイク放送の器材を使い職場集会を妨害するような放送をするならばマイクを引き揚げる」という趣旨の発言をしたところ所長は「あゝそう云えば組合から借りたものだから妄りに使えんじゃないか」といった。」とされ、組合のマイクを借用しているのは不手際といわざるをえないが、とにかく、マイクで就業命令はやっている。

  なお、本件は、X市労本部執行委員兼青年部長の懲戒免職は一審で事実誤認があるうえ過重な処分として取消されているが、小倉支部長と支部執行委員を停職三月は適法としたものである(当日の争議行為につき原告以外は1名減給、90名が戒告)。

 

   一方、東京都の管理職は組合役員に平身低頭するが業務命令するなと言えば受け容れる。就業命令を一切やらない。組織ぐるみで業務命令をやらず違法行為に加担することこそ使命とされている。

  地公労法1条の趣旨、正常な業務運営を確保することが管理者の任務とされていないのは異常なことである。コンプライアンス経営宣言と矛盾する。

 

 

2 最大の悪弊は東京都がストライキに対抗して操業行為を控えること(組合と共謀し労務指揮権を放棄しストライキ完全防衛に協力態勢をとる)

 

 

2-1ストによる操業妨害の効果を減殺させる争議対抗行為としての業務命令をさせない体制

 

 

◆今後は、全職員に就業命令するが、ストに対抗して非組合員とストに反対の組合員を使って操業継続に努めるものとし、窓口、電話対応等、最低限不可欠な業務も管理職対応とせず、職員に業務命令して執務させることを原則とする。

 

   東京都水道局がストライキ集会参加者に対して、就業命令をやらないのは、地方公務員法2911号、32条の適条により懲戒処分の前提になることを避け、違法行為者を保護する意味だけではない。

   局が業務命令をしない第一の理由は、ストライキに対抗して非組合員や脱落組合員に業務命令して操業の維持を図ることは許されないとする組合の指示に全面的に屈従しているためで、業務命令(職務命令)を一切行わず、全職員の同盟罷業参加によるストライキ完全防衛を組合と共謀して仕切ることこそ管理職の任務とされているためである。

  管理職は組合と共謀してユニオンショップの組合のように全員参加としてストライキの脱落者を取り締まるのが非公式(秘密文書で公式の方針かもしれない)の任務にしている実態である。

  プロレイバー学説に争議時における操業=業務の運営について、操業の自由に否定的な学説(片岡曻、近藤正三、浪花源治、外尾健一、本田淳亮)がある。この組合側の論理に従って、争議行為に対抗する業務命令を絶対にやらないのである。ここに東京都の左翼体質の極致をみることができる。

   この学説は、争議行為は業務の正常な運営を阻害する行為という性格側面を持つから、もし操業の自由が平時におけると同様争議時にも法的保障を受けるとすれば、操業の妨害を通じて要求貫徹を図る争議権の構造を否定し、操業妨害の効果を減殺させる争議対抗行為を、使用者に争議権が保障されていないのに認めることになるという主張をしている。争議中、使用者は単に法的保護を受けない自由放任行為としての「操業の自由」を有するのみであるという。

   しかし最高裁は、私企業の操業の自由につき、山田鋼業事件・最大判昭25.11.15、朝日新聞西部支社事件最大判昭27.10.22といった初期の判例から一貫して認めていることである。

   正当なストライキであってもそれに対抗して、使用者が非組合員、スト反対派の組合員、第二組合員、臨時社員等を使って、操業を維持することが正当なことは、羽幌炭礦鉄道事件・最大判33.5.28刑集12-8-1694(争議続行決議に反対して脱退した組合員が結成した第二組合に加わった労働者+非組合員による操業)、横浜駐留軍事件.最二小判昭33.6.20刑集12-10-2250非組合員+争議に加わらなかった組合員による操業に対する就業の妨害につき威力業務妨害罪の成立を認める)等累次の判例により明らかなことである。

  すなわち羽幌炭礦鉄道判決は「同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し暴行脅迫をもつてこれを妨害するがごとき行為はもちろん、不法に、使用者側の自由意思を抑圧し或はその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されないものといわなければならない‥‥」とする。

   決定的な先例が山陽電気軌道事件・最二小決昭53.11.15である。山口県西部のバス事業者において、私鉄総連系組合のストに反対する第二組合員の就労によるストライキ対抗措置としての操業行為は、完全に法的保護の対象となり、組合側の計画していた争議行為に対抗するためにとられた措置を理由として業務性を失うことはない旨説示しているとおりである。

   水道局ではストライキといっても過去私が知っている限り2時間ストが最大で、過去7回のストライキは1時間ストにすぎないとはいえ、組合が使用者側の操業権を否定しコントロールしているのは正常な業務運営といえない。

   そもそも、地公労法112項により作業場は閉鎖できないのだから、就労したい職員を締め出すこと自体違法である。非組合員やスト反対の組合員は就労により操業を維持するのが筋であるし、ストに参加したくない職員の就労を拒んでいることは、重大な問題である。

   ちなみに管理職に業務命令させない組合に有利な争議の態様は、下記の水道局のプレス発表でも明示してないが行間から示唆している。組合と職員の対応を区別し、警告しているのは組合だけで、職員一般は別の対応で、警告ではないのである。非組合員もふくめ全員がストに参加する前提となっているので、管理職による事務事業の支障の防止になっている。職員に就業命令をやっていないとは書かれていないが、「服務規律確保の周知」とは、局長が部長級に指示していることにすぎず、実際には職員一般には警告も就業命令もしないことを意味するということは深読みすればわかる内容といえる。

 

令和元年1219日付【東京都水道局プレス発表】

12月20日(金)の労働組合ストライキについて

1 組合の行動態様

(略)

2 当局の措置

1)組合に対する警告→(組合執行委員長宛に違法行為・庁舎管理規程違反として警告しているのは事実。本部中央闘争委員が停職処分とする前提になるもの)

2)職員に対する服務規律確保の周知→(局長が各部長宛に服務規律確保の示達をしているのは事実だが、各事業所で行われている訓示放送は、「違法行為なので必要な措置」をとると絶対と言わない偽装の訓示で警告ではない)

3)管理職員による事務事業の支障の防止→(管理職対応とは非組合員も含め就業命令しないことを意味する) 

「管理職対応」とは組合用語で、管理職が非組合員等に業務命令させないで、管理職に経常業務等の代務を命令するというものである。この言葉は、平成231031日から4日間の昼休み当番拒否闘争でも分会長が頭上報告で、足立営業所監理団体移転の提案に抗議するため、昼休み当番を引き上げ「管理職対応」にしますと演説しているので、端的に業務命令をさせない争議行為を意味する。

 

 

2-2 管理職が就労したい職員にピケットライン尊重を指示する悪弊

 

🔷当局は組合と共謀による非組合員の就労妨害の方針をやめること

🔷非組合員とスト反対の組合員には業務命令で業務運営を維持する方針にかえること

 

   東京都水道局では東水労のスト決行時、管理職が、就労したいと申し出る職員に対して、ピケットラインを尊重し、出勤時限前に登庁し、カードリーダに電磁的に出勤記録を入力する服務上の基本的義務行為をしないよう命じ、事故欠勤にしようとすることがある。少なくともピケットライン尊重の旨指導し、事故欠勤に誘導することは非公式(もしくは秘密文書により公式の)だが職員部が認めている組織的な方針となっている。

   実際には、大多数の非組合員は、前日に組合役員によって事故欠勤により賃金カットにしないよう職制に要求するとして組合役員のピケットラインを超えてはならないという説得に応じるのであって、私のように就労したい職員は少ないと考えられるが、職員の権利と義務を不当に侵害するもので深刻な問題である。

   私が平成21年に〇〇〇〇中野営業所長(後に経理部管理課長、職員部監察指導課長、令和元年の労務課長、その後退職)は、ストが決行されたら就労する旨申し出たところ、機嫌がわるくなり、分会長と協議のうえ、ストは全員参加の方針で、8時半より前に入庁は許さない。ICカードリーダの操作で出勤事故欠勤を申請するよう命じた。これは、本庁職員部とすりあわせたうえでの対応であるので、事故欠勤にすると大声で指図。スト破りを認めることは組合との関係を悪化させるので絶対に許さないとの趣旨を述べていた。〇〇所長が、事実上ピケットラインを尊重しなればならず、就労の権利を否定したので、私が局幹部に抗議するグループウェアで直訴したところ職務専念義務違反の非違行為とされ、私を常識に反し「愉快犯」となじりまくった。

   〇〇所長は、事故欠勤に従わないというのは非常識で、金をやるといっているのだから、素直に応じるべきとした。しかし、ストに参加することは違法だし、勤務実態がないのに給与を得るのは詐欺的行為なのでなおさら悪事になるのできないと、詐欺的給与取得は信用失墜行為にもなると思っているので反論したが、東京都では私のような意見は常識に反するとして攻撃の対象になる。

   違法行為を実践指導する組合役員には断然好意的で、違法行為に反対するには敵意をむき出しにする。〇〇が典型であり、他の管理職も同じようなものである。

   ただし、その年ストは決行されなかったので、中野営業所長が私の就労を妨害したと言う事実はない。

   管理職が非組合員はストライキ時、出勤簿に押印したり、入庁を許さないという、組合に協力する非公式の方針は昔からあって平成初期の江東営業所がそうだった。ただし組合と共謀していることを表明したうえ、あからさまに就労妨害しようとしたのは、〇〇だけだったし、同氏は私より1年年下で、本庁中枢よりやり手と評価されているようで、水道局生え抜きB管たたき上げだが(プロパーと言っても、管理職になる人は他の局も一度は経験していると思うが)、その後、経理部管理課長、職員部監察指導課長、労務課長と本庁要職に栄転しているので記載した。

 

   また令和元年1220日のスト当時の新宿営業所は組合未加入の新人のほか非組合員の比較的多い職場であり、当時の〇〇〇〇所長は、前日に支部分会役員の〇〇から要請を受けて私が知る限り、非組合員はほとんどが、前日に組合役員の説得に応じていた。

   スト前日の令和元年1219日午後115分前に、組合役員の〇〇が、非組合員である〇〇と〇〇、その他の人に、明日の行動の仕方を説明、所長と相談して事故扱いにするようにしてもらうと聞こえた。単語は所長、事項扱いである。2時から3時ごろ検針担当の〇〇(新人の非組合員に対し、民間はノーワーク・ノーペイ原則だが、ここはそうでないと元支部長で再任用検針担当の〇〇が説明、訓告処分で受け取り拒否したことなどの実体験を説明。検針担当の組合員〇〇は、事故欠勤なので給与が支給され出勤扱いだが仕事はしてはいけないことになっている旨説教していた。

   このように、組合役員の説得にほとんどの非組合員が応じているのは、当局が事故欠勤を認めていることが大きいのである。明らかにこの方針はストライキを支援しており、当時所長の〇〇〇〇(も組合の要請応諾し、事故欠勤としたものとみられる。

   東京都水道局は、同盟罷業に際し職員部監察指導課と全管理職は組織ぐるみで、組合の説得に応じた非組合員に対し、ピケットラインを通過せず、水道局処務規程55条「事故欠勤」にさせるのが慣例だからである。

   事故欠勤とは水道局処務規程55条で「職員は、交通機関の事故等の不可抗力の原因により勤務できないときは、その旨を速やかに連絡し、出勤後直ちに別記第十二号様式の二による事故簿により届け出なければならない」と規定されるもので、遅延証明を根拠として、遅刻しても賃金カットされず、実質出勤扱いにする制度であり、このほか、新型コロナウイルス罹患等のケースでも、事故欠勤できることになっている。

   しかし「交通機関の事故等の不可抗力の原因」とストライキは違う。非組合員であれ組合員であれ、組合に職場離脱を慫慂されたとしても、それは地公労法違反の違法行為であるから、説得を受忍する義務はない。

   私は江東営業所で複数の組合員が取り囲む、包囲型ピケッティングで罵声を浴びせられたことはあれ、腕を抱えられたり、逮捕行為をされたことはなく、スクラムを組むようなマス・ピケはない。それがないのは、当局が非組合員ら職員に同盟罷業の参加を促しているだめである。

  「ピケットラインの尊重」は195060年代労働組合主義昂揚期の労働者の倫理とされるが左翼思想である。労働者階級の利益のためには労働者間の競争を否定し団結に加わらなければならない。組合が労働力統制を排他的独占して使用者と対等というが、非組合員の就労権と消極的団結自由を否定する組織強制の思想ともいえる。

   東京都の管理職左翼思想を信奉しているので、非組合員に職務離脱を促すまたは、強要しようとするのではないか

   また、50年代の学説には争議行為において強制力は暴力ではないので容認されるという、スクラム容認論がある。典型は第一世代野村平爾(早大)が強制力としてのスクラム容認論を展開しているが、強制力は暴力でないので労組法第一条二項但書に反しないという理屈だが詭弁のように思える。

   「団体の持つ強制力が、いわゆるリンチに達することは国家の刑罰権と衝突する意味で承認されなくても、団体がその利益をまもるために防衛的な強制力を用いるのは禁ぜらるべきではない。労働運動史の上にあらわれた、なぐったり傷つけたりすることは、とうてい承認できないが、スクラムによって利益の侵害者に対し、これを阻止し、出来れば味方の陣営に加えようとするのは、正にこのような状態なのである。労組法第一条二項但書‥‥の意味も、このような状態に適合するものとして考うべきではないだろうか。強制力=暴力ということではない」[1957『日本労働法の形成過程と理論』岩波書店155]

   「個別労働者の労働市場における競争が労働者の地位を引き下げていること、労働者の生存の利益を担保するものは団結の力だという自覚が、団結の強制を必然ならしめる」[前掲書156]

   以上のような団結強制の思想にもとづいて、組合側の論理にしたがっているのが、東京都の管理職であり、非組合員も含めストは全員参加でなければならず、就労を申し出る職員を敵視する政策といってよい。

   しかしピケッティングには限界がありこの問題には各論・補遺(三)(四)で述べるとおり最高裁先例は正当な争議行為は労務提供拒否としいう不作為を本質とし、これに随伴する行為も消極的限度にとどまるべきであるとする(指導判例は羽幌炭礦鉄道事件大法廷判決昭33.5.28刑集12816以下累次の判例)。実力ピケや物理的業務阻害は正当な行為とされることはない。逮捕行為や強制連行、物理的に通行を阻止するマス・ピケは有罪となるのである。国鉄久留米駅事件・最大判昭48.4.25以降、刑事免責のある私企業であれ、逮捕罪・業務妨害罪等犯罪該当構成要件行為に可罰的違法性論は適用されなくなった。例えば光文社事件・最三小判昭50.5.8、日本鉄工所事件・最二小判昭50.8.27、毎日放送千里スタジオ事件・最一小判昭51.5.6、第二名古屋中郵事件・最二小判昭53.3.3、春闘松山駅事件・最小二判昭53.3.3、動労南延岡機関事件・最一小判昭53.6.29

   ちなみに「ピケットラインの尊重」という思想は、団体の意思が個人の意思を制圧するという組織強制の思想であり、英国では80年代に崩壊している。

   20世紀最長の全国炭鉱夫労組(NUМ)の198485ストライキの特徴は当初からストライキ反対派の存在があり、オルガナイザー“Silver Birch”(白樺派)などの公然たる分派活動がみられたことである。57%の炭坑で石炭の生産がストップしたが、イングランド中央部のノッティンガムシャー、ダービーシャー、レスターシャーおよびランカシャーは、ストライキに消極的な組合員が多数を占めており、こうした地域ではストに突入した好戦的地域から送り込まれたフライングピケットの悪罵や暴行に直面しながらあえて仕事を続けた。(内藤則邦1985「イギリスの炭鉱ストライキ」『日本労働協会雑誌 』27(2)

   サッチャー首相は1984530日バンバリ-で演説を行った。「‥‥法律の順守を望み、威嚇には屈しません。ピケラインを突破して戦場に赴く人々の勇気には、心からの賛辞を贈ります。」(山崎勇治「サッチャー元首相の『回顧録』に見る炭鉱ストライキ(1984-85年)」『商経論集』北九州市立大学第422.3.4合併号(20073月)7374)労働組合主義者からは「スト破り」と悪罵が投げつけられる、炭坑労組の就労派組合員であるが、サッチャー首相は最大級の賛辞を贈ったのである。この演説はコレクティビズムの終焉を意味し、個人の自由と権利が尊重されるパラダイム転換と評価できる。その後サッチャー政権において公認ストライキであっても組合員であれ参加しない権利が法定化されている。

   そもそも日本の地方公営企業はストライキ自体違法であり、付随行為としてのピケもそれ自体が、「そそのかし」「あおり」に該る違法行為であり、ストに参加しない権利の方が当然正しい。我が国でも、公労法171項が禁止するストライキに付随するマス・ピケに物理的就労阻止について6判例が内部統制権を否認し、組合員であれ、スト参加を促す勧誘・説得を受忍する義務はないとしており、そもそも統制権の及ばない非組合員は、組合からも、職制からもスト参加の説得を受忍する理由はないというべきである。

   あくまでも都庁官僚が組合と良好な関係を維持するため組合の方針に従うのが処世術として第一義だとして、職員に違法行為や組織強制を容認したいというのであれば、水道局長のコンプライアンス経営宣言は撤回すべきである。

 

 ノーワーク・ノーペイの原則からして就労していない職員に賃金を支払う理由はない。不正会計であると同時に、ストに参加している組合員は、賃金カットされる。その補償は、組合の闘争資金から出される。しかし非組合員には補償できないので当局にその肩代わりをさせているとみるほかない。この慣行は同盟罷業の慫慂と同じことでありやめるべきである。

 通説は、第一組合がストを決行し、ストに参加しない第二組合員や非組合員が第一組合員のピケに阻まれて、就労が事実上不能となった場合における第二組合員等の賃金については、使用者は民法五三六条一項によりその支払義務を免れるとする説がある一方、ストライキが使用者の経営政策上の理由に基づいてなされた場合には、右ストは使用者の支配領域内に生じた障害で、使用者において一般的に除去しえないものではないから、これをもって使用者の責に帰すべき事由による(民法五三六条二項)ものと認めるべきとの見解がある。(高知県ハイヤー・タクシー労組賃金請求事件・高知地判昭50120労民27-6-596

 しかし、公営企業の争議行為自体が違法である以上、スト自体が使用者の責に帰すとはいえないから、支払い義務はないとみるべきである。支払い義務があるとすればストライキの原因は当局にあると認めたのも同然で、組合に対して非常に下手に出た行為といわなれればなない。百歩譲って、ピケによって物理的に就労が阻まれた事実があるのなら事故といえるかもしれないが、事実もなく事故とする理由はない。

 またストに実質的に参加し勤務実態がないのに賃金カットを免れるため事故欠勤を申請する非組合員も詐欺的行為として非難されるべきであると思う。報道されている勤務実態のない国会議員公設秘書の給与詐取事件と金額で大きな隔たりがあるにせよ、それと同類の問題である。

 組合は昔から、スト当日は組合員であれ非組合員であれ、出勤簿を押させない方針で、スト破りに敵意を示すが、当局の就業規則で服務の基本である出勤時限前にICカードリーダの操作(IDカードを現在はタッチ、以前は挿入かテンキーの操作)による出勤入力をさせない方針は、職員の就労の権利と義務の重大な侵害である。

 一般論として職員は権利侵害の違法行為であれ、審査権がない職員は、職務命令に従うべきものだが、私は上記判例の意義をふまえ組合と共謀する管理職からの説得で職務放棄し違法行為をする義務はないと考えた。

 なによりも非組合員の就労する権利の否定が悪質で容認できない。水道局長が建前上、服務規律維持の確保を示達していることから、服務の基本的義務であるICカードリーダ出勤入力(出勤簿に相当)を否定する権限は現場の管理職にはないとは解されること、この命令に反し就労しても、法律や就業規則を遵守することによって地公法29条適条による懲戒処分は、困難と考えるので、服従する理由がない。

 以上、管理職が就業命令せず、非組合員にピケットラインの尊重を強要し入庁出務を許さない、事故欠勤申請の慣行は、次節の理由で違法行為と認識できるので是正を強く要求する。

 

 

2-3 管理者の対応が違法行為とみなす根拠

 

(1)就業規則違反になる出勤時限前の出勤入力をやらないよう命令することは、現場の管理職の職権を逸脱している。

 

 東京都水道局出勤記録修正懲戒処分事件・東京高判平26212労判1096(上告審最判平27414は棄却、不受理、確定)は、水道局の管理職が平成18年4月1日から平成21年7月15日までの間72回につき出勤時限に遅れた上、そのうち71回につき部下に指示して出勤記録を修正させたとして停職三月という重い処分につき適法としたものであるが、判文で「東京都水道局においては、所定操作によって出勤記録を自ら入力することは、『勤務時間等規程』『処務規程』『事務処理要領』などの規程上、職員の基本的な服務上の義務であり」と説示している。

 管理職でこれほど重い処分を聴いたことない。私は、当事者と面識もないし実名も知らない。匿名の内部告発の背景なども知らないので論評を避けるが、高裁が出勤記録入力の服務規律上の重要性を説いていることに着目したいと思う。

 東水労のストライキ配置に対し、水道局長は形式的に服務規律の確保を毎回示達している。しかし東京都水道局の管理職は、ストライキ時は、規程に反し基本的な服務上の義務をなすことは許さないとするのである。それは示達に反し整合しない。

 つまり高裁の趣旨は、水道局職員は出勤時限(近年時差出勤も導入されたが通例は830分。82959秒までに電磁的に入力できれば出勤と記録され、830分では遅参となる)前に登庁し、ICカードリーダにIDカードの操作(現在はタッチだが、当時は挿入)もしくは職員番号をテンキーで入力することにより出勤を電磁的に記録することは、就業規則に相当する規程に記載されていることで、それは「基本的な服務上の義務」と説示しているのである。

 平成20319日の1時間ストについても言及があるが、違法ストライキ時は「基本的な服務上の義務」である就業規則が、凍結されるなどとはもちろん言っていないわけである。

 現場の管理職に就業規則、服務上の基本的義務を否定したり凍結したりする権限はない。現場の管理職が就業規則違反を命令することは権限を逸脱し違法というべきである。

 だから出勤時限の830分より少し前には入庁しなければならないが、前記平成21年の上司〇〇所長の指示は、830分でないと入庁させないというので、事故欠勤の強要なのである。

 

 

(2)非組合員の就労閉め出しは地公労法11条2項違反

 

 作業所を閉鎖してはならないとは、争議行為に対抗してロックアウトできないという趣旨だが、職制が違法争議行為に加担したいがために、職務命令で就業したい職員を締め出し一時的に出入り禁止にするというもので、上記〇〇の指示は、この条項に違反する。事故欠勤で賃金カットはされないので作業所閉鎖ではないというかもしれないが、事故欠勤も不正なのである。

 スト待機での組合員の出入りは自由で、非組合員は許さないこんなばかな話はないのである。

 

 

(3)ストの勧誘・説得に応じた非組合員を「事故欠勤」とし給与の不正受給で違法

 

 勤務実態がない者に、給与を支給するのは不正である。実際、ストに参加した組合員は賃金カットされるのであり、組合の説得に応じ、職務を離脱している非組合員もノーワーク・ノーペイの原則からカットすべきである。

 通説では、第一組合がストを決行し、ストに参加しない第二組合員や非組合員が第一組合員のピケに阻まれて、就労が不能となった場合における第二組合員等の賃金については、使用者は民法五三六条一項によりその支払義務を免れるとする。

 違法なストライキについて使用者に責任が帰されることはないので、「事故欠勤」による給与支払いは不正であり、申請する非組合員も詐欺行為で不労所得を得たことは非難されるべきである。

 

 

(4)職員はスト参加を促す勧誘、説得を受忍する義務がないのに、職務命令で強要したり、事故欠勤によりスト参加を促すのは違法である

 

 非組合員の就労の権利は第Ⅱ部四153145頁)で言及するのでここでは省略するが、違法争議行為の内部統制権は次頁以下後述する7判例、組合費をめぐる最高裁判例やマス・ピケ事犯で6つの高裁判例(上告審議棄却)の理論的説示により否定されているゆえ、地方公営企業においては組合員であれ非組合員であれ、違法争議行為の参加を促す勧誘、説得を受忍する義務はないことは明白なのである。

 東京都水道局の違法争議行為反対者に対し、ピケットラインの尊重、出勤記録の入力禁止、事故欠勤とする方針は、受忍する義務のないスト参加を強要するものだけに違法である。

 全水道東水労スト権一票投票は、毎年11月初めに、11月半ばの都労連闘争と、12月の局内合理化闘争、2月末に3月の春闘につき行われて、近年では92%以上の高率で批准されるのが通例である。

 

投票用紙の文言の一例

93秋斗勝利 スト権確立投票用紙

全水道東京水道労働組合

 

一 獲得目標について

①~⑪(略)

二 戦術について

一~二時間スト数波 (都労連・局内職場)

前段は大衆動員闘争を配置して闘います

 

 私は、全水道東水労の組合員として、前記要求の実現のため、全水道、都労連並びに東水労本部闘争委員長の指令に従って闘うことを表明します

(註、記入方法)この方針に賛成の方は〇を、反対の方は×を上段の□のなかに記入してください。

東水労ニュース19931025 №3245 321より

 

 ストライキが賛成多数で批准されたら、本部闘争委員長の指令に従うことを表明しますとの文言がある。

 組合側の主張は、たぶん統制権により組合員をストライキ態勢から離脱しないよう拘束している。組合役員のスト指導は、指令にしたがって組織の義務として行っているもので、個別責任は問われないというものだが、当局は鵜呑みにして、事実上闘争期間組合の支配下にある各職員に業務命令はできないものとしている。

 私企業のユニオンショップとは違って、争議行為は違法なので、組合員でも本部指令に服従する義務はない。東京都は非組合員ですら事実上指令に従わせ就労を認めようとしないから異常である。組合に違法行為を強制する強い権力を与えている点で誤っている。

 

違法争議行為の内部統制権は最高裁判例によって否定されている

 

 国労広島地本組合費請求事件・最三小判昭50.11.28民集29101634は組合の統制権について理論的に説示し「公労法に違反して行われる争議行為とこれに対する組合員の協力義務関係について考察する。(公労法171項)違反の争議行為に対する直接の効力(争議行為の参加)については、これを組合員に強制することはできないと解すべきである。禁止違反の争議行為の実行に対して刑罰や解雇等の不利益な法的効果が結びつけられている場合に、その不利益を受忍すべきことを強いるのが不当であることはいうまでもなく、また、右のような不利益を受ける可能性がない場合でも、法律は公共の利益のために争議行為を禁止しているのであるから、組合員が一市民として法律の尊重遵守の立場をとることは是認されるべきであり、多数決によって違法行為の実行を強制されるいわれはない。‥‥」

 従ってストライキ批准が95%と高率であるとしても、それによって違法行為の実行を強制できないと最高裁は言っているのである。

 これだけでなく争議行為にも刑事免責を認めた中郵判決が維持されていた時期に、争議行為に可罰的違法なしとしながら、三公社五現業に適用される公労法171項違反の争議行為については、組合員であれ、争議行為の勧誘、説得を受忍する義務はなく、違法争議行為参加を団結統制権により拘束されないとして、内部統制権を否定する説示のある昭和47年から下記7判例があり、それは、そもそも統制権の及ばない非組合員も同じことである。

 いずれも高裁判例だが上告審は棄却であるから、原審の判断を是認している。

 

 全逓横浜中郵前ピケ事件差戻後控訴審・東京高判昭47.10.20判時68651

(差戻後上告審最一小決昭49.7.4判時74826頁棄却) 

 全逓の2時間の同盟罷業それ自体は中郵判決に従って可罰的違法性なしとしながら、全逓の要請で神奈川地評が動員したスト支援者の約200名のマス・ピケは争議行為に付随する行為として別個の法的評価をとり、機動隊に暴力をふるった2名の公務執行妨害罪の成立を認め以下のとおり説示している。

  「公共企業体等の職員および組合は公労法一七条一項により争議行為を禁止されているのであるから、組合自身も組合員もこれを行なってはならない義務を負っているこというまでもない。それゆえ、組合としては組合員に対して同盟罷業への参加を強制することのできない筋合いのものであり、これを組合員の側からいえば、各組合員は、法に従うべきであるという建て前からも、また自らが解雇等の民事責任を負わないためにも、組合の指令にもかかわらず、同盟罷業に参加することなく就業する義務を負うとともに権利を有するものである。‥‥公共企業体等の組合がたとえ同盟罷業の決議をしても、その決議は違法であって民間企業の組合の場合のように組合員に対し法的拘束力をもつものではなく、組合員としてはその決議に従わずに就業しても、特段の事由のないかぎり組合の統制に対する違反ないしはいわゆる裏切りの問題は生じない‥‥同支部所属の各組合員が原判示当日出勤就業しようとしたことも正当な行為であって、組合側としてその入局を実力を用いてまで阻止することを正当ならしめる特段の事情があったものとは認められない。」

 

 動労糸崎駅事件・広島高判昭48.8.30判タ300363頁(上告審最一小決昭51.4.1刑事裁判資料230215棄却)では、当局が、本件昭和381213日午後7時から全国7拠点の動労の2時間職場大会に備え、代替乗務をする機関士を前日に糸崎駅に召集、折り返し運転の呉行1920分発651D列車の乗務員が職場大会に参加したため、S指導機関士に代替乗務を業務命令、広島運転本部主任と十数名の鉄道公安職員に護衛されながら運転室に乗り込もうとしたところ、百数十名のピケ隊に押し返され、その後鉄道公安職員を百名に増員、警告に応じないため、ピケ隊と運転室内の被告人を排除し、定刻より40分遅れで発進したという事案で、久留米駅事件方式で業務妨害罪の成立(運転室を占拠しピケ隊を指揮した動労岡山地本津山支部執行委員長に懲役4月、執行猶予2年)を認めた判例だが、以下のとおり説示している。

 「争議行為が少なくとも労働法上一般的に違法とされている国鉄においては、組合は組合員に対する統制権の行使を理由として、斯る違法な争議行為に参加することを強制することは許されず、組合員は右職場集会実施の組合本部指令に服従すべき義務はなく、従って、これに参加を促がす勧誘、説得を受忍すべき義務もない‥‥。」「国鉄当局の適法な業務命令を受けてこれに服従し、就労の意思を以て出務している者の場合においては叙上受忍義務のないことは一層明白であるから、同人に本件職場集会への参加を勧誘、説得するに当つては、その時期、場所、手段、影響等において尚更厳しい制約を受け、団結による示威の程度を超えた物理的な力を以て同人の就労を妨害したり、そのため国鉄の施設や車両を占拠する等して国鉄の正常な列車運行業務を妨害することは、その目的の是非に拘らず許されない」と説示している。

 

  国労岡山操車場駅糸崎駅事件・広島高判昭48.9.13判時727105

 

  国労尼崎駅事件・大阪高判49.4.24判時73440(上告審-最一小判昭52.10.20 刑事裁判資料230812頁 棄却)

 

  動労鳥栖駅事件・福岡高判昭49.5.25判時770号113頁(上告審-最三小決昭50.11.21判時801号101頁 棄却)

   昭和381213日動労は全国7拠点で午後7時から2時間職場集会を実施したが、鳥栖機関区においては門司鉄道管理局は運輸部長を現地対策本部長として、管内26名の指導機関士を鳥栖駅に召集、当日鳥栖から乗務する機関士は旅館に軟禁されたため、S指導機関士(動労組合員だが、国鉄の業務命令に従う)に1922分着、1930分発上り長崎発京都行急行「玄海」(鳥栖駅で機関車を付け替える)の代替乗務を業務命令した。

   本部長の陣頭指揮で、鉄道公安職員に護衛させて機留線の機関車に乗り込ませ、進路前方軌条枕木付近でスクラムを組む動労組合員のマス・ピケにより発進が妨害されたが、警告に応じないため、鉄道公安職員と応援を要請した佐賀県警により引き抜いて排除し、定刻より62分遅れで(但し鳥栖到着が32分遅れ)列車を発進させている

  「組合がたとえ同盟罷業を決議しても、それは公労法上違法であり、民間企業の組合の場合のように法的拘束力をもつものではなく、組合員としては組合の決議、指令にかかわらず同盟罷業に参加することなく就業する自由を有するのであって、これに参加を促がす勧誘、説得を受忍すべき義務はないのである」と説示し、久留米駅事件方式により威力業務妨害罪の成立(動労組合員数百名と共に急行「玄海」号前方軌条の枕木の付近に線路に沿ってスクラムを組んで立ちふさがり、同列車等の発進の妨害を指揮した動労中央執行委員、動労西部地方評議会議長に懲役8月執行猶予2年)、を認めている。

 

  国労東和歌山・和歌山駅事件・大阪高判昭50.9.19刑事裁判月報7-9・10-826

  「国労が企てた本件ストライキが違法なものであることは明らかであり、組合がストライキの決議をしたとしても、組合員に対してストライキへの参加を求めることは組合の統制権を理由としても違法であることに変りはなく、組合員は組合の要請に従ってストライキに参加すべき義務はなく、就労の意思をもって出務している場合においては、その受忍義務のないことは一層明白であって、まして組合は、非組合員に対してストライキへの参加を強制すべき権能を有するものではない。‥‥これらの組合においては、争議行為が禁止されていることのために、違法性阻却が認められる範囲も、争議行為が禁ぜられていない民間企業の場合に比較して自ずから限定されたものとなることもやむを得ないものといわなければならないところ、本件におけるピケッティングが、前記のごとく非組合員あるいはもともとスト対象にもなっていなかつた者に対するもので、前述のような相手方の意思の自由を認めないような態度で相当の時間列車あるいは電車の通行を阻止し国民生活上重大な影響を及ぼしたものであることなど諸般の事情を考慮すると、それが労働争議に際して行なわれたものであるという事実を含めて検討しても、到底それが法秩序全体の見地から許容されるものということはできず、刑法上の違法阻却を認める余地はない。」

 国労広島地本判決を除き全てマス・ピケ事犯であり刑事事件である。動労糸崎駅事件から国労東和歌山駅事件の5判例は可罰的違法性論を実質否認することになった久留米駅事件方式(国労久留米駅事件最大判昭48.4.25刑集273418)の判断枠組により無罪を有罪としたものである。

 いずれも、争議行為と、争議行為に付随する行為を区別して法的評価を行い、「刑罰最小限度論」の刑事免責を認めた全逓東京中郵事件・最大判昭41.10.26刑集20-8-901の判例が維持されている段階(判例変更は昭和52年)で勤務時間内職場大会実施という争議行為そのもの評価は先例のままであっても、これと分離して、マス・ピケは争議行為に付随する行為の範疇で法的評価をおこなった点に特徴があり、実力ピケ等は免責されないことを明確にした判例ともいえる。

 上記は公労法171項違反の争議行為に関する判例だが、同文の地公労法111項を別異に解釈する理由はないので先例とみなしてよいのである。

 なお地公労法111項違反の争議行為についても同趣旨の判例も存在している。

 北九州市交通局(昭和441113日事件)・福岡高判昭53427判タ366は、早朝2時間ストライキを指導した組合書記長、執行委員に対する地公法29条による停職処分が有効とした事案である。

「被控訴人Nは午前4時頃バス出入口でたき火を準備し、労組の旗を立て、N委員長は一番バスの出庫時間の午前430分前に市職労ニユースカーを右出入口を閉鎖する形で駐車させ、組合員らにその位置に集るようよびかけ、もつて右出入口を閉鎖し、被控訴人Nは右出入口で集った組合員らの音頭をとつて労働歌を斉唱させ、集会を司会し開会宣言を行った。その後、N委員長のあいさつ等の間、被控訴人N、同Nは阻止されたバスの前面に立ち、被控訴人Kは集会のためマイクのアンプ操作をし、かくして、右被控訴人らは午前6時まで当局側の退去要請を無視して定期バスの出庫を阻止し、争議行為を指導した。‥‥本件争議行為は威力をもつて業務の遂行を妨害する違法不当なものであつて、このような違法な争議行為をすることを組合内部において決定したとしても、法的拘束力をもつことはなく、‥‥組合役員として従う義務はないものであり、‥‥かかる争議行為をあおり、そそのかしたことを理由に懲戒処分をされたとしても、組合の自主的意思を侵害‥‥を破壊することにはならない。‥‥組合の書記長あるいは執行委員であるといっても‥‥単に組合内部の業務の分掌にすぎず、‥‥責任を云云されるべきいわれはない旨主張するが、本件は‥‥北九州市交通局の業務を威力をもつて妨害した違法な争議行為であり、これを企画、指導した被控訴人らが、組合内部の業務執行を分掌したにすぎないとして責任を免れる理はない‥‥」。

 

(四 補遺(六)英米におけるストに参加しないで就労する権利について(補遺)65頁を参照されたい)

 

(5)東京都の職務命令の放棄、スト協力は、地公労法1条の正常な業務運営を最大限確保する趣旨に反し違法性が強い

 

 地公労法1条は「地方公共団体の経営する企業及び特定地方独立行政法人の正常な運営を最大限に確保」することを目的としている。これは三公社五現業の公労法1条も同文であるが、国鉄や、郵政などでは、ストが決行されても正常な運営を最大限に確保すべく、組合員であれ業務命令を行っている。違法行為に東京都のように職務命令を凍結し拱手傍観することはないのである。東京都は逆に違法ストの防衛に最大限の協力を行うが、事実上、組合との共同統治のような在り方になっているのは法の趣旨に反している。スト防衛、違法行為に加担していることからみて、違法性が強く推定されるので、この慣行を中止することを強く求める。

 以下の三公社五現業と地方公営企業では業務命令を行っている。前記、昭和381213日午後7時から全国7拠点での動労ストについて、糸崎駅と鳥栖駅では、乗務員の身柄が動労側で確保され、旅館などに収容される事態を想定して、指導機関士(同じ動労組合員)を召集し、代務を業務命令している事例である。

 同日の動労尾久駅事件(東京地判昭42731判タ215では、動労と国鉄当局で乗務員の争奪戦が行われている。動労は「1211日から闘争態勢に入り、尾久、田端地区で実施する職場集会に参加させるため、予め組合所属の機関車乗務員の身柄を組合の支配下に確保することを目的として、同日正午から勤務明けの乗務員の収容を開始したのであるが、国鉄当局は、これに対抗して職制、公安員を動員し、列車運行を確保するために乗務員の身柄確保に乗り出したので、同日夕刻頃から当局側と組合側との間で、乗務を終えて機関区に戻って来た機関車乗務員の争奪が行なわれ、小競合いすら生ずる有様であつた」と判文にあるとおり、当局は必死になって、乗務員を確保しストライキに備え、業務命令しているわけである。

 旧郵政省の例では事前に職員に就労意思を確認し就労意思を表明しない職員に業務命令を発出している(昭和48427日(4時間スト)、昭和5012.8.18時間スト)熊本貯金局事件.熊本地判昭63.7.18、労判523、国鉄末期の昭和61215日の千葉動労ストでは、電車の運休を減らす努力として津田沼機関区等が乗務員に対し「私は、昭和 年 月 時 分 私の意思で就労することといたします。ついては、組合のストライキ指令に従うことなく、駅(区、所)長の命令する業務に従事いたします。」との確認書を提出させている(国鉄清算事業団事件.千葉地判平5.3.15)。

 日本専売公社山形工場事件・昭53331仙台高判民集353565(昭和44年)山形工場においては、四月一七日午前八時の始業時刻から、包装課に勤務する原告ら一六七名は、いっせいに勤務につかず、勤務時間内くい込み行動、(本件争議行為)を行ない、同日午前一一時一〇分までこれを続行した。この本件行動に際し、山形工場は、四月一五日以降構内の事務室、食堂、廊下、作業現場など職員の目のつくところに、違法不当な行為をすることは容認できず、かような業務阻害行為は法の禁止するところであり、かかる違法不当な行為を行なつた場合相当な処置をとらざるを得ないこと、また、万一勤務時間内くい込み行動が行なわれてもこれに参加せず就労の意思のある職員は、四月一六日午前中に申し出るべき旨の警告文を掲示している。

 札幌市交通局でも業務命令している(札幌市労連事件札幌地判昭41.5.22判時449)昭和37615日午前6時より札幌市労連による市電と市バス乗務拒否を主眼とする争議行為「 交通局長は、電車部長に対し、係員(札幌交通労働組合の組合員であるが、運転手等から昇進し運行に関する事項等の事務関係の職務に従事している者)などをもつて電車の運行にあたらせ、ピケットが張られている場合にはピケットを排除して運行させることを命令し、同部長は電車の運行を業務課長に、ピケットの排除を整備課長に指示した。課長は前記の係員に対し札幌駅前にある交通局中央営業所に集合することを命じ、午前八時三〇分ごろ、集合した係員のうち数名の者を、乗務要員として当時運行していた電車の乗務にあたらせ、また別に乗務編成をしたY係員など24名の者を、中央車庫からの乗務要員として交通局に送り込んだ。」これらの組合員は組合役員からの乗務拒否の呼び掛けに応じず、業務命令に従っている。

 

(6)小括

 

  当局は、「就業命令しない=ピケットラインの尊重=集団意思による個人意思の制圧」を事実上示唆しているため、職員のすべては組合のスト参加の勧誘、説得に応じるべきものという前提で、就労したい職員ですら、服務の基本的義務であるICカードリーダによる出勤入力を認めず、他の説得に応じた非組合員と同様、事故欠勤扱いにしようとして就労の権利を侵害する。

  これは職員部監察指導課が認める組織的対応なのである(もしくは秘密文書で方針が明記されている方針かもしれない)。

  組合と管理職の共謀により、違法行為の慫慂が事実上管理職によってなされる実態である。職務を離脱していて勤務実態なく詐欺的に賃金を受け取る「事故欠勤」の指示とその申請をする非組合員もコンプライアンスに著しく反する。

  この点は、令和元年1220日の1時間ストで当時新宿営業所長の〇〇〇〇が、組合の要請のもとに、いっさい業務命令せず、多数の非組合員の事故欠勤を承認しているので、その理由を事情聴取すればわかることである。

 

 

3 東京都水道局は 積極的業務妨害・外形上犯罪構成要件該当行為を許容している

 

 

🔷新宿営業所の事務室内を多衆で占拠するシットダウンストライキや業務用機器の隠匿は業務妨害罪の犯罪構成要件該当行為なので、管理意思を明確にして強く中止・解散命令等を行う。強行した場合は業務妨害罪の刑事処分もありうることを事前に警告すること。

🔷本部役員のオルグ、ピケや支所・合理化拠点集会での外来者の立ち入り、セキュリティ破りのスト待機は、管理意思を明確にして建造物侵入罪を成立させるべき。

 

 全水道東水労の争議行為及び争議行為に付随してなされる外形上犯罪構成要件該当行為の問題である。

 最高裁先例によれば、争議行為は労務提供拒否という不作為を本質とし、これに随伴する行為も消極的限度にとどまるべきとする(朝日新聞西部本社事件・最大判昭27.10.22民集6927、羽幌炭礦鉄道事件・最大判昭33.5.28刑集12816)前提であり、プロレイバー学説のように、争議権に業務阻害権を含むことを否定している。東京都はプロレイバー学説に忠実な左翼体質で、積極的業務妨害も全面的に容認しているという問題である。

 地方公営企業では争議行為が禁止されているので、単純不作為の職場離脱(ウォークアウト)も勿論違法行為であるが、全水道東水労のストは、私企業のストでも免責されない積極的な業務妨害を行う点でより悪質と断定できる。

 既に威力業務妨害罪は時効であるが、令和元年1220日の1時間ストで、新宿営業所でなされたのは、事務室の検針担当執務エリアを40人程度で占拠して集会する態様で、物理的に業務遂行を不可能にするシットダウンストライキである。また業務用機器をストの時間帯隠匿される業務阻害があった。これには組合役員でない当時〇〇〇課長代理らが関与している疑いが強く、外形上業務妨害罪の構成要件該当行為である。

 当時〇〇所長は、シットダウンストライキという業務妨害を全面的に容認し、中止・解散・就労命令はやっていない。私がお客様からの苦情の電話を処理しつつも、見ていることである。 私は、ストの最中、〇〇所長に中止命令すべきと進言したが、「これはストなんだよ」と言い返してきた。積極的業務妨害があって当然なんだという組合の主張を認めているのである。

 スト実行指導者といえる集会の演説者、〇〇、〇〇、〇〇についても現認検書を作成しないと言っていた。なおピケッティングに立って私を出ていけと指図し、集会でも演説してストを指導した〇〇は年度末に主任に昇進している。違法行為を指導して処分されないどころか昇進するのが東京都の倣いである。

 犯罪構成要件該当行為の是認は当然という認識のようであるが、それは公労法違反の争議行為で刑事免責を肯定した中郵判決が判例を維持し、可罰的違法性論による無罪判決の多かった昭和40年代の考え方で、国鉄久留米駅事件・最大判昭48.4.25以降、マス・ピケ等の無罪は有罪とされ、公労法違反の争議行為とそれに付随する行為につき、刑事免責を否定した全逓名古屋中郵事件・最大判昭52.5.4は、郵便法違反幇助、建造物侵入を有罪とし、同判決方式の判断枠組をあてはめれば、新宿営業所でなされたことは、違法性が阻却されることはありえない。管理職でも違法性の判断ができない以上、再教育が必要に思える。

 職員部から就労命令等の指示はないため、職員部の指示どおり動き、犯罪構成要件該当行為容認がコンプライアンスとなっている。管理意思を示すことを義務づけ犯罪を成立させるべき。

 このほか、本部役員のオルグ演説、ピケ等での立ち入り、支所・合理化拠点の決起集会の外来者である動員組合員の立ち入り、スト前日から当日の深夜・未明に警備会社と契約しているセキュリティを破って事務室に出入りするスト待機についても管理意思を明確に示し、刑事処分にせずとも、少なくとも建造物侵入罪を成立させるべきである。

 名古屋中郵判決の判断枠組は以下のとおり(香城敏麿・国労松山駅事件・最二小判昭53.3.3刑集322159判解 公労法171項の判例だが、文言が同じ地公労法111項を別異に解釈する必要はない)

 

(イ)公労法171項違反の争議行為が罰則の構成要件にあたる場合には、労組法12項の適用はなく、他の特段の違法性阻却理由がない限り、刑事法上これを違法とすべきである。

(ロ)但し、右の争議行為が単なる労務不提供のような不作為を内容とするものであって、公労法171項が存在しなければ正当な争議行為として処罰を受けないようなものである場合には、その単純参加者に限り、当該罰則による処罰を阻却される。

(ハ)これに対し、公労法17条違反の争議行為にあたらず、これに付随して行われた犯罪構成要件該当行為の場合には、その行為が同条項違反の争議行為に際して行われたものである事実を含めて、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきか否かを考察してその違法性阻却事由の有無を判断しなければなない。

 少なくとも外形的には新宿営業所の職場占拠と、業務用機器の隠匿は(イ)の範疇に当たり、業務妨害罪は管理意思を明確に示せば違法性は阻却されないはず。オルグやピケッティング目的の無許可侵入、スト待機の深夜の無許可庁舎侵入は(ハ)に当たり、外形上建造物侵入罪の犯罪構成要件該当行為に当たり、退去命令をすれば不退去罪。組合側は当局が管理意思を示さず容認しているから犯罪にならないと主張するだろうから、今後は無許可組合活動の禁止を規則で明文化し、中止命令等の管理意思を示し、犯罪を成立させる。刑事事件にせずとも懲戒処分の対象とすべき。

 

 

(二)東京都は違法行為責任を団体である労働組合が負担、指令に従う個々の労働者に懲戒責任は問えないという誤った法解釈により、本部中闘以外の懲戒責任を問わないので、事実上争議行為を正当業務としている慣行の是正

 

       東京都の左翼体質を糾弾する本意見書の核心である。

 

 

1 全逓勝利の昭和46年都城郵便局地裁判決の組合側の主張がまかりとおっている不思議

 

〇都城郵便局懲戒処分取消請求事件・東京地判昭46.11.12労民2261030とは、懲戒免職、停職一年、三月、一月の処分を取消、目的及び態様において正当な争議行為として全逓が全面的に勝利した異色の判例である。

 判旨ではなく全逓側の主張であるが「争議行為は労働者の団結体である労働組合自体の行為であり、しかも争議行為は多数組合員の集団的、共同的な活動であることを本質とする行為であるから、違法な争議行為が行なわれた場合にも、その責任は団体である労働組合が負担すべきであって、争議行為を個々の参加者の行為に分解して、個別的労働関係の場において、個々の参加者の責任を追求することは許されない‥争議行為は労働者が企業秩序の拘束から集団的に離脱し、使用者の労務指揮権を排除することを目的とする行為であるから‥‥個々の労働者の行為に対し、懲戒をすることを許されない」と述べている。

 同様の見解を平成26年に全水道東水労の中野分会〇〇書記長が言っていたのを聴いており、かつて官公労が定番でなされていた主張と言ってよいだろう。

 プロレイバー学説としては、片岡曻「公務員の争議行為と不利益処分」季刊労働法73141969「たとい労働組合の争議行為が違法であるとしても、個々の組合員の行為が当該争議行為を組成し、その圏内にある行為と認められるかぎり、これを独立の行為として、使用者との関係における個別契約法的評価にさらし、使用者からの懲戒その他の民事上の責任の追及を許容することはできない」が同趣旨である。

 違法な争議行為でも責任を負うのは組合とする理屈と大差ないところで水道局は本部中闘を停職にしている。プロレイバー学説は幹部責任も含めて懲戒処分を否定するが、当局のメンツもあるため、争議の企画指導を行う組合中央の機関だけ責任を問うという東京都のやり方は、プロレイバー学説のバリエーションを採用しているといえるのである。

 肝心なところは、大多数の指令にしたがって組織の義務を果たしている組合員は懲戒処分を免れることに変わりはないということである。

 東京都水道局だけでなく、都の他の部局も同じだと思うが、上記で引用した組合側の理屈に準拠して、各事業所でストを実践指導、違法行為を慫慂している大多数の組合役員(本部中闘以外の中執、本部委員、統制委員、支部・分会役員)は懲戒責任を問うことをしない。対象外である。平成221210日以降、3回の同盟罷業については支部長を訓告としているが、訓告は、人事記録に載るだけで懲戒処分ではなく、痛くない。依然として懲戒責任が免れている実態にある。

 

 

2 インチキで事前警告としては意味をなさない「服務の示達」慣行

 

 ところで水道局で同盟罷業が地公労法違反の違法行為であるとして、中止の申し入れを行っていると確実に言えるのは、組合中央執行委員長あての局長名の文書だけである。この警告にもとづいて、違法争議行為の責任はすべて組合中央の機関にのみ帰せられるべきと東京都方式の停職処分はなされるが、職員一般は全く違う対応になる。

 水道局の争議行為対応はシンプルで、局長名で各部長宛てに服務規律の確保のため地公法30条の服務の基本方針を形式的に述べたA文書と、それを受けて職員部監察指導課が各庶務担当課長宛てに具体的な指示をする「服務の示達」についてというB文書を流し、各管理職は庶務担当課長の指示を受け、部下に対し以下のような訓示をマイク放送、または口頭、近年ではグループウェアで行うこともある。文面は規定されておらず、スト前日に貼りだすとされている、「職員の皆様へ」という雛形か、A文書を参考にして当たり障りのない文面になるのが通例である。なおB文書には各事業場の組合役員にはストライキの中止の申し入れをするとしているが、見たことがないし、具体的に文言も決まっていないので、実際に何をやっているかは不明なのでここでは論外とする。

 

服務の示達の最近の例

 

(グルーブウェアによる平成6年の都労連闘争の例) 

   〇〇西部支所庶務課長/杉並営業所長 庶務課.杉並営業所の皆様へ、全水道東京水道労働組合は1114日(木)午前830分から早朝1時間ストライキを計画している模様です。また、東京水道労働組合は、1114日(木)は(中略)

   集会等の行動に参加するために多数の職員が職場を離れ、かつ権限ある上司の承認なく勤務しない等の行為に及ぶことは、当局業務の正常な運営に支障を生じさせるばかりでなく、都民の信頼に背く結果となることは明らかです。

   皆様におかれましては、全体の奉仕者として公共の利益のために全力を挙げて職務を遂行するとともに、服務規律を遵守願います。

 

 

「職員のみなさまへ」

(平成18年頃-現在も同じだと思う。ストの前日に貼りだすことになっているが、杉並営業所では平成2年以降は掲出していない。庶務課長の指示がないものはやらないとのことであった)

 

  皆さんは、都民全体の奉仕者として、公共の利益のために全力を挙げて職務を行う立場にあります。とりわけ、今日都民が都政によせる関心と期待にこたえるため、皆さん一人ひとりの自覚と職務への精励が従来にも増して必要な時期にあります。

 とりわけ、今日都民が都政によせる関心と期待はさらに高まりつつあり、この期待に応えるため、皆さん一人ひとりの自覚と職務への精励が従来にも増して必要な時期にあります。

 ところで、全水道東京水道労働組合は、明日318日に始業時から2時間のストライキを予定している模様です。

 皆さんが一斉に職場を離れることは、都民の生活に大きな影響を与えるばかりでなく、都政に対する信頼を裏切ることになります。

 皆さんが、公務員の本分を十分にわきまえ、都民の批判を招くことのないように良識のある行動をとられることを求めます。

 

 「服務の示達」とは警告を意味するものではありません。「示達」とは、一般に予算要求査定後の「予算の示達」のように、上級部署から下級部署への指示を指します。そのため、通常は各職員への訓示や警告としては用いられません。「服務の示達」はA文書の局長から各部長級宛ての文書を指しており、職員向けの訓示が「服務の示達」と通称されているということである。

 「警告」ならば役員や職員向けとわかるが、示達だから警告でも就業命令でもないというごまかしがあるのである。

   官公庁のストライキ配置時の「警告」というのは違法行為なので「厳正な措置をとらざるを得ない」(全医労事件役員向け)「必要な措置をとらざるをえない」(全医労事件全職員向け)「厳重に対処せざるを得ない」(JR東日本-千葉動労安全確認闘争)「厳正な措置をとる」(全農林71賃金闘争)「関係法令に基づき必要な措置をとらざるをえない」(全運輸近畿陸運支部事件)「「相当な処置をとらざるを得ない」(日本専売公社山形工場事件)と言う文言になるのが通例だが、東京都の「服務の示達」は「違法行為」ということを絶対言わない「お約束」で、それに続く「厳正な措置」「必要な措置」等の文言はない。

 違法行為という文言があれば、地方公務員法291号、32条の法令遵守義務違反にひっかかるが、そうではないから懲戒処分にはしませんよという裏メッセージが読み取れるのが、「服務の示達」なのであって、組合員もこれはわかっている。実際にこの文言では懲戒処分できないと組合員が言っているのを聴いた。

 本部執行委員長あての「中止の申し入れ」には地公労法違反ということが書かれているのは、本部中闘を停職処分する前提として違法行為と言っているのである。しかし懲戒処分しないことになっている各事業所の組合役員等には違法行為と言わないのである。

 その理由は前記プロレイバー学説により、指令に従ってストを実践指導する役員も、単純参加者も個別懲戒責任を負わせることができないという趣旨と解釈できるからである。

 このやり方は都と組合との間で擦り合わせがあるのか、たんに忖度かは知らないが、昭和末期から同じである。

 組合活動を理由に不利益賦課させないという組合の主張どおりであるが、しかしこの見解は、●全逓東北地本懲戒免職事件・最三小判昭53.7.18民集3251030において、

  「労働者の争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも、多言を要しない」と判示したことにより否定されている。

 東京都はこの最高裁先例を全く無視している点で非常に偏った労務管理といえる。法の解釈が誤っているので是正されなければならない。

 平成中期ごろは、本部中央闘争委員会というのは10人くらいいたが、近年は少なくなっていて、水道局と下水道局あわせて5人程度。うち水道局は34人であるから懲戒処分されるのは3人とかで、大多数の組合員は懲戒責任から免れることになっているので組合に非常に有利なものになっている。

 プロレイバー学説に基づいた争議行為への対応では、違法行為について明確に違法であると述べず、職員への意識付けも行われていない。そのため、争議行為が正当な業務と誤認される可能性がある。ストライキへの参加が法令遵守義務違反となるリスクについて職員に周知しないことは、コンプライアンス上の課題となる。このような「服務の示達」に関する慣行は、見直しが求められる。

 

3 小括

 

🔷職員一般に従来行ってない、違法行為には必要な措置をとるとの文言のある事前警告を行うべき。

🔷懲戒処分の前例は本部中央闘争委員の34名に限定し、指令に従っている大多数の組合員の懲戒責任は問わないことになっているが、組合に著しく有利で、抑止効果に乏しいため、今後、各事業場に勤務する役員以下でスト集会の実行行為者は、各事業場単位で最低1名、戒告以上の処分をするよう方針を改めるべき

 

 

(三) 労務指揮権を凍結させる組合の業務管理を受容れている 

 

🔷平成26年の中野営業所監理団体業務移転拒否闘争のような、所長の労務指揮権を組合に奪取されることがないよう、ガバナンスを徹底させ、組合役員が労務指揮権に介入したり、業務妨害に対しては毅然とした対応をとり、懲戒処分も行うこととする

 

 平成261241時間ストライキが決行された後、組合は中野営業所監理団体業務移転阻止闘争のオルグ活動に入り、退職派遣制度(一時出向して戻る)を希望させない。人事課による退職派遣(一時的に退職扱になるが23後に都職員の身分に戻ることができる制度)の説明会には出席させないことを組合員に徹底させたうえ、当局を交渉にひきずりこむという戦略の闘争がなされた。

 2月5日には〇〇〇〇本部委員が勤務時間中オルグ演説し、当日の2階会議室における職員部人事課の退職派遣説明会の入場を阻止するピケを会議室前の廊下で張った。所長〇〇は容認した。一方で〇〇分会書記長が、移転業務の一つである固定資産、備品リストの照合業務のため来所したところ、〇〇課長補佐(営業係長)に組合の闘争に協力しないとまずいことになりますよと言い、サービス推進部業務課担当者を追い返し、業務妨害を行った。

 さらに〇〇分会書記長は〇〇営業所長に対し移転関連業務の業務命令をしないよう強要したことである。

   移転関連業務が進捗しないから、4月移転は無理ということになり、組合の主張のとおり7月移転に延期したのである。

 〇〇所長に質問したところ、非経常業務は組合と事前協議することになっており、協議が不調なので業務命令はしないとの趣旨を言っていたが、言い訳としては苦しい。

 事前協議の対象であるとしても、それは数か月前から再三やってきたことで、決裂後の対応としては業務命令するしかないはず。

 組合員である〇〇課長補佐の指示に従えとのことだったが、上級部署の指示に従うのがコンプライアンスであるから、組合に屈服してしまうのは問題がある。しかも組合は武装解除し退職派遣に協力せよと言うならサービス推進部担当者に謝罪の文書を要求、実際に中野営業所にきて頭を下げるよう強要もしている。

 出先の各事業所では、普段から経常業務以外は事前協議で管理職は組合役員にお伺いする立場で、争議行為は労務指揮権・施設管理権凍結が通例なので、上級部署の指示は止まってしまうことがあるのである。

 以上述べた〇〇本部委員や〇〇分会書記長の行為は、地公労法111項違反行為であるが、報告していないにせよ本庁職員部当局は闘争が継続にしていることに関心がない。124日のストは25日に処分を終えており、争議行為は終わったものと認識しているのが大間違いである。本部中闘指令の同盟罷業と動員集会等というスケジュール闘争だけ争議行為と認識し、特定拠点の争議行為は放置するのが職員部当局である。

 労務指揮権が空洞化してしまうのは、スケジュール化された争議行為でいっさい職務命令をやらない慣行がきいているのである。日頃から違法行為の抑止、職務命令という国の官庁ではあたりまえのことをやってないので、交渉決裂後の業務命令のような修羅場の状況でも組合のいいなりになってしまう。

 組合による労務指揮権奪取を防ぎ、組合に掣肘されない業務運営のため、特別査察チームを派遣するなど、職制側の増員支援も必要といえるだろう。

 

 

(四)三六協定破棄闘争時に労務指揮権を凍結する慣行の見直し

 

🔷現状は組合の意向に従い労基法上違法な業務命令をさせない在り方だが、労務指揮権凍結を許容し組合が管理職に下位職務を指図するあり方は異常で、必要不可欠な時間外の経常業務、事前に日程に組まれ委託業者に影響をもたらす時間外業務は、労働基準法違反を承知で、業務命令する方針に改めるべき

 

 水道局と過半数組合である全水道東水労の時間外に関する協定(三六協定)では1年おきに更新されるが、第10条で「この協約は、あらかじめ乙が指定する日については、保安のために必要な要員に限定して適用する」という組合が一方的に破棄できる条項があり、令和5年度は、1115日、12192021日、123日、31112日を指定して超過勤務拒否闘争を実施した。近年では年間10日を超えることはまずないが、毎年恒例であるほか、業務手当闘争のあった平成16年には業務手当闘争で9日間連続の破棄闘争など、かなりの日数、超勤拒否闘争を行った。20日間ぐらい闘争がなされた職場がある。三六協定一方的破棄闘争(超過勤務拒否)は、悪質な職制麻痺闘争だが、毎年同じ時期に恒常的に行われ当日は組合役員に加えて管理職も触れ回って残業厳禁とするのが通例であり、当局も適法と認めている。

 保安要員は労働調整法で争議行為時に義務付けられている趣旨でなく、当局との協議によるもので、浄水場、水運用センターなど水供給に支障なく、突発事故に対応できる最低限の人員と考えられる。保安要員を置くこと自体がすでに正常な業務運営ではない。また営業所ではレジをスタンバイする等時間外の一連の経常業務を組合役員が管理職対応として下位職職務を指図してやらせるいやがらせも行われている。

(なお、保安要員の範囲は、私が水道特別作業隊に在籍していた当時、庶務係や企画担当も含めて保安要員だったものが、平成20年の給水部の部署と合併して水道緊急隊に組織改正されたが、技術系職員と事務職員もいる工務係が保安要員から外れている)

 三六協定破棄闘争は、内閣法制局意見昭32.9.9法制局一発22号(前田正道編『法制意見百選』766頁(従来更新を重ねてきた三六協定の更新拒否が、超過勤務自体の条件改善のためではなく、労使間の他の要求貫徹の手段としてなされるときには、禁止された争議行為にあたるという趣旨)や内閣法制局意見に近似している見解をとった北九州市交通局事件.最一小判昭63.12.8に照らして、争議行為である疑いが極めて濃いにもかかわらず、当局の見解は、北九州市交通局事件で三六協定未締結での超勤拒否闘争を争議行為と認定したのは平常ダイヤのバス運行が9勤務、超過勤務が前提のものだからとして、水道局ではバス運転手のように毎日超勤を義務付けている職場はないので、適法とするのである(平成15年に上司を通して職員部の見解を確認した)。

 しかし営業所でも経常業務で超勤はあるし超勤予算もとっている。又、毎日ではなくても配水課などでは夜間作業が頻繁にあり、時間外労働がなければ成り立たない職場である。職員部当局は三六協定破棄を適法とする判断で、協定未締結で労務指揮権は凍結されるとの組合の見解を受け容れているため管理職は労務指揮権を放棄することがコンプライアンスということになっている。

 水道緊急隊は工務係を除き保安要員とされており、突発事故の対応はできるから問題ないと当局はいうだろうが、悪質な職制麻痺闘争である以上、いつでも組合が違法争議目的で労務指揮権が掣肘されることを許している職場慣行は、1400万都民と首都中枢のライフラインを支える企業としては無責任な体制といえるでしょう。

 最高裁は三六協定未締結で国鉄や郵便局が業務命令したケースで、就労を妨害する組合員による、公務執行妨害や業務妨害罪の成立が争点になった事案で労基法違反の業務であっても職務執行職員に対する業務妨害等を有罪としている。

 三六協定未締結で春闘対策本部の非現業職員が列車のボディのビラ剥がし中、国労支援で動員された全電通組合員に殴られた事案につき、①仙台駅ビラ剥がし事件(春闘仙台駅)事件・最二小判昭48525刑集2751115が公務執行妨害罪を認め、②倉敷駅信号所事件・岡山地判昭50117刑事裁判資料228187は、信号所信号掛の代務となる助役の就労をマス・ピケで妨害した事案だが、代務の助役が三六協定の締結されていない状態で時間外労働の業務命令がなされた場合、右業務命令が労基法上違法であるからといって、直ちに、それに基づく業務が刑法234条の業務に該当しないというものではない。刑法上保護される業務としては業務主体がその地位において行なう業務であれば足りると説示した。③全逓名古屋中郵第二事件・最二小判昭5333刑集32297は三六協定未締結の状況での臨時小包便運搬の業務妨害につき名古屋中郵判決方式での「法秩序の全体的見地から」、職務の執行が違法となるものではなく、刑法234条によって保護される業務に該当するとし、威力業務妨害罪の成立を認めている。

 

 総合的に判断すると、国鉄は国労や動労が三六協定未締結であっても業務命令していたように、労基法上違法であっても、それを承知で必要な業務命令をすべき。組合は強行規定で罰則があるから、業務命令は許されないとして管理職を脅し労務指揮権を奪うことが、協定破棄の重要な目的になっており、信義則に反し、これはストライキ決行を有利に進めるため違法行為目的であり、司法はこのような場合「法秩序全体の見地」から労働法優位には判断することはまずない。労基法の罰則を恐れる必要はなく、職員部長の判断で方針変更を行うべきである。

 また、労基法33条により災害時は三六協定未締結でも業務命令できることになっているが、それは組合を刺激するためか周知されておらず、知らない組合役員もいる。

 震度に応じて緊急配備態勢は異なるが、震度6弱以上は夜間・休日発災時には緊急災害出動として、事務職員でも資器材置き場の解錠、給水拠点での応急給水器材の設置、住民への給水活動準備、最寄り事業所での業務といった任務が割り振られている。

 三六協定破棄が土日に設定することは近年にはない。令和5年度は9日だったが、大きな闘争がない場合は年間56日程度であり、平成16年のケースは例外で、闘争時に発災する確率は小さいが、予算ゼロでできる防災対策なので災害時は未締結でも業務命令できることは周知しておくべきである。

 平成233.11の大震災でも春闘の際中で、数日後に三六協定拒否闘争が予定され、組合は機関で闘争を7月に延期して中断し、計画停電対応の待機などに協力する決定を下すまで時間がかかっている。緊急時に即応できる体制とは思えないのである。

 平成71061030分に工事に伴う作業中に既設の水道管が抜け出したため文京区で濁水が発生し、最大6000戸に影響とプレス発表があったが、これがもし三六協定破棄闘争中の夜間ならどうなのか、初動で遅れたりはしないのかと言う問題です。

 本件は、第Ⅱ部四(一)8三六協定破棄闘争115頁でくわしく法律問題を分析しているので参照されたい。

(捕遺)

 仙台鉄道管理局事件最高裁第三小法廷判決で「労働基準法三二条一項は、就労時間の点で労働者を保護することを目的とし、また、もっぱら使用者対労働者間の労働関係について使用者を規制の対象とする強行規定であるが‥‥労働者とその職務執行の相手方その他の第三者との間の法律関係にただちに影響を及ぼすような性質のものではない。‥‥本件職務命令に右強行規定の違反があつたとしても‥‥就労を拘束的に義務付ける部分の効力に影響を及ぼし得るにとどまり、職務執行の権限を付与する性質の部分についての効力にまで消長をきたすべき理由はない‥」の趣旨、その他総合的に考えて、三六協定未締結でも、やむをえない事情があれば、残業したいと考えた。

 全水道東水労により杉並営業所では、平成73101715分から、12日三六協定破棄闘争がなされ(11日夜間に妥結三六協定締結)たが、私は杉並営業所任期最後の年で、課長代理から13日迄事務引継ぎ書を作成し提出を指示されていたので、13日に間に合わせるには残業しないととても無理なので、11日に三六協定破棄ではあるが残業したところ、所長の〇〇から許されないただちに帰れと言ったが、スト待機を許していて、そちらのほうこそ違法行為目的の滞留なので退去命令するのが筋というと、組合はこの時はストはやらない雰囲気だったのでスト待機しないこととなり、私だけが残業し、所長は本庁から組合協議を指示されたが、組合は認めないということで、所長は退庁命令して怒り、労働基準法違反で処分されるよと言い、事務室内執務を認めないとして午後7時半頃に施錠して私を閉じこめるかたちで、帰宅した。私は毎日残業しており、できれば10日も残業したかったがもめることはわかっていたが、さすがに11日は残業した。その後午後10時まで仕事をして帰った。

 このように管理職職制は、組合のいいなりで、三六協定破棄闘争時は、職場から追い出す任務に徹するのである。

 

 

四 補遺(各論)

 

(一)東水労は1時間ストが多用されるが北海道教委のスト参加者全員戒告処分を最高裁が適法としており、短時間ストだから処分を遠慮する理由はない。

 

 水道局では私が経験したものでは2時間ストが最大で1回だけ平成初期にあった、過去7回は1時間ストである。その理由を推測すると処分の相場からして、1時間ストなら当局が懲戒処分対象を拡大することはないと東水労側が踏んでいる。ストを決行できるというのが東水労の強みでもあるわけで、そのために本部費月例給与1.7%の組合費により闘争資金を蓄積しているのだから、やっていく必要もあるものと推定している。

 1時間ストはたいしたことはないと言う人がいるかもしれないが、今日の判例法理では、強い違法性がないからとか国民生活への影響が大きくないことが違法性を阻却することにはならないのであって、違法行為の抑止に遠慮する理由はない。

 私が思うに単純参加者の処分の雛型と思えるのが、昭和46年の全林野の半日ストの処分例で、23時間程度職務放棄で戒告、4時間以上で減給である(全林野旭川地本事件.旭川地判昭50.7.17労民33-5-900 ストの指導を理由として旭川地本役員停職十日~三月、単純参加組合員4時間の職務放棄 減給110 1カ月美瑛営林署分会50人、名寄営林署分会組合員34人、1時間45分~2時間40分の職務放棄 戒告 羽幌営林署分会組合員48人)。

 

 

  懲戒処分の相場として参考例

 

   全林野旭川地本事件最二小昭62327判タ634(●二審札幌高裁昭571027労民335893◯一審旭川地判昭50717判タ328

 

 全林野が昭和46年春闘に際し大幅賃上げ等を目的として三回にわたりストを実施し、全林野旭川地本の三営林署分会で2時間半ないし4時間の職場集会を行ったことに対する141名に対する下記の懲戒処分取消請求訴訟である。

 原告は美瑛営林署長、旭川営林局長、名寄営林署長、羽幌営林署長によって任用された国有林野事業に従事している全林野組合員である。一審は処分を違法とするが、二審は処分を適法とする。最高裁は棄却。

 

○減給三月(1)、減給一月(49)

処分理由 昭和46423日に違法な職場放棄に参加した。

職場放棄時間 4時間

違反事項 公労法171項、国公法961(服務の根本基準)981(法令遵守、上司の職務命令に従う義務)99(信用失墜行為の禁止)1011(職務専念義務)

適用条項 国公法82条各号

(ほかに1名が430日の職場放棄4時間で減給1ヶ月)

 

○戒告(47)

処分理由 昭和46520日に違法な職場放棄に参加した。

職場放棄時間 2時間19分~2時間40(46)1時間45(1)

違反事項 公労法171項、国公法961(服務の根本基準)981(法令遵守、上司の職務命令に従う義務)99(信用失墜行為の禁止)1011(職務専念義務)

適用条項 国公法82条各号

 

○停職三月(3名地本委員長専従、地本副委員長専従、地本書記長専従)

○停職一月(2名地本執行委員長)

○停職20日間(1名地本執行委員専従)

以上6名の違反事項は公労法171項、国公法99条 適用条項は国公法821号、3

 

○停職10日間(地本執行委員6)

違反事項 公労法171項、国公法961(服務の根本基準)981(上司の職務命令に従う義務)99(信用失墜行為の禁止)1011(職務専念義務)

適用条項 国公法82条各号

 

 このころまでは、国の省庁の処分は厳しかった。上記判例に即していうと、職務離脱が単純参加でも半日ストなら減給は相場だろう。2時間半なら戒告にしなきゃまずいだろうということになる。

   これより厳しいものとしては江戸川・昭島郵便局事件・東京地判昭48.6.28 判タ297がある。

昭和43425日  

就労命令を無視し46分ないし1時間20分の欠務行為 戒告

就労命令を無視し3時間15分ないし3時間50分の欠務行為 減給1101ヶ月)

これは下級審判例で、最高裁判例までそろっている林野庁判例のほうがモデルになりやすい。

 郵政の場合は、郵便法791項に罰則規定があること、森山欽司政務次官のような労務管理に厳しい政治家もいたので争議行為対応に温度差がある。しかも昭和48年以降は段落としといって、懲戒処分の量定を一段落としたので、単純参加で46分ないし1時間20分の欠務行為で戒告は標準的とはいいにくいこともあるので、1時間程度のストは、支部分会役員の懲戒処分はあっても単純参加者の戒告は相場とはいいにくい状況だったといえる。

 昭和48年以降郵政と電電公社で「段落とし」と称する処分の量定を緩めたが(誤解しないように言っておくと、昭和48年以降の最高裁は組合活動や争議行為に厳しい判決が続出したわけだが、三公社五現業の処分の量定は逆にゆるくなっている。むしろ最高裁が左傾化していた昭和41年から46年頃のほうが処分は厳しかった)、昭和40年代中頃なら、半日以上のストをやると、郵政など組合中央執行委員は18条解雇が普通に行われていたので、いかに組合寄りの処分しかしない東京都といえども、目立つストライキをやると体面上態度を硬化せざるをえなくなるから、1時間ストでは、後述の平成20年の北教組ストで単純参加者を一律戒告にした北海道教委のケースもあるけれども、知らない人も多いし、ふつう単純参加者は懲戒処分までやらないのが通例なので、1時間ストは安全運転と踏んでいるためと思われる。

 組合側は過去の慣例から1時間ストなら、懲戒は本部中闘だけ、国の省庁や厳正な措置をとっている自治体のように大量懲戒処分に踏み込むことはないし、実際、職員一般に事前警告がなく就業命令もやってないので、地公法291号、32条適条の懲戒処分は困難と踏んでいるのだろう。処分の前提になるスト指導者等の現認検書の上申は職員部から義務付けられてないし、現場の管理職も職員部監察指導課が指示していないことはやらないうえ、非組合員を事故欠勤させるなど管理職がストに協力している馴れ合い状態、組合は当局、管理職を取り込むことにも自信をもっているので、懲戒処分の対象は拡大しないのである。

 全水道東水労は、公務員であれ私企業であれストが稀になっている状況で、平成20年代に3年おきとかストライキを打てる組合として誇りをもっていて、管理職側を取り込んでいるので今後も1時間ストはやっていくと考えている。

 しかし近年の判例として北海道労委事件・最二小判決平28.6.17(中労委データベース参照)があり、北教組(混合組合)の平成20130日終業時1時間同盟罷業につき、道教委は30分以上の職務離脱者12551名に対し組合役員も単純参加者も無差別に一律戒告処分としたが、地公労法附則で地公労法111項が適用される養護学校の単純労務職員(介護員)が、参加行為に藉口して組合の弱体化を図ろうとして過重な処分であり、北教組の組織運営を妨げ、組織拡大、職場における影響力を甚だしく削ぐとして救済を申立て、平成23624日道労委命令は本件処分を労組法73号(支配介入)に該当する不当労働行為としたが、北海道が救済命令取消訴訟を提起し、最高裁は救済命令を取消、戒告処分を適法と判示した二審を支持した。30分~60分という短時間であれ、同盟罷業の単純参加であっても懲戒処分は免れないことが確定したといえる。文部省は昔から単純参加者も処分すべきと指導していた経過があり、都道府県により温度差があるとはいえ、参加者全員処分の前例はあるが、北海道では初めてだった。

 ちなみに、前記北教組1時間ストで札幌市教委の処分は、() 支部長に対し減給2月、() 副支部長、書記長、書記次長ら5名に対し各減給1月、() その他の支部専従役員に対し戒告、() 授業を欠務したストライキ参加組合員190名に対し戒告、() その他のストライキ参加組合員1,698名に対し文書訓告(道労委命令書より引用)で、ストを指導する支部役員と、単純参加者では軽重をつけた処分となっているが、通例の在り方とはいえるだろう。

 都水道局では支部・分会役員も懲戒処分していないのに、いきなり全員懲戒処分などしたら、職場が抗議活動で荒れ、収拾がつかなくなるかもしれないし、私はそこまで求めてはいない。しかし北海道労委事件は、水道局に適用される地公労法111項違反の争議行為としての処分であり、先例なのであるから、やる気があればそれも可能といえる。

 

 

(二)本部中央闘争委員の停職13日程度で騙されないでください

 

 私は東京都水道局が争議行為を組合の正当業務を扱っていると主張しているが、当局は、全水道東水労は中央闘争委員を停職としているので、正当業務として認めているわけではない旨反論するだろうが、騙されないでください。これだけ争議行為を繰り返し悪質なのに停職は34名で、令和元年1220日の1時間ストの例では最大13日の停職です。全水道東水労は水道局内の令和元年の組合員総数は2,778名で組合本部費月例給与の1.7%をチェックオフで徴収(これ以外に支部費がある)しているので、闘争資金は蓄積しているはず。組合が補償しても痛くないもので、それゆえ悪質なストが繰り返されている。組合は支部・分会役員以下の懲戒処分、特に大量処分がない限り堪えることはありません。現状は安心して違法行為できるようになっている。

 懲戒責任を問う範囲を本部中闘委員会のメンバーに局限し、実際に各事業場でストを指導している本部委員、統制委員、支部.分会役員、率先助勢者以下大多数の組合員は、懲戒責任を問わない方針としていることが重大問題です(少数組合の自治労連系東水労も組合委員長等に限定して処分しているが、組織率1.1%でほとんど影響力がないのでここでは問題にしない)。

 それでも、1時間ストで本部中闘の停職最大13日はそれなりに重い量定ではないかと思う方がおられるかもしれないが、そんなことはないです

 例えば北海道開発局昭和46715日全開発の午前830分から29分間以内の職場集会では、在庁職員約8,500名中77%の約6,600名が参加。本部執行委員長.書記長を停職一月、本部副委員長を六月間俸給の月額の10分の1、本部会計長.支部役員(19名)を同じく二月間の減給処分、本部執行委員(3名)支部役員(14名)同じく一月間の減給処分(北海道開発局事件・札幌地判昭54.10.9判時964、札幌高判58.3.15訴務月報299)で、水道局では支部役員以下の懲戒がなく、本部中闘だけで責任をかぶって最大13日の停職ですから、北海道開発庁の処分の方が明らかに重いです。

 また全農林が、1時間のストライキを実施したことにつき、昭和55年に中央執行委員が停職一月の懲戒処分を受けたこと、1時間29分間のストライキにつき、昭和56年に中央執行委員が停職二月の懲戒処分を受け、1時間29分間のストライキにつき、昭和57年中央執行委員が停職二月の懲戒処分を受け、1時間29分間のストライキにつき、昭和59426日に副中央執行委員長らが停職三月等の懲戒処分を受け、2時間のストライキを実施したことにつき、昭和60年に副中央執行委員長らが停職四月等の懲戒処分を受けたこと及び29分間のストライキにつき、同年に副中央執行委員長が停職一月の懲戒処分を受けた(全農林82秋季年末闘争事件・東京地判平3.10.31判時1331。全農林は昭和50年代毎年のようにストを決行していたこともあるが、農林省の処分の量定との対比では水道局の本部中闘の量定が特に重いということはない。

 問題は、指令を受ける組合役員に関しては一切懲戒責任が問われないということです。本部中闘以外の幹部責任は問われない。

 事実上、正当業務扱いというのは、大多数の組合員は、同盟罷業が違法行為という「警告」も就業命令も受けておらず、違法行為を実行しても懲戒責任(地公法291号、32条適条の懲戒は絶対しないことが暗黙の了解)は問われないことがはじめからわかっているので、安心して違法行為の慫慂、あおり、ストの指導ができる在り方のことを言っています。

 つまり、当局は組合側の論理で、懲戒処分は個別的労働関係において責任を問うものであるから、集団的労働関係にある労働組合の活動に参加した組合員の行為は、たとえ団体として違法な行為であっても、これを組合員個人の行為として懲戒責任を問いえないことは団結権保障の法理の当然の帰結というプロレイバー学説に大筋で従い、スト指令を発出した組合中央の機関責任の部分だけ懲戒処分として責任を問い、指令に従ってストを指導している大多数の組合員は不利益賦課されず、保護する方針をとっているからである。懲戒により責任を問うのは本部中闘だけというのは組合に非常に有利な在り方である。

 もっとも、当局も処分の範囲が狭いという問題意識を持っているようで、平成221210日、26124日、令和元年1220日の1時間ストライキで、支部長を申し訳のように訓告処分にしていますが、これは人事記録に載るだけで懲戒ではありません。支部長は定年間際の一丁上がりの人が多く、痛くありません。本部中闘だけの処分ではゆるいという批判をかわすためと考えられます。

 なお、支部長の訓告についても、訓告処分文書の返還と抗議集会がなされます。組合は不当処分としています。

 

 

(三)全水道東水労の積極的業務妨害の対応問題 (公務員ストと刑事免責について判例の変遷)

 

 ここで問題とするのは、全水道東水労の争議行為及び争議行為に付随してなされる外形上犯罪構成要件該当行為である。

 最高裁は早い時期から、争議行為は労務提供拒否という不作為を本質とし、これに随伴する行為も消極的限度にとどまるべきと判示し(●朝日新聞西部本社事件・最大判昭271022民集6927羽幌炭礦鉄道事件・最大判昭33.5.28刑集12816、プロレイバー学説のように、争議権に業務阻害権を含むことを否定している。ところが東京都はプロレイバー学説に忠実な左翼体質で、積極的業務妨害も全面的に容認しているという問題である

 私は、多摩ニュータウン水道事務所、品川営業所、江東営業所、中野営業所、新宿営業所でストライキを経験しているが、多くの場合、スト決行時には構内駐車場で集会がなされる。2時間ストの場合は江東営業所で庁舎内を練り歩くデモもなされるが、むろん単純不作為の職務離脱(ウォークアウト)でも地公労法111項の違反行為であり、解雇・懲戒処分理由となってよいわけです。

 ところが令和元年1220日の新宿営業所では、ウォークアウトでなく、40名ほどが事務室内の中央部を占拠し物理に業務妨害する悪質なシットダウンストライキ、検針担当エリアの占拠なので、非組合員が自席での業務を物理的に不能にしている。そのほか業務用機器を隠匿して、使用不能とする、業務遂行を不能とする行為が行われていた。外形上、威力業務妨害罪の構成要件該当行為といえる。シットダウンストライキは1937年に米国で流行った悪質な態様であり、これはマス・ピケで就労を物理的に妨害する行為だが、争議行為には限界があることを、組合も管理職も全く自覚していないのである。またどこの事業所でも恒常的になされているスト配置日前夜から当日の朝において泊まり込みのスト待機、深夜.未明に出入りしてセキュリティ破りとストライキ突入指令とスト集会の準備が容認されている問題と、本部中執や本部委員のオルグ活動、集会主宰、ピケ等での無断事務室内立入り、庁舎構内立入といった、外形上建造物侵入罪の構成要件該当行為も容認されている。

 組合は当局が管理意思を示していない、容認していることを理由に犯罪は成立しないと言うだろうが、当局が管理意思を示せば容易に犯罪は成立する。それは指導判例である●全逓名古屋中郵事件・最大判昭52.5.4刑集31318の判断枠組みによるものである。

 罰則の構成要件に該当し、違法性があり、責任もある行為は、これを処罰するのが刑事法上の原則であり、東京都が私企業のストでも認められてない犯罪を容認するのは異常で、管理意思を明確に示して犯罪を成立させる方針に切り替えるべきである。

 ここでは、公務員の争議行為をめぐる判例変更の変遷という、公務員ならだれでも知っている事柄なので蛇足だがあらためて概説するものである。

 

🔶名古屋中郵判決が指導判例とされる経緯

 

 地公労法は争議行為を違法としているが、一般の地方公務員に適用される地方公務員法614号のあおりの罪、あおりの企ての罪の罰則規定は適用されないので、「あおり」それ自体で刑罰に処されることはない。ゆえに家宅捜索が入ることはないが、地公労法111条の後段で「唆し」「あおり」が違法とされている以上、18条解雇や懲戒処分理由となることは明らかなことである。12条解雇の先例として北九州市交通局解雇事件・福岡高判昭55.11.1判タ435がある。また懲戒処分の例としては12条解雇の先例として北九州市交通局解雇事件・福岡高判昭55.11.1判タ435がある。また懲戒処分の例としては北九州市病院局事件・最三小判平元.4.25判時1336福岡地判北九州市交通局(昭和441113日事件)・福岡高判昭53427判タ366●北九州市減給日額二分一懲戒処分事件・福岡地判昭56629労判368現業職員給料表分離反対闘争等懲戒免職処分事件(北九州市)・福岡地判昭591226判例地方自治13北九州市交通局事件・最一小判昭63.12.8民集42107があることは既にのべたとおりである。争議権が否定されていることは●北九州市交通局事件・最一小判昭63.12.8以降累次の判例が確定していることである。

 平成26212日に部支所支部長の〇〇(現在は退職)が、東水労は労働組合法が適用される組合なので、ストライキ権があると昼休み集会で述べており、多くの組合員もそのような見解を鵜呑みにしているが、間違いである。

 正確にいえば、水道局職員は労働関係では地公労法が適用され、地公労法4条が「職員に関する労働関係については、この法律の定めるところにより、この法律に定のないものについては、労働組合法(第5条第2項第8号、第7条第1号ただし書、第8条及び第18条の規定を除く。)及び労働関係調整法(第9条、第18条、第26条第4項、第30条及び第35条の2二から第42条までの規定を除く。)の定めるところによる」としている。

 労組法第8条の民事免責は適用除外としているが12項の刑事免責は適用除外とはしていないことから昭和40年代に公務員の争議権をめぐって判例変更が繰り返され、理論的に揺れ、混乱することとなった。

 

全逓東京中郵事件・最大判昭41.10.26が(一)公共企業体等の職員はもとより、国家公務員や地方公務員も憲法二八条にいう勤労者に外ならない以上、原則的には争議権が保障されており、その争議行為が正当な範囲をこえない限り、刑事制裁の対象とならないのであり、労組法一条二項はこの当然のことを注意的に規定したものである。(二)公労法一七条は公共企業体等の職員の争議行為を禁止しているが、その違法行為について刑罰規定を設けることなく、同法一八条がこれに対して解雇の制裁のみを規定し、かつ、同法三条は、損害賠償責任に関する労組法八条を除外しているに過ぎないのであるから、争議行為禁止違反が違法であるというのは、民事責任を免れないとの意味においてである。(三)公労法は、労組法一条二項の規定の適用を排除していないのであるから、当然その適用があるものというべく、公共企業体等の職員の争議行為が正当な範囲をこえない限り、同条により刑事免責されるという左傾化はした判断をとり先例の●国鉄檜山丸事件・最二小判昭38.3.15を判例変更した。刑事免責が適用されるとなると、争議行為を正当業務と認めたのも同然という解釈が可能である。

 しかしこの判断は再度判例変更により否認されているので、争議権があるという主張は間違いであるということはいうまでもない。東京都の職場風土では判例変更が徹底していない。

 公務員なら周知のことであるが、最高裁の理論的な揺れについて説明しておく。まず適用除外規程のある民事免責の否定については、最高裁は一貫している。

 

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 ◯全逓東京中郵事件・最大判昭41.10.26刑集208901は、「公労法18条は、同17条に違反する行為をした職員は解雇されると規定し、同3条は、公共企業体等の職員に関する労働関係について、労組法の多くの規定を適用することとしながら、労働組合または組合員の損害賠償責任に関する労組法8条の規定をとくに除外するとしている。争議行為禁止違反が違法であるというのは、これらの民事責任を免れないとの意味においてである。‥‥公労法171項に違反した者に対して、右のような民事責任を伴う争議行為の禁止をすることは、憲法28条、18条に違反するものでない」と言い、●全逓名古屋中郵事件・最大判昭52.5.4刑集31318は労働組合又は組合員の損害賠償責任に関する労組法8条の規定の適用を特に除外することを定めているが、これは、公労法171項に違反する争議行為が労組法8条にいう『正当なもの』にあたらないので、損害賠償責任が免除されないことを明らかにした趣旨である」これは地公労法も全く同趣旨の条文があるから、最高裁が一貫して民事免責を否定して、公務員法制の争議行為禁止を合憲としていることは変わらない。

 次に刑事免責についての判断の揺れについて説明する。

 公労法及び地公労法は、労働組合法12項(刑事免責)が適用除外と明文では示されていないが、●国鉄檜山丸事件・最二小判昭38.3.15刑集17223「公共企業体等の職員は、争議行為を禁止され争議権自体を否定されている以上、その争議行為について正当性の限界如何を論ずる余地はなく、したがって労働組合法12項の適用はないものと解するのが相当である。」として、船長の乗船拒否にもかかわらず職場集会の指令点検、指導のため乗船した国労青函支部執行委員らの艦船侵入罪の成立を認めた。

 しかし東京中郵判決では「公労法は刑事制裁に関して、なにも規定していないから、これを科さない趣旨であると解するのが相当‥‥公労法3条が労組法12項の適用があるものとしているのは、争議行為が労組法11項の目的を達成するためのものであり、かつ、たんなる罷業または怠業等の不作為が存在するにとどまり、暴力の行使その他の不当性を伴わない場合には、刑事制裁の対象とはならないと解するのが相当である。‥‥争議行為が政治的目的のために行なわれたような場合であるとか、暴力を伴う場合であるとか、社会通念に照らして不当に長期に及ぶときのように国民生活に重大な障害をもたらす場合には‥‥正当性の限界をこえるもので、刑事制裁を免れないといわなければならない。」とした。

 東京中郵判決は争議権の保障・制約=労働基本権の保障・制約という論理的前提に立っており[臼井滋夫1976「地方公務員の争議行為禁止と刑事罰-全逓中郵事件判決以降の判例の系譜から見た岩教組事件判決の意義」『法律のひろば』298号]、東大の藤木英雄教授の可罰的違法性論の影響を受け、先例を覆して争議行為に労組法12項の刑事免責を認めた。同条項は「団体交渉その他の行為であって‥‥正当なもの」と規定し、刑法35条の適用があるという形式をとっている。刑法35条は法令行為または正当業務行為の違法性阻却を認めた規定である。

 したがって禁止されている争議行為であっても公共企業体等労組の正当業務行為として認知されたと官公労側は解釈が可能である。

 

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 官公労は、勤務時間内職場集会、時間内くい込み行動、遵法闘争、安全闘争などと称し争議行為という言葉を避けていたが、ストライキとしてこれらの行動を公然と行うようになり[高島良一1979「公企体関係労働判例の一〇年を顧みて」『季刊公企労研究』40)]、昭和40年代~50年代官公労のストは頻繁に行われていた。

  「違法性の強い争議行為でなければ正当」とか「実質的に争議禁止条項に該当しない場合」があるという議論が展開されたのである。

 しかし中郵判決は、田中角栄幹事長をはじめ自民党筋から厳しい批判があっただけでなく、昭和42年夏頃から『全貌』『経済往来』『週刊時事』等を急先鋒として労働公安事件で「偏向裁判」「学生や公安事件での検察側拘置請求が却下されるのは異常だ」という裁判所非難が急速に高まり、その要因は青法協所属裁判官とされた。

 昭和441月横田正俊最高裁長官が退官に際し、裁判所非難の高まりから、佐藤首相は司法の左傾化是正の切り札となる後任人事につき元司法大臣木村篤太郎の推薦によって中郵判決で反対意見に回った陪席裁判官石田和外を指名した。石田長官は期待に応え、最高裁は局付判事補に青法協からの脱退を勧告し、青法協所属裁判官の再任を拒否している。

 その後の最高裁判事人事も1名を除いて石田長官派や推薦できる人物が指名されたと考えられている。ただし○昭和444.2都教組勤評事件●全司法仙台事件大法廷判決や、〇横浜中郵事件第一次最大判昭45.9.16、〇札幌市労連事件(札幌市電ピケット事件)最三小決昭45.6.23刑集246311など左派が優勢な時期のため中郵判決を踏襲した判断になった。

 中郵判決や都教組勤評判決で民事免責は否認されていたにもかかわらず、実際には東京中郵判決の争議権の保障・制約=労働基本権の保障・制約という立論が、懲戒処分取消訴訟にも影響が及び、可罰的違法論を懲戒処分にも応用して、争議行為を理由とする懲戒処分をも無効とした下級審判例も続出した。

 

〇神戸税関事件の第一審判決神戸地裁昭和44.9.24行集208.91063は「争議行為であっても‥‥違法性の弱いものについては、国公法九八条五項で禁止する争議行為には当たらないものというべき」とする。この立場に立つ裁判例としては〇鶴岡市職事件・山形地判昭44.7.1労旬712号、〇佐教組事件・佐賀地判昭46.8.10判時640号、〇都教組事件・東京地判昭46.10.15判時645号、〇全財務四国地本事件・高松高判昭46.12.24労旬805等である。

 しかし、石田長官退官間際の昭和48425日の労働三事件大法廷判決から、労働基本権尊重派(中郵判決支持派)と石田和外らの秩序公益派(中郵判決反対派)が数で逆転し、石田に続いた最高裁長官、村上朝一、藤林益三は、労働事件において法全体の秩序重視の判断を継承し、藤林コートにおいて遂に東京中郵事件は判例変更にいたった。

 すなわち●全農林警職法事件・最大判昭48.4.25刑集27454、●岩教組学力調査事件・最大判昭51.5.21刑集3051178 は、昭和41年、44年大法廷判例の理論的基盤となっていた刑事民事違法性二元論からコペルニクス的に転回し、違法性の有無と、違法性の強弱に混同があるとして違法性一元論をとって先例を否定した。「あおり」の罪の解釈の「二重の絞り」は誤りとしてこれを変更したのである[臼井滋夫1976「地方公務員の争議行為禁止と刑事罰-全逓中郵事件判決以降の判例の系譜から見た岩教組事件判決の意義」『法律のひろば』298号、1977「公務員等の争議行為をめぐる刑事判例の動向--名古屋中郵事件判決までの軌跡 」『法律のひろば』308号]

 総仕上げというべき●全逓名古屋中郵事件・最大判昭52.5.4刑集31318 は、公務員の争議行為全面禁止体制を非現業の国家公務員に関して全農林事件判決が、また非現業の地方公務員に関して岩手県教組事件判決が、そうして五現業の国家公務員及び三公社の職員に関して本判決がそれぞれ判示するところは、(イ)公務員及び三公社その他の公共的職務に従事する職員は、財政民主主義に表れている議会制民主主義の原則により、その勤務条件の決定に関し国会又は地方議会の直接、間接の判断を待たざるをえない特殊な地位に置かれている(ロ)労使による勤務条件の共同決定を内容とするような団体交渉権ひいては争議権を憲法上当然には主張することのできない立場にある(ハ)その争議行為により適正な勤務条件を決定しうるような勤務上の関係にはなく、かつ、その職務は公共性を有するので、全勤労者を含めた国民全体の共同利益の保障という見地からその争議行為を禁止しても、憲法28条に違反するものとはいえないと理論を組み立てた上で、「公労法171項の争議行為禁止が合憲である以上、同規定に違反する争議行為に『正当なもの』があり得べき筋合いではなく、したがつて、そこに労組法12項の適用が予定されていると解し得る余地は全くない」と断じたので、争議行為を正当業務とする余地は全くなくなったのである。

 

 

🔶東京中郵判決の違法性二元論は違法性一元論へ

 

「‥‥刑事法上の効果についてみると、右の民事法上の効果と区別して、刑事法上に限り公労法171項違反の争議行為を正当なものと評価して当然に労組法12項の適用を認めるべき特段の憲法上の根拠は、見出しがたい。かりに、争議行為が憲法28条によって保障される権利の行使又は正当な行為であることの故に、これに対し刑罰を科することが許されず、労組法12項による違法性阻却を認めるほかないものとすれば、これに対し民事責任を問うことも原則として許されないはずである」

「公労法31項に労組法12項の適用を除外する旨の積極的な明文の定めがないことを根拠として、公労法171項に違反する争議行為についてもなお労組法12項の適用があるとみてその刑事法上の違法性阻却を肯定するのが公労法の趣旨に沿う解釈であるとする考えがある。しかしながら‥‥労組法の規定を適用する場合を公労法に定めのない場合に限定しているところからみると‥‥団体交渉等については、公労法に定めのない場合にあたるので、労組法12項が適用されて、その正当なものは違法性が阻却されるけれども、争議行為については、公労法171項にいっさいの行為を禁止する定めがあって、これに違反することが明らかであるので、労組法12項を適用する余地はないと解される。‥‥公労法は明文をもつて労組法12項の適用を除外しているわけではないが、それは、公労法171項違反の争議行為を刑事法上正当なものと認める意味をもつものではない‥‥憲法28条に違反しないとされる公労法171項によっていっさい禁止されている争議行為に対しては、特別の事情のない限り、労組法12項の適用を認めえないのがむしろ当然であ」る。

 

 

🔶争議行為違反に罰則がなくても他の罰則の構成要件を充足している場合にその罰則を適用できる

 

同法には禁止違反の争議行為に対する刑事制裁の規定が欠けているが、その故をもつて、その争議行為についても原則として刑事法上の違法性阻却を認めるのが同法の趣旨であると解することは、合理的でない。由来、争議行為に関して適用が問題となる罰則には、争議行為の禁止規定の実効性を確保するためにその違反に対し制裁として刑罰を科することを定めるものと、その適用対象を争議行為に限定することなく、ある類型の行為に対し一般的に刑罰を科することを定め、その結果として、争議行為におけるその類型の行為に対しても適用されることになるものとがある。本件で問題とされる郵便法791項は、「郵便の業務に従事する者がことさらに郵便の取扱をせず、又はこれを遅延させたときは、これを一年以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する。」と規定しており‥‥公労法171項違反の争議行為に‥‥刑事制裁の規定がないことは、その違反を理由としては刑罰を科さないことを意味するにとどまるのであって郵便法791項など‥‥罰則に該当する争議行為に対しても刑事法上の違法性阻却を認める趣旨であると解することは、合理性を欠き、他に特段の事情のない限り、許されないのである‥‥およそ争議行為として行われたときは公労法171項に違反する行為であっても刑事法上の違法性を帯びることがないと断定するのは、相当でない。特に、この条項は、‥‥その禁止に違反する争議行為は、国民全体の共同利益を損なうおそれのあるものというほかないのであるから‥‥してみると、公労法において禁止された争議行為が合理的に定められた他の罰則の構成要件を充足している場合にその罰則を適用するにあたり、かかる争議行為とは無関係に行われた同種の違法行為を処罰する通常の場合に比して、より強度の違法性が存在することを要求するのは、当をえないものといわなければならない。」

 これは公労法違反の争議行為の事案だが、公労法3条は、地公労法4条と同じで、公労法171項は地公労法111項と同じなので、この理論は、地公労法適用の職場を別異とする理由はない。

 但し、名古屋中郵判決は、争議行為の単純参加者については、立法の変遷とその底流にある法の理念を根拠として、処罰阻却の法理により単純参加者を処罰の範囲外と結論した。非現業公務員はあおり等積極的に争議行為を指導した者に罰則があるが、単純参加者にはないため均衡をかくうらみがあるためであるが、立法的解釈であり法理論的には疑問なしとしない。下田判事の反対意見がある。

 

 

🔶「久留米駅事件方式」の総括明確化

 

 可罰的違法性論が採用されなくなったターニングポイントは、私企業も含め勤労者の争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について違法性阻却事由の有無を判断する一般的基準を示した●国鉄久留米駅事件・最大判昭48.4.25刑集273419である。

 マス・ピケ事犯、原審無罪破棄差戻。国労役員が、信号所の勤務員三名の勤務を放棄させ、勤務時間内職場集会に参加させる意図をもつて、あえて同駅長の禁止に反して同信号所に侵入する行為、労働組合員ら多数が同信号所を占拠した際にこれに加わったこと。同信号所で鉄道公安職員に数十回バケツで水を浴びせた(パンツが濡れるほどだった)事案での刑法上違法性を欠くものでないことが明らかであり、刑事責任を問うことは、なんら憲法28条に違反するものではないとした。

 同盟罷業自体の労働法上の合法・違法の評価と付随的ないし補助的な行為についての刑法上の違法性判断とを意識的に区別して、違法性阻却事由の有無についての刑法的評価の判断方式を確立した(久留米駅事件方式)。

「勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたっては、その行為が争議行為に際して行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない」という判断方式である。

臼井滋夫最高検検事の判例批評が参考になるだろう。「久留米駅事件方式」の特色として「実質的違法性論に立脚して違法性阻却事由の有無を判断すべきものとしつつ、労働争議においても、一般原則のとおり犯罪構成要件該当性に刑法上の違法性を推定する機能を認め、しかも、この判断が講学上「いわゆる開かれた構成要件」に属するものとして、違法性推定機能が弱いとされている建造物侵入の成否に関してなされたものであることは注目に値するとしている[臼井滋夫1977「ピケッティングの正当性の限界」『法律のひろば』304号、1977「「可罰的違法性論」に対する批判的検討」『警察学論集』307号]

 久留米駅事件方式の「法秩序全体の見地」に深い意味があって、犯罪構成要件該当行為は労働基本権尊重だとして安易に無罪としてはならないという含意があるとみてよい。

 久留米駅事件方式のように争議行為とそれに付随する行為を分けて法的評価する考え方は、最高裁先例が争議行為は労務提供拒否としいう不作為を本質とし、これに随伴する行為も消極的限度にとどまるべきであるとする前提(●朝日新聞西部本社事件.最大判昭27.10.22刑集6927羽幌炭礦鉄道事件大法廷判決昭33.5.28刑集12816)にもとづくもので、プロレイバー学説のように、争議権に積極的な業務阻害行為を含めないのである

 我国には、英国のようにピケッティングを6人以下とし、当該事業所以外の外部支援組合員らによるピケットを違法としていないし、組合員であれストライキに参加しない権利(消極的団結権)が立法化されておらず(米国ではタフト・ハートレー法で立法化されている)、大量動員ピケを規制する立法はないが、最高裁が「久留米駅事件方式」を案出したことにより、ピケッティングの正当性の限界につき、消極的性格の行為の限度にとどまるべきであるという見解が堅持され、いわゆる平和的説得の限度を越えたピケッティングが犯罪構成要件に該当するときは、犯罪の成立を阻却するごく特殊な事情が存在する場合は格別、原則として違法性が阻却されないものとされている臼井滋夫1977 「五.四名古屋中郵事件大法廷判決について-公企体職員の違法争議行為と刑事罰」『警察学論集』307号]

 包囲型ピケッティングの逮捕行為では、着衣に損傷がなく殴る蹴るもしていない逮捕行為(〇光文社事件東京高判昭48.4.26判時708)、その他マス・ピケにおいて物理的就労妨害、業務阻害行為につき、昭和40年代に席捲した藤木英雄ピケッティング違法性論を採用して、組合活動だから労働基本権尊重の趣旨で無罪にしてしまう下級審の傾向は久留米駅判決で完全に是正されることになった。

 国鉄が私法上の勤務関係のため、私企業を含めた先例になった久留米駅判決の意義は大きい。

  実際、藤木学説を根拠として可罰的違法性を欠くとして無罪とした判例は130件あったが、久留米駅事件方式による違法性阻却判断基準により、他組合員への断続的暴行、逮捕行為を無罪とした原判決を破棄した。ロ●日本鉄工所事件最二小判昭50.8.27 以降ほぼ完全に姿を消し、実務上可罰的違法論は消え去ったのである[前田雅英1984「労働組合役員の他組合員に対する暴行、逮捕行為と実質的違法阻却事由(最判昭和50.8.27) 」『警察研究』5514]。

 争議行為(労務不提供)と争議行為に付随する行為(ピケッティング等)を意識的に区別するこの久留米駅事件方式は全逓名古屋中郵事件判決.最大判昭52.5.4に踏襲された。

 

  • 全逓名古屋中郵(第二)事件 最二小判昭53.3.3刑集32297香城敏麿判解は、名古屋中郵事件大法廷判決を次のように要約した。

(イ)公労法一七条一項違反の争議行為が罰則の構成要件にあたる場合には、労組法一条二項の適用はなく、他の特段の違法性阻却理由がない限り、刑事法上これを違法とすべきである。

(ロ)但し、右の争議行為が単なる労務不提供のような不作為を内容とするものであって、公労法一七条一項が存在しなければ正当な争議行為として処罰を受けないようなものである場合には、その単純参加者に限り、当該罰則による処罰を阻却される。

(ハ)これに対し、公労法一七条違反の争議行為にあたらず、これに付随して行われた犯罪構成要件該当行為の場合には、その行為が同条項違反の争議行為に際して行われたものである事実を含めて、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきか否かを考察してその違法性阻却事由の有無を判断しなければならない。

 名古屋中郵事件の建造物侵入の行為は(ハ)にあたる。「被告人らは、公労法171項に違反する争議行為への参加を呼びかけるため、すなわち、それ自体同条項に違反するあおり行為を行うため、立入りを禁止された建造物にあえて立ち入ったものであつて、その目的も、手段も、共に違法というほかないのであるから、右の行為は、結局、法秩序全体の見地からみて許容される余地のないものと解さざるをえない」と結論している。

 東京都水道局新宿営業所のストの態様、事務室の検針担当のエリアを40人ほどで占拠し集会を行い、その間非組合員が自席で業務を不能にする在り方、業務用機器の隠匿は(イ)にあたり、本部中闘や本部委員等の外来者のオルグのための侵入、支所等の庁舎構内における決起集会の外来者(下水道局の動員含)やスト待機で深夜・未明のセキュリティ破りの事務室侵入は(ハ)にあたるということになります

 

 この判断枠組(「名古屋中郵事件方式」)により威力業務妨害罪の成立を認めた判例として、●全逓名古屋中郵第二事件・最二小判昭53.3.3刑集32297(臨時小包便搬出の業務妨害)、●春闘松山駅事件・最二小判昭53.3.3刑集322159(マス・ピケ)●動労南延岡機関区事件・最一小判昭53.6.29刑集324759(マス・ピケ)がある。

 名古屋中郵判決は公労法17条違反の争議行為だか、地公労11条違反の争議行為を別異に解釈する理由がない。

   違法性があり、責任もある行為は、これを処罰するのが刑事法上の原則であるにもかかわらず、東京都の管理職が組織的に是認していることは問題であり、令和元年の事案で私も刑事告訴せず時効にしてしまったことをお詫びしたいと思う。

 なお、組合側は物理的に阻止するピケットも合法と主張する可能性がある。地公労法111条違反の争議行為につき〇札幌市労連事件(札幌市電ピケット事件)・最三小決昭45.6.23刑集246311(業務命令を受けて組合員が乗務する市電の車庫から出庫を阻止するための40名ほどのピケ)を無罪とした例がある。この判例は中郵判決や都教組判決が維持され公務員の争議行為にも刑事免責が適用され、可罰的違法性論が実質否定されていない時期の判例で、32の僅差であり、松本正雄裁判官の長文の反対意見がある。

 可罰的違法性論は国鉄久留米駅事件・最大判昭48.4.25刑集273419の判断枠組みで採用されなくなった。

 松本裁判官の反対意見にある違法争議行為に内部統制権はないという趣旨は、横浜中郵事件差戻後控訴審・東京高判昭47.10.20判時689の中野次雄裁判長が採用し、争議行為に労組法12項刑事免責は適用されないという趣旨は名古屋中郵事件・最大判昭52.5.4に採用されて、今日では松本反対意見が最高裁の先例の見解になっているわけで、地方公営企業で刑事事件が稀少なため判例変更されていないだけで、公労法と地公労法の争議行為禁止の趣旨は同じなので、名古屋中郵判決の判断枠組みが採用され、実力ピケが無罪となることはありえない。例えば、名古屋中郵判決が引用された動労南延岡機関区事件・最一小判昭53.6.29刑集324759は機関士の乗務を約500名のマス・ピケで阻止した事案を有罪としているが、札幌市電事件は40人ほどの自然発生的ピケであるが、大きな違いはない。

 

 

 

(四)「通常随伴行為不罰論」に沿った東京都の労務管理は違法行為を助長

 

 

 東京都の管理職は地公労法111項後段に違反する平成16年以前の勤務時間中の執務室内頭上報告のアジ演説や、平成20年代以降の「昼休み集会」のほか、支所拠点や本庁の決起集会をすべて容認している。「あおり」そのものといえる演説の違法性を認識していないのである。庁舎の目的外使用、秩序を乱す行為を取り締まる規則も意欲もない。

 実際、平成12年千代田営業所在籍当時、頭上報告が職務専念を妨げていることで苦情を述べたところ、局幹部である中央支所長は、勤務時間内頭上報告は聴きたい人がいるから認めると言い、職務専念義務よりも組合活動を尊重する方針だった。この人は私が水道局の多摩ニュータウン水道事務所に転勤した時、同じ庁舎に同居していた南多摩新都市開発本部の管理職だったので面識があった(故人)。

 副支所長に、組合ビラが目に付いて仕事に集中できないと苦情をいると心を入れ替えろと「郷に入れば郷に従え」と言われ、頭上報告は当然容認なのである。「ストライキで戦うぞ」というビラがあって目につくところにあって、違法法行為慫慂が蔓延した職場環境になじみなさいという。

 違法行為蔓延状態になじむことこそ東京都職員の重要な責務という反コンプライアンス的職場風土であり、私にとっては敵対的職場環境であった。

 局幹部が違法行為全面是認だったのである。知事部局から水道局に異動してくる管理職も体質は同じである。平成16年東岡職員部長の通知も、都議会議員が問題視した以上やむをえず最低限のことをやったというにすぎない。

 実際、今日でも組織ぐるみで職員一般に対し同盟罷業は違法行為だとして警告は行ってないことは変わらない。当局が各事業所の組合員を、地方公務員法291号、32条の適条による不利益賦課はさせないという組合幹部の方針に従っていると考えているが、最高裁が左傾化した時期の昭和4442日の二判決の「二重の絞り」や争議行為「通常随伴行為不可罰論」(判例変更されている)の立場に立っているともいえる。

 

  「あおり」の意義を限定する考え方は可罰的違法性論を適用し、後に判例変更された〇都教組勤評事件・最大判昭44.4.2刑集235305や●全司法仙台事件 最大判昭44.4.2刑集235685にみられる争議行為の「通常随伴行為不可罰論」が典型といえる。

 昭和44年の両判決は「争議行為そのものが、職員団体本来の目的を逸脱してなされるとか、暴力その他にこれに類する不当な圧力を伴うとか、社会通念に反して不当に長期に及ぶなど国民生活に重大な支障を及ぼす」場合を除いて処罰対象としない。さらに、あおり行為等自体についても、「争議行為に通常随伴して行なわれる行為のごときは、処罰の対象とされるべきものではない。」と言い、争議行為に非常に好意的な判例であるため、官公労がそれまで勤務時間内職場大会と称していたものが公然とストライキと称するようになったのである。

 これは〇全逓東京中郵事件・最大判昭41.10.26刑集208901は労働基本権の尊重=争議権をコンセプトとしていることから「刑罰最小限度論」を述べている。この見解を発展させたもので、地方公務員法や国家公務員法が一切の争議行為を禁止し、その遂行のあおり等の行為をすべて処罰する趣旨だとすれば、違憲の疑いを免れないという趣旨に沿ったもので、労働基本権尊重と調和する解釈するときは、あおり行為等の対象となる争議行為について強度の違法性が必要であり、かつ、あおり行為等についても、争議行為に通常随伴する行為を除く、違法性の強いものであることを要すると解すべきであるとした。

 最高裁は昭和48年石田和外コート末期に、中郵判決反対派が多数を占めるようになり、「通常随伴行為不罰論」は、以下の2判例で判例変更されている。非現業国家公務員に関して●全農林警職法事件・最大判昭48.4.25刑集274547は「あおり行為等につき、争議行為の企画、共謀、説得、慫慂、指令等を争議行為にいわゆる通常随伴するものとして、国公法上不処罰とされる争議行為自体と同一視し、かかるあおり等の行為自体の違法性の強弱または社会的許容性の有無を論ずることは、いずれも、とうてい是認することができない。‥‥このように不正確な限定解釈は、かえって犯罪構成要件の保障機能を失わせることになり、その明確性を要請する憲法31条に違反する疑いすら存する」と批判し、非現業地方公務員に関して●岩教組学力調査事件・最大判昭51.5.21刑集3051178はより踏み込んで、「‥‥争議行為の遂行の共謀、そそのかし、あおり等の行為は‥‥具体的、現実的な争議行為に直接結びつき、このような争議行為の具体的危険性を生ぜしめるそれを指すのであって、このような共謀、そそのかし、あおり等の行為こそが一般的に法の禁止する争議行為の遂行を現実化させる直接の働きをするものなのであるから、これを刑罰の制裁をもつて阻止することには‥‥不当はないのである。原判決は‥組合大会の決議等に従って指令を発するような行為は、組合規約上の義務の遂行としてされるものにすぎず、争議行為に不可欠か又は通常随伴するものとして一般組合員の争議参加行為とその可罰的評価を異にすべきものではないとも論じているが、組合の内部規約上の義務の履行としてされているかどうかは、当然にはそそのかし、あおり等の行為者の刑事責任の有無に影響すべきものではなく、右の議論は、ひっきよう、労働組合という組織体における通常の意思決定手続に基づいて決定、遂行される違法な争議行為については、実際上、当該組合の何人に対しても個人的な責任を問うことができないということに帰着するのであって、とうてい容認することのできないところといわなければならない。したがって、地公法614号の規定の解釈につき、争議行為に違法性の強いものと弱いものとを区別して、前者のみが‥‥同号にいう争議行為にあたるものとし、更にまた、右争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、又はあおる等の行為についても、いわゆる争議行為に通常随伴する行為は単なる争議参加行為と同じく可罰性を有しないものとして右規定の適用外に置かれるべきであると解しなければならない理由はなく‥いわゆる都教組事件(最大判昭44.4.2刑集235305)は、上記判示と抵触する限度において、変更すべきものである」。

 この事件で「そそのかし」「あおり」と認定している行為は、「校長も組合員の一人であるから、組合の方針に従ってテストを実施しないことに協力してくれ。テスト責任者を命ぜられてもこれを返上するようにしてくれ。」等と説得。(そそのかし)40名の小、中学校長に対し、「校長も組合員だから、組織の決定に従ってテスト責任者を返上し、テスト拒否にふみ切って貰いたい。」等と力説強調(あおり)。50名の小、中学校長に対し、「今度の学力テスト阻止闘争は指令六号によってやって貰いたい。テスト責任者を返上しテスト補助員を任命するな。」等と力説強調(あおり)。

 この後も最高裁は「あおり」の構成要件該当性について、組合側の限定的解釈の主張を否定している。●日教組スト事件・最一小平成元.12.18刑集43-13-88は、日教組の昭和49年春闘4月11日一日ストにつき、地方公務員法61条4号のあおりの罪により、当時のМ・М日教組委員長を懲役六月、またМ・T都教組委員長を懲役三月、いずれも執行猶予一年に処した原判決を支持した。

 М・Tが地方公務員法614号の「あおり」と認定された行為は、関係役員らと共謀の上、329日ころから48日ころまでの間、329日に日教組本部名義で発出された指令の趣旨を傘下の小・中学校教職員多数に対し伝達し、43日に開催された第一回都教組支部長・書記長会議において、「74春闘一日・半日スト行動規制」及び「‥ストを成功させるための取組みの基本」と題する都教組執行委員会名義の文書を配布して11日の同盟罷業に際し組合員のとるべき行動を指示し、3日ころから10日ころまでの間、右指示の趣旨を傘下の小・中学校教職員多数に対し伝達したということである。

 組合側の上告趣意は、あおりはもっぱら感情に訴える慫慂行為を指し、感情に訴える要素のないものはこれに当たらない、「あおり」はそれ自体において、真に右争議の原動力となるものであることを要する等、あおりを限定的に解釈すべきという構成要件該当性を争ったが、最高裁はこの上告趣意を退けた。

 なお、本件下級審判例は、「二重の絞り」に代えて「あおり」等の意義を限定する試みを行っており、「原動力論」、「統括・指導者責任論」「具体的危険論」であるが最高裁はこれらについて回答せず、従来の大法廷判例を引用するのみであるから(畑尻剛判批『法学教室』117)、限定的解釈をとる必要はない。●埼教組事件・最三小判平2.4.17刑集44-3-1は、I・N埼教組執行委員長の指令及び指示の趣旨の伝達を「あおり」と認定し、あおりの罪が確定した。 本件も下級審で「あおり」を「高度の危険性」「組織的統制力を背景とした指令」に限定する試みがあるが(横坂健治判批『法学教室』119)最高裁は無視して、従来の大法廷判例を引用するのみである。

 最高裁が「あおり」の限定解釈を退けている以上、端的に行動指令の発出伝達、スト実施体制確立のための説得慫慂活動、集会などの演説行為、示威行為は、ことごとく「そそのかし」「あおり」である。そして岩教組学力テスト事件が説示するとおり、本部指令には、内部規約により支部分会の執行役員は従う義務があるとしても、内部規約の義務履行であることが、「あおり」「そそのかし」の違法性の評価に影響を与えるものではない。

 つまり水道局で毎年恒例となっている中執によるオルグ演説、役員の執拗なスト権一票投票の呼びかけ、勤務時間内職場離脱決起集会動員指令、集会それ自体。示威行為、昼休み集会や頭上報告による、ストライキ配置、戦術の説明、経過報告、指令伝達、職場離脱集会の呼びかけ、超勤拒否闘争の呼びかけ、ストライキ時のピケッティング、スト集会での演説すべてが地公労法111項後段違反行為である。

 東京都ではやらないが、地方公共団体で「あおり」「そそのかし」を理由にした処分例としては一般職の場合だが、●北九州市病院局事件・福岡地判昭5557判時980「原告Wは現地闘争本部闘争委員会の闘争委員であり、その立場から(昭和43年)12月一四日のスト方針の決定に関与したこと、同月12日午前11時ころおよび翌13日午後440分ころ市役所本庁衛生局総務課室内で、総務課職員に対していずれも約10分間、病院、水道事業の再建計画に反対しストに参加するよう演説して呼びかけをしたこと、‥‥同月14日のストの際には始業時間である午前9時から職場を離脱してその職務を放棄したことが認められ‥‥右行為は、同盟罷業を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、あおり、かつ同盟罷業を行ったものというべきであり、地公法371項前段、後段に違反する」。ストライキ参加の呼び掛けは「そそのかし」「あおり」で懲戒事由になる。

 地方公営企業で「そそのかし」「あおり」が懲戒事由となった例としては、●北九州市交通局(昭和441113日事件)・福岡高判昭53427判タ366は、早朝2時間ストライキを指導した組合書記長、執行委員に対する地公法29条による停職処分が有効とした事案である。

  「被控訴人Nは午前4時頃バス出入口でたき火を準備し、労組の旗を立て、N委員長は一番バスの出庫時間の午前430分前に市職労ニユースカーを右出入口を閉鎖する形で駐車させ、組合員らにその位置に集るようよびかけ、もつて右出入口を閉鎖し、被控訴人Nは右出入口で集った組合員らの音頭をとつて労働歌を斉唱させ、集会を司会し開会宣言を行った。その後、N委員長のあいさつ等の間、被控訴人N、同Nは阻止されたバスの前面に立ち、被控訴人Kは集会のためマイクのアンプ操作をし、かくして、右被控訴人らは午前6時まで当局側の退去要請を無視して定期バスの出庫を阻止し、争議行為を指導した。‥‥本件争議行為は威力をもつて業務の遂行を妨害する違法不当なものであつて、このような違法な争議行為をすることを組合内部において決定したとしても、法的拘束力をもつことはなく、‥‥組合役員として従う義務はないものであり、‥‥かかる争議行為をあおり、そそのかしたことを理由に懲戒処分をされたとしても、組合の自主的意思を侵害‥‥を破壊することにはならない。‥‥」。このほか●北九州市減給日額二分一懲戒処分事件・福岡地判昭56629労判368、●現業職員給料表分離反対闘争等懲戒免職処分事件(北九州市)・福岡地判昭591226判例地方自治13を挙げることができる。

 国家公務員の争議行為につき「そそのかし」「あおり」を理由として懲戒処分を適法とした判例は多数あり通例である。

 都の管理職が取り締まらないのは、判例変更された◯都教組勤評事件・最大判昭44.4.2刑集235305や●全司法仙台支部事件・最大判昭44.4.2刑集235685の争議行為の「通常随伴行為不処罰論」に依拠する確信的左翼体質か、組合の言いなりになるのが管理職の処世術であるためかいずれかであるが、違法行為を放置している実態は、保護法益の住民全体の利益に背馳しているので、厳正な対処に改革することを提言する。

 

 

(五)スト破りに対する実力ピケや強制的阻止は正当な行為ではないのに、東京都の管理職がスト全員参加を促すのは間違っている

 

 

 東京都の労務管理の不愉快さは、プロレイバー学説に依拠したもしくは組合側の論理を受け容れ、スト防衛に加担していることである。違法ストライキを取り締まるのでなく、団結強制に加担し、業務命令を凍結し就業命令をさせない組合の戦略どおり動いている。集団意思によって個人の意思は制圧されなければならないという思想により、事実上スト破りをなくすことが管理職の任務になっていることだ。

 プロレイバー労働法学とは、階級闘争としてのミリバントな労働運動を支援する目的のもので、その労働基本権思想を端的にいうならば、労働団体に他者の財産権・所有権・経営権・個人の労働力処分(雇用契約)の自由といった市民法上の基本的権利に干渉し、制限的条件を課し、侵害する権利を付与しようとするものである。労働団体は最大限の威圧を他者に向けて行使できるだけでなく強制や積極的業務妨害をも争議権とする傾向の思想である。

 職員に対し、スト破りは許さないというのが組織的方針である以上それが東京都の管理職が信奉している学説なのであるといえる。

 

 

1 プロレイバー学者には組合の行為であれば市民刑法規範では暴力犯罪とされる実力行使であっても免責されると言う人もいた

 

 

(1)刑事免責の比較法

 

 昭和20年労働組合法12項は「刑法35条〔法令又は正当な業務による行為は、罰しない〕の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であって、前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。」と刑事免責を規定する。

 ただし、名古屋中郵事件・最大判昭52.5.4により公務員の職場においては争議行為に刑事免責はないと確定した(但し労務不提供のような不作為を内容とするもので単純参加者に限り、当該罰則による処罰を阻却される)。

 刑事免責で世界初の事例が英国の1875年の共謀罪財産保護法である。民事免責が1906年の労働争議法であるが、私は古典的自由主義を信奉するので双方とも悪法と考えている。

 1875年法は労働争議の企図、促進をコモンロー上の刑事共謀により起訴できないとするもので、我が国の法制とは趣きが異なる。犯罪であってもいっさい起訴しないというのだから、究極的可罰的違法性論といえる。であるから英国の場合は積極的争議権というものはない。法的正義ではないが悪いことも政治的打算で認める悪しき制定法なのである。

 団結やストライキとはコモン・ロー営業制限の法理における「営業=取引の自由」のコロラリーである「労働の自由」の擁護の立場から、「取引を制限するコンスピラシー」(doctrine of restraint of trade)ないし「他人の取引を侵害するコンスピラシー」(conspiracy to injure of another)とみなされるのだが、刑事共謀を凍結してしまうのが、刑事免責といっても大筋で間違いではない。

 世界で初めて労働組合を合法化したのは英国の1871年労働組合法である。これは1867年のホーンビィ対クローズ事件がストライキの目的を持つ組合規約を「営業制限」にあたると判示したことにより、ほとんどの組合は、基金の法的保障を失ったことに対抗し制定法で判例法を覆すためのものであった。

 同法は「本法がなければその目的が営業制限の理由により不法の団体と見なされるべき」労働組合を「単にその目的が営業制限という理由のみでは不法とみなさない」。労働組合は「営業を制約するとのかどで起訴されない」[美馬孝人2006「イギリス・ヴィクトリア期における労働組合の受容について」『季刊北海学園大学経済論集』542))コモン・ローによる起訴を制定法により凍結することが労働組合の合法化だった。

   しかし1871年の刑事修正法はピケッティングを集中的に規制した[片岡曻1952『英国労働法理論史』有斐閣220]

1)他人の身体または財産に対して身体または財産に暴力を用いること。

2)訴えに基き治安判事が治安維持を命ずる理由ありとするが如き態様にて脅迫するthreaten or intimidate)こと。

3)他人を妨害する(molest or abstract)こと、但し本法上「妨害」とは以下の行為を言う。

(a)しつように至る所他人を尾行すること。

(b)他人の所有しもしくは使用する器具・衣類・その他の財産を隠匿し、またはこれを奪取し、もしくはその使用を妨げること。

(c)その人が居住し、労働し、事業を行いもしくは偶然居合せた家屋その他の場所またはかかる家屋その他の場への通路を監視(watch)または包囲(beset)、もしくは二人またはそれ以上の人間と友に街路もしくは道路において不穏な状態で他人を尾行すること。

 つまり同法は労働組合自体を違法としないが、ストライキは個別的自発的行為の総和であって、他者を強制できない。

 1872年R v.Bunn事件は指導者6名が禁錮刑に処せられた。ブレット判事によれば不当な脅迫-例えば一斉に契約違反をなす旨の脅迫-によって使用者の意思に反して業務を行わせしめないよう強制することは刑事共謀を構成するとした[片岡曻1952『英国労働法理論史』有斐閣220]

 イギリスの共謀罪は13世紀のエドワード1世の治世に遡るが、1548年法で明文による労働者の団結に共謀罪が適用され、コンスピラシーの犯罪手続きと近代的意味での不法結合の概念を融合させて実体犯罪としてのコンスピラシーを作り上げたのは国王大権のもとでのスターチェンバー裁判所であり1611年の家禽商事件を契機とし「何らかの犯罪を犯すための結合行為そのものを処罰する」という共謀罪が成立し、コモンロー裁判所に承継され「何等かの犯罪を犯すための結合はたとえその目的たる犯罪が実行されないときにもなる」という 17世紀原則に発展した[田島裕1978「コンスピラシー法理の研究-2-スター・チェンバーによるその法理の利用 」『 法学雑誌 』 25(1) ]。コモンローが個人の自由を擁護するものであり、個人主義的私法観に敵対する団結はコンスピラシーとして排除されなければなかったのである。

 労働者の団結に不法を見いだすことは容易だった。それは「営業の制限」という契約上の干渉に求められた。「営業」tradeには使用者の取引のみならず労働者個人の取引も含まれるとの想定のもとに労働者の団結は「営業の制限」restraint of tradeに該当するとし刑事共謀法理が展開されていった。

 営業制限の法理とは反独占・営業の自由の擁護でありコモン・ローの経済的自由において重要な価値と考える。

 1721年ジャーニーメン・テイラース事件は制定法の有無にかかわらず、労働者の団結はコモンロー上の共謀罪で処罰しうること。個人で行えば合法的である場合でも、共謀すなわち団結することによって不法となることを明らかにした[高橋保・谷口陽一2006][松林和夫1972]。

 1783年エックレス判決 は仕立業者の営業を妨害することを目的とした労働者の団結に対して刑事共謀罪が問われたもので、ストライキではなくボイコットに関連した事件である。傍論であるが近代で最も偉大な法曹と称されるマンスフィールド卿Lord Mansfield は次のように断言した。

 「起訴状に共謀を実現する手段を記述する必要はない。何故ならば犯罪は害悪を何らかの手段をもって実現する目的のもとに、共謀することにあるからである。違法な結合が犯罪の眼目である。商品を所有する者は個人として自己の欲する価格でそれを販売し得る。しかし彼等が一定価格以下では販売しないことを共謀し、合意するならば、それはコンスピラシーである。同様にあらゆる人間は自己の好む場所で労働できる。しかし一定価格以下では労働しないとして団結することは、起訴さるべき犯罪である」[片岡曻1952][岡田与好1975

 その百年後の1872R v.Bunn事件においても、ストライキが刑事共謀であるとした。この判決に労働者が憤激して刑事修正法と団結を抑止してきら18世紀以来の主従法の廃止運動が活発となり、労働者票を獲得する思惑によりベンジャミン・ディズレーリ 内閣の保守党政権によってあっさり廃止されてしまった。雇傭契約破棄を犯罪から解放して、民事訴訟に限定し、争議権を「特別な」権利として容認する世界で初の立法がされた。1875年共謀罪・財産保護法(Conspiracy and protection of property Act)である。

 同法第3条は「2人あるいはそれ以上の人々が雇主たちと労働者たちとの間の労働争議を企図し促進しようとして行い、または行おうとして結んだ協定ないし団結は、もしそうした行為が1人でなされたとき犯罪として罪せられるのでなければ、コンスピラシーとして起訴しえない」と明定することよりコンスピラシーの法理を排除した。刑事共謀罪からの解放が刑事免責ということであって[中西洋1998『《賃金》《職業=労働組合》《国家》の理論》』ミネルヴァ書房142]、暴力犯罪からの解放ではないし、他者への強制力を組合にもたせることでもない。

  また、同法は 何人も他人を強制して、その者が行為をなす権利を有することにつきこれを行わしめないこと。またはその者がある行為をなさない権利を有するにつきこれを行わしめることにつき、を目的として「不法にかつ法律上の権限をなくして」以下の行為を行うこと。

1)その者または妻子に暴力を加え、脅迫し、またはその財産に損害を与え、脅迫し、またはその財産に損害を与えること。

2)至る所しつようにその者を尾行すること。

3)その者の所有しもしくは使用する器具・衣類その他の財産を隠匿し、または奪取し、またはその使用を妨げること。

4)その者が居住し、労働し、事業を行いもしくは偶然居合せた家屋その他の場所またはそれへの通路を監視または包囲すること。

5)二人または二人以上の者とともに街路もしくは道路において不穏な状態でその者を尾行すること。

 以上の行為をなす者は略式手続により二十ポンド以下の罰金または禁錮「片岡曻1952『英国労働法理論史』有斐閣]

  平和的ピケッティングを合法化したとされるのは第七条の次の但書であった。「単に情報を授受する目的で他人の居住し、労働し、事業を行いもしくは偶然居合わせた家屋その他の場所またはそれらの通路に待機する(ateend)」ことは「監視・包囲」とみなさないとしたのである。労働組合がピケッティングの合法化を求めたのは、当時は組織統制力の働かない場合も少なくなく、代替要員(スト破り)や非組合員の就労を阻止できなければ、労働組合が勝利できないためである。

  しかし7条がピケッティングを「単に情報を授受する目的」と規定したことが致命的だった。

1876年のR.V.Bauld判決は、1875年共謀罪・財産保護法が情報の授受以外に何事も規定しておらず、平和的に他人を説得してストライキに加入せしめるためのピケッティングは犯罪と判示した[片岡曻1952『英国労働法理論史』有斐閣229]

  結局1875年法は、平和的ピケッティングを合法化できなかったのである。

 

   一方、わが国の昭和20年労働組合法の刑事免責は、労働組合の「正当な行為」であれば、たとえ殺人・傷害であれ罰せられることがないと解釈される余地のあるものであった。戦場での殺人は刑法35条が適用され殺人罪にならないのと同様に争議行為も正当業務で殺人罪にならないという理屈である。

  そこで昭和24年労働組合法改正で「但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない」という但書が付加された。

  その事情について吾妻光俊[1966]は次のように語っている。「労組法一条二項が、暴力行使はこの限りにあらずなんて、わざわざいったのか‥‥事実、争議行為なら人を殺してもいい、けがをしてもいい、そういうことをいう学者もいたし、弁護士さんもいたんです。あれは、昭和二十二・三年です‥‥ある弁護士さんがいったことには、人殺しでも傷害でも暴行でも強迫でも、労働組合が勝つための手段は全部一条二項だと。正当業務だと。こういうんですから、すごいことをいう人があるもんだと思って私は口をつぐみました。‥‥ともかく、終戦後そういう考え方はあった‥‥争議というレッテルさえはれば、本来なら許されないはずのものが許されるという気分はあった」 実名こそ明らかしてないが、殺人も正当業務という学者・弁護士がいた。労働法学者の主張はうさんくさいという心証が強いのだ。

   問題は但書の「暴力の行使」とは何を指すかである。

   昭和24413法務庁検務局長発検事総長、検事長、検事正宛通牒が「一、労働組合法第一条第二項は、いかなる暴力犯罪(例えば,殺人、傷害、暴行、略取、強盗等)をも処罰から免かれしめるように解釈することはできない。二、暴力犯罪に限らず、すべて他人またはその家族の身体、自由または財物に対して、直接に有形の侵害を加える行為(例えば放火,逮捕、監禁、監禁、交通に危険を及ぼすような鉄道施設・標識の損壊、建造物損壊、器物損壊等)または行為の性質上当然の結果としてかかる侵害を生じせしめる行為(略)現行刑罰法規に該当する限りこれを処罰から免かれしめるように解釈することはできない。」[窪田隼人1962]とする。

   ビケッティングについては昭和2911・6労働省発第41号、労働事務次官発都道府県知事宛「労働関係における不法な実力の行使の防止について」において、「工場事業場に正当に出入しようとする者に対しては、暴行、脅迫にわたることはもとより、一般に、バリケード、厳重なスクラムや坐り込み等により、物理的に出入口を閉鎖したり、説得又は団結力の誇示の範囲を越えた多衆の威嚇や甚だしい嫌がらせ等によってこれを阻止する如きピケットは正当ではない」「ストライキが制度として認められているのは、労務の提供の拒否としてであって、これに随伴する行為は一般的に、特に禁止されてもいないが、別段制度として是認されているものではない」「通路の物理的閉鎖は暴力の行使と同様に評価すべきであって到底これを正当というわけにはいかない」。また「労働組合の統制力は、原則として、当該労働組合の組合員以外に及ばないものであるから、組合員以外の従業員に対しては、当該行為についての理解と協力を要請し得るに止まり、その正当な就労を妨げることはできない」とする。

   世界の現代における労使関係法の水準からみると、昭和2911月労働次官通達は、他の事業所の組合員のピケ参加を違法とする英法との比較、英米では組合員であってもスト決議にストに参加しない権利を定めていることなどと比較して、労働組合に有利な性格を有しており、疑問がある。しかし労働次官通達は、ストを破る労働者に対して実力行使を正当化するプロレイバー学説を排除した点と、非組合員には組合の統制が及ばないとした点で一定の意義を認めることができる。この行政解釈を真っ向から否定し実力行使を容認しようとするのがプロレイバー労働法学である。

   なるほど末広巌太郎[1946]によれば但書の趣旨について「立法者のいい分は旧法と実質的にはたいして変わらないというのである。ただ一部もしくは弁護士などのあいだで労働組合の正当な行為を非常にひろく解釈して組合の行為であればなにをしても罰せられぬという主張をしたものがあったので、この意見をおさえるために、注意規定として但書を伏した」とされるのである。

   従って、そもそも注意規定にすぎないから、空文に等しいのであって、解釈学的に論じることが間違いと行政解釈を批判するのである。

   例えばプロレイバーの窪田隼人[1962]によれば「労働組合の正当な行為の価値判断にたって、この価値基準からはずれる『暴力の行使』は、正当なものとはみなされない、という注意規定にすぎず、組合の正当行為を制限し例外を設ける意味で、暴力の行使は正当行為とはされないという但書ではない」とする。それゆえ「暴力犯罪といわれるものでも、刑法三五条と関係では正当な実力の行使として考えられる余地があるとみるのが、同条の趣旨でなければならない」とする。

   労働組合は暴力犯罪とされることを行っても正当な実力の行使として免責されうるという主張である。

   つまり労働組合の団体行動を「『力の行使』ないし『実力の行使』を正当なものと不当なものとにわけ、正当ならざる実力の行使は刑法三五条の適用があるというのが労組法一条二項本文の趣旨である」として「市民刑法では暴力の行使であっても、労働法規範上の正当化理由がはたらくかぎり刑法上の違法性を有しない」とするのである。

   とはいえ窪田隼人は殺人や放火は団体行動で容認はしない。ただしそれは市民法規範に基づいて「刑法上殺人罪や放火罪に該当するから許されないのではなく」「労働法の世界でも容認しがたいから正当化保障の枠外に置かれる。」と述べ、労使関係に市民刑法規範を通用させてはならないとする。

 

2強制力は暴力でないから容認されるという野村平爾の学説

 

   プロレイバー労働法学第一世代の重鎮、野村平爾の学説を引用する。労働次官通達を批判して、「ピケッティングの正当性は、労働組合という階級的な労働者の団結体が持つところの、労働者に対する強制力として是認される」‥‥スト破り労働者に対しては「説得の限界をこえていても、防衛的な意味を持つスクラム」は正当‥‥ピケの対象による区分は「スト破りであればいいのであって、それがストライキを行っている組合に所属する組合員であろうと、ストライキ中に脱退した脱退組合員であろうと、未組織労働者であろうと区別はない」と言う。[1956「ピケッティングの正当性の限界」『早稲田法学』313.4号『日本労働法の形成過程と理論』岩波書店1957所収]

   このように、プロレイバーは労働組合の集団意思によって個人の意思は制圧されなければならないと説き、労働組合に強制力を付与し、労働の自由を否定し、就労阻止の実力行使を是認するのである。

   野村平爾は強制力としてのスクラム容認論を展開しているが、強制力は暴力でないので労組法第一条二項但書に反しないという理屈だが詭弁のように思える。

  「団体の持つ強制力が、いわゆるリンチに達することは国家の刑罰権と衝突する意味で承認されなくても、団体がその利益をまもるために防衛的な強制力を用いるのは禁ぜらるべきではない。労働運動史の上にあらわれた、なぐったり傷つけたりすることは、とうてい承認できないが、スクラムによって利益の侵害者に対し、これを阻止し、出来れば味方の陣営に加えようとするのは、正にこのような状態なのである。労組法第一条二項但書‥‥の意味も、このような状態に適合するものとして考うべきではないだろうか。強制力=暴力ということではない」[1957『日本労働法の形成過程と理論』岩波書店155]

   野村平爾はスト破りを認めない。「個別労働者の労働市場における競争が労働者の地位を引き下げていること、労働者の生存の利益を担保するものは団結の力だという自覚が、団結の強制を必然ならしめる」[前掲書156]

   労働者階級の利益のためには労働者間の競争を否定し団結に加わらなければならない。組合員でもない者も従わない者は強制されなければならないと。自由で開かれた市場にアクセスする権利と競争環境なくして自由主義経済は成り立たない。そうすると談合による営業制限に加わらない企業はやっつけてよい、カルテルから脱落する企業はやっつけてよいと言っているのと同じ。前近代のツンフト強制による営業独占と同じ発想である。近代市民的自由の核心的価値(取引の自由)の否認だといわなければならない。

   いずれにせよ、スクラム適法とはミリバントな労働組合に武器を与えるための学説である。

 

3 藤木英雄東大教授の刑法学説は国鉄久留米駅事件判決で粉砕された

 

  昭和40年代労働事件で司法が左傾化した要因は、藤木英雄東大刑法教授の可罰的違法性論の悪影響が大きい。

  藤木教授は労働刑法での違法性概念について「労働権の保障の結果それと矛盾する限度で財産権に対する保障が後退するのは当然のこと」「通常の一般市民間でなされた場合に威力ないし脅迫にあたる行為であっても、労働争議という実力闘争の場において常態を逸脱しない‥‥程度の行為については‥‥威力あるいは脅迫にあたらないとして構成要件該当性を否認することにより問題を処理することが許されよう」と述べたわけである。[藤木英雄1967 81頁]市民法秩序を軽視する理論である。争議行為の限界を消極的限度にとどまるとしている最高裁判例を突破し、市民法と労働法のぶつかり合う矛盾を労働法優位に改変していこうとする志向性を有している。

  また藤木教授はピケッティングについて、「組合員であって争議から脱落した者は‥‥統制力の行使として、緊急の場合、スクラムによる絶対阻止が許される」「組合の組織の防衛をはかる目的で、会社のために就労しようとする者を‥‥強力な威力行使によって、その通行の最終的な阻止を試みることは‥‥場合によっては合法」としてスクラム阻止を容認している[藤木英雄1967 181頁以下]

   この学説と中郵判決の刑事免責適用を根拠に、争議行為を明文で禁止されているはずの公労法適用職場において、積極的業務阻害であっても、可罰的違法性を欠くとして無罪とする下級審判例が相次ぎ、大きな混乱をもたらした。昭和30年代から40年代にはプロレイバー労働法学に影響を受けた、実力行使を容認する下級審判例も少なくないからである。裁判所がプロレイバー法学の影響から脱する傾向が明確になったのは石田和外コート末期の国鉄久留米駅事件・最大判昭48.4.25刑集273419以降である。実際、藤木学説を根拠として可罰的違法性を欠くとして無罪とした判例は130件あったが、久留米駅事件方式による違法性阻却判断基準により、他組合員への断続的暴行、逮捕行為を無罪とした原判決を破棄した日本鉄工所事件最二小判昭50.8.27 以降ほぼ完全に姿を消し、実務上可罰的違法論は消え去った[前田雅英1984「労働組合役員の他組合員に対する暴行,逮捕行為と実質的違法阻却事由(最判昭和50.8.27) 」『警察研究』551号 ]。

   いうまでもなく、最高裁は、マス・ピケでスクラムによる物理的就労阻止を労働組合法の正当な行為として容認してはいない。リーディングケースは●山田鋼業事件最大判昭25.11.15刑集4112257朝日新聞西部支社事件最大判昭27.10.22民集698である

   争議行為は労務提供拒否という不作為を本質とし、したがって、これに随伴する行為も消極的行為の限度にとどまるべきであり、それを越えて使用者側の業務を妨害するような意図及び方法での積極的な行為は許されないとの見解が確立したものであって、この点についてプロレイバーが主張するように労働法は市民法個人法秩序を超克するものと解する余地はない。

   そしてピケッティングと犯罪の成否についての画期的判例が●羽幌炭礦鉄道事件・最大判昭33.5.28刑集1281694であり、事案は、争議続行と組合指導部に反発して組合を脱退し第二組合の結成に加わった労働者と非組合員による出炭を阻止するためのマス・ピケッティングであるが、「同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し暴行脅迫をもつてこれを妨害するがごとき行為はもちろん、不法に、使用者側の自由意思を抑圧し或はその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されないものといわなければならない‥‥。されば労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するため執られた労働者側の威力行使の手段が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には刑法上の威力による業務妨害罪の成立を妨げるものではない。」と判示した。

   問題は、「諸般の事情」の解釈だが、臼井検事は、「基本となる基準はあくまで労働力の提供拒否にとどまるか否かであり」労働力の提供拒否にとどまるか否かという基準では割り切らないことを意味するというプロレイバー解釈は誤りと指摘している[臼井滋夫1977「ピケッティングの正当性の限界」『法律のひろば』304号 ]。

   プロレイバー労働法学では、争議権とは本質的に「業務妨害権」であり、同盟罷業による業務妨害状態を有効に維持するためにピケッティングは争議行為の範囲にあるとし、一定程度の実力行使も許されるというものであるが、最高裁はもちろん認めていない。

   同判決以外でも最高裁は物理的に就労阻止する実力ピケ、逮捕行為等について多くの事件で有罪と判決している。●ホテルラクヨー事件・最一小判昭和32.4.25暴力行為等処罰ニ関スル法律違反第二港湾司令部駐留軍横浜事件・最二小判昭33.6.20威力業務妨害、東北電力大谷発電所事件・最一小判昭33.12.15威力業務妨害、水利妨害、四国電力財田発電所事件・最一小昭33.12.25威力業務妨害、嘉穂砿業事件・最一小判昭35.5.26威力業務妨害.暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、長万部駅事件・最一小判昭45.7.16建造物侵入浜松動労事件・最一小判昭45.7.16 威力業務妨害全逓横浜中郵前ピケ事件・差戻後上告審最一小決昭49.7.4 公務執行妨害、国労久留米駅事件・最大判昭48.4.25 建造物侵入、公務執行妨害動労尾久駅事件・最三小決昭49.7.16威力業務妨害光文社事件・最三小判昭50.5.8逮捕罪動労糸崎駅事件・最一小決昭51.4.1威力業務妨害国労尼崎駅事件・最一小判昭52.10.20公務執行妨害動労鳥栖駅事件・最三小決昭50.11.21威力業務妨害.公務執行妨害春闘松山駅事件・最小二判昭53.3.3威力業務妨害動労南延岡機関事件・最一小判昭53.6.29威力業務妨害山陽電気軌道事件・最二小決昭53.11.15威力業務妨害(車輛確保戦術)。

   にもかかわらず、東京都水道局では管理職が非組合員に組合の説得に応じるのが当然であり、ピケットラインを超えず、出勤入力をしないこと、出務させないという方針をとっていること。

 職場占拠も業務用機器隠匿といった積極的業務妨害を容認しているのは、ピケット権や業務妨害権あるいは非組合員や脱落組合員による操業の事由を否定する勝手に主張に従っているため。プロレイバー労働法学を受け容れてしまっていると考えざるをえない。

 都水道局の組合には争議権も刑事免責もないにもかかわらず、争議対策として就業命令、操業継続のための業務命令を一切せず、組合の業務妨害権にしたがい業務命令をいっさい凍結し、スト防衛に加担していく。

 それこそが東京都公務員のコンプライアンスだということになっているが、そんな馬鹿な話はないということである。

 

 

4 先進国の雇傭法では労働組合に強制力を付与していない

 

 

 ここでは、イギリスのストライキ「合法化」の政治過程のみ言及する。

 1906年労働争議法Trade Disputes Actは、貴族院が民事共謀法理により巨額損害賠償を認めた1901年のタフ・ベール判決を覆す目的のものである(タフ・ベール鉄道会社が、カーディフ駅におけるピケッティングにより、スト破りの労働者を雇用できなかった損害賠償として組合に2万5千ポンドを支払うよう命じた)。刑事免責によりストライキを合法化したとされる1875年共謀罪・財産保護法の下においても説得をともなうピケッティングが契約違反誘致として不法行為とされ、「スト破り」代替労働者の全国規模での導入も承認され、さらに組合基金よりストライキがもたらした損害賠償請求が可能となり、実質的にストライキはリスクが大きく労働組合が勝利することは困難になったのである。それゆえ労働組合会議を中心に立法闘争になったのである。

 ジャーナリズムはタフ・ペール判決に好意的だった。保守党のバルフォア首相は新立法に反対したが、チャーチルが反乱を起こし30名が新立法賛成となり、1905年総選挙は自由党が400議席で大勝、労働党も29名が当選し、自由党では、アスキス蔵相、ホルディン軍需相などにより、労働争議法の政府案が作成されたが、いわゆる公認ストライキ、現場が勝手にやる非公認ストでなく、労働組合が指導し承認するストライキにおいてはタフ・ヴェイル判決の代替責任の法理を確認する王立委員会報告書の線で政府案が作成された。一方、労働党が労働組合完全免責の方針で独自の法案を提出し、多数の自由党議員と少なからぬ保守党議員が労働党案に賛成した。このため自由党バナマン首相は穏健な政府案ではなく急進的な労働党案を支持し通過させてしまった。実は、裏面でバナマン首相は政府案ではなく、労働党案を支持する事を労働組合側に確約していたのだ[松村高夫2005]。この時自由党でもアスキスが首相だったら違った展開になっていたともいわれる。

 端的にいうと労働争議法とは、中西洋[1998]の言うように「トレード・ユニオンに無条件な民事免責を与え、その限りで、近代市民法理を超え出た存在をつくり出すことになった」のである。

 労働争議法には、ダイシー、ポロック卿、ホウルズワースという名だたる法制史家が非難したように最大級の悪法と思う[A.V.ダイシー 清水金二郎訳『法律と世論』法律文化社1972]。

 他人の業務その他の妨害に対する責任の免除を次のように定める。第三条 労働争議を企画しまたは促進するための行為は、当該雇用契約を破棄するよう他人を勧誘する、または、他の人の営業や雇用に抵触する、または、資本や労働を自由に処置する他人の権利に抵触する、ということのみを理由に起訴されることはない」コモンローでは、正当な理由なくして「不法かつ悪意に」他人をして第三者に対し不法行為をなさしめ、それによって第三者に損害を与える場合は不法行為となり、従って悪意に契約を違反せしめた場合も不法行為となるが、本条は契約違反の誘導に対する争議行為の免責を規定したものである。ただし本条の趣旨は、契約違反の誘導が名誉毀損・脅迫・強制等それ自体不法な手段によって行われる場合は免責されないとする。[片岡曻1952

 労働組合の基金の不法行為に対する免除について次のように定める。

 第四条第1項 「組合によりまたはそれに代わって行われたと主張される不法行為につき‥‥労働組合たるを問わず雇用組合たるを問わず、組合に対して提起された訴訟は、‥‥どの裁判所も受理してはならない」とした。

 ピースフルピケッティングが合法化されたのは1906年労働争議法である。第二条(1)ひとりないしそれ以上の人が、自己のため、または労働組合、または個々の雇用者か企業に代わって、労働争議を企画しまたは促進する事を目的とする場合行為をし、人が居住しているか、労働しているか、営業しているか、あるいは偶然いあわせた、家屋ないし場所にいくこと、あるいはその近隣にいくことは、もしそこにいくのが単に情報を平和的に獲得ないし伝達する目的でなされるか、あるいは、ある人に労働するか労働を棄てるかを平和的に説得する目的でなされるのであれば、合法的である[松村高夫2005 225](2) 前項により1875年共謀罪財産保護法第七条は、"attending at or near"から同条の最後まで削除する。

 1927年労働争議法-再びピケッティングの違法化、同情ストの違法化がなされたが、1942年労働争議労働組合法で廃止され、ピースフルピケッティングは容認された。近年の改革では1980年以降サッチャー政権によって、不法行為免責となる範囲を狭めた。マスピケッテイング、フライングピケット、二次的争議行為などは免責されず、第三者の監査によるスト投票により承認された公認ストライキ以外は免責されない。しかし1906年労働争議法はなお生きている。

 英国におけるピケッティング規制の範囲であるが、小宮文人[2006]はメージャー政権の1992年法(1980年以降の雇用法を進展させたもので)のピケッティングについて次のような説明をしている。

 そもそもピケッティングは、コモンロー上、不法行為を構成する。その理由はピケッティングを成功させるためには契約破棄の誘致又は違法手段による営業妨害が必要だからであると述べ、また不法妨害(ニューサンス)、脅迫、不法侵害(トレスパス)に該当する場合がある。

 1992年法220条は次の場合に、ピケッティングを不法行為責任から免責する。つまり、そもそも不法行為だが、次の範囲で制定法で免責という意味での適法性である。

 免責される範囲は、「労働争議(219条で規定する範囲に限定)の企図または推進のため、その者の職場またはその付近、その者が失業しており、かつその最後雇用が争議行為に関連して終了せしめられ、または、その終了が争議行為の原因の1つとなった場合には、その元の職場またはその付近、その者がある一定の場所で労働しないか、または、その者が通常労働している場所がピケッティングの参加が不可能な場合には、その者がそこを起点として労働している、あるいは、その者の労働を管理しているなんらかの使用者の不動産において、または、その者が労働組合の幹部である場合は、その者が付き添いかつ代表してる組合員の職場または元の職場その付近で、平和に情報を得または伝えあるいは平和的に他人に労働するようまたは労働しないよう説得するだけの目的で参集すること」。

 つまり、その事業所に通常働いている労働者、解雇された労働者の元職場がビケッティングに参加してもよいが、他の事業所からのフライングピケットは違法なのである。また大量動員ピケも違法であり、より具体的には行為準則で示され、一般に1つの出入り口に6人以上のピケットを置くべきではないとしている。行為準則はそれ自体法的拘束力はないとされる。

 しかし訴訟上考慮されるのであり、198485年の炭坑ストライキの Thomasv.N.U.MS.Wales Area[1985]ICR886(Ch.D)で行為準則で定められている人数より多いピケットを組織することを差止めた[古川陽二1987]。 違法ピケッティングからの使用者の救済として、使用者は違法なピケッティングが、その不動産の外側で行われたと確信する場合、その行為が1992年法219条および220条の範囲外の場合には、高等法院に差止を求めるか、選択的または一緒に、損害賠償訴訟を行うことができ、さらに、公道を妨害し、人身または財産の危険を生じせしめるときには、警察に訴えることができる。ピケッティングは場合によっては刑事責任を生じさせる。(241) 

 

 サッチャー政権1980年雇用法行為準則が翻訳されているので一部を引用すると次の通りである。

「平和的に情報を得または伝播し人を説得することは、合法的ピケッティングの唯一の目的である。例えば、暴力的、脅迫的、妨害的行為を伴うピケッティングは違法である。ピケッティング参加者はできるだけ説得的に自己の行為について説明しなければならない。他の者を説明を聞くようにおしとどめ、強制し、自分達が求めている通り行動するよう要求してはなない。人がどうしてもピケットラインを越えようとする場合には、それを認めなければならない。

 何者かに脅威を与えもしくは威嚇し、または何者かが職場に入ることを妨げるピケッティングは刑事罰の対象になる。規則に従わないピケッティングによって、その利益が損なわれる使用者または労働者は、民事上の法的救済を受けることができる。彼はこの行為に責任を有する者を相手どって損害賠償を求めることができるし、裁判所に違法はピケッティングの差止命令を求めることもできる」[小島弘信1980]

 就労者の権利を明確にしており、就労者の意思に反する妨害は刑事罰の対象になることを明確にしているのである。

  サッチヤー政権時、198485年炭坑ストライキと並んで、大規模な警察介入のあったワッピング争議(熟練印刷工組合と半熟練組合等のスト)、これは大衆紙のサン及びニュースオブザワールド(日曜紙)及び高級紙のタイムズ及びサンデータイムズ(日曜紙)を発行するニューズ・インターナショナルが、フリート街から、ロンドン東部ドックランド再開発地区のワッピングの新社屋移転(現在は又別の場所に移転している)に伴う、ストに参加した6,000人の印刷工らが即時解雇されたうえ、新規に雇傭した代替労働者によって業務が行われたという争議だが、労働組合はワッピングの新社屋で印刷された新聞を配送するトラックをはじめ新社屋に出入りする者の入構を大量動員ピケッテイングで封じ込めようとした。新社屋のほか配送業務を委託されたTNT社の新聞配送所でピケが行われただけでなく、連日50200人のデモ、水曜と土曜にワッピング周辺で行進や大集会が行われた。

 これについては新聞社だけでなく配送会社、関連会社より違法ピケッテッングによる不法妨害などの差止を求めて提訴し認められた。また損害賠償請求も併せて行われた。

   召喚令状は配送のTNT社の被用者(トラックドライバー)及びその他の労働者で原告と雇用契約を結んでいる者に対する「雇用契約を破棄せよ」との「脅し」の中止を求め、原告の事業所に物品を供給するのを妨げるために、被告の組合員を「扇動」したり、「脅し」たり「励まし」たり「援助」したり、経済的支援を行うことを一切禁じ、ピケッティングを行う場合にはピケッター自身の職場で6人以下の要員で行うことを命じた。

   高等法院の7月31日の差止を認める判決は、「ワッピングにおけるピケッティングと毎日行われるデモはハイウェイの不法妨害であり、被告は公的ニューサンスの責任を問われるべきである。またワッピングでの週2回の行進と大衆集会はコントロールを失った時は不法妨害に当たり、労働者のバス輸送や追加警備の費用のために損害を被った原告は、この責任を被告に問うことができる。また原告の従業員の中にはピケッティングやデモにより深刻な脅迫を受けて離職したものであり、これらの行為は脅迫の不法行為を含んでいる」と判示、ピケッティングに伴う「脅し」(intimidation)や契約違反誘因(Inducement)の存在が認定された。

   裁判官は大量動員ピケッティングに差止め命令を出した。「デモを含みピケットは6人以下とする。ワッピングへの道路上でのピケッティング及びデモの組織の禁止、フリートン街グレイズイン通りとブーブリー通りの旧社屋前でのピケットも六人以下に限る」としたが、行進と集会については平和的である限りピケッティングとみなさないとした[家田愛子19872論文]

   このようにイギリスではサッチャー政権時には大量動員ピケは差止命令が発出されていて、ピケは代替労働者によって破られ、ワッピング争議では新聞を休刊させることもできなかった。

   マス・ピケッティングやデモの逮捕者はのべ1,370名に及んだ。1986年末までに警察の費用は5,300万ポンドがスト取締に使われ、15万労働日というロンドン警察の3分の2の警察力を投入したのである。印刷工組合は敗北し世論の同情もなく労働組合退潮の潮目となる事件であった。

 

   またワッピング争議の2年後、サッチャー政権の労働改革の総仕上げとなった1988年雇用法は、労働組合の団体的権利に対して、組合員個人の権利(自由)を擁護するかたちで裁判所、労働審判所あるいは労働組合関係に関して一定の公的事務を行う認証官等が労働組合の内部事項に国家が介入を行いうる途を大幅に開放しただけでなく、労働組合員により不当に懲戒されない権利が規定された。これは批判者が「スト破りの権利章典scab,s charter」と呼んだものだが労働改革の到達点を示すものである。

   1988年雇用法はストライキを実施しようとする組合が1984年労組法および88年雇用法の規定している厳しい投票実施要件を適正にクリアして多数の賛成を取得し、ストライキに入ろうとするとき、そのストライキに参加することを拒否する組合員がいても、彼らを統制違反として制裁の対象としてはいけないとした。この立法の思想は、そもそもストライキは組合員にとっては収入が減少し、成りゆき次第では職業を失いかねない危険なものである。したがって、それに参加するか、しないかの決定権は労働組合によりも組合員にあると考えるべきである。つまり労働組合の団結する権利よりも個人の自由な決定権が優越的価値をもつものだというものだ。

   イギリスの労働組合は、統制違反の著しい組合員に対してしばしば反則金(1000ポンドぐらい)を課したり組合員の地位に伴う一定の権利や利益の享受を一時的に剥奪し、著しい統制違反に対しては除名処分も行う。もちろん、スト指令が制定法上、労組規約上、あるいはコモンロー上違法とされる場合にはそのストライキに参加したことを理由に制裁できないことは1971年労使関係法以来確率されていた法理であるが、1988年雇用法はストライキがあらゆる点で適法であっても、それへの参加、不参加は個人の自由な決定に委ねられるべきだとしたことである。

   しかもそれだけにはとどまらなかった。①ストライキ指令のみだけでなく、②ストライキの支援、支持行動の指示に従わないこと、③ストライキに反対の表明をしたこと、④ストライキに対する不支持を表明すること、⑤労組役員が労組規約に違反していると主張し続けること、⑥労働協約に違反したストライキであると主張すること、⑦執行部が法定の投票要件に従ってないと主張することなど19種類の行為を揚げて制裁理由としてはいけないこととした。つまり、指令に反しストライキを途中でやめてスト脱落者を励まし支援しても制裁の対象とならないというものである[渡辺章1990「イギリスの労働法制とその変遷(講苑)」『中央労働時報』]

 

  我が国では団体の統制権の侵害として反発を受けそうな政策だが、これが先進国の労使関係法の水準である。

 なお、1988年雇用法は事前に投票が必要なストライキを「労務の集団的停止」と定義し、任意の職務、時間外労働の禁止もストライキ投票に付さなければならないとしているが、ピケット権というものは「ストライキ」の定義から外れるものとみてよい。制定法がストライキに参加しない権利を擁護しているのであり、この脈絡においても、ピケッティングの態様にはおのづと限界があるとみてよい。

 

  先進国の水準では、このように、就労に関する個人の自己決定、労働力処分(取引)の自由を、争議行為から保護するものになっている。それに比べると我が国は、昭和29年の労働次官通達から進んでいない。

  ただ、その後の指導判例である羽幌炭礦事件判決や国鉄久留米駅事件判決の判断枠組みにより、強制力のあるピケッティングは正当な行為でなく違法とされ歯止めになっているとはいえる。とりわけ可罰的違法性論による無罪が有罪の流れとなったこともありストライキは減少している。にもかかわらずプロレイバー法学者は犯罪構成要件行為も免責されうる、労働組合は強制力があるなどという野蛮な理論をふりかざし有害な思想をまき散らしてきた。まともな法学であるはずはない。それを信奉し、団結意思による個人意思の制圧が正義だと思い、スト破りは許さないとして職員の就労権を侵害しようとする東京都の管理職は左翼思想に染まっていると考えられる。

 

 

 

(六)英米におけるストに参加しないで就労する権利について(補遺)

 

 

   以下は主題から外れるが、海外法制を含め労働法制研究も私はしているので、参考程度に英米のストに参加しない権利が制定法にある。消極的団結権について簡単にふれておくこととする。

我が国の非組合員の就労の権利の一般論は第Ⅱ部四(一)15-3 149頁で述べます

 

   ピケットに対する基本的な考え方は19世紀のアール卿やプラムウェル判事といった良識的な裁判官の認識が基本的に正しいと考える。つまり労働組合主義は個人の自由に反し、ピケッティング(監視)は恐喝の一形式という認識である。(A..ダイシー 清水金二郎訳『法律と世論』法律文化社1972210頁) アール卿は「労働者が団結し他の労働者をその労務から去らしめる場合は、たとえ平和的説得もしくは金銭の供与によってなされたとしても、そして何ら契約違反を生じせしめないとしても、使用者に対する害意をもってなされる限り犯罪である」(片岡曻『英国労働法理論史』有斐閣1952 198頁)  と述べている。つまりピケッティングの外形的行為いかんにかかわらず相手方の取引行為や労働力処分を妨害するという害意に基づく共謀でなされている以上犯罪とされるというのが英国の良識であった。

   現行法制は、契約違反誘致はコモンロー上犯罪であるが起訴できないようになっているが、従って、1980年雇用法(Employment Act 19806人以下でのピースフルピケッティングを是認していること自体、最善のものとは考えてないが、サッチャー政権でのEmployment Act 1980の意義は大きい。

   同法はピケット自身の就労場所またはその付近にピケッティングの対象を制限し、その行為規範(施行規則Code of Practice)において、ピケッティングの区域は、ピケット自身の通常使用出入り口付近に限定し、それ以外の出入り口でのピケッティングや事業所施設の無許可立入は禁止され、民事責任を負うと定め、さらに脅迫的侮辱的言動、暴力的行動、脅迫行為、交通妨害、凶器所持を伴うピケッティングは、刑事上の犯罪とされ、警察官はピケットの人数を制限できるとした。(家田愛子「ワッピング争議と法的諸問題の検討(1) 一九八六年タイムズ新聞社争議にもたらした、イギリス八〇年代改正労使関係法の効果の一考察」『名古屋大學法政論集』. v.168 199714 141頁)またピケットの人数については6人以下と明記し、制限されるものとしたが、決定的には、交通妨害を犯罪としたことである。我が国の労働組合法では暴力の行使を違法としているが、脅迫.妨害については言及がない。イギリスの1980年法の行為準則は、脅迫と妨害を違法とし、大量動員ピケッティングは警察で排除できる内容である点で、就労したい労働者に権利性が示されたこということである。

   交通妨害を犯罪とし、行為規範(施行規則Code of Practice)において他人に干渉されることなく、合理的日常の事業を行う権利の保護。全ての者にピケットラインを越える権利を有すると記されていることで、個人の就労の権利を擁護する方針が明確に示したからである。(小島弘信「海外労働事情 イギリス 雇用法の成立とその周辺-二つの行為準則と労働界の反応を中心として」『日本労働協会雑誌』22111980.11

   実際、20世紀最長の全国炭鉱夫労組(NUМ)によるイギリス炭坑ストUK miners' strike (1984.3.12–1985.3.5) はストライキの特徴は当初からストライキ反対派の存在があり、ストライキ反対のオルガナイザー“Silver Birch”(白樺派)などの公然たる分派活動がみられたことである。57%の炭坑で石炭の生産がストップしたが、イングランド中央部のノッティンガムシャー、ダービーシャー、レスターシャーおよびランカシャーは、ストライキに消極的な組合員が多数を占めており、こうした地域ではストに突入した好戦的地域から送り込まれたフライングピケットの悪罵や暴行に直面しながらあえて仕事を続けた(内藤則邦1985「イギリスの炭鉱ストライキ」『日本労働協会雑誌 』27(2)

  サッチャー首相は1984530日のバンバリ-で演説を行った。

‥‥法律の順守を望み、威嚇には屈しません。ピケラインを突破して戦場に赴く人々の勇気には、心からの賛辞を贈ります。」(山崎勇治「サッチャー元首相の『回顧録』に見る炭鉱ストライキ(1984-85年)」『商経論集』北九州市立大学第422.3.4合併号(20073月)7374)労働組合主義者からは「スト破り」と悪罵が投げつけられる、就労派組合員であるが、サッチャー首相は最大級の賛辞を贈ったのである。

  このサッチャー演説はコレクティビズムの終焉を意味し、個人の自由と権利が尊重されるパラダイム転換と評価できる。

   英国ではスト指令が制定法上、労組規約上、あるいはコモンロー上違法とされる場合にはそのストライキに参加したことを理由に制裁できないことは1971年労使関係法以来確立されていた法理であるが、サッチャー政権の1988年雇用法はストライキがあらゆる点で適法であっても、それへの参加、不参加は個人の自由な決定に委ねられるものとした。のみならずストライキ指令のみだけでなく、ストライキの支援、支持行動の指示に従わないこと、ストライキに反対の表明をしたこと、ストライキに対する不支持を表明すること、労組役員が労組規約に違反していると主張し続けること、⑥労働協約に違反したストライキであると主張すること、⑦執行部が法定の投票要件に従ってないと主張することなど19種類の行為を揚げて制裁理由としてはいけないこととした[渡辺章「イギリスの労働法制とその変遷(講苑)」『中央労働時報』804 1990]。つまり、指令に反しストライキを途中でやめてスト脱落者を励まし支援しても組合の統制権により制裁の対象とならないというものである。

   米国では全米製造業者協会、共和党、南部民主党、組合不在企業により推進され、トルーマン大統領の拒否権行使を覆して成立した1947年タフト・ハートレー法が、1935年ワグナー法の「団結する権利、労働団体を結成.加入.支援する権利、自ら選んだ代表者を通じて団体交渉を行う権利、および、団体交渉またはその他の相互扶助ないし相互保護のために、その他の団体行動を行う権利」に対し、「それらの行動のいずれかを、またはいずれも行わない権利を有する」(7) と定め消極的団結権、団体行動を行わない権利を労働者に付与して、労働組合主義奨励ではなく、中立立法としたのである。団体行動を行わない権利がある。

  1920年代のハーディング、クーリッジの共和党政権・タフトコートの保守的な連邦最高裁時代というのは、オープンショップ運動とレイバー・インジャンクション(労働争議の差止命令)の多用、あるいは黄犬契約といった、明確な反組合主義と、より洗練されたあり方としてはウェルフェアキャピタリズムと呼ばれる従業員に友好的で温情主義的な経営手法などにより労働組合の組織化の挫折がはかられた時代なのである。労働組合の組織率は、1920年に17.5%であったものが、1930年に9.3%にまで低下した(水町勇一郎2005 56頁)。私が1920年代を称賛するのはそのためである。

   このまま推移していけばアメリカは自由主義経済の健全な社会として推移していったはずであるが、大恐慌とニューディール政策によって著しく左傾化することになる。

   フランクファーターのような左翼急進主義者による企みであった1932年のノリスラガーディア法という反インジャンクション法により平穏なビケッティング・集会などの労働組合活動が制定法で判例を覆すかたちで法認され、黄犬契約が規制され、これがアメリカ社会左傾化の第一歩であった。1935年の全国労働関係法(ワグナー法)により民間企業労働者に団結権・団体交渉権および団体行動を実体的権利として規定し、労働組合を強化することになった。20年代のデトロイトは組合の組織化を阻止してきたが、UAW(全米自動車労組)は1935年に結成され1937年にGMとクライスラーが組織化されたのである。「赤い30年代」と呼ばれるこの時代、失業者が都市にあふれて不穏な社会情勢だったが、座り込みストのような悪質なストライキがあったこともあるが、団体交渉による産業平和の確立というのはニューディール政策なのであって、ノリスラガーディア法とワグナー法がなければ、産業別組合の台頭はなかったはずである。もっとも戦時期に著しく労働組合が増大したこと、1946から47年にストライキが多発したことから、労働組合の権利を抑制するため1947年のタフト・ハートレー法では、クローズドショップの禁止、二次的ボイコットなど「不当組合行為」を規定し、刑事罰の適用を導入して、直接行動に大きく枠をはめるとともに、「冷却期間」をもうけてストライキを抑制し、工場現場のワークルールの経営権の回復と、フォアマン(職長)層の労働組合組織化が否定され(竹田有2007 197頁以下)、行き過ぎは修正されたが、タフト・ハートレー法はよりましなものとはいえ、ワグナーへ法の基本的枠組みを変更するものではない。

   我が国では進駐軍のキレン経済科学局労働課長のような労働組合主義者によって戦後の労働政策が推進されたためタフト・ハートレー法ほど労働組合を警戒するものにはなっていない。

   レイバー・インジャンクションの理屈は、財産権を無体のものに拡大し、財産権の回復不可能な侵害のために差止命令を下すものである。労働組合の組織化と労働争議を効果的に抑止した。1917年のヒッチマン判決Hitchman Coal & Coke Co. v. Mitchell 245 U.S. 229組合の勧誘行為の差止命令を認め、オルグ活動は労働者の「非組合員的地位」に対して有する経営者の財産権(炭坑を非組合員によって操業する権利)を侵害し、非組合員労働者の契約上の権利を侵害するとの判断を下した。タフトコート1921年の労働争議差止命令を支持した判例、デュプレックス印刷機製造会社判決、アメリカ鉄鋼会社判決、ツルアックス対コリガン判決は反労働組合判決であり、1914年クレイトン法6条、20条を骨抜きにしてピケッティングを規制し、労働争議差止命令を支持、営業行為を財産権として憲法上保護されることを明らかにした名判決である。

   アメリカ鉄鋼会社判決は「グループでやるピケットの人数が脅迫を構成する。ピケットという言葉そのものが戦争的目的を含んでいて平穏の説得とは両立しがたいもの」であるとして、ピケットは工場、事業場の出入り口ごとに一人に限定されるべく、その一人も悪口、脅迫にわたってはならず、嫌がる者に追随してはならない。また工場の近くに群れをなしぶらぶら歩きをしてしならないとされた[有泉亨「レイバー・インジャンクション(2)」法学教室19719]

   ところが30年代のアメリカ社会の左傾化は1929年の大恐慌に端を発する著しい経済的混乱と社会不安は労働問題に新時代を画し、財産権侵害として司法の判断により禁止されるべきものであったのが、逆に特定の勢力を利する1932年ノリスラガーディア法(反インジャンクション法)のような階級立法を是認したことから始まる。

   1935年全国労働関係法(ワグナー法)等のように産業平和のために労働組合活動を支援する国策に転換してしまったのである。ピースフルピケッティングは1940年のソーンヒル対アラバマ判決が合法的な業務を妨害し、干渉し、損害を与える目的で、当該業務場所をピケッティングすることを違法とした州法を言論の自由に反し違憲としたことにより、合法化したとされている。

   なおアメリカでは1935年全国労働関係法の下で、マッケイルールが知られている。ストライキは不当労働行為ストライキと経済ストライキとに区分されている。前者は全国労使関係法第7条の保護を受ける団体行動に当たり、スト参加者の解雇、懲戒処分は認められないが、後者は恒久的代替者がストライキ中に雇用された場合、スト参加者は恒久代替者を押しのけて職場復帰することはできないというものである。

  連邦最高裁判決NLRB v. Mackay Radio & Telegraph Co. 304 U.S. 333 (1938)は、ストライキ参加者は全国労使関係委員会の保護する「被用者」にあたらないという連邦高裁の判断を覆し、スト参加者も被用者であるとした。

  判旨は① スト参加者も「被用者」に含まれる。

  ②使用者がストライキ中の事業継続のため代替者を使用することは禁じられない。

  ③スト代替者の採用にあたり、恒久的雇用を約束することも許される。

  ④ストライキ終了後、使用者はスト参加者の職を確保するために恒久的代替者を解雇する義務を負わず、恒久的代替によって占められていない空職の人数分しか復帰を認めないことも適法である。

  ⑤しかし、スト参加者のうち誰を復職させるかの決定について、組合活動を理由とする差別を行うことは許されない。

  ①と⑤が判例の核心で、②~④が傍論だが、②~④をマッケイルールとして定着し現在まで維持されている。

   連邦最高裁判決トランスワールド航空対客室乗務員組合TWA V. FLIGHT ATTENDANTS, 489 U. S. 426 (1989) は、スト脱落者もマッケイルールの適用を受け、復帰してくるスト参加者より優先することを明らかにした。労働組合はスト脱落者憎しと言っても、たとえ先任権順位がスト参加者が高いとしても、スト脱落者をおしのけて職場に復帰する権利はない。なぜならばタフト・ハートレー法がストに参加しない権利が保障されているからであるとした。またストライキはギャンブルであり、労働組合はその失敗のつけを不参加者に押しつけるなとまで言った。

  この判決はスト参加のリスクを高め、スト脱落者にインセンティブを高めたと労働組合から批判され下院は1991年に経済的ストライキにおいて恒久的代替労働者の雇用を禁止する法案を通過させたが、上院を通過せず、法改正は失敗している[中窪裕也『アメリカ労働法』第2版弘文堂2010年 154頁以下]。

   英国はスト参加だけで即時解雇できる。アメリカでも、ストライキ中に恒久的雇用の代替労働者を雇用しスト参加者が戻ってくる空職を埋めてしまえば、事実上ストライキにより解雇は可能である。しかし、それをやると、労働組合がその企業を敵対視し、労組の支援を受けて当選している議員も黙っていないから、踏み込めないだけである。

   但しマッケイルールは、ストライキ参加により「被用者」の地位を保持することになっており、「解雇」されるわけではないから、スト参加が「自己解雇」となるイギリスとは違う。空職がある限り臨時雇用者よりも優先的に職場復帰することができる。

   次に公務員法制についても言及すると、アメリカ合衆国の「主権理論」(統治論)とは、公務員の使用者は主権者たる全人民であり、公務員の勤務条件の決定は人民を代表する立法機関によってなされるべきとするもので、従ってアメリカでは伝統的に勤務条件法定主義であった。

  州や自治体のなかには公務員の団結権を認める立法を持つものもあったが、交渉の多くは書面交渉を伴わず、集団陳情の域にとどまっていた。

  ところが1960年代AFLCIО系を中心とする各種公務員組合による団交獲得 の運動が活発に展開され、この動きはウィスコンシン州の自治体雇用関係法の制定に開始したが、とくに1962年のケネディによる大統領命令の制定(連邦被用者に一定の団交権を初めて保障)により、一部の州や自治体で団結権・団体交渉権(協議権)を保障する立法が相次いで制定されていくようになった。

   1970年の郵便ストを契機としてニクソンが独立の公社の設立と完全な団体交渉制度保障を定めた郵便再組織法が制定された。カーター政権の1978連邦公務員改革では、団結権と団体交渉権を定めたが、ストライキの参加や主張は欠格事項に該当し解雇される。ただし団体交渉範囲がきわめて限定されており、給与は法定主義が維持されており、民間企業との均衡達成は大統領の手に委ねられている。団体交渉になりえない事項も多い。

   州公務員については、反労働組合的気風の南部の各州のように勤務条件法定主義を墨守し団体交渉を制度化してない州も少なくない。ノースカロライナ、サウスカロライナ、ウェストバージニア、ルイジアナ、ミシシッピ、アーカンソー、コロラド州は全ての公務員がそうであり、消防士のみ団交立法を設けているのがジョージア、アラバマ、ユタ、ワイオミング州、消防士と警官のみ団交を認めるテキサス、ケンタッキー州、教員のみ団交を認めるノースダコタ、メリーランド州、教員と消防士のみ認めるアイダホ州、ネバダ州は州被用者のみ団交を認めてない(菅野和夫「公務員団体交渉の法律政策」アメリカ(一)」『法学協会雑誌』981号 1981参照)。

  なお、上記の州においても任意的で法的拘束力のない団体交渉を認めている州がありますが、ノースカロライナ州は徹底していて、州、自治体政府と組合の全ての協定は州の公の政策に反し無効であり違反者の処罰を州法で定めている。

  但しノースカロライナには州従業員協会があり、これは労組ではないが賃上げなどは州議会議員へ陳情する。それを「団体交渉」と称している。

  もともと主権理論により公務員ストを主権者に対する反逆と位置づけていた米国との比較でいえば、そもそも連邦公務員はストが禁止され、州においても勤務条件法定主義の州が少なくないことからすれば、我が国の公務員法制の争議行為禁止が格別遅れたものだというような認識は過ちである。

   我が国では英米のように実定法上、ストに参加しない権利、消極的団結権、団体行動を行わない権利が定められていないけれども、争議行為が禁止されている公務員については、非組合員はもちろん組合員であれ、スト参加の勧誘や説得を受忍する義務などないことは判例法理により明らかである。

   ストが決行された場合は、非組合員はピケットラインを尊重するのが労働者のモラルという見解は、左翼のプロパガンダで、1960年代の労働運動の高揚期の古い価値観にすぎません。

  サッチャーの新自由主義的改革では個人の選択の自由が強調された

  そもそもイギリスでは「積極的ストライキ権」がない。コモンローでストライキは共謀罪や契約違反誘致の法理、予告義務の法理などより違法なのである。普通法上違法でも、制定法により起訴されないというヘンテコな理屈で、そうしているだけ。

  それは1906年労働争議法とそれを確認した1974年労働組合労使関係法による不法行為の免責(起訴されない)という「消極的権利」にすぎないわけである。コモンロー上ストライキは「拒絶的契約違反」とされ[家田愛子「ワッピング争議と法的諸問題の検討(2) : 一九八六年タイムズ新聞社争議にもたらした、イギリス八〇年代改正労使関係法の効果の一考察」Wapping Dispute and British Labor Laws in 1980's (2)名古屋大學法政論集 169]、雇用契約を終了させるという断絶理論が支配的であり、停止理論をとらない。したがってイギリス法上は、予告期間を遵守せずにストライキに参加することが重大な契約違反であり、即時解雇事由になる[山田省三「イギリスにおける一九八二年雇用法の成立」『法学新報』902]。つまりスト参加は「自己解雇」である。だからイギリスでは争議中にストライキ参加者が解雇されることは決して珍しいことではなく、スト参加はリスクがある。争議収拾後職場に復帰することは正確に言うと再雇用である。

  1986年のワッピング争議(タイムズ、サンを発行する新聞社)では印刷工の労働組合を排除する目的でストライキ中の組合員の6000人を解雇。1982年雇用法は、労働党政権の1978年雇用保護(統合)法の次の規定「使用者はストライキ参加者の全員を仕事に戻っている労働者とストを継続している者の全員を解雇できるが、選択的解雇は労働審判所の管轄権とする」を廃止し、ストライキ中の選択的解雇をも可能にしていた

  家田氏が重要な指摘をしている「マス・ピケッティングやデモ隊の群衆の罵倒を振り切ってピケラインを越える労働者が多数いたことも見逃せない。ストライキの代替要員として雇い入れたにしろ、組合のストライキ決定に反して戦列から外れたにせよ、彼らにとっては伝統的な労働組合主義は通用しないものであった。そこにはサッチャー政権下で、「個人の自由」、「選択の自由」を全面に押し出してなされた法改革の必然性がうかがえる」[前掲2 181]

  1986年には「ピケットラインの尊重」のような価値観は消えうせているといってよいだろう。昔は宿直時に酒を飲んだものだなどなつかしむ、令和元年当時の〇〇労務課長のような組合の既得権を尊重する管理職に、ピケットラインの尊重を説教されるいわれなど全くない。

  ピケットラインの尊重が都職員として常識的で正当な行為だというのが、労務課長までやった〇〇などの管理職の主張だが、ストライキに与する見解であって、私は絶対的に容認できないのである。

  東京都はピケットラインの尊重政策で、非組合員の就労の権利を奪うのをやめろ。むろん以下の7判例が、違法争議行為の内部統制権を否認しており、公共企業体において、組合員であれ非組合員であれ、組合の指令に従い、ストライキの勧誘、説得を受忍する義務などないことを説いているが、以下の判例法理を否認するのか都庁官僚に質問してもらいたい。

 国労広島地本組合費請求事件.最三小判昭50.11.28民集29-10-1634

 全逓横浜中郵前ピケ事件差戻後控訴審.東京高判昭47.10.20(差戻後上告審最一小決昭49.7.4棄却) 

 動労糸崎駅事件 .広島高判昭48.8.30(上告審最一小決昭51.4.1棄却)

 国労岡山操車場駅.糸崎駅事件.広島高判昭48.9.13 

 国労尼崎駅事件.大阪高判49.4.24判時734号40頁

(上告審-最一小判昭52.10.20 刑事裁判資料230号812頁 棄却)

 動労鳥栖駅事件.福岡高判昭49.5.25判時770号113頁(上告審-最三小決昭50.11.21判時801号101頁 棄却)

 国労東和歌山・和歌山駅事件.大阪高判昭50.9.19

   もとより我国では、地公労法が争議行為と「そそのかし」「あおり」が禁止されているから、ピースフルピケッイングであっても、違法行為の慫慂であるから地公労法111項後段の違法行為であり、庁舎管理規程の通行妨害としても取り締まることはできるし、名古屋中郵判決の判断枠組みに従えば、争議行為もしくはそれに付随する行為として、逮捕行為、強制連行、拉致、職場占拠、業務用機器とくに機密性のある機器を隠匿し組合の支配下におくこと、物理的に就労阻止、業務遂行阻止は業務妨害罪、スト指令伝達、スト準備等の庁舎立ち入りと部外者のオルグ、ピケは建造物侵入罪、暴力をふるった場合は公務執行妨害罪が成立する。

   管理意思を明示し、犯罪を成立させるよう方針を転換すべきことを強く訴えたい。

 

 

 

 

 

第Ⅱ部 東京都水道局の労務管理の包括的改革案

 

 

一 平成16年3月東岡職員部長通知の全面的見直しと労務管理改革の必要性

 

 

(要旨)

   後藤雄一都議の質問をかわすため発出された「平成163月東岡職員部長通知」は、勤務時間内の頭上報告につき職務専念義務違反に当たる場合のみ賃金カットの警告をするものだが、それ以外の地公労法111項後段違反の違法行為、昼休み等の時間外の集会・演説、秩序を乱す行為、他の職員の業務を阻害する、職務専念を妨げる行為、正当な行為でない組合活動を容認させる口実になっており、実質地公労法111項違反行為を是認、地方公務員法32条の服務規律違反として291号の懲戒処分事由となる行為を放置している。

   欠陥が大きいので撤回し、企業運営の諸権利を統合する上位概念として最高裁が案出した企業秩序論(国労札幌地本ビラ貼り事件.最三小判昭54.10.30等)の判例法理にもとづき、職場環境を適正良好に保持し規律ある運営態勢を確保するため、勤務時間内外いかんを問わず、無許可演説行為、無許可集会、他の職員の職務専念を妨げる行為、違法行為、犯罪構成要件該当行為を規制できる就業規則の整備をおこなうとともに、勤務時間内外いかんを問わず違法行為等につき、中止・解散・就業・退去命令等職務命令を義務付ける方針に切り替えるべきことを建議する。

 

 

(一) 平成16年3月東岡職員部長通知と疑問点

 

 

   平成16317日公営企業委員会において後藤雄一都議(無所属・世田谷選出)が、北部支所の組合員の分限免職処分に抗議する所属長要請行動で机に穴を開けた事件や頭上報告など組合活動について質問があった。

○後藤委員 ‥‥三月二日の午前中の三十一人が要請行動を行ったときに、だれかわかりませんけれども、けっ飛ばして、担当者の机に穴をあけたというふうに聞いたんですけれども‥‥‥相当激しいやりとりだったんですか、これは。

○東岡創示職員部長(後に局長、故人) ‥‥騒然となる場面もあった‥三月二日の午前については、終わってからの発見なんですけれども、机の側面に直径十センチ程度の穴があいているということを確認しております。

○後藤委員 ‥‥職員の方たちが仕事をやっていて、組合員の方が報告をするというんで、水道局では頭上報告という習慣があると聞くんですが、この頭上報告とは何なのか‥‥教えていただけますか。

○東岡職員部長 組合の行動の中で、いろいろな節目で、職員が勤務している中で、ある特定の組合員がいろいろ説明するだとか、あるいは話をするだとか、そういうことを指して頭上報告といっております。

○後藤委員 ‥‥例えば職員の方たちは、職場で席に座りながら仕事をしている勤務時間中に、組合の役員の方が赤い鉢巻きだとか腕章までして組合の報告をやるというふうに聞いているんですが、‥‥管理職の方が許しているというんですけれども、本当に許しているんですか、そんなこと。

 

(註-管理職が容認していたのは事実、前述のとおり平成13年に水道局幹部中央支所長(故人)に直接は聴いたが、聴きたい人がいる、聴きたくない人のためにやめさせることはできない。是認すると言っていた。ただし建前上は賃金カットの対象とする方針であったのかもしれないが、実際カットされていたかは不明)

○東岡職員部長 組合の本部指令に基づいて頭上報告を行う場合について、賃金カットを行って、その後、組合の機関としての責任追及はしております。そういうケースではなくて、山猫的に実施される場合について、改めて賃金カットをきちっとしろということで徹底したところです。

(註-本部指令にもとづくというのは職場大会指令。交渉経過報告や決議分朗読、採択、拍手等仕事中でも行うもの。責任追及といっても本部中央闘争委員に限定してのもの、各事業所で演説する役員が懲戒処分されるわけではない。頭)

○後藤委員 例えば山猫的にやられた場合に、管理職の方は、やめろというふうにアピールなさるおつもりですか、これから。

○東岡職員部長 「原則として勤務時間外に行うように求めるということと、勤務時間中に行う場合については、やめるように警告をすると。やめない場合については、その事実を確認して賃金カットをするというふうに通知をしました。」

 

  以下、上記答弁による頭上報告の警告を念頭にした通知をここでは便宜上「平成163月東岡職員部長通知」として記述する。

 

  議員の取り上げた北部支所の要請行動は、分限免職処分の抗議で、担当者を吊るし上げたようだが、スケジュール闘争の大衆行動とは別の抗議活動といえる。

  通常「所属長要請行動」というのは、闘争期間に本部指令でなされる大衆行動の核となる戦術のことで、勤務時間中に役員の号令のもとに、多数の組合員が職務を離脱し、所長席前に陣取り、多衆の威圧のもとに組合の争議行為目的に同意を強要するもので、所長が拒否し組合に従わないと、怒号が飛び交い、つるし上げる。交渉ではなく、本局の交渉当局に組合分会の主張を受け入れるよう上申することを強要し、管理職を取り込むことが狙いの儀式で、所長の執務妨害であるが、これは「平成163月東岡職員部長通知」により昼休みに移行した。

 「頭上報告」については以降「平成163月東岡職員部長通知」の後も勤務時間中に行われるケースもある。ただ以前より自粛傾向になっているのは事実で、代わりに830分以前に職員の多くがスタンバイしている状況でなされることも多くなった。

  勤務時間中の分会役員の頭上報告については「警告」をするようになったことも事実である。

  私が平成2125年度の間在籍していた中野営業所では3名の管理職が、分会役員の書記長会議その他の組合会議の内容を決定、活動方針を伝達する等の頭上報告などに、賃金カットする旨の警告を行っていた。管理職が現認し月間30分以上の累積で1時間賃金カットするというものであるが、所長不在の場合、課長補佐(当時の役職-現在は統括課長代理に相当)は組合員だから現認はしないと課長補佐が言っていた。ただし累積30分で本当にカットされていたかは確認していないし、中止命令というよりも賃金カットの警告で、警告後も続けても懲戒処分の対象ともされていない。

  「平成16年東岡職員部長通知」の効果、とりわけ「所属長要請行動」が昼休み移行に伴い、低調となり怒号が飛び交う殺気立った雰囲気が薄れたことを否定しない。しかしこれは、都議の質問をかわすための場当たり的措置にすぎず、抜本的な改革ではない。頭上報告等を賃金カットすればよい問題に矮小化している。

   頭上報告の演説内容に着目した論点、演説中に他の職員専念を妨げる影響、共同作業としての職場の秩序を乱してること。そもそも目的外使用であることといった論点では何も問題視していない

   つまり頭上報告はたんに地方公務員法35条(職務専念義務)違反の服務規律違反というだけでなく、闘争シーズンの頭上報告は、演説行為それ自体、地公労法111項後段の「あおり」「そそのかし」にあたる違法行為なのであり、それゆえ地方公務員法32条(法令遵守義務)の服務規律違反になることは全く問題になってない。(註-地方公営企業職員は、労使関係について地公労法が適用されるが、服務規律については地方公務員法が適用される)。

  また本部中執や休暇をとっての本部委員が勝手に室内に入り、勤務時間内のオルグ演説やピケッティングをすることは警告の対象外(職務専念義務違反でない)ので全面的に容認されている。

  また「平成163月東岡職員部長通知」は勤務時間外に原則行うべきとしたため、昼休み集会(ストライキ態勢を固めるため闘争課題を確認し、組合員の意思統一を図る目的の集会で、基調報告、決意表明、決議文朗読、頑張ろう三唱等がなされる、地公労法111項後段に違反する違法行為を慫慂する集会、示威行為)のように集会の全てが「あおり」そのものである活動を全面的に容認させる口実になっていて、違法行為を助長していくことは著しくコンプライアンスに反し、見直しが絶対必要である。

   地公労法111項後段に違反する「演説あおり」は、それが勤務時間内であれ、勤務時間外であれ地方公務員法32条に違反し服務規律違反であることは同じだが、管理職にその認識が全くない。

   さらに、囚われの聴衆の状況でなされる執務室内での違法行為の慫慂のためのアジ演説が、執務中の他人の職員の職務専念を妨害している観点でも、職場の秩序、共同作業秩序を乱す行為、もしくは秩序をみだすおそれのある行為であることはいうまでもないのである。

   私のように闘争に批判的な職員にとっては不愉快で敵対的な職場環境であり、アジ演説で職務に集中できない、その余韻で作業の能率を低下させると言ってもよいし、実際電話を受け取っても相手の声が聞こえづらくなるから、業務妨害そのものと言ってもよい。

   国家公務員に適用される人事院規則17272項に「職員は、職員団体のためその業務を行ない、又は活動することによって、他の職員の職務の遂行を妨げ、又は国の事務の正常な運営を阻害してはならない。」、公社時代の郵政事業庁就業規則136項に「職員は、職場において、他の職員の執務を妨げ、その他秩序を乱す言動をしてはならない。」等の規則は東京都水道局にはない。

   職務専念妨害抑制義務の規則がないこと自体が問題だが、演説者は勤務時間外であっても、事務室で執務する時差出勤や昼当番で電話を取ったり窓口業務の勤務者は勤務中であるから、職務専念妨害になることは同じである。であるから、勤務時間内職務専念義務違反者に限定して警告するという方針は職務専念妨害抑制の観点から著しく不備なのである。

   労働基準法第34条第3項の休憩時間の自由利用といっても企業施設内において組合活動が行われる場合には、使用者の管理権の合理的な行使として是認される適法な規制による制約を免れることはできない(米空軍立川基地事件・最三小判昭49.11.29 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52.12.13、昭和50年代以降の企業秩序論の判例法理では勤務時間内外いかんを問わず、施設構内での組合活動は、就業規則に依拠して具象的な業務阻害がなくても規制できる。多数の先例があるので、勤務時間外なら良いということにはならない。「平成16東岡職員部長通知」は、勤務時間外ならなんでもありと解釈できる内容であることが最大の問題だ。

 

 

(二) 後藤都議質問の背景、ながら条例改正について

 

 

  後藤雄一都議の質問は、都議会で職務専念義務免除、有給組合活動が格別問題視されていた時期であったことという背景がある。

  東京都の勤務時間内組合活動について見直される契機となったのが、昭和41年制定「職員団体のための職員の行為の制限の特例に関する条例」(通称ながら条例)が、平成15年に都議会主導で改正されたことである。

  条例改正により給与に換算して年間197千万円の有給組合活動が見直され、13億円削減となる勤務時間内の組合活動の職務専念義務免除基準が改正された(産経新聞平成141115日「東京都と組合合意『ながら条例』改正合意-有給活動3分の1に削減」)。

  住民監査請求もなされた上、平成14年に古賀俊昭都議(自民党.日野市選出)、土屋たかゆき都議(民主党.板橋区選出)が一般質問において追及し実現した。企業局においても条例改正以後、部会や支部委員会その他の組合の会合等が勤務時間中に職務専念義務免除(略して職免という)として容認されて職免の基準が改定された。

  そもそも「ながら条例」の趣旨は、ILO87条(結社の自由と団結権を保護する条約)批准に伴う関連法案として改正された昭和41年改正地方公務員法の55条の26項で「職員は、条例で定める場合を除き、給与を受けながら、職員団体のためその業務を行ない、又は活動してはならない。」と定めたことによる。

  地方公務員法35条により職員は職務専念義務を負うから、職員団体のための活動等も、勤務時間外に行うことを原則としたものである。これは職員団体の活動は自己の責任と負担において行われことによって結社の自由が確保されるという認識に基づく。また、職員の給与は勤務に対する対価としてノーワーク・ノーペイ原則で行われるべきであるから、職員が給与を受けながら職員団体のための活動等を行うことは、本来許されない性質のものであるが、都の条例は、条文に「適法な交渉」に加えて「交渉の準備行為」を認める文言を盛り込んだため、実質特例が肥大化し、結果的に部会や支部委員会、組合の会合等が勤務時間中に「職務専念義務免除」として合法化されていた

   昭和41年当時社会党が都議会第一党ということもあって、組合側に既得権を与えていた。36年間等閑にされた問題を掘り起こしたのは都議会議員の功績で、都庁官僚は厳しく追及されたので是正したにすぎない。

 ただし「ながら条例」改正の意味は、知事部局や教育庁で、職務専念義務免除がなされ当局も公式に認めていた有給組合活動を大幅に絞っていくものであって、公営企業も知事部局と横並びで改正されたとはいえ、そもそも水道局が標的にはされていたわけではない。正当な行為とはいえない組合活動、ヤミ慣行が広範に許容されている実態が俎上に載ったのではなく、条例改正で正常化したわけではない。

 後藤都議が質問した、所属長要請行動や頭上報告は以前のながら条例が認めていた交渉準備行為ではなく、職務専念義務免除をされるべきものでもなかった。条例とは無関係の、たんにヤミ慣行なのである。

 私が知る限りでは平成初期に在籍した江東営業所では、午後3時以降は、青年女性部の会合など、組合活動で職務離脱自由といって、組合役員が会合参加を促していた。「団結味噌汁」といった勤務時間中の調理などのヤミ慣行も当然のごとく認められていた。それと同じである。

 なお私企業の勤務時間中の無許可組合集会については指導的な判例があり、済生会中央病院事件・最二小判平11211民集43121786[i]が以下の警告書「このような集会を勤務中に行うことは労働協約第9 (就業時間中組合活動の禁止)ならびに就業規則第23 (職務専念義務)、第24 (規則を守る義務)に違反する行為であります。……今度かかる行為を絶対に繰返さないよう、ここに厳重に警告しておくとともに責任追及の権限を留保しておく……。」を不当労働行為に当たらないとしているので、平成初期に完全に決着がついている事柄であるから、ヤミ慣行も含めて規制していく観点では、ながら条例の改正というだけでなく、こうした企業秩序論判例法理に沿った改革が妥当であった。

 東岡職員部長通知は、ながら条例が認める職免以外の有給組合活動だけ規制するという発想だけである。企業秩序維持権、いわゆる施設管理権を無視しており、勤務時間外の組合活動を制限しないと解釈される原則を打ち出してしまったことは大きな問題で、依然として最高裁が明示的に否定した組合側の受忍義務説に依拠した考え方のままであることが異常であり、組合側に忖度した対応なのである。

 

 

 

(三) 東岡職員部長通知は、やむをえず行った例外措置

 

 

 東京都水道局は私が知っている昭和60年代以降、事実上、組織ぐるみで争議行為乃至それに付随する違法行為を組合の正当業務と認め、庁舎管理権については、最高裁が否認するプロレイバー受忍義務説に沿って、正当でない組合活動、業務に支障のある行為を含め広範に容認する脱法的な労務管理を行ってきた。

 平成163月は東岡職員部長通知というのは、職員のリークを後藤都議が取り上げて質問したという、ハプニングのため、場当たり的に消極的改革を行ったというにすぎず、労務管理当局としては例外的措置であり、むろん所属長要請行動が昼休みに移ったことにより殺気立ち、騒々しい状況が薄れたことがあるにせよ、組合との不透明な癒着が解消されたわけでは全くない。これ以外、違法争議行為に関連して警告や業務命令をいっさいやらないのが東京都の倣いである。

 何があっても就労命令、中止・解散命令等の職務命令をしない理由は事実上、 組合側の論理に従ったもの。籾井常喜「使用者による争議責任追及の限界」季刊労働法451962「争議中にあっては、労働者には、使用者の指揮・支配から公然と離脱する権利が保障されているのである。したがって、争議中、組合の統括のもとでおこなった組合員の行為にたいしては、使用者の労務指揮の権限が及ぶいわれはない」というプロレイバー学説に依拠している。就業命令等は組織敵視、組合の集会をつぶし、組合の団結を破壊することにあるという組合側の主張を受け容れているためと考えられる。

 争議行為が官公労の正当業務たりえないことが明白になったのは、公労法171項適用の現業国家公務員に労組法12項(刑事免責)が適用されないと判示した全逓名古屋中郵事件・最大判昭52.5.4である。公労法171項違反の争議行為乃至それに付随して、威力業務妨害罪等の犯罪構成要件行為があった場合は、名古屋中郵事件の判断枠組によって違法性が阻却されないものとなった(名古屋中郵第二事件・最二小判昭53.3.3、春闘松山駅事件・最小二判昭53.3.3、動労南延岡機関事件.最一小判昭53.6.2

 同じ年の神戸税関事件最三小判521220民集31-7-110は、懲戒処分の指導判例であるが、争議行為中であることを理由として、上司の命令に従う義務(国公法981項)は免れないと説示し、争議行為中に就業命令をくどく行う、国の各省庁の争議行為対応実務を是認した。

 争議中の職務命令は許されないとするプロレイバー学説は否認された。争議行為乃至それに付随して、威力業務妨害その罪等の犯罪構成要件行為は、名古屋中郵事件の判断枠組みによって違法性が阻却されないものとなった。

 全逓東北地本懲戒免職事件・最三小判昭53.7.18民集3251030が「労働者の争議行為は集団的行動であるが、集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえない‥‥」と判示し、指令を受けて組織の義務を果たしストを実践指導する組合役員以下は懲戒処分にしてはならないという組合側の主張に当局が従う理由はなくなった。

 この時点で実務的混乱は収拾されたはずだが、実際には昭和50年代末期まで官公労のストライキは頻発した。「あおり」の限定解釈で日教組はなお争ったが、平成初期まで最高裁が限定解釈をしない判決を下し、争議行為の通常随伴行為が正当化されることはないゆえ、平成以後の争議行為は大きく減少している。

 国の省庁では同盟罷業中の就労命令は管理職の必須義務として指示され徹底して行っているし、まともな自治体もそうだが、それは違法行為の阻止、正常な業務運営の確保、「上司の命令に従う義務」を適条にするためにも、職務命令は管理職の重要な任務であるはずだ。東京都は何があってもやらない主義。初めから懲戒処分にしないことになっているからやらないということである。最高裁により否定された60年代のプロレイバー学説を墨守する化石的・法外的左翼体質の労務管理と激しい調子で非難して差し支えないと思う。

 実際、職員部監察指導課が庶務担当課長に指示する争議行為対応実務は、管理職が職員一般に対し就業命令せよとは一言も書かれていない。上級部署の示達に従うのもコンプライアンスなので、違法行為を抑止せず、協力することこそコンプライアンスということになっている。組織ぐるみで不明朗に組合と癒着している。

 しかし地方公営企業職員の争議行為が、労組法71号で保護される正当な行為でないことは、北九州市交通局事件・最一小判昭63128民集42107で確定した事柄である(バス事業における三六協定締結更新拒否による超過勤務拒否闘争、民間ディーラー整備員の入構拒否による業務妨害、五割休暇闘争等を地公労法111項違反として、地方公務員法第291113号により北九州交通局労組役員3名を停職六月、5名を停職三月、4名を停職一月、1名を戒告とする処分を適法とする)。

 北海道労委事件・最二小判平28617(中労委DB掲載)は、北教組(混合組合)の平成20130日終業時1時間同盟罷業につき、道教委は30分以上の職務離脱者12,551名に対し組合役員も単純参加者も無差別に一律戒告処分としたが、地公労法附則で地公労法111項が適用される養護学校の単純労務職員(介護員)が、参加行為に藉口して組合の弱体化を図ろうとした処分として救済を申立て、道労委が戒告処分を不当労働行為とした救済命令取消訴訟で、最高裁は救済命令を取消、戒告処分を適法と判示した二審を支持した。30分~60分という短時間であれ、単純参加であっても懲戒処分は免れないことが確定した。これは水道局職員に適用される地公労法違反の事案なので、管理者側に圧倒的に有利な先例といえる。

 この提案はそこまで要求していない。1時間の職務離脱だけなら単純参加者は厳重注意でよいと思う。ただ実際にストを実践指導している本部委員、支部・分会役員が何十回、何百回違法行為を重ねようが、労使結託して懲戒処分にはさせない断乎として守られている体制が非常に気に食わないだけである(平成221210日以降3回の時限ストに関して支部長を訓告としているがこれは懲戒処分ではない)。安心して違法行為ができる職場風土は改革されるべきということ。

 争議行為で北九州市の判例が多いのは、争議行為には厳正に対処することを公約として当選した谷伍平市長(任昭和4262年)が元国鉄門司鉄道管理局長で、北九州市の処分は12条解雇や懲戒免職もある。北九州市並みに厳しくしろとは言わない。しかし最低限、就業命令をやるのは筋と言いたいわけである。正常な業務運営を維持について徹底的に無関心、事実上、労務指揮権と施設管理権が組合に掣肘ないし業務管理された状態は解消されなければならない。

 全水道東水労組合員で水道局では、争議行為で本部中央闘争委員以外、懲戒処分とされることはない。

 中野営業所平成26220日の組合本部書記長のオルグ演説で、組合員に組合活動で不利益措置はさせないと保証するし、それだけの力がある旨の演説をしていたから、そのとおりなのである。

 但し仄聞するところによれば昭和54年頃までは、職務命令も行っていたし、各事業所の組合員にも処分していたとも聞く。しかし、抗議活動で荒れるので行わなくなったという。労務管理が緩くなったのはその頃かもしれない。東龍太郎時代の昭和37年に北一支部青年婦人準職員部長、同支部書記長らが地公労法12条解雇処分の例があることは判例(都水道局時間外労働拒否事件 東京高判昭43426、本件処分は不当労働行為とされた)で知られているが、少なくとも過去40年は、違法行為を支持、助長する労務管理がなされていると言ってよい。

 

 

(四) 平成16年東岡通知以前の状況との相違点とその内実

 

 昼休みに移行された所属長要請行動と賃金カットの警告を行うこととなった頭上報告について、平成16年以前の状況との違いを少し詳しく説明する。

 

2 頭上報告

 

2-1 頭上報告とは

 

 勤務時間中事務室内ほぼ中央に組合役員が赤腕章して立ち、執務中の職員を対象に、情宣やオルグ演説する行為のことである。平時においては書記長会議報告や中央委員会報告など、会議の決定事項や活動方針等を伝達するが、かつて官公労では広く慣行として行われていた「時間内職場オルグ」を含む。組合役員の演説を「頭上報告」と通称している。

 郵政のように庁舎管理に厳しいところもあるが、人事院規則では、勤務時間中の無許可組合活動は禁止されているが、官公労は勤務時間中にオルグ活動をするのがふつうにあったと推測している。民間でも三井三池炭鉱では繰り込み(入坑前に作業の割り振りをする)より前に時間を区切って情宣が認められていた。

 公務員が勤務時間中に自己担当事務を行わないで組合活動をすることは、特段の事情のない限りそのこと自体当然に正常な業務の運営を阻害する実体を具有するものというべきであり、それ自体地方公務員法35条違反の服務規律違反である。職務専念義務は目黒電報電話局事件・最三小判昭521213で厳格に定義されているので、ルーズに解釈する余地はない。しかし、それは問題の一側面にすぎない。

 これはたんに便宜供与の問題ではなく、演説に関心がない場合でも、囚われの聴衆の状況で強制的に演説を聴かされるというやり方である。闘争に批判的な職員にとっては不愉快、敵対的職場環境となる。

 東岡職員部長通知以前の闘争シーズンについては平成1211月~13315に千代田営業所の記録があるが、組合役員により勤務時間内に20回の演説行為等がなされた。11/8 (書記長会議報告)、 1116 (書記長会議報告)、1117(ストは中止したが職場大会切り替え二人演説)、1121(二人演説)、1129(書記長会議報告)、124(職場大会三人演説)、12/8(中央委員会議報告)、1219(交渉経過報告)、1221(ストは中止したが職場大会切り替え中央委員演説)。このほか1215に支所駐車場で決起集会があり通路からシュプレヒコールによる示威行為あり。庁内デモがあった。2/7、2/13(春闘オルグ演説)、2/21(職場集会二人演説、抗議文朗読、採択、拍手)、2/22(営業部会役員オルグ演説、拍手)、2/27(スト批准投票の呼びかけ)、2/28(港分会役員が侵入し連帯オルグ演説)、3/1(スト批准投票の結果報告)、3/2(スト権一票投票の結果報告)、3/8、39(所長要請行動参加呼びかけ)、313(職場集会三人演説)、315

 闘争シーズンでないケースも一例あげておくと、平成12725日香淳皇后の「斂葬の儀」当日、千代田営業所は都税事務所との合同庁舎であるが、弔旗が掲出されないのはもちろん、政府より午前10時の黙祷が要請されていたが、組合役員が仕切って、庁内放送を切り、黙祷すべき時間の前後、赤腕章をした分会役員が空席の所長席前に立って、組合の天皇制に反対の趣旨から黙祷の強制に反対の旨演説を20分程度行い、黙祷をさせないようにした。これも頭上報告である。所長はその直前に離席して行方をくらまし、演説を現認せず、労務指揮権・庁舎管理権を放棄、組合の演説が終わった後、所長席に戻った。組合と示し合わせていたとみるほかない。

 しかし、演説それ自体が違法行為である闘争シーズンの演説が最大の問題である。

ストライキ批准投票の呼びかけ、闘争課題の説明、闘争戦術・日程の説明、指令の伝達、大衆行動と称する勤務時間内職場離脱決起集会参加(動員集会)の呼びかけ、三六協定破棄超勤拒否闘争の指示、ストライキに向けて頑張りましょうともいう。役員によっては大声でアジ演説を行う場合もあり、強度の演説あおりがなされる。

 職場集会というのは、勤務中の職員に対して、複数の組合役員が基調報告、交渉経過報告、決議文朗読、拍手による採択を求められるものであるが、執務室内で頭上報告のように行う。

 たんに演説であれ、集会形式であれ、地公労法111項後段が禁止する「そそのかし」「あおり」であり、地方公務員法291号、32条適条により服務規律違反となるが、管理職はそれを認識していない。

 全水道東水労が頭上報告を重視してきた理由は、「大衆行動」と称する闘争スタイルの指令伝達と実践を徹底することにあると考える。組合員一人ひとりを闘争に参加させていく。所属長要請行動で集団要請に加わり、先輩役員が怒鳴れば職制は簡単に組合のいいなりになるものだということを覚えさせ、ビラ貼りは役員の指示のもと若手中心に行い闘争になれさせ、以前の勤務時間内職場離脱動員集会はもっと多かった。どんな年でも最低3回はストライキを配置して闘争する。すなわち11月の都労連闘争、12月の局内合理化反対闘争、3月の春闘であるが、組合員は各闘争に1回必ず動員に参加することを頭上報告で指示し、それ以外に青年女性部の独自行動などにも参加させ、すべての組合員を闘争に巻き込み、ストライキ決行で統制がとれ脱落者の全くと言ってよいほどない(それは職制が業務命令しないし、各事業所の役員は懲戒処分のおそれがないためでもあるが)状況をつくりだしていく、大衆行動と称する動員参加が義務だと思わせる状況にして争議行為を有利にすすめていくためである。毎日のようにビラ貼りがあり[ii]、頻繁に頭上報告で周知徹底し組合員の意思統一を図っていく。囚われの聴衆だから、職員はアジ演説から逃れられないのである。

 勤務時間中の職場集会については東岡通知以前比較的多くなされていた。この場合集会場所は執務室内で、平成初期の品川営業所では2階だった。1階に営業係、3階の工事係では一部の組合員が2階に移動して集会に参加したが、船津所長が、離席者を本庁に報告したので、職場集会での離席者は報告しないという組合との申し合わせを破ったとして組合役員から吊るし上げられる抗議を受けていた。

 平成前期に江東営業所では、技術員の詰め所が別室であるため、技術員が工事係のエリアに移って集会に参加していた。また私が中止命令を所長に要請したところ、おまえがアジ演説が騒がしいというなら、宿直室に移って仕事をしてもらうと言った。頭上報告は全面的容認というのが平成163月以前の状況だった。

 

1 所属長要請行動

 

 勤務時間中に分会役員の号令により、職務を勝手に離脱した組合員多数が、所長席前に陣取り、多衆の威圧のもとに所長に争議行為の目的の正当性を認めさせ、分会の要請を本局交渉当局に上申するよう(管理職を組合の走狗にする)、強要するものもので、交渉ではない。集団要請行動であり、話し合いを強要し、所長の業務妨害そのものだが、就業命令、解散命令はいっさいやらない。やみ慣行のひとつだが、言いなりにならないと、怒鳴り散らし吊るし上げる。組合が職制に対して優位に立ち、大衆行動で職場を制圧、支配するための核となる戦術である。

 闘争期間中に支部交渉というものも行われるが、支所長は交渉の窓口ではないので広義には所属長要請行動とみてもよいだろう。ここでは、各分会、各事業所単位でなされる要請行動のことである。

 本局でも承知しており、大きな闘争では、要請行動では安易に組合に同調するなと言ってくる場合もあるが、解散命令しろという指示はしていないと考えている。

 平成12年度私が勤務していた千代田営業所で11月~3月に10回行われている。111312512123/8、39(2回)、315319321、平成13年は3月に6回も行われており職場が殺気だっていた。この所長要請には闘争期間中職務命令はせず、現認検書は上申させない含意もあると考えている。というのは昭和40年代日教組など管理職に職務命令等はやらないよう要請する行動は多くみられたからである。しかし、まともな自治体なら業務命令は組合敵視になるのでやるなと言われても拒否するし、国の省庁では就労命令は必須義務である。ところが組合の意向に管理職が従うのが東京都の倣い。職員部監察指導課の争議行為対応の指示には、就業命令をせよとは書かれていない左翼体質の労務管理といえる。

 後藤雄一都議(無所属・世田谷区選出)が平成16317日公営企業委員会において、同年32日北部支所で組合員31人が無届欠勤の組合員の分限免職処分に抗議する所属長要請行動を勤務時間中に行ったとき、ある組合員が担当者の机を蹴っ飛ばして穴を開けた事件や頭上報告等について質問した。

 これを契機として、組合員多数が所長席前に陣取り、怒鳴りちらし、執務妨害行為を行う所長要請行動は勤務時間中については自粛され、東岡職員部長通知により、昼休みに移行されることとなった。

 北部支所のケースは勤務時間中の抗議活動であるが、本部指令による要請行動は、管理職を組合のいいなりにさせる執務妨害行為以外のものではなく、拒否してよい性質のものである。所長は交渉の窓口ではなく、郵政省では、局長交渉は三六協定等に議題を限定して、人数も限定される(東京城東郵便局事件・東京地判昭59・9・6労判442)。

近年の所属長要請行動は低調で、吊るし上げることもなくなっている。にもかかわらず、平成16年は業務手当闘争で組合があらゆる戦術を駆使して大きな闘争を行い、以降同盟罷業が6回決行され、3割動員決起集会などの争議行為は毎年のように恒例化していることは同じであり、これによって争議行為が抑止されているわけでは全くないのであって、組合のいいなりが処世術と体得している労務管理を惰性で続けていることが問題なのである。

 

2-2平成16年以降も勤務時間内の頭上報告は行われている

 

 しかし平成16317日の公営企業委員会で、後藤都議が頭上報告を取り上げたため、東岡職員部長の通知により、頭上報告については警告し、賃金カットとする方針を示した。

 私が平成2125年度の間在籍していた中野営業所では3名の管理職が、分会役員の書記長会議その他の組合会議の内容を伝達する頭上報告に賃金カットする旨の警告を口頭で行っていたのは事実である。管理職が現認し月間30分以上の累積で賃金カットするというものであるが、所長不在の場合、課長補佐(現在は統括課長代理という)は組合員だから現認はしないと言っていた。実際にカットされていたかは確認していない。

「平成16年東岡職員部長通知」以後、スタンバイ状態の午前830分以前に頭上報告する例も少なくない。しかし、平成21年以降在籍した中野営業所では勤務時間中の頭上報告は頻繁に行われていた。書記長会議報告が平時の恒例だが、上部団体全労協の友好団体の政治集会の動員よびかけ(例えば原子力空母ジョージ・ワシントン横須賀寄港反対集会)など細かい内容だった。会議があればその都度報告していた。

 賃金カットといっても、月2回、14分と15分、月3回、10分と9分なら賃金カットされないし、懲戒処分にはされることはないことは初めからわかっているからである。

 以下、「平成16年東岡職員部長通知」以降でも勤務時間中の頭上報告はなくなっていないこと。若干の事例をとりあげるものとする。

〇平成231031日~4日の1週間(祝日をはさむ)昼当番拒否闘争で就労拒否の争議行為があったが(当局は争議行為と認めてない)、これに先立ち、勤務時間中、分会委員長が突発的に足立営業所業務移転の提案に抗議して昼当番は引上げ、管理職対応と闘争を指示する演説があった。「あおり」そのものといえる違法な演説である。

〇平成24717日に東京都の尖閣啓発ポスター(3つの島と海の写真・キャッチコピーと下部に寄付金口座や問い合わせ先が記載されたもの)が都の施設で6,000枚貼りだすことが報道され、都営地下鉄などでは17日から貼りだされたが水道局では組合が反発し「東水労ニュース」730日付によれば東水労は尖閣ポスターに非協力の方針が記載されており、組合はポスターに協力せず、掲示も管理職が行い、都民からの苦情対応は管理職が対応するよう確認を願いますと書かれていた。

この後、分会委員長が勤務時間中の頭上報告でこの経過が説明され、「管理職対応」にしているので、寄付金のことをきかれても一般職員は応対せず、所長に振るようにしろと指示していた。実際には所長が組合に忖度し、大震災の都市だったので蛍光灯を間引きしていて暗くて何も見えない便所の前にポスターが張られたので、質問する客は皆無だった。

〇平成262月の闘争については、勤務時間中に25日本部委員や2日停職中の本部書記長のオルグ演説があった。猪瀬知事辞任による都知事不在、選挙中告示直後の25日発令の停職処分で、停職中の〇〇〇書記長が勤務時間中にオルグ演説した(中野営業所監理団体移管拒否闘争)。出入禁止にしないこと自体問題だが、126日スト決行の後も、業務移転拒否の争議が継続しているのに、処分の範囲、量定など注文されないよう議会が始まる前に処分をすましておく事情のためか、たった10日でスピード処分してしまったことが問題と言えるが、停職中で職務専念義務違反にはならないので所長は警告していない。

 また、職員の職務に位置付けられている目標管理制度については自己申告書に数値目標は書かず組合の示した雛形どおりの文章書くこと、組合役員にコピーを提出すること。面接は強制しないと管理職との協議で確認しているなどと組合員に指示し、目標管理制度を形骸化させる闘争をあおる発言もする。

 後段で述べるように、本部中執のオルグ演説も管理職は許諾しており、勤務時間中の頭上報告がなくなったわけではない。

 

 

2-3 「平成16年3月東岡職員部長通知」の何がよくないのか

 

 「平成16年東岡職員部長通知」が、地方公務員法55条の2 6号 「職員は、条例で定める場合を除き、給与を受けながら、職員団体のためその業務を行ない、又は活動してはならない」と35条の職務専念義務違反の側面だけの問題に矮小化したため、賃金カットを警告すればよいこととしてしまったことが大きな問題で、それ以外に以下の4点の側面が捨象されている。

 

(1) 職務専念妨害、囚われの聴衆という観点からの規制ではない

 

 第一に組合の情宣、訴えかけ、アジ演説は強制的に聞かされる。執務中なので「囚われの聴衆」の状況でなされる。それは不快なものであり、職務への集中を妨げ、職務専念を妨害するものでもある。電話を受ける職員は相手の声が聞こえづらくなる。適正良好で能率的、規律のある業務運営とはいえない。少なくとも職場の秩序をみだすおそれがあり、違法行為の慫慂、アジ演説を聴かされたのは余韻として残るので、その後の作業能率も低下する。端的に業務妨害と言ってもよい。この観点から規制すべきなのであるが、東岡通知にこの論点はない。

 東京都の管理職は、組合寄りなので受忍義務論をいまだに信奉し、いわゆる施設管理権(庁舎管理権)の発動により規制していく発想が全くない。

 また賃金カットは月間30分以上の離脱をカウントして1時間分なので、30分未満に抑えれば、なんの制裁もなく頭上報告が可能。時間外に移されたとしても、830分以前は、時差出勤で早出の職員がいるし、昼休みには営業所では窓口や電話対応する昼当番が勤務しており、勤務中の囚われの聴衆がいることは、830分から正午の一般的な勤務時間と同じことである。

 

(2) 庁舎の目的外使用という観点での規制ではない

 

 第二に「東岡職員部長通知」は有給組合活動にしない対策だけにすぎないのであって、行政財産法制や庁舎管理権の観点からすると、頭上報告は、水道事業の目的に供されるべき、庁舎が目的外使用されており、地方自治法238条の47項に関する判例法理等にもとづいて、不許可として問題のない行為であるにもかかわらず、この観点が捨象されている。

 

(3) 地公労法11条1項後段違反行為という側面を捨象

 

 第三に、闘争シーズンの演説はほとんど全てが、「そそのかし」「あおり」であり、地公労法111項後段で禁止される違法行為なのである。同時にそれは地方公務員法32条の服務規律違反行為となる。演説あおりは頻繁にあるから、それを強制的に聴かされるのは到底、能率的、適正良好に保持し規律ある運営態勢とはいえずこれを容認することによって当局が違法行為に職員を巻き込み、加担、助長しているといえる。

 

(4) 中執や本部委員など他の事業所勤務の者のオルグは規制できない

 

 第四に、中執や本部委員のオルグ演説、専従や他の事業所の組合役員で演説者のケース。職務専念義務違反の警告ができず、管理職は容認してしまうことである。

 「東岡職員部長通知」の、警告がはねつけられた例として、勤務時間内の本部委員によるオルグ演説がある。中野営業所の平成2625日本部委員の〇〇〇〇(当時練馬営業所勤務)が勤務時間中925分より32分まで、事務室内で業務移転拒否闘争のオルグ演説がなされたがその時、〇〇が「平成163月東岡職員部長通知」による賃金カットの警告をやったが、〇〇は「なんだおまえは有給休暇を取っているんだ」と所長を罵倒、所長が引き下がって黙り込んだ。さらに10時からはじまる、人事課の派遣説明会を妨害するため、会議室近くでピケを張りそれも排除していない。

 休暇中だからといって地公労法111項後段所定の違反行為をしてよいものではないし、職務専念義務違反にはならないが懲戒処分の対象となる(全運輸近畿陸運支部事件・大阪地判昭54830)、「東岡職員部長通知」では警告すらできないのだから重大な欠陥であるわけである

この闘争は管理職の労務指揮権を凍結させ、実力で管理団体業務移転を延期させる悪質な争議行為であるが、中野営業所監理団体移管拒否闘争は当局が争議行為と認定していないが、組合はサービス推進部業務課の担当者を中野営業所に呼び出し謝罪もさせたうえ、実力で監理団体を4月から7月に延期させたものである。

 

2-3 小括

 

 つまり「東岡職員部長通知」の内実は、実質、地公労法111項違反容認、地方公務員法291号に該当、32条違反の服務規律違反を是認しているうえ、庁舎管理権の発動を阻止する口実にもなっており組合に有利な内容といえる。

 解決策として、平成16年東岡職員部長知を撤回し、局所内で勤務時間内外を問わず、無許可演説・集会、無許可組合活動、他の職員の職務中の業務妨害を禁止する就業規則を設け、企業秩序論の判例法理にもとづき職場環境を適正良好に保持し規律ある運営態勢を確保するよう建議する。

 

 

 

二 東京都においては労務管理の方針の刷新、パラダイム転換の必要がある

 

(一)プロレイバー学説に依拠した労務管理の異常性

 

 労務管理の基本は、労組法71号で保護される正当な組合活動か否かの見極めになる。何が正当な行為かは法律に書かれておらず、労働委員会の命令、裁判例、学説で判断していくことになるが、ビラ貼り、ビラ配り、組合旗掲出、無許可集会、集会利用拒否、リボン闘争、組合バッジ、腕章着用、ピケッティング、争議行為など組合活動類型の大多数は、未解決の分野があるにせよ、判例の蓄積があり、今日では、正当でない行為、あるいは微妙かはおよそ判断できるのである。

 ところが東京都は、概ね昭和50年代以降最高裁により明示的に否定されているプロレイバー学説に依拠し、不当労働行為に絶対ならない違法行為や風紀秩序を乱す行為を中止命令せず容認しておりノーマルでない。

 正当でない組合活動を野放図に容認し労務指揮権や施設管理権を組合に奪われ、管理意思が示されない実態は、規律のある能率的で適正な職場環境でなく、ガバナンス・コンプライアンス上是正してしかるべき。

 本意見書は平成24年大阪市労使関係条例12条のような徹底した便宜供与を認めない政策を求めてはいない。

 しかし業務に影響を及ぼすおそれ、他の職員の職務専念妨害となるおそれ、違法行為の慫慂の想定できる集会、違法行為、外形上犯罪構成要件該当行為は、中止・解散・退去命令をしてしかるべきなのである。労務指揮権、施設管理権を放棄して、組合のいいなりで業務管理されてしまうのは東京都では管理職の処世術として普通のことだが、世間一般では正常な業務運営と認識されない。

 郵政省は昭和36年に『新しい管理者』というテキストで現場管理職に対し訓練を行ったうえ、全逓の非合法な組合活動に対して徹底した労務管理を行ってきた。正常な業務運営の確保を管理職の任務の第一義として、荒れる職場には機動的に特別考査、監視するチーム(通称トラック部隊)を派遣し労務管理業務支援を行っていたし、国鉄の場合は、スト対策本部に非組合員等召集するなどし、マス・ピケに対してはスト参加者の代務となる職員に業務命令、鉄道公安員や警察官も動員して対策してきた。東京都においては初めから降伏して、組合に労務指揮権や施設管理権(庁舎管理権)に掣肘されてよいことになっている。

 東京都水道局の場合「平成16年東岡部長通知」以外は事実上、プロレイバー学説の受忍義務説による運用だと言ってよい。じっさい平成13年に局幹部中央支所長は、頭上報告は多数者の権利と私に言ったし、副支所長は郷にすれば郷に従えと言った。平成23年に中野営業所長は、違法行為である昼休み集会は許諾するべきもので、規制しないとはっきり言った。この職場風土の刷新のためには、昭和50年代に企業運営の諸権利を統合する上位概念として最高裁が案出した企業秩序論判例法理に依拠して、当局の受忍義務を否定する労務管理に転換する必要がある。「受忍義務説」とは、憲法28条の労働基本権を、近代市民法秩序の核心である財産権、所有権、営業の自由を制約する契機として理解し、具体的には使用者の労務指揮権、施設管理権を制約するものとして、市民法秩序を基本的に否定し、労働組合による不法行為を権利として広範に容認する。法益互譲論である。主な論者として本多淳亮『業務命令・施設管理権と組合活動』労働法学出版 1964 、籾井常喜『経営秩序と組合活動: 不当労働行為の法理』総合労働研究所 1965 、峯村光郎『経営秩序と団結活動』総合労働研究所 1969 、片岡曻『労働組合法の争点:法からみた労使関係のルール』総合労働研究所 1971、外尾健一『労働団体法』 筑摩書房1975

 東京都の管理職は事実上こうした60年代の左翼思想に即した対応をしているのである。

 下級審判例としては、東海電通局ビラ貼事件名古屋地判昭38928判時359という1例がある、全電通東海地本役員らによる東海電気通信局庁舎の外壁に3回にわたりビラの枚数が1回に約4500枚ないし約2500枚糊で貼付した事案で無罪とされたものだが。「使用者の施設管理権も労働者の団結権保障とのかねあいから、使用者が労働者に対して施設利用の便宜を拡張するとか、禁止の解除を行うとかの意味ではなく、権利の本質的な意味で制約をうけ、そこから生じる使用者の不利益は使用者において受忍すべき場合があると考える。」と使用者の受忍義務を団結権保障のコロラリーとして承認する。但し2審は建造物の効用を減損するものとして建造物損壊罪の成立を認め、上告審は原判決是認。

 要するに受忍義務説では、ビラ貼りであれ、無許可の勤務時間内の頭上報告であれ、庁舎内の集会示威行為などOKということになる。管理者は労働基本権尊重の趣旨で、労務指揮権や施設管理権が制約されて当然という理屈である。

 

(二) 企業秩序論にもとづく管理を徹底すべし

 

1 企業運営の諸権利を統合する上位概念

 

 しかし「受忍義務説」は私法上の勤務関係では国労札幌地本事件最三小判54.10.30という指導判例、行政財産の目的外使用(地方自治法238条の47項)の判例では、や呉市立二河中学校事件・最三小判平18.2.7という2つの指導判例で明示的に否定されたので、労務管理、庁舎管理にパラダイムチェンジが必要で、企業秩序論にもとづく管理に転換(行政財産法制は補助的な利用でよい)すべきと強く主張したい。

 要するに労働基本権とは財産権、所有権、営業の自由といった市民法秩序を修正するほど強いものではない。「使用者は、企業目的に適合するように従業員の企業施設の利用を職場規律として確立する一方、企業目的の達成に支障を生じさせ秩序を乱す従業員の企業施設の使用行為を禁止又は制限しあるいは違反者を就業規則等違反を理由として懲戒処分に付するなどにより、企業目的にそわない施設使用を企業秩序違背として規制し排除することができ」る。(池上通信機事件・東京高判昭59830労民3534359」)従っての経営内の正当でない組合活動はこの論理で規制できるのである。

 左翼体質の都庁官僚にこういう発想はないので、組合側の論理に従うことばかりなので、議会の方で追及して変えていくしかないと考える。

 企業運営の諸権利を統合する上位概念というのは次のような意味である。

 戦後、使用者の経営権確立運動は、企業内組合活動を規制する根拠として、当初は労働規律から施設利用までカバーする「経営権」に求めていたが、包括的な経営権の観念を裁判所が必ずしも受け入れなかった。そのために根拠は「労務指揮権」+「施設管理権」であるとされた。

 しかし、「労務指揮権」はその法的根拠を労務当事者の契約に求めざるをえず、「施設管理権」の主張も脆弱性を有していた。その根拠を所有権・占有権という物権的権利に求める限り、所有権の一部をなし、建物、敷地等の会社施設を維持、保全、改良する具体的機能として内容づけられることとなり、妨害排除の物権的請求権か、無権利者による無断利用、毀損行為をとらえて行う不法行為にともなう賠償請求という、民法上の主張にとどまり従業員懲戒の根拠としては弱いという難点があり、プロレイバーにつけこむ隙を与えていた。

 また労務指揮権+物的維持管理権限に限定された施設管理権の主張は、直接労務指揮権限をもって規律しえない時間帯である、休憩時間、就業時間前、就業後の組合活動について空隙を残すことになった。

 この空隙を埋めることができるようになったのが、企業運営の諸権利を統合する上位概念として形成された「企業秩序論」と称される判例法理である。

 平成15年の「ながら条例」改正で問題になったのは有給組合活動であり、地方公務員法55条の2 6号と35条との関連である。問題は勤務時間内に絞られていた。休憩時間、就業時間前、就業後の組合活動についての空隙をカバーできてないので、「企業秩序論」による労務管理が必要ということである。

 「労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動に当たらない。そして、もとより、労働組合にとって利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用し得る権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うと解すべき理由はない(国労札幌地本ビラ貼り事件.最三小判昭541030)」。

 国労札幌地本判決の卓越性は企業内の組合活動の混乱を収拾した決定的意義が認められる。

 

 組合に労務指揮権、施設管理権を奪取、掣肘される在り方をパラダイムチェンジするために私は、JRグループのように、最高裁が昭和50年代に案出した企業秩序論の判例法理、企業秩序維持権にもとづく労務管理を徹底することを提案するものである。なお、JRグループは、就業規則に加えて労働協約でも無許可の業務以外の施設構内利用を禁止しているがそこまでやれば完璧である(JR東海(懲戒解雇)事件・大阪地判平12.3.労判790)次頁次節参照。

 

 企業秩序論とは、企業秩序の維持確保のために、企業は従業員に対し(1)規則制定権(2)業務命令権(3)企業秩序回復指示・命令権(4)懲戒権等を有するとし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることにより、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務を負うとするものである(富士重工業原水禁運動調査事件・最三小昭52.12.13民集317103)

 また労働者は、企業の所有し管理する物的施設の利用をあらかじめ許容されていても、雇用契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、 企業秩序に服する態様において利用するという限度にとどまる。一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判・昭54.10.30民集336676)。但し最高裁は、使用者が労働者に懲戒を行うためには、あくまでも就業規則の記載(国労札幌地本事件最三小判昭54.10.30)とその周知(フジ興産事件・最二小判15.10.10労判8615頁)を必要としているので、水道局の就業規則は組合に配慮してスカスカで無許可演説・集会を禁止するなど明文規定がないところが問題なのである。就業規則の整備、明文化は重要なので後段で具体的に提案する。

 地方公務員法は32条で、地方公共団体の機関の定める規程に従う義務があり、懲戒処分の適条となるから、企業秩序論の判旨と大きな隔たりがあるわけではない。

 ところで国鉄の判例が一般私企業の先例になっているのは、最高裁が国鉄の懲戒処分の法的性質を私法上の行為と判示し、(国鉄中国支社事件・最一小判昭45.2.28民集28166)し、電電公社においても労働関係を私法上の行為と判示したためである(目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52.12.13民集317974)。

 したがって、企業秩序論は原則として公法上の勤務関係、官公庁の労務指揮権、庁舎管理権とは一線を画しているとはいえる。

 一方、現業国家公務員について、郵政省の郵便局職員につき、長野郵政局長事件・最二小判昭49.7.19民集285897 が、勤務関係は公法関係と判示している。

 地方公営企業については、名古屋市水道局事件・最一小判昭56.6.4労判36757が勤務関係を公法関係と判示しており、懲戒処分は行政処分であって、私法上の行為とはされていないので、三公社の先例が直ちに適用されるのかという疑問が生じるところではある。

 しかしながら全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58.12.30判時1102140(郵便局局舎内の無許可組合集会に対する解散の通告、監視等を不当労働行為に当たらないと判示)が国労札幌地本事件・最三小判昭54.10.30を引用していることから、企業秩序論は勤務関係が公法関係である職場でも準拠できることは明白である。

 ちなみに最高裁が維持した原判決●東京高判昭55.4.30労民312544は「企業主体が国のような行政主体である場合と、また私人である場合とで異なるものではない」と述べ企業秩序論が汎用できることを説示している。

   加えて、近年の◯●大阪市組合事務所使用不許可処分事件・大阪高判平2762判時2282-28大阪高判平27.6.26判時2278-32(最二小決平2921上告棄却不受理)は、平成24年の目的外使用申請不許可では、前年度の許可満了の3ヶ月前に、何らの前触れもなく不許可の方針を表明した処分として違法とするが、平成24年大阪市労使関係に関する条例の規定及び行政事務スペースの欠如を理由としてなされた平成25年、26年の不許可処分を適法とする。労働組合等が当然に行政財産を組合事務所として利用する権利を保障されてはいないと説示し、これは、企業の物的施設を行政財産に言い換えただけで、その先例として、国労札幌地本事件・最三小判昭54.10.30民集336676済生会中央病院事件・最二小判平元.1.12.11民集43-12-1786オリエンタルモーター事件・最二小判平7.9.8判時1546130頁を参照指示していることから、地方自治体の庁舎管理でも私企業判例の法理に準拠した判断をとってよいのである。

 

 2 企業秩序論の労務管理はわかりやすく有益

 

   指導判例の国労札幌地本判決の説示が冗長だが、要約した池上通信機事件の二審東京高判昭59830労民・353445がわかりやすい。「使用者は、企業目的に適合するように従業員の企業施設の利用を職場規律として確立する一方、企業目的の達成に支障を生じさせ秩序を乱す従業員の企業施設の使用行為を禁止又は制限しあるいは違反者を就業規則等違反を理由として懲戒処分に付するなどにより、企業目的にそわない施設使用を企業秩序違背として規制し排除することができ」るという考え方でよいわけです。

 

🔶施設構内の無許可組合集会が正当な組合活動とされることは、国労札幌地本判決を引用した以下5つの最高裁判例が否定している以上ありえない

 

  中止・解散命令・監視・警告書交付は適法なので躊躇する理由は全くないのである。

●全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58.12.20池上通信機事件・最三小判昭63.7.19日本チバガイギー事件・最小一判平元.1.19済生会中央病院事件・最二小判平元.1.29オリエンタルモーター事件・最二小判平7.9.8

   水道局の「昼休み集会」「支所・拠点2割動員決起集会」「ふれあいモール3割動員決起集会」は、「あおり」そのもの、違法行為そのものであるからで文句なしに拒否、中止命令ができると言ってよい。

 

 3 法益権衡論、調整的アプローチの排除

   企業秩序論が優れているのは法益権衡論(労働基本権と使用者の所有権・財産権)の調整的アプローチを否定していることにある。国労札幌地本ビラ貼り判決は、「労働組合又はその組合員が使用者の所有し管理する物的施設であって定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないもの」であり許諾を得ない施設利用は「使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動として許容され」ないとする。

  これに対して「特段の事情」に法益権衡論を持ち込んで風穴を開けようという試みがあったが、最高裁は排斥している。

  組合集会の従業員食堂無許可利用事案で「特段の事情」について、当該施設を利用する目的(とくにその必要性)等を総合考慮して判断する法益権衡論を主張した池上通信機事件・最三小判昭63.7.19判時1293の伊藤正巳補足意見(結果的同意意見)がそうだが、伊藤補足意見は少数意見にすぎず、多数意見はこの見解を退けている。

  また、最高裁は●日本チバガイギー事件・最小一判平元.1.19労働判例533177でも工場は勤務時間外だか事務棟は勤務時間中での施設内集会不許可事案で中労委は、上告趣意において「権利の濫用」を広く解釈し「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」と述べ、「業務上ないし施設管理上の支障に藉口」するもので不当労働行為にあたるとしたが、この中労委の見解を退けている。

 判例法理を変質させようとする意図のある、当該施設を利用する目的等を総合考慮して判断する法益権衡論を再度、明確に退けたものであって、指導判例の趣旨に沿った純法理的な判断をとったものとして評価できる。

 

🔶プロレイバー学説の受忍義務説は明示的に否定されているから、組合に主導権をとられることは絶対ない

 

🔶私企業では懲戒処分とするには就業規則を具備していること(無許可組合活動.集会の禁止)+その周知+「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」が懲戒処分の前提になる

 

   政治活動の判例だが、●目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52.12.13民集317974(「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と記すプレート着用して勤務+正午ごろ休憩時間のプレートを取りはずすようにとの命令に対する抗議ビラ数十枚を職員に配布)は抽象的危険説を採っていて、具象的に業務が妨げられずとも規制できる趣旨。他の職員の職務の集中を妨げるおそれ、その余韻から作業能率を低下させるおそれで十分である。

  また目黒電報電話局判決の「形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときには、右規定の違反になるとはいえないと解する」と言う判断枠組があるが、就業規則の形式的違反でなく実質的違反と言っているだけで、そのクリアは容易なことである。電電公社の就業規則五条第七項は、「職員は、局所内において、選挙運動その他の政治活動をしてはならない。」とあり実質的に違反していると判断され戒告処分を適法としている。

 

  目黒電報電話局事件は政治活動の事案だが、組合活動でも引用されており先例となる。水道局の違法行為慫慂の事務室内「昼休み集会」にもそのままあてはまる。

 「他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、よって他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げるおそれのある」「局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であっても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあって、その内容いかんによっては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがある」

  このような理屈、能率的でないということでも、文句なしに勤務時間外であれ休憩時間でも組合活動は取り締まることができる。

🔶例外的に、過重な不利益処分の事例で不当労働行為とする判例もある(光仁会病院事件・東京高裁平21.8.19停職三・病院敷地内立入禁止という懲戒処分は、懲戒事由の本件組合旗設置という行為内容に比して著しく過重であって相当性を欠く金融経済新聞社事件・東京地判平15.5.19は昼休みの無許可集会だけで次長心得から5段階降格し月額二万八千円の役付手当剥奪処分は過重な処分)。また〇総合花巻病院事件・最一小判昭60. 5.2は、従来許可していた組合の施設利用拒否事案で、院長が組合三役に対し上部団体である医労協への加盟を断念させようと働きかけた経緯から、上部団体加入を嫌悪、牽制、阻止することが理由として支配介入とされたもので、あくまでも企業秩序風紀の維持を理由とするもので、過重な量定でなれれば懲戒処分が無効とされることはない。

  但し本提案は、中止・解散命令は必要だが、たんに無許可集会強行それだけでは懲戒処分とせず、必ず現認・監視・記録しておいて、実際ストライキが決行された場合に懲戒処分事由の一つとする安全運転の方針を提案している。

 

4 モデルはJRグループ

 

JRグループ型の企業秩序維持権を行使する労務管理に転換していくことを提言する。これによって正当でない組合活動は文句なしに取り締まれる。下記のとおり、就業規則が整備されているうえ、各労組との基本協約でも施設管理権の侵害を許さないものとなっているという点である。私企業の懲戒処分は規則の記載と、周知が懲戒処分の前提になる。これは地方公務員法2911号、32条の趣旨と大きな隔たりはないのであって大筋で同じことであるから、水道局においても就業規則の整備が重要なのだ。

 

◇JRグループ就業規則

 

第3条(服務の根本基準)

 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない(一項)。

第7条(勤務の厳正)

 社員は、みだりに欠勤し、遅刻し、若しくは早退し、又は会社の許可を得ないで、執務場所を離れ、勤務時間を変更し、若しくは職務を交換してはならない。

(出勤)

第8条 社員は、始業時刻前に出勤し、出勤したことを自ら会社に届け出なければならない。ただし、会社の許可を得た場合はこの限りでない(一項)。

 社員は、始業時刻には、会社の指示する場所において、実作業に就かなければならない(二項)。

 会社は、社員が始業時刻に遅れて出勤した場合は、就業させないことがある(三項)。

 (退出)。

第9条 社員は、終業時刻後速やかに退出しなければならない。ただし、会社の命を受けた場合又は会社の許可を得た場合は、この限りでない。

(信用失墜行為の禁止)

第13条 社員は、会社の信用を傷つけ、又はその名誉を汚すような行為をしてはならない。

(出社禁止及び退社命令)

第19条 社員が次の各号の一に該当する場合は、出社を禁じ、又は退社を命ずることがある。

(1)(省略)

(2)業務を妨害し、若しくは秩序を乱し、又はそのおそれのある場合

(以下省略)

第20条(服装の整装)

 制服等の定めのある社員は、勤務時間中、所定の制服等を着用しなければならない(一項)。

 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない(三項)。

第22条 (会社施設内等における集会、政治活動)等

社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配付その他これに類する行為をしてはならない(一項)。

 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で、選挙運動その他の政治活動を行ってはならない(二項)。

第23条(勤務時間中等の組合活動)

 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。

第27条(任用の基準)

 社員の任用は、社員としての自覚、勤労意欲、執務態度、知識、技能、適格性、協調性、試験成績等の人事考課に基づき、公正に判断して行う。

第28条 会社は、業務上の必要がある場合は、社員に転勤、転職、昇職、降職、昇格、降格、出向、待命休職等を命ずる

2 社員は、前項の場合、正当な理由がなければこれを拒むことはできない。

(第3項 省略)

4 出向を命ぜられた社員の取扱いについては、出向規程(平成2年10月社達第31号)の定めるところによる。

第28条の2 54歳に達した日以降の人事運用については、原則として出向するものとする。この場合、賃金は会社基準により支給する

第140条 社員が次の各号の一に該当する行為を行った場合は、懲戒する。

(1)法令、会社の諸規程等に違反した場合

(2)上長の業務命令に服従しなかった場合

(3)職務上の規律を乱した場合

4)~(10)略

(11)他人を教唆煽動して、上記の各号に掲げる行為をさせた場合

(12)その他著しく不都合な行為を行った場合

第141条1項 懲戒の種類は次のとおりとする。

(1)懲戒解雇 予告期間を設けず、即時解雇する。

(2)諭旨解雇 予告期間を設けず、即時解雇する。

(3)出勤停止 三〇日以内の期間を定めて出勤を停止し、将来を戒める。

(4)減給 賃金の一部を減じ、将来を戒める。

(5)戒告 厳重に注意し、将来を戒める

第141条2項

 懲戒を行う程度に至らないものは訓告とする。

 

JRグループ賃金規程

 

 22条 (昇給の所要期間及び昇給額)

 昇給の所要期間は一年とし、その昇給は、四号俸以内とする。(略)2(二項略)

 24条(昇給の欠格条項)

 昇給所要期間内において、別表第八に揚げる昇給欠格条項に該当する場合は、当該欠格条項について定める号棒を昇給号棒から減ずる。この場合、減号棒が昇給号俸を越える場合は、その超える号棒一号棒につき三箇月の割合で、昇給所要期間の起算日を繰り下げる(一項)。

 昇給所要期間の起算日を繰り下げた期間内に欠格条項のある場合又は昇給所要期間の経過のない場合については、前項に準じて取り扱う(二項)。

 142条(調査期間)

 調査期間は、夏季手当については前年一二月一日から五月三一日まで、年末手当については六月一日から一一月三〇日までとする。

 143条(支給額)

 期末手当の支給額は、次の算式により算定して得た額とし、基準額については、別に定めるところによる。

 基準額×(一-期間率±成績率)=支給額

 145条(成績率)

 第143条に規定する成績率は、調査期間内における勤務成績により増額、又は減額する割合とする(一項)。

 成績率(減額)は、調査期間内における懲戒処分及び勤務成績に応じて、次のとおりとする(三項)。

ア 出勤停止 一〇/一〇〇減

イ 減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者五/一〇〇減

(別表第八)

 昇給欠格条項

 勤務成績が特に良好でない者 所定昇給号俸一/四以上減

「勤務成績が特に良好でない者」とは、平素社員としての自覚にかける者、勤労意欲、執務態度、知識、技能、適格性、協調性等他に比し著しく遜色のある者をいう。

◇JRグループ基本協約

第9条 会社は、業務上の必要がある場合は、組合員に転勤、転職、昇職、降職、昇格、降格、出向、待命休職等を命ずる。

2 組合員は、前項の場合、正当な理由がなければこれを拒むことはできない。

(第3項 省略)

4 出向を命ぜられた場合は、社員の出向に関する協定によるほか、定められた取扱による。

5 54歳に達した日以降の人事運用については、原則として出向するものとする。この場合、賃金は会社基準により支給する。

 

第216条 会社は、組合員の正当な組合活動の自由を認め、これにより不利益な扱いをしない。

(勤務時間中の組合活動)

第217条 組合員(専従者を除く。)は、勤務時間中に組合活動を行うことはできない。ただし、次の各号のいずれかに該当し、会社から承認を得た場合には勤務時間内に行うことができる。

(一時的利用)

第226条 組合は、会社の施設、什器等を一時的に利用する場合は、会社に申し出、その許可を得なければならない。

(掲示)

第227条 組合は、会社の許可を得た場合には、指定された掲示場所において、組合活動に必要な宣伝、報道、告知を行うことができる。

2 会社は、業務上の必要が生じた場合には、前項で指定した掲示場所の変更または取消しをすることができる。

3 組合は、会社の指定した組合掲示場所以外の場所に、掲示類を掲出してはならない。

(掲示内容)

第228条 掲示類は、組合活動の運営に必要なものとする。また、掲示類は、会社の信用を傷つけ、政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し、または職場規律を乱すものであってはならない。

2 掲示類には、掲出責任者を明示しなければならない

(違反の措置)

第229条 会社は、組合が前二条の規定に違反した場合は、掲示類を撤去し、掲示場所の使用の許可を取り消すことができる

(争議行為)

第259条 組合が争議行為を行う場合には、日時及び場所並びに争議行為の概要を10日前までに、また、争議行為の目的、形態、規模、日時、期間及び場所等の具体的かつ詳細な内容をその72時間前までに文書をもって会社に通知しなければならない。

2(略)

第261条「争議行為中、当該争議行為に関係する組合員は、会社の施設、構内、車両への立ち入り及び物品の使用をすることはできない。」

第272条 組合員が、労働協約及び就業規則等の適用及び解釈について苦情を有する場合は、その解決を苦情処理会議に請求することができる。(以下略)

 

 上記の引用JR三社の事案では判文にあるものを寄せ集めたもの。大阪地判平10331労判742-44静岡地判平成28128労判117383JR東海鳥飼車両基地事件、東京地判平令638TKC、東京地判令5327判時261679、大阪地判平28125労働判例ジャーナル5023、東京地判平26415TKC、東京地判平22325労判101153、東京地判平211224中労委DB、東京地判平18515判時1947142、東京地判平26825労判110426JR西日本戒告処分事、件東京地判平17228判時1893137、横浜地判平2921判時1377128、横浜地判平987判タ957114 東京地判平25328中労委DB

 ストライキ時の鉄道地内、構内の侵入を許さない方針は徹底しており、平成二年三月一九日、千葉動労は千葉、津田沼、館山、勝浦、銚子の各運転区、木更津支区、京葉運輸区で、本線乗務員は始発時、地上勤務者は始業時から4872時間のストを予定していたが、これに先立って2月下旬にJR東日本千葉支社総務部は、今後のストライキに対する対策として、以下の事項を決めている。

ア 入構拒否

 ストライキ実施の組合に対し、以下の条件を守ることを約束した連絡員以外、休養室を含め施設への立入りを認めない。

〔1〕施設内に連絡員以外の組合員を入れないこと

〔2〕ストライキ参加者及び部外者を施設内から退去させること

〔3〕現場でストライキの目的等についての申入れは行わないこと

〔4〕施設内での集会及びこれに準ずる行為は行わないこと

〔5〕連絡員の変更があった場合には速やかに連絡すること

イ  津田沼運転区構内にある原告組合事務所前にトタンフェンスを設置する。

 東京地判平17228判時1893137は、スト時における業務遂行を継続するために必要かつ相当な措置であり、正当なものであるから、抗議して行われた繰上げストの目的は正当性を欠き、不当労働行為に当たらないとしている。

 基本協約261条は、ストライキはウォークアウトを正当な行為として認めても、積極的な業務妨害や、施設構内での集会を認めない趣旨と考えられるが、集団的労務提供拒否以外は、施設管理権の侵害として阻止する意図の協約とみることができる。

 JR各社(東日本・東海・西日本)は、私鉄総連の春闘ワッペンを取り締まらない私鉄各社と違って、春闘ワッペンよりずっと小さい縦1.1㎝、横1.3㎝の四角形の国労バッチの着用を、JR発足当初より就業規則にもとづいて禁止し、徹底的に取り締まってきた。

 JRの就業規則は非常によくできていて、組合バッジ着用は、職務専念義務違反、服装規定違反、無許可組合活動の3ヶ条に違反するのみならず、服装指導の回数によって、期末手当5%減額事由となる賃金規定があるため、バッジを外さないと、ボーナスが減額されてもやむをえない設計に初めからなっていた。

 国労が労使協調路線へ方針を転換したのは平成87月以降であり、JR東日本とは平成11年年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結した。平成15年にはJR東日本で国労バッジ着用者は1人となりその人の退職により、組合バッチ着用者はいなくなった。

 このように就業規則と基本協約の明文規定で職場の規律維持や施設管理権の発動ができる。

 

 

(三)行政財産の目的外使用(地方自治法238条の4第7項)の判例法理について

 

 

 都庁官僚は私企業的な労務管理を嫌うかもしれないが、企業秩序論は公法上の勤務関係でも適用できることはすでに述べたとおりで、公法上の規制が好む人もいるだろうから、行政財産の目的外使用(地方自治法238条の47項)の判例法理により、組合活動の規制も考慮してよい。ただ結論としては、企業秩序維持権を補完する程度に活用すべきで、これがメインとしないほうがわかりやすいと考える。

 

 指導判例である〇呉市立二河中学校事件・最三小判平18.2.7民集602401(教研集会使用不許可を違法とする)の判旨が、学校施設以外でも多く引用されていて、判断枠組として定着しているが、受忍義務説を明示的に否定しているので有益だからである[iii]

 広島県教組が広島県教研集会会場として呉市立二河中学校の施設の使用を申し出、校長いったんは口頭で使用を許可する意思を表示した後に、市教委が、過去の右翼団体の妨害行動を例に挙げて使用させない方向に指導し、不許可処分をするに至ったものだが、組合側が不当に使用を拒否されたとして損害賠償を求めた事案で、一審、二審とも県教組が勝訴、上告審は不許可処分を裁量権の濫用と認定し上告を棄却したというものだが、最高裁が初めて、学校施設の目的外使用の諾否の判断の性質、司法審査のありかたを明らかにした。

 同判決は裁量処分の権利濫用の有無について、従来の重大な事実誤認や社会通念からの顕著な逸脱という社会通念審査(最小限審査)に加えて、「判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くことがないかを検討」する判断過程合理性審査[本多滝夫2007]を採用し、審査密度を濃くした審査方法を示したことで特徴的といえる。

 しかも同判決の判断過程審査方式は、学校施設のみならず、公立の福祉施設や、市庁舎の職員組合に対する便宜供与にいたるまで判断枠組として引用されているので影響力が大きい。

 というのも学校施設は地方自治法238条の47(4)にいう行政財産であり、したがって、公立学校施設をその設置目的である学校教育の目的に使用する場合には、同法244条の規律に服することになるが、これを設置目的外に使用するためには、同法238条の47項(旧4項)に基づく許可が必要であるが、これは、これは地方自治体及び地方公営企業の庁舎も同じことだからである。

 本件の決め手は「教育研究集会は、被上告人の労働運動としての側面も強く有するもの‥‥教員らによる自主的研修としての側面をも有しているところ、その側面に関する限りは、自主的で自律的な研修を奨励する教育公務員特例法19条、20[平成15年改正で21条・22]の趣旨にかなうものであり‥‥使用目的が相当なものである」という判断をとったことにあり、目的内使用に近い認識といえる。

 この判例により、教研集会の学校施設利用拒否は不可能になった。ただし組合活動で教研集会以外、便宜供与拒否を違法としたのは、呉市立学校事件以前の〇福岡県教職員組合鞍手直方支部事件・福岡高判平16.1.20判タ1159146(組合加入勧誘のオルグ活動を目的とした分会会議の施設利用の拒否)ぐらいしかないので、司法が組合活動に好意的になったというわけではない。

 

 以下のとおり、呉中学校判決以前のものだが、組合の闘争や争議行為に絡む施設利用の拒否適法とされているほか、平成24年制定大阪市労使関係に関する条例第12条「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は、行わないものとする。」を適法として市役所や公立学校の施設の利用不許可を適法とする判例が数例ある。大阪市のような条例が制定された場合と、争議行為に絡む施設利用については不許可が違法とされることはありえないと考える。

鹿児島県立大島高校等6カ所の学校施設目的外使用不許可事件・福岡高裁宮崎支部判昭60.3.29判タ574(鹿高教組主催ミュージカル公演不許可-適法)

広島県高教組「人事委員会報告説明会」県立高校体育館使用拒否事件・広島地判平14.3.28裁判所ウェブサイト (広島県高教組が毎年開催している「人事委員会の報告」集会を県立高校で開催しようとして、同校体育館の使用を申し入れが拒否された事案。当該集会では、組合員にストライキの実施の賛否を問う批准投票が実施されることになっており、集会の内容に一部、争議行為を禁止する公務員法371項の規定に抵触するものが存在することが明らかで、施設管理上、学校教育上の支障に該当するとして、不許可行為は適法であるとしたが、不許可を文書で通知する義務に違反した点を違法とし、教育長の責任を認め10万円の賠償を命令した。)

広島県高教組定期総会学校施設使用不許可事件・広島地判平17.2.9-裁判所ウェブサイト(不許可-適法)

大阪市労連、市職、市従、学給労等組合事務所使用不許可事件・大阪高判27.6.2判時222828(一審判断を一部変更。平成24年の目的外使用申請不許可では、前年度の許可満了の3ヶ月前に、何らの前触れもなく不許可の方針を表明した処分として違法とするが、平成24年大阪市労使関係に関する条例の規定及び行政事務スペースの欠如を理由としてなされた平成25年、26年の不許可処分を適法とする。同条例12条を労働組合等に対する便宜供与はほぼ例外なく行われないものと解したうえ、条例制定には十分に理由があり、支配介入には当たらず、憲法28条にも違反しない。又労組法上は、最小限の広さの事務所の供与を許容しているが使用者の義務ではなく奨励するものでもないとし、被控訴人らは、本件事務室部分を権原なく占有しているというべきであって明渡請求は理由がある、この間の相当使用料額は1か月176830円となることが認められ、明渡済みまでの使用料相当損害金を支払う義務を負うと判示した。)

大阪市労組・大阪市労働組合総連合組合事務所使用不許可事件・大阪高判27.6.26判時227832(前掲判例と同じ)

枚方市組合事務所使用料徴収処分取消請求事件・大阪地判平28.3.28掲載TKC

(職員会館における組合事務所の使用料の徴収を適法とする。「公有財産の使用に関する受益者負担の要請が強まっており‥‥市議会等において、組合事務所の無償使用についての質疑がなされ、住民監査請求もなされるなど‥‥関心が高まり、大阪府下においても組合事務所の使用料を徴収する自治体が増加しつつあったことなどといった‥‥状況下において、市長が、原告による組合事務所の‥‥使用料の減免申請に対し、組合事務所が収益を目的としない使用に当たるものの、「市長が特に必要と認めるもの」に当たらないとした判断は‥‥相応の合理性が認められる。」)

大阪市教職員組合分会会議使用不許可事件・大阪地判平29.12.20判タ1452131(教職員組合が、延べ44回にわたり学校施設の目的外使用許可を申請したところ、各校長は、大阪市労使関係に関する条例第12条「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は、行わないものとする。」にもとづき、同申請をいずれも不許可処分とした事案で、適法とした。)

 

 公用財産としての水道局の庁舎は行政財産であり、公有財産であり、企業用資産でもある。

 地方公営企業は、地方公共団体と別個の独立した法人格を有さないので、企業用資産も地方公共団体に帰属し、地方自治法上の行政財産として規制を受けるのは、企業用資産の範疇も同じことであるから、地方自治法238条の47項(旧4項)の目的外使用「行政財産はその用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる」の判例法も適用される。

 この条項の趣旨については大阪市立人権センター事件・大阪地判平20.3.27判タ1300の説示がわかりやすいので引用する。

 平成12年の人権文化センター開設以来、原告部落解放同盟大阪府連合会各支部は、大阪市長(磯村隆文市長)の行政財産目的外使用許可により大阪市立生江人権文化センター、同住吉人権文化センター、同平野人権文化センター、同西成人権文化センター内に支部事務所を設置し、平成19331日まで目的外使用許可の更新(継続)がされていたが、大阪市(関淳一市長)は、各人権文化センター(現在は他の公共施設と統合されている)の平成1941日以降の行政財産使用許可申請を不許可処分とした、原告が違法無効であるとして取消請求を行ったものであるが、大阪地裁は裁量権の逸脱濫用はないとして、請求を棄却した。

「地方自治法2 3 8条の41項は、行政財産は、原則として、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し又はこれに私権を設定することができないとし、同条6項は、これに違反する行為を無効とする。その一方、同条7項は、行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができるとし、行政財産の目的外使用許可の制度を定めている。

 目的外使用許可の制度が定められた趣旨は、行政財産が、本来、公益を増進するという行政目的を達成するために用いられるべきものであることから、その使用による行政目的の達成を確保するとともに、他方で、行政財産によっては、本来の用途又は目的外に使用させても、その用途又は目的を妨げないばかりか、場合によっては、行政財産自体の効用を高めることもあることから、当該目的以外の使用に供しても本来の使用目的が阻害されない例外的な場合に、当該行政財産の効率的な利用を可能にしようとした点にあると解される。

 このような目的外使用許可の制度が定められた趣旨に加えて、行政財産が、本来、行政目的達成のために使用されるものであり、地方自治法も目的外使用許可について具体的な要件を定めることなく「その使用を許可することができる。」(同法238条の47項)とし、同条9項は、行政財産の目的外使用許可をした場合において、公用若しくは公共用に供 するため必要を生じたときは、これを取り消すことができるとしていることからすれば、普通地方公共団体の長は、当該行政財産につき目的外使用許可の申請があったとしても、これを許可すべき義務を負うものではなく、当該行政財産の性質、これにより達成しようとする行政目的の内容、公用又は公共用に供する必要の生ずる見込み、当該許可をした場合に予想される支障の程度及び当該許可の相手方が享受する利益の性質など諸般の事情を総合的に考慮してその可否を判断することが予定されていると解すべきである。そして、これを判断するに当たり、普通地方公共団体の長には要件及び効果の双方において広い裁量があるというべきであり、目的外使用の不許可処分が違法となるのは、普通地方公共団体の長がかかる裁量権を逸脱濫用した場合に限られ、裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となると解すべきである。原告らは、本件各事務室部分を原告らの支部事務所として利用することが本件各センターの設置目的に適合していることから、本件各不許可処分の処分庁の裁量は地方自治法 2442項(普通地方公共団体は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない)の規定に準じて収縮され、正当な理由のない限り行政財産の使用の不許可処分をすることはできないと主張する。しかし‥‥同条項の趣旨は、住民の利用が予定された施設について、住民の自由な利用を保障した点にあると解されるのであり、このような施設ではない本件各事務室部分の利用には妥当しない」と説示している。

 水道局事業所の各庁舎は水道事業という目的に供された財産であるから、2442項の一般住民の利用が予定されている施設ではない。むろん、事業所の所轄業務に所用のある給水契約者、水道関連業者等が多人数開庁時間に出入りしており、長椅子などもおかれているが、それは所轄業務に所用のある方々の一時滞留のためであって、所轄業務と無関係な滞留や、面会の強要など秩序を乱す行為は当然庁舎管理権で規制できる。組合活動は全て目的外使用となるが、闘争指令下の集会は、違法行為を慫慂する内容であり、これを認めることは違法行為を助長し、業務運営に支障をきたす目的であるので、不許可としても、違法とされることも不当労働行為とされることはありえないから、活用してよいと考える。また、他の事業所に勤務する組合員が支所決起集会の動員指令し令に参集する場合も、業務命令その他業務上の参集、要件で訪問するものではないうえ、違法行為目的のものであるから、集会開催自体拒否できるはずだし、退去命令すべきである。

 なお東京都水道局の場合、地方自治法238条の47項の行政財産の目的外使用は、東京都公有財産規則ではなく、東京都水道局固有資産規程で運用がなされている

 具体的には、全水道東水労の分会が電気メータをつけて電気代を支払うことを条件として、無償でコーヒー、清涼飲料等の自動販売機の設置を許可している。使用許可自体は問題がないと思うが、組合に収益をもたらすのであれば、無償の便宜供与は議論があってもよいが、本意見書の中心的課題ではないので、さしあたり是認することとしたい。

 一般論として行政財産の目的外使用は売店や記者クラブ、長期にわたって庁舎を占有する形態か、ロケーションボックスや災害時の帰宅困難者滞在施設といった事案が対象のようで、都や水道局の庁舎管理規程は、地方自治法の財産管理上の規定ではなく目的外使用についての言及がないことから、当局が全面的に許容している施設構内駐車場等での決起集会や執務室内を占拠する集会、庁舎内デモ行進、示威行為、スト待機者のセキュリティ破りの深夜立ち入り行為など本意見書が問題とする組合活動の多くは地方自治法238条の47項とは無関係な庁舎管理権の問題として取り上げてよいように思える。ただ、行政財産の目的外使用の不許可という形で、組合活動の規制もできるので活用の余地はあると申し上げた。

 

 

四)財産管理法制とは無関係な管理作用の発動としての庁舎管理権判例法理の活用

 

 

   庁舎管理権とは国有財産法や地方自治法の財産管理法制とイコールなのではない。無関係な管理作用の発動も当然ありうる。墨田民商事件・東京高判昭52.5.30判時882は、国有財産管理法制を全く問題とせず、端的に向島税務署の庁舎管理者が秩序維持のために集団陳情者に対し人数を規制したり、立ち入り自体を阻止することが適法とされている。水道局当局が許容しているオルグやピケッティングなど当該事業所の職員ではない組合役員の建造物侵入も同じことである。

   また、最高裁は郵便局の組合掲示板設置は、国有財産法18条の行政財産の目的外使用許可によるものではない。組合に壁面の使用権、利用権を付与したものではないと判示している(昭和郵便局事件・最二小判昭57.10.7民集36102091)ことから、掲示板の撤去も財産管理法制と無関係の管理作用の発動である。全国税東京足立分会事件・最二小判昭59.1.27労判425(争議行為をそそのかす掲示物の自力撤去)も同様の例。

   昭和48年を潮目として、昭和50年代以降の判例は総じて組合に厳しくなっており、管理者側が有利なので多いに活用すべきだが、にもかかわらず、東京都の管理職は組合のいいなりになって、労務指揮権や庁舎管理権を掣肘、奪取されて当然というばかげたことをやっているので、抜本的な改革が必要だ。

 

 

三 就業規則の整備の必要性

 

 地方公務員法2911号と32条適条による懲戒処分をやりやすくするためにも、東京都水道局処務規程(就業規則に相当する)の整備が必要。都水道局は、他の官庁や企業と比較しても中身が乏しく「五十八条 職員は、執務時間中みだりに執務の場所を離れてはならない。2 私事のため一時外出しようとするときは、上司の承認を受けなければならない」というのはあるが、規律のある業務運営態勢として必要なものがなくお粗末にもほどがある。服務規律が維持できないので明文規程を整備する必要がある。むろん労働協約も整備すればそれに越したことはないが、まず就業規則の改正が重要だ。

 

 東京都水道局の就業規則に🔶局所構内における無許可集会、演説行為禁止、🔶局所構内における無許可組合活動の禁止、🔶他の職員の業務を妨害もしくは職務専念を妨げる行為の禁止、🔶業務外の徽章、胸章、腕章等の着用の禁止、🔶不適切な掲示物の禁止など新設することを提案する。

 主たる目的は職場環境を適正良好に保持し規律のある業務運営態勢を確立するため、昭和50年代に最高裁が案出した企業秩序論の判例法理にもとづき、法益調整論、受忍義務説の調整的アプローチを排除した労務管理を行う。

 野放図に容認していた正当でない組合活動等、違法行為と秩序を乱す行為を取り締まる根拠を明文化するためである。

 規則の明文規定がないと管理職や監察指導課が違法行為を野放しにする口実になり、労働組合との不透明な癒着の要因となっているのでこの改革は必須である。

 

 

◇ 東京都水道局就業規則・労働協約追加案

 

 

  下記を水道局処務規程第七章服務心得に編入する。なお現行第58条は項目10と重複するので削除する。

る。

 

就業規則に追加する

 

1 職員は、許可なく、局所施設内で、業務外の集会、演説、講習、放送、示威行為又はこれらに類する行為を行ってはならない。

2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない

3 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない。

4 職員は、勤務時間中に又は局所施設内で上司が認める業務外の徽章、胸章、腕章等を着用してはならない(解釈としては、ゼッケン、鉢巻、プレート、ワッペン、バッジ、政治的文言等のプリントされたTシャツの着用を含める)

5 職員は、庁舎、局施設構内において、許可なく業務外の目的で車両・旗・幟・拡声器・プラカード・横断幕・立看板・テントその他危険物を持込んだり、設営してはならない。又、許可なく業務外の目的で、泊まり込み、座り込み、通行規制、練り歩き、集団行進をしてはならない。

6 職員は、庁舎、局施設のその秩序維持等について庁舎管理規程に基づく庁舎管理者の指示に従わなければならない。

7 職員は、同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をしてはならない。また、職員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし若しくはあおってはならない。

8 

1)職員は、局所内で業務外の文書又は図画を掲示する場合には、管理者の許可のない文書等以外、掲示してはならない。局は庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるときは、右許可を撤回することができる。

2)職員は、局所内で、文書若しくは図画等を配布する場合、職場の規律・秩序をみだすおそれのない平穏な方法又は態様でなければならない。通行の妨害もしくは混乱をもたらす態様、受け取りを強要する態様、職員の休憩時間の自由利用を妨げる態様で行ってはならない。庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるとき、無許可配布を禁止するものとする。

9 職員は局が許可しないメッセージ性のある旗やマグネットシート、煙突状の小物、マスコット、団扇、短冊を机上、什器等に設置、陳列、貼付してはならない。

10 職員は、みだりに欠勤し、遅刻し、若しくはみだりに離席、早退し、又は上司の許可を得ないで、執務場所を離れ,勤務時間を変更し、若しくは職務を交換してはならない

11 職員は、みだりに業務と無関係の部外者、物品販売、保険、金融商品の勧誘、当該事業所に勤務していない職員等を職場に立ち入らせてはならない。職場の規律.秩序をみだすおそれのある署名.募金活動をしてしならない。

12 職員は、職場において、みだりに飲酒し、又は酩酊してはならない

 

以下は労働協約に加える

 

13 組合は、会社の施設、什器等を一時的に利用する場合は、会社に申し出、その許可を得なければならない。

14

1)組合は、組合掲示板において組合活動に必要な宣伝、報道、告知を行うことができる。

2)庁舎管理者は、業務上の必要が生じた場合、庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるときは、掲示場所の変更または取消しをすることができる。

3)職員、組合は局が指定した組合掲示場所以外の場所に、文書、図画等、掲示類を掲出してはならない。

4)掲示類は、組合活動の運営に必要なものとする。また、掲示類は、局の信用を傷つけ、個人を誹謗し、事実に反し、または職場規律を乱すものであってはならない。

5)掲示類には、掲出責任者を明示しなければならない

6)組合が前二条の規定に違反した場合は、掲示類を撤去し、掲示場所の使用の許可を取り消すことができる

7)以下に該当する文書又は図画等を配布又は掲示は中止、撤去命令の対象となる。

一 業務の正常な運営を妨げるおそれのあるもの。

二 闘争宣言など地公労法111項等が禁止する違法行為を慫慂、そそのかし、あおる内容

三 信用失墜行為に該当するおそれのあるもの

四 違法な掲示物、名誉毀損又は誹謗中傷に該当するおそれのあるもの

五 公の秩序良俗に反するおそれのあるもの。

六 組合旗、激文、寄せ書き、幕の掲出など示威、闘争的言辞の掲示物。

七 その他著しく不都合なもの。

 

 

 

四 東京都水道局労務管理及び庁舎管理31項目是正勧告(包括的改革案)

 

 

(一)闘争期間等の組合活動対策

 

 

 従来の組合側の論理にもとづく労務指揮権や庁舎管理権を掣肘された労務管理でなく、強い反発があるだろうが、正常な業務運営の確保を第一義とすべきである。水道局はコンプライアンス経営宣言している。地公労法1条と171項にあるわけだから当然のことである。

 

1 頭上報告-不許可・中止命令

 

執務室内での組合役員による演説行為。中央委員会報告・書記長会議報告・友好団体の政治集会参加呼びかけ、指令伝達、オルグ演説、闘争課題の説明、闘争日程等の説示、その他情宣活動。「時間内職場オルグ」は官庁、自治体で多くの職場で慣行とされていたと思われるが、それを含む範疇といえる。

 

1-1新方針

 

 勤務時間内・出勤時限前・休憩時間いずれも不許可。すべて中止命令する。現認・監視対象。中止命令は行政財産である庁舎執務室の目的外使用の観点からのもので、庁舎管理権の発動であり、新方針により勤務時間内に限定してにつき賃金カットとなることを警告する「平成163月東岡職員部長通知」は解消される。

 

1-2新方針の理由と根拠 

 

1)違法行為の助長 地公労法111項後段の「唆し」「あおり」に該る演説がなされるおそれがある。スト批准投票のよびかけ、闘争課題の説示等オルグ演説、所属長要請行動、勤務時間内職場離脱決起集会の動員指令、三六協定破棄による超勤拒否、ストライキの日程等指令の伝達などである。それは法令遵守義務違反であるから地方公務員法291号、32条により服務規律違反にあたる。

2)執務室内、勤務指定場所でなされ、囚われの聴衆となる勤務中の職員に対し強制的に演説を聴かされる態様は、勤務中の職員にとっては業務妨害となる。他の職員の職務専念妨害という観点。830分以前に演説があったとしても時差出勤で勤務中、休憩時間でも昼休み当番として勤務中の職員がいるケースがあるので同じことであり、仮に勤務中の職員が皆無の時間外であっても、違法行為を慫慂するなどのアジ演説が、異様な雰囲気を醸し出し、その余韻で作業能率を低下させる、休憩時間の自由利用の妨げにもなりうる、総じて能率的でなく適正良好な職場環境とはいえないので、勤務時間内外のいかんをとわず、執務室、勤務指定場所、詰所での演説は、全面的に禁止する。これは公物たる庁舎の存立を維持し公務の円滑な遂行を図るため、その庁舎につき合理的・合目的的な秩序を定立し、公務員その他の者に対してこれに服することを求めうべく、その物的施設を許諾された目的外使用を規制する権限(庁舎管理権)にもとづく。

3) 行政財産の目的外使用なので(地方自治法238条の47項)、不許可にできる。

4) 勤務時間中は地方公務員法35条の職務専念義務違反(これは従来からも警告対象となっている)

 

1-3新規則違反
 

1) 職員は、許可なく、局所施設内で、業務外の集会、演説、放送、示威行為又はこれらに類する行為を行ってはならない

2) 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない

3) 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない

 

1-4処分 

 

 中止命令にもかかわらず地公労法111項後段の「唆し」「あおり」に当たる演説がなされ、且つストが実行された場合、懲戒処分事由とする。抗議で暴言、暴行があった場合は量定を加重する。勤務時間中の演説につき賃金カットの対象とすることは従来どおり。

 

 執務室内演説行為全面的禁止について組合からクレームがあるだろうが、組合の集会、情宣活動については、ストライキを配置し職場離脱決起集会、三六協定破棄闘争など闘争期間を除く、平時においては、業務に支障のない限り必要最小限度で、組合の会合は、会議室などを便宜供与する方針とする。会議室では人が集まらないから執務室でやるというのは、理由にならない。組合掲示板において組合活動に必要な宣伝、報道、告知を行うことができる。「東水労ニュース」などビラの配布については、闘争期間をのぞいて原則、許可制とせず、配布の場所、態様、時間、内容に問題がなければ事務室内の配布も取り締まることはない。許可制にしている官庁、企業と比較しても寛容な方針なのである。例えば郵政省就業規則では、組合等が庁舎等においてビラ等の配布をしようとするときは、個別、事前に庁舎管理者である郵便局長等の許可を受けなければならないが、新方針は原則許可制としないのであるから、情宣活動の場は与えている。

 そもそも執務室内での組合役員の演説行為は水道事業に供される行政財産である庁舎の目的外使用であり、適正良好能率的な職場環境を維持し規律のある業務運営態勢を確保するため排除してしかるべきである。

 

 

1-5取締りの根拠となる主な判例

 

  ここでは勤務時間内オルグ、集会、演説行為を正当な組合活動ではないとする判例を引用し、休憩時間、勤務時間の集会を正当な組合活動としない判例は4「昼休み集会」で取り上げる。

 

(1)認められた時間超過の「情宣」は、正当な組合活動と認められない

 

●三井三池鉱業所事件・福岡高判昭48127判時7423

 三井鉱山三池鉱業所では「情宣」と称する日常の組合活動があり、組合会議の報告がなされる点は水道局の頭上報告に類似した慣行といえる。すなわち、職制が繰り込みや勤務時間の前に時間を制限して認めていたが、勤務時間に食い込むことは認めていない。

解雇理由T

 情宣を行なったTは午前八時すぎごろ係長Eにその許可を求め、同係長の八時二〇分以後は仕事に差し支えるからそれまでにしてほしい旨の許可を諒承したかのような返事をし、八時五分ごろから情宣を始めたが八時二〇分を過ぎても依然情宣を続け、右E係長の中止要求に対して、よそでもやっているじゃないか、すこしぐらい長くなってもよいだろうがと述べて従わず、E係長が事務所に引きあげた後さらに情宣をつづけ‥‥八時四〇分ごろ同係長が重ねて運転手控室に赴き、輸送課はよそからの依頼が多く依頼先に迷惑をかけるからすぐ情宣を中止してほしい旨強く繰返えすにおよび、ようやく中止したが、その間輸送課整備工(一七名)運転手(三一名)の作業開始が遅延する結果となった。

 本所では職場によっては繰込時の組合情宣は二〇分間を限度としてこれを許可しているところもあったが前示のとおり特殊事情下にあった輸送課ではそのような情宣の許可方針をとっていたとは認められず、Tの許可時間を越え、E係長の制止に反してした前認定の 情宣行動は三池労組員としての職場活動として正当性の限界を逸脱していると評すほかなく、このことは当日の情宣内容がたまたま三池製作所の分離とこれに伴なう組合の分裂の問題であり、前日の中央委員会が徹夜で討議した事項にかかるものであるからと云って変わるものではない。

解雇理由F

 情宣が許可された制限時間を越え勤務時間内に食いこむことの多かった事実は優に認められる。(なお年度はいずれも昭和三四年)。

月 日 情宣後了時刻(いずれも午前)

一  九 八時四五分、

〃 一二 八時五〇分

〃 一七 八時四五分

〃 二六 同時刻

〃 二九 八時三〇分

〃 三〇 八時三三分

二  二 八時五一分

〃  五 八時四一分

〃 一三 八時五六分

〃 二七 八時三七分

三  五 八時三〇分

四 一三 八時四三分

〃 二一 八時五八分

五  六 八時五二分

〃 一六 八時三六分

〃 一九 八時四五分

〃 二五 八時三七分(以下略)

 

 

(2)郵便局事務室内で演説あおりは懲戒免職事由になる

 

  • 東京郵政局長事件・東京地判昭45・12・16判時620-31

原告М(懲戒免職)の非違行為 抜粋

(a)昭和三六年三月一三日午前八時三七分神田郵便局集配課通常郵便物配達組立事務室に原告Aとともに集配課職員約六〇名を集めて職場集会を開き、「郵便がこの位たまつたからといつて心配することはない。一日半や二日位、遅れている局は相当ある。今後は、更に三、四日遅れを出すよう規制を強化する。このため集配課のみでなく現在郵便課非常勤の取り扱った配達区分郵便物は持ち出さない。」などと演説を行なって、業務の正常な運営を阻害する行為をするようあおり、そそのかし、更に就労時刻である午前八時四五分を経過すると同時に副課長から解散就労命令が発せられたに拘わらず、これを無視して集会を午前九時ころまで続行し、右集配課職員約六〇名を約一五分間欠務させた。

(d)同月一九日午前八時四六分ころ、通配事務室に集配課職員約六〇名を集めて職場集会を開き、就労時刻である午前九時以降副課長から二回にわたり解散就労命令が発せられたに拘わらず、これを無視して集会を午前九時一〇分まで続行し、右職員約六〇名を約一〇分間欠務させた。

原告A(懲戒免職)の非違行為 抜粋

(a)昭和三六年三月八日午前八時三〇分ころ、通配事務室に集配課職員約六〇名を集めて職場集会を開き、「通配は一〇日ころまでに二日の遅れを出す予定であつたところ、現在までの状態では予定の線まで達していない。これは官側が非常勤を雇傭しているからで、これに対処するため、非常勤の事務指導を行なわないことを考えている。」などと演説して、組合の業務規制闘争計画どおり郵便物滞留を生じさせるよう指導し、もつて業務の正常な運営を阻害する行為をするようあおり、そそのかした。

(b)前記(1)の(a)記載のとおり、同月一三日午前八時三七分ころ、原告Мとともに通配事務室に集配課職員約六〇名を集めて職場集会を開き、これらの者に対し、業務の正常な運営を阻害する行為をするようあおり、そそのかし、かつ、副課長の解散就労命令を無視して集会を続行し、これらの者を約一五分間欠務させた。

 

 原告I(懲戒免職)の非違行為 抜粋

(a)昭和三六年三月八日午前八時三五分ころ、通配事務室に集配課職員約六〇名を集めて集会を開き、「本日から配達の定時出発を行ない、帰局後一号便の残りを処理することになったから、組合員は定時に出発して下さい。これは戦術として行使するが、一〇日ころまでに二日の遅れをつくる予定である。なお、これに伴う業務命令は拒否する。」という趣旨の演説を行ない、もつて業務の正常な運営を阻害する行為をするようあおり、そそのかした。

 

B 該当法条

 (1)勤務時間中であるから職場集会を中止せよ、あるいは就労せよといった上司の職務上の命令に従わずに就労しなかつた点、および職場集会を勤務時間内にくいこませてその間みずからも就労しないばかりでなく、集会に参加させた職員を就労させなかつた点は国公法第九八条第一項に違反し‥‥いずれの行為も同時に同法第一〇一条第一項に違反するものである。その結果、それらは、懲戒事由を定める同法第八二条第二号に該当する。なお、職員を就労させなかつた点については、同法第一〇一条第一項の趣旨および第一条第三項に反すると同時に「国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務」することを要求している同法第九六条の服務の根本基準に反するものであること明らかであるから、この点からいつても、同法第八二条第二号(および第一号)に該当するばかりでなく、同条第三号にも当って懲戒事由とされたのである。

(2)郵便の遅れを出すよう規制を強化する旨の演説、郵便の遅れを出すために非常勤職員の事務指導を行なわないことを考慮する旨の演説および郵便の遅れを作る予定であって業務命令は拒否する旨の演説を行なつた点、郵便物を持ち出さないよう呼びかけて歩いた点ならびにのんびり手渡して配達して来いと指導した点は、いずれも職務専念義務違反の行為を教唆指導するものであるから、職務専念義務を定める同法第一〇一条第一項の趣旨および第一条第三項に反するものであり、このような行為は、郵便法第七九条第一項の定めに照らして考えても重大な職務上の業務違反といわざるをえない。また、他の職員に渡された業務命令書を持ち去る行為のごときは、前記国公法第九八条第一項の趣旨に反するものである。 

 以上いずれの行為も、同法第九六条第一項に違反し、したがつて、同法第八二条第二号(同時に第一号)に該当することはもとより、同条第三号にも該当すると解される。

(3)‥‥郵便物の入った籠を移動したり作業の行なわれている部屋に卓球台を無理に押し入れたり臨時補充員の作業を邪魔したり等して、もつて上司の業務あるいは神田郵便局の業務を妨害した点は、みずからの職務専念義務に違反することはもとより、被妨害者の職務専念義務の履行を不能もしくは困難ならしめる意味において、やはり前記同法第一〇一条等一項の趣旨および第一条第三項に反するとともに第九六条第一項にも違反し‥‥‥懲戒事由となる。

 

(3)無許可勤務時間内集会の警告は不当労働行為にあたらない

 

  • 済生会中央病院事件・最二小判平元.1.29民集43121786

 看護婦の勤務表の変更に対し、二回の勤務時間内の職場集会(平成50年4月2日と3日午後3時40分から4時)を開き、急患室勤務拒否についての報告と今後の対応を話し合った。そして、急患勤務の看護婦の増員を要請した。この職場集会は、時間内というかたちをとり、かつ休憩室ではなく勤務配置場所である元空腹時血糖室でなされ、参加者は業務に支障のないかたちで対応した。この職場集会につき、病院側が、数日後「警告ならびに通告書」を支部組合に発した。従来、勤務時間中の職場集会を無届・無許可で行っても病院から何らリアクションはなかった(第二の休憩時間のテニスコートの集会もあるがここでは省略する)。

警告書並びに通告書4月5日

「このような集会を勤務中に行うことは労働協約第9 (就業時間中組合活動の禁止)ならびに就業規則第23 (職務専念義務)、第24 (規則を守る義務)に違反する行為であります。……今度かかる行為を絶対に繰返さないよう、ここに厳重に警告しておくとともに責任追及の権限を留保しておく……。」

 

 本件は、(1)組合の職場集会について、「警告書並びに通知書」を発したこと、(2)争議行為について、「警告書並びに通知書」を発したこと、(3)婦長及び医長が、組合員に組合からの脱退を勧誘したこと、(4)チェック・オフを中止したこと、(5)新賃金の支給を別組合より遅らせたこと等について救済を申立した事案で、初審東京地労委昭和52 3 1日命令は、病院に対し、(1)「警告書並びに通知書」の撤回、(2)組合脱退勧誘の禁止、(3)チェック・オフの再開を命じ、また、社会福祉法人恩賜財団済生会及び病院に対し、これらについてのポスト・ノーティスを命じるとともに、その余の申立について棄却した。

 以下ここでは前記勤務時間内集会の「警告書並びに通知書」が不当労働行為に該るかの争点のみ記述する。

 中労委昭和5412 5日命令も再審査申立を棄却し、初審命令を維持したところ、済生会及び病院は、これを不服として55126日、東京地裁に行政訴訟を提起した。

 一審〇東京地判昭61.1.29民集4312182労判467は、事実上の休憩時間と目される時間帯に、業務や急患への対応に配慮された方法で行われた無許可集会等について、現実に業務に支障を生じていないから、「特段の事由」に当たるとして、この集会への警告を不当労働行為とする東京地労委・中労委の救済命令を支持した。

 しかも支部組合に対する警告書は重大な決意をもって臨む旨記載され原告病院として今後の行為に対しては処分をもって臨む強い姿勢を示す威嚇的なものであって、右集会の目的、態様に比し相当性の範囲をこえるとして、この集会への警告を不当労働行為とする東京地労委・中労委の救済命令を支持し、済生会の請求を棄却、二審○東京高判昭63.7.27民集43121890も控訴を棄却した。

 最高裁は、初審、再審、一審、二審の判断を覆し、病院側の権利の濫用と認められる「特段の事情」があるとは解されないとして、本件警告は労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから不当労働行為に該当する余地はないとして、原判決を破棄した。

 「原審の右判断は、是認することができない。‥‥一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。また、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動に当たらない。そして、もとより、労働組合にとって利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用し得る権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うと解すべき理由はない(最高裁昭和五四年一〇月三〇日第三小法廷判決・民集三三巻六号六四七頁)。

 本件職場集会の開催につき病院の明示又は黙示の許諾があるとも、また、その開催を許さないことが病院の権利の濫用であると認められるような特段の事情があるとも解されないのであって、結局、病院が本件職場集会対して本件警告書を交付したとしても、それは、ひっきょう支部組合又はその組合員の労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから、病院(上告人)の行為が不当労働行為に該当する余地はないというべきである。」

 

(4)事務室で携帯マイク放送は執務妨害として懲戒事由となる

 

  私は、平成1610月頃和泉庁舎の水道特別作業隊に勤務していた時、西部支所配水課事務室では携帯マイクを使って勤務時間中の頭上報告をやっていたのを現認している。近年でも勤務時間中行っているがマイクは使用していなかったが、事務室において携帯拡声器を用い、執務中の職員に対し約四、五分間にわたり放送した行為が懲戒免職事由の一つとなっている先例がある。

 

  • 四国財務局(全財務四国地本)事件・最三小判昭521220民集3171225(◯高松高判昭461213●高松地判昭41623) 

 

 全財務四国地本執行委員長は①昭和371031030分頃から約1時間、庁舎内食堂で組合支部が主催した会合に参加してその職務を放棄した。

105 1030頃から公務員共闘会議の役員が局長室において局長と会見した際、それに参加してその職務を放棄。局長が退出しようとしたところ、大声で詰問し局長の退出を約七、八分妨害し詰寄る。

105日勤務時間中の午後3時ごろ、午前中の同局局長と共斗役員との会談およびその後の状況について、事務室において、執務中の職員に対し、同局総務課長の中止要求に応ずることなく携帯拡声器を用い、執務中の職員に対し約四、五分間にわたり放送して、職員の執務を妨害した

108日 組合執行委員会で勤務状況報告書を組合で保管することを決定し、在庁執行委員は手分けして第一次評定者(係長)の席をまわって、説得して収集した。Xは他の役員数名とともに四人をまわり説得したが、その際経理係長が経理課長に提出しようとした報告を同課長と引っ張り合い、同課長の制止を妨害して、収集した。(組合の保管は約1日程度)

109日中央執行委員長が事務室において執務中の職員三、四分くらい勤務状況報告書を組合に保管した経過報告をした際、総務課長の制止があつたにもかかわらず、これに同行して職務を放棄した。

1010日事務室において午後030分~午後127分頃まで午後430分~55分頃、約12分間勤務時間に食い込む職場集会が開かれた際、これに参加し、闘争経過報告を行った。

1010日午後2時頃から230頃、総務課長に対し抗議要求し、同課長の勤務を妨害した。

1010日午後後430分~55分頃、総務課長に非行調査に組合員を立ち会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した。

1012日午後3時頃から午後430分頃までの間、総務課長に集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した。

①~⑦は国家公務員法1011項(職務専念義務)及び人事院規則1413項前段の局長退出妨害は国家公務員法99条(信用失墜行為)③⑦⑧⑨の各行為は人事院規則413項後段(勤務時間中における他の職員の勤務を妨げた)の行為は国家公務員法985項後段、人事院規則1413項後段にそれぞれ違反し、Xの本件各行為は、国家公務員法8212号に該当するとして懲戒免職とした

(註-昭和37年当時の人事院規則1413項後段は現在の人事院規則17272項に相当するものと考えられる)

 

 

2 組合中執及び本部委員のオルグ演説-不許可・退去命令

 

 組合中執、本部委員、他の事業所勤務のスト批准投票の呼び掛け、闘争課題とその経緯を説明し組合員の意思統一を目的として、闘争戦術の説明、指令による職場離脱動員集会、三六協定拒否闘争に伴う定時退庁指令、ストライキ配置の日程などの演説であり、勤務時間中になされる(但し昼休み集会のケースもあり)、スト権投票より前の時もあるし、ストを構え闘争期間中もある。演説それ自体が、地公労法111項後段違反行為である。3割動員は当局も違法行為と認めている以上違法行為の教唆指導ともいえる。

 従来管理職は、直前の役員の申し出により許諾ないし黙認しており、違法行為を著しく助長している実態にある。平成26年入札妨害事件で水運用センターОBが元職場に自由に出入りし配水管工事の最低制限価格という機密情報を入手していた問題の再発防止策として事務室は関係者以外無断立入禁止として、入室する部外者は、入口に備え付けの来室者名簿に記入することとしているが、しかし組合活動で立入る他事業所勤務や専従の組合役員は記入することはないしフリーパスであることに変わりない。

 東京都においては「そそのかし」「あおり」を懲戒事由とすることはないし、管理職は地公労法111項後段を違法と認識していないように思える。昭和48年と昭和51年に判例変更された昭和44年判決の「争議行為通常随伴行為不罰論」に沿った、脱法的な労務管理をしているのは著しく不適切である。

 

2-1新方針

 

 違法行為を抑止し、職場環境を適正良好に保持し規律ある業務の運営態勢を確保するため、執務室内勤務時間中になされる組合中執等のオルグ演説は不許可とし、中止・退去命令及び、現認検書の上申を義務づけ・監視対象とする。中止命令に従わず、実際にストが実行された場合、懲戒処分事由に加える。オルグ演説で中執を紹介して司会し、挨拶や闘争の日程を示す支部・分会役員は、職務離脱時間は賃金カットの対象とし、抗議で暴言、暴行を働いた場合は処分の量定を過重する。刑事事件にはしないとしても犯罪を成立させるべく、管理者の許容しない意思を明確に示すことを義務づける。

 

2-2根拠

 

○違法行為-演説そのものが、地公労法111項後段で禁止する「そそのかし」「あおり」に当たり、18条解雇、懲戒処分事由となる行為である。地公法291号、32条の適条による服務規律違反。

○職場の秩序を乱す行為-勤務時間中、事務室内で、囚われの聴衆の状況で演説がなされ職員の職務専念を妨害である。昼休みの場合でも、休憩時間をずらして勤務している職員もいるので同じことである。企業秩序をみだすおそれのある行為は、判例法や庁舎管理権により規則に依拠して規制する。

○新しい就業規則違反-それゆえ以下の規則を新設する

1 職員は、許可なく、局所施設内で、業務外の集会、演説、放送、示威行為又はこれらに類する行為を行ってはならない。

2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない

3 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない

○行政財産の目的外使用なので(地方自治法238条の47項)、不許可にできる

○管理者が許容しない意思を明確にすれば犯罪が成立する-住居侵入罪、退去命令に従わない場合の不退去罪の犯罪構成要件該当行為

 

2-3 処分

 

 ストライキが決行された場合は懲戒処分事由とする。抗議のため暴言暴行があった場合は量定を加重する。

 

2-4水道局におけるオルグ演説の実例

 

令和4年の杉並営業所の例(スト批准投票の前)

10月25日朝 83343分 所長が支部役員の〇〇と朝長い話、そのあと中執の〇〇が到着。833分より〇〇オルグ演説、内容は、111日スト権一票投票を告知、まず人事委員会勧告はコロナ渦と物価高で不当だなどと都労連闘争の課題を説明、局内闘争については、砧浄水場と長澤浄水場の業務移転、夜間待機が7か所から2か所にして緊急隊の業務とするのは無茶苦茶で容認できない。また営業所のTW(株式会社東京水道)業務移転も提案される可能性がある。局は全営業所移転を計画しており、警戒が必要。TW社員‥‥‥‥円滑な移行はできない。最後にスト権投票は高率の批准をとぶちあげて終了。そのあと司会の〇〇が、棄権が絶対ないように、当日休暇をとる人は不在者投票を受付るといったことを伝達し、終了。

 

令和5年の例(闘争期間中)

11月28日 午前83044分、支部役員の〇〇と中執の〇〇が〇〇所長に挨拶、〇〇がそこでやると指差し、〇〇所長は許諾。司会の〇〇が中執の〇〇を紹介し、〇〇が13分間演説。局内闘争の課題、墨田荒川営業所の業務移転に伴う定員削減と、他の営業所の派遣割合の削減、目黒営業所の過員を暫定とするなどの重要な闘争になると説明、さらに‥‥‥徴収サイクルの見直しによる業務繁忙の改善に不満があり121日の拡大窓口では交渉打ち切りも辞さずという意気込みで臨むなどとし、1221日にストを構え、8日の支所集会、19日のふれあいモールでの勤務時間内3割動員決起集会の告知と、19日より3日間の三六協定破棄闘争は、局に24時間態勢で業務を行うのに組合の協力がいかに必要かを自覚させるためのものと争議行為意思を表明。闘争への協力をよびかけ。最後に〇〇が125日の昼休み集会と、19日の賃金カットの動員決起集会の呼びかけなどがあり終了。

 

 平成26年の中野営業所の本部委員による業務移転非協力闘争・人事係退職派遣説明会抗議集会と説明会拒否のオルグ、説明会のピケによる妨害

2月5日勤務時間中9時25分より32分まで10時より中野営業所2階会議室で予定されている職員部の退職派遣事務説明会(一時的に民間企業に派遣されるが公務員の身分に戻る制度)抗議集会があり、まず事務室の中央で分会役員の司会でこれから抗議集会をやると宣言、本部委員の〇〇〇〇が5分ほど演説、本日の説明会には出ないよう指図、説明会は12人ほど出ている人がいたが、組合が期間で説明会には出席しないを徹底してから、西部では1人、もうひとつの会場では事務系でない2人の参加にとどまっている。退職派遣には希望しないことを徹底することで、当局を交渉に引きずり込むと言明。その後2分ほど分会役員が演説し、すでに全組合員と個別に面談し派遣に手をあげないことになっている。非協力闘争を呼びかけた。

 その後本部委員〇〇〇〇は、会場の近くの廊下でビラをもって待機、ピケを張り、職員部の業務を妨害した。

(この闘争は中野営業所の監理団体業務移転(当時PUC)の徹底抗戦で業務移転を延期させる目的の争議行為であるが、当局は争議行為と認定していない。本部委員とは本部中央闘争委員の下の活動家の役職で、東京都ではストライキが決行された場合懲戒処分は本部中央闘争委員に限定しているため、処分のおそれが全くなくオルグ、違法行為が可能な役職ともいえる)

 

 

2-5取締りの根拠となる主な判例

 

(1)中執のオルグ活動は「そそのかし」「あおり」にあたる違法行為であり懲戒処分事由となる

 

  • 全農林(82秋季年末闘争)事件最判平12317判時1710-162 (東京高判平7228労民46-1-638●東京地判平11031判時1331

 懲戒処分取消請求 棄却

   同盟罷業(昭和5712162時間スト 40786名のうち38288名参加、同月241時間スト 38553名参加)のためのオルグ活動を行った組合役員らに対してされた以下の停職6月ないし3月の懲戒処分を適法とする。

原告 所属        組合役職     被告(処分者) 懲戒処分

S  神奈川食糧事務所 副中央執行委員長 神奈川食糧事務所長 停職六月

TA 三重食糧事務所  中央執行委員   三重食糧事務所長  停職三月

Y  奈良食糧事務所  同        奈良食糧事務所長  同

W  経済局統計情報部 同        農林水産大臣    同

М  新潟食糧事務所  同        新潟食糧事務所長  同

SA 島根食糧事務所  同        島根食糧事務所長  同

М  山形食糧事務所  同        山形食糧事務所長  同

「‥全農林中央本部は、82秋季年末闘争方針を実施するためのオルグ活動を行うこととし、その実施のため東北地方本部に原告Sを、関東地方本部に同W及び同Мを、東京都本部及及び九州地方本部に同SAを、東海地方本部に同Мを、中国地方本部にTAを、四国地方本部に同Yをそれぞれ派遣することを決定し、右Sは1018日に福島種畜牧場において、同月19日に東北農政局福島統計情報事務所、福島食糧事務所及び東北農政局阿武隈地域総合開発調査事務所において、右Yは同月13日に高知食糧事務所及び同食糧事務所土佐山田支所において、同月14日に中国四国農政局高知統計情報事務所須崎出張所及び高知食糧事務所中村支所において、‥(中略)‥右Мは同月16日に東京食糧事務所において、同月18日に横浜植物防疫所、横浜農林規格検査所及び関東農政局神奈川統計情報事務所が入居している横浜農林水産合同庁舎において、それぞれ本件各ストライキのためのオルグ活動を行い、本件各ストライキの実施を指導した。‥‥指令の伝達及びその徹底をはかる行為は、争議行為の実行に現実に影響を及ぼし、争議行為を誘発する現実的な危険を有する行為である。‥‥原告ら各人が本件各ストライキの実施に当って、これら一連の行為においてストライキを共謀し、そそのかし又はあおって指導的役割を果たしたものである。したがって本件各ストライキにおける原告らの行為が全体として国家公務員法九八条二項の違反することは明らかである。」(一審)

 

(2)組合側が主張する「そそのかし」「あおり」の限定解釈は最高裁が認めていない

 

  • 全農林警職法事件・最大判昭48425刑集27454
  • 岩教組学力調査事件・最大判昭51521刑集3051178

 争議行為通常随伴行為不罰論(〇都教組勤評事件・最大判昭44.4.2刑集235305全司法仙台事件・最大判昭44.4.2刑集235685)を否定し判例変更。

 

  • 日教組スト事件・最一小平成11218刑集431388

   組合側の上告趣意は、あおりはもっぱら感情に訴える慫慂行為を指し、感情に訴える要素のないものはこれに当たらない、「あおり」はそれ自体において、真に右争議の原動力となるものであることを要する等、あおりを限定的に解釈すべきという構成要件該当性を争ったが、最高裁はこの上告趣意を退けた。

   なお、本件下級審判例は、「二重の絞り」に代えて「あおり」等の意義を限定する試みを行っており、「原動力論」、「統括・指導者責任論」「具体的危険論」であるが最高裁はこれらについて回答せず、従来の大法廷判例を引用するのみであるから(畑尻剛判批『法学教室』117)、限定的解釈をとる必要はない。

   上記は、地方公務員法614号の罰則規定が適用される地方公務員の事例であり、水道局職員に適用される地公労法111項では「そそのかし」「あおり」は違法行為であっても罰則規定は適用されないが、「あおり」の解釈は上記の判例に即してよいし、「あおり」が18条解雇や懲戒処分事由たりうることは次節で例示する。

 

(3)国鉄職員でも不法行為目的の鉄道地内立入は拒否できる

 

  • 門司車掌区3割休暇事件・福岡高判昭3532判時22110頁(福岡地裁小倉支部昭33820高裁刑集13-2-10)公務執行妨害罪 マス・ピケ。鉄道職員といえども、その職務とは全く関係なく、しかも不法な目的で、鉄道地内等に立入り、その他鉄道営業法42条違反の行為があった場合は、排除すべき必要のあることは、一般旅客公衆と何等異なることはなく、鉄道職員の身分を有する者も一般の「旅客公衆」に当ると解するのが相当であるので、鉄道公安職員が被告人らを退去させようとした行為は適法な公務の執行である(TKCの要旨)。

 

  • 国鉄久留米駅事件差戻後控訴審・福岡高判昭521025判時884116 

(差戻判決 最大判昭48425刑集27-3-419

  建造物侵入 公務執行妨害 (マス・ピケ事犯)

  被告人YО国労門司地本長崎支部肥前山口分会委員長とU国労門司地本執行委員は懲役三月執行猶予二年とする。YA国労長崎支部長崎分会委員長は棄却。鉄道公安職員にバケツで水を浴びせた公務執行妨害は事実誤認、無罪としたが、一審の懲役二月執行猶予二年の量定不当の論旨を棄却。

   国労門司地方本部は同組合の特別執行委員会の指令に基づき、年度末手当に関する要求実現のため、昭和三七年三月二八日指令職場(八幡駅及び久留米駅)において、同月三一日勤務時間内二時間の職場大会を実施することにし「三月二九日門司鉄道管理局長において、闘争に参加しないよう警告を局報に掲載し‥‥久留米駅においても同月二九日午前中に駅長が列車運行上重要な施設である東、西て子扱所二階の信号所に係員以外の者の入室を禁ずる旨の掲示をするなどの対策を講じたが、組合員らはかかる警告等を無視し、YОは同月三〇日午後六時三〇分頃から多数の組合員らとともに国鉄久留米駅東て子扱所二階の信号所に通ずる階段に立ち並んでピケットの配置についたところ、‥鉄道公安職員による実力行使が予測されたので、右信号所に立ち入り、YAは同月三〇日午後四時頃、右信号所の勤務者(三名)に対し翌三一日の勤務時間内職場集会に参加することを勧誘等する目的をもつて、右信号所に立ち入り、被告人Uは翌三一日午前零時頃東て子扱所に赴き、組合員らに対してピケットの強化を図るためその配置などについて指導したのち、二階信号所の組合員らに情勢を説明等する目的で、同所に立ち入った‥‥ 差戻判決は、被告人三名の信号所に対する各立ち入り行為はいずれも住居侵入罪の構成要件に該当するものであり、右の争議行為に際して行なわれたものであるという事実を含め当該行為の具体的状況その他諸般の事情を参酌してみても、各所為が刑法上の違法性を欠くものでないことは明らかであるというのであつて、事実関係を同じくする限り、当裁判所も差戻判決が右に示した法律上の見解と判断に同調するものである。(公務執行妨害罪については略す)

 

(4)郵政省は全逓のオルグの入局、入室の阻止を行っていた。不当労働行為とはされない

 

  • 盛岡・大船渡郵便局事件・東京地判昭50318訟務月報21-5-1055 

   郵政職員である原告(花巻郵便局貯金課勤務郵政事務官)の行った無断入局・入室、庁内デモの指揮、話合い強要、暴力的振る舞い等の各行為が国家公務員法99条に違反し、同法82条1号、3号に該当するとされ、懲戒免職処分を適法とする。

   原告は、昭和三八年一二月「一〇日午前八時すぎ(盛岡郵便局)集配課事務室に無断入室して集配課所属の外勤職員に向かつて何か声をかけていたところ、これを発見した同局庶務課長が原告に対して二、三度退去命令を発したが、これに従わないばかりか、室内にあつた補助椅子の上にあがって「集配課の皆さん」と右職員らに呼びかけ、演説口調で中央の情勢報告を始め、その際同課長が「勤務時間中だ。作業の邪魔になるから出て行って下さい。」と原告に命じたがこれを無視し、「庶務課長がここえ来て何かぶつぶつ言っている…………」といいつつなお右報告を続け、そこで同課長が文書をもつて退去を命じたが、これに対して「管理者はこのようなことをして俺たちの行動を妨害するんだ。闘争はますます長くなるけれどもがんばって下さい。」などといつていわゆる報告演説を午前八時二〇分頃までかかつて続行し、ようやく同四六分頃にいたつて出て行ったが、その間右のようにして同局における業務の執行を妨害した。

 原告は、一二日午前八時三〇分頃貯金課事務室に無断入室し、その際貯金課長が原告に退去を命じたが、これに従わず、同課長席のそばにある応接椅子に腰を掛け、同課長に対し「きのうの朝、窓口事務室で、大きな声で俺に退去を命じたことについて謝罪しろ」と申し向けて抗議をし、やがて同課職員E、K、Hらが自席を離れて同課長に対し「窓口の欠務がある。その補充をどうするんだ。課長、お前出ろ。」といい、これに対して同課長が「そのことについては、あとで命令するから、今は勤務時間中でもあるし、あなた方は、自分の席へ戻って仕事をしなさい。」と就労を命じたところ、その就労を肯んじない右Eらと一緒になって、同課長に抗議を続け、ついに庶務課長が文書による退去命令を読みあげてこれを原告に手渡そうとするや、これを受け取ることを拒み、さらに労務連絡官から退去をうながされたのにも強く反撥したりして、午前九時すこしすぎまでの間同局における業務の執行を妨害した。

 ‥‥闘争では盛岡郵便局に在籍する支部役員、分会役員を構成員とする闘争委員会が盛岡郵便局における闘争を統括し指導した。そこで、当局は、同年一二月九日仙台郵政局から数名の職員を盛岡郵便局に臨局させ、全逓のいわゆるオルグの入局、入室の阻止等に努めた

 ‥‥原告は、盛岡郵便局において、職員の勤務時間中であるにもかかわらず、その禁を破ってあえて庁舎内事務室等に立ち入った上、勤務に従事している同局職員に対し、いわゆるオルグ活動として、随所に発言し、組合員たる職員に対しては中央の労働状勢を報告し、その士気を鼓舞、激励して闘争意欲を高揚させることなどの闘争活動を執拗、強力かつ活発に展開した。

 これに対し、当局は、一方右闘争によって生ずる郵便業務の乱れに対処し、業務の正常運営を確保するため、業務を指導し局長の相談相手となり、その職務の遂行を補助すべく、仙台郵政局から係官を派遣し、右係官と盛岡郵便局の管理者において、職員の勤務状況を把握するため、随時事務室に立ち入って巡回するとともに、原告の事務室内への立入りを禁止し、これに従わないで事務室に立ち入った場合は、すかさずその退去を命ずる‥‥

 このように郵政では業務の正常運営が第一義の労務管理であるが、東京都はそうでない。

 

(5)郵政省において職場放棄の慫慂目的の立入は建造物侵入罪が成立する

 

  • 全逓名古屋中郵事件・最大判昭5254刑集31-3-182(〇名古屋高判昭441029●名古屋地判昭39220

 郵便法79条1項違反幇助、建造物侵入 一審有罪、被告人4名罰金一万円。二審無罪。上告審原判決破棄。

被告人は全逓中央執行委員、全逓愛知地本執行委員長、執行委員2名。昭和33317日中闘指令第三七号が発せられ、20日午前830分より2時間の勤務時間内職場大会実施が指令され、他方管理者側も同月18日頃から、名古屋中央郵便局長名義で、時間内職場大会参加が郵便法七九条に違反するとの理由で、参加者は刑事処分を受けるおそれがある旨の警告文を同局正面玄関に掲示し、同月一九日には同局正面玄関及び北門入口に立入禁止のビラを貼付するなどして、組合員の職場大会参加を阻止しようとした。

  第一、被告人四名は、K、N、Nらと共謀し、昭和三三年三月二〇日午前545分頃、名古屋中央郵便局東側地下第一食堂で、Мら9名が、それぞれ集配課外務員としての職場を放棄して、全逓名古屋中郵支部の時間内職場大会に参加し‥‥郵便物の配達をしなかった際、被告人Uが「東京中央郵便局でも午前二時職場大会に参加したから皆さんもすぐ職場大会に参加して下さい」「東京中央局では只今脱出に成功したという電話があつたから皆さんも職大に行つて下さい」「組合が責任を持つから出て行って下さい」などと、右Мらに申し向け、被告人Kも同人らに対し「東京中郵でも職場大会が行われて参加しているから職大に出て欲しい」旨を申し向け、被告人I及び同S「出て下さい」「出て下さい」などと申し向け、右Мらの右郵便の不取扱いをいずれも容易にして、もつて、これらを幇助第二、一、被告人四名は‥‥同局東側地下第一食堂へ‥‥被告人U、同K、同Iは同局正面玄関口から、被告人Sは同局北通用門入口からそれぞれ故なく侵入し

  二、被告人U、同K、同Iは右同日午前七時三〇分ごろ、宿直勤務者で未だ職場大会に参加していない者を参加させる任務を帯びた約20名の組合員の指導者となって、同局作業棟三階普通郵便課続いて同二階小包郵便課作業室に、同局正面玄関口から故なく侵入したものである。

建造物侵入罪の上告審の判断

 本件、建造物侵入は争議行為そのものでなく、久留米駅事件方式と同じく意識的に区別し、争議行為に付随する行為という範疇になる。

「公労法一七条一項に違反する争議行為が刑法その他の罰則の構成要件に該当する場合には、労組法一条二項(刑事免責)の適用はなく、他の特段の違法性阻却事由が存在しない限り、刑事法上これを違法と評価すべきものであるが、そのことと、右の争議行為に際しこれに付随して行われた犯罪構成要件該当行為についての違法性阻却事由の有無の判断とは、区別をしなければならない。すなわち、このような付随的な行為は、直接公労法一七条一項に違反するものではないから、その違法性阻却事由の有無の判断は、争議行為そのものについての違法性阻却事由の有無の判断とは別に行うべきであって、これを判断するにあたっては、その行為が同条項違反の争議行為に際し付随して行われたものであるという事実を含めて、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを考察しなければならないのである。

 これを本件における建造物侵入の行為についてみると、被告人らは、公労法一七条一項に違反する争議行為への参加を呼びかけるため、すなわち、それ自体同条項に違反するあおり行為を行うため、立入りを禁止された建造物にあえて立ち入ったものであつて、その目的も、手段も、共に違法というほかないのであるから、右の行為は、結局、法秩序全体の見地からみて許容される余地のないものと解さざるをえない。」

 

全逓都島郵便局事件大阪地判昭40330判時418-22 

 本件は、全逓大阪地区本部役員が、公労法条違反の同盟罷業参加の説得慫慂のために都島郵便局へ立入った行為につき、建造物侵入罪にあたらないとし、有形力を行使した連れ出しも、無罪とされ公務執行妨害が成立しないという組合寄りの判例だが、郵政当局がオルグ活動に対し無断入局禁止、入室禁止の警戒を行っていること、警告を受けた郵便局員のうちオルグに同意せず、勤務を続行しようとする者も少なくない実態を示すものなので抜粋要約し引用する。

 全逓都島支部では、執行委員会・拡大執行委員会を開いて協議を重ね、鋭意右指令に従って職場大会を実施できるよう闘争気運を高めようとしたけれども、元来同支部長Tが右職場大会実施に積極的でないうえ、従来から同支部の組合活動は低調であつたところから、右職場大会実施についても賛否両派が鋭く対立し、もしこれを強行すれば多数の脱落者がでる公算が大きく職場大会実施の成果をあげうる見通しがたゝない情勢であつたので、‥‥右指令の実施が困難である旨の結論に達した。ところが大阪地区本部は既定方針どおり、想定一三支部へのオルグ活動をはじめ、昭和三三年三月一一日には被告人Aが都島支部へオルグ活動におもむき、同被告人を交えて同支部執行委員会が開かれたが、その席上でも、同支部では職場大会は実施できない意見が支配的であつた。‥‥

 大阪地区本部は、一三支部に対しオルグ活動を続け、三月一二日に代表者を集めて職場大会の実施を強調し、動員や誘導の具体的手順を説明した。その日の夜、執行委員会で都島支部を今回の拠点とすることを決定し、組合員へ職場離脱を説得する方針や、必要に応じて軽度の実力行使やピケットによる入局阻止を決めた。また、各支部への動員指令により約四五〇名が集合し、役割分担も行われた。

 都島郵便局長Мは、課長と主事を集めて警告文の内容を伝え、時間内の職場大会が違法で業務の妨げになると注意した。また、警告文の掲示と「入室禁止」の貼り紙、立看板を設置し、許可なく外部の組合員が構内に入ることを禁じた。これは、他支部の組合員による職場大会が業務を妨害するのを防ぐためである。なお、被告人等は当時全逓大阪地区本部の執行委員であり、被告人Dは委員長でした。

被告人Dは昭和33313日朝、大阪市の都島郵便局に副執行委員長Sらと訪れ、組合員に職場大会の実施を伝えた。一方でH執行委員は、職場大会に参加せず仕事を続けるよう呼びかけた。その後、D・О・N・Sらは約80名の組合員と宣伝カーで現地に到着し、ピケットラインを設置。Dらは誘導員とともに組合員へ大会参加を促したが、全員の離脱は難しい状況でした。そこでDは、「出ない場合はほうり出せ」と強制的に連れ出すよう指示した。

一、同日午前八時四〇分過頃、被告人Sほか五・六名の誘導員は、同局郵便課現業室特殊係の区分棚附近におもむき、部下係員の郵便取扱事務を指導監督するかたわらО事務員に協力して同人の担当事務の一部である特殊郵便物配達区分の業務として書留郵便物を配達帳に記入していた同局郵便課内務主事郵政事務官Uに対し、「職場大会に参加してくれ」と云って職場を離脱し職場大会に参加するようにすゝめ、同人が「仕事が残っているから出られん」と云いこれを拒否するや、いきなり同人の両側から両腕を掴んで持ちあげ、両脇の下に頭をいれて両腕を抱えて引き、又その脊中に頭をつけて押し、同人が足を踏んばり抵抗するのを無理に普通郵便物区分棚の方へ約四米引摺る等して同人に対し暴行を加え、

二、その頃、被告人Sほか五・六名の誘導員は前記郵便課現業室特殊係において、同所で特殊郵便物の区分・交付の職務に従事していた同局郵便課特殊係事務員Оに対して、「俺が連れ出したようにするから出てくれ。」と云って職場を離脱し職場大会に参加するようにすゝめたところ、同人が「君の名は何と云うんだ。知らんやつに口をきかれるわけはない。出る必要はない。」と云いこれを拒否するやいきなり同人の両側から両腕を抱えて引き、又その後ろから押して普通郵便物区分棚附近まで約四米引摺り、同人がこれを振りきって右特殊係の席に戻って右職務を継続しているとなおも「強情をはらずに出ようやないか。」と云って職場離脱をすゝめ、これを拒否する同人との間に口論のような状態になるや更に誘導員四・五名が右Оの腕を抱え込み、脊中を押して道順組立台附近まで引張り出す等して同人に対し暴行を加え、

三、その頃、誘導員三・四名が、同現業室外務主事席におもむき、同所で郵便課外務員の指導監督の職務に従事していた同課外務主事郵政事務官中Tに対し、職場を離脱し職場大会に参加するようにすゝめ、同人がこれを拒否するや、「免に角全逓としてやつておるんだから職場大会に参加するように」と云って同人の両腕を抱えて連れ出そうとしたので、同人は連れ出されまいとして両腕を振り切り同課内務室へ行き、同室内のストーブの前にあつた椅子に腰をおろした。又誘導員四・五名ないし一五名は、同課外務主事席附近におもむき、同所で同課外務員の指導監督・小包郵便物配達区分の職務に従事していた同課外務主任郵政事務官Kに対し、何回も「職場大会に参加して下さい」と言って職場を離脱し職場大会に参加するようにすすめ、同人を局舎外へ連れ出す気配を示したので、同人はこれを避けて午前八時五〇分頃、右長椅子にNと並んで腰をおろし、又Uも前記一記載の暴行を受けた後、同じ頃椅子に腰をおろした。‥‥被告人S・Nは一〇名位の誘導員とともに同所に来て、右長椅子の前後を取り囲み、右U等三名に対し、なおも執拗に外へ出るよう要求した。それでこれを拒否する同人等との間に口論のような状態になったが、右被告人等は突然右長椅子の片端を持ちあげ前の方へ強く傾けて右植谷等三名を前向きによろめかせて倒れかけさせ、それでNが立ち直ったところ、今度は同人の両腕と片足を掴まえてその身体を持ちあげる等の暴行を加え‥U・О・N・Kの前記職務の執行をそれぞれ妨害したものである。

 

(6)郵便局舎に夜間に立入りビラを貼る行為は分会長の宿直が許可しても建造物侵入罪が成立する
  • 仙台高判昭6123判時1194-150 全逓釜石支部(大槌郵便局)事件差戻後控訴審

(差戻判決最判昭5848刑集37-3-215 建造物侵入罪 被告人両名罰金八〇〇〇円

 被告人K(全逓釜石支部書記長)、同S(全逓釜石支部青年部長)の両名は、七三年春闘に際し、組合員Sほか五名と共謀のうえ、昭和四八年四月一八日午後九時三〇分ころ、岩手県上閉伊郡大槌郵便局局舎内に、同組合の情宣活動の一環として、管理権者たる同局長Nの許諾を得ないで、「大巾賃上げ」「スト権奪還」などと記載されたビラ多数を貼付する目的で、同局長の意思に反して土足のまま立ち入り、それぞれ人の看守する建造物に故なく侵入したものである。

  刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきである。そして、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的、動機、経緯、態様等からみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立は免れないと判示している。

 

 

(7)争議権のある私企業でも就業規則や労働協約を整備すれば端的に施設管理権侵害というだけで経営内の行動は規制できる

 

 

  • JR東海・鳥飼車両基地事件・大阪地判平10331労判742-44 

  本件2名JR東海労新幹線地方本部大阪第三車両所分会書記長と副委員長の解雇処分は、会社の許可なく会社施設内に侵入・滞留して会社の施設管理権を侵害し、暴行暴言をなし、管理者に傷害を与え、器物を損壊等し、もって職場秩序を著しく紊乱しており、債務者の懲戒事由に該当し、債権者らは、それに応じた懲戒処分を受けざるを得ず、社会通念上合理性を欠くとはいえず、懲戒権の濫用があったとはいえないと判示する。

 争議権のある私企業でも、労働協約で争議行為中の構内立入禁止、就業規則で無許可会社施設内組合活動が禁止されている場合、違反行為は施設管理権侵害となり、懲戒事由となることを示している。

 

3  ストライキ対策本部の設置

 

3-1 新方針

 

  1年間最低3回以上あるストライキを配置した闘争における水道局のストライキ対策はきわめて簡素で、対策本部は設置されず、各部所2通の文書を庶務担当課長に流すだけである(91136頁参照。それと、本局から組合執行委員長あての中止の申し入れをするのみのである。

  他所の官庁と違って違法行為の阻止、排除、現認体制、監視などは全くなく、なすがままで実質ストに協力しているから改めなけれればならない。

 従来の組合側の論理により業務命令権(労務指揮権)、施設管理権が掣肘されていた労務管理をあらため、正常な業務運営の確保を第一義とした労務管理に改めるべきである。

  組織をあげて違法行為の中止・解散命令・就業命令の徹底、スト実践指導者等の現認検書の上申の義務づけなど違法行為の抑止のために取締を行う。ストライキ対策本部を設置し、管理職だけでなく一般の非組合員全員を召集して、現認体制を強化する。

   スト対策本部は局長・部長級を本部長とし、26カ所(現在は数が減っている)の組合支部に対応して現地対策本部をおく、管理職+非組合員全員を召集し、時間制限のない職務として具体的状況に応じて必要な措置をなす権限を付与する。非組合員の職務は闘争期間における事業所施設構内の警戒・警備、組合員の行動の監視、違法行為の阻止、排除、また管理職とチームを組んでスト実践指導者や助勢者の現認、実況検分、監視、録音、写真撮影を補助する。特に演説あおり、オルグあおり、違法行為を慫慂する集会の取締り、鉢巻、赤腕章など着用の取締、ピケッティング、ビラ貼り、工作物、組合旗の掲出などへの対応。

 非組合員といっても監察指導課などを別として、大多数の非組合員は、通常の業務を行いつつ、適宜スト対策本部の職務を行うものとするが、三六協定破棄闘争時の労基法上18時間を超える業務には権限を与えただけで対策本部任務の履行を義務としない自発的参加の業務となる。

   従来やってこなかった労務管理なので、訓練が必要と思われる。

   営業所におけるスト決行時の来客や電話対応などの不可欠な業務は、管理職が対応するのではなく、非組合員やスト反対派組合員に業務命令して行わせることを原則とする。

 労務対策整備予算措置としては、最低限、中止命令するための携帯メガホンや就業命令等を記載したプラカード等の作製、ストロボ付き写真機、ボイスレコーダーもしくはビデオ撮影機等の現認・監視のための小道具は必要だが、たいした金額ではないだろう。

 従来やっていない職務命令と事前警告をするので反発する組合員の抗議活動で職場が荒れることは想定してよい。水道局長はてめえら殴られてもいいから債務の本旨を履行せよ喝を入れるべきだ。もちろん殴ってくる組合員に対して殴られ損にならぬよう、監視体制も万全なものとして、荒れる職場対策として特別査察チームの編成も必要だろう。旧郵政省でと「トラック部隊」と称され、臨機応変に荒れる職場に配置する。

 そんな面倒なことはやりたくないというかもしれないが、違法行為の助長協力をやっていたことから都民の信頼を回復するためには必要なことである。

 警備員の臨時雇用は考えていないので、人が足りないなら、オリパラ対応やコロナウイルスの保健所支援のようにオール都庁で動員し、争議行為対策をするものとするというのが私の提案である。

 

3-2非組合員全員対策本部入りの意義

 

 非組員全員召集は三六協定破棄闘争対策である。ストライキ時の就業命令をさせないという組合の掣肘を受けていることの打破が最大の目的である。

  東京都水道局は長年の慣行として争議行為に関して就業命令をいっさいしない。組合側の論理は、ストライキは労務指揮権から離脱する行為なので、業務命令はできない。職務命令は組合敵視、団結破壊という主張に全面的に屈服しているからである。

  しかし神戸税関事件・最三小判52.12.20が争議行為中であることを理由として、上司の命令に従う義務(国公法981項)は免れないと説示し就業命令が適法であることは確定したので、ストライキ時に就業命令を徹底している国の争議対応実務が是認されている。

  また、国労広島地本組合費請求事件・最三小判昭50.11.28、全逓横浜中郵前ピケ事件差戻後控訴審.東京高判昭47.10.20(差戻後上告審最一小決昭49.7.4棄却)、 動労糸崎駅事件 .広島高判昭48.8.30 (上告審最一小決昭51.4.1棄却)等多数の判例により公労法171項違反の争議行為の内部統制権は否定されており、スト決議.指令に法的拘束力はない。スト参加の勧誘.説得を受忍する義務などない。地公労法111項違反を別異に解釈する理由はないので、就業命令によりスト参加者を切り崩すことは団結破壊には当たらない。

  従って、ストライキ当日就業命令ができるし、管理意思を示すため絶対必要なことである。ところが、組合はスト予定日の前日の退庁時間から、当日は必ず三六協定を破棄することになっており、組合側は就業時限前に管理職の労務指揮権は消滅しているので、職務命令はできないとの解釈により、職制を麻痺させる闘争を行う。

 組合側は、三六協定破棄により、午前830分以前の業務はいっさいできないとし。これにより非組合員は服務上の基本的な義務である、出勤時限前に出勤記録をする義務も許されず、したがって非組合員は、三六協定破棄によりピケットラインを越えてはならないという、奇妙な論理をふりかざして就労阻止をする。

 平成11年以前在籍していた江東営業所で組合役員は、三六協定破棄により、管理職の労務指揮権は時間外においては消滅し、業務命令は犯罪なので、スト当日に出勤時限前に登庁し、できない出勤簿を押すことが許されない。よってピケットラインを越えてはならない趣旨を言っていた。要するに組合の主張は、830分以前は三六協定未締結により業務命令は許されない。 労務指揮権は凍結されているから、非組合員が830分の出勤時限前に入庁はできない

 よって就労は認められないので、ピケットラインは超えてはいけないという主張である。

  現在は、出勤簿はカードリーダになっているが、三六協定破棄によって就業規則の服務の基本的義務である、出勤時限前に登庁し、ICカードリーダにIDカードをタッチ(以前は挿入)するか、職員番号をテンキーで入力する出勤入力はやってはならない異様な理屈をふりかざし、管理職もそうした屁理屈を受け入れ、業務命令を放棄することがコンプライアンスだと思っていて、こうした組合側の論理で非組合員やストに反対の職員を締め出し、就労の権利を侵害している。

 しかし最高裁は、三六協定未締結で労働基準法違反の時間外労働であっても職務の執行が違法となるものではなく、刑法234条によって保護される業務に該当するとしている。組合のいう労基法により労務指揮権が消滅するということはないのであって、労基法上違法であっても違法を承知で職務命令ができると考えられる。

 カードリーダによる出勤入力は、服務上の基本的義務で、就業規則にもある。組合におもねりこれをやめさせるのは管理職の権限を逸脱し違法なものと考える。

  以下の判例が、三六協定未締結での業務命令により職務執行職員に対する業務妨害等を有罪としており、三六協定未締結で春闘対策本部の非現業職員がビラ剥がし中、動員された全電通組合員に殴られた事案につき、①仙台鉄道管理局(春闘仙台駅)事件・最二小判昭48525刑集2751115が公務執行妨害罪を認め、②倉敷駅信号所事件・岡山地判昭50117刑事裁判資料228187は、信号所信号掛の代務となる助役の就労をマス・ピケで妨害した事案だが、三六協定未締結だったが、代務の助役が三六協定の締結されていない状態で時間外労働の業務命令がなされた場合右命令は労基法に違反し違法なものといわなければならないが、右業務命令が労基法上違法であるからといって、直ちに、それに基づく業務が刑法二三四条の業務に該当しないというものではない。同法二三四条の業務としては業務主体がその地位において行なう業務であれば足りると説示した。③全逓名古屋中郵第二事件・最二小判昭5333刑集32297は三六協定未締結で全逓組合員やアルバイトに業務命令した臨時小包便運搬の業務妨害につき威力業務妨害罪の成立を認めている。

  但し、三六協定の法的性質について理論的に詳しい説示があるのは①だけであり、②は違法であっても刑法上保護される業務と端的に述べるだけ③も一審、二審で争点になっていた労基法違反の業務命令は問題にせず名古屋中郵事件方式の「法秩序全体の見地」により業務妨害を有罪と判断している。

 国労・動労・全逓による三六協定未締結闘争で職務命令それ自体が労基上違法であっても無効ではない、労務指揮権が消滅するという解釈はとっていないわけである。すなわち①は労務課の非組合員②は助役2名③は全逓組合員とバイトの業務遂行は刑法234条によって保護される。

 名古屋中郵事件方式で一刀両断に有罪とした③の意義も重要だが、ここでは①の判例法理に依拠して、非組合員のストライキ対策本部の任務を与えるという提案する。

 当然組合は反発するだろうが、更新期限を年度末として一年間有効な、三六協定を途中、争議行為目的で一方的に破棄するのは信義則に反し、職制に経常業務を押し付けるなど悪質な職制麻痺闘争をやっているわけで、加えてストライキ正当化の道具としている。

 現状は正常な業務運営ではなく、保安要員として浄水場など水供給に不可欠な部署は通常勤務としているとはいえ、保安要員を置くこと自体正常ではなく、ライフラインを預かる企業としても弊害が大きい。三六協定を非組合員の就労の権利と義務を否定するのに利用しているあり方が、きわめて悪質で対策が必要なのでこの提案をするものである。

   仙台鉄道管理局事件(春闘仙台駅)事件・最二小判昭48525刑集2751115は労働者の過半を組織する国労・動労と三六協定未締結で春闘対策本部に召集された仙台鉄道管理局総務部労務課の非組合員Iが労働基準法32条に反し18時間以上就労の時間帯に列車車体鋼板のビラ剥がし作業をしていたしころ、動員組合員らに半円状に取り囲まれ激しい抗議を受けたが、ビラ剥がしを続行したため、Iに対し全電通組合員が手拳で顔面を強打し全治六日の傷害を負わせた事件につき、一審は傷害罪.公務執行妨害罪ともに有罪、控訴審仙台高裁は、職員Iは午前6時より勤務に就き、本件暴行のあった午後240分労基法の8時間を超えているので、職務執行の具体的権限を欠き適法性を有さない業務として公務執行妨害罪は無罪、傷害罪は有罪とした。上告審は、公務執行妨害罪を無罪とした原判決を破棄自判した。

 

 「Iに発せられた本件職務命令は、昭和三九年四月一五日午前六時から仙台駅構内において組合員の行動の監視、違法行為の阻止および排除等の任務に従事すべきことを内容とし、執務時間についてはあらかじめ制限を付さない趣旨のものであつたというのであり、これによれば、右命令が同人に対し、前記の職務に従事すべき労働関係上の義務を課するものであるとともに、その反面、右職務を執行する権限をも付与する性質のものであることが明らかである」

 「労働基準法三二条一項は、就労時間の点で労働者を保護することを目的とし、また、もっぱら使用者対労働者間の労働関係について使用者を規制の対象とする強行規定であるが‥‥労働者とその職務執行の相手方その他の第三者との間の法律関係にただちに影響を及ぼすような性質のものではない。‥‥本件職務命令に右強行規定の違反があつたとしても‥‥就労を拘束的に義務付ける部分の効力に影響を及ぼし得るにとどまり、職務執行の権限を付与する性質の部分についての効力にまで消長をきたすべき理由はない‥‥労働基準法の適用を受ける者に対する職務命令が、同法所定の労働時間の制限を超えて就労することをもその内容としており、かつ、その者の就労が右制限を超えたからといつて、そのために職務の執行が具体的権限を欠いて違法となるものではなく、これに対して暴行脅迫を加えたときは公務執行妨害罪の成立を妨げない‥‥」と説示する。

 柴田孝夫調査官判解は「労働者に一定の職務の処理する権限を与える行為と、一定の職務に従事させる義務を負わせる行為は、本来は別個の行動として各別に行うことができるのであり、本件判決は、本件職務命令の内容を性質において二分し、労基法三二条一項違反の意味をそれぞれに分けて検討する方法をとった。これによれば、労働を義務付けるものではない、権限を与えるだけの使用者の行為は、権限を行使しうる時間を限っていようといまいと、これを違法無効とすべき積極的な理由は労基法三二条一項からはでてこない」と解説する。

 三六協定未締結で労基法違反の労働が刑法上保護に値せず、超過勤務手当請求もないと二審の結論を批判し、労基法違反の時間帯に商事会社の社員が顧客と契約した場合、代理権の範囲外で会社に効果が帰属しないということにはならないと言う。労基法違反であっても職務の執行それ自体が違法にはならないとしている。

 労基法は労働者を保護する立法という建前であるが、逆に第3者から就労権の妨害、労働者を貶めることに利用することは法意に反しており、争議行為に利用されることが立法趣旨ではない。

 以上のことから職務命令にはあらかじめ時間の制限のない業務命令があってよいのであり、労基法の違法は法秩序全体の見地から判断される。

  ということは、春闘仙台駅事件で支援する全電通組合員に殴られた職員Iと同じように、組合員の行動の監視、違法行為の阻止および排除等の権限を非組合員全員に付与するならば、三六協定未締結でも仙台駅事件と同じようにその時間外の業務は正当となるから、通常通り、出勤時限前に登庁し、カードリーダで出勤入力してよいことを意味し、ストライキ参加をそそのかすピケッティングは違法行為であり、ストの勧誘・説得に受忍義務などない。管理職は出勤時限前に登庁し、非組合員に就業命令し、ストに参加しない人員を確保できる。

 もちろん召集職員は対策本部の職務をやってもらいたいが、仙台鉄道管理局駅判決が「就労を拘束的に義務付ける部分の効力に影響」としている点をふまえ、三六協定未締結時は職務を拘束的には義務づけず、率先してできる人が管理職業務を補助するという態勢になる。ただし、就業命令は掣肘されず、就業命令により通常どおり、出勤しカードリーダは入力する。組合側はストライキに対抗して、非組合員や組合員に業務命令し、争議行為中の操業が許されてはならないし、当局にその権限はないという論理だが、最高裁判例で否定されているし、地公労法112項で事業所の閉鎖はできないので、職員を締め出すことはできないと考える。

 最高裁は労基法で違法であっても職務命令じたいを否定していないし、業務主体がその地位において行なう業務は刑法上保護される。組合員の行動の監視等の職務権限を付与されたことにより、出勤時限前の登庁ができないと言う主張を切り崩すことができ、組合の拠ってたつ論理は崩壊する。要するにストライキに対して就労命令させない組合の戦術をつぶすための対策である。

 三六協定未締結時の業務であっても刑法上保護されることは確定しているので、スト指導の組合員が殴ってきたら、公務執行妨害罪なり、相応の処置となる。就業命令の徹底が最大の目的ということである。

 したがって三六協定破棄時間の召集非組合員は、自発的判断でスト対策本部で与えられた任務を行うことができるし、任務を時間的に拘束はできないので、任務を果たさなくてもよいが、組合の指図にしたがってICカードリーダに電磁的に出勤入力しないことを強要されないようにするのが最大の狙いということである。

 

4 闘争指令下の昼休み集会-不許可・中止命令

 

 ストライキ決行態勢をとるため、闘争課題を確認し組合員の意思統一を図り、志気を鼓舞する目的の集会であり、執務室内でなされることが多い。挨拶・基調報告・決意表明・決議文朗読・頑張ろう三唱等がなされる。

 朝ビラ情宣と都庁前3割動員決起集会とセットでなされることも多い。

 従来管理職は執務室内であっても許諾している。職員部監察指導課は「昼休み集会」に関し何の指示もしていないし、違法行為と言う認識がないので、現場の管理職も認めてしまっている。

 

4-1 新方針

 

 不許可。中止・解散命令を徹底的に行う。現認・監視対象とし演説者等記録する。その際、スト対策本部の非組合員を動員して監視、ビデオ撮影、録音などにあたらせてもよい。

 

4-2 新方針の根拠 

 

1)違法行為である。地公労法111項後段が禁止する「唆し」「あおり」そのものであり、地方公務員法291号、32条の適条による服務規律違反。

2)地方自治法238条の47項の行政財産の目的外使用により不許可にして当然の事案。

3)労働協約で休憩時間を1時間ずらし、午後0時から1時の業務命令による昼当番は組合も認めており、営業所では窓口と電話対応で23人が昼休みも勤務している。執務室内において至近距離でアジ演説がなされるのであるから、職務への集中が妨げられ、電話の声が聞き取れないなど業務を妨害するおそれがある。執務室内で囚われの聴衆の状況で組合の訴えかけを聴かされることは、能率的な環境とはいえず、勤務中でない職員であれ、演説の余韻などで作業能率を低下させるおそれがあり、さらに他の職員の休憩時間の自由利用の妨げとなるおそれもあり、適正・良好な職場環境とはいえないので、職場の秩序を維持する当局の権限(それは具象的に業務妨害がなくても、たんにおそれかあるだけで十分)にもとづき、中止解散命令する。

 

4-3新規則違反 

 

1 職員は、許可なく、局所施設内で、業務外の集会、演説、講習、放送、示威行為又はこれらに類する行為を行ってはならない。

2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない

3 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない

 

4-4 処分 

 

 中止命令にもかかわらず集会を強行し且つストが実行された場合、主宰者、全演説者、頑張ろう三唱の音頭取り等、地公労法111項後段違反、地方公務員法32条の服務規律違反として懲戒処分事由とする。抗議で暴言、暴行があった場合は量定を加重する。

 

 

4―5 過去の事例

 

 なお私が記録している昼休み集会は以下のとおり、カッコ内主な演説者

1)中野営業所事務室内 平成23年7月7日 (分会役員) 所長 〇〇

2)中野営業所事務室内 平成23年11月2日 (分会役員) 所長 〇〇

3)中野営業所事務室内 平成23年12月9日 (分会役員) 所長 〇〇

4)中野営業所事務室内 平成24年3月8日 (分会役員) 所長 〇〇

5)中野営業所事務室内 平成25年11月2日 (支部.分会役員) 所長 〇〇

6)中野営業所事務室 平成26128日 (〇〇本部委員)所長 〇〇

7)中野営業所事務室内 平成26年2月12日(支部.分会役員)所長 〇〇

上記は実況見分記録あり。なお、これ以外に勤務時間内の頭上報告多数、勤務時間内オルグ演説、抗議演説もあるが、上記は純然たる昼休み集会をピックアップしたもの。

8)西部支所給水課新宿分室 令和元年124日 庁舎管理者 新宿営業所長〇〇

9)西部支所給水課新宿分室 令和元年1217日 庁舎管理者 新宿営業所長〇〇

10)西部支所半地下業務用駐車場 令和5125日(筆者は現場出張中で現認せず)

11)西部支所半地下業務用駐車場 令和6115日(筆者は現場出張中で現認せず)

12)杉並営業所事務室内 令和6123日(支部・分会役員) 所長〇〇(不在)

 8は実況見分してないが、9はドアの外側で演説者の声を聴き、実施していることを確認した。

 

◆実況見分記録(「昼休み集会」平成23年12月9日(金)中野営業所) 

 

  同日15時より全水道東水労の都庁第二本庁舎前で勤務時間離脱3割動員の決起集会(当時は半地下の新宿NSビルとの間の空間で行われていたが近年は地上のふれあいモールに移行している)、夜には書記長会議がある日だが、通常昼休み集会と早朝ビラ配りは、3割動員集会のある日にセットで設定されるので容易に予測できる。

 

【始業時前朝ビラ情宣行動】構内通用口ドア前

構内の狭い入口の通路の左に二人、右に一人が立ち、通路を挟むかたちで配られる。小さな営業所なので、3人しか立ってないが、支所だと構内入り口前右に5人左に5人といった規模になる。挟まれた間を通行し半強制的にビラを受け取らせる。人数が多い場合は特に威圧感がある。人を挟んだり、包囲する組合活動は押しつけになるので、規制すべきである。ビラの内容も動員集会、ストライキの日程が記載され、違法行為を慫慂する内容であるから、ビラ配布自体が違法行為にあたり中止命令すべき態様と内容といえる。

 

【昼休み組合決起集会】事務室内ほぼ中央に演説者

 

  12時28分に分会書記長が赤腕章をつけ基調報告の紙を配りだしたので、自席で昼食をとっていた〇〇所長(のち経理部管理課長、職員部監察指導課長、労務課長)に昼休み集会を組合がやることを知っているのかと問い合わせたところ知らないと言う。

  その後分会書記長がこれから集会をやると所長に通告、所長は休憩している人に配慮云々と言っただけで、中止命令せず、集会自体を許諾。

  昼休みはこの年の東日本大震災による電力不足のため消灯していたが電気がつけられ31分頃から集会が始まった。

  なお、過去の例では所長は離席し監視しないように組合に配慮するが、この時は一部始終を管理職が見ている。

  集会の態様は、営業所事務室ほぼ中央(所長席の向かい)に組合役員、演説者等、多くの職員は自席。昼休み当番として2名が休憩時間を午後1時以降にずらして、窓口のレジと電話当番として勤務中、演説者との距離は近く10mも離れていない。従って、折り畳み式の衝立が立っているので、来客からは覗かれないが、演説や鯨波などは当然雑音として入るので、職務への集中を散漫にさせ、電話の相手方の声が聞き取りにくくなるなど職務専念を妨げるおそれがある状況でなされる。

 

   31分から37分頃 司会の組合分会長挨拶 〇〇

 まず集会時間を20分、目的について闘争課題を確認し意思統一を図ることと述べ、国政の状況、国家公務員の労働基本権付与の法改正は、国会が本日閉会したので、見通しが立ってない現状をまず報告したうえ、今回の闘争目的を説明。 

  38分から43分頃 分会書記長基調報告 〇〇

事前に配られた内容を読み上げた。前半は141時間ストを設定して監理団体業務委託を見直し、直営職場を残す闘いをやる云々と述べ、後半は211時間を設定しその他の職場要求と反合理化課題の解決を目指す。震災復興が進まないのは被災自治体の人員削減が要因などと言い、人員削減計画を見直す契機とすべきだといった趣旨を述べていた。演説が終わってぱらぱらと拍手があり、司会の分会長が確認のため拍手を催促し、比較的大きな拍手となった。

   44分から46分  組合員代表の決意表明 〇〇

 組合委員代表一人(元中央委員)が矢先漏水調査業務見直しは営業所業務にも影響がある云々と述べたうえ、闘争の決意表明を読み、拍手が求められた。

   47分から49分頃 分会長の音頭で頑張ろう三唱等(組合分会長)〇〇

  事務連絡の後、大声で「14日、21日ストライキに向け闘争課題を確認し、決意表明を受けました、最後に頑張ろう三唱で締めたいと思います」といったことを述べ、「団結用意」とかけ声があり、頑張ろう三唱が行われた。

   以上、これは一例だが、組合員代表の決意表明があったのは中野ではこのケースのみなので掲載した。昼休み集会の流れの大筋は上記のとおりである。

 

4―6 取締りの根拠となる判例

 

 平成21年水道局中野営業所長〇〇[のちに職員監察指導課長、労務課長に栄転、現在は退職]に中止命令すべきであると進言したが、昼休みの組合活動は労働基準法(休憩時間の自由利用)により規制できないと断言した。令和元年新宿営業所長も闘争指令下の二度にわたる給水課分室執務室での集会容認を断言した。

 しかし最高裁は労基法34条第3項(休憩時間の自由利用)が、休憩時間の組合活動の規制を否定するものではないことを2度にわたって理論的判示をしており。都の管理職の法解釈が完全に間違っている。

 

 米空軍立川基地出勤停止事件・東京高判昭40.4.27労民集162317は、全駐労組合員10名が、米軍の許可なく休憩時間中に基地内の食堂、休憩室等で職場報告会等の組合活動を行ったことを理由とする出勤停止処分を適法とした。使用者は、労働基準法第34条第3項の規定により、労働者に対して休憩時間を自由に利用させる義務を負うが、使用者がその事業施設に対する管理権を有する以上、右権利の行使として施設内における労働者の休憩時間中の行動を規制しても、それが労働による疲労の回復と労働の負担軽減を計ろうとする休憩制度本来の目的を害せず、かつ右管理権の濫用とならないかぎり、違法ということはできないと判示。

 

 日本ナショナル金銭登録機懲戒解雇事件・東京地判昭42.10.25労民1851051も同趣旨の判断を示している。

 

 理論的説示のある最高裁判例は2つあり、米空軍立川基地事件・最三小判昭49.11.29訟務月報212421は 「一般に労働者は、休憩時間中といえども、その勤務する事業所又は事務所内における行動については、使用者の有する右事業所等の一般的な管理権に基づく適法な規制に服さなければならない‥‥‥管理権の合理的な行使として是認されうる範囲内における規制であるかぎりは、これにより休憩時間中における労働者の行動の自由が一部制約せられることがあっても、有効な規制として拘束力を有し、労働者がこれに違反した場合には、規律違反として労働関係上の不利益制裁を課せられてもやむをえない」と判示した。

続いて目黒電報電話局事件・最三小判昭52.12.13民集317974が「休憩時間の自由利用といってもそれは時間を自由に利用することが認められたものにすぎず、その時間の自由な利用が企業施設内において行われる場合には、使用者の企業施設に対する管理権の合理的な行使として是認される範囲内の適法な規制による制約を免れることはできない。また、従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律に基づく制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない‥‥局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であっても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあって、その内容いかんによっては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるのであるから、これを局所管理者の許可にかからせることは‥‥合理的な制約ということができる。」としており、本件は政治活動の事案だが、その判旨は組合活動判例でも引用されており、指導的判例というべきである。休憩時間の組合活動につき、企業秩序をみだすおそれのある行動を規制したとしても、労働基準法第34条第3項違反とならないことは明白なのである

 大阪中電マツセンスト事件・東京地判昭50325訴務月報20-8-1

 懲戒免職処分を適法とする。 「大阪中電ストライキ実行委員会」は、昭和四四年九月二〇日以降連日活発な行動を開始し、同委員会に所属する大阪中電職員および外部反戦グループの数名において、大阪中電局舎前において同局職員に対し「大阪中電マツセンスト」の正当性を訴えるビラを多数配布し、同月三〇日以降は局舎七階の職員食堂に赤ヘルメツトを着用して現われ、昼食中の同局職員に対して携帯マイクを使用して「大阪中電マツセンスト」への参加を呼びかけるアジ演説を継続して行ない、右無許可の演説行為に対して局所管理規程に基づきこれを中止させようとした大阪中電の管理職員の制止をきき入れなかつた。同委員会は一〇月二日食堂におけるアジ演説で翌三日からストに突入する旨の宣言、当局は特に厳重な警戒体制をしいたが、二日深夜から三日早朝にかけて局舎外周および道路向いの防潮堤に「佐藤訪米阻止、中電スト貫徹」等のスローガンをペンキで大書。一〇月三日は午前九時頃から大阪中電正面玄関横において立看板を立て、赤ヘルを着用して、外部の反戦グループを混じえ、無許可で座り込みを行ない、また携帯マイクによるアジ演説をした。これらの参加者中には、勤務時間中にもかかわらず、公社の業務命令を無視して職場を離脱したものもあり、当局の中止命令、退去命令にもかかわらず解散しなかつたため、同委員会の右行動は「山猫スト」として新聞、テレビ等で広く世間に報道された。

 本件は、休憩時間は食堂で演説しているが、水道局は執務室内でアジ演説示威行為を認めている点本件より悪質とさえいえる。

くどいようだが、休憩時間や時間外、非番者集会等の下級審判例として、●国労兵庫支部鷹取分会事件・神戸地決昭63.3.22労判517のほか、大日本エリオ事件・大阪地判平元.4.13労判538は「本件署名活動はその趣旨説明、説得を伴っていたことが認められる。そして、休憩時間中においては他の労働者が休憩時間を自由に利用する権利を有していることが尊重されなければならないから、これを妨げる行為を当然にはなしえないと解すべき」として譴責処分を是認している。

 

 その他休憩時間.就業時間外等の組合集会等で正当な行為とされなかった事例

 三菱重工事件・東京地判昭58.4.28労民集343279(昼休み集会は協約違反)

 全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58.12.20判時1102は、無許可の休憩室あるいは予備室を利用した職場集会に対する郵便局次長、庶務課長らによる解散命令及び監視行為は不当労働行為に当たらないとする原審の判断を支持したものだが、理論的詳細は東京高判市昭55.4.30労民集312544にあり、解散命令が行われた集会というのは以下の2件である。

◇集配課休憩室-休憩時間中の全逓組合員約7080名が昭和40510日午後035分ごろから

◇年賀区分室-67515分ごろから545分ごろまで。611日午後020分~055分ごろまで

 いずれも、休憩時間か就業時間外の時間帯だが、年賀区分室の集会について職制は勤務時間中の者がいるかを監視しており、勤務時間のシフトで勤務時間中の者もいる時間帯といえる。

 池上通信機事件・最三小判昭63.7.19判時1293(使用者の許諾を得ないまま実力を行使してこれを使用し続けてきた場合において、使用者が、労働組合からの従業員食堂の使用申入れを許諾しなかったこと。また、許諾のないまま従業員食堂において開かれた組合員集会等の中止を命令し、組合幹部に対し警告書を交付したことは不当労働行為に該当しない。)

 日本チバガイギー事件・最小一判平元.11.19労判533(工場は勤務終了後だが事務棟は勤務時間内の施設利用拒否は不当労働行為ではない)

 国鉄清算事業団(東京北等鉄道管理局)事件・東京高判平4.2.9労判61729(分会は二〇年以上前から東京駅南口構内の遺失物取扱所裏(中央線ホームから見えない場所)において、年に四、五回程度午前九時三〇分ころから約三〇分間勤務時間外の組合員(非番者)一四〇名前後が参加する組合集会を開いて春闘、秋闘などの重要な課題についての意思統一を行ってきていた。しかし、東京駅当局は今回までは非番者集会について事務規程二〇条が定める手続をとるように申し入れたことはなく、警告を行うこともなかったが、昭和五八年、分会に対して、手続をとるようにとの申入れを行った。六月二〇日には手続をへることなく遺失物取扱所裏の敷地で分会員約一三〇名が集まり労働協約の破棄通告に抗議する非番者集会が、午前九時三〇分ころから約三〇分間にわたって行われた。同日に非番者集会が開かれることを事前に知った東京駅当局は、分会長らに対して承認を得ていない組合集会は行わないように申し入れるとともに、敷地に集会を禁止する旨の貼紙をして警告をした。W首席助役は集会の責任者に対して直ちに解散するように通告し、K庶務助役、S助役ら一〇数名の管理者が現認のために待機してメモをとったり写真撮影を行ったりした。さらに、七月二五日にも同様に警告し、現認のためメモをとった行為が不当労働行為か否かが争われ、東京駅当局が今回警告を行う等の対応をとったのは職場規律の是正のためであったことからすれば、警告を行う等の対応をとったことが不当労働行為にあたるということはできない。無許可非番者集会の監視は不当労働行為ではないとした一審を棄却)

 オリエンタルモーター事件・最二小判平7.9.8判時1546(無許可従業員食堂利用)

 このように職務専念義務違反にならない休憩時間の勤務終了後の集会の利用の拒否、中止・解散命令が不当労働行為に当たらないという判例は数多あるのに、都の管理職が労働基準法34条第3項により、違法行為を伴う組合集会でも拒否できないというような判断をとっているのは組合側の勝手な出張に従っているためと言うほかない。

 コンプライアンスに著しく反するので是正されなければならない。

 

 

5 ストライキを配置し闘争に突入した時点で便宜供与の禁止 

 

 庁舎管理にかかわる動きとして過去10年程度でいえば令和2年に庁内管理規程が改定されたこと、都庁の決起集会の場所が新宿NSビルと第二庁舎の中間の半地下空間から、ふれあいモールに移動した。本庁のセキュリティが厳しくなって、IDカードが必要になったことから、庁舎内で練り歩くデモや座り込みは難しくなったということはあるが、現状は、都議の質問をかわすためやむなく発出した「平成163月東岡職員部長通知」以外、各事業所庁舎構内の組合活動を取り締まることはしていない。平成26年に発覚した入札妨害事件の再発防止として、執務室内立入禁止や、入室記録簿を置くようにしたこと。暑気払いや忘年会等での会議室利用で飲酒を平成27年頃以降不許可とした程度である。

 

5-1 新方針

 

 国の省庁では組合がストライキを配置した時点で、組合集会に庁舎構内の便宜供与を禁止し、強行した場合の中止命令を徹底している。東京都はなんでも容認し、事実上違法行為の強度の慫慂に著しく加担している。旧郵政省の方針と同じく、組合がストを配置し、大衆行動等の闘争態勢に入った時点で、集会・演説行為で庁舎構内の組合活動の便宜供与を停止するものとする。

 旧郵政省では、日常的な組合活動については、業務を妨げない必要最小限度で、会議室等利用を許可している。そうするよう規則化しているので便宜供与しなければならないことになっている。この方針は水道局でも同じで良いと思う(ただし届け出し支部執行委員会なら他の事業所から来所することもあるので、出入りする職員の氏名も届け出るべきである)

 しかし全逓が、業務規制闘争(物だめ)やストライキを配置し闘争体制に入った時点で、地方郵政局が各郵便局に指示して、局所内の組合活動の便宜供与を停止し、集会を強行した場合は、監視・中止解散命令を徹底している。

 それは、便宜供与すると、は当局が違法行為を助長することになるので、目的外使用である組合集会を規制する正当な理由があるものとして不許可とする方針で、闘争期間に入れば、組合集会は、違法行為である、演説あおりがなされることが想定できるからである。

 

5-2新方針の根拠 

 

〇地公法111項後段違反行為「そそのかし」「あおり」がなされるおそれがあり、規律ある業務運営を維持する権限、庁舎管理権。

〇もしくは地方自治法238条の47項の行政財産の目的外使用により不許可もありうる。

〇東京都水道局庁内管理規程第五条13号

53 新規則違反

1 職員は、許可なく、局所施設内で、業務外の集会、演説、講習、放送、示威行為又はこれらに類する行為を行ってはならない。

2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない

3 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない

 

 

5-4 取り締まりの根拠となる判例

 

  • 東京城東郵便局事件・東京地判昭5996労判44245

 国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭541030を引用して、全逓本部によるスト決行体制確立、業務規制闘争突入指令後の、郵便局内での組合集会開催のための施設の利用を許諾することは、公労法171項違反の違法行為を助長する結果となるおそれが大きいと当局側が判断したことについては、相当な理由があるとして、会議室使用不許可に権利濫用と認めるべき特段の事情はないと判示した。(写真は数年前の城東郵便局)

 

要所の抜粋

原告H(懲戒免職)の行為

1 昭和四二年五月一一日の集会

 城東支部執行委員会は、昭和四二年五月二日、全逓中央本部からの指導により、当時全逓が取り組んでいた合理化反対闘争等に向けての団結を強めるため、各課単位で集会を開催することを決定し、これに基づき、郵便課、保険課等で順次集会が開催され、集配課分会においても右の集会を開催するため、同月九日、同課分会S執行委員名義でY局長に対し、いずれも組合業務を目的として城東局会議室を同月一一日及び一二日の両日使用したい旨の庁舎使用許可願を提出した。同局長は、これに対し、全逓が同月一〇日の指令第三二号により、同月一七日に二時間、二四日に半日の各ストライキを決行する体制を確立すること、及び同月一六日以降業務規制闘争に突入することとの闘争指令を発したため、東京郵政局の指示に従い、右指令は公労法一七条一項に違反するとして、前記許可願につきいずれも許可しないこととし、同月一一日午前中に、同局庶務会計課主事Uを通じてS執行委員及び原告Hに対してその旨及び理由を通知した。

 このような経緯で会議室の使用が許可されていなかったにもかかわらず、同日午後四時七分ころから五時一六分ころまで、同会議室において、集配課員約四〇名による職場集会が開催され、K青年婦人部長がこれを司会した。原告Hもこれに参加したが、この中で、同原告は、開会後間もなく無許可集会として解散命令を発したK課長に対して抗議し、更に午後四時三六分ころ、集合した集配課員に対し、「中に入ってやろう。」と言って全員を集め、同課長らの再三にわたる解散命令を無視して集会を続行した。

 

2 同月一二日の集会

 同月一一日の集会において、混乱があったため、S執行委員は、翌一二日に予定していた集会を開くべきかどうかを城東支部長О及び東京地本のI執行委員に相談したところ、二人とも集会を開くよう指示をした。そこで、同月一二日においても会議室の使用が許可されていなかったにもかかわらず、同日午後〇時三三分ころから同五一分ころまで、同局会議室において、集配課員約六〇名による集会が開催され、K青年婦人部長がこれを司会した。原告Hもこれに参加し、解散命令を発したY局長及びK課長に対して抗議し、右両名の再三の解散命令に従わない態度を示し、また参加者全員に対して会場使用について説明をし、更に「青年婦人部長の指揮で歌を歌って終わることとする。」と指示するなどした。(中略)

 ‥‥同原告の右行為が懲戒処分の対象となるか否かにつき検討する。

 郵政省就業規則一三条七項は、「職員は、庁舎その他国の施設において、演説若しくは集会を行ない、又はビラ等のちょう付、配布その他これに類する行為をしてはならない。ただし、これらを管理する者の事前の許可を受けた場合は、この限りでない。」と定めていることが認められ、郵政省庁舎管理規程七条は、「庁舎管理者は、庁舎等において、演説、ビラ等の配布、その他これに類する行為をさせてはならない。ただし、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、これを許可することができる。」と定め、また同三条は、「職員は、庁舎管理者が、庁舎管理上必要な事項を指示したときは、その指示に従わなければならない。」と定めていることがそれぞれ認められる。‥‥

 国の庁舎の管理権者は、公物たる庁舎の存立を維持し公務の円滑な遂行を図るため、その庁舎につき合理的・合目的的な秩序を定立し、公務員その他の者に対してこれに服することを求めうべく、その一環として、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもって定め、又は具体的に指示、命令することができ、公務員でこれに違反する行為をする者がある場合には、その任命権者は、その者に対し、制裁として懲戒処分を行うことができるものと解するのが相当であり、また、公務員の労働組合又はその組合員が、庁舎管理権者の管理する庁舎であって定立された秩序のもとに公務の運営の用に供されているものを、その管理権者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないものというべきであるから、右の労働組合又はその組合員が庁舎管理権者の許諾を得ないで庁舎を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該庁舎につきその管理権者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある公務の運営態勢を確保しうるように当該庁舎を管理利用する庁舎管理権者の権限を侵し、公務の秩序を乱すものであって、正当な組合活動として許容されるところであるということはできない(最高裁昭和五四年一〇月三〇日第三小法廷判決・民集三三巻六号六四七頁参照[註-国労札幌地本判決])。

 ‥‥集会が行われた会議室はY局長の管理する庁舎の一部であり、郵便局の業務のため使用されるべきものであって、全逓の組合やその組合員が当然には使用を許されていないものであると認められるところ、Y局長が会議室の使用を許可しなかったのは、全逓が同年五月一〇日、ストライキを決行する体制を確立すること及び業務規制闘争に突入することとの指令を城東支部に対して発したため、右指令が公労法一七条一項に違反するとしたためである‥‥このような指令が発せられた場合において、Y局長が、城東支部に対し施設の利用を許諾することは違法行為を助長する結果となるおそれが大きいと判断したことについては相当な理由があるというべきであるから、同局長が会議室の使用を許可しなかったことについて権利の濫用であると認められるような特段の事情はないものというべきである。昭和五二年五月の各課単位の集会は既に郵便課等集配課以外の課については五月一一日以前に実施され、Y局長もこれらの集会のために庁舎を貸与することは許可していたことが認められるけれども、その後前記のような指令が全逓から発せられたのであるから、従前庁舎使用を許可していたからといって、集配課分会の会議室使用を許可しなかったことをもって権利の濫用とすることもできない。

 従って、会議室使用の許可を得ないで開催された同年五月一一日及び一二日の各集会は正当な組合活動として許容されるものということはできないというべきである。

 よって、‥‥同原告の行為は、庁舎管理権者の許可なく開催された集会に参加し、管理権者の解散命令に従わず、かつ、その集会の開催について積極的な役割を果たした点において、国家公務員法八二条一号及び三号に該当するということができる。

熊本貯金局事件・熊本地判昭63718、労判523、郵政省下関局事件・山口地判昭60319判タ566、仙台管区気象台(全気象東北支部仙台分会)事件・仙台地判昭60925労判464もストライキ態勢では当日であれ、前日であれ、構内集会は認めない方針を示しており、東京都でも国の省庁と同方針をとるべき。

 

5-5 処分 

 

 中止命令に従わず集会を強行した場合、集会で演説等に立ち指導的な役割を場合、ただし当面、ストライキが実行された場合に限り、懲戒事由とする。暴言や暴行をふるった場合は量定を加重する。

 

 

6 闘争指令下の本庁・支所・合理化拠点の動員決起集会-不許可・解散命令

 

 これは大衆行動と称する戦術で、ストライキ配置以前からなされるが、ここでは闘争指令下でストライキ参加意思を鼓舞し、その闘争意思を堅固にするための目的で開催される決起集会にしぼる。大抵の場合勤務時間中午後に行われる。

 当局は2割動員については有給休暇、時間休をとって参加を認め、3割動員は年間34回はあり、大きな闘争のあるときは回数が多くなるが、当局は争議行為そのものと認定し賃金カットする。賃金カット分は組合が闘争資金から補償しているが、もともと組合費として払った金額の一部が戻るだけである。

 内容は昼休み集会と同じ形式と考えられる。基調報告、交渉経過報告、組合員代表決意表明、決議文朗読、採択、鯨波、頑張ろう三唱でしめくくる。平成1213年ごろの千代田営業所では庁内デモ行進も引き続いて行われた。

 支所集会の場所は、私が知る限り、東一支所(平成初期)が、正面玄関前ロータリー、中央支所(平成中期)は裏手の来客用駐車場、西部支所(近年)は半地下業務用駐車場奥ターンテーブル付近。東一支所や中央支所のケースではおびただしい数のビラ貼り、立て看板設置、組合旗多数の掲出がみられる。本庁前の集会を監視したことはないが、宣伝車が乗り込み、幟や組合旗が多数みられる。集会参加者は鉢巻きやゼッケンなど着用する。

 来客用や業務用の駐車場を占拠してなされることはそれ自体、業務運営を阻害しているともいいうる。

 本庁の集会は以前第二本庁者と新宿NSビルとの間にある半地下空間だった。都庁やNSビルの通行妨害になる形で行われ、ホームレスが雨宿りする処でもある(写真は平成243231741分都労連退庁時間後の決起集会)。組合集会が特権的に許されていたが、現在はふれあいモールに移動している、移動の経緯は不明である。

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 平成16年の業務手当闘争では第二本庁者になだれ込み、庁舎内デモや庁舎内座りこみも行われた。監視や警備する管理職も見当たらず無防備であった。たまたま交換便業務で本庁に出張したさい目撃した。現在はテロ対策等でセキュリティゲートもできたため庁舎内を練り歩くことは困難と思われる。

 なお、ふれあいモールは公開空地だが、本庁舎の敷地内であるから、東京都主催のイベントで使用されるかもしれないが、政治・市民団体等の街宣や抗議集会は道路占用許可をとって公道上でなされるのであって、ここを使用されることはなく排除されているはずで、労働組合、職員団体が特権的に利用している場所といいうるのである。

 平成16317日公営企業委員会で次のようなやりとりがあった。

後藤委員 ‥‥この写真なんですけれども、38日、これも同じく練馬の北部支所なんですけれども、集会を組合の方たちがやっています。これは水道局の方から確認をとったんですけれども、この集会に関しては事前に届け出があったのかどうか。

東岡職員部長 北部支所では、38日、お客さまセンター設立反対等と称しまして、営配営業、配水という意味ですけれども、営配庁舎合同集会が本部指令に基づいて行われました。これは1715分から1815分ということで、勤務時間外で約90名が参加して駐車場で行いました。事前の許可手続はとっておりませんでした。

 今後は、各事業所に対しまして、集会などを持つ場合には、事前に庁舎管理規程に基づく許可申請を行って、了解をとった上で実施するよう指導を徹底していきます。39日に、庁舎管理の徹底についてということで周知徹底を図ったところです。

 

 90人集まったということだが、定時退庁時間にピケを張って、強引に職員を集会参加に引き込む闘争だったのか私はよく知らない。定時退庁時間後の集会は珍しいケースといえる。

 東岡職員部長は、今後許可申請を出させるようにすると都議の質問をかわしている。組合は受忍義務があるとして組合が集会の許可申請など出すはずはないし、私は日常的な組合活動についての便宜供与を否定しないが、組合が庁舎管理規程にもとづく申請をするという例を知らない。管理職は黙認し監視も指示されてない。

 問題は手続ではなく、春闘の闘争期間の集会であり、集会の内容が地公労法で違法な「あおり」「そそのかし」そのものであり、ストライキ参加の意思を統一し、志気を鼓舞するものである以上、許可申請を出す出さないにかかわらず、不許可、中止・退去命令すべきなのである。

 行政財産の目的外使用不許可の裁量処分(地方自治法238条の47項)という観点でも不許可ができる。

 

6-1 新方針

 

 勤務時間内外いかんにかかわらず庁舎構内は不許可。中止・退去命令を徹底する。3割動員は職場復帰命令をする。現認・監視対象とし演説者等記録する。国の官庁と同じく、組合がストライキを配置し、闘争態勢をとった時点で、庁舎構内の組合活動の便宜供与はいっさい行わない。その際、スト対策本部の非組合員を動員して監視、写真撮影、録音などにあたらせてよいものとする。

 今後、このような集会は労働組合が自己の負担及び利益において開催するものとする。庁舎管理権の及ばない、公園や集会施設の開催も監視の対象としつつも中止命令まではしないが、三割動員やスト集会の場合は職場復帰命令をしてもよいだろう。道路専用許可をとったうえでの街宣デモ行進は、他の市民団体、政治団体と同じ条件なので当局は関与しない。

 

6-2 新方針の根拠

 

 2割動員集会については、演説者について地公労法111項の後段違反(「そそのかし」「あおり」)

 3割動員集会については参加者全員が、地公労法111項が禁止する争議行為、演説者については111項後段違反。地公法291号、3号、32条、33条、3割動員については292号、35条適条の服務規律違反。

 庁内管理規程第五条9号、10号、11号、13号

1)違法行為 当局は3割動員を争議行為として認定している。たぶん、佐教組事件.最判昭46.3.23刑集2521103.3.4割休暇闘争を争議行為としているためと推定している。これは地公労法111項の前段の違法行為である。

 しかし、同条項後段の違法行為でもある。争議行為として認定していない2割動員集会を含め、地公労法111項後段に違反する「唆し」「あおり」そのものであり、ストライキに向けて士気を昂揚、鼓舞し、組合員の意思統一を図るべくなされるものであるから、国の官庁と同じく、組合がストライキを配置し、闘争態勢をとった時点で、庁舎構内の組合活動の便宜供与はいっさいやらないのが筋。許可すれば当局が違法行為を助長したことになるからである。これは公物たる庁舎の存立を維持し公務の円滑な遂行を図るため、その庁舎につき合理的・合目的的な秩序を定立し、公務員その他の者に対してこれに服することを求めうべく、その物的施設を許諾された目的外使用を規制する権限(庁舎管理権)にもとづいて、端的に地公労法1111項後段違反の行為がなされるおそれのある行為を不許可、中止・解散・退去命令を行う。

2)地方自治法238条の47項の行政財産の目的外使用により不許可が妥当な事案。

3)建造物侵入罪

 支所集会には他の事業所の水道局の組合役員、組合員、下水道局の組合員も動員されるが、このうち演説や鯨波の音頭取りをする組合役員については地公労法111項後段の違反が明白であるから、建造物侵入罪や不退去罪を成立させるよう、管理者の管理意思を明確にし、中止命令、監視を行う。

 名古屋中郵判決の判断枠組により犯罪は成立すると考える。全逓名古屋中郵(第二)事件・最二小判昭53.3.3刑集32297香城敏麿判解は、名古屋中郵事件大法廷判決を次のように要約した。

(イ)公労法一七条一項違反の争議行為が罰則の構成要件にあたる場合には、労組法一条二項の適用はなく、他の特段の違法性阻却理由がない限り、刑事法上これを違法とすべきである。

(ロ)但し、右の争議行為が単なる労務不提供のような不作為を内容とするものであって、公労法一七条一項が存在しなければ正当な争議行為として処罰を受けないようなものである場合には、その単純参加者に限り、当該罰則による処罰を阻却される。

(ハ)これに対し、公労法一七条違反の争議行為にあたらず、これに付随して行われた犯罪構成要件該当行為の場合には、その行為が同条項違反の争議行為に際して行われたものである事実を含めて、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきか否かを考察してその違法性阻却事由の有無を判断しなければならない。水道局は地公労法111項だが公労法171項と別異に解釈する理由はない。

 決起集会のため庁舎構内に勝手に侵入してくる組合役員について3割動員は(イ)と(ハ)に該当し、2割動員は(ハ)に該当する。業務上もしくは支所所轄の用務で庁舎構内に入所したものではなく地公労法111項違反行為という違法行為目的のためであるから、違法性が強く推定され、違法性は阻却されないと考える。刑事事件とせずとも犯罪構成要件該当行為にするため管理意思を明確にすることが肝要。ただし、都庁構内ふれあいモールの集会は敷地内だが、外部の者が自由に立ち入れる公開空地のため判断を留保する。

 

6-3新規則違反 

 

1 職員は、許可なく、局所施設内で、業務外の集会、演説、放送、示威行為又はこれらに類する行為を行ってはならない。

2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない

4 職員は、勤務時間中に又は局所施設内で上司が認める業務外の徽章、胸章、腕章等を着用してはならない(解釈としては、ゼッケン、鉢巻、プレート、ワッペン、バッジ、政治的文言等のプリントされたTシャツの着用を含める)

5 職員は、庁舎、局施設構内において、許可なく業務外の目的で車両・旗・幟・拡声器・プラカード・横断幕・立看板・テントその他危険物を持込んだり、設営してはならない。又、許可なく業務外の目的で、泊まり込み、座り込み、通行規制、練り歩き、集団行進をしてはならない。

6 職員は、庁舎、局施設のその秩序維持等について庁舎管理規程に基づく庁舎管理者の指示に従わなければならない。

7 職員は、同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をしてはならない。また、職員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし若しくはあおってはならない。

 

6-5 処分

 

 中止・解散・退去命令に従わず、登壇して演説した者、鯨波の音頭をとつた者は、ストライキが決行され場合、「唆し」「あおり」を行った者として、懲戒処分事由とする。監視、写真撮影等を行う。刑事処分については検討課題とし、さしあたり管理意思を明確にして、犯罪を成立させることが肝要と考える。

6-6 取締の根拠となる判例

 

1-525及び55の判例に加えて以下の判例

 

(1)無許可職場集会の解散命令は不当労働行為を構成しない

 

  • 新宿郵便局救済命令取消請求事件・最判昭581220判時1102140東京高判昭55430判時966◯東京地判昭47610労民233387

 郵政時代の郵便局は公法上の勤務関係であり、この点は水道局も同じなので先例とみなしてよい。昭和四〇年五月一〇日新宿郵便局集配課休憩室において、同年六月七日及び同月一一日同局四階年賀区分室付近において、無許可で開かれた全逓新宿支部の職場集会に対し、同局次長らの行った解散命令等が不当労働行為を構成しない。

 

控訴審判決から抜粋(上告審は棄却)

〇五月一〇日の新宿支部の集配休憩室における職場集会

 昭和四〇年五月一〇日午後〇時三五分ごろから、集配課休憩室において、休憩時間中の組合員約七、八十名が職場集会を開いたこと、この集会は、休憩室利用について郵便局管理者の許可を得ていなかったので、同集会場にY新宿郵便局次長、F庶務課長、I集配課長らが赴き、再三携帯マイク又は大声で解散するよう通告したこと、この集会は午後一時ごろまで続行された‥‥

1 携帯マイクを使って解散するよう通告したのはY次長であり、それは、FI両課長がこの集会は許可していないから解散するようにと命じたのに対し、「休憩室で休憩中の者が何をしようと自由ではないか。」などと言って取り囲み、集会を中断して集団抗議を行っていたからであること。

2 郵政省就業規則及びその運用通達は、国有財産の使用に関する取扱いにつき、「組合から組合事務室以外の庁舎の一時的な使用を申し出たときは、庁舎使用許可願を提出させ、業務に支障のない限り、必要最小限度において認めてさしつかえないこと。」と定めており、新宿郵便局においても、休憩室の使用を含めて、このとおり行われてきたところ、昭和三九年一二月ごろから、新宿支部は、休憩室については自由に使ってよい室であるとして、庁舎使用許可願を提出しないで集会するようになり、右五月一〇日の集会も同様許可願の提出がなかつたものであるが、同支部のかかる方針については、許可願の提出を命ずる当局との間に、しばしば対立が見られたこと。

 思うに、企業施設は、本来企業活動を行うために管理運営されるべきものであり、この点において、企業主体が国のような行政主体である場合と、また私人である場合とで異なるものではない。そして、企業主体は、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設の使用については許可を受けなければならない旨を一般的に定め、又は具体的に指示命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示命令を発し、又は所定の手続に従い制裁として懲戒処分を行うことができるものと解するのが相当である。

 ところで、企業に雇用されている労働者は、企業の所有し管理する物的施設の利用をあらかじめ許容されている場合が少なくない。しかしながら、この許容が、特段の合意があるのでない限り、雇用契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において(休憩室、食堂等にあっては、休養をし食事をする等その設置の趣旨に従っ
た範囲において)、かつ、定められた企業秩序に服する態様において利用するという限度にとどまるものであることは、事理に照らして当然であり、したがつて、当該労働者に対し右の範囲を超え又は右と異なる態様においてそれを利用し得る権限を付与するものということはできない。また、労働組合が当然に当該企業の物的施設を利用する権利を保障されていると解すべき理由は何ら存しないから、労働組合又はその組合員であるからといつて、使用者の許諾なしに右物的施設を利用する権限を持っているということはできない。もっとも、当該企業に雇用される労働者のみをもつて組織されるいわゆる企業内組合の場合にあっては、当該企業の物的施設内をその活動の主要な場とすることが極めて便宜であるのが実情であるから、その活動につき右物的施設を利用する必要性の大きいことは否定し得ないところではあるが、利用の必要性が大きいことの故に、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために当然に利用し得る権限を有し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を当然に受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない。したがつて、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理運営する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動に当たらない。

 以上については、最高裁判所昭和五四年一〇月三〇日第三小法廷判決(註-国労札幌地本ビラ貼り事件)がほぼ同旨の判断を示すところであるが、本件においては、特に、被控訴人が休憩室を組合の職場集会のため使用するにつき、庁舎管理権者の許可を受けなければならないかどうかが争点となっている。‥‥休憩室が職員の自由使用にゆだねられているといつても、それは、休憩時間における休養等その設置の趣旨に添う通常の休憩の態様において使用する場合に限られるものである。本件五月一〇日職場集会のように、明らかに他の目的をもつて集配課休憩室を使用することは、休養のための休憩室の自由使用とは著しくその態様を異にし、集会を行うこと自体休憩室設置の趣旨には到底添い難く、したがつて、一般の庁舎の目的外使用の場合と全く同様に、許可願を提出して承認を受けた上でなければ、該集会のために休憩室を使用することはできないものというほかはない。

 ‥‥右職場集会は正当な組合活動に当たらないものというべきであり‥‥五月一〇日職場集会に対する解散通告は、不当労働行為を構成するものではない

 

〇 六月七日・一一日の年賀区分室の各職場集会に対する監視について

 昭和四〇年六月七日午後五時ごろから、四階年賀区分室付近において、組合員約八〇名が職場集会を開いたが、この集会は、年賀区分室利用について郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、午後五時一五分ごろ同集会場にF庶務課長及びI労務担当主事らが赴き解散するよう通告したけれども、この集会は午後五時四五分ごろまで続行されたこと、その際、福島庶務課長らは、組合員が解散するか、勤務時間中の者がいないかを見極めるため同集会場にとどまつたこと、次いで、同月一一日正午ごろから、四階年賀区分室付近において、被控訴人組合員約一二〇名が組合掲示物撤去に対する抗議集会を開いたが、この集会は、年賀区分室利用について郵便局管理者の許可を得ていなかつたので、午後〇時二〇分ごろ同集会場にF庶務課長らが赴き解散するよう通告したけれども、この集会は午後〇時五五分ごろまで続行されたこと、その際、F庶務課長らは、組合員が解散するか、勤務時間中の者がいないかを見極めるため同集会場にとどまった‥‥

 1 右各集会は、いずれも庁舎使用許可願の提出がなかつたものであり、また、右各集会現場においてF庶務課長とともに組合員が解散するかどうか等を見極めていたI労務担当主事は、集会の模様(開始・終了の時刻、解散命令を発したか・これに応じたか等)のメモを取っていたこと。

2 右各集会が開かれた四階年賀区分室付近という所は、会議室と呼ばれており、年賀郵便を区分するために年末年始にかけて使われるのが本来の目的であり、その時期を除いては、職員が平常執務する場所ではなく、いわば予備室的なものであること。

‥‥これを組合集会のために使用することは、年賀区分室設置の本来の趣旨目的とは遠く隔るものであり‥‥休憩室の場合と同様に、平常は使われていない年賀区分室付近といえども、許可願を提出して承認を受けた上でなければ、組合集会のためにこれを使用することはできないものというべきである。

 ‥‥許可願を提出しないで開いた四階年賀区分室付近における右各集会は、正当な組合活動に当たるものではなく、したがつて、F庶務課長らが各集会現場に赴き解散するよう通告するとともに、現場にとどまって組合員が解散するかどうか等を見極めていたことは、組合集会を不当に妨害し監視したこととはなり得ない。‥‥解散通告の指示命令に従わないことは、懲戒事由にも該当するのであるから、これを現認したF庶務課長らは上司に報告する義務があり、したがつて、I労務担当主事がその模様(開始・終了の時刻、解散命令を発したか・これに応じたか等)をメモに録取することは、正当な職務の遂行であり、何ら組合集会に対する不当な妨害・監視となるものでもない。‥‥本件六月七日・一一日‥におけるF庶務課長らの行為は、不当労働行為を構成するものではない。

 

上告審(第三小法廷)棄却

 労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権利を侵し、企業秩序を乱すものであつて、正当な組合活動に当たらず、使用者においてその中止、原状回復等必要な指示、命令を発することができると解すべきことは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和五四年一〇月三〇日第三小法廷判決・民集三三巻六号六四七頁)、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。そして、原審の適法に確定した事実関係の下においては、昭和四〇年五月一〇日新宿郵便局集配課休憩室において、同年六月七日及び同月一一日同局四階年賀区分室付近において、それぞれ無許可で開かれた上告人組合新宿支部の職場集会に対し、同局次長らの行った解散命令等が不当労働行為を構成しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。

 

 

(2)組合集会の食堂使用及び屋外集会の午後六時以前の不許可は不当労働行為を構成しない

 

 

  • 日本チバガイギー事件・最判平1119労判53317東京高判昭601224労民366785●東京地判昭60425労民362237

 救済命令取消訴訟。昭和5375中労委命令、「会社が組合に対し食堂使用を制限し、かつ、屋外での集会も認めようとしなかったことは、業務上ないし施設管理上の支障に藉口して、組合集会の開催を困難にし、その活動を制限しようとしたものと認めざるをえないのであって、これを労働組合法第73号に該当する不当労働行為とした初審判断は相当」とする法益権衡論的な判断について、一審は違法として取消した。これは指導判例である国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54.10.30に従って特段の事情に調整的アプローチを排除する純法理的な判断である。二審、上告審も棄却。最高裁第一小法廷は、本件食堂の使用制限及び屋外集会開催の拒否が施設管理権を濫用したものとはいえず、不当労働行為に当たらないとした原審の判断は、正当として是認と判示。

 当時の日本チバガイギーは、大阪に本社、宝塚市に医薬品本部・工場等を置く、総合化学会社で、スイス・バーゼルを本拠とするチバガイギーリミテッド(現在のノバルティスファーマ)の子会社である。昭和39年に全従業員の親睦団体(経費の9割は会社負担)である従業員会が組織され、賃上げ等は会社と従業員会との話し合いで決定されていた。化学産業労働組合同盟日本チバガイギー労働組合(のちに総評合化化同総連・化学一般労連日本チバガイギー支部)は昭和49年に結成、公然化した。組合員は救済申立時300人いたが、昭和53年中労委結審時には17名の少数である。同社には従業員会(親睦団体)から発展したチバ労組も結成され約千人の組合員がいる。本件は、化同日本チバガイギー労組が、朝礼での部長発言、就業時間前構内でのビラ配りに対する警告と、食堂使用および屋外集会開催の不許可、夏季一時金交渉の「さし違え条件」、掲示板貸与に際しての掲示物届出などについて、大阪地労委に救済を申立たものであるが、ここでは、食堂使用および屋外集会開催の不許可が不当労働行為にあたるか。食堂使用および屋外集会開催の不許可が不当労働行為に該るかという争点のみに絞って取り上げる。

 

一審の判断抜粋

(一) 昭和四九年四月当時宝塚市には原告の医薬生産部である工場部門とそれ以外の本部部門があつた。そして主たる建物は五三号館とこれに隣接する六三号館であり、六三号館の一階には本件食堂があって、二階には本部関係の生産管理の事務部門、三階には医薬事業部、マーケッティング部、四階には研修室、人事労政部がそれぞれ入っており、就業時間は工場部門では午前八時から午後五時まで、その他は午前九時から午後五時四五分までであつた。また当時、従来五三号館に入っていた部署が六三号館へ移転中であつたことから両館の会議室や応接室の使用が困難な状況にあり、他方本件食堂は昼食を出すだけであつたことから、その他の時間にはプライバシーを保つ必要のない商談や会議等に使用されていた。

(二) 参加人は同年四月九日原告との間で第一回の団体交渉を行ったが、その団体交渉の経過報告を組合員に行う必要があつたことから、右交渉の終了頃、原告に対し翌一〇日午後五時から報告集会を行うので本件食堂を貸与して欲しい旨申入れた。参加人は、工場部門の工場支部については就業時間が終了する午後五時から、また本部部門の本部支部については就業時間終了後の午後五時四五分から報告集会を開催することに決定した。参加人が工場支部と本部支部とを分けて工場部門の組合員に対し先に報告を行うこととしたのは、公然化して間がなく午後五時四五分まで組合員の帰宅を引き留め待機させることに不安があつたこと、遠方から通勤している組合員が当時数十名おり、その者達のためにも早い時間に終了させたいと考えたためであつた。

 ところで右申出に対し原告は工場部門の終業時刻は午後五時であるが、本部部門の終業時刻は午後五時四五分であるから、それまでは本部への来客があり本件食堂を使用することもあり得、また集会においてマイク等が使用されて喧噪状態となった場合には就業中の従業員の執務に影響を与えて業務上の支障が生ずるおそれもあると判断し、工場及び本部の終業後である午後六時からの使用を認める旨の回答をした。これに対し参加人は再度本件食堂の使用許可を求めるとともに、もし本件食堂の使用ができないのであれば、屋外での報告集会の開催を認めて欲しい旨原告に申し入れた。しかし原告はこれに対しても、屋外での集会も本部で就業中の従業員の執務に影響するとの理由から屋外集会の開催も許可しなかつた。

(三) 工場支部の組合員約七〇名は、同日午後五時から予定どおり本件食堂を使用して報告集会を開始した。ところで同日午後五時すぎ頃本部写真機械部のFが本件食堂で業者との商談をしようと本件食堂へ行ったところ、右のとおり参加人の集会のため使用できる状態にないため、労働組合関係を担当する教育労政室に抗議した。そこで原告ははじめて参加人が無許可で集会を開催したことを知り、右教育労政室のIが同日午後五時二〇分頃本件食堂へ行き、午後六時からの集会許可であるとして集会を中止するようFへ申し入れて同人と押問答となったが、その間に午後六時となったのでIはその場を引き上げ、その後集会は午後七時頃まで行われた。

 なお参加人が工場支部の報告集会を一〇日の午後五時から行う旨の通知は原告からの回答がなされる前になされ参加人が午後六時に開始時間を遅らせる旨の連絡は可能な状況であつた。

 また、従来原告は従業員が就業時間中に職場集会を開くことを許可したことも、また本件食堂の使用を許可したこともあつた。

 2 ところで参加人が許可を求めた本件食堂の使用にしろ屋外集会にせよいずれも原告の物的施設の利用を伴うものであつて、これら施設は本来企業主体たる原告の職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように物的施設を管理・利用しうる権限に基づいてその利用を原告の許可にかからしめる等して管理運営されているものである。したがつて、参加人において右施設を利用する必要性が大きいからといつて原告の許可なく参加人が当然に右施設を利用しうるものではないというべきである。そうであれば、原告が参加人の本件食堂の使用の申出に対し許可しないことが権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、これを許可しないことをもつて不当な使用制限とはいえないものというべきである。

 ‥‥本件食堂の使用や屋外集会を参加人の希望どおり許可したことによる現実の業務上の支障は必ずしも大きくなかつたものと推認されなくもないが、他方、工場部門とは別に本部の従業員の就業時間は午後五時四五分までであつてその間に集会が行われるとすれば就業中の従業員が集会に気をとられ、職務に専念することができないなどの事態も予想し得ないわけではなく、また当時本来の会議室等の使用が困難であつたことから、本部従業員の就業時間中は本件食堂を当座の会議室等として使用していたのであるから、原告において本部就業時間中の本件食堂の使用を許可しないと考えたことにも合理性があること、現に使用できなかつた従業員もでていること、しかも原告は全く許可しないというわけではなく午後六時からの使用は許可していること、そして参加人が集会の開催を午後五時に固執した理由は専ら組合員の帰宅時間の遅れを妨ぐといった自らの結束力の弱さからくる事由であり、これに固執する合理性に乏しいこと、また(註-就業時間内の使用を認めたという)従業員会は親睦団体で、原告の組織に近いものであつて、参加人と同一に扱うこともできないことなどの事情もあり、これらの事情を比較考量すると、原告が参加人からの午後五時からの本件食堂の使用申出あるいは屋外集会を許可しなかつたことについて、原告の権利の濫用であると認められるような特段の事情があつたものとはいえず、右の事情に原告が一般的に参加人に対し好意的でなかつたことも併せ検討しても、これをもつて未だ右にいう特段の事情があるものと認めるに足りず、他に右の権利の濫用があるものと認めるに足りる証拠はなく、結局、原告の右許可しなかつた行為は不当ということはできず、参加人に対する支配介入行為とはいえないものというべきである。

 したがつて、‥‥不当労働行為であるとした中労委の判断には誤りがあり、違法であって取消しを免れない。

 

 

(3)食堂の無許可使用に対し組合員の入構を阻止し中止命令、警告を発することは不当労働行為を構成しない

 

  • 池上通信機事件・最判昭63719判時1293173東京高判昭59830労民・3534459●東京地判昭58928労民3534463

 本件は、神奈川地労委昭56727命令「組合の使用許可願に対しても具体的な業務上の障害理由等を付すことなく、また付す必要もないとして組合の食堂利用を全く認めないのは、組合の存在を嫌悪し、施設管理権の名の下に意図的になされた組合に対する支配介入行為であり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である」の救済命令取消訴訟で、一審 救済命令取消し、二審、上告審棄却。一審、二審とも企業秩序論の先例(国労札幌地本判決)に依拠して不当労働行為に当たらないと判断し、最高裁も是認した。

一審(抜粋、一部要約)      

 従業員約一三〇〇名の株式会社であり、組合は昭和四八年一一月九日会社の従業員中約三七〇名をもって結成された労働組合であって、現在の組合員数は約八五名である。

4 組合は会社との団体交渉後、会議室や食堂の利用に関するビラを配布したが、会社は合意がないとして使用を認めなかった。

5 組合は池上工場食堂で無断集会を開こうとし、会社側が阻止して小競り合いとなった。協議も結論が出ずに終了した。

6 組合は川崎工場の食堂で会社の制止を排除して集会を開催し、音量調整などを行ったため、会社は警告書を提出した。

9 組合は春闘討議や大会のため食堂使用を申請したが、会社は外部会場の利用を提案し、費用を負担した。

10 組合は外部会場で大会を開催した。

11 その後も組合は会社の許可なく食堂を繰り返し使用し、小競り合いや傷害事件も発生した。食堂無断使用は昭和49年以降多数回に及んだ。

12 昭和54年以降も組合は会社施設の無断使用を継続し、会社の阻止で場所を移して集会を行うこともあった。

 組合は同年四月一一日午後五時三〇分ころ会社から食堂使用許可の申入れを拒否されたにも拘らず川崎工場食堂において川崎工場及び池上工場所属の組合員の合同集会を開催しようとしたが、会社が工場通用口のアコーデオンドア及び工場内通路にある鉄製扉を通行人が一人程度通行できる程度に閉じたうえ職制を配置して組合員の食堂立入りを阻止したためもみ合いとなり、その際右鉄製扉がはずれたりして危険な状態となったため、結局組合はタイムレコーダー前付近において集会を行って散会した。同月一九日は小競り合いはなかったが、二七日にも同様のことがあった。 

 なお、組合の副執行委員長であり、会社の川崎工場に勤務するОは、同日午後五時五分ころ前記組合合同集会に出席するため川崎工場に入ろうとしたところ、М総務課長らから入構を拒否されたにも拘らずこれを無視して工場内に立入ったため、会社は同年五月七日付で右Оに対し「川崎工場内従業員食堂における組合集会に参加したことは服務規律違反であるから今後規律を乱すことのないよう警告する」旨の文書を交付した。

13 これに対し会社は会社の使用許可を得ることなく組合もしくは組合員が組合活動のため会社の施設を使用することは違法であるとし、職制による阻止、説得、組合に対する事後の警告等を行って組合員らによる無断使用を中止させるべく努力を重ねた。

 一般に企業に雇用されている労働者は企業施設内に設置されている機械、設備等を使用して労務を提供する義務を負っていることから、企業施設内に立入りこれら機械、設備等を使用することができることはいうまでもないが、さらに進んで生産設備以外の会社の物的施設の使用をもあらかじめ許容されているとみられる場合が少なくない。しかしながら、右の許容は、特段の合意があるのでない限り、雇用契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、かつ、定められた企業秩序に服する態様において使用するという限度にとどまるものであり、労働者に対し右の範囲を超え右と異なる態様においてそれを使用し得る権原を付与するものということはできない。また、労働組合が当然に企業の物的施設を使用する権利を保障されていると解すべき理由はないのであるから、労働組合又は組合員であるからといって使用者の許諾なしに右物的施設を使用する権原をもっているということはできない。もっとも企業に雇用される労働者のみをもって組織されるいわゆる企業内組合の場合にあっては、当該企業の物的施設内をその活動の主要な場とすることが極めて便宜であるから、その活動につき右物的施設を使用すべき必要性の大きいことは否定し得ないところではあるが、使用の必要性が大きいことの故に、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために当然に使用し得る権原を有し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の使用を当然に受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない。したがって、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有、管理する物的施設を使用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその使用を許さないことが当該施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を所有、管理する使用者の権原を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動に当らないというべきである(昭和五四年一〇月三〇日最高裁第三小法廷判決参照 註-国労札幌地本ビラ貼り事件)。

 ‥‥会社の川崎工場食堂は‥‥あくまで右施設本来の目的である食事のための使用であって、右目的以外の使用、例えば組合大会の会場として使用することは予め許容された範囲から逸脱するものであるから組合ないしは組合員が組合大会その他組合活動の場として工場内食堂を使用したいときは、予め右食堂の所有者であり且つ管理者である会社の許諾を得なければならないものといわなければならない。しかるに組合は、昭和四八年一一月、組合を結成した当初から組合活動のため会社施設を使用できるのは組合の権利であるとの考えに立ち、会社の許可を得ずに川崎工場食堂で集会を開き会社から警告を受けると会社に対し食堂使用許可の申入れはしたものの右の前提を変えず、会社が年四回程度の組合大会にのみ食堂使用を許すとの案を出してもこれを全く無視し、あまつさえ食堂使用問題を会社との協議の場に持ち出すこともせず会社の阻止を実力で排除して無許可で食堂を組合活動のため使用し続けてきたものであって、かかる状況の下にあっては、会社が食堂使用の方法等について組合と協議が成立していないことを理由に組合からの食堂使用許可の申入れを拒否しても権利の濫用ということはできない。

 もっとも企業内組合であり、組合員が会社の川崎工場と池上工場等に分かれ組合大会その他の組合活動には川崎工場内の食堂を使用することが種々の面で便宜であることは肯首できるけれども、それが故に組合が川崎工場内食堂を当然に使用できる権利を取得するものでないことは前話説示のとおりであり、また会社としても就労時間外に従業員をして食堂を食事の目的以外に使用させることによって事業遂行上格別の支障が生ずるとは云えず、現に会社は従業員がつくっている卓球部、写真部等にそのサークル活動として川崎工場内食堂の使用を許していることは会社において自認するところであるが、かかる事情が存するからといって、会社は組合に対し組合活動のために右食堂を使用させなければならない義務を負うものと解することはできない。

 ‥会社による組合からの食堂使用許可申入れの拒否が権利濫用であると認められない以上組合の食堂使用許可要求の拒絶が組合に対する支配介入-不当労働行為-に該らないことは明らかであり、会社が組合による会社食堂の無許可使用に対し組合員の入構を阻止し中止命令を発し、無断使用を強行した組合もしくは組合責任者に対し再発防止のためその責任追及及び処分の警告を発することは、職場秩序を維持するために必要な施設所有権、管理権の正当な行使であって何らの不当性もなく勿論不当労働行為にも該当しないことは多言を要しないところであり、また会社が、従業員のОが昭和五四年四月二七日の就労時間外に会社の制止を無視して川崎工場構内に立入り、同食堂で行われていた組合による無許可集会に参加したことに対し服務規律違反である旨警告したことも正当な行為であって組合に対し何らの不当労働行為を構成するものではない。

 

 二審 棄却 

 本来企業施設は企業がその企業目的を達成するためのものであつて、労働組合又は組合員であるからといつて、使用者の許諾なしに当然に企業施設を利用する権限を有するものではないし、使用者において労働組合又は組合員が組合活動のために企業施設を使用するのを受忍すべき義務を負うというものではないことはいうまでもなく、このことは、当該組合がいわゆる企業内組合であって、労働組合又は組合員において企業施設を組合活動のために使用する必要性がいかに大であっても、いささかも変わるところがない。このように解すべきことは、労働組合法が使用者の労働組合に対する経費援助等を不当労働行為として禁止し、ただ最小限の広さの事務所の供与等を例外的に許容しているに過ぎない(同法第七条第三号)ところの法の趣旨に適合する当然のことである。労働組合又は組合員による企業施設の利用関係は、この点において、企業が労働安全衛生法第七〇条の規定に基づいて労働者の体育活動、レクリエーシヨンその他の活動のために企業施設の使用を認める場合とは、基本的に性格を異にするものといわなければならない。

 そして、使用者は、企業目的に適合するように従業員の企業施設の利用を職場規律として確立する一方、企業目的の達成に支障を生じさせ秩序を乱す従業員の企業施設の使用行為を禁止又は制限しあるいは違反者を就業規則等違反を理由として懲戒処分に付するなどにより、企業目的にそわない施設使用を企業秩序違背として規制し排除することができるのはいうまでもないところである。

‥‥組合は、その結成以来一貫して、組合活動のために会社施設を自由に使用できるのは組合の当然の権利であるとの基本的な前提に立ち、これを会社構内における組合活動の自由と称して会社にその承認を求め続け、会社の承諾を得ないままに会社の従業員食堂を組合員集会等のために多数回にわたって使用し続け、この間、会社の許諾を得ることなく組合又は組合員が組合活動のために会社施設を使用するのは違法であり、先ず団体交渉等を通じて組合活動のための会社施設の利用について基本的な合意を締結するのが先決であるとして組合又は組合員による従業員食堂の無許諾使用を阻止しようとした会社と再三にわたって衝突を繰り返すなどしてきたものである。また、先に認定したような経緯に鑑みると‥‥組合が右のような不当な見解に固執して従業員食堂の使用につき会社と真摯に協議を尽くそうとせず、かえって会社の許諾を得ないままに会社の阻止を実力で排除してこれを使用し続けるという挙にでるという態度を採り続けたものである以上、会社としても、団体交渉等を通じて組合活動のための会社施設の利用について基本的な合意を締結するのが先決であるとして、組合がその後個別的にした従業員食堂の使用申入れに対して許諾を与えなかつたのも、やむを得ない措置というべきであって、これを権利の濫用ということはできないし、会社が組合員の入構を阻止したり、組合員集会の中止命令を発するなどの措置を採って、会社の許諾を得ないまま従業員食堂において開催されようとする組合員集会等を中止させようとし、あるいは組合が無許諾で従業員食堂を組合活動のために使用した場合に組合又はその責任者の責任を追及し処分の警告を発するなどしたのは、先にみたようないわゆる施設管理権の正当な行使として十分是認することができるところであって、これら会社の採った一連の行動が組合に対する不当労働行為に該当するものということはできない。

 

 上告審(第三小法廷)棄却

 「原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ」る。

 伊藤正己判事の補足意見は、原判決が「特段の事情」があるかどうか硬直した態度で厳格すぎると言うけれども、指導判例国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判54.10.30の判断枠組より逸脱し、判例法理を変質させようとする左派の少数意見にすぎず、最高裁多数派が容認しないものである。伊藤の意見は法益権衡論とされるが、調整的アブローチをとるべきとして「企業内組合にあっては当該企業の物的施設を利用する必要性が大きい実情を加味し、労働組合側の当該施設を利用する目的(とくにその必要性、代替性、緊急性)、利用の時間、方法、利用者の範囲、労働組合によって当該施設が利用された場合における使用者側の業務上の支障の有無、程度等諸般の事情を総合考慮して判断されるべき」とするが、先例は「特段の事情」について調整的アプローチを排除しており、国労札幌地本判決が否定した受忍義務説の法益調整論に接近することとなり非論理的である。 

 

 

(4)福岡中央郵便局長が、春闘総決起集会のため構内に立入る約300名の入構を阻止する措置をとったことは適法かつ正当である

 

  • 公務執行妨害事件・福岡地判昭50226刑裁月報72116 

被告人 全逓福岡中央支部書記長(事件当時)のち支部長 懲役六月 執行猶予二年

 福岡中央郵便局長が、春闘に際し全逓福岡地区本部青年婦人部のデモ隊300名の解散集会が中央郵便局中庭で行われることを予期し、構内に立ち入ることを阻止する措置をとったことは適法で正当としたうえで、デモ隊先頭の宣伝車運転手に向かって入構禁止を叫んだ郵便局次長への暴行であるの第一の犯行については公務執行妨害罪を認めるが、第二の犯行、組合員2名の年休申請不承認をめぐる集団抗議の解散退去命令の発付はその権限を濫用してなされ無効なので公務執行妨害罪の構成要素を欠き、暴行罪の成立を認める。

(第一の犯行に至る経過)

 昭和四四年四月一〇日夕方、全逓福岡地区本部青年婦人部が春闘の一環として福岡市荒戸町の福岡地方簡易保険局前において春斗総決起集会を開き、引き続いて天神四丁目の福岡中央郵便局まで集団示威行進を行うこととなった。これに対し、福岡中央郵便局長Nは、参加者らが許可なく郵便局構内に集団で立入り集会等を行うことを予期し、庁舎管理権に基いてこれを防止する措置をとることとし、同日、「庁舎および敷地内の集会やデモは、許可しておりませんので、直ちに、解散して退去して下さい。」と記載した立看板を郵便局通用門付近に置き、また、郵便局次長Kはじめ各課長らに示威行進の参加者らの同郵便局構内への立入りの制止、現に立入って集会など開いた者への解散退去命令の発付などを指示し、具体的状況に応じて必要な措置をとる権限を与えた。組合側は、同日午後五時半ごろから全逓組合員ら三〇〇名位が福岡地方簡易保険局前に集って予定どおり集会を行い、引き続いて集団示威行進に移ったが、立入りの制止等の措置にあたることとなった郵便局次長Kら同郵便局管理職員二〇数名は、情報を受けて警戒体制に入り、同日午後七時過ぎ、4.8mの通用門の内側に境界柵と平行の一列横隊を作って立ち並び、同所の通行を一時的に遮断する措置をとったが、開閉する引戸は開いたままだった。

 被告人は、仲間ら二〇数名とともに通用門に駈けつけ、K郵便局次長の作る横隊の中央部にくさびを打ち込むような形でこれを右中庭奥の方へ押し始め、このため管理職側が後退して二つに分断されたのち、その内側に二列縦隊を作ってこれと相対峙し、管理職員が通用門に近づくのを阻止するため半円形の逆ピケッティングを張った。

 (第一の犯行)

 午後七時一五分過ぎごろ、全逓組合員ら三〇〇名位の隊列がニュースカーを先頭にして右通用門にやって来て、ニュースカーが通用門から中央郵便局中庭にその車体を乗り入れるや示威行進参加者らの同郵便局構内への立入りの制止、現に立入った者に対する退去命令の発付等の職務に従事していたK郵便局次長が組合側の逆ピケッティングの間を走り抜けてニュースカーの直前に立ち、両手を広げてその進行を制止する姿勢をとるとともに大声で入構を禁止する旨運転手に向って叫ぶに至ったため、被告人は、次長Kに対し、右斜め側面からその体に強く一回体当りし、よろめいたものの立ち直って再び前進行を制止しようとした同人の右側面から再度その体に一回体当りする暴行を加え、もって同人の職務の執行を妨害した。

(第二の犯行に至る経過)

 同年四月一九日、同郵便局第二集配課の全逓組合員KおよびIがかねてより申出ていた翌二〇日に年次有給休暇を取得したい旨の請求を同課主事から承認できない旨告げられ、同日午後三時ごろから第二集配課事務室において、Kらが主事に対し不承認の理由の説明を求め、これに同課課長代理Eと全逓福岡中央支部副支部長Yが加わって話合いをしているうち、直接の担当者でない同課課長代理Rが口を挟んで「やれないものはやれぬ」と言ったため、同室内にいた全逓組合員らが騒ぎ出し、Rを取り囲んで抗議などしはじめ、第一集配課の組合員らも入って来て、全逓組合員らが合計六〇名位同室内に集り、騒然とした雰囲気で包むに至った。管理者側は、N郵便局長が集団抗議が行われている旨の報告を受けて、K郵便局次長およびA庶務課長に対し、管理職員らを使い庁舎管理権を発動して事態の処理にあたるよう指示し、これにより同日午後三時二〇分ごろから同三時四〇分ごろにかけて右安部、Y保険課長、T第一郵便課長、右金Kら管理職員が次々と右第二集配課事務室に赴いた。

(第二の犯行)

 被告人は、同様に知らせを受けて同日午後三時二〇分過ぎごろ第二集配課事務室に至り、右A庶務課長ら管理職員四、五名が同室内にいる全逓組合員らに「解散」「室外に退去せよ」などと呼びかけているのを見るや、かねてより管理者らの強権的な事態処理を不快に思っていたこともあって、Aら管理職員を室外に追い出して組合員らの気を鎮め、組合側に有利に事態を収拾しようと決意するに至った。

 被告人は、同日午後三時半ごろ、Y保険課長に対し、室外に出ろという趣旨を申し向けたうえ、両手で胸、肩を突き、背後から右腕を掴み膝で同人尻や腰を蹴り、その腕を掴んで引きずり、背後に回って両脇に両手をまわして抱きかかえるなどの暴行を加えた。

 また、同室内において、第一郵便課長に対し、外に出ろという趣旨を申し向けながら、右手を同人の首に巻きつけ、あるいは同人の左手を掴むなどして、同人の身体を同室出入口方向に向い引っ張る暴行を加えた。

 また、Tを掴んでいた手を離してK次長に近づき、「次長、お前出れ」と申し向け、室外に追い出すため一〇メートル位移動しながら、両手で胸を突き、体当りするように押し、背後から抱きかかえるようにして押すなどの暴行を加えた。

(第一の事実について)

 弁護人は、福岡中央郵便局構内において解散集会を行うことは、正当かつ必要な組合活動であったのであるから、構内立入りを禁止したことは組合の団結権に対する侵害であり、公務執行妨害罪は成立しない旨主張する。

‥‥三〇〇名位の多数が‥‥デモ隊列のまま同郵便局中庭に入って集会をしようとしたものであり、一方、組合側で右解散集会を開くについて庁舎管理者に許可の申請すら行っていないこと、本件時刻は午後七時過ぎごろとはいえ、当時同郵便局内においては他の職員らによって速達業務その他の業務がなお行われていたこと、また同郵便局中庭は昼夜を問わず郵便物逓送用の自動車がひんぱんに出入りする場所であることなどが認められるから、同郵便局局長Nが庁舎管理権に基ずき右庁舎管理規程による全逓組合員らの構内立入り禁止の措置をとったことは、もとより適法かつ正当である。したがって、K次長がN局長の命を受けてした示威行進参加者らの構内立入りの制止等の行為が公務員の適法な職務執行であることはもはや議論の余地なく明らかであり、さらに被告人の第一の暴行行為が右職務の執行の妨害となることもいうまでもないから、本件において公務執行妨害罪の成立が認められるのは当然である。

(第二の各所為について、公務執行妨害の訴因に対し暴行の事実を認定した理由)

 本件は‥‥労働基準法三九条による年休の取得については使用者による承認という観念を容れる余地なく、当該労働者が時期を指定すれば使用者による適法な時季変更権の行使を解除条件として有効に休暇が成立する(最高裁判所昭和四八年三月二日第二小法廷判決、民事判例集二七巻二号一九一頁等参照)のであるから、‥‥誤った前提をとり‥‥不承認という違法な措置をとったこと、適法な時季変更権の行使があったか‥‥疑問が残る。‥第二集配課課長代理Rが組合員らの感情を逆撫でするような口を挟んだこと、組合員らの抗議などは自然発生的であって、計画的に仕組まれた争議行為、怠業などではないこと年休問題は労使間の団体交渉事項の一つとなりうるものにもかかわらず、本件当時、‥‥団体交渉に応じる見込みは事実上なかったこと‥‥表面的には庁舎管理規程に触れる事態にあったとしても、管理者側は、‥‥全逓組合員らに十分納得のできる説明をしたり、組合代表者らと直ちに話合いを行うなどの健全な労使間の常識に基ずく適切な処置をとるべき義務があったものと考えられ‥‥直ちに庁舎内におけるいわば警察取締的立場から庁舎管理権を発動して全逓組合員らに対し解散退去命令を発し、これを違法行為者としてその警戒、制止、現認等の措置に出たことは、‥‥庁舎管理権の濫用であって‥‥‥これを適法な職務執行ということができない‥‥‥Yらの職務の執行が不適法かつ無効であって‥‥本件においては刑法九五条一項に定める公務執行妨害罪の構成要素を欠き、同罪の成立は肯定できない‥‥もっとも、暴行罪の成立があるので、無罪の言渡をすることはしない。

 

(5)ストライキ前日の総決起集会の実践指導、挨拶、演説、頑張ろう三唱の音頭とりは懲戒処分事由となる

 

  • 郵政省下関局事件・山口地判昭60.3.19判タ566

停職処分F支部長

昭和49年スト前日の49日の行動について

 (事実)

 U管理課長、Мらは、昭和四九年四月九日昼ころ、支部が局の第二貯金課事務室において無許可で集会を開く旨聞知し、Uが原告Fを呼んで、便宜供与は打ち切られており、庁舎の使用は許可されていないので集会を実施しないよう注意したところ、同人はこれを聞き入れず、正午過ぎから約200名の組合員を前記事務所に集め、無届の春闘総決起集会を行なつた。そこで、U、Мが同所に赴いたところ、FらはUらに出て行くよう迫り、Uはこれに対し、解散命令を発するなどして反論した。零時二五分ころ原告FKを案内して現われ、マイクを持って、「皆さん、K地区委員長を紹介します。これから委員長の挨拶があります。」と春闘の最高指導責任者として中国地本から派遣されたKを紹介した。続いてKがマイクを取り春闘の意義並びに翌日のストライキに対する取組等の説明を始めたのでUが、「責任者は誰か。」と尋ねると、原告Fが、「責任者は当然私だ。組合員が職場集会を開くのがなぜ悪い。管理者出て行け。」等大声で言った。そこでUは解散命令書を読み上げ、原告Fに右命令書を差し出すと、同人はそれを受け取ってポケツトにしまい、「組合のやっている集会に解散命令を出すのは組合活動に対する介入である。あなたは組合活動を否定するのか。」と反論した。Uは、零時二七分ころ、メガホンにより、「職員の皆さん、本日の集会は認められていないので、直ちに解散しなさい。」と集会参加者全員に解散を呼び掛けたところ、原告FUの前に立っ
て、「あんたも言うべきことは言つたから直ぐ出てくれ。」、「ここで我々の集会を監視するのか、わしに暴力をふるわせる気か、わしは首を覚悟している。」、「処分はあとですればよい。直ぐ出てくれ。」と激しい口調で抗議し、零時五三分ころまで集会が続けられた。

 (評価)

 原告Fが支部長としてUの警告を無視し、昭和四九年春闘の最高指導責任者として派遣された中国地本のK出席のもとに積極的に集会を主宰して継続し、翌日のストライキ突入に向け組合員を激励し、団結を強め、志気を高めるものというべきであるから、あおり、そそのかしの指導行為に該当するといわざるを得ない。

 

 昭和5011272848時間スト前日退庁時のスト確認集会の解散命令

(事実)

 昭和五〇年一一月二六日午後五時六分ころ、局内レク広場で支部組合員約一五〇名が無届集会を行ない、原告Fは、組合員に対し、「今回のストライキは自宅待機方式であり、連絡をはっきりすること。皆と一緒に行動をしてもらいたい。」と述べた。一方、右集会を知ったTМT会計課長は原告Fのところへ赴き、Tが同人に対し、「集会は許可されていないので直ちに解散して下さい。」と解散命令を発したところ、これに対し原告Fは、「やかましいことを言わんでもすぐ終らーね。」と答えたため、Tは再び「すぐやめて下さい。」と声高に解散命令を繰り返したところ、原告Fは、「わかつた、わかつた。すぐやめます。」と言った。しかしながらМ書記長は翌日のストライキ実施方法の説明に入り、また、五時一三分ころT青年部長が音頭をとつて、「スト権奪還一〇〇パーセント貫徹団結ガンバロー」とシュプレヒコールを行ない、五時一三分ころ解散した。

(評価)

 原告Fの右挨拶は、単にストライキの実施方法を指示するに止まらず、ストライキ参加意思を強固にし、鼓舞するものであるから、ストライキをあおり、そそのかしたことに該当するものといわざるを得ない。

以下の非違行為省略

(総合的評価)

 原告Fは、ストライキ不参加者に対し参加を呼び掛け、また、説得し、決起集会を行なう旨挨拶し、シユプレヒコールの音頭をとったのであるから、公労法一七条一項後段に禁止する同盟罷業その他業務の正常な運営を阻害する行為をあおりそそのかして争議行為そのものの原動力となる指導的行為を行なつた者として問責されるを免れ得ないものというべきである。

 而して本件ストライキをあおり、そそのかして争議行為そのものの原動力となる指導的行為を行なつた原告Fは、国の経営する郵政事業に勤務する職員として、その官職の信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるような行為をしたものというべく、従って原告Fは、右各行為により国公法九八条一項、九九条に違反し、同法八二条一号、三号に該当するものといわなければならない。

(中略)

 本件のストライキは、公労法一七条一項前段の禁止する同盟罷業その他業務の正常な運営を阻害する行為である‥から、中央執行委員長の指令が違法な行為の指令であつたことは明白であるというべく、従って全逓の組合員としては法的にかかる指令に従う義務はなく、またこれに従うべきでもないから、本件ストライキが全国統一闘争として全逓組合の決議に基づき組合の意思として行なわれたものであるとしても、これに参加し、これを積極的に推進し、指導し、もしくは拠点指定を受けた局所において、具体的な実力行使を指示し、組合員を鼓舞した拠点局の支部長が違法行為者としての個人責任を免れるものではないというべく、ただ上部機関の指令に基づいたことにより、その違法行為の責任の程度に評価の軽重の差が生ずるにすぎない。

 

  • 熊本貯金局事件・熊本地判昭63.7.18、労判523

 

 H 減給六月間 俸給の月額一〇分の一

 I 減給五月間 俸給の月額一〇分の一

一部抜粋

 原告H関係

(1) ストライキの前日である昭和五〇年一一月二九日午後〇時三五分ころから局玄関前広場において、全逓組合員約五〇〇名が無許可集会を行った際、同原告は、局管理者の解散命令を無視してあいさつを行った後、「それでは解散する。スト権奪還の決意をこめて団結ガンバローを三唱する。」と述べ、シュプレヒコールの音頭をとり、同組合員らに唱和させた。

(2) 同原告は、昭和四九年四月一三日(四時間)、同五〇年一二月一日(八時間)違法なストライキに参加し、みだりに勤務を欠いた。

 原告I関係

(1) 昭和五〇年一一月二五日午後〇時一九分ころから、局第二貯金課事務室において、全逓組合員約六〇名が無許可集会を行った際、同原告は「二六日からのストライキは堂々と打抜く。」と述べた後、ストライキの実施日について周知させるとともに、ストライキ突入に際しては組合の指示に従うよう要求し、さらに、スト署名をしていない者については粘り強く説得する旨を述べた。

(2) 同原告は、昭和四九年四月一三日(四時間)、同五〇年一二月一日(八時間)違法なストライキに参加し、みだりに勤務を欠いた。

 

 昭和501130日から同年122日にかけて行われたスト前日午後030分庁舎玄関前の集会 解散命令が妨害された

〇昭和五〇年一一月二九日の玄関前の集会

 ア 支部は、本件ストライキ突入の前日である昭和五〇年一一月二九日(土曜日)午後〇時三〇分頃から、庁舎玄関前広場において、支部全体による総決起集会を行った。

 最初に原告I(副支部長)が開会のあいさつをし、つづいて原告Hが、スト権奪還闘争の状況、同月二六日以降の公労協の統一ストライキの一環として、支部は同月三〇日、一二月一日の二日間、四八時間のストライキに突入することを報告し、「全員自信をもって闘い抜こう。」と演説し、最後に同原告が「それでは解散する。最後にスト権奪還の決意をこめて、団結がんばろうを三唱したいと思います。御唱和をお願いします。」と言って、右手こぶしを三度ふり上げて、団結がんばろうを三唱し、全員がそれに唱和して拍手し、前同日午後〇時三八分集会は解散した。

イ K管理課長は、解散命令を発するため右集会の現場に行こうとして、玄関に降り、玄関左側の自動ドアから外に出て、話をしている原告Hの方に行こうとしたところ、KS支部執行委員がK課長の前に立ち塞がり、同課長の進行を妨害した。

 K課長は、やむなく玄関の柱の付近から、「責任者はH君か。」、「H君解散させなさい。」と大声で三回叫んだ。

 すると、Kが、大声で「H君とは何か、K君。」と言い、S執行委員も「交渉をやりましょうや、交渉を。」と言って騒いだ。

 Kの右行為は、原告Hの話を最後まで続けさせ、総決起集会を成功させるために、K管理課長の解散命令を妨害したものであり、原告Hの指導行動を補助するものであるということができる。

 原告らの行為のうち、本件ストライキに参加した点は、公労法一七条一項前段(争議行為の禁止)、国公法九八条一項前段(法令及び上司の命令に従う義務)、同法九九条(信用失墜行為の禁止)、同法一〇一条一項前段(職務専念義務)に違反し、同法八二条各号(懲戒処分のできる場合)に該当し、‥‥昭和五〇年の本件ストライキに際して行った各行為は、公労法一七条一項後段(争議行為のあおり等の禁止)、国公法九八条一項、同法九九条に違反し、同法八二条に該当し‥‥

 

7 所属長要請行動-不許可・退去命令

 

 「所属長要請行動」とは、集団要請行動で、大衆団交スタイルの多衆の包囲と威圧のもとに所属長に争議行為の目的の正当性を認めさせ、交渉当局に分会の要請を伝える走狗にして組合側に取り込む目的のものである。

 役員が号令し、組合員は職務を離脱して所長席前に陣取り、言うことをきかなければ怒号が飛び交い、吊るし上げる態様のもので、事実上執務妨害だが、拒否、退去・就業命令はいっさいなく受け容れているのが東京都の管理職のならわしで、闘争期間中の職務命令はしないという慣例によるものと考えられるが、実際に平成12年度千代田営業所長は本局に組合の要請を伝えに行っていたようだ。要請行動とは組合の考えを受け容れよというものだから、労務命令指揮権や庁舎管理権の発動をさせない含みもあるそれゆえ、闘争シーズンは騒々しく殺気立っていた。

 しかし平成16317日公営企業委員会で後藤雄一都議が所属長要請行動の質問したことを契機として、勤務時間内に騒々しく行われていたものが、東岡職員部長通知にもとづき昼休み等に移行させることとなり、以前より低調になっている。

 

7-1新方針

 

 当局の合理化提案の交渉窓口でもない所属長は交渉相手でないから、これは交渉ではなく、実質組合の言い分を認めさせるための職制を取り込む儀式であり、管理職が争議目的に理解を示し、組合側の立場に立って、交渉当局に陳情させ、組合の走狗として働かせるうえ、闘争期間、職務命令や現認など組合と敵対した行動をとらせないためのものであるから、拒否が妥当である。

 郵政事業でも職場交渉は制限している。例えば東京城東郵便局事件・東京地判昭5996労判442によれば昭和41年局長は、「本来当局の責任で行うベき業務運営に対し組合が不当に介入しているとして、組合の介入を排除する対策を採ることとした。まず、従来城東局においては、正規の団体交渉の他に各職場において管理者とその職場の組合員の代表者との間で行われる職場交渉といわれるものが慣行的に確立しており、これが各職場単位における日常的な苦情の処理あるいは正規の団体交渉での決定事項の具体的運用の協議の場としての機能を果たしていたが、同局長は職場交渉を認めないとし、各課長が個別に組合と話し合うことを禁止した。更に、同局長は、正規の団体交渉についても、交渉事項はいわゆる三六協定と二四協定の締結に関するものに限られるとして、それ以外の議題を制限し、また交渉人員の数にも制限を加えるようになった」

 したがって抗議活動で吊し上げ目的の集団交渉を受ける理由もないし、平成163月の北部支所の職員の分限免職処分30人以上押しかけ、担当者の机に穴をあけたということであるが、これはふつうの官庁なら業務妨害で懲戒処分されてしかるべき内容だが、組合活動で本部中央闘争委員以外、懲戒処分されることはないという職場の裏ルールによって、処分のおそれなく机を蹴っ飛ばすことができる職場風土が問題なのである。たまたまリークする人がいたからこの問題が発覚した。

 

 

8 三六協定破棄闘争(職制麻痺闘争)-違法でも業務命令する方針に改革すし 

 

8-1 問題点の提起

 

 労働基準法の三六協定が締結されている場合、労働者は定めるところに従い、時間外労働義務があるということは、日立武蔵工場事件・最一小平31128(三六協定が締結されている状況の残業拒否等を理由とする懲戒解雇を是認)で確定した事柄である。

 水道局ではそうでなく、年中行事のようにやっている超過勤務拒否闘争は「三六協定一方的破棄闘争」である。当局は全面的に適法であるとして、組合との保安協議で合意がない限り、管理職の業務命令を凍結する対応をし、争議行為の疑いの強い行為を実質支援している。

 昭和20年代から国労、全逓が多用した遵法闘争の一つが、三六協定未締結闘争であった。職制を麻痺させ、ストライキと同じ効果があるがストライキでないと偽装する闘争といえる。時間外の下位職務を助役に押し付けるようなことも行われていたが、水道局の場合は未締結闘争ではなく、もともと協約が期間満了でなくてもいつでも一方的に破棄できるものとして超勤拒否闘争が組み込まれているものである。

 そもそも三六協定は、近代市民法の契約の相対効に反する異様な制度であり、世界的にも類例はない。労働基準法の母法であるアメリカの1938年公正労働基準法は、長時間労働抑止が立法目的ではない。30年代の大恐慌を背景として追加的な賃金の支払を避けるために雇用を拡大することに向けて財務上の圧力を加えることにより、ワークシエアリング、失業者救済、雇用創出が目的だった。大恐慌時代の産物で恒久的制度としては疑問なのである。又、米国では排他団体交渉制度であり少数組合はないのであって、我が国のような過半数組合や過半数代表との協定の義務付けはなく(労働協約を政府が強要すると違憲になると考えられる)、たんに超過労働時間の割増賃金支払いの義務があるだけである。私は新自由主義的労働政策(サッチャー・メジャー政権、年少者以外労働時間規制なし、豪州自由党のオーストラリア職場協定やニュージーランド国民党政権1991年雇用契約法の政策は時間外労働の賃率は個別交渉で契約自由とし、労働組合の関与を否定するものである)を支持するので労働基準法はオーバーホールが必要だと思っていたが、安倍政権の政策はホワイトカラーエグゼンプションではなく、真反対に争点潰し政策として、労働時間規制強化という著しく左傾化した政策が実施されことは非常に遺憾である。これは主題から脱線するので論点を戻すが、三六協定が官公労の闘争に利用されてきたことも大きな問題だったといえるのである。

 

(1)三六協定破棄闘争とは

 

 労働基準法は、原則として一週間について40時間、一日について8時間を超えて労働させてはならないとし(321項)、この法定労働時間を超えて適法に労働させるには、事業主が、事業場ごとに、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合、労働組合がない場合は従業員の過半数代表者と書面による協定を所轄労働基準監督署長に届け出た場合(36条)に、その効果を発生するとされ、これは使用者を規制の対象とする強行規定で、相手方労働者の同意・承諾があっても違反が許容されないとされており、悪質な場合は罰金が科される可能性がある。

 水道局と過半数組合である全水道東水労の時間外に関する協定(三六協定)では1年おきに更新されるが、第10条で「この協約は、あらかじめ乙が指定する日については、保安のために必要な要員に限定して適用する」という組合が一方的に破棄できる条項があり、令和5年度は、1115日、1219.20.21日、123日、311.12日を指定して超過勤務拒否闘争を実施した。近年では年間10日を超えることはまずないが、毎年恒例であるほか、業務手当闘争のあった平成16年には9日間連続の破棄闘争などがあって、かなりの日数超勤拒否闘争を行った。

 保安要員は浄水場、水運用センターなどで水供給に支障なく、突発事故に対応できる最低限の人員である。しかし保安要員を置くことを自体がすでに正常な業務運営ではない(なお、保安要員の範囲は、私が水道特別作業隊に在籍していた当時、庶務係や企画担当も含めて保安要員だったものが、平成20年の給水部の部署と合併して水道緊急隊に組織改正されたが、技術系職員と事務職員もいる工務係が保安要員から外れている)。

 つまり、争議行為が組みこまれている時間外協定なのである。当局は三六協定の現場締結や、短期間で更新するような在り方より安定的と判断して現在の協約の形式になったのかもしれないが、信義則に反していつでも破棄できる。

 いつでも組合側の都合で職制の労務指揮権を麻痺させる悪意のある目的で、三六協定を破棄できると制度が織り込まれていることは、1300万都民のライフラインを預かる企業としてはリスクを抱えているように思える。

 ところで労働基準法33条は、災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合に、使用者が行政官庁の許可を得て、法定労働時間を超えて労働させたり、休日に労働させたりできることを定めているが、災害時には三六協定破棄状況でも所定の参集事業所、応急給水施設等に出務せよということを局は職員に周知していない。

 周知せずとも問題ないというかもしれない。この点は平成16年の業務手当闘争時など9日連続の協定破棄闘争がなされた時を別として、災害発生の多い土日に破棄闘争を行うことはなく(例えば平成1610
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の新潟県中越地震は土曜日、平成20614岩手・宮城内陸地震も土曜日)、平成5年度が年9日間といってもそれは、平日の1715分から830分までの時間外労働をさせない闘争なので、これは全体の0.016%にすぎず、確率的にいって大災害に遭遇するのはきわめて稀にしかありえないとはいえる。

 とはいえ想定外のリスクではないからきちんと対処すべきではないのか。

 

 

(2)三六協定破棄闘争の問題点の要旨

 

 水道局の三六協定破棄闘争の問題点は多岐に及ぶが要約すれば以下のとおりである。

〇そもそも三六協定(超過勤務及び週休日の変更に関する協定)を一方的に破棄できる協約は事実上職制麻痺闘争を当局が是認しているので問題はないのか

〇当局は適法と言っているが昭和32年内閣法制局意見によれば争議行為ではないのか

〇組合は三六協定破棄により、時間外労働に関して労務指揮権が消滅するという見解をとっているが法秩序全体の見地から妥当とはいえないのではないか。

〇組合が時間外の経常業務を管理職に押し付ける(下位職代務)いやがらせに問題はないか

〇必ずストの前日は三六協定を必ず破棄した状況におく狙いは、非組合員の就労阻止、締め出して事故欠勤にさせる狙いである。組合側の論理では、就業時間前は、所長の労務指揮権は消滅しているので、カードリーダに電磁的に出勤記録を入力させないものとし、よって事故欠勤を強要するものだが、出勤時限前の出勤記録の入力は服務上の基本的義務で、水道局長が建前として服務規律の確保を示達しているにもかかわらず、実際には違法行為に全面協力し、組合と管理職が共謀して事故欠勤を強要しているあり方は違法性が強いと判断する。

 組合と管理職共謀による非組合員の締め出し、出勤停止指示は違法と考えるが、非組合員を締め出してむりやり全員参加でストを成功させる。これが三六協定破棄闘争の最大の目的と考える。

 管理職は、労基法違反になるので、コンプライアンスとして非組合員を締め出すという言い分になるだろうが、しかし三六協定未締結により職制の労務指揮権が消滅するという見解は間違いである。

 実際、国鉄は三六協定未締結の時間外労働であれ業務命令は行っている。

〇労基法33条により災害時には三六協定未締結にかかわらず、時間外労働の命令ができるということは周知されていない。たぶん、当局は三六協定破棄闘争を適法と認めているのでいやがるだろうが、防災は東京都の重点政策である以上、東京都の職制麻痺闘争に異様に好意的な立場は問題である。

 災害時の緊急対応参集は、第1非常配備要員は震度5弱で発令を受けて参集、震度5強以上で発令を待たず参集。第2.3非常配備要員は震度5強以上で発令を受けて参集するそれ以外の全職員(免除者除く)は震度6弱以上で発令を待たず参集して、それぞれの任務につく。毎年訓練も行っているが、私も応急給水拠点要員を10年以上経験しており、夜間休日の発災時には駆けつけることになっていた。平成23年の大震災では、計画停電対応や323金町浄水場で放射性ヨウ素を検出した時も当局は一部の職員に超過勤務を命令している。

 指標値以上の放射性ヨウ素は地震から十日以上たってからの騒ぎで、もし三六協定破棄でも命令できたのかという問題がある。

 東日本大震災も春闘の際中でその数日後に三六協定破棄闘争に入る予定があった。この時は闘争を中断し7月に闘争を延期したが、三六協定破棄闘争中止までの機関決定に時間がかかっており、闘争中に災害等があった場合、組合員は三六協定未締結では労務指揮権は消滅するという組合の宣伝で洗脳されているため、本当に出務してくれるのか不透明な面がある。

 実際、私の職場では平成6年能登地震支援業務に出張する新人職員に、組合役員が三六協定による月間の労働時間規制があるので、超勤は規制の範囲で申請し、翌月に申請を回すようアドバイスしているのを聴いたが、災害関連業務の超過勤務は一般会計予算であり、33条により時間外労働協定と無関係に時間制限なく超勤させることができるはずである。

 国会でもこの質問があり、労働時間規制とは無関係に超勤可能と政府は答弁していた。この点、管理職の認識を問い合わせたが、返答はない。組合役員でも、災害対応は、三六協定の適用外となりうるとの認識がない人がいるのである。

 

 

 (3) 所長に「下位職代務」の押し付け

 

 国鉄の職場が荒れたのも元をたどれば三六協定の現場締結が原因だという[升田嘉夫『戦後史のなかの国鉄労使-ストライキのあった時代』明石書店2011]。

  1980年代国鉄における職場規律の乱れが国会でも追及されるようになり、国民・世論の厳しい批判を受けたことは周知のとおりである。国労は三六協定締結拒否で「助役の下位職代務」仕事を押し付けるなどいやがらせを行っていた 。

 水道局でも管理職に下位職代務のいやがらせはやっている。実際、窓口を定時にオープンするためには、出勤時限定時830分以前にレジの準備が必要であり、協定未締結時は、組合役員の指図で管理職がレジの準備等をさせている。

 実際、令和51115日の三六協定破棄の前に杉並営業所では役員の〇〇〇〇が〇〇所長に、8時半前の経常業務は所長がやるように指示し、所長は従っていた。大抵の管理職は平身低頭して担当者から仕事の段取りを教えてもらい組合役員の唯々諾々従い、本来管理職の仕事ではない下位職業務を代務している。とくに三六協定拒否闘争のない知事部局から異動した管理職、組合に指図されて不快に思っているに違いないが、もくもくと従うのが処世術とされている。

 組合の指図で管理職が働く滑稽な姿を見せつけ、職場を支配していのは組合であることを誇示するのである。

 

 

(4) 三六協定破棄の真の目的 (スト当日に就業命令させない口実にする陰謀)

 

 組合は、三六協定未締結の状況で、出勤時限前の労務指揮権が消滅しているので、スト参加の説得に応じない非組合員などの出勤時限前の入庁とICカードリーダに出勤入力はできないとの見解を示すことがあり、管理職も同調し、非組合員の締め出しに加担する場合がある。

 そもそも、当局は、組合側の争議行為は当局の労務指揮権から離脱するものだから、業務命令を行ってはならないという学説にしたがってストライキに対し就業命令等職務命令はいっさいしないことになっているが、争議中であることを理由として、国公法981項の上司の命令に従う義務を免れることはないと明示した神戸税関事件.最三小判52.12.20の判例で就業命令が適法であることは確定していることであるのに東京都は全く無視しているが、それだけでなく三六協定未締結なので、830分以降でないと就業命令は無効という屁理屈で職制の労務指揮権と、非組合員等職員の就労の権利を全面的に否定するのである。

 つまりICカードリーダは、82959秒までに入力すれば、出勤と記録されるが、830分に入力すると遅参となる。組合の言い分は82959秒まで、三六協定未締結なので労務指揮権が消滅し、出勤入力を含め業務命令すれば、刑事処分だと脅し、非組合員も出勤入力させないで、スト完全防衛に管理職を加担させるという趣旨。

 組合は非組合員に出勤入力をさせないことに注力しており、管理職もそれにしたがって非組合員に出勤入力を否定する言辞が実際にあった。事故欠勤の強制である。

 出勤時限前にICカードリーダに出勤記録を自ら入力することは、「勤務時間等規程」、「処務規程」、「事務処理要領」などの規程上、職員の基本的な服務上の義務と東京都水道局長(行政処分取消等請求)事件・東京高判平26.2.12労判1096が説示していることで、三六協定破棄によって、服務上の基本的義務が否定されることはありえないし、それに同調する管理職は就業規則違反を指導することであり許されないことであるにもかかわらず、管理職は就業規則違反と法令違反を職員に強要する。地方公務員法32条違反の服務規律違反をやらせることが、東京都では管理職の努めになっている。

 

 

8-2 新方針

 

 郵政では全逓の三六協定未締結は全逓の常套手段であったが、法内超勤は業務命令していた。水道局の日勤定時退庁の労働時間7時間45分なので、あと15分は法内超勤できる。15分の超過勤務命令は違法ではなく、よってレジの準備などの下位職の代務を管理職が行うべきでなく、超勤命令すればよいのである。

 さらに18時間を超過する違法な超勤も不可欠な業務と予め日程に組まれていて委託業者に影響のある業務は違法であっても業務命令するものとする。

 今後はスケジュールで事前に予定されていた時間外の業務、経常業務で時間外のもの、それを中止すれば委託業者等の実務に工事の日程に支障があるもの等、必要不可欠な時間外の業務は、三六協定未締結でも業務命令する方針に変更するものとする。

 国鉄は、国労や動労が三六協定未締結でも業務命令することは通例であり、動労とは乗務員の身柄確保の争奪戦をやっていたのである。国労であれ動労であれスト指令でなく国鉄の業務命令に従う職員はそれなりに存在していた。郵政でも名古屋中郵第二事件のようにやむをえない場合は三六協定未締結で業務命令している。

 労基法321項所定の一日8時間超え労基法上違法であっても違法を承知で業務命令するということである。

 労働基準法の適用を受ける者に対する職務命令が、同法所定の労働時間の制限を超えて就労することをもその内容としており、かつ、その者の就労が右制限を超えたからといって、そのために職務の執行が具体的権限を欠いて違法となるものではない。刑法234条によって保護される業務に該当すると最高裁の判断がある。

仙台鉄道管理局(春闘仙台駅・公務執行妨害罪)事件・最二小判昭48525刑集2751115である。

倉敷駅信号所(威力業務妨害罪)事件岡山地判昭50117刑裁資料228187も同趣旨。

名古屋中郵第二(威力業務妨害罪)事件・最二小判昭5333民集3229は一審・二審で争点になった三六協定について言及せず、名古屋中郵事件方式の「法秩序全体の見地」から一刀両断に業務妨害罪の成立を認めている。

 それゆえ労基法違反承知で、経常業務維持の最低限の業務命令を行う方針とする。司法は国鉄久留米駅事件大法廷判決から、争議行為がからむ問題では「法秩序全体の見地」から労働法の市民法に対する優位という判断はとらないはずだ。

 

 

8-3 新方針の理由その1-三六協定破棄闘争は争議行為の疑いが極めて濃い 

 

(1)内閣法制局意見昭32.9.9に従えば、水道局の事例は争議行為である

 

 内閣法制局意見昭32.9.9法制局一発22号(前田正道編『法制意見百選』766頁)がもっぱら他の争議行為目的のための争議手段として三六協定の締結、更新を拒否するときは争議行為にあたり、そうではなく、超勤に関する労働条件そのものを改めることを目的として協定の締結、更新を拒否する場合には争議行為に当たらないとしている。

「‥‥『業務の正常な運営』とは、業務の運営であって、経験則に照らし、経常・普通の状態にあると客観的に認められるものというと解されるが、特定の事業場において時間外又は休日の労働の行なわれることが常態であり、また、そういうことが行なわれることによってのみ当該事業場における業務の運営が経常・普通の状態にあると客観的に判断しうる事情の存するときは、労働組合が当該協定の有効期間の満了により、時間外又は休日の労働行なわれなくなった場合は、当該事業場における『業務の正常な運営』が阻害されたことになるといいうるところであろうと考えられる。してみれば、このような事情のもとに労働組合が当該協定の更新を拒否する行為は、争議行為にあたるといいうる‥‥‥労働組合が労働基準法第三六条を引用して協定の更新を拒否しているにかかわらず、労働組合以外の者が当該協定の更新の拒否をもって争議行為にあたると主張するためには、労働組合による当該協定の更新の拒否が、もっぱら時間外労働又は休日労働以外の事項についての労働関係に関してその保持する主張を貫徹するのに有利であるかどうかの判断に基き、ただその目的を達成するがためにのみなされたものであることを立証しなければならない‥‥」

 この趣旨によれば、水道局は12月の局内闘争は三六協定の更新は闘争課題ではないから、3月の春闘は、三六協定が交渉事項とはいえ、他の闘争課題による争議行為があるから、いずれも争議行為といいうる。

 

(2)北九州市交通局事件・岩淵正紀判解によれば、水道局のケースも争議行為とされる可能性が高い 

 

 三六協定未締結闘争について大きく分けて三つの見解がある

〇信義則に反する違法行為である

〇争議行為である

〇労働者側の正当な権利行使である

 初期の労働委員会の裁定に三井造船事件岡山地労委の裁定(昭26.4.27命令) 『労働法律旬報』77(1951)がある。会社は時間外労働協定の拒否ないし保留行為に対し造船業と残業の特殊関係、特に造船工程中、残業が計画中に織込まれている点、永年の慣行であった点、従来累次の協定締結の際何らの紛議を生じなかった点等を挙げ右行為はこれ等の現実を無視し、信義則に反するものとして不当なる争議行為と主張したが、このまっとうな主張は認められず、本件は違法不当な争議手段ではないとした。

 私は信義則に反するという見解はまっとうなものと思うが初期の議論だけである。

 そこで北九州市交通局事件最一小判昭63.12.8民集42-10-73の岩淵正紀判解の分析に沿って検討することとする。

 

  • 北九州市交通局事件・最一小判昭63.12.8民集42-10-73について

 本件は、三六協定締結を拒否した超勤拒否闘争が、地公労法111項違反であり、懲戒処分を適法とした原判決を是認したものである。

福岡地労委の救済命令取消訴訟で、一審棄却、二審原判決取消、救済命令を取消す。上告審棄却。

(争議行為の概略)

 北九州市の交通事業は西鉄バスと競合関係(但し若松区は独占)にあって赤字が累積し、運賃改訂、給与改定、人員削減、高齢者退職完全実施、ワンマンカーへの移行等による再建計画案を作成し、北九州市交通局労組と協議を重ねたが意見の一致をみず、最終案を昭和42615日市議会に上程し(73日本会議可決)、621日~23日、627日から71日まで及び73日三六協定締結更新拒否による超過勤務拒否闘争(養護学校スクールバスおよび福岡行き定期便を除く)、ディーラー整備員入構拒否、完全点検闘争、五割休暇闘争が行われた。

 闘争によるバスの欠行率は、6/21 8.04%6/22 8.55%6/23 4.19% 6/27 8.48%6/28 8.60%6/29 3.90%6/30 6.62%7/1 6.40%7/2 1.47%7.3 36.79%であった。

 北九州市交通局長は、12名の行為 が、同市交通事業の業務の正常な運営を阻害する行為であって、地公労法111項に違反し、北九州市交通局就業規程第9011号、地方公務員法第29条第1項第1、第3号に該当するので、前記の如き争議の計画、指導及び実行を行った執行委員長もしくはその他の役員である前記訴外X1ほか12名に対し、昭和四二年八月二日付をもって懲戒処分を行った。

 停職6か月3(1、X2、X3バス運転手、うち1人執行委員長、)。停職3か月4(4、X5、X6、X7、X8バス運転手3人と事務1人、うち書記長1人、副執行委員長1)、停職1か月4(9、X10、X11、X12バス運転手2、車掌1、整備士1、うち中央委員1)。  

 北九州市交通局においては運行ダイヤの編成にあたっては事業管理者への諮問機関として労使双方の委員によって構成されるダイヤ審議委員会の審議を経て定められていたが、本件紛争当時の公示ダイヤは参加人側の同意のもとに一日約九勤務の超過勤務ダイヤを組み入れており、超過勤務拒否が行われれば正常なダイヤ運行に支障をきたすことは労働組合も充分承知のうえでこれを争議行動の手段として行ったものである。

 二審・福岡高判昭55.10.22労民31-5-1033(救済命令取消)は、①労働組合が超過勤務の正当性を是認しながら超過勤務に関する労働条件自体ではなく、労使間の他の紛争について自己の要求を貫徹する手段として三六協定の締結ないし更新を拒否することは、同盟罷業に該当する(後述内閣法制局意見と同じ)。

 ②に労働組合の参加しているダイヤ編成審議会の審議を経て定められたダイヤ編成において、超勤が恒常化され、それを拒否すれば平常のダイヤ運行に支障を来す状況の下で労働組合が三六協定の締結ないし更新拒否により超勤拒否闘争を行ったことが地方公営企業労働関係法111項に禁止する争議行為に当ると判示する。

 上告審(棄却)

「被上告人経営のバスの運行ダイヤは、労使の委員によって構成されるダイヤ編成審議会の議を経て定められていたが、当時の公示ダイヤは、上告参加人の同意のもとに一日9勤務が時間外勤務ダイヤとして編成されており、被上告人の交通局においては、このダイヤを実施するために超過勤務が恒常化していて、超過勤務拒否があれば、平常のダイヤ運行に支障を来す状況にあつた、‥‥上告参加人は、本件財政再建計画についての労使の交渉が難航することが予想されるようになった同年4月ころから、同協定を1日ないし数日の期間を定めて締結、更新しつつ事態の推移をみていたところ、同年615日本件財政再建計画案が市議会に上程されるや、前記戦術委員会の決定どおり超勤拒否闘争を行うこととし、バスの正常な運行のための同協定の締結、更新方の当局の要望を拒否して、右決定に係る期間各部門において組合員に時間外勤務を拒否させた、というのである。

‥‥交通局においては、従来から上告参加人同意のもとに三六協定の締結、更新を前提とした超過勤務が平常勤務として組み入れられてきたところ、上告参加人は、当該超過勤務自体に関する勤務条件については格別の要求を有していた事情は認められないのに、本件財政再建計画の実施阻止という要求を貫徹するための手段として、三六協定の締結、更新を拒否し、組合員に時間外勤務を拒否させて本件超勤拒否闘争を実施したということになるから、右超勤拒否闘争は、地公労法111項の禁止する争議行為に当たるものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。‥‥」と説示する。

 

 岩渕正紀調査官判解によれば三六協定締結拒否闘争は大きく分けて3つの見解があると説明している。

A説(吾妻昭俊「遵法闘争の法理」『季刊労働法』15号)

争議行為とは使用者の業務の正常な運営を阻害する、右の「業務の運営」とは法令に従った業務の運営に限られるものではなく、現に行われている通常の業務をいうものと解されるから、三六協定を締結するか否かは本来労働者側の自由に属すること事柄ではあっても、超勤自体が通常の業務に含まれている場合には、右協定の締結、更新を拒否することは業務の正常な運営を阻害するものであり争議行為にあたる。

B説(内閣法制局意見昭32.9.9法制局一発22号(前田正道編『法制意見百選』766頁)

もっぱら他の争議行為目的のための争議手段として三六協定の締結、更新を拒否するときは争議行為にあたり、そうではなく、超勤に関する労働条件そのものを改めることを目的として協定の締結、更新を拒否する場合には争議行為に当たらない。

C説(松岡三郎『條解労働基準法上』443頁、西村信雄ほか『労働基準法論』187頁、野村平爾『労働関係調整法(法律学全集)』106頁)

 法外超勤は三六協定が締結されてはじめて可能であるから、協定の成立前に右超勤を前提とする正常な業務の運営というものは存在しえない。従前三六協定が結ばれていたからといって、直ちにその終了後、それを更新する義務が労働者側に課せられているとはいえないから、右期限経過後は新たに労使双方の意見の合致により協定の締結されることが法外超勤の前提になる。したがって、労働者側が新協定の締結を拒否したからといって業務の正常な運営を阻害したことにはならない。

 

 岩渕正紀判解は、「本判決は、一般論としては右三説のうちどの立場をとるのか明らかにせず、本件の事案のもとにおいて、参加人組合が三六協定の締結、更新を拒否した超過勤務拒否闘争は争議行為にあたると判断したものであるが、三六協定の締結更新を前提とした残業が恒常化している職場において、労働者が、三六協定の締結、更新を拒否することを、他の要求を貫徹するための手段として用いたと認められる場合に、争議行為の成立を認めたものであるから、基本的には、B説かそれに近い立場を前提としている‥‥」と述べる。

 

 岩渕判解がB説に近いと解説していることからみて、三六協定の締結更新を前提とした残業が恒常化している職場であることは、交通局と水道局に大きな差異はなく、同じ結論になるとみるのがふつうに思える。

 平成15年に管理職を通じて、職員部当局に尋ねたのですが、北九州市交通局はバス運行で超過勤務が平常勤務に組み込まれていたが、水道局はそういう事情はないので適法との見解であり、過半数組合の正当な権利行使とするが、私は異論をもつ。

 つまり東京都水道局当局は、本判決から超勤しなければバスの平常ダイヤが運行できなくなるような特殊なケースに限って争議行為と認定した事例と狭く解釈している。

 なるほど、水道局職員は一日九勤務のバス運転手と違って常に超過勤務が義務付けられている勤務形態ではない。しかし実際に営業所では平時は一般職員が始業時前に超過勤務しており実際手当も払われ、闘争時は管理職に窓口を開けてレジのつり銭の準備などを押し付けているだけでなく、年数回であるが、年間計画で時間外に指定している、ワックスがけなどの庁舎内清掃の監督、検査業務に超勤手当が予算化され実施されていて、広い意味で、経常業務は時間外労働に組み込まれているのである。ノーマルな業務で超勤があることに大きなへだたりはない。また闘争のある年末や年度末は繁忙期であり、残業する職員は少なくなく、給水部で配水管の取替、敷設替え等水道工事の夜間工事は頻繁にあり、近年は業者への委託が多いとはいえ、職員と合同の作業、少なくとも監督業務はあるので、時間外労働がなければ水道局の業務は成り立たないことはいうまでもない。

 内閣法制局意見昭32.9.9法制局一発22号(前田正道編『法制意見百選』766頁)の趣旨に沿ってみてみると、水道局は12月の局内闘争は三六協定の更新は闘争課題ではないから、3月の春闘は、三六協定が交渉事項とはいえ、他の闘争課題による争議行為があるから、いずれも争議行為といいうる。

 交通局と水道局の違いは、バス運転手19勤務(毎日超過勤務)の職場か、超過勤務は頻繁にあり、それなくして業務は成り立たないが職員が毎日超過勤務を義務づけられてはいないという違いだけである。また水道局当局が三六協定破棄闘争は争議行為に当たらず、適法な組合の権利としている根拠は薄弱といえる。

 また水道局の1日の所定労働時間は、7時間45分だから法内超勤であと15分は労基法上違法とはならない。レジの準備や金庫にしまう下位職務は管理職ではなく業務命令すべきではないか。

 またB説(内閣法制局意見)は「業務の正常な運営」とは必ずしも厳格な法律的意味において「適法な業務の運営」と解すべきでなく、労使関係における慣行的事実も考慮において、慣行的に期待される「通常の業務運営」をさすという石井照久『新版労働法』367頁の考え方に近く、慣行的事実としては平常において超勤がない職場はないという点は、交通局と水道局も同じであって、組合は超勤が必要な職場であることは一年間の有効期限で三六協定を締結していることでも明らかであつて、北九州市交通局の三六協定締結拒否が争議行為であっても、東京都水道局がそうではないと確信できる材料などない。水道局の三六協定破棄闘争も争議行為と認定される可能性は高く、少なくともB説と、北九州市交通局判決と先例がある以上、違法な争議行為の疑いが強い行為といえる。

 補足して、他の学説も引用する。プロレイバー学説は労基上の原則(一日8時間)を越える慣行的事実が正常などいうのはありえないという立場だが、それは一部の学説にすぎないのであって、参考までに、岩淵判解が引用していない学説も引用するが、慣行的に期待される通常の業務運営を阻害すれば、それは正常な業務運営とはいえないという説が有力なのである。

 

( 争議行為であると言う説)

 

イ 吾妻光俊

 争議を有利に解決する手段としておこなわれる順法闘争は「ノーマルな業務」を阻害しているかぎり争議行為となる。法律の評価としては実質的な争議行為として価値評価する観点から、時間外労働拒否は正真正銘の争議行為とする。「遵法闘争の法理」『季刊労働法』151955

 三六協定拒否については「協定拒否を行った労働組合または争議団の主たる意図が、その拒否を他の争議目的のためにする争議手段とするにあった場合には、労調法、公労法にいう「労働争議」の定義ないしその関連においてはこれを「争議行為」とみるべきであり、したがって協定拒否に対して争議目的になっている係争問題につき当事者は労委.公労委に調整を申請し、また労委・公労委は法律の規定に従い調整に乗り出すことができると解される(‥‥)。協定拒否の主たる意図が、これを他の争議目的のためにする手段とするにあった場合には、労調法の争議行為禁止との関連においても、協定拒否をこれら法条にいう争議行為と解すべきである(公益事業での争議手段としての協定拒否には労調法三七条の予告義務が課せられ、労調法三六条との関連においても同条にいう争議行為と解すべきである)。」とする。

 さらに「公労法、公務員法等の争議行為禁止との関連において、協定拒否がこれらの規定にいう「業務の正常な運営を阻害する行為」、「争議行為」または「政府(ないし地方公共団体の機関)の活動能率を低下させる行為」に該当するかどうかは、協定拒否がもっぱら他の争議行為目的のためにする争議行為のためにする争議手段として用いられた場合にかぎり、右規定にいう争議行為と解し、当事者の意図がかような点にあったと認められるかどうかは、拒否を右規定にいう争議行為と主張する側において立証する責を負うと解すべきだろう。副次的にも協定拒否が法律上非正常な時間外(休日)労働の常態化をあらためようとする意図に発するものであるかぎり、争議行為の禁止規定に触れると解することは時間外労働の常態化を法律が保障する結果になるからである。」と述べているが、時間外労働が副次的な闘争課題とされることよくあることであり、この点プロレイバー学説に接近しているといえる。『註解労働基準法』青林書院新社1960

 

 

ロ 石井照久

労使関係においては慣行的事実が尊重さるべく、期待された業務の通常の運営が阻害される限り」順法闘争は争議行為となる。『労働法』1954

 

 

ハ 三橋正

「通常順法斗争と呼ばれる一連の斗争手段は、組合も争議戦術と呼び、社会通念的に又社会事実的に争議行為と考えられている通りに「業務の正常な運営を阻害し」「争議目的の貫徹のためになされ」る限り、労調法七条、従って公労法一七条の云う争議行為であると考えられる。」『不当労働行為の諸問題』勁草書房1955256

 

 

ニ 大野雄一郎

 三六協定締結拒否でなく、たんに超勤拒否戦術について言及し、一斉休暇戦術、勤務時間内職場大会、いわゆる定時出勤戦術と同じく、時限ストの類型に属する。公務員・公企体の職員の場合争議行為に合法の衣を装わせるためにストライキと呼ばない工夫をした名称をつけたにつぎないとする。『争議行為法総論』日刊労働通信社1967

 

 

ホ 林迪広

 「怠業・順法闘争」『労働争議論 浅井淸信教授還暦記念』法律文化社1965は、

 「順法そのものを目的とする順法闘争はともかく、他の争議目的達成のための手段たる順法闘争においては、それを労使間に生じている紛争を全体的に直視して位置づけるならば、結局は「労働関係における意見の不一致」を原因として順法闘争が行われていることは明らかである。したがって‥‥法的意味での争議行為たる一定要件を満たす」 ‥‥結論的にいえば「労調法第七条にいう『正常』な業務の運営とは使用者の労働者使用に関する指揮・支配権能が他のものに阻害を受けずに事実上円滑に行為されている状態をさすのであって、この場合においては、使用者の指揮・支配の内容が個別的契約関係の権利義務にてらして適法なりやいなやを価値的に判断することを前提とせず、ただ雇用関係を有する労働者に対する使用者の事実としての指揮権限が、労働組合の事実行為による阻害によらず貫徹されている状態をいう‥‥

 

 

へ 中村博(労働省大臣官房秘書課長、中労委次長、人事院公平局長)

 この場合の残業命令については残業義務が発生を認めるという説と、その場合でも個別の合意が必要とする説があるが、仮に後者をとるとしても、組合の意思に基づいて、個々の労働者の合意による残業義務の発生を抑制することになるので、正常な業務運営を阻害するので争議行為となるとする。昭和32法制局一発第22号の法制意見を妥当とする。『公務員の争議行為と処分』中央経済社1971108頁以下

 

 

ト 恒藤武二 

 我が国では一般的ではないが、争議行為とは同盟罷業、怠業、業務管理の三種類に大別して概念を整理すべきと云い、「怠業とは、団結した労働者が、使用者に対抗するため、その労働契約の履行を部分的に拒否すること=労働契約の不完全履行」「怠業とは能率低下(スローダウン)による典型的な怠業のみでなく、定時出勤、順法闘争、上部遮断スト、納金スト、などのようなやや変則的な争議行為を包括し、さらに残業拒否、時限ストのような労働契約に基づくその日その日の労働義務の一部分を履行しない形でなされる争議行為を包括し」と述べ、「怠業」は争議行為の範疇なので残業拒否=争議行為説である。

「サボタージュ」日本労働法学会編『新労働法講座4』労働争議 有斐閣1967年所収

 

 

労働者側の正当な権利行使とする説)

 

チ 沼田稲次郎

 三六協定が有効要件を欠くか有効期限が切れた場合「組合としても、個々の労働者としてもいつでも時間外労働を拒否できる。権利濫用などというトンデモナイ議論の生じる余地はない。」また時間外労働拒否だけの争議行為もできるとしている。労基法36条は32条の例外であるとして「争議状態においては、労使は対立状態に在るわけであって、かゝる場合においてまで、使用者のための恩典的例外を労働者に受忍せよというのは労働良識上認めがたいことである」と反市民法的見解を述べ「労働者側が第32条の原則に遵うという態度(遵法斗争)を以て36条の例外を拒否することは当然である」とする。

「遵法斗争と権利濫用-三井造船事件に関連して-」『労働法律旬報』77(1951)

 したがって、争議行為という認識を示しているが、順法闘争は権利の行使であるから、争議権の濫用にあたらず、争議禁止規定にも該当しないとする。プロレイバー学説。

 

 

(3)東京都水道局事件・東京高判昭43.4.26労民集19-2-623は先例にならない

 

 本件は、実質「三六協定」なしに各支所・部局単位でその都度時間外労働の条件を組合支部と交渉して時間外労働が行われている状況で、公務のために臨時の就労があったとしても、その時間外勤務命令を拒否する行為が地公労法111項に当たるものと解することはできないとして、地公労法12条解雇を無効とした事例である。

 三六協定だけの交渉過程で勤務命令拒否が争議行為にあたるかと言う事案で、内閣法制局見解が争議行為としないケースに近いとはいえるが、現在の在り方とかなり違うのである。

 つまり三六協定が各事業所とも一年間で更新する形で締結され、夜間作業や残業が常態としてあり、組合も時間外労働がふだんは認めている状況で、ストライキ前段の戦術として協定が一方的に破棄されるというのが今日の在り方なのであるから、これを先例とみなすことはできない。

 なお本件では水道局と東水労本部と昭和368月に「三六協定」とされるものは締結されており、超勤時間の最高限度と有効期間を定め、さらに具体的な協定は支所、部局単位で締結することになっていたが、控訴審は本部との協定を「三六協定」とみなしていないのである。

 北一支所長と北一支部長は三六協定について合意が得られず協定を届け出ていなかったのであり、その都度組合支部と時間外労働の条件を交渉して時間外勤務を行う慣行であった。

 組合員は、昭和37416日から勤務時間外の午後10時と午前5時の二回制水弁を操作する作業の要請を受けこれを行った。北一支部は北一支所長に対し、組合員に14時間15分相当の超勤手当と翌日の完全休養を要求し、支所長は420日まで認めたが、421日以降の作業は支部要求を認めなかったので、時間外労働を拒否し、その理由として三六協定が締結されていないということを言い出した事案で、局は組合の就労阻止行動が地公労法111項に違反するとして、同法12条によりXら4名(中央委員・青年婦人部長、支部書記長、中央委員・支部長、支部執行委員・組織部長)を解雇したものである。一審東京地判昭40.12.27労民166121は、水道局が主張した「業務の正常な運営」とは日常的慣行的に行われている現実の業務形態であるという主張を否定し、慣行化、状態化を正常な運営視できないとし、労働法規侵犯としたうえで、法の趣旨は事業場毎の協定であるとし、12条解雇を無効とした。

 控訴審も棄却し解雇を無効としたが、東水労本部との協約は労基法36条が要求している協定の内容ではなく、各支部を拘束しないとして、三六協定は成立していないとしている。

 

 

(4)小括 違法承知で業務命令すべき

 

 結論は争議行為である疑いがきわめて強い。しかし東京都労務管理当局は組合寄りなのであくまでも争議行為とされた北九州市交通局事件は特殊なケースとする。私は水道局もこの事件と大きな隔たりはなく内閣法制局意見に近い判断をとっていることから、水道局でも争議行為といえると言う見解だが、けっきょく水かけ論になり1本調子の議論になってしまうので、このさい、仮に争議行為でないとしても労働基準法では違法だとしても、次節で詳細に検討するとおり労働基準法の適用を受ける者に対する職務命令が、同法所定の労働時間の制限を超えて就労することをもその内容としており、かつ、その者の就労が右制限を超えたからといつて、そのために職務の執行が具体的権限を欠いて違法となるものではなく、これに対して暴行脅迫を加えたときは公務執行妨害罪の成立を妨げないと解するのが相当であるとの最高裁判例があるのだから、労基法上違反の職務執行は権限を欠いて、それ自体違法になるわけでなく、刑法上も保護されるという見地に立ち、労基法違反を承知で職務命令する在り方に切り換えるべきだと思う。

 つまり職務の遂行は刑法234条により保護されることは最高裁判例で明らかである(仙台鉄道管理局事件)。調査官解説によれば「労働基準法違反がどの程度に法律上の効果を及ぼすかについては、労働者の保護と関係ない事項について、労基法違反があってもただちに当該事項を無効としなくてはならないものではない。」、組合がいうように労基法の強行規定だから、絶対的だということではないのであって、組合からみて違法でも、地公労法1条と111項の趣旨に従うなら、正常な業務運営とは労基法321項の原則どおりの勤務をさすのではなく、慣行的事実(通常は三六協定が締結され経常業務も含め、超過勤務は全職員でないとしてもふつうのことである)期待された業務の通常の運営が阻害されることだという説が内閣法制局の見解で、時間外労働でも必要不可欠な業務と年間計画でスケジュールが決まっている業務、業者に委託しているが職員が監督する業務は、日程を動かせば委託業者に迷惑がかかるから、違法を承知でそれらの業務は業務命令する方針に変えるということである。

 

 やむをえざる特段の事情があるから、あるいは法秩序全体の見地からみて局側が一方的に非難されることはありえない。久留米駅事件方式、名古屋中郵事件方式の「法秩序の全体的見地」とは市民法・公法と労働法が衝突する場合、労働法を優位とみる考え方をしないのである。国鉄では国労や動労が三六協定未締結で、マス・ピケによる説得連行や列車運行阻止する争議行為をやるとき、国鉄は乗務員を確保するため業務命令や、乗務員争奪戦をやり、実際に国労でも動労でも国鉄の業務命令に従う組合員がいたし、それが悪いということではないので、違法承知で業務命令するべき。

 

8-4 新方針の理由その2-労基法違反の時間外労働でも職務の執行は違法にならないとする先例

 

 組合は、労働基準法36条の協定未締結で、時間外の、職制の労務指揮権と職員の職務遂行を無効にできると考えているようだが、三六協定未締結で、労基法321項所定の労働時間に違反する業務命令に基づく業務であっても、刑法上の保護を失うものではないことについては、以下のような判例がある。ひととおり概要を述べたうえで判例法理の分析を行うものとする。

 

(1)国鉄荒尾駅事件・福岡高判昭37・8・7下級裁判所刑事裁判例集4-7・8-644

 三六協定未締結で助役にストで運転室から離脱した機関士の職務代行を命じることは、公労法1条、労基法33条の法意に照らし正当とする。

 公務執行妨害、建造物侵入被告事件

 一審熊本地裁判決(掲載誌不詳)を破棄自判

 被告人懲役六月執行行猶予2年 以下抜粋一部要約

 国労熊本地本大牟田支部が昭和三一年七月一八日午前八時頃から国鉄荒尾駅職員休憩室において職場大会を開催し被告人等がその指導監督に当つたこと、上り1186貨物列車が同日午前八時二〇分三〇秒に荒尾駅通過の予定となっていたこと、Y駅長が同月一七日М助役に対し、運転係の職場大会参加を想定して、職務の代行を命じ、翌十八日を迎え職場大会出席のため運転室の職場から離脱したことを聞知するや、再び運転係の代務を命じた。М助役は一八日当日は非番日であつたが業務命令に従って急遽運転室に赴いて閉塞器の操作をなさんとしたところ、被告人等は閉塞器の前に立ちはだかって、その上半身や腰を用いてМ助役の身体を押しのけたり等して暴行を加えたためМ助役は遂に閉塞器の操作をなすことを得なかつた事実を認めることができる。

 М助役は公労法第四条に基き非組合員に指定され、運輸従事員制及び職務規定により、助役の服務は駅長の服務に関する規定による旨、及び駅長を補佐し又は代理する旨定められているとはいえ、出退社について厳格な制限を受けない者に該当するとは解し得ないので、労基法第四一条第二号所定の「監督若しくは管理の職にある者」とは認められないから、労基法第三六条の協定が締結されていなければ、駅長といえども、М助役に対して業務命令により時間外勤務に就かせることは、同法に違反するものというべきであり、国鉄当局と国労との間に当時三六協定が破棄された状態にあったことから、業務命令は一見同法に違反するもののごとくでもある。 

 しかしながら、列車事故の防止又は公企業たる列車の正常な運営を確保する必要がある場合、たとえば、天災、交通事故の発生、その他正常な運転に支障を来たす異常な事態に直面する等、避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合には、その必要な限度において、労基法所定の労働時間を延長し、又は休日に労働させ得ることは、公労法第一条、労基法第三三条の法意に照し、当然の事理といわねばならない。

‥‥列車の正常な運営に支障を来たす異常な事態に直面したものというべく、かかる緊急事態に対処して、М助役をして閉塞器を操作するため、その職務に就かしめることは‥‥避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合に該当するものと解するを相当とする。それ故М助役が非番の者であつたとしても、同人に運転係の職務の代行を命じ、労働時間の制限を超えることは、その必要な限度を逸脱したものとは到底考えられず、且つ同助役は運転考査を経ている‥‥業務命令は毫も違法の点なく、従ってМ助役の右閉塞器操作の職務執行は適法性に欠くるところはない。

 

 なお公労法1条の法意とは「正常な運営を最大限に確保し、もつて公共の福祉を増進し、擁護することを目的とする。」これは地公労法も同じである。労基法331項は「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第32条から前条まで若しくは第40条の労働時間を延長し、又は第35条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。」

 

(2)威力業務妨害事件・名古屋高裁金沢支部第二部判決・昭40・10・20

 「就労が労働基準法違反の就労であるとして、‥‥同法が労働者の労働時間を制限した趣旨は労働者の保護にあるから、労働者が自ら就労し業務を遂行しようとする場合、右就労が同法所定の労働時間の制限に違反するものであつても、労働者の業務遂行そのものまでを違法視して右業務を威力業務妨害罪の保護対象から除外すべき理由はない」とした。(掲載誌不詳・引用は仙台鉄道管理局事件の検察官上告趣意書)

 

(3)国鉄八代駅事件・熊本地判昭40・3・19高等裁判所刑集19-3-292

 三六協定未締結で退社後の助役に駅構内の警戒、取締り業務を命じたことは、抽象的職務権限が時間的に拡張するにすぎず、公務の執行として刑法第九五条第一項によって保護される

 ホーム上のデモ行進 一審 建造物侵入公務執行妨害傷害 被告人を懲役六月、執行猶予二年 以下抜粋一部要約

 被告人は国労城南支部執行委員長として、昭和三九年二月二七日午後五時過頃より、国鉄八代保線区前広場で行なわれた春闘要求貫徹総決起大会を指導した後、午後五時四〇分頃組合員約百名を三列縦隊のデモ隊に編成し、自らその先頭に位置し同隊を指揮、誘導し、隊員の一人に命じて八代駅貨物室横出入口の扉の止め金を外して扉を開かしめたうえ、ワッショイ、ワッショイと喚声をあげながら行進する右デモ隊員を従えて、同駅一番ホームに故なく侵入し、ホーム上をデモ行進中、駅構内の警戒取締に従事中の、助役Оが、被告人等の進路前方からデモ隊を退去させるべくその行進を制止しようとしたのに対し、行進を続けて右Оに肉迫し、左手で同人を強く横に押し払い、よって、〇、七一メートル下の鉄道線路敷上に転落させて、治療約六ケ月を要する右大腿骨骨折の傷害を負うに至らせ、公務の執行を妨害したものである。

判断

一、職務に関係のない者が、多数で隊伍を組み、喚声をあげ、然も、管理者の意に反してかかる場所に侵入、行進することをもつて、労働組合法第一条第二項にいう正当な行為となすことはできない。

二、О助役については始業及び終業の時刻が定められていたこと、時間外就労に対し労働基準法所定の超過賃金の支払がなされていたこと、管理職手当の支給を受けていないこと等が認められる。‥‥О助役は公労法第四条に基づき非組合員に指定されており、営業関係職員の職制及び服務の基準により、助役の職務内容は駅長の補佐又は代理と定められているとはいえ、出退社について厳格な制限を受けない者に該当するとは解しえないので、労働基準法第四一条二号所定の「監督若しくは管理の職にある者」とは認められない。О助役は勤務を終って後、駅長から時間外勤務命令を受けて、その職務についていたこと、当時国労と当局との間には同法第三六条の協定が破棄された状態にあつた‥‥そうすると同駅長のО助役に対する業務命令は同法に違反し、違法たることを免れない、ところで、公務執行妨害罪が成立するためには、公務員が、当該行為につき、事項的、場所的及び時間的に抽象的職務権限を有することを要するが、任命権者その他権限ある機関による任命その他の権限授与行為に、資格要件の欠缺等法律上の瑕疵がある場合でも、その瑕疵が外観上明白でなく、任命権者その他権限授与権者及び被任命者又は権限を与えられた者がその有効を信じ、被任命者又は権限を授与された者が事実上の公務員として行為し、形式上与えられた権限内で権限発動の具体的条件等を充足して行動する限り、これを公務の執行として刑法第九五条第一項によって保護すべき場合があると解するのが相当である。けだし公務執行妨害罪は公務の円滑なる遂行を保護することを意図するのであるが、右の如き場合事実上の公務員の職務執行をも保護しなければ、その本来の目的を達成しえないからである。

 ところで、本件О助役の場合の如く、特に厳格に労働基準法による労働時間の制限に服する公務員が、時間外にその職務を執行しうるためには、任命行為と通常の勤務時間を指定する業務命令との両者によって授与された、事項的、場所的及び時間的の抽象的職務権限が、時間外勤務命令によって更に時間的に拡張授与されることが必要である。即ち、О助役の場合においては時間外勤務命令はその抽象的職務権限に関係するものである。而して、本件ではО助役に対する駅長の時間外勤務命令が違法であることは前述のとおりであり、国鉄の他の駅の助役について右同様の判断を示した下級裁判所の裁判例の存することを、国鉄当局において認識していることは証拠によって明らかであるが、右の判断はそのまま凡ての駅の助役に推及しうるものでもなく、未だ最高裁判所の判断の示されたものもないこと、国鉄当局は、助役は労働基準法第四一条第二号の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するとの見解に立って、職員を指導し、H八代駅長及びО助役もこの見解に従って行動していたことが証拠上明らかなこと、前記違法が適法に与えられた抽象的職務権限を時間的に拡張する点に附着するに過ぎないこと等を考慮すると、本件当時О助役は事実上の公務員として行為していた者というべく、その形式上拡張された権限内で、権限発動の具体的条件等を充足して行動する限り、これを公務の執行として刑法第九五条第一項によって保護すべき場合であると解するのが相当である。

 被告人が他の組合員と共になした一番ホームへの侵入を、正当な行為となしえない‥‥建造物侵入罪を構成するは勿論、鉄道営業法第三七条に違反するもので、鉄道係員がこれを制止するのは適法な職務の執行といわなければならない。

 控訴審は量刑不当により原判決破棄 懲役三月執行猶予一年 三六協定破棄の状況で、理由は異なるが駅長の業務命令、助役の職務執行を適法とするのは一審と同じ。

 

(4)国鉄八代駅事件・福岡高判昭41・4・9判タ191-202

 

 三六協定破棄の状況で退社後の助役に駅構内の警戒、取締の業務命令を発したことは、労基法33条、日本国有鉄道法332項により容認される

 控訴審は量刑不当により原判決破棄 懲役三月執行猶予一年 三六協定破棄の状況で、理由は異なるが駅長の業務命令、助役の職務執行を適法とするのは一審と同じ

 八代駅長Hは、国労合城南支部の春季闘争要求貫徹総決起大会が同日午後五時過から八代駅付近で開催されるとの情報を入手し、同日午前九時頃勤務中のО助役を含む八、九名の助役を駅長室に呼んで駅構内の警戒、取締のため退社時間後も勤務に就くよう業務命令を発したことが認められる。しかして(国鉄当局と国労との間に当時第三六条の協定が破棄されていた)、原判決は右業務命令を違法とするが、О助役の行為は適法な職務執行としての外形を備えており、右違法は同助役に適法に与えられた抽象的職務権限を時間的に拡張する点に付着するに過ぎないから、Оの本件デモ行進の阻止行為は刑法九五条第一項に所謂公務の執行というべきであると判示したこと所論のとおりである。そして、右証拠によって認められるО助役の始業及び終業の時刻が定められていて、時間外の就労に対し労働基準法所定の超過勤務手当の支払がなされていたこと、同助役は管理職手当の支給を受けていないこと、国鉄八代駅の規模、同駅の職員の数、助役の職務内容並びに数等諸般の事情を考察すると、О助役は公共企業体等労働関係法第四条にもとづき非組合員に指定されており、業務関係職員の職制及び服務の基準により助役の服務は駅長の服務に関する規定による旨及び駅長を補佐し又は代理する旨定められているとはいえ、出退社について厳格な制限を受けない者に該当するとは解することができないので、国鉄当局のこの点に関する見解に拘りなく、労働基準法第四一条第二号所定の「監督若しくは管理の地位にある者」とは認められないから、同法第三六条の協定が締結されていなければ、駅長といえどもО助役に対して業務命令により時間外勤務に就かせることは同法に違反するものというべきである。‥‥

 しかしながら、国鉄当局は列車事故の防止又は公企業たる列車の正常な運転を確保する必要がある場合、たとえば天災、交通事故の発生その他正常な運転に支障を来たすおそれのある異常な事態のため避けることのできない事由によって、臨時に警戒の必要がある場合には、その必要な限度においてその職員をして労働基準法所定の勤務時間を超え、又は勤務時間外若しくは休日に勤務をさせることは許されて然るべき筋合のものといわねばならず、労働基準法第三三条及び日本国有鉄道法第三三条第二号の諸規定はかかる場合に関して時間外勤務の業務命令を発し得ることを認めた律意と解するを相当とする。 

 これを本件についてみるに‥春季闘争要求貫徹総決起大会を開催し、賃金増額要求等のための団結誇示並びに団体行動をすることが予測せられ、右総決起大会に引き続いて、参加者らによって駅構内でのビラ張りなどが行われることはいうに及ばず、多数の組合員が集合することであるから、勢の赴くところ駅構内での示威行動その他穏やかでない行動に発展し、国鉄駅業務の正常な遂行に支障を来たすのみでなく、構内の平穏と秩序を乱し、列車の正常な運転の妨害にでるなど不測の事態の発生を見るやも知れない危惧があつたことも予想されたので、予めかかる災害の発生に備えてこれを防止し、正常な運転業務の遂行を確保するために警戒取締の態勢を整えておく必要があつたことを認めるに難くない。かくて、前に説示のような災害の発生が予想されて臨時に警戒の必要があるものとして、H駅長はО助役に退社後の警戒勤務を命じたものであることを首肯するに足りるのである。‥‥国労城南支部において、八代駅長及び助役に対し右第三六条の協定破毀後の助役の時間外勤務は違法であることの申入がなされた事跡があつたとしても、H駅長の右命令は不法なものとは認められない。‥‥H駅長からО助役に対する右業務命令にもとづいてなされた‥‥デモ行進の阻止行為は適法な公務の執行というほかはない。しかして‥‥、被被告人が同助役の制止にもかかわらず、これを顧慮することなく、デモ隊を率いて前進を続け‥同助役に暴行を加えて傷害を与えた行為は公務執行妨害罪の成立を否定すべくもない。

 上来説示のとおり原判決が被告人に対して住居侵入、並びに公務執行妨害及び傷害の罪を以て問疑したことは洵に相当であり、原判決には所論のような違法があるというは当らない。論旨はいずれも理由がない。

 ‥‥とはいえ、被告人がデモ隊の先頭に立って進行中、突然被告人の前面に走り出てデモ隊の進行を制止しようとしたО助役の行動自体にも、その職務に忠実の余りとはいえ、いささか注意力に欠くるものがあつたとの謗りを免れない点が窺われ、被告人は、同助役が線路上に転落して原判示のような傷害を負うことを予測せずして前示のように同助役を押し払ったものであり、その結果多分に偶発的な諸条件によって予期しなかつた重大な結果を招来するに至ったものと認められる等の諸事情に鑑みると、原判決の被告人に対する科刑はいささか重きに過ぎ量刑が不当であると認められるので、原判決は破棄を免れない。

 

(5)浜松動労事件・東京高判昭42・9・18判タ216

 

 三六協定未締結で違法な業務命令だとしても刑法上保護される

マス・ピケ事犯 威力業務妨害 控訴審原判決破棄 被告人動労中央執行委員懲役三月、動労中部地区評議会事務局長懲役二月、執行猶予一年( 最判昭45716判時605-95 上告審棄却)

 

「被告人らは、一〇割休暇闘争の名のもとに浜松支部所属の全組合員から休暇届を集約し、当局側の乗務員代替措置その他のあらゆる対策を阻止し列車の運行を停止させるとの方針にもとづき、多数の組合員および支援の労組員を動員し、当局側の再三の警告および立入禁止措置にもかかわらず、浜松駅構内に立入り、昭和36313日夜から乗務員のいわゆる説得連行または発車阻止などの闘争を行った。昭和36315日午前235分宇野発東京行き第24列車急行瀬戸号が浜松駅上りホームに到着したその頃被告両名の指揮する動労側行動隊約200名が七、八列縦隊でスクラムを組み、指揮者の吹くピーピーという笛の音に合わせてワッショイ、ワッショイと掛声を上げながら、右機関車前面に向って前進し、前方約10米の地点に達し公安職員と対峙する態勢となったが、結局午前248分頃から一斉に着手された公安職員の実力行使により53分頃排除されるまで、威力を用い日本国有鉄道の輸送業務を妨害したものである。

 駅長らは電気メガホンを以って動労行動隊に対し直ちに退去するよう数回に亘って通告した」「当局側においては、・・・浜松駅で乗継する乗務員として機関士T、機関助士S・・・を予定し、同列車到着前から対策本部に待機中であったが、列車到着後動労側行動隊の出動状況から、・・・右乗務員を動労側に連去られることをおそれ、・・なお数分間右対策本部に待機させたうえ、・・・約10名の当局側護送班の護衛の下に同本部を出て、同列車に向かわせ、同日午前247分頃同列車の機関車に乗込ませて乗継を了した」

 国鉄当局は、スト対策として機関士T、機関助士Sを業務命令して急行瀬戸号の代務としたわけだが、三六協定未締結の状況であることにも言及し「違法な業務命令に基づいて機関士等が本件第二四列車に乗務しているという一事によって右列車の輸送業務が刑法第234条によって保護を受くべき『業務』に該当しなくなるということはできない」(この部分の引用は仙台鉄道管理局事件の上告趣意書)としている。

 

(6)仙台鉄道管理局事件・最二小判昭48・5・25刑集27-5-1115

 

 労働基準法所定の労働時間の制限を超える公務の執行が適法とされた最高裁判例。

 昭和39415日春闘仙台駅対策本部に仙台鉄道管理局総務部労働課職員全員を含む200余名を早朝から召集し、被害者Aは、駅構内の警戒および情報蒐集、組合員らの行動の監視、確認、組合員らによる違法行為の阻止、排除等の任務にあたるよう命じられていた非組合員であり、国労等の活動に備えていたが、過半を組織する国労・動労との三六協定は未締結だった。

 Aが労基法所定の18時間労働を超える時間帯に列車ボディに貼付されたビラを剥がす業務をしていたところ、動員された支援組合員に半円状に取り囲まれ、激しく抗議を受けたが、なお作業を続行したことなどから、支援組合員全電通宮城県支部執行委員がAの顔部を殴りけがを負わせたことから傷害罪と公務執行妨害罪に問われた。

一審(仙台地判昭41.1.8刑集2751148は組合側の三六協定未締結なので、8時間を超えた業務は違法という主張に対し、外形的刑法的に一個と評価されうる継続的行為の中間において、当該公務員につき純客観的には具体的職務権限が消滅したとしても、その瞬間に当該職務行為が「適法」から「違法」に転化してしまうとみるべきではなく、以後の行為部分もなお「適法」なものとして公務執行妨害罪の対象となると解するを相当とするとして有罪(懲役二月、執行猶予一年)。

二審(仙台高判昭44.4.1刑集2751170は、破棄自判し、被害者Aに労働基準法上の休憩時間は与えられておらず、八時間の労働時間は、本件暴行時間の約40分前の午後2時に終了していたと認めるのが相当であるとし、労働基準法321項は、強行規定であり、たとえ相手方の同意、承諾にもとづいても、許容されることはないから、重大な違法性を帯有していたというべき命令部分をもってして、Aの職務行為に対し、公務執行妨害罪の保護法益たるに値する適法性を付与しないとして、公務執行妨害罪の成立を否定し、傷害罪の成立のみを認めた。これに対して検察官が上告した。

上告審第二小法廷(岡原昌男、村上朝一、小川信雄、大塚喜一郎)は原判決を破棄自判して公務執妨害罪の成立を認めた。村上は第6代、岡原は第8代最高裁長官である。

「原判決によれば、右Aに対し発せられた本件職務命令は、昭和39415日午前6時から仙台駅構内において組合員の行動の監視、違法行為の阻止および排除等の任務に従事すべきことを内容とし、執務時間についてはあらかじめ制限を付さない趣旨のものであったというのであり、これによれば、右命令が同人に対し、前記の職務に従事すべき労働関係上の義務を課するものであるとともに、その反面、右職務を執行する権限をも付与する性質のものであることが明らかである。一方、労働基準法321項は、就労時間の点で労働者を保護することを目的とし、また、もっぱら使用者対労働者間の労働関係について使用者を規制の対象とする強行規定であるが、右の目的と関わりのない、労働者とその職務執行の相手方その他の第三者との間の法律関係にただちに影響を及ぼすような性質のものではない。してみると、本件職務命令に右強行規定の違反があったとしても、その法意にかんがみ、その違反は、右命令のうち前記Aに対して就労を拘束的に義務付ける部分の効力に影響を及ぼし得るにとどまり、職務執行の権限を付与する性質の部分についての効力にまで消長をきたすべき理由はないと解するのが相当であって、本件における右Aの職務行為は、その与えられた具体的権限に基づいて行われたものであると認めるのに十分である。

 そして、右Aの行為自体は、列車車体にほしいままに貼付されたビラを取りはがして原状を回復するというものであつて、もとより日本国有鉄道の本来の正当な事業活動に属し、作業の方法、態様においても特段の違法不当な点は認められないのであるから、右が適法な公務の執行というべきものであることは疑いの余地がない。 

 すなわち、本件のように、法令により公務に従事する者とみなされる日本国有鉄道職員であって労働基準法の適用を受ける者に対する職務命令が、同法所定の労働時間の制限を超えて就労することをもその内容としており、かつ、その者の就労が右制限を超えたからといつて、そのために職務の執行が具体的権限を欠いて違法となるものではなく、これに対して暴行脅迫を加えたときは公務執行妨害罪の成立を妨げないと解するのが相当である。

 そうすると、これと異なる見地に立ち、被告人の本件所為につき公務執行妨害罪の成立を認めなかつた原判決は、法令の解釈適用を誤り、ひいて事実を誤認するにいたつたものであつて、これが判決に影響することはいうまでもなく、かつ、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。」と解するのが相当であると判示している。

 柴田孝夫判解は労働基準法違反がどの程度に法律上の効果を及ぼすかについては、労働者の保護と関係ない事項について、労基法違反があってもただちに当該事項を無効としなくてはならないものではない。強行規定であるから、これに違反する労働は保護にあたいせず、超勤手当請求権もないとするのは失当であるとする。

 例えば契約担当社員が三六協定未締結の状況で8時間を超える超過時間に顧客と大きな契約をした、それは労基法違反の時間での職務行為だからその効果は会社に帰属しないということはないと云う。

 そのようにまともな法曹は労働法の論理一辺倒の偏った考え方はとらない。

 労基法違反の超過勤務であっても、職務遂行が刑法上保護されることは、以下の判例によっても補強されている。

 

 

(7) 倉敷駅信号所事件・岡山地判昭50・1・17刑裁資料228-187

 

 マス・ピケ事犯、三六協定未締結の状況で、信号掛が職場を放棄したため、代務として駅長から転てつ信号業務を命じられた助役2名に対し、スクラムを組んで立ち塞がり、信号所への立入を阻止し、列車32本を最高154分、最低11分間に亘って停止遅延させた事案で、久留米駅事件方式により威力業務妨害罪の成立を認める。

 国労岡山地方本部副執行委員長S懲役五月、同書記長H懲役六月、執行猶予2年

 

 国労は昭和40428日もしく30日全国27地方本部各一ケ所以上で3時間以上のストライキ突入の指令を発し、岡山地本は拠点駅の信号掛等当日の勤務者全員を対象とすること、地本各支部・分会から合計1,500 名程度の組合員を動員することなどを決め、429日午後10時に倉敷駅をスト拠点駅に選び、昭和40430030分より三時間ストに突入した。

 被告人Sは午前038分ころ、西信号所信号掛N他二名が右職場を放棄したため、駅長から転てつ信号業務を命じられた助役Fが就労のため同信号所に立入ろうとするや、糸崎支部組合員ほか岡山地本の組合員ら約500名と共謀のうえ、スクラムを組むなどして信号所階段前付近に10列ぐらいの人垣をつくって立ち塞がり、同人の意思を制圧して、信号所への立入を阻止するなどし、同日午前137分ころまでの間約1時間にわたり転てつ信号操作を不能ならしめた。

 被告人Hは、同日午前033分ころ、東信号所信号掛K他二名が右職場を放棄したため、午前040分すぎころ駅長から転てつ信号業務を命じられた助役Hが8名の公安職員に守られて同信号所に向うや、Tら約60名の組合員と共謀のうえ、立錐の余地もなく立ち塞がり、あるいはスクラムを組むなどして同人の信号所への立入を三回にわたって阻止し、午前140分ころまでの間、同信号所の転てつ信号操作を不能ならしめ、よって、午前039分発予定下り207号急行列車「天草」ほか山陽本線、伯備線列車合計32本を最高154分、最低11分間に亘って停止遅延させ、もって威力を用いて日本国有鉄道の輸送業務を妨害した‥‥。

 

 弁護人は、FH両助役は三六協定無締結の効果をうけるから、両助役の就労は、違法と主張する。

 たしかに三六協定の締結されていない状態で時間外労働の業務命令がなされた場合右命令は明らかに労基法三六条に違反し違法なものといわなければならないが、右業務命令が労基法上違法であるからといって、直ちに、それに基づく業務が刑法二三四条の業務に該当しないというものではない。同法二三四条の業務としては業務主体がその地位において行なう業務であれば足りるものである。

 とすれば、本件においては前記のとおり両助役は倉敷駅の助役として信号業務に就労しようとしたものであり、右業務は刑法二三四条により保護される業務に該当する。また、本件ピケッティングは、いずれも右両助役の就労に対してなされた違法のものである。

 本件は、職場放棄又はそのあおり・そそのかし行為自体が問題とされているわけではなく、それに付随して生じた行為が威力業務妨害の構成要件に該当するとして起訴されたものであるところ、およそ勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について、刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたっては、その行為が争議行為に際して行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判断しなければならないものであることは、最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決(註-国鉄久留米駅事件)の示すところである。従って、威力業務妨害の構成要件に該当する本件各ピケッティング行為の違法性の判断は、基本たる争議行為(ストライキ)とは別に行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮してピケッティングとして相当性の範囲内にあるか否かが検討されなければならない。

 使用者は、争議中であるからといってその操業を中断しなければならない業務を負うものではなく、争議行為によって制約されない範囲において、操業を継続することができるのである。

 労働組合の争議の相手方としての使用者による自己労働力の利用として、本来争議行為による制約をうけないものであるから、ストライキに際し行なわれたピケッティングは、単に言論の自由の範囲内のものとしての平和的説得の範囲内においてのみ許されるものである。

 両助役は倉敷駅の助役として信号業務に就労しようとしたものであり、右業務は刑法二三四条により保護される業務に該当する。また、本件ピケッティングは、いずれも両助役の就労に対してなされた違法のものであり、公安職員は、やむを得ずこれを排除しようとしたに過ぎず、ことさら組合側を弾圧あるいは制圧する行為に及んだものと認めるに足る証拠はない。

 

 

(8)第二名古屋中郵事件・最二小判昭53.3.3民集32-2-97

 

威力業務妨害罪、不退去罪

被告人HNは全逓の中央執行委員、オルグとして組合活動を指導、被告人Uはその当時全逓愛知地区本部執行委員長で、被告人Оはその当時全逓名古屋中央郵便局支部長。

 

一審(名古屋地判昭39.2.20判時3834は無罪

 全逓名古屋中央郵便局支部は臨時大会において、昭和三四年一二月一日以降の時間外労働拒否、年末首繁忙業務(特に臨時小包便)不取扱の態度を決定し、秋季年末闘争に入っていた。

 昭和三四年一二月一日午後一時頃名古屋市内集配の小包臨時便79個が同局作業棟一階発着場に到着したが、同局の全逓労組員は闘争に入っていたため、同局小包課長МはN、全逓労組員SKらに対し取扱いを要請したが、同被告人らはその取扱いを拒否した。そこでМ課長は副課長に命じて、アルバイト学生数名を使用して年賀予備室へ運搬し、同室に保管し一二月三日朝現在においては同年賀予備室には小包の臨時便142個位が滞貨として残置されていた。

(註-臨時便とは、既設の取集便もしくは運送便によらず、臨時に開設された便によって、市内から名古屋中央郵便局に到達した郵便物を指す)

 局長、局次長は同月二日午前、М小包課長から報告を受けたが、局長は三日の日には臨時便の滞貨の解袋処理を全逓労組員に行わせようと決意し、三日午前一〇時頃、局長室に同局の管理者一〇数名を集めて、その決意を伝え、名古屋郵政局の人事課長、管理課長らを含め午後一時頃協議し、同日午後二時から文書による業務命令を発して右臨時便の滞貨142個位の解袋処理を全逓労組員に強行させることを決定し、T次長を現場総指揮者とし、事態が紛糾すれば警察官の出動要請を考慮すると云うことも決定した。

 三日午後二時一五分頃、М課長から小包臨時便の滞貨の解袋処理について口頭で作業命令を受けたU主事は、U副課長、Y普通郵便課長及び名古屋郵政局I管理課長らと共に、アルバイト学生SSHを伴って、郵袋運搬用の鉄車を押して、名古屋年賀室内にあつた臨時便の郵袋一四二個位の滞貨中一〇数個を同車に積んで同出入口からこれを作業棟受入作業室へ運搬しようとした。

 被告人О、U、Nらは、組合員から連絡を受け、臨時便の郵袋を受入作業室へ搬出しようとしている旨の連絡を受け、急拠全逓労組員約二〇名と共に同年賀予備室前へ集った。そうして全逓労組員約四、五名が同室北出入口附近で同出入口から半分位出かかつていた鉄車の前に立ふさがって、右鉄車を同出入口の外側から押し返し、他の組合員約二〇名はその後方に立ちふさがり、共に内側から鉄車を押し出そうとする管理者側と二、三分の間にわたって押したり押されたりの状態を繰返した。

 同日午後六時四五分頃、S局長の命を受けたK庶務課長は、同局作業棟四階年賀予備室前附近で、被告人Nに対し、口頭で同局からの退去を要求し、退去要求書を差し出したが、同被告人はこれを受取ることを拒否したので、同課長は右要求書を同被告人の足元に置き、一〇時頃迄の間同室前附近に集っていた全逓労組員に対し、携帯マイクを使用して、初めは五ないし一〇分後には一〇ないし一五分位の間隔で「当局職員以外の方は直ちに退去して下さい」「オルグの方は全員退去して下さい」などと断続的にその退去を要求した。

 同日午後七時一〇分頃、S局長を含め名古屋中央郵便局及び名古屋郵政局の管理者側約三〇名は、同年賀予備室前に赴き、局長及び庶務課長らが、同所に集っていた組合員らに対し「郵便物を出すからどいてくれ」と申し向けて、М課長ら数名が同室へ入ろうとしたが被告人四名を含む全逓労組員約二〇数名ないし三〇数名は、これを阻止しようとして同室入口附近にスクラムを組んで立ちふさがり「馬鹿野郎」などとののしり同室前附近から立ち退かなかつたため、同課長ら管理者側は入室することが出来なかつた。同七時三〇分頃、制報の警察官一個小隊約三〇名が到着したが、全逓労組員は「ポリ公帰れ、そんなことで年末警戒が出来るか、警官で郵便物を扱え」などと叫んで、警察署次長及び同警備課長らのマイク、携帯メガホン、プラカードなどによる退去をしないときは不退去罪になる旨の警告に応じなかつた。そこで警官側は組合員に反省の機会を与えるため及び一個小隊では組合員を排除することは困難であるとの理由で、同八時二〇分頃同所引揚げたので、管理者側もこれに応じて同所から引揚げた。

 同日午後一〇時頃、S局長及び名古屋郵政局K郵務部長から要請を受けた警察側は、計三個小隊約九〇名となって管理者側約三〇名と共に同年賀予備室前附近に赴いた。これに対して、被告人四名を含む全逓労組員は同年賀予備室北出入口前にスクラムを組んで坐り込んだので、S局長ら管理者側と警察側がこもごもマイクで退去を要求したり、退去要求文書を朗読したり、プラカードを表示したりして、同所から退去を求めたが、全逓労組員は労働歌を合唱するなどしてこれに応じなかつた。同一〇時一五分頃、管理者側が一団となって同年賀予備室へ押し入ろうとしたが、全逓労組員に押し返され入室出来なかつた。そこで同一〇時二〇分頃警察側は全逓労組員に対し「今から五分以内に退去しないときは不退去罪の現行犯として逮捕する」旨の警告を発したが、被告人四名を含む全逓労組員は依然として坐り込みを続けたため、同一〇時三〇分頃被告人四名は警察官によって不退去罪の現行犯として逮捕され、他の全逓労組員は、いわゆるごぼう抜きにより強制退去をさせられた。そこで管理者側は同一一時頃までの間に同年賀予備室内の小包臨時便の滞貨全部を同受入作業室へ運搬した。

(無罪の理由)

 昭和三四年一二月三日の本件当時においては郵政省と全逓本部、名古屋中央郵便局と全逓名古屋中央郵便局支部との間には労働基準法三六条に基く時間外協定は締結されて居らず、年末首繁忙に関する諸取り決めもなされず全逓労組員に対してはこれらの協定等に基く諸手当は勿論支給されず、年末首結束表に基く勤務指定表、担務表等も作成されていなかつたことが認められる。

 そうだとすれば、その労務を提供する義務は存在しなかつたものであるといわなければならない。そうして臨時便を取り扱う義務のない全逓労組員に対し、これを取り扱わせようとする管理者側の行為は違法な業務を全逓労組員に押しつけようとするものであると認められるから、右業務は刑法二三四条にいう「業務」には該当しないものである。

 仮りに本件業務が刑法二三四条の「業務」に該当するとしても、公共企業体等労働関係法一七条によって禁止される諸行為は業務の「正常」な運営を阻害する行為であると解されるところ、本件業務が正常なものであるとは考えられないから、被告人四名の行為は同法条には該当しないものである。従って被告人四名の行為は労働組合法一条二項の適用を受けるものであり、被告人四名の行為はいずれも暴力の行使に出たものでないこと、且つ、被告人らにおいて管理者側の企図する郵袋の搬出を阻止しなければ、管理者側の手により臨時便の小包郵便物が三階小包大区分室に通ずる投入口に投入されそのため必然的に同室勤務の全逓労組員が義務なき労働を押しつけられる結果となる情勢にあったことが認められるから、これらの事情を考えれば、被告人四名の行為は、労働組合法一条二項に云う労働組合の正当な行為に属するものと解すべきであり、従って、仮りに被告人四名の行為が刑法二三四条の構成要件に該当するとしても右行為は違法性を欠くものと云うことができる。

 

控訴審(名古屋高判昭45.9.30刑事裁判月報29号)棄却、無罪

 臨時小包便の搬出は、全逓との団体交渉を経ないままなされたもので不相当ではあるが、やむをえない措置であったから、刑法上保護されるべき業務にあたると述べ、三六協定未締結での業務が正当な業務でないという一審の判断とは違うものとなった。

「全逓労組の要求があつたのにもかかわらず‥‥全く団体交渉を経ないで、同労組員に、本件年末首繁忙事務処理(本件臨時便の処理)を行なわせようとした名古屋中央郵便局管理者側の行為は当を得たものでなかつたということができる。 

 しかしながら、一概に年末首繁忙時期といっても、その期間における郵便業務のうち、どこまでが通常事務であり、どれが繁忙事務であるかを明確に区別することは性質上不可能であり、繁忙事務すなわち臨時便、臨時便すなわち年末首繁忙事務と做すことも、速断し難いところであり、また一方既定便と臨時便とが郵便物の性質上の差異でなく、その取集もしくは運送手段による区別である‥‥これを郵便機関を利用しようとする国民の側からみれば、その差出した郵便物がいわゆる既定便として取り扱われるか、臨時便として取り扱われるかについて、全く関知しないところであって、それが不幸にして、臨時便にくみ入れられたがために、既定便に比し、著しく不利に取り扱われるとすることは国民感情として堪え難い事理に属し、郵政省管理者に対し、理由の如何を問わず、年末首繁忙時期における事務処理に関し、団体交渉が行なわれないでいる情勢下であるからとて、拱手して、国民の右不利益を看過すべく期待することは、到底容認し得る限りでない。ここに、公共事業である郵政業務の特性が強調されるべきであり、公労法第一七条第一項の立法の趣旨も亦ここに存すると思われる。上来説明の各観点から検討するとき、全逓労組が本件臨時便を取り扱う義務がないと認めるには躊躇せざるを得ないばかりでなく、本件臨時小包便を、その投入口より投入して、他の郵便物と混在させるに至るべき名古屋中央郵便局管理者側の本件臨時便の搬出行為が、原判決説示のごとく全逓労組員に義務なき労務を押しつけようとする違法な業務であるとまで解することができない。結局名古屋中央郵便局管理者側における本件臨時小包便搬出の業務は年末首繁忙時期における繁忙事務処理に関する三六協定を含む前記各事項について、労働組合側との団体交渉を経ないまま、あえてなされたもので不相当というべきではあるけれども、上記来認定の諸情勢の下においては、やむを得ない措置であって、やはり刑法上、保護されるべき業務にあたるものと認めざるを得ない。」とする。しかし、「被告人らの本件行為によって、右臨時小包便郵袋約142個(小包約800個)の原判示受入作業室への搬入(通常ならば約20分でできる)が、午後二時ごろから午後一一時ごろまで、約九時間遅延したことが明らかであり、一応その程度の郵便物処理の遅延を生ぜしめたものと認めることができる。しかし、この程度の郵便物処理の遅延をもつては、未だ国民生活に重大な障害をおよぼすものと認めるに足りないものと考えられる。‥‥本件行為は、一応、公労法第一七条の禁止する争議行為にはあたるけれども、その目的、手段、その行為の態様、程度、およびその郵便物処理におよぼした影響など、各般の観点からみるとき、労働組合法第一条第二項本文の適用による正当行為として、いわゆる可罰的違法性を欠き、これが未だ違法に刑法二三四条にいう威力を用いて他人の業務を妨害したものとは認め難い。」との述べ、三六協定について一審と違う判断だったが、臨時小包袋運搬阻止は、東京中郵判決・最大判昭41.10.26刑集208901の判旨に従い、約九時間の郵便物処理の遅延であって国民生活に重大な障害を及ぼしたわけではないので、労組法一条二項にいう「正当な行為」として違法性を欠くとして棄却した。

 

 上告審は破棄自判し、威力業務妨害罪と不退去罪の成立を認め、各罰金三万円に処している。

 原判決の依拠する東京中郵判決は、労組法一条二項刑事免責を肯定し可罰的違法性論をとるが、全逓名古屋中郵事件.最大判昭52.5.4刑集313182で明示的に判例変更されたゆえ、名古屋中郵判決の判断枠組(久留米駅事件方式を踏襲)にもとづいた判断である。

「原判決‥‥認定した前記事実は、威力業務妨害罪及び不退去罪の構成要件に該当し、かつ、いずれも公労法一七条一項に違反する争議行為であるから、他に特段の違法性阻却事由が存在しない限り、その刑法上の違法性を肯定すべきものである。原判決が違法性阻却を認めるうえで根拠とした、本件行為の目的、手段、影響のいずれの点も、その根拠となるものではなく、他に法秩序全体の見地からみて本件行為の違法性を否定すべき事由は見当たらない‥‥」と一刀両断に有罪と結論している。

 一、二審で争点になった三六協定未締結時の業務であって、労働基準法上違法であっても刑法上保護される業務であるか否かについて理論的な説示をすることなく、端的に名古屋中郵事件方式により有罪とする。

 

 名古屋中郵判決の判断枠組は以下のとおり(香城敏麿・国労松山駅事件・最二小判昭53.3.3刑集322159判解)

(イ)公労法171項違反の争議行為が罰則の構成要件にあたる場合には、労組法12項の適用はなく、他の特段の違法性阻却理由がない限り、刑事法上これを違法とすべきである。

(ロ)但し、右の争議行為が単なる労務不提供のような不作為を内容とするものであって、公労法171項が存在しなければ正当な争議行為として処罰を受けないようなものである場合には、その単純参加者に限り、当該罰則による処罰を阻却される。

(ハ)これに対し、公労法17条違反の争議行為にあたらず、これに付随して行われた犯罪構成要件該当行為の場合には、その行為が同条項違反の争議行為に際して行われたものである事実を含めて、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきか否かを考察してその違法性阻却事由の有無を判断しなければなない。

名古屋中郵第二事件は(イ)に当たる

 一審の「労働基準法三六条に基づく時間外協定の締結及び年末首繁忙業務処理に関する取決めがなされていなかつたので、全逓組合員には年末首繁忙業務に属する本件臨時小包便を取り扱う義務がなく、これを取り扱わせようとする管理者側の行為は、違法な業務を強いるもの」という判断は、二審で「認定の諸情勢の下においては、やむを得ない措置」と否定されたが、上告審はそれを上書きする理論は特に示されなかった。

 しいていえば、名古屋中郵事件方式の「法秩序全体の見地」ということになるが、とにかく、臨時便不取扱闘争は争議行為であり、控訴審の段階では刑事免責があるという前提だったが、名古屋中郵判決で刑事免責がないということになったのであるから、有罪とならざるをえないという判決である。

 検察官の上告趣意では臨時便不取扱闘争は、名古屋中郵支部においてのみとられた戦術で、他にその例を全く見ないものであり、原判決は、本件臨時便不取扱闘争の意義性格を十分に顧慮せず、形式的に争議権の行使としてとらえ、その実効性を重視したため、管理者側の業務遂行の重要性を閑却して本件阻止行為を正当とする誤りを犯したものといわなければならないとして、三六協定未締結による超過勤務拒否という全逓中央の戦術を法的評価について言及がなく、また控訴審が昭和45年であるためか、仙台鉄道管理局事件最高裁判決が昭和48年であるので、仙台鉄道管理局判決の判旨が取り入れられてないのでわかりにくい。

 これは、臨時便郵袋を投入口に入れるまで作業には一人全逓組合員がいたようだが、主に管理職とバイトで業務していて、その先の作業は時間外労働ではないということなのかもしれない。

 要するに臨時便郵袋を投入口に入れてしまえば仕分け作業は既定便と混在するので、臨時便につき時間外での処理を命じているものではなく、定時退庁でも遅くはなるが処理できるものなので臨時便郵袋を受け入れ作業室に運搬することは残業を命令する趣旨ではないから、以下の検察官の上告趣旨では三六協定未締結はさほど重要な問題ではないという認識のようである。

「従来勤務時間内の労働に関しても繁忙手当が支給され、かつ、これについても繁忙手当等繁忙事務処理に関する団体交渉の行なわれる慣行があつたことは認められるが、それが三六協定の交渉締結と併行し、かつ、不可分に行なわれていたことも事実である。すなわち、三六協定と切り離して、勤務時間内労働だけについて団体交渉が行なわれ、繁忙手当が支給された事実はないのである。従って、全逓名古屋中央郵便局支部が中央本部の指令に基づいて時間外労働拒否の戦術をとり、三六協定が締結されていなかつた以上、勤務時間内労働に対する繁忙手当について交渉がなされなかったのは当然であり、繁忙手当不支給の問題だけを切り離し、一方的にその責を当局側にのみ帰すことは誤りといわなければならない。もつとも、三六協定の締結拒否も、当局側が、いわゆる組合三役が職員でないことを理由に団体交渉を拒否したことに端を発しているのであるから、やはり責任は当局側にあるとの主張もあるかもしれないが、本件当時の公労法のたてまえ上当局側の団体交渉拒否はやむを得ないところであり、これを管理者側の搬出行為の不当性に結びつけることは適当でない。また、時間外労働は三六協定がなければ命ずることができないが、勤務時間内における労働密度の変更は管理運営事項に属し、元来、団体交渉を経る必要のない事項である。従って、仮にそれが団体交渉事項にはなり得るとしても、それだからといつて、交渉を経なければ事務量の増減ができないという性質のものではないのである。」

 

 

8-5 新方針の理由その3-労基法上違法就労でも正当な事業活動として刑法上保護される意義

 

 全水道東水労の三六協定破棄闘争の意味は、管理職に業務命令すると犯罪になるぞとして、労働者の保護と関係ない職制麻痺闘争、争議行為目的、特に時間外の職制の労務指揮権を消滅させ業務命令させないことを狙いとしている。管理職も組合役員に従い、保安協議で組合が承諾するケースを除き業務命令を一切させない体制となっている。

 しかし前記判例、総括すると、労働基準法違反がどの程度に法律上の効果を及ぼすかについては、労働者の保護と関係ない事項について、労働基準法の労働時間制限を超えた就労であっても、仙台鉄道管理局事件判決により刑法第234条によって保護される業務であることは確定しているである。

 だから組合のいいなりになる必要はない。司法の理論的説示は、3つの系統があるように思える。

 

 

(1)職務命令を二分して権限を与える使用者の行為は労働基準法で無効にできないとする理論

 

 

 仙台鉄道管理局(春闘仙台駅)事件・最二小判昭48525が最重要であることはいうまでもない。

 柴田孝夫判解によれは、最高裁のテクニックは、労働者に一定の職務を処理する権限を与える管理職の行為と、一定の職務に従事させる義務とを区別して、職務命令の性質を二分して、権限を与えるだけの使用者の行為を違法・無効とする理由は、労基法321項からは出てこないというものである。

 本件は、非組合員が春闘対策本部に召集され、組合員の行動の監視、違法行為の阻止および排除等の任務に従事すべきことを内容とし、執務時間についてはあらかじめ制限を付さない趣旨のものであったからであるが、広義に解釈すれば、マニュアルワーカー、工場労働者を別として、多くの事務職員は経常的な業務でも特定の職務を処理する権限が与えられており、所定時間で終了しない場合、自発的な残業をすることは普通みられることである(私などは毎日残業で、日が暮れないうちに帰宅することはなく、定時退庁は三六協定破棄時やノー超勤ウィークだけが普通だった)。

 この理屈が職員課職員の特殊なケースか汎用性のある議論かは判然としないが、少なくとも春闘対策本部の業務が該当する。所定時間外だからダメということにはならない。

 狭く解釈するとしても、たとえば三六協定未締結でも災害時の業務命令は労基法33条でできるが、あらかじめ日時が指定されてない災害時の応急給水拠点要員が、給水所に休日・夜間等の所定時間外に立ち入り、応急給水の準備を行う権限が認められているのと同じ理屈になる。

 最高裁は車両ボディの「ビラ剥がし行為」を「日本国有鉄道の本来の正当な事業活動」であり、刑法第234条によって保護される業務とし、時間外労働の非組合員が非難される立場ではないことも明らかにしているのである。

 類似した理屈の判例として国鉄八代駅事件の一審・熊本地判昭40319がある。被任命者又は権限を授与された者が事実上の公務員として行為し、形式上与えられた権限内で権限発動の具体的条件等を充足して行動する限り、これを公務の執行として刑法第九五条第一項によって保護すべき場合があると解するのというのが、国鉄当局は、助役は労働基準法第四一条第二号の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するとの見解に立って、職員を指導し、H八代駅長及びО助役もこの見解に従って行動‥‥違法が適法に与えられた抽象的職務権限を時間的に拡張する点に附着するに過ぎないこと等を考慮すると、本件当時О助役は事実上の公務員として行為していた者というべく、その形式上拡張された権限内で、権限発動の具体的条件等を充足して行動する限り、これを公務の執行として刑法第九五条第一項によって保護すべき場合であると解するのが相当であるとする。

 労働法上違法であっても権限授与された者の公務執行は適法なので刑事法上保護されるという理屈である。

 そうすると仙台鉄道管理局判決の趣旨からすると、就労を拘束的に義務付ける部分の効力はないとしても、一定の職務を処理する権限を与えられた労働者は、刑法上保護される。

 問題は、列車乗務員の説得連行や物理的運行阻止をやるストライキに対抗し、代務の乗務員の召集と、代務の業務命令を行うことは、これは一定の職務に従事させる業務命令の範疇といえる。国鉄でよくあるパターンはこの図式にあてはまらないと思うが、春闘仙台駅判決は「労働基準法の適用を受ける者に対する職務命令が、同法所定の労働時間の制限を超えて就労することをもその内容としており、かつ、その者の就労が右制限を超えたからといつて、そのために職務の執行が具体的権限を欠いて違法となるものではなく」と述べていることから、少なくとも刑法上保護されるものであることは同じだろう。

 

 (2)久留米駅事件方式、名古屋中郵事件方式の「法秩序全体の見地」

 

 倉敷駅信号所事件(マス・ピケ事犯)控訴審判決は、久留米駅事件方式によって、第二名古屋中郵事件最判は名古屋中郵事件方式によって、一刀両断に有罪とした判例だが、威力業務妨害罪が成立するということは、三六協定未締結での業務遂行が刑法上保護される職務としているといえるのである。

「法秩序全体の見地」とはたんに可罰的違法性論(藤木英雄東大教授の刑法学説)の採用を排除するだけではない。労働協約が契約の相対効原則に反するように、市民法と労働法は矛盾し衝突する側面が多いわけだが、労働基準法の強行規程であれ、それを絶対視する考え方を最高裁はとっていない。「法秩序の全体的見地」とは市民法・公法と労働法が衝突する場合、労働法を優位とみる考え方をしないのである。違法争議行為を有利にすすめる趣旨の闘争であるから、三六協定破棄闘争が争議行為そのものでないとしても、違法争議行為目的の争議行為付随行為は、違法性が強く推定されるという理論からすれば、職務遂行の権限が消滅するということにはならないといえる

 久留米駅事件方式と同じく名古屋中郵判決の汎用性は大きいのではないか。 

 違法争議行為目的の争議行為に付随した行為がなされた場合、違法性推定機能を強化した判断基準というところである。

 三六協定破棄闘争が争議行為なくても争議行為目的だから違法性が強く推定されるという理屈である。

 名古屋中郵判決から引用すると「公労法一七条一項に違反する争議行為が刑法その他の罰則の構成要件に該当する場合には、労組法一条二項の適用はなく、他の特段の違法性阻却事由が存在しない限り、刑事法上これを違法と評価すべきものであるが、そのことと、右の争議行為に際しこれに付随して行われた犯罪構成要件該当行為についての違法性阻却事由の有無の判断とは、区別をしなければならない。すなわち、このような付随的な行為は、直接公労法一七条一項に違反するものではないから、その違法性阻却事由の有無の判断は、争議行為そのものについての違法性阻却事由の有無の判断とは別に行うべきであって、これを判断するにあたっては、その行為が同条項違反の争議行為に際し付随して行われたものであるという事実を含めて、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを考察しなければならない」とする。

 つまり三六協定破棄闘争が争議行為と確定できないとしても、ストライキ配置の前日に必ず配置される戦術で、これは、ストライキ指令時に職制の業務命令をさせない、職制の機能を麻痺させて違法ストライキを有利にすすめるためのものである。職制麻痺闘争が悪質であり、使用者側が一方的に違法行為をしているとみなし、労働基準法に罰則があるぞと管理職を脅して、労務指揮権、管理意思を制圧する違法争議行為目的なのであり、これらに対抗して、操業を維持するため業務命令することは使用者の正当な権利であり、労働基準法の罰則とバッティングする件は、法秩序全体の見地から判断されるのが道理である。

 春闘仙台駅判決は「労働基準法の適用を受ける者に対する職務命令が、同法所定の労働時間の制限を超えて就労することをもその内容としており、かつ、その者の就労が右制限を超えたからといつて、そのために職務の執行が具体的権限を欠いて違法となるものではなく」と述べていることと合わせて考慮し総合的に判断すると、全水道東水労の三六協定破棄闘争は、一方的、違法行為目的のものであるので信義則に反し、組合側が労基法違反といかに糾弾したとても、三六破棄闘争自体が争議行為の疑いが濃いだけでなく、そうでないとしても違法行為目的の行為であり、争議行為に対抗する措置として、違法性は阻却されるという前提でおそれることなく業務命令すべきであり、国鉄のようにそういう方針のもと必要な業務については職務命令すべきである。

 

(3)公労法1条の趣旨から業務命令を正当化

 

 国鉄荒尾駅事件福岡高判昭3787が三六協定未締結の状況で「臨時の必要がある場合には、その必要な限度において、労基法所定の労働時間を延長し、又は休日に労働させ得ることは、公労法第一条、労基法第三三条の法意に照し、当然の事理といわねばならない。」としてストライキの機関士に代わって代務を命じられた助役の閉塞機の操作を正当化している。公労法1条の法意とは「正常な運営を最大限に確保し、もつて公共の福祉を増進し、擁護することを目的とする。」これは地公労法1条も同文である。

正常な運営を最大限確保しなければならないから、過半数組合の争議行為目的の闘争には、必要不可欠な業務は業務命令すべき。

 

(4)労働基準法33条と日本国有鉄道法33条2項の適用

 

 国鉄荒尾駅事件福岡高判昭3787と、国鉄八代駅事件福岡高判昭4149いずれも助役に業務命令したケースだが、両控訴審判決は、労働基準法33条が三六協定未締結での業務命令を正当化する理論になっている。

 

労働基準法三十三条 災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。

② 前項ただし書の規定による届出があつた場合において、行政官庁がその労働時間の延長又は休日の労働を不適当と認めるときは、その後にその時間に相当する休憩又は休日を与えるべきことを、命ずることができる。

③ 公務のために臨時の必要がある場合においては、第一項の規定にかかわらず、官公署の事業(別表第一に掲げる事業を除く。)に従事する国家公務員及び地方公務員については、第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。

 

日本国有鉄道法、第三十三条 日本国有鉄道は、左 の各号の一に該当する場合においては、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十二条、第三十五条又は第四十条の規定にかかわらず、その職員をして、勤務時間をこえ、又は勤務時間外若しくは休日に勤務させることができる。

 一 災害その他により事故が発 生したとき。

 二 災害の発生が予想される場 合において、警戒を必要とするとき。

 三 列車(自動車、船舶を含 む。)が遅延したとき。

 

 災害発生の予想と労働組合による説得連行や列車運行阻止その他の行為とを同一視する理論である。高等裁判所判例であるから、無視できない。労働基準法33条をこのように解すれば、国鉄だけでなく汎用性の高い理論ではある。

 しかし最高裁判決である仙台鉄道管理局事件・最二小判昭48525ではこの理論は言及がなく、検察官の上告趣意にも引用されていない。

 荒尾駅事件がストライキ、八代駅事件がホーム上のデモ行進に対して、仙台駅事件はビラはがしということで33条の適用事案と判断しなかったのかどうかは判然としないが、最高裁が明示的に否定しているわけではないので、ひとつの先例とみることはできる。

 名古屋中郵第二判決のように全逓との三六協定が締結されない場合でも業務命令をすることがあるということであるし、そのような場合、職制側が処罰されたということは聴いたことがない。組合の脅しなど気にする必要はない。

 国鉄は、少なくとも、三六協定未締結で、説得連行や列車運行阻止のストライキの場合、ストで乗務しない、もしくや組合側に身柄を確保されて収容された乗務員の代務となる職員に業務命令するのが通例であり、乗務員の争奪戦もやる。総合的に判断し、違法承知でも必要不可欠な業務は業務命令することが妥当と考える。 

 

8-9ストライキ決行時の非組合員を締め出す目的で三六協定破棄している問題点

 

 組合役員はこの闘争を重視し、繰り返ししつこく職制に業務命令の権利はなく、犯罪になるから、超過勤務をしない号令をかけている。

 三六協定未締結の状態では、一日八時間を超える労働を命ずる部分は、被用者の同意ないし承諾の有無いかんにかかわりなく労基法に反するので、職務執行を適法ならしめる具体的権限が管理職にはないとするのが組合側の見解である。

 三六協定拒否闘争は平成16年の9日間連続のケースがあり、年間17日は越えたはずで、この場合は、時限ストライキよりも業務阻害が大きい。近年は年間10日を越えることはなく、長くて3日連続程度にすぎないが、その本質はいやがらせではなく、ストライキの前日は必ず、未締結の状態にしているので、職制に業務命令をさせない口実をつくること、全員参加のストとして成功させることが目的と考えている。

 実際私は平成611年に在籍していた江東営業所のスト決行時(3回あった)に、組合活動家から八時半以前は、庁舎内に立ち入るな、庁舎外に出ろと指図された。また江東営業所では包囲型ピケッティングがあり罵声も浴びせられた。職制は傍観し無関心である。労務指揮権ははく奪されることに多くの管理職が同意しているようであり、非組合員は、組合役員と管理職の双方から庁舎への入所は認めないことがある。出勤簿、現在はICカードリーダに電磁的に出勤記録の入力だが、してはならないとの指図を受けることになるのである。

 要するに組合側の主張は、出勤時限午前八時半のより前は、管理職の労務指揮権が消滅しているので、出勤時限前(829分まで)に押印することになっている出勤簿、現在はICカードリーダの入力だが、829分以前の作業は正当な業務と認めない。ゆえに、組合の勧誘、説得に応じない非組合員であっても、平時と同じように、ICカードリーダ作業をしてはならない、必然的に欠勤となるとの論理である。

 組合に違法争議行為の統制権はないのに、ユニオンショップのように全員参加の同盟罷業にこだわっており出勤記録は絶対させない構えなのである。

 私は組合と管理職共謀による非組合員の締め出し、ICカードリーダ入力拒否、出勤停止指示は違法と考えるが、就労したい職員をも締め出して全員参加でストを成功させる。三六協定破棄闘争の重要な目的である。

 地公労法112項は事業場の閉鎖を認めていない。当局は、ストライキに対抗して、非組合員や反対派組合員等に業務命令して操業を維持するのが筋で、それは正当な権利であり義務でもあるのに放棄し、組合のいいなりになっている、屁理屈でストライキ完全防衛に協力している。

 水道局は、三六協定破棄で、就業時間以前の業務命令ができないので、ピケの取り締まりも、横断幕、立て看板、ビラ貼りなどのスト準備、セキュリティ破りのスト待機、中止・解散命令ができないとするのは組合側の立場だが、管理職もこの立場をとっているので、労務指揮命令権を放棄し、違法行為や犯罪構成要件該当行為をいっさい認めていくことこそ、コンプライアンスになってしまっているという、異常な現実は変えなければならないのである。違法行為助長こそコンプライアンスとなってしまっている実態は深刻な問題である。

 遵法精神から就労したい職員の権利と義務の否定であり容認しがたい。全水道東水労は常に高率の、スト権一票投票の批准を誇示しており、当局に圧力になっていることを宣伝している。裏面に闘争課題が書かれており、多数により批准された場合は、本部闘争委員会の指令に従い団結して行動する旨表明するとの文章がある。しかし国労広島地本組合費請求事件・最三小判昭50.11.28民集291016等のとおり、争議行為は違法なので組合員に対する内部統制権は否定されている。組合員の圧倒的多数がストに賛成しても、その違法性が減殺されるわけではない。非組合員はもちろん組合員においても違法争議行為の勧誘・説得に応じる義務はないことは確定している事柄である。

 したがって、公務員の職場においては管理職が職務命令を発出して、スト参加者を切崩したとしても、支配介入には当たらない。にもかかわらず、当局は、口が腐っても組合の意向に従っているか、あるいは忖度し職務命令をやらないのである。

 東京都は、組合を刺激する職務命令は凍結状態で、組合に下手に出るのが管理職の処世術としてまかりとおっている。しかしまともな官公庁や自治体、公共企業体は、職務命令をきちんとやっているので改めなければならないということである。

 

 

8-10ストライキ決行時の非組合員を締め出す目的で三六協定破棄の対抗策

 

 組合と当局が共謀して非組合員を締め出し、職員の就労する権利を侵害しているのは、それなりの対策が可能なので、この闘争の対応策は抜本的に改める必要があると考える。

 私の提案は、三六協定未締結時の業務命令について理論的説示のある仙台鉄道管理局事件・最二小判昭48.5.25の判旨に沿って、非組合員に時間制限のない職務権限を与えた場合、たとえ労基法上違反であっても、時間外の職務遂行は正当であり刑法上保護される業務であると判示した論理を利用すべきだと思う。

 本件は、労務課に所属する非組合員がビラ剥がし作業中、国労・動労の春闘支援に動員された全電通組合員によって顔面を殴られたので傷害罪だけでなく公務執行妨害罪が成立したものである。

 被害者Aに対し発せられた「本件職務命令は、昭和三九年四月一五日午前六時から仙台駅構内において組合員の行動の監視、違法行為の阻止および排除等の任務に従事すべきことを内容とし、執務時間についてはあらかじめ制限を付さない趣旨のもの」であつたというのであり、最高裁は時間制限のない命令を認めている。ただし三六協定未締結なので「就労を拘束的に義務付ける部分の効力に影響を及ぼし」うるとも説示している。

 水道局では組合が出勤時限以前に非組合員がICカードリーダにより電磁的に出勤記録を入力することを許さないことを方針とし、当局も就業規則違反と違法行為は承知でその方針に従っている。出勤時限以前の登庁から締め出すのが組織ぐるみの方針であるゆえ、逆にストライキ対策本部を立ち上げ、労務担当職員だけでなく、名目的であっても非組合員全員を召集し、春闘仙台事件の被害者と全く同じ権限を付与することを提案する。

 状況としては仙台駅事件の被害者と同じ状況にすることにより、最高裁判例により労基法上違法な時間の業務であっても、刑法第234条によって保護される業務であることは、確定した判例だからである。

 これにより、三六協定が締結されていようがいまいが、時間の定めのない権限(組合員の監視等)を付与されている以上、組合の論理と同じ土俵に立っても出勤時限前の登庁は正当な行為になる。

 「使用者を規制の対象とする強行規定であるが、右の目的と関わりのない、労働者とその職務執行の相手方その他の第三者との間の法律関係にただちに影響を及ぼすような性質のものではない」とした仙台鉄道管理局事件・最二小判昭48.5.25は相当な重みがあるというべきで、組合が文句いっても粉砕できるのである。

 そんなことをしなくても、出勤時限前の登庁は服務上の基本的義務履行なので全く合法だが、組合が三六協定破棄を口実に管理職の意思を制圧して、基本的義務履行を妨げ業務命令をさせない違法行為をやる以上、その対抗措置をとるということである。

 もっとも、仙台駅事件判決が、就労を拘束的に義務付けることには影響及ぼすとの見解があるため、三六協定未締結の時間外では、非組合員全員が監視、記録、写真撮影などに協力するとは限らないし、やってくれればそれにこしたことはないが、抗議活動で管理職に暴力をふるった場合はその証人にもなってくれるだけでもよい。たんに名目的な権限付与により、組合側のスト当日の出勤入力阻止について三六協定未締結を口実にさせないことだけでもよいのだ。

 組合の論理を否定して、ストライキ時就労命令することができるようにできれば、目的は半分以上達成していることになるのである。

 非組合員にこの任務を与えるのは、スト当日組合員の立て看板等工作物の設営、ビラ貼り、ピケットなどの組合員の行動の監視、抑止だけでなく、就労命令、中止解散命令、職場復帰命令をしないで組合となれあっている管理職も監視してもらうという趣旨である。綱紀粛正に一石二鳥の効果がある。

 スト対策本部へ上申され事実と確認できれば、管理職も違法行為に加担したとして処分する。

 この提案は組合と非組合員を対立させることになるので、呑めないと当局はいうだろうが、現状の就労命令をしないで、違法行為と犯罪構成要件該当行為を是認している在り方は改革しなければならないのであり、攻勢に出ることは必要である。

 当局が本気で取り締まる。従来の本部中闘だけに絞るやり方でなく、事業所勤務の組合員も懲戒処分の対象にする。違法争議行為に内部統制権がないことがわかれば、組合員でも良識的な部分はストから離反していくはず、正常化のために必要である。

 

8-11 結論(三六協定破棄闘争の対応)

 

 内閣法制局意見昭32.9.9法制局一発22(前田正道編『法制意見百選』766頁は 従来更新を重ねてきた三六協定の更新拒否が、超過勤務自体の条件改善のためではなく、労使間の他の要求貫徹の手段としてなされるときには、禁止された争議行為にあたるという趣旨)とこれに近似した見解をとっている北九州市交通局事件・最一小判昭63.12.8民集42107が三六協定締結拒否を争議行為と認定しているので、全水道東水労の三六協定破棄闘争は、争議行為と判断される可能性が高いとみてよい。

 とはいえ当局は適法としている。組合の正当な権利行使と言うだろうから、仮にそうだとしても、ストライキ配置の前日と当日は必ず三六協定破棄をしているので、この戦術は、事実上、職制麻痺闘争であり、管理職の時間外の労務指揮権を消滅させることによりスト突入を有利にすすめる争議行為に付随する行為とみなしてよいと思う。そしてその目的の一つが、非組合員の出勤時限前に入庁してICカードリーダに出勤入力させない。管理職、職制にストライキ準備行為の抑止や就業命令等をさせないことにある。

 三六協定破棄じたいがグレイだとしても、争議行為目的という点ではクロ、違法行為目的の行為であるから、この場合、労働基準法違反だとしても、法秩序全体の見地から、一方的に労働法優位、組合に有利な結論にはならないと判断する。

 今後は、法内超勤(水道局の日勤は7時間45分なので15分は法内超勤になる)命令は行うのは当然、労基法違反の18時間以上であっても、経常業務で不可欠な業務と、あらかじめ時間外に委託業者発注の監督、検査業務などは日程を動かせないので、三六協定破棄の時間外でも業務命令することを提案する。

 また組合が管理職に下位職を押し付ける、管理職を組合が顎でこき使う滑稽ないやがらせはやめさせ、業務命令する。

 くわえて非組合員の出勤時限前に入庁してICカードリーダに出勤入力することを妨害させないため仙台鉄道管理局事件・最二小判昭48.5.25の判例法理をそのまま活用する。非組合員全員をスト対策本部に召集し、時間制限のない組合員の行動の監視、違法行為の阻止および排除等の権限を付与するものとする。権限を付与する業務命令なら、就労が労働基準法の制限を超えたからといつて、そのために職務の執行が具体的権限を欠いて違法となるものではないと最高裁は言っているので、三六協定破棄でも、出勤時限前の入庁が正当化され、職制はこれにもとづき、出勤入力して就労命令を堂々とできることになるからである。

 違法行為の助長こそコンプライアンスとしなっている東京都の体質は異常で深刻であり、これを打開するためのアイデアを提案するものである。

 

 

9 「服務規律確保の周知(服務の示達)」の訓示は廃止して「警告及び職務命令書」に切りかえる

 

9-1「服務の示達」というインチキな慣行

 

 年間最低3回以上あるストライキを配置した闘争期間の水道局のストライキ対策はきわめて簡素で、対策本部は設置されず、2通の文書を流して終わりである。

 事前警告は、事実上局長名義で組合執行委員長宛の「中止の申し入れ」だけです。これは本部中闘に限定して責任をとらせる前提になるものです。地公労法違反と書かれているから意味のある警告であり、争議行為の企画、決定、指令発出を理由として本部中闘は処分する。

 各事業所においては職員部監察指導課の指示では下部組織(支部・分会)役員にストの中止の申し入れをすることになっているが、書面の手交を義務付けておらず、文言も決まっていない、実際に見たことがないので口頭で行われているかも不明。不透明なのである。

 職員一般には「警告」ではなく、違法行為とかストに参加した場合不利益賦課の措置とか、権限を留保するという文言はタブーで、あたりさわりない訓示をマイク放送、口頭で行う。最近の例ではグループウェアで通知が多くなっている。

 これが「服務の示達」という慣行ですが、後段で実例を示しますが、事業所勤務の組合役員以下は懲戒処分の対象にしないことを示唆する文書なので、「警告」ではない。

 当該組織行動が違法であり、実行したときは違反者に対し懲戒等を辞さない等の警告書や職務命令書を交付するのが普通の対応だが、東京都は故意に職員一般に対しては、違法行為という文言を入れない「お約束」になっているので、地方公務員法291号、32条を適条とした懲戒処分に結びつかない文言の訓示を行っている。インチキ臭いこと、少なくとも片八百長と言ってもよいでしょう。

 国の省庁やまともな自治体は、組合幹部に対しても、職員一般に対しても同盟罷業は違法行為なのでストに参加した場合は関係法令に照らして措置をとる等の「警告」をする。しかし東京都では職員一般は、初めから懲戒処分の対象としない方針のために、地方公務員法2911号、32条(法令等遵守義務・上司の職務上の命令に従う義務)の適条を避けるためにあえて「警告」をしていないという非常に怪しい慣行なのである。

 

 プレス発表は以下のとおり。

 

令和元年1219日付【東京都水道局プレス発表】

12月20日(金)の労働組合ストライキについて

1 組合の行動態様

(略)

2 当局の措置

1)組合に対する警告

2)職員に対する服務規律確保の周知

3)管理職員による事務事業の支障の防止 

 職員一般に「警告」していないことは上記のプレス発表で、組合に対する警告と職員とでは別の対応としていると公表しているとおりです。国の省庁の警告は全職員対象なので東京都は違うことをやっている。

 プレス発表の「服務規律確保の周知」とは外部の人にはわかりにくいが、東水労が争議行為、3割動員決起集会やストを配置すると、職員部監察指導課で、局長名義で各部(所)長あての「職員の服務について」いう文書Aと、職員部監察指導課長から庶務担当課長あての「服務の示達等について」という文書Bの2通が流され、この文書に具体的な争議行為対応の指示があり、各課長も、概ねこれに沿った行動をとり、それ以上のことはやらない。これは私が知る限り、平成10年代以降は同じである。

 重要なことは、これらの通知文書に同盟罷業が地公労法111項違反の違法行為ということは一言もないことである。 

 つまり「服務規律確保の周知」「服務の示達」とは各部(所)長といった幹部あてに、服務規律を確保せよという局長名は形式的な文書が毎回発出される。このコピーは管理職が受け取っていることを指します。

 「示達」とは官庁用語で、上級部署から下級部署に指図するもので、例えば予算要求後の査定が終わると「予算の示達」があります。各予算科目につきこの範囲で執行してくださいという趣旨のものです。

 実効ある服務規律の確保する措置は行われないが、訓示があるので、局長が服務規律の確保を管理職に求めているということはなんとなく知らされているので、「服務規律確保の周知」は虚偽ではないとはいえる。正直に書かれてますが、「警告」はやっていないということはプレス発表していることなので、

 北九州市などは事前に職務命令書を交付していますが、東京都はストライキ当日の就労命令もいっさいしません。

 また、一般論として当局側は争議行為に際して、非組合員を動員して写真撮影、実況見分等により参加者の状況を記録し、現認検書を作成し、所属長が上申のうえ、処分権者が現認検書にもとづき一方的に行う[山口浩一郎「公務員の争議行為と懲戒処分-現業国家公務員の場合を中心に」『ジュリスト』4721971.2.15]。

 東京都は初めから事業所勤務の組合員は懲戒処分しない方針なのでやらない。職員一般に実効のある警告や職務命令はなされない。

  

文書Aは、形式的な指示で、昭和301211日の文書は以下のとおり

多摩水道改革推進部長 各部(所)長殿

 

職員の服務について

 

 「全水道東京水道労働組合は、「2018秋季年末闘争勝利」等と称し、1217日(月)午後315分から都庁ふれあいモールで3割動員決起集会を1220日(木)午前830分から2時間のストライキを計画している模様である。

また、東京水道労働組合も(略)‥‥

 集会等の行動に参加するために。多数の職員が職場を離れ、かつ、権限ある上司の承認なく勤務しない等の行為に及ぶことは、当局業務の正常な運営に支障を生じさせるばかりでなく、都民の信頼に背くことは明らかであり、これを放置することはできない。

 よって貴職におかれては、所属職員に対し、全体の奉仕者として公共の利益のために全力を挙げて職務を遂行することを命ずるとともに、管理体制の厳正を期する等、服務規律の確保について特段の配慮をされたい。」

 終りの方の「全体の奉仕者として‥‥」云々は、地方公務員法30条の引用で、平時の服務規律の基本原則を言っているにすぎない。ストライキ対応で普通使わない。

 違法行為の抑止のため警告せよとは言ってない、「職務規律の確保」をせよというのは一般論にすぎない。

「業務の正常な運営に支障を生じさせる」とは言っている。それは地公労法111項違反と推測できる文章であるが、違法行為とは一言も言っていないのである。地方公務員29132条の適条で懲戒責任は問わない方針を暗に示唆している。それを示唆することは違法行為を助長することだから、職員部監察指導課起案の文書であっても、局長名の文書である以上、違法行為の助長は組織ぐるみの合意事項とみなしてよい。

 「放置することはできない」はストを決行すれば従来どおり、本部中闘を停職としてお茶を濁す意味と受け取ることができるので強い言葉と受け取れないのである。

 文書Bに具体的指示がある。「服務の示達」を3割動員の前に行うことと、スト前日に「職員の皆さんへ」を掲示することになっており、「服務の示達」とは、文言は指定しておらず、現場の実態に応じた対応ができるもので、概ねA文書に書かれている文言か、後述のストの前日に掲示するよう指示されている「職員の皆さんへ」文書をなぞったあたりさわりのない形式的文言を読み上げるのが通例である。

通称「服務の示達」というマイク放送、もしく口頭、グループウェアで行う管理職も近年では少なくないが、管理職による訓示を3割動員の前に行うのがルーチンとなっている。

「職員の皆さんへ」は令和4年のケースでは杉並営業所では貼り出されない。庶務課長から指示がないからということで実際にはなおざりとされている。

 

 

9-2「服務の示達」の実例

 

 過去のグルーブウェアでの「服務の示達」の一例を引用する。内容はA文書をなぞったものである。

2015/1201

職員の服務について

世田谷営業所のみなさま

全水道東京水道労働組合は、「2015年春闘勝利」等と称し、

310日(木)午後330分から都庁ふれあいモールで3割動員決起集会を、

316日(水)午前830分から1時間のストライキをそれぞれ計画している模様です ストライキ等の行動に参加するために、多数の職員が職場を離れ、かつ権限ある上司の承認なく勤務しない等の行為に及ぶことは、当局業務の正常な運営に支障を生じさせるばかりでなく、都民の信頼に背く結果となることは明らかであり、これを放置することはできません。よって職員のみなさんは.全休の奉仕者として公共の利益のために全力を挙げて職務を遂行していただきますようお願いします

〇〇〇〇

 

 違法行為とはいってないので、地方公務員法291号、32条の適条はしませんとあえて示唆していることはA文書と同じことで事実上、違法行為を助長する内容である。

 しかし違法行為の助長は現場の管理職だけでなく、違法行為として対応せよと言っていない局長以下の指図にもとづくものなので、組織ぐるみで違法行為に好意的といえる。

 

 

9-3「職員の皆さんへ」の掲示は形骸化

 

 ストの前日まで貼りだすよう指示されているが、杉並営業所では庶務課長の指示がないといって貼りださない慣行で、形骸化し管理職も熱心さは全くない。貼りだしても「警告」でないので実質意味がない。

 

職員の皆さんへ(平成20年頃の例-現在もフォーマットは同じと考えられる)一例)

                           東京都水道局長

  皆さんは、都民全体の奉仕者として、公共の利益のために全力を挙げて職務を行う立場にあります。とりわけ、今日都民が都政によせる関心と期待にこたえるため、皆さん一人ひとりの自覚と職務への精励が従来にも増して必要な時期にあります。

 とりわけ、今日都民が都政によせる関心と期待はさらに高まりつつあり、この期待に応えるため、皆さん一人ひとりの自覚と職務への精励が従来にも増して必要な時期にあります。

ところで、全水道東京水道労働組合は、明日318日に始業時から2時間のストライキを予定している模様です。

 皆さんが一斉に職場を離れることは、都民の生活に大きな影響を与えるばかりでなく、都政に対する信頼を都政に対する信頼を裏切ることになります。

 皆さんが、公務員の本分を十分にわきまえ、都民の批判を招くことのないように良識のある行動をとられることを求めます。

 

 能書きだけ長くて肝心なことが書かれてない。同盟罷業が違法行為とは一言も言っていない。ゆえにごまかしである。これでは地方公務員法2911号と、32条の適条により懲戒責任は問いませんよと示唆しているのも同じで、短時間のストで、管理職は締め出さないし、良識のある行動だと反論の余地をあたえている。

 それでも、上記の文面は同盟罷業が違法であることを示唆している文章と好意的に理解すると痛い目にあうことになっています。実際には管理職はストに参加したくない職員に敵対的で、就労を申し出ても、管理職はスト破りをゆるさず、ピケットラインを尊重し、出勤時限前に登庁し、カードリーダに電磁的に出勤記録を入力する服務上の基本的義務行為をしないよう組合と同じことを言って、非組合員を締め出し、事故欠勤を強要しようとするし、それは組織的方針なので、この文書が「みせかけ」にすぎないことは明白なのである。「服務の示達」が、「警告」にあたらないごまかし「偽装」の訓示と評価できるので是正されなければならない。

 

9-4比較的近年の厚生省の争議行為対応との比較

 

 国の省庁の事前警告では、同盟罷業は違法行為なので厳正に対処するとか必要な措置をとらざるをえないという文言が通例であり、国家公務員法821項(地公法291号と同じ)、同981項(地公法32条と同じ)の適条により懲戒処分の前提として欠かせないからである。

 比較的最近の国家公務員の争議行為としては、●全日本国立医療労組事件・東京高判平12.11.29労判840があるが、平成31113日、全国の国立病院等の支部において、11年ぶりに組合員約25,000人が、勤務時間に約29分以内食い込む方針で職場大会を開催したケースは以下のとおりである。

 国立西多賀病院(仙台市)で、「同病院長名義の西多賀支部支部長あての『貴支部は1113日に勤務時間内職場大会を計画している模様であるが、国家公務員はいかなる場合においても争議行為を行うことは許されず、このような違法行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし若しくはあおってはならないこととされている。当局は、貴支部が違法な争議行為を行った場合には、厳正な措置をとらざるを得ないので、違法行為が行われないよう貴支部の自重を強く要望する。」旨の警告書を用意して、庶務課長及び会計課長両名が、同月8日、西多賀支部副支部長に同警告書を交付しようとしたが、同人は右警告書の受領を拒否した。

 東京都水道局では、各事業場の支部分会組合役員に対してストの中止申し入れをすることはB文書いで指示されているが、見たことがないし、文面も決められておらず、現場の自由裁量なので、国のようにきちっと警告はしていないと考えてよい。

 また西多賀病院は、12日、同病院長名義の職員あての「全医労西多賀支部の時間内職場大会について」と題する書面において、「伝えられるところによれば、全医労西多賀支部は来る1113日早朝時間内職場大会を計画している模様であります。すでに承知のとおり、勤務時間内職場大会は国家公務員法で禁止された争議行為でありますから、このような違法行為には、絶対に参加しないようにして下さい。もしこれに参加した場合には、関係法令に照らし、必要な措置をとらざるをえないので、皆さんの良識ある行動を望んでやみません。」と記載し、この書面を、西多賀病院内の四か所の掲示板に掲出して、職員に対し、違法な時間内職場大会への参加を辞めるよう警告を発した。

 厚生省では全職員に違法行為だから必要な措置をとると警告しますが、東京都の「服務の示達」ではその文言はなく、は例えていうなら「王手をかけない詰将棋」見え透いた「片八百長」といえるだろう。「無気力相撲」と言ってもいい。やる気があれば違法行為には必要な措置をとると言うはずで、それは口が裂けても言わないのだから、片八百長そのものである。

 事実上地方公務員法2911号、2号、3号、32条適条はさせないという、組合側の業務管理意思にしたがったものであり、むしろ各事業所勤務の組合員個人の懲戒責任を問わないことを暗号のように示し、躊躇なしに争議行為に参加できるようにするためのうさん臭い慣行である。

 実際、組合員はマイク放送の際、せせら笑っており、偽装、警告としては贋物であることは知られているのである。

 

9-5 その他官庁・私企業の警告の事例との比較

 

判決文に出てくる警告の実例

(1) 指導者は厳格な処分、参加者全員戒告以上の処分と警告した例

 

  • 奈良県上市局自動改式阻止闘争事件・東京地判昭43930訟務月報14-10-1171

 郵政省の昭和三六年三月一一日付大臣名義の全逓あての警告書

「今次のいわゆる春期斗争の組合の違法な斗争計画に対しては、さきに厳重な申入を行ったにも拘らず、組合は、電通合理化反対斗争と称し、全国各地で合理化のための切替工事阻止の斗争を行っており、あまつさえ、奈良県上市・下市郵便局等の自動改式を実力をもつて阻止せんとし、のみならず、三月一八日には電話交換業務を取り扱う郵便局三一七局を選定して、勤務時間内一時間の職場大会を実施することとしているが、まことに遺憾に堪えないところである。電気通信合理化計画は、国民の切実なる要望にこたえ、社会の発展・技術の向上革新に即応して当然に行うべくして実施しているのであり、それが円滑に実施されるかぎり、組合が合理化反対の理由としている人員整理に結びつくものでもなく、労働条件の低下を招来するものでもない。‥‥しかるに、組合は、いたずらに反対斗争を行ない違法な実力行使によって合理化の阻止をはからんとしているのであるが、まことに理不尽な行為といわざるを得ない。組合が、あえてかかる違法・無謀な斗争を行うにおいては、省としては、その責任者・指導者等については、法規の命ずるとおりの厳格な処分をもつて臨むとともに、参加者全員に対しても戒告以上の処分を行うものであることをここに明らかにし、組合が良識をもつて実力行使を即時取りやめるよう申入れるとともに、重ねて警告する。」

 

(2)指導者は解雇、職場大会参加者は戒告と警告した例

 

  • 長岡電報電話局事件・新潟地裁長岡支部判昭441125労民20-6-1553

 本件(昭和36年)三・一六闘争は、前述したように、組合員全員を勤務時間内職場大会に参加させて公衆電気通信業務等を完全にまひさせる方針を採るという徹底した争議行為であって、ひとり公労法第一七条第一項の規定に違反するのみならず、日本電信電話公社法第三三条の規定にも違反する重大な違法行為であることは明らかであつた。そこで、被告公社は、総裁から全電通労組中央執行委員長に対し、本件勤務時間内職場大会に参加した者は戒告以上、また、これを指導した者は解雇を含む厳重な処分を行なわざるをえない旨を付記し、違法行為の暴挙に出ないよう厳重な警告を発し、また、地方にあっては各電気通信局長および各電気通信部長ならびに各報話局長等からそれぞれ対応する組合機関の責任者に対し、前記総裁の警告書と同趣旨の警告書を手交する等の方法により違法行為を中止するよう厳重な警告を発した。

 本件長岡拠点闘争においても、三月一五日新潟電気通信部長Tから全電通労組新潟県支部委員長Мに対し、また、同日長岡報話局長Оから全電通労組新潟県支部長岡分会長Sに対し、それぞれ前記趣旨の警告書を手渡した。そのほか被告公社の各機関の職員一般に対しても、それぞれの局長等からほぼ同趣旨の警告が行なわれた。

 

(3)参加者は刑事処分を受けるおそれがあると警告した例

 

  • 全逓名古屋中郵事件・名古屋地判昭39220刑集313517

 昭和33317日中闘指令第三七号が発せられ、20日日午前830分より2時間の勤務時間内職場大会実施が指令され、他方管理者側も同月18頃から、名古屋中央郵便局長名義で、時間内職場大会参加が郵便法七九条に違反するとの理由で、参加者は刑事処分を受けるおそれがある旨の警告文を同局正面玄関に掲示し、同月19日には同局正面玄関及び北門入口に立入禁止のビラを貼付するなどして、組合員の職場大会参加を阻止しようとした。

 

(4)「厳重に対処せざるを得ない」との警告

 

  • 国・中労委(JR東日本)事件・東京高判平12414中労委DB (東京地判平2676中労委DB)

「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守るとともに、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。しかし、国鉄千葉動力車労働組合は、平成18年3月10日以降、安全運転闘争と称する争議行為を行おうとしている。会社の持つ運行管理権を奪うかかる違法な争議行為を行った国鉄千葉動力車労働組合の組合員に対しては、厳重に対処せざるを得ないことを警告する。」

 

(5)「厳正な措置をとる」旨の警告

 

  • 全農林71賃金闘争事件・東京地判平2419判時1349-3 

 農林水産事務次官が、本件各ストライキが実施される直前である昭和五七年一二月一四日に、全農林が予定している同月一六日のストライキについて全農林中央執行委員長に対し、違法行為が行われた場合には、当局は厳正な措置をとる旨の警告を発したこと、更に、同事務次官事務代理である農林水産大臣官房長が、同月二二日に、全農林が予定している同月二四日のストライキについて同委員長に対し、同様の警告を発したこと、

 

(6)「関係法令に基づき必要な措置をとらざるをえない」との警告

 

  • 全運輸近畿陸運支部(大阪陸運局)事件・大阪地判昭54830民集3971408

(昭和44年)一〇月二三日、総理府総務長官は国公共闘議長に対し、公務員の自覚と反省を促し、違法な行動を行うことのないよう自重を求める旨の警告を発すると共に談話を発表し、同年一一月一二日、運輸事務次官は、全運輸中央執行委員長に対し、違法行為を行うことのないよう自重を求める旨の警告を発した。さらに、同月八日から一〇日にかけて被告局長から近陸支部長である原告Nに対し、大阪陸運局総務部長から本局分会長Мに対し、同局管内各陸運事務所長(‥‥)から各分会長(‥‥)に対し、それぞれ「伝えられるところによれば、貴組合においては来たる一一月一三日勤務時間内職場大会を計画している模様であるが、いうまでもなく国家公務員には、かかる争議行為は法令によって禁止されているところであります。当局は貴組合がもし伝えられるような違法行為を行なつた場合には、関係法令に基づき必要な措置をとらざるをえないので、貴組合の自重を強く要望します。」と記載した警告書を交付して警告し、さらに、当局は、同月八日から同月一一日にかけて各職員に対し、同月六日付運輸事務次官名による本件職場大会に参加しないようにとの内容を含んだ「職場のみなさんへ」と題した警告書を交付して、本件職場大会に参加することのないように自重を求めた。これに対し、近陸支部及びさん下各分会は、右警告書をあえて受取らず、或いは交付されたものを分会役員などにおいてまとめて当局に返還するという状況であつた。右に加えて、和歌山県陸運事務所においては、同月一二日に、所長交渉の際、原告Hから翌一三日に勤務時間内にくい込む職場大会を中庭で行う旨通告があったのに対し、同所長は勤務時間内にくい込む職場大会は違法であるのでとりやめること、庁舎管理規程に基づく目的外使用の許可を受けることについて口頭で警告し‥‥(以下略)

 

(7)「相当な処置をとらざるを得ない」との警告

 

  • 日本専売公社山形工場事件・昭53331仙台高判民集353565

昭和44年)山形工場においては、四月一七日午前八時の始業時刻から、包装課に勤務する原告ら一六七名は、いっせいに勤務につかず、勤務時間内くい込み行動、(本件争議行為)を行ない、同日午前一一時一〇分までこれを続行した。

この本件行動に際し、山形工場は、四月一五日以降構内の事務室、食堂、廊下、作業現場など職員の目のつくところに、組合の要求について交渉中であるにもかかわらず、正常なルールを無視して違法不当な行為をすることは容認できず、かような業務阻害行為は法の禁止するところであり、かかる違法不当な行為を行なつた場合相当な処置をとらざるを得ないこと、また、万一勤務時間内くい込み行動があってもこれに参加せず就労の意思のある職員は、四月一六日午前中に申し出るべき旨の警告文を掲示したうえ、これに参加しないよう、また右掲示を見るよう再三放送し、さらに同一七日、本件行動に参加しようとする職員に対し就労の呼びかけを行なうとともに、山形工場支部に対し、本件行動により職場を放棄して開催中の集会をただちに解散し、職員を職場に復帰させるよう再三にわたり通告した(二回以降は、復帰させないときは、厳正な措置をとらざるを得ない旨をも予告している。)のであるが、山形工場支部は、これを無視して本件行動を行なつたものである。

 

(8)事後の責任追及の権限を留保するとの警告

 

◯ 済生会中央病院事件・中労委昭和5412 5日命令 中労委DB

 警告書並びに通告書昭和50年4月5日

「このような集会を勤務中に行うことは労働協約第9 (就業時間中組合活動の禁止)ならびに就業規則第23 (職務専念義務)、第24 (規則を守る義務)に違反する行為であります。……今度かかる行為を絶対に繰返さないよう、ここに厳重に警告しておくとともに責任追及の権限を留保しておく……。」

 警告書5月10日

「………業務を放棄し、………多数の組合員を対象に………集会を行ったことは、労働協約第9 条並びに就業規則第23 条、第24 条に違反する不当な行為である。………この件については、4 5 ………病院見解を明らかにしたように責任追及の権限を留保する。かかる行為を今後も繰返し行った場合は、病院として重大な決意をもって臨むことをここに正式に通告しておく。」

 

 以上、引用したように、より深刻な実力行使の場合、例えば長岡電報電話局(保安要員なし、管理職締め出し)事件では、責任者、指導者の18条解雇と、職場大会参加者の戒告処分を事前の警告で示しているが、それ以外はつぎのような言い回しになる。

 

「厳正な措置をとらざるを得ない」(全医労事件役員向け)

「必要な措置をとらざるを得ない」(全医労事件全職員向け)

「厳重に対処せざるを得ない」(JR東日本-千葉動労安全確認闘争)

「厳正な措置をとる」(全農林71賃金闘争)

「関係法令に基づき必要な措置をとらざるをえない」(全運輸近畿陸運支部事件)

「相当な処置をとらざるを得ない」(日本専売公社山形工場事件)

 

 東京都水道局の場合、懲戒処分は本部中央闘争委員会の3名ほどに集約されるので、本部委員や本部中闘以外の本部中執、統制委員、支部分会役員は、懲戒処分の対象にはじめからなっていないので、全職員向けになされるいわゆる「服務の示達」の訓示の場合、違法行為とは絶対言わない。そうすると、地方公務員法32条の適条で、291号により懲戒処分事由になってしまうからであるが、「厳正な措置」「必要な措置」をとるという言い回しは絶対にやらないとのが「お約束」になっている。

 官庁で「必要な措置」と言っているのは、29分未満就業時間に食い込む職場集会の場合である。単純参加者は必ずしも懲戒するものではない、せいぜい厳重注意ぐらいのニュアンスがあるが、水道局の場合は1時間ストが多いのであるから少なくとも「必要な措置」と言ってもよさそうだが、それすらやらない、タブーと化しているということでインチキであり、偽装警告に過ぎないということである。

 

 

9-6 東京都の「服務の示達」で「違法行為」とは絶対言わない理由

 

 職員一般向けの「服務の示達」の慣行や組合の機関責任だけを問うのは、東京都水道局だけでなく、確認していませんが知事部局も同じだと思います。これはオール都庁の問題になると思います。

 同盟罷業が地公労法111項前段違反であり、それを「そそのかし」「あおる」行為も同条項後段違反だが、「服務の示達」の実施としての訓示、あるいは「職員のみなさまへ」の掲示では、同盟罷業が違法行為と絶対に言いません。

 その理由はこれまで組合側の次の見解を東京都が受け容れているためだと推測しています。

「争議行為は労働者の団結体である労働組合自体の行為であり、しかも争議行為は多数組合員の集団的、共同的な活動であることを本質とする行為であるから、違法な争議行為が行なわれた場合にも、その責任は団体である労働組合が負担すべきであって、争議行為を個々の参加者の行為に分解して、個別的労働関係の場において、個々の参加者の責任を追求することは許されない‥争議行為は労働者が企業秩序の拘束から集団的に離脱し、使用者の労務指揮権を排除することを目的とする行為であるから‥‥個々の労働者の行為に対し、懲戒をすることを許されない」

 ○都城郵便局懲戒処分取消請求事件・東京地判昭46.11.12労民2261030における全逓の主張で、同判決は懲戒処分が取り消され、全逓の勝利となった下級審判例ですが、同様の見解を全水道東水労の分会書記長が言っていたのを聴いており当時から官公労は定番でなされていた主張であるからです。

 この趣旨に大筋で沿うかたちで、争議行為の違法行為責任は組合だけが負い、個々の参加者の責任は問うことは許されないのだから、争議行為が違法であっても職員一般に対しては違法行為として警告する必要はないということなります。

 ただし都側のメンツもあるため、組合中央執行委員長に対しては、違法行為である旨警告し、本部中闘の機関責任を問うという形で停職処分するが、職員一般に対しては、組合の言い分通りとするということです。組合と職員一般は別々の対応にするというやり方です。

 都城郵便局判決は、中郵判決や都教組判決が維持されていた時代の判例で、違法性の弱い争議行為は、公務員法制で禁止される争議行為に当たらないとした神戸税関事件・第一審判決神戸地裁昭和44.9.24等の懲戒処分を取消した判決が相次いだ時期でもありますが、昭和48年以降累次の最高裁判例により、違法性の強い争議行為でなければ争議行為は禁止されないと言う見解は否定され、組合側の違法行為の責任は組合だけが負い、ストに参加した個々の組合員の懲戒処分は許されないという見解は、再三のべてきたように、神戸税関事件・最三小判52.12.20とりわけ全逓東北地本懲戒免職事件.最三小判昭53.7.18民集3251030「労働者の争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも、多言を要しない」という判示により、最高裁が明示的に否定しているので、45年以上前に決着がついている問題である。

昭和40年代の雰囲気のある労務管理をいまだに続けている東京都は全く時代錯誤だといわなければならない。

職員一般に違法行為と警告しない東京都の方針は争議行為を違法行為と職員に自覚させないことになり、違法行為を増長させる要因になっているので、シットダウンストライキのような物理的業務遂行妨害も業務用機器の隠匿もなんでもありということになってしまっており、何でも許される状況になっていしまっている。この点は都議会議員に是非質問し是正を勧告してもらいたい。

 

 

9-7 新しい警告書の提案

 

 そこで私の提案は、「服務の示達」と、現行の「職員の皆様へ」の掲示をやめて、新しい警告書兼職務命令書の交付に切り換える。マイク放送と掲示のほか、文書で手交を義務づける。

 職務命令書を突き返したり、一括返還を指図したりした場合は非違行為として記録します。

 

 

 東京都水道局職員に対する警告兼就業命令書(案)

 

                                            東京都水道局長 〇〇〇〇

                                            所属長 〇〇〇〇

 

 全水道東京水道労働組合は、〇月〇日勤務時間職場離脱3割動員集会、〇月〇日に8時30分より2時間のストライキ、また自治労連東水労は1時間のストライキを予定していますが、上記の行動は、「職員及び組合は、地方公営企業等に対して同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。また、職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、唆し、又はあおってはならない」と定める地方公営企業等の労働関係に関する法律11条1項に違反し、庁内管理規程に違反する行為でもあります(この文言に対応して庁舎管理規程に無許可演説.集会の禁止の改正要)。

 争議行為は集団的組織的行動でありますが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものでなく、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者は懲戒責任を免れません(全逓東北地本事件.最三小判昭53.7.18民集32-5-1030)。従ってストライキ実行に指導的役割を果たした場合はもちろん、単純に参加した場合においても関係法令に照らし必要な措置をとらざるをえません。

 労働組合は統制権の行使を理由として、かかる違法な争議行為に参加することを強制することは許されず、組合員は上記組合行動の指令に服従すべき義務はなく、これに参加を促がす勧誘、説得を受忍すべき義務はありません(国労広島地本組合費請求事件.最三小判昭50.11.28民集29-10-1634、全逓横浜中郵事件差戻後控訴審.東京高判昭47.10.20判時689、動労糸崎駅事件控訴審 .広島高判昭48.8.30判タ300)。

 従って、職員各位は出勤時限前にICカードリーダの所定操作によって出勤記録を自ら入力し、定められた時刻より職務を遂行するとともに、当該組合行動の時間に職務放棄しないことを命令する。

 ICカードリーダの出勤記録を自ら入力することは、「勤務時間等規程」、「処務規程」、「事務処理要領」などの規程上、職員の基本的な服務上の義務でありますので妨害は容認しません。

 また争議行為に際して、スト参加の慫慂、庁舎構内での集会、組合旗、横断幕、立て看板等工作物の設置及無許可で旗・幟・プラカード・たすき・ゼッケン・はちまき、拡声器等を所持又は着用したままの無断立ち入り、ビラ貼り、ビラ配りを禁止します。

 地方公営企業等の労働関係に関する法律11条1項違反の行為については、当局には地方公務員法第29条1号1号、2号、3号、第32条、第33条、第35条の適条により、懲戒処分等に付す権限、もしくは地公労法12条によって解雇する権限があることについて注意を喚起します。

 また当該争議行為は違法であり、労組法1条2項は適用されないので、争議行為に際してあるいは付随して積極的な業務遂行妨害、違法行為目的による犯罪構成要件該当行為がなされる場合には、違法性が強く推定され、厳正に対処せざるをえないので注意を喚起します。

 

 上記はくどいかもしれないが、東京都水道局職員は組合に洗脳されてしまい、違法行為を実行しても責任は問われないと認識しており、意識改革が必要です。

 ストに参加した組合員は賃金カットされますが、賃金カットされず事故欠勤の非組合員も含めた数がスト参加者ということで、たぶんほとんどすべての職員(保安要員除く)がストに参加する。しかしこれも異常なことで、よその職務命令している官公庁では、ストに参加しない職員も少なからずいます。

 国労であれ、動労であれ、全逓であれ当局の業務命令に従う組合員がいますが、東水労は異常に統制がとれている。それは管理職が業務命令(就業命令)しないからです。国鉄や郵政は業務命令している。

 例えば北九州市である。昭和42年に谷伍平市長が、争議行為には厳正に対処する旨を公約して当選したこともあり。懲戒処分も免職や停職一月以上が少なくなく量定は厳しい心証があるが、昭和4411.131時間半のストの参加率は、門司区880名中330名(38%)、小倉区1760名中500名(28%)、八幡区1710名中340名(20%)、戸畑区2180名中440名(20%)(北九州市職員組合事件・福岡地判.56.8.24労民323513)にとどまっています。ストライキの取り締まりをやっている効果とも考えられ、この点、職員一般に、警告も就業命令も、懲戒処分もしない東京都は、違法行為を助長していることは疑う余地がなく、従来通りの組合の意向に従いストライキ協力を続けたいのなら、コンプライアンス経営宣言を撤回するよう公営企業管理者に迫っていただきたいと思います。

 私の警告書案を採用すれば東京都の信用を回復ができます。突き返えされたり、抗議で職場が荒れるからできないというかもしれないが特別査察チームを創設して、非組合員の動員などして対策本部を立ち上げて対策すればよいことで、収拾がつかなくなるので馴れ合いの方が無難といって当局が逃げようとするなら、都議会議員は正常な業務運営の維持が管理職員の債務の本旨だと喝を入れてください。

 もっとも管理職は組合役員に普段から平身低頭の人も少なくないから、職務命令になれてないので、組合の抗議活動で殴られたくない言う人がいると思う。ある程度訓練期間をとり、荒れる職場対策としてチームの設置等を準備万端のうえ、実施時期を猶予延期することにやぶさかではない。

 旧郵政省の例では事前に職員に就労意思を確認し就労意思を表明しない職員に業務命令を発出している(昭和48427日(4時間スト)、昭和5012.8.18時間スト)熊本貯金局事件・熊本地判昭63.7.18、労判523、国鉄末期の昭和61215日の千葉動労ストでは、電車の運休を減らす努力として津田沼機関区等が乗務員に対し「私は、昭和 年 月 時 分 私の意思で就労することといたします。ついては、組合のストライキ指令に従うことなく、駅(区、所)長の命令する業務に従事いたします。」との確認書を提出させている(国鉄清算事業団事件・千葉地判平5.3.15)。

 警告に加えて事前に職員に職務命令書を交付している例として北九州市の昭和431081時間スト(北九州市清掃事業局事件.最二小判昭63.12.9民集4210850)、北海道釧路支庁昭41.10.21、昭43.10.8の事案(北海道釧路支庁事件・札幌高判昭56.2.29労民325231)などがある。

 国鉄久保田駅事件・福岡高判昭51427刑裁月報8-4・5-212(佐賀地判昭49330で国鉄当局は、西部支部長および門司鉄道管理局長において一般職員に対し闘争に参加しないようにとの警告を局報等に掲載し、久保田駅においてもかねてから立てていた同駅構内および東西両て子扱所の立入り禁止の立札に加え、さらに両て子扱所階段付近に勤務者以外の立入りを禁止する旨の掲示をなし、また担当助役を介して同駅職員に対し平常どおり勤務するようにとの業務命令書を手渡す等の対策を講じた。

 近年では、北教組の平成20120日の1時間ストがあるが、道教委は30分以上職務離脱者全員一律戒告処分としたが、地公労法111項が適用される単純労務職員が戒告処分を不当として救済を申立てたが、道労委の平成23624日命令書(中労委データベース参照)に「129日、 G 養護学校の O 校長は、朝の職員打合せにおいて職員に対してストライキに参加しないよう指導し、所属長訓示を掲示の上、職務命令書を B を含む職員に手交した。」とある。本件は札幌高裁が救済命令取消、最高裁棄却。

 

9-8 新方針

 

 一般職員向けの「服務の示達」と、現行の「職員の皆様へ」は、違法行為という文言がなく、事前警告としてはインチキなので、97の新しい「警告書兼職務命令書」の交付に切り替る。マイク放送と掲示のほか、文書で手交を義務づける。

 全員手交ができなくとも最低限支部・分会の組合役員には手交を義務づける。職務命令書を突き返えしたり、一括返還を指図した場合は非違行為として記録したうえ、ストが実行された場合は、懲戒処分事由に追加し、量定の加重を行う場合があるものとする。

 

 

10 スト待機-深夜未明の滞留不許可

 

10-1 スト待機とは

 

 全水道東水労は年間34回はストライキを配置し闘争する。スト配置というのは組合用語だがその前日を最終回答日として闘争する日程のことである。前回のスト決行が令和元年であるから、ストを回避することが多いのではあるけれども令和五年度は4回、11月、12月、1月、3月に配置された。スト前日は当局の最終回答を受けて、中央委員会が開催され、そこでストライキを回避するか、決行するかの判断がなされるが、早い場合は午後7時、遅いと深夜、未明にまでずれこむことがある。

 組合はスト前日の夜から当日の朝方にかけて、各事業所に役員を待機させ、指令の組合員への伝達、スト集会準備などをさせることになっている。

 スト前日の夜から当日は三六協定を破棄しているので、職員一般は締め出されるが、組合役員はスト待機という任務ゆえ、深夜、未明に事務室内に滞在、ないし出入りをすることが認められている。

 

 杉並営業所では2年前に、次のような事件があった。

 令和41222日スト配置日に早朝中央委員会報告があり組合分会長兼中央委員〇〇が演説し、そのあと朝、所長、営業担当課長代理、営業係の庶務担当〇〇、3者で深刻な話をしていたので何かと思ったら、昨日スト待機でセキュリティに不具合、所長と〇〇が1階はいいが234階で不具合との話をしていた。そのあと、別の組合役員と20分ぐらい〇〇が話、その前に、〇〇とも話、四時十分、四時三十分と言っていた。そのころ〇〇が侵入したのが原因らしい。〇〇は警報もならなかったので問題ないと思っていたなどと話していた。

 要するに、〇〇がスト待機で、未明の4時すぎに事務所入り、何をセキュリティ破りの操作をしたので機器に不具合が生じた。

 平成21年から5年間在籍していた中野営業所が、スト待機の日は事前に警備会社に連絡して、警報が鳴らないよう措置を指示していた。平成61113日のスト配置前日は〇〇総括課長代理が組合中央委員の〇〇に対し、入室の方法を話していた。

 当局はスト待機を組合の業務として全面的に支持し、セキュリティ破りも認めているのである。

 

10-2新方針

 

 深夜未明であれ、災害時などの召集なら話は別であるが、事務室深夜未明の立入は庁舎管理権の行使により拒否、刑事処分も検討する

 スト待機の主要な目的が指令伝達とストが決行された場合のスト準備であり、地公法111項違反の違法行為を目的とするものゆえ、目的外使用であり、事務室利用の便宜供与を認めることは違法行為の支援、助長であるから、事務室立ち入り拒否すべきである。パトロールをして現認、退去命令する。新規則では無許可組合活動は勤務時間外でも禁止しているので対応できるので、スト待機を禁止する。

 むろん24時間稼働している部署では深夜でも出入りできるのであるが、警備会社と契約しセキュリティを稼働している部署のセキュリティ破りは建造物侵入罪を成立させるべきである。

 

10-3先例

 

 指令伝達は地公労法111項後段の「そそのかし」「あおり」に当たり、違法行為のためにセキュリティ破りまで認めて許可する理由はなく、スト準備も認める必要もないわけである。

 地公労法111項違それ自体には罰則規定はないが、労組法12項の刑事免責が適用されないことは、指導判例である全逓名古屋中郵事件判決・最大判昭52.5.4により明らかなことであり、これは公労法判例だが地公労法違反のストライキを別異に解する理由はない。

 全逓名古屋中郵(第二)事件・最二小判昭53.3.3刑集32297香城敏麿判解は、名古屋中郵事件大法廷判決を次のように要約した。

(イ)公労法一七条一項違反の争議行為が罰則の構成要件にあたる場合には、労組法一条二項の適用はなく、他の特段の違法性阻却理由がない限り、刑事法上これを違法とすべきである。

(ロ)但し、右の争議行為が単なる労務不提供のような不作為を内容とするものであって、公労法一七条一項が存在しなければ正当な争議行為として処罰を受けないようなものである場合には、その単純参加者に限り、当該罰則による処罰を阻却される。

(ハ)これに対し、公労法一七条違反の争議行為にあたらず、これに付随して行われた犯罪構成要件該当行為の場合には、その行為が同条項違反の争議行為に際して行われたものである事実を含めて、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきか否かを考察してその違法性阻却事由の有無を判断しなければならい。

 名古屋中郵事件の建造物侵入の行為は(ハ)にあたる。「被告人らは、公労法171項に違反する争議行為への参加を呼びかけるため、すなわち、それ自体同条項に違反するあおり行為を行うため、立入りを禁止された建造物にあえて立ち入ったものであって、その目的も、手段も、共に違法というほかないのであるから、右の行為は、結局、法秩序全体の見地からみて許容される余地のないものと解さざるをえない」と結論している

 スト待機は、争議行為そのものではないがそれに付随する行為、争議行為目的なので違法性を阻却する余地はないことなる。

 ちなみに、建造物侵入罪については、全逓釜石支部大槌郵便局事件.最二小判昭58.4.8刑集373215が、管理者側に有益な先例といえる。「刑法130条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである」とする。

 このため、私の提案では新規則に勤務時間外であれ無許可組合活動を禁止事項としているので、規則制定と周知だけでも管理者が容認してないと判断できる。そのうえに、当局が管理意思をアナウンスする。災害時対応等の緊急の場合を除き、深夜未明のセキュリティがかかった時間帯の事務室の無許可出入りを禁止することを職務命令すべきである。現状では、庁舎管理者がスト待機を知っていながら容認しているので犯罪が成立しない。

 

10-4根拠 

 

 スト待機の重要な目的が指令の伝達なので違法行為である地公労法111項後段の「唆し」「あおり」の恐れがあるという理由により、規律ある業務運営態勢を維持する当局の施設管理権にもとづく。

 地方自治法238条の47項により行政財産の目的外使用として不許可としてもよい。

新規則2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない。

 

10-5 処分

無許可立ち入りを現認したうえ、ストが実行された場合は懲戒処分事由とする。十分な証拠の確認のもとに刑事処分検討(住居侵入罪)。

 

 

11 ストライキ準備行為-中止命令

 

11-1 新方針

 

 西部支所ではストライキ決行時に、ビラ貼りのほかICカードリーダを紙でふさぐ工作をし、組合旗の掲出、横断幕、が用意された集会を過去みている。平成半ば以前だが、江東営業所や千代田営業所で組合旗のほか立看もあり、ストの準備がなされるが、以下の規則違反として撤去命令する。

 

11-2 根拠

 

 東京都水道局庁内管理規程違反第五条10の禁止事項違反。地公労法111項後段の「唆し」「あおり」の恐れがあるという理由だけて、規律ある業務運営態勢を維持する当局の施設管理権にもとづく。

新規則5 職員は、庁舎、局施設構内において、許可なく業務外の目的で車両・旗・.幟・拡声器・.プラカード・横断幕・立看板・テントその他危険物を持込んだり、設営してはならない。又、許可なく業務外の目的で、泊まり込み、座り込み、通行規制、練り歩き、集団行進をしてはならない。

 

 12 ピケッティング-中止命令

 

12-1 新方針

 

 従来、違法行為の慫慂は正当業務のように認められており、ピケの監視や中止命令はなく放置されるが、今後は、中止・解散命令する。

 全水道東水労のピケット態勢は主として役員とその助勢者。過去の経験では出勤簿を押印(現ICカードリーダに出勤入力)させないための見張り、説得が基本で、入庁後、多衆で包囲して罵倒する行為はあった。また三六協定破棄なので入庁は許されないと言ってくる場合もあった。ただ、両腕を抱えられるような逮捕行為はない。物理的に阻止するスクラムを組むこともないが、和泉庁舎や新宿営業所ではICカードリーダを紙で塞ぐ工作がなされた。

 管理職が非組合員に就労命令せず、事故欠勤を容認するなどスト完全防衛に協力する。それゆえマス・ピケに遭遇したことはない(ただしマス・ピケの変態である職場占拠には遭遇した)。

 違法行為の慫慂それ自体が地公労法111項後段違反であり、多衆による包囲、通行妨害は庁舎管理規程違反、新就業規則(5)違反として、中止、退去命令し、監視、写真撮影し、現認検書の上申を義務づける。

 ピケッティングは同盟罷業だけでなく、平成2625日の中野営業所の業務委託拒否闘争では、〇〇本部委員が勤務時間中オルグ演説し、当日の人事課の退職派遣説明会の入場を阻止するピケを張った。そうしたものも中止命令をしていないが、説明会の開催と出席したい職員に対する妨害なので、当局は認めていないが地公労法違反の違法行為である。

 ピケが小人数の場合は、地公労法111項後段の違反として戒告以上の処分対象とし、物理的に就労を阻止する大量動員ピケがあった場合は、解散命令など管理意思を示し威力業務妨害罪を成立させるようにする。

 

12-2根拠

 

 地公労法111項後段の「そそのかし」「あおり」に当たる違法行為。

 庁内管理規程第五条3号13号

新規則2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない

3 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない

 なお、組合側がこだわっている。職員全員を欠務させ、スト破りを認めないこと。ICカードリーダに出勤入力することを阻止することは「勤務時間等規程」、「処務規程」、「事務処理要領」などの規程上、職員の基本的な服務上の義務の否定であり、就業妨害とみなす。

 スト当日は三六協定が破棄される慣例だが、既に述べたとおり、最高裁は、三六協定未締結で労働基準法違反の時間外労働であっても職務の執行が違法となるものではなく、刑法234条によって保護される業務に該当するとしている。組合のいう労基法により労務指揮権が消滅するということはないのであって、労基法上違法であっても違法を承知で職務命令ができると考えられる。業務命令してはならないという組合側の理屈に従う必要はない。出勤時限前の出勤入力は前記就業規則で服務上の基本的義務なので、管理職が妨害することは許されない。

 また前記3で述べたように、非組合員はスト対策本部に召集し、組合員の行動の監視等に権限を時間制限なく与えられているので、春闘仙台駅(仙台鉄道管理局)ビラ剥がし事件・最二小判昭48.5.25刑集2751115の判旨に依拠して、三六協定破棄を口実として、組合によって出勤時限前の入庁を阻まれることはないという解釈をとる。

(参照判例)

 違法争議行為の内部統制権は否定されており、組合員であれストの勧誘・説得に受忍義務はない。

 根拠 国労広島地本組合費請求事件・最三小判昭50.11.28、全逓横浜中郵前ピケ事件差戻後控訴審.東京高判昭47.10.20(差戻後上告審最一小決昭49.7.4棄却)、 動労糸崎駅事件・.広島高判昭48.8.30 (上告審最一小決昭51.4.1棄却)、動労鳥栖駅事件.福岡高判昭49.5.2(上告審-最三小決昭50.11.21判時801101頁 棄却)、国労東和歌山.和歌山駅事件.大阪高判昭50.9.19(上告審最一小決昭51.4.1棄却)

 物理的に就労を阻止するケースにおいては刑法234条威力業務妨害罪の構成要件該当行為となるので、刑事処分もありうる

物理的に就労阻止する実力ピケ、大量動員ピケについて多くの事件で有罪と判決している。

 最高裁は私企業であれ積極的業務妨害を正当な行為として認めていない。争議行為は労務提供拒否という不作為を本質とし、これに随伴する行為も消極的限度にとどまるべきであるとする 根拠 羽幌炭鉱鉄道事件.最大判昭33.5.28、久留米駅事件最大判昭48.4.25 物理的に就労阻害する場合(不法な威力 、業務妨害、マス・ピケ、占拠、逮捕行為、車輛確保)の有罪判例は、ホテル・ラクヨー事件最一小判昭和32.4.25暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、第二港湾司令部駐留軍横浜事件最二小判昭33.6.20威力業務妨害、 東北電力大谷発電所事件最一小判昭33.12.15威力業務妨害、水利妨害、四国電力財田発電所事件最一小昭33.12.25威力業務妨害、嘉穂砿業事件最一小判昭35.5.26威力業務妨害.暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、長万部駅事件.最一小判昭45.7.16建造物侵入、浜松動労事件.最一小判昭45.7.16 威力業務妨害全逓横浜中郵前ピケ事件差戻後上告審最一小決昭49.7.4 公務執行妨害、動労鳥栖駅事件、国労東和歌山駅事件、尼崎駅ピケ事件.最一小判昭52.10.20、春闘松山駅事件.最小二判昭53.3.3、動労南延岡機関事件.最一小判昭53.6.2(物理的に業務遂行を妨害するマス・ピケ)、動労糸崎駅事件(運転席占拠+マスピケ)、動労尾久駅事件最三小決昭49.7.1(乗務員の強制的拉致+マス・ピケ)、光文社事件最三小判昭50.5.8(出勤途中の包囲ピケ逮捕行為)山陽電軌(現サンデン交通)事件.最二小決昭53.11.15(車輛確保・業務妨害)

 ピケッティングの指導.実践は地公労法111項後段の「唆し」「あおり」なので違法

 北見郵便局懲戒免職事件.札幌高裁昭54.3.29、北九州交通局事件・福岡高裁昭55.12.22

 

12-3処分
 

スト参加を慫慂する言動、ピケッティングの指導・実践は戒告以上の処分を原則とする。物理的に就労を阻止するマス・ピケがあった場合は威力業務妨害罪の刑事処分を検討する。刑事事件にしない場合でも処分の量定は重くなる。

 

 

13 ストライキ当日の集会の中止・解散命令、職場復帰命令の徹底

 

13-1 新方針 

 

 私が知る限りスト当日の集会場所は、品川営業所は構内駐車場、江東営業所は構内駐車場+庁舎内練り歩くデモ、西部支所、西部建設事務所は来客用駐車場、中野営業所は構内駐車場で、新宿営業所は事務室内シットダウンストライキに近く、執務場所を40名ほどが占拠する業務妨害罪態様の悪質なものだった。

 管理職はスト集会の中止・解散命令、職場復帰命令、就業命令を行っていない。職員部監察指導課の指示は集会場所と人数を報告することにはなっているが、国の官公庁のようにストライキ決行に際し就業命令等の職務命令をすることは指示していないからである。今後は、就業命令を義務付ける。方法は口頭、携帯マイクのほかプラカード等に職務命令を記載して周知する。その際、反抗する場合も想定しスト対策本部の非組合員を動員して監視、写真撮影、録音などにあたらせてよいものとする。

 水道局では庁舎構内で集会を行うが、旧郵政省や林野庁のスト集会は、庁舎構内ではなく、近隣の集会施設、公園やその他の場所で行われることが多いが、その場合でも管理職は監視し、職場復帰命令を徹底して行っているので、そのようなケースになったとしても努力義務とする。

 また国の官公庁では、ストで指導的な役割を果たした者と率先助勢者は記録し、現認検書を上申することになっている。これまで本部中闘をのぞいて各事業所で勤務する組合役員、組合員は懲戒処分の方針とせず、組合の見解や方針に従っていたが、今後は、現認検書上申を義務づける。具体的には組合旗掲出、工作物、ビラ貼り等スト準備、ピケッティングの指導・実践、スト集会の司会、演説者、頑張ろう三唱の音頭取りを行った組合員。

 なお、非組合員をスト対策本部として召集するのは、違法行為の取り締まりだけでなく、管理職が職務命令をしているか否かの監視役にもするためである。組合と結託したり、組合に業務管理されてしまった場合は告発をスト対策本部長が受理するものとする。

 

13-2 根拠

 

 地公労法111項が禁止する争議行為の実践、および演説者は後段の「あおり」「そそのかし」に該る。地公法291号、2号、3号、32条、33条、35条適条の服務規律違反。

 庁内管理規程第五条13

 地方自治法238条の47項の行政財産の目的外使用により不許可

新規則

1 職員は、許可なく、局所施設内で、業務外の集会、演説、講習、放送、示威行為又はこれらに類する行為を行ってはならない。

2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない

4 職員は、勤務時間中に又は局所施設内で上司が認める業務外の徽章、胸章、腕章等を着用してはならない(解釈として。ゼッケン、鉢巻、プレート、ワッペン、バッジ、政治的文言等のプリントされたTシャツの着用を含める)

5 職員は、庁舎、局施設構内において、許可なく業務外の目的で車両・旗・.幟・拡声器・.プラカード・横断幕・立看板・テントその他危険物を持込んだり、設営してはならない。又、許可なく業務外の目的で、泊まり込み、座り込み、通行規制、練り歩き、集団行進をしてはならない。

6 職員は、庁舎、局施設のその秩序維持等について庁舎管理規程に基づく庁舎管理者の指示に従わなければならない。

7 職員は、同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をしてはならない。また、職員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし若しくはあおってはならない。

 就業命令の法的根拠を示す主な判例 神戸税関(全税関神戸支部)事件・最三小判52.2.20民集3171101、全運輸近畿陸運支部(大阪陸運局)事件・大阪地判昭54.8.30民集3971408、大阪高判昭57.2.25民集3971478、最二小判昭60.11.8民集3911375、北九州市清掃事業局小倉西清掃事務所事件・福岡地判昭51.7.22民集42-10-940、福岡高判昭57.4.27民集42-10-997、最二小判昭63.12.9民集4210880 その他多数。

 全運輸近畿陸運支部(大阪陸運局)事件はスト当日(本件は1520分以内の職場集会)の集会にいて二審は「あいさつ」「職場大会の意義についての演説」「所長交渉の経過報告」「決議文の朗読」などの行為は「そそのかし」「あおり」に該当し、とりわけ「あおり」のうち「既に生じている決意を助長させる勢いのある刺激を与える」ことに該当するとした。上告審は「本件職場大会における上告人らの行為が国公法九八条二項後段に規定する『そそのかし』又は『あおり』に該当するとした原審の判断は正当」と判示し、戒告処分を適法としている。戒告処分に処せられた者43名の内訳は、全運輸本部役員1名、支部三役8名、分会三役34名である。全農林(82秋季年末闘争)事件.東京地判平元.10.31判時1331、京高判令和7.2.28判タ877、二小判平成12.3.17判時1710など多数が、スト当日の集会の演説等行為を「そそのかし」「あおり」として懲戒処分事由としている。

 

14 ストライキ時、営業所の必要業務の管理職対応はやめる

 

14-1 新方針

 

 管理職対応とは組合の指示で管理職下位職務をさせられることを指すもので、営業所では所長に加えてもう一人、管理職が動員されて、電話対応と窓口の最低限の業務を行うことになっている。

 令和元年1210日の新宿営業所の1時間ストでは、そもそも組合がスト決行の貼り紙をしていたので窓口に来所する方は一人もいなかった。また電話もお客様センターから取り次いだ苦情の電話1本しかなかった。これは管理職か組合側かわからないが、営業所では通常830分より前は、営業時間は8時半からで、緊急の要件はお客様センターへ電話をおかけくださいといったアナウンスが流れ、電話がかかってこないことになるが、留守電は8時半に解除にするが、留守電を解除していなかったのかもしれない。ストにより実質お客様センターに負担がかかっている在り方である。これは不手際であった。公労法112項で作業所閉鎖はできないし、プレス発表でも営業所は一時間閉鎖されるとは広報していないので、この時はお客様センターにしわ寄せがかかったと考えられる。過去の経験では電話は数本受けていた。来客の妨害はしないように、中野では所長が組合に指図することもあったが、新宿ではそうではなかった。

 それはともかく、管理職対応とは組合の指図を受け容れたことなのであり、事実上部分的業務管理で、労務指揮権が掣肘されていること意味するのでやめる。このことはストライキ前日のプレス発表でも明らかにしており、「3)管理職員による事務事業の支障の防止」がそれである。

 それは東京都の管理職が争議中の操業(業務運営)は、争議権との対抗の中では権利性を失なうという最高裁が否定しているプロレイバー学説に従っているからである。この学説に従うとストライキは完全防衛されるので組合に非常に有利なものである。

 管理職の役目は、就業命令や現認、監視が第一である。管理職が必要最低限仕事をするのではなく、非組合員やスト反対の組合員に業務命令してあたらせる。それをさせないのは、組合が当局の非組合員や脱落組合員を使って業務運営をさせないためであり、ストライキ完全防衛で、労務指揮権を奪うので違法行為である。

 

 管理職対応は当局の方針だが組合の意向を受け容れている、本来は、非組合員やスト反対の組合員に業務命令し出務させ、操業を維持すべきだが、組合がスト完全防衛のため非組合員や組合員に業務命令して操業を一部でも維持することを認めない方針なので管理職対応としており、ストに対抗した業務命令を認めないと方針自体が正常な業務運営ではなく、今後は要員を確保すべく非組合員等に業務命令し、管理職対応はやむをえざる場合に限定するものとする。

 

14-2 参照判例

 

 私企業では操業の自由が認められ、ストライキ時でも非組合員やスト反対派組合員等を使って操業継続が否定されることはない。

 操業の自由については、第Ⅰ部三2 最大の悪弊は東京都がストライキに対抗して操業行為を控えること(組合と共謀し労務指揮権を放棄しストライキ完全防衛に協力態勢をとる)21ストによる操業妨害の効果を減殺させる争議対抗行為としての業務命令をさせない体制34頁参照。

 山陽電気軌道事件最決昭531115刑集32-8-1855「使用者は、労働者側がストライキを行っている期間中であっても、操業を継続することができることは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(二七年一〇月二二日大法廷判決・民集六巻九号八五七頁[朝日新聞西部本社事件]、三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一六九四頁[羽幌炭礦鉄道事件]、三三年六月二〇日第二小法廷判決・刑集一二巻一〇号二二五〇頁[第二港湾司令部駐留軍要員事件]参照)。使用者は、労働者側の正当な争議行為によって業務の正常な運営が阻害されることは受忍しなければならないが、ストライキ中であっても業務の遂行自体を停止しなければならないものではなく、操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができると解すべきであり、このように解しても所論の指摘するいわゆる労使対等の原則に違背するものではない。従って、使用者が操業を継続するために必要とする業務は、それが労働者側の争議手段に対する対抗措置として行われたものであるからといつて、威力業務妨害罪によって保護されるべき業務としての性格を失うものではないというべきである。」本件の詳細と御国ハイヤー事件最判平4102判タ813-191については173 164頁参照 

 

 

15 非組合員の出勤時限前の入庁を締め出し「事故欠勤」とする方針を廃止し、就業命令する

 

15-1 新方針

 

 現状は、ストライキが決行された場合、ストに参加した組合員は、地方公務員法2911号、35条違反として懲戒処分はされないが、賃金カットはしている。しかし組合役員の職場離脱の勧誘・説得に応じ、ピケットラインを超えない、もしくはICカードリーダに出勤入力をせず、職務を放棄する非組合員は「事故欠勤」を申請させ、管理職は承認して勤務実態がないのに賃金カットせず、給与が与えられているのは不当であり不正会計であるのでやめる。

 令和元年1220日の新宿営業所の1時間ストにおいても、スト前日に組合役員が非組合員に「事故欠勤」を所長に要請するので、賃金カットにはならないから、出勤入力をせず職場を離脱することを非組合員に説得していた。

 「事故欠勤」は組合と管理職の共謀であり、この方針は職員部も承知しているので組織ぐるみの怪しい慣行である。

 また、就労を申し出る非組合員に対しては、ピケットラインを超えないこと、出勤時限前の出勤入力は許されないとして、実質事故欠勤を強要し、就労との権利と義務を否定する指導をする管理職もいるが、重大な就労妨害であるので、今後は、事故欠勤は認めず、ノーワーク・ノーペイとする。非組合員に対する就労妨害は職権を逸脱するもので、今後は認めないものとする。

 非組合員であれ組合員であれ就業命令を徹底し、非組合員とストに反対の組合員の業務命令で、出務する職員をできるたけ確保、操業継続に努めるものとする。

 

15-2 職員の就労する権利と法令遵守義務を否定する東京都の管理職の悪質さ

 

 基本的に東京都では1960年代の価値観であるピケットラインを尊重するのが労働者階級の倫理的義務だというような左翼思想にもとづき、非組合員は組合役員にスト協力の説得に応じ、ピケットラインを越えてはならないという指導を職員にする。実態として、東京都水道局では私の知る限りでは、組合員は全員近くストに参加し、非組合員も組合の説得に応じ、就労せず、庁舎構内の片隅で待機していることがほとんどであり、ストに協力せず破っているのは自分以外ほとんど知らないのである。非組合員の事故欠勤も含めて事実上同盟罷業の参加率が非常に高く、全水道東水労は令和元年77.2%と組織率は高いとはいえ(少数組合の自治労連東水労1.1%)なので非組合員もそこそこいるが、ほとんどすべてと言ってよいほど職員は職務から離脱する。私企業のユニオンショップのストのような状況になっている。

 しかしこれは異常なことである。昔の全逓でも国労でも動労でも、スト指令でなく当局の業務命令に従う組合員が必ずいる。東京都では就業命令をやらないだけでなく、管理職が職務離脱に誘導してスト完全防衛に加担する。

 東京都ではスト決行時に、職務離脱者がほとんどすべてになってしまうのは、東京都は違法争議行為を組合の正当業務と事実上認め、争議中の操業(業務運営)は、争議権との対抗の中では権利性を失なうという最高裁が否定しているプロレイバー学説に従って、管理職は非組合員やスト反対の組合員に業務命令して操業を維持することがあってはならないという組合の方針に屈従しているからである。

 東京都水道局では最高裁が否定するプロレイバー学説に従うのが絶対的価値になっていて、組合との力関係で、東京都の管理職は就業命令を絶対やらないことになっている。

 東京都水道局では職員全般に対し、違法行為として事前警告をしていないこと。就業命令していない。平成22年、26年、令和元年、過去3回の同盟罷業は26名ほど支部長が訓告とされているが、履歴に載るだけで、これは懲戒処分ではない。各事業所の組合役員は懲戒処分のおそれなく違法行為が慫慂でき、組合活動で絶対不利益賦課させないという組合の方針に従っているためである。

 さらに非組合員には事故欠勤にするというストに協力する運用があって、職員は組合の説得に応じやすい環境にあるためである。

 組合は非組合員に対し出勤簿(現在はICカードリーダの操作)を押すことは許されないと言ってくるが、管理職も全く同じで、平成78年頃の江東営業所は東一副支所長が非組合員は、入庁せず出勤簿を押さす構内屋外で待機せよと命じている。私はそれに逆らって就労したので管理職から非違行為扱いにされたわけである。

 平成21年ストはなかったのだが、私が中野営業所長にストが決行されても就労すると申し出たところ、所長はまず組合分会役員と相談し、職員部と連絡をとったうえ、中野営業所長〇〇が私に指図したことは、ストライキは職員全員が参加すべきこと、組合の統制を受けること。まず出勤時限の830分以前の入庁を認めない。従ってICカードリーダの操作により出勤入力(IDカードを通すか、職員番号をテンキーで入力する)をしてはならない。事故欠勤にすると強い口調で言い、事実上の出勤停止命令である。

 東京都水道局では、争議中の操業(業務運営)は、争議権との対抗の中では権利性を失なうという最高裁が否定しているプロレイバー学説に管理職は従うことになっていて、7判例それ以上が、違法ストライキは、内部統制権がなく組合員であれ、ストの勧誘や説得を受忍する義務などないとしているのに、受忍させようとする。

 事故欠勤というのは就労実態がなくても賃金を受け取れる制度で、反発すると、〇〇は賃金を出すと言っているのに従わないのは非常識だとなじってきた。

 むろん、職員は上司の職務上の命令に従う義務があり、それが組合との共謀で不当なものであろうと、各職員に審査権はないので本来は従うべきだが、就労せずに詐欺的に賃金を受け取る汚いことはやりたくないし、職員は非組合員であれ組合員であれ就労の権利と義務(法令遵守義務.職務専念義務.信用失墜避止義務)がある。水道局長が形式的とはいえ服務規律の確保と指示している以上、職権を逸脱している、服務の基本的義務である就業規則をやぶり、違法行為することはできない。これを言っても絶対理解しない、ストライキへの協力こそが処世術として正しいという確信をもっているのが東京都の管理職であるわけである。

 この争議行為対応は違法性が顕著なので、その理由を以下述べる。

 

15-3 非組合員の就労する権利の否定は違法

 

 非組合員の就労権の行政解釈は「労働組合の統制力は、原則として労働組合の組合員以外には及ばないから、‥‥正当な就労を妨げることはできない。なお、労働協約等において代替要員雇入禁止の条項が規定されていない限り使用者が争議中必要な業務維持のための代替要員を雇い入れ、その業務を続けることは、労働組合の争議行為に対する使用者の対抗手段であって、そのことが妥当かどうかについては状況によって異なるが、それ自体は違法とはいえない」(昭和29116日労働省発労第41号各都道府県知事あて労働事務次官通牒)である。

 非組合員と統制権が及ばない組合員(脱退した組合員、争議に反対する第二組合員、組合執行部が争議中止を決定したが執行部に反対する争議続行派が就業派、臨時雇用者)に対する物理力を行使して就業を阻止するピケットについて、最高裁は、特殊な事情や可罰的違法論の適用により無罪とした例外的二例を除きすべて有罪の判断を下しているので、非組合員は、当然就労権を主張できると結論する。以下はいずれも争議行為が合法である私企業等において正当な行為とされず有罪となった判例である。

 例えばホテル・ラクヨー事件・最判昭32.4.25刑集1141431(就労しようとする非組合員に体当たりするピケ)、羽幌炭礦鉄道事件・最大判昭33.5.28刑集12881694(争議続行決議に反対して脱退した組合員が結成した第二組合に加わった労働者+非組合員に対する実力ピケ)、進駐軍横浜事件・最判昭33.6.23.刑集12102250(非組合員+争議に加わらなかった組合員に対する実力ピケ)。東北電力大谷電所事件・最判昭33.12.25刑集12161255(臨時雇用の非組合員に対するピケ)、嘉穂砿業事件・最判昭35.5.26刑集147868(嘉穂労組執行部は上部団体の炭労の指導による争議の中止と炭労からの脱退も決定したが、上部団体支持の争議続行派が、就労派砿員+争議に加わってない職員に対してピケットを行った例)が挙げられる。

 上記の判例は使用者が、ストライキ中であっても、非組合員、反対派ないし脱落組合員、第二組合員、臨時雇用者を使って操業する自由を是認するものでもある。

 また、下級審判例においては、非組合員の就労権と組合員の争議権は対等であり、非組合員の就労権を明示するものがある。

 例えば横浜第二港湾司令部駐留軍要員労組事件・東京高裁判昭33.3.31『別冊労働法律旬報』№204.1955であるが

 「労働組合は、その所属構成員に対してのみ、労働力のコントロールを加えうるものであって、構成員以外にまでこれを強制しえないことは、労働法上の基本理論であるから労働組合が組合員の労働力を統制してストライキを継続することが、当然の権利行使であると同時に、非組合員が右ストライキに同調しないで就業することも、また当然の権利行使であり、右の争議権と就業権とは対等の立場に立ち、互いに並行する関係にあるものと解すべき‥‥非組合員らは、いずれも自己の自由意思によって‥‥労働組合に加入せず、原判示ストライキにも参加しなかったものである上に、就労しようとしたのは、ストライキに同調して就労しないでおれば、その間賃金による収入が中絶するばかりでなく、職場を馘首されるおそれがあったため、‥‥非組合員ら就労しようとしたことは、正当な権利の行使というべきであり、従って、かかる権利の行使に対しては、ストライキ参加者において、これを積極的に妨害することは許されないものといわなければならない。‥‥」

 しかし東京都では争議行為が違法であっても非組合員の就労を認めないことで違法である。

 

第Ⅰ部四 補遺 (六)英米におけるストに参加しないで就労する権利について(補遺)65頁も参照されたい

 

 

15-4 組合の統制を受けないで就労する権利の否定は違法(違法ストライキの内部統制を否認する7判例)

 

 争議行為が禁止されている公務員の職場においては、組合のストライキ決議や指令は統制権により組合員を拘束しない。違法争議行為に内部統制権はなく、組合のストの勧誘、説得を受忍する義務がないということは、いずれも公労法171項の事案で、いずれも、刑事免責を認め争議行為に好意的な中郵判決が判例を維持していた時期だが昭和47年から下記7判例がある。

 東京都の管理職が就業命令等をやらない別の理由として、違法ストライキであっても団結統制権で、組合の決議で、組合員を争議行為参加に拘束できるという考え方を事実上受け容れているという問題がある。

 全水道東水労スト権一票投票は、毎年11月初め頃に、11月半ばの都労連闘争と、12月の局内合理化闘争、2月末に3月の春闘につき行われる。高率で批准されるのが通例である。ちなみに令和6年は1031日にスト権一票投票がなされ、92.77%で批准した。

 投票用紙の裏面は、ストライキが批准されたら、団結して本部指令に従って行動しますと言う趣旨の文言がある。

 組合側の主張は、団結統制権により組合員をストライキ態勢から離脱しないよう拘束している。組合役員のスト指導は、指令にしたがって組織の義務として行っているもので、個別責任は問われないというものだが、当局は鵜呑みにして、事実上闘争期間組合の支配下にある各職員に業務命令はできないものとしている。

 しかし私企業のユニオンショップとは違って、争議行為は違法なので、組合員でも本部指令に服従する義務はないし非組合員も同じことである。

 国労広島地本組合費請求事件・最三小判昭50.11.28民集29101634は組合の統制権について理論的に説示し「公労法に違反して行われる争議行為とこれに対する組合員の協力義務関係について考察する。同法違反の争議行為に対する直接の効力(争議行為の参加)については、これを組合員に強制することはできないと解すべきである。禁止違反の争議行為の実行に対して刑罰や解雇等の不利益な法的効果が結びつけられている場合に、その不利益を受忍すべきことを強いるのが不当であることはいうまでもなく、また、右のような不利益を受ける可能性がない場合でも、法律は公共の利益のために争議行為を禁止しているのであるから、組合員が一市民として法律の尊重遵守の立場をとることは是認されるべきであり、多数決によって違法行為の実行を強制されるいわれはない。‥‥」

これだけでなく争議行為にも刑事免責を認めた中郵判決が維持されていた時期に、争議行為に可罰的違法なしとしながら、三公社五現業に適用される公労法171項違反の争議行為については、組合員であれ、争議行為の勧誘、説得を受忍する義務はなく、違法争議行為参加を団結統制権により拘束されないとする判例は多数ある。そもそも統制権の及ばない非組合員も同じことである。

◆全逓横浜中郵前ピケ事件差戻後控訴審・東京高判昭47.10.20(差戻後上告審最一小決昭49.7.4棄却) 

 全逓の2時間の同盟罷業それ自体は中郵判決に従って可罰的違法性なしとしながら、全逓の要請で神奈川地評が動員したスト支援者の約200名のマス・ピケは争議行為に付随する行為として別個の法的評価をとり、機動隊に暴力をふるった2名の公務執行妨害罪の成立を認め以下のとおり説示している。

 「公共企業体等の職員および組合は公労法一七条一項により争議行為を禁止されているのであるから、組合自身も組合員もこれを行なってはならない義務を負っているこというまでもない。それゆえ、組合としては組合員に対して同盟罷業への参加を強制することのできない筋合いのものであり、これを組合員の側からいえば、各組合員は、法に従うべきであるという建て前からも、また自らが解雇等の民事責任を負わないためにも、組合の指令にもかかわらず、同盟罷業に参加することなく就業する義務を負うとともに権利を有するものである。‥‥公共企業体等の組合がたとえ同盟罷業の決議をしても、その決議は違法であって民間企業の組合の場合のように組合員に対し法的拘束力をもつものではなく、組合員としてはその決議に従わずに就業しても、特段の事由のないかぎり組合の統制に対する違反ないしはいわゆる裏切りの問題は生じない‥‥同支部所属の各組合員が原判示当日出勤就業しようとしたことも正当な行為であって、組合側としてその入局を実力を用いてまで阻止することを正当ならしめる特段の事情があったものとは認められない。」

◆動労糸崎駅事件・広島高判昭48.8.30判タ300 (上告審最一小決昭51.4.1棄却)◆国労岡山操車場駅糸崎駅事件・広島高判昭48.9.13 ◆国労尼崎駅事件・大阪高判49.4.24判時73440頁(上告審-最一小判昭52.10.20 刑事裁判資料230812頁 棄却)◆ 動労鳥栖駅事件・福岡高判昭49.5.25判時770113頁(上告審-最三小決昭50.11.21判時801101頁 棄却)

◆国労東和歌山和歌山駅事件・大阪高判昭50.9.19

「国労が企てた本件ストライキが違法なものであることは明らかであり、組合がストライキの決議をしたとしても、組合員に対してストライキへの参加を求めることは組合の統制権を理由としても違法であることに変りはなく、組合員は組合の要請に従ってストライキに参加すべき義務はなく、就労の意思をもつて出務している場合においては、その受忍義務のないことは一層明白であって、まして組合は、非組合員に対してストライキへの参加を強制すべき権能を有するものではない」

 上記は公労法の判例だが、地公労法を別異に解釈する理由はない。したがって、組合員にも就労の権利が、東京都は統制権がないのに、警告と就業命令をあえてやらないことにより統制権を認めるようにアシストしていることで違法性が強い。要するに前記には7判例は決定的意義があり、組合員であれ非組合員であれ、違法争議指令の勧誘、説得を受忍する義務はないのに、東京都水道局の管理職は全水道東水労のストライキ態勢に順応し、組合に逆らわず、違法行為の実践を強要しようとすることで非常に悪質である。

 

 

15-5 地公労法11条2項違反の疑い

 

 私企業で作業所を閉鎖して労働者の就業を拒み、労働者側の自主管理運営を阻止することをロックアウトという。これは112項で禁止されている。

 しかし、水道局の管理職は、就労したい職員を締め出して出勤入力をさせない。就労も認めない方針なので、ストライキに対抗するロックアウトとは性格が違い、スト完全防衛をアシストする目的だが、この条項違反の疑いがある。

 この点は、事故欠勤にするので就労せずとも賃金を支払いっているので、ロックアウトに値しないという反論が想定できるが、事故欠勤は就労実態なく賃金を受けとる詐欺的な不正会計であるから、829分まで入庁して出勤入力させないという。ストライキに反対の職員に対する措置は、作業所閉鎖に准じた措置として違法性がある。

 

 

15-6 「勤務時間等規程」「処務規程」「事務処理要領」違反の強要は職権を逸脱で違法性が強いのでやめる

 

 東京都水道局出勤記録修正懲戒処分事件・東京高判平26.2.12労判1096は、水道局の管理職が72回につき出勤時限に遅れた上、そのうち71回につき部下に指示して出勤記録を修正させたとして停職三月という重い処分を適法とした事案であるが、「東京都水道局においては、所定操作によって出勤記録を自ら入力することは、『勤務時間等規程』『処務規程』『事務処理要領』などの規程上、職員の基本的な服務上の義務であり」と説示している。

 水道局長は形式的に服務規律の確保を示達している。しかし東京都水道局の管理職は、ストライキ時は、規程に反し基本的な服務上の義務をなすことは許さないとするのである。示達と矛盾している。

 これは地方公務員法第32条 「職員は、その職務を遂行するに当って、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い‥‥」の服務上の基本的義務を否定することになり、違法性が強い。

 現場の管理職に服務上の基本的義務を否定する権限はない。職権を逸脱した行為である。

 しかもその目的が地公労法違反のストライキを防衛する違法目的なので余計に悪質である。

 

 

 15-7 ストライキ時の非組合員の事故欠勤は違法性の強い不正会計

 

 事故欠勤とは水道局処務規程55条の「交通機関の事故等の不可抗力の原因により勤務できないときは、その旨を速やかに連絡」すれば遅延証明を根拠として、遅刻しても賃金カットされず、実質出勤扱いにする制度であり、

 しかし「交通機関の事故等の不可抗力の原因」とストライキは違う。非組合員であれ組合員であれ、組合に職場離脱を慫慂されたとしても、それは地公労法違反の違法行為であるから、説得を受忍する義務はないことは既に述べたとおりである。

 私は江東営業所で複数の組合員が取り囲む、包囲型ピケッティングで罵声を浴びせられることはあれ、腕を抱えられたり、逮捕行為をされたことはなく、スクラムを組むようなマス・ピケはない。

 「ピケットラインの尊重」、「スト破り」を悪とするのは195060年代労働組合主義の左翼思想にすぎず、組合側も逮捕行為や強制連行(光文社事件・最三小判昭50.5.8、日本鉄工所事件・最二小判昭50.8.27)をすれば有罪、物理的に通行を阻止するマス・ピケを行えば有罪(春闘松山駅事件・最小二判昭53.3.3、動労南延岡機関事件・最一小判昭53.6.29)となるのである。昭和48年久留米駅事件以降、犯罪該当構成要件行為に可罰的違法性論は適用されなくなったので、不可抗力はありえないのである。

 ノーワーク・ノーペイの原則からして就労していない職員に賃金を支払う必要はない。不正会計であると同時に、ストに参加している組合員は、賃金カットし、その補償は、組合の闘争資金から出される。しかし非組合員には補償できないので当局にその肩代わりをさせているとみるほかない。この慣行は同盟罷業の慫慂と同じことでありやめるべきである。

 学説は、第一組合がストを行ったとき、ストに参加しない第二組合員や非組合員が第一組合員のピケに阻まれて、就労が事実上不能となった場合における第二組合員の賃金については、使用者は民法5361項によりその支払義務を免れるとする説がある一方、ストライキが使用者の経営政策上の理由に基づいてなされた場合には、右ストは使用者の支配領域内に生じた障害で、使用者において一般的に除去しえないものではないから、これをもって使用者の責に帰すべき事由による(民法5362項)ものと認めるべきとの見解がある。(高知県ハイヤー・タクシー労組賃金請求事件・高知地判昭50120労民27-6-596

 しかし、地方公営企業の争議行為自体が違法である以上、スト自体が使用者の責に帰すことはないから、支払い義務はないとみるべきである。

 

15-8 根拠

 

 管理職が就業規則に該る「勤務時間等規程」「処務規程」「事務処理要領」違反を職員に強要することは権限を逸脱して違法(155参照)

 管理職が組合と共謀しストライキ防衛に与することは地公労法111項に違反し、地公法291号、32条、33条の適条による服務規律違反。ストの勧誘説得は受忍義務がなく、地公労法111項違反行為を強要するのは、職員の就労の権利を侵害し違法(153参照)

 非組合員締め出しは地公労法112項に反する。

 出務せず勤務実態のないストに勧誘・説得に応じた非組合員の賃金カットをせず、事故欠勤申請により賃金カットせず給与支給を承認しているのは、詐欺的な不正会計。出務しない非組合員は地公法291号、2号、3号、32条、33条、35条適条の服務規律違反。(156参照)

 非組合員の就労妨害は違法(152参照)

 

15-9処分 

 

ストライキ時の勤務実態なく事故欠勤した者は申請した者も、承認した管理職も原則として懲戒処分の対象とする。ストライキ時、出勤入力をするなとか、ピケットラインを越えるなといった指示を非組合員等に行った管理職も同じである。

 

 

 

16 積極的業務妨害(職場占拠・シットダウンストライキ)-刑事処分も検討

 

 地方公営企業において単純不作為の職場離脱(ウォークアウト)も違法行為であるが、全水道東水労のストは争議権のある私企業のストでも免責されない積極的な業務妨害を行う点でより悪質であり、当局はそれを許容し犯罪を助長することに邁進している。

 既に威力教務妨害罪は時効であるが、令和元年1220日の1時間ストで、新宿営業所では事務室の検針担当執務エリアを給水課分室職員もふくめ40人程度で占拠して集会する態様で、執務場所の占拠(非組合員もいる)物理的に業務遂行を不可能にするシットダウンストライキである。

 ところが〇〇〇〇所長は、積極的業務妨害を全面容認し、中止・解散・就労命令は一切やらない。スト指導者といえる集会の演説者、〇〇〇〇、〇〇〇〇、〇〇〇〇(支部・分会役員いずれも現杉並営業所勤務)について現認検書は上申はやらないと言っていた。そればかりか〇〇〇〇所長は、ピケッティングに立って私を出ていけと指図し、集会でも演説してストを指導した〇〇〇〇を主任に昇進させている。違法行為を指導して処分されないどころか昇進するのが東京都の倣いである。

 犯罪構成要件該当行為の是認は当然という認識のようであるが、それは刑事免責を肯定した中郵判決が判例を維持していた昭和40年代の考え方で、先例は、刑事免責を否定した名古屋中郵判決方式の判断枠組になるから、違法性が阻却されることはありえない。

 職員部から就労命令等の指示はないため、職員部の指示どおり動き、犯構成要件該当行為容認がコンプライアンスとなっている。管理意思を示すことを義務づけ犯罪を成立させるべき。

 シットダウンストライキは悪質な態様であり許しがたい。産業別組合が台頭した合衆国1937年大恐慌のときに流行したもので、1932年ノリスラガーディア(反インジャンクション法)により、裁判所がストライキに差し止め命令を出しにくくなり組合活動を活発化させた結果である。

 ストライキ時の職場占拠は大量動員ピケッティングによる物理的に、就労、作業を阻害することと基本的には同じ論理によって違法性が判断されるので、争議権のある私企業でも正当な争議行為とはみなされない。

 

16-1 新方針

 

 職場占拠は、悪質な態様、業務妨害罪の構成要件行為なので、事前に認めないことを警告し、勿論違法なので推奨しにくいとはいえるが、よりましなウォークアウトにせざるをえないようにもっていってよいものとする。予想される事業所には特別査察チームを増援し逆ピケを張る。強行する場合は、中止・解散・退去・就業命令を徹底する。責任者の相応の懲戒処分か、刑事処分も検討する。短時間なので引き抜きなどは行わないとしても、現認・監視体制は徹底する。むろんこのようなことが起こるのは管理者が就業命令をせずストに協力する態勢だからである。

 

16-2 根拠

 

 地公労法111項に違反する私企業でも正当とされない争議行為であり、地公法291号、2号、3号、32条、33条、35条の適条の服務規律違反

 庁内管理規程五条4号、13号に該当

 地方自治法238条の47項の行政財産の目的外使用により不許可

新規則1 職員は、許可なく、局所施設内で、業務外の集会、演説、講習、放送、示威行為又はこれらに類する行為を行ってはならない。

2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない

3 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない。

刑法234条威力業務妨害罪の犯罪構成要件該当行為

(ただし、現状では管理職が業務妨害、職場占拠を認めていることにより、犯罪の成立が微妙)

 

(1)  争議行為は労務提供拒否という不作為を本質とし、これに随伴する行為も消極的限度にとどまる

 

 ここでは、「争議行為の限界」について主として名古屋中郵判決上告審担当検察官として、理論分析に卓越している臼井茂夫最高検検事の論文に依拠して説示することとする。

 リーディングケースは●山田鋼業事件・最大判昭25.11.15刑集4112257朝日新聞西部支社事件・最大判昭27.10.22民集69857である。

 争議行為は労務提供拒否という不作為を本質とし、したがって、これに随伴する行為も消極的行為の限度にとどまるべきであり、それを越えて使用者側の業務を妨害するような意図及び方法での積極的な行為は許されないとの見解が確立したものであって、この点についてプロレイバーが主張するように労働法は市民法秩序を超克するものと解する余地はない。

 そしてピケッティングと犯罪の成否についての重要判例が●羽幌炭礦鉄道事件・最大判昭33.5.28刑集1281694であり、事案は、争議続行と組合指導部に反発して組合を脱退し第二組合の結成に加わった労働者と非組合員による出炭を阻止するためのマスピケッティングであるが、「同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し暴行脅迫をもつてこれを妨害するがごとき行為はもちろん、不法に、使用者側の自由意思を抑圧し或はその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されないものといわなければならない‥‥。されば労働争議に、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するため執られた労働者側の威力行使の手段が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には刑法上の威力による業務妨害罪の成立を妨げるものではない。」と判示した。

 問題は、「諸般の事情」の解釈だが、臼井検事は、「基本となる基準はあくまで労働力の提供拒否にとどまるか否かであり」労働力の提供拒否にとどまるか否かという基準では割り切らないことを意味するというプロレイバー解釈は誤りと指摘している[臼井滋夫1977「ピケッティングの正当性の限界」『法律のひろば』304号 ]。

 プロレイバー労働法学では、争議権とは本質的に「業務妨害権」であり、同盟罷業による業務妨害状態を有効に維持するためにピケッティングは争議行為の範囲にあるとし、一定程度の実力行使も許されるというものであるが、最高裁はもちろん認めていない。しかし東京都はそもそも争議行為が正当業務でないのに業務妨害権をも容認している点で非常に悪質ある。

 同判決以外でも最高裁は物理的に就労阻止する実力ピケ、大量動員ピケや逮捕行為について多くの事件で有罪と判決している。●ホテル・ラクヨー事件最一小判昭和32.4.25暴力行為等処罰ニ関スル法律違反第二港湾司令部駐留軍横浜事件最二小判昭33.6.20威力業務妨害、東北電力大谷発電所事件最一小判昭33.12.15威力業務妨害、水利妨害、四国電力財田発電所事件最一小昭33.12.25威力業務妨害、嘉穂砿業事件最一小判昭35.5.26威力業務妨害.暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、長万部駅事件.最一小判昭45.7.16建造物侵入浜松動労事件.最一小判昭45.7.16 威力業務妨害全逓横浜中郵前ピケ事件差戻後上告審最一小決昭49.7.4 公務執行妨害、国労久留米駅事件.最大判昭48.4.25 建造物侵入、公務執行妨害動労尾久駅事件最三小決昭49.7.16威力業務妨害光文社事件最三小判昭50.5.8逮捕罪動労糸崎駅事件.最一小決昭51.4.1威力業務妨害国労尼崎駅事件.最一小判昭52.10.20公務執行妨害動労鳥栖駅事件.最三小決昭50.11.21?威力業務妨害.公務執行妨害春闘松山駅事件.最小二判昭53.3.3威力業務妨害動労南延岡機関事件.最一小判昭53.6.29威力業務妨害山陽電軌(現サンデン交通)事件.最二小決昭53.11.15威力業務妨害

 なお損害賠償請求では●御国ハイヤー事件最判平4102判タ813-191がある。

 ただし最高裁は羽幌炭礦判決より前に例外的に〇三友炭鉱事件最三小判昭31.12.11刑集1021605に無罪。〇札幌市労連事件(札幌市電ピケット事件)最三小決昭45.6.23刑集246311 は、40人ほどが車庫から発進する電車に立ち塞がった二つめの例外的判例である。羽幌炭礦判決以降では唯一の例外である。それゆえプロレイバー学者は、ピケット権の確立を前進させた意義があるものとして本決定を評価している[佐藤昭夫1970「札幌市労連最高裁決定とピケット権の展開」『労働法律旬報』756号 ]。従って組合側がこの判例に依拠して積極的業務妨害やピケット権を主張することはありうるが、無罪とされる前提となる労組法12項の適用がなくなったこと、可罰的違法性論は安易に適用しなくなったので、名古屋中郵事件方式では有罪となるものと思われる。先例たりえない。詳しくは註の「例外二判例は先例たりえないその理由」を参照されたい[iv]

 

(2)職場占拠・類似したマス・ピケに関する判例

 

摩周丸事件・最大判昭41・11・30刑集20-9-1076 (●札幌高裁函館支部判昭36・2・21判タ117-107●函館地判昭35・3・5判時225-32)

 実力ピケ事犯 威力業務妨害 舷門口付近の甲板通路に組合員が密集し占拠した事案。国労青函地本は、組合員処分の抗議等のため昭和32511950分青森桟橋定時出航の摩周丸において、勤務時間職場大会を行うことした。被告人国労青函地本書記長、船舶支部副委員長、北海道地評常任評議員は、組合員約50名と共謀のうえ、架設中のタラップを取外し、舷門扉を閉鎖し、舷門口付近の幅2メートル甲板通路に密集し占拠したうえ、ロープを張りめぐらした。対して国鉄青函鉄道管理局は、部・課長、労動課員等十数名の応援、非組合員たる職員や、当日非番の組合員等からなる三十数名の助勤者を動員し、午前630分頃から前後4回にわたって、桟橋長、桟橋助役、応援者及び助勤者がタラップ架設作業と舷門口の解放をこころみたが、ピケ隊はこれを妨げ、その間、利用客の乗船を不能ならしめた結果、摩周丸の出航を約1時間29分遅延するに至らしめた。一審有罪、国労青函地本書記長懲役八月、船舶支部副委員長懲役六月、北海道地方評議会常任評議員懲役四月、執行猶予二年、二審棄却、上告審棄却。本件は一審、二審とも公労法171項に労組法12項の適用はないとする国鉄檜山丸事件・最二小判昭38.3.15刑集17223とは違って、17条違反の争議行為に対しては、公労法3条が、労働組合法第8条(民事免責)の適用排除を明言しながら、同法第1条第2項(刑事免責)の適用を排除していないということなどから、12項の適用を受くるという、東京中郵判決と同じ見解をとっている。従って私企業と同様に、犯罪構成要件に該当し、労働組合法所定の正当性の限界を超えるものでなければ処罰できないというものであるが、一審は「桟橋二等送迎場と摩周丸との主要交通路及び二等舷門口付近甲板通路を閉鎖遮断し‥‥タラップ架設措置、摩周丸利用客の乗船意思及び船側並に桟橋側からなされるべきタラップ架設作業員の作業意思に対して終局的になされた拒絶行為で、およそ言論による説得行為ないし団結による示威行為以前の、物理的な拒絶状態を惹起させたものであつて、被告人等三名の所為が労働組合法第一条第二項所定の正当性の限界を逸脱したもの」との判断である。

 大法廷は国鉄職員の非権力的現業業務の執行に対する妨害は、その妨害の手段方法の如何によっては、刑法二三三条または二三四条の罪のほか同九五条の罪の成立することもあると解するのが相当であるとする全員一致の意見と、公労法が禁止する争議行為の刑事免責の論点で奥野健一(石田和外、下村三郎同調)とは、五鬼上堅磐の補足意見がある。

 

東京新聞事件・東京地判昭44・10・18労民20-5-1346 

 違法な争議行為を企画、決定、指導したことを理由としてした組合役員らに対する懲戒解雇および懲戒休職が、いずれも重きに失し懲戒権の濫用として無効であるとされた組合寄りの判決だが、職場占拠の違法性は認めている。昭和四〇年三月一九日午前一〇時頃よりその所属組合員及び部外者計約三〇〇名を会社建物内に会社の制止を排除して侵入させ、会社二階作業場(ローリング機および大刷機)および右作業場に至る通路を占拠して実力を以って物理的封鎖をなし、会社側作業員が作業のため同所に立ち入ろうとするや実力を振ってこれを阻止するの挙にでて‥‥会社の再三、再四に亘る口頭および文書(含む掲示)による退去要求を全く無視して右不法占拠を解かないのみか、逐次不法占拠者を増員し、部外者をも多数導入し、約三〇〇名をもつて右ローリング作業場はもとより、会社一階西側玄関から右作業場に至る階段、通路をも完全に占拠閉塞し、更には藁莚多数を持ち込んで右不法占拠態勢を強化し、またその際、間断なく大声にて労働歌を高唱し、或は携帯マイクで音頭をとりかん声を上げるなど怒号喧騒を極め、ひとりローリング作業場および大刷作業を阻止せしめたのみならず、‥隣接する文選、組版の作業をも著しく妨害したほか、社内の平穏・秩序を全く攪乱せしめた。

 職場占拠とは、ストライキの一環として、使用者の意思に反して一定時間工場などに集団で留まる行為を指す。日本では、排他的・全面的な職場占拠は基本的に認められないが、使用者と共存し、占拠が部分的であれば許容されることもある。ただし、会社側従業員への説得や阻止行為が加わる場合、その正当性は通常のピケティングと同じ基準で判断される。また、重要な企業施設の業務運営を妨げ、使用者が業務継続のために滞留者の排除を余儀なくされる状況では、そのような滞留は違法となる。

 

港湾労組栗林分会事件・札幌高判昭48・3・19判タ713-129 

 本件は違法なピケットに参加するため会社職制の制止に拘らず事業所構内に入構したことも違法であるとして、出勤停止処分を是認したケース。マス・ピケの事案といえるが、埠頭のエプロンと称する本船と直背後上屋又は荷さばき地との間で、貨物を円滑に移動させる場を占拠し、職制とストに加わらない第二組合員による洋紙の積み込み、アラスカ材の荷揚げを妨害するもので職場占拠事案ともいえる。本件は刑事事件でなく、久留米駅事件判決より前、可罰的違法性論が否定されていない段階の判例である。全港湾北海道地方本部指令の統一スト-昭和四〇年四月一七日、断続的或いは継続的にストライキを実施する旨通告していた。

 全港湾労組室蘭支部栗林分会は、五月五日午後一時から時限ストライキを行なって神加丸および瑞雲丸の荷役作業を中止し、両船にピケットを張る、との機関決定をなし、‥‥(第二組合の)栗林商会労働組合員が午後一時からの両船における荷役作業に従事する以前に、右両倉庫前海手エプロン上に分会員を集合させて、ピケットの配置につかせた。

 ‥右一号倉庫前エプロン上(略)

 一一号倉庫前エプロン上においては、分会員約七〇名が、端雲丸と同倉庫の間(同倉庫と同船の接岸していた岸壁までの間隔は約一八メートル)に‥‥ピケットを張り、これを解かないかぎりは同船から右エプロン上に木材を荷揚げすることは不可能である状態を作出した。午後一時すぎ会社職制が栗労員により作業をするからピケットを解除するようにとの要求を受けたが、「地本の指令にもとづくものであり、ここを退去することはできない、荷役はさせない。」等と返事してこれを拒否した。そこで控訴会社側においては、右エプロン上での作業はとうてい不可能であると判断し、同船の海側から木材の艀取荷役作業をすることとし、栗労員約一〇名が同日午後二時三〇分頃艀によって海側から同船に乗船して荷揚げ作業を開始した。ところがこれを知った分会員のうち、約一〇名が同船に乗り込んできて、会社職制から再三下船するように要求されたにも拘らず、「栗労員が降りるなら我々も降りる」とか、「執行部から命令をうけているので下船できない」等と答え、同時頃から午後三時三〇分頃までにわたって、デッキや荷揚げすべき木材(アラスカ材)の上に坐り込む等の行動をとって、右作業を妨害し、結局控訴会社側に対しかかる方法による作業の続行をも断念させた。

 

 「ピケット或いはこれに伴う職場占拠は、暴行、脅迫又は威力にわたらない平和的説得の限度においてのみ許容されるものであり、これを超えて右説得に応じない組合員以外の者。就業や使用者の操業を妨害するにいたるような程度、方法にわたることは、争議行為の正当な限界を逸脱し違法である。‥‥違法行為をなす目的で職場内に立入ることは正当な限度を逸脱するものである。

 本件では、会社側と栗労員はピケット解除を求めて待機し、平穏に一部作業を再開したが、分会はこれを拒否してピケットを継続し、木材に座り込むなどして作業を妨害し、職場を占拠した。このような行為は、平和的説得の範囲を逸脱し、不法な威力や有形力の行使として違法というべき。

 

バンク・オブ・インディア事件・東京地判昭42・11・20労民18-6-1160

銀行の組合がストライキ決行と同時に店舗を全面的に占拠し、総支配人および副支配人の入行を阻止するとともに、非組合員および顧客の入行を阻止し、右店舗が所在する第三者所有の建物の外部にビラ類をはりつけたことは、いずれも争議手段として許される正当な範囲を逸脱したものである

 

 

動労糸崎駅事件最決昭51・4・1刑裁資料230-215 (●広島高判昭48・8・30判タ300-363、○広島地裁尾道支部・下級裁判所刑集10-2-19)

マス・ピケ 運転室の占拠 威力業務妨害罪 公訴事実は「被告人は、動労岡山地本津山支部執行委員長であり、中央指令にもとづき、昭381213日、糸崎駅を拠点として実施した時間内職場集会などの闘争に際し、津山支部の組合員約60名を引率指揮してこれに参加したものであるが、同日午後720分糸崎駅発呉行651D列車(折り返し)の発進を阻止することを企て、午後719分頃同列車が同駅五番線に据付を終るや、右組合員らを引率指揮して同列車の前部運転室乗降口に集結させ、自らは同運転室に乗り込んで同室を占拠したうえ、午後736分頃から757分頃までの間前後三回にわたり、(当局から代務として召集、業務命令された)機関士Sらが同列車に乗務するため乗車しようとするや、右組合員および来援した他組合員ら合計百数十名に対し「スクラムを組め」と命じてスクラムを組ませ、同組合員らと共謀のうえ、その都度右Sらの進路に立塞がり「ワツシヨイ、ワツシヨイ」と掛声をかけるなどして気勢をあげつつ同人らを押し返し、あるいは運転室内部から乗降口の扉を閉めるなどして同機関士の乗車を阻止し、もつて威力を用いて国鉄の列車運行業務を妨害したものである。」午後757分頃に至って遂に鉄道公安官等が押し返し、運転室内の被告人を車外に排除して通路を確保し、S機関士を同列車に乗車させ、同列車は定刻より40分遅延して同日午後8時に同駅を発車した。

 一審は影響も重大ではなく、本件行為は正当な争議行為として無罪。  

 控訴審は、久留米駅事件方式に威力業務妨害罪の成立を認め、被告人を懲役四月執行猶予二年。刑法二三四条、二三三条、六条、一〇条。

 「‥‥案ずるに、労働組合法12項但書は、争議行為における一切の有形力の行使を「暴力の行使」として禁止する趣旨ではなく、当該有形力の行使がその目的、時期、場所、手段、影響等、当該行為の具体的状況に鑑み、争議行為として社会通念上許容される必要最小限度を超えた不法な実力的行動に該らないときは、右条項但書の所謂暴力には該当しないと解すべきであることは、正に原判決の判示するとおりである。そこで、組合の組織的集団行動としての本件合理化反対闘争に際して行なわれた刑法二三四条所定の構成要件に該当する有責行為であると原判決が認定した被告人の本件所為について原判示違法性阻却事由の有無を判断するに当つては、当該所為が争議行為に際して行なわれたものであるという事実をも含めて、叙上行為の具体的諸状況を考慮に容れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定することとする。

 ‥‥被告人等が時間内職場集会を実施する旨の組合本部指令に基づき、S機関士に本件職場集会への参加を勧誘、説得する機会を作る必要上本件所為に出たものであるとしても‥‥本件職場集会の実施は組合の行なう一種の争議行為であるところ、公共企業体である国鉄の職員及び組合は、公共企業体等労働関係法171項により、一切の争議行為を禁止され、同条項に違反してなされた争議行為は、少なくとも労働法上は一般的に違法であり、違反者は同法18条により解雇の制裁を科せられ、争議行為に際してなされた行為が暴力の行使その他の不当性を伴なう場合には刑事法上においても違法性を阻却されないのであるから(昭和411026日最高裁判所大法廷判決)、被告人等がS機関士に本件職場集会への参加を勧誘、説得すること自体の違法性を指摘しなければならないが‥‥純然たる私企業と異なり、一切の争議行為が少なくとも労働法上一般的に違法とされている国鉄においては、組合は組合員に対する統制権の行使を理由として、斯る違法な争議行為に参加することを強制することは許されず、組合員は右職場集会実施の組合本部指令に服従すべき義務はなく、従って、これに参加を促がす勧誘、説得を受忍すべき義務もないのである

 況して原判示のごとく、S機関士は、予め本件闘争に備え本件の前日国鉄当局から代替乗務の業務命令を受けて糸崎駅に待機していた者であり、右業務指令が適法であること及び被告人にはS機関士が本件列車発進のため代替乗務員として同列車に乗車すべく同駅5番線ホームへ来たことの認識が有ったことは、いずれも原判決の認定するとおりであつて、斯様に既に国鉄当局の適法な業務命令を受けてこれに服従し、就労の意思を以て出務している者の場合においては叙上受忍義務のないことは一層明白であるから、同人に本件職場集会への参加を勧誘、説得するに当つては、その時期、場所、手段、影響等において尚更厳しい制約を受け、団結による示威の程度を超えた物理的な力を以て同人の就労を妨害したり、そのため国鉄の施設や車両を占拠する等して国鉄の正常な列車運行業務を妨害することは、その目的の是非に拘らず許されないものといわなければならない。

 発車した午後8時頃には、三両編成の定員合計240名の約7割に相当する百数十名の乗客が乗車していたことが認められ、しかも原判決認定のごとくS機関士は既に国鉄当局の適法な乗務命令を受けてこれに服従し、就労の意思をもつて出務し、被告人にもその事実の認識はあつたのであるから、斯る段階に立ち至ってなお同機関士に本件職場集会への参加を勧誘、説得しようと試みることは、徒らに同列車の発進を阻害するだけで、国鉄の輸送業務が帯びている高度の公共性と国鉄の職員及び組合の争議行為が少なくとも労働法上は一般的に違法とされていることとに鑑み、時期的に最早許されないものというべきである。

 およそ争議行為への参加を勧誘、説得するには、あくまで相手方に自由行動の余地を残し、相手方が説得に応ずればよし、若しこれに応じないで就労しようとする場合にはその就労場所への進路を開き、何等の妨害を受けることなく就労させなければならず、苟もその進路を塞いだり、就労場所を占拠したり等することは、説得のためのピケッティングの正当な限界を逸脱するものといわなければならないところ、‥‥被告人を含む組合員らが本件651D列車の乗務員に本件職場集会への参加を勧誘、説得しこれを確保するピケ隊要員として配置された場所は、既に本件列車が据え付けられた5番線ホームであり、S機関士が同列車に代替乗務すべく同ホーム陸橋階段下に到着した午後740分頃から午後755分頃組合員らが鉄道公安職員等により排除される迄約15分間引き続き同列車運転室乗降口付近に百数十名が同列車運転室に乗り込んでいた被告人の指揮下にスクラムを組んで同機関士の前進を阻止し、以て同機関士をして同列車運転室に乗り込むことはおろか、これに接近することさえもできない程に、その乗車、就労の自由を失わせたことが認められるから、被告人等の本件所為は場所的にも許容される限度を超えていたものといわなければならない。

 なおこの点につき原判決は、同列車運転室に立ち入ったのは被告人一名だけでそれも乗客説得の任務遂行のためであり、又被告人が同運転室内部から乗降口の扉を閉める等、運転室を占拠する行動に出た形跡は窺われない旨判示しているが、被告人自身同列車の所定乗務員ではないのに擅に同列車運転室に乗り込み、原判示のごとく同運転室内から、その乗降口付近にピケを張っていた百数十名の組合員を指揮してスクラムを組ませ、S機関士の乗車を阻止したものである以上、運転室に立ち入ったのは被告人一名だけであつたとか、被告人に乗客説得の任務も併せ存したとか運転室内部から乗降口の扉を閉めたとか閉めなかったとか等の事実は、前叙認定を左右するものではないと認める。

 そして、争議行為への参加を勧誘、説得するには、あくまで相手方が自由な意思決定に基づき自発的に参加する態度に出るのを待つべきであり、言論による説得又は団結による示威の域を超えた物理的な力によってその自由意思による就労を妨害し又は意思決定の自由を奪う程度の心理的抑圧によって不本意ながら就労を思い止まらせるような事態は厳にこれを慎まなければならないところ、‥‥被告人を含む組合員らがS機関士に本件職場集会への参加を勧誘、説得しこれを確保するために執った手段は、その行為の時期及び場所と相俟って、同機関士が代替乗務しようとする正当な就労行為を物理的な実力を行使して妨害したものに該当し、右説得の場を確保するピケッティングの手段として超えてはならない限度を逸脱していたことは明白であると認められる。

 ‥‥公共の福祉の維持、増進のため列車の正常且つ安全な運行に責任を有する国鉄当局が、S機関士を同列車に乗車させるため、本来の鉄道係員らの他多数の鉄道公安職員を出動させ、以て同機関士の擁護と本件列車運転室への進路の確保に当らせたことは、国鉄当局は争議中であってもなお業務遂行の自由を有し、況して組合側の説得行為に協力し、これを拱手傍観すべき義務を負うものではないこと並びに鉄道係員に対し、鉄道施設内において法規ないし秩序違反の行動に及んだ者を施設外に退去させ得る権限を認めた鉄道営業法四二条一項及び鉄道係員として、国鉄業務の円滑な遂行のため、その業務運営上の障害を除去するという警備的な職務を鉄道公安職員に認めた「鉄道公安職員基本規定」三条、五条、現「鉄道公安職員基本規程(管理規程)」二条、四条の各趣意に照らし、列車の運行業務を維持するための臨時の措置としていささかも違法の廉はなく、これを目して国鉄当局がかたくなに組合側の説得行動を拒否し、積極的にピケ破りのため実力行使一点張りに出たものと解した原判決の判断は失当といわざるを得ない(48425日最高裁判所大法廷判決[註-久留米駅事件]及び昭和3532日福岡高等裁判所判決、高刑集一三巻二号一四九頁以下[門司車掌区事件]各参照)。

 ‥‥、同列車は主として同駅周辺の工場労働者の準通勤列車で、右発車時当時においては三両編成の定員合計240名の約7割に相当する百数十名の乗客が乗車し、乗客中には同列車の発車遅延に苛立っていた者も可成の数あつた‥‥

 上告審は棄却

 

国鉄久保田駅事件・福岡高判昭51・4・27刑裁月報8-4・5-212 (佐賀地判昭49・3・30)

 マス・ピケ事犯 信号所の占拠 建造物侵入、公務執行妨害事件

 久保田駅とは、長崎本線と唐津線との分岐点で一日平均約140本にのぼる列車が通過する。一審は公労法17条1項に違反する職場集会への参加を勧誘、説得するため、組合員が駅信号所に立ち入った行為について、社会的相当行為として無罪を言い渡した。

 控訴審は、久留米駅事件方式により原判決破棄。

 国鉄当局は昭和40423日に職員へ闘争への不参加を局報などで呼びかけた。また、久保田駅では同駅構内および東西両て子扱所の立ち入り禁止を掲示し、担当助役が業務務命令書を手渡すなど、平常勤務の徹底を図った。

 ‥‥被告人ら四名は、いずれも管理者たる久保田駅長Kの禁止を無視して、被告人Uは430日午前220分ころ、被告人Iは同日午前三時三〇分ころ、同駅長管理にかかる同駅東て子扱所二階て子扱室に、被告人N、同Bは同日午前二時二〇分ころ同駅長管理にかかる同駅西て子扱所二階て子扱室にそれぞれ立ち入ったものであり、いずれも人の看守する建造物に看守者の意思に反して侵入したものといわざるをえない。

 ところで、最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決(註-久留米駅事件)は、「勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について、刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するに当つては、その行為が争議行為に際して行なわれたものであるという事実を含めて、当該行為の具体的状況とその他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判断しなければならない」と述べている。したがつて、建造物侵入罪の構成要件に該当する被告人らの本件各て子扱室立入り行為の違法性についても、その行為の具体的状況、その他諸般の事情を考察して、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを検討して決めなければならない。‥‥被告人U、同N、同Bは、国労門司地方本部の決定した四月三〇日午前零時から正午までの間における勤務時間内三時間の時限ストを実行するため、て子扱所勤務者に勤務時間内職場集会への参加を呼びかける目的でそれぞれ東西両て子扱所に赴き二階て子扱室に立ち入ったものであるが、被告人Uは、D、М両助役、さらにはО総括助役から、被告人N、同Bは、K、N両助役からそれぞれ何回となく退去を要求されたにもかかわらずこれに応ぜず‥‥スト突入指令があるまで各て子扱室に居すわり、間もなくして到着した組合員らと共に在室の助役らを強制的に室外に排除したうえ、勤務者を連れ出しており、さらに、被告人らは、勤務時間内のストライキを実施するため、東西両て子扱室に立ち入り、退去要求に応じず助役らを強制的に排除した。これにより勤務員が職務を放棄し鉄道運行に影響を与える可能性があるにもかかわらず、被告人らは警告を無視して侵入を続けた。立入り行為は建造物への不法侵入にあたり、労働組合活動として正当化できるものではない。

 

全林野川内営林署事件・東京高判昭61・8・14労判481-27 (東京地判昭55・11・1訴務月報27-4-215)

 庁舎内占拠 争議行為をあおり、そそのかし、実行したこと等を理由とする営林署職員らに対する公共企業体等労働関係法18条による解雇(4名)あるいは国家公務員法82条による停職(2か月2名、1か月1名)の懲戒処分が適法とされた事例

 

 一審抜粋要約

 昭和34620日開催された闘争委員会には、原告Kは書記長として、同KUは副委員長として、その余の原告らはいずれも闘争委員として参加し、組合員らの意向、川内分会のとるべき態度等について討議し、組合員の家族も闘争に参加させること、六月二一日総決起大会を開催すること、同月二二日から営林署本署庁舎内においてすわり込みを行うこと‥‥討議決定した。

 (六)六月二二日の行為

 同日午前820分頃、約30名の作業員がK地本委員とT川内分会執行委員らの指示により庁舎事務室内で机や椅子を壁際に移動し、座り込み用の空間を確保した。玄関前には天幕舎を設置したが、Y経理課長らが中止と原状回復を申し入れるも拒否され、「ばかやろう」と罵声もあった。その後組合員と家族約200名が庁舎内で座り込みを開始し、ビラを掲示。外では組合旗が掲げられ、天幕舎にも座り込みや闘争本部が設けられ、委員が指揮にあたった。

 すわり込みが始まると、H署長らは現場で川内分会執行委員長の原告KUに職場復帰について警告し、組合員が職場へ戻るよう指示した。また、庁舎内外の組合員にも職場復帰命令や庁舎からの退去を求めたが、組合員はこれに従わず、すわり込みを継続した。H署長の指示で業務命令書を掲示しようとしたところ、原告Kがこれを剥がして廃棄しようとした。S経営課長が取り返すと、原告Kら複数の組合員が課長を取り囲み、罵声を浴びせた。また、庁舎玄関付近に業務命令書を掲示した際も、原告KUら約20名が約10分間課長を取り囲み、「業務命令書を外せ」と脅迫した。

 ‥‥ 営林署本署における前示のようなすわり込みの状況が終日続いたため、同所に勤務する営林署管理者及び本件争議行為に参加しなかつた川内職員組合に所属する二七名の職員の登庁執務が不可能となったほか、右すわり込みにはほとんどの組合員らが各自の職場を放棄して参加したため、各作業現場、製品事業所、貯木場事務所等川内営林署のすべての職場の機能は完全に停止し、森林鉄道の運行も停止されるに至った。

(七)六月二三日の行為(略)

(八)六月二四日の行為(略)

(九)六月二五日の行為

 前日から庁舎内で座り込みをしていた約70名の組合員は、警察署長の警告を受け、刑事問題化を避けるため早朝に家族幕舎へ移動した。その後、組合員や家族約300名が引き続き座り込みを行い、管理者側は業務命令や退去・設備の原状回復などを求めたが、組合員らは応じなかった。説得の結果、一部は自主的に退去することになり、事務室の片付けと机・椅子の整頓が行われた。

 その間原告Kはマイクで、「警官導入は不当である。」、「我々は退去するけれども断固として最後まで闘う。」などとアジ演説し、また労働歌の合唱指導をし、次いで原告KUが挨拶をした後自ら音頭をとつて組合員らに「川内分会万歳」などと唱和させ、その後午後一時ころから、原告Kの指示に従って組合員及びその家族らが営林署構外へ退去を開始し、午後二時ころ構内天幕舎の撤去とともに退去を完了した。しかし、組合員及びその家族らは、営林署の向いの民有地に新たに天幕舎を設置し、同所においてさらに引き続いてすわり込みを行い、闘争本部も隣接する民有車庫内に移された ‥‥。

 また、貯木場事務所は、その一隔が組合事務所として川内分会に貸与されていたが、六月二二日以来、事務所内の至るところにビラが貼付され、屋根には組合旗が掲揚されるなど完全に組合員らの占拠するところとなり、その機能が停止していた。同月二五日午後三時ころ、H署長ら管理者が同事務所へ赴き、その場にいた組合員らに対し、業務命令を発出したが、組合員らはこれを無視し、さらに同月三〇日に至るまで占拠を継続した。

(二)本件争議行為の収拾について

 中央本部は626日、川内分会などに対し、現在のすわり込みを中止して生産点へ戻り、今後は日給制を長期的に求めていくよう指令を出した。この指令は当日中にT副委員長から原告Kへ電話で伝えられ、629日、不満が残るものの、最終的にこの指令に従うこととなり、翌30日に当局と協議したうえですわり込みを中止し、団体交渉の再開などについて組合員全員に報告、解散した。622日以来続いたすわり込みはこれで終了した。

 

公労法第一八条の規定を適用した解雇処分についての判断。

 解雇の判断は、行為の内容や程度、本人の態度など諸事情を総合して決定され、社会的に著しく不当でない限り解雇は違法ではない。本件では、多数の組合員による長期間の職場占拠や機能停止、指揮や粗暴な行動など悪質性が高いため、解雇は裁量権の濫用にあたらず適法とされてよい。

‥‥争議行為が集団的組織的行動であることは原告ら主張のとおりであるとして、その集団性のゆえに争議行為参加者個人の行為としての面が当然失われるものではなく、公労法第一七条第一項違反の争議行為に参加し、服務上の規律に違反した者が、その責任を問われ、懲戒処分の対象とされることを免れないのは当然のことであり(最高裁判所昭和五三年七月一八日第三小法廷判決・民集三二巻五号一〇三〇頁参照-註全逓東北地本事件)、国有林野事業に従事する職員が公労法第一七条第一項違反の争議行為を行った場合には、国公法第九八条第一項、同法第九九条、同法第一〇一条第一項の規定に違反することとなるから、結局同法第八二条第一号に該当することとなり、さらに、行為の態様によっては、同条第三号にも該当する場合があるというべき‥‥。

 

控訴審棄却

 現業公務員の争議行為及び右争議行為をそそのかし、若しくはあおる行為は公労法一七条一項によって禁止されており、右のそそのかし、若しくはあおる行為は、それ自体がたとえ思想の表現たる一面をもつとしても、右条項が憲法二一条に違反しないことは、最高裁判所の判例(最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁)の趣旨に照らし明らかであるところ、控訴人K、同KU、同ОE、同ОМのデモ行進の指導行為は、単純なデモ行進の指導ではなく、坐込み等の争議行為を開始し継続する目的で、争議行為開始直前又は継続中に行われたものであり、組合員らに対し、その実行、継続を決意させ、又はその決意を助長する勢いのある刺戟を与えるものであるから‥‥のデモ行進指導行為が本件争議の具体的状況のもとにおいては公労法一七条一項で禁止されたそそのかし、あおり行為に該当するというべきであって、かかる行為を問責することは何ら違法ではなく、また、違憲でもない。

 控訴人らは、H署長に対する面会要求行為は、何ら業務の正常な運営を妨げるものではなく、憲法二八条によって保障された団体行動権の範囲のものであると主張する。

 しかし、H署長らは、坐込みの対策を検討していたもので、業務の遂行にあたっていたのであり、事前の連絡もなく多人数の者が面会を強く要求することは業務を妨害するものというべきであり、その態様も六月二二日午前一一時ごろ、同月二三日午後二時ごろ、同月二四日午前一〇時ごろ、同日午前一一時ごろから、それぞれ約三〇分間に及んでおり、公労法一七条一項で禁止された業務阻害行為に該当するものである。

 

16-3処分 

 

 新宿営業所の態様は威力業務妨害罪の犯罪構成要件該当行為なので、スト実践指導者の懲戒処分は加重されてしかるべき。刑事処分も視野にいれる。検討する。

 

 

17 積極的業務妨害(業務用機器の隠匿)-刑事処分も検討

 

17-1 新方針と処分

 

 ストライキ時に、業務ができないよう業務用機器の隠匿は違法なので組合員である課長代理級が隠匿しないよう指示し、管理意思を明示して実行者の犯罪を成立される。責任追及は厳重に行う。関与者は最低でも戒告以上の処分。むろん刑事処分も検討する。

 

17-2 根拠

 

 地公労法111項に違反する私企業でも正当とされない争議行為であり、地公法291号、3号、32条、33条の適条の服務規律違反

新規則

3 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない。

刑法234条威力業務妨害罪の犯罪構成要件該当行為

(ただし、現状では管理職が業務妨害を認めていることにより、犯罪の成立が微妙)

 名古屋中郵事件の刑事免責はないという判断方式が先例となる

全逓名古屋中郵(第二)事件 最二小判昭53.3.3刑集32297香城敏麿判解は、名古屋中郵事件大法廷判決を次のように要約した。

(イ)公労法一七条一項違反の争議行為が罰則の構成要件にあたる場合には、労組法一条二項の適用はなく、他の特段の違法性阻却理由がない限り、刑事法上これを違法とすべきである。

(ロ)略

(ハ)これに対し、公労法一七条違反の争議行為にあたらず、これに付随して行われた犯罪構成要件該当行為の場合には、その行為が同条項違反の争議行為に際して行われたものである事実を含めて、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきか否かを考察してその違法性阻却事由の有無を判断しなければならい。

本件は(イ)に該当し、違法性は阻却されない。

 

17-3 類似事案判例 車両確保戦術等

 

 タクシー会社の組合では、昔はエンジンキイや車検証を組合が奪取したり、営業車両を組合の支配下において、非組合員や第二組合員による営業を阻止するストも行われていたが、バス車両については、山陽電気軌道事件、タクシーについて御国ハイヤー事件の最高裁判決が正当な争議行為と認めていないのでこれは決着のついた問題である。

 

川越タクシー事件東京高判昭35・4・21判時383-29  (○浦和地判昭38・1・16判時332-29)

 

一審は無罪。

 公訴事実の要旨は、被告人TMは組合で争議を指導しており、Kは会社の従業員、Mは元従業員である。

 ‥本件組合は、解雇撤回を求めて無期限ストライキに入り、自動車十九台を営業所へ格納し、その検査証やエンジンキイを組合が保管した。これは一般生産工場の労働者が同盟罷業を行い、非組合員の就業を阻止するためピケッティングを張る場合に匹敵するものであつて、ハイヤー・タクシー営業の運転手の争議行為として許容された範囲のものである。しかし検査証やキイと共に車両を埼玉県外に持ち出した行為は、使用者の 生産手段を不当に支配から外すもので原則に反する。ただし、今回は裁判所の仮処分決定への対応が目的だった。

 労働争議で仮処分が申請された場合、裁判所は決定やその内容を慎重に判断すべき。労使対等の原則に反する仮処分は避けなければならない。

 ‥‥ハイヤー・タクシー会社の労働組合の争議行為の態様は組合が会社所有の自動車を会社の車庫又は一定の場所に集結させ、非組合員等の就業を阻止するためにピケッティングを張るのを常態としており、又このような手段方法を採用して始めて使用者側と対等の立場に立って団体交渉をなしうるのである。

 ‥‥この仮処分が執行された暁には憲法が労働者に保障する団結権、団体交渉権は有名無実に帰し、本件争議は組合側の一方的惨敗に終ることは明白であるから本件仮処分は労働者の有するこれらの権利を否定するに均しく‥‥、被告人等の本件行為は憲法によって保障された労働者の争議権を現実に実現するためになされた無理からぬ行為であり、違法性を阻却するものと解するを相当とする。

 

 控訴審は原判決破棄

被告人を懲役一年、懲役一〇月、懲役八月、懲役八月執行猶予二年

 検察官の論旨は、要するに、およそ労働者の同盟罷業等正当な争議行為の本質は、自己のもつ労働力の制御、すなわち、労務提供義務の不履行という不作為であり、使用者の財産に対する支配を不法に阻止することは許されないものであるにかかわらず、被告人等の本件争議行為は、使用者たる会社の意思を排除し、会社所有の自動車、自動車検査証及びエンジンキイを組合側の管理の下に置き、積極的な行為によって使用者たる会社の財産に対する支配を阻止したものであり、到底正当な争議行為とは認められないとするものである。

 原判決は行為の違法性を否定したが、組合員が会社の意志に反して自動車18台を無断で持ち出し、営業や他組合への連絡に使用した結果、会社は数か月間所在を把握できなかった。これは所有者の権利を侵害し、刑法第96条ノ2の罪に該当すると判断できる。

 ‥‥勤労者の同盟罷業その他社会的に相当と承認されている争議行為の本質は、本来自己の有する労働力の制御すなわち、労務提供義務の不履行にあるというべきであって、積極的な行為によって、本来使用者側にとどめられるべき財産(生産手段)を使用者の支配から脱出させその支配を不能にするような争議手段は、前記争議行為の本質を逸脱し、また原判決もいうように労使対等の原則に反するものであり、正当な行為として許さるべき性質のものではない。

 本件において窃盗罪を構成すると判断した自動車の持出の行為は、ハイヤー、タクシー業者たる会社からその営業手段たる乗用自動車の大部分をその自動車検査証およびエンジンキイとともに運転搬出したうえ、その所在を不明にし、相当期間会社側の使用を全然不可能にしたものであつて、正当な争議手段と認められない性質のものであることは明らかである。

 車両の占有権は基本的に会社にあり、運転者は会社の指示に従ってのみ車両を使用できる。争議で業務を停止した場合、運転者がその車両を引き続き占有する正当な理由はない。ただし、運転中だった車両を本来の車庫などに戻すための移動は必要であり、その範囲での占有は認められるが、ストライキ中に一般的な占有権までは認められない。

 ‥‥被告人等の行為は、‥‥労働組合法第一条第二項にいう正当行為とは認められず、また本件経緯に徴しても正当防衛、緊急避難あるいは行為期待可能性の欠除等免責事由が存する事態とは認められない。

 

 

山陽電気軌道事件・最決昭53・11・15刑集32-8-1855 (●広島高判昭52・2・10●山口地判下関支部昭45・7・9)

 

 検察官が事件を分けているので第一事件だけをとりあげる。山陽電気軌道株式会社(現サンデン交通)は本社下関市、昭和36年当時、電車51輛、バス265輛を保有する山口県西部を営業エリアとする旅客運輸業である。本件は最高裁が、使用者は操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができると「操業の自由」を明示したことで重要判例といえる。本件の車輛確保戦術のような会社の生産手段を組合の支配管理下に置いて操業を阻止する戦術は正当な争議行為とはされないことがより明確になった。

 事案は昭和36年春闘、少数派となった私鉄総連傘下の私鉄中国地方労働組合山陽電軌支部(500名)の車輛確保戦術のストに対抗して、会社側が車両を分散し、支部組合に奪取されないよう移動隊を組織して、就労の方針をとった第二組合(山労-800名)の支援協力により、営業を継続する方針で、第一組合対会社+第二組合で激しい車輛争奪戦となった。第一組合は山電バス約二六〇台のうち半数近くを確保し、車を止め、車内に入りほとんど有無を言わせずこれを支部組合側の支配する車庫等に回送集結して占有した事案。

 

 一審はやむをえない事情から正当な争議行為としつつも、暴力を伴ったケースでは違法性を阻却せず

 車輛確保戦術 建造物侵入、威力業務妨害、傷害、暴行罪

 一審は、車輛確保戦術は一般的に違法としつつも、私鉄総連傘下の私鉄中国地方労働組合山陽電軌支部の組織破壊を図る会社側の敵意、職制による第二組合の加入勧誘、山労電軌労組育成の方針など、やむをえない事情から、なお正当な争議行為としているが、153号車を東駅構内へ運び、これを業務経営の用に供することを阻止したるものである以上、会社の自動車による一般旅客運送業務の経営を阻害したというに難くなく、その手段が暴力を伴うものであるからには正当な争議行為として違法性を阻却せず業務妨害罪を構成するとも示す。修理工場や自動車学校の立入について建造物侵入罪は可罰的違法性なしとする一方、第二組合のピケライン襲撃の反撃における暴行、傷害は有罪としている。

 要するに車輛確保戦術は本件において正当としつつ、暴力を伴う手段をとったケースはて違法としたもの。一部無罪。

 被告人1名懲役六月、5名懲役四月 執行猶予二年 以下抜粋要約

 組合は昭和21年企業内単一の山陽電軌労働組合として発足、同28年に私鉄中国地方労働組合山陽電軌支部(以下支部組合と略す)と名称を改めたが、昭和341224日事実上の分裂を起こし、新たに‥百数十名をもつて組織する企業内組合である山陽電軌労働組合(以下山労と略す)が発足し、その組織は‥発展し、昭和365月当時‥山労が八百余名、支部組合が五百余名であつた。

(昭和36年春闘)

 昭和35年春闘では、会社側は山労の協力を得てスト対応を試みたものの、準備不足で車両の9割を支部組合に押さえられ、業務がほぼ停止し、大幅な賃上げに応じることになった。この結果を敗北と評価した会社は、山労強化と支部組合の弱体化、争議対策のための交渉委員会を設立し、定例会議を開いて具体策を検討、五月にはストライキが避けられないと判断し、М常務を総括者として会社の総力を挙げ争議対策準備を進めた。

 会社側は争議態勢に組織を変更し、520日頃に正式に山労へ支部組合争議期間中の就労を要請し、車輛分散の具体策など山労は協力に同意し、争議心得が各現場営業課長を通じて山労員の約80%に配布した。

 ‥会社側は五月二三日頃から山電本社周辺で下請業者と山労員を動員して既設の塀や柵を高くしたり、有刺鉄線を張って、補強し、同月二五日頃からは更に柵の新設作業にとりかかると共に、東駅、彦島、小野田各営業課、鳥居前車庫、山陽自動車学校などに有刺鉄線を使った柵を構築し‥‥、山労員を四、五名の班別に分け本社、各営業課、車輛の分散地の拠点防衛のための配置計画書を作成し、或はスト突入後の山労員の待機、宿泊のための旅館を予約するなど支部組合が斗争宣言を発する前に万全の態勢を整えるに至った。

二、特別対策

(一)車輛分散計画とその実施

 五月二五日、支部組合の動きが活発化する中、Y運行課長は警戒態勢を指示し、山労組合員によって車輛を数か所へ分散配置した。翌日には車輛の多くを通常業務へ戻し、残りはハンドルやタイヤなどを外すなどして厳重に管理しました。結果として、会社側は計画通り多くの車輛を確保できた。

(二)移動隊について

 移動隊の指揮はHA課長とHI課長が担い、О山労副委員長が隊長となって80名で2個小隊を編成し、各地でバス車輛の分散・防衛活動や不当争議への警告などを実施。さらに他組合からの応援40名を加えて3個小隊体制とし、車輛確保阻止や分散作業に迅速に対応した。また夜間も情報を受けて出動し、紛争現場にも臨機応変に対処するなど積極的に行動した。

 会社は移動隊の強化を決定し、29日午前930分ごろ別館に集結させた。山労員のほかアルバイト学生を加え、バス6台と約200名からなる移動隊を編成し。О山労副委員長が隊長となった。

 午後四時頃、国鉄厚狭駅前を出発した一行は、長府鳥居前で下車し、車庫のピケラインを張っていた組合員に対してHA課長が占拠の中止を警告し、隊員も示威行動を行った。その後、壇ノ浦から新町一丁目を経由し東駅へ向かい、「第三ゲート事件」を起こして別館に引き上げた。夜には新地町へ移動し、借りた旅館に宿泊したが、使用したバスの管理を巡って「第一・第二新地事件」が発生した。

1 下関ジーゼル事件

 被告TとFは支部組合の組合員で、約30名と共謀し、預かり中のバスを奪おうと昭和36527日午後140分頃、下関ジーゼル整備工場に侵入した。

一審の判断 無罪

‥‥、被告人らの本件立ち入り行為は形式的には建造物侵入罪の構成要件に該当するけれども、未だ刑罰を以って臨まなければならない程の違法性はないものといわなければならない。

2 第三ゲート事件(会社+第二組合によるピケライン襲撃とその反撃)

5月29日夕方、山電本社構内第三ゲート付近で支援労組員がピケットを張っていたところ、会社側の移動隊約200名がバスで到着し、竹や棍棒を持った者も含めて労組員に襲いかかった。労組員はゲート内に逃げ込んだ、門越しに殴打や投石を受け、多数が負傷しました。混乱の中、車に乗っていた会社側指導班の車両が労組員らに囲まれ、ドアの開閉を巡って揉み合いとなり、会社側Мらが引きずり出され暴行されてケガを負った。その後、移動隊員が救出に来て現場は収拾された。

 一審の判断-会社側Мに加えられた暴行は違法

‥‥‥‥刑法上いうところの共謀というに何らの支障はなく、被告人のМに関する本件所為は‥‥ピケット要員との間に協力ないし意思疎通がないとは云えず、М乗用のY車を取り囲んだ支援労組員との共謀というに妨げはない‥‥。

〈中略〉本件Мに加えられた前記暴行の態様は、当時の諸事情を勘案しても抗議の程度を越えたもので違法というべきである。

3 第一新地事件

5月29日、山電東駅第三ゲートから移動した全員は夜7時ごろ下関市新地町に到着し、会社が用意した旅館に宿泊し、バスは所定の場所に駐車され、警備班が常に警戒していた。一方、支部組合側もバス確保をめぐって出動を決定し、総括責任者Aが約300名を率いて30日午前0時に東駅を出発、A指揮下の青行隊などが現地で会社側のバス周辺に集まり、罵声を交わしながらも、Aはマイクで平和的な引き渡しを呼びかけた。

青行隊はAの指揮で三〜四列に並び、五号車付近の歩道に立ち、その後ろに日炭高松の青年行動隊約2030名が加わった。支部組合側の他のメンバーは別のバスへ向かった。五号車にはS隊長と46班の隊員が乗り、窓やカーテンを閉めるなど防衛態勢を取っていたが、結局抵抗は排除され、支部組合側に確保された。四号車と二号車もほぼ無抵抗で支部組合側に確保された。

公訴事実の要旨

被告人は支部組合員であり、同支部の労働争議に参加していたものであるが外300名位と共謀の上、同会社所有のバスを強取しようと企て昭和36530日午前030分頃バスに分乗して下関市新地町明月旅館附近に押しかけ同会社が営業に備え看守者を付して同所路上に駐車していたバスに襲いかかり、他100名位と共にその中の一輛山二あ〇一五三号(看守者S外一三名)を取り囲み、スクラムを組んで乗降口ドア等に体当りをなし、それぞれ所携の鉄棒、棍棒等で窓ガラスを叩き壊した上、外20名位と共に窓等から車内に乗り込み、看守者の一人Оの右肩の辺りを手で突き、所携の棍棒をもつて同人の頭部を一回強打、Sの後方より頸部を締め付け、手拳で後頭部及び顔面を各一回殴打し、Tの腰部を一回蹴り、更にNの腰部を数回蹴る等の暴行を加え、且つ看守者全員を同バスの後部に追い詰め、再三「逃げると半殺しにするぞ」等と申し向けて脅迫し、逃げ遅れた前記S外8名をバスの後部に閉じ込めたまま、同所より東駅構内の同組合事務所まで同バスを運転して同人らを連行したうえ、同所において同人らをバスから引き摺り出し、以て同人らの反抗を抑圧して同バスを強取し、その際右暴行により前記Оに対しては全治約10日間を要する後頭部打撲傷を、前記Tに対しては全治約二週間を要する腰部打撲傷をそれぞれ負わせたものであり、右は強盗傷人に該当する……

 

一審の判断

‥‥強盗罪が成立するためには不法領得の意思が必要であり、‥‥争議終了後は直ちに返還されるものである以上これに不法領得の意思はないものと云わざるを得ない。‥‥強盗傷人罪は成立しない。

 バス看守という業務の主張について

 移動隊は主に山電従業員で構成されているだけで、広電など他企業の労組員や一般人も含まれていた。そのため、Sらの153号車警備は社会的地位によるものとは言えない。また、その警備が継続的だったとも考えにくく、本件のように支部組合側の確保行為が予測される場合、О隊長の指令による臨時の防衛任務であり、業務性はないと判断される。

 よってSらの本件バスの看守は威力業務妨害罪にいう業務にあたらないと解すべきである。

 また威力業務妨害罪における妨害の客体は、単に、現に執行中の業務のみには限らず広く業務の経営を阻害する一切の行為を含むもので、被告人らの本件所為が、153号車を東駅構内へ運び、これを業務経営の用に供することを阻止したるものである以上、会社の自動車による一般旅客運送業務の経営を阻害したというに難くなく、その手段が前示の如く暴力を伴うものであるからには正当な争議行為として違法性を阻却せず業務妨害罪を構成すると解するのが相当である。

4 山陽自動車学校事件

 自動車学校は昭和35年に設立され、理事長には山電社長、理事には山電各部長が就任し、各種学校として認可された。運行課長は争議時に校内をバスの避難先として利用することを校長に依頼し、会社側は校舎周囲に柵や有刺鉄線を設置して警備を強化した。524日から数日にわたり、複数のバスが定期運行後に順次分散され、最終的に16台が学校敷地内などに配置された。

 支部組合員の被告人4名は他の約120名と共謀し、昭和3662日午前5時頃、山陽自動車学校に侵入し、同校が保管していたバスを奪おうとした。

一審の判断

‥‥被告人ら四名を含むY以下約一三〇名位の者の本件自動車学校への立ち入りが正当な争議権の行使として認め得るかについて‥‥会社側のかかる支配管理を排除し、これを会社の所有地とはいえ、現に支部組合側の占有、支配する場所(東駅構内)に移転し、保管しようとすることは所有権の静的機能を侵害するものとして特段の事情のない限りかかる態様における確保行為は、違法な所為と云わねばならない。

(しかし)本件争議に対し、組合組織の興廃をかけて取組んだことそれ故会社側の右運行計画の遂行によって受けるストライキ効果の減殺をなんとしても阻止したかつたこと、本件争議に関し、会社側は争議心得を作り、移動隊を設置し、支部組合の争議行為の制限を図ったこと、自動車学校には特に20名近くの暴力団を警備要員として派遣していること‥ バリケードの破壊は穏当を欠くことは確かであるが、暴力とまで言いうる程の実力行使とも言い難く、本件が早朝であつたこと、約130名の多数であつたことを考慮に入れても、被告人等の本件立入りには、いまだ実質的な違法性はないものと言わざるを得ない。よって‥‥無罪。

 

5 第二新地事件(略)

◇車輛分散についての一審の判断

 車輛分散について按ずるに、山電のとった車輛分散は争議開始前における分散、分散地における車輛防衛のための暴力団の使用、或は争議団が干渉することの許されない第三者の管理下に、その干渉することの許されないことを計算したうえで取られた分散等確かに穏当を欠くものであつたことは否定し難いが、三五年春闘の際山労員による操業を予定しながら現有車輛の九〇%を支部組合に確保された経緯或は多数の支援労組員の動員の実績等既述の会社と支部組合との拮抗状態並びに三六年春闘の争議経過、業務阻止の程度等考え合せると支部組合の争議権を無意味ならしめる程のものであつたとまでは云えないし、‥‥単に支部組合の団結権の破壊にのみ向けられたものとまでは認め難く、‥‥会社のとった車輛分散は操業の自由の外延にあって、且つ所有権の機能としてなお適法な行為であると云うべきである。 

◇車輛確保戦術について一般的には違法だがこのケースは正当だという一審の判断

 総じて第一組合に同情的、ストに反対の立場の第二組合に批判的。

車輛確保戦術が所有権の絶対性を侵すものであることを否定することは出来ず、それが資本制制度を支える中枢であることに思いをいたすとき、争議手段としては止むを得ないという一事をもつてはいまだ所有権の侵害をもたらす争議手段を容認し得ない。‥‥支部組合の車輛保管の現状は、善良なる管理者としての注意をもつて管理していたというに妨げはなく、会社側に対して、何時でも点検・整備に応じる旨の申入れをなしており、必ずしも会社の占有を完全に排除したものとも云えず、もともと、争議下において組合による生産手段の排他的支配を違法となす所以は、それによって操業一般が阻止されるという点にあるのではなく、主として、企業所有者が企業存立のため、その物的施設保存のために要する必要不可欠の措置を不可能ならしめる点にあるのであつて、支部組合の車輛管理形態からするならば、さして侵害の程度は重大なものとは云えず、且つその侵害の程度と支部組合にとつて車輛確保戦術にいずるより外に争議権の実質保障を完うする方法がなかつたことを比較考量すると、本件の如き事案に関する限り車輛確保戦術は止むを得なかった争議手段として、その正当性を認めるべきが相当である。」 

 

控訴審 被告人ら全員につき原判決を破棄

被告人2名懲役三月に、6名罰金二、五〇〇円、2名、罰金二万五、〇〇〇円に、1名罰金二万円

威力業務妨害罪の成立を認める。建造物侵入罪も有罪。

◇車輛確保戦術と本件争議行為の正当性について二審の判断

 本件争議にあたり、いわゆる車両確保戦術なるものを検討してこれが採用を決定し、現に被告人らを含む多くの支部組合員および支援労組員によりこれを実施し、山電バス約二六〇台のうち半数近くを確保するに至っている事実がうかがわれ‥‥相手方に対する説得らしい説得はほとんどなされていないのみか、車を止め、車内に入りほとんど有無を言わせずこれを支部組合側の支配する会社車庫、会社所有地等に回送集結して占有し、右バスの一部は支部組合側の者の宿泊、またピケ隊の移動用にも用いているというものであって、相手方の納得あるいは同調を前提とする就労阻止という性格からするときわめてかけ離れたものとみざるをえない。‥‥ 結局、本件につき、本来の平和的説得の意義の範囲をこえ、相手方の自由な意思による納得あるいは同調によらないで、その意に反してでも、車両を所定の場所に回送占有して確保しうるとするような争議手段の正当性を肯認することはできない。 

 

◇山労所属従業員の車両分散行為等の業務性について

 車両分散等も、支部組合側の違法な車両確保戦術に対し防衛的にとられたものであって、もし現に就労を希望する支部組合員がある場合その労務提供を拒否するというものでもなく、またもとより支部組合側のスト破壊等争議権行使の阻害を積極的に意図したようなものともみられないところで、争議中も会社側は少くとも現にストに加わらない山労所属の従業員による操業の自由はなんら失うものでもないと解される以上、これら就労による会社の業務遂行は威力業務妨害罪の対象としての業務になると解することができるものというべく、ただピケッティングが正当な範囲内のものである限り右違法性を阻却することがあるにすぎないものといえる。

 

 上告審-棄却 操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができる

 上告審は国労久留米駅事件.最大判昭48.4.25を引用し、ストライキに際し、使用者の継続しようとする操業を阻止するために行われた行為が犯罪構成要件に該当する場合において、その刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたっては、当該行為の動機目的、態様、周囲の客観的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならないという判断枠組みを示した。

「使用者は、労働者側がストライキを行っている期間中であっても、操業を継続することができることは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(二七年一〇月二二日大法廷判決・民集六巻九号八五七頁[朝日新聞西部本社事件]、三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一六九四頁[羽幌炭礦鉄道事件]、三三年六月二〇日第二小法廷判決・刑集一二巻一〇号二二五〇頁[第二港湾司令部駐留軍要員事件]参照)。使用者は、労働者側の正当な争議行為によって業務の正常な運営が阻害されることは受忍しなければならないが、ストライキ中であっても業務の遂行自体を停止しなければならないものではなく、操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができると解すべきであり、このように解しても所論の指摘するいわゆる労使対等の原則に違背するものではない。従って、使用者が操業を継続するために必要とする業務は、それが労働者側の争議手段に対する対抗措置として行われたものであるからといつて、威力業務妨害罪によって保護されるべき業務としての性格を失うものではないというべきである。

 これを本件についてみると、山陽電気軌道株式会社は、バス及び電気軌道による旅客運送業を営む会社であるが、昭和三六年五月当時における従業員約一三〇〇名のうち約五〇〇名は、日本私鉄労働組合総連合会に属する私鉄中国地方労働組合山陽電軌支部(以下「支部組合」という。)に、その余の約八〇〇名は、昭和三四年一二月に支部組合から分裂して誕生した山陽電軌労働組合(以下「山労」という。)に所属していたものであるところ、昭和三六年の春季闘争に際し、会社と支部組合の団体交渉が難航し、支部組合のストライキが必至の情勢となったところから、これに参加しない山労の就労を前提に争議中もできるだけバスの運行を図ろうとした会社は、前年の春季闘争の際支部組合から会社バスの約九割を確保されてほとんど運行できなかつた経験から、再び同様の事態の発生を強く危惧し、支部組合がストライキに突入する前から、車両を車庫以外の相当な場所に分散しこれを保全看守する具体的な計画を取り決め、同年五月二五日ころから車両の分散をはじめ、翌二六日及び支部組合がストライキに入った二七日以降は、第三者の管理する建物等を選び、その日の営業を終った貸切車等から順次回送する方法で数個所に車両を分散し、これを保全看守したというのである。

 そうすると、会社のした右車両分散等の行為は、ストライキの期間中もこれに参加しない山労所属の従業員によって業を継続しようとした会社が、操業を阻止する手段として支部組合の計画していた車両の確保を未然に防いで本来の運送事業を継続するために必要とした業務であって、これを威力業務妨害罪によって保護されるべき業務とみることに何の支障もないというべきである。以上と同趣旨の原判断は相当として是認できる。

‥‥‥ストライキに際し、使用者の継続しようとする操業を阻止するために行われた行為が犯罪構成要件に該当する場合において、その刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたっては、当該行為の動機目的、態様、周囲の客観的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない(前掲、昭和三三年五月二八日大法廷判決[羽幌炭鉱鉄道事件]、四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻三号四一八頁[国労久留米駅事件]、五〇年八月二七日第二小法廷判決・刑集二九巻七号四四二頁[日本鉄工労組事件]、五〇年一一月二五日第三小法廷判決・刑集二九巻一〇号九二八頁[光文社事件]参照)

‥‥本件の車両確保行為は、いずれも相手方の納得を前提とすることなく一方的に、会社が回送中又は路上に駐車中のバスを奪って支部組合側の支配下に置きあるいは会社が取引先の整備工場又は系列下の自動車学校に預託中のバスを搬出しようとして看守者の意思に反して建造物に侵入したものであつて、旅客運送業を営む会社にとり最も重要な生産手段に対する会社の支配管理権を侵害し又は侵害しようとしたものであるばかりでなく、それらの行為は、多数人による暴力を伴う威力を用いあるいは多数の威力を示して行われている。本件争議においては、会社側の強い関与を背景に誕生し支部組合に比較するときわめて会社寄りの山労が存在し、この山労が会社従業員の三分の二近くを擁して会社の操業継続に協力したこと、これら山労の存在及び行動が労使間にかなりの力の不均衡を生ぜしめ支部組合側の争議権行使の実効を著しく減殺するものであつたこと、しかし、これらの事実は、一面においては、支部組合として争議突入の当然の前提として受容すべき事柄の一つであつたことなど、諸般の事情及び所論の指摘する交通産業における特殊性をすべて考慮に入れ、法秩序全体の見地から考察するとき、本件車両確保行為は到底許容されるべきものとは認められない。

 そうすると、威力業務妨害罪又は建造物侵入罪に該当する本件車両確保行為には刑法上の違法性に欠けるところはないというべきであり、この点に関する原判断は結論において相当である。」

 

御国ハイヤー事件最判平4・10・2判タ813-191(◯高松高判平1・2・27判時1313-158●高知地判昭61・5・6判時1313-162)

  車庫を占拠し営業車両稼働の妨害

 昭和57年春闘で全自交高知地本とみくに分会は48時間のストライキを決議し実施を通告した。会社側は管理職によるタクシー運行を継続し、組合に妨害しないよう求めた。

 しかし被上告人らは全自交高知地本の決定に従い、みくに分会の組合員によるタクシー6台の稼働を阻止するため支援を求めた。7月9日午前5時ごろ、帯田車庫と百石町車庫に集まり全自交高知地本の支援組合員1015名と共に、茣蓙などを敷き座り込んだり寝転んだりして車庫を占拠した。

 昭和5779日午前8時ごろ、A専務と整備課長Oは百石町車庫に来て、関係者らに対し直ちに退去するよう命じる通告書を手渡した。しかし組合員らは応じず、その後も数回退去を求めましたが拒否された。会社側は、被上告人らが共謀して二日間にわたり二つの車庫を占拠し、タクシーの搬出・稼働を妨げ、違法に営業を妨害したとして、不法行為による損害賠償等を求めて訴訟を提起しました。

 一審では、タクシー稼動阻止が正当な争議行為として認められず、営業妨害に該当し違法との判決が下された一部請求が認容され、482112円およびそのうち182112円に対して昭和57710日から支払い済みまで年5%の利息を付して支払うよう命じた。

 二審は、原判決取消、会社側の請求を棄却。阻止対象はスト参加組合員の乗車予定車に限定されており、使用者所有権を全面的に侵害するものではなかった、車のエンジンキイ・車検証までを管理下に置くものでなかった、非組合員の就労を妨げるものではなかった、暴力はなかった、などの諸事実に着目し、本件争議に至る経緯、争議の目的、態様、被侵害利益などを総合してこれを全体として評価すれば、正当な争議行為に該当するとした。

 上告審は破棄差戻、ストライキは必然的に企業の業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、不法に使用者側の自由意思を抑圧しあるいはその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されず、これをもって正当な争議行為と解することはできないこと、また、使用者は、ストライキの期間中であっても、業務の遂行を停止しなければならないものではなく、操業を継続するために必要とする対抗措置を採ることができることは、当裁判所の判例(昭和二七年一〇月二二日大法廷判決・民集六巻九号八五七頁[朝日新聞西部本社事件]、三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一六九四頁[羽幌炭鉱鉄道事件]、五三年一一月一五日第二小法廷決定・刑集三二巻八号一八五五頁[山陽電軌事件])の趣旨とするところである。そして、右の理は、非組合員等により操業を継続してストライキの実効性を失わせるのが容易であると考えられるタクシー等の運行を業とする企業の場合にあっても基本的には異なるものではなく、労働者側が、ストライキの期間中、非組合員等による営業用自動車の運行を阻止するために、説得活動の範囲を超えて、当該自動車等を労働者側の排他的占有下に置いてしまうなどの行為をすることは許されず、右のような自動車運行阻止の行為を正当な争議行為とすることはできないといわなければならない。右タクシー等の運行を業とする企業において、労働者は、ストライキの期間中、代替要員等による操業の続行を一定の限度で実力により阻止する権利を有するようにいう原判示は、到底是認することのできないものである。

 

 

18 昼当番拒否闘争を是認せず、就業命令する

 

 東京都水道局営業所では、昼休み一斉に休憩を1時間与えられるが、窓口応対と電話の受け手として2名、大きな営業所では3名、昼当番と称し、休憩時間を午後1時以降にずらして、所長の命令により勤務する慣行となっている。月に12回は当番をすることになるが、昼休み当番拒否闘争がなされることがある。記録にとっている事例は2例である。平成18726日~28日区部21営業所で実施された。水道特別作業隊勤務だったので管理職が応援体制で下位職代務に動員された。

 平成231031日~2日と4日昼休み当番拒否闘争がなされた。労働協約で休憩時間を午後1時以降にずらして業務命令できることになっているので、事実上組合による労務管理、労務指揮権の奪取だが、水道局は闘争、争議行為を認める方針で一貫している。代務として管理職を動員して対応している。不完全就労であるが〇〇所長から直接賃金カットしていないと聴いた。

 平成23年のケースは、足立営業所の監理団体業務移転の提案に反発してスト権一票投票もやってないのに、突然分会委員長が当局の提案に反対するため2名配置の昼休み当番を引き上げ、電話と窓口を管理職対応とすると宣言。これは組合役員が管理職に指図して仕事をさせるいやがらせである。当番の職員の代務者に組合役員となり、管理職に仕事を押し付けるが後ろの見えないところで控えていて、経常業務に不慣れな管理職に質問があったら、こう端末を操作するとか、回答するとか、指図する役となる。中野では昼当番は窓口のレジと電話と2人体制であるので、営業所長(後に監察指導課長、労務課長の〇〇)と、もう1名は西部支所配水課もしくは給水課管理職が応援体制であたっていた。

 正常な業務運営ではなく、地公労法111項違反だが、当局は争議行為と認定していない。

 この闘争戦術はめったにやらないが、唯々諾々と管理職が組合役員の指揮下におかれる必要はないので拒否する。組合職員に指図されて本局中枢要職であれ管理職が慣れない下位職実務をさせられる姿は滑稽であり、それを見せつけて組合の職場支配力を示す示威行為ともいえるだろう。

 

18-1新方針と処分

 業務命令し、賃金カットする。どうしても従わない場合は業務命令に従う職員に業務命令する業務命令し、昼当番をさせる。従わない場合は戒告以上の処分が妥当である。なお、前記平成23年の時は、不完全就労でありながら、賃金カットはしていないと中野営業所長から直接聴いた。

 

18-2 根拠 

 

 指名ストにあたり地公労法111項違反の争議行為である。地公法291号、2号、3号、32条、33条、35条の適条による服務規律違反。

 

19 組合役員による労務指揮権奪取による、業務妨害、業務管理は拒否

 

  平成26128日~2月下旬に当局は争議行為と認めていてないが、中野営業所監理団体への業務移転拒否闘争があった。1月24日スト後も争議行為は続行し、中野営業所では業務移転業務拒否闘争で徹底抗戦、実力で4月から7月に移転時期を延期させている。220日停職中の本部書記長〇〇〇が勝手に侵入しオルグ活動をしたり、これに先立ち129日本部委員の〇〇〇〇が勤務時間中のオルグのほか職員部人事課の監理団体派遣説明会の前でピケを張り業務を妨害した。

  〇〇所長は外来者の本部委員の勤務時間内オルグ、退去命令できず、人事課説明会ピケ容認、組合の移転準備の業務命令をさせない工作により、管理職は職務命令を凍結して闘争に加担している。

  〇〇分会書記長は、〇〇課長補佐(営業係長)に対し、移転業務のため固定資産.備品の帳簿の現品確認に来た本庁サービス推進部の職員を追い返せと指図した。組合に協力しないとまずいことになりますよと言い、本庁職員は追い返された。さらに〇〇は〇〇所長に業務命令の凍結を強要する、組合が労務指揮権を奪う、業務管理態様の争議行為といえる。

  違法争議行為とは同盟罷業だけではない。本庁から固定資産.備品の帳簿と現品の照合という業務で出張してきた職員を追い返しのだから重大な業務妨害なのである。

  北九州市交通局事件.最一小判昭63.12.8民集42107バスの整備のため代務となる民間ディーラー整備員の入構拒否を争議行為と認定したようにまさに争議行為である。

  最終的には組合はしかも組合は移転に協力させるためにはサービス推進部担当者に謝罪の文書と、実際に中野営業所にきて頭を下げるよう強要もしている。業務移転は7月移転で決着することとなった。実力で3か月移転を遅らせたことを組合は誇っている。

  管理職の業務命令が組合に阻止されてできないというガバナンス問題は全く解決されていない。〇〇所長に質問したところ、非経常業務は組合と事前協議することになっており、協議が不調なので業務命令はしないとの趣旨を言っていたが、言い訳としては苦しい。

  事前協議の対象であるとしても、それは数か月前から再三やってきたことで、決裂後の対応としては業務命令するほかないはずだし、それはサービス推進部から指示されているはず。

  組合員である〇〇課長補佐の指示に従えとのことだったが、上級部署の指示に従うのがコンプライアンスであるから、組合に屈服してしまうのは問題がある。

  本庁業務課では管理職が業務命令できると思っているのかもしれないが、それが通用するのは本庁部局内部のみと思われる。出先の各事業所では、普段から経常業務以外は事前協議で管理職は組合役員にお伺いする立場で、争議行為は労務指揮権・施設管理権凍結が通例なので、上級部署の指示は止まってしまうことがあるのである。

  以上述べた〇〇分会書記長の行為は、地公労法111項違反行為であり悪質である。

  今後も全水道東水労は中野営業所のような徹底抗戦をやる可能性もありうるので組合のいいなりになって労務指揮権を凍結しないよう、ガバナンスを徹底する必要があり、このような場合、特別査察チームを派遣して、組合に業務管理されないよう万全の体制をしくべきである。

  本部中闘以外懲戒処分にしない方針から、本部委員や分会役員はなにをやっても責任は問われないという職場の慣行というものが、非常に大きな悪影響を及ぼしている。

 

19-1 新方針

 

  管理職が組合役員の要請に応じ、これこれの業務命令はしないとか、労務指揮権や庁舎管理権について組合の方針に従ってはならないものとする。職員より密告があれば、調査し責任追及をする。

 

19-2 根拠

 

  管理職の労務指揮権を掣肘して、業務管理することは、地公労法1条の趣旨に反し、地公労法111項の正常な業務運営の阻害に該るから、地公法291号、3号、32条、33条適条による服務規律違反。

 

 

 

20 同盟罷業の懲戒処分の在り方を改める

 

20-1 本部中闘に懲戒処分を限定しているのは、組合に非常に有利な在り

 

 全水道東水労の過去3回の同盟罷業の懲戒処分等は以下のとおりである。

平成221210日 1時間スト

 

同盟罷業私の記録では2323日付発令処分は全水道東水労本部中央闘争委員会5名(下水道局職員含)の最大16日間の停職処分[1時間ストライキと17日の勤務時間執務室内職場集会を理由とする]と各支部長に対する訓告これは前例がなく初めてだが、懲戒処分でなく人事記録に載るだけなので痛くない。スト集会参加の組合員は賃金カット(組合が補償する)

平成26124日 1時間スト 

同盟罷業 争議行為が続行(中野営業所業務移転拒否闘争)しているにもかかわらず処分は2625日発令と異様に早く猪瀬辞任に伴う都知事選告示の翌日、私の記録では全水道東水労は、本部中闘停職182人、停職161人、停職71人、ほかに下水道局2人、支部長28人に対する訓告処分。スト集会参加の組合員は賃金カット

令和元年1220日 1時間スト

 

同盟罷業 令和226日発令の全水道東水労の処分は、本部中闘停職131人、停職101人、停職71人は未確認と支部長26名の訓告処分。スト集会組合員は賃金カット。

(なお上記は全水道東水労に対する処分内容、なお令和226日発令では自治労連東水労は執行委員長が停職3日だが、土日も含めて3日で実質停職は1日であった、停職処分のやり方も組合に忖度しているように思った)。

  懲戒処分は1時間ストライキが決行された場合は、争議行為の企画、決定、指令の発出を理由として本部中闘を停職とするのが通例。懲戒処分事由として座り込み闘争や、29分以内の職大も付け加えることがあるが、当局も争議の対象としている3割動員決起集会は、賃金カットの対象としているが懲戒処分理由ではない。平成26年2月には中野営業所の業務移転拒否闘争が継続されたが、すでに処分をすませていたので、懲戒処分の対象になっていない。

  東京都は懲戒処分の対象は組合の機関責任のみを問う形式で、水道局の全水道東水労の場合、本部中央闘争委員のみにしぼっており、実際に各事業所で、スト権一票投票の呼びかけ、ストライキ態勢の意思統一を図る昼休み集会等オルグ活動、職務離脱決起集会の動員指令、超勤拒否闘争での定時退庁の指示、ストライキ準備、指令伝達、非組合員にピケットラインを超えないよう、違法行為の慫慂、スト当日のピケ、集会の主宰等、ストを実践指導している各事業場の・支部・分会役員等が懲戒処分に付されることはない。

  また本部中闘の下についている本部委員・統制委員・中執でも闘争委員会のメンバーでなければ懲戒処分にならず保護されている。懲戒処分対象を絞っていることが最大の問題だ。

  組合中央本部の機関責任だけを問うというのは、水道局だけでなく知事部局でも同じ方針であるはずだ。但し平成23年2月3日の処分から、支部長を訓告にしているが、訓告は懲戒ではなく、人事記録に載るだけ。期末手当が減額されるわけではない。以降もストライキがあるが、訓告のままである。

  ストに参加した組合員は賃金カットとなるので、大多数の組合員は賃金カットだけということである。賃金カットは組合が闘争資金から現金で補償する。

  水道局では当局が争議行為と認定している3割動員勤務時間内決起集会を34回毎年行い、かつてはもっと回数があったうえ、平成26年以前はほぼ3年おきに同盟罷業も行っていたので、ベテランの職員になると職場離脱時間の累計が百時間以上ある職員もいるはずで、違法行為の慫慂、業務妨害行為を何回、何十回やろうが懲戒処分をくらう恐れがなく、安心して違法行為ができる職場であることに変わりない。

  もっと正確にいえば、平成前期は、本部中央闘争委員会は10人位いたが、現在は処分者が5人程度からみて本部中闘は少数になっている。下水道局職員2人が含まれるので水道局で停職処分となるのは3名程度。中執は10名くらいいるが、本部中央闘争委員会のメンバーでない中執は処分対象ではないのである。令和元年の全水道東水労組合員総数は2778名だが、そのうち3名だけが懲戒処分となるということである。

  東京都のやり方、組合中央の機関責任に集約して、指令を受けてストの実践指導を行う、本部委員、支部・分会役員は懲戒処分しないというのは、組合に有利な在り方といえる。現場のスト実践指導者が懲戒処分されると、組合の統制にほころびが出るおそれ、大量処分の場合は組合財政の負担になる。比較的近年の大量処分の例としては北海道教委が、北教組の平成20130日終業時刻1時間ストにつき、30分以上職場離脱の単純参加者に対し一律に戒告処分(12551名)とした救済命令取消訴訟はでは適法とされた(北海道労委事件.最二小判決平28.6.17別冊中央労働時報1502中労委DB)。

  北海道の給与制度上、戒告でもむ懲戒処分を受けていない者に比べて勤勉手当が約10パーセント減額されるほか、定期昇給において1号俸昇給が抑制される。申立人の養護学校介護員は平成206月期の勤勉手当を28300円減額給され、平成211月に、定期昇給が1号俸抑制されたことにより、同年1月及び2月の給与について554円の不利益を受けた。

  北教組は被処分者の減収を負担したが、少なくとも94388万の支出を余儀なくされたという(札幌地判平7.11.13労判691中労委DB)から、ほかにも市町村教委の処分もあるはずで、たった1時間スト実施で、組合財政で10億かそれ以上吹っ飛ぶ計算になる。この処分は抑止効果があるとみてよい。東京都の場合戒告で期末手当の成績率でどの程度減額されるのはよくわからないが、なんらかの減収はあると思う。訓告は人事記録に記載されるだけで、経済的減収はないが、戒告にすればそれなりにこたえるはずだが、それはやらない。

  とにかく東京都の場合は、本部中央の機関責任だけ。本部中闘でない限り、懲戒処分されない慣例であるので組合に打撃にならない、違法争議行為に甘い体質といいえる。

  実際、平成262月中野営業所業務移転拒否闘争では〇〇〇書記長が停職中にもかかわらず、オルグ演説し、組合活動で不利益措置はさせない、自信があると発言していた、闘争に加わっても報復はないと。違法争議行為が保護されているというのが東京都の実態である。

 

20-2 争議行為が集団組織的行動で、指令に従っているだけの組合役員個人の責任は問われないという学説は否定されていのにこだわる東京都の異常さ

 

  全水道東水労の公式の見解は不明だが、平成262月の中野営業所業務移転拒否闘争の折、〇〇分会書記長が争議行為は本部指令を受けて争議行為を指導し、実行しているのは組織の義務であり、争議行為が集団組織的行動で、指令に従っているだけの組合役員の責任は問われず懲戒処分されることはないと言っていた。組合の考え方である。

  また、当時の〇〇〇全水道東水労書記長は、停職中であるにもかかわらず、オルグ演説のため、営業所に勝手に出入りし組合員に組合活動で不利益処分はさせない。それだけの実力があると誇示していた。

 

(1)組合側の主張と根拠となる学説

 

  組合側の論理は、下記の、全運輸近畿陸運支部事件.大阪地判昭54.8.30民集3971408(二審棄却、最二小判昭60.11.8民集3971375棄却)に組合側の主張と大筋で同じと考えられる。事案は昭和44.11.1315分ないし20分勤務時間(いわゆる出勤簿整理時間)に食い込む各職場大会。本件闘争においては、戒告処分に処せられた者43名の内訳は、全運輸本部役員1名、支部三役8名、分会三役34名であること、本件闘争において、全運輸中央本部の責任者らについては企画指導の立証を十分にする資料を収集できなかったので、右企画指導者に対する処分をなさず、職場大会毎に実行行為者をとらえ、主たる役割を果した者を各職場大会に原則一人として戒告に、従たる役割を果した者を訓告に、参加者を厳重注意に処するとの基本方針をたて、本件各処分がなされた。

(全運輸側の主張)

①就業命令等は組織敵視、組合の集会をつぶし、組合の団結を破壊することにある。

②本件職場大会の行為は、労働組合としての団体行動であるから、組合員個人として、或いは組合幹部としての懲戒責任を問えない。団体的違法争議行為についていかなる個人責任も生じ得ない。

③原告らの各行為は、全運輸近畿支部の支部長または分会責任者とし組合中央からの方針、指令を忠実に実行したものであり、組合中央によって勤務時間のくいこみ時間、集会の態様まですべて定められ‥‥これに反した行動をとれば、原告らは組合の団結を破壊したことになり、組合の統制処分を受けることになる。従って原告ら、中央闘争本部などからの指令に基づく組合員としての当然の義務を果たしただけであって、使用者たる国との関係で、原告らを特別に選択して懲戒処分に付する合理的な理由はない。

 

  上記の主張に対して運輸省側は長文の反論を行っている。東京都は組合の主張を呑む左翼体質で国の対応とは大きな違いがある。

組合側の主張の根拠となっているプロレイバー学説の主たるものとして以下のとおりである。

 

イ 籾井常喜1962「使用者による争議責任追及の限界」季刊労働法45号

「争議中にあっては、労働者には、使用者の指揮.支配から公然と離脱する権利が保障されているのである。したがって、争議中、組合の統括のもとでおこなった組合員の行為にたいしては、使用者の労務指揮の権限が及ぶいわれはない‥‥組合員の行為は、単に個々の組合員の行為おこなう組合員の集積というべきものではなく、団結意思に基づく団体行動なのである。それは個人的行為に還元できない、質の全くちがった行動様式であり‥‥この団体行動の性質は、それが違法だからといって個人的行為に分解されるべき筋合のものではない‥‥‥」

 

ロ 片岡曻「懲戒権の根拠と限界」『菊池勇夫教授六十年祝賀記念 労働法と経済法の理論』有斐閣1960所収469頁以下

「‥‥服務規律の維持を目的とする就業規則の規定を争議中の労働者の行為に適用して懲戒処分を行うことは許されない‥。‥‥‥争議時に当然適用を排除せらるべき服務規律については、労働者側に個人としても団体たる労働組合としても懲戒その他の責任を生じる余地がない。‥‥団体たる労働組合の行為としての争議行為のように、本来個別労働関係の主体としての地位をはなれた行為であり、従って個別労働者としての地位において責任を問いえないものについて懲戒の責任を問題とする余地がないものと考える。‥‥個々の労働者につき懲戒の責任を問うことは許されない」

 

ハ 片岡曻1969「公務員の争議行為と不利益処分」季刊労働法73号14頁

「たとい労働組合の争議行為が違法であるとしても、個々の組合員の行為が当該争議行為を組成し、その圏内にある行為と認められるかぎり、これを独立の行為として、使用者との関係における個別契約法的評価にさらし、使用者からの懲戒その他の民事上の責任の追及を許容することはできない‥‥」

 

  プロレイバー学説等に依拠し懲戒処分を取消した下級審判例としては。◯七十七銀行事件・.仙台地判昭45.5.29労民集213689、◯全逓都城郵便局懲戒処分取消請求事件・東京地判昭46.11.12労民2261030、◯都教組勤評懲戒処分取消請求事件・東京地判昭46.10.15判時645がある。

東京都(水道局)は、大筋で上記の学説にもとづいて、職務命令をやらないし、各事業所の職員は地方公務員法32条適条した懲戒処分もできないこととなり、安心して争議行為の慫慂、違法行為、犯罪構成要件行為ができることになっている。

 

(2)前記を否定する学説、下級審判例と国の見解

 

 一方、争議行為に組合員個人の責任は問われないとする説に批判的が学説と主な下級審判例は以下のとおり。

 

イ 菅野和夫1971「違法争議行為における団体責任と個人責任(一)ー損害賠償責任の帰属の問題として」『法学協会雑誌』88巻2号

 

「‥‥違法行為者は自己を拘束する他人の命令に従ったことをもってその責任を免れる一般的根拠となしえないこと責任法の基本原則である‥‥争議行為の「二面集団的本質」は、「個人の埋没」ばかりでなく、個人の「実行行為性」をも意味しうる‥‥団体法的見解の個人責任否定論は、まず、不法行為法や契約法の基本原則からその当否が疑われるようなあまりにも広範な無責任の結論を導いており、しかもその十分な理由づけを行っていない‥‥」

 

ロ 田辺公二1965『労働紛争と裁判』弘文堂

「‥‥労務提供の拒否などを「誘致」することが争議行為の本質だという考えに立ってみますと、‥‥多くの組合員相互の誘致、さらにこれによって生ずる共同の労務放棄行為というものから成りたっている。そういう非常に緊密な精神的.・有機的な共同活動である。これは株主が年に一度総会に来て、ごく形式的に会社の運営に関与するのとは根本的に違っていまして、組合員がこれに関与している程度がきわめて高いのであります。‥‥やはり組合と争議を指導した組合幹部から、さらに参加した組合員の全部にまで、理論上は一応責任が及ぶという結論になるのではないか。‥‥ドイツの学説でも‥‥‥結局一般に認められるには至らなかったのであります。違法な命令に従ったからといって、やはり責任は免れないというのが一般の刑法なり不法行為の考え方‥‥」(田辺氏は司法研修所講師を経て裁判官、43歳で他界)

 

ハ 三井化学染料事件福岡地判昭32.7.20労民集8巻4号503頁

「組合の決定に基く組合活動といってもそれが違法な争議行為であるときは組合自身の責任(例えば損害賠償責任)を生ずることは勿論、当該違法行為者自身においても個人責任を負うべきものだと言わなければならない。けだし組合の決定に基き、組合のためにする行為だからといってこの行為に基く結果の責任をすべて組合に転嫁することを認めるにおいては、行為が行為者の判断、意欲、決意に基づく価値行為たる本質をないがしろにし、近代法の基本理念に背馳するそしりを免れないばかりでなく、組合の名のもとに違法行為を敢えてする組合員の行為を阻止し得ない事態を招来するからである。‥‥違法組合活動をなした者はその行為によって生ずることのある組合の責任とは別個に違法行為者としての個人責任を免れない‥‥」

 

二 日本専売公社山形工場事件.昭53.3.31仙台高判民集35-3-565

「被控訴人らは‥平常時の個別的労働関係を規律する個別的制裁である懲戒処分は争議行為に親しまないから、かりに争議行為が違法であるとしても争議行為に参加したことを懲戒処分の対象とすることはできないと主張するが‥‥本件争議行為のように違法な争議行為の場合は、これを組成した個々の労働者の行為が個別的労働関係上の規制を受けることは当然と考えられる」として、包装課職員の3時間10分職務離脱(単純参加)に対する戒告処分を適法とした(上告審.最一小判昭56.4.9棄却)。

 

ホ 国(運輸省大阪陸運局)の見解

 (全運輸近畿陸運支部事件.大阪地判昭54.8.30民集3971408(二審棄却、最二小判昭60.11.8民集3971375棄却 運輸省大阪陸運局の再抗弁)

 

‥‥争議行為は団体構成員たる組合員の共同に意欲された個別行為の集合であることも事実である。‥‥争議行為は労働組合の行為であると同時に、個々の組合員の行為でもある。そして、個々の組合員は労働組合と別個独立の法的主体であり、従って、違法な争議行為については、労働組合が団体としての責任を負うのとは別に、個々の組合員が責任を負うのは当然である。

  違法争議行為の責任はすべて労働組合にのみ帰せられるべきであるという見解からすれば、違法争議行為が刑罰法規に触れるときも、刑事責任を負うべきは組合のみとなってしまう。このような帰結が、個々の違法行為者がなした行為について刑事責任を負わなければならないという刑事法の一般原則に背馳するものであることは論ずるまでもない。又、不法行為責任について、近代法の下においては、人は自己の行為についてのみ責任を負うという自己責任又は個人責任の原則が確立されている。‥‥違法な争議行為が不法行為を構成するとき、第一次的にその責任をおうべきは行為者個人であり、その行為者が組成する団体が責任を負うのは別個の法理によらなければならず、決してその逆はありえない。違法な争議行為が労働契約上の債務不履行を構成するとき、その責任は契約当事者たる個々の労働者について生ずるものであり、組合がかかる風紀の履行責任を負うことはない。原告の主張は‥‥近代法の建前を立論で何ら根拠のないものといわなければならない。(以下略)

 

(3)全逓東北地本事件最判は、指令に従っているだけの個別組合員も懲戒処分できると判示

 

◇ 上司の命令に従う義務違反として争議行為実践者の懲戒処分事由とするリーディングケース

 

  • 神戸税関懲戒免職事件・最三小判昭52.12.20民集31-7-1101

「争議行為中は職務命令できない」「争議行為に対し個別職務秩序違反者として懲戒処分できない」という学説は●神戸税関懲戒免職事件最三小判昭52.12.20民集31-7-1101により明示的に否定され、最高裁は、争議行為時に就業命令を指示している国の争議対応実務を適法とした。

  争議行為禁止規定違反と、服務規律違反規程とが競合的重畳的に成立するというもので、懲戒責任を問えないとする◯都城郵便局事件・東京地判昭46.11.12労民集2261030のような組合寄りの下級審判例や、前記①②等のプロレイバー学説は否定されたのである。

  事案は、昭和36102回の勤務時間に食い込む職場大会の指導のほか、103Ⅰ日から3日間、輸出為替業務担当職員に対し処理件数を低下させるよう提案、輸出事務繁忙期における通関業務の処理を妨げようと企てた。122日輸出関係業務担当職員に、一斉に超過勤務命令撤回願を提出するよう勧奨し、撤回願を一括して、当関業務及び鑑査両部長にそれぞれ提出し、午後130分から25分超過勤務に服すべき約45名を三階講堂に集結させて、通関業務の処理を妨げた等の争議行為で、全国税関労働組合神戸支部役員3名の懲戒免職を適法とした判例である。

すなわち国家公務員法985項(現982項争議行為禁止)の保護法益は国民全体の共同利益であり、‥‥国家公務員は、私企業における労働者と異なって争議行為を禁止され、争議行為中であることを理由として、当然に、上司の命令に従う義務(国公法981項)、職務に専念すべき義務(同法1011項)、勤務時間中に組合活動を行つてはならない義務(人事院規則1413.17272項)等を免れないとしているが、国の各省庁では事前の警告のほか、争議行為(職場大会)当日の職務命令というものを非常に重視しています。神戸税関事件では懸垂幕や携帯マイクで就業命令していることはすでに述べたとおりである。

 

  • 北九州市小倉西清掃事務所事件・最二小判昭63.12.9民集42-10-880

地公労法附則によって地方公営企業職員以外の単純な労務に雇用される一般職の地方公務員に準用される同法111項の争議行為禁止規定を合憲とし、昭和431081時間ストで勤務時間内職場集会指導し、当局の清掃車借用について抗議行動を行ったことなどを理由として地公労法第111項違反として、市労支部長、支部執行委員に対する地方公務員法2911号(‥‥法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合)、2号(職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合)、3号(全体の奉仕者たるにふさわしくない非行)第32条(法令等及び、上司の職務上の命令に従う義務違反)、第33条(信用失墜避止義務違反)、第33条(職務専念義務違反)の適条により停職三月とする処分を適法とした先例である。

なおX市労本部執行委員兼青年部長の懲戒免職は事実誤認その他の理由で控訴審にて取消されているが、Y小倉支部長とZ支部執行委員の停職三月を適法としたもので、当日の争議行為につき原告以外は1名減給、90名を戒告処分であった。

  なお小倉西清掃事務所において、104日事務所及び作業員詰所に市長名による警告文を掲示するとともに同月7日各職員に対し前記警告書及び職務命令書を交付している。当日も就業命令している。

 

  • 全逓東北地本懲戒免職事件.最三小判昭53.7.18民集32-5-1030

  昭和44年春闘で全逓中央の指令に従って酒田局、横手局、仙台局の拠点局闘争を指導した全逓東北地本委員長の懲戒免職を適法とした判例だが、「労働者の争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも、多言を要しない」と判示している。

  昭和44年春闘では全逓組合員約3,600名の懲戒処分。全逓中央執行委員11名(いずれも423日実施された半日スト全国各拠点局における指導責任者)を公労法18条による解雇。地方本部委員長は東北地本委員長が懲戒免職、他は停職十月~停職一年(但し休職中1名除く)であった。

 

  以上のとおり、最高裁判例が明示的にプロレイバー学説を否定しているし、近年では1時間ストで単純参加者の戒告処分を適法とする最高裁判決もあるのだから、当然、本部中央闘争委員以外の本部委員・統制委員・支部・分会役員、単純参加の平組合員にいたるまで、懲戒処分できる(平成221210日のストの処分から、支部長を訓告にしているとはいえ、これは懲戒ではない)。

  にもかかわらず、本部中闘以外は懲戒しない方針の反論として、懲戒権者に広範な裁量権があるので、たとえ他所の官庁からみて甘いとみられても、処分の量定やするかしないかは平素から庁内の事情に通暁我々の判断であり、外部からとやかくいわれる筋合いはないというのだろう。組合との不透明な癒着と言われようと、我々の政策判断だと突っ撥ねるだろう。

  なるほど指導判例の神戸税関懲戒免職事件・最三小判昭52.12.20が、「懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか‥‥広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故‥‥懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである」としているとおりであり、基本的に処分の内容、量定は政策判断である。

   にもかかわらず適切になされていないと思うのは、現実に争議行為は抑止されていない、3割動員決起集会という大衆行動戦術配置は、コロナ禍を例外として毎年最低34回あり、これは当局が争議行為と認定しているので、争議行為は毎年のようにある。過去5回の1時間ストは、平成167月→4年経過→平成20320日→3年経過→平成221210日→3年経過→平成26124日→6年経過→令和元年1220日→5年経過である。3年おきのこともあったが、6年おきとやや頻度は減っているとはいえ、平成後半になると、官公労のストは稀にしかない状況か東水労のストの頻度は相対的に高いといえるのだから、抑止できる処分の在り方とすべきである。

   また3割動員員勤務時間内職場集会であるが、当局も争議行為と認めているので賃金カットだけはする(組合が補償するのが通例)。争議行為と認定しているのは、佐教組懲戒処分事件.最一小判昭63.1.213.3.4割休暇闘争を争議行為としているためだろうが、動員1回につき3時間程度の欠務であるから、年間9時間ぐらい動員に行っている組合員はざらにいる。ベテランの組合員ではスト参加も含め累計100時間以上欠務している人も沢山いるはずである。例えば3年間で15時間の欠務といった基準で戒告等処分対象とすべき。

 

20-3 1時間半以下の同盟罷業の処分例との対比 水道局の処分は妥当か

 

 東京都水道局の全水道東水労の令和元年12201時間ストの処分(令和226日発令)全水道東水労の処分は、本部中闘停職131人、停職101人、停職71人(ほかにも本部中闘で処分されているが下水道局職員である)と支部長26名の訓告処分。スト集会組合員は賃金カットである。

 これは甘いというと、たぶん当局は、1時間という短時間のストだから、相場としてはこんなもんですよと言ってくる可能性が強い。本当にそうなのか。1時間程度のストで本部中闘委員の最大1334人という懲戒の範囲と量定について判例に出てくる実例と対比してみたいと思います。

 東水労のスト指導は、本部中闘の下に本部委員と統制委員という本部役員がいて、横並びで支部・分会がある。支部長は訓告としているが、各事業所のスト指導に重要な役割を果たしている本部委員・.統制委員・.支部・分会役員は、懲戒処分の対象としていない。訓告は懲戒でないので痛くないのである。責任は本部中闘に全て転嫁集約されている。

 当然停職に伴う経済的損失は組合が闘争資金から補償することになるが、停職13日、10日、7日だから、3人合わせても30日にすぎない。補償はそれほど大きな金額といえない。打撃はほとんどないといってよい。ゆえにストは繰り返される。既に述べたとおり北教組の平成20120日の1時間ストでは戒告処分(12551名)で期末手当の補償などで少なくとも94388万の支出を組合に余儀なくされたという。1時間ストだけで、組合財政から10億以上吹っ飛んでいることから比較すると。東京都の処分のコストは非常に組合に有利になっている。

 ただ単純参加者の戒告は相場ではないので以下検討する。

 処分の相場に言及している論文として山口浩一郎(上智大助教授=当時) 「公務員の争議行為と懲戒処分-現業国家公務員の場合を中心に」『ジュリスト』4721971.2.15があるが、客観化することは難しいとしつつも次の程度のものが多かったとしている。

○半日スト  組合本部の責任者 解雇又は免職

地本役員 停職

支部役員 減給(ただし停職の場合もある)

一般組合員 減給(一~三か月)

○二~三時間のスト 一般組合員 戒告

○三〇分程度の場合 一般組合員 訓告

 

 2~3時間のストは後述するように、林野庁や郵政の処分例を参考にしていると思われるが、40年代前半は処分が厳しかった時代であり、昭和48年頃からや段落としといって郵政や電電公社で懲戒処分を一段緩くしたこのことが、スト権ストや50年代にストが頻発する要因になったと考えている。

 

(1)昭和44年11月13日統一ストについての懲戒処分

 

 総評を中心とする日教組など67単産による昭和44年の11.17統一スト(佐藤首相の訪米抗議に人事院勧告完全実施などの要求を絡める70年安保闘争のスタート)だが、本件は政治ストなので違法性が強いことから、国公共闘では勤務時間外集会に切り替える組合が続出し、大きな混乱はなかったと報道されているが、前記山口論文に処分一覧表があり、毎日新聞夕刊に実施状況の一覧表がある。

 

〇昭和4411/13統一スト 全農林 46都道府県本部で1時間半のスト

本部  3人 停職6か月 

    11人 停職 10ヶ月

県本分会役員 361人 減給1/1015か月)

県本.分会役員400人 戒告

分会役員.組合員  1013人 訓告

その他      2455人 厳重注意

 

2-2昭和4411/13統一スト 全開発 始業時から1時間スト

 

本部支部役員 42人 減給1/1014か月)

中執.支部役員 61人 戒告

分会役員 220人 訓告

その他  503人 厳重注意

 

2-3昭和4411/13統一スト 全労働 勤務時間内29分 

 

本部三役 3人 減給1/101か月)

本部6人.支部33人 戒告

支部.分会役員143人 訓告

その他   1668人厳重注意

 

2-4 昭和4411/13統一スト 全港建 勤務時間内29

本部3.支部41人 戒告

支部書記長21人 訓告

その他2215人 厳重注意

 

2-5昭和4411/13統一スト 全運輸 勤務時間内20

本部1人.支部分会役員42人 戒告

支部書記長50人 訓告

その他 1493 厳重注意

 

   全農林は1時間半のストだか、都と比較しても幹部には明らかに厳しい量定といえる。全開発が1時間ストだが本部・支部役員が減給か戒告で、東京都の場合支部役員は、減給も戒告もないので、都より厳しいといえる。その他の官庁は勤務時間内29分であるが支部役員は戒告のケースが多く、明らかに都よりも厳しい量定といえる。

 

(2)その他比較的近年の判例に現れる処分例

 

鳥取県智頭町役場、平21.11.20、勤務時間に20分食い込む抗議集会。組合執行委員長減給1/10一月、組合三役は戒告。(智頭町事件.鳥取地判平255.9.25TKC)

北海道教委 平成20130日、北教組の授業時間修了後、終業時刻1時間ストにつき、道教委は職場離脱30分以上の者(12551名)を一律戒告処分とし、職場離脱の時間が29分以下の者(41人)については文書訓告。

札幌市教委の上記北教組1時間ストの処分は、() 支部長に対し減給2月、() 副支部長、書記長、書記次長ら5名に対し各減給1月、() その他の支部専従役員に対し戒告、() 授業を欠務したストライキ参加組合員190名に対し戒告、() その他のストライキ参加組合員1698名に対し文書訓告(道労委命令書より引用)で、ストを指導する支部役員と、単純参加者では軽重をつけた処分となっている支部分会役員の幹部責任に重点をおき、単純参加者の戒告は授業に影響を与えた場合に限定している(平成23624日道労委命令に記載 中労委DB)(北海道.道労委(北教組)事件.札幌地判平26.3.31労判1136中労委DB、札幌高裁平27.2.26労判1136中労委DB、最二小判平28.6.17中労委DB

国立病院、平成31113日の全医労の最大27分勤務時間に食い込む集会に対し本部役員と地方協議会専従者(26名)支部長(147名)を戒告、支部副支部長及び書記長(399名)に対しては文書訓告、単純参加者(2518名)は厳重注意(全日本国立医療労組事件.東京高判平12.11.29労判840)。

国鉄直方自動車営業所における昭和6085日、自動車運転者を除く組合員1時間スト。国労門司地本中央支部自動車分会直方班三役3名を戒告、(国労直方自動車営業所事件.福岡地判直方支部平2.3.30労判561、最二小判平9.9.13労判712

北海道開発局、昭46.7.15、午前830分から29分間以内の職場集会 在庁職員約8500名中77%の約6600名が参加。本部執行委員長.書記長を停職一月、本部副委員長を六月間俸給の月額の10分の1、本部会計長.支部役員(Ⅰ9名)を同じく二月間の減給処分、本部執行委員(3名)支部役員(14名)同じく一月間の減給処分(北海道開発局事件.札幌地判昭54.10.9判時964、札幌高判58.3.15訴務月報299

仙台管区気象台、昭46.7.15 勤務時間に18分食い込む職場集会 戒告が東北支部書記長、仙台分会執行委員長 気象庁全体では、懲戒処分13名(中央執行委員長、本庁支部執行委員長、東管支部執行委員長、気研支部執行委員長、清瀬支部執行委員長、北海道支部執行委員長、同札幌分会長、東北支部書記長、同仙台分会長、関西支部執行委員長、同大阪分会長、西部支部執行委員長、同福岡分会長)、訓告23名(北海道支部四名、東北支部二名、本庁支部一名、関西支部四名、西部支部六名気、研支部二名、清瀬支部二名、函館支部一名、中央執行委員一名)、厳重注意21.分会の参加者全員)(仙台管区気象台(全気象東北支部仙台分会)事件.仙台地判昭60.9.25労判464、仙台高判.2.3.30、最三小判平5.3.2判時1457.判タ817)、

北海道開発局、昭44.11.13 29分勤務時間にくい込む職場集会。本部委員長を四月間俸給の月額10分の1の減給処分、本部副委員長(2名)及び本部書記長を同じく各三月間の減給処分に、本部会計長、本部執行委員(2名)及び支部組合員(35名)を同じく一月間の減給処分 (北海道開発局事件.札幌高判58.3.15訴務月報299

通産省、昭44.11.13 7分から29分勤務時間に食い込む職場集会、全商工本部、支部、分会役員を戒告処分(全商工事件.東京地判昭61.3.25 判時1189

運輸省近畿陸運事務所、昭和44.11.13 1520分勤務時間に食い込む職場集会 戒告処分43名、全運輸本部役員1名、支部三役8名、分会三役34名。全運輸中央本部の責任者らについては企画指導の立証を十分にする資料を収集できなかったので、職場大会毎に実行行為者をとらえ、主たる役割を果した者を各職場大会に原則一人として戒告に、従たる役割を果した者を訓告に、参加者を厳重注意に処するとの基本方針とした。昭和48年以降の闘争については、職場大会が構内で行わなかつたため実行行為を現認できず、全運輸中央本部及び支部の役員を処分の対象者とし、分会役員らは対象者としなかつた。組合側の主張「支部長または分会責任者とし組合中央からの方針、指令を忠実に実行したものであり、組合中央によって勤務時間のくいこみ時間、集会の態様まですべて定められ‥‥これに反した行動をとれば、‥‥‥‥組合の団結を破壊したことになり、組合の統制処分を受けることになる。‥‥中央闘争本部などからの指令に基づく組合員としての当然の義務を果たしただけであって、使用者たる国との関係で、原告らを特別に選択して懲戒処分に付する合理的な理由はない。」は退けられた。

  上記と同様、平成262月の中野営業所業務移転拒否闘争の折、〇〇分会書記長が争議行為は本部指令を受けて争議行為を指導し、実行しているのは組織の義務であり、争議が集団組織的行動で、指令に従う立場の組合役員は懲戒処分されることはないと言っていた。東水労も同じ考え方とみてよい。

(全運輸近畿陸運支部(大阪陸運局)事件.大阪地判昭54.8.30民集3971408、大阪高判昭57.2.25民集3971478、最二小判昭60.11.8民集3911375

北九州市交通局 昭和44.11.13 始発から約1時間30分(午前6時)までのスト 北九交通労組執行委員長を12条解雇。運休となったバスは22本(全体の4%)であり約500人の利用者に影響を与えた。職場放棄の争議形態でなく、組合員にはバス乗務の勤務につかせ、バス出入口で集会を開き、その出庫を阻止するという形態で、出庫を阻止されたバスの乗務員には争議不参加の別組合員2名も含まれていた。執行委員長は二島営業所に赴き430分ころ市職労ニュースカーを車庫出入口に横向けに駐車させるよう指示して車庫出入口をふさぎ、さらに動員された組合員ら約120名により集会を開き、挨拶をするなどして所長の退去要請を無視した。原告は争議行為に関して解雇一回を含む停職等の懲戒処分を数回受けていた(北九州市交通局12条解雇事件福岡地裁昭49.11.19判時766、福岡高裁昭55.11.11判タ435、最二小判昭55.2.8 労判335)当日の争議行為につき原告3名以外は1名減給、90名が戒告。

北九州市小倉西.門司.八幡西清掃事務所昭和431時間スト、本件108日争議(小倉西清掃事務所関係者については108日争議及び1026日争議)において、違法行為のあった者に対し、原告らを含めて免職、停職、減給、戒告の計107名の懲戒処分を行うとともに、比較的短時間の集会参加者1456名について訓告を行う。但し免職は裁判所により取り消された(56.2.26判時1011)。

江戸川・昭島郵便局昭和43425日  

就労命令を無視し46分ないし1時間20分の欠務行為 戒告

就労命令を無視し3時間15分ないし3時間50分の欠務行為 減給1101ヶ月)(東京地判昭48.6.28 判タ297

長崎県庁、昭41.10.21 1時間スト 停職三月が県職組本部執行委員長、停職一月が県職組本部書記長、本部特別執行委員兼自治労長崎県本部執行委員長、減給1102か月)が本部執行委員兼長崎支部長、減給1101か月)が他の本部執行委員、支部三役(支部長、副支部長、書記長)、戒告が 支部執行委員、本庁職員の単純参加者、出先機関在勤者でピケッティングに参加した者、訓告が出先機関在勤者の単純参加者。(長崎県職組事件.長崎地判昭55.9.8判時998、福岡高判昭60.9.26労判461、最一小判平元.9.28判時13499

   上記引用したとおり、東京都側は1時間程度のストライキは下部組織の役員は懲戒処分しないのが普通と反論するかもしれませんが、そんなことはないということがわかっていただけたと思います。

   国の懲戒処分の実例は、1時間以下の職務放棄でも支部・分会役員レベルの処分例は普通に多数あります。なお、国の各省庁では、たとえ29分未満の職場大会でも、組合役員ではない参加者は最低「厳重注意」としており、違法行為を自覚させるようにしているが、東京都は抗議活動で荒れることを恐れているのか、不利益賦課とはいえない厳重注意すらやらない。違法行為と自覚させることに非常に遠慮している。

  懲戒処分の対象、量定は懲戒権者の裁量とはいえ、広義のコンプライアンスに反しているといえると思う。

 

  なお単純参加者の処分の雛型と思えるのは、昭和46年の林野庁の半日ストの処分例では2時間程度職務放棄で戒告、4時間以上で減給が通例である(全林野旭川地本事件.旭川地判昭50.7.17労民33-5-900 ストの指導を理由として旭川地本役員停職十日~三月、単純参加4時間の職務放棄 減給110 1カ月美瑛営林署分会50人、名寄営林署分会組合員34人、1時間45分~2時間40分の職務放棄 戒告 羽幌営林署分会組合員48人)。

   近年の判例では、平成31113日の国立病院における全医労による最大27分勤務時間に喰込む職場大会(全日本国立医療労組事件.東京地判平11.4.15判タ1040)の厚生省の処分は本部役員及び地方協議会専従者(26)並びに支部長(147)に戒告、支部副支部長及び書記長(399名)に対しては文書訓告、単純参加者(2518名)は厳重注意としており、支部長以下は東京都より厳しい処分である。

   判例に現れている処分例を見るかぎり、懲戒処分を本部中闘に局限してお茶を濁し、圧倒的大多数の組合員は免責している東京都の方針は、著しく組合に忖度し異常で当局と組合で不透明な癒着があるとみられても仕方がない。

   令和元年1220日ストの処分は全水道東水労の本部中闘水道局職員131人、停職101人、停職71人である。停職13日はそこそこ厳しいのでは思う人がいるかもしれないが、決してそんなことはない。

   例えば、全農林が、1時間のストライキを実施したことにつき、昭和55年に中央執行委員が停職一月の懲戒処分を受けたこと、1時間29分間のストライキを実施したことにつき、昭和56年に中央執行委員が停職二月の懲戒処分を受け、1時間29分間のストライキを実施したことにつき、昭和57年中央執行委員が停職二月の懲戒処分を受け、1時間29分間のストライキを実施したことにつき、昭和59426日に副中央執行委員長らが停職三月等の懲戒処分を受け、2時間のストライキを実施したことにつき、昭和60年に副中央執行委員長らが停職四月等の懲戒処分を受けたこと及び29分間のストライキを実施したことにつき、同年に副中央執行委員長が停職一月の懲戒処分を受けた。全農林は昭和50年代毎年のようにストを決行していた(全農林82秋季年末闘争事件.東京地判平3.10.31判時1331)。水道局でも3年おきにストをしていたことから最大18日の停職があるが、農林省は1時間ストで中執に対して停職一月、2時間ストで停職四月のうえ、支部・分会役員レベルの処分もやっていますから、都水道局の本部中闘の量定が特に重いということはない。

 

20-4 新方針

 

  各事業所でスト集会の実行行為者、ストに指導的役割を果たした場合は、本部委員、統制委員、支部・分会役員のほか、無役の組合員、管理職においても率先助勢した場合は、戒告以上の処分の対象とする方針に改めるべき。

  事業所スト集会毎の指導者につき最低一人は戒告にする。悪質な場合は複数以上の処分で量定も加重する。

  また、年間34回恒常的に行われている3割動員勤務時間内職場集会であるが、当局も争議行為と認めているので賃金カットはやっている。争議行為と認定しているのは、佐教組懲戒処分事件.最一小判昭63.1.213.3.4割休暇闘争を争議行為としているためだろうが、動員1回につき3時間程度の欠務であるから、年間9時間ぐらい動員に行っている組合員はざらにいる。ベテランの組合員ではスト参加も含め累計100時間以上欠務している人も沢山いるはずである。例えば3年間で15時間の欠務といった基準で戒告等処分対象とすべきである

  管理職にはスト集会には就業命令・中止解散命令を行い、スト実践指導者、率先助成者は記録をとり、現認検書の上申を義務付ける。

 

 

 

21  ビラ貼り-パトロールし現認制止する

 

 ステッカー(ビラ貼り)闘争は組合が指令しているもので、平成半ばまでは夥しい数のビラ貼りがなされていた。主として階段やエレベーターホールなどの壁面、廊下、支所動員集会のあるときは大がかりなものとなる。天井に運動会の万国旗のようにつる態様も江東営業所でみた。ただし糊付けして汚すものではなくセロテープによる貼付が通例である。

 ステッカーは都労連闘争では印刷物、局内闘争は手書きやワープロ作成したものをコピーして貼っている。

  しかし平成16年頃後藤雄一都議が西部支所のビラ貼の写真をネットにアップしたことから、当局はビラの枚数の確認や、写真撮影を指示するなどしていた。それゆえ一時下火になったが、近年復活傾向にある。

  西部支所で管理職が三六協定破棄で組合役員に経常業務を指図され、下位職務をやらされている時間にビラ貼りをしているのである。一時自粛傾向にあったとはいえ、近年は復活しつつあり、令和4年度はビラ貼りだけの夏季闘争が行われている。私のメモでは次の通り「81日ビラはり一階廊下に60枚 夏季闘争勝利 浄水場業務移転誠実な回答を 徴収の混乱の責任をとれ、都民サービス低下云々、2階に13枚」スト配置前日の令和41221日配水課で8人組合員がビラ貼り天井も営業所近くも120枚程度 1729分前後にビラ貼をしていた。ただしストは回避され翌日の朝には撤去されていた。

  管理職がいる時間帯でも、見ても見ぬふり制止されることがないのでやりたい放題なのである。ビラは管理職が撤去するが、半日のこともあるし数日撤去しないなどまちまちだった。ビラはりは、管理者が撤去要請する手順をふみ管理職が自力撤去するが、組合側が組合の財物と主張しているので、はがした掲示物は役員に返還している。

 

21-1 新方針

 

 現状でも庁内管理規程違反ではあるが、組合掲示板以外のビラ貼りは全面禁止とする。ビラ貼りは、組合役員が複数の若手の組合員に指図して行うが、西部支所では、廊下の壁面などに午後五時一五分の定時退庁直後になされるのは、管理職が現認・制止しないことがわかっているからだが、今後は適宜パトロールして、現認し制止することとする。貼付後の対応は、平成17年頃と同じく、写真撮影ののち、撤去命令に従わない場合、スト対策本部職員を動員して剥がす。剥がしたものは返還しない。組合側はビラ等が組合の財物だと主張し返還を求めているが、「通常のビラの場合、それを使用者の許諾なしに物的施設に貼った段階で所有権が消滅する(所有権の放棄を擬制するか、或いは民法242条、243条の付合の理論)ので返還は不要。東水労の場合大多数はセロテープやまたは両面テープで貼り付けるが、接着剤で糊付けされ、撤去・清掃に費用が掛かった場合は撤去費を貼り付けた責任者に請求するものとする。

 

21-2 根拠 

 

 東京都水道局庁内管理規程第五条10号違反

新規則81) 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない 職員は、局所内で業務外の文書又は図画を掲示する場合には、組合掲示板を別として、管理者の許可のない文書等以外、掲示してはならない。局は庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるときは、右許可を撤回することができる。

 新労働協約

14(3)組合は、会社の指定した組合掲示場所以外の場所に、文書、図画等、掲示類を掲出してはならない。

 

21-3処分 

 

   管理職と現地スト対策本部職員はパトロールし、貼付現場を現認した場合、制止する。制止をはねのけた場合は、1回目警告、2回目訓告、3回目戒告とする。指導的役割を果たした場合ストが実行された場合は懲戒事由とし、量定を過重する場合があるものとする。写真撮影をする。

 

21-4 取り締まりの根拠 となる判例

 

(1)国労札幌地本事件最三小判昭54.10.30に至るまでの判例の進展

 

   我が国の労働運動では団結力の高揚、要求のアピール、示威活動としてビラ貼り戦術は広範に行われ、プロレイバー労働法学が支持していた。

   昭和54年以前ビラ貼りと関連して30件近くの懲戒処分の効力が争われた下級審判例があるけれども、多くの場合特別の理論を述べることなく、貼られたビラの枚数、場所、貼り方、内容等諸般の事情を考慮して直ちに正当な組合活動か否かを判断し、最終的な懲戒処分の効力はともかく、3分の2の判例が正当な組合活動ではないとしており、学説の司法への影響はさほど大きくなかった[山口浩一郎1980「組合活動としてのビラ貼りと施設管理権--国鉄札幌駅事件を素材として」法曹時報327号]。

   また最高裁は刑事事件で、◯東邦製鋼事件・最三小決昭47.3.28判時66795と◯関扇運輸事件・最一小決昭47.4.13判時667103は、ビラ貼りが、建造物損壊罪の構成要件に該当するとしながら、正当な争議行為であるとして違法性を阻却し無罪とする原審の判断を是認している。

   しかしながらこの種の可罰的違法性論は●国労久留米駅事件最大判昭48.4.25刑集273418によって否定されたのである。

転換点といえるのが、同年の●春闘仙台駅(仙台鉄道管理局)ビラ剥がし事件・最二小判昭48.5.25刑集2751115である。列車車体に貼られたビラを剥がす職員の行為について「もとより日本国有鉄道の本来の正当な事業活動に属し、作業の方法態様においても特段の違法不当は認められない特別違法な点は認められない」とし正当な事業活動としてビラ自力撤去を認めたのである。

   また商大自動車教習所事件・中労委命令昭50.6.18労経速892は、大阪地労委の救済命令がビラ撤去通告や自力撤去が組合活動を阻害し支配介入にあたるとするのは一面的にすぎるとし、労働委員会がはじめて自力撤去を是認した事である[山口浩一郎1980 前掲]。

   続いて●動労甲府支部ビラ貼り損害賠償請求事件・東京地判昭50.7.15労民集264567という中川幹郎チームの判決は、ビラ約3500枚を鉄道管理局庁舎内の壁、扉、窓ガラス等に糊によってはり付けた事案で、清掃及び塗装工事代金合計額一四万二〇三〇円の支払いを命じた。

   使用者の所有権や施設管理権として「管理及び運営の目的に背馳し業務の能率的正常な運営を一切排除する権能」を強調する一方、使用者が無断ビラ貼りを「受忍」すべきいわれはないとして、労働事件で初めてビラ貼りの損害賠償責任を認めたこと「受忍義務説」を明示的に否定した点で画期的な判決と評価する。

 

(2) 国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭54.10.30

 

   国労は昭和44年春闘に際して各地方本部に対してビラ貼付活動を指令した。原告らは支部・分会の決定を受けて「合理化反対」「大幅賃上げ」等を内容とする春闘ビラ(ステッカー)を勤務時間外に国鉄札幌駅の小荷物、出札、駅務、改札、旅客などの各係事務室内、同駅輸送本部操連詰所および点呼場に、札幌運転区検修詰所に備え付けの自己又は同僚組合員の使用するロッカーに、セロテープ、紙粘着テープによって少ない者は2枚、最も多い者は32枚貼付した(原告以外の組合員も含めて総計310個のロッカーに五百数十枚のビラを貼った)。原告らは貼付行動の際、これを現認した助役ら職制と応酬、制止をはねのけた。

  この行為が掲示板以外での掲示類を禁止した通達に違反し、就業規則に定めた「上司の命令に服従しないとき」等の懲戒事由に該当するとして、戒告処分に付し、翌年度の定期昇給一号俸分の延伸という制裁を課したため、原告らは戒告処分の無効確認を請求して訴えたものである。

 二審札幌高判昭49.8.28は、組合が積極的に要求目標を掲げて団体行動を行なう場合において必要な情宣活動を行なうためには組合掲示板だけを使用しても不十分であるとし、居住性は勿論、その美観が害われたものとは認めがたいこと、業務が直接阻害されあるいは施設の維持管理上特別に差支えが生じたとは認め難いこと等の諸般の事情を考え合すとビラ貼付行為は、正当な組合活動として許容されると判示したが、最高裁は原判決を破棄自判し原告の請求を終局的に退けた。

 「貼付されたビラは当該部屋を使用する職員等の目に直ちに触れる状態にあり、かつ、これらのビラは貼付されている限り視覚を通じ常時右職員等に対しいわゆる春闘に際しての組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼすものとみられるのであって、‥‥本件ロッカーに本件ビラの貼付を許さないこととしても、それは、鉄道事業等の事業を経営し能率的な運営によりこれを発展させ、もって公共の福祉を増進するとの上告人の目的にかなうように、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保する、という上告人の企業秩序維持の観点からみてやむを得ない‥‥上告人の権利の濫用であるとすることはできない。‥‥‥剥離後に痕跡が残らないように紙粘着テープを使用して貼付され、貼付されたロッカーの所在する部屋は旅客その他の一般の公衆が出入りしない場所であり‥‥本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等の事情‥‥‥は、‥‥判断を左右するものとは解されない‥‥。従って被告人らのビラ貼付行為は‥‥‥上告人の企業秩序を乱すものとして、正当な組合活動であるとすることはできず」上司が「中止等を命じたことを不法不当なものとすることはできない」と判示する。

   要するにビラは視覚的に組合活動に関する訴えかけを行う効果があり、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保する企業秩序維持の観点という抽象的論理でいわゆる施設管理権は発動できるのであり、具象的に業務阻害がないことで、ビラ貼りを正当化できないことを示している。法益衡量的な判断は必要ないのであって、企業秩序維持の観点から使用者が許諾しない意思を明確にもち、就業規則を具備さえすれは、この判決によって、ビラ貼りが正当な組合活動とされる余地はなくなった。

   最高裁は国労札幌地本のビラ貼りを「春闘の一環として行われた組合活動」と認定しているが、河上和雄[1980「企業の施設管理権と組合活動--昭和541030日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」法律のひろば3311980]によれば、争議前のものであれ、争議中のものであれ結論に違いはないと解すべきと評する。

   最高裁は全逓名古屋中郵事件・最大判昭52.5.4民集313182において、民事、刑事を通じて一元的に違法性を理解する立場をとっているため、国労札幌地本事件は懲戒処分の事案であったが、使用者の許諾なきビラ貼りは、刑事的にも正当な組合活動とはいえないのであって、労組法12項の適用はなく、従って組合活動なるがゆえに違法性が阻却されるという論理構成はとれないものとしたと評している。

  そうすると◯東邦製鋼事件・最三小決昭47.3.28判時667と◯関扇運輸事件・最一小決昭47.4.13判時667が、ビラ貼りが、建造物損壊罪の構成要件に該当するとしながら、正当な争議行為であるとして違法性を阻却し無罪とした判例は、先例としての意義を失ったものと理解してよい。

  ビラ貼りについては、懲戒処分の有効性が争われた事案のほか、損害賠償請求、ビラ貼付禁止の仮処分申請(仮処分決定異議申立)、刑事事件と多岐にわたるが、下級裁判所の多くは先例である昭和541030日最高裁判決の論旨に従い、無許諾のビラ貼りを正当な組合活動ではないと判断しており、正当な組合活動とみなされる余地は今日においてはないといって差し支えないと思う。

  ビラ貼りを正当な組合活動と言えないこともないとした下級審判例は◯大阪高判昭58.3.30桜井鉄工所事件以降知らない。今日ではビラ貼り闘争を認めている企業・官庁は、施設管理権が組合によって掣肘されており正常な業務運営を放棄していると否定的に評価してよいのである。

 

(3)懲戒処分等の判例 
  • 九建日報社救済命令取消事件・福岡地判昭43.8.30労民集1941092は、合同労働組合分会長である従業員が、「日緯条約を粉砕しよう」というポスター一枚及び「日韓条約批准阻止、小選挙区制反対」「憲法じゆうりんに抗議する福岡県民集会」云々の記載のあるポスター11枚を会社の社屋一階入口左側便所の壁面に貼付し、会社が2度にわたり出勤停止処分に付したにもかかわらず、出勤停止期間中会社の指示、制止を無視して連日出社し、就労を強行したことを理由とした諭旨解雇を是認する。
  • 東京郵政局事件・東京地判昭46.3.18判時624は、ビラを撤去しようとした課長代理を突いて転倒させた郵政職員に対する減給処分、貼付行為についても戒告処分を適法としたが、次のように説示する。

「全逓労働組合もしくはその組合員が、組合活動としてならば庁舎管理者の許可を受けないでもビラの貼付等のため庁舎を当然に使用し得るとなすべき実定法上の根拠はなく、たとえ組合活動としてなされる行為であっても、それが庁舎管理権を不当に害するが如きものは、もとより許されないところであるといわなければならない。

   郵便局庁舎などは、郵政大臣の管理に係る行政財産であって(国有財産法第三条、第五条)、その本来の目的である国の営む郵便事業の達成のために供用されるべきもので、庁舎管理者の許可ある場合を除いては、何人も右目的以外のために使用することは許されないものである。郵政省就業規則第一三条第七項の規定は、郵便局庁舎などをその本来の使用目的に供することによって国の営む郵便事業の達成に資する目的から郵便局庁舎などに勤務する職員に対する服務規律として当該郵便局庁舎などにおける演説、集会、ビラの貼付等の行為を、その目的、内容、態様の如何に拘わらず、全面的に禁止、規制せんとするものであることが明らかである。」

  • 北九州市若松清掃事務所事件.福岡地判昭56.8.24訟務月報281109は 事務室の窓ガラス、壁等に約50枚のビラを貼付した行為を理由とする戒告処分を是認。
  • 朝日新聞社西部本社事件.福岡高判昭57.3.5労民集332231は 約1か月間にわたり総数約18000枚のビラを見学者通路の壁、正面玄関のガラス扉、社屋の外壁等に貼付した行為は正当な組合活動として許容されず、組合支部委員長に対する停職3日間の懲戒処分が不当労働行為に当たるとした救済命令を違法として取消した
  • 麹町郵便局事件.東京高判昭58.7.20判時104975は、郵便局庁舎にステッカーを貼付した行為は、郵政省就業規則に違反し訓告処分を適法とする。最二小判昭60.6.17労判456号は上告棄却。
  • 和進会阪大病院事件.京都地判昭59.7.5労判43944は、新規採用された3人のアルバイトを退職に追い込むため、組合員をあおり、そそのかすなどして右3名に対し共同絶交行為や専用掲示板以外の食堂・売店・喫茶室等の入口に無許可で貼付することを指示した組合長の解雇を是認。
  • 戸塚郵便局事件・横浜地判昭59.10.25労民集374.5407は、郵便局庁舎の窓ガラス、コンクリート塀等にビラ125枚糊付けして貼付したうえスプレー塗料による落書が、建造物を損壊したという公訴事実により起訴休職処分された事案で、一審無罪にもかかわらず処分を取消さなかったことは違法ではないとした。●東京高判昭61.10.28労民集3745401無罪判決とはいえ、ビラはり行為等の事実を認定しながら、建物の使用等を阻害し、その美観を著しく損なったかどうかという微妙な法的評価に係る点を否定したものであり、検察官も控訴しているから、職場に戻すときは職場規律ないし秩序の維持に悪影響を及ぼす可能性があり、国民の信頼ひいては官職に対する信用の保持、公務の正常な運営の確保に支障を生ずるおそれがあるから、違法ではない。
  • エッソ石油(出勤停止処分)事件・名古屋地判平6.10.17労判66418は、

   約一年間にわたり1万枚のビラを強力接着剤で貼付、ゼッケン着用、店内デモ、ピケによる入退場阻止等の行為をしたことを理由とする出勤停止処分を適法とする。

  • ミツミ電機事件・東京地八王子地判平6.10.24労働判例67445は組合の行った座り込み、デモ、ビラ貼付、赤旗掲揚、立て看板等を理由とする、組合委員長の解雇を是認する。

    ○九州女子学園事件.福岡地小倉地判平5.8.9労判71477

   原告らの煙突闘争・リボン闘争・ビラ貼付・プラカード闘争・ビラ配布につきその態様.期間に照らして行き過ぎで違法であり、正当な組合活動といえないとしつつも、処分歴もなく懲戒解雇はいささか酷であるとして解雇権の濫用として無効とする。

  • 医療法人南労会事件・大阪地判平9.4.30労経速16413は、ビラ貼付のほか暴言、誹謗中傷、脅迫、強要につきその行為の内容、態様、頻度等に鑑みるとき、その情状は極めて重いので、本件懲戒解雇を相当とする。
  • 七福交通事件東京地判平10.3.3労判73838は営業用自動車へのステッカー貼付その他の理由による懲戒解雇を有効とする。

 

(4)損害賠償請求

 

   下記の通り、ビラの撤去清掃費用の損害賠償請求が認められている

  • 動労甲府支部ビラ貼り損害賠償請求事件・東京地判昭50.7.15労民264567
  • 帝国興信所岐阜支店事件・岐阜地判昭56.2.23判時1005167は国労札幌地本事件最三小判昭54.10.30の判断枠組を引用し、支店事務所のビラ貼りは管理権の侵害として撤去費用の請求を是認した。
  • 大久保製壜所事件.東京地判昭58.4.28判時1082134は会社の建物等にビラを貼付したことについて、ビラ撤去費用の損害賠償責任を肯定した
  • エッソ石油事件・東京地判昭63.3.22判時1273132は全国石油産業労働組合協議会スタンダード.ヴァキューム石油労働組合エッソ本社支部の本件ビラ貼付行為により貼付されたビラを剥離、徹去し、また、マジックインキや墨による落書を消去した費用の損害賠償請求を認めた。
  • 総評全国一般東京ユニオン・神谷商事事件・東京地判平6.4.28判時1493139頁、総計171700枚の正面玄関、1階エレベーターホール等のビラ貼付の損害賠償を認める。

 

(5)仮処分申請

 

     下記の通りビラ貼付禁止の仮処分の申請を認容する判例がある

  • エッソ・スタンダード石油事件・東京地決昭56.12.25労民集326988は本社ビルに1ヶ月の間57千枚のビラの貼付された事案で、建物の美観や来客の信用を失うという理由からビラ貼付禁止の仮処分の申請が認められた。
  • 日東運輸事件・.大阪地決昭60.5.16労判45444は全日本港湾労働組合関西地本が抗議行動の一環として、コンテナ輸送トラクター等の車体にビラを貼付した事案で、不当な組合活動としたうえで、48台の車両につきビラ貼付禁止の仮処分申請を認めた。
  • エッソ石油事件・東京地判昭62.12.23労判5097はビラ貼り禁止の仮処分決定の異議申立を却下したもので、「ビラは貼付されている限り視覚を通じ常時従業員等に対する組合活動に関する訴えかけを行う効果」に言及している。
  • 灰孝小野田レミコン・洛北レミコン事件・東京地判昭63.1.14労判51553頁はコンクリートミキサー車へのビラ貼付禁止の仮処分申請を認容。
 
(6)建造物損壊罪・器物損壊罪

 

   刑事事件では、●東海電通局事件・最三小決昭41.6.10刑集205374が、全電通東海地本役員らによる東海電気通信局庁舎に3回にわたり糊で貼付した所為は、ビラの枚数が1回に約4500枚ないし約2500枚という多数であり、建造物の効用を減損するものとして、建造物損壊罪の成立を認めており、●金沢タクシー事件・最一小判昭43.1.18刑集22132はビラ貼による建造物損壊罪、器物損壊罪の成立を認め、●平和タクシー争議事件・最三小判昭46.3.23刑集252239頁は、ビラの貼られた状況がガラスの殆んど全面をおおっている以上、窓ガラスとしての効用を著しく滅却し、器物損壊罪が成立するという原審の判断を維持している。

  • 東北電通局事件・仙台高判昭55.1.24 判タ420148は、「全電通東北地方本部」等と青、赤字に白抜き印刷した縦37.3.12.5㎝のビラ及び、手書きの13×18.8㎝のビラ、合計約5501枚を、ドアガラス、窓ガラス、タイル張り壁面その他、建物1Fの東西南北四面と地下の一部にわたりぐるりと貼られ、玄関や通用口のガラス扉にはびっしりと集中的に貼りめぐらされ、その他の部分にはやや乱雑に貼られた事案で、本件建物は実用建築物ではあるが、新築後間もない近代的ビルとして市街地に相応の美観と威容を備えており、大量のビラ貼りにより、その美観と威容が著しく侵害されたものと認められ、刑法260条にいう建造物の損壊をもたらしたとする。

しかし、△国鉄小郡駅事件・最三小判昭39.11.24刑集189610は駅長室内や入口等64枚のビラをメリケン粉製の糊で貼りつけた行為は建造物損壊罪・器物損壊罪が成立しないとした原審の判断を是認したうえ、軽犯罪法133号の罪に変更した点についても、起訴当時すでに公訴の時効は完成していた。建造物侵入罪以外は無罪としている。

(7)建造物侵入罪
●全逓釜石支部大槌郵便局事件・最二小判昭58.4.8刑集37巻3号215頁は有益な判例である。

  事案は、1973年春闘において全逓岩手地本釜石支部が、計画どおり大槌郵便局(特定局)にビラ貼りを行うこととし、昭和48416日午後9時半頃、被告人支部書記長、支部青年部長両名は他の6名とともに、同日午後930分ころ、施錠されていなかつた通用門と郵便発着口を通り、宿直員M(分会長だった)に「おうい来たぞ。」と声をかけ、土足のまま局舎内に立ち入った。被告人ら庁舎内の各所や庁舎外の一部に、ビラ合計約1000枚を貼りつけた。一方、管理権者たるN局長は、同月17日朝、釜石局駐在のA東北郵政局労務連絡官から、全逓が他局でビラ貼りをしているから注意するよう警告され、局長代理と交替で局舎の外側から見回ることし、同日午後10時過ぎ、ビラが貼られているのを発見、若干のやりとりの後、1045分頃被告人らは退出したというもので、建造物侵入罪で起訴された。

二審仙台高判昭55.3.18刑集373304は本罪の「侵入」とは「当該建造物の事実上の管理支配を侵害し、当該建造物内の事実上の平穏を害すること」であるところ、本件は宿直員が入室を許諾していること、郵便局長も特段の措置をとらず、立入拒否の意思が外部に表明されていなかったことから、建造物侵入罪の構成要件に該当しないとして原判決を維持して無罪とした。

しかし上告審は「刑法130条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである」として破棄差戻した。

 (差戻控訴審仙台高判昭61.2.3で有罪。被告人両名に罰金八千円)

   上告審判決は、立ち入りの目的等につき次のように言及する。「ビラ貼りは‥‥庁舎施設の管理権を害し、組合活動の正当性を超えた疑いがあるから、管理権者としては、このような目的による立入りを受忍する義務はなく、これを拒否できる‥‥‥本件においては、被告人らの本件局舎内への立入りは管理権者である右局長の意思に反するものであり、被告人らもこれを認識していたものと認定するのが合理的である。局舎の宿直員が被告人らの立入りを許諾したことがあるとしても、右宿直員は管理権者から右許諾の権限を授与されていたわけではないから、右宿直員の許諾は右認定に影響を及ぼすものではない。‥‥」

   この趣旨からすると、ビラ貼りに限らず、管理権を侵害する組合活動を規則違反と明示するか、管理権者が容認していないと合理的に判断される場合には、建造物侵入罪は成立することになる。

  東京都水道局では管理職が全水道東水労の組合役員に職務命令することはなく、郵政と違ってビラ貼りのパトロールや、現認して制止することは一切管理職はやらないので、勤務時間外でも午後515分以降ただちに、勤務時間中でもかまわずビラ貼りをする。

   したがって組合役員らが午後9時頃に特定郵便局に立ち入ってビラを貼るというような事案はないが、建造物侵入罪は、当該事業所の職員ではない組合役員のオルグ、ピケ等の立入、支所での決起集会で外来者の立入、スト待機における深夜、未明の立入が相当する。

  東京都水道局長は組合活動もしくは争議行為目的の無断立入は認めないとの管理意思を明示して犯罪を成立させるようにすべきである。

 

(8)使用者の自救行為について

 

   河上和雄[1980「企業の施設管理権と組合活動--昭和541030日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」法律のひろば3311980]は、春闘仙台駅(仙台鉄道管理局)事件・最二小判昭48.5.25刑集2751115が正当な事業活動としてビラ自力撤去を認めており、自救行為というより事業活動として正当という観点からビラの自力撤去を認めるのが判例の傾向とする。

   しかし、組合側はビラ等が財物だと主張する。とはいえ、河上は「通常のビラの場合、それを使用者の許諾なしに物的施設に貼った段階で所有権が消滅する(所有権の放棄を擬制するか、或いは民法242条、243条の付合の理論となろうか)と解するのが正しいであろう。その意味で多くの場合、ビラの自力撤去が法的に問題とされることはない‥‥」とする。

   東水労はビラを財物として撤去したのち返還を求めているが、上記の方針に改めるべき。

 

 

 

 

22 ビラ配り-闘争態勢に入った時点で実質許可制に

 

 令和2年より5年勤務した杉並営業所は平時、組合の印刷物配布は勤務時間前か後に各職員の机に置くスタイルで、ただし令和61115日はビラを午後勤務時間に配布していた。事前許可などとっているとは思えない。包括的に組合のニュースの配布は認める慣行である。

 

22-1新方針

 

 庁舎管理規程でビラの無許可配布は禁止事項なので若干矛盾するが、新就業規則は、平時は無許可配布でよいこととしたので、配布の時・場所・態様で規則違反は中止命令する。

  ただしストライキを配置し闘争に入った時点で、無許可配布を認めないものとする。とくにストライキや動員集会の参加の慫慂が目的の、動員集会と昼休み集会とセットでなされる朝ビラ情宣は態様も半強制的にビラを受け取らせる態様でもあり認めない。中止命令をする。

  無許可配布、中止命令に従わなかっただけで処分の対象とせず、2回目に警告、ストライキが実行され、ストを慫慂するビラを配布した場合に戒告処分以上の処分事由とする。

  全水道東水労は、毎週発行される東水労ニュース、不定期の東水労新聞、支部ニュースで教宣活動を行っているほか、中央労働金庫の商品サービスの宣伝、アンケート、その他の印刷物を主として机の上に配布する。闘争時は朝ビラ情宣といって、楯列左右に組合員がならんで、通行者を挟んで次々ビラを差し出し半強制的に受け取らせるビラ配りがなされるが、電電公社やJRの規則がそうだが、多くの企業は許可制にしていると考えられ、ビラ、印刷物の配布は許可制としても勿論よいわけである。

   しかし全面許可制にすると、管理職が組合から支配介入などといいがかりを恐れるあまり審査がなおざりになり、配布される量も多いことからいずれ形骸化することを見込んで、私の提案は、業務遂行を妨げず、平穏な態様、半強制的に受け取らせる態様でないもの、違法行為の慫慂等の内容がないものなら、無許可配布を実質可能としている、より現実的な労務管理とした。

   ただし、ストライキが配置され、闘争態勢に入った時点で、無許可廃止を禁止できる規程とした。朝ビラ情宣は当局も争議行為と認めている勤務時間内3割動員決起集会の当日になされることがあり、闘争課題と交渉経過、ストや三六協定破棄の日程を示すもので、「そそのかし」「あおり」に当たる印刷物であるから規制する理由があるし、そういうビラが配布されるおそれというだけで理由になるので、闘争が終了するまでは許可制とする。許可制であるが、全面的禁止ではない。

  モデルとしたのは以下の規則である

モデル国立大学法人東北大学職員就業規則

37条 職員は、本学の施設内で、次のいずれかに該当する文書又は図画を配布又は掲示してはならない。

一 教育、研究その他本学の業務の正常な運営を妨げるおそれのあるもの

二 第34条に規定する信用失墜行為等に該当するおそれのあるもの

三 前条に規定する政治的活動等に該当するおそれのあるもの

四 他人の名誉の毀損又は誹謗ひぼう中傷等に該当するおそれのあるもの

五 公の秩序に反するおそれのあるもの

六 その他本学の業務に支障をきたすおそれのあるもの

2 職員は、本学の施設内で、文書若しくは図画を配布若しくは掲示する場合、又は業務外の集会若しくは演説を行う場合は、業務の正常な遂行を妨げる方法又は態様で行ってはならない。

3 職員は、本学の施設内で文書又は図画を掲示する場合には、あらかじめ指定された場所に掲示しなければならない。

4 職員は、許可なく、本学の施設内で、業務外の集会、演説、放送又はこれらに類する行為を行ってはならない。

 

   東北大学の規則では許可制でなく無許可ビラ配りの余地を与えている。国立大学法人に移行する際、議論してこのような規則となったといわれる。

   もとより、多くの企業と同じように全面許可制として、目黒電報電話局事件.最三小判昭52.12.13の「実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、就業規則違反になるとはいえない」という判断枠組に即して

   許可制でも、実質就業規則違反にならないという範囲で取締りをせず、実質原則無許可制の運用でもよいわけであり、この方針については異論を許容したいが、私の案としては、東北大学に準拠したリベラルな案を提示した。

 

 

22-2 根拠

 

東京都水道局庁内管理規程第五条9号違反。              

新規則2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない。 

新規則82)職員は、局所内で、文書若しくは図画等を配布する場合、職場の規律・秩序をみだすおそれのない平穏な方法又は態様でなければならない。通行の妨害もしくは混乱をもたらす態様、受け取りを強要する態様、職員の休憩時間の自由利用を妨げる態様で行ってはならない。又、局が庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるとき、無許可配布を禁止するものとする。

   庁舎管理規程では禁止事項だか、就業規則では無許可配布を写真のような争議行為を慫慂するビラを撒く、闘争期間を除いて、許可制にしないゆるい規程となっているが、庁舎管理規程は管理者の権限で、禁止事項を解除できるので矛盾はしない。ただ、双方とも許可制とするのが普通だという意見が勝ればそれでも良い。

 

22-3処分 

 

   私の提案では、より安全運転のため職場の規律・秩序をみだすおそれのない平穏な態様での無許可配布を認めておりゆるい体制ではある。勤務時間中の配布は認めないはしてないが、職場の規律・秩序に含まれているという解釈である。但し、ストライキを配置し状況、明らかに違法行為の慫慂を内容とするビラ、平穏でない態様のものは中止命令をしていくという方針を提案していく、監視、現認は行うが、懲戒処分事由とするのは実際にストがなされた場合とする。

 

22-4 ビラ配り判例の分析と対応

 

   ビラ配りも、国労札幌地本判決の判断枠組が適用される。したがって近年の西日本旅客鉄道(動労西日本)事件東京高判平27.3.25別冊中央労働時報150678頁のように「ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性から直ちにビラ配布行為が許容されることにならない」、企業施設構内のビラ配りは、就業規則により事前許可のないビラ配りを禁止でき、配布の時間や態様を規制できるのは当然のことである。

  しかし、ビラ配りは正当な行為とされる余地のないビラ貼りと違って、懲戒処分を無効とする判例も少なくない。

  目黒電報電話局事件.最三小判昭52.12.13の「実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、就業規則違反になるとはいえない」という判断枠組を引用して正当な行為とする判例が倉田学園(大手前高(中)校.五三年申立)事件.最一小判平6.12.24労民集4881496等いくつかあるほか、懲戒解雇のような重い処分は無効とされるケースが少なくないので、その点注意を要する。

  したがって、就業規則で無許可ビラ配りを禁止しても、組合側は、それが実質的に企業秩序を乱すおそれがなく、事業場の規律を乱さない時間帯及び配布の態様であることを主張することによって無許可ビラ配りを正当化する余地が残されている。

  許可制でもよいし、多くの企業はそうであるが、私の提案はあえて全面許可制でないほうが受け入れやすいためその方針とした。

   許可制にしないで、平時は無許可配布を可能にしたのは、以下のような判例を参考にしたということである、◯印は組合側に有利な判決。●は組合側に不利、負けた判決の表示である。

 

(1)行為態様・場所・時間について

 

A 半強制的なビラ受け取りを促す態様、狭い入口でのビラ配り

 

  • 日本エヌ・.シー・アール出勤停止事件・東京高判昭52.7.14労民285.6411

  使用者の警告制止にもかかわらず無許可で使用者の所有ないし占有する工場の敷地内において従業員に対し組合活動としてビラ)を配布する行為を継続したことを理由としてなされた出勤停止処分を有効とする。

   事案は大磯工場(2007年閉鎖)構内における就業時間前のビラ配りである。

「大磯工場では従業員のうち相当多数が国鉄平塚駅前から被控訴会社大磯工場構内まで乗り入れる通勤バス三台に一台約七〇名宛分乗して午前七時三五分頃から午前七時五五分頃までの間に三回に分れ順次到着出勤するので従業員が前叙のように通路巾の狭い各通用口を長い一列縦隊となって通過することが多く、ビラを受け取らない出勤者には次ぎから次ぎにと胸元前方にビラが差し出され通行に渋滞を来しかねないこともあって、出勤者のうち職制でない従業員の多数は一応ビラを受け取っていた。しかし、前叙のとおりNCR労組が結成されていたこともあり、従業員に手渡された「おはようみなさん」が其の場に捨てられ、散乱することも多かつた」

「出勤してくる従業員を巾約一.六メートルの工場内通路の片側ないし両側にならんで迎え、出勤者一名に対し通路手前にならんだ者から順次一名が出勤者の前に「おはようみなさん」を差し出し、出勤者が受け取らなければ、次にならんだ者が続いてその出勤者の前にビラを差し出し、雨天のため従業員が雨具等を所持していたこともあって、混乱がないではなかった」 といった態様である。

   判決は「あくまで組合ビラ配布は自由であるという独自の立場に固執し、被控訴会社の協議に応ぜず、指示に従わず、前叙のとおり一過的にもせよ、繰りかえし大磯工場の敷地建物の機能を害した各控訴人の所為は相当でなく、これを正当な組合活動であると認むべき特段の事由は認められない。そして、‥‥本件懲戒処分は被控訴会社の適法な懲戒権の範囲内にあり」不当労働行為にはあらないと判示した。

   類似したケースは水道局でもある。闘争期間に3割動員決起集会がなされるときに行われる、西部支所の朝ビラ情宣では、職員通用口に組合員が右側に45人、左側に同数が並び、登庁する職員をはさみ、次々とビラを差し出す、半強制的にとらせる。通用口の狭い事業所や雨の日には傘をたたんだりするため混乱することがありうるので、これは態様だけの問題でなく、ビラの内容が指令の伝達、違法行為参加の慫慂なので、許可しないのが妥当である。

 

B 就業中の従業員のいる時間帯

  • 日本工業新聞社事件.東京地判平22.9.30が、原告合同労組が無許可で配布した機関紙を、会社が回収し、制限した行為は、施設管理権の行使として許容される範囲内であり、配布に事前許可を求めることが支配介入にあたらないと判示したが、事案は平成621日午後6時過ぎ、Sビル5階の会社内を含む3か所において、会社の従業員のほか産経新聞編集局及び夕刊フジ編集局の従業員等に対し、原告の組合機関紙を約500部配布したこと(その配布時間帯には、多数の会社の従業員ほか上記各編集局の従業員等が就業中であったこと、Eら会社役員は、Aら3名による会社内での同組合機関紙の配布行為を制止しようとしたが、Aら3名は、それに従わず、その配布を実行したこと等の事案であることから、就業中の従業員のいる時間帯はビラ配りを禁止できるということである。

また●西日本旅客鉄道岡山駅(動労西日本)事件東京高判平27.3.25別冊中央労働時報150675頁「本件ビラ配布について、手渡し等による交付の態様自体は、比較的平穏な方法で行われたものと認めることができるものの、配布時間の点においては、配布を受けた相手方社員には手待ちによる業務中の者があって、その全員が休憩時間中又は業務終了後であったとは認められず、職場規律及び職場秩序を乱すおそれがないとまでは認められないものといわざるを得ない」として訓告処分を是認している。

 

C 就業時間前・休憩時間

 

○倉田学園(大手前高(中)校.五三年申立)事件・最一小判平6.12.24労民集4881496が、就業時間前の通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯にビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであるなど判示の事実関係の下においては、右のビラの配布は、学校内の職場規律を乱すおそれがないため、正当な組合活動とされている。

就業時間外・休憩時間であることからビラ配りが容認されるものではないことも明らかである。●三菱重工事件.東京地判昭58.4.28は労働協約違反として許されないとしており、政治活動事案だが、●日本アルミニウム建材事件.東京高判昭61.8.19休憩時間での配布であっても、就業規則所定の「事業場の規律を乱したとき」に当たるとしている。国労兵庫支部鷹取分会事件.神戸地決昭63.3.22労働判例51752は「ビラ配布等に利用する場合には、休憩時間中であっても、利用の態様如何によっては使用者の施設の管理を妨げる虞れがあり、他の社員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては企業の運営に支障を及ぼし、企業秩序が乱される虞れがあるから、使用者がその就業規則で労働者において企業施設をビラ配布等に利用するときは事前に使用者の許可を得なければならない旨の規定を置くことは、休憩時間の自由利用に対する合理的な制約であると解すべき」としているとおりである。●大日本エリオ事件・大阪地判平元.4.13労判538は、ビラでなく署名活動事案だが「本件署名活動はその趣旨説明、説得を伴っていたことが認められる。そして、休憩時間中においては他の労働者が休憩時間を自由に利用する権利を有していることが尊重されなければならないから、これを妨げる行為を当然にはなしえないと解すべき」として譴責処分を是認している。

私の提案は平時、事前許可制でないので判例よりゆるい対応だが、支障があればみなおしていく。

 

D 敷地の境界、敷地外のビラ配り

 

住友化学名古屋製造所事件・最二小判昭54.12.14は就業時間外に会社の敷地内ではあるが事業所内ではない、会社の正門と歩道との間の広場(公開空地)でのビラ配りに対する懲戒処分を無効にしている。不当労働行為に対する損害賠償請求事件・広島地判平26.10.30は、近隣の商業施設でのビラ配布を違法ではないとしている。

しかし●関西電力社宅事件・最一小判昭58.9.8は就業時間外、社宅でのビラ配布、中国電力事件.広島高判平元.10.23は地域住民に配布した事案で急バス事件・東京地判平29.2.3TKCも駅前でのビラ配布であるがビラの内容に基づいて、懲戒処分を是認している。

 

E 内容

 

  • 関西電力社宅事件・最一小判昭58.9.8は、大部分事実に基づかず、又は事実を歪曲して誇張し、会社を誹謗中傷するものであり、従業員の企業に対する不信感を醸成し、企業秩序を乱すおそれがあるとして、譴責処分を是認している。同趣旨の判例は少なくないが、一方福岡西鉄タクシー事件.福岡地判平15.1.30 ビラは記載内容において不正確、不適切、誇張にわたる面はあるものの、過度に挑発的な表現を用いて、ことさらに職場秩序を乱す意図を感じさせる程度には至っておらず、一部に事実の裏付けのある記載もあり、組合員に注意を喚起しようとした目的自体は不当とは言い難いとして懲戒解雇を無効とする。●中国電力事件・広島高判平元.10.23判例時報1345128

「島根原発の社員は地元の魚は食べません」「その放射能がみなさんの頭の上に降ってきます」などの記載を含むビラを配布したことを理由とする組合役員の懲戒処分につき、本件ビラにはその主要部分について虚偽事実の記載があり懲戒処分を支持する。

 

F 就業規則や労働協約の明文規定

 

明治乳業福岡工場事件・最三小判昭58.11.1は組合支部長の地位にある従業員が昼の休憩時間に食堂において赤旗号外や日本共産党の参議院議員選挙法定ビラを食堂において、手渡しまたはと食卓に静かに置くという態様のビラ配りについて工場内の秩序を乱すことのない特別の事情が認められる場合は就業規則違反とみなすことができないという判断をしているが、本件は、就業規則や労働協約で政治活動を禁止していなかったので、ビラ配りの問題として扱われた。しかし、●日本アルミニウム建材事件・東京高判昭61.8.19労働協約で「社内においては一切の政治的活動を行わない」と規定しているために、休憩時間に「赤旗」「日本共産党」等を引用した印刷物等を配布したことを理由とする出勤停止処分が是認されている。従って、就業規則等の記載の有無は大きいのである。

   私の提案では政治的なビラ配布自体禁止していない。局所内政治活動も禁止していない。当初禁止事項として加える予定だったが、見解をまとめられなかった。

  本意見書は、違法行為や違法行為の慫慂の取締りや、他の職員の職務専念妨害や業務妨害のない職場に改革することが中心的テーマで、政治活動を中心的なテーマにしていないことから、今回の提案は見送るが、要望があれば再検討して提案を修正してもよい。

 

(2)ビラ配りへの警告、処分を適法、妨害禁止の仮処分申請を却下

 

  • 日本ナショナル金銭登録機懲戒解雇事件・東京地判昭42.10.25労民18巻5号1051頁

   休憩時間中のアカハタ号外配布を理由とする組合支部委員長に対する懲戒解雇は不当労働行為に当たらない。労働基準法第三四条第三項が休憩時間を自由に利用させることを使用者に命じているのは、労働者に義務を課するなどしてその休憩を妨げることを禁じたものであつて、労働者が休憩時間中いかなる行為をも自由にできることを保障したものではない。従って、労働者は休憩時間中法の禁ずる行為をすることができないのは勿論、使用者がその事業場の施設及び運営について有する管理権にもとづいて行う合理的な禁止には従わなければならないと判示。企業内政治活動禁止のリーディングケース。

  • 横浜ゴム事件・東京高裁判決昭48.9.28労働法律旬報851号

   横浜ゴム労組上尾支部執行委員2名が、施設内における三ないし四回の『アカハタ』の配布・勧誘行為が就業規則所定の企業内政治活動を禁止状況に違反すること。さらに勤務時間中に勤務につかなく、注意されたことに対して棒を振り上げ反抗した、あるいはあやまって器具を損壊したという三~四年前の就業規則違反を理由とする懲戒解雇処分に対して、地位保全の仮処分申請を提起したもので、一審は懲戒処分を無効としたが、控訴審では懲戒解雇を有効とした。

 「企業と雇傭契約を締結した者(従業員)は職場の規律を守り、誠実に労務を提供すべき契約上の義務を負うものであり、企業の施設又は構内において労務の提供と無関係な政治活動を自由に行い得るものとすれば、もともと高度の社会的利害の対立、イデオロギーの反目を内包する政治活動の性質上、従業員の間に軋轢を生じせしめ、職場の規律を乱し、作業能率を低下させ、労務の提供に支障をきたす結果を招くおそれが多分にあるから、使用者が企業の施設又は構内に限ってこれらの場所における従業員の政治活動を禁止することには合理的な理由があるというべき‥‥」

  • 倉田学園大手前高松高等学校事件・東京地判平2.4.9労働判例.重要労働判例総覧91年版33頁

   始業時間前の職員室における組合ビラ配布を理由とした前執行委員長に対する訓告及び戒告処分は不当労働行為に当たらない。

  • 倉田学園大手前高松高等学校.最一小判平2.12.25労判6009

 上告棄却。始業時間前の職員室における組合ビラ配布を理由とした前執行委員長に対する訓告及び戒告処分は不当労働行為に当たらない。

  • 倉田学園(大手前高(中)校)五三年申立)事件.高松高判平3.2.29民集4881651

 無許可で職場ニュースを配布したことを理由とする組合ニュースを配布したことを理由とする組合幹部の懲戒処分は不当労働行為に当たらないとした。

  • R東日本(国労高崎地本)事件・東京高判平5.2.10労民集44巻1号95頁

 出向先の会社の門前で出向制度を批判する演説、ビラ配布等の情報宣伝活動をした組合員らに対し使用者がした出勤停止の懲戒処分につき、懲戒処分は著しく重く不相当なものとはいえないとして、不当労働行為に当たらないとした。

  • 東京医療生活協同組合立入禁止等請求事件・東京地判平7.9.11労働判例682号37頁

職員の解雇撤回を求めて病院内で行われた、ビラ配り、連呼、ゼッケン着用旗掲示などの活動について、病院側の差止請求を認容。

  • JR西日本岡山駅(動労西日本)事件・東京地判平26.8.25労働判例1104号26頁

   組合員は、本件ビラ配布以前においても、会社に許可を得ないまま、施設内のホワイトボードにビラを貼付して厳重注意を受けたり、その他、本件ビラ配布以外にも30回ほど会社に無許可で施設内におけるビラ配布を行っていたものであって、本件訓告は労組法71号の不当労働行為に該当しない

  • JR西日本岡山駅(動労西日本)事件・東京高判平27.3.25別冊中央労働時報1506号78頁

  訓告処分が会社の合理的裁量を逸脱する不当に重いものではないと原判決を維持

  1審  被告は、本件ビラ配布について、社員の職務専念上又は業務上支障をきたしたり、職場秩序を乱したりするおそれのほとんどない場所で行われ、とりわけ、岡山駅2階営業事務室内個人用小ロッカー前通路及び同駅2階男子ロッカー室(休養室)については、営業区域に隣接しながらも明確に区別され、業務を遂行する場所のように社員に緊張感を持つことが求められる場所とは明らかに異なるものであって、業務との関係性は希薄であり、その配布の態様は、相応の配慮がされ、会社の業務運営に支障を及ぼさないような平穏なものである上、本件ビラの内容も、組合の情報や主張の伝達を図るものであって、職場秩序を乱すおそれがあると評価されるようなものでないことからすれば、職場秩序を乱すおそれがあるとはいえない特別の事情があったものであり、また、組合は.会社から組合掲示板が貸与されず、組合の情報伝達活動や組織拡大の呼びかけの手段がほぼビラ配布に限られ、ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性があった旨を主張する。

   しかし、本件ビラ配布については、職場規律及び職場秩序を乱すおそれがないとまでは認められず、上記特別の事情があるとは認められないこと、ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性から直ちにビラ配布行為が許容されることにならない‥‥」

  • 東急バス事件・東京地判平29.2.3TKC

   駅のバスターミナルにおいて本件ビラを配り、被告の信用を失墜させたとして、被告から、平均賃金の1日分の2分の1を減給する旨の懲戒処分を有効とする。「安全運転にも支障をきたしかねない事態です。会社はこのような状況を知りながら、何ら改善の手段をとらず、このような状況を黙認していました。」等の記載が事実に反するか、事実を誇張又はわい曲して記載したものと認められるとする。

 

(3)ビラ配り等の懲戒処分を無効

 

○大和タクシー外二社事件.広島地判昭57.2.17労判387号カード

   本社及びLPGスタンドのある場所の路上での宣伝、ビラ配布に対する管理職の妨害行為と、就業時間中の組合活動に対する警告書の交付を不当労働行為とする。

○西日本重機事件.最一小判昭58.2.24労判40850

  始業時の直前、昼休みのビラ配布に対する警告書の交付を不当労働行為とする。

◯日本チバガイギー事件.東京地判昭60.4.25労民集36巻2号237頁

   本件で配布されたビラは誹謗、中傷し職場秩序を乱すものではなく、配布された時間も早朝、就業時間前であり、配布場所も業務に支障を生じるような場所ではではなかった。ビラ配布によってその場で喧噪や混乱状態を生じたという事情も認められないことから、本件ビラ配布の警告は、権利の濫用であると認められる特別の事情がある場合に該当し、組合活動に対する支配介入とした。控訴審東京高判昭60.12.24労民集366785頁でも一審の判断維持

◯大鵬薬品事件.徳島地判昭61.10.31労判48536

   会社構内で、上部団体の支援を受けて集会を開き、これと合わせて駐車場や正門出入口付近で帰宅する従業員を対象に組合への参加を呼びかけること等を内容とするビラを配布するというものであったが、このとき集会やビラ配布の現場には原告の課長等の管理職が多数これを包囲するようにして、監視の目を光らせた。そのため帰宅する従業員のなかにはビラの受取りを躊躇する者もあり、駐車場や正門出入口でのビラ配布では十分な活動の実効をあげ得ないと判断した組合は、三回目のビラ配布活動を行うころから、配布の時間を正午から午後一時までの休憩時間帯とし、場所を従業員食堂の出入口からその内部、さらには休憩室.娯楽室へと切り換えていったという事案での管理職による警告書交付が不当労働行為に当たるとした労委命令を支持。

アヅミ事件.大阪地決昭62.8.21労判503号25号

  また本件ビラ配布行為は、昼休みきわめて平穏な態様でなされ、内容や表現もとりたてて問題と取れたてて問題とすべき部分はないのだから、形式的には就業規則違反であっても企業秩序.風紀をみだすおそれのない特別の事情(目黒電報電話局事件判決の判断枠組)が認められ、懲戒事由に該当しないとする。

○倉田学園(大手前高(中)校.53年申立)事件.高松地判昭62.8.27労民集4881605頁、倉田学園(大手前高(中)校.57年申立)事件.高松地判昭62.8.27労判50969

   無許可で職場ニュースを配布したことを理由とする組合幹部の懲戒処分は権利の濫用であり、正当な組合活動として、不当労働行為を認めた労委命令を支持する。

◯国鉄清算事業団(JR九州)事件.福岡地小倉支部平2.12.18労働判例57511

「国労では、毎年六月に全国大会、八ないし九月に中央大会、一〇ないし一二月に支部大会、一二月に分会大会が開かれ、右各大会の代議員を選ぶために選挙が行われていること、右代議員選挙のため運動としては各職場を回って数分の間にビラを配布し、演説を行うという形式をとってきたこと、昭和五七年ころ以降国鉄では職場規律の確立、総点検が言われ、また、第二てこの入口には「勤務者以外許可なく入室を禁ずる。」旨の張り紙があるが、手待ち時間など勤務時間中に、オルグ隊が第二てこ中継運転室及び門操下りに入っても、管理者にオルグ活動を制止されたことはなかったこと‥‥国労の指令を守る国労組合員に対して懲戒処分をするほか、管理者らをしてその組合活動を実質的に妨害してきた‥‥中継運転室及び門操下りで本件オルグ活動を行うにあたって施設管理者の許可を得ていないものの、オルグ活動を行っても職場秩序を乱したと認められない特別の事情があるというべきである。」本件は争議行為のオルグでなく国労代議員選挙のオルグである。

◯住友学園.大阪地判平6.11.13労判67422頁労判674.22

  学校批判のビラ配布を理由とする懲戒解雇を解雇権の濫用として無効とする。

「本件ビラは、入試説明会に来校した生徒(中学三年生)にも配付されたものと一応認められるから‥‥教育的配慮に欠けるとの謗りは免れない。‥‥債権者からは、学園改革のための緊急避難的行為であるとの反論はあろうが、生徒にまで配付するというのは行き過ぎである。‥本件ビラ配付は、その内容が正確性に欠ける点や配付方法が教育的配慮に欠ける点において一応は懲戒事由に当たるといえるが、その程度はさほど重大であるとは思われない‥‥.

○住吉学園事件.大阪地決平6.11.22労働判例674号22頁

  ビラの内容が多少不正確であっても程度は軽微として、ビラ配布によってなされた解雇を無効する。

○倉田学園(大手前高(中)校.五三年申立)事件.最一小判平6.12.24労民集48巻8号1496頁)

 一部破棄自判、一部破棄差戻。

 私立学校の職員室内で、教職員が使用者の許可を得ないまま組合活動としてビラの配布をした場合において、右ビラが労働組合としての日ごろの活動状況等を内容とするもので、違法不当な行為をあおり又はそそのかすこと等を含むものではなく、右配布の態様も、就業時間前の通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯にビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであるなど判示の事実関係の下においては、右のビラの配布は、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものとして、使用者の許可を得ないで学校内でビラの配布等をすることを禁止する旨の就業規則に違反しない。

◯四日市北郵便局事件.津地方裁判所四日市支部平7.5.19労判682号91頁

   管理職らが郵政労組員らに対し、ビラ配布の妨害、給与の貯金口座振込強要、挨拶をしないことを口実とした降格.退職の強要などを行ったことにつき慰謝料請求を認容。

○中労委(倉田学園学園事件).東京地判平9.2.27労民集48巻1.2号20頁裁判所ウェブサイト

   労働組合による無許可ビラ配布を理由とした組合執行委員長等に対する警告書の交付、組合員に対する労務担当者の発言、会議室の無許可使用を理由とした組合執行委員長に対する警告書の交付及び使用者の退職勧奨行為につき、いずれも組合の弱体化を意図して行われたものであるなどとして、労働組合法73号の支配介入に当たるとした。

○中央タクシー事件.徳島地判平10.10.16TKC掲載

   被告会社の女性従業員の仮処分事件の裁判支援活動に伴って、原告組合委員長らが、被告代表者の名誉を毀損するビラ等を駅前等で配付したことを就業規則違反として解雇および出勤停止処分を受けたことに対して、ビラ配付は正当な組合活動であるとして、懲戒処分を無効とした。

○全日本運輸一般労働組合千葉地域支部事件.東京高判平11.11.24判例時報1712

   被告(被控訴人)らが原告(控訴人)の取引先に対して、具体的事実を摘示して原告が不当労働行為を行った旨を明らかにした要望書を送付した行為によって、原告の名誉.信用が毀損されたとして、不法行為に基づく損害の賠償を求めたところ、棄却されたため、原告が控訴した事案において、表現内容の真実性、表現方法の相当性、表現活動の動機、態様、影響等を総合すると、被告らの送付行為は、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲のもので、違法性はないから、不法行為に当たるとはいえないとして、控訴を棄却。

 ○東急バス(チェック.オフ停止等)事件.東京地判平18.6.14労働判例923号68頁

   被告は、東急バス労組に対しては、日常的に被告職場内で情宣活動(ビラ配布、掲示板使用等)を行うことを認め、春闘時などには、各職場(営業所)において組合旗や横断幕を使用した職場集会を行うことを容認しているが、原告組合に対しては、ビラ配布等について警告書を発して処分をほのめかし、施設内情宣活動を禁止している‥‥、東急バス労組に対する便宜供与の程度と比較すると、組合員数(弁論の全趣旨によれば、東急バス労組には約一六〇〇名の被告従業員の大半が加入しているが、原告組合に加入する被告従業員は十数名程度であると認められる)の差を考慮しても、その取扱いの差に合理的な理由があるとは解されず‥‥他労働組合と比べて極端な差別的取扱いといわざるを得ない郵便物受取り上の便宜供与につき複数の労働組合を極端に差別することは不当労働行為に当たるから、差別的取り扱いを受けた労働組合は会社に対して、不法行為を理由とする損害賠償を請求できる。

◯JR東海(組合ビラ配布等)事件.東京地判平22.3.25別冊中央労働時報1395号42頁

   JR東海の管理者による呼出に応じなかった分会の書記長に対し、1日半にわたり無許可ビラ配布の事情聴取を行い、その中で、顛末書の提出を求め、さらに、就業規則の書き写しを命じた行為等がいずれも労働組合法73号の不当労働行為に当たると判断された。

 

 

 

23 組合掲示板の公務秩序に反する掲示物の撤去-不適切なものは撤去

 

23-1 新方針

 

 

   新規則に示された地公労法111項等が禁止する違法行為を慫慂、そそのかし、あおるもの「闘争宣言」や「ストライキで戦うぞ」等は撤去対象となる。「闘争宣言」は平成11年以前江東営業所で見た。「ストライキで戦うぞ」のビラは平成123年千代田営業所で見た。小さい文言だが、平成61031日スト権批准投票結果92.77%のビラが、1115日にも貼り出されておりの表示の文言にもあり貼り出された。少数組合自治労連東水労の掲示板でも、赤旗に「激」とあり寄せ書き(平成15年頃の千代田営業所、平成1819頃の水道特別作業隊でもみかけた)も撤去対象として、撤去命令には違わない場合は、当局で撤去する。

 

 以下に該当する文書又は図画等を配布又は掲示は中止、撤去命令の対象となる。

   地公労法111項後段のあおり、そそのかしに当たるものは撤去されなければならない。撤去対象は原則として違法なものとなる。組合旗の団結寄せ書きの掲出も示威であり闘争参加の表明であり、組合の教宣活動ではなく闘争を志向した掲示物として撤去の対象とする。私の提案では政治活動を知り締まりの対象から外しているのでゆるい感じはされるかもしれないが、従来組合掲示板に貼られたものについて、美観のうえで掲示板からはみ出しているものを注意する職制もいないわけではなかったが、闘争宣言等、国の各省庁でなされていた掲示物を撤去することはしていないので、今回違法な掲示物は撤去させることを規則化することは意味がある。根拠は以下の最高裁判例である。

  なお政治活動とみなされる掲示物については見解をまとめることができず、提案を見送ることとした。要望があれば再検討修正する。

 

23-2根拠 

 

庁舎管理規則第五条9号

新労働協約 14

1)組合は、組合掲示板において組合活動に必要な宣伝、報道、告知を行うことができる。

2)庁舎管理者は、業務上の必要が生じた場合、庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要又は理由があるときは、掲示場所の変更または取消しをすることができる。

3)職員、組合は、局の指定した組合掲示場所以外の場所に、文書、図画等、掲示類を掲出してはならない。

4)掲示類は、組合活動の運営に必要なものとする。また、掲示類は、局の信用を傷つけ、個人を誹謗し、事実に反し、または職場規律を乱すものであってはならない。

5)掲示類には、掲出責任者を明示しなければならない

6)組合が前二条の規定に違反した場合は、掲示類を撤去し、掲示場所の使用の許可を取り消すことができる

7)以下に該当する文書又は図画等を配布又は掲示は中止、撤去命令の対象となる。

一 業務の正常な運営を妨げるおそれのあるもの。

二 闘争宣言など地公労法111項等が禁止する違法行為を慫慂、そそのかし、あおる内容

三 信用失墜行為に該当するおそれのあるもの

四 違法な掲示物、名誉毀損又は誹謗中傷に該当するおそれのあるもの

五 公の秩序良俗に反するおそれのあるもの。

六 組合旗、激文、寄せ書き、幕の掲出など示威、闘争的言辞の掲示物。

七 その他著しく不都合なもの。

 

23-3 処分

 

 撤去命令に従わない場合、当局が庁舎管理権発動で自力撤去するが、抗議活動で、暴言、暴行があった場合は懲戒処分の対象となる。ストライキが実行された場合は懲戒事由に含める。

 

23-4 取締りの根拠となる判例 

 

  国家公務員の職場における組合掲示板の利用関係について、●昭和郵便局(全逓昭瑞支部)掲示板撤去事件・最一小判昭57.10.7民集36102091(郵便局長による掲示板の一部撤去を適法とした)がリーディングケースである。国家公務員の職場における組合掲示板の利用関係について、組合側の主張(使用賃貸契約で行政財産の特許使用であるとして原状回復請求、債務不履行による損害賠償請求)を退け、下級審の国有財産法183項(現行では6項)の目的外使用とする見解も退け        た。

  掲示物の掲示の一括許可が庁舎管理権の行使として掲示板の許可使用を認めるものすぎず、公法上又はその私法上その使用権又は利用権を設定するものではなく、国有財産法183項(現行では6項)所定の行政財産の目的外使用にもあたらないとした。

   郵政省庁舎管理規程の運用通達は「『庁舎等の一部をその目的外に使用を許可する』とは、国有財産法一八条‥‥に定める使用許可ではなく、申出によって庁舎管理者がその権限のわく内で事実上使用することを許可するものであって、権利を設定する行為ではない。‥‥」として、国有財産法183項所定の行政財産の目的外使用の許可は、行政財産に占有権を設定するような場合にのみに関わるものに限定しているが、最高裁は郵政省運用通達の枠組を是認したのである。

   村上敬一調査官判解も、国有財産法183項の規程が掲示物の掲示や物品の移動販売その他の一切の庁舎等の目的外使用に当たるすべての場合に適用されると解することは到底できないと述べているとおりである。

◯全国税東京足立分会事件.東京地判昭52.2.24判時850●東京高判昭57.3.10労判385●最二小判昭59.1.27労判425は、当局の組合掲示板のビラ撤去作業を妨害し、10分ないし20分間職務放棄したことが国公法82条各号に該当するとして、戒告処分に付された事案につき、本件懲戒処分を適法とした事例(出典:日本評論社:法律時報臨時増刊「判例回顧と展望」)原告は、昭和411014日及び15日、足立税務署総務課長、総務課長補佐、総務係長らが同署長の命を受けて同署庁舎一階にある全国税足立分会の使用にかかる掲示板(以下、本件組合掲示板という。)に掲示されていた「ストライキ宣言」等掲示紙(以下、本件掲示紙という。)を撤去しようとしたところ、次の行為を行った。

1 昭和四一年一〇月一四日

「(1)同日午後二時三八分ころ、同総務課長らが本件掲示紙を撤去していた際、他の職員とともに本件組合掲示板前にかけつけ、暴言を吐きながら同課長らの胸を肘で押すなどして遂に同課長らの撤去行為を不能ならしめ、その間、再三にわたり同課長らが伝達した署長の職場復帰命令に従わず、同三時五分ころまでの間ほしいままに職場を放棄し、かつ、同課長らの右職務の遂行を妨げた

(イ)「ストライキ宣言」これは、総評及び公務員共闘連名の昭和四一年一〇月一二日付のもので、その末尾に「われわれは一六〇万公務員労働者の統一と団結をかため、総評に結集するベトナム反戦、最賃制確立、炭労首切り合理化阻止の全労働者とともに敢然としてたたかい、要求実現をめざし、『一〇.二一』統一ストライキを全力をあげてたたかい抜くことを宣言する。」と記載されており、その大きさは新聞紙二頁(縦五四.五センチメートル、横八一.三センチメートル)をひとまわり拡大した程度のものであつた。

(ロ)「秋闘四大要求獲得のため統一ストライキで闘おう」(以下、「秋闘四大要求獲得」と略する。)これは、総評発行のポスターであり、右の標題のほか、四大要求の内容として1公務員労働者の大幅賃上げを闘いとろう!2全国一律最低賃金制を闘いとろう!3アメリカのベトナム侵略にスト抗議しよう!4石炭合理化に反対し、炭鉱労働者と住民の生活権を守ろう!と記載されており、その大きさは新聞紙一頁(縦五四.五センチメートル、横四〇.六センチメートル)程度のものであつた。

(ハ)「全国一律の最低賃金制をストライキで闘いとろう」(以下、「最低賃金制」と略する。)これは総評発行のステッカーであり、右文言が記載されていて、その大きさは新聞紙一頁の四分の一(縦四〇.六センチメートル、横一三.六センチメートル)を若干小さくした程度のものであつた。

 されば、税務の職場内においてかかる文書を掲示した本件掲示行為が国公法九八条二項後段の規定に違反するものであることは論をまたない。

 

 なお、付言すれば、この統一ストライキは、公務員共闘さん下の職員団体による一時間の勤務時間内職場集会の開催を含み、また、当時分会が日刊態勢のもとに組合機関紙を発行する等極めて活発な組合活動を行い、かつ、統一行動に参加を呼びかける文書を配布していた事実等から判断すると、本件掲示は、当時分会員をして右勤務時間内職場集会等を実行させ、職務の停廃を招来させる危険性を多分に有したものであるが、税務職員は前記のように国家の財政収入中の租税収入確保をその職務とし、国家の存立ひいては国民の生活、福祉に密接な関係を有する極めて公共性の強い職務であって、その職務の停廃は全く許されないものである。

 本件掲示物の内容は、前記のとおりストライキをあおり、そそのかすものであり、その掲示場所は庁舎内でしかも納税者等の通行人の多い一階の廊下であって、部内の職員はもちろんのこと部外者の目にも容易に触れる所であつた。よって、仮に分会にストライキ実行の意思がなかったとしても、これをそのまま放置するならば、被告がストライキを容認しているかの如き誤解を招くおそれがあるとともに、職場秩序維持の見地からも極めて不当なものであることはもとより、部外者からも税務行政の信用を失う結果となる事情が存したものであり、国有財産法及び国公法に照らして違法不当たるを免れないものであつた。」

 

 ストライキ宣言や総評発行のポスター撤去が妥当であるという判断は、東京都水道局でも闘争宣言党、違法争議行為をあおり、そそのかすも掲示神が貼られる場合があり、地公労法111項後段違反行為であり、この種の掲示物は撤去してしかるべきである。

 

 同判決は掲示板の性格について昭和郵便局判決を踏襲する判断をとっている。「庁舎管理者による庁舎等における広告物等の掲示の許可は、専ら庁舎等における広告物等の掲示等の方法によってする情報、意見等の伝達、表明等の一般的禁止を特定の場合について解除するものであって、右許可の結果許可を受けた者は右のような伝達、表明等の行為のために指定された場所を使用することができることとなるが、それは、禁止を解除され、当該行為をする自由を回復した結果にすぎず、右許可を受けた者が右行為のために当該場所を使用するなんらかの公法上又は私法上の権利を設定され又はこれを付与されるものではなく、また、右許可が国有財産法183項にいう行政財産の目的外使用の許可にもあたらないと解すべき」

 組合掲示板の掲示物は組合に公法上、私法上の権利を設定され付与するものではないので、違法な文言のある掲示物は撤去されてもやむをえないというものである。

 

 郵政当局が撤去した全逓の闘争宣言等の掲示物とは次のようなものであった。全逓損害賠償請求(新宿局・空港局・静岡局)事件東京地判昭54.2.27労民集301202

 

闘争宣言

 郵政当局の激しい「合理化」攻撃のなかで斗っている、全の青年部の仲間たち!全国の全逓の仲間は各職場生産点で四つの重点目標と沖縄協定紛砕、佐藤内閣打倒、等政治課題を結合し、七一秋期年末斗争勝利を掲げ、いっせいにたちがあつた。わが新宿支部も十一月十九日より三六協定を切り、秋期年末斗争に突入した、我々支部青年部も今日ここに斗いのノロシをあげる!

 いま郵政当局は「合理化」にみあった職員づくりを本質的なねらいとし、目標管理の導入、労働協約の無視、権利、慣行の剥奪、処分の乱発、胸章着用の強要、ブラザー制度の導入、職場、寮と二十四時間管理、差別、減額措置、等々きちがいじみたしめつけを露骨に強行してきている。七〇年後半に職場にはりめぐらしてきた小集団管理体制を基礎としてアメリカ式労務管理をてこに職制の専制支配を結合して職場から斗う全逓を破カイしようとしているのだ、全逓組合員の脱退への煽動、第二組合の擁護と新郵会の育成強化の動向は、なによりもこれを証明している。

 さらに郵政当局は、資本主義体制の経済危機をのりこえるため、我々郵便労働者に対し第二組合、新郵会をもつて企業危機意識をあおり郵政のための人柱となれといつている!

 こうして思想攻撃と全逓破カイをワンセツトにし、職場の民主主義を踏みにじり職場の軍国主義化を急ピツチでおし進めてきている、これは十一月十七日政府自民党のフアツシヨ的な沖縄協定強行「採決」の暴挙と一体のものである。我々は決して許さない!

 郵政当局が「明るい職場をつくるため」といつていることは決して我々のための明るい職場づくりではないことを!日本独占資本と政府自民党の「安保ハン栄論」が、ひとにぎりの支配者階級のためのハン栄でしかなかつたように、ことごとくでたらめであることを!我々は五体を通して知っている、こんにちまでなめさせれてきたこの苦しみを決して忘れることはできないのだ

 我々常任委員会は職場は労働と生活の場所であり、団結の拠点であると考える、郵政当局の「合理化」攻撃をはねのけ七一秋期年末斗争における四つの重点目標

一 減額措置紛砕

一 年末手当三ケ月獲得

一 時短、反合理化

一 昨年末斗争の十二、一四労変確認

これら要求を断固勝ちとり、同時にアメリカ帝国主義に加担し再び我々を侵略戦争の尖兵にしようとする佐藤自民党政府を糾弾し、日米軍事同盟の条約化である沖縄協定紛砕、佐藤内閣打倒、日中国交回復の勝利へむけ中核となって断固斗うことをここに宣言する

 一九七一年十一月二十四日

 全逓新宿支部青年部

 七一秋期年末斗争勝利総決起集会

(別紙二)

 十一.一〇沖縄スト連帯職場集会

 十一月一〇日(水)PM1215

 局会議室

沖縄返還協定批准阻止!!

佐藤反動政府打倒!!

秋期年末斗争勝利!!

〇〇の暴力的職場支配粉砕!!

全逓空港支部団結ガンバロー!!

全逓空港支部執行委員会

 

 なお、局所内の政治活動の禁止は今回の提案では見送ることとした。国家公務員の職場では「佐藤内閣打倒」等の政治的ポスターは撤去対象としているが、それは国家公務員に政治活動の規制があるためで、地方公営企業職員にはそれがないので(管理職は一般職と同じ規制あり家)、違法性という観点で不透明。あくまで、闘争宣言やストライキで戦うぞ等の地公労法111項後段に違反する、違法行為と態様として闘争を志向し不適切なものにしぼって撤去対象とすることとした。

 もちろん政治的ポスターは不快だが、私の提案の主たる目的は、明確な違法行為の規制にあるので、政治的文書の扱いついては今回の提案では見送りとした。

 

 

 

24マグネットシートの貼付、赤旗の寄書き、煙突闘争等-ビラ貼りと同じ対応

 

 現在は行われてないが、平成1516年頃、14.5×4.5cmのマグネットシートで「お客様センターNОストライキで戦うぞ! 完結型受付防衛‥‥」とか「イラク戦争反対」と言った文言のある組合の主張が印刷されたものが各組合員に配布され、机や什器、戸棚などに貼り付ける闘争が行われた。

 これは実質ビラ貼りと同じ効果のあるものであり、「ストライキで戦うぞ」のような違法な文言もあるので撤去命令し、従わない場合自力撤去する。基本的にビラ貼りと同じ方針で取り締まるが、机であれ、ロッカーであれ、戸棚であれ当局が供与している備品である以上、取締りの対象としてよいと考える。

 このほか、平成7年頃江東営業所では、七夕の笹飾を机上に設置し、短冊に要求項目を書く闘争があったが、これもビラ貼りと同様の措置とする。またストライキ態勢を固めるため、赤旗に寄せ書きして団結を示威するため、赤旗は事務室内に掲出ないし設置することがしばしば行われるが、これも撤去命令等、ビラ貼りと同じ対応とする。

 煙突闘争というのは円筒状のボール紙などに要求項目を書いて机上に設置して、組合員の訴えかけをするもので水道局では見たことがないが、そういう闘争もありうるが、この場合もビラ貼りと同じ対応でよい。

 なお、組合が団扇や手ぬぐい、ボールペン、ティッシュペーパーなどの「全水道東水労」と記載されている組合グッズを組合員に配って使用を促すことがしばしばあるが、見せつけたりしない以上は取締りの対象としないこととする。

 

24-1根拠 

 

 新規則9 職員は局が許可しないメッセージ性のある旗やマグネットシート、煙突状の小物、マスコット、団扇、短冊を机上、什器等に設置、陳列、貼付してはならない。

 

24-2処分

 

 現場を現認した場合、制止する。制止をはねのけた場合は、1回目警告、2回目訓告、3回目戒告とする。管理職やスト対策本部職員はパトロールし適宜撤去命令をする。撤去命令に応じない場合は没収。撤去を妨害した場合も同上の措置。現認し写真撮影をする。

 

 

 

25 春闘ワッペン、赤腕章-取り外し命令

 

 服装闘争等全般にわたって禁止

 

25-1 新方針

 

 勤務時間中に業務外の徽章等、春闘ワッペン、頭上報告、集会主宰者が着用する赤腕章、業務外のメッセージが記載されているトレーナーやTシャツの着用を禁止し取り外し命令等、職務命令をする。争議行為でなく正当でない組合活動の範疇になる。ゼッケン、鉢巻等も同様である。

 

25-2根拠 

 

地方公務員法35条職務専念義務違反。

新規則 3 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない。4 職員は、勤務時間中に又は局所施設内で上司が認める業務外の徽章、胸章、腕章等を着用してはならない(解釈としては、ゼッケン、鉢巻、プレート、ワッペン、バッジ、政治的文言等のプリントされたTシャツの着用を含める)

 

 モデルはJRグループ就業規則

20条の3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない

 

 これは、主に全水道東水労の春闘ワッペン着用闘争(勤務時間中)をやめさせる目的の規則である。近年は見かけなくなったが10年前頃まで配布していた。実際には、着用しない組合員も多かったが役員は着用していた。また闘争を再開する可能性もあるので予防のため規則になる。

 腕章は役員がオルグ演説や頭上報告で用いるほか、過去に赤い腕章着用のまま勤務する職員もいた。これらも規制する。

 春闘ワッペンは私鉄総連のワッペンと似た形状で、ビニール製直径67センチである。私は私鉄総連(私が見たところでは東京メトロ・東急・京浜急行・京成・東武については着用率が高く、京王は着用時期が短くやってない社員もいる。小田急は着用を確認していない)の駅員や乗務員、東急バス等バスの運転手のワッペン着用も非常に不愉快であり、バス運転手など制服をハンガーにかけて着用せず態度も悪いケースがある。

 東京メトロについてはまだ国と都が株を持っているので国会と都議会から注文をつけてもらいたいと思っているが、東京急行電鉄の昭和54年当時の就業規則は「従業員は、勤務時間中所定の社員章または制服制帽を着用しなければならない」としているが会社が認めないワッペンの着用を禁止していないようである。私鉄各社が禁止できていないのは、東京都水道局と全く同じ、企業秩序維持権を行使していないからである。

 春闘ワッペンの法的評価は、私鉄であれ、水道局では公衆の目に触れる頻度の高さの違いだけであり、大筋で同じ。この点JRグループは会社発足当初から、国労バッジの取り外しを徹底的に指導しており、結果として、平成15年頃には着用者がいなくなった。企業秩序論による労務管理を徹底して成功している事例なので、それにならった労務管理を東京都も取り入れることを強く要求する。

 結論を先にいうと、類似事案の判例は蓄積しており、明文の就業規則にもとづいているなら、春闘ワッペンの取り外し命令や、職務命令に従わない場合の不利益賦課が労組法71号の不当労働行為とされることはないから、勤務時間中に組合行動を意識させ職務の集中を妨げるおそれがあり、職務専念義義務違反にあたる。

 端的にいえば、業務外の徽章等禁止の就業規則を明文化すれば、確実に取り締まりができる。それは、ワッペンよりずっと小さくて目立たない国労バッジ事件で就業規則違反として夏期手当減額措置を適法としている判決があるので、それは着用者の職務専念義務違反だけでなく、それが視覚に入ることによる他の職員の職務専念妨害を抑止する。能率的で、適正良好な職場環境を維持し規律のある業務運営体制を確保するため取り締まっていくべきである。

 

25-3処分

 

 ワッペン・腕章については取り外し命令 1回目警告、2回目厳重注意、3回目訓告、4回目戒告処分。正当でない組合活動として取り締まるもので争議行為とからめないものとする。

 

25-4 根拠となる判例

 

 端的に言えば次の判例が明解だが、ここでは服装戦術全般にわたってとり上げる。

JR東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平9.10.30判時1626号(最二小判平10.7.17労判744.中労委DB)

  組合バッヂ着用の厳重注意と夏期手当減額の措置を不当労働行為に当たらないとして都労委の救済命令を取消した原判決を支持)

「本件組合バッヂ着用行為は‥‥本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから‥‥職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり‥‥これを勤務時間中に行うことは‥‥たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという‥‥職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。」

腕章その他の服装闘争も大筋で同じ企業秩序論にもとづく理由でよいわけである。

 

(1)春闘ワッペンの法的評価=就業時間中の組合活動とみなされる

 

   春闘ワッペン着用行為が、組合活動か争議行為という問題は、当然にその法的性格を異にし、労組法71号との関係においても正当性の判断が異なりうるし、私企業では労組法8条の民事免責を正当な争議行為ならば認めることになるので、重要な論点である。

   リボン闘争について最高裁が初めて判断を下した大成観光リボン闘争事件最三小判昭57.4.13民集36-4-659は、これを就業時間中の組合活動として、労働組合の正当な行為にあたらないと判示しているため、類似事案である私鉄総連の春闘ワッペンや全水道東水労のワッペンも就業時間中の組合活動とされることは間違いない。

   大成観光リボン闘争事件の原判決は、リボン闘争について組合活動の面と争議行為の面と両面があると考察しているが、最高裁は争議行為とみなさなかった。

   理由は判文では不明だが、新村正人調査官判解では、原審のいう使用者に対する団結示威の作用、機能を直ちに争議行為とみなす根拠はないと断定的に述べている。最高裁はリボン闘争が類型的に争議行為に当たらないとする見解に好意的とも言っている。

   仮に争議行為にするとしても正当性の限界を確定する理論的作業は困難というほかなく、積極的に解することはないだろう。そうするとストライキ当日を別として、私企業で労働組合側がリボン闘争は争議行為と主張し労組法8条の適用があると主張しても認められることはないだろう。

  したがって以下、ワッペン着用行為を就業時間中の組合活動と捉え法的な評価を行う。

 

(2) 服装闘争判例は正当な行為と認めていない

 

   就業時間中にリボン、腕章、ワッペン、鉢巻、ゼッケン、組合バッジ等を着用しながら労務提供することが、債務の本旨に従った履行といえるのか、労組法によって保護される組合活動の正当な行為といえるのか、その着用を理由とする取り外し命令、訓告、戒告、減給、期末手当減額、出勤停止処分等の不利益処分、あるいは就労拒否、配置転換、本来業務外し等の措置が適法かなどについては判例の蓄積がある。

  労働委員会命令の傾向は、服装戦術を団結活動の一環としてとらえ、服装規定にもとづく懲戒処分の不当労働行為性を認定する傾向があるが、裁判所(救済命令取消訴訟)になると正当な組合活動とされる例は少なく、大多数の判例は服装闘争を正当な組合活動とみなしていないし、不利益処分について労組法71号の不当労働行為に当たらないとする。

 

A 判例法理転換期の下級審判例について

 

  我が国では昭和40年代まで、階級闘争としての戦闘的な労働運動を支援する立場から労働基本権によって財産権や所有権という市民法秩序の侵害を正当化させようとする赤い思想にもとづいて、労働組合に通常なら犯罪とされる行為でも処罰されない特権を付与する可罰的違法論、企業内組合活動では、受忍義務説(法益権衡、法益調整論により使用者の権限の侵害を正当化)や施設管理権を物的管理権に限定する悪質なプロレイバー学説が司法にも影響力を持っていたため職場秩序の混乱をもたらしていた。

  リボン闘争についても、全逓灘郵便局事件・ 神戸地判昭4246労民集182302、国労青函地本事件・函館地判昭47519労民集233347が正当な組合活動としている。

  しかし、昭和48年石田和外コート末期の最高裁の構成の変化等で司法の左傾化に歯止めがかかったことにより、住居侵入罪、公務執行妨害に問われたマス・ピケ事犯で可罰的違法論を適用して無罪とした原判決を覆した国労久留米駅事件大法廷判決昭48425刑集273418を決定的なターニングポイントとしてプロレイバー学説は明確に否認の方向に舵がきられ、企業内組合活動についていえば、受忍義務説より許諾説に転換していった。

   服装戦術では、ノースウエスト航空事件・東京高判昭471221労判速8059が初めて腕章着用の就労を職務専念義務違反と判示した。

 三井鉱山賃金カット事件・福岡地判昭46315労民集222268は「不当処分反対、三川通勤イヤ!」「抵抗なくして安全なし」等と書きつけた組合員のゼッケンの着用が、就業時間中の会社構内における情宣等を禁止する労働協約の条項に違反し、正当な組合活動とはいえないと判示した。

 国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48529労民集243257は、判断枠組みを提示したリーディングケースといえる。

   国鉄職員が勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、具体的な業務阻害がなくても、職務に対する精神的・肉体的活動の集中を妨げない特別の事情がある場合を除いて国鉄法32条2項の職務専念義務に違反するとしたうえで、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものであるから、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでないことは明らかであり、職務専念義務違反とした。

   また服制及び被服類取扱基準規程の「被服類には、腕章、キ章及び服飾類であって、この規程に定めるもの及び別に定めるもの以外のものを着用してはならない」とする規定にも違反するとした。

   さらに国鉄職員がこれを着用して勤務していることに対し旅客公衆の中には不快感を抱く者があることは十分予想されると述べ、被控訴人らは、そのような不快感は反組合的感情で保護するに値しないと主張するが、しかし、その不快感が、本件リボンの内容である国労の要求内容に対する不満にあるのではなく、被控訴人らが職務に従事しながら本件リボンを着用して組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安によるものであるときは、国鉄が公共の福祉の増進を目的とする公法人で、その資本は全額政府が出資していることを考えると、右の趣旨の旅客公衆の不快感は十分理由があるものであつて、これを単なる反組合的感情にすぎないものということはできない。さらに、国鉄内には、国労のほか、これと対立関係にある鉄道労働組合があることは顕著な事実であり、本件リボンの着用が鉄労組合員その他組合未加入者に心理的な動揺を与え、国労の組合員の中にも指令に反し本件リボンを着用しなかつた者が相当数あったことが認められるが、これらの者にも精神的な重圧となったことも十分考えられ、勤務時間中の本件リボンの着用は、その勤務の場において、不要に職場の規律、秩序を乱すおそれのあるものというべきであると述べ、原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

 

 神田郵便局事件・東京地判昭49527労民集253236も「全逓神田支部」と染め抜いた腕章を着用した行為は就業規則に違反し、職務専念義務に違反するとした。二審東京高判昭51225訴務月報223740も一審を支持。

 

 大成観光事件・東京地判昭50311労民集262125は、労働側が殆ど勝てないため「地獄の東京地裁民事19部」と恐れられた中川幹郎裁判官チームの判決である。下線部で示すような特徴的な表現のある判決として著名である。二審東京高判昭5289労民集284362も一審判断を支持し棄却。

   事案は、昭和4510月、ホテルオークラ(従業員約1200人)の従業員で組織する労働組合(組合員約300人)が結成三か月後、賃上げ闘争の一環として、2回にわたってリボン闘争を行った。リボンは直径56センチの花形に長さ6センチ幅2センチの白地に「要求貫徹」「ホテル労連」という文字を黒や朱色で印刷されていたもの。第1回のリボン闘争は106日から8日午前7時まで、リボン着用者は約226名(客面に出た者約25名)、7日は276名(客面に出た者約59名)であった。会社はリボンを外すよう説得し、担務変更などの対抗策を講じたが、組合は無視しリボン闘争を強行したため、組合三役らの6名の幹部責任を問い、就業規則にもとづいて減給処分とした。

   第2回のリボン闘争は、処分撤回の目的で団交決裂後の1028日午前7時から30日午後12時まで実行され、リボン着用者は28256名(客面に出た者は約50名)、29243名(同じく約49名)だった。119日賃金紛争は妥結し、11 日再び組合三役を譴責処分とした。 組合側は、東京都地労委に救済を申し立て、東京都地労委は、労組法71号の不当労働行為に該当するとして、処分の取り消し、減給分の賃金の支払いを命じた。会社側は救済命令を不服とする行政訴訟を提起した。

  東京地裁は、リボン闘争による団結示威の機能領域の異別という視点から、組合活動の面と争議行為の面とにわけて考察したうえ、「いわゆる組合活動の面においても、争議行為の面においても、労働組合の正当な行為ではありえないというべき」と断じ、救済命令を取消した。

 (判決理由の要旨)

○組合活動としてのリボン闘争の一般的違法性

   労働者の連帯感を昂揚し、その士気を鼓舞するための集団示威は労働組合が自己の負担及び利益においてその時間及び場所を設営しておこなうべきもので、勤務時間の場で労働者がリボン闘争による組合活動に従事することは、人の褌で相撲を取る類の便乗行為であるというべく、経済的公正を欠く。労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下でのリボン闘争は、誠意に労務に服すべき労働者の義務に違背し違法であり、使用者はそれを受忍する理由はない。

○争議行為としてのリボン闘争の一般的違法性

   使用者の指揮命令に従って業務を遂行しつつ、それに乗じて団結の示威を行うことは、心理上の二重機能的メカニズム、一面従順、他面反噬という精神作用を分裂させて二重人格の形成を馴致する虞れがあり、労働人格の尊厳を損なう性質のものであるのに加え、リボン闘争に対して使用者が、賃金カット、ロックアウトで対抗するのは困難であって、労使間の公平の原則に悖るため、争議行為としても違法であり、使用者が受忍する理由もない。

○特別違法性

  リボン闘争は、労使が互いに緊張していることをまあたりに現前させるので、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てることなり、ホテルの品格、信望につき鼎の軽重を問われ、客の向背を左右することは必定。ホテル業の使用者において忍受しなければならない理由はさらにない。

 

 全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51130労民集27118は、一審判決の被告敗訴部分を取消し、本件リボン等の着用は、上司の取外し命令を拒否する決意の下に組合活動目的を客観的持続的に表明し、組合員が互いにこれを確認し、当局および第三者に示威する趣旨の精神的活動を継続したものにほかならないから、これによって具体的にどのような業務遂行上の支障を生じたかを問うまでもなく、右は、それ自体本来の職務遂行に属しないのはもちろん、郵便業務の秩序ある正常な運営と相容れぬところの積極的な職場秩序攪乱行為であつたと断ずるを相当とし、勤務時間内における組合活動禁止と職務専念義務を定めた就業規則の趣旨に抵触する。さらに「正しくない服装」を禁止する規則にも違反するとした。郵政省ではこれまで業務成績の向上を計る目的で職員に対し本件リボンとほとんど同形同色のリボンで「簡易保険新加入運動」「郵便貯金五千億円突破」等と記載したものを着用させたことがある。しかし、リボン等の着用が正しい服装であるかどうかは、単にその外形のみによって判断すべきものではなく、記載文字等によってその着用が一定の目的を持った意味ある行為であることを考えて綜合判断する必要があると判示した。

 沖縄全軍労事件・那覇地判昭51421労民集272228は在日米軍基地の従業員が赤布の鉢巻を着用して労務の提供することは、雇用契約上の債務の本旨に従った履行の提供とはいえないとして賃金カットを適法と認めた。二審福岡高那覇支判昭53413労民集292253も一審を支持。

 全建労事件・東京地判昭52725行裁集2867680 は、本件建設省職員のリボン闘争が職務専念を欠く結果を招く蓋然性の高い行為であり、職場全体においては違和感を生ぜしめ、国民に対しては国家公務員の信用を失墜するおそれを生み出す。リボン闘争に参加した原告らは全体の奉仕者たる国家公務員として規律保持に欠けるところがあつたものといわざるを得ないなどとして、リボン闘争の指導、着用を勤務成績評価のマイナス評価とすることを認めている。

 

  以上の服装闘争を違法ないし正当な行為とみなさない下級審判例を類型化すれば以下のとおりである。

 

◇雇用契約上の債務の本旨に従った労務の提供ではない 

ノースウエスト航空事件・東京高判昭471221

 沖縄全軍労事件・那覇地判昭51421

 

◇誠意に労務に服すべき労働者の義務に違背する

 大成観光事件・東京地判昭50311

 

◇職務専念義務に違反する

国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48529

全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51130

(いずれも具体的にどのような業務遂行上の支障を生じたかを問わず職務専念義務違反とする)

 

◇就業規則の服装整正規定や正しくない服装の禁止に違反する

 国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48529

全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51130

 

◇勤務時間中の組合活動を禁止する就業規則、労働協約に違反する

三井鉱山賃金カット事件・福岡地判昭46315

 

 

B 目黒電報電話局反戦プレート事件.最三小判昭52.12.13民集31-7-974

 

  本件は職員個人の政治活動事案だが、服装闘争判例とみなしてもよい。組合活動でも先例になる重要判例である。

  数日間継続して、作業衣左胸に、青地に白字で「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書いたプレートを勤務時間中に着用した行為と休憩時間のビラ配りを理由とする戒告処分を適法とした。

  プレート着用が公社就業規則52項の局所内の政治活動を禁止した規定に違反する行為とした。ただし、この就業規則は局所内の秩序風紀の維持を目的としたものであることにかんがみ、形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局所内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないという判断枠組を示したうえで、大筋以下の2点で実質的に局所内の秩序を乱すもしくは乱すおそれがあるので、就業規則違反として懲戒処分を適法と結論する。

a)職務と無関係な同僚への訴えかける行動は、職務の遂行と無関係な行動であり、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱している、公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、「右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した

b)他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、よって他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあることは局所内の秩序維持に反する。

   菊池高志[1983「労働契約・組合活動・企業秩序 『法政研究』49(4)]によれば目黒電報電話局判決は「勤務中は‥‥職務以外のことは行ってはならないのが職務専念義務であると言う。そうである以上、職務専念義務違反の判断は、職務以外の行為があったという事実さえ認められれば目的、態様、行為の及ぼす影響などは改めて吟味を要しないこととなる」とするが、普通の解釈である

   国労青函事件札幌高裁判決や、目黒電報電話局事件上告審判決が示した職務専念義務論が、私企業の労働契約上の誠実労働義務と同一内容といえるかについては議論があるが、通説は同一内容とみなす。

「職務専念義務」あるいは「誠意に労務に服すべき義務」というにしても、法的に考えるならば、両者の義務は職場規律を遵守し、就業時間中仕事以外のこといっさいかんがえてはならない義務として使用されており、「誠意に労務を提供する義務」は職務専念義務と同一内容をもつものと考えられる[石橋洋「組合のリボン闘争戦術と実務上の留意点-大成観光(ホテルオークラ)事件」労働判例3911982]

  加えて最高裁は、国鉄中国支社事件判決.最一小昭49.2.28民集28166において日本国有鉄道法311項に基づく懲戒処分は、行政処分ではなく、私法上の行為としているから、国鉄職員懲戒処分の判例は、公労法171項の争議行為が禁止されている点は異なるとはいえ、私企業一般の先例なのである。

  目黒電信電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから。

  とすれば、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべき[菊池高志前掲1983]という見方が有力なのである。

 

 

C 大成観光リボン闘争事件・最三小判昭57.4.13民集36-4-659

 

  最高裁が初めてリボン闘争について判断を下した大成観光リボン闘争事件最三小判昭57.4.13民集36-4-659は、「本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」とした。この結論は妥当であるが、第三小法廷4人のうち横井大三(高検検事長出身)、寺田治郎(高裁長官出身)判事の主流派2人と左派プロレイバー(反主流派)2人(弁護士出身の環昌一裁判長、学者出身の伊藤正己各判事)という構成のため、先例についての法的評価が一致せず、結論にいたった最高裁としての理由が示されていない。目黒電報電話事件最高裁第三小法廷判決は本件控訴審の後のものであるので、 左派がいなければ本件上告審においても、例えば目黒局事件判決を引用し、雇用契約上の誠意に労務に服すべき労働者の義務において、被用者はその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならず、誠実労働義務違反というには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件としないとなぞった説示してもよいはずなのに、それをしていない。

  判文で理論的説示がない理由は、目黒電報電話局判決に半数の2判事が批判的なためである。

  しかし理論的な説示がなくても、結論は正当な行為とされていないのだから、リボン闘争に否定的な下級審の傾向を追認したとする解釈をとってよいように思える。

  ただし当該事案に限定しての判断のため、玉虫色的解釈がなされる要因となっている。しかし、この先例をホテル業に限定した判断であってケースバイケースで正当な行為とすることもありえるといったような労働組合側に有利に解釈することは、最高裁判例との整合性からみて無理がある。

 

D 西福岡自動車学校腕章事件 ・福岡地判平7・9・20労判695-133

   自動車学校の労働組合員らがした腕章着用闘争につき、同闘争は、労働者の団結を示威し、使用者に対し心理的圧迫を加え、労働者の要求ないし主張を貫徹する争議行為的側面と、組合員相互間において連帯感を触発し、団結をより強固にし、使用者との交渉に当たって士気を鼓舞する組合活動的側面の双方を有するものであるが、業務を阻害しなくともその本来的な目的を達することができるから、特別な事情のない限り、本質的には争議行為ではなく組合活動であると解するのが相当であるとした上、就業時間中に組合活動を行うことはその具体的態様にかかわらず職務専念義務に反するもので、正当な組合活動ではないとして、腕章着用闘争を理由とする戒告処分は不当労働行為に当たらないとした「組合活動である本件腕章着用闘争が労働組合の正当な行為であったか否かについて検討すると、一般に、労働者は労働契約に基づき、就業時間中その活動力をもっぱら職務の遂行に集中させるべき職務専念義務を負うものであって、就業時間中に組合活動を行うことはその具体的態様にかかわらず右職務専念義務に反するものであるから、使用者の明示・黙示の承諾や労使慣行が成立しているなど特別の事情がない限り、労働組合の正当な行為にはあたらないものと解するのが相当である」

 

 E JR東海(国労東京地本新幹線支部)バッジ事件 東京高判平9・10・30判時1626-38

「本件就業規則三条一項の「社員は、被控訴人事業の社会的意義を自覚し、被控訴人の発展に寄与するために、自己の本分を守り、被控訴人の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない。」という規定は、社員の職務専念義務という観点からは、社員は、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり、‥‥本件組合バッヂ着用行為は‥組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、被控訴人の社員としての職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという被控訴人社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。

  また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない」

 上記説示では、わざわざ「職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっている」と述べていることは、これは就業規則違反であるけれども、就業規則になくても労働契約違反と言う趣旨なのだろうか。

 また当該行為により職務の遂行が阻害される等の具体的な実害が発生しないとしても、企業秩序の維持に反するものであり、職務専念義務、勤務時間中の組合活動の禁止、服装の整正義務を定める就業規則の各規定に違反するとし、厳重注意や夏期手当の減額支給等の措置は不当労働行為に当たらないとした。

 なお上告審最二判平10717労判74415頁は「原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない」として棄却している。

 

F JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件・東京高判平11・2・24判時1165-130

「本件就業規則三条は、服務の根本基準について定め、同条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定している。これは、社員がその就業時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないこと、すなわち職務以外のことを就業時間中に行ってはならないことを意味するものである。ところで、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は、国鉄の分割民営化の過程で国労から多くの組合員が脱退していく中で、国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。

 なお、参加人らは、本件組合バッジの着用によって現実の職務遂行に支障を生じないので、本件組合バッジの着用は右規定に違反するものではないと主張するが、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきであり、参加人らの右主張は、採用することができない」

 この判決の上記説示部分は、JR東海(新幹線支部)R東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030とほぼ同じといってよいが結論は異なる。

 国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意、訓戒、55名に対し夏季手当5%減額の措置を不当労働行為というのである。国労バッジの着用は、就業規則の服装整正規定違反、就業時間中の組合活動禁止規定違反、職務専念義務規定違反であり企業秩序を乱すものであるとし、取外し命令、懲戒、不利益処分を禁止するものではない。しかしながら「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので、一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても、それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには、その使用者の行為は、これを全体的にみて、当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」と述べ、「敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し」バッジ取外しの指示・指導等は「執拗かつ臓烈なもので、平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり」「就業規則の書き写しの作業などは、嫌がらせ」であり、「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し、組合から組合員を脱退させて、国労を弱体化し、ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入)に該当するとした。

 本件は、類似の事案で、JR東海新幹線支部判決が不当労働行為に該当しないと判示したのとは食い違った結論を示している。本件JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件東京高判平11224の上告審最一小決平111111労働判例770号32頁は不受理なので、最高裁はどちらかというと不当労働行為にあたらないとするJR東海新幹線支部判決の判断に好意的と理解することはできると思う。

 

G JR西日本大阪国労バッチ事件 東京地判平24・10・31別冊中央労働時報1434号20頁

「(ア)参加人の就業規則3条1項が、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令・規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定して従業員に職務専念義務を課し、その具体化として、同203項が、「社員は、勤務時間中又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」と規定し、同23条が、「社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」と規定しているのは、‥‥勤務時間内における原告の本件組合バッジの着用が、形式的にいえば、就業規則3条1項、20条3項、23条に違反し、勤務時間中の組合活動を禁止した労働協約6条にも違反するものであることは明らかである。

 もっとも、就業規則は、企業経営の必要上、従業員の労働条件を明らかにするとともに、企業秩序を維持・確立することを目的とするものであるところ、その解釈・適用に当たっては、憲法28条が労働者に労働基本権を保障する一方、憲法29条が使用者に財産権を保障していることの趣旨にかんがみ、団結権と財産権との調和と均衡を図るべきであるから、形式的に上記各規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、上記各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である(最高裁判所昭和52年12月13日第三小法廷判決・民集31巻7号974頁参照[目黒電報電話局事件])。

(イ)これを本件についてみるに、原告が勤務時間中に着用していた本件組合バッジが、縦1.2cm、横1.3cm四方の長方形の金属板状のものであり、黒地に金色のレールの断面図と「NRU」の文字(「国鉄労働組合」を英訳したNational Railway Unionの頭文字)とがテザインされており、裏側にあるピンを衣類に刺し、留具でピンを留めて着用する形状のもの‥‥本件組合バッジは、必ずしも大きく目立つものではなく、国労の主義・主張が具体的に記載されているわけでもない。しかしながら、‥‥労使対立の歴史の中では、国労の組合バッジの着用は、国労組合員が組合員であることを対外的に示すとともに、組合員相互間の団結・連帯の意識の向上という思想を外部に表明するための象徴的行為であるということができる。その後、国労と国鉄分割民営化と同時に設立されたJR各社とが、平成8年8月以降労使協調路線を打ち出し、平成11年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結し、平成12年3月以降中労委に係属していた不当労働行為救済命令申立事件を和解で終結するとともに、国労が四党合意の受入れを決議する中、国労の組合バッジの着用の意味合いは、労使協調路線を採用した国労執行部に対する抗議の意志の表明を含むものに変容したということができるが、原告の本件組合バッジの着用は、自らが国労組合員であることを対外的に示すとともに、その思想を共有する組合員との間の団結・連帯の意識を向上させ、一定の思想を外部に表明する行為であることには、変わりがないというべきである。

 他方で、一般私企業において、従業員は、労働契約を締結して労務提供のために企業に入ることを許されたのであるから、労働契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、かつ、企業秩序に服する態様において、勤務時間中に行動することが認められているものであるところ、分割民営化前の国鉄においては、職場規律が弛緩し、ヤミ協定、悪慣行が横行し、企業秩序が乱れていたため、分割民営化による国鉄改革の必要性が叫ばれる中、事業を承継した参加人においては、これを是正するため、違法行為に対しては厳正に対処し、職務専念義務を徹底させることが求められていたということができる。そうすると、国労の組合バッジの勤務時間中の着用は、参加人の従業員としての職務の遂行には直接関係のない行為であることが明らかであるし、当該行為の趣旨・意味合いを考えた場合、勤務時間中、職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反するばかりでなく、ほかの従業員の意識が当該組合バッジに注がれることによって、勤務時間中に心理的影響を受けるおそれもあるというべきである。しかも、後記‥‥で判示するとおり、原告の従事した車両の検査修繕作業においては、事故防止のために所持品の落下に細心の注意を注ぐ必要があり、作業に不必要な物を現場に持ち込むことが禁止されていたことを認めることができる。

(ウ)以上によれば、本件組合バッジの着用は、企業秩序を乱すおそれのある行為であるといわざるを得ないから、実質的にみても、就業規則に違反するものというべきである。

 したがって、就業規則違反を理由とする本件各訓告は違法ではなく、本件各訓告等は、不利益取扱いの不当労働行為には当たらない。」

 結論は妥当としても論旨には疑問がある「団結権と財産権との調和と均衡」という法益権衡論は、国労札幌地本ビラ貼り戒告事件・最三小判昭54.10.30が否定しているものである。

 

H JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止事件 東京高判25・3・27別冊中央労働時報1445-50

「補助参加人らは、〔1〕国労バッジ着用は労務提供義務と矛盾なく両立し、業務阻害性はなく、職務専念義務、服装整正義務に違反するとはいえない、〔2〕国労バッジ着用の組合活動としての必要性等を考慮すれば、国労バッジ着用行為には正当性があると主張するので、以下検討する。

 本件就業規則3条1項に定める職務専念義務は、社員は、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

 そして、労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労務契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり、その行為が服装の整正に反するものであれば、就業規則20条3項に違反するといわなければならないし、また、それが組合活動としてされた場合には、そのような勤務時間中の組合活動は就業規則23条に違反するものといわなければならない。

 P1ら9名の国労バッジ着用行為は、国労組合員の中でも国労バッジ着用を止める者が大多数となっていく中で、国労内少数派として着用を継続したものと認められるが、国労執行部ないしは原告に対し、国労内少数派としての意思を表明し、また国労内における多数派に対し、少数派との対立を意識させるものといえ、また同時に、国労組合員のうち、自らの意思により国労バッジを着用していない者に対しても心理的影響を与え、当該組合員が職務に精神的に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、かかる行為は、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反し、また服装整正にも反するものとして、企業秩序を乱すものといわざるを得ない。

 補助参加人らは、国労バッジ着用に業務阻害性はないと主張するが、上記就業規則違反が成立するためには、現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当であり、補助参加人らの主張は採用することができない。」

  国労側の主張にみられるようにリボンやワッペンとは違って闘争的色彩それ自体はないようにも思えるし、たんに組合所属をあらわすたけという見方はありうる。

 また私鉄総連の春闘ワッペンのように目測で直径78cm、2018年のように赤色の原色を用いて目立つようなものではないといえる。

 私鉄の多くは、各労働組合の組合員らが、就業時間中に当該組合所属を表示する組合バッジや私鉄総連の定めた統一組合バッジを着用していることがあり、これに対して会社側はその着用を禁止していないということも国労側の主張にみられるが、小さなバッジまで徹底して禁止するJRの労務管理は私鉄との対比ではかなり厳しいともいえなくもない。

 しかし、上記の判例のように小さなバッジですら企業秩序をみだすものとして禁止でき、離脱命令、懲戒も可能であることを示しているが、 平成24年の東京地裁や平成25年の東京高裁といった比較的近年の判例は、昭和52年の目黒電報電話局判決の厳格な職務専念義務論を安定的に維持しているといえる。いずれも具体的乗務阻害がなくとも、それを着用していることが旅客の安全な輸送、鉄道の業務それ自体に支障がないということによって、正当化されることはないことも述べているのである。

以上、判例をみてきたが総合的に判断しておよそ春闘ワッペン闘争については下記の立論により否定的な法的評価ができる。

 

 (3) 私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用される

 

 まず労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよいと考える。労働者は、雇用契約に基づき職務専念義務を負っており、就業時間中の組合活動は違法である。

 近年の組合バッジ着用事案の判例でも「労働者は、就業時間中は使用者の指揮命令に服し労務の提供を行う義務を負うものであって、勤務時間中の組合活動は、原則として右義務に違反する‥‥労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり‥‥」(JR東海新幹線支部国労バッジ事件.東京高判平9.10.30判時1626388)と判示しているとおりである。

 この判断の根拠になっているのは引用こそされてないが目黒電報電話局反戦プレート事件.最三小判昭52.12.13民集317974の職務専念義務論である。

 つまり職務専念義務は公務員法制の実定法に限られず、私企業の雇用契約でも同じことである。

 なお、目黒電報電話局反戦プレート事件.最三小判昭52.12.13民集317974は、ベトナム反戦プレート着用という個人的な政治活動の事案だが、組合活動についても同判決の判断枠組が適用されることは判例法理上当然の帰結といわなければならず、そうでないとする大成観光リボン闘争事件最三小判昭57.4.13伊藤正己補足意見は先例無視の勝手な見解だといわなければならない。

 この点については大成観光リボン闘争事件・最三小判昭57.4.13民集36-4-659新村正人調査官判解が目黒電報電話局判決は「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」と解説しており、大成観光リボン闘争事件・最三小判昭57.4.13は理由を示していないが、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52.12.13の判断を踏襲しているという解釈が法律家の標準的見解といえる。 (菊池高志前掲判批だが、石橋洋前掲判批や西谷敏「リボン闘争と懲戒処分――大成観光事件」ジュリスト臨時増刊7922261983、プロレイバー側の学者も同趣旨を言っている)

  なお目黒局判決に後続する企業秩序論判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件・最三小判昭54.10.30民集336676とそれを引用する多くの判例が、使用者は無許諾の企業施設内組合活動の受忍義務はないこと、済生会中央病院事件・最二小判平元.1.12.11民集43-12-1786によって就業時間中の無許諾組合活動が正当化されることはないことを明らかにしており、法益衡量の調整的アプローチを明確に否定していることから、職務専念義務は、政治活動を禁止する場合適用されるが、組合活動には適用されないということは、他の判例との整合性からみてありえないことである。

 以上のことから私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのであり、東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60.8.26労民集364.5558では、同社の就業規則八条「従業員は、会社の諸規程および上長の指示にしたがい、……誠実にその義務を遂行しなければならない。」が引用され、「労働者は誠実に職務に従事すべき義務を負うことは、労働契約の性質から当然のことである。したがつて、労働者が勤務時間中にその職務と関係のない行為を行うことは原則として右義務に違反することとなり、この場合に右義務違反が成立するためには必ずしも現実に職務の遂行が阻害されるなどの実害が発生することまでは要しないものというべきである。そして、被告会社の前記就業規則八条の定めも、このことを明らかにしたものと解される。」と判示しているとおりである。

 本件は、狭山差別裁判粉砕等、裁判の不当を訴える内容の縦10センチメートル、横14センチメートルの硬質プラスチック製のプレートを制服の左胸部に着用してした就労申入れを拒否した事案で組合活動ではないが、現在の東急電鉄の就業規則は不明だが、民鉄の就業規則を引用して厳格な職務専念義務論を述べた先例としてその意義が認めなければならない。

 

 その他参照判例 服装戦術判例〇服装戦術許容●服装戦術を正当な組合活動と認めない△服装戦術を正当な組合活動と認めないが処分を無効とする。または服装戦術は違法だが違法性を軽微なものとする

△中部日本放送リボン闘争解雇事件・ 名古屋高判昭50.10.2●全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51.1.30●神田郵便局腕章事件・ 東京高判昭51.2.25△国鉄鹿児島自動車営業所事件 福岡高裁宮崎支判平元.9.18●国鉄鹿児島自動車営業所事件・ 最三小判平5.6.11〇JR西日本国労広島地本事件・ 広島地判平5.10.12△延岡学園事件・ 福岡高裁宮崎支判平5.10.20〇東洋シート警告書事件・ 東京地判平昭7.6.8)●JR東海国労東京地本新幹線支部国労バッジ事件・ 東京地判平7.12.14〇JR東日本神奈川国労バッチ事件・東京地判平9.8.7〇神戸陸運事件・ 神戸地判平9.9.300●JR西日本国労広島地本事件・ 広島高判平10.4.30●延岡学園事件・ 宮崎地裁延岡地判平10.6.17●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・最三小判平10.7.17△JR東日本神奈川国労バッチ事件・最一小決平11.11.11●JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件 東京地判平24.11.7△JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件 東京地判平25.3.28△JR東日本国労神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平25.11.28△JR東日本国労神奈川国労バッチ減給処分等事件最一小決平27.1.22△東京都立南大沢学園養護学校事件・東京地判平29.5.22都立学校教師が、卒業式において、校長の職務命令に違反し、国歌斉唱の際、起立しなかったこと、「強制反対 日の丸 君が代」又は「OBJECTION HINOMARU KIMIGAYO」等と印刷されたトレーナーの着用を続けたことによる停職6月の懲戒処分は、処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者としての裁量権の範囲を逸脱し違法としたが、●都立南大沢学園養護学校事件・一小判令元10.31TKCは懲戒処分を適法としている。

 

 

26 組合旗掲出、掲揚・横断幕・立看板設置-禁止

 

26-1 新方針

 

   組合旗掲出は、支所決起集会において、平成前半期の東一支所(江東営業所)、平成13年頃の中央支所(千代田営業所)では多数掲出、掲揚されたほか、千代田営業所でビラとともにエントランスの壁面に貼られた。スト当日は組合期がスト決行の合図となり、掲出がなされる。また横断幕は平成16年の業務手当闘争で西部支所においてみられた。また立て看板は江東営業所では駐輪場にふだんはおかれ、闘争時に正面玄関ロータリーに設置された。中央支所ではふだんは倉庫に置かれ、闘争時には駐車場に設置された。

 立看については江東では撤去要請しているがひっこめたり出したりの繰り返しだったが、新方針はパトロールによる現認、制止、撤去命令し従わない場合は、ストが決行された場合に懲戒処分事由とする。

 

26-2根拠

 

 庁内管理規程の禁止事項第五条十号

 新規則 5 職員は、庁舎、局施設構内において、許可なく業務外の目的で車両・旗・幟・拡声器・プラカード・横断幕・立看板・テントその他危険物を持込んだり、設営してはならない。又、許可なく業務外の目的で、泊まり込み、座り込み、通行規制、練り歩き、集団行進をしてはならない。

 

26-3 根拠となる判例

 

(1)国労札幌地本判決の判断枠組による判例

 

 旗上げ行為、組合旗設置について私企業の判例として●平和第一交通事件・福岡地判平3・1・16や、●社団法人全国社会保険協会連合会(鳴和病院)事件があるが、国労札幌地本事件・最三小判昭54103の判断枠組が引用され、組合旗設置を正当な組合活動ということはできず、組合旗の撤去、処分警告書の交付等を不当労働行為にあたらないとする。

 しかし、懲戒処分については、●全国一般労働組合長崎地本・支部(光仁会病院・組合旗)事件(損害賠償請求訴訟)長崎地判平181116が、組合が抗議活動として組合旗を病院正門の左右と公道に面した位置に計5本を設置した行為に対して、病院は撤去を求めたが、組合は約3ヶ月半にわたり設置しつづけたために、施設管理権及び所有権を侵害する違法行為として分会長に対して停職3か月(その間、賃金不支給、本件病院敷地内立入禁止)の懲戒処分を科したという事案で、組合旗設置行為による信用毀損の損害を認めたうえ、停職3ヶ月の量定も重すぎることはないと判示したが、控訴審福岡高判平20625は信用毀損の損害は認めつつ懲戒処分は権利の濫用として無効とした

 一方、同事案の救済命令取消請求訴訟である〇国・中労委(医療法人光仁会)事件東京地裁平21218は、懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないとしながら、懲戒事由である本件組合旗設置に比して、著しく過重なものであるということができ、組合活動に対する嫌悪を主たる動機として、その下部組織の分会長に対し、懲戒事由に比して過重な処分を科したものと認め、労組法7条3号の不当労働行為に当たると判示し、控訴審東京高判平21819も原審の判断を維持している。

 従って行為内容からみて過重な量定の懲戒処分であると、組合活動に対する嫌悪が主たる動機と認定されたときに、支配介入とみなされるから、量定が重すぎるのは安全運転といえない。

 

 

(2)官庁の庁舎管理権判例

 

  • 北見郵便局懲戒免職事件・札幌高判昭54329は、 郵政省庁舎管理規程によると、庁舎管理者の許可なく広告物またはビラ、ポスター、旗、幕その他これに類するものを掲示、掲揚または掲出したときは、その撤去を命じ、これに応じないときは庁舎管理者はみずから撤去することができる旨規定されていて、当局が全逓旗、横断幕および立看板の撤去を正当な業務とし、撤去作業を妨害した行為が国家公務員法99条に違反し、同法82条1号、3号に該当するとした。

 

(3)主な組合旗・横断幕等に関する判例

 

     ○北見郵便局事件・札幌地判昭50226判時7713

  本件は庁内デモ行進中に管理者をデモに巻き込み傷害を与えたことを理由とする懲戒免職処分が、過酷に失し懲戒権の濫用として違法としたが、組合旗等の撤去については、正当な職務行為であり、撤去作業を妨害した行為は、これを違法なものと評価せざるを得ないとする。

 北見郵便局の庁舎管理者である同郵便局長の許可を受けることなく、通用門の両側の鉄柵に全逓旗が各2本ずつ計4本、入口に立看板が1枚立てられ、図書室前の鉄柵に横断幕2枚張られた。郵便局長は組合書記局に撤去するよう命じたが応じず、管理職により撤去作業を始めたところ、原告ら組合員が妨害行為をしたことが懲戒事由の一つとされた事案で、それ自体は違法であるとしている。郵政省庁舎管理規程によると、庁舎管理者の許可なく広告物またはビラ、ポスター、旗、幕その他これに類するものを掲示、掲揚または掲出したときは、その撤去を命じ、これに応じないとき庁舎管理者はみずから撤去することができる旨規定されている(六条、一二条)。全逓旗、横断幕および立看板はいずれも北見郵便局長の事前の許可を得ないで掲出されたものであり、原告はその撤去命令に従なかったのであるから、同局長はみずからこれを撤去することができると説示する。

 

  • 北見郵便局懲戒免職事件・札幌高判昭54329判時940114

 スト指導その他を理由とする懲戒免職を違法とした一審を破棄し適法とする。庁舎管理者の許可を得ないで掲出された組合旗、横断幕及び立看板を管理者側が撤去しようとするのは正当な職務行為であり、右撤去作業を妨害した行為が国家公務員法99条(信用失墜行為の禁止)に違反し、同法82条1号、3号に該当するとした。

    ○国鉄松山電気区・松山地判昭611217労判48825

 組合旗を撤去した電気支区長に対して暴言、暴行に及んだ国労愛媛支部書記長の懲戒免職を解雇権の濫用として無効とする

  • ミツミ電機事件・東京高判昭63331判タ682132

 争議中の集会、デモ、泊込み、ビラ貼付、赤旗掲揚等を理由として組合役員になされた懲戒解雇を是認。

    ○国鉄松山電気区事件・高松高判平元・517労判54052

 棄却、組合旗を撤去した電気支区長に対して暴言、暴行に及んだ国労愛媛支部書記長の懲戒免職を解雇権の濫用として無効とした原審を支持。

  • 平和第一交通事件・福岡地判平3・1・16労経速14233

 組合旗の撤去、処分警告書の交付等を不当労働行為とした労委命令を取消し、施設管理権の行使として是認された例であるが、国労札幌地本事件最高裁判決を引用したうえ「組合が掲揚した組合旗は、昭和六一年六月一〇日ころにはその数が二〇本に及び、原告事務所の美観を著しく損ない、通行人や乗客に奇異な印象を与えるものであることが認められ、‥‥、組合が依然として組合旗等の掲揚を中止しないために、やむをえず掲揚されていた組合旗等を自力で撤去し、無断で組合旗を掲揚していた組合員に対し、再発防止のための責任追及及び処分の警告を発したものであって‥‥必要な施設管理権の行使であって、組合が企業内組合として団結を示すために掲揚することが必要であることを十分考慮に入れても、それゆえに組合が原告の施設を使用できる当然の権利を有するものではなく、原告が組合の組合旗掲揚を受忍する義務もないというべきである。」と説示。

  • ミツミ電機事件・東京地八王子地判平6・10624労判67445

 組合の行った座り込み・デモ・ビラ貼付・赤旗掲揚・立て看板等を理由とする、組合委員長の解雇を是認。

  • 社団法人全国社会保険協会連合会(鳴和病院)事件 東京地判平836判時1570121 

 組合旗撤去は不当労働行為に当たらないとする中労委命令を支持。

 「本件組合旗は、縦約数十センチメートル、横約一メートルで、掲揚場所も正面玄関のほぼ真上に当たる屋上であり、歩道から鳴和病院構内に入る地点からも、また、道路を隔てた向かい側からも見通せる非常に目につきやすい位置に掲揚されたことを認めることができる。‥‥使用者は、施設管理権を有しているのであるから、施設の使用を制限することは、これが施設管理権の濫用と認められる特段の事情がない限り適法であって、施設の使用」と説示。と到底認めることができない。」

  • 全国一般労働組合長崎地本・支部(光仁会病院・組合旗)事件長崎地判平181116労判93224

 損害賠償請求、懲戒処分無効確認等請求

全国一般労組長崎地本長崎合同支部(医療法人光仁会)事件とは平成16年、長崎市にある精神科専門の医療法人光仁会病院(精神病床561床、従業員271名=当時)と全国一般労組長崎地本長崎合同支部(長崎地区の中小企業・商店など労働者が職種・企業を越えて組織された組合、組合員数221人、光仁会病院の組合の分会は61名)との間で夏期賞与支給をめぐって4回の団体交渉が行われたが妥結に至らなかったことから、分会長及び組合員らは、抗議行動として、赤地に白抜き文字で「団結」「全国一般」「長崎地本」などと記された組合旗を病院正門の左右両側に及び公道に面した位置に計5本を設置した。これに対して病院は再三にわたり撤去を求めたが組合は正当な組合活動であるとして応じず、約3ヶ月半にわたり設置しつづけたために、病院は、組合旗設置行為が施設管理権及び所有権を侵害する違法行為として分会長に対して停職3ヶ月の懲戒処分を科したという事案で、病院側が組合旗設置行為の違法を前提に、原告医療法人が被告らに対し損害賠償を求めた甲事件及び丙事件と、懲戒処分の無効を前提に、被告が原告医療法人に対し賃金請求をするとともに、被告組合支部及び被告が原告医療法人に対し損害賠償を請求する乙事件の3事件が併合審理され、被告組合支部と分会長の請求を棄却し、医療法人側の損害賠償請求を一部認容した。

 

 判断枠組として昭和54年最判(国労札幌地本事件)が引用され、本件事実関係によれば、本件組合旗設置行為は、約三か月半も継続したものであり、しかも、四本の組合旗は公道に面した場所に掲揚され、残り一本の組合旗も正門を入ってすぐの場所に掲揚されていて、組合旗の大きさ、色彩、記載された文字等に照らすと、これらを見る者の視覚を通じて、組合活動を展開している旨の訴えかけを行う効果を十分に有していたものと認められる。そのため、本件組合旗設置行為により軽視することのできない信用毀損の損害を被ったのであって、被告組合支部はその執行委員会の決定に基づき、違法な本件組合旗設置行為に及んだのであるから、民法七〇九条による不法行為責任を負うものである。また、分会長は、違法な本件組合旗設置行為を実際に実行した主体の一人であり、その個人責任が否定されることにはならず、民法七〇九条による不法行為責任を負うものである。

 

 原告が、病院施設に掲揚された組合旗を目にした医療従事者、患者及びその家族、近隣住民、金融機関、行政機関等から、悪しき評価を受け、本件組合旗設置行為によりその信用を害されたのは明らかである。原告は、精神に障害を負った患者の治療を行うための精神科の病院を経営しているため、その静謐な環境と相反する本件組合旗設置行為に対する一般の評価も厳しくなったものと考えられ、本件組合旗設置行為による信用毀損の損害が認められる。本件組合旗設置行為による原告光仁会の損害額は、合計275万5千円とした。また懲戒処分の内容として、三か月の停職処分が重すぎるということはできないと判示した。

 

全国一般労働組合長崎地本・支部(光仁会病院・組合旗)事件・福岡高判平20625労判1004134

 

 本件、組合旗設置行為は違法であるから、不法行為責任を負う。また正当な組合活動とはいえず、就業規則上の懲戒事由に該当するが、使用者の敵対的行動や団体交渉に対する消極的態度に反発したことにも起因し、当該懲戒処分は組合やその活動に対する敵意の発現であったとも考えられ、組合員に対する停職処分は、行為内容と対比してあまりに均衡を失し、社会通念上合理性を欠き無効とする。(TKC)

 

 (判文の要所)

「本件のように、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権利を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動には当たらないものと解するのが相当である(昭和54年最判参照〔註-国労札幌地本事件〕)。

 

イ そして、控訴人丁原ら組合員は、被控訴人の許諾を受けることなく、光仁会病院の病院施設に本件組合旗を設置したものであるから、被控訴人が本件組合旗の設置を許さないことをもって権利の濫用であるということがいえない限り、本件組合旗設置行為等は、被控訴人の施設管理権を侵害し企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動ということはできず、違法というべきである。‥‥‥本件組合旗設置行為等は違法であって、不法行為を構成するというべきである。そして、控訴人丁原は控訴人組合の決定に基づいて本件組合旗を設置したものであるから、同控訴人らが不法行為責任を負うことは明らかであり、また、控訴人組合本部についても、同控訴人は控訴人組合の上部組織であって、実質的にも指揮監督関係にあったものと認められるから、民法715条に基づく責任(使用者責任)を負うというべきである。

 

 本件懲戒処分のような、使用者の懲戒権の行使には裁量が認められているのであるが、これがその原因となった行為との対比においてはなはだしく均衡を失し、社会通念に照らして合理性を欠くなど裁量の範囲を超えてなされた場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である(最高裁昭和49228日判決・民集28巻1号66頁、〔註-国鉄中国支社懲戒免職事件〕最高裁昭和50年4月25日判決・民集29巻4号456号〔註-日本食塩製造事件〕参照)。

 これを本件についてみると、本件組合旗の設置は正当な組合活動とはいえないのであるから、‥‥約108日間の長期間にわたって本件組合旗を撤去しなかったものであって、‥‥その情状は決して軽くはないというべきである。 

 しかしながら、控訴人組合が本件組合旗設置を決意したのは、被控訴人の控訴人組合に対する敵対的行動や団体交渉に対する消極的態度に反発したことにも起因するものであったこと、本件組合旗の設置期間が長期に及んだのは、被控訴人が、本件組合旗の設置に対抗して、本件ビラを配布したり本件日の丸等を設置し、さらに、その間に行われた団体交渉にも消極的な態度で臨んだことにも起因していること、本件懲戒処分は、3か月間にわたって賃金を支給せず、かつ光仁会病院の敷地内にも立入りができないという厳しい処分であるにもかかわらず、被控訴人の理事会においては、今まで組合旗が設置してなされた組合活動に懲戒権が行使されたことはないことや、光仁会病院における過去の懲戒権行使の事例について検討した形跡はなく、ただ、本件組合旗の設置期間が108日間であったから3か月の停職にするという薄弱な理由で本件懲戒処分を決定していること、労働協約の一括しての解約通告においても、被控訴人において事前にその必要性の有無等を真摯に検討したことをうかがわせる資料はないこと、被控訴人は、本件ビラに控訴人組合を揶揄するような内容の記載をし、従業員からも組合側が設置したと誤解されるような横断幕を設置し、また、本件懲戒処分直後から光仁会病院の正門にガードマンを配置して控訴人丁原の立入りを阻止しており、これらの行動と本件組合旗設置前からの被控訴人の敵対的態度とを併せると、被控訴人には控訴人組合やその組合活動に対する敵意がうかがわれ、本件懲戒処分はその発現であったとも考えられること、以上の事実を総合して考えると、本件懲戒処分は、本件組合旗設置行為等の行為内容と対比してあまりに均衡を失するものといわざるを得ず、社会通念上合理性を欠くというべきである。したがって、本件懲戒処分は権利の濫用として無効である。‥‥ 」

 なお、本件組合旗の設置による信用毀損等の無形の損害として、8月5日に取引銀行の担当課長が、翌6日に医療技術者養成学校の関係者が、9月30日に保健所の担当者が、1025日に常勤医師が、同月28日には取引銀行の担当者が、それぞれ被控訴人の関係者に苦言を呈したり、被控訴人を敬遠するなどの状況になり、病院の信用が毀損されたことは明らかであるとし、損害は150万円をもって相当と認めた。

 

 ◯国・中労委(医療法人光仁会)事件東京地裁平21・2・18労判98138

 本件は前掲と同じく、組合旗設置行為が施設管理権及び所有権を侵害する違法行為として分会長に対して停職3ヶ月の懲戒処分を科した事案で、この懲戒処分と平成161012日付け団体交渉の申入れに応じなかったことが、中労委によって、不当労働行為(労組法7条3号、同2号所定のもの)に当たるとされ、救済命令を発せられたことから、医療法人側がこれを不服として取消しを求めた事案である。

 

 昭和541030日最判(国労札幌地本事件)の判断枠組を引用して、本件組合旗設置を正当な組合活動ということはできず、原告がこれにつき懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないとしながら、原告は団体交渉において、賃金ないし一時金の支払に関する態度を変遷させた上、団体交渉申入れに応じないまま、一方的に組合員の降格処分を公表したばかりか、長崎県労委に対して降格人事に関する救済申立てを行うなど、客観的に労使対立が鮮明になっている状況において、一方的に労働協約を解約し、本件組合旗設置が始まるや、補助参加人を揶揄するようなビラを作成して配布し、組合旗に対抗する形で横断幕及び立看板を設置しており、これに対して補助参加人が反発することは事の成り行き上いわば自然といえる面がある。加えて本件懲戒処分は、3か月間にわたる停職を命じ、相当に重い処分である。しかも停職期間中は、組合活動等のため本件病院の敷地内に立ち入ることも許されないというものであり、組合活動に与える影響も大きいと考えられる。過去にも補助参加人による組合旗設置が行われていたところ、それに対して懲戒処分がされた例はなく、本件懲戒処分は、懲戒事由である本件組合旗設置に比して、著しく過重なものであるということができ、組合活動に対する嫌悪を主たる動機として、その下部組織の分会長に対し、懲戒事由に比して過重な処分を科したものと認め、労組法7条3号の不当労働行為に当たるとする。

 また本件事前団体交渉拒否については、特定の組合員に対する懲戒処分に関する事項も、労働者の労働条件その他の労働者の待遇に関する基準についての事項として義務的団交事項に該当すると解されるところ、本件においては、原告における懲戒処分の基準が必ずしも明確でなかったのであって、団体交渉の必要性が高かったこと等誠実に対応したものとはいい難く、本件事前団体交渉拒否は、労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして、中労委の救済命令を支持した。

 

国・中労委(医療法人光仁会)事件・東京高判平21819労判100194

 

 平21・2・18判決の控訴審。 「 当裁判所も、本件組合旗設置を正当な組合活動ということはできず‥‥懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが、本件懲戒処分(停職3か月、その間、賃金不支給、本件病院敷地内立入禁止)は、懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くものであり、また‥‥、甲野理事長に交替した後の労使関係においては控訴人の補助参加人(組合)に対する嫌悪を十分に推認できるのであるから、本件懲戒処分は‥‥組合活動に対する嫌悪を主たる動機として、補助参加人の下部組織の分会長であるBに対して著しく過重なものとして科されたものと認めるのが相当であり、本件懲戒処分は労組法7条3号の不当労働行為に当たるものと判断する。」

「(2)本件事前団体交渉拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか

 組合員に対する懲戒処分の基準及び手続は、労働条件その他の待遇に関する事項であり、義務的団体交渉事項に該当するところ、前記認定の事実関係からすると、本件病院敷地内に組合旗を設置したことを理由とする懲戒処分については、処分の基準が不明確であり、同様の処分の先例もなかったのであるから、懲戒処分に関して事前協議を行う旨の労使協定が存在しなくても、控訴人は補助参加人(組合)からの本件事前団体交渉の申入れに応じなければならない義務があり、いかなる懲戒処分をするかがまだ決定していないことや懲戒処分後に団体交渉に応じることをもって団体交渉拒否を正当化することはできない」

 

  • フジビグループ分会組合員ら(富士美術印刷)事件・東京高判平2874労判114916は、会社を解雇された控訴人)らが、被控訴人の本社敷地内や周辺、取引先等にビラを配布し、幟を本社周辺に掲示して拡声器で宣伝し、横断幕を本社屋上のフェンスや壁に掲示するなどした行為により、被控訴人の名誉・信用の法的利益を侵害されたなどとして、控訴人らに対し、損害賠償金の支払いを求め、請求を一部認容した原審の判断を維持。

 

 

 

(二)闘争期間以外の問題

 

  とにかく、水道局の庁舎管理はおかしなことが多い。業務移転の前、平成25年以前中野営業所で一番威張っていたのは委託業務の日常清掃員の〇〇で年輩の女性。清掃委託業者はしょっちゅう変わっているのに職員、その当時は組合役員の〇〇にたのみこんで、元請に継続雇用させるように働きかけ20年以上雇用され居ついていた。20年いるわけだから、何がどこにあるとか一番よく知っているわけです。ヌシのような存在になっていた。個室が与えられ、物置の半分以上野菜だの私物が持ちこまれ、自宅の物置のように勝手に使って、行政財産の目的外使用、私的利用は当然になっていた。高齢者人材センターとかけもちで、個室は次の仕事のために待機する時間に休憩するため使っている。時間と仕事の内容は自分が決めるのだと言っていた、一番待遇がいいのです。私は清掃の検査業務もしていたので仕様書に書かれているとおり仕事しろと言っても、言うことを全然きかないし、監督業務をしている職員を見下すんですよ。所長席の机を毎朝雑巾で拭くのだけれども、それは契約にはない仕事で、所長に媚びるために余計なサービスをしている。庁舎管理にルーズなところを外部の人間にも利用されているのです。

 正規の職員で、庶務担当で清掃業務の検査、監督の仕事を分掌していた私より、清掃員が威張っている、契約どおりやれ、私物は片づけろ、いろいろ注意したがなにも聴かない。何十年も仕事しているから、所長と組合役員を味方にしていれば、それ以外の職員は問題外で見下すという態度で本当に不愉快だった。

 というより、この清掃員のように、清掃委託の会社が変わっても居座る在り方や行状を上司と相談しなかったことは担当者の私の怠慢だったと反省している。クビにすべきと所長に進言せず、組合役員が勝手に委託業務に介入してきたことに反対しなかったことを悔やんでいる。

 そのように対労働組合だけでなく、委託業者や外来者の庁舎管理もルーズで、目的外使用を安易に容認している実態がある。

 

27 庁内管理規程で禁止の保険勧誘行為が認められている問題

 

 水道局庁内管理規程で、保険勧誘行為は第五条八号で明文で禁止されている。但し庁内管理者が特別の事情があり、かつ、公務の円滑な遂行を妨げるおそれがないと認めて許可した場合は、当該許可に係る行為をすることができるとしており、禁止事項解除ができるので、庁舎管理者の意向しだいで、禁止事項でも容認できるルーズなものとなっている。運用解釈が不明で、そもそも規定上禁止事項で積極的に許可する理由がないもの許可してしまっているのはコンプライアンスに反する。

 私は昭和59年多摩ニュータウン水道事務所に勤務していたが、昼休みには保険勧誘員が所内に入って営業活動をするのが常であった。ちらしやアメが配られていた。他の事業所も、保険勧誘員に地域の情報を聞けて昔はよかったとか、保険勧誘員に縁談を世話してもらった人もいるというような話を仄聞するので、相当入り込んでいた状態と考えられる。

 しかし、個人情報保護との関連で、執務室内には入れないようしたが、西部支所和泉庁舎2階ではかなりの頻度で昼休みに勧誘員がエントランス、杉並営業所の入口、エレベータ付近とそこから25メートルほど廊下を進んで入った配水課のシュレッダーのある場所などに立入って、職員に声をかけるような形で勧誘活動がなされる。エントランスや廊下までは立入ることができ、休憩時間の勧誘活動を認めている。あくまで外来者には勧誘せず職員だけ。昼休みだけということで認めているということだが、庁内管理規程で禁止である以上、局の公式の方針は禁止である。行政財産の目的外使用(地方自治法238条の47項)許可の申請もなく口頭でほいほい容認するような事案ではない。

 そもそも和泉庁舎は水道事業に供された庁舎である。西部支所配水課・給水課・杉並営業所のほか西部建設事務所、緊急隊、TWの給水管工事事務所が入居しているので水道関連工事業者の出入りは多い。長椅子も置かれている。むろん営業所には料金その他の窓口もあるので一般住民も出入りするが、あくまでも、所轄業務になんらかの所用がある業者や住民の一時滞留であって、保険会社の営業活動などの目的外利用の立ち入りを認める必要はない。

 公民館や公園のように住民に開かれた施設ではないので目的外使用を不許可として当然よいのである。庁内管理規程で保険勧誘は禁止事項で全局的方針なのでなおさらである。

 禁止されているのに認める必要はないと前から管理職には苦情を言っているが、当然のように勧誘を認めているのはおかしい。ルーズな庁舎管理になっているのは庁舎管理権の発動がタブーという職場風土にあるのではないかと考えている。禁止事項は、運用解釈も示すこともなく、管理者の職権で解除し認めている実態は、ザルのような規則との心証をもつ。

 執務室内に立ち入って、昔のように飴などを配ることができないのは、効率の悪い営業活動にも思えるが、近年はオフィスビルのセキュリティが厳しくなったこともあり、庁舎管理がゆるいことが口コミで知られているためか水道局和泉庁舎では、休憩時間に廊下やエントランスで声掛けができるので少なくとも4社が営業活動を行っている実態がある。同時に競合する2社が勧誘活動することもある。私に声をかけてきた勧誘員はワンノートに記録してあるが、明治安田生命、第一生命、住友生命、日本生命である。

 私が平成24年ころ中野営業所でも、〇〇課長補佐が執務室内に入らなければ、エントランス廊下での勧誘活動を認めたので、抗議したところ本庁で認めているのでとのこと。西部所長にも抗議した。目的外使用許可の問題も言ってあるが、とにかく管理者は認めたいということのようだ。私は間違って料金を払いにきたお客様に保険を勧誘しないかひやひやしている。

 所轄業務と無関係な部外者の立ち入りを組合の動員やオルグと同じくほいほいと認めるというのは悪い習わしである。

 災害時の帰宅困難者の一時滞在など目的外使用として公式に認めているものとは違うのである。

 

 平成22年~23年の記録の一部

 私は日中現場出張し昼休みに庁舎にいないことが多い、従って記載しているのは昼休みに職場にいたときだけの記録にすぎないので、保険勧誘員がいることは記録よりずっと多いということである。

11 月15  勧誘員二人確認、新人が捕っていた。

11月25  勧誘員一人

11月26  勧誘一人

11月30 日  1150分頃勧誘員一人

12月8日 カードリーダ前に一人いて営業活動商品説明をしていた。

12月9日 正午、勧誘員から挨拶される

12月10  勧誘員と女子職員が話している。

12月17日 きょうも勧誘員 女子職員と話。

 12月20日 勧誘員二人

12月23日 きょうも勧誘員二人

1 月11日 正午前に勧誘

1月20日  一人勧誘員

1 月27日 昼休み勧誘員二人、第一生命の〇〇ですと言いしつこく、2回声をかけられたのでうるさいと言ってやった。トイレに行って声をかけられ、停水キャップを洗いにいってまだいた。

1 月31    午前エレベータ近く一人勧誘員に声をかけられた。

2 月8 日  奥に1人、エレベータ前に1人、それぞれ職員を捕まえていた。

2 月18   エレベータ前二人1245

 なお、私は平成253月まで在職、その後の経過は知らないが、杉並営業所は4月より政策提携団体のTWに業務移転されている。勧誘は新人が標的になりやすい。新人職員は素直なので廊下で声をかけられれば応答してしまうので保険勧誘員と長話しているのをみかけるのである。私なら声をかけられても無視するが、TW職員の多くはたぶん、庁内管理規程で禁止事項も実は禁止されてないことを知らないし、休憩時間に廊下で出ると勧誘員が寄ってくるという職場になれてないので、勧誘にひっかかる可能性が高い。当然苦情も出てくると思う。

  なお平成24年頃の中野営業所では組合掲示板で、中央労働金庫の営業活動が予告され、打ち合わせスペースなどで。無許可で行われていた。今でも中央労働金庫の商品の宣伝ビラは組合役員により配布されているし、平成27年頃の世田谷営業所太子堂分室でも若手の職員をあつめて中央労金の営業活動が勤務時間内でも打ち合わせスペースでおこなわれていた。それはいいと思います。組合員の福利厚生のために提携関係のある金融機関の商品をあっせんすることも組合活動だという名目で、目的外使用許可申請を出させたうえで、特別の事情により許可すればよいことである。

 それは労金の営業活動も組合活動の一環という解釈で組合活動への便宜供与として、平時は認めてよいと考える。労金を認めるから、第一生命や住友生命も認めるみたいな発想は間違っている。

 

27-1 新方針

 

 庁内管理規程どおり、保険会社の勧誘、営業活動は出入り禁止とする。但し労働組合と提携関係にある中央労働金庫の金融商品の営業活動勧誘のみ、業務に際使えない最低限の範囲で、庁舎内の活動を便宜供与する。これは組合活動の一環として認めるものである。

 

27-2 根拠

庁舎管理規程第五条8号

地方自治法238条の47項の行政財産の目的外使用として不許可

 

 

 

28 組合の土日出勤規制に都合よく作られている水道局庁内管理規程の改正の必要性

 

 庁内管理規程に(門扉閉鎖後の出入り)という項目があるが、知事部局の東京都庁内管理規則と違うのである。

水道局庁内管理規程

第十二条 庁内管理者は、門扉閉鎖後又は日曜日、休日等に庁舎に入ろうとする者があるときは、次の各号に掲げる場合を除き、これを拒否することができる。

 

一 職員については、当該職員が門扉閉鎖後又は日曜日、休日等に勤務に服する旨、当該職員の所属の勤務命令者からあらかじめ庁内管理者に届出がある場合

 

二 外来者については面会先の承諾がある場合又は料金等の払込み、修繕等の申込みをする場合

 

東京都庁舎管理規則

第十二条 庁内管理者は、門扉閉鎖後又は東京都の休日に関する条例(平成元年東京都条例第十号)第一条に規定する東京都の休日に庁内に入ろうとする者があるときは、次に掲げる場合を除き、これを拒否することができる。

 

一 職員等については、用向き及び職員カード(東京都職員服務規程(昭和四十七年東京都訓令第百二十二号)第四条に規定する職員カードをいう。)又は身分を証する書類の提示がある場合

 

二 外来者については、庁内管理者が別に定める手続により事前に届け出た場合又は面会先の承諾がある場合

 

 平成20年水道緊急隊工務係の初年度に勤務していたとき、庶務経理関係の仕事で忙しくて、組織の運営のため必要な業務なので土日出勤も当然していた。管理職が東水労との時間外労働協定で土日出勤は組合との事前協議が必要で、1か月前に出さなければいけないと言うので、これは実質認めないという趣旨なので、協議せずに働くのでもちろん手弁当のホワイトカラーエグゼンプション的な働き方で良いということでやっていた。平成20年の34月は56日間休日なしのこともあったし(超勤は30時間で組合協議が必要ない範囲内で水特隊の3月はとっていた)、月120時間残業の月(緊急隊ではすべて無償)もあったが、和泉庁舎の待機者が、私が組合と協議せずに土日出勤しているのをみていて、管理職に報告して告発することになるから是正せよと意見していた可能性がある。日曜日は5時には帰りたいと思っても、みられないよう遅くなって夜が暗くなって7時以降に帰るので余計長く働いていたのですが、平成20614日 (土)843分に最大震度6強の岩手・宮城内陸地震があって、私に地震に関係なく出勤していたが、緊急隊長の佐藤が地震対応で出勤してきて、なんで組合協議もなく土曜出勤しているんだと非違行為扱いされ怒りだし、その根拠が12条の一ということで、規程違反といわれた。これは組合協議でなければ出勤させないという業務規制で組合に都合がよくできていると思った。一方で門扉を閉めたあとでセキュリティを破って深夜や未明に出入りするスト待機は認めている。

  12条の一は、知事部局の庁内管理規則は、職員等については、用向き及び職員カード又は身分を証する書類の提示がある場合は土日出勤を拒否できないことになっており、組合との協議に関係なく、仕事で入庁できるのである。組合が三六協定(時間外労働協定)の趣旨で土日出勤を規制する趣旨を庁舎管理の規則に盛り込んでいるのは不適切だし、緊急時にも時間外協定が優先され排除されかねない。組合の方針にもとづいている東京都水道局庁内管理12条の一は、知事部局と同じ内容にすべきである。

  すでに述べてきたように、仙台鉄道管理局事件・最二小判昭48.5.25の判例法理。権限を付与する業務命令なら、就労が労働基準法の制限を超えたからといつて、そのために職務の執行が具体的権限を欠いて違法となるものではないと最高裁は言っているので、権限が与えられている職員はそれが時間外労働協定に反する、土日出勤でも出務できるのであって、知事部局のようにIDカード提示で出務可能とすべきである。

   労基法33条により災害時は三六協定未締結でも時間外協定で事前協議のない土日出勤でも業務命令できることになっているが、それは組合を刺激するためか周知されておらず、知らない組合役員もいる。

   震度に応じて緊急配備態勢は異なるが、震度6弱以上は夜間・休日発災時には緊急災害出動として、事務職員でも資器材置き場の解錠、給水拠点での応急給水器材の設置、住民への給水活動準備、最寄り事業所での業務といった任務が割り振られている。

   当然、災害があったときは各事業所に職員が集まってくるのだから、「勤務命令者からあらかじめ庁内管理者に届出がある場合」は不要である。

 

 

28-1 新方針

 

   水道局庁内管理規程12条の一は、労働組合の土日出勤規制の方針(時間外協定)組合との時限協議が必要の趣旨がもりこまれているが、権限を与えられた職員の入庁が拒否できるものとなっているが、労働協約の趣旨を盛り込む必要はなく、これは、東京都庁内管理規則と12条の1IDカードの提示で入庁できる)と同じ文言に改正する。

 

 

 

29 夏28度、冬20度の通達の空調温度設定は出先の庁舎では守られていない

 

 東京都では公式に庁舎の空調の温度設定を夏は28度、冬は20度にしていますと言っており、来庁者にも周知している。

   しかし和泉庁舎は冬全館空調24度湿度も高くて暑すぎ、小池都知事推奨のウォームビズ、下着を重ね着したりすると汗だくになるような状態になる。というのは湿度を高くできる強力な空調なので、湿度が高いと24度でも下着2枚重ねるとかなり暑いのである。この苦情は水道特別作業隊のとき平成19年に管理職に言ったが、かんかんになって怒られた。

   温度設定について文句がいえない状況にあるが、表向き伝えられていることと実態がちがうのだからこれもコンプライアンスに反する問題である。

 そもそも支所庶務課が管理している全館空調が冬20度でなく、24度、夏も28度でなく26度なので全館空調のコントロールができてない。

   くわえて特定エリアの空調もある。これは勝手に温度設定できる。杉並営業所において夏は全館空調26度で湿度が20%まで下がるし、風も舞うのかなり涼しいうえ、暑がり職員がエリア空調4器を20度設定まで下げたうえ、暑がりの〇〇が、扇風機をかけまくるので、頭痛がして喉が痛くなるオミクロンの症状が出るのである。扇風機は組合の要求で2人に一台、15個ぐらい備え付けられている。それで私は、夏は冬服長袖を着て防衛している。暑がり職員の声が大きく温度設定は全く守られない。私は29度でも湿度が20%以下と低いので相当涼しく感じるが、とにかく温度を下げないときがすまない人が勝手に空調を設定してコントロールされてない。

 ちなみに、127日休日発災緊急参集訓練で多摩給水管理事務所に初めて訪問したのだが、訓練本部は21度設定、2階事務室は22度と24度設定、1階のTW25度と26度設定で、多摩給水管理事務所は比較的真面目な温度設定になっていたので事業所によって違うと思う

 建前では、都庁職員は冬の設定は20度でとっくりのセーターを着ていると報道されているが、本庁ではそうなのかもしれないが、私が知る限り出先の和泉庁舎などがコントロールされていないのである。

 もっとも平成2223年頃の中野営業所では、私が庶務も担当していた時期もあって、20度設定と、夏は28度設定をできるたけ守ろうとしていた。ただ20度だと、窓口勤務だと外気が入ってくるので、寒いというか風邪をひきやすく感じたので杓子定規にやることもないとも思うが、杉並と新宿は夏が冷えすぎて本当に苦痛だった。

 新宿営業所の入居する四谷区民センターは、空調管理は新宿区と思うが、26度だが風が舞うような空気の流れがあって冷えて夏風邪をひくはめになった。

 

29-1 新方針
 抜き打ちで監察を入れてパトロールし、夏28度、冬20度の原則が守られていない場合は、適宜改善勧告をする。

 

 

 

 30 組合による目標管理制度の自己申告形骸化闘争に管理職が屈している問題

 

 

 20241031日の西部支部ニュースでは自己申告中間報告について

  • 面接の強制は行わない
  • 書き方の強制は行わない
  • 目標の数値化を求めない 以上は管理職と確認した。

自己採点シートはB以上に統一

コピーを分会に提出

といったことが書かれていたが、南部支所系列の世田谷でも同じだった。目標管理制度とは1990年代に民間企業で流行したもので、多くの企業で導入されている。ピーター・ドラッカーが1954年にManagement by objectivesと呼ばれる目標管理制度を提唱し、社員が自ら目標を設定し、その進捗や実行を主体的に創意工夫でき達成感を与えることのできる制度として流行ったのである。

 東京都でも平成中葉に制度化され、職務に位置づけられているが面接の拒否を認めよとは労務指揮権の掣肘である。

数値目標を書いてはいけないという方針があるが、目標管理制度で数値目標の記載はタブーというのは異常で三流企業の人事管理でもありえないだろう。制度の趣旨は捻じ曲げられ、実質形骸化しているといってよい。

 実際令和元年に新宿営業所の〇〇〇課長代理が、新人2年目の職員に対して数値目標を絶対書くな、それをすると出世できないよと脅していた。職制が組合の方針をおしつけている。

 数値目標を書けといえないというのは労務指揮権の掣肘であり、正常な業務運営ではない。

 

 

 

31 営業所における勤務時間内浴室のシャワー利用(洗身入浴)の問題

 

(総論)

 水道局では、給水課・配水課などの管工事作業の労務も多かったし、作業後の洗身については、労働安全衛生規則625条が、使用者に対し、身体又は被服の汚染を伴う業務に関し、洗身等の設備の設置を義務付けていることもあり、また緊急隊などの年中無休の職場などを別として、宿直制度は廃止しているが、かつてはどこでも宿直があり夜間作業もあるので大抵の事業場では浴室(浴槽とシャワー設備)を備えている。

 ただし、新宿営業所では、身体又は被服の汚染を伴う業務はないが、たぶん組合要求で浴槽はないが、シャワー室が備えつけられ、私は平成31年に新宿営業所に転勤し営業担当の〇〇〇〇(現在も新宿営業所勤務)、転勤者に庁舎内の案内をしていたが、洗濯機とシャワー室を案内し、いつでもいいから利用せよとしきりに利用をすすめて不審に思った。そして〇〇自身は出勤時限前の8時頃、シャワーをよく浴びていた、通勤電車で汗をかいたので流すということのようだが、当時の〇〇はデスクワークで外回りの仕事はない。これは労働安全衛生法の趣旨とは違い、身体が汚染しているわけでもないのに、水道代とガス代を浮かすために、自宅でなく職場のシャワー室を利用しているせこい行為のように見えた。

 昭和6年度まで和泉庁舎の杉並営業所勤務(現在は新宿営業所に出戻り)で組合役員の〇〇〇〇がグループウェアをつかって営業所職員全員に、地下にある洗濯室とシャワー(浴室)を積極的に利用してくださいと通知していて、利用の仕方の詳細はご相談くださいと書かれている浴室のシャワー利用を、当局との合意があるので勤務時間中でも自由にできることを推奨しているのだが、主として管工事の夜間作業のある配水課などが利用している浴室である。〇〇自身も外回りの仕事から帰ると、勤務時間内に浴室に入っていた。

 ただ職員の中には職務専念義務との兼ね合いでグレイゾーンだという人もいて、当局組合合意の方針に疑問を持っている職員もいるのである。

 私はシャワー利用の在り方は見直し、最高裁判例により洗身入浴は労働時間とはみなされないことが確定しているのだからおり、賃金カットの対象として管理されるべきであると考える。

 コンプライアンス経営宣言しているのだから、最高裁判例に沿う処置をすべはである。

 水道局の営業所は事務職だけで、原則として管工事作業等のように作業衣や身体が汚れる仕事はない。もっとも検針で、メータが泥に埋まっている場所もあるので、泥を掻き出したり汚れる作業はあるといっても、それは手を洗えば済むことで、全裸になって入浴する必要はない。労働安全衛生法において特に注意が必要とされる重筋労働の作業はないわけである。

しかし営業所では事務職だけなのにシャワーは浴槽につかる(入湯)ので入浴ではないという理屈で、トイレ利用とおなじように勤務時間中職務離脱してOKという考え方をとっている。このことは、平成15年に千代田営業所で聴いた。汗を流すのも小便と同様生理現象であり、汗臭いことは接客で不快な思いをさせるからという口実で、当時の〇〇所長より、勤務時間内にシャワーしなければならないと、汗臭く働いている私はけしからんとしてなじられもした。

しかし国鉄池袋電車区蒲田電車区事件・東京地判昭63.2.24労民集39121は国鉄蒲田電車区において、終業時刻の30分前から洗身施設で身体汚染を洗身して退区することが慣行とされ、池袋電車区でも、作業内容にかかわらず日勤勤務者が勤務時間中に洗身入浴する慣行があった。国鉄の職場規律の乱れが政治問題となった昭和58年に就業規則違反として禁止され、指揮監督を離脱したものとして職員賃金基準規定にもとづき賃金カットした事案で、勤務時間内の洗身入浴が電車区長の承認の下に長期間反覆継続されて行われてきたとしても、電車区長は就業規則で定められた勤務時間を短縮する権限を付与されておらず、また、身体汚染の除去は顔、手足の洗浄及び衣服の更衣等によって可能であり、勤務時間内の洗身入浴が必要不可欠なものであったとは認められず労使慣行として成立していたとはいえない。賃金減額の措置が、不当でないとされ、確認書が取り交わされたとしても、電車区長は就業規則の改正をもたらすことになる労働協約を締結する権限を有しないから、洗身時間についての有効な労働協約は成立しないとした。 それゆえ国労は、国鉄末期に勤務時間内の入浴の要求を取下げている。

   三菱重工長崎造船所事件・一審長崎地判平元.2.10労判534は、昭和484月三菱重工長崎造船所が完全週休二日制実施に伴い勤怠把握方法を変更し、洗身入浴等について所定時間外にするよう命じた事案で、少数組合が労働基準法上の労働時間に該当すると主張し、賃金の支払を請求したものである。

「作業後の洗身については、労働安全衛生規則625条が、使用者に対し、身体又は被服の汚染を伴う業務に関し、洗身等の設備の設置を義務付けしているだけで、労働者に洗身入浴させることまでも義務付けるものではなく、また洗身入浴は一般に本来の作業を遂行するうえで密接不可分な行為ともいえないので、洗身入浴しなければ通勤が著しく困難といった特段の事情がない限り原則として洗身入浴は使用者の指揮監督下における労務の提供と解されず、これに要する時間は労働基準法上の労働時間には該当しないというべきである‥‥」として請求を棄却した。

  控訴審一審の判断を維持。●三菱重工業長崎造船所(一次訴訟・組合側上告)事件・最一小判平12.3.9判時1709126も棄却。

  最高裁は、労働基準法上の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」としたうえで、「実作業の終了後に事業所内の施設において洗身等を行うことを義務付けられてはおらず、特に洗身等をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかったというのであるから、上告人らの洗身等は、これに引き続いてされた通勤服の着用を含めて、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができず‥‥洗身等に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当しない」と判示した。

 洗身入浴とシャワーは同じと考える、全裸になって洗うのだから。コンプライアンス上、最高裁判例により労働時間とはみなされないのだから、賃金カットの対象として管理されるべきである。

 私は入浴やシャワーというのはガス代と水道代を払って自宅で帰宅後すべきものという認識なので、職場で入浴したことは宿直で泊まった時以外はない。重筋労働や鉄工所など風呂を備えているところもあるが、オフィスビルのテナントで入っている職場では給湯室はあるだろうが、浴室まで備えている事務所は少ないのではないか。それは給水管工事事務所で給水装置の図面があるから一番よく知っているのは、水道局と東京水道さんだろうけれども、私は主として営業所勤務なので詳しくは知らないけれども、しかし、労働安全衛生規則625条の身体が汚染する労働のないオフィスでは、水道代やガス代のコストがかかる浴室を備え付ける理由はない。

浴室は労働衛生施設として時間外であっても利用の仕方は規制すべきである。百歩譲っても事務職員は重筋労働をやっているわけでなく、ごみやバキュームカーの作業員で臭いがつく作業でもない以上、洗身入浴を積極的に奨励する理由はない。

 浴室利用の内規を見直し、コンプライアンス上問題がないようにすべき。

 

 

31-1 千代田営業所の悪質な事例について

 

   平成15年当時千代田営業所では〇〇という職員が宿直以外ほとんど毎日16時半前後20分程度、就業時間中にシャワーのために離席していた。ドライヤーで髪もセットしていた。私はこれを禁止するよう管理職に訴えたが、所長、接客業務として身だしなみを整える行為としてシャワー利用は当然のように認められなくてはならないとし、上司の許可など必要ないと断言、小便等の生理現象でトイレを利用するのと同様勤務時間中に離脱もさしつかえないといたぶん組合側が用意した見解を述べ、むしろあなたのように汗臭くお客に不快さを与えてけしからんとし、職務専念義務違反といえる勤務時間中のシャワー利用をそそのかされたばかりでなく、これについて賃金カットすべき強く抗議したことなどを理由として、勤務不良として昇給延伸の処分の理由の一つとなり異動希望も出していない部署に転勤させられた。

  もちろん、上司の命令が違法行為であったとしても、職員に違法か否かの審査権はないので従わなければならないし、集団的労働関係にあって、職員個人は労働条件について交渉対象ではないので、質問しても当局の回答は義務付けられてない。不服でも従うのが筋といわれるかもしれないが、私の見解自体は以下のとおり間違ってないと思う。

〇洗身入浴は労働時間に含まれないということは上記引用した平成12年の最高裁判例により確定している。労働安全衛生規則六二五条は、使用者に対し、身体又は被服の汚染を伴う業務に関し、洗身等の設備の設置を義務付けしているだけで、労働者に洗身入浴させることまでも義務付けるものではないからである。しかし平成15年に千代田営業所で閲覧した入浴に関する内規によると、入浴とは浴槽につかった入湯のことでシャワー利用のみでは入浴とは定義されないとし、汚れたときは上司の許可があれば就業時間中であってもシャワーを浴びてよいと記載されており、無許可で認めるというのは、内規にも違反しているし、シャワーは入浴じゃないから、勤務時間中の利用可能にしている内規自体もおかしい。

〇勤務時間中の洗身入浴は債務の本旨を履行したものとはいえないし、職務専念義務違反、みだりに離席してならないとする就業規則に反する行為の慫慂であり、営業所長には規則にない職免を付与し労働時間を短縮させる職権はないはずで、所長は管理職しての裁量権を逸脱するものと考えるし、そもそも浴室は汚染を伴う業務に就いた者の労働衛生上の施設で、身だしなみやさっばり汗を流して帰宅したり、自宅でガスや水道を節約するために、職員の福利厚生施設として利用されるべきものではないのである。

〇昭和15年当時千代田営業所で組合支部長が毎日、就業時間の後に洗身入浴していた。しかし就業時間外だからよいとは考えない。なぜなら、同人は営業係でデスクワークだけで、身体が汚染する仕事はしていないのである。シャワー利用は身体又は被服の汚染を伴う業務についている者に限定されるべきである。

〇別の部署の内規(水道特別作業隊)をみたが、営業所とは違い勤務時間内に入浴できるのは、管工事等現場作業で著しく汚れがあった場合、16時半以降に上司の許可があった場合に認めると書かれていた。したがって、筋肉労働もしていない、たんに外勤があるというだけのケースでは就業時間中は認める必要はない。営業所の対応を疑問に思う。

〇管理職の説明に常識にも反している。私は判例にもあるとおり通勤に際し支障となるほどの著しい汚染がない限り、シャワーは必要がないとの考えであり、組合に業務指揮権、施設管理権を掣肘されている状況があるといえる。

〇住民に対して渇水時は節水を呼びかけ、環境計画でも水使用量は削減する目標なのに、職員のシャワーはじゃんじゃん使えと言っているに等しい管理職の見解が当然視される企業風土はおかしい。

 

   昭和40年代の北九州市の清掃事業局では退庁定時前の勤務時間内に洗身入浴がなされ当局も認めていた慣行があったことが判例で記載されている。当時はゴミだけでなく屎尿の汲み取りもやっていたので、洗身入浴しなければ通勤が著しく困難といった特段の事情に当たると解釈してもいいだろう。

   賃金カットを上司に要望したところ管理職(〇〇所長)に逆襲され、非違行為ではなく、むしろ奨励されるべきとしで、おまえこそシャワーを浴びて身だしなみを整えよと、管理職がやっていることは組合分会役員の主張の受け売りいいなりで地方公務員法35条違反をそそのかしていると反発すると、勤務不良職員とされ、強制配転、昇給延伸の不利益処分の理由の一つになっており、組合の既得権優先思考の東京都の管理職には悪者扱いされているので、遺恨がある。

  〇〇は私よりずっと年下で、活動家ではないが分会役員ではあった。その後まもなく主任に昇進した。わたしは組合が主任制度反対とさかんに頭上報告で言っていたこともあり、主任試験を申し出ることも悪という職場の雰囲気があったから主任にもなっていないわけである。

  杉並営業所の近年のことだが〇〇と親しい〇〇も外回りの仕事をしているが、〇〇に勧められ、時間外に長時間洗身入浴していることがよくある。その時間に超過勤務手当を受給しているかは調べてないが、勤務時間内であれ超勤時間であれ、時間管理はされていない。

  令和6年に夜間待機が、水道緊急隊の業務となったため、これまで夜間待機当番やっていた人が、当番制で浴室の清掃をしていたが、夜間待機業務が廃止されたので浴室の清掃は、配水課などと、営業所で回り持ちとなり、しかし実際には利用者は少なく、風呂掃除をする人が少なくなって困っているために〇〇は〇〇に組合要求として委託業務で風呂清掃をさせよと言っていた。

  じっさいには〇〇が勧めても、勤務時間中のシャワー(洗身入浴)は問題があると認識している職員も多く、〇〇が吹聴しているわりには、利用者はすくないのだが、洗身入浴問題をつっつくことはタブーであり、管理職が管理しようと言う考えは全くないのである。

  いずれにせよ、造船所のような重筋労働でも洗身入浴は労働時間に含めないことになっている。国労は昭和時代に勤務時間内の要求をやめたのである。でも水道局は今でも勤務時間内に事務職でもシャワーは勤務時間内自由とされ、労働時間に含めている。水道局だからいいじゃないかと言われるかもしれないが、都内の電力消費の1%は水道局施設で局の環境計画では電気や紙と同じく、水道使用量を減らすことになっているのである。

  だからといって勤務時間外だからによいというものではなく、あくまで労働衛生上の施設という位置づけであるなら、水道代やガス代を節約するために職場で風呂をすますという利用の仕方には問題がある。

  なお、この問題は、内規の見直しと、勤務時間内のシャワーについては、賃金カットの対象として労務管理すべきと提言するのみとして具体的に規則で明文化する提案はしていない、今回の提案が盛りだくさんなことも踏まえ見送ることとした。

 

 

 

32 東京都水道局庁内管理規程は令和二年に改正されたがなお改正が必要

 

 東京都水道局庁内管理規程と東京都庁庁舎管理規則は、令和二年に改正があった。これはオリパラを控えて警備強 化の趣旨か、組合対策かは不明だが、禁止事項が多くなっただけでなく、立入の手続きや物品の搬入を規則化し、退去命令、人数制限にも言及していることから、従来よりも改善されている。既に述べたとおり知事部局と、水道局では庁舎管理規則で相違点があるが今回の改正は横並びとなっている。

 

 なお改正前の、従来の東京都庁内管理規則、水道局庁内管理規程は、下記のとおり、腕章・はちまき・ゼッケン・旗・幟・プラカードの着用又は持ち込み、集会・演説を明文で禁止していない。写真は10年くらい前、都本庁構内にある立札を撮影したものだが、ホームレスの寝泊まりは禁止されていることがわかるが労働団体の決起集会については、集会や宣伝カー、赤旗などの搬入や、鉢巻き、ゼッケン等の着用を明文で禁止していないので「示威行為及びその他これに準ずる行為」に含まれるかは解釈の余地のある表現になっており曖昧な点が多かった。

 

(改正前の東京都庁内管理規則)

 何人も庁内において、次の各号の一に該当する行為をしてはならない。

(1)  拡声器の使用等によりけん騒な状態をつくり出すこと。

(2)  集団により正常な通行を妨げるような状態で練り歩くこと。

(3)  前号に定めるもののほか、正常な通行を妨げること。

(4)  テント等を設置し、又は集団で座り込むこと。

(5)  清潔保持を妨げ、又は美観を損なうこと。

(6)  凶器、爆発物その他の危険物を持ち込むこと。

(7)  庁舎その他の物件を損壊すること。

(8)  寄附金の募集、物品の販売、保険の勧誘その他これらに類する行為をすること。

(9)  印刷物その他の文書を配布し、又は散布すること。

(10)  はり紙若しくは印刷物を掲示し、又は立札、立看板、懸垂幕等を掲出すること。

(11)  面会を強要し、又は乱暴な言動をすること。

(12)  前各号に定めるもののほか、庁内の秩序を乱し、公務の円滑な遂行を妨げること。

2 前項の規定にかかわらず、前項各号(11号及び第12号を除く。) に掲げる行為について、庁内管理者が特別の事情があり、かつ、公務の円滑な遂行を妨げるおそれがないと認めて許可した場合は、当該許可に係る行為をすることができる。

3 前項の規定により許可を受けようとする者は、別記第1号様式により申請書を庁内管理者に提出しなければならない。

4 庁内管理者は、前項の規定による申請書が提出されたときは、許可の可否を決定し、別記第2号様式により申請者に通知する。

5 庁内管理者は、第2項の規定により許可するにあたって、必要な条件を付すことができる。

2 庁内管理者が不在のときは、あらかじめ庁内管理者が指定する職員がその職務を行なう。

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  下記の令和2年規則は、たぶん法務省や裁判所等国の官庁、小池知事の古巣である防衛省などの規則を参考として改正されたと思われ、のぼり、旗、ゼッケン、鉢巻、腕章の着用が禁止されており、これらは業界団体等の集団陳情、政治団体、市民運動の抗議活動、示威行為でも用いられることがあるにせよよ、組合集会の定番の小道具でありその点は改善されたといえが。令和2年改正においても依然として、集会、演説行為の明文規定はないし、多数集合し、放歌高唱)、練り歩き、宣伝カーの乗り入れも禁止事項になっておらず、ゼッケン、腕章、鉢巻については、「陳情等の目的」と断り書きがあり、組合活動を標的にしていないことを示唆しているので、なお不十分なものといえる。

 例えば、大阪府庁舎管理規則では「府の機関以外のものが主催して集会を行う行為」は禁止事項とされ、横浜市庁舎管理規則 「市の機関以外の者が主催して集会を開催し、または集団で庁舎に入ること」「庁舎の一部を独占的に占用または利用すること」新潟県庁舎等管理規則「集会の開催」が禁止事項となっていることと比較すると、東京都の規則はなお不備があるというべきである。

 

(令和2年改正後の東京都庁舎管理規則)

 

第五条 何人も庁内においては、次の各号の一に該当する行為をしてはならない。

一 庁内において、拡声器の使用等によりけん騒な状態を作り出すこと。

二 集団により正常な通行を妨げるような状態で練り歩くこと。

三 前号に定めるもののほか、正常な通行を妨げること。

四 テント等を設置し、又は集団で座り込むこと。

五 清潔保持を妨げ、又は美観を損うこと。

六 凶器、爆発物その他の危険物を持ち込むこと。

七 庁舎その他の物件を損壊すること。

八 寄附金を募集し、又は物品の販売、保険の勧誘その他これらに類する行為をすること。

九 印刷物その他の文書を配布し、又は散布すること。

十 はり紙若しくは印刷物を掲示し、又は立札、立看板、幕、のぼり、旗等を掲出すること。

十一 陳情等の目的で、ゼッケン、腕章、鉢巻等を着用すること。

十二 面会を強要し、又は乱暴な言動をすること。

十三 前各号に定めるもののほか、庁内の秩序を乱し、公務の円滑な遂行を妨げること。

2 前項の規定にかかわらず、前項各号(第十一号から第十三号までを除く。)に掲げる行為について、庁内管理者が特別の事情があり、かつ、公務の円滑な遂行を妨げるおそれがないと認めて許可した場合は、当該許可に係る行為をすることができる。

3 前項の規定により許可を受けようとする者は、別記第一号様式による申請書を庁内管理者に提出しなければならない。

4 庁内管理者は、前項の規定による申請書が提出されたときは、許可の可否を決定し、別記第二号様式により申請者に通知する。

5 庁内管理者は、第二項の規定により許可するにあたって、必要な条件をつけることができる。

(平三規則三九・令二規則一七・一部改正)

(庁内の使用又は立入りの禁止)

第六条 庁内を使用し、又は使用しようとする者が前条第二項の許可を受けずに同条第一項各号に掲げる行為を行ったとき若しくは行うおそれのあるとき又は同条第五項の許可の条件に反したとき若しくは反するおそれのあるときは、庁内管理者は、必要な指示、警告等の措置を講じ、設置されたテント等、掲示されたはり紙若しくは印刷物又は掲出された立札、立看板、幕、のぼり、旗等を撤去し、庁内の立入り若しくは使用を禁止し、又は庁内から退去を命ずることができる。

(平一五規則八四・令二規則一七・一部改正)

(庁舎内の立入り手続等)

第六条の二 庁内管理者は、庁舎内の秩序の維持又は事故の防止のため必要があると認めるときは、庁舎内に立ち入ろうとする者に対し、次の各号に定める事項を記載した書面(電磁的記録によるものを含む。)を提出させる等の必要な手続をさせるものとする。

一 立ち入る者の氏名及び連絡先

二 立入りの日時

三 立ち入る目的又は訪問先

四 前各号に定めるもののほか、庁内管理者が必要と認める事項

2 前項の手続を拒否した者又は偽った申告をした者がある場合は、庁内管理者は、必要な指示、警告等の措置を講じ、庁舎内の立入りを禁止することができる。

3 職員及び庁内管理者が別に定める者は、第一項に規定する手続を省略することができる。

4 庁内管理者は、多数の者が陳情等の目的で庁舎内に立ち入ろうとする場合において、庁舎内の秩序の維持又は事故の防止のため必要があると認めるときは、立ち入ることができる人数、立入りの時間及び場所等の制限、立入りの禁止等の必要な措置を講ずるものとする。

5 庁内管理者は、庁舎内の危険を未然に防止するために必要があると認めるときは、第一項の手続に加え、庁舎内に立ち入ろうとする者に対し、車両検査、所持品検査等の必要な措置を講ずるものとする

(令二規則一七・追加)

(物品の搬入、搬出)

第七条 庁内管理者は、必要があると認めたときは、機械、器具、備品、材料等の物品を庁内に搬入し、又は搬出する者に対して、納品書、主管課長の発行する持出証又はこれらに代るべき証拠の提示を求め、これを阻止し、又は関係部課長その他の関係者に照会して現品と照合するなど必要な措置を講ずることができる。

2 庁内管理者は、庁舎内の安全確保のために必要があると認めるときは、庁舎内に搬入する郵便物、宅配物等における貨物、機械、器具、備品、材料等の物品に対してエツクス線の射影等により内容物を検査する等の必要な措置を講ずることができる。

3 庁内管理者は、前項の検査により庁舎内の安全が脅かされるおそれがあると認めるときは、立入禁止区域の設定、当該物品の一時隔離、避難指示等の必要な措置を講ずることができる。

(令二規則一七・一部改正)

 

  令和二年の改正は改善された面があるが、基本的に疑問なのは、目的外利用がキーワードになっていないことである。庁舎管理の基本方針である。東京都の規則には国の省庁の規則とちがって目的外使用の言及がないことである。例えば中央合同庁舎第5号館(厚生省など)の規則では、「第12条 管理官庁等は、原則として合同庁舎を所掌業務以外に使用させてはならない。2 管理官庁等は、やむを得ない事由によりその管理する合同庁舎の一部を目的外に使用させようとする場合は、あらかじめ「使用許可申請書」を提出させ、当該申請書を審査し、当該行為が所掌業務の遂行を妨げず、かつ、庁舎内の秩序維持及び安全保持に支障のないものに限り「使用許可書」を申請者に交付し、許可するものとする。この場合において、管理官庁等は、必要な条件を付し、又は指示することができる。」とあり、目的外使用は許可が必要との基本原則を述べていることちから、所掌業務以外、無許可の組合活動や抗議活動などの使用はありえないことは、原則論として表明しているのでわかりやすい。施設管理権の指導判例国労札幌地本ビラ貼り戒告事件・最三小判昭54.10.30民集336676も「その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分」ができるとしており、目的外の利用について規則を定めるという脈絡になっているので、目的外利用は許可が必要という基本方針を書いておいたほうが、筋が良いと考える。

  東京都水道局の規程は目的が、「秩序及び美観の保持並びに火災及び盗難の予防」とされ、地方自治法の財産管理法制との関連での規則にはなっておらず、組合活動対策をメインとしているものでもないわけである。

  これは他の官庁と同じことで、組合や職員も対象としているが、庁舎管理規則は、所轄業務の用務で来庁する外来者、陳情、住民主体の抗議活動、取引業者等、外来者対策の規則としての側面も強い。

 そこで、私は再三述べてきたように以下の三項目は絶対、就業規則に加えたい。

 

1 許可なく、局所施設内で、業務外の集会、演説、講習、放送、示威行為又はこれらに類する行為を行ってはならない。

2 職員は、局が許可した場合のほか、勤務時間中に又は局所施設内で、組合活動を行ってはならない

3 職員は、職場において、他の職員の職務遂行を妨げ、もしくは職務専念を妨げる行為をしてはならない。

 

   就業規則の明文化は再三述べてきたように、私企業の先例である国労札幌地本判決が、懲戒処分の前提として規則の記載を挙げていること。水道局の場合は、地公法の291号(第29条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。一 この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合)と32条の適条で懲戒処分可能なので同じことである。

もちろん水道局庁内管理規程違反行為も2911号の地方公共団体の機関の定める規程に該るわけだか、職務専念妨害避止義務のように、もっぱら組合活動を対象としたものは、まず就業規則や労働協約で定めるのが筋であり、たとえ重複する内容があっても、就業規則で明文化するのが肝要と考える。

その場合でもやはり、業務外の集会と、業務外の演説行為の禁止は、庁舎管理規程でも明文化しておくべきである。

このほか東京都庁舎管理規則の次の記載については27で述べたとおり改正が必要。

 

(門扉閉鎖後等の出入り)

第十二条 庁内管理者は、門扉閉鎖後又は東京都の休日に関する条例(平成元年東京都条例第十号)第一条に規定する東京都の休日に庁内に入ろうとする者があるときは、次に掲げる場合を除き、これを拒否することができる。

一 職員等については、用向き及び職員カード(東京都職員服務規程(昭和四十七年東京都訓令第百二十二号)第四条に規定する職員カードをいう。)又は身分を証する書類の提示がある場合

二 外来者については、庁内管理者が別に定める手続により事前に届け出た場合又は面会先の承諾がある場合このほか組合の時間外協定を規則化した

 

これが水道局庁内管理規程では

 

(門扉閉鎖後の出入り)

第十二条 庁内管理者は、門扉閉鎖後又は日曜日、休日等に庁舎に入ろうとする者があるときは、次の各号に掲げる場合を除き、これを拒否することができる。

一 職員については、当該職員が門扉閉鎖後又は日曜日、休日等に勤務に服する旨、当該職員の所属の勤務命令者からあらかじめ庁内管理者に届出がある場合

二 外来者については面会先の承諾がある場合又は料金等の払込み、修繕等の申込みをする場合

  かなり違うものになっているが、土日出勤は事前協議が必要という、全水道東水労と当局との時間外労働協定にもとづいて、入庁者を規制しようとするものだが、組合の政策を規則に書き込んでいることで手適切でなく、知事部局と同様の規定にすべきということは、「27 組合の時間外労働規制に都合よく作られている水道局庁内管理規程の改正の必要」で述べたとおりである。

Photo_20251018164103 

註(写真は、東京地方検察庁、公正取引委員会。東京家庭裁判所付近にあるプレートである。従来東京都の庁舎管理規則には旗、幟、鉢巻、ゼッケン、腕章着用規制はなかったが、法務省の例などを参考にして令和2年改正に挿入されたと推測する)

 

 

 

第Ⅲ部 国会議員と都議会議員への要望

私鉄総連組合員の春闘ワッペン着用を規制すべき

 

 私鉄総連傘下の組合のある各社(特に東京メトロ)は、JRグループ規則「第20条3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」といった規則を明文化したうえ、服装指導に従わない行為を繰り返した鉄道員やバス運転手に対し、不利益処分(JRの場合は夏季手当の減額)をとる労務管理を徹底するとこと強く求める。

 

  私鉄総連組合員の春闘ワッペン着用を規制すべき、会社に取り外し命令をするよう、特に国と都が株主の東京メトロの労務管理の是正を要望します。

 これは一旅客公衆(一国民、一都民)の立場から、公式の請願ではなく、たんに非公式な意見具申です。

 私鉄総連傘下組合員、民鉄の駅員や乗務員が、直径78センチの円形の春闘と記載されているデザインのワッペンを毎年215日頃から3月中旬頃まで胸章として着用するのが通例になっている。私が知る限りでは、鉄道では東京メトロ、東急、東武、京成、京急、京王(但し京王は着用しない駅員もおり他社と温度差があり、期間も2月下旬からになる)が恒例である(ただし小田急の鉄道部門で春闘ワッペンは見たことはない。西武鉄道は私鉄総連ではないから論外、相模鉄道や関西や地方の状況は把握してない)。バスの運転手もつけているし、制服を着用せず、ワッペンをつけた制服を吊り下げている東急バスの運転手など過去にみたことがあるが、バス運転手の態度が非常に不快だがさしあたり鉄道を問題にする。

 駅員や乗務員が勤務しながらワッペンによる春闘の宣伝をしていることは不快。目につきます。なぜ、運賃を払い、ライナー着席料金を払っているのに、お客様が私鉄総連の教宣活動を受けなければならないのか。会社は職務に専念させるべきである、雇用契約の債務の本旨にしたがった履行でないことを許しているのは労務管理として怠慢である。

 私は東急や阪急のやっているSDGsトレインも不愉快だが、ここでは春闘ワッペンに問題をしぼる。

 ワッペンは、私鉄総連組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、旅客公衆に対する春闘への連帯を訴えかける活動といえる。勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは当然に職務に対する注意力がそがれるから、旅客公衆が不快、不安に思うのは当然のことである。誠実労働義務違反、職務専念義務違反といえる。

 鉄道職員の服装の整正の意義は国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48529労民集243257に詳しい。私は「春闘」の字を見るだけで非常に不快なんだ。おまえはワッペンを見てひどく興奮するのに、不愉快だ。それなら職務専念義務違反だとして駅員と口論、喧嘩すればいいじゃないかといわれるかもしれないが、万一、そのために電車が遅れて多額の損害賠償をさせられたり、ワッペンを引きちぎったり、業務妨害だ暴行だ、着衣の損傷だと逆襲されるのは目に見えているからやらないのである。内心はカンカンに怒っている。鉄道だけでなくバス運転手も不愉快に思う人は決して少なくないと思う。

  具体的な要求項目の記載はない。ワッペンの記載は、民鉄協会と合同して行っている「公共交通利用促進」というスローガン、西暦と「春闘」、私鉄総連の英訳の頭文字、電車やバスのデザインが通例である。

 しかし「春闘」とは2月ころから労働組合が一斉に賃上げ等を要求する闘争を意味することは明らかであり、近年はこれが目立つようになっている。

 業務外の徽章・胸章・腕章等の着用を禁止する就業規則を定め、適正良好な職場環境を維持し規律のある業務運営体制を確立するため最高裁が案出した企業秩序論に基づく労務管理、取り外し命令を徹底し、JRの国労バッチ取締りのケースでは、指導に従わない場合、夏季手当の減額という不利益賦課がなされた。それをやるべきである。

 もちろん気にしない人も多数いるだろう。しかし乗務員・駅員の業務が旅客公衆の身体、財産の安全にかかわるものとして、特に強く要請される職場規律の保持を確保するという観点でも業務用でないワッペンの着用は規制されてしかるべきなのである。

 春闘と書かれている以上組合活動であり、有名な中川幹郎チームの名判決、リボン闘争の大成観光ホテルオークラ事件東京地裁昭和50311日判決労判221号が「本来労働組合が自己の負担及び利益においてその時間及び場所を設営しておこなうべきものであつて、このことは負担及び利益の帰属関係からして当然の事理に属する。ところで、勤務時間中であるという場面は、労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下のものであり、まさに使用者の負担及び利益において用意されたものにほかならないから、勤務時間の場で労働者がリボン闘争による組合活動に従事することは、人の褌で相撲を取る類の便乗行為であるというべく、経済的公正を欠く」と批判したとおりで、それがワッペンであれ同じことだ。

 中川判決では、リボン闘争がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てることが特別違法性とされているが、民鉄もホームライナー等快適な輸送のサービスで集客しており私が知る限り、京王の車掌はワッペンを着用し、春闘との連帯を訴える行為をされることは同種のことがいえる。車掌が社内巡回のときワッペンを乗客にみせつけて、春闘をアピールすることは、「短い時間ですがどうぞお寛ぎください」という社内アナウンスと真逆のことをやっていると。私は興奮して寛ぐことが全くできないのである。

 

 この論点については、JRの労務管理が圧倒的に優れている。就業規則に「社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない」とあり、業務上の徽章以外の着用を禁止し「くまんばち」という大型のものはもちろん、春闘ワッペンよりずっと小さい縦1.1㎝、横1.3㎝の四角形国労バッチの着用を禁止し、徹底してきた。平成中葉には着用者はいなくなった。要するに民鉄もJR並みの労務管理を要求する。

 

 春闘を宣伝するワッペン着用は、企業秩序維持と職務専念義務違反もしくは雇用契約の債務の本旨に従った履行ではないとして就業規則(もしくは労働協約)で禁止し、着用した者は軽微であれ懲戒処分等不利益賦課の対象とすべきであると要求したい。

  もっとも基本的には鉄道会社の労使関係の問題であって、政治が介入すべきことではないかもしれないが、公共交通機関という公益性の強い事業で、しかも旅客公衆に接客対応の駅員もそれをつけているのだから、一般市民や乗客からの非難にこたえるべきである。

 ちなみに目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52.12.13以降の企業秩序論判例は、抽象的危険説をとり、具体的業務阻害がないことを理由に組合活動が正当化されることはないことを明示している。

 つまりワッペンを禁止するのに具象的な業務阻害を説明する必要はない。

  2014年215日午前0時半すぎに、東急東横線元住吉駅で、大雪の影響で電車が追突し乗客65人が負傷した事故があった。215日というと東急では春闘ワッペンを着用しだす時期である。事故の原因については究明されていることであり、その時、運転指令室や乗務員がワッペンを着けていたかどうかは知らない。仮に着けていたとしても春闘ワッペンを意識した雑念が事故と関係しているという根拠はないから無関係だろう。しかし、ワッペンはたんに抽象的な理由、それが目に触れるため春闘を意識し他の社員の職務専念義務を妨げるおそれがあるというだけでも企業秩序をみだすものとして禁止できるのである。

 とりわけ東京メトロは、国と東京都が株主となっている特殊会社である以上、国会議員や都議会議員が労務管理に口出ししてよいはずである。半蔵門線の永田町駅の駅員もやっています。国会議員は不快とは思わないのか。

 具体的法的根拠、判例分析については、全水道東水労の春闘ワッペン、赤腕章-取り外し命令の提言と同じなので参照されたい。(第Ⅱ部、四(一)254根拠となる判例184頁)

  

  服装闘争全般をみて、春闘ワッペン着用勤務が、正当な組合活動とみなされることはないと考える。

  また労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよいと考える。労働者は、雇用契約に基づき職務専念義務を負っており、就業時間中の組合活動は違法である。

  近年のJR国労合バッジ着用事案の判例でも「労働者は、就業時間中は使用者の指揮命令に服し労務の提供を行う義務を負うものであって、勤務時間中の組合活動は、原則として右義務に違反する‥‥労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり‥‥」(JR東海新幹線支部国労バッジ事件.東京高判平9.10.30判時1626388)と判示しているとおりである。

  この判断の根拠になっているのは引用こそされてないが目黒電報電話局反戦プレート事件.最三小判昭52.12.13民集317974の職務専念義務論である。

  つまり職務専念義務は公務員法制の実定法に限られず、私企業の雇用契約でも同じことである。

  なお、目黒電報電話局反戦プレート事件.最三小判昭52.12.13民集317974は、ベトナム反戦プレート着用という個人的な政治活動の事案だが、組合活動についても同判決の判断枠組が適用されることは判例法理上当然の帰結といわなければならず、そうでないとする大成観光リボン闘争事件最三小判昭57.4.13伊藤正己補足意見は先例無視の勝手な見解だといわなければならない。

  この点については大成観光リボン闘争事件・最三小判昭57.4.13民集36-4-659新村正人調査官判解が目黒電報電話局判決は「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」と解説しており、大成観光リボン闘争事件・最三小判昭57.4.13は理由を示さず、正当でない組合活動として、懲戒処分を是認しているが、理由を示していないのは小法廷の4名のうち2名が、目黒電報電話局事件を非難すする左派の裁判官だったとう特殊な事情による。目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52.12.13の判断を踏襲しているという解釈が法律家の標準的見解といえる。 (菊池高志前掲判批だが、石橋洋前掲判批や西谷敏「リボン闘争と懲戒処分――大成観光事件」ジュリスト臨時増刊7922261983、プロレイバー側の学者も同趣旨を言っている)

  なお目黒局判決に後続する企業秩序論判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件・最三小判昭54.10.30民集336676とそれを引用する多くの判例が、使用者は無許諾の企業施設内組合活動の受忍義務はないこと、済生会中央病院事件・最二小判平元.1.12.11民集43-12-1786によって就業時間中の無許諾組合活動が正当化されることはないことを明らかにしており、法益衡量の調整的アプローチも明確に否定している。

 

 

 

第Ⅳ部 質問に対する想定問答

 

 提案34項目の実現するのがこの意見書の目的ですが、議員の先生方には、正当でない組合活動を是認していることを指摘してもらい、包括的労務管理改革を迫っていただきたい。僭越にも振付をするということでは毛頭ありませんが、ここでは論戦になった場合の想定問答を記述したいと思います。攻める方が圧倒的に有利です。相手を論破しなくてもいいのです。苦しい言い訳を繰り返させることにより、全体として怪しい答弁をしている心証を聴いている人に思わせれば勝ちです。改革せざるをえない方向にもっていくことができると思います。

 

議員 平成6年の年末局内闘争で指令により123日に昼休み集会(杉並営業所では執務室内)、6日に支所合理化拠点決起集会が庁舎構内でなされたということですが、これは闘争課題を確認し組合員の意思統一を図り20日予定の2時間ストライキにむけて志気を鼓舞するものです。過去の「昼休み集会」の記録を見ましたが、年23回なされ大抵の場合執務室内です。基調報告-決議文朗読(決意表明)-採択-頑張ろう三唱、今後の大衆行動動員の指示、超勤拒否闘争の指示、ストライキの日程の伝達といった演説や示威行為ですが、すべて地公労法111項後段が禁止する「唆し」「あおり」にあたることは、全運輸近畿陸運支部事件・最二小判昭60.11.8等によって明らかです。違法行為なのです。

(資料)

令和6123日(火)杉並営業所の昼休み集会の記録

 12時26分××が××総括課長代理に話しかけたので、許諾をとったものと思われる。

××が、昼休み集会決議(案)の紙を、各席に配りだし、昼休み集会が始まる。在席していたのは、16人程度、課長代理3名在籍、所長は不在。昼当番2人が勤務中。

28分~29分 司会 中央委員××

 指令により昼休集会すると宣言、検針担当と収納担当の間の什器付近で演説に立つ。まず、××が経過報告すると発言。

30分~37分 支部長××

提案は杉並・港の政策提携団体TW業務移転、退職派遣(都職員の身分を離れての一時的に出向し戻る制度)の割合5割とのものだが、局直営7カ所TW13カ所となり局で働く職場は狭くなる。退職派遣は勧めることができない。TWは‥‥‥TWにも組合員がいるので労働条件を検証していくことを訴え、実際、港営業所では退職派遣を希望する人がいない状態で、TW社員の面倒をみるのも大変である。TW委託の流れを変えるようにしていきたい云々。

 もう一つは徴収サイクルの変更について組合と事前協議せず強行したため、2023年度に1営業所、24年度に3営業所1名増員したが、1年限りということだが繁忙状況に変わらない。本日3日に専門委員会があり徴収サイクルは××分会長、TW委託問題は××で3日の次は10日が予定されている。今後の日程6日の支所拠点決起集会、18日の3割動員、19日最終回答日、20日スト配置を背景に戦っていくと発言。

37分~39分中央委員××

支部で明後日5日に所属長要請行動があるので参加を促した。決議文朗読を××分会長にふる

40分から47分 分会長××

決議文を朗読

闘争課題を列挙し、最後に「東水労はあらためて三六破棄戦術を構え、12月闘争戦術、昼休み集会、所属長要請行動、今後の日程6日拠点決起集会、2割動員、183割動員決起集会、20日のスト配置で闘っていく」でしめくくった。

◇48分司会 中央委員××

 決議文採択の拍手を求め、検針担当を中心に拍手が起きた。最後に6日決起集会、18日決起集会、20日ストの日程を繰り返し発言して協力を要請して終了。

 多くのケースでは団結用意頑張ろう三唱の鯨波がなされる。ケースとしては少ないが、組合員代表の決意表明をすることもあるが、この時は行われず簡略化された集会であった。

 

 支所の2割動員決起集会や、都庁前の3割動員決起集会も同じです。3割動員職場離脱は344割休暇闘争が争議行為と最高裁が認定されているので水道局でも争議行為と認定しているのだと思いますが、職場離脱の割合の問題じゃないです。ここでいうのは、集会の内容面では、みな地公労法111項後段所定の禁止行為、違法行為です。

 しかし、当局は昼休み集会も決起集会も「唆し」「あおり」であり、違法そのものなのに、いっさい中止・解散命令せず許容している、現認・監視も記録もしていないと聴いています。庁舎構内は目的外利用でもあり不許可、強行した場合は中止・退去命令が妥当に思えます。なぜ中止命令しないのですか

 旧郵政省では全逓が業務規制闘争、ストを配置した時点で庁舎内の組合への便宜供与を中止します。違法行為の慫慂する集会を行うおそれが高いからです。国が争議行為を助長したことになるので、施設利用の申請は拒否、強行した場合の中止.解散命令を徹底しています。これは東京城東郵便局事件.東京地判昭59.9.6など見ていただければ明らかなことですが。

 国と同じようにストを配置し闘争体制になった時点で便宜供与を禁止することはできませんか。禁止してないということは都が違法行為に加担、助長していると評価せざるをえません。コンプライアンス宣言に反してはいませんか。

 

職員部長 お言葉ですが、組織のルールに従うのもコンプライアンスです。東京都では昭和44年4.2都教組勤評事件大法廷判決の争議行為に通常随伴する行為は不処罰という判旨で、スケジュール闘争で通常行われることは、認めていく穏便な方針をとっています。それが組織の方針です。組合の主張もある程度受け入れ、郵政のように組合活動を弾圧することはしません。安定的良好な労使関係を維持していくことは、都民の利益になることでもあります。

 

議員  争議行為に通常随伴する行為不罰論というのは、全農林警職法事件最大判昭48.4.25と岩教組学力テスト事件最大判昭51.5.21大法廷判決で明示的に判例変更され、「あおり」の構成要件該当性が争点になった日教組スト事件.最一小平成元.12.188、埼教組事件.最三小判平2.4.17で最高裁は「あおり」の限定解釈は認めていません。争議行為に通常随伴して行なわれる行為として不処罰という理論が容認されたのは昭和44~47年最高裁が左傾化した一時期だけです。都教組判決の判旨(「あおる」行為とは主として被扇動者の感情に訴える方法で、その興奮・高揚を惹起させることを意味し争議行為に通常随伴して行われる方法より違法性の強い方法による扇動が対象であり争議行為に通常随伴して行われる方法より違法性の強い方法による扇動が対象であるとする)が正しいとでも思っているのですか。

職員部長  あなたが言っているのは全農林だの岩教組というのは反動的な判決で、東京都はリベラルなのでなじみません。また水道局の場合は地公法614号の罰則規程は適用されませんので関係ないです。

議員  驚きました。最高裁の判例変更を認めないというのですね。東京都は脱法的、法外的といわざるをえません。「あおり」が違法行為であることは認めませんか。地公法の罰則規程は適用されないとしても、違法行為だから、解雇、懲戒処分はできますし、地公労法111項「あおり」「そそのかし」を処分理由とする判例もあります。刑事免責はないから、業務妨害罪、住居侵入罪、逮捕罪等の犯罪構成要件該当行為が、争議行為もしくはそれに付随する行為が争議行為目的だった場合は違法性が阻却されることはありません。罰則がないのは公労法も同じです。

職員部長  過去7回のストはたかだか1時間ストです、平成初期ですか2時間ストもありましたが、強い違法性はありません。格別中止命令は考えていません。浄水場や水運用センターなどは保安要員としています。水の供給に支障はないです。

議員  保安要員を置いていること自体、正常な業務運営ではないのです。保安要員を置くことでストを正当化できません。

 あなたの見解は都教組勤評判決の趣旨ですね。強い違法性がない限り、正当というような。その考え方は判例変更で否定されています。法の解釈が間違っています。ところで、水道局の管理職は、昼休み集会のような事務室内の組合活動について、労働基準法343項(休憩時間の自由利用)により一切規制できないとの見解と聴いていますが、米空軍立川基地事件・最三小判昭491129は休憩時間の無許可組合集会を理由とする出勤停止処分を適法としており、誤った法解釈に思えますが、あなたはどう思いますか。

職員部長  それは軍用基地の事案、特殊な事例と考えます。

議員  では目黒電報電話局事件・最三小判昭521213は「休憩時間の自由利用といっても‥‥時間の自由な利用が企業施設内で行われる場合には‥‥企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない‥‥局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であっても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあって、その内容いかんによっては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがある」と説示し、最高裁判例ですよ。違法行為を慫慂する集会を許す理由はないように思いますが。

職員部長  それは政治活動の判例です。組合活動の先例でないですよね。

議員  目黒電報電話局事件の判旨が組合活動には適用されないというのは間違っています。そういうなら全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58.12.20判時1102は、無許可の休憩室あるいは予備室を利用した職場集会に対する郵便局次長らによる解散命令及び監視行為は不当労働行為に当たらないとする原審の判断を支持したものだが、解散命令が行われた集会というのは以下のとおり、集配課休憩室-休憩時間中の全逓組合員約7080名が昭和40510日午後035分ごろから年賀区分室-67515分ごろから545分ごろまで。611日午後020分~055分ごろまで、昼休みですよね。解散命令してよいとなっていますよ。これは認めますか。最高裁判例ですよ。

職員部長  郵政は郵便法791項に、「郵便の業務に従事する者がことさらに郵便の取扱をせず、又はこれを遅延させたとき」罰則規定があることや、森山欽司政務次官のような労務管理に厳しい政治家もいた。罰則規定のないわれわれとは温度差がかなりございます。郵政のように厳しくとりしまっていく必要はないと思います。

〇議員 公労法自体は地公労法と同じように罰則はなく、同じ条件です。国鉄や私企業の判例も多数ありますよ。あなたの言い分では、違法行為を慫慂する集会でもとにかく庁舎管理権を行使して組合活動を規制したくないということですね。

職員部長  労働基本権も人権ですから、組合員はストを決行できる組合と誇りをもっており、メンツをたて、良好な労使関係を維持していくことが、ひいては千三百万都民のライフラインを支えていくうえでも重要と考えており、今後闘争指令下の集会を規制していく考えは全くございません。

議員  組合のメンツを立てるため、違法行為容認というのは納得がいきませんが、時間がないので次にいきます。

 水道局は、全水道東水労の争議行為及び付随する行為については、同盟罷業(時限スト)、勤務時間内29分以内職場大会、第2庁舎廊下座り込みを処分事由として、懲戒処分や訓告を行っている。同盟罷業は平成16年以降830分始業時より1時間ストライキが、平成16年以降16730日、101日、20319日、221210日、26124日、令和元年1220日と15年間で6回決行されている。勤務時間内職場離脱3割動員決起集会はコロナ渦の自粛を除いて毎年34回、平成16年は4割動員1回を含め89回実施されており、争議行為認定し賃金カットはするが処分はしていないとの情報をリークにより知りました。このほか当局は争議行為と認定せず、処分の対象にしていない昼当番拒否闘争、平成26年の中野営業所業務移転徹底抗戦で本庁職員が固定資産・備品リストの照合調査に来たのを追い払い、職制麻痺闘争としての三六協定破棄闘争などいろいろあるとは聴いていますが。

 まず平成16年以降でいいですから、当局が違法行為と認定した組合活動、同盟罷業と職大について、何年何月何日のケースで、処分理由と地方公務員法の適条、処分者の組合の役職と量定と、少数組合の方は省略してけっこう。下水道局職員も省略してけっこうです。また3割動員については、各年の回数をざっと教えてください。

 (回答すると思うが時間のロスなので事前調査でもよい)

議員  時限ストは本部中央闘争委員に限定し停職処分、過去3回の時限ストについて支部長は訓告。これは懲戒処分ではないので、本部中闘以外本部中執、本部中闘の下の役職である本部委員や統制委員、支部分会役員の懲戒処分事例はないということでよろしゅうございますか。

 疑問の第一です。昭和4050年代官公労のストは毎年のように頻繁にありましたが、平成以降激減し、私企業もそうですが、公務員のストライキは稀なものになっています。しかし水道局は平成後半の15年間で6回、令和元年12月以降ストは決行されていないとはいえ、相対的にみてストは頻繁にあり、3割動員職場離脱集会は毎年恒常的にあります。水道局は違法な争議行為が抑止されていない職場といえるのではないですか。

 公務員ストが激減した理由は周知のとおり、昭和41年と44年に公務員でも争議行為について民事免責はないが刑事免責はあるとして、「違法性の強い争議行為でなければ正当」とか「実質的に争議禁止条項に該当しない場合」があるという組合寄り解釈が可能な大法廷判決がありました。しかし昭和48年、51年、52年の大法廷判決で判例変更され、公務員の争議行為には刑事免責がないこと。国民生活に重大な支障とか強い違法性がなければ正当な行為とされることはなくなったのです。

 地方公営企業は地公労法111項で争議行為が禁止されていますが、地方公営企業職員の争議行為が、労組法71号で保護される正当な行為でないことは、北九州市交通局事件・最高裁第一小法廷昭和63128判決で確定しました。(三六協定締結更新拒否による超過勤務拒否闘争、民間ディーラー整備員の入構拒否による業務妨害、五割休暇闘争等を地公労法111項違反として、地方公務員法第291113号により北九州交通局労組役員3名を停職六月、5名を停職三月、4名を停職一月、1名を戒告とする処分を適法としています。近年でも北海道労委事件・最高裁第二小法廷平成28617判決(中労委DB掲載)は、北教組(混合組合)の平成20130日終業時1時間同盟罷業につき、道教委は30分以上の職務離脱者12,551名に対し一律戒告処分し、地公労法附則で地公労法111項が適用される養護学校の単純労務職員(介護員)が、組合の弱体化を図るための処分として救済を申立てたが、最高裁は救済命令取消訴訟で、戒告処分を適法とした二審を支持したので1時間ストの単純参加であっても懲戒処分は免れないことが確定しました。

 争議行為をめぐる実務的混乱は収拾されたので、ストを決行すれば不利益処分を受けるリスクが明白で、それゆえストは激減した。

 でも全水道東水労はストが打てる組合となっています。その理由の一つとして、当局が本部中闘以外、懲戒処分の対象とせず、ストを実践指導している、本部委員や各事業場の支部・分会役員が保護されている方針があると思う。令和元年の組合員総数は2,778名、1時間ストやって懲戒処分は3名だけというのは組合に非常に有利だと思います。組合費本部費だけで月例給与の1.7%チェックオフで組合員は徴収されます。本部中闘の員数は昔は10人くらいいましたが、今は水道局から34名程度です。停職期間の補償は大した金額ではありません。組合財政に打撃はないといってよい。

 本部中闘は、15分ほどのオルグ演説で事業所まわりをしますが、実際に闘争期間の大衆行動の動員指令、ストライキを指導・実践しているのは、各事業場の組合役員です。懲戒処分されないことがはじるからわかっているから、「あおり」「そそのかし」という地公労法111項後段違反行為はやり放題になっていると聞いています。違法行為やり放題というのはとても悪い職場風土と思います。コンプライアンス経営宣言していてこれですから。

 局の方針は、指令を受けてストを指導する役員は、集団行動として組織の義務をはたしているだけで、懲戒責任を問えないという組合側の主張に沿ったものと考えています。学説としては、片岡曻「公務員の争議行為と不利益処分」季刊労働法73141969「たとい労働組合の争議行為が違法であるとしても、個々の組合員の行為が当該争議行為を組成し、その圏内にある行為と認められるかぎり、これを独立の行為として、使用者との関係における個別契約法的評価にさらし、使用者からの懲戒その他の民事上の責任の追及を許容することはできない」の趣旨と大筋で同じと考えていますが、なぜ、懲戒処分の対象を本部中闘にしぼるのですか、それは組合活動で不利益処分はさせないという組合の方針やこの種の学説に従っているためですか。

 

職員部長  たとい争議行為が違法であるとしても、責任を負う基本は組合であって、都の方針ではストを企画、決定し指令を出した組合の機関責任を問うということになっています。指令を受けて、組織の義務としてストを指導実践しているだけの役員は1時間程度の短時間のストなら、保安要員を置いて水の供給を支障なくしているわけですから、戒告処分には踏み込まないこととしております。1時間ですからね。でも仰せのとおり過去3回のストにつきましては、支部長も訓告としているわけで、圧力はそれなりにかかっていると思います。

 

議員  訓告は人事記録に記載されるだけで、痛いものではありません。戒告に踏み切るべきです。訓告の次は戒告となっていないです。動労鳥栖駅事件・福岡高裁昭49.5.25判決判時770113頁(上告審-最三小決昭50.11.21判時801101頁 棄却)昭和38年動労の2時間ストで、国鉄の業務命令によりスト参加の機関士の代務となる同じ動労の指導機関士の急行列車への乗務を阻止するマス・ピケの事案で「組合がたとえ同盟罷業を決議しても、それは公労法上違法であり、民間企業の組合の場合のように法的拘束力をもつものではなく、組合員としては組合の決議、指令にかかわらず同盟罷業に参加することなく就業する自由を有するのであって、これに参加を促がす勧誘、説得を受忍すべき義務はないのである」と判示し、違法争議行為の内部統制権は否認されており、組織の義務に従っているだけということでストの指導は正当化されません。同様の判例は国労広島地本組合費請求事件・最高裁第三小法廷判決昭和50.11.28民集29101634ほか多数あります。全逓東北地本懲戒免職事件・最高裁第3小法廷判昭和53.7.18判決民集3251030が「労働者の争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも、多言を要しない」と判示しているのであって団体行動だからスト参加者個人の懲戒責任などないというプロレイバー学説は明示的に否定されている。東京都は、組合側の主張に取り込まれていて、最上層の機関責任を問うだけ。最高裁判例を無視していませんか。あなたは、全逓東北地本懲戒免職事件最高裁判決を認めないのですか。

職員部長  ひっかけるような質問には答えません。しかし懲戒処分指導判例の神戸税関懲戒免職事件・最高裁第三小法廷昭和52.12.20判決は、「懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか‥‥広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故‥‥懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである」としているとおりであり、基本的に処分の内容、量定は政策判断でありあます。われわれとしましては、ストが打てる組合としてかれらも誇りをもって闘争しています。ステークホルダー様のメンツも立てつつ、経営プランに沿って合理化、業務移転も進めていく。これは組合に協力が必要な事業ですから、大量処分などやって、刺激するようなことはしたくございません。千三百万都民のライフラインを預かる企業として安定的な良好な労使関係を維持することこそ重要なことであります。そのような総合的判断でこのような処分となっています。

 

議員 プロレイバー学説を否認した全逓東北地本判決に批判的な見解なのですか。1時間ストの懲戒処分の相場として、本部中闘が全責任をかぶるというのは普通ではないと思います。以下の処分例では、29分以内の職場大会でも支部分会役員は懲戒処分にする例は普通ですね。各事業所の組合役員は何をやっても守られるというのは普通ではない。こ判例データベースから収集した資料をみていただければと思います。

 

(資料)

 

★北海道教委 平成20130日、北教組の授業時間修了後、終業時刻1時間ストにつき、道教委は職場離脱30分以上の者(12,551名)を一律戒告処分とし、職場離脱の時間が29分以下の者(41人)については文書訓告。

★札幌市教委の上記北教組1時間ストの処分は、() 支部長に対し減給2月、() 副支部長、書記長、書記次長ら5名に対し各減給1月、() その他の支部専従役員に対し戒告、() 授業を欠務したストライキ参加組合員190名に対し戒告、() その他のストライキ参加組合員1698名に対し文書訓告で、ストを指導する支部役員と、単純参加者では軽重をつけた処分となっている支部分会役員の幹部責任に重点をおき、単純参加者の戒告は授業に影響を与えた場合に限定している(平成23624日道労委命令に記載 中労委DB)(北海道.道労委(北教組)事件.札幌地判平26.3.31労判1136中労委DB、札幌高裁平27.2.26労判1136中労委DB、最二小判平28.6.17中労委DB

★国立病院、平成31113日の全医労の最大27分勤務時間に食い込む集会に対し本部役員と地方協議会専従者(26名)支部長(147名)を戒告、支部副支部長及び書記長(399名)に対しては文書訓告、単純参加者(2,518名)は厳重注意(全日本国立医療労組事件.東京高判平12.11.29労判840)。

★国鉄直方自動車営業所における昭和6085日、自動車運転者を除く組合員1時間スト。国労門司地本中央支部自動車分会直方班三役3名を戒告、(国労直方自動車営業所事件.福岡地判直方支部平2.3.30労判561、最二小判平9.9.13労判712

★北海道開発局、昭46.7.15、午前830分から29分間以内の職場集会 在庁職員約8500名中77%の約6600名が参加。本部執行委員長.書記長を停職一月、本部副委員長を六月間俸給の月額の10分の1、本部会計長.支部役員(Ⅰ9名)を同じく二月間の減給処分、本部執行委員(3名)支部役員(14名)同じく一月間の減給処分(北海道開発局事件.札幌地判昭54.10.9判時964、札幌高判58.3.15訴務月報299

★仙台管区気象台、昭46.7.15 勤務時間に18分食い込む職場集会 戒告が東北支部書記長、仙台分会執行委員長 気象庁全体では、懲戒処分13名(中央執行委員長、本庁支部執行委員長、東管支部執行委員長、気研支部執行委員長、清瀬支部執行委員長、北海道支部執行委員長、同札幌分会長、東北支部書記長、同仙台分会長、関西支部執行委員長、同大阪分会長、西部支部執行委員長、同福岡分会長)、訓告23名(北海道支部四名、東北支部二名、本庁支部一名、関西支部四名、西部支部六名気、研支部二名、清瀬支部二名、函館支部一名、中央執行委員一名)、厳重注意21名分会の参加者全員)(仙台管区気象台(全気象東北支部仙台分会)事件.仙台地判昭60.9.25労判464、仙台高判.2.3.30、最三小判平5.3.2判時1457.判タ817)、

★北海道開発局、昭44.11.13 29分勤務時間にくい込む職場集会。本部委員長を四月間俸給の月額10分の1の減給処分、本部副委員長(2名)及び本部書記長を同じく各三月間の減給処分に、本部会計長、本部執行委員(2名)及び支部組合員(35名)を同じく一月間の減給処分 (北海道開発局事件.札幌高判58.3.15訴務月報299

★通産省、昭44.11.13 7分から29分勤務時間に食い込む職場集会、全商工本部、支部、分会役員を戒告処分(全商工事件.東京地判昭61.3.25 判時1189

★運輸省近畿陸運事務所、昭和44.11.13 1520分勤務時間に食い込む職場集会 戒告処分43名、全運輸本部役員1名、支部三役8名、分会三役34名。全運輸中央本部の責任者らについては企画指導の立証を十分にする資料を収集できなかったので、職場大会毎に実行行為者をとらえ、主たる役割を果した者を各職場大会に原則一人として戒告に、従たる役割を果した者を訓告に、参加者を厳重注意に処するとの基本方針とした。

(全運輸近畿陸運支部(大阪陸運局)事件.大阪地判昭54.8.30民集3971408、大阪高判昭57.2.25民集3971478、最二小判昭60.11.8民集3911375

★北九州市交通局 昭和44.11.13 始発から約1時間30分(午前6時)までのスト 北九交通労組執行委員長を12条解雇。運休となったバスは22本(全体の4%)であり約500人の利用者に影響を与えた。職場放棄の争議形態でなく、組合員にはバス乗務の勤務につかせ、バス出入口で集会を開き、その出庫を阻止するという形態で、出庫を阻止されたバスの乗務員には争議不参加の別組合員2名も含まれていた。執行委員長は二島営業所に赴き430分ころ市職労ニュースカーを車庫出入口に横向けに駐車させるよう指示して車庫出入口をふさぎ、さらに動員された組合員ら約120名により集会を開き、挨拶をするなどして所長の退去要請を無視した。原告は争議行為に関して解雇一回を含む停職等の懲戒処分を数回受けていた(北九州市交通局12条解雇事件福岡地裁昭49.11.19判時766、福岡高裁昭55.11.11判タ435、最二小判昭55.2.8 労判335)当日の争議行為につき原告3名以外は1名減給、90名が戒告。

★北九州市小倉西.門司.八幡西清掃事務所昭和431時間スト、本件108日争議(小倉西清掃事務所関係者については108日争議及び1026日争議)において、違法行為のあった者に対し、原告らを含めて免職、停職、減給、戒告の計107名の懲戒処分を行うとともに、比較的短時間の集会参加者1456名について訓告を行う。但し免職は裁判所により取り消された(56.2.26判時1011)。

★江戸川.昭島郵便局昭和43425日  

就労命令を無視し46分ないし1時間20分の欠務行為 戒告

就労命令を無視し3時間15分ないし3時間50分の欠務行為 減給1101ヶ月)(東京地判昭48.6.28 判タ297

★長崎県庁、昭41.10.21 1時間スト 停職三月が県職組本部執行委員長、停職一月が県職組本部書記長、本部特別執行委員兼自治労長崎県本部執行委員長、減給1102か月)が本部執行委員兼長崎支部長、減給1101か月)が他の本部執行委員、支部三役(支部長、副支部長、書記長)、戒告が 支部執行委員、本庁職員の単純参加者、出先機関在勤者でピケッティングに参加した者、訓告が出先機関在勤者の単純参加者。(長崎県職組事件.長崎地判昭55.9.8判時998、福岡高判昭60.9.26労判461、最一小判平元.9.28判時13499

 

職員部長  処分の相場なんてあってないようなものですよ。郵政などでも昭和48年頃段落としといって、処分の量定を軽くしています。むやみに重い量定で処分することがよいことではないということです。平素から局内の事情に通暁したものとしては、懲戒責任はストを企画、決定、指令を発出した組合の機関責任だけでよいと思っています。これは水道局だけでなく、知事部局でも同じ方針ですよ。われわれは知事部局に倣っているだけです。

 

議員  東京都は組合の既得権は断然守っていきたいということですか。質問が多数あるので懲戒処分の対象を拡大すべきとの提案は棚上げにして、次に「服務の示達」の慣行についてですが、

令和元年1219日付【東京都水道局プレス発表】はこうなっています

12月20日(金)の労働組合ストライキについて

1 組合の行動態様

(略)

2 当局の措置

1)組合に対する警告

2)職員に対する服務規律確保の周知

3)管理職員による事務事業の支障の防止 

 職員一般に「警告」していないことは上記のプレス発表で、組合に対する警告と職員とでは別の対応としていると公表しているとおりです。国の省庁の警告は全職員対象なので東京都はかなり違うことをやっている。

 組合に対しては、警告(地公労法違反と明記)に相当する中止の申し入れを組合本部執行委員長あてに出していますが、職員一般には警告ではない別の対応と聞いています。

 プレス発表の「服務規律確保の周知」とは外部の人にはわかりにくいが、東水労が争議行為、3割動員決起集会やストを配置すると、職員部監察指導課で、局長名義で各部(所)長あての「職員の服務について」いう文書Aと、職員部監察指導課長から庶務担当課長あての「服務の示達等について」という文書Bの2通が流され、この文書に具体的な争議行為対応の指示があり、各庶務担当課長も、概ねこれに沿った行動をとるよう所轄の管理職に通知し、それ以上のことはやらない。平成10年代以降は同じであるとリークにより知りました

 つまり「服務規律確保の周知」「服務の示達」とは各部(所)長といった幹部あてに、服務規律を確保せよという局長名の地公法30条を引用したいかにも形式的な文書が毎回発出される。このコピーは管理職が受け取っていることを指します。

「示達」とは官庁用語で、上級部署から下級部署へ指示で、例えば予算要求の査定が終わると「予算の示達」があります。各予算科目につきこの範囲で執行してくださいという趣旨のものです。示達というのは、各職員に警告していることでもないし、職務命令でもないということになります。

 実効ある服務規律の確保する措置は行われないが、訓示があるので、局長が服務規律の確保を管理職に求めているということはなんとなく知らされているので、プレス発表の「服務規律確保の周知」は虚偽ではないとはいえる。

 重要なことは、これらの通知文書に同盟罷業が地公労法111項違反の違法行為ということは一言もないことです。 

 

 「服務の示達」の実例としてリークされたものとして平成27121日の例、グループウェアでの訓示です。

職員の服務について

世田谷営業所のみなさま

全水道東京水道労働組合は、「2015年春闘勝利」等と称し、

3月10日(木)午後330分から都庁ふれあいモールで3割動員決起集会を、

3月16日(水)午前830分から1時間のストライキをそれぞれ計画している模様です ストライキ等の行動に参加するために、多数の職員が職場を離れ、かつ権限ある上司の承認なく勤務しない等の行為に及ぶことは、当局業務の正常な運営に支障を生じさせるばかりでなく、都民の信頼に背く結果となることは明らかであり、これを放置することはできません。よって職員のみなさんは.全休の奉仕者として公共の利益のために全力を挙げて職務を遂行していただきますようお願いします

××××

 この文言は指定されてないので、「服務規律確保の周知」や下記「職員の皆さんへ」を参考に適当に作製される。違法行為とは言わない「お約束」になっている。違法行為と言わない意味は、第一に地方公務員法2911号で地方公務員法に違反する行為は懲戒処分にできるとしています。32条で法令遵守義務がありますので、ストライキ参加は地公労法111項違反なので法令遵守義務違反として服務規律違反になります。あえて違法行為と言わないのは、地方公務員法2911号、32条の適条はいたしませんと裏メッセージになっている。つまりこれは違法行為を助長する内容である。裏メッセージは組合員側もわかっているので片八百長みたいな訓示です。

 しかし違法行為の助長は現場の管理職だけでなく、違法行為として対応せよと言っていない局長以下の指図にもとづくものなので、組織ぐるみで違法行為に好意的といえる。

 「職員の皆さんへ」はストの前日まで貼りだすよう指示されているが、杉並営業所では庶務課長の指示がないといって貼りださない慣行で、形骸化し管理職も熱心さは全くないと聴いています。

 

職員の皆さんへ(平成20年頃の例-現在もフォーマットは同じと考えられる)一例)

                           東京都水道局長

  皆さんは、都民全体の奉仕者として、公共の利益のために全力を挙げて職務を行う立場にあります。とりわけ、今日都民が都政によせる関心と期待にこたえるため、皆さん一人ひとりの自覚と職務への精励が従来にも増して必要な時期にあります。

 とりわけ、今日都民が都政によせる関心と期待はさらに高まりつつあり、この期待に応えるため、皆さん一人ひとりの自覚と職務への精励が従来にも増して必要な時期にあります。

ところで、全水道東京水道労働組合は、明日318日に始業時から2時間のストライキを予定している模様です。

 皆さんが一斉に職場を離れることは、都民の生活に大きな影響を与えるばかりでなく、都政に対する信頼を都政に対する信頼を裏切ることになります。

 皆さんが、公務員の本分を十分にわきまえ、都民の批判を招くことのないように良識のある行動をとられることを求めます。

 

 上記の服務の示達と称する訓示、「職員の皆様へ」が警告に値しない。能書き並べ立てて粉飾していますが、偽装、インチキなものであることはいうまでもありません。肝心なことが書かれてないのです。ふつう争議行為の事前警告というと 「かかる違法行為を行った場合厳正な措置をとらざるを得ない」とか「必要な措置をとらざるを得ない」という文言は必ずあります。国の省庁の事例をピックアップすると、

 

「厳正な措置をとらざるを得ない」(全医労事件役員向け)

「必要な措置をとらざるを得ない」(全医労事件全職員向け)

「厳重に対処せざるを得ない」(JR東日本-千葉動労安全確認闘争)

「厳正な措置をとる」(全農林71賃金闘争)

「関係法令に基づき必要な措置をとらざるをえない」(全運輸近畿陸運支部事件)

「相当な処置をとらざるを得ない」(日本専売公社山形工場事件)

 

 この言い回しは、東京都では絶対にやらないわけですね。はじめから本部中闘意外懲戒処分にしない方針であり、プロレイバー学説のたとい違法な争議行為であっても責任を負うのは組合で、個別組合員の懲戒責任は問えないという理屈に合わせているものと考えられます。

 個別懲戒責任が問えるのは最高裁判例により明白なのに、「違法行為」と警告することは、組合側が組合員の意思統一団結破壊になるので許されないという主張に屈服しているようにみえる。少なくとも片八百長のような服務の示達慣行は是正し、別の警告書もしくは就業命令書に代えていくべきだと考えますがいかがですか。

 

職員部長  八百長とは何ですか名誉棄損です。そのようなラベリングは不当です。先ほども申したとおり、組合と安定的良好な関係を維持していくことが経営プランを着実に進め、それが、ひいては都民の利益となります。「違法行為」についても組合側の解釈もあるわけで、あまり刺激的な文言を入れて、関係悪化はさけたい。国の省庁は全職員に事前警告しているとおっしゃいますが、国の実務を真似しなくてもいいのです。東京都にはそれなりのやり方がある。懲戒処分について懲戒権者に広範な裁量権があります。別に各事業場の組合員は懲戒処分しない方針であってもそれが違法ではない。コンプライアンスに反するわけではありません。

 

議員  八百長がいやなら、「無気力相撲」「王手をかけない詰将棋」に譬えましょう。やる気があるなら、地公法291号、32条の適条でしかるべき措置をとるため「違法行為」と言うはず。初めから32条適条のやる気は毛頭ないから違法行為とは言わない。全面的に手加減しますよという裏メッセージが「服務の示達」ですよね。

 事前警告をしました。スト当日も就業命令しました。でも警告や職務命令に従わず違法行為を実践、指導、参加しましたということなら、懲戒処分されても仕方ないのに、警告もやらない就業命令もやらない。違法行為と警告すれば王手がかかるのです。なぜ王手をかけない。違法行為というと抗議活動で荒れて収拾がつかなくなるからですか。

 

職員部長 職員部長 王手をかけるとか追い詰めていくことだけが、適正な労務管理ではありません。裏メッセージとか懲戒処分はやらないサインになっているとかあなたの勝手な想像です。

 

議員  懲戒処分の前提としてではなく、地公労法32条で法令遵守義務というのがあるのですから、処分は結局しないとしても、職員すべてに違法行為と自覚させることもしないというのはコンプライアンス・ガバナンス上疑問ですし、事実上、争議行為を正当業務として扱っているのではないですか。組合役員は、労働組合法上の労組だから争議権があるのだと言っているとききましだが、職員が組合の情宣に洗脳されて、争議行為が正当業務と認識されている状況は正していかなければならないのではないですか。

 地公労法1条は正常な運営を最大限に確保と言っています。111項前段は職員及び組合は、地方公営企業等に対して同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができないとしているわけですから。違法行為する組合員の行動の監視、違法行為の阻止および排除、違法行為の計画にはきちんと警告するのは管理職として重要な任務だと思いますが、現状はそれを怠っていると思います。

 

職員部長  争議行為が正当業務でないから本部中闘は停職処分しています。それ以外懲戒処分がないからといって、それは政策判断で正当業務と認めているわけではありません。

 

議員  違法行為と言わないことがあなた方の処世術なのですか。

 

職員部長  嫌味ですか。あなたは警察的に違法行為を取り締まるという発想で発言されていますが、組合の言い分も理解しつつ、円滑良好な関係を維持し険悪な関係となることは避ける、そのような総合的判断で労務管理をやっているわけで、政策判断として間違っていないと思います。

 

議員  では、ストライキ当日の問題です。国の省庁ではスト当日の集会参加者に対し、職場復帰命令、就業命令は非常に重視しています。携帯メガホンやプラカードなどの小道具を使ったりして、徹底してやります。それは違法行為の阻止として当然のことだと思います。法令遵守義務違反、職務専念義務違反。集会の演説者等は地公労法111項の後段で禁止する「唆し」「あおり」でもあります。

 東京都では就業命令しないと聴いています。昭和54年頃まで職務命令していたという説もあるようです、少なくとも過去40年近くですね。ストライキ当日の就業命令はない具体的に前回のスト令和元年1220日に新宿営業所長だった××課長を召喚していますのでお答えください。

 事務室内のほぼ中央、検針担当のエリアで、組合旗が掲出され、ビラが貼られて営業所分会と給水課分室と合同40名ほどでスト集会がなされ、就業場所を占拠するかたちで業務妨害態様、シットダウンストライキがなされたと聴いています。集会では組合役員の××、××と給水課分室のもう一人が演説し、××が決議文朗読し、頑張ろう三唱なども行われたと聴いています。これらのスト指導者とともに集会参加者に、中止・解散命令・就業命令はしましたか。国の省庁ではスト指導者は現認検書を上申させ処分を検討します。現認検書は上申しましたか。また組合役員の××がICカードリーダ前にたって、出勤入力しないようピケに立っていたと聴いています。中止命令はしましたか。

  ××課長 集会場所、スト集会の参加人数は職員部監察指導課の指示で報告することになっていますが、就業命令や現認検書は指示がありません。上級部署の通達に従うこともコンプライアンスですから、そのとおり命令はしていません。

 

議員  就業命令をやらない意味は、争議行為中は労務指揮権から離脱しているから業務命令できないということですか、あるいは団結破壊になる。スト批准投票で組合員はスト指令に従うことを表明させているから支配介入になるとのお考えか。それとも組合から争議行為目的に理解を示し職務命令しないよう要請されているためですか。

 

  ××課長  そうではありません。職員部監察指導課の指示では職務命令せよとはなっていないからそれに従っているだけです。

 

議員  神戸税関事件・最三小判昭52.12.20で争議行為中の就業命令は適法です。職員部の方針はおかしいと思いませんか。就業命令をしないというのは争議行為が正当業務との認識ですか。

 また、この態様は業務妨害罪の犯罪構成該当行為との認識はないのですか。最高裁先例は、争議行為は労務提供拒否という不作為を本質とし、これに随伴する行為も消極的限度にとどまるべきであるとする前提(朝日新聞西部本社事件.最大判昭27.10.22、羽幌炭礦鉄道事件.最大判昭33.5.28)であり、プロレイバー学説のように、争議権に積極的な業務阻害権を含むことを否定しています。刑事免責がある私企業でも違法、公務員の職場は刑事免責もないので就業命令など管理意思を示せば容易に犯罪が成立する事案ですが、庁舎管理者として犯罪を拱手傍観してよいのか。

 管理職は違法行為を抑止し、正常な業務運営を維持するため、職務命令するのが債務の本旨の履行ではないですか。

 

  ××課長
××課長 このストで全水道東水労本部中央闘争委員は最大13日の停職処分をして相応の責任をとらせています。また懲戒処分ではないが支部長26人を訓告処分しています。われわれは上級部署の指示に従う立場です。

 

議員  新宿営業所では新人など非組合員が多い職場ときいていますが、××など組合役員から、組合が説得して就労しない非組合員については水道局処務規程55条「事故欠勤」(職員は、交通機関の事故等の不可抗力の原因により勤務できない場合に適用されるもの)とすることの要請はありましたか。また事故欠勤にした職員の人数と理由を説明してください。

 

  ××課長  これは慣例として認められているものなので、非組合員は出勤入力阻止のピケに従わなかった一人を除いて〇〇名を事故欠勤としました

 

議員  ストの前日に役員の××らが非組合員に対し、所長に事故欠勤を要請するので、出勤入力はせず出務しないことを説得していたと聴いています。組合役員から事故欠勤の要請はありましたか、組合と共謀か否かの事実確認です答えてください。

 

  ××課長
××課長 先ほども申した通り、職員部の承認により認められている慣行で、役員から要請があったかはもう6年前のことでもあり失念しましたが、事故欠勤を承認したことは間違いではありませんが、独自の判断で無く、組織の方針に従っているだけです。

 

議員 ストに参加した組合員は賃金カットするときいています。その分は組合が闘争資金から補償しているともきいています。しかし非組合員はストの協力を要請しても闘争資金で補償できないので、当局が事故欠勤というかたちで賃金を支給している。つまり非組合員をストに巻き込んでスト破りさせない意味があると思いますが、ノーワーク.ノーペイの原則からしてこれは不正な賃金支給ではありませんか。勤務実態がないのに賃金を請求している非組合員は詐欺行為に思えます。また通説では、第一組合がストを決行し、ストに参加しない第二組合員や非組合員が第一組合員のピケに阻まれて、就労が不能となった場合における第二組合員等の賃金については、使用者は民法五三六条一項によりその支払義務を免れるとする。支払い義務はないと考えますが、あなたはこの詐欺的不正行為を承認したことで責任があると思いますがどうですか。

 

  ××課長  職員部が承認している組織的方針である以上違法であるはずがありません。詐欺ではないです。

 

議員  職員部監察指導課の指導に従っているだけというなら埒が明かないので就業命令を指示していない職員部に質問します。再三と言いますが、国の争議行為対応実務ではスト当日の就業命令は必須の実務として重視しています。庁舎構内の集会は当然必ずやります。郵政や林野庁のように構内から離れた施設、空地、社会党議員自宅前とか、神社の社務所とかで集会をやることがありますが、その場合でも管理職が現地まで行って職場復帰命令をしています。最高裁は神戸税関事件・最三小判昭521220で競合説をとって国の争議行為対応実務を追認した。すなわち国家公務員法985項(現982項争議行為禁止)と国公法の服務規定違反とは競合的重畳的に成立する。国家公務員は、私企業における労働者と異なつて争議行為を禁止され、争議行為中であることを理由として、当然に、上司の命令に従う義務(国公法981項)、職務に専念すべき義務(同法1011項)、勤務時間中に組合活動を行つてはならない義務(人事院規則1413.17272項)等を免れないと説示した。 就業命令は適法、正当であることが確認されました。

 東京都で就業命令しないということは、神戸税関判決により否認された代表的なプロレイバー学説として籾井常喜「使用者による争議責任追及の限界」季刊労働法451962があるが、「争議中にあっては、労働者には、使用者の指揮・支配から公然と離脱する権利が保障されているのである。したがって、争議中、組合の統括のもとでおこなった組合員の行為にたいしては、使用者の労務指揮の権限が及ぶいわれはない」に従っているためなのか、もしくは、組合側から、争議中の就業命令は団結破壊、組合敵視として許されないと主張に従っているものと考えています。つまり組合により労務指揮権が掣肘さそれている。もしくは部分的に業務管理されてしまっている実態と考えますがどうですか。

 昭和54年頃までは職務命令もやったという説もあり、いつから組合活動に対して職務命令しなくなったのかわかりませんが、またもし、もし管理職からストで指導的な役割を果たした者の、集会の演説があおり、そそのかしとして現認検書の提出があった場合どうしますか。またそういうことはありますか。

 

職員部長 スト集会に対し職場復帰命令や就業命令を現場の管理職に特段義務付けしてはいませんが、管理職の職務命令の権限を否定はしているわけではありません。組合側の学説や組合側の主張に応じているということではなく、これは長年の慣行であり、知事部局と横並びで同じ対応です。もし就業命令を義務付けるとなると、水道局だけ突出して行うことはできませんので、オール都庁で合意形成が必要だと思いますが、長年この方法で対処しているので変える必要はしないと考えます。 29分以内職大は、現認検書の上申があり支部長を訓告としたケースがあります。ストに関してはありません。

 

議員  公務員エグゼクティブなら周知のことですが、全逓東京中郵事件・最大判昭41.10.26(昭和52年名古屋中郵判決で判例変更)や都教組勤評事件・最大判昭44.4.2(昭和51年岩教組学テ事件判決で判例変更)といった左傾化した最高裁判決が判例は労働基本権の尊重=争議権をコンセプトとしているため、公務員の争議行為禁止とは民事免責否認を意味し合憲としつつも、争議行為にも刑事免責があり正当業務と解釈しうる論理を展開したので、官公労も公然とストライキを標榜し、公務員ストも頻発する要因となりました。上記判決が判例を維持していたおよそ昭和40年代と50年代初期までならば、争議行為通常随伴行為不罰論とかありましたから、組合の主張に沿って、就業命令しないという政策判断は正しくはないがありえたとは思います。しかし名古屋中郵事件・最大判昭52.5.4で刑事免責はないということになった。この時点で官公労の争議行為は正当業務にならないと確定しました。ストライキが短時間であれ正当な争議行為とされる余地はなくなったのです。一連の判例変更はコペルニクス的転回であります。同年の神戸税関判決が争議中でも上司の命令に従う義務があるとし就業命令を適法とした以上、この時点で、国の省庁と同様に、就業命令し、スト実践指導者、率先助勢者の現認検書の上申を義務付ける方針に変えるべきだったと考えます。いやそうしたのかもしれないが、いずれにせよ其の後現在のような何もしない体制になった。ずるずると組合側の主張に従った労務管理を続行したことが間違いです。

 就業命令をやらない現状は、当局がストライキを支援加担していることになります。いや、本部中闘は停職処分しているから支援しているはずがないと言うかもしれませんが、さきほども申しました通り、3人とか4人とか停職の減収を組合が補償しても痛いものではない。組合がいやがるのは各事業場の下部組織の役員に懲戒処分が及んだり、大量処分です。

 国鉄や旧郵政省はストに対抗して業務命令、就業命令します。国労であれ動労であれ全逓であれ、組合のスト指令に従わず、当局の業務命令に従う組合員もいるのです。郵政や専売公社は、スト当日就労できる職員は申し出るようにしています。国鉄末期の昭和61215日の千葉動労ストでは、電車の運休を減らす努力として国鉄津田沼機関区等が乗務員に対し「私は、昭和 年 月 時 分 私の意思で就労することといたします。ついては、組合のストライキ指令に従うことなく、駅(区、所)長の命令する業務に従事いたします。」との確認書を提出させている(国鉄清算事業団事件.千葉地判平5.3.15)。地方公営企業では昭和37615日札幌市労連による市電と市バス乗務拒否を主眼とする争議行為において、業務拒否を知った交通局長は、電車部長に札幌交通労働組合員など係員(元乗務員の事務職)を使って運行させ、ピケ排除も合わせて命令した。電車部長や整備課長らは要員を集め、乗務やピケ排除の指示を出した。組合員である係員はストで欠務した乗務員の代務として業務命令には従っています(札幌地判昭41.5.22判時449)。

 北九州市の昭和4411.131時間半のストの参加率は、門司区880名中330名(38%)、小倉区1760名中500名(28%)、八幡区1710名中340名(20%)、戸畑区2180名中440名(20%)(北九州市職員組合事件・福岡地判.56.8.24労民323513)にとどまっています。

 これは政治ストで違法性が明白なのでこうなったのかも知れませんが、40年代の福岡県庁のケースも参加率は高くないです。警告や就業命令書も交付している。取締りをきちんとやっている自治体では、就業命令に従ってストを破る職員もかなりいるということです。

 一方、東京都水道局のスト参加率は非常に高い。実質ユニオンショップのようにほぼ全員参加のストになっていると聴いています。賃金カットした組合員の数は報告事項になっているからすぐ出てくるはずです。非組合員も組合役員の説得に応じ、ピケットラインを通過しないケースの事故欠勤も含め、数字、パーセンテージを教えてください。平成22年、26年、令和元年過去3回だけでいいですから。

 

職員部長 (たぶん回答すると思う)

 

議員  ストライキが違法なのに非常に高い数値のスト参加率です。これは職員一般に事前警告がなく、違法行為とは言わないことと、就業命令をやってないこと。非組合員については、事故欠勤として賃金カットせず、給与を与えて、組合と共謀してスト参加にインセンティブを与えていることが大きい。明かに当局は裏面からストライキを支援しているのですよ。

 当局が違法行為を組合と共謀のうえ助長支援しているというのはコンプライアンス・ガバナンス上深刻な問題と考えます。

 組合が当局に就業命令させない狙いとはたんに、地方公務員法32条(法令遵守義務と上司の命令に従う義務)の適条による懲戒処分をさせないということだけにあるのではありません。ストに消極的な組合員や非組合員を就業命令や特定の業務へ命令によりスト決行中も業務を継続させないためです。ストの効果を減殺するスト破りを許さないスト全員参加、完全防衛のためです。

 先に述べましたとおり最高裁及び多数の高裁判決が、公労法171項違反違法争議行為の内部統制権を否認していますし、地公労法111項違反のケースも下級審判例ですがあります。争議行為参加を組合は拘束できないのです。これは民間のユニオンショップの組合とちがうところです。そもそも統制権の及ばない非組合員は勿論組合員であれスト参加の勧誘、説得を受忍する義務はありません。 したがって就業命令しても支配介入とはなりません。

 またプロレイバー学説では、争議行為は業務の正常な運営を阻害する行為という性格側面を持つから、もし操業の自由が平時におけると同様争議時にも法的保障を受けるとすれば、操業の妨害を通じて要求貫徹を図る争議権の構造を否定し、操業妨害の効果を減殺させる争議対抗行為を、使用者に争議権が保障されていないのに認めることになるという主張をしている。

 しかし最高裁は私企業の操業の自由につき、山田鋼業事件・最大判昭25.11.15、朝日新聞西部支社事件最大判昭27.10.22といった初期の判例から一貫して認めていることです。

 正当なストライキであってもそれに対抗して、使用者が非組合員、スト反対派の組合員、第二組合員、臨時社員等を使って、操業を維持することが正当なことは、羽幌炭礦鉄道事件・最大判33.5.28刑集12-8-1694(争議続行決議に反対して脱退した組合員が結成した第二組合に加わった労働者+非組合員による操業)、横浜駐留軍事件.最二小判昭33.6.20刑集12-10-2250(非組合員+争議に加わらなかった組合員による操業に対する就業の妨害につき威力業務妨害罪の成立を認める)等累次の判例により明らかなことである。

さらに山陽電気軌道事件・最二小決昭53.11.15はバス事業者(現サンデン交通)において、私鉄総連系組合のストに反対する第二組合員の就労によるストライキ対抗措置としての操業行為は、完全に法的保護の対象となり、組合側の計画していた争議行為に対抗するためにとられた措置を理由として業務性を失うことはない旨説示しているとおりである。

 地方公営企業においてそもそもストライキが違法であり、地公労法112項条で職員を閉め出しし就業させないことはせきないと解釈されますから、当然違法行為に対抗して就業命令し、出来る限りスト参加から離反させていて職員をできるだけ就業させていく努力が必要と考えますが、それを完全に放棄しています。労務指揮権 職務命令の権限を放棄し、組合のストが成功するよう支援しているわけです。

 水道局は、プロレイバー学説に従い、使用者の操業の自由を否認しているのですか。ストライキの効果を減殺する職務命令を一切許さないという方針に沿っているのですか。

 

職員部長  我々千三百万都民のライフラインを預かる企業としましては、組合と良好安定的な労使関係のもとに、経営ブランによる合理化、業務移転を進めていきたい。従って組合と摩擦するようなことは極力避けたいと考えて居ります。毎回92%と94%という高いストライキ賛成の投票のもとに、ストライキをやっているわけですから、組合様の体面も重んじ、ストライキの効果を減殺する業務命令などは組合と敵対することは差し控えたい。無期限ストではない、たった1時間のストです。あなたは業務命令しないことによりと違法行為を助長しているとおっしゃいますが、1時間のために業務命令して摩擦を大きくするよりは、賢明な判断と考えております。

 

議員  国の省庁では1時間ストであれ、30分未満の職場大会であれ、就業命令しています。あなたがたは違法行為を阻止し正常な業務運営の確保という任務があるのではないですか。摩擦を避けたいという理由で違法行為が承認されるというのは当局と組合が癒着していることを意味し、コンプライアンス経営宣言に反します。

 そこで次の質問ですが、スト参加の組合員は賃金カットしているのに対し、組合の説得に応じ、ピケットラインを通過せず出勤しない非組合員に対し、事故欠勤として、賃金カットせず、給与を支給しています。職場離脱していることは同じなのに違う対応ですが、これはどのような経緯で、いつから始まったことなのか。組合からの要請があったのか理由を説明してください。

 水道局処務規程55条「事故欠勤」(職員は、交通機関の事故等の不可抗力の原因により勤務できない場合に適用されるもの)とありますが、この規程は、電車が不通、遅延があった時に、遅延証明により不可効力の遅刻については、出勤扱いとして救済する措置です。ストライキは不可効力ではない。そもそもピケッティングによるストの勧誘、説得は「そそのかし」「あおり」該たり違法、私企業のようにストライキが正当な行為である場合でも物理的にあるいは有形力を行使して阻止する場合、逮捕罪、威力業務妨害罪、住居侵入罪の犯罪構成要件該当する場合は正当な行為とみなされませんし、そもそもストが違法である公務員の職場では、名古屋中郵判決の判断枠組により、違法性が阻却されることはなく、意思を制圧して就労を妨害することは全く正当化されません。

 ストライキの完全防衛の権利とか物理的に阻止するピケット権などというものはありません。非組合員に就労の権利と義務がある以上、組合に非組合員の意思を制圧してストに参加させることは許されず、ストの勧誘に応じない職員はピケットラインを通過させなければならないわけだから、不可抗力ではないのである。仮に物理的に阻止された場合でも通説では、第一組合がストを決行し、ストに参加しない第二組合員や非組合員が第一組合員のピケに阻まれて、就労が事実上不能となった場合における第二組合員等の賃金については、使用者は民法五三六条一項によりその支払義務を免れる。勤務実態のない者に給与を支払う義務などないのである。

 勤務実態がないのに賃金カットせず出勤扱いとするのは、詐欺的な給与取得であり、賃金カットされる組合員との不公平であるばかりでなく、職場離脱の説得に応じる誘因となっており、事実上違法ストを支援する会計支出といえます。

 そもそも支払い義務などない。違法行為を助長支援する不正会計支出というほかありません。また管理職の一部は、就労を申し出る職員を敵対視し、非組合員に出勤時限前(82959秒まで)の登庁を許さず、したがって就業規則で義務付けている出勤時限前にICカードリーダにIDカードの操作(以前は挿入、現在はタッチ)又は職員番号をテンキーで押して、電磁的に出勤を届出する(昔の出勤簿に相当)ことを許さない。したがって必然的に遅参となること強要し、事故欠勤にします。事故欠勤の強要を指示する場合があると聞いています。

 職員の就労の権利と義務を侵害していると思いますが、非組合員は組合の説得に応じることを当然の前提として事故欠勤にする方針

これをやっている理由を説明してください。

 

職員部長 いつから、どのような経緯でということは不確定です。理由はやはりピケットラインを尊重するというのが労働者階級の倫理的義務でありますし、ピケを突破してストを破るというのは組合と敵対する行為ですので、これをやってもらっては職場内の和を乱し、いざこざが置きますのでよろしくない。職場は組合役員中心にまとまっていただきたい。協調性の乏しい職員は好ましくないということです。ピケットラインで衝突が起きることもよろしくないです。労-労間で抗争してもらうのは困りますから事故欠勤として出勤扱いとすることにより衝突は回避する意味がございます。

 

議員  組合の説得に応じて職務離脱する非組合員に賃金の支払い義務がありますか。他に同様の措置をとっている自治体があれば教えてください。

 

職員部長  支払い義務はたぶんないのだと思いますが、水道局処務規程55条「事故欠勤」は基本的には交通機関の遅延により、出勤時限に到着出来なかった場合の救済ですが、政策的判断による運用を行っております。たとえば新型コロナウイルスに罹患した場合は、事故欠勤として有給で休んでいただく。献血のために職場を離脱する場合にも事故欠勤にできます。そのような政策判断のひとつとして、ストライキ時の事故欠勤があり、これはさきほども申しました職場に軋轢があってはならない。労労間の亀裂、争いは経営上困るわけでして政策的判断として妥当なものであると考えております。

 

議員  要するに全員一致結束してストに参加はしていただくそれが当局の方針だということですね。ピケットラインの尊重が労働者階級の倫理で義務というのはとは労働組合運動昂揚期の左翼思想です。ストライキには反対派との衝突はつきものですが摩擦があるのは当然です。オープンショップの職場で、ユニオンショップではないのです。統制権はないのに、職制側が統制に協力するというのは異常なもので、非組合員の就労の権利と義務を侵害していますね。

 最高裁は違法ストの内部統制権を否定しているのに、そもそも統制権外の非組合員もストに巻き込んでいく。間違っていませんか。

 出勤扱いにするから就労権を侵害していないというかもしれませんが、金をやるから、ストに従えというもので。勤務実態がないのに詐欺的に給与支給を申請するのは悪事ですから、職員に悪事を強要しているともいえる。

 違法行為とは言わない。就業命令をやらない意味も腑に落ちました。就業命令をやらないというのは、非組合員も含めストライキ全員参加に誘導し、当局はストが破られないように業務命令をしないでストの防衛に協力するということですね。完全に組合に労務指揮権を抑えつけられています。当局と組合が癒着し、違法行為を助長加担している。職員部監察指導課が指導する争議行為対応実務は抜本的に刷新されるべきだと思います。

 地公労法111項を合憲とした北九州市交通局事件・最一小判昭63128は、争議行為禁止の制約原理を「住民全体ひいては国民全体の共同利益」と説示しており、従って東京都水道局が最高裁判例で否認されたプロレイバー学説に依拠し、組織総ぐるみ、非組合員も詐欺的に給与を取得しているので管理職・組合員・非組合委員総ぐるみで、争議行為に協力、助長、加担し、違法・犯罪構成要件該当行為を容認、実行している実態は、「住民全体‥‥国民全体の共同利益」という保護法益を否認、侵害していると糾弾されてしかるべきと事柄です。

 時間がないので、次に三六協定破棄闘争について質問します。水道局と過半数組合である全水道東水労の時間外に関する協定(三六協定)では1年おきに更新されるが、第10条で「この協約は、あらかじめ乙が指定する日については、保安のために必要な要員に限定して適用する」という組合が一方的に破棄できる条項があり 、令和5年度は、1115日、12192021日、123日、31112日を指定して超過勤務拒否闘争を実施した。近年では年間10日を超えることはまずないが、毎年恒例であるほか、業務手当闘争のあった平成16年には業務手当闘争で9日間連続の破棄闘争など、かなりの日数、超勤拒否闘争を行っていると聞いています。過去10年間の三六協定破棄闘争の実施した月日、平成16年も教えてください。

 

職員部長 (回答すると思う)

 

議員  当局は三六協定破棄闘争については、争議行為である疑いが濃いにもかかわらず、当局は全面的に組合の権利として適法として、組合の言い分は、強行規定で使用者に罰則があるので刑事処分になるので時間外は労務指揮権が消滅し、業務命令は許されないというもので、唯々諾々と従い、組合と共同して定時退庁を職員に命令している。ただしスト待機は認め、セキュリティ破りの深夜未明の出入りも承認していると聞いております。

 営業所では組合役員が午前8時半より前に行われている、レジの釣銭、領収証の用意、プリンター稼働の準備などの職務を管理職がやらせている。所長は組合役員の命令に唯々諾々としたがい下位職務を押し付けられると聞いています。組合役員が管理職を顎でこき使うなどということがあってよいのでしょうか。組合が職場を支配している姿をみせつけるという意味でもよくないことだと思いますが。

職員部長 時間外労働を命令できないのでやむをえないと思います。

 

議員  水道局の1日の所定労働時間は7時間45分と聴いています。18時間を超えていませんので、あと15分法内超勤が可能ですので、レジの準備等なら、法内超勤で業務命令してすむ問題なのでは。旧郵政省は全逓の三六協定未締結に対し法内超勤は合法ということで業務命令していました。

 

職員部長 労働協約との整合性とか検討しないと即答できません。

 

議員  地震が起きた場合ですね。震度に応じて緊急配備態勢は異なるが、震度6弱以上は夜間・休日発災時には緊急災害出動として、事務職員でも資器材置き場の解錠、給水拠点での応急給水器材の設置、住民への給水活動準備、最寄り事業所での業務といった任務が割り振られているということになっていますよね。

 平成16年を別として、他の年は三六協定拒否闘争による超勤拒否、定時退庁は10日未満が普通で、土日のケースはありません。そうすると、三六協定破棄闘争時に大災害が起きる確率というのは非常に低いとはいえます。現実にそうゆうケースはなかったのですから。

 ただ、平成23311日東日本大震災ですが、発災時春闘期間で、あと数日で三六協定拒否闘争の予定がありました。組合は春闘の大衆行動、スト配置の闘争を7月に延期していましたが、機関決定まで時間はかかったと聴いています。三六協定破棄予定も撤回し、当局は、計画停電対応の超過勤務を命令し、323日金町浄水場の水道水から乳児向けの飲用基準の約2倍に当たる放射性ヨウ素131を検出しこの時も問い合わせた対応として超過勤務命令したと聞いています。

そこでお聞きしますが例えば平成71061030分に文京区で工事に伴う作業中に既設の水道管が抜け出したため濁水が発生し、排水作業を完了し濁水を解消したのが午後3時最大6,000人の住民に影響があったということを水道局の広報で知りました。仮に三六協定破棄で時間外の業務命令ができないとき、こうした事故が起きた場合、保安要員だけでは対応できるのですか。 

 なお水道道特別作業隊は庶務経理も含め全員保安要員でした。しかし組織改正後の水道緊急隊は副隊が保安要員ですが、技術系の職員がいる工事係は保安要員ではなかった。職員部長と給水部長にもお聞きします。

 

職員部長 その場合は組合と保安協議をして、組合に例外的に業務命令を求めてもらいます。

   給水部長 (回答は予測できない、規模が大きくなれば保安要員だけでは対応できないというでしょう)

 

議員  そこでお聞きしますが、また、労基法33条により災害時は三六協定未締結でも業務命令できることになっているが、濁水事故は33条が適用されますか。33条適用なら、組合との保安協議は必要ない。保安協議で組合との合意が必要というのは事故対応がワンテンポ遅れるのではないですか、危機管理としては問題です。

 

職員部長 災害の定義ですか。先方の見解も知りたいですし回答は保留します。濁水事故対応なら保安協議でもめるということはありえず、合意はすぐ得られます。仮にワンテンポ遅れるとしても、罰則がある以上コンプライアンス上過半数組合との合意が必要だと思います。

 

議員  リークされた情報によると、労基法33条により災害時は三六協定未締結でも労基法32条の所定時間を超えて業務命令できるということは周知されていないとのことです。組合員は三六協定拒否闘争時に組合の情宣により、時間外の職務命令は強行規定で不可能、労務指揮権は消滅すると教育されていますし、役員でも労基法33条を知らない人がいると聴いています。なぜ周知しないのですか。

 

職員部長 東水労は三六協定破棄闘争を大衆行動の要として重視しています。かれらにとって重要な武器ですから、労基法33条に触れることは、組合の権利を制約するとする攻撃と受け取られ好ましくありません。発災時の訓練は毎年行っていますし、そんなことをいわなくても常識的にいって水道局の職員はかけつけますよ。実際令和3107日に2241分千葉県北西部を震源として足立区で震度5強の地震がありました。水道管の漏水は計23カ所で発生し空気弁の不具合によるものですが翌朝にはすべて復旧しましたので、深夜未明にもかかわらず手際よい対応で知事より労いの御言葉をいただいております。

 

議員  それは、平時の対応でしょ。超勤拒否闘争時はどうなりますか。組合のいう労務指揮権は消滅するという理屈を信じている人がいるかもしれない。たんに周知するだけです。防災は都政の重点政策ではないのですか。水道局は広報で23区内だけでも百カ所以上ある。応急給水拠点(災害時給水ステーション)で断水になっても、水が得られると盛んに宣伝していますが、三六協定破棄なので夜間は出動いたしませんということでは期待を裏切ることになる。災害時は労基法違反の業務命令ができると周知したほうがよいと思いますがどうですか。

 

職員部長 先ほども申したとおり、令和3年の震度5の時の職員の志気は高かった、そんなよけいなことをしなくても大丈夫です。

 

議員  33条に触れることはタブーですか。超勤拒否闘争で初動が遅れることはないと断言できますか。33条適用はどのケースからか、地震でなくても突発事故も含めるのかそのへんは組合と擦り合わせしていますか。時間外労働の協定ではいつでも組合の都合で三六協定が破棄できることになっている。ライフラインを預かる企業としては、リスクを最小限にすべきだと思いますが。

 

職員部長 三六協定はいつでも破棄できる協定になっているとはいえ、組合はこの権利を抑制的に行使しています。全逓みたいに年間通じてやっているわけでないです。あなたは三六協定破棄闘争は年間10日未満それも平日の夜間から朝方だけですから、災害が起きる確率はかなり低いと言ったじゃないですか。

 

議員  確率は低くても想定外ではありません。時間がないので三六協定破棄闘争について、当局が正当な行為としている点について疑問点を二三述べます。

   まず、内閣法制局意見と北九州市交通局事件・最一小判昭63.12.8に照らすと、水道局の三六協定破棄闘争は争議行為と認定される可能性は高いと考えます。

   内閣法制局意見昭32.9.9法制局一発22号(前田正道編『法制意見百選』766頁)がもっぱら他の争議行為目的のための争議手段として三六協定の締結、更新を拒否するときは争議行為にあたり、そうではなく、超勤に関する労働条件そのものを改めることを目的として協定の締結、更新を拒否する場合には争議行為に当たらないとしている。

「‥‥『業務の正常な運営』とは、業務の運営であって、経験則に照らし、経常・普通の状態にあると客観的に認められるものというと解されるが、特定の事業場において時間外又は休日の労働の行なわれることが常態であり、また、そういうことが行なわれることによってのみ当該事業場における業務の運営が経常・普通の状態にあると客観的に判断しうる事情の存するときは、労働組合が当該協定の有効期間の満了により、時間外又は休日の労働行なわれなくなった場合は、当該事業場における『業務の正常な運営』が阻害されたことになるといいうるところであろうと考えられる。してみれば、このような事情のもとに労働組合が当該協定の更新を拒否する行為は、争議行為にあたるといいうる‥‥‥‥労働組合が労働基準法第三六条を引用して協定の更新を拒否しているにかかわらず、労働組合以外の者が当該協定の更新の拒否をもって争議行為にあたると主張するためには、労働組合による当該協定の更新の拒否が、もっぱら時間外労働又は休日労働以外の事項についての労働関係に関してその保持する主張を貫徹するのに有利であるかどうかの判断に基き、ただその目的を達成するがためになされたものであることを立証しなければならない‥‥」

 この趣旨によれば、水道局は11月の都労連賃金確定闘争、12月の局内合理化闘争は三六協定の更新は闘争課題ではないから争議行為、3月の春闘は、三六協定が交渉事項とはいえ、他の闘争課題が主要ということなら、争議行為といいうるのではないかと考えます。

 まず水道局の事業場では時間外労働は常態としてある。ノー超勤ウィークなどを別として、定時で帰宅でき仕事の密度の職員は別として、営業所で経常業務が時間外に組みこまれている事実もあると聴いています。先に述べたレジやプリンター、釣銭の準備は、超勤手当も払っているほか、清掃委託でワックスがけなど時間外に組みこまれることがあり監督、検査業務が時間外で、超勤手当も予算化されており、その他設備点検等もあるが経常業務でも時間外労働・休日勤務が組みこまれているほか、給水部で配水管の取替、敷設替え等水道工事の夜間作業は頻繁にあり、近年は業者への委託が多いとはいえ、局職員と合同の作業、少なくとも監督業務はあるので、時間外労働がなければ水道局の業務は成り立たないことはいうまでもないと思います。

 北九州市交通局事件・最一小判昭63.12.8民集42-10-73についてですが、

 本件は、三六協定締結を拒否した超勤拒否闘争が、地公労法111項違反であり、懲戒処分を適法とした原判決を是認したものである。

   福岡地労委の救済命令取消訴訟で、一審棄却、二審原判決取消、救済命令を取消す。上告審棄却。争議行為の概略は

 北九州市の交通事業は独占の若松区を除き西鉄バスと競合関係にあって赤字が累積し、運賃改訂、給与改定、人員削減、高齢者退職完全実施、ワンマンカーへの移行等による再建計画案を作成し、北九州市交通局労組と協議を重ねたが意見の一致をみず、最終案を昭和42615日市議会に上程し(73日本会議可決)、621日~23日、627日から71日まで及び73日三六協定締結更新拒否による超過勤務拒否闘争(養護学校スクールバスおよび福岡行き定期便を除く)、ディーラー整備員入構拒否、完全点検闘争、五割休暇闘争が行われた。

 闘争によるバスの欠行率は、6/21 8.04%6/22 8.55%6/23 4.19% 6/27 8.48%6/28 8.60%6/29 3.90%6/30 6.62%7/1 6.40%7/2 1.47%7.3 36.79%5割休暇闘争)でした。

   北九州市交通局長は、12名の行為 が、同市交通事業の業務の正常な運営を阻害する行為であって、地公労法111項に違反し、北九州市交通局就業規程第9011号、地方公務員法第29条第1項第1、第3号に該当するので、前記の如き争議の計画、指導及び実行を行った執行委員長もしくはその他の役員である前記訴外X1ほか12名に対し、昭和四二年八月二日付をもって懲戒処分を行いました。

   停職6か月3(1、X2、X3バス運転手、うち1人執行委員長、)。停職3か月4(4、X5、X6、X7、X8バス運転手3人と事務1人、うち書記長1人、副執行委員長1)、停職1か月4(9、X10、X11、X12バス運転手2、車掌1、整備士1、うち中央委員1)。  

 北九州市交通局においては運行ダイヤの編成にあたっては事業管理者への諮問機関として労使双方の委員によって構成されるダイヤ審議委員会の審議を経て定められていたが、本件紛争当時の公示ダイヤは参加人側の同意のもとに一日約九勤務の超過勤務ダイヤを組み入れており、超過勤務拒否が行われれば正常なダイヤ運行に支障をきたすことは労働組合も充分承知のうえでこれを争議行動の手段として行ったものである。

 二審(救済命令取消)は、①労働組合が超過勤務の正当性を是認しながら超過勤務に関する労働条件自体ではなく、労使間の他の紛争について自己の要求を貫徹する手段として三六協定の締結ないし更新を拒否することは、同盟罷業に該当する(内閣法制局意見と同じ)。

②に労働組合の参加しているダイヤ編成審議会の審議を経て定められたダイヤ編成において、超勤が恒常化され、それを拒否すれば平常のダイヤ運行に支障を来す状況の下で労働組合が三六協定の締結ないし更新拒否により超勤拒否闘争を行ったことが地方公営企業労働関係法111項に禁止する争議行為に当ると判示してます。

上告審(棄却)

「当時の公示ダイヤは、上告参加人の同意のもとに一日9勤務が時間外勤務ダイヤとして編成されており、被上告人の交通局においては、このダイヤを実施するために超過勤務が恒常化していて、超過勤務拒否があれば、平常のダイヤ運行に支障を来す状況にあつた、‥‥上告参加人は、本件財政再建計画についての労使の交渉が難航することが予想されるようになった同年4月ころから、同協定を1日ないし数日の期間を定めて締結、更新しつつ事態の推移をみていたところ、同年615日本件財政再建計画案が市議会に上程されるや、前記戦術委員会の決定どおり超勤拒否闘争を行うこととし、バスの正常な運行のための同協定の締結、更新方の当局の要望を拒否して、右決定に係る期間各部門において組合員に時間外勤務を拒否させた、というのである。

‥‥交通局においては、従来から上告参加人同意のもとに三六協定の締結、更新を前提とした超過勤務が平常勤務として組み入れられてきたところ、上告参加人は、当該超過勤務自体に関する勤務条件については格別の要求を有していた事情は認められないのに、本件財政再建計画の実施阻止という要求を貫徹するための手段として、三六協定の締結、更新を拒否し、組合員に時間外勤務を拒否させて本件超勤拒否闘争を実施したということになるから、右超勤拒否闘争は、地公労法111項の禁止する争議行為に当たるものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。‥‥」と説示する。

 

 この判断は内閣法制意見がベースになっていますね。岩渕正紀調査官の解説、「本判決は‥‥本件の事案のもとにおいて、参加人組合が三六協定の締結、更新を拒否した超過勤務拒否闘争は争議行為にあたると判断したものであるが、三六協定の締結更新を前提とした残業が恒常化している職場において、労働者が、三六協定の締結、更新を拒否することを、他の要求を貫徹するための手段として用いたと認められる場合に、争議行為の成立を認めたものであるから、基本的には、B説(内閣法制局意見昭32.9.9法制局一発22号説)かそれに近い立場を前提としている‥‥」と述べる。

 この趣旨からすれば、残業が恒常化している職場の範疇に水道局も含まれると考えるので、水道局のケースも争議行為にあたるとみてよいのではないでしょうか。これは職制麻痺闘争ともいわれます。時間外の労務指揮権を掣肘する悪意があります。これについて、当局の見解は、北九州市交通局はバス運転手が9勤務、超勤が平常ダイヤに組みこまれている職場なので争議行為と認定されたが、水道局では常に残業を義務づけている職員はいないので争議行為にはあたらないとのいう見解ときいていますが、それでよろしゅうございますか。

 

職員部長  そのとおり北九州市交通局は超勤しないと平常ダイヤの運行ができない状況にあり、水道局にはそのようなことはない。三六協定拒否闘争組合の正当な権利であり適法です。職制を麻痺させる悪意とおっしゃる点は同意できません。

 

議員  慣行的事実として平常において超勤がない職場はないという点は、交通局も水道局も同じであって、組合は超勤が必要な職場と認識しているあることは一年間の有効期限で三六協定を締結していることでも明らかであつて、北九州市交通局の三六協定締結拒否が争議行為であっても、東京都水道局がそうではないと確信できる材料はないと思います。争議行為でないと言い切る根拠は脆弱ではないか。しかしこの議論は水かけ論ですので、仮に争議行為でないとしても業務命令すれば労基法違反だとしても、職務の執行それ自体は違法ではなく、刑法上保護される正当な業務となるので、責任は、使用者側がかぶるものですから、使用者側が違法承知で業務命令することはあってよいと考えます。

 つまり協定拒否闘争は、争議行為でなくても、怠業やストと同様の効果があり、職制の労務指揮権を麻痺させて、争議行為を有利にしていく目的でなされているので、労基法違反で罰則があるとしても、司法は法秩序全体の見地と違法争議行為に付随する行為との観点から、労基法上違法だとしても使用者側に不利な結論にはならないと考えられるからであります。主として国鉄ですが、刑事事件で労基法321項所定の労働時間に違反する業務命令に基づく業務であっても、職務の執行は違法にならない、刑法上の保護を失うものではないことについては、以下のような判例があります。

 

1)国鉄荒尾駅事件福岡高判昭3787下級裁判所刑事裁判例集478644

 三六協定未締結で助役に対し、ストライキのため運転室から離脱した機関士の職務代行を命じることは、公労法1条、労基法33条の法意に照らし正当とする。公務執行妨害、建造物侵入被告事件

2)威力業務妨害事件・名古屋高裁金沢支部第二部判決・昭401020

「就労が労働基準法違反の就労であるとして、‥‥同法が労働者の労働時間を制限した趣旨は労働者の保護にあるから、労働者が自ら就労し業務を遂行しようとする場合、右就労が同法所定の労働時間の制限に違反するものであつても、労働者の業務遂行そのものまでを違法視して右業務を威力業務妨害罪の保護対象から除外すべき理由はない」とした。(掲載誌不詳・引用は仙台鉄道管理局事件の検察官上告趣意書)

3)国鉄八代駅事件・熊本地判昭40319高等裁判所刑集193292

 三六協定未締結で退社後の助役に駅構内の警戒、取締り業務を命じたことは、抽象的職務権限が時間的に拡張するにすぎず、公務の執行として刑法第九五条第一項によって保護される。ホーム上のデモ行進 建造物侵入、公務執行妨害傷害 被告人を懲役六月、執行猶予二年 

4)国鉄八代駅事件・福岡高判昭4149判タ191202

 三六協定破棄の状況で退社後の助役に駅構内の警戒、取締の業務命令を発したことは、労基法33条、日本国有鉄道法332項により容認される。ただし量刑不当により原判決破棄 懲役三月執行猶予一年

5)浜松動労事件・東京高判昭42918判タ216

 三六協定未締結で違法な業務命令だとしても刑法上保護される。「違法な業務命令に基づいて機関士等が本件第二四列車に乗務しているという一事によって右列車の輸送業務が刑法第234条によって保護を受くべき『業務』に該当しなくなるということはできない」(この部分の引用は仙台鉄道管理局事件の上告趣意書)マス・ピケ事犯 威力業務妨害 控訴審原判決破棄 被告人動労中央執行委員懲役三月、動労中部地区評議会事務局長懲役二月、執行猶予一年( 最判昭45716判時605-95 上告審棄却)

6)仙台鉄道管理局事件・最二小判昭48525刑集2751115

 労働基準法所定の労働時間の制限を超える公務の執行が適法とされた最高裁判例。

 昭和39415日春闘仙台駅対策本部に仙台鉄道管理局総務部労働課職員全員を含む200余名を早朝から召集し、被害者Aは、駅構内の警戒および情報蒐集、組合員らの行動の監視、確認、組合員らによる違法行為の阻止、排除等の任務にあたるよう命じられていた非組合員であり、国労等の活動に備えていたが、過半を組織する国労・動労との三六協定は未締結だった。

 Aが労基法所定の18時間労働を超える時間帯に列車ボディに貼付されたビラを剥がす業務をしていたところ、動員された支援組合員に半円状に取り囲まれ、激しく抗議を受けたが、なお作業を続行したことなどから、支援組合員全電通宮城県支部執行委員がAの顔部を殴りけがを負わせたことから傷害罪と公務執行妨害罪に問われた。

一審(仙台地判昭41.1.8刑集2751148)公務執行妨害罪(懲役二月、執行猶予一年)。

二審(仙台高判昭44.4.1刑集2751170)は、破棄自判し、公務執行妨害罪の成立を否定し、傷害罪の成立のみを認めた(罰金五千円)。これに対して検察官が上告した。

 上告審第二小法廷は、原判決を破棄自判して公務執妨害罪の成立を認めた(懲役二月、執行猶予一年)。「労働基準法321項は、就労時間の点で労働者を保護することを目的とし、また、もっぱら使用者対労働者間の労働関係について使用者を規制の対象とする強行規定であるが、右の目的と関わりのない、労働者とその職務執行の相手方その他の第三者との間の法律関係にただちに影響を及ぼすような性質のものではない。してみると、本件職務命令に右強行規定の違反があったとしても、その法意にかんがみ、その違反は、右命令のうち前記Aに対して就労を拘束的に義務付ける部分の効力に影響を及ぼし得るにとどまり、職務執行の権限を付与する性質の部分についての効力にまで消長をきたすべき理由はないと解するのが相当であって、本件における右Aの職務行為は、その与えられた具体的権限に基づいて行われたものであると認めるのに十分である。‥‥すなわち、本件のように、法令により公務に従事する者とみなされる日本国有鉄道職員であって労働基準法の適用を受ける者に対する職務命令が、同法所定の労働時間の制限を超えて就労することをもその内容としており、かつ、その者の就労が右制限を超えたからといつて、そのために職務の執行が具体的権限を欠いて違法となるものではなく、これに対して暴行脅迫を加えたときは公務執行妨害罪の成立を妨げないと解するのが相当である。」

 柴田孝夫調査官の解説は労働基準法違反がどの程度に法律上の効果を及ぼすかについては、労働者の保護と関係ない事項について、労基法違反があってもただちに当該事項を無効としなくてはならないものではない。強行規定であるから、これに違反する労働は保護にあたいせず、超勤手当請求権もないとするのは失当であるとする。

 例えば契約担当社員が三六協定未締結の状況で8時間を超える超過時間に顧客と大きな契約をした、それは労基法違反の職務行為だからその効果は会社に帰属しないということはないと云う。

7)倉敷駅信号所事件・岡山地判昭50117刑裁資料228187

 マス・ピケ事犯、ストライキにより信号掛が職場を放棄したため、代務として駅長から転てつ信号業務を命じられた助役2名に対し、スクラムを組んで立ち塞がり、信号所への立入を阻止し、山陽本線、伯備線列車合計32本を最高154分、最低11分間に亘って停止遅延させた事案で、久留米駅事件方式により威力業務妨害罪の成立を認める。国労岡山地方本部副執行委員長S懲役五月、同書記長H懲役六月、執行猶予2年

 業務命令が労基法上違法であるからといって、直ちに、それに基づく業務が刑法二三四条の業務に該当しないというものではない。同法二三四条の業務としては業務主体がその地位において行なう業務であれば足りるものである。両助役は倉敷駅の助役として信号業務に就労しようとしたものであり、右業務は刑法二三四条により保護される業務に該当する。また、本件ピケッティングは、いずれも右両助役の就労に対してなされた違法のものです。

 以上のように国鉄では三六協定未締結でも時間外の業務命令を行ってます。(6)仙台鉄道管理局事件最高裁判決がもっとも重要な先例だが、労働基準法違反がどの程度に法律上の効果を及ぼすかについては、労働者の保護と関係ない事項について、労基法違反があってもただちに当該事項を無効としなくてはならないものではないのである。職務の執行が具体的権限を欠いて違法となるものではない。刑法上保護される業務であることは明かす。。

 要するに組合がいかに時間外の労務指揮権が消滅していると主張しても、職務の執行は刑法上保護されているから、殴ったり、就労阻止、逮捕行為をやったりすれば公務執行妨害や威力業務妨害罪、逮捕罪が成立する。

 

 三六協定破棄闘争は職制麻痺闘争で悪質なのに現状の対応は組合のいいなりであり、対応を改めるべき、総合的に判断して、まず、水道局の日勤定時退庁の労働時間7時間45分なので、あと15分は法内超勤できる。15分の超過勤務命令は違法ではなく、よってレジの準備などの下位職の代務を管理職が行うべきでなく、超勤命令すればよいのです。

 さらに18時間を超過する違法な超勤も不可欠な業務と予め日程に組まれていて委託業者に影響のある業務は違法であっても業務命令するものとすべきです。
 今後はスケジュールで事前に予定されていた時間外の業務、経常業務で時間外のもの、それを中止すれば 委託業者等の実務に工事の日程に支障があるもの等、必要不可欠な時間外の業務は、三六協定未締結でも業務命令する方針に変更するものとする。

 労基法上違法承知での業務命令になるが、労基法の立法趣旨と異なる、争議行為や職制を麻痺させる目的での三六協定破棄であるから、司法は法秩序全体の見地から判断をするから、過去の判例をみても使用者側が不利になる結論にはならないと考えますがいかがですか。

 

職員部長  ありえません。違法承知で業務命令するなどコンプライアンスに反しています。 

 

議員  ありえますよ。国鉄はストライキ時、三六協定未締結でも違法承知で時間外業務命令していましたし、世間から非難されることはないと思います。

 次に営業所におけるシャワー利用の問題ですが、営業所においては組合が当局との合意があるとして勤務時間中であれ時間外であれ、組合役員が自由にシャワーを利用できると触れ回り、一部の職員が勤務時間中でもシャワーを浴びているが、三菱重工長崎造船所事件・一審長崎地判平元.2.10労判534は、昭和484月三菱重工長崎造船所が完全週休二日制実施に伴い勤怠把握方法を変更し、洗身入浴等について所定時間外にするよう命じた事案で、少数組合が労働基準法上の労働時間に該当すると主張し、賃金の支払を請求したものである。

「作業後の洗身については、労働安全衛生規則625条が、使用者に対し、身体又は被服の汚染を伴う業務に関し、洗身等の設備の設置を義務付けしているだけで、労働者に洗身入浴させることまでも義務付けるものではなく、また洗身入浴は一般に本来の作業を遂行するうえで密接不可分な行為ともいえないので、洗身入浴しなければ通勤が著しく困難といった特段の事情がない限り原則として洗身入浴は使用者の指揮監督下における労務の提供と解されず、これに要する時間は労働基準法上の労働時間には該当しないというべきである‥‥」として請求を棄却しました。

 控訴審一審の判断を維持。三菱重工業長崎造船所(一次訴訟・組合側上告)事件・最一小判平12.3.9判時1709126頁も棄却。

 労働基準法上の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」としたうえで、「実作業の終了後に事業所内の施設において洗身等を行うことを義務付けられてはおらず、特に洗身等をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかったというのであるから、上告人らの洗身等は、これに引き続いてされた通勤服の着用を含めて、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができず‥‥洗身等に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当しない」と判示しました。

 洗身入浴とシャワーは同じと考えます。全裸になって洗うのだから。コンプライアンス上、最高裁判例により労働時間とはみなされないのだから、賃金カットの対象として管理されるべきであると思います。

 国鉄池袋電車区蒲田電車区事件・東京地判昭63.2.24労民集39121は国鉄蒲田電車区において、終業時刻の30分前から洗身施設で身体汚染を洗身して退区することが慣行とされ、池袋電車区でも、作業内容にかかわらず日勤勤務者が勤務時間中に洗身入浴する慣行があった。国鉄の職場規律の乱れが政治問題となった昭和58年に就業規則違反として禁止され、指揮監督を離脱したものとして職員賃金基準規定にもとづき賃金カットした事案で、勤務時間内の洗身入浴が電車区長の承認の下に長期間反覆継続されて行われてきたとしても、電車区長は就業規則で定められた勤務時間を短縮する権限を付与されておらず、また、身体汚染の除去は顔、手足の洗浄及び衣服の更衣等によって可能であり、勤務時間内の洗身入浴が必要不可欠なものであったとは認められず労使慣行として成立していたとはいえない。賃金減額の措置が、不当でないとされ、確認書が取り交わされたとしても、電車区長は就業規則の改正をもたらすことになる労働協約を締結する権限を有しないから、洗身時間についての有効な労働協約は成立しないとした。 それゆえ国労は、国鉄末期に勤務時間内の入浴の要求を取下げている。

 したがって、勤務時間中のシャワーは就業規則に相当する処務規程の「第五十八条 職員は、執務時間中みだりに執務の場所を離れてはならない。」に違反し、地方公務員法35条職務専念義務違反として賃金カットとともに、2911号の適条により懲戒処分も可能だと考えておりますが、水道局ではシャワー使い放題、自宅での水道代やガス代をけちって、職場でできることになっているのですか。組合とどのような合意、内規となっていますか。

 

職員部長 お言葉ですが、シャワーは入浴ではございません。水道局における仕分けは、入浴とは(入湯)を指し、浴槽につかるものです。汗は生理現象なので、汗を流すためシャワーを流すのは、同じく生理現象である、小便と同じで、勤務時間中にトイレに行くことと同じで「みだりに離席」したものとはみなさないこととしています。

 職員の努めとして、身だしなみも重要です、しかもお客様と接触もあるわけですからから汗臭いと失礼だ。勤務時間中のシャワーは奨励したいものであります。

議員  勤務時間のシャワータイムはみだりな離席でもなく、職務専念義務違反でもないとおっしゃる。シャワーは判例でいう「洗身入浴」にあたらないとの解釈はトリッキーですよ。限りなくクロに思います。しかも環境計画でも水の使用は減らすことになっているのではないですか。営業所は事務職だけで重筋労働の職場ではありません。労働衛生上勤務時間内のシャワーを奨励する理由はない。ふだん外勤がない職務の人でも利用していると聞いております。。浴室は労働衛生施設であって、従業員福祉のための施設ではないはずですよ。実際にはシャワーをしている人は一部に限られ、勤務時間中は問題だと考えている職員もすくなからずいると聴いております。身だしなみのため汗を流してさっぱりすることが、使用者の指揮監督下における労務の提供とされるのでしょうか甚だ疑問に思いますがね。

 最後に、和泉庁舎で長年エントランスや廊下で昼休みに保険会社の勧誘が許可されている問題です。水道局庁内管理規程で、保険勧誘行為は第五条八号により明文で禁止されている。但し庁内管理者が特別の事情があり、かつ、公務の円滑な遂行を妨げるおそれがないと認めて許可した場合は、当該許可に係る行為をすることができるとしており、禁止事項解除ができるので、庁舎管理者(和泉庁舎の場合は西部支所の庶務課長)の意向しだいで、禁止事項でも容認できるルーズなものとなっている。運用解釈が不明で、そもそも規定上禁止事項で積極的に許可する理由がないもの許可してしまっているのはコンプライアンスに反する。

 昨年度まで杉並営業所勤務の職員からのリークですが明治安田生命、日本生命、住友生命、第一生命といった大手から声をかけられたと聞いています。水道局は庁舎管理がゆるいということが伝わっていて、複数の会社が勧誘する場面もあるとのことです。

 これは、地方自治法238条の47項の行政財産の目的外使用として不許可とすべきで、庁内管理規程を見せて禁止事項ですといえば勧誘員は引き下がると思います。とにかく認めたい、執務室に入れてないのでいいという発想のようでが、禁止事項を柔軟に解釈されるとすれば規則はザルに等しい。昔は執務室内に入って、チラシや飴などくばり営業活動の傍ら、地域の情報がとれていい。結婚相手を世話になったと人もいるとか言っている職員もいると聞いていますが、規則で禁止しているのは、当局の公式な方針のわけで、保険会社の営業のために便宜供与する義務も理由もないように思われますがいかがですか。また、保険の勧誘を間違えて、料金を支払いに来た住民に対して行うこともありうるわけで、お客様に迷惑がかかりかねない。もし住民から、保険の勧誘は目的外使用として許可しているのはおかしい。しかも庁内管理規程の禁止事項なのになぜ禁止しない。運用解釈としてもこんなことが認められるのかと苦情があったらどう回答しますか。庁舎管理は経理部長ですか総務部長かどちらかお答えください。

 

   総務部長 苦情はございません、規則をそのように堅苦しく解釈する必要はございません。禁止事項解除も庁舎管理者の権限であり、それは当該事業所の実情に応じて運用していただければよいわけで、本局からコントロールするべき問題ではないように思われます。

 

議員  目的外利用も放置する。庁内管理規程の運用解釈もはっきりしない。ルーズさが浮き彫りとなったいえます。総じて納得のいかない答弁でした。

 

 

 

 

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1980「企業の施設管理権と組合活動--昭和541030日最高裁第三小法廷判決について」『法律のひろば』331

〇川神裕「判解」呉市立中学校教研集会学校施設使用不許可事件最三小判平1827『最高裁判所判例解説民事篇平成18年度(上)』

〇川口実1959「違法争議行為と懲戒」『季刊労働法32号』

〇菊池高志1983「労働契約.組合活動.企業秩序」法政研究 49(4)

〇岸井貞男1979「判批」全逓東北地本事件『昭和53年度重要判例解説』

〇慶谷淑夫1970「一般公務員の争議行為、政治活動による行政処分の問題点」『法律のひろば』2312

〇国武輝久

1971「判批」「公務員.公共企業体職員のピケット権--全逓横浜中郵大法廷判決〔45.9.16〕をめぐって」『法政理論』 3(2)

〇窪田隼人1962「労組法一条二項但書の『暴力の行使」について」『団結活動の法理-野村平爾教授還暦記念論文集』日本評論社1

〇黒原智宏2008 「公立学校施設の目的外使用の不許可処分と司法審査-呉市公立学校施設使用不許可国家賠償請求事件上告審判決」『自治研究』8410

〇江家義男1949「英米法における共謀罪(Conspiracy)」『早稲田法学』24巻3号

〇香城敏麿

「判解」名古屋中郵事件『最高裁判所判例解説刑事篇昭和52年』

「判解」名古屋中郵事件(第二次)『最高裁判所判例解説刑事篇昭和53年』

「判解」国鉄松山駅事件『最高裁判所判例解説刑事篇昭和53年』

〇小島弘信「海外労働事情 イギリス 雇用法の成立とその周辺-二つの行為準則と労働界の反応を中心として」『日本労働協会雑誌』22111980.11

〇小宮文人2006『現代イギリス雇用法』信山社

〇坂本重雄

1972「 アメリカにおける「営業の自由」と団結権」高柳信一・藤田勇編『資本主義法の形成と展開二:行政・労働と営業の自由』東京大学出版〇坂本武志 

「判解」札幌市労連事件『最高裁判所判例解説刑事篇昭和45年』

「判解」横浜中郵事件第一次判決『最高裁判所判例解説刑事篇昭和45年』

〇佐藤 昭夫

1970「判批」「札幌市労連最高裁決定とピケット権の展開」『労働法律旬報』756 [

1971「判批」「公労法違反の争議行為とピケッティング-横浜郵便局事件-」ジュリスト482

1974 「判批」(国労尼崎駅事件控訴審)「公労法違反争議とピケの正当性」『季刊労働法』93号 1974

〇佐藤敬二

1989「判批」「地方公務員労働組合による三六協定締結拒否と争議行為」『労働法律旬報』1216

〇白井駿 「判批」「市電の出庫阻止と威力業務妨害罪」『続刑法百選』1971

〇越山安久「判解」神戸税関事件『最高裁判所判例解説民事篇昭和52年』 

〇宍戸達徳「判解」四国財務局事件『最高裁判所判例解説民事篇昭和52年』

〇柴田孝夫「判解」仙台鉄道管理局事件『最高裁判所判例解説刑事篇昭和48年』

〇下井隆史.西谷敏.渡辺章(鼎談)「ビラ貼りと企業秩序.施設管理権--最高裁昭和五四年一〇月三〇日判決をめぐって」ジュリスト709 

〇新村正人「判批」大成観光事件ジュリスト773

「判解」『最高裁判所判例解説民事篇昭和57年』

◯末広厳太郎1946『労働組合法の解説』

〇鋤本豊博 1991「判批」「地方公務員法違反の争議行為の可罰性(上)-埼玉県教組同盟罷業事件最高裁判決を契機に)『北大法学論集』 42(2)

〇菅野和夫

1971「違法争議行為における団体責任と個人責任()-損害賠償責任の帰属の問題として」『法学協会雑誌』882

1981「公務員団体交渉の法律政策」アメリカ(一)」『法学協会雑誌』981

〇鈴木伸一

1982「日本の労働立法政策-ILО八七条約批准問題をめぐる政策決定過程」季刊人事行政19

〇盛誠吾 1989「判批」北九州市交通局事件.小倉西清掃事務所事件『ジュリスト』966

〇高木紘一1978「判批」「「政治活動の禁止と反戦プレートの着用-目黒電報電話局事件」」『ジュリスト』別冊666

〇高島良一1979「公企体関係労働判例の一〇年を顧みて」『季刊公企労研究』40

〇高橋保・谷口陽一

2006「イギリス・アメリカにおける初期労働運動と共謀法理」『創価法学』351号〇田口典男2007『イギリス労使関係のパラダイム転換と労働政策』ミネルヴァ書房

〇座談会竹下英男.水野勝.角田邦重「企業内における政治活動の自由-横浜ゴム事件.東京高裁判決をめぐって-」『労働法律旬報』850 1974

〇竹田有

2007「アメリカ例外論と反組合主義」古矢旬・山田史郎編『シリーズ・アメリカ研究の越境第2巻権力と暴力』ミネルヴァ書房

2010『アメリカ労働民衆の世界』ミネルヴァ書房

〇田島裕19789「コンスピラシー法理の研究-2-スター・チェンバーによるその法理の利用 」『 法学雑誌 』 25(1) 〇田中和夫1950「英米に於ける労働組合と共謀罪」『一橋論叢』23巻2

〇田中舘照橘1979「判比」専売公社山形工場事件『民商法雑誌』862105

〇谷原修身19949「コモン・ローにおける反独占思想(三)」『東洋法学』381

〇玉田勝也1978「判批」神戸税関事件『法律のひろば』313

〇田辺公二

1962『同盟罷業権について』司法研修所

1965『労働紛争と裁判』弘文堂(『同盟罷業権についても収録』

〇田村悦一 1999「判批」神戸税関事件『行政判例百選〔1〕』〔別冊ジュリスト150

〇田村和之 1979「判批」全逓東北地本事件『民商法雑誌』80599

〇千々岩力1996『アメリカ不当労働行為審査制度の研究」日本評論社

〇辻村 昌昭2010『現代労働法学の方法』信山社

〇土田伸也2012「判批」「学校施設使用許可と考慮事項の審査」別冊ジュリスト211『行政判例百選』第6

〇角田邦重1976「最近の最高裁におけるピケット論の動向(上)(下)」『労働判例』245246

〇常本照樹 1980「司法審査とリーガル.プロセス -アメリカでの司法の機能に関する理論的発展-」『北大法学論集』312号 

1984「経済.社会立法」と司法審査(1) -アメリカにおける「合理性の基準」に関する一考察-」『北大法学論集』351.2

〇坪内利彦1982「判批」「ホテルオークラ労組員のリボン闘争事件」法律のひろば357

〇外尾健一1978「判批」神戸税関事件 ジュリスト増刊〔基本判例解説シリーズ〕527

〇内藤則邦1985「イギリスの炭鉱ストライキ」『日本労働協会雑誌 』27(2)

〇中窪裕也2010『アメリカ労働法』第2版弘文堂。

〇中嶋士元也 1992「最高裁における『企業秩序論』」『季刊労働法』157

2002「判批」「就業時間中の組合活動――1)大成観光事件、(2)JR東日本(神奈川.国労バッジ)事件――」別冊ジュリスト165200

〇中西洋1998『《賃金》《職業=労働組合》《国家》の理論-近・現代の骨格を調べて,近未来をスケッチする-』 ミネルヴァ書房

〇中野次雄「判解」東京中郵事件『最高裁判所判例解説刑事篇昭和41年』

〇永井敏雄「判解」日教組スト事件『最高裁判所判例解説刑事篇平成元年』

「判解」岩教組スト事件『最高裁判所判例解説刑事篇平成元年』

「判解」埼教組スト事件『最高裁判所判例解説刑事篇平成二年』

〇長沼秀世.新川健三郎1991『アメリカ現代史』岩波書店1

〇長淵満男1999.12「オーストラリア労働関係における個別化と組合排除--90年代における労働関係法の改編」甲南大学法学会40(12)

〇仲野武志2007「判批」「公立学校施設の目的外使用の拒否の判断と管理者の裁量権」判時1956号177

〇中村秀次2010「刑法総論に関する裁判例資料-違法性及び違法性阻却-」『熊本ロージャーナル』42010年」

〇西谷敏1983「判批」「リボン闘争と懲戒処分――大成観光事件」ジュリスト臨時増刊792

〇野村勝法「判批」

2007労働判例と実務「(2)使用者の施設管理権と企業施設内組合活動[長崎地裁平成18.11.16判決] 『 人事実務 』  44(1019) [2007.8.115]

〇野村平爾

1956「ピケッティングの正当性の限界」『早稲田法学』313.4号『日本労働法の形成過程と理論』岩波書店1957所収

〇畠山武道1986「判批」(全逓東北地本事件判決)「服務違反事例(国家公務員法九九条の解釈)」『公務員判例百選』 134

〇早川征一郎2010『イギリスの炭鉱争議(198485年)』お茶の水書房

〇林和彦

1971「タフ・ヴェイル判決と立法闘争」『早稲田大学大学院法研論集』7号

2009「ニュージーランドにおける労働市場の規制緩和--一九九一年雇用契約法の研究(2.) 」『日本法学』5(1) 75(2) 

2009「ニュージーランドにおける労働市場の規制緩和--一九九一年雇用契約法の研究(1) 」『日本法学』75(1)

〇平尾武久1984『アメリカ労務管理の史的構造  アメリカ鉄鋼業を中心として』 千倉書房

〇藤木英雄

1957「労働争議行為と違法性」『 総合判例研究叢書/(5)刑法 -- 総論/刑. (8)

 1967 『可罰的違法性の理論』有信堂高文社

〇古川陽二

1987「イギリス炭鉱ストの一断面(外国労働法研究)」『日本労働法学会誌』(通号 69) 1987.05

2001「一〇・三〇判決以降の施設管理権と組合活動に関する判例動向」『労働法律旬報』151718

〇前田雅英

1984「判批」「労働組合役員の他組合員に対する暴行,逮捕行為と実質的違法阻却事由(最判昭和50.8.27) 」『警察研究』551号 

〇増井和男「判解」北九州市清掃事業局小倉西清掃事務所事件調査官解説 昭和63年度民事

〇升田嘉夫2011『戦後史のなかの国鉄労使-ストライキのあった時代』明石書店

〇松林和夫 1972 「イギリスにおける『団結禁止法』及び『主従法』の展開」高柳信一・藤田勇編『資本主義法の形成と展開二:行政・労働と営業の自由』東京大学出版

2005『イギリスの鉄道争議と裁判-タフ・ヴェイル判決の労働史』ミネルヴァ書房

〇水町勇一郎

2001『労働社会の変容と再生: フランス労働法制の歴史と理論』有斐閣

2005『集団の再生 -- アメリカ労働法制の歴史と理論』有斐閣

〇三井正信

2009「労働契約法と企業秩序・職場環境(1) <論説> 」廣島法學 33 2

2010「労働契約法と企業秩序・職場環境(2・完) <論説>」廣島法學 33 (3)

〇皆川治廣2008「判批」「判例解説 学校使用不許可処分損害賠償事件」『法令解説資料総覧』295号

〇美馬孝人2006「イギリス・ヴィクトリア期における労働組合の受容について」『季刊北海学園大学経済論集』542

〇宮田三郎1986「判批」 神戸税関事件評釈『公務員判例百選』〔別冊ジュリスト887779

〇深山喜一郎1966「公務員の争議権 : その「労働性」と「公共の福祉」」の観点から」法政研究. 32 (2/6)

〇峯村光郎1971『公労法・地公労法』日本評論社

〇村上朝満1993「公務員の争議権と刑罰について 」 高知論叢46

〇室井力1978 「判批」神戸税関事件『ジュリスト』66645

〇籾山錚吾1986「判比」(全逓東北地本事件判決) 『公務員判例百選』 181

〇矢崎秀一「判解」全逓東北地本役員懲戒免職事件『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和五三年度』

〇山内久史1986「アメリカ連邦労働政策の変化とレイバーインジャンクションの機能 : ノリスー・ラガーディア法の成立とタフト・ハートレー法以後の展開」『早稲田法学会誌』36

〇山崎勇治

2007「サッチャー元首相の『回顧録』に見る炭鉱ストライキ(1984-85年)」『商経論集』北九州市立大学第42巻2・3・4合併号

2008『石炭で栄え滅んだ大英帝国-産業革命からサッチャー改革まで-』ミネルヴァ書房

〇山本博1971「公務員の争議行為責任の法理」『法律時報』4312

〇横井芳弘1976「労働事件にみる村上コートの思想と論理」『労働法律旬報』908

〇渡辺章

1990「イギリスの労働法制とその変遷(講苑)」『中央労働時報』804

 2011『労働法講義 下 労使関係法・雇用関係法』信山社

 

[i] 済生会中央病院事件の最高裁の説示は「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、正当な組合活動に当たらない。そして、もとより、労働組合にとって利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用し得る権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うと解すべき理由はない(国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭541030‥‥労働時間中に職場集会を開く必要性を重視して、それが許されるとすることができないことも、前記説示に照らし当然である。‥‥本件警告書を交付したとしても、それは、ひっきょう支部組合又はその組合員の労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから、病院(上告人)の行為が不当労働行為に該当する余地はない」と断言しており、私企業判例だが、公法上の勤務関係の職場でも上記のような企業秩序論判例に準拠した判例がある以上(全逓新宿郵便局事件最三小判昭5812.20判時1102、大阪市組合事務所使用不許可処分事件・大阪高判平2762判時2282) 企業秩序論に依拠した労務管理は可能であり、判例法理に依拠して、就業規則等を整備していくのが筋である。

 

[ii] 千代田営業所付近平成12年度 26回登庁時にビラ貼りがあるのを確認した日、11/7、11/8、11/10、11/13、11/14、11/17、11/24、12/5、12/6、12/8、12/11、12/12、12/15、12/18、12/19、2/7、3/5、3/6、3/8、3/9、3/12、3/13、3/14、3/15、3/21、3/22 組合はステッカー闘争と言う。エレベーター前のエントランス、階段、通路に普通貼られている。事務室内に貼られることもある、3/9は所属長要請行動日で所長席付近の什器や天井にも貼られた。3/12は事務室内で、執務中視界に入ってくるところに貼られたので私自身が自力撤去した。技術員室や喫煙室に貼られているのを見た。セロテープなので剥がすのは容易であり、最終的に管理職が自力撤去するが、組合に遠慮して、午前中は放置していることがしばしばあった。エントランスは上から下までびっしり枚数の多い時もある。赤旗や大型のものも貼ることがある。

 取り締まりをしないので515分過ぎたらすぐ貼るが、勤務時間中でも貼るケースもあり。現在管理職だが当時若手の職員で組合役員に指図されてビラを貼っているのを見た。

 

[iii] 呉市立中学校教研集会学校施設使用不許可事件最三小判平18.2.7

 

判批[本多滝夫2007]は判旨を6項目に分けているが、学校教育特有の項目を除くと以下の5項目とみなすことができる。

判旨1 学校教育上支障がなくても不許可とする管理者の裁量を認める

   目的外使用の許可は「学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかであるが、そのような支障がないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく、行政財産である学校施設の目的及び用途と目的外使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるものである。」

 

判旨2 裁量権の濫用として違法となるかどうかは、社会通念審査+判断過程合理性審査による

「管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。」

 

判旨3 職員団体の使用の必要性が大きいからといって管理者に受忍義務はないとする国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54103と類似の説示。

「教職員の職員団体は、教職員を構成員とするとはいえ、その勤務条件の維持改善を図ることを目的とするものであって、学校における教育活動を直接目的とするものではないから、職員団体にとって使用の必要性が大きいからといって、管理者において職員団体の活動のためにする学校施設の使用を受忍し、許容しなければならない義務を負うものではないし、使用を許さないことが学校施設につき管理者が有する裁量権の逸脱又は濫用であると認められるような場合を除いては、その使用不許可が違法となるものでもない。」

  厳密に言えば地方自治法238条の47項(旧4項)の目的外使用許可の判断枠組みは一般私企業の指導判例である国労札幌地本判決とはかなり違う。同判決は「当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては‥‥正当な組合活動として許容されるところであるということはできない。」という特段の事情論であるが、風穴は開けられていないし、行政裁量のような、判断過程合理性審査はとらないのであるから、一般私企業の施設管理権とは一線を画しているが、受忍義務はないという趣旨は同じということである。

 

判旨4 従前の運用と異なる取扱についての判断枠組

「従前、同一目的での使用許可申請を物理的支障のない限り許可してきたという運用があったとしても、そのことから直ちに、従前と異なる取扱いをすることが裁量権の濫用となるものではない。もっとも、従前の許可の運用は、使用目的の相当性やこれと異なる取扱いの動機の不当性を推認させることがあったり、比例原則ないし平等原則の観点から、裁量権濫用に当たるか否かの判断において考慮すべき要素となったりすることは否定できない。」

 

判旨5 事実関係に過大考慮・過小考慮定式を当てはめる判断枠組

「本件不許可処分は、重視すべきでない考慮要素を重視するなど、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており、他方、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。」

 

   本件使用不許可が裁量権の濫用という結論に導いたのが以下のように、判断過程合理性審査における過大考慮・過小考慮定式を当てはめたことにある。

 

(1)当然考慮すべき事項を十分考慮していない

 

 教研集会は教育特例法19条、20条(平成15年改正で21条・22条)の趣旨にかなう自主研修であることを考慮してない

 

「教育研究集会は、被上告人の労働運動としての側面も強く有するもの‥‥教員らによる自主的研修としての側面をも有しているところ、その側面に関する限りは、自主的で自律的な研修を奨励する教育公務員特例法19条、20[平成15年改正で21条・22条・引用)の趣旨にかなうものであり‥‥使用目的が相当なものである」

 コメント-これが本件を裁量権の濫用とする決め手ともいえる。一審広島地判平14.3.28民集602443号は、市教委に積極的に研修の場として学校施設を確保すべき配慮義務があるとし、本件を、目的外使用の問題ではなく、設置目的に沿った使用の問題と捉えているような行論を展開している[安藤高行2010]。こまの、最高裁も教研集会に好意的だった一審の論理構成に引きずられた感がしないでもない。

   行政法学者の仲野武志[2007]は、教研集会には教職員の人事、労働条件等の分科会もあり、純粋に労働運動として性格が表れており、自主的研修としての性格と、労働運動としての性格を別個の対象事実として捉え、労働運動としての性格を重視したとしても適正な考慮であるはずと批判的な見解を示している。

 

B 学校施設でなく他の公共施設を利用する場合利便性に大きな差違があることを考慮してない。

 

 「教育研究集会の中でも学校教科項目の研究討議を行う分科会の場として、実験台、作業台等の教育設備や実験器具、体育用具等、多くの教科に関する教育用具及び備品が備わっている学校施設を利用することの必要性が高いことは明らかであり、学校施設を利用する場合と他の公共施設を利用する場合とで、本件集会の分科会活動にとっての利便性に大きな差違があることは否定できない。」

(2)重視すべきでない考慮要素を重視している(過大考慮)

A 右翼団体の妨害行動は過大考慮である

 

  「過去‥‥学校に右翼団体の街宣車が来て街宣活動を行ったことがあったという‥‥しかしながら、本件不許可処分の時点で、本件集会について具体的な妨害の動きがあったことは認められず(‥‥実際には右翼団体等による妨害行動は行われなかった‥‥)、本件集会の予定された日は、休校日である土曜日と日曜日であり、生徒の登校は予定されていなかったことからすると、仮に妨害行動がされても、生徒に対する影響は間接的なものにとどまる可能性が高かった」

B 教研集会の政治的性格は過大考慮である

  「教育研究集会の要綱などの刊行物に学習指導要領や文部省の是正指導に対して批判的な内容の記載が存在することは認められるが、いずれも抽象的な表現にとどまり、本件集会において具体的にどのような討議がされるかは不明であるし、また、それらが本件集会において自主的研修の側面を排除し、又はこれを大きくしのぐほどに中心的な討議対象となるものとまでは認められないのであって、本件集会をもって人事院規則147所定の政治的行為に当たるものということはできず、また、これまでの教育研究集会の経緯からしても、上記の点から、本件集会を学校施設で開催することにより教育上の悪影響が生ずるとする評価を合理的なものということはできない。」

コメント-仲野武志[2007]はこの説示についても、人事院規則1476項の犯罪構成要件にならない限り使用目的の相当性の考慮対象事項になせないと解されるが、そのような絞り込みの根拠は必ずしも明確でないと疑問を呈し、全体として過大考慮・過小考慮の判定の根拠は脆弱だとする。最高裁は不許可処分を違法とする論理の脆弱性を補強するために、従前の運用と異なる取扱から「推認」された「動機の不当性」(処分は、県教委等の教育委員会と被上告人との緊張関係と対立の激化を背景として行われたことを指すものと思われる)を補強論理としているが、これがなければこの判例は批判を免れることができなかったと述べているが同感である。

   私は、最高裁が行政財産の目的外使用不許可の司法審査で、過大考慮・過小考慮定式を加えたことに批判的な見方をとる。

   なぜならば、この審査方式の先例が神戸市立工業高等専門学校においてエホバの証人の剣道実技履修の拒否のため原級留置となったため退学処分とされた事案で、処分は、裁量権の範囲を超える違法なものした最二小判平838民集503469なのである。これは信教の自由や教育を受ける権利という人権にかかわる深刻な問題で、違憲判断にしてもよさそうな事案、密度の濃い司法審査であるのは当然であってそれに対して本件は管理者が広範な裁量権を有する庁舎管理権の事案で同列の問題とはいえないからである。

   とはいえ、最高裁の先例として確立している以上、行政財産の目的外使用不許可は、過大考慮・過小考慮定式による判断過程の合理性審査に耐えられる判断でなければならない。しかし過大考慮・過小考慮定式による判断過程審査が、教研集会以外で組合側に有利に働くことはあまりないと考えられる。

 

[iv] 2 例外二判例は先例たりえないその理由

1)三友炭鉱事件最三小判昭31.12.11

   三友炭鉱事件判決とは可罰的違法性論の典型とみなされるものである。罷業から脱退して生産業務に従事する者に対し「口頭又は文書による平和的説得の方法で就業中止を要求しうることはいうまでもないが、これらの者に対して、暴行、脅迫もしくは威力をもって就業を中止させることは、一般的には違法と解すべきである。」としたうえで、しかしながら違法性を阻却することがあることを認め、「諸般の状況を考慮して慎重に判断されなければならない」とし「炭鉱労働組合が同盟罷業中一部組合員が罷業から脱退して会社の石炭運搬業務に従事し石炭を積載した炭車を連結したガソリン車の運転を開始した際、組合婦人部長たる被告人が、右一部組合員の就業は経営者側との不純な動機に出たもので罷業を妨害する裏切行為であり、これにより罷業が目的を達し得なくなると考え、既に多数組合員等がガソリン車の前方線路上に立ち塞がり、座り込みまたは横臥してその進行を阻止しているところに参加して『ここを通るなら自分たちを轢き殺して通れ』と怒号して就業組合員のガソリン車の運転を妨害したというのであって、被告人の右行為はいわば同組合内部の出来事であり、しかもすでに多数組合員が運転行為を阻止している際、あとからこれに参加したというに止まるから」本件の具体的事情ではまだ違法ということはできないとしたものである。

   最高裁判決では触れられてないが、「諸般の状況」には三友炭鉱の出炭成績は悪くなかったにもかかわらず、社宅の飲料水の如きは山麓に一間半の水槽をつくり、その溜まり水を手押しポンプで汲出すという粗悪な設備で消毒もなく、平素も行列をつくって汲み水を待つ状況に放任されており、浴場も山間部にわずかに屋根があるだけで脱衣所なく濁った構内の腐水を使用し混浴であったが、経営者側が改善に着手する模様がなかったこと、被告人は経営者と縁故のある元組合長らが突然就業を開始した裏切り行為に極度に憤激したといった格別の事情を斟酌したものと考えられる。したがって、あくまでも同情的な例外的判例とみなす。

 

2)札幌市労連事件(札幌市電ピケット事件)最三小決昭45.6.23

   マス・ピケ 威力業務妨害 一審・二審・上告審 いずれも無罪。ここが本意見書の勘所になる。これを先例として物理的阻止のピケットし正当化できないことを述べる。

   車庫より発進阻止のピケッティング 威力業務妨害 一審・二審・上告審 いずれも無罪。昭和45年の札幌市労連事件最高裁決定はピケッティングの犯罪の成否につき先例の判断基準を変更していないが、原判決が威力業務妨害罪の構成要件に該当することを認め「このような行為は、それが争議行為として行なわれた場合においても、一般には許容されるべきものとは認められない。」と説示しておきながら、具体的事情を斟酌して可罰的違法性にいたらないものとした。三友炭鉱事件に続いて例外的裁判例といえるのであって、最高裁の判例法理の骨格自体を変えるものではない。

   事案は昭和37615日札幌市労連による市電と市バス乗務拒否を主眼とする争議行為において、地公労法適用の札幌市職員である被告人3人が他の40名の組合員とともに交通局中央車庫門扉付近において、当局の業務命令によって乗車した罷業脱落組合員の運転する市電の前にスクラムを組むなどして立ち塞がり、「降りろ」「下がれ」等と怒号しながら電車を揺さぶる等したため、当局側ともみ合い、約30分電車の運行を阻止したことが、威力業務妨害罪として起訴されたが、無罪とする原判決を維持した。

  一審札幌地判昭41.5.22判時449は、威力業務妨害罪の構成要件に該当するが、労働組合法12項の正当な争議行為にあたるとして無罪。原判決札幌高判昭42.4.27でも、業務妨害罪の構成要件に一応該当するものと認めながら、正当な争議行為と認められるから、実質的違法性を欠き、罪とならないとして控訴を棄却。

 本件ピケットの特徴として、組合役員の指導ではなく、突発的、非計画的なものだと一審は述べている。

   札幌市労連の部分ストで、朝6時から市電とバスの乗務拒否を指令した。しかし交通局でも整備課など日勤は通常勤務だった。中央車庫以外では白石車庫の13台のバスが整備課職員の代務で稼働したが他は動いていない。市電中央車庫でも闘争指令により電車は車庫に戻ってはきたが、交通局長が係員(運転手より昇進して事務系の職務にある者)をスト参加の乗務員の代務として業務命令する方針を示し、整備課長にピケットの排除を命じた。40人のピケとは、交通局以外の市労連組合員が指令伝達説得のため1516動員されていて、指令により乗務を拒否した乗務員が門扉あたりにたむろしていて、総勢70人いて、そのうち40人が電車発進阻止のピケに加わったということである。整備課長が係員(組合員でもある)に乗務を命じ、組合員多数と非組合員が業務命令にしたがって電車に乗務、整備課長自らピケの排除にあたったうえ、整備課の職員(組合員でもある)ピケの排除の業務命令し10名が従った。組合員と組合員(部分ストなので闘争指令を受けず通常勤務)を衝突する事態となった。業務命令に従う組合員がそこそこいたということである。ありうることだが、通例では第一組合と第二組合+非組合員で対立するが、そうではなく闘争指令を受けた組合員とそうでない組合員が衝突したのである。組合側は想定外だったのかもしれない。

   動員された組合員+スト参加の組合員が、たんに、組合員が代務として乗務したことに対する怒りだけでなく、課長や課長に従った組合員10名ほどが引き抜きにあたったことから憤激した組合員により突発的に組合員の乗務する電車の車庫発進を阻止する行為がなされたというものである。本部は職制が業務命令した場合、積極的な指示はしていない状況、但し警察が関与した場合は摩擦を起こさないという指示はあったので、警察が関与した時点でピケは解除されたというものである。

国鉄では、列車発進を止める実力ピケには、鉄道公安職員が引き抜きを行うが、課長や整備課職員がピケ排除に関与している点でも特徴的である。

 

事件の内容について一審から抜粋、要約

 被告人らに対する本件公訴事実は、

「被告人Sは札幌市労連傘下の札幌交通労働組合執行委員、Nは札幌交通労働組合整備支部長。Yは同傘下の札幌市役所労働組合中央委員。昭和37615日早朝から行なわれた札幌市電ストに際し同日午前10時ごろ、札幌市交通局中央車庫において、電車運行確保のため同交通局長の業務命令により先頭車第二二二号電車等が出庫しようとして運行を始めた折から、市労連傘下組合員S他約40名と共謀のうえ、右電車の運行を阻止しようと企て、同日午前10時ごろから1034分ごろまで右組合員約40名と共に同市吏員Y右業務命令により運転業務に従事中の第二二二号電車の前部に接着して結集し、スクラムを組むなどしてその前面に立ち塞がり労働歌を高唱し、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」と掛声をかけ、「降りろ、降りろ」「さがれ、さがれ」等と怒号しながら、同電車をゆさぶり、或は同車の前部を前より押したり、それにぶらさがるなどして同人が運転していた電車の運行を阻止して不能ならしめ、もつて威力を用いて札幌市の電車運行業務を妨害したものである。」

というのである。

 

 昭和37年六月一五日午前六時ごろ、F闘争委員長が交通局において、同局庁舎内で交渉の経過を見守っていた市労連傘下組合の組合員を通じ全組合員に対しつぎのような指令第三号を口頭で発した。

1 一五日午前六時から乗務員は電車、バスの乗務を拒否せよ。

2 観光、清掃および建設部門については追って指令する。

3 全組合員は非常事態を深く理解し、今こそ統一と団結をかため、要求貫徹のため全力をあげることを要請する。

そして右指令と同時に、当面の行動指示として、

イ 電車、バスの乗務員は札幌市内円山総合グランドに集合し待機すること。

ロ 職場に戻る組合員は職場でこれまでの経過と闘争指令を報告すること。

ハ 営業所等に戻る組合員と当日非番の組合員は、営業所等で他の組合員に対し乗務拒否を伝達し、乗務出勤者の説得にあたること、また警察官が導入された場合はまさつを起さぬこと。

 闘争委員会の闘争指令に基づき、バス、電車の乗務員は乗務を拒否し円山隆光寺に集合した。その結果、市バスについては、北光、琴似、白石の三車庫からのバスの出庫はほとんどなく、わずかに白石車庫などから、自動車部整備係長より出庫を命ぜられた、市労連組合員を含む整備課の職員、整備工によって運転されたバス約一三台が営業路線に出ただけであり、また市電については、幌北、中央の両車庫から早朝出庫した数台の電車は乗務員の途中からの乗務拒否によってそのほとんどが車庫に戻つたのであるが、中央車庫において午前一〇時すぎごろ電車部長、整備課長らが多数の組合員を含む係員二四名に対し電車を運転して営業路線に出ることを命じ、それに基づいて先頭車である二二二号電車に乗車した、札幌交通労働組合の組合員であるYが同車を運転、出庫させようとした際に若干の混乱が生じ、これが本件公訴の対象となったものである。 

 

第三 被告人らの行動

一 中央車庫における状況

 午前550分ごろ、中央車庫から7台の電車が出庫したが、闘争指令が出ると乗務員は乗務を拒否し、全車両が6時ごろまでに車庫に戻された。乗務員や札幌市役所労働組合の関係者ら約70名が門扉付近に集まり、その後、乗務員は円山隆光寺へ向かった。市労連組合員も加わり、出勤してくる乗務員に対し闘争指令を伝えて説得した結果、多くが乗務を拒否し、円山へ向かった。その間、役職者が車庫に入ろうとしましたが拒否され、一部は別経路から入った

 

 出勤整備課員の平常勤務

 午前八時過ぎ、交通局電車部整備課の職員は中央車庫に通常どおり出勤し、作業服に着替えて各自の職場へ向かった。八時三〇分から多くが勤務を開始したが、一部は市労連の闘争について話していた。八時四〇分ごろ、札幌交通労働組合整備支部長が木工場に約四〇名の組合員を集め、「特別指令はないので通常勤務」と伝えた。その後、皆職場に戻り、課長の集合命令まで業務を続けた。

 

交通局側の電車出庫準備

 業務拒否を知った交通局長は、電車部長に札幌交通労働組合員など係員(元乗務員の事務職)を使って運行させ、ピケ排除も合わせて命令した。電車部長や整備課長らは要員を集め、乗務やピケ排除の指示を出した。警告板や拡声器も用意され、市労連組合員にはピケ解除を呼びかけた。その後、課長が整備課員に協力を求めてピケ排除を指示したところ、一部がこれに従った。

 二二二号車の出庫阻止

   課長ら十数名は午前十時ごろ門扉のかんぬきや針金を外して開門した。その間、市労連組合員との争いはなかった。開門後、S所長の合図で電車十二台が順に発進し、二二二号車は門扉の約四メートル手前まで進んだ。

   市労連組合員約15名は電車のエンジン音に気づき、前に立ちふさがって運転手らに業務拒否を伝えた。これに対し、課長や所長、整備課の職員らは組合員をどかそうとした。

   課長の命令と組合の指示の間で迷った整備課員たちは、一部が職場に戻り、他は様子をうかがっていた。やがて約20人が市労連側の組合員に合流し、当局側の組合員引き抜き行動に抗議した。当局側は「ワッショイ」と掛け声をかけ組合員を押しのけようとしましたが、人数が足りず、午前1010分頃に中断。もみ合いはあったものの、暴力や脅迫はなく、小休止後も組合員らはスクラムを組んで気勢を上げ、午前1020分ごろまでその状態が続いた。

   整備課員によるピケット排除が失敗したことを知った電車部長は、交通局長の指示で札幌中央警察署長に警察官の出動を要請した。また、H整備課長に警察と相談して再度ピケット排除を指示しました。整備課長は運輸係長らに「今のままでは警察は動かないので、もっと強く対応する」と伝え、乗務要員も加えてピケット排除を決定した。一部反対意見も出たが、最終的には課長の方針に従い行動した。

 午前一〇時二〇分すぎごろ、このようにしてそろった当局側二五、六名の者は前記の課長の方針をうけて、二二二号車前面でスクラムを組んでいた市労連組合員の東側に至り、S所長の合図のもとにY運転手が同車をにわかに四、五〇センチメートルほど後退させた際、それにあわせるようにして組合員らを東から西に押し、あるいは同車前面の外側でピケットに加わっている者の脇の下をくすぐったり、その胴、手、肩などをつかんで引っ張り出すなどして排除につとめ、このため電車がややゆれ動いたようなこともあつたが、結局ピケット全体としては、当局側が押したときは向うに傾くが、力をゆるめると手前へ戻るという波のような動きに約一〇分間終始した。当局側と組合側は顔見知りの者が多く、互いに照れて笑い合い、時にはどちら側からともなく「お互いに疲れるから休みましようや。」などと話し合った者もあつた有様であって、組合側の者が当局側の者を突いたり殴ったりなどするような行為はみられなかつた。そして同一〇時二五分ごろ警察官が「違法なピケだから五分以内にピケを解くよう。」警告を発し、課長らによる引き抜き行為がなおも継続していた一〇時三二分ごろ指揮官の命令を受けた機動隊の警察官約六〇数名が二二二号車前面にピケットを張る組合員の排除に入り、ピケットを張っていた組合員らは、電車のバンパーにつかまって排除されまいとした者も一、二名いたが、他の者は全く抵抗せず、すぐ同車の前面をはなれて退き、その結果午前一〇時三四分、Y運転の二二二号電車を先頭とする一二台の電車は順次出庫して予定の営業路線に出て営業を始めた。

 被告人らの行為の構成要件該当性について

(一)以上に判示した、被告人Yの約三〇分間にわたって二二二号電車の前に立ち塞つた行為、被告人杉浦の約五分間にわたり同電車前に立ち塞がる組合員のピケットに加わった行為および被告人難波のこれに協力した行為は、いずれも他の約四〇名の市労連組合員と共謀し、威力を用いて札幌市の電車運行業務を妨害したものであつて刑法六〇条、二三四条の構成要件に該当する。

 

第七 被告人S、同Nおよび同Yの加担した争議行為の違法性

一 争議行為において正当性が問題となるためには、その行為が争議行為とはいえないようなものであつてはならないことは当然である。本件において、被告人Yのピケット行為は市と市労連との争議を前提とし、団交決裂後直接市労連の闘争指令に基づいてなされたものであつて、これが争議行為にあたることはまことに明らかである。また被告人杉浦、同難波の行為は、同被告人らに対して直接具体的な争議行為の指示がないとはいえ、既に詳細に判示したように市労連の指令に従わずその統制を乱して運転業務につこうとした組合員Yに対し、市労連組合員がピケットを張り呼びかけているのに対し、H課長が、同じ市労連組合員である整備課員に腕力を用いてこれを排除せよとの命令をしたのみならず、一部の組合員を率いて腕力で引抜き行為をはじめたのを目撃し、組合員の意識にかられて被告人Yらのピケットに合流したものであつて、これが争議行為に当ることも明らかである。 

二 つぎに被告人らの本件争議行為の正当性の判断の前提としてつぎの事情を考慮しなくてはならない。すなわち

(一)既に判示したように、本件当日である昭和三七年六月一五日、札幌市営バスならびに電車の運行はほとんど停止したが、かような全体としての争議行為そのものを被告人らが共謀したことは全くなく、ここで問題となっているのは中央車庫における被告人らの二二二号電車等に対する約三〇分間にわたる部分的争議行為であり、かつそれについて門扉付近にいた市労連組合員間、後に参加した整備課員間、はたまたその両者間に事前の共謀が全く存しなかつたものであること。

 

三 そこで本件争議行為を検討すると、

(一)まずその目的は給与、手当の改善、有給休暇二〇日の復活などでいずれも純粋に札幌市職員の勤労条件の是正を図り、その経済的地位の向上を求めるものであり、しかもこの要求が市当局に無理難題を強いたものでないことは、本件闘争後いくばくもなく交渉が妥結し、多かれ少なかれ全てその実施をみたことに徴して明白であるといわなければならない。

四 被告人らの争議行為は二二二号電車前でしたピケッティングである。

ピケッティングの正当性は、ピケットの対象、態様などの諸般の事情から具体的に判断しなければならない(最高裁判所昭和三三年五月二八日〔刑集一二巻八号一六九四頁〕参照)。そこで以下この点について考察する。

(1)まず、本件ピケットの対象は、組合の指令に反し当局側に従って組合の統制をみだし、ピケットを突破しようとした市労連組合員(札幌交通労働組合員)Yに対するものである。

(2)また、右ピケットの態様をみると、そのピケットはY運転の二二二号車の前面で、同人に対し「電車から降りろ、降りて下さい。」などと組合の指示どおり降車するよう呼びかけながら立ち塞がり、判示のようにスクラムを組み、労働歌を歌って気勢をあげたものであるが、YおよびTの身体に対し直接手を下すなどの暴行に及んだり、脅迫的言辞や罵声を浴せかけたり、同人らを威圧するために車体を叩いたりしたことはなく、また同人の乗車していた二二二号車に乗り込もうとしたり、同車を押し戻し、故意にゆさぶろうとしたようなことも全く認められない。そして、引抜き行為が行われた際、当局側との間にもみ合いの状態を生じたが、それは、当局側が腕力で組合員を引抜こうとしたのに対し、組合員側が引抜かれまいとしてこれに抵抗したことによるものであつて、この行動はYに向けられたものではないから、この場合にも同人に対して示されている威力が引抜きのない小休止の状態の際に比較し、より高度の威力に転じたものと評価することは誤りである。

(3)さらに、右ピケット行為は、突発的、非計画的なものであつて、整備課員はH課長が同じ組合員に対し腕力を用いて排除することを命じたのみならず、一部の組合員を率いて実際に引抜きをはじめたのを目撃し、にわかに組合意識にかられて合流したものであること、また、右ピケット中、組合員側の者は相手方に対し、殴る、突くなど積極的な反撃にでた者は全くなく、引き抜かれまいとして消極的な抵抗に終始したものであり、警察官が入るに及んでは、これに抵抗せず、自発的に電車の前面から退去した状況で、殺気立った雰囲気は全くみられなかつたことが認められる。

(4)そして、右ピケットにより約三〇分間、一二台の電車の出庫が阻止されたにとどまり、一般市民に与えた影響は判示のとおり、さほど大きいものではなかつたし、当局が蒙った損失も同様軽徴といわざるをえない。

 以上のような諸般の事情を考慮すると、被告人らの行動は、正当な争議行為の限界を超えるものとはいい難く、刑法上違法な行為であるとはいえない。

 

   最高裁第三小法廷決定は多数意見3、反対意見2の僅差で、本件ピケッティングは正当な行為として上告を棄却した。なお反対意見の下村、松本裁判官は、地公労法111項違反の争議行為に労組法12項は適用されないとの見解を示した。

   坂本武志判解によれば多数意見は、地公労法111項違反の争議行為に労組法12項(刑事免責)の適用があると明示していないが、東京中郵判決・最大判昭41.10.26刑集208901により公労法171項 違反の争議行為にも労組法12項の適用があるとされたので、当然の前提としている。

   後に判例変更された昭41年東京中郵判決の刑罰最小限度論に沿った判例である。同判例は、公労法171項に違反して争議行為をした場合、なんらかの刑罰法規に触れても違法性を阻却すると解すべきだとした。これは藤木英雄東大教授が説いた行為の違法性の相対性の考え方によっている。

   つまり刑事制裁の対象となる争議行為を三つの場合①政治スト、②暴力を伴う、③長期に及ぶなど国民生活に重大な支障をもたらす場合に限定しているのであり、違法性の強弱.程度で違法性阻却される枠組みで刑事上違法とできないとされた。

   但し多数意見は本件ピケのように、多数が市電の前に立ち塞がって進行を阻止する行為は、一般には許容されないというピケッティングの限界に関する原則的見解をとっている。にもかかわらず無罪というのは、本件における具体的事情のもとで、正当な行為ということができるとしているのである。

①本件ピケッティングは、市当局が、組合側の正当な団体交渉の要求を一年有余の長期間にわたって引き延ばしたりして誠意のない態度をとったため、やむなく踏み切られた市電への乗務拒否を主眼とする同盟罷業がその実効性を失うのを防ぐためになされた。

②本件ピケッティングは、罷業から脱落した組合員が、当局の業務命令に従って市電の運転を始めたので、組合の団結が乱され、同盟罷業がその実効性を失うのを防ぐため、翻意を促す目的でなされたものであること。

③進行を阻止した時間が短く、暴力に訴えることはなく、しかも実質的に私企業とあまり変わらない市電の乗客のいない車庫内でのできごとだったこと。

 

 最高裁多数意見は、業務命令を受けた「罷業から脱落したて組合員」乗務の市電の出庫を阻止するピケとしているが、この市労連ストライキは市電、市バス乗務員だけの部分ストで、交通局の整備課や事務職等日勤は通常勤務で、もともと同盟罷業の指令はなく、交通局長は元乗務員が事務職となった係員を代務として市電の操業を継続しようとしたのである。もともと通常勤務でスト指令のなかった部分の職員をあてていることは、組合員であって罷業から脱落した組合員と言う表現は妥当かどうか疑問がある。

 

2判事の反対意見

◇下村三郎裁判官の反対意見の要約(昭41中郵判決・.44都教組判決いずれも反対意見に加わる)

 

   地公労法111項は、争議行為を禁止しているのであるから、これに違反してなされた争議行為は、すべて違法であって、正当な争議行為というものはありえない。‥‥原判決が、地公労法111項に違反してなされた本件争議行為を威力業務妨害罪の構成要件にあたるものとしたうえ、労働組合法12項を準用して、被告人らの本件所為を正当な行為として罪とならないとしたのは、法令の解釈を誤り‥‥

 

松本正雄裁判官の長文の反対意見の要約(昭44都教組判決で反対意見に加わる)

 

 地方公営企業労働関係法111項はその前段中において、「職員及び組合は、地方公営企業に対して同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。」と規定している。そして右の規定は‥‥合憲であることに異論がないであろう。もし、右の規定が違憲であるとするならば問題は別であるが、合憲の規定であると当裁判所が認めるからには、地方公営企業に対する争議行為等が禁止せられていることは明白であり、違法性があることすなわち正当でないことをも意味し、労組法1条二項の適用を排除する趣旨と解すべきものである。この意味で、右の争議行為禁止違反が、単なる民事的違法に過ぎないという解釈にはとうていくみすることができない。

 しかも、労組法12項において、刑法35条の適用があるとされているのは、「労働組合の団体交渉その他の行為」であつて、労働者の地位向上、団結権の擁護等の目的を達成するためにした「正当なもの」についてであるが、地方公営企業においては、「その他の行為」のうちには争議行為は含まれないと解釈すべきであり、また、争議行為は解雇原因ともなりうる違法な行為であるから、「正当なもの」ともいえないわけである。(これは昭52名古屋中郵判決の判旨と大筋で同じ)

〇仮に、労組法12項の適用があるとしても、被告人らの本件行為は、次に述べる理由により、正当性の範囲を逸脱したものである。

A 被告人らのした本件行為は、かの中郵事件にみられるような単純な不作為ではなく、積極的な実力または威力による業務妨害行為であって、このような、このような行為は、当裁判所が昭和2511月一五日の大法廷判決(山田鋼業事件)以来、累次の判例により違法としているものである。

B Yが争議から脱落した組合員であるとしても、もともと職員の争議行為は禁止されており、これに違反した職員は解雇されることがある。(地公労法11条、12条参照)

‥‥業務に従事しようとする組合員個人の自由意思は特に尊重されるべきであり、これを実力で阻止することは、組合といえども許されない。(この趣旨は全逓横浜中郵ピケ事件差戻後控訴審.東京高判昭47.10.20等内部統制権引否定の判例により少数意見ではなくなった)

C ピケの正当性は、口頭または文書による、いわゆる平和的説得の程度のみに限られるべきだとは必ずしも思わないが、本件のごとく有形力を行使し、脱落者の就労を事実上不可能にすることまでも(たとい、それが説得の手段であったとしても)許されるべきとは考えない。かかる行為を許容することは、健全な労働運動の発展の障害にこそなれ、正しい方向とはいえない。

 

札幌市労連事件(札幌市電ピケット事件)最三小決昭45.6.23刑集246311物理力を行使したピケットを正当としたきわめて例外的な裁判例をどう評価すべきか

   結論を先に言えば

   地公労法違反の争議行為で、組合の物理的就労阻止を認める根拠として組合側が利用できるのは、札幌市労連事件(札幌市電ピケット事件)最三小決昭45.6.23刑集246311だけであるが、先例としての意義を実質持たないというのが結論である。

  地公労法事案では、明示的に判例変更されていないと言うかもしれないが、それは地方公営企業の争議行為については12条解雇や懲戒処分の事案はあっても、刑事事件が稀少なため、この場合、判例が蓄積している公労法判例に依拠してよいのである。

 

   争議行為に付随する行為としてのピケッティングの違法性阻却判断基準は、指導判例は羽幌炭礦鉄道事件大法廷判決昭33.5.28刑集12816だが、私企業の先例にもなっている国労久留米駅事件最大判昭48.4.25刑集273418の久留米事件方式により可罰的違法性論の安易な適用が不可能になったことにより明確になった。公務員のストの先例である全逓名古屋中郵事件・最大判昭52.5.4刑集313182は、久留米駅事件方式を継承した判断枠組にとっている。

  東京中郵判決が争議行為にも刑事免責があるとされたが、名古屋中郵事件により判例変更され、争議行為には労組法12項の刑事免責は適用されないうえ、同種のマス・ピケが昭和50年代以降久留米駅事件以降、無罪とされることはなくなった経緯から、今日では無罪が成立する余地はなくなったというべきで、先例としての意義は認められない。今日の判断枠組み(名古屋中郵事件方式)では、久留米駅事件方式を踏襲し違法性推定機能を強化した「行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、法秩序全体の見地から許容されるべきか否かを考察してその違法性阻却事由の有無を判断しなければならない」という違法性阻却の判断基準となっている。したがって本件のような市電車庫発進を物理的に阻止するピケが、犯罪構成要件該当行為であり、違法争議行為防衛の目的でなされる以上違法性を阻却されることはありえない。業務妨害は正当化されない。威力業務妨害罪は成立する。

   実際、類似したマス・ピケ事犯の多数が昭和50年代以降、久留米駅事件方式や、名古屋中郵事件方式により有罪とされている。特に類似した事案として業務命令された機関士が機関区内の機関車に乗務することを妨害する動労の500名のマス・ピケ事犯である、南延岡機関区事件・最判昭53.6.29刑集32-4-759が、名古屋中郵事件方式により無罪とした原判決を破棄し有罪としており、札幌市電ストもそれと同じことである。

   加えて、本件は当局が組合の団結を切り崩して、広義の脱落組合員が市電に乗務し、その出庫を阻止した事案であるが、動労鳥栖駅事件・福岡高判昭49.5.25判時770113頁(上告審-最三小決昭50.11.21判時801101 棄却)のケースは動労のストで、国鉄の業務命令で、スト参加の機関士の代務となる同じ動労の指導機関士の急行列車への乗務を阻止するマス・ピケの事案で「組合がたとえ同盟罷業を決議しても、それは公労法上違法であり、民間企業の組合の場合のように法的拘束力をもつものではなく、組合員としては組合の決議、指令にかかわらず同盟罷業に参加することなく就業する自由を有するのであって、これに参加を促がす勧誘、説得を受忍すべき義務はないのである」と説示していることから、脱落組合員がスト参加の慫慂に応じる必要はなく就労の権利があるので、脱落組合員の就労阻止だから大目にみるということは今日ではありえない。

   地方公営企業の労働刑事事件が僅少なため、明示的に判例変更されていないとはいえるが、札幌市電事件は、特殊な事情が強調されているが、羽幌炭鉱事件の判断枠組みを変更したものではないし、公労法171項と、地公労法111項は同文同趣旨の立法のため、公労法の先例と別異に解釈する理由はないのである。

   今日では、この判例ではなく指導的な位置づけにある名古屋中郵事件最大判昭52.5.4方式に依拠することになるのは必定。また違法争議行為の参加を強要する統制権を否定する判例があることは既にのべたとおりであり、札幌市労連事件を根拠に、就業の物理的阻害を正当化することはできない。

 

   3対2で無罪とされた札幌市電ピケット事件の評価を誤らないことが重要である。最高裁は昭和48年を潮目として石田和外長官派が多数を占めるようになる、本件は最高裁が左派優勢、中郵判決維持派が多数を占めていた昭和45年の決定である。刑罰最小限度論をとっていた時期の判例である。のちに反対意見側の見解が多数派になるのである。

   池田首相に近い弁護士で最高裁判事に就任した松本正雄裁判官は、この反対意見だけでも名裁判官と評価してよい。反対意見のBの見解(違法争議行為の内部統制権の否定)は、将来の中郵判決の判例変更を見越したうえで、全逓横浜中郵ピケ事件差戻後控訴審.東京高判昭47.10.20判時68951(差戻後上告審最一小決昭49.7.4判時74826棄却)において中郵判決の調査官だった中野次雄裁判長が採用し、マス・ピケ事犯を、争議行為に付随した行為として、争議行為の評価の切り離すテクニックにより、2時間ストされ自体は可罰的違法性なしとしつつも、本件郵便局員神奈川地評に動員され機動隊に暴行を働いたピケ隊2名の公務執行妨害罪の成立を認めた。組合員であれ「組合の指令にもかかわらず、同盟罷業に参加することなく就業する義務を負うとともに権利を有するものである」として内部統制の否定は、国労広島地本組合費請求事件.最三小判昭50.11.28民集29101634でも説示されたものであるから、実質判例変更されたものとみてよいのである。したがって今日の判断では、当局の業務命令により同盟罷業から脱落した組合員による業務遂行は、正当な業務であり、刑法上保護される。

3)札幌市労連事件の今日的観点での評価(補足

①藤木英雄教授の可罰的違法性論の悪影響

   昭和40年代労働事件や公安事件で司法が左傾化した要因として、可罰的違法性論の影響がある。

   藤木教授は労働刑法での違法性概念について「労働権の保障の結果それと矛盾する限度で財産権に対する保障が後退するのは当然のこと」「通常の一般市民間でなされた場合に威力ないし脅迫にあたる行為であっても、労働争議という実力闘争の場において常態を逸脱しない‥‥程度の行為については‥‥威力あるいは脅迫にあたらないとして構成要件該当性を否認することにより問題を処理することが許されよう」と述べたわけである。[藤木英雄1967 81頁]市民法秩序を軽視する理論である。争議行為の限界を消極的限度にとどまるとしている最高裁判例を突破し、市民法と労働法のぶつかり合う矛盾を労働法優位に改変していこうとする志向性を有している。

   また藤木教授はピケッティングについて、「組合員であって争議から脱落した者は‥‥統制力の行使として、緊急の場合、スクラムによる絶対阻止が許される」「組合の組織の防衛をはかる目的で、会社のために就労しようとする者を‥‥強力な威力行使によって、その通行の最終的な阻止を試みることは‥‥場合によっては合法」としてスクラム阻止を容認している[藤木1967 181頁以下]

   この学説と中郵判決の刑事免責適用を根拠に、争議行為を明文で禁止されているはずの公労法適用職場において、積極的業務阻害であっても、可罰的違法性を欠くとして無罪とする下級審判例が相次ぎ、大きな混乱をもたらした。例えば 〇国労尼崎駅事件神戸地判昭41.12.16判決逆ピケを張った鉄道公安職員に体当たりし負傷者を出したにもかかわらず、正当防衛、渦巻きデモや坐り込みにより電車の発進を阻止した行為を正当な争議行為として無罪、実力ピケを無罪としたものとして、マス・ピケ事犯の多くが無罪となったほか、私企業で、典型的可罰的違法性論の判例として一例をあげると、〇光文社事件東京高判昭48.4.26判時708である。これは第二組合員が通勤途上の路上で第一組合員と支援者6人に包囲され両腕をつかまえられ、引っ張り、押されるなどして腰を低く落として抵抗するのもかまわず、約30メートル引きずられたあと、さらに両脇下に手をさしいれたまま、200メートル余り自由を拘束され連行された事案で、「‥‥身体に殴打、足げり等の暴行を加えてないのはもちろん、その着衣その他に対しても何ら損傷を与えていない程度のものである」と述べ、「なお外形的には、逮捕罪にあたる」ことを認めつつ結局本件は「犯罪として処罰するに足りる実質的違法性をいまだ備えていない」として逮捕罪の成立を認めた一審を破棄して無罪判決を下した。

要するに労働争議においては、ある程度の有形力行使を認めるというというのが藤木学説であったし、刑罰最小限度論の41年中郵判決も、藤木学説の影響である。しかし最高裁は昭和48年に石田長官派が多数を占めることとなり、潮目が変わるのである。

 

②先例としての価値は認められない

本決定は、藤木英雄東大教授の可罰的違法性論の影響力の大きかった時代の所産であり、諸般の状況によっては一定程度の実力行使も許容される余地があるピケット権を是認した先例とみなす評価は正しくない。先例として意義は以下の理由で認められない。

 

A前提となっている刑事免責は判例変更された

 第一に、本決定は昭和41年の中郵判決の公労法171項違反の争議行為であっても労組法12項(刑事免責)の適用があるとの判断に従って、地公労法111項違反の争議行為にも適用があるとの前提に立っているが、52年の名古屋中郵判決で明示的に判例変更されていることである。

 同じく、41年中郵判決では刑事処罰の対象となりうる争議行為は、強い違法性のある争議行為、「三つの場合」に限定されるとしたが、この基準も52年の名古屋中郵判決で判例変更されていることである。

 

B 久留米駅事件方式により可罰的違法性論は事実上排除される

 第二に●国労久留米駅事件最大判昭48.4.25刑集273418は、藤木英雄東大教授の可罰的違法性論を事実上排除するために、違法性推定機能を重視する、次のような違法性阻却判断基準を示したことで時代のターニングポイントとなる判例といえる。

【久留米駅事件方式】

「勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行われた犯罪構成要件該当行為について、刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するに当っては、その行為が争議行為に際して行われたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に容れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない。」との判断方式を打ち出した。

 臼井最高検検事は、久留米駅事件方式確立の結果、結論的に「最高裁判例においてはピケッティングの正当性の限界につき、消極的性格の行為の限度にとどまるべきであるという見解が堅持され、いわゆる平和的説得の限度を越えたピケッティングが犯罪構成要件に該当するときは、犯罪の成立を阻却するごく特殊な事情が存在する場合は格別、原則として違法性が阻却されないものとされている」[臼井滋夫1977「ピケッティングの正当性の限界」『法律のひろば』304号]

 国鉄が私法上の勤務関係のため、私企業を含めた先例であり、久留米駅事件の意義は大きい。

 実際、藤木学説を根拠として可罰的違法性を欠くとして無罪とした判例は130件あったが、久留米駅事件方式による違法性阻却判断基準により、他組合員への断続的暴行、逮捕行為を無罪とした原判決を破棄した日本鉄工所事件最二小判昭50.8.27 以降ほぼ完全に姿を消し、実務上可罰的違法論は消え去った[前田雅英1984「労働組合役員の他組合員に対する暴行、逮捕行為と実質的違法阻却事由(最判昭和50.8.27) 」『警察研究』551号 ]。

 

C 名古屋中郵事件方式により諸般の事情は違法性を肯定する方向で考慮される

 久留米駅事件方式は争議行為そのものと、争議行為に際して行われる行為とを区別した私企業を含めた判断基準として画期的であった。その後公労法違反の争議行為、および付随行為については、中郵判決を判例変更した全逓名古屋中郵判決において久留米駅事件方式を継承したうえで発展させた判断方式が示されるに至っている。

 名古屋中郵事件は公労法違反の事案だが、地公労法111項と、公労法171項とは同文であるから別異に解釈する理由はない。

 札幌市労連事件(札幌市電ピケット事件)最三小決昭45.6.23は原判決が威力業務妨害罪の構成要件に該当することを認めているのであるから、久留米駅事件方式を踏襲した名古屋中郵事件の判断枠組みでは、先述の香城敏麿国鉄松山駅事件調査官解説は名古屋中郵事件・最大判昭52.5.4刑集313182の要点を3点にまとめているが(43頁か55頁か107頁か133頁か144頁参照)(イ)に相当し、違法性は阻却されない。

 したがって、昭和45年の札幌市労連事件は先例たりえない。地方公営企業の類似事件としては、北九州市交通局12条解雇事件福岡地裁昭49.11.19判時766福岡高裁昭55.11.11判タ435最二小判昭55.2.8 労判335があり、バスの出庫に対し、バスを横付けして発進を妨害した例がある。この事案は指導した組合執行委員長を12条解雇としたため、刑事事件になっていない。地方公営企業の威力妨害罪の判例がその後ないから、判例変更になっていないだけの話であると説明できる。

 組合側は札幌市労連事件(札幌市電ピケット事件)を先例として、業務妨害権、ピケット権を主張してくるかもかもしれないが、以上の理由で先例にならないことは明らかであるから、業務妨害を擁護する余地は全くないのに、東京都は容認している。全く法解釈を誤った労務管理として糾弾したい。

 以上のことから全水道東水労の西部支所新宿営業所分会のストの職場占拠の態様は、時効だが、威力業務妨害罪が成立する悪質な態様と断じることができる。

 

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