2013-14開廷期最後の日 のBurwell v. Hobby Lobby Stores, Inc.判決は5対4でホビー・ロビー・ストアズのような非公開企業に、その企業所有者の宗教的信念に反する避妊対策の保険適用を強制することはできないとした。オバマケアに挑戦したエバンジェリカル(福音派)キリスト教徒の勝利という、劇的な判決だった。アメリカ社会に固有の問題であるがわが国でも産経や読売が報道しています。http://sankei.jp.msn.com/world/news/140702/amr14070201050001-n1.htm
ホビー・ロビー・ストアズはエバンジェリカル(福音派)の一族が経営するオクラホマを本拠とする手芸品材料のリテーラーで全米に600店舗、1万3千人の正社員を抱える非公開企業である。
本件は宗教の自由の勝利として大きな判決だと思うし、アリート判事の法廷意見の詳細はみていないが、PBSのニュース解説で知った範囲では判決理由は賛同できると考えます。
この判決は1993年の信教の自由回復法にもとづいてます。5対2(2人は保留)は、宗教を促進する営利企業に宗教的権利を認めたことで勝負あったと考えます。
1993年の信教の自由回復法とは、1990 年のEmploymentDivision, Department of Human Resources v. Smith判決がネイティブアメリカンが宗教的儀式にペヨーテという違法薬物(幻覚剤)を用いたことによる不利益処分を合憲とし、従来の厳格司法審査と違う基準で判断を行ったことが非難され、この判例を覆すためにわざわざ制定法をつくったものなのである。
スミス判決のテストは「宗教を狙い撃ちする法律(law that targets religion)は、「最も厳格な審査(the most exacting scrutiny)」に服せしめられ、およそ違憲とされるけれども、「宗教的行為」を付随的に規制する「宗教に中立的な法律(religion-neutral law)」は、いかなる合憲性審査にも服せしめられるというものでした。これはゆるい審査基準です。
このぬるい司法審査基準に判例変更したことに対し、アメリカ合衆国の国是ともいうべき宗教上の権利の行使をおとしめるものとして議会が強く反発し、それ以前の最高裁が修正第一条「宗教の自由な実践」条項(Free Exercise Clause)にとっていた司法審査基準である「やむにやまれぬ政府利益(compelling governmentalinterest)を促進する最も制限的でない手段(the least restrictive means)」でない限り、「宗教的行為」に「実質的負担(substantial burden)」を課することを許されないという厳格司法審査と同じ効果をもたらすための制定法である「信教の自由回復法(Religious Freedom Restoration Act of 1993(RFRA)を制定したのである。
そうするとこの法律はよほどのことでない限り、宗教的権利の行使に負担を課してはいけないとしているので、非公開企業にも宗教上の権利を認めたことにより、オバマケアは避妊薬や避妊器具の保険適用の義務に反する場合罰則を課しており、宗教上の権利行使に対する負担を課すものと判定されるのは道理といえるのである。
* ネットで公開されている神尾将紀「アメリカにおける「信教の自由」の展望--Smithテストの理論と実際」 (第43回 宗教法学会)宗教法 (21) を参照、引用した。
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