EU労働時間指令を廃止しないかぎり欧州に未来はない(再掲)
2010/05/29のブログの再掲である。
28日付産経新聞の「財政不安の欧州各国、超緊縮財政策を加速 」という記事を読んだがhttp://sankei.jp.msn.com/economy/finance/100527/fnc1005272151020-n2.htm、EUのファンロンパイ大統領(首脳会議常任議長)は「欧州はこれまで以上に勤勉に長時間働かなければならなくなるだろう」と指摘しているとのコメントが印象に残ったが、これはとりも直さず「EU労働時間指令」によってヨーロッパ諸国が長時間労働を禁止していることに問題の一つがあると考える。
EU労働時間指令http://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2005_5/eu_01.htmとは、1993年に制定され、2000年に改正された。指令は、1)24時間につき最低連続11時間の休息期間を付与、2)6時間を超える労働日につき休憩時間を付与(付与条件は加盟国の国内法や労使協定で規定)、3)7日毎に最低連続24時間の週休及び11時間(1日の休息期間)の休息期間を付与、4)1週間の労働時間について、時間外労働を含め、平均週48時間以内の上限を設定(算定期間は4カ月)、5)最低4週間の年次有給休暇を付与。というものだが、例外規定があり、イギリスとマルタで適用されている。
つまり、EU労働時間指令について新自由主義政策をとるイギリス保守党メジャー政権が激しく抵抗したため、結果として例外規定として週48労働時間の上限の免除を受けるかどうかについて個々の労働者が選択するオプト・アウト制度を勝ち取っている。イギリスは、EUに加盟しながらも、本来、加盟国の義務であるユーロの導入や労働時間指令についてオプトアウト(適用除外)の権利を獲得し、 欧州大陸諸国と一線を画してきた。
保守党政権ではEU労働時間指令を受け容れず、一律の労働時間規制はなかったが、労働党ブレア政権によりEU労働時間指令を受け容れた。つまり、労働時間は週平均48時間を超えてはならないする「1998年労働時間規則」を設けたが、しかしながら同時に労働者により署名された書面による個別的オプト・アウトの合意により、法定労働時間規則の適用を免除する制度も設けた。2004年の『海外労働情報』によると使用者側のあるアンケート調査では、759社中65%の企業が、自社の従業員(一部または全部)にオプト・アウトに同意するよう求めているほか、CBI(イギリス産業連盟)の調査では、英国の労働者の33%が同意書にサインしており、事実上労働時間指令はイギリスでは空洞化しているとされている。イギリスの金融危機まで16年間の景気拡大は、オプト・アウト制度のおかげだと私は思う。
EU15カ国において週48時間以上働いているフルタイム雇用者は5%以下であるが、イギリスはその数字が20%を超えている。http://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2005_5/eu_01.htmというように労働時間に大きな違いが出ているのである。
私は、労働時間規制というものが、そもそも雇用契約の自由に反し、営業の自由に反するものとして反対だがイギリスの戦略が正しかったといえる。
『労働法律旬報』1716号2010年3/25シンポジウム「非正規労働者の権利実現会議」で脇田滋龍谷大学教授の発言をみると、イタリアはのんびりして良い、イタリアでは憲法で年次有給休暇を放棄してはならないと決められている。イタリアには軍人以外、配転慣行がなく、解雇もないのでのんびり働いている。イタリアをモデルとして人生を楽しむ社会にしたいなどということを語ってますが、ユーロ危機を認識しているのだろうか。
時短、育児休暇、子ども手当などヨーロッパのやり方をモデルとする社会福祉政策にはろくなものがない。ユーロ危機がこれほど明らかになっているのだから、もう欧州礼賛はやめるべきだ。
「勝間和代のクロストーク」「最低賃金 1000円に増額」2009年1月09日http://mainichi.jp/select/biz/katsuma/crosstalk/2009/01/post-7.htmlでは、我が国においてもEU労働時間指令と同様の週48時間の労働時間規制を実施すべきだとしている。ただでさえ、日本の労働生産性がOECD加盟国の中で中位にとどまっており、とくに非製造業部門の生産性が低いこと、林=プレスコット説において、90年代に進められた時短が失われた10年の要因だと指摘されているにもかかわらずである。EU労働時間指令なんかやったら、もはや我が国の経済成長は望めない三等国になるしかない。
さらに政府は少子化対策という名目の、労働時間の抑制や有給休暇の完全消化などワークライフバランス政策を推進しているが、ヨーロッパに倣ってろくなことはないのである。民主党はドイツの会社法に倣って従業員代表を監査役に選任することを義務づけるになどの公開会社法の制定を狙っている。これは株主資本主義をやめて欧州型のステークホルダー資本主義、労働者管理型企業にしようとする方向と説明されている。http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51341659.html、そうなると我が国は経済自由主義ではなくなり、没落する欧州と同じような停滞してつまらない社会になる。
もうヨーロッパに倣う政策はやめよう。PIIGSとかいってるが私はドイツやフランス、北欧も嫌いなのだ。
以上が引用である。
リーマンショックまでのイギリスは16年景気が拡大し経済が好調だったのは、EU労働時間指令に拘束されないオプト・アウト制度の活用により、週48時間規制等の労働時間規制からのがれることができたからである。リーマンショック後の経済は他の先進国に比べ好調といわれている。わが国のような長期低迷経済とは違うのである。
オプト・アウト制度の活用というとだけでも、日本も含めた外国からの投資を呼び込む要因だったのである。
そもそもイギリスのコモンローは、17世紀に勤勉に働くこと奨励することがパブリックポリシーと宣言し、営業の自由を重視してきた。1960年代まで労働組合が強かったが、ボランタリズムの伝統から、政府の干渉を嫌う土壌があって、協約自治の発達した大陸欧州とは労働法制のありかたが根本から違うのである。
むろんオプトアウト制度を勝ち取っているからEUに残留してもよかったのであるが、、今回、離脱派が予想外(23日夜のブックメーカー大手のオッズは残留派勝利85%だった)の勝利の背景として、BSの報道では、経済が他の先進国より良いので、独立してもやってけるという国民の自信のあらわれといっていたのが印象にのこった。
働かない主義の典型であるEU労働時間指令に拘束される国とは違うということである。いまでもコモンローの精神、プロテスタンティズムと資本主義の精神が生きているということで、大陸欧州より健全なのである。
沈み行く船であるEUから離れた方が中長期的にはイギリスの競争力は高くなるというエコノミストの解説もきのう民放のニュースもみた。
ところが、わが国は、安倍政権の一億総活躍プランのひとつとして、EU労働時間指令のような規制をおこなって長時間労働をやめさせることを検討するとしており政治日程になっている。
沈んでいくEUに倣っていたんじゃわが国の競争力は低下する。まったくおろかというほかない。ビジネスフレンドリーでまったくない政策だ。
たまたま、きのう共産党のビラを情報収集のため街中で受け取ったが、そこに残業時間規制と、翌日の始業まで最低11時間の休憩時間というEU労働時間指令と同じ内容があった。
スティーブ・ジョブズの逸話として「マッキントッシュ」の開発メンバーは、「週80時間労働、それがうれしい」と大書されたTシャツを着させられて仕事に臨んでいた。それくらいで熱中しないと知識労働者は業績をあげることは難しいということだ。11時間のインターバル規制なんかできたら、知識労働者がアジアのよその国に中国とかへ逃げちゃうから、日本は技術革新できない停滞した国になるはず。
自民党の安倍政権と共産党が同じ政策なのである。与党も野党も社会民主主義的なEUにならう政策を出しているということは、わが国の政治の選択の幅が狭い選挙を行っているということである。これは私にとってもっとも不満なことである。
そういう意味ではEU労働時間を労働党政権でも全面的にうけいれなかったイギリスの政治基調は新自由主義にあり、今回の国民投票でEU離脱という大胆な選択を国民がとったというこからイギリスの自由主義はまだ健全であるとの心証をもった。
最近のコメント