YouTube台本 都議会宛陳情を提出したが委員会に付託されなかった 都より東京地下鉄乗務員等の 「私鉄総連春闘ワッペン」着用に 関する要請を要望する陳情解説 令和7年168号 シリーズ13 川西正彦
都より東京地下鉄乗務員等の「私鉄総連春闘ワッペン」着用に関する要請を要望する陳情(令和7年168号陳情 2月の委員会に付託なし、関係議員に写しを送付閲覧に供されたのみ)
(願意)
都において株式を保有する東京地下鉄株式会社宛に、毎年2月15日頃から3月中旬頃まで乗務員・駅員は、直径約6~7cm円形の「私鉄総連春闘ワッペン」を胸章として着用するのが恒例となっているが、団結示威を見せつけられるのは旅客公衆にとって不愉快であり、正当な組合活動ではないから、春闘ワッペンの取り外し指導、業務外の胸章等の着用禁止を就業規則に明文化することを会社側に要請していただきたい。
(理由)
ワッペンの記載は、西暦と「春闘」の文字、PRU(私鉄総連)、民鉄協会と合同して行っている「公共交通利用促進」のスローガンを記載し偽装することもある。
「春闘」とある以上組合活動である。ワッペンは、私鉄総連組合員を顕示し、相互の団結の確認と、使用者に対する団結示威、旅客公衆には春闘への連帯を訴える目的と考えられる。誠実労働義務に反し、勤務中に職務遂行に無関係の行為であるから注意力がそがれるおそれがあり、旅客公衆が不快、不安に思うのは当然のことである。
旅客の安全にかかわる職務として要請される職場規律の保持と服装の整斉という観点でも業務外ワッペン等の着用は規制されるべきである
本件は都が株式を保有する東京メトロにしぼっての陳情にしたが、ワッペン着用が恒例の東急、東武、京急、京成、京王、その他バス会社も、JRグループ規則「第20条3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」と同様の就業規則を明文化したうえ、度重なる注意、指導にもかかわらず従わない場合厳重注意等とし、不利益賦課(JRの場合は夏季手当5%減額支給)する労務管理を実施すべきだ。
JRグループは発足当初から、縦1.1㎝、横1.3㎝と小さい国労バッヂの取外しを徹底的に指導し、JR東日本では平成15年頃には着用者がいなくなった。それにならった労務管理を会社に求める。
ワッペン着用が争議行為か組合活動かという問題は、その法的性格を異にし、労組法7条1号との関係においても正当性の判断が異なりうるし、学説では労組法8条民事免責を争議行為では認める見解があるので、重要な論点である。
しかし、リボン闘争について最高裁が初めて判断を下した大成観光事件・最三小判昭57・4・13民集36-4-659は、これを就業時間中の組合活動として労働組合の正当な行為にあたらないと判示しているため、類似事案である春闘ワッペンも同じ判断になるだろう。新村正人調査官判解は、原審のいう使用者に対する団結示威の作用、機能を直ちに争議行為とみなす根拠はないとする。
春闘ワッペン着用は私企業の労働契約上の誠実労働義務に職務専念義務論が適用され、それに違反することが企業秩序を乱すという判例法理により確実に禁止できる。
JR東海新幹線支部国労バッヂ事件・東京高判平9・10・30判時1626号38頁(上告審平10・7・17は原審判断を是認)が典型で、「就業規則三条一項の『社員は‥‥法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない。』という規定は‥‥社員は、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものである‥‥労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから‥‥違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり、‥‥組合バッヂ着用行為は‥当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから‥‥具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり‥‥職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは‥‥職務専念義務に違反し‥‥他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない」と判示されている理論は類似例のワッペンに適用できるからである。
委員会に付託されなかったのは下記のオに該当すると考えられます。
2 委員会への付託
(3) 次の陳情は、委員会へ付託せずに関係議員に写し(又はその要約したもの)を送付し、閲 覧に供します。
ア 基本的な人権を否定するなど、違法又は明らかに公序良俗に反する行為を求めるもの イ 個人の秘密を暴露するもの
ウ 係属中の裁判事件に関するものなど、司法権の独立を侵すおそれのあるもの
エ 都の職員の身分に関し、懲戒、分限等個別の処分を求めるもの
オ 東京都の事務に関係しない事項を願意とするもの
カ 採択、不採択等の議決のあった請願又は陳情と同一趣旨のもので、その後、特段の状況の変化がないもの
キ はがき、メモ用紙等で提出されたもので、趣旨、理由等が明確に記載されていないもの
ク 前各号のほか、委員会付託になじまないと認められるもの
だいたい2月15日頃から3月半ば頃
西暦 春闘(近年は大きな文字に)
(電車・バス・タクシーのデザイン)
PRU(私鉄総連)
民鉄協会と合同して行っている「公共交通利用促進」
「公共交通利用促進運動」は毎年実施されている全国規模のキャンペーン・啓発運動で、主催・推進主体は国土交通省を中心に、日本民営鉄道協会(民鉄協)、日本バス協会、全国ハイヤー・タクシー連合会、私鉄総連(日本私鉄労働組合総連合会)などの事業者団体・労働組合が労使共同で推進。
使用者に対する団結示威、私鉄総連組合員を顕示し、闘争意思表明、組合員相互の団結の確認、旅客公衆には春闘への連帯を訴える目的
■改札係員(客面に出る) 目立つ
■客扱終了合図担当駅員 目立つ
(ホーム立ち番・輸送主任・当務駅長 到着放送・ホーム全体を見渡して乗降が終わったと判断 → 笛を吹く + 合図を出す日中・赤い手旗(フライキ)を絞って掲げる。夜間・合図灯の白色を掲げるその他・ブザー、ベル)
■運転手 始発駅などホームを歩くとき目立つ
■着席ライナーの車内改札(座席確認)の車掌 目立つ
(短い時間ですがどうぞお寛ぎくださいというアナウンスがあるが、ワッペンをみると不愉快で血圧が上るくつろげない)
服装闘争等(リボン・腕章・鉢巻・ゼッケン・プレート・ワッペン・バッジ等)
不利益処分等を是認する判断がほとんど
※誠実労働義務(職務専念義務)に反する
国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48・5・29
大成観光事件・東京地判昭50・3・11(リボン)
全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51・1・30(リボン)
目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13(プレート)
JR東海新幹線支部国労バッヂ事件・東京高判平9・10・30-上告審平10・7・17は原審判断を是認)
※正当な組合活動ではない
大成観光事件・最三小判昭57・4・13(リボン)
※雇用契約上の債務の本旨に従った労務の提供ではない
ノースウエスト航空事件・東京高判昭47・12・21(腕章)
沖縄全軍労事件・那覇地判昭51・4・21(鉢巻)
※就業規則の服装整正規定や正しくない服装の禁止に違反する
国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48・5・29
全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51・1・30(リボン)
JR東海新幹線支部国労バッヂ事件・東京高判平9・10・30
※勤務時間中の組合活動を禁止する就業規則、労働協約に違反する
三井鉱山賃金カット事件・福岡地判昭46・3・15(ゼッケン)
JR東海新幹線支部国労バッヂ事件・東京高判平9・10・30
B ●目黒電報電話局反戦プレート事件.最三小判昭52.12.13民集31-7-974
本件は職員個人の政治活動事案だが、服装闘争判例とみなしてもよい。組合活動でも先例になる重要判例である。
数日間継続して、作業衣左胸に、青地に白字で「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書いたプレートを勤務時間中に着用した行為と休憩時間のビラ配りを理由とする戒告処分を適法とした。
プレート着用が公社就業規則5条2項の局所内の政治活動を禁止した規定に違反する行為とした。ただし、この就業規則は局所内の秩序風紀の維持を目的としたものであることにかんがみ、形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局所内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないという判断枠組を示したうえで、大筋以下の2点で実質的に局所内の秩序を乱すもしくは乱すおそれがあるので、就業規則違反として懲戒処分を適法と結論する。
a)職務と無関係な同僚への訴えかける行動は、職務の遂行と無関係な行動であり、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱している、公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、「右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した
b)他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、よって他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあることは局所内の秩序維持に反する。
菊池高志[1983「労働契約・組合活動・企業秩序 『法政研究』49(4)]によれば目黒電報電話局判決は「勤務中は‥‥職務以外のことは行ってはならないのが職務専念義務であると言う。そうである以上、職務専念義務違反の判断は、職務以外の行為があったという事実さえ認められれば目的、態様、行為の及ぼす影響などは改めて吟味を要しないこととなる」とするが、普通の解釈である
国労青函事件札幌高裁判決や、目黒電報電話局事件上告審判決が示した職務専念義務論が、私企業の労働契約上の誠実労働義務と同一内容といえるかについては議論があるが、通説は同一内容とみなす。
「職務専念義務」あるいは「誠意に労務に服すべき義務」というにしても、法的に考えるならば、両者の義務は職場規律を遵守し、就業時間中仕事以外のこといっさいかんがえてはならない義務として使用されており、「誠意に労務を提供する義務」は職務専念義務と同一内容をもつものと考えられる[石橋洋「組合のリボン闘争戦術と実務上の留意点-大成観光(ホテルオークラ)事件」労働判例391号1982]。
加えて最高裁は、国鉄中国支社事件判決.最一小昭49.2.28民集28-1-66において日本国有鉄道法31条1項に基づく懲戒処分は、行政処分ではなく、私法上の行為としているから、国鉄職員懲戒処分の判例は、公労法17条1項の争議行為が禁止されている点は異なるとはいえ、私企業一般の先例なのである。
目黒電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから。
とすれば、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべき[菊池高志前掲1983]という見方が有力なのである。
誠実労働義務(Grоkの説明 一部引用)
労働契約法第3条第4項
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
この規定が基盤となっており、労働者側にも「信義誠実の原則」に基づく誠実な義務が課されています。誠実労働義務の主な内容(具体例)
- 上司の合理的な業務命令に従う
- 勤務時間中は職務に専念する(職務専念義務)
- 会社の就業規則・服務規律を遵守する
- 会社の正当な利益を不当に害さないよう配慮する
- 会社の信用・名誉を傷つける行為をしない
- 機密情報(守秘義務)や競業行為を避ける など
これらは労働契約に付随する義務(付随義務)として認められています。
2)予想される反論に対する再反論
A 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13は当該事案の判断にすぎず、リボン闘争が一般的に違法とは云っていないとの反論
大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13民集36-4-659は、「本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」としたが、最高裁としての理由を示さなかったことから、判旨にあらわれた限りでは、この判例を一般違法についての判断まで是認した趣旨と読むことはやや無理で、特別違法の観点からする判断、一流ホテルにおける従業員の接客勤務態度に対する要請からみて正当な行為にあたらないとする見解 (花見忠「リボン闘争の正当性--ホテル・オ-クラ事件最高裁判決」『ジュリスト』 771 1982)がある。
しかし最高裁は昭和50年代以降企業施設内の無許諾の組合活動は企業秩序をみだすものとして受忍義務がないとする、使用者の企業秩序定立権という判例法理を案出し(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭54・10・30民集33-6-676)、この判例法理は、安定的に維持(池上通信機事件最三小判昭63・7・19判時1293、日本チバガイギー事件最一小判平元・1・19労判533号7頁3号、済生会中央病院事件最二小判平元・1・12・11民集43-12-1786、オリエンタルモーター事件最二小判平7・9・8判時1546号130頁)されているが、従業員は企業秩序遵守義務があるのであって、これらの判例は使用者の権利と団結権とを法益調整するという考え方はとらないのであって、法益衡量的な諸般の事情を勘案する調整的なアプローチを否定しており、具体的な業務阻害のないことは無許可組合活動を正当化しないことを明確にしている。ケースバイケースの判断はとらないのである。したがってホテル業だからダメでその他の業種なら正当化される余地があるとする根拠はない。
例外としては、権利の濫用とみなされる特段の事情がある場合だが、この判断枠組で風穴は開けられていない。
仮に百歩譲って、特別違法性だけを認めた判例とする花見説を認めたとしても、原審のいう特別違法性「リボン闘争は、労使が互いに緊張していることをまあたりに現前させるので、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てる」という説示は、ホテル業に限らず、従業員が客面に出るサービス提供業務一般に広くいえることで注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことあって、鉄道事業にもあてはまるのである。
大手私鉄の主要路線では、通勤客に対し寛ぎや快適さを提供する有料着席ライナーを運行するようになったが、京王ライナーでは、空気清浄機が具えられたうえ、しばしの間お寛ぎください云々とのアナウンスが流れるのである。ところが、2018年2月22日デビュー以降、三週間程度が春闘時期にあたり、車掌は春闘ワッペンを制服の腹の部分に取り付けていた。直径7から8㎝で赤い円形のためかなり目立つ。着席状況を確認するため、車掌が各車両を見回るが、春闘ワッペンをみせつけて、第三者である乗客に春闘との連帯を訴えかける行為は、有料着席ライナーを利用する乗客が求める「休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁なことといえる」のであって、原審の説示した特別違法性は、鉄道事業にもあてはまるというべきである。したがって大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13を逆手にとって、ワッペン着用に有利に解釈する妥当性はないのである。
B 伊藤正己補足意見は、就業時間中の組合活動はすべて違法でなく、具体的な業務阻害のない行為を是認しているという反論
大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13の伊藤正己判事の単独補足意見は、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13は事案を異にするので先例とみなさないとし、「就業時間中に‥‥およそ組合活動であるならば、すべて違法の行動であるとまではいえない」とか「業務を具体的に阻害することのない行動は、必ずしも職務専念義務に違背するものではない」としている。
この補足意見については、「伊藤裁判官の補足意見により‥‥労働委員会が実態に即し、不当労働行為制度の趣旨を生かす判断を行う余地が残されるようになった」(松田保彦「いわゆるリボン闘争の正当性-ホテルオークラ事件」・法学教室22号1982)と肯定的評価をする批評がある。
しかしこれは明らかに変である。伊藤補足意見は、リボン闘争が争議行為の類型には当たらないとした以外の主張は、組合活動に好意的な立場で先例を無視した勝手な持論を言っているだけで、最高裁の主流の考え方に異論を示しただけのものである。上記引用した企業秩序論の最高裁判例においても伊藤補足意見の趣旨は完全に否定されていることから、単独の補足意見が影響力を持つ事自体が不当である。
例えば済生会中央病院事件最二小判平元・12・11民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」としたうえで、勤務時間中の無許可集会に対する警告書交付はそれが業務に支障をきたさない態様であっても「労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎない」ので不当労働行為にあたらないと判示しており、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13こそ引用してないが、最高裁は同判決の職務専念義務論を踏襲した判断をとっているとみてよいし、済生会中央病院事件判決によって無許諾の就業時間内組合活動が正当化される余地はなくなったというべきであるし、業務に具体的阻害のない態様であることは正当化する理由にはならないことを重ねて確認した判決といえる。先に引用した伊藤補足意見の趣旨は完全に否定されている。
C 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13は目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・134の厳格な職務専念義務論を引用していないので、組合活動に適用されるかは未解決の問題であるとする反論
目黒電報電話局判決が引用されてないのは、第三小法廷の4名中2名裁判長環昌一判事と、伊藤正己判事が左派プロレイバーであり、勤務時間中は、注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないとする目黒電報電話局事件判決に批判的な見解をとっていたため小法廷の意見が一致しなかったためと推定できる。伊藤判事は補足意見で同判決を批判しているし、環裁判長は、目黒局判決の結果的同意意見となる補足意見で、反戦プレート着用は懲戒処分理由と認めていないことから明らかなことといえる。
しかし、左派2判事が先例拘束性を認めなかったことで、目黒電報電話局事件判決の先例としての意義を否定されるものではないし、既にのべたとおり、同判決の判断枠組は、私企業においても組合活動においてもそれが適用されることは判例法理上の必然であり、大成観光事件上告審判決は、当該リボン闘争を組合の正当な行為にあたらないとし、組合幹部への減給、訓告処分を是認するものであるから、引用されずとも同判決を踏襲した判断をとったとみなすのが妥当である。
つまり職務専念義務は公務員法制の実定法に限られず、私企業の雇用契約でも同じことである。
なお、目黒電報電話局反戦プレート事件.最三小判昭52.12.13民集31-7-974は、ベトナム反戦プレート着用という個人的な政治活動の事案だが、組合活動についても同判決の判断枠組が適用されることは判例法理上当然の帰結といわなければならず、そうでないとする大成観光リボン闘争事件最三小判昭57.4.13伊藤正己補足意見は先例無視の勝手な見解だといわなければならない。
この点については大成観光リボン闘争事件・最三小判昭57.4.13民集36-4-659新村正人調査官判解が目黒電報電話局判決は「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」と解説しており、大成観光リボン闘争事件・最三小判昭57.4.13は理由を示していないが、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52.12.13の判断を踏襲しているという解釈が法律家の標準的見解といえる。 (菊池高志前掲判批だが、石橋洋前掲判批や西谷敏「リボン闘争と懲戒処分――大成観光事件」ジュリスト臨時増刊792号226頁1983、プロレイバー側の学者も同趣旨を言っている)
なお目黒局判決に後続する企業秩序論判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件・最三小判昭54.10.30民集33-6-676とそれを引用する多くの判例が、使用者は無許諾の企業施設内組合活動の受忍義務はないこと、済生会中央病院事件・最二小判平元.1.12.11民集43-12-1786によって就業時間中の無許諾組合活動が正当化されることはないことを明らかにしており、法益衡量の調整的アプローチを明確に否定していることから、職務専念義務は、政治活動を禁止する場合適用されるが、組合活動には適用されないということは、他の判例との整合性からみてありえないことである。
以上のことから私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのであり、東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60.8.26労民集36巻4.5号558頁では、同社の就業規則八条「従業員は、会社の諸規程および上長の指示にしたがい、……誠実にその義務を遂行しなければならない。」が引用され、「労働者は誠実に職務に従事すべき義務を負うことは、労働契約の性質から当然のことである。したがつて、労働者が勤務時間中にその職務と関係のない行為を行うことは原則として右義務に違反することとなり、この場合に右義務違反が成立するためには必ずしも現実に職務の遂行が阻害されるなどの実害が発生することまでは要しないものというべきである。そして、被告会社の前記就業規則八条の定めも、このことを明らかにしたものと解される。」と判示しているとおりである。
本件は、狭山差別裁判粉砕等、裁判の不当を訴える内容の縦10センチメートル、横14センチメートルの硬質プラスチック製のプレートを制服の左胸部に着用してした就労申入れを拒否した事案で組合活動ではないが、現在の東急電鉄の就業規則は不明だが、民鉄の就業規則を引用して厳格な職務専念義務論を述べた先例としてその意義が認めなければならない。
D ●西福岡自動車学校腕章事件 ・福岡地判平7・9・20労判695-133
自動車学校の労働組合員らがした腕章着用闘争につき、同闘争は、労働者の団結を示威し、使用者に対し心理的圧迫を加え、労働者の要求ないし主張を貫徹する争議行為的側面と、組合員相互間において連帯感を触発し、団結をより強固にし、使用者との交渉に当たって士気を鼓舞する組合活動的側面の双方を有するものであるが、業務を阻害しなくともその本来的な目的を達することができるから、特別な事情のない限り、本質的には争議行為ではなく組合活動であると解するのが相当であるとした上、就業時間中に組合活動を行うことはその具体的態様にかかわらず職務専念義務に反するもので、正当な組合活動ではないとして、腕章着用闘争を理由とする戒告処分は不当労働行為に当たらないとした「組合活動である本件腕章着用闘争が労働組合の正当な行為であったか否かについて検討すると、一般に、労働者は労働契約に基づき、就業時間中その活動力をもっぱら職務の遂行に集中させるべき職務専念義務を負うものであって、就業時間中に組合活動を行うことはその具体的態様にかかわらず右職務専念義務に反するものであるから、使用者の明示・黙示の承諾や労使慣行が成立しているなど特別の事情がない限り、労働組合の正当な行為にはあたらないものと解するのが相当である」
3)国労バッジ事件とはなんだったのか
国労バッジ着用を理由とする、本来業務外し、厳重注意、訓告処分、夏季手当減額が不当労働行為にあたるかが争われた判例が多数あるのは、JR各社が、昭和62年発足以来着用規制を徹底したためである。JRの就業規則はよくできている。
三条(服務の根本基準)
社員は、原告事業の社会的意義を自覚し、原告の発展に寄与するために、自己の本分を守り、原告の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない(一項)。
二〇条(服装の整装)
制服等の定めのある社員は、勤務時間中、所定の制服等を着用しなければならない(一項)。
社員は、勤務時間中に又は原告施設内で原告の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない(三項)。
二三条(勤務時間中等の組合活動)
社員は、原告が許可した場合のほか、勤務時間中に又は原告施設内で、組合活動を行ってはならない。
組合バッジ着用はたんに上記に違反するだけでなく、期末手当の支給額は、賃金規程一四三条及び一四五条の規定により、成績率により増額又は減額されるが、減額については、懲戒処分(減給、戒告)及び訓告のほか、勤務成績が考慮されるところ、勤務成績については、減率適用者調書が作成され、その中で、厳重注意を含む賞罰、服装違反の注意回数、業績、態度等について具体的に記載されている。
要するに、服装違反の注意回数はボーナス査定にひびく制度設計にはじめからなっているのである。
にもかかわらず国労は、JR発足以前から、組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示し,組織としても不当労働行為救済申立てを行ってきたのである。
国労が方針を転換したのは平成8年7月以降労使協調路線へ変更してからである。平成11年3月18日の臨時全国大会において国鉄分割民営化による国鉄改革を承認する旨を決議し、平成11年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結した。
自由民主党,公明党,保守党及び社会民主党の4党は,国労に対し,平成12年5月30日,四党合意を提示し,国労本部は,同日,その受入れを決定した。もっとも,国労組合員のうちJR各社に不採用とされた国労闘争団のメンバーは,国労本部の四党合意の受入れに反対したものの,国労は,平成12年7月1日以降3回にわたる全国大会を経て,平成13年1月27日,四党合意の受入れを盛り込んだ方針案を採択するに至った。
国労は、平成14年3月末以降は,組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり、平成18年11月には、バッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げている。国労は,組合バッジ着用に関し,機関決定違反として統制処分をするまではしないが、支持はしないこととなった。JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件 東京地判平24・11・7労判1067号18頁によれば平成15年7月以降国労バッジ着用者は1人となった。その者も退職したので、現在では組合バッジの着用規制は完全なものとなっていると考えられる。
ここで問題となっている国労バッジとは実は大きさで2種類あるのである通常着用していたのは、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルの四角形で、黒地に金色のレールの断面と「NRU」の文字をデザインしたものであり、「NRU」は「国鉄労働組合」を英訳した「National Railway Union」の頭文字をとったものである。
これと別にワッペン式大型バッジがあり、通称「くまんばち」と呼ばれ、デザインは本件組合バッジとほぼ同様であるが、縦二・六センチメートル、横二・八センチメートルと大きく、これは主に何らかの闘争時などを中心に着用された。この大型バッジについては、国鉄当局は、本件組合バッジと区別し、ワッペンの一種であるとして、国鉄末期に規制を行った。
国鉄鹿児島自動車営業所事件 最三小判平5・6・11判時1446号151頁(管理者に準ずる地位にある職員が組合員バッジの取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令が違法とはいえないとされた事例 )が昭和60年の事案だが、縦約二六ミリメートル、横約二八ミリメートル布製であり、「くまんばち」の大きさに相当する。
着用規制の経過等については、下記の3判例の判決書から抜粋する。
国鉄鹿児島自動車営業所事件・鹿児島地判昭63・6・27労民39-2・3-216
(損害賠償請求事件)
自動車営業所の管理者に準ずる地位にある職員が、取外し命令を無視して組合員バッジの着用をやめないため、同人を通常業務である点呼執行業務から外し、営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令が違法か適法かが争われた。被告は鹿児島営業所所長、同営業所助役、原告は同営業所運輸管理係、国労門司地本中央支部自動車分会鹿児島地区協議会議長。
被告Kが組合員バッチの離脱命令に従わなかった国労組合員に対し、昭和六〇年七月の二三日、二四日、八月の五日、六日、一六日、一七日、二三日、二九日及び三〇日の九日間、原告を点呼執行業務から外し、鹿児島営業所構内の降灰除去作業を命じ、これを行わせたことは違法であるとした。
先ず、被告kが原告に対し、組合員バッチの離脱命令を発したことの当否について検討すると、組合員バッチはその着用者が組合員であることを表示するとともに、その着用によって着用者に組合に対する帰属意識を持たせ、ひいては組合の団結心を高める心理的作用を営むものと認められるところ、団結権を保障された労働組合にとって、組合員の団結心を高めて組織の維持強化をはかることは重要な意味を持つものであるから、使用者としてもみだりにその着用を禁止したり、着用者に対して離脱命令を発することは許されないと解されるが、一方、国鉄職員は国家公務員法の適用を受けないものの、公務員とみなされ(日本国有鉄道法三四条)、使用者たる国民に対してその勤務時間中は職務に専念すべき義務があり(同法三二条二項)、その肉体的、精神的活動を職務の遂行にのみ集中しなければならないものであるから、組合員バッチの着用が右職務専念義務に反するものである場合は、使用者としても、組合員に対して勤務中はバッチを外すべきことを命じうるものと解すべきである。
原告が着用していた組合員バッチは、昭和五九年夏から使用され始めた縦約二六ミリメートル、横約二八ミリメートルの大きさのいわゆる夏季用国労バッチ(布製)であって、その表面は黒地に金色のレールマークをあしらい金色でNRUとローマ字が表示されているものであることが認められ‥‥右バッチは着用者が組合員であることを表示しているのみであって,他に何らかの具体的な主義主張を表示しているものではなく、その点において、具体的な主義主張を外部に表示するワッペンや人目を引き業務の円滑な遂行に支障をきたす虞れのある赤腕章などとは業務阻害性の程度を異にする着用物であると認められる。
以上の本件当時国鉄が置かれていた状況、ことに労働者、使用者が一体となって経営の再建に取り組むべき状況にあったことを考えると、使用者が労働者に対して、これまで以上に職務に専念すべきことを要求することは当然許されることであるし、そのため従来は労使慣行として行われてきたことについても見直しをはかることにも合理的理由があり、前記のようにワッペンや赤腕章とは業務阻害性の程度が異なるものの、組合員バッチを着用して勤務することは勤務時間中の組合活動に外ならないから組合員バッチの着用を禁止する措置に出ることにも一応の合理性が認められるものと言うべきである。ことに、本件の場合、当時国鉄が経営の合理化のために打ち出す種々の施策に対して、原告の所属する国労が反対する方針をとり、そのため労使間は恒常的に対立した状況にあったことは公知の事実であり、前掲各証拠によれば、鹿児島営業所においても、ワッペン、赤腕章の着用などの斗争が行われ、被告らはじめ管理職と原告をはじめとする組合員とは対立した状況にあったことに照らせば、そのような状況のもとでの組合員バッチの着用は組合員であることを勤務時間中に積極的に誇示する意味と作用を有するものであって、労使間の対立を勤務時間中にも意識化して、職場規律を乱す虞れを生じさせるものであり、職務専念義務に違反するところがあると言わざるを得ない。
そうすると、結局、被告らが原告に対して組合員バッチの離脱命令を発したことには合理的理由があると言うべきである。
(中略)
使用者が労働者に対し労働契約に基づき命じ得る業務命令の内容には、労働契約上明記された本来的業務ばかりでなく、労働者の労務の提供が円滑かつ効果的に行われるために必要な付随的業務も含まれるが、使用者は右付随的業務を無制限に労働者に命じ得るものではなく、命令の内容は、労働者の人格、権利を不当に侵害することのない合理的と認められる範囲のものでなければならず、その合理性の判断については、業務の内容、必要性の程度などとともに、その業務命令が発せられた目的、経緯なども総合的に考慮して決せられる必要があると。国鉄労働組合の組合員に対し、7、8月という暑さの中、10日間もの間長時間にわたり広さ1200平方メートルの営業所構内の降灰除去作業を1人で行わせたことにつき、右降灰除去作業命令は、右組合員が組合員バッチの離脱命令に従わなかったことに対して懲罰的に発せられたものと認められるから、業務命令権行使の濫用であって違法であり、不法行為が成立するとされた。
二審・福岡高等裁判所宮崎支部判・平成元年9・18労民40-4・5-505 棄却
上告審 最二判・平5・6・11判例時報1466-151
破棄自判
引用は一部のみ
二 原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断した。
1 降灰除去作業は、被上告人の労働契約上の義務の範囲内に含まれるから、本件各業務命令を労働契約に根拠のない作業を命じたものとはいえない。
2 また、本件バッジの着用は、職場規律を乱し、職務専念義務に違反するものであるから、上告人Kがした前記取外し命令及びこれに従わなかった被上告人を点呼執行業務から外した措置には、いずれも合理的な理由があり、これが違法なものとはいえない。
3 しかし、本件各業務命令は、被上告人には運輸管理係としての日常の業務があり、殊更降灰除去作業を命ずべき必然性はなかったのに、本件バッジの取外し命令に従わなかったことに対し、懲罰的に発せられたものである。このように、かなりの肉体的、精神的苦痛を伴う作業を懲罰的に行わせることは、業務命令権の濫用であって違法である。したがって、本件各業務命令は、被上告人に対する不法行為に当たり、上告人らは、これにより被上告人の被った精神的損害を賠償すべき義務がある。
三 しかしながら、原審の前項3の、本件各業務命令が違法であって被上告人に対する不法行為に当たるとする判断は、是認することができない。
前記の事実関係からすると、降灰除去作業は、鹿児島営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法等からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものともいえず、これが被上告人の労働契約上の義務の範囲内に含まれるものであることは、原判決も判示するとおりである。しかも、本件各業務命令は、被上告人が、上告人Kの取外し命令を無視して、本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたことから、自動車部からの指示に従って被上告人をその本来の業務から外すこととし、職場規律維持の上で支障が少ないものと考えられる屋外作業である降灰除去作業に従事させることとしたものであり、職場管理上やむを得ない措置ということができ、これが殊更に被上告人に対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない。なお、上告人ら管理職が被上告人による作業の状況を監視し、勤務中の他の職員が被上告人に清涼飲料水を渡そうとするのを制止した等の行為も、その管理職としての職責等からして、特に違法あるいは不当視すべきものとも考えられない。そうすると、本件各業務命令を違法なものとすることは、到底困難なものといわなければならない。
組合バッジ取り締まりの経緯について(下級審判例から引用)
〇JR東日本神奈川国労バッチ事件 東京地判平9・8・7判タ957号114頁
一部引用
(一)原告は、昭和六二年四月七日、関係各機関の勤務(担当)課長に対し、各現業機関の社員を対象に、同月一日から七日までにおける社章、氏名札及び組合バッジの常態的な着用状況についての調査・報告を指示した。
右調査結果によると、組合バッジ着用者は五六四五名(全体の八・八パーセント)で、そのうち五六三四名は国労組合員であった。
(二)原告は、同月二〇日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、組合バッジ着用者に対しては服装違反である旨注意を喚起して取り外すよう注意・指導すること、その際の注意に対する言動を含めた状況を克明に記録しておくこと、繰り返し注意・指導を行ったにもかかわらず、これに従わない社員に対しては、『就業規則』・『社員証、社章及び氏名札規程』に違反するとして厳しく対処することとし、人事考課等に厳正に反映させることとされたいこと、等を内容とする指示をした。
これを受け、翌二一日、東京圏運行本部の総務部人事課長及び勤労課長は、関係現業機関の長に対して同旨の指示をした。
(三)原告は、同月二三日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、同年五月七日から一三日までの間における社員の社章、氏名札及び組合バッジの着用状況の第二次調査・報告を指示した。
右調査結果によると、組合バッジ着用者は二七九八名(全体の四・四パーセント)で、そのうち二七九〇名は国労組合員であった。
(四)東京圏運行本部の人事課長及び勤労課長は、同年四月二八日、各現業機関の長に対し、組合バッジを着用するなど決められた服装をしていない社員について個人別に把握するよう指示した。
(五)原告は、同年五月二一日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、依然として管理者の注意・指導に従わず服装違反を繰り返す社員が見受けられるとして、更に強力にこれら服装違反の社員に対して注意・指導の徹底を図り、直ちに改善に取り組むよう指示した。
(六)原告は、同月二八日、関係各機関の総務部長等あてに、服装違反者に対する方針を示し、その中で、当該方針を翌二九日から点呼、掲示等により社員に対し周知徹底を図る上での参考として警告文を示し、現場の実態について完全に把握し、厳正な対処の準備を図るよう指示した。
(七)原告は、同年六月一二日、別紙組合員目録1記載の国労組合員に対し、同年四月一日から六月四日の間において本件組合バッジ等を着用し度重なる注意・指導に従わなかったことを理由として厳重注意の処分を、また、その際に不必要な発言により職場規律を乱したことを理由として訓告の処分をそれぞれ発した。
なお、原告は、全社で四六二〇名の社員に対し厳重注意、二一〇名の社員に対し訓告の処分を行ったが、そのうち厳重注意の四名以外はすべて国労組合員であった。
(八)原告は、同年七月三日支給の夏季手当に関し、別紙組合員目録1記載の国労組合員及び処分の発令はなかったものの、本件組合バッジ等を着用していた別紙組合員目録2記載の国労組合員に対し、同年四月一日から五月三一日までにおける勤務成績が良好でないとして、賃金規程一四五条一項、三項に基づき、支給額の五パーセントを減額した。
国鉄は、昭和六〇年九月までに計八次にわたる職場規律の総点検を行ったが、いずれの総点検においても組合バッジの着用状況についての調査項目はなかった。(〈証拠略〉)
(3)国労、動労、全施労及び全国鉄動力車労働組合連合会(以下「全動労」という。)の四組合は、昭和五七年三月九日、国鉄再建問題四組合共闘会議を発足させ、「国鉄の分割民営化、二〇万人体制等に反対し、真の国鉄再建を目指し四組合の統一要求実現のため諸行動を強化する」等の闘争方針を確認し、総点検についての前記昭和五七年三月五日付け総裁通達に対して抗議を行った(〈証拠略〉)。
(4)国鉄は、同年七月一九日、国労、鉄労、動労、全施労及び全動労の五組合に対し、従来から組合分会と現場責任者との間で職場単位で行われてきた現場協議制度が悪しき労使関係を生んできたとして、「現場協議に関する協約」の改訂案を提示し、同年一一月三〇日までに交渉がまとまらなければ現行協約を破棄する旨通告した。これについて、鉄労、動労及び全施労は国鉄との間で改訂案どおりの協約を締結したが、国労及び全動労と国鉄との交渉は決裂し、同年一二月一日以降、国労及び全動労について「現場協議に関する協約」は失効した。
なお、この頃以降、国労及び全動労を除く各組合は、争議行為を行わなくなった。(〈証拠略〉)
(5)国労は、昭和六〇年に分割民営化反対のキャンペーンとしてワッペン着用闘争を行った。これに対して国鉄は、同年九月一一日、闘争に参加した約五万九二〇〇名の組合員に対して戒告、訓告等の処分をした。(〈証拠略〉)
(6)国鉄は、昭和六〇年一一月三〇日、国労に対し、同日期限切れとなる雇用安定協約について、国労が派遣や休職などいわゆる余剰人員対策に対し非協力の態度をとっていることを理由に、再締結できない旨通告し、翌一二月一日から無協約の状態となった。一方、
国鉄は、動労、鉄労及び全施労との間で同日、雇用安定協約を昭和六二年三月三一日までの期限で再締結した。(〈証拠略〉)
(7)国鉄は、昭和六一年一月一三日、「労使共同宣言」(第一次労使共同宣言)の締結を各組合に提案した。同宣言の案は、「雇用安定の基盤を守るという立場から、国鉄改革が成し遂げられるまでの間、労使は、信頼関係を基礎として、以下の項目について一致協力して取り組むことを宣言する。」というものであり、諸法規の遵守、リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等の服装の整正、点呼妨害等の根絶などの課題への最善の努力、労使一致協力による必要な合理化の積極的推進、余剰人員対策についての具体的取組み、等の項目が掲げられていた。
この提案に対し、鉄労、動労及び全施労は受諾したが、国労は拒否した。(〈証拠略〉)
(8)同年二月二五日に国鉄総裁公館で行われた鉄労、動労及び全施労の共同宣言三組合と国鉄幹部との労使懇親会において、S常務理事は「お互い同志的団結を固めたい」と挨拶し、S総裁は「総領の甚六というが、体の大きいのはなかなか言うことを聞かない。
その点、二男、三男、四男は目から鼻に抜ける賢さを持っている。」「皆さん、親の手に負えなくなった兄貴を、ひとつ導いてほしい。……三兄弟のますますの発展を……」などと述べた(〈証拠略〉)。
なお、同年五月当時の各組合の組合員数は、国労が約一六万三〇〇〇名(組織率六八・三パーセント)、動労が約三万一三五〇名(組織率一三・一パーセント)、鉄労が約二万八八七〇名(組織率一二・一パーセント)、全施労が約一五九〇名(組織率〇・七パーセント)であって、杉浦総裁の右発言における「総領の甚六」「親の手に負えなくなった兄貴」が国労を指すことは明らかであった(〈証拠略〉)。
(中略)
(10)国鉄総裁は、同年三月五日、各機関の長に対し、職場規律の総点検の集大成として、個々の職員の実態把握を統一的に行うため職員管理調書を作成するよう通達を発した。
この職員管理調書は、同年四月二日現在の職員について、昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までを調査対象期間として作成されたが、そこには一般処分、労働処分等七項目の特記事項のほか、評定事項として業務知識、責任感、協調性、職場の秩序維持、服装の乱れ、勤務時間中の組合活動等二一項目について記入することとされていた(労働処分については、昭和五八年七月二日に処分通知を行った「五八・三闘争」から記入することとされたが、動労は昭和五七年一二月以降争議行為を行わなくなり、動労組合員に対する最後の処分通告は昭和五八年三月二六日であるため、動労組合員の労働処分歴は右調書から除かれることになった。)。その中の「服装の乱れ」の項目は、「リボン・ワッペン、氏名札、安全帽、安全靴、あご紐、ネクタイ等について、指導された通りの服装をしているか」というものであり、組合バッジについては言及されていなかった(なお、「勤務時間中の組合活動」の項には、ワッペン着用、氏名札未着用については「服装の乱れ」の項で回答することとの注意書がある。)。(〈証拠略〉)
(11)国労は、昭和六一年四月一〇日から一二日まで、国鉄の分割民営化方針等に抗議して、ワッペン着用闘争を行った。これに対して国鉄は、同年五月三〇日、右闘争に参加した約二万九〇〇〇名の組合員に対し戒告及び訓告の処分をした。
(中略)
(〈証拠略〉)
(15)S総裁は、同年七、八月に開催された鉄労、動労及び全施労の各定期大会に出席し、鉄労大会では「この苦難のなかで終始一貫した信念と勇気と行動力の鉄労の存在は画期的であり、絶賛称賛したい。ほめてもほめすぎることはない。」と述べ、動労大会では「動労の皆さんの『知性と勇気』に心から御礼を申し上げます。国鉄の組合のなかにも『体は大きいが、非常に対応が遅い組合』があります。この組合と仮に、昔『鬼の動労』といわれたままの動労さんが、今ここで手を結んだといたしますと、これは国鉄改革どころではない。そのことを想像するたびに、私は背筋が寒くなるような感じがします。……あらためて動労の皆さんに絶大なる敬意と賞賛の言葉を申し上げます。」と述べ、全施労大会でも「全施労の皆様方の今日の国鉄改革への協力につきまして心から感謝申し上げます。」と述べて、右各組合を高く評価し、その取組みに感謝する旨の挨拶をした(〈証拠略〉)。
更に、同年八月二八日、国鉄は「総裁談話」を発表し、その中で、昭和五〇年一一月から一二月にかけて行われたいわゆる「スト権スト」に関し、国鉄が昭和五一年二月に国労及び動労に対して提起した約二〇二億円の損害賠償請求訴訟のうち、動労に対するものを取り下げ、「これまで動労がとってきた労使協調路線を将来にわたって定着させる礎としたい。」などと述べ、昭和六一年九月三日に動労に対する右訴えを取り下げた(〈証拠略〉
)。
(16)動労、鉄労及び全施労の右各定期大会に、各組合の代表者はそれぞれ相互に来賓として挨拶し、動労の定期大会において、S鉄労書記長は「新事業体における新しい労働運動を創りあげてみたい。その共通理念は、国鉄労働運動を形骸化し、しかも多くの労働者に雇用不安をかもし出した国労運動を打倒する闘いを追求していきたいと考えているわけです。」などと述べ、鉄労の定期大会でS全施労委員長は「国鉄改革に反対する国労は今や崩壊寸前であり、我々は力を合わせて国労解体を更に促進しよう。」などと述べ、更に、全施労の定期大会では、М動労委員長が「どんどん組織を伸ばし、駄目な労働組合には消えてもらうより方法がありません。駄目な組織はイジメ抜く。そういう決意でいます。」などと述べ、ともに国労への激しい敵意をあらわにしている
(〈証拠略〉)。
(17)一方、国労は、昭和六一年一〇月九日・一〇日の両日、伊豆修善寺で臨時大会を開催したが、分割民営化反対の旗を下ろして労使共同宣言を締結するという国鉄当局との「大胆な妥協」を目指す執行部方針は否決され、引き続き国鉄の分割民営化に反対していく方針が確認された。同大会以降、国労は分裂し、その後各地域に鉄道産業労働組合が結成された。
(二)動労組合員は、昭和六二年三月頃までは組合バッジを着用していたが、原告会社が発足した頃は、国労以外のほとんどの他組合員は組合バッジを外しており、同年四月下旬頃には、組合バッジを着用していたのは国労組合員のみというに等しい状況であった(〈証拠・人証略〉)。
(三)鉄道労連は、昭和六二年四月一日付け機関紙で組合員に対し「着けよう鉄道労連バッジ」との呼びかけをしたが、鉄道労連下部組織の東鉄労組合員は着用しなかった(〈証拠・人証略〉)。
東鉄労としては、所属組合員が就業時間中組合バッジを着用するようなことがあれば、強力に指導して外させる方針である(〈証拠略〉)。
(中略)
5 労使関係に関する原告会社幹部の発言等
(一)原告のМ常務取締役は、昭和六二年五月二五日、昭和六二年度経営計画の考え方等の説明会において、労務管理について触れ、「職場管理も労務管理も三月までと同じ考えであり、手を抜くとか卒業したとかいう考えは毛頭持っていない。とくに東日本の場合は従来と中身は少しも変わっていないのだから。二か月経ったから遠慮なく申すが、もう我慢できない。非常に危険な状態になっている。当分は立ち上がって闘う必要がある。闘争心、競争心を忘れないように。……会社にとって必要な社員、必要でない社員のしゅん別は絶対に必要なのだ。会社の方針派と反対派が存在する限り、とくに東日本は別格だが、おだやかな労務政策をとる考えはない。反対派はしゅん別し断固として排除する。等距離外交など考えてもいない。処分、注意、処分、注意をくりかえし、それでも直らない場合は解雇する。」などと述べた(〈証拠略〉)。
(二)М常務取締役は、昭和六二年六月二〇日、鉄道労連高崎地方本部主催の学習会において、組合バッジ着用について触れ、「何も、共・協連合と皆さんが手を結べと言っているのではない。会社を破壊しようとする者がいれば、私が先頭に立って闘う。……組合バッジは、労働運動の現れである。現れでも何でもいい。……就業規則で認めていないことが何で労働運動なのか。従って、今度は、人事部長名であらゆる所に掲示して、宣戦布告し、個人説得をする等をしてそれでもいう事を聞かない者には処分という形で警告を与えた。しかし、これで終わりではない。どしどしやっていかなければならない。どうしても一緒にやっていけない者は解雇するしかない。」などと述べた(〈証拠略〉)。
(三)S社長は、昭和六二年八月六日、東鉄労の第二回定期大会の挨拶において、「今後も皆さん方と手を携えてやっていきたいと思いますが、そのための形としては一企業一組合というのが望ましいということはいうまでもありません。残念なことは今一企業一組合という姿でなく、東鉄労以外にも二つの組合があり、その中には今なお民営分割反対を叫んでいる時代錯誤の組合もあります。民営分割反対ということは、おそらくJR東日本がつぶれて昔の国鉄に戻ったら良いと思っているのではないかと思います。……このような人達がまだ残っているということは会社の将来にとって非常に残念なことですが、この人たちはいわば迷える小羊だと思います。皆さんにお願いしたいのは、このような迷える小羊を救ってやって頂きたい。皆さんがこういう人達に呼び掛け、話合い、説得し、皆さんの仲間に迎え入れて頂きたいということで、名実共に東鉄労が当社における一企業一組合になるようご援助頂くことを期待し、……」などと述べた(〈証拠略〉)。
(中略)
6 現場における本件組合バッジの取り外し指導等の状況について
(一)鎌倉駅
(1)原告の鎌倉駅は社員数が三五名であり、うち国労組合員は本件命令申立時二五名であったが、後に一名減じ、二四名となった。
鎌倉駅では、昭和六二年初め、国労組合員二五名中二四名が本件組合バッジを着用して勤務していたが、その後、点呼、巡回時等にI駅長、K助役らが組合バッジを取り外すよう指導した結果、翌五月初めには本件組合バッジの着用者はО国労組合員ら九名に減少した。
しかし、本件訓告又は厳重注意の処分は、この九名の国労組合員だけでなく、当初本件組合バッジを着用していて、のちに外した者を含めた二四名の国労組合員に対してなされた。(〈証拠略〉)
(2)鎌倉駅のI駅長、K助役らは、同年五月になっても本件組合バッジを外さないО組合員ら国労組合員に対し、同月六日以降、それらの者を勤務中個別に駅長室に呼び、組合バッジを外すよう強く指導し、その時間は半時間以上に及ぶこともあった。I駅長、K助役らが右指導の際に述べた組合バッジ規制の理由は、就業規則に定めてあるからということであった。(〈証拠略〉)
I駅長らは、同駅駅長室で本件組合バッジの取り外しを指導する際に、国労組合員に対して次のような発言をした。
(a)「袖をまくって、バッジ着けて生意気やっているんじゃないぞ。俺は、羽沢(駅)でY(当時横浜支部青年部書記長)とかIと喧嘩してきたんだ。……俺は、専門の教育を受けてきたんだ。なめるな。」、「山梨のほうに転勤希望を持っているんだろう。だったらバッジとらなくては駄目だ。」(同月六日午前一〇時から一〇時四五分までの間におけるО組合員に対するI駅長の発言)(〈証拠略〉)
(b)「助役が勝手に言っているんじゃないんだよ。会社の方針に基づいて言っているんだからな。これだけは理解してもらわないとまずいよ。鎌倉駅だけ独自にやってるんじゃないからな。会社の方針に基づいてやってるんだから。そこんところを理解しなきゃ駄目だよ。勝手にやったんじゃ。かってに行動したんじゃ。今すぐはずせ。」(同月一三日午前九時一〇分から九時四〇分までの間におけるО組合員に対するI駅長の発言)、「それについて何だかんだの処分があっても、それは覚悟してるわけだね。」、「私が処分するわけじゃないから、上の人の見解だからね。上でも名前あげろと言ってんだから。それについてどういう形でくるか分かんないけどもね。就業規則だって読んだと思うけど、こういう規則、こういうものに違反した者については懲戒するって文面、見たはずだけど。あすこにでかいの貼ってあるでしょう。見ているでしょう。」(同K助役の発言)(〈証拠略〉)
(c)「今日はすぐ外して。自分のためだ。おかあちゃんや子供に高い給料持って行ったほうがいいんじゃないの、処分もらって給料下げられるより。」、「出札やりたいと言えば、出札入れてやってもいいよ。……ちゃんとバッジとって、言うことを聞いてくれりゃ。」(同月一六日午前一〇時から一〇時三〇分までの間におけるT国労組合員に対するK助役の発言)(〈証拠略〉)
(d)ほかにも、「今後は、会社だから試験制度になる。その時は一切推薦しないぞ。担務変更するぞ。配転するぞ。君は小山から出てきているが、通勤が大変だろう。通勤できない所に飛ばされてもいいのか。」(K組合員に対するK助役の発言)、「分会から圧力があるのか。誰が指示している。出札でバッジを取れなかったら他にまわそうか。改札に行くか。」(K組合員に対するI駅長の発言)、「君は以前、改札へまわされた経緯があるが、また行くか。」(同K助役の発言)、「誰の指示か。誰に言われてやっているか。今の会社は親方日の丸ではない、今すぐ外せ。バッジに対するお客の判断などは関係ない。担務変更、転勤もありえるぞ。I、Yが言ってきたら俺の所に言いに来い。」(О組合員に対するI駅長の発言)、「処分されても組合はかばってくれない。」(同K助役の発言)、等の発言があった(〈証拠略〉)。
(3)K助役らは、同年七月二八日午前九時五分ころ、改札口で改札業務遂行中のО組合員に対し、利用客がいるにもかかわらず、強い口調で本件組合バッジの取り外しを求めている(〈証拠略〉)。
(二)横浜駅
(1)原告の横浜駅は、本件命令申立時、社員数が二〇〇名弱、うち国労組合員が五七名であった。
同駅に勤務する国労組合員約二五名は、昭和六二年四月一日に原告会社が発足してからも、本件組合バッジを着用して勤務していた。同駅のK駅長らは、本件組合バッジを取り外すよう指導を繰り返し、これらの者は、同月一一日までに同バッジを取り外した。
しかし、これらの国労組合員のうち、一九名に対して本件訓告又は厳重注意の処分がなされた。
横浜駅の管理者は、同年五月ころから、国労マーク入りのネクタイ、ネクタイピンについても取り外しを指導するようになった。この時期、助役代理のN営業主任は、連日のように国労組合員が業務中の改札ラッチに来て、「国労マークの入ったものはすべてとれ」「おめえなんかやめちまえ、手続は俺がとってやる」「(黒のマジックを持って)これで(ネクタイの国労マークを)消せ」「消さないとくびだ」等と大声を出した。(〈証拠略〉
)
(2)S国労組合員は、昭和五〇年四月に国鉄に採用され、北海道の函館電気区で電気設備の保守、検査等の業務に従事していたが、国鉄の分割民営化に伴い、昭和六二年五月二八日に原告横浜駅の営業係勤務となった(〈証拠略〉)。
(キ)同年一〇月一日午前九時ころの始業点呼の際、U助役がS組合員に「国労バッジを外しなさい。」と指導したのに対し、同人が「憲法で認められた権利であり、外しません。」と答えたところ、同助役は、「現認する。業務命令違反だ。」と通告し、S組合員に就業規則の書き写しを命じた。
午前九時一〇分ころ、就業規則の書き写し作業を行おうとしたS組合員に対し、木内駅長は、「国労バッジを外しなさい。まだそんなものを着けているのか。業務命令だ。」と言った。これに対してS組合員は、「外せない。」と答えたところ、同駅長は、「従えないのなら家へ帰れ。業務を否認する。五分時間をやる。考えなさい。」と言った。
午前九時一五分ころ、U助役は、S組合員に対して「(国労バッジを)外さないのなら九時一五分、業務否認。家へ帰れ。」と命じた。
なお、その後、原告は右業務否認の措置を撤回している。(〈証拠略〉)
(1)利用者の面前での注意・指導
駅の出札、改札、ホーム職員、売店などの事業部で働いている者など旅客に接する部署の国労組合員に対し、仕事中に旅客のいる前で組合バッジを外せと何回も注意する(〈証拠略〉)。
(2)不利益処遇の示唆
本件組合バッジ着用によって、解雇、出向・配転、担務変更や、昇給・昇格、宿舎入居等における不利益処遇のあることを示唆する(〈証拠略〉)。
(3)就業規則の朗読・書き写しの業務命令
国労組合員が「なぜバッジがいけないのか」と質問したところ、翌日から一か月間にわたり再教育と称して勤務から外され、就業規則の書き写しなどをさせられたり(〈証拠略〉
)、「就業規則を知らないならこれを読みなさい」と就業規則二〇条を大きくコピーした用紙を渡して読まされた(〈証拠略〉)。
(4)駅長室等における長時間の取り外し指導
駅長室に呼び出し、または複数の管理職で取り囲んで組合バッジを外せと怒鳴る等して威嚇することもあった。田浦駅では、駅長室で、取り外さなければ配転もありうると大声で約二〇分間、執拗に本件組合バッジの取り外しを指導した(〈証拠略〉)。戸塚駅では、駅長室で一人一〇分ないし三〇分間組合バッジの取り外しを指導した(〈証拠略〉)。桜木町駅でも、業務中に駅長室に呼びつけられて服務規定の条文を読まされたり、一日中会議室で条文を読まされて、感想文を書かされた(〈証拠略〉)。
(5)ネクタイ・ネクタイピン・ボールペン等の国労マークに対する指導(略)
7 神奈川県近辺の私鉄のうち、箱根登山鉄道、江ノ島観光電鉄、臨港バス交通、東武交通、帝都高速度交通営団、東京急行、京成電鉄、京浜急行、京王帝都、小田急及び相模鉄道の各労働組合の組合員らは、いずれも就業時間中に当該組合所属を表示する組合バッジや私鉄総連の定めた統一組合バッジ(横一・三センチメートル、縦〇・八センチメートル、緑と赤地又は黒地にPRUの文字が入ったもの)を着用していることがあり、これに対して各使用者はその着用を禁止しておらず、右着用を理由に懲戒処分等の不利益取扱いもしていない(〈証拠略〉)。
国労バッジ判例の類型
第1類型
- JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平9・10・30判時1626号388頁
要旨
(棄却。勤務時間中に組合バッヂを着用する行為は、それが労働組合員であることを顕示して組合員相互間の組合意識を高め、使用者及び他の労働組合に所属する社員との対立を意識させ、注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであったと認められる等判示の事実関係の下においては、当該行為により職務の遂行が阻害される等の具体的な実害が発生しないとしても、企業秩序の維持に反するものであり、職務専念義務、勤務時間中の組合活動の禁止、服装の整正義務を定める就業規則の各規定に違反するとし、厳重注意や夏期手当の減額支給等の措置は不当労働行為に当たらないとした。上告)
要所・抜粋
本件就業規則は、企業経営の必要上従業員の労働条件を明らかにするとともに、企業秩序を維持・確立することを目的とするものであるが、その解釈・適用に当たっては、前記憲法の趣旨に従い、団結権と財産権との調和と均衡が確保されるようにされなければならないところ、右各規定の目的に鑑みれば、形式的に右各規定に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右諸規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である(最高裁判所昭和四七年(オ)第七七七号、同五二年一二月一三日第三小法廷判決・民集三一七号九七四頁参照)〔引用者註目黒電報電話局事件〕。
したがって、本件組合員等の本件組合バッヂ着用行為が、文言上形式的には本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当であるが、そのような特別の事情が認められない限り、右各規定違反になるものといわなければならない。
(二)(1)そこで、次に、本件において、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情があると認められるか否かについて検討するに、一般私企業において、従業員は、労働契約を締結して、労務提供のために企業に入ることを許されたものであるから、労働契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、かつ、企業秩序に服する態様において、勤務時間中行動することが認められているものであるところ、被控訴人の場合‥‥国鉄時代には、職場規律が弛緩し、ヤミ協定、悪慣行が存在していたことから、新会社においては、同じ轍を踏まないため、設立までには、これらを是正し、違法行為に対しては厳正な処分を行い、職務専念義務を徹底させることが求められていたのであり、このような是正措置の上に立って、新会社の運営が行われることが要請されていたものである‥‥。
(2)したがって、本件就業規則三条一項の「社員は、被控訴人事業の社会的意義を自覚し、被控訴人の発展に寄与するために、自己の本分を守り、被控訴人の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない。」という規定は、社員の職務専念義務という観点からは、社員は、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。
そして、労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり、その行為が服装の整正に反するものであれば、本件就業規則二〇条三項に違反するといわなければならないし、また、それが組合活動としてされた場合には、そのような勤務時間中の組合活動は本件就業規則二三条、労働協約六条に違反するものといわなければならず、また、右規定違反が成立するためには、現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当である。
(三)(1)本件についてこれをみるに‥‥本件組合バッヂの形状は、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルで、黒字の金属板に、金色の線路の断面図が描かれたものに「NRU」の文字(国鉄労働組合を英訳した「NATIONAL RAILWAY UNION」のイニシャル)がデザインされたものであり‥‥本件組合バッヂは、国労に加入した際、国労手帳とともに組合員に無償で支給され、国鉄時代には、国労の指令等がなくとも、国労所属組合員は、自発的にこれを制服等の胸や襟に着用していたことが認められる。
このように本件組合バッヂは,そこに「NRU」の文字がデザインされているにすぎず、具体的な主義主張が表示されているわけではない。しかし、本件組合員等の本件組合バッヂ着用行為は、前示のとおり、組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、被控訴人の社員としての職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという被控訴人社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。
また、本件組合バッヂの着用行為は、国鉄の分割民営化に反対する東京地本が昭和六二年三月三一日に出した「国労バッヂは全員が完全に着用するよう再度徹底を期することとする。」などを内容とする指示第一六〇号に従ってされたものであることに照らせば、使用者及び分割民営化に賛成した他の労働組合の組合員に対して、国労の団結を示そうとする意味があるものというべきであり、これにより、国鉄改革法に従って新会社の運営を推進しようとする使用者及び分割民営化に賛成した他の労働組合の組合員との対立を意識させ、そのことによってこれらの者が注意力を職務に集中することを妨げるおそれのあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったというべきである。
このような次第であるから‥‥、前記各規定に違反するというためには、現実に職務遂行が害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないのであって、本件組合バッヂを着用した者が、顧客と接触の多い車掌であるか、あるいは、運転所、保線所、電気所など接客頻度の低い部署に所属する者であるかによっては、その違反の情状に差異が生じ得ることはあっても、前記各規定の違反の成否に差異を生じるものではないといわなければならない。本件組合バッヂの着用により現実の職務遂行に支障を生じるものではないから、本件組合バッヂの着用は前記各規定に違反するものではない旨の控訴人及び控訴人補助参加人等の主張は採用することができない。
‥‥本件就業規則は、従来の国鉄とは異なる新しい企業秩序の維持・確立に向けて、すべての社員を対象として制定されたものであって、‥‥本件就業規則及び右事務連絡が国労及び国労所属組合員にねらいを定めたものであったと認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。控訴人補助参加人等の右主張も採用することはできない。
8‥‥本件措置をもって、被控訴人が国労を嫌忌するがゆえに、国労の組織を弱体化させるために支配介入した不当労働行為であると認めることはできず、他に本件措置が労働組合法七条三号所定の不当労働行為に該当すると認定するに足りる証拠はない。
- JR東海新幹線支部国労バッジ事件・最三小判平10・7・17労判744号15頁
(棄却、国労バッジ着用に対する厳重注意および夏期手当の5%減額の措置を支配介入の不当労働行為に該当するという都労委の救済命令を取り消した原審判断を維持する)]
第1類型
- JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24・11・7労判1067号18頁
要旨
(救済命令取消請求訴訟。中労委は国労バッジ着用を続けたことを理由とする(1〕平成20年1月26日付けで5日間の,〔2〕同年10月31日付け及び〔3〕平成21年9月29日付けで各10日間の各出勤停止処分を不当労働行為にあたるとして救済命令を発令したが、一部取り消す。就業規則違反行為は約15年にもおよんで再三反復継続していたことからすれば業務に対する支障がない行為ではあるがそれに対する処分の加重性には合理的理由があり,さらに国労は昭和62年の会社発足以来組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示し,組織としても不当労働行為救済申立てを行うなどしてきたが,平成14年3月末以降は,組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり,平成18年11月には,バッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げているのであって、平成15年7月以降は国労バッジ着用者が○○のみとなり,本件各処分の対象となった平成19年ころには,既にその組合活動としての色彩が後退し,個人的行為の側面が強いなどとして不当労働行為には当たらないとした。)
要所抜粋
‥‥JR東日本の就業規則3条において,「社員は,会社事業の社会的意義を自覚し,会社の発展に寄与するために,自己の本分を守り,会社の命に服し,法令,規程等を遵守し,全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」‥‥社員は,勤務時間中,その注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事するという厳格な職務専念義務を負うことを定めたものであると解され,上記のような国鉄時代の職場規律の状況や国鉄改革の経緯等にかんがみれば,このような厳格な職務専念義務を定めることにも合理的な理由があるというべきである。
なるほど,本件バッジは,そこに「NRU」と国労を示す文字がデザインされているにすぎず,その大きさは約1センチ四方のものであって,具体的な主義主張が記載されているわけでもない。しかし,前記のとおり,国労バッジは,国労東京地本が昭和62年に全組合員に着用の徹底を指示していたものであり‥‥‥国労組合員であることを顕示して組合員相互の団結・連帯の意識を高めるものである。そして,国労バッジには,これを着用していない他の国労組合員に対しても,当該着用者が国労組合員であることを顕示して訴えかける心理的効果を有する側面があるのは否定できないことからすれば,同バッジの着用は,実質的に組合活動としての意味を有し,上記の意味での職務専念義務に違反するものであって,それが身体的活動としての労務提供に格別支障を生じさせないことを考慮しても,企業秩序を乱すおそれがない特段の事情があるとはいえない。
ウ 以上の点に加えて,本件各処分の対象となった時期(平成19年4月16日以降)には,既に,就業規則で定められたもの以外は組合バッジに限らず着用しないという服装整正に関する職場規律が確立していたといい得ること,それにもかかわらず,P10は,平成22年2月の退職時まで国労バッジの着用を継続したこと等の諸事情にかんがみれば,本件において,P10の国労バッジ着用を正当な組合活動と認めることはできない。
(3)支配介入の成否について
ア 以上のとおり,P10の国労バッジ着用は,就業規則3条1項,20条3項及び23条に違反するものであるから,原告JR東日本が,P10の国労バッジ着用について就業規則等に則り懲戒その他の不利益処分を行い得ることは明らかである。
しかし,使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といえる面があるとしても,当該組合活動に対して行われた懲戒処分が同活動の態様等に比して著しく過重なものであって,当該処分が使用者の当該組合に対する嫌悪の念に発していると認められるなど,それが労働組合に対する団結権の否認又は労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときは,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たる場合があり得るというべきである。
(中略)
ア ‥‥本件各処分(出勤停止5日または10日であって,賃金等の減額のみならず夏季手当15%の減額を伴う重い処分である。)が,原告JR東日本の国労に対する嫌悪の念に発したものであるとする見方も成り立ち得る余地はあろう。
イ しかし,原告JR東日本は,国労組合員等の組合バッジの着用について,昭和62年4月の設立当初から一貫して厳正に処分する姿勢を示し,実際に違反者に対し訓告等の処分を繰り返し行っていたものであり,平成14年3月28日の本件警告文の掲出は,時期的に四党合意に関し与党からの三党声明が出された時期(平成14年4月26日)と近接しているものの,設立当初からの基本的な方針に沿う,その延長線上の行動であったということができる。原告JR東日本設立以降,本件警告書掲出までの間でみても,P10らの国労バッジ着用による就業規則違反行為は約15年間にわたり多数回に及ぶもので,かつ,同人らが何ら態度を変える様子もなく違反行為を反復,継続していたことからすれば,その処分量定を加重していくこと自体には合理的な理由があるものであって,過重な処分がなされたことのみを理由に,直ちに,本件各処分が不当労働行為意思の発現であると認めることはできない。
また,P10や原告P1ら8名が,国労内部において四党合意に反対し,これを受諾する国労執行部の姿勢を批判していたことは事実であるが,国労バッジの着用と四党合意に対する反対姿勢との間には直接の関連性はなく(国労バッジが四党合意反対運動の象徴となっていたわけでもなく,本件全証拠に照らしても,両者の結び付きを窺わせる事情は認められない。),‥‥四党合意に反対するP10らの存在を嫌悪して国労バッジ着用に関しあえて過重な処分を行ったとする被告国の主張に直ちに左袒することは困難である。
そして‥‥P10の違反行為自体が軽微であるとはいい難いし,原告JR東日本には,他にも再三の注意指導にもかかわらず出勤遅延を繰り返した従業員に対し,順次量定を加重し,出勤停止処分をするに至った事例もあること‥‥に照らしても,重い処分を受けたからといって,それが直ちに不当労働行為意思の発現であると認めることはできない。
エ さらに,当初は組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示し,組織としても不当労働行為救済申立てを行うなどしてきた国労が,平成14年3月末以降は,組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり,平成18年11月には,バッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げていること‥‥,国労は,組合バッジ着用に関し,機関決定違反として統制処分をするまではしないが,支持はしないという態度であること,平成15年7月以降は国労バッジ着用者がP10のみとなり,P10が再就職して国労バッジの着用を止めた後,その活動を引き継いで行おうとする動きもなかったこと等にかんがみれば,P10のバッジ着用行為に組合活動としての保護が与えられるのは前記のとおりであるとしても,遅くとも本件各処分の対象となった平成19年ころには,既にその組合活動としての色彩が後退し,P10の個人的行為の側面が強くなっていたことは否定できないところである。
オ 以上の諸事情を考慮すれば,前記ア記載の事情を考慮しても,本件各処分から原告JR東日本の支配介入の意思が推認されるとはいえず,本件各処分が支配介入に当たるということはできない。
記
氏名 バッジ取外し日 最後の処分時期及び処分内容
原告P6 平成14年4月12日 平成14年7月/訓告
同P5 平成14年5月19日 平成14年7月/訓告
同P7 平成14年6月 5日 平成14年7月/訓告
同P8 平成14年8月 3日 平成14年7月/減給
同P4 平成15年1月 9日 平成14年12月/減給
同P1 平成15年4月 3日 平成15年3月/出勤停止1日
同P3 平成15年4月 3日 平成15年3月/出勤停止1日
同P2 平成15年4月15日 平成15年3月/出勤停止1日
また,P10や原告P1ら8名が,国労内部において四党合意に反対し,これを受諾する国労執行部の姿勢を批判していたことは事実であるが,国労バッジの着用と四党合意に対する反対姿勢との間には直接の関連性はなく(国労バッジが四党合意反対運動の象徴となっていたわけでもなく,本件全証拠に照らしても,両者の結び付きを窺わせる事情は認められない。),前記のとおり,原告JR東日本としては,四党合意がなる以前の同社設立当初から国労バッジの着用を一貫して禁じていたものであることに照らすと,四党合意に反対するP10らの存在を嫌悪して国労バッジ着用に関しあえて過重な処分を行ったとする被告国の主張に直ちに左袒することは困難である。
そして,本件各処分が重い処分であることは否めないが,前記のとおり,就業規則違反行為を反復,継続することによりそれに対する処分が加重されること自体には合理的な理由があるところ,P10は,原告JR東日本からの再三の制止を受け入れることなく,本件警告文掲出以降5年以上もの間,原告JR東日本設立時からみれば約20年以上もの間,国労バッジの着用を続けたものであるから,職務に与える影響がごく軽微であることを考慮しても,P10の違反行為自体が軽微であるとはいい難いし,原告JR東日本には,他にも再三の注意指導にもかかわらず出勤遅延を繰り返した従業員に対し,順次量定を加重し,出勤停止処分をするに至った事例もあること(証人P11)に照らしても,重い処分を受けたからといって,それが直ちに不当労働行為意思の発現であると認めることはできない。
第2類型
△JR東日本神奈川国労バッチ事件・東京高判平11・2・24判時1665号130頁裁判所ウェブサイト
要旨
(棄却、国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意、訓告、55名に対し夏季手当5%減額の措置を不当労働行為とする。国労バッジの着用は、就業規則の服装整正規定違反、就業時間中の組合活動禁止規定違反、職務専念義務規定違反であり企業秩序を乱すものであるとし、取外し命令、懲戒、不利益処分を禁止するものではない。しかしながら「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても,それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」と述べ、「敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し」バッジ取外しの指示・指導等は「執拗かつ臓烈なもので,平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり」「就業規則の書き写しの作業などは,嫌がらせ」であり、「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入)に該当するとした。)
要所・抜粋
参加人らは、就業規則の秩序維持条項による組合活動規制に関しては、就業規則の文言の形式的該当性とは別に、企業秩序を現実に阻害するなど、当該規則の達成すべき目的に実質的に違反するような行為かどうかという基準によって合理的判断を行うべきであるとし、本件就業規則二〇条三項は、同条一項の規定とあいまって、労務提供のために必要かつ合理的な服装整正を目的とする条項であるから、着用した際に目立たず、所属組合を抽象的な線路のマークと組合名の頭文字の組合せで示すのみの本件組合バッジは、右規則の趣旨に実質的に反するものではなく、また、本件組合バッジの着用は、伝統的な言葉の意味からすれば、組合活動とはいえず、仮にこれを組合活動と呼んだとしても、業務に支障を生じさせたり、職場の秩序を乱すものではないので、本件就業規則二三条に実質的に違反するものではなく、さらに、本件組合バッジは着用者にとって組合に所属する自己の同一性を表すものにすぎず、その着用は職務への専念を妨げるものではないので、本件就業規則三条一項に違反するものでもないと主張するので、以下これらの点について検討する。
(一)本件就業規則二〇条は、社員の服装の整正について定め、同条三項は、「社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」と規定しているところ、本件組合バッジが右の「会社の認める以外の胸章、腕章等」に該当することは明らかである。
もっとも、右規定は、服装の整正によって職場内の秩序風紀の維持を目的としたものであるから、形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である。そして、前記認定のとおり、本件組合バッジは、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルの四角形で、この中にレールの断面と国労の頭文字である「NRU」の文字が表示されているというものであり、具体的な主義主張が直接表示されているわけではない。しかし、前記認定の事実によれば、国鉄の分割民営化の過程で、国労は、一貫してこれに反対する方針を採り、控訴人及び分割民営化に賛成する他の組合と対立する状況にあり、本件組合員らによる本件組合バッジの着用は、国労から多くの組合員が脱退し、国労が弱体化、孤立化していく中で、東京地本から繰り返し出される着用の指示の下でされたものであるから、本件組合バッジ自体に具体的な主義主張の記載ないし表示がされていなくても、本件組合員らは、これを着用することによって、その着用者が国労の組合員であることを顕示して同僚の国労組合員との結束を高めるとともに、国労組合員であっても自らの意思で本件組合バッジを着用していない他の社員に心理的影響を与え、さらに、国労組合員以外の者に対して国労の団結を示そうとして、本件組合バッジを着用したものと認められるのであって、このような事情を考慮すると、本件組合バッジの着用につき職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとは到底いえない。
(二)本件就業規則二三条は、「社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」と規定しているところ、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は、国鉄の分割民営化の過程で国労から多くの組合員が脱退していく中で、国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、組合活動というべきであり、右規定に違反するというべきである。
また、前記(一)で述べたところと同様に、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとはいえない。
(三)本件就業規則三条は、服務の根本基準について定め、同条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定している。これは、社員がその就業時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないこと、すなわち職務以外のことを就業時間中に行ってはならないことを意味するものである。ところで、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は‥‥国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。
なお、参加人らは、本件組合バッジの着用によって現実の職務遂行に支障を生じないので、本件組合バッジの着用は右規定に違反するものではないと主張するが、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきであり、参加人らの右主張は、採用することができない。
以上のとおりであるから、参加人らの主張は採用することができず、本件組合員らの本件組合バッジの着用行為は、本件就業規則二〇条三項、二三条及び三条一項にそれぞれ違反するものであるというべきである。
三 不当労働行為の成否について
‥‥労働組合の多くが労働協約の改訂や再締結、更には労使共同宣言の締結を行って労使協調関係を強めていく中で、国労は、これらを拒否し、国鉄当局との対立関係を強めていたこと、(三)このような姿勢をとる国労に対し、国鉄ないし控訴人の幹部は、敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し、特に‥‥М常務取締役においては、会社に対する反対派(国労)を断固として排除する旨発言し、また、控訴人のS社長においては、東鉄労との一企業一組合が望ましいとして、国労を攻撃し、このような迷える子羊を救って東鉄労の仲間に迎え入れていただきたいとして、東鉄労の組合員らに対し、国労組合員の国労からの脱退、東鉄労への加入を促す働き掛けを期待する発言もしていたこと、(四)‥‥国鉄は、職員管理調書の作成に当たり、動労組合員の労働処分歴は記載されないような取扱いをし、人材活用センターへ主に国労組合員を配置し、国労及び動労に対して提起されていた前記二〇二億円の損害賠償請求訴訟について動労に対する訴えのみを取り下げるなど、国労を孤立化させることになる施策を進め、分割民営化に当たっての国鉄の承継法人への採用に当たっても、不採用者の多くが国労組合員であったこと、(五)‥‥本件組合バッジ取り外しの指示・指導等は、組織的に行われ、その具体的な方法・態様も‥‥(三)‥‥執拗かつ熾烈なもので、平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり、特に、本件組合バッジの取り外しを拒否した国労組合員に対して命じた本件就業規則の書き写しの作業などは、嫌がらせ以外の何物でもないといわざるを得ないものであり‥‥(六)しかも‥‥国労組合員に対し、上司等から、組織的と思われる態様で、国労からの脱退の勧奨がされたこと‥‥。
そして、これらの事実を合わせ考えるならば、控訴人が本件組合員らに対して本件組合バッジの取り外しを指示・指導等した行為及び本件組合バッジを着用していたことを理由に本件組合員らに対してした本件措置は、控訴人が‥‥国労を嫌悪し、国労から組合員を脱退させて、国労を弱体化し、ひいてはこれを控訴人内から排除しようとの意図の下に、これを決定的な動機として行われたものと認めざるを得ず、したがって、控訴人の右一連の行為は、国労(参加人ら)に対する労働組合法七条三号にいう不当労働行為(支配介入)に該当するものといわなければならない。
△JR東日本神奈川国労バッチ事件・最一小決平11・11・11労働判例770号32頁
本件は、民訴法三一八条一項の事件に当たらないとして不受理
第2類型
△JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京地判平25・3・28別冊中央労働時報1443号17頁
要旨
(救済命令取り消し訴訟、棄却。平成12年5月30日になされた四党合意について,国労は,平成13年1月27日,これを受諾し,さらに,平成14年3月末ころ,国労バッジ着用処分について,組織として救済申立てをしない方針に転換した。国労の上記方針の転換の時期と相前後する平成14年3月28日,原告は本件警告書の掲出を行い,国労バッジ着用行為に対し,従前行っていた1年度2回の訓告よりも処分を加重する旨を通告した。 6名はその後の調査期間(平成14年4月から同年6月まで)経過後も国労バッジ着用行為を続けたため,これを止めるまで減給以上の処分を受けた。
本件警告書掲出前にされていた処分と,掲出後にされた処分は,後者の方が格段に大きな経済的不利益をもたらすものと認められるが,この極端な厳罰化は,組合バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた会社が,組合執行部の方針転換を認識するに至り,これを機に,組合内少数派の組合活動を一掃しようとの意図に基づき行ったものであると推認することができることから,組合内少数派の勢力を減殺し,組合執行部の方針に加担したものと認められ,支配介入を構成し不当労働行為が成立するとした)。
要所抜粋。
原告は,昭和62年4月7日,各機関に対し,各現業機関の社員を対象に同月1日から7日までにおける社章,氏名札及び組合バッジの常態的な着用状況についての調査・報告を指示した。上記調査結果によると,1303か所の現業機関の6万4105名中,正規の服装をしていた者が5万8376名(91.1%),組合バッジ着用者が5645名(8.8%)であり,そのうち国労組合員が5634名を占めていた。
原告は,昭和62年4月20日,各機関に対し,組合バッジ着用者に対し,服装整正違反であることの注意喚起をし,繰り返し注意・指導を行ったにもかかわらず,組合バッジを外さない社員に対しては,人事考課等に厳正に反映するなど厳しい対象を行うことを指示した。また,同年5月28日,原告は各機関に対し,服装違反者に対する方針を示し,現場の実態について完全に把握し,厳正な対処の準備を図るよう指示し,この後も,一貫して組合バッジ着用について,その取り外しを指導,注意し続けていた。
そして,昭和62年6月,原告は組合バッジ着用者に対し,初めて服装整正違反を理由として4883名に対して厳重注意処分ないし訓告処分を発令して以降,本件警告書掲出前の平成13年9月まで,概ね年2回,組合バッジ着用行為に対する処分を行った。被処分者数は,平成3年9月には2000名を割り込み,平成9年3月には1000名を割り込み,平成13年9月には345名(全体の0.5%)となっていた。
(2)本件警告書について
ア 本件警告書の内容等
平成14年3月28日に掲出された本件警告書は,「例外的一部の社員」が,「(中略)組合バッジを着用するなどの就業規則違反を繰り返し,中には数十回の訓告を受けながらなお是正することのない社員も見受けられる」とし,今後,なおこのような違反行為をあえてする社員に対しては,「さらに厳正な処分を行わざるを得ない」ことを警告している。4 争点(4)本件警告書の掲出後,P1ら9名に対し服装整正違反を理由に訓告,減給処分及び出勤停止処分をしたことは不当労働行為(労組法7条1号,3号)に該当するか。)について
(1)国労バッジ着用行為は,労働組合の組合活動といえるか
ア 国労による国労バッジ着用指示等
国労の東京地方本部は,昭和62年3月31日,国労バッジ着用指示をし,昭和62年以降,原告による国労バッジ着用行為に対する処分につき,組合として,第1次ないし第4次国労バッジ事件にかかる救済申立てを東京都労委や神奈川県労委等に行うなどした。
第1次国労バッジ事件は,神奈川県労委が救済申立てを認容する救済命令を発し,平成11年11月11日に,最高裁判所の上告不受理決定により確定した。
イ 国労の,国労バッジ着用行為についての方針転換
平成12年5月30日に四党合意がなされた後,国労内では,四党合意の受入れを巡って議論がなされたが,平成13年1月27日,四党合意を受諾するに至った。
国労は,さらに,国労バッジ着用に関する集会を開き,これ以上国労バッジ着用で不利益を被ることを避けたいと意見表明し,国労バッジを外そうという議論が行われ,本件警告書掲出時である平成14年3月末ころ,国労は,国労バッジ着用行為に対する処分について,組織として救済申立てをしない方針に転換した。
そして,従前国労が労働委員会に申し立てていた国労バッジ着用行為に対する処分についての救済命令申立事件については,P1ら9
(ア)‥‥国労は,国労バッジ着用について,昭和62年当初に着用を指示し,原告が国労バッジ着用行為に対する処分を行ったことについて神奈川県労委等に救済申立てを行うなどしたものの,その後,平成11年には第1次国労バッジ事件が終局を迎え,平成13年ころには,国労の集会で国労バッジを外そうという議論がなされ,平成14年の本件警告書掲出後の国労バッジ着用処分については,組織として救済申立てを行っておらず,平成18年包括和解に至っているのであるが,これを全体としてみると,国労としては,遅くとも平成14年ころには,国労バッジ着用について積極的に支持をすることはなく,原告との係争についても,これを回避する方針に転換したものと認められる。
(ウ)‥‥平成14年から平成20年ころまでの,国労バッジ着用に対する国労の方針としては,これを積極的には支持しないものの,組合としての統制処分を行うこともなく,昭和62年当初の指示を撤回することもなく,結局,個人の判断に委ねる状況であったと認められる。
(エ)そして,P1ら9名は,上記のとおり国労内少数派として四党合意,三党声明に対し救済申立てを行うなどの活動をしていたのであるが,国労バッジ着用に関する国労の方針が,個人の判断に委ねられるという状況のもとで,P1ら9名としては,昭和62年当初の国労の着用指示に従い,一貫して国労バッジ着用を継続し,国労内少数派組合員として,少数派同志の仲間意識を高め,国労内執行部に対する批判的な行動として,また,国労の自主的,民主的運営を志向するものとして国労バッジ着用行為を継続したものと認められる。
(オ)したがって,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労の組合内少数派の組合活動として行われたものと認められる。
オ 小括
したがって,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,不当労働行為制度の保護の対象となる組合活動に該当する。
(2)不利益取扱い(労組法7条1号)の成否(正当性の有無)
労組法7条1号の不当労働行為は,組合活動のうち,「正当な行為」について成立するので,以下,その正当性について検討する。
ア 就業規則との関係
国鉄では,職場規律の乱れや巨額の赤字が問題となり,職場規律の乱れを是正するための措置が講じられるとともに,分割民営化による改革が進められることになる中で,原告は,その国鉄の事業の一部を引き継いだのであるから,原告が,かかる設立の経緯を踏まえ,職場規律を確立して企業秩序を維持するために,職務専念義務,服装の整正,勤務時間中の組合活動の禁止等を定める就業規則を制定したことには,十分な合理性が認められる。
そして,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,職務専念義務について定める就業規則3条1項,社員の服装の整正について定める同20条3項,勤務時間中の組合活動を禁止する同23条にそれぞれ違反し,原則として,その正当性が否定されるものであると認められる。
イ 正当性に関する補助参加人らの主張について
補助参加人らは,〔1〕国労バッジ着用は労務提供義務と矛盾なく両立し,業務阻害性はなく,職務専念義務,服装整正義務に違反するとはいえない,〔2〕国労バッジ着用の組合活動としての必要性等を考慮すれば,国労バッジ着用行為には正当性があると主張するので,以下検討する。
(ア)補助参加人らの主張〔1〕について
本件就業規則3条1項に定める職務専念義務は,社員は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。
そして,労働契約においては,労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労務契約の重要な要素となっているから,職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり,その行為が服装の整正に反するものであれば,就業規則20条3項に違反するといわなければならないし,また,それが組合活動としてされた場合には,そのような勤務時間中の組合活動は就業規則23条に違反するものといわなければならない。
P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労組合員の中でも国労バッジ着用を止める者が大多数となっていく中で,国労内少数派として着用を継続したものと認められるが,国労執行部ないしは原告に対し,国労内少数派としての意思を表明し,また国労内における多数派に対し,少数派との対立を意識させるものといえ,また同時に,国労組合員のうち,自らの意思により国労バッジを着用していない者に対しても心理的影響を与え,当該組合員が職務に精神的に集中することを妨げるおそれがあるものであるから,かかる行為は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反し,また服装整正にも反するものとして,企業秩序を乱すものといわざるを得ない。
補助参加人らは,国労バッジ着用に業務阻害性はないと主張するが,上記就業規則違反が成立するためには,現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当であり,補助参加人らの主張は採用することができない。
ウ 小括
以上により,補助参加人らによる国労バッジ着用行為は,就業規則3条1項,20条3項,23条に反し,実質的に企業秩序を乱すおそれのない事情も認めることができず,正当性を認めることができない。
よって,本件各処分等について,労組法7条1号の不当労働行為は認められない。
(3)支配介入(労組法7条3号)の成否
ア 支配介入の成否の判断基準
使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても,それが労働組合の結成に対する嫌悪の意図や労働組合の団結権ないしその自主的運営を否定する意図を決定的な動機として行われたと認められるときには,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入(労組法7条3号)に該当するというべきである。そこで,以下,本件における支配介入の成否を検討する。
イ 原告と国労との間の国労バッジ着用処分をめぐる係争の推移
国労が,国労バッジ着用処分に対する救済申立てを,東京都労委,神奈川県労委,埼玉県労委及び千葉県労委等に行い,このうち,第1次国労バッジ事件については,平成11年11月11日,最高裁判所の上告不受理決定により確定し,その余の事件については,平成18年包括和解により終了した。
ウ P1ら9名の組合活動,国労内での位置づけ等
そして,P1ら4名等は,四党合意及び三党声明に対して,不当労働行為救済申立てを行い,本件警告書掲出後の国労バッジ着用処分について,国労が組織として救済申立てをしない中,個人として救済申立てを行い,また,平成18年包括和解の際も,和解に反対し,当事者としてP1ら9名を追加するよう申し立てるなど,P1ら9名の組合活動は,一貫して国労執行部に反対するものであった。
エ 原告発足後の組合バッジ着用行為に対する処分の推移
原告は,原告発足時から,組合バッジ着用について調査し,服装整正違反であることを注意喚起し,取り外すよう注意,指導してきた。原告は,昭和62年6月,組合バッジ着用者4883名(原告の全従業員の5.9%)に対して,服装整正違反として初めて厳重注意処分ないし訓告処分を発令した。その後,処分内容が訓告処分に加重された後も,平成3年3月の処分時までは被処分者が2000名を上回っていたが,同年9月の処分時には2000名を下回り,平成8年9月の処分時には1000名を,平成12年3月の処分時には500名をそれぞれ下回るなど,被処分者数(すなわち,それぞれの処分時まで組合バッジ着用行為を継続していた者)は減少を続け,本件警告書掲出直前の平成14年3月の被処分者数は314名(原告の全社員比率0.4%)まで減少していた。
本件警告書掲出後の平成14年4月1日以降も,127名(対全社員比0.2%)が組合バッジ着用を継続したが,そのうち101名は同年6月までに組合バッジ着用を止めたため,平成14年7月の,上記警告書掲出後初めての処分の際も,処分内容を訓告のまま据え置かれ,この際に,処分内容を減給に加重された者は,同年7月1日以降も組合バッジ着用を継続した26名(対全社員比0.04%)にとどまった。
オ 本件警告書掲出前後の処分の均衡
ここで,減給処分や出勤停止処分の不利益の程度について検討する。
本件警告書掲出前にされていた同一年度2回の訓告処分では,期末手当において成績率各5/100減,定期昇給において昇給号俸1/4減となるものの,月額給与の不利益はなかった。これに対して,本件警告書掲出以後にされた減給処分は,期末手当(夏季又は年末)において成績率10/100減,定期昇給において1回の処分で昇給号俸1/4減,月額給与は1回の処分につき平均賃金日額の1/2減となった。さらに,出勤停止処分では,期末手当(夏季又は年末)において成績率15/100減,定期昇給において1回の処分で昇給号俸2/4減,月額給与は出勤停止処分の日数分の減となった。なお,定期昇給は,同一年度内に減給処分4回又は出勤停止処分2回以上の処分を受ければ昇給されないこととなる。
以上のとおり,本件警告書掲出前にされていた処分と,掲出後にされた処分は,後者の方が格段に大きな経済的不利益をもたらすものと認められ,組合バッジ着用行為を継続したことによる処分の加重であることを考慮してもなお,本件警告書掲出以前の処分と比較して量定,頻度において極端に加重されており,均衡を欠くものと認められる。
カ 他の処分との不均衡等
原告では,本件警告書掲出後に,氏名札を着用しない現業の従業員に対し,1度訓告処分にし,その後再度氏名札不着用が認められたため,戒告処分を2度行った例があると認められるがが,本件警告書掲出後であるにもかかわらず,初回の戒告後の氏名札不着用に対して,処分量定を加重することなく再度戒告処分にしており,同時期の組合バッジ着用処分との均衡を欠いているといえる。
さらに,原告と同様,国鉄の分割・民営化により発足したJR西日本は,原告と概ね同内容の就業規則等を定め,昭和62年から組合バッジ着用行為に対する処分を行ってきたところ,平成9年度から平成18年度まで,各年度内1回のみの訓告処分にとどめ,処分量定の加重も行わなかったと認められ‥‥, 組合バッジ着用行為は,その行為態様に大きな差がでることは考えにくいことを考慮すると,他社の処分であるとはいえ,同じ組合バッジ着用行為に対する処分としては,差が大きいというべきであり,この点でも,均衡を欠いているといえる。
キ 国労執行部による国労バッジ着用行為についての方針転換との時期的附合性
‥‥国労執行部は,平成14年3月末ころ,国労バッジ着用処分については,以後,組織として救済申立てをしないとの方針に転換したが,本件警告書の掲出がなされたのは,かかる国労執行部の方針転換の時期と極めて近接していることが認められる。
ク 評価
(中略)
そうであるにもかかわらず,上記時期に本件警告書の掲出を行い,以後の国労バッジ着用継続者に対して,経済的不利益が大きい量定,頻度で処分を行っており,かかる処分の加重は,当時のP1ら9名の国労バッジ着用継続の態様だけでは合理的に説明することができないといわざるを得ない。
(中略)
(ウ)そうすると,原告の平成14年3月以降の国労バッジ着用行為に対する極端な厳罰化は,国労バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた原告が,国労執行部の方針転換を認識するに至り,これを機に,国労内少数派の組合活動を一掃しようとの意図に基づき行ったものであると推認することができるというべきである。
(エ)そして,原告による本件各処分は,国労内少数派の勢力を減殺し,国労執行部の方針に加担したものと認められるのであり,国労内における国労バッジ着用についての方針等について,支配介入があったものと認められ,不当労働行為(労組法7条3号)が成立する。








最近のコメント