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2023/02/25

私鉄総連組合員の春闘ワッペン着用を規制すべき

 国会議員と都議会議員へ

 

 私鉄総連組合員の春闘ワッペン着用を規制すべき、特に国と都が株主の東京メトロの労務管理の是正を要望

 

 これは公式の請願ではなく、たんに非公式な意見具申です。

 私鉄総連加盟の組合のある民鉄の駅員や乗務員が、直径78センチの円形の春闘ワッペンを毎年215日頃から3月中旬頃まで胸章として着用するのが通例になっている。私が知る限りでは、鉄道では東京メトロ、東急、東武、京成、京急、京王(但し京王は着用しない駅員もおり他社と温度差がある)が恒例である(なお小田急の鉄道部門で春闘ワッペンは見たことはない。西武は私鉄総連ではないから論外、関西や地方の状況は把握してない)。バスの運転手もつけているし、制服を着用せず、ワッペンをつけた制服を吊り下げている東急バスの運転手など過去にみたことがあるが、バスの運転手も非常に不快だがさしあたり鉄道を問題にする。今年は鮮やかな青色で春の字が目立ってます。

 駅員や乗務員が勤務しながらワッペンによる春闘の宣伝をしていることは不快。会社は職務に専念させるべきである、雇用契約の債務の本旨にしたがった履行でないことを許しているのは労務管理として怠慢である。

 ワッペンは、私鉄総連組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、旅客公衆に対する教宣活動といえる。勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは当然に職務に対する注意力がそがれるから、旅客公衆が不快、不安に思うのは当然のことである。

 もちろん気にしない人も多数いるだろう。しかし乗務員・駅員の業務が旅客公衆の身体、財産の安全にかかわるものとして、特に強く要請される職場規律の保持を確保するという観点で業務用でないワッペンの着用は規制されてしかるべきなのである。

 春闘と書かれている以上組合活動であり、有名な中川徹郎チームの名判決、リボン闘争の大成観光ホテルオークラ事件東京地裁昭和50年3月11日判決労働判例221号が「本来労働組合が自己の負担及び利益においてその時間及び場所を設営しておこなうべきものであつて、このことは負担及び利益の帰属関係からして当然の事理に属する。ところで、勤務時間中であるという場面は、労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下のものであり、まさに使用者の負担及び利益において用意されたものにほかならないから、勤務時間の場で労働者がリボン闘争による組合活動に従事することは、人の褌で相撲を取る類の便乗行為であるというべく、経済的公正を欠く」と批判したとおりで、それがワッペンであれ同じことだ。

 中川判決では、リボン闘争がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てることが特別違法性とされているが、民鉄もホームライナー等快適な輸送のサービスで集客しているのだから同種のことがいえる。

 この論点については、JRの労務管理が圧倒的に優れている。就業規則に「社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない」とあり、業務上の徽章以外の着用を禁止し「くまんばち」はもちろん春闘ワッペンよりずっと小さい国労バッチの着用を禁止し、徹底してきた。要するに民鉄もJR並みの労務管理を要求する。

 春闘を宣伝するワッペン着用は、企業秩序維持と職務専念義務違反もしくは雇用契約の債務の本旨に従った履行ではないとして就業規則(もしくは労働協約)で禁止し、着用した者は軽微であれ懲戒処分等不利益賦課の対象とすべきであると要求したい。

  もっとも基本的には鉄道会社の労使関係の問題であって、政治が介入すべきことではないかもしれないが、公共交通機関という公益性の強い事業で、しかも旅客公衆に接客対応の駅員もそれをつけているのだから、一般市民や乗客からの非難にこたえるべきである。

 ちなみに目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213以降の企業秩序論判例は、抽象的危険説をとり、具体的業務阻害がないことを理由に組合活動が正当化されることはないことを明示している。

 つまりワッペンを禁止するのに具象的な業務阻害を説明する必要はない。2014年2月15日午前0時半すぎに、東急東横線元住吉駅で、大雪の影響で電車が追突し乗客65人が負傷した事故があった。2月15日というと東急では春闘ワッペンを着用しだす時期である。事故の原因については究明されていることであり、その時、運転指令室や乗務員がワッペンを着けていたかどうかは知らない。仮に着けていたとしても春闘ワッペンを意識した雑念が事故と関係しているという根拠はないから無関係だろう。しかし、ワッペンはたんに抽象的な理由、それが目に触れるため他の社員の職務専念義務を妨げるおそれがあるというだけでも企業秩序をみだすものとして禁止できるのである。

  私鉄総連のワッペンが見たくないなら競合路線のJRや西武などを利用しろと言うかもしれないが、定期券はルートを変えられないし、例えば国会図書館に行くのに都バスでも可能だが、大半は東京メトロを利用する。見たくなくても目に触れてしまうわけである。

  とりわけ東京メトロは、国と東京都が株主となっている特殊会社である以上、国会議員や都議会議員が労務管理に口出ししてよいはずである。永田町駅の駅員もやっていると思うので見てください。

 ただ私は直接駅員に抗議していない。口論になってエキサイトすると、業務妨害とか言われて逆襲してくるかもしれないので、もし電車を遅らせたりしたら、損害賠償と言われかねないので気をつけているからである。

 

 

 春闘ワッペンの法的評価

目次

令和5年2月27日... 1

国会議員と都議会議員へ... 1

私鉄総連組合員の春闘ワッペン着用を規制すべき... 1

春闘ワッペンの法的評価... 2

1.就業時間中の組合活動とみなされる... 5

2.服装闘争は大多数の判例が否定的評価をとっている... 5

(1)組合活動に関する大筋の判例傾向... 5

(2)服装闘争等に関する判例の大筋の傾向... 5

3.春闘ワッペンは労働契約上の誠実労働義務に反し違法といえる... 6

(1) 私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのは判例法理上必然である... 6

(2)予想される反論に対する再反論... 7

A 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13は当該事案の判断にすぎず、リボン闘争が一般的に違法とは云っていないとの反論... 7

B 伊藤正己補足意見は、就業時間中の組合活動はすべて違法でなく、具体的な業務阻害のない行為を是認しているという反論... 8

C 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13は目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・134の厳格な職務専念義務論を引用していないので、組合活動に適用されるかは未解決の問題であるとする反論... 9

4.春闘ワッペンの取り外し命令等を行ったとしても労組法7条1項の不当労働行為にあたるとされることはない(組合活動として正当な行為とされることはない). 10

(1)今更ながら国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48・.5・29でリボン闘争が違法とされている以上、それが民鉄のワッペン闘争であれ、同じ結論となることは必定... 11

(2)国労バッジ事件判例はJR各社の就業規則違反として組合バッジ着用を理由とする不利益処分を適法としており、バッジよりも大きくて目立つ春闘ワッペンを規制できないということは絶対にありえない    12

A JRにおいて組合バッジ着用禁止をめぐる紛争が起きた経緯と終息... 13

B  国労バッジ事件主要判例が示すように、組合バッジ着用は就業規則違反の限定解釈の判断枠組で実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められてないので、春闘ワッペンも同じことである    15

C 労組法7条3号の支配介入にあたるとする国労バッジ判例も存在するが、労組法7条1項の不当労働行為にあたらず、就業規則違反として禁止できることは認めている... 17

D 国労バッジ事件等でバッジ着用等が正当な行為とした判例も少数あるが、いずれも地裁判例であり控訴審でその判断は否定されている。... 20

5.春闘ワッペンを取り締まるには実務的には就業規則の整備を行うのが堅実... 21

(1)実務的には企業秩序論にもとづいた就業規則違反として取り締まる運用が堅実... 21

(2)民鉄の就業規則はJRと比較して緩すぎるのではないか... 23

A JRグルーブの就業規則... 24

B JR西日本の契約社員の就業規則... 26

C 東京急行電鉄の昭和54年当時の就業規則... 27

D 東急バスの就業規則... 28

E 東京メトロ就業規則... 29

G 神奈川中央バス就業規則... 30

 

 

1.就業時間中の組合活動とみなされる

 

 私鉄総連の春闘ワッペン着用行為が、争議行為か組合活動かという問題は、当然にその法的性格を異にし、労組法7条1号との関係においても正当性の判断が異なりうるし、学説では労組法8条民事免責を争議行為について認める見解があるので、重要な論点である。

 

 しかし、リボン闘争について最高裁が初めて判断を下した大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、これを就業時間中の組合活動として、労働組合の正当な行為にあたらないと判示しているため、類似事案である春闘ワッペンも就業時間中の組合活動とされることは間違いない。

 大成観光リボン闘争事件の原審は、リボン闘争について組合活動の面と争議行為の面と両面があると考察しているが、最高裁は争議行為とみなさなかった。

 理由は判文では不明だが、新村正人調査官判解が詳しく解説しており、原審のいう使用者に対する団結示威の作用、機能を直ちに争議行為とみなす根拠はないと断定的に述べている。最高裁はリボン闘争が類型的に争議行為に当たらないとする見解に好意的とも言っている。

 仮に争議行為にするとしても正当性の限界を確定する理論的作業は困難というほかなく、積極的に解することはないだろう。そうするとストライキと併用するケースを別として、労働組合側がリボン闘争は争議行為と主張し労組法8条の適用があると主張しても認められることはないだろう。

 

 したがって以下、ワッペン着用行為を就業時間中の組合活動と捉え法的な評価を行う。

 

 

 

 

 

2.服装闘争は大多数の判例が否定的評価をとっている

 

()組合活動に関する大筋の判例傾向

 

  我が国の労働法では労働組合の正当な行為は保護されるが、何が正当な行為か否か具体的な定めはなく、労働委員会命令や救済命令取消訴訟等の判例、学説によって判断していくことになる。

 1970年代まで、階級闘争・ミリバントな労働運動を支援するプロレイバー労働法学が司法にも影響力を有し、憲法28条を使用者の私法上の権利(所有権・財産権)の制約を正当化させる権利として捉え、法益調整論的に使用者は組合活動に対し受忍義務を負うとして、使用者の業務指揮権や施設管理権を制約ないし掣肘する学説を展開していた。

 しかし最高裁で左派が減少した石田和外コート末期に、マスピケ事犯である国労久留米駅事件最大判昭48425刑集273418において、組合に有利な可罰的違法性論の適用を排除したことから、判例傾向は決定的に市民法秩序重視・プロレイバー学説否認の流れとなった。

 企業内組合活動の受忍義務を明確に否定した下級審判例の嚆矢が東京地裁中川徹郎チームの大成観光リボン闘争事件 東京地判昭50311民集364681(リボン闘争を違法とする)、動労甲府支部ビラ貼り事件東京地判昭507 .15判時784(ビラ貼りに対し初めて損害賠償を認める)であり、管理及び運営の目的に背馳し、業務の能率的正常な運営を一切排除する権能を強調し、後の企業秩序論の基礎となる論理を示したといえる。

 昭和50年代には最高裁によって企業秩序論の判例法理が案出され、受忍義務説、法益衡量による調整的アブローチ、具体的危険説といったプロレイバー学説が明確に排斥され、使用者に企業秩序定立権が認められ、被用者は企業行秩序遵守義務を負うことが明らかにしている。(富士重工業原水禁運動調査事件・最三小昭521213民集317103、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974、関西電力社宅ビラ配り事件・最一小判昭589.8判時1094121頁、国労札等幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676)、とくに企業内組合活動に関する指導判例となっている国労札幌地本判決を引用する判例は多く(池上通信機事件最三小判昭63719判時1293、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786、オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130頁等)、判例法理は安定的に維持されていることから、経営内の組合活動の規制は今日では当然のものとされているのである。

 

()服装闘争等に関する判例の大筋の傾向

 

  就業時間中にリボン、腕章、ワッペン、鉢巻、ゼッケン、組合バッジ等を着用しながら労務提供(いわゆる服装闘争)することが、債務の本旨に従った履行といえるのか、労組法によって保護される組合活動の正当な行為といえるのか、その着用を理由とする取り外し命令、訓告、戒告、減給、期末手当減額、出勤停止処分等の不利益処分、あるいは就労拒否、配置転換、本来業務外し等の措置が適法かなどについては膨大な判例の蓄積がある。

 労働委員会命令の傾向は、服装戦術を団結活動の一環としてとらえ、服装規定にもとづく懲戒処分の不当労働行為性を認定する傾向があるが、裁判所(救済命令取消訴訟)になると正当な組合活動とされる例は少なく、大多数の判例は服装闘争を正当な組合活動とみなしていないし、不利益処分について労組法7条1号の不当労働行為に当たらないとする。

 ノースウエスト航空事件・東京高判昭471221労判速8059が初めて腕章着用の就労を職務専念義務違反と判示した判例である。

  国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529判時7046頁では、リボン着用は職務専念義務に違反し、国鉄の服装に関する定めにも違反し違法であり、取外し命令に従わない職員の訓告処分を是認とした。リボン闘争を違法とする判断枠組を示したリーディングケースである。同様にリボンや腕章着用を違法とした判例として神田郵便局腕章事件・東京地判昭49527労民集25323、全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51130労民集2711、全建労事件・東京地判昭52725行裁集2867680等がある。

 大成観光リボン闘争事件 東京地判昭50311民集364681判時77696頁(控訴審も支持)は、労働者の連帯感を昂揚し、その士気を鼓舞するための集団示威は労働組合が自己の負担及び利益においてその時間及び場所を設営しておこなうべきもので、勤務時間の場で労働者がリボン闘争による組合活動に従事することは、人の褌で相撲を取る類の便乗行為であるというべく、経済的公正を欠く。労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下でのリボン闘争は、誠意に労務に服すべき労働者の義務に違背し違法であり、使用者はそれを受忍する理由はないと説示、さらに使用者の指揮命令に従って業務を遂行しつつ、それに乗じて団結の示威を行うことは、心理上の二重機能的メカニズム、一面従順、他面反噬という精神作用を分裂させて二重人格の形成を馴致する虞れがあり、労働人格の尊厳を損なう性質のものと述べるなど、労働組合側に厳しい判断を示し、リボン闘争は組合の正当な行為でなく違法としている。

 

 最高裁が初めてリボン闘争について判断を下した大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、「本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」としたが、第三小法廷4人のうち左派プロレイバー(反主流派)が2人という異例の構成のため、先例についての法的評価が一致するはずがなく、結論にいたった最高裁としての理由が示されていない。判文で理論的説示がないことは、リボン闘争に否定的な下級審の傾向を追認したとする解釈がある一方、判文上は当該事案に限定しての判断のため、玉虫色的解釈がなされる要因となっている。しかし、この先例をホテル業に限定した判断であってケースバイケースで正当な行為とすることもありえるといったような労働組合側に有利に解釈することは他の最高裁判例との整合性からみて無理がある。

 それ以降現在にいたるまで服装闘争類似事案の判例も多数蓄積しているが、JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388(上告審最三小判平10717労判74415頁も原判決の判断を支持)が、組合バッチを着用したこと理由とする夏期手当支給5%減、賃金規定の昇給欠格条項該当者とする不利益措置は、労組法7条1項の不当労働行為にはあたらないと判示し、平成20年代の下級審判例である、JR西日本大阪国労バッチ事件・東京地判平241031別冊中央労働時報143420頁やJR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718頁がJR東海(新幹線支部)高裁判決の理論的説示を踏襲していることから、近年においても労働組合に有利といえる状況はないといえる。

 総合的に判断しておよそ私鉄総連の春闘ワッペン闘争については下記の立論により否定的な法的評価ができる。

 

 

3.春闘ワッペンは労働契約上の誠実労働義務に反し違法といえる

 

 (1) 私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのは判例法理上必然である

 

 まず労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよいと考える。労働者は、雇用契約に基づき職務専念義務を負っており、就業時間中の組合活動は違法である。

 近年の組合バッジ着用事案の判例でも「労働者は、就業時間中は使用者の指揮命令に服し労務の提供を行う義務を負うものであって、勤務時間中の組合活動は、原則として右義務に違反する‥‥労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり‥‥」(JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388)と判示しているとおりである。

 この判断の根拠になっているのは引用こそされてないが目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の職務専念義務論である。

 同判決は公社法三四条二項の職務専念義務規定を「‥職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではない」として厳格に解釈したことはよく知られている。

 同判決は公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」と判示し、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべき(菊池高志「労働契約・組合活動・企業秩序 『法政研究』49(4) 1983【ネット公開】 )とする見解が通説である。

 つまり職務専念義務というのは公務員法制の実定法に限られず、私企業の雇用契約でも同じことである。

 なお、目黒局事件のプレートは「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書かれたもので政治活動の事案だが、組合活動についても同判決の判断枠組が適用されることは判例法理上当然の帰結といわなければならず、そうでないとする大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413伊藤正己補足意見は先例無視の勝手な見解だといわなければならない。

 この点については大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659新村正人調査官判解が明確に述べている。

 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」と解説しており、大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は当該リボン闘争を組合の正当な行為にあたらないとした理由を示していないが、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の判断を踏襲しているという解釈がなされるのは、それが法律家の標準的見解であるためである。 (踏襲していると述べているのは菊池高志前掲判批だが、新村正人判解、石橋洋「組合のリボン闘争戦術と実務上の留意点-大成観光(ホテルオークラ)事件」労働判例3911982【ネット公開】や西谷敏「リボン闘争と懲戒処分――大成観光事件」ジュリスト臨時増刊7922261983も同趣旨を言っている)

  後続する企業秩序論判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676とそれを引用する多くの判例が、使用者は無許諾の企業施設内組合活動の受忍義務はないこと、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786によって就業時間中の無許諾組合活動が正当化されることはないことを明らかにしており、法益衡量の調整的アプローチを明確に否定していることから、職務専念義務は、政治活動を禁止する場合適用されるが、組合活動には適用されないということは、他の判例との整合性からみてありえないことである。

 以上のことから私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのであり、東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558頁では、同社の就業規則八条「従業員は、会社の諸規程および上長の指示にしたがい、……誠実にその義務を遂行しなければならない。」が引用され、「労働者は誠実に職務に従事すべき義務を負うことは、労働契約の性質から当然のことである。したがつて、労働者が勤務時間中にその職務と関係のない行為を行うことは原則として右義務に違反することとなり、この場合に右義務違反が成立するためには必ずしも現実に職務の遂行が阻害されるなどの実害が発生することまでは要しないものというべきである。そして、被告会社の前記就業規則八条の定めも、このことを明らかにしたものと解される。」と判示しているとおりである。

 本件は、狭山差別裁判粉砕等、裁判の不当を訴える内容の縦10センチメートル、横14センチメートルの硬質プラスチック製のプレートを制服の左胸部に着用してした就労申入れを拒否した事案で組合活動ではないが、現在の東急電鉄の就業規則は不明だが、民鉄の就業規則を引用して厳格な職務専念義務論を述べた先例としてその意義が認めなければならない。

 だだし、この論点については労働組合側から反論も予想できるので再反論も示しておきたい。

 

 (2)予想される反論に対する再反論

 A 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は当該事案の判断にすぎず、リボン闘争が一般的に違法とは云っていないとの反論

 

 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57・4・13民集36-4-659は、「本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」としたが、最高裁としての理由を示さなかったことから、判旨にあらわれた限りでは、この判例を一般違法についての判断まで是認した趣旨と読むことはやや無理で、特別違法の観点からする判断、一流ホテルにおける従業員の接客勤務態度に対する要請からみて正当な行為にあたらないとする見解 (花見忠「リボン闘争の正当性--ホテル・オ-クラ事件最高裁判決」『ジュリスト』 771 1982)がある。

 しかし最高裁は昭和50年代以降企業施設内の無許諾の組合活動は企業秩序をみだすものとして受忍義務がないとする、使用者の企業秩序定立権という判例法理を案出し(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676)、この判例法理は、安定的に維持(池上通信機事件最三小判昭63719判時1293、日本チバガイギー事件最一小判平元・119労判53373号、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786、オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130)されているが、従業員は企業秩序遵守義務があるのであって、これらの判例は使用者の権利と団結権とを法益調整するという考え方はとらないのであって、法益衡量的な諸般の事情を勘案する調整的なアプローチを否定しており、具体的な業務阻害のないことは無許可組合活動を正当化しないことを明確にしている。ケースバイケースの判断はとらないのである。したがってホテル業だからダメでその他の業種なら正当化される余地があるとする根拠はない。

 例外としては、権利の濫用とみなされる特段の事情がある場合だが、この判断枠組で風穴は開けられていない。

 仮に百歩譲って、特別違法性だけを認めた判例とする花見説を認めたとしても、原審のいう特別違法性「リボン闘争は、労使が互いに緊張していることをまあたりに現前させるので、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てる」という説示は、ホテル業に限らず、従業員が客面に出るサービス提供業務一般に広くいえることで注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことあって、鉄道事業にもあてはまるのである。

 大手私鉄の主要路線では、通勤客に対し寛ぎや快適さを提供する有料着席ライナーを運行するようになったが、京王ライナーでは、空気清浄機が具えられたうえ、しばしの間お寛ぎください云々とのアナウンスが流れるのである。ところが、2018年2月22日デビュー以降、三週間程度が春闘時期にあたり、車掌は春闘ワッペンを制服の腹の部分に取り付けていた。直径7から8㎝で赤い円形のためかなり目立つ。着席状況を確認するため、車掌が各車両を見回るが、春闘ワッペンをみせつけて、第三者である乗客に春闘との連帯を訴えかける行為は、有料着席ライナーを利用する乗客が求める「休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁なことといえる」のであって、原審の説示した特別違法性は、鉄道事業にもあてはまるというべきである。したがって大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413を逆手にとって、ワッペン着用に有利に解釈する妥当性はないのである。

B 伊藤正己補足意見は、就業時間中の組合活動はすべて違法でなく、具体的な業務阻害のない行為を是認しているという反論

  大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413の伊藤正己判事の単独補足意見は、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213は事案を異にするので先例とみなさないとし、「就業時間中に‥‥およそ組合活動であるならば、すべて違法の行動であるとまではいえない」とか「業務を具体的に阻害することのない行動は、必ずしも職務専念義務に違背するものではない」としている。

 この補足意見については、「伊藤裁判官の補足意見により‥‥労働委員会が実態に即し、不当労働行為制度の趣旨を生かす判断を行う余地が残されるようになった」(松田保彦「いわゆるリボン闘争の正当性-ホテルオークラ事件」・法学教室221982)と肯定的評価をする批評がある。

 しかしこれは明らかに変である。伊藤補足意見は、リボン闘争が争議行為の類型には当たらないとした以外の主張は、組合活動に好意的な立場で先例を無視した勝手な持論を言っているだけで、最高裁の主流の考え方に異論を示しただけのものである。上記引用した企業秩序論の最高裁判例においても伊藤補足意見の趣旨は完全に否定されていることから、単独の補足意見が影響力を持つ事自体が不当である。

 例えば済生会中央病院事件最二小判平元・1211民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」としたうえで、勤務時間中の無許可集会に対する警告書交付はそれが業務に支障をきたさない態様であっても「労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎない」ので不当労働行為にあたらないと判示しており、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213こそ引用してないが、最高裁は同判決の職務専念義務論を踏襲した判断をとっているとみてよいし、済生会中央病院事件判決によって無許諾の就業時間内組合活動が正当化される余地はなくなったというべきであるし、業務に具体的阻害のない態様であることは正当化する理由にはならないことを重ねて確認した判決といえる。先に引用した伊藤補足意見の趣旨は完全に否定されている。

 

C 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭5212134の厳格な職務専念義務論を引用していないので、組合活動に適用されるかは未解決の問題であるとする反論

  目黒電報電話局判決が引用されてないのは、第三小法廷の4名中2名裁判長環昌一判事と、伊藤正己判事が左派プロレイバーであり、勤務時間中は、注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないとする目黒電報電話局事件判決に批判的な見解をとっていたため小法廷の意見が一致しなかったためと推定できる。伊藤判事は補足意見で同判決を批判しているし、環裁判長は、目黒局判決の結果的同意意見となる補足意見で、反戦プレート着用は懲戒処分理由と認めていないことから明らかなことといえる。

 しかし、左派2判事が先例拘束性を認めなかったことで、目黒電報電話局事件判決の先例としての意義を否定されるものではないし、既にのべたとおり、同判決の判断枠組は、私企業においても組合活動においてもそれが適用されることは判例法理上の必然であり、大成観光事件上告審判決は、当該リボン闘争を組合の正当な行為にあたらないとし、組合幹部への減給、訓告処分を是認するものであるから、引用されずとも同判決を踏襲した判断をとったとみなすのが妥当である。

 大成観光事件以降の判例では本節、冒頭に述べたJR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388頁も厳格な職務専念義務論をとっており、上告審最三小判平10717労判74415頁も原判決の判断を支持しているだけでなく、それ以外に目黒局判決の参照指示こそないが、同趣旨、もしくは本文をそのまま引用し、厳格な職務専念義務論をとる下級審判例として以下の判例がある。

  東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558

 国鉄鹿児島自動車営業所事件 鹿児島地判昭63627判時1303143頁裁判所ウェブサイト(組合バッジ着用は職務専念義務違反で禁止できるとしたうえで、管理者に準ずる地位にある職員が、取外し命令を無視して組合員バッジの着用をやめないことから、通常業務から外し降灰除去作業をさせたことが、懲罰的目的であり業務命令権の濫用とする。控訴審の判断も同じ。最三小判平5611判時1466151頁裁判所ウェブサイトは、原判決破棄自判。本件降灰除去作業は、労働契約に基づく付随的業務としての環境整備作業の範囲を越えるものではなく、懲罰的、報復的目的を認定することは失当とする)

 西福岡自動車学校腕章事件 福岡地判平7920労判695133頁裁判所ウェブサイト、

 JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件・東京高判平11224判時1665号130頁裁判所ウェブサイト

(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意、訓告、55名に対し夏季手当5%減額の措置につき国労バッジの着用は、就業規則の服装整正規定違反、就業時間中の組合活動禁止規定違反、職務専念義務規定違反であり企業秩序を乱すものであるとし、取外し命令、懲戒、不利益処分を禁止するものではない。しかしながら「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入)に該当するとした。)

 

 JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイト

 

 JR西日本(大阪)国労バッチ事件 東京地判平241031別冊中央労働時報143420

 

 JR東日本(神奈川)国労バッチ出勤停止事件 東京高判25327別冊中央労働時報1445号50頁

 

 JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538

 

  もっとも目黒局判決の参照指示があって職務専念義務論を引用しているのは国立ピースリボン事件・東京地判平18726裁判所ウェブサイトと都立南大沢学園養護学校事件・東京地判平29522TKCといった地方公務員の国旗・国歌をめぐる抗議活動の事案にすぎない。

 

 参照指示のある判例が少ないという点で左派2判事の抵抗により理論的説示をしなかった影響を引きずったともいえるが、とはいえ目黒電報電話局事件判決の職務専念義務論は、私企業の組合活動の多くの判例でそれと同じ判断を示しているのであって、先例としての価値を有していることに疑う余地がない。

 

 よって、この論点については労働組合側がら反論があっても再反論が可能である。

 

 もっとも理論的に労働契約上の誠実労働義務違反で違法といっても、懲戒処分に付すにはフジ興産事件最二小判平151010判時1840144頁が、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定め、適用を受ける労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判示している以上、就業規則を根拠としない懲戒処分は無理があるから。実務的には企業秩序論の脈絡から対応していくことがより堅実とはいえる。

 

 

 

 

 

 4.春闘ワッペンの取り外し命令等を行ったとしても労組法7条1項の不当労働行為にあたるとされることはない(組合活動として正当な行為とされることはない)

 

 国鉄ではリボン闘争とワッペン型大型バッジに関する判例、JRでは組合バッジに関する判例が多数あるが、その判例傾向からみて、就業規則の整備を前提としていえば、類似事案である民鉄の私鉄総連春闘ワッペンについて、取り外し命令や不利益扱いを行ったとしても労組法7条1項の不当労働行為にあたるとされることはないと断言できる。

 

 

1)今更ながら国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529でリボン闘争が違法とされている以上、それが民鉄のワッペン闘争であれ、同じ結論となることは必定 

 

  大成観光事件以外では、国労青函地本リボン闘争事件札幌高判昭48529判時7046頁が、リボン闘争を違法とするリーディングケースである。事案は、国労が昭和45年春闘に際し全国各支部に闘争指令を発し、青函地本は320日ころよりリボン闘争を含む職場点検闘争に入ることを各職場分会に指令した。これにより国労組合員が同年320日から58日にわたって「大巾賃上げを斗いとろう、165千人合理化紛砕」と書いた黄色のリボン(縦1.0㎝横3.5㎝)を制服に着用して勤務に就いた。当局は再三に亘って取り外しを指示したが、従わなかった組合員延べ492名を訓告処分に付し、このうち54名が国鉄総裁を相手取って訓告処分無効確認と損害賠償請求の訴訟を起こしたものである。

 

 一審函館地判昭47519判時66821頁はリボン着用を正当な組合活動として訓告処分を無効としたが、控訴審では原審を破棄し違法とした。。

 

 この判例は「‥‥国有鉄道の職員は、勤務中は、法令等による特別の定めがある場合を除き、その精神的、肉体的活動力の全てを職務の遂行にのみ集中しなければならず、その職務以外のために、精神的、肉体的活動力を用いることを許さないとするものである。‥‥勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、通常はこれによって当然に職務に対する注意力がそがれるから、かかる行為または活動をすることは、原則として職務専念義務に違反する‥‥その行為または活動によって、具体的に業務が阻害される結果が生じたか否かは、右の判断とは直接関係がないものというべき」と職務専念義務を厳格に解釈した判断枠組を示したことで知られ、これが最高裁(目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974)によって採用されたことにより、職場規律維持、正常化の原点となったことで高く評価されるべきである。

 

 国鉄時代のリボン着用禁止の根拠となったのは、職務専念義務(国鉄法322項の「職員は、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない。」)のほか服装整正規定がある。

 

 鉄道営業法第22条は「旅客及公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ」と規定し、この規定の趣旨を受けて、安全の確保に関する規程第14条、職員服務規程第9条、営業関係職員の職制及び服務の基準第14条、服制及び被服類取扱基準規程第2条、第9条等の定めがなされ、現業に従事する職員に対し、制服(作業服を含む)を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられており、服制及び被服類取扱基準規程では、現場職員の制服等の制式と着装方を定め、これを職員に貸与するものとし(第3条)、かつ「被服類には、腕章、キ章及び服飾類であって、この規程に定めるもの及び別に定めるもの以外のものを着用してはならない」(第9条第3項)と規定していた。

 

 国鉄法の職務専念義務は、私企業の労働契約上の誠実労働義務にもあてはまることはすでに述べたとおりである。また国鉄中国支社事件判決・最一小昭49228民集28166において国鉄の懲戒処分は、行政処分でなく、私法上の行為と判示しているので、国鉄においては公労法171項で争議行為が禁止されていたことを除いて、国鉄判例は私企業においても先例となるのである。

 

 青函地本事件札幌高裁判決は次のように説示する。

 

 「‥‥被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、したがって‥‥勤務の間中、組合員相互に本件リボンの着用を確認し合い、これを着用していない組合員には着用を指導していたものであつて、本件リボンの着用が精神的に被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものでなかったとは到底認めることはできない。‥‥組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものというべきであり、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでなかつたことは明らかである。よって、被控訴人らが勤務時間中本件リボンを着用したことは、職務専念義務に違反するものである」 

 

 「国鉄職員のうち旅客及び公衆に対する職務を行なう者については、鉄道営業法第二二条によって、制服の着用が義務づけられており、また、直接右法条に該当しない者であっても、現業に従事する者について、公共の福祉の増進を目的とする国鉄の職員としての公正中立と品位を保持し、旅客公衆に対し国鉄職員であることの識別を可能ならしめ、かつ不快感を与えることを防止し、その職務が旅客公衆の身体、財産の安全にかかわるものとして、特に強く要請される職場規律の保持を確保するために、制服を着用すべきものとすることが必要であるから‥‥現業に従事する職員に対し制服を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられていることは、十分合理的な根拠を有するのであり、そして、右制服に、定められた服飾類以外の物を着用することを禁止することも、制服の性質、趣旨よりすれば、これを不合理な規制ということはできない。‥‥また、本件リボンは、前記のとおり組合活動として着用されたもので、その内容は組合の要求を記載したものであるところ、‥‥被控訴人ら国鉄職員がこれを着用して勤務していることに対し旅客公衆の中には不快感を抱く者があることは十分予想される。被控訴人らは、そのような不快感は反組合的感情で保護するに値しないと主張するが、しかし、その不快感が、本件リボンの内容である国労の要求内容に対する不満にあるのではなく、被控訴人らが職務に従事しながら本件リボンを着用して組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安によるものであるときは、国鉄が公共の福祉の増進を目的とする公法人で、その資本は全額政府が出資していることを考えると、右の趣旨の旅客公衆の不快感は十分理由があるものであつて、これを単なる反組合的感情にすぎないものということはできない。さらに、本件リボンと職場の規律、秩序の関係についても、本件リボンが前記のとおり国労の要求を記載したもので、これを着用することによって国労の団結をはかるものであるところ、国鉄内には、国労のほか、これと対立関係にある鉄道労働組合があることは顕著な事実であり、本件リボンの着用が鉄労組合員その他組合未加入者に心理的な動揺を与え、‥‥国労の組合員の中にも指令に反し本件リボンを着用しなかつた者が相当数あつたことが認められるが、これらの者にも精神的な重圧となったことも十分考えられ、勤務時間中の本件リボンの着用は、その勤務の場において、不要に職場の規律、秩序を乱すおそれのあるものというべきである。‥‥よつて、本件リボンの着用は、控訴人の服装に関する定めに違反するものであり、法律及び控訴人の規程の遵守を求める法律に反する違法のものである。」

 

 むろん、リボンとワッペンに相異はある。私鉄総連の春闘ワッペンには、具体的な要求項目の記載はない。

 

 しかし「春闘」とは2月ころから労働組合が一斉に賃上げ等を要求する闘争を意味することは明らかであり、ワッペンは直径78㎝はあり目につきやすいという点ではリボンと比較しても遜色はない。

 

 旅客公衆は「春闘」という文字をみて、使用者に対する団結示威というだけでなく、乗客にも春闘への連帯を訴えかける教宣活動と受けとめる。したがって、旅客公衆が「職務に従事しながら‥組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安」を抱くことは、国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529の説示と同じことである。

 

 

 (2)国労バッジ事件判例はJR各社の就業規則違反として組合バッジ着用を理由とする不利益処分を適法としており、バッジよりも大きくて目立つ春闘ワッペンを規制できないということは絶対にありえない

 

 

 

A JRにおいて組合バッジ着用禁止をめぐる紛争が起きた経緯と終息

 

 

 

 初めに国労バッジ事件とはなんであったかについて一応説明しておく。

 

  国労バッジを着用し、上司の指示の取り外し命令に従わなかったことを理由とする不利益取扱が不当労働行為に該当するか否かが争われた救済命令取消訴訟が多数ある。

 

 これは国労がJR発足以前から、組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示していたのに対し、JR各社は昭和624月発足以来就業規則や賃金規定を根拠として着用規制を徹底して行ったことによる紛争である。

 

 国鉄時代には、動労、鉄労など国労以外の他の労働組合も、組合バッジを作成し、組合員に配付しており、各労働組合の組合員は、組合バッジを着用していたが、JR発足の昭和624月には、国労以外の他の労働組合の組合員のほとんどは組合バッジを外したのである。

 

  国労バッジとは実は大きさで2種類ある。通常着用していたのは、縦1.1㎝、横1.3㎝の四角形で、黒地に金色のレールの断面と国の英訳の頭文字をとった「NRU」の文字をデザインしたものである。

 

 これと別に布製のワッペン式大型バッジがあり、通称「くまんばち」と呼ばれ、デザインはほぼ同様であるが、縦2.6㎝、横28㎝と大きく、主に闘争時などを中心に着用された。国鉄当局は、これをワッペンの一種であるとして、国鉄末期から規制を行っている。国鉄鹿児島自動車営業所事件 最三小判平5611判時1446151頁(管理者に準ずる地位にある職員が組合員バッジの取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令を適法とする)が昭和60年の国鉄時代の事案だが、布製の「くまんばち」の事案であるから、本件はワッペンに関する判例とみなすべきである。

 

 しかし大多数の国労バッジ判例は小型の組合バッジの事案なのである。

 

 

 

 以下、ここでは主としてJR東日本(神奈川・国労バッジ)事件・東京高判平11224判時1665号130頁裁判所ウェブサイト(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意または訓告処分、55名に対し夏季手当5%減額の措置をとったことが不当労働行為に当たるかが争われた)の判文より引用する。

 

 国労は、分割民営化反対等を主張し、昭和59810日に2時間ストライキを実施したほか、昭和60年に入ってワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年913日、闘争に参加した約59200人の国労所属組合員に対して戒告、訓告等の処分をした。さらに、国労は、昭和61410日から12日まで、国鉄の分割民営化方針等に抗議して、ワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年530日、闘争に参加した約29000人の国労組合員に対し、戒告又は訓告の処分をした。

 

 このことから、国鉄末期にワッペンの規制を行っていたことが明らかである。

 

 国鉄は、昭和61113日、「労使共同宣言(第一次)」の締結を各組合に提案した。諸法規を遵守すること、リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整えること、必要な合理化は、労使が一致協力して積極的に推進すること‥‥が掲げられていた。この提案に対し、鉄労、動労及び全施労は受諾したが、国労は、拒否した。

 

 しかし小型の組合バッジは取締の対象にはなっていなかった。

 

 国鉄総裁は昭和613月に八次にわたる職場規律の総点検の集大成とし職員管理調書の作成を通達しているが、勤務態度に関することとして「服装の乱れ」という項目があり、「リボン・ワッペン、氏名札、安全帽、安全靴、あご紐、ネクタイ等について、指導された通りの服装をしているか。」を評定事項としているが、組合バッジについては言及されていない。

 

  国労は昭和615月には組合員約163000名(組織率683パーセント)を有する国鉄内最大の労働組合であったが、昭和622月には約647000(同292パーセント)、さらに、同年4月には約440000と急激に減少させた。組合バッジを組合団結のシンボルとする国労組合員は、国労の組織防衛上の見地からその着用を続けていた。東京地本は、昭和611031日、闘争指令を発し、その中で、当面の闘いとして、「国労バッチの完全着用をはかること。」などの指令を出し、さらに、昭和62331日、各支部執行委員長に対し、「国労バッチは全員が完全に着用するよう再度徹底を期すこととする。」などの指示を出している。

 

 一方、JR東日本発足時には、東鉄労(動労、鉄労、国労脱退者の一部を糾合)の組合員は国鉄時代の慣行をやめ鉄道労連のバッジを着用しなかった。会社発足の困難な途上において労使がいらざる紛争の種を作るべきではないとして、所属組合員が就業時間中に組合バッジを着用することがあれば、強力に指導して外させる方針だったという。

 

 JR東日本の調査によれば、62年4月の組合バッジ着用者は、5645名(全体の88%)、同年5月の調査で2798名(同44%)であり、そのほとんどが国労組合員であった。

 

 JRの就業規則は昭和62323日に制定されたが以下の3ヶ条が、組合バッジ着用を禁止する根拠になっている。

 

第3条の1 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。

 

第20条の3

 

 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。

 

第23条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。

 

 

 また賃金規程(昭和六三年八月人達第一二号による改正前のもの。)には、期末手当の額の減額に関連する規定があり、減額に係る成績率については、5%減の事由として減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者と定められている。これに関して作成される期末手当減額調書には、業績(問題意識、成果)、態度(執行態度、協調性等)、処分の有無、服装(組合バッジ着用等の注意回数等)について記入することとされている。

 

 なお、昭和62423日付けのJR東日本と国労東日本鉄道本部との労働協約では,経営協議会及び団体交渉など原告から承認を得た場合のほか,勤務時間中の組合活動を行うことはできないことを約定している(同協約第6条)

 

 国鉄の東日本旅客鉄道株式会社設立準備室の小柴次長は、昭和62323日、東日本地区各機関総務(担当)部長(次長)に対し、「社員への「社員証」「社章」「氏名札」の交付等について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、JR発足に当たって全社員に交付すべき社員証、社章及び氏名札は、勤務箇所長から直接社員一人一人に手渡しで交付すること、組合バッジを着用している場合には、組合バッジを外させるとともに、社章を着用させることを指示した 。

 

 つまり、使用者側は、JR発足時から組合バッジ着用を認めない方針だった。これは国鉄末期の点検項目にもなかったことである。以下、筆者の感想であるが、JRの就業規則はよくできていて、組合バッジ着用は、職務専念義務違反、服装規定違反、無許可組合活動の3ヶ条に違反するのみならず、服装指導の回数によって、期末手当5%減額事由となる賃金規定があるため、バッジを取外さなければ、いわゆるボーナスが減額されてもやむをえないような設計に初めからなっていたといえるのではないか。

 

 民鉄の実態から比較すれば厳しいあり方といえるだろうが、職務専念義務の徹底は、国鉄末期の職場規律の乱れに対する国会や世論の批判を受けてのものと理解することもできる。

 

  人事部勤労課長は、昭和62420日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「社章、氏名札着用等の指導方について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、「組合バッヂ着用者に対しては、服装違反である旨注意を喚起して、取り外すよう注意・指導すること。その際の注意等に対する言動を含めた状況を克明に記録しておくこと。繰り返し注意・指導を行ったにもかかわらず、これに従わない社員に対しては、「就業規則」、「社員証、社章及び氏名札規程」に違反するとして厳しく対処することとし、人事考課等に厳正に反映させることとされたい。」と指示した。これを受けて、東京圏運行本部の総務部人事課長及び勤労課長は、関係現業機関の長に対し、翌21日、同旨の事務連絡を行い、さらに、同月28日、「服装等の整正状況のは握について」と題する事務連絡を行って、決められた服装をしない社員の整正状況について個人別把握を行うよう指示した。さらに、人事部勤労課長は、同年521日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、更に強力に注意・指導の徹底を行い、直ちに改善されるよう取り組むべきことを指示した。

 

 このように、組合バッジの取り外し指導は徹底して行われていたのである。

 

 国労が労使協調路線へ方針を転換したのは平成87月以降であり、平成11年年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結した。平成1811月包括和解によりバッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げている。JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件 東京地判平24117労判106718頁によれば、JR東日本は組合バッジ着用者に対する処分を年2回程度の割合で実施していった。被処分者は、平成3年9月の処分で2000人を割り込み、平成8年9月の処分で1000人を割り込み,平成14年3月には314人(全従業員の0.4%)になっていた。平成143月末以降は、組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり、国労は、組合バッジ着用に関し、機関決定違反として統制処分をするまではしないが、支持はしなくなったとする。平成157月以降国労バッジ着用者は1人となった。その者も退職したので、少なくともJR東日本では現在では組合バッジの着用者はいないとみてよいだろう。

 

 つまり、会社側が企業秩序を定立するため、しかるべき就業規則を制定し、ワッペン・リボンはもちろんのこと、小型の組合バッジであれ、企業秩序遵守義務に反するものとして、徹底して禁止することができるということは、JRの労務管理の実績で証明されたことなのである。

 

 

 

 B  国労バッジ事件主要判例が示すように、組合バッジ着用は就業規則違反の限定解釈の判断枠組で実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められてないので、春闘ワッペンも同じことである

 

 

 

  国労バッジ判例はいくつかの類型に分けることができるが、第1の類型が主要判例といえるもので、以下の7例が、第1の類型組合バッジ着用を理由とする不利益取扱が不当労働行為には当たらず適法との判断を下している。

 

JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・ 東京地判平71214判時1556141

 

JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388

 

JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・最三小判平10717労判74415

 

JR西日本(大阪)国労バッジ事件・東京地判平241031別冊中央労働時報143420

 

JR東日本(神奈川)国労バッジ・出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718

 

 ここでは代表的な判例である東京高判平91030(組合バッジ着用を理由とする厳重注意、夏季手当5%減額、賃金規定の昇給欠格条項該当措置は不当労働行為に当たらないとした)を引用する。理論的説示は概ね完璧に近く、最高裁に支持されているため 代表的な判例としてよいのである。平成20年代の判例は、後述する第2類型も含めて、この判決を踏襲した理論的説示をしている。

 

 要点だけ述べれば組合バッジ着用はJRの前記就業規則3条、20条、23条に違反する。

 

 就業規則に違反することは明らかであるが、先例である目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974は不利益処分の客観的合理性を確保するため就業規則の限定解釈をする判断枠組を示しているのでこの審査をバスしないと就業規則違反とはならないことになっている。

 

 目黒局判決の判断枠組は「‥‥秩序風紀の維持を目的としたものであることにかんがみ、形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときには、右規定の違反になるとはいえないと解するのが、相当である」というものである。

 

 東京高判平91030も「文言上形式的には本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である」と目黒局判決の判断枠組を引用してその審査を行っているが、以下のとおり実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情はないと判定するのである。

 

 「本件組合バッヂ着用行為は、‥‥組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、‥‥職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという‥‥職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。」

 

 要するに、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用いていないことは職務専念義務に違反し企業秩序を乱しているということ、他の社員が職務に集中できないおそれ、注意力を散漫にするおそれがあること(抽象的危険)により実質的に企業秩序をみだしていると認定した目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の説示とほぼ同じ趣旨である。

 

 後段の部分については、私鉄総連の春闘ワッペンは、複数組合のあるJRと違う環境であり少数組合の国労とは違って殆どすべての社員を着用していることから、国労バッジ事件と同列状況が違うとの反論がありうるが、すべての非管理職社員が着けているとしても、自ら着用することが組合活動を意識しながら職務を行うことで職務専念義務に反しているだけではなく、目立つものであるから、就業時間中に他の社員の春闘バッジが目に入ることでも、団結意思の相互確認、闘争参加意識、春闘を意識することとなり、組合員間の連帯を高め闘争に向けて士気の鼓舞する意味と作用を有するともいえるから、注意力のすべてを職務遂行に向けることを妨げるおそれがあり、組合の指示にしたがって着用しているかを相互に確認する行為がなされるだけでも、就業時間中に注意力を散漫にするおそれがあるといえるのであり、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められることはありえない。

 

 ちなみに目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213以降の企業秩序論判例は、抽象的危険説をとり、具体的業務阻害がないことを理由に組合活動が正当化されることはないことを明示している。

 

 つまりワッペンを禁止するのに具象的な業務阻害を説明する必要はない。2014年2月15日午前0時半すぎに、東急東横線元住吉駅で、大雪の影響で電車が追突し乗客65人が負傷した事故があった。2月15日というとだいたい春闘ワッペンを着用しだす時期である。事故の原因については究明されていることであり、その時、運転指令室や乗務員がワッペンを着けていたかどうかは知らない。仮に着けていたとしても春闘ワッペンを意識した雑念が事故と関係しているという根拠はないから無関係だろう。しかし、ワッペンはたんに抽象的な理由、それが目に触れるため他の社員の職務専念義務を妨げるおそれがあるというだけでも企業秩序をみだすものとして禁止できるのである。

 

 

 

 C 労組法73号の支配介入にあたるとする国労バッジ判例も存在するが、労組法71項の不当労働行為にあたらず、就業規則違反として禁止できることは認めている

 

 

 

 国労バッジ判例の第2の類型は、組合バッジ着用は就業規則違反として禁止できるとしたうえで、あるいは、不利益措置は労組法1条の不当労働行為にあたらないとしたうえで、労組法73号の支配介入にあたるとするものである。

 

 JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイト(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意または訓告処分、55名に対し夏季手当5%減額の措置をとったことが不当労働行為に当たるかが争われた)は、国労バッジ着用について「国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。‥‥本件組合バッジの着用は、本件就業規則三条一項、二〇条三項及び二三条に違反するものであった。したがって、控訴人が本件組合員らによるこれら本件就業規則違反をとがめて本件就業規則等にのっとり懲戒その他の不利益処分を行う権限を有することは、明らかである」としている点は、前記JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・東京高判平91030と同趣旨といえるので、実はこの判例も、服装闘争を規制する側に有益な判例なのである。

 

 しかしながら「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので、一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても、それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには、その使用者の行為は、これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」と述べ、「敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し」バッジ取外しの指示・指導等は「執拗かつ臓烈なもので,平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり」「就業規則の書き写しの作業などは,嫌がらせ」であり、「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入、労組法7条3号)にあたるとする。

 

 具体的に何を支配介入の論拠としているかだが、国労に対する敵意と嫌悪感を露骨に示す言動として、松田常務取締役の会社に対する反対派(国労)を断固として排除する旨の発言。住田社長の東鉄労との一企業一組合が望ましいとして、国労を攻撃し、このような迷える子羊を救って東鉄労の仲間に迎え入れていただきたいとして、東鉄労の組合員らに対し、国労組合員の国労からの脱退、東鉄労への加入を促す働き掛けを期待する発言など多くの根拠が示されている。

 

 この判断によれば、労働組合の正当な行為ではないから、直ちに不当労働行為にあたらないということにはならず、労組法7条3号の支配介入にあたることがありうることを示している。

 

 なるほど、国鉄の末期頃まで国労以外の組合員も組合バッジを付けていた。国鉄末期の八次に及ぶ職場規律の総点検でも組合バッジは問題にされていない。

 

 原判決東京地判平987判タ957114頁 (次節の第3類型)によれば動労委員長時代の松崎東鉄労委員長が「駄目な労働組合には消滅してもらうしかなく、駄目な組織はイジメ抜く」旨述べていたことと関連して、機関紙による組合バッジ着用呼び掛けにもかかわらず、東鉄労の組合員が組合バッジを着用しないことについては、原告と東鉄労との間で事前の話し合いが行われ、東鉄労が労使協調関係を維持するとともにこれを誇示し、あるいは国労の対決路線を際立たせる意図の下に、組合バッジ不着用を決定したことが窺われるとの見方が示されている。

 

 この趣旨からすると会社と多数組合が示し合わせて、少数組合を弱体化し追い詰める手段として組合バッジの取り締まりを行ったという図式になる。

 

 もっともJR東日本神奈川事件とは第一次から第四次まであり、JR東日本(神奈川)国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718頁は不当労働行為にあたらないとしているし、JR東日本(神奈川)国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538頁は上記に引用したような脈絡で支配介入は認めていないから、労組法7条3項の支配介入にあたるかは裁判体によって異なった判断をとっている理解するほかない。

 

 仮に、JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11224に説得力があるとしても、引用した支配介入の根拠とされるものは、JR東日本の労務管理の特殊な事情であるから、一般論として使用者側に服装規制を委縮させるような性格のものではない。

 

 またJR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538頁甲事件も前記第一次神奈川事件高裁判決と同類型ともいえる判例で、組合バッジ着用に対する不利益処分(労組法71号)の不当労働行為は認められないとする一方、平成143月以降の国労バッジ着用行為に対する極端な厳罰化は,国労バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた原告が,国労執行部の方針転換を認識するに至り、これを機に国労内少数派の勢力を減殺し,国労執行部の方針に加担したものと認められるので労対組法73号の支配介入にあたるとするものである。

 

  2つの高裁判決(JR東日本(神奈川)第一次国労バッジ事件・東京高判平11224判時1665130頁と、JR東日本(神奈川)国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538頁)は決して労働組合に有利な判断を示したものではない。

 

 とくに後者は直近の高裁判決として注目してよい。これは原判決東京地判平25328別冊中央労働時報144317頁の判断を一部補正のうえ支持したものであるが、甲事件、乙事件とも労組法71項(不利益取扱い)にあたらないとする一方、甲事件について

 

7条3項(支配介入)にあたり不当労働行為にあたるとするものである。

 

 東京高判平251128は労組法71項の不当労働行為にあたらないとする説示は次のように述べている

 

「(2)不利益取扱い(労組法7条1号)の成否(正当性の有無)

 

 労組法7条1号の不当労働行為は,組合活動のうち,「正当な行為」について成立するので,以下,その正当性について検討する。

 

ア 就業規則との関係

 

 国鉄では,職場規律の乱れや巨額の赤字が問題となり,職場規律の乱れを是正するための措置が講じられるとともに,分割民営化による改革が進められることになる中で、JR東日本は、そのような状況にあった国鉄の事業の一部を引き継いで設立されたものであって、乱れていた職場規律等を正し、これを厳正に維持して、職場での事業執行の態勢を根本的に立て直すことが強く求められていたことや、JR東日本が行う鉄道事業は、多くの利用者の日常生活、社会経済活動に不可欠な公共性の高い事業であり,日々、不特定多数の利用者の生命、身体の安全に直結する性質の事業であることから、時刻表に沿った運転業務を安全かつ確実に遂行することができるように、従業員の職務専念義務を規定して適正な職務遂行を求め、これを服装面から規制することによって就業時間中の組合活動を原則として禁止するなどの就業規則を定めたことは,十分に合理性が認められるというべきである。

 

 そして,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,職務専念義務について定める就業規則3条1項,社員の服装の整正について定める同20条3項,勤務時間中の組合活動を禁止する同23条にそれぞれ違反し,原則として,その正当性が否定されるものであると認められる。

 

イ 正当性に関する補助参加人らの主張について

 

 補助参加人らは,〔1〕国労バッジ着用は労務提供義務と矛盾なく両立し,業務阻害性はなく,職務専念義務,服装整正義務に違反するとはいえない,〔2〕国労バッジ着用の組合活動としての必要性等を考慮すれば,国労バッジ着用行為には正当性があると主張するので,以下検討する。

 

(ア)補助参加人らの主張〔1〕について

 

 本件就業規則3条1項に定める職務専念義務は,社員は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

 

 そして,労働契約においては,労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労務契約の重要な要素となっているから,職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり,その行為が服装の整正に反するものであれば,就業規則20条3項に違反するといわなければならないし,また,それが組合活動としてされた場合には,そのような勤務時間中の組合活動は就業規則23条に違反するものといわなければならない。

 

 P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労組合員の中でも国労バッジ着用を止める者が大多数となっていく中で,国労内少数派として着用を継続したものと認められるが,国労執行部ないしは原告に対し,国労内少数派としての意思を表明し,また国労内における多数派に対し,少数派との対立を意識させるものといえ,また同時に,国労組合員のうち,JR東日本による不利益処分を回避するために自らの意思で国労バッジの着用を取り止めた者に対して,不利益処分に屈せず,依然として国労執行部の上記方針に抗議し,反対の意思を表明するために国労バッジを着用している者がいることを示すとともに,任意に国労バッジの着用を断念した者を暗に非難し,精神的な負担をも感じさせる効果を併せ持つものであって,当該組合員が職務に精神的に集中することを妨げるおそれがあるものであるから,かかる行為は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反し,また服装整正にも反するものとして,企業秩序を乱すものといわざるを得ない。

 

 補助参加人らは,国労バッジ着用に業務阻害性はないと主張するが,上記就業規則違反が成立するためには,現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当であり,補助参加人らの主張は採用することができない。‥‥‥‥

 

ウ 小括

 

 以上により,補助参加人らによる国労バッジ着用行為は,就業規則3条1項,20条3項,23条に反し,実質的に企業秩序を乱すおそれのない事情も認めることができず,正当性を認めることができない。

 

 よって,本件各処分等について,労組法7条1号の不当労働行為は認められない。」

 

 

 平成25年の判例でもBで引用した第1類型の判例と同じ説示をしており、JRとほぼ同様な就業規則を備えてさえいれば、春闘ワッペンが労働組合の正当な行為とされる余地はないことは明らかである。

 

 甲事件が労組法73項の支配介入と判断されたのは、社会通念上,許容される加重の範囲を逸脱して不相応に厳しい内容であって,行為と処分との均衡を失っているものと認められるときは,その加重された処分は社会的に許容されるものではないとしたうえで、以前の処分と比較して量定、頻度において極端に加重されており、均衡を欠き、他の非違行為に対する処分との不均衡だったためである。類似した判例としては、国・中労委(医療法人光仁会)東京高判平21119労判100194頁がある。組合分会長が106日間にわたって病院正門の左右に計4~5本、赤地に白抜きで「団結」等と記された組合旗を無許可で設置した事案だが、組合旗設置を正当な組合活動ということはできず懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが、停職3か月、その間、賃金不支給、本件病院敷地内立入禁止という懲戒処分は、懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くものであり、組合活動に対する嫌悪を主たる動機としてなされたものとして不当労働行為(労組法7条3号の支配介入)に該当するとした。

 

 要するに、就業規則違反の組合活動については、使用者に受忍義務はないし、懲戒処分に付すことができるが、懲戒事由と比して著しく過重な量定の処分は、組合活動に対する嫌悪を主たる動機とみなされ支配介入にされてしまうことがあるので注意を要するということである。

 しかしその点を留意して、適切な量定の不利益処分は否定していないということであるから、JR東日本(神奈川)国労バッチ減給処分等事件という最新の判例は、服装闘争を規制する側にとって有益なものといえる。

 

 

 

D 国労バッジ事件等でバッジ着用等が正当な行為とした判例も少数あるが、いずれも地裁判例であり控訴審でその判断は否定されている。

 

 

 

 予想される、労働組合側の反論として、国労バッジ判例には、正当な行為とした判例もある反論もありうるが、再反論すれば、全体からすれば少数であり、地裁の判断で、控訴審では否定されていることである。

 

 まず、JR西日本(国労広島地本)国労バッジ事件・ 広島地判平51012判タ851201頁は、「組合バッジの着用行為は、形式的には就業規則二〇条に違反するものの、保護されるべき正当な組合活動である」とした。これを第3の類型と分類してもよい。 しかし控訴審の広島高判平10430判タ977124頁裁判所ウェブサイト一部破棄自判、一部棄却で、目黒局判決のような厳格な職務専念義務論を否定しつつも「職務専念義務違反とならない例外に該当する場合とはいえない。‥‥組合バッジ着用行為を本件減率査定事由としたことから直ちにそのことが不当労働行為に該当するとはいえないが、それは他の事情との衡量のなかで相対的に考慮されなければならないものと解すべきである」とやや曖昧な判断を示しつつ、組合バッジの着用行為はそれのみでは減率の理由として相当でないとしているが、大型バッジを着用して勤務した行為は小型のバッジについて述べた以上に減率事由となるとしている。大型バッジとは布製のもので、通称「くまんばち」と呼ばれ、縦2.6cm、横2.8㎝と大きく、これは主に何らかの闘争時などを中心に着用された。この大型バッジについては、国鉄当局がワッペンとみなして規制していたものであり、少なくともワッペン状のものは正当な行為としていない含意がある。

 

 広島高裁の判断は、これまで引用してきた東京高裁の判断と比較するとぬるく、異色の判例だが、少なくとも地裁が説示した組合の正当な行為とした点は是認していない。

 

 次に第3の類型といえるのは、JR東日本神奈川国労バッチ事件・東京地判平987判タ957114頁 であるが、組合バッジ着用を理由とする厳重注意、訓告処分、夏季手当減額等を不当労働行為とした神奈川県地労委の救済命令を是認し、組合バッジの着用は、就業規則に違反せず、組合活動としての正当性を認めている。ただし、不当労働行為は7条1項ではなく7条3項(支配介入」に該当するとしている。

 

 しかし控訴審の東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイトは、棄却結論において一審の判断を維持したとされるが、既に引用したとおり、本件組合バッジの着用行為を正当な行為とし説示していない。本件就業規則203項、23条及び31項にそれぞれ違反するものであり、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとは到底いえないとし、本件就業規則違反をとがめて懲戒その他の不利益処分を行う権限を有することは、明らかであるとしたうえで、しかしながら国労を嫌悪し,組合員を脱退させ弱体化させようとの意図の下にそれを決定的な動機としてバッジの取り外し、指導を行ったものとして不当労働行為(支配介入・労組法7条3号)にあたるとした判例である。

 

 その他の国労バッジ事件判例の多くは、組合バッジの着用行為は就業規則違反として禁止できるとしていることは既に述べたとおりである。

 

 関連して組合グッズ事件としては、本荘保線区国労ベルト事件・ 秋田地判平21214労判69028頁か、羽越本線出戸駅信号場構内で作業を行っていた国労組合員が、上着を脱いだ状態で、バックルに国労マークの入ったベルトを着用していたところ、ベルトを取り外すよう命じられ、さらに就業規則の書き写し等を内容とする教育訓練を命じた事案であるが、ベルトの着用は、就業規則三条の職務専念義務に違反するものではないとしたうえで、本件教育訓練はしごきであって、正当な業務命令の裁量の範囲を明らかに逸脱した違法があるとし、二十万円の慰謝料を認めた。

 

 控訴審仙台高判秋田支部平41225労判69013頁も原審を維持、上告審最二小判平8223労判69012頁も棄却している。しかし国労マークのバックルのあるベルトと、団結示威行為で「春闘」と記載されているワッペンと同列に扱える事案とはいえない。

 

 このほか神戸陸運事件 神戸地判平9930労判72680頁本件腕章着用乗務行為は、労務を誠実に遂行する義務に違反するものでなく、正当な組合活動の範囲内の行為とし、腕章着用等を理由に乗務を拒否(労務受領拒否)したことを不当労働行為と認め、バックペイ等を命じた地労委の救済命令を適法としている。しかし私鉄総連ワッペンを着用の事案は労務受領拒否の事案と異なるし、同様の事案で違法とする判例も多い。神田郵便局腕章事件 東京地判昭49527労民集253236頁勤務中に赤地に白く「全逓神田支部」と染め抜いた腕章を着用した行為は就業規則に違反し、職務専念義務に違反する。取外し命令を拒否したことを理由としてされた郵便課窓口係から同課通常係への担務変更命令が適法としたうえで、担務変更命令を無視して職務放棄をしたことによる減給処分を適法と判示し、控訴審東京高判昭51225訟務月報223740頁も原審の判断を支持。三井鉱山賃金カット事件・福岡地判昭46315労民集222268は「不当処分反対、三川通勤イヤ!」「抵抗なくして安全なし」等と書きつけた組合員のゼッケンの着用が、就業時間中の会社構内における情宣等を禁止する労働協約の条項に違反し、正当な組合活動とはいえないと判示した。沖縄全軍労事件・那覇地判昭51421労民集272228は在日米軍基地の従業員が赤布の鉢巻を着用して労務を提供することは、雇用契約上の債務の本旨に従った履行の提供とはいえないとして賃金カットを適法と認めた。控訴審福岡高那覇支判昭53413労民集292253も一審を支持している。

 

 いずれにせよ、JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388頁のほか引用した多くの判例が労働組合の正当な行為とはみなしていないのだから、十分再反論可能である。

 

 

5 春闘ワッペンを取り締まるには実務的には就業規則の整備を行うのが堅実

 

 

()実務的には企業秩序論にもとづいた就業規則違反として取り締まる運用が堅実

 

 

 

 我が国の労組法は、労働組合の資格要件や労働委員会制度など詳細に規定するが、集団的労働法上の実体的な権利義務についての記述は多くなく、団体行動(組合活動及び争議行為)の中心テーマである正当性をめぐる問題その他、大部分が判例・学説の解釈に委ねられている。不当労働行為制度によって保護される正当な組合活動か否かも、労働委員会の命令以外に救済命令取消訴訟の膨大な蓄積があり、結局のところ判例の分析によって、何が正当な行為か否かを判断することになる。

 

 従って労働関係は実定法というより、裁判所が案出した判例法理によって争われることが多いのであるが、企業秩序定立維持権がその典型例といえる。

 

 中嶋士元也 は企業秩序論の内容範囲機能を次の5点にまとめている。

 

1.服務規定・懲戒規定設定権限

 

2.企業秩序維持権限にもとづく具体的指示命令権

 

1)労務提供への規律機能

 

(イ)労働者の職務専念義務の発生

 

(ロ)他人の職務専念義務への妨害抑制義務

 

(2)労務履行に関する附随機能(信義則機能)

 

(3)秩序違反予防回復の機能

 

3.施設管理の機能

 

4.企業秩序違反の効果(懲戒機能)

 

5.その他の機能

 

(中嶋士元也 「最高裁における『企業秩序論』」『季刊労働法』1571992)

 

 いずれも法的常識の範囲にあるものとして評価されており、企業秩序論はリーディングケースより40年を経て、判例法理としては安定的に維持され定着している。

 

 富士重工業原水禁運動調査事件・最三小昭521213民集3171037は、「労働者は‥‥労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う」と判示した。

 

 国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676は、要約していえば使用者の権限として経営内の施設利用について企業秩序に服することを労働者に要求する権利を認めた判決である。使用者はその行為者に対して行為の中止を求めることできる。原状回復等、必要な指示命令ができる。懲戒処分もなしうる。ただし使用者に「施設管理権」の濫用と認められる特段の事情がある場合は別で、それを除いて無許諾の組合活動は正当な行為として認められないということである。いわゆる施設管理権の指導判例であるが、使用者が許諾しない企業施設内組合活動は、必要性が大きいこと、具体的な業務阻害がないことをもって正当化されないこと、受忍義務説を否定し法益権衡的な調整的アプローチはとらないことを明確にした卓越した判例法理である。

 

 要するに組合活動の規制という観点で最も重要な先例は国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676である。被引用判例が非常に多い、この判例を引用することによって、それが勤務時間中であれ、時間外であれ、企業施設内での無許諾組合活動に対する中止命令、不利益処分は、労組法7条1項の不当労働行為には当たらない、正当な組合活動ではないと主張できる。

 

 しかも企業秩序定立権の射程は広く、施設管理権にとどまるものでなく包括的広範である。

 

 関西電力社宅ビラ配布事件・最一小判昭5898判時1094121頁裁判所ウェブサイトは、「労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種制裁罰である懲戒を課することができる」と判示しているとおりである。関西電力事件判決は企業秩序論が包括的広範にわたることを示している。

 

 従って、服装闘争も企業秩序論の脈絡によって規制することは当然できる。実際JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030等国労バッジ判例も、労働契約上の誠実労働義務に反するという言及があるが、企業秩序論の脈絡からバッジ着用をたんに形式的な就業規則違反にとどまらず、実質的に企業秩序をみだすものであるから、不利益措置を適法とした判例といってよい。

 

 ただし最高裁は、懲戒処分を行うには就業規則の記載(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030)と周知(フジ興産事件最二小判平151010判時1840144)が必要としているので就業規則が整備されていることが前提になる。

 

 就業規則の記載の有無は重要である。

 

 例えば目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974は、就業規則で局所内での政治活動を禁止しているので戒告処分を適法とした。しかし明治乳業福岡工場事件・昭58111判時1100511頁は、昼の休憩時間に食堂において赤旗号外や共産党の参議院議員選挙法定ビラを手渡しまたは食卓に静かに置くという態様のビラ配り事案だが、就業規則で政治活動を禁止していないためたんにビラ配りの問題として扱われ、工場内の秩序を乱すことのない特別の事情が認められ戒告処分は無効とされている。しかし規則で明文規定があれば違った判断となった可能性があるのである。

 

 もとより、労働契約法15条は懲戒権濫用法理を規定するが、国労バッジ事件で近年の高裁判例である東京高判平251128でも「鉄道事業は、多くの利用者の日常生活、社会経済活動に不可欠な公共性の高い事業であり,日々、不特定多数の利用者の生命、身体の安全に直結する性質の事業であることから‥‥、従業員の職務専念義務を規定して適正な職務遂行を求め、これを服装面から規制することによって就業時間中の組合活動を原則として禁止するなどの就業規則を定めたことは,十分に合理性が認められる 」と判示しており、 JRと同様の就業規則を備えれば、適切な量定の、措置、懲戒処分ならば不当労働行為とされることはないということは、確実にいえる。

 

 要するに、判例法理の進展によって、リボンであれ腕章であれ、ワッペンであれ、服装闘争の規制は容易なのである。就業規則もしくは労働協約でそれを禁止すれば、外堀を埋め、王手をかけたのも同然といえる。

 

 

 

(2)民鉄の就業規則はJRと比較して緩すぎるのではないか

 

 企業が企業秩序定立維持権を発動し、社員に企業秩序遵守義務を課すには、就業規則あるいは労働協約を整備していく必要がある。そこで民鉄の実情について検討してもることとする。

 

 一般に就業規則をネットで公開している企業はあまりないように思える。ただし判例や労働委員会の命令書のデータベースで関連部分のみが引用されている場合があるので、引用が可能である。

 

 データベースでJRのほか私鉄大手も検索したが、JRの就業規則の関連部分は下記のように引用できるが、民鉄の就業規則で知りたい部分(服装規定、職務専念義務関連、無許可組合活動)は、なかなかヒットしなかった。

 

 辛うじて、東急についてはバス部門の社員の狭山事件裁判に関するプレート事件や、脱帽乗務の判例があるため、服装の就業規則に言及しているが、その他の会社はほとんど不明なのである。

 

 以下、判例等で引用されている就業規則を記載する。

 

 

JRグルーブの就業規則

 

 

 

 (服務の根本基準)

 

第三条 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。

 

2(略)

 

(服装の整正)

 

第二〇条 制服等の定めのある社員は、勤務時間中、所定の制服等を着用しなければならない。

 

2 社員は、制服等の着用にあたっては、常に端正に着用するよう努めなければならない。

 

3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。

 

(会社施設内等における集会,政治活動等)

 

第二二条一項 社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配付その他これに類する行為をしてはならない

 

(勤務時間中等の組合活動)

 

第二三条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。

 

(懲戒の基準)

 

第一四〇条 社員が次の各号の一に該当する行為を行った場合は、懲戒する。

 

(1)法令、会社の諸規程等に違反した場合

 

(2)上長の業務命令に服従しなかった場合

 

(3)職務上の規律を乱した場合

 

(4)ないし(12)(略)

 

(懲戒の種類)

 

第一四一条 懲戒の種類は次のとおりとする。

 

(1)ないし(3)(略)

 

(4)減給 賃金の一部を減じ、将来を戒める。

 

(5)戒告 厳重に注意し、将来を戒める。

 

2 懲戒を行う程度に至らないものは訓告する。

 

(二)原告の賃金規程のうち、期末手当の額の減額に関連する規定は、次のとおりとなっている(昭和六三年八月人達第一二号による改正前)。

 

(調査期間)

 

第一四二条 調査期間は、夏季手当については前年一二月一日から五月三一日まで、年末手当については六月一日から一一月三〇日までとする。

 

(支給額)

 

第一四三条 期末手当の支給額は、次の算式により算定して得た額とし、基準額については、別に定めるところによる。

 

基準額×(1-期間率±成績率)=支給額

 

(成績率)

 

第一四五条 第一四三条に規定する成績率は、調査期間内における勤務成績により増額、又は減額する割合とする。

 

2(略)

 

3 成績率(減額)は、調査期間内における懲戒処分及び勤務成績に応じて、次のとおりとする。

 

ア 出勤停止 一〇/一〇〇減

 

イ 減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者五/一〇〇減

 

(三)また、賃金規程のうち、昇給号俸からの減号俸に関連する規定は、次のとおりとなっている。

 

(昇給の所要期間及び昇給額)

 

第二二条 昇給の所要期間は一年とし、その昇給は、四号俸(以下「所定昇給号俸」という。)以内とする。(略)

 

2(略)

 

(昇給の欠格条項)

 

第二四条 昇給所要期間内において、別表第八に掲げる昇給欠格条項(以下「欠格条項」という。)に該当する場合は、当該欠格条項について定める号俸を昇給号俸から減ずる。(略)

 

2(略)

 

別表第八(第二四条)昇給欠格条項

 

1(略)

 

2懲戒処分

 

処分一回につき 所定昇給号俸の一/四減

 

(略)

 

3 訓告

 

二回以上 所定昇給号俸の一/四減

 

4 勤務成績が特に良好でない者 所定昇給号俸の一/四以上減

 

 「勤務成績が特に良好でない者」とは、平素社員としての自覚に欠ける者、勤労意欲、執務態度、知識、技能、適格性、協調性等他に比し著しく遜色のある者をいう。

 

 

 

(引用-JR東日本(神奈川・国労バッジ)事件・横浜地判平9・8・7判タ957号114頁、JR東海(懲戒解雇)事件・大阪地判平12・3・29労判790号66頁)

 

 

B JR西日本の契約社員の就業規則

 

 

(会社施設内等における集会,政治活動等)

 

第22条 社員は,会社が許可した場合のほか,会社施設内において,演説,集会,貼紙,掲示,ビラの配付その他これに類する行為をしてはならない。

 

2 社員は,勤務時間中に又は会社施設内で,選挙運動その他の政治活動を行ってはならない。

 

(勤務時間中等の組合活動)

 

第23条 社員は,会社が許可した場合のほか,勤務時間中に又は会社施設内で,組合活動を行ってはならない。

 

(イ)勤務の厳正及び出勤

 

(勤務の厳正)

 

第7条 社員は,みだりに欠勤し,遅刻し,若しくは早退し,又は会社の許可を得ないで,執務場所を離れ,勤務時間を変更し,若しくは職務を交換してはならない。

 

(出勤)

 

第8条 社員は,始業時刻前に出勤し,出勤したことを自ら会社に届け出なければならない。ただし,会社の許可を得た場合はこの限りでない。

 

2 社員は,始業時刻には,会社の指示する場所において,実作業に就かなければならない。

 

3 会社は,社員が始業時刻に遅れて出勤した場合は,就業させないことがある。

 

ウ 契約社員に対する懲戒

 

 契約社員に対する懲戒の基準等について,契約社員就業規則は,次のとおり規定している。

 

(懲戒の基準)

 

第29条 契約社員が次の各号の1に該当する行為を行った場合は,戒告する。

 

(1)法令,会社の諸規程等に違反した場合

 

(2)~(14)(略)

 

2 契約社員が次の各号の1に該当する行為を行った場合は,懲戒解雇する。ただし,情状によっては,戒告することがある。

 

(1)法令,会社の諸規程等に著しく違反した場合

 

(2)~(14)(略)

 

(懲戒の種類)

 

第30条 懲戒の種類は,次のとおりとする。

 

(1)懲戒解雇

 

(2)戒告

 

 

 

(出所 JR西日本(動労西日本戒告処分等)事件東京地判268・25労働判例1104号26頁}

 

 

C 東京急行電鉄の昭和54年当時の就業規則

 

 第八条 従業員は会社の諸規定および上長の指示にしたがい、上長は所属員の人格を尊重して、誠実にその義務を遂行しなければならない。

 

第九条 従業員は、勤務時間中所定の社員章または制服制帽を着用しなければならない。

 

第九六条一項従業員は、安全管理者その他関係者の指示にしたがい、別に定める安全作業心得を守り、常に職場を整理整頓し災害防止に努めなければならない。

 

安全作業心得の四条で「帽子は正しくかぶり、服の釦は全部掛け、上衣のポケツトの蓋は外に出し、常にキチンとした服装で働くこと。……腰に手拭を下げたり、その他不要のものを身につけないこと。」

 

 

 

(東京急行電鉄自動車部淡島営業所プレート事件・東京地判昭60826労民集36巻4・5号558頁)

 

 

 

 

D 東急バスの就業規則

 

 

 

八条

 

 従業員は、会社の諸規程及び上長の指示に従い、上長は所属員の人格を尊重して誠実にその業務を遂行しなければならない。

 

九条

 

 従業員は、勤務時間中、所定の社員章又は制服制帽を着用しなければならない。

 

 

 

一二三条(懲戒の種類)は、「故意または過失により業務の正常な運営を阻害しまたは会社の信用を傷つけあるいは不正を行ったときは懲戒する。懲戒を分けて次の譴責、減給、停職、降職、解雇の五種とする」として、各懲戒につき次のとおり定めている。 

 

1.譴責は、不都合な行為を責めて将来を戒める。

 

2.減給は、不都合な行為を責めて、一回につき平均賃金の一日分の二分の一以内を減給する。(以下略)

 

3.停職は、不都合な行為を責めて、一五日以内業務の執行停止を命じ、かつ、その間の賃金を支給しない。この期間は欠勤の取扱いとする。

 

4.降職は、不都合な行為を責めて、現在以下の職務に変更する。

 

5.解雇は、不都合な行為を責めて解雇する。

 

 また、同一二四条(懲戒解雇基準)は、「会社は、従業員が次の一に該当する行為をしたときは懲戒解雇する」として、一ないし二〇号の項目を掲げ、同一二五条(解雇以外の懲戒基準)は、「前条各号に該当する行為といえども軽微なとき、または情状酌量の余地あるときは、その行為の軽重に従って降職以下の懲戒に処する」と定める。

 

 一二四条各号のうち、本件に関係するものは次のとおりである。

 

1.服務規律に違反し、その罪状が重いかまたは改しゅんの見込みのないとき。

 

4.直接間接を問わず業務の正常かつ円滑な運営を阻害する重大な事故を起こしたとき。

 

5.正当な理由なしに会社の業務命令を拒否したとき

 

17.数回懲戒をうけたにもかかわらず、なお改しゅんの見込みがないとき。

 

19.その他会社の諸規程、令達または指示に違反したとき。

 

 

 

運輸部係員服務規程五六条二項

 

 自動車運転士の服務については、別に定める自動車運転士作業基準を基本としなければならない。

 

自動車運転士作業基準

 

 乗務服装・注意事項(1)帽子は正しく

 

(出所 東急バス(チェック・オフ停止等)事件・東京地判平18614労判923号68頁 東急バス脱帽乗務譴責処分等無効確認請求事件・東京地判平10・10・29労判754号43頁)

 

 

 

E 東京メトロ就業規則

 

 

 

ア 被告の社員に職務の内外を問わず被告の名誉を損ないまたは被告の社員としての体面を汚す行為があったときは,被告会社の社長が当該社員を懲戒する。

 

イ 懲戒は,懲戒解雇,諭旨解雇,停職,減給,けん責の5種とする。 

 

ウ 諭旨解雇は,予告期間を設けないで即時解雇する。

 

エ 懲戒は,懲戒委員会の議を経ることを要する。

 

オ 懲戒委員会に関する規則は,本件就業規則とは別に定める。

 

カ 被告の社員は,必要があって解雇されたときは,被告の社員の身分を失う。

 

ア 本件懲戒委員会規則は,本件就業規則に規定する懲戒委員会の運営について,必要な事項を定める。

 

イ 懲戒委員会で必要と認めたときは,関係社員を出席させて説明を求めることができる。

 

 

 

(出所 東京メトロ痴漢行為諭旨解雇処分事件・東京地決平26・8・12労働経済判例速報2273号3頁)

 

 F 京王電鉄バスの就業規則

 

 

 

 社員に対する懲戒事由として,「会社の諸規則又は職務上の義務に違反し,秩序を乱したとき」(116条1号),「正当な理由なく,業務に関する上長の指示に従わなかったとき」(同条3号),「他人を教唆扇動して業務の妨害をさせたとき」(同条5号),「業務上,越権専断の行為をなし,職場の秩序を乱したとき」(同条12号)などを定めている。懲戒処分の種類は,懲戒解雇,諭旨解雇,降職(職務,資格を下げること),停職(10労働日以内出勤を停止し,その期間賃金を支給しないこと),減給,譴責,訓戒を定めている(117条)。また,上長は懲戒に該当すると認めた者及び懲戒処分審議中の者に対して,その職務の執行又は出勤を停止できること(120条),上長は社員に懲戒を要すると認める行為があったときは直ちに本人に始末書を提出させ,事情を具して上申しなければならないこと(122条),その場合,本人及び関係者を呼び出して審問することができること(123条)も定められている。社員は酒気を帯びて勤務についてはならないこと(20条),社員は業務上の都合により転勤・転職又は出向を命ぜられること(21条1項)も定められている(乙1)

 

 

(引用 京王電鉄バス事件・東京地判平29・3・10TKC)

 

 

 

G 神奈川中央バス就業規則

 

 

 

ア 就業規則 『第2章 服務 第1節 服務規律 (服務の原則) 第8条 従業員は、その職務に関して会社の諸規則を誠実に守り、 所属長(課長以上の者および所長をいう。以下同じ。)の指示に 従い互いに協力し、その職責を遂行するとともに職場秩序の保持 に務めなければならない。 2 (省略) 第9条 (省略) (制服および制帽の着用) 第10条 制服および制帽を貸与された従業員は、労働時間中必ずこれを着用しなければならない。』

 

 イ 服務規程 『(自 覚) 第3条 乗務員等は、事業の公共性を認識し、職責の重要性を自覚 して誠実に職務を遂行しなければならない。 第4条 (省略) (秩序の保持) 第5条 乗務員等は、所属長の指示命令に従って職場の秩序保持に 努めなければならない。 第6条 (省略) (遵守事項) 第7条 乗務員等は、勤務に際し、次に掲げる事項を遵守しなければならない。 (1)(4) (省略) (5) 勤務時間中は、必ず制服及び制帽を着用すること。』

 

 『(指差呼称) 第27条 運転士は事故防止に万全を期すため、次に掲げる各号の指

 

差呼称を行い、安全を確認しなければならない。 (1) 各運行系統の起点および各停留所発車時ならびにこれに準ずる場合「左よし」「前方よし」「右よし」 (2) 交差点にて信号待ちから発車する場合 直進時「前方よし」 右左折時「右よし」または「左よし」 (3) 呼称の実施 イ 走行中の交差点手前 直進時「前方よし」 右左折時「右よし」または「左よし」 ロ 走行中の交差点重複確認 右左折時「右よし」または「左よし」』

 

 ウ 懲戒規程 『第9条 次の各号の1に該当するときは、譴責、減給、出勤停止、 昇給停止もしくは降職に処する。ただし、情状により所属長の訓 戒のみにとどめることができる。 (1)(3) (省略) (4) 業務上不正な行為があったとき。 (5) 社内の風紀秩序を乱す行為のあったとき。 (6) 会社の諸規則、令達に違反したとき。 (7) 業務上の指示命令に違反したとき。 (8) 業務上の権限を濫用したとき。 (9) 社員として、会社の体面を汚す行為のあったとき。 (10) その他前各号に準ずると認められたとき。 第10条 次の各号の1に該当するときは、懲戒解雇、降職、昇給停 止もしくは出勤停止に処する。 (1) 正当な理由なく、無断欠勤連続15日に及んだとき。 (2) (省略) (3) 業務上の指示命令に従わず業務の秩序を乱したとき。 (4) 業務に関し、故意または重大な過失により事故を発生し会社 に損害を与えたとき。 (5) 業務の内外を問わず犯罪行為のあったとき。 (6)(7) (省略) (8) 前条の各号に該当し懲戒を受け、なお改悛の見込みのないと き、および2年以内に再び前条に該当する行為のあったとき。

 

 (9) 前条第4号乃至第9号に該当し、その程度の重い者。 (10) その他前各号に準ずると認められたとき

 

 

 

(引用 中労委データベースより 神奈川、平4不13、平7.9.13

 

 

 

2018/09/30

春闘ワッペンの法的評価(その2)

(目次)

4.春闘ワッペンを取り締まるには実務的には就業規則の整備を行うのが堅実

 

(1) 実務的には企業秩序論にもとづいた就業規則違反として取り締まる運用が堅実

(2) 民鉄の就業規則はJRと比較して緩すぎるのではないか

ア.判例等で引用されている各社の就業規則

 A JRグルーブの就業規則

 B JR西日本の契約社員の就業規則

 C 東京急行電鉄の昭和54年当時の就業規則

 D 東急バスの就業規則

 E 東京メトロ就業規則

 F 京王電鉄バスの就業規則

 G 神奈川中央バス就業規則

 

4.春闘ワッペンを取り締まるには実務的には就業規則の整備を行うのが堅実

 

()実務的には企業秩序論にもとづいた就業規則違反として取り締まる運用が堅実

 

 我が国の労組法は、労働組合の資格要件や労働委員会制度など詳細に規定するが、集団的労働法上の実体的な権利義務についての記述は多くなく、団体行動(組合活動及び争議行為)の中心テーマである正当性をめぐる問題その他、大部分が判例・学説の解釈に委ねられている。不当労働行為制度によって保護される正当な組合活動か否かも、労働委員会の命令以外に救済命令取消訴訟の膨大な蓄積があり、結局のところ判例の分析によって、何が正当な行為か否かを判断することになる。

 従って労働関係は実定法というより、裁判所が案出した判例法理によって争われることが多いのであるが、企業秩序定立維持権がその典型例といえる。

 中嶋士元也 は企業秩序論の内容範囲機能を次の5点にまとめている。

1.服務規定・懲戒規定設定権限

2.企業秩序維持権限にもとづく具体的指示命令権

1)労務提供への規律機能

()労働者の職務専念義務の発生

()他人の職務専念義務への妨害抑制義務

(2)労務履行に関する附随機能(信義則機能)

(3)秩序違反予防回復の機能

3.施設管理の機能

4.企業秩序違反の効果(懲戒機能)

5.その他の機能 

(中嶋士元也 「最高裁における『企業秩序論』」『季刊労働法』1571992)

 いずれも法的常識の範囲にあるものとして評価されており、企業秩序論はリーディングケースより40年を経て、判例法理としては安定的に維持され定着している。

 富士重工業原水禁運動調査事件・最三小昭521213民集3171037は、「労働者は‥‥労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う」と判示した。

 国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676は、要約していえば使用者の権限として経営内の施設利用について企業秩序に服することを労働者に要求する権利を認めた判決である。使用者はその行為者に対して行為の中止を求めることできる。原状回復等、必要な指示命令ができる。懲戒処分もなしうる。ただし使用者に「施設管理権」の濫用と認められる特段の事情がある場合は別で、それを除いて無許諾の組合活動は正当な行為として認められないということである。いわゆる施設管理権の指導判例であるが、使用者が許諾しない企業施設内組合活動は、必要性が大きいこと、具体的な業務阻害がないことをもって正当化されないこと、受忍義務説を否定し法益権衡的な調整的アプローチはとらないことを明確にした卓越した判例法理である。

 要するに組合活動の規制という観点で最も重要な先例は国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676である。被引用判例が非常に多い、この判例を引用することによって、それが勤務時間中であれ、時間外であれ、企業施設内での無許諾組合活動に対する中止命令、不利益処分は、労組法7条1項の不当労働行為には当たらない、正当な組合活動ではないと主張できる。

 しかも企業秩序定立権の射程は広く、施設管理権にとどまるものでく包括的広範である。

 関西電力社宅ビラ配布事件・最一小判昭5898判時1094121頁裁判所ウェブサイトは、「労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種制裁罰である懲戒を課することができる」と判示しているとおりである。関西電力事件判決は企業秩序論が包括的広範にわたることを示している。

 従って、服装闘争も企業秩序論の脈絡によって規制することは当然できる。実際JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030等国労バッジ判例も、労働契約上の誠実労働義務に反するという言及があるが、企業秩序論の脈絡からバッジ着用をたんに形式的な就業規則違反にとどまらず、実質的に企業秩序をみだすものであるから、不利益措置を適法とした判例といってよい。

 ただし最高裁は、懲戒処分を行うには就業規則の記載(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030)と周知(フジ興産事件最二小判平151010判時1840144)が必要としているので就業規則が整備されていることが前提になる。

 就業規則の記載の有無は重要である。

 例えば目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974は、就業規則で局所内での政治活動を禁止しているので戒告処分を適法とした。しかし明治乳業福岡工場事件・昭58111判時1100511頁は、昼の休憩時間に食堂において赤旗号外や共産党の参議院議員選挙法定ビラを手渡しまたは食卓に静かに置くという態様のビラ配り事案だが、就業規則で政治活動を禁止していないためたんにビラ配りの問題として扱われ、工場内の秩序を乱すことのない特別の事情が認められ戒告処分は無効とされている。しかし規則で明文規定があれば違った判断となった可能性があるのである。

 もとより、労働契約法15条は懲戒権濫用法理を規定するが、国労バッジ事件で近年の高裁判例である東京高判平251128でも「鉄道事業は、多くの利用者の日常生活、社会経済活動に不可欠な公共性の高い事業であり,日々、不特定多数の利用者の生命、身体の安全に直結する性質の事業であることから‥‥、従業員の職務専念義務を規定して適正な職務遂行を求め、これを服装面から規制することによって就業時間中の組合活動を原則として禁止するなどの就業規則を定めたことは,十分に合理性が認められる 」と判示しており、 JRと同様の就業規則を備えれば、適切な量定の、措置、懲戒処分ならば不当労働行為とされることはないということは、確実にいえる。

 要するに、判例法理の進展によって、リボンであれ腕章であれ、ワッペンであれ、服装闘争の規制は容易なのである。就業規則もしくは労働協約でそれを禁止すれば、外堀を埋め、王手をかけたのも同然といえる。

 

(2)民鉄の就業規則はJRと比較して緩すぎるのではないか 

 

 企業が企業秩序定立維持権を発動し、社員に企業秩序遵守義務を課すには、就業規則あるいは労働協約を整備していく必要がある。そこで民鉄の実情について検討してもることとする。

 一般に就業規則をネットで公開している企業はあまりないように思える。ただし判例や労働委員会の命令書のデータベースで関連部分のみがせ引用されている場合があるので、引用が可能である。

 データベースでJRのほか私鉄大手も検索したが、JRの就業規則の関連部分は下記のように引用できるが、民鉄の就業規則で知りたい部分(服装規定、職務専念義務関連、無許可組合活動)は、なかなかヒットしなかった。

 辛うじて、東急についてはバス部門の社員の狭山事件裁判に関するプレート事件や、脱帽乗務の判例があるため、服装の就業規則に言及しているが、その他の会社はほとんど不明なのである。

 以下、判例等で引用されている就業規則を記載する。

 

 JRグルーブの就業規則

 

 (服務の根本基準)

第三条 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。

2(略)

(服装の整正)

第二〇条 制服等の定めのある社員は、勤務時間中、所定の制服等を着用しなければならない。

2 社員は、制服等の着用にあたっては、常に端正に着用するよう努めなければならない。

3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。

(会社施設内等における集会,政治活動等)

第二二条一項 社員は、会社が許可した場合のほか、会社施設内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配付その他これに類する行為をしてはならない

(勤務時間中等の組合活動)

第二三条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。

(懲戒の基準)

第一四〇条 社員が次の各号の一に該当する行為を行った場合は、懲戒する。

(1)法令、会社の諸規程等に違反した場合

(2)上長の業務命令に服従しなかった場合

(3)職務上の規律を乱した場合

(4)ないし(12)(略)

(懲戒の種類)

第一四一条 懲戒の種類は次のとおりとする。

(1)ないし(3)(略)

(4)減給 賃金の一部を減じ、将来を戒める。

(5)戒告 厳重に注意し、将来を戒める。

2 懲戒を行う程度に至らないものは訓告する。

(二)原告の賃金規程のうち、期末手当の額の減額に関連する規定は、次のとおりとなっている(昭和六三年八月人達第一二号による改正前)。

(調査期間)

第一四二条 調査期間は、夏季手当については前年一二月一日から五月三一日まで、年末手当については六月一日から一一月三〇日までとする。

(支給額)

第一四三条 期末手当の支給額は、次の算式により算定して得た額とし、基準額については、別に定めるところによる。

基準額×(1-期間率±成績率)=支給額

(成績率)

第一四五条 第一四三条に規定する成績率は、調査期間内における勤務成績により増額、又は減額する割合とする。

2(略)

3 成績率(減額)は、調査期間内における懲戒処分及び勤務成績に応じて、次のとおりとする。

ア 出勤停止 一〇/一〇〇減

イ 減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者五/一〇〇減

(三)また、賃金規程のうち、昇給号俸からの減号俸に関連する規定は、次のとおりとなっている。

(昇給の所要期間及び昇給額)

第二二条 昇給の所要期間は一年とし、その昇給は、四号俸(以下「所定昇給号俸」という。)以内とする。(略)

2(略)

(昇給の欠格条項)

第二四条 昇給所要期間内において、別表第八に掲げる昇給欠格条項(以下「欠格条項」という。)に該当する場合は、当該欠格条項について定める号俸を昇給号俸から減ずる。(略)

2(略)

別表第八(第二四条)昇給欠格条項

1(略)

2懲戒処分

処分一回につき 所定昇給号俸の一/四減

(略)

3 訓告

二回以上 所定昇給号俸の一/四減

4 勤務成績が特に良好でない者 所定昇給号俸の一/四以上減

 「勤務成績が特に良好でない者」とは、平素社員としての自覚に欠ける者、勤労意欲、執務態度、知識、技能、適格性、協調性等他に比し著しく遜色のある者をいう。

 

(引用-JR東日本(神奈川・国労バッジ)事件・横浜地判平9・8・7判タ957号114頁、JR東海(懲戒解雇)事件・大阪地判平12・3・29労判790号66頁)

 

 

B JR西日本の契約社員の就業規則

 

(会社施設内等における集会,政治活動等)

第22条 社員は,会社が許可した場合のほか,会社施設内において,演説,集会,貼紙,掲示,ビラの配付その他これに類する行為をしてはならない。

2 社員は,勤務時間中に又は会社施設内で,選挙運動その他の政治活動を行ってはならない。

(勤務時間中等の組合活動)

第23条 社員は,会社が許可した場合のほか,勤務時間中に又は会社施設内で,組合活動を行ってはならない。

(イ)勤務の厳正及び出勤

(勤務の厳正)

第7条 社員は,みだりに欠勤し,遅刻し,若しくは早退し,又は会社の許可を得ないで,執務場所を離れ,勤務時間を変更し,若しくは職務を交換してはならない。

(出勤)

第8条 社員は,始業時刻前に出勤し,出勤したことを自ら会社に届け出なければならない。ただし,会社の許可を得た場合はこの限りでない。

2 社員は,始業時刻には,会社の指示する場所において,実作業に就かなければならない。

3 会社は,社員が始業時刻に遅れて出勤した場合は,就業させないことがある。

ウ 契約社員に対する懲戒

 契約社員に対する懲戒の基準等について,契約社員就業規則は,次のとおり規定している。

(懲戒の基準)

第29条 契約社員が次の各号の1に該当する行為を行った場合は,戒告する。

(1)法令,会社の諸規程等に違反した場合

(2)~(14)(略)

2 契約社員が次の各号の1に該当する行為を行った場合は,懲戒解雇する。ただし,情状によっては,戒告することがある。

(1)法令,会社の諸規程等に著しく違反した場合

(2)~(14)(略)

(懲戒の種類)

第30条 懲戒の種類は,次のとおりとする。

(1)懲戒解雇

(2)戒告

 

(出所 JR西日本(動労西日本戒告処分等)事件東京地判268・25労働判例1104号26頁}

 

 

C 東京急行電鉄の昭和54年当時の就業規則

 

第八条 従業員は会社の諸規定および上長の指示にしたがい、上長は所属員の人格を尊重して、誠実にその義務を遂行しなければならない。

第九条 従業員は、勤務時間中所定の社員章または制服制帽を着用しなければならない。

第九六条一項従業員は、安全管理者その他関係者の指示にしたがい、別に定める安全作業心得を守り、常に職場を整理整頓し災害防止に努めなければならない。

安全作業心得の四条で「帽子は正しくかぶり、服の釦は全部掛け、上衣のポケツトの蓋は外に出し、常にキチンとした服装で働くこと。……腰に手拭を下げたり、その他不要のものを身につけないこと。」

 

(東京急行電鉄自動車部淡島営業所プレート事件・東京地判昭60826労民集36巻4・5号558頁)

 

 

D 東急バスの就業規則

 

八条

 従業員は、会社の諸規程及び上長の指示に従い、上長は所属員の人格を尊重して誠実にその業務を遂行しなければならない。

九条

 従業員は、勤務時間中、所定の社員章又は制服制帽を着用しなければならない。

 

一二三条(懲戒の種類)は、「故意または過失により業務の正常な運営を阻害しまたは会社の信用を傷つけあるいは不正を行ったときは懲戒する。懲戒を分けて次の譴責、減給、停職、降職、解雇の五種とする」として、各懲戒につき次のとおり定めている。 

1.譴責は、不都合な行為を責めて将来を戒める。

2.減給は、不都合な行為を責めて、一回につき平均賃金の一日分の二分の一以内を減給する。(以下略)

3.停職は、不都合な行為を責めて、一五日以内業務の執行停止を命じ、かつ、その間の賃金を支給しない。この期間は欠勤の取扱いとする。

4.降職は、不都合な行為を責めて、現在以下の職務に変更する。

5.解雇は、不都合な行為を責めて解雇する。

 また、同一二四条(懲戒解雇基準)は、「会社は、従業員が次の一に該当する行為をしたときは懲戒解雇する」として、一ないし二〇号の項目を掲げ、同一二五条(解雇以外の懲戒基準)は、「前条各号に該当する行為といえども軽微なとき、または情状酌量の余地あるときは、その行為の軽重に従って降職以下の懲戒に処する」と定める。

 一二四条各号のうち、本件に関係するものは次のとおりである。

1.服務規律に違反し、その罪状が重いかまたは改しゅんの見込みのないとき。

4.直接間接を問わず業務の正常かつ円滑な運営を阻害する重大な事故を起こしたとき。

5.正当な理由なしに会社の業務命令を拒否したとき

17.数回懲戒をうけたにもかかわらず、なお改しゅんの見込みがないとき。

19.その他会社の諸規程、令達または指示に違反したとき。

 

運輸部係員服務規程五六条二項

 自動車運転士の服務については、別に定める自動車運転士作業基準を基本としなければならない。

自動車運転士作業基準

 乗務服装・注意事項(1)帽子は正しく

(出所 東急バス(チェック・オフ停止等)事件・東京地判平18614労判923号68頁 東急バス脱帽乗務譴責処分等無効確認請求事件・東京地判平10・10・29労判754号43頁)

 

E 東京メトロ就業規則

 

ア 被告の社員に職務の内外を問わず被告の名誉を損ないまたは被告の社員としての体面を汚す行為があったときは,被告会社の社長が当該社員を懲戒する。

イ 懲戒は,懲戒解雇,諭旨解雇,停職,減給,けん責の5種とする。 

ウ 諭旨解雇は,予告期間を設けないで即時解雇する。

エ 懲戒は,懲戒委員会の議を経ることを要する。

オ 懲戒委員会に関する規則は,本件就業規則とは別に定める。

カ 被告の社員は,必要があって解雇されたときは,被告の社員の身分を失う。

ア 本件懲戒委員会規則は,本件就業規則に規定する懲戒委員会の運営について,必要な事項を定める。

イ 懲戒委員会で必要と認めたときは,関係社員を出席させて説明を求めることができる。

 

(出所 東京メトロ痴漢行為諭旨解雇処分事件・東京地決平26・8・12労働経済判例速報2273号3頁)

 

 

F 京王電鉄バスの就業規則

 

 社員に対する懲戒事由として,「会社の諸規則又は職務上の義務に違反し,秩序を乱したとき」(116条1号),「正当な理由なく,業務に関する上長の指示に従わなかったとき」(同条3号),「他人を教唆扇動して業務の妨害をさせたとき」(同条5号),「業務上,越権専断の行為をなし,職場の秩序を乱したとき」(同条12号)などを定めている。懲戒処分の種類は,懲戒解雇,諭旨解雇,降職(職務,資格を下げること),停職(10労働日以内出勤を停止し,その期間賃金を支給しないこと),減給,譴責,訓戒を定めている(117条)。また,上長は懲戒に該当すると認めた者及び懲戒処分審議中の者に対して,その職務の執行又は出勤を停止できること(120条),上長は社員に懲戒を要すると認める行為があったときは直ちに本人に始末書を提出させ,事情を具して上申しなければならないこと(122条),その場合,本人及び関係者を呼び出して審問することができること(123条)も定められている。社員は酒気を帯びて勤務についてはならないこと(20条),社員は業務上の都合により転勤・転職又は出向を命ぜられること(21条1項)も定められている(乙1)

 

(引用 京王電鉄バス事件・東京地判平29・3・10TKC)

 

G 神奈川中央バス就業規則

 

 就業規則 『第2章 服務 第1節 服務規律 (服務の原則) 第8条 従業員は、その職務に関して会社の諸規則を誠実に守り、 所属長(課長以上の者および所長をいう。以下同じ。)の指示に 従い互いに協力し、その職責を遂行するとともに職場秩序の保持 に務めなければならない。  (省略) 第9条 (省略) (制服および制帽の着用) 10 制服および制帽を貸与された従業員は、労働時間中必ずこれを着用しなければならない。』

  服務規程 『(自 覚) 第3条 乗務員等は、事業の公共性を認識し、職責の重要性を自覚 して誠実に職務を遂行しなければならない。 第4条 (省略) (秩序の保持) 第5条 乗務員等は、所属長の指示命令に従って職場の秩序保持に 努めなければならない。 第6条 (省略) (遵守事項) 第7条 乗務員等は、勤務に際し、次に掲げる事項を遵守しなければならない。 (1)(4) (省略) (5) 勤務時間中は、必ず制服及び制帽を着用すること。』

 『(指差呼称) 27 運転士は事故防止に万全を期すため、次に掲げる各号の指 

差呼称を行い、安全を確認しなければならない。 (1) 各運行系統の起点および各停留所発車時ならびにこれに準ずる場合「左よし」「前方よし」「右よし」 (2) 交差点にて信号待ちから発車する場合 直進時「前方よし」 右左折時「右よし」または「左よし」 (3) 呼称の実施  走行中の交差点手前 直進時「前方よし」 右左折時「右よし」または「左よし」  走行中の交差点重複確認 右左折時「右よし」または「左よし」』

  懲戒規程 『第9条 次の各号の1に該当するときは、譴責、減給、出勤停止、 昇給停止もしくは降職に処する。ただし、情状により所属長の訓 戒のみにとどめることができる。 (1)(3) (省略) (4) 業務上不正な行為があったとき。 (5) 社内の風紀秩序を乱す行為のあったとき。 (6) 会社の諸規則、令達に違反したとき。 (7) 業務上の指示命令に違反したとき。 (8) 業務上の権限を濫用したとき。 (9) 社員として、会社の体面を汚す行為のあったとき。 (10) その他前各号に準ずると認められたとき。 10 次の各号の1に該当するときは、懲戒解雇、降職、昇給停 止もしくは出勤停止に処する。 (1) 正当な理由なく、無断欠勤連続15日に及んだとき。 (2) (省略) (3) 業務上の指示命令に従わず業務の秩序を乱したとき。 (4) 業務に関し、故意または重大な過失により事故を発生し会社 に損害を与えたとき。 (5) 業務の内外を問わず犯罪行為のあったとき。 (6)(7) (省略) (8) 前条の各号に該当し懲戒を受け、なお改悛の見込みのないと き、および2年以内に再び前条に該当する行為のあったとき。

 (9) 前条第4号乃至第9号に該当し、その程度の重い者。 (10) その他前各号に準ずると認められたとき

 

(引用 中労委データベースより 神奈川、平4不13、平7.9.13

 

 

2018/09/24

春闘ワッペンの法的評価(その1)

 目次

1.就業時間中の組合活動とみなされる

2.服装闘争は大多数の判例が否定的評価をとっている

()組合活動に関する大筋の判例傾向

()服装闘争等に関する判例の大筋の傾向

 

2.春闘ワッペンは労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよい

() 私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのは判例法理上必然である 

()予想される反論に対する再反論

A 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は当該事案の判断にすぎず、リボン闘争が一般的に違法とは云っていないとの反論

う反論

B 伊藤正己補足意見は、就業時間中の組合活動はすべて違法でなく、具体的な業務阻害のない行為を是認しているという反論

C 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の厳格な職務専念義務論を引用していないので、組合活動に適用されるかは未解決の問題であるとする反論

 

 3.春闘ワッペンの取り外し命令等を行ったとしても労組法7条1項の不当労働行為にあたるとされることはない(組合活動として正当な行為とされることはない)

 

(1)今更ながら国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529でリボン闘争が違法とされている以上、それが民鉄のワッペン闘争であれ、同じ結論となることは必定

 

(2)国労バッジ事件判例はJR各社の就業規則違反として組合バッジ着用を理由とする不利益措置を適法としており、バッジよりも大きくて目立つ春闘ワッペンを規制できないということは絶対にありえない

 

A JRにおいて組合バッジ着用禁止をめぐる紛争が起きた経緯と終息

B  国労バッジ事件主要判例が示すように、組合バッジ着用は就業規則違反の限定解釈の判断枠組で実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められてないので、春闘ワッペンも同じことである

C 労組法73号の支配介入にあたるとする国労バッジ判例も存在するが、労組法71項の不当労働行為にあたらず、就業規則違反として禁止できることは認めている

D 国労バッジ事件等でバッジ着用等が正当な行為とした判例も少数あるが、いずれも地裁判例であり控訴審ではその判断は否定されている

 

 

 

 

1.就業時間中の組合活動とみなされる

 

 私鉄総連の春闘ワッペン着用行為が、争議行為か組合活動かという問題は、当然にその法的性格を異にし、労組法7条1号との関係においても正当性の判断が異なりうるし、学説では労組法8条民事免責を争議行為について認める見解があるので、重要な論点である。

 しかし、リボン闘争について最高裁が初めて判断を下した大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、これを就業時間中の組合活動として、労働組合の正当な行為にあたらないと判示しているため、類似事案である春闘ワッペンも就業時間中の組合活動とされることは間違いない。

 大成観光リボン闘争事件の原審は、リボン闘争について組合活動の面と争議行為の面と両面があると考察しているが、最高裁は争議行為とみなさなかった。

 理由は判文では不明だが、新村正人調査官判解が詳しく解説しており、原審のいう使用者に対する団結示威の作用、機能を直ちに争議行為とみなす根拠はないと断定的に述べている。最高裁はリボン闘争が類型的に争議行為に当たらないとする見解に好意的とも言っている。

 仮に争議行為にするとしても正当性の限界を確定する理論的作業は困難というほかなく、積極的に解することはないだろう。そうするとストライキと併用するケースを別として、労働組合側がリボン闘争は争議行為と主張し労組法8条の適用があると主張しても認められることはないだろう。

 したがって以下、ワッペン着用行為を就業時間中の組合活動と捉え法的な評価を行う。

 

 

2.服装闘争は大多数の判例が否定的評価をとっている

 

()組合活動に関する大筋の判例傾向

 

 我が国の労働法では労働組合の正当な行為は保護されるが、何が正当な行為か否か具体的な定めはなく、労働委員会命令や救済命令取消訴訟等の判例、学説によって判断していくことになる。

 我が国では1970年代まで、階級闘争・ミリバントな労働運動を支援するプロレイバー労働法学が司法にも影響力を有し、憲法28条を使用者の私法上の権利(所有権・財産権)の制約を正当化させる権利として捉え、法益調整論的に使用者は組合活動に対し受忍義務を負うとして、使用者の業務指揮権や施設管理権を制約ないし掣肘する学説を展開していた。

 しかし最高裁で左派が減少した石田和外コート末期に、マスピケ事犯である国労久留米駅事件最大判昭48425刑集273418において、組合に有利な可罰的違法性論の適用を排除したことから、判例傾向は決定的に市民法秩序重視・プロレイバー学説否認の流れとなった。

 企業内組合活動の受忍義務を明確に否定した下級審判例の嚆矢が東京地裁中川徹郎チームの大成観光リボン闘争事件 東京地判昭50311民集364681(リボン闘争を違法とする)、動労甲府支部ビラ貼り事件東京地判昭507 .15判時784(ビラ貼りに対し初めて損害賠償を認める)であり、管理及び運営の目的に背馳し、業務の能率的正常な運営を一切排除する権能を強調し、後の企業秩序論の基礎となる論理を示したといえる。

 昭和50年代には最高裁によって企業秩序論の判例法理が案出され、受忍義務説、法益衡量による調整的アブローチ、具体的危険説といったプロレイバー学説が明確に排斥され、使用者に企業秩序定立権が認められ、被用者は企業行秩序遵守義務を負うことが明らかにしている。(組合活動の判例ではないが富士重工業原水禁運動調査事件・最三小昭521213民集317103、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974、関西電力社宅ビラ配り事件・最一小判昭589.8判時1094121頁、組合活動では国労札等幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676)、とくに企業内組合活動に関する指導判例となっている国労札幌地本判決を引用する判例は多く(池上通信機事件最三小判昭63719判時1293、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786、オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130頁等)、判例法理は安定的に維持されていることから、経営内の組合活動の規制は今日では当然のものとされているのである。

 

()服装闘争等に関する判例の大筋の傾向

 

 就業時間中にリボン、腕章、ワッペン、鉢巻、ゼッケン、組合バッジ等を着用しながら労務提供(いわゆる服装闘争)することが、債務の本旨に従った履行といえるのか、労組法によって保護される組合活動の正当な行為といえるのか、その着用を理由とする取り外し命令、訓告、戒告、減給、期末手当減額、出勤停止処分等の不利益処分、あるいは就労拒否、配置転換、本来業務外し等の措置が適法かなどについては膨大な判例の蓄積がある(別表のとおり)。

 労働委員会命令の傾向は、服装戦術を団結活動の一環としてとらえ、服装規定にもとづく懲戒処分の不当労働行為性を認定する傾向があるが、裁判所(救済命令取消訴訟)になると正当な組合活動とされる例は少なく、大多数の判例は服装闘争を正当な組合活動とみなしていないし、不利益処分について労組法7条1号の不当労働行為に当たらないとする。

 ノースウエスト航空事件・東京高判昭471221労判速8059が初めて腕章着用の就労を職務専念義務違反と判示した判例である。

 国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529判時7046頁では、リボン着用は職務専念義務に違反し、国鉄の服装に関する定めにも違反し違法であり、取外し命令に従わない職員の訓告処分を是認とした。リボン闘争を違法とする判断枠組を示したリーディングケースである。同様にリボンや腕章着用を違法とした判例として神田郵便局腕章事件・東京地判昭49527労民集25323、全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51130労民集2711、全建労事件・東京地判昭52725行裁集2867680等がある。

 大成観光リボン闘争事件 東京地判昭50311民集364681判時77696頁(控訴審も支持)は、労働者の連帯感を昂揚し、その士気を鼓舞するための集団示威は労働組合が自己の負担及び利益においてその時間及び場所を設営しておこなうべきもので、勤務時間の場で労働者がリボン闘争による組合活動に従事することは、人の褌で相撲を取る類の便乗行為であるというべく、経済的公正を欠く。労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下でのリボン闘争は、誠意に労務に服すべき労働者の義務に違背し違法であり、使用者はそれを受忍する理由はないと説示、さらに使用者の指揮命令に従って業務を遂行しつつ、それに乗じて団結の示威を行うことは、心理上の二重機能的メカニズム、一面従順、他面反噬という精神作用を分裂させて二重人格の形成を馴致する虞れがあり、労働人格の尊厳を損なう性質のものと述べるなど、労働組合側に厳しい判断を示し、リボン闘争は組合の正当な行為でなく違法としている。

 最高裁が初めてリボン闘争について判断を下した大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、「本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」としたが、第三小法廷4人のうち左派プロレイバー(反主流派)が2人という異例の構成のため、先例についての法的評価が一致するはずがなく、結論にいたった最高裁としての理由が示されていない。判文で理論的説示がないことは、リボン闘争に否定的な下級審の傾向を追認したとする解釈がある一方、判文上は当該事案に限定しての判断のため、玉虫色的解釈がなされる要因となっている。しかし、この先例をホテル業に限定した判断であってケースバイケースで正当な行為とすることもありえるといったような労働組合側に有利に解釈することは他の最高裁判例との整合性からみて無理がある。

 それ以降現在にいたるまで服装闘争類似事案の判例も多数蓄積しているが、JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388(上告審最三小判平10717労判74415頁も原判決の判断を支持)が、組合バッチを着用したこと理由とする夏期手当支給5%減、賃金規定の昇給欠格条項該当者とする不利益措置は、労組法7条1項の不当労働行為にはあたらないと判示し、平成20年代の下級審判例である、JR西日本大阪国労バッチ事件・東京地判平241031別冊中央労働時報143420頁やJR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718頁がJR東海(新幹線支部)高裁判決の理論的説示を踏襲していることから、近年においても労働組合に有利といえる状況はないといえる。

 総合的に判断しておよそ私鉄総連の春闘ワッペン闘争については下記の立論により否定的な法的評価ができる。

 

 

 

2.春闘ワッペンは労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよい

 

() 私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのは判例法理上必然である

 

 まず労働契約上の誠実労働義務に反し違法と断言してよいと考える。労働者は、雇用契約に基づき職務専念義務を負っており、就業時間中の組合活動は違法である。

 近年の組合バッジ着用事案の判例でも「労働者は、就業時間中は使用者の指揮命令に服し労務の提供を行う義務を負うものであって、勤務時間中の組合活動は、原則として右義務に違反する‥‥労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり‥‥」(JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388)と判示しているとおりである。

 この判断の根拠になっているのは引用こそされてないが目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の職務専念義務論である。

 同判決は公社法三四条二項の職務専念義務規定を「‥職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではない」として厳格に解釈したことはよく知られている。

 同判決は公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」と判示し、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべき(菊池高志「労働契約・組合活動・企業秩序 『法政研究』49(4) 1983【ネット公開】 )とする見解が通説である。

 つまり職務専念義務というのは公務員法制の実定法に限られず、私企業の雇用契約でも同じことである。

 なお、目黒局事件のプレートは「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書かれたもので政治活動の事案だが、組合活動についても同判決の判断枠組が適用されることは判例法理上当然の帰結といわなければならず、そうでないとする大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413伊藤正己補足意見は先例無視の勝手な見解だといわなければならない。 

  この点については大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659新村正人調査官判解が明確に述べている。

 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」と解説しており、大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は当該リボン闘争を組合の正当な行為にあたらないとした理由を示していないが、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の判断を踏襲しているという解釈がなされるのは、それが法律家の標準的見解であるためである。 (踏襲していると述べているのは菊池高志前掲判批だが、新村正人判解、石橋洋「組合のリボン闘争戦術と実務上の留意点-大成観光(ホテルオークラ)事件」労働判例3911982【ネット公開】や西谷敏「リボン闘争と懲戒処分――大成観光事件」ジュリスト臨時増刊7922261983も同趣旨を言っている)

 なお目黒局判決に後続する企業秩序論判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676とそれを引用する多くの判例が、使用者は無許諾の企業施設内組合活動の受忍義務はないこと、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786によって就業時間中の無許諾組合活動が正当化されることはないことを明らかにしており、法益衡量の調整的アプローチを明確に否定していることから、職務専念義務は、政治活動を禁止する場合適用されるが、組合活動には適用されないということは、他の判例との整合性みてありえないことである。

 以上のことから私企業の労働契約上の誠実労働義務にも厳格な職務専念義務論が適用されるのであり、東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558頁では、同社の就業規則八条「従業員は、会社の諸規程および上長の指示にしたがい、……誠実にその義務を遂行しなければならない。」が引用され、「労働者は誠実に職務に従事すべき義務を負うことは、労働契約の性質から当然のことである。したがつて、労働者が勤務時間中にその職務と関係のない行為を行うことは原則として右義務に違反することとなり、この場合に右義務違反が成立するためには必ずしも現実に職務の遂行が阻害されるなどの実害が発生することまでは要しないものというべきである。そして、被告会社の前記就業規則八条の定めも、このことを明らかにしたものと解される。」と判示しているとおりである。

 本件は、狭山差別裁判粉砕等、裁判の不当を訴える内容の縦10センチメートル、横14センチメートルの硬質プラスチック製のプレートを制服の左胸部に着用してした就労申入れを拒否した事案で組合活動ではないが、現在の東急電鉄の就業規則は不明だが、民鉄の就業規則を引用して厳格な職務専念義務論を述べた先例としてその意義が認めなければならない。

 だだし、この論点については労働組合側から反論も予想できるので再反論も示しておきたい。

 

()予想される反論に対する再反論

 

A 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は当該事案の判断にすぎず、リボン闘争が一般的に違法とは云っていないとの反論

 

 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、「本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」としたが、最高裁としての理由を示さなかったことから、判旨にあらわれた限りでは、この判例を一般違法についての判断まで是認した趣旨と読むことはやや無理で、特別違法の観点からする判断、一流ホテルにおける従業員の接客勤務態度に対する要請からみて正当な行為にあたらないとする見解 (花見忠「リボン闘争の正当性--ホテル・オ-クラ事件最高裁判決」『ジュリスト』 771 1982)がある。

 しかし最高裁は昭和50年代以降企業施設内の無許諾の組合活動は企業秩序をみだすものとして受忍義務がないとする、使用者の企業秩序定立権という判例法理を案出し(国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676)、この判例法理は、安定的に維持(池上通信機事件最三小判昭63719判時1293、日本チバガイギー事件最一小判平元・119労判53373号、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786、オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130)されているが、従業員は企業秩序遵守義務があるのであって、これらの判例は使用者の権利と団結権とを法益調整するという考え方はとらないのであって、法益衡量的な諸般の事情を勘案する調整的なアプローチを否定しており、具体的な業務阻害のないことは無許可組合活動を正当化しないことを明確にしている。ケースバイケースの判断はとらないのである。したがってホテル業だからダメでその他の業種なら正当化される余地があるとする根拠はない。

 例外としては、権利の濫用とみなされる特段の事情がある場合だが、この判断枠組で風穴は開けられていない。

 仮に百歩譲って、特別違法性だけを認めた判例とする花見説を認めたとしても、原審のいう特別違法性「リボン闘争は、労使が互いに緊張していることをまあたりに現前させるので、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てる」という説示は、ホテル業に限らず、従業員が客面に出るサービス提供業務一般に広くいえることで注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことあって、鉄道事業にもあてはまるのである。

 例えば、大手私鉄の主要路線では、通勤客に対し寛ぎや快適さを提供する有料着席ライナーを運行するようになったが、京王ライナーでは、空気清浄機が具えられたうえ、しばしの間お寛ぎください云々とのアナウンスが流れるのである。ところが、2018年2月22日デビュー以降、三週間程度が春闘時期にあたり、車掌は春闘ワッペンを制服の腹の部分に取り付けていた。直径7から8㎝で赤い円形のためかなり目立つ。着席状況を確認するため、車掌が各車両を見回るが、春闘ワッペンをみせつけて、第三者である乗客に春闘との連帯を訴えかける行為は、400円の有料着席ライナーを利用する乗客が求める「休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁なことといえる」のであって、原審の説示した特別違法性は、鉄道事業にもあてはまるというべきである。したがって大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413を逆手にとって、ワッペン着用に有利に解釈する妥当性はないのである。

 

B 伊藤正己補足意見は、就業時間中の組合活動はすべて違法でなく、具体的な業務阻害のない行為を是認しているという反論

 

 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413の伊藤正己判事の単独補足意見は、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213は事案を異にするので先例とみなさないとし、「就業時間中に‥‥およそ組合活動であるならば、すべて違法の行動であるとまではいえない」とか「業務を具体的に阻害することのない行動は、必ずしも職務専念義務に違背するものではない」としている。

 この補足意見については、「伊藤裁判官の補足意見により‥‥労働委員会が実態に即し、不当労働行為制度の趣旨を生かす判断を行う余地が残されるようになった」(松田保彦「いわゆるリボン闘争の正当性-ホテルオークラ事件」・法学教室221982)と肯定的評価をする批評がある。

 しかしこれは明らかに変である。伊藤補足意見は、リボン闘争が争議行為の類型には当たらないとした以外の主張は、組合活動に好意的な立場で先例を無視した勝手な持論を言っているだけのものであり、最高裁の主流の考え方に異論を示しただけのものであるめ。上記引用した企業秩序論の最高裁判例においても伊藤補足意見の趣旨は完全に否定されていることから、単独の補足意見が影響力を持つ事自体が不当である。

 例えば済生会中央病院事件最二小判平元・1211民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」としたうえで、勤務時間中の無許可集会に対する警告書交付はそれが業務に支障をきたさない態様であっても「労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎない」ので不当労働行為にあたらないと判示しており、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213こそ引用してないが、最高裁は同判決の職務専念義務論を踏襲した判断をとっているとみてよいし、済生会中央病院事件判決によって無許諾の就業時間内組合活動が正当化される余地はなくなったというべきであるし、業務に具体的阻害のない態様であることは正当化する理由にはならないことを重ねて確認した判決といえる。先に引用した伊藤補足意見の趣旨を完全に否定されている。

 

C 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413は目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭5212134の厳格な職務専念義務論を引用していないので、組合活動に適用されるかは未解決の問題であるとする反論

 

 目黒局判決が引用されてないのは、第三小法廷の4名中2名裁判長環昌一判事と、伊藤正己判事が左派プロレイバーであり、勤務時間中は、注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないとする目黒電報電話局事件判決に批判的な見解をとっていたため小法廷の意見が一致しなかったため推定できる。伊藤判事は補足意見で同判決を批判しているし、環裁判長は、目黒局判決の結果的同意意見となる補足意見で、反戦プレート着用は懲戒処分理由と認めていないことから明らかなことといえる。

 しかし、左派2判事が先例拘束性を認めなかったことで、目黒電報電話局事件判決の先例としての意義を否定されるものではないし、既にのべたとおり、同判決の判断枠組は、私企業においても組合活動においてもそれが適用されることは判例法理上の必然であり、大成観光事件上告審判決は、当該リボン闘争を組合の正当な行為にあたらないとし、組合幹部への減給、訓告処分を是認するものであるから、引用されずとも同判決を踏襲した判断をとったとみるとの妥当である。

 大成観光事件以降の判例では本節、冒頭に述べたJR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388頁も厳格な職務専念義務論をとっており、上告審最三小判平10717労判74415頁も原判決の判断を支持しているだけでなく、それ以外に目黒局判決の参照指示こそないが、同趣旨、もしくは本文をそのまま引用し、厳格な職務専念義務論をとる下級審判例として以下の判例がある。

 東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558

 国鉄鹿児島自動車営業所事件 鹿児島地判昭63627判時1303143頁裁判所ウェブサイト(組合バッジ着用は職務専念義務違反で禁止できるとしたうえで、管理者に準ずる地位にある職員が、取外し命令を無視して組合員バッジの着用をやめないことから、通常業務から外し降灰除去作業をさせたことが、懲罰的目的であり業務命令権の濫用とする。控訴審の判断も同じ。最三小判平5611判時1466151頁裁判所ウェブサイトは、原判決破棄自判。本件降灰除去作業は、労働契約に基づく付随的業務としての環境整備作業の範囲を越えるものではなく、懲罰的、報復的目的を認定することは失当とする)

 西福岡自動車学校腕章事件 福岡地判平7920労判695133頁裁判所ウェブサイト、

 JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件・東京高判平11224判時1665号130頁裁判所ウェブサイト

(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意、訓告、55名に対し夏季手当5%減額の措置につき国労バッジの着用は、就業規則の服装整正規定違反、就業時間中の組合活動禁止規定違反、職務専念義務規定違反であり企業秩序を乱すものであるとし、取外し命令、懲戒、不利益処分を禁止するものではない。しかしながら「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入)に該当するとした。)

 JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイト

 JR西日本(大阪)国労バッチ事件 東京地判平241031別冊中央労働時報143420

 JR東日本(神奈川)国労バッチ出勤停止事件 東京高判25327別冊中央労働時報1445号50頁

 JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538

 

 もっとも目黒局判決の参照指示があって職務専念義務論を引用しているのは国立ピースリボン事件・東京地判平18726裁判所ウェブサイトと都立南大沢学園養護学校事件・東京地判平29522TKCといった地方公務員の国旗・国歌をめぐる抗議活動の事案にすぎない。

 参照指示のある判例が少ないという点で左派2判事の抵抗により理論的説示をしなかった影響を引きずったともいえるが、とはいえ目黒電報電話局事件判決の職務専念義務論は、私企業の組合活動の多くの判例でそれと同じ判断を示しているのであって、先例としての価値を有していることに疑う余地がない。

 よって、この論点については労働組合側がら反論があっても再反論が可能である。

 もっとも理論的に労働契約上の誠実労働義務違反で違法といっても、懲戒処分に付すにはフジ興産事件最二小判平151010判時1840144頁が、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定め、適用を受ける労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判示している以上、就業規則を根拠としない懲戒処分は無理があるから。実務的には企業秩序論の脈絡から対応していくことがより堅実とはいえる。

 

 

 3.春闘ワッペンの取り外し命令等を行ったとしても労組法7条1項の不当労働行為にあたるとされることはない(組合活動として正当な行為とされることはない)

 

 民鉄と同業種である国鉄ではリボン闘争とワッペン型大型バッジに関する判例、JRでは組合バッジに関する判例が多数あるが、その判例傾向からみて、就業規則を整備を前提としていえば、類似事案である民鉄の私鉄総連春闘ワッペンについて、取り外し命令や不利益扱いを行ったとしても労組法7条1項の不当労働行為にあたるとされることはないと断言できる。

 

1)今更ながら国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529でリボン闘争が違法とされている以上、それが民鉄のワッペン闘争であれ、同じ結論となることは必定 

 

  国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529判時7046頁が、リボン闘争を違法とするリーディングケースであることは既に述べた。事案は、国労が昭和45年春闘に際し全国各支部に闘争指令を発し、青函地本は320日ころよりリボン闘争を含む職場点検闘争に入ることを各職場分会に指令した。これにより国労組合員が同年320日から58日にわたって「大巾賃上げを斗いとろう、165千人合理化紛砕」と書いた黄色のリボン(縦1.0㎝横3.5㎝)を制服に着用して勤務に就いた。当局は再三に亘って取り外しを指示したが、従わなかった組合員延べ492名を訓告処分に付し、このうち54名が国鉄総裁を相手取って訓告処分無効確認と損害賠償請求の訴訟を起こしたものである。

 一審函館地判昭47519判時66821頁はリボン着用を正当な組合活動として訓告処分を無効としたが、控訴審ではリボン闘争を違法とする逆転判決となった。

 この判例は「‥‥国有鉄道の職員は、勤務中は、法令等による特別の定めがある場合を除き、その精神的、肉体的活動力の全てを職務の遂行にのみ集中しなければならず、その職務以外のために、精神的、肉体的活動力を用いることを許さないとするものである。‥‥勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、通常はこれによって当然に職務に対する注意力がそがれるから、かかる行為または活動をすることは、原則として職務専念義務に違反する‥‥その行為または活動によって、具体的に業務が阻害される結果が生じたか否かは、右の判断とは直接関係がないものというべき」と職務専念義務を厳格に解釈した判断枠組を示したことで知られ、これが最高裁(目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974)によって採用されたことにより、職場規律維持、正常化の原点となったことで高く評価されるべきである。

 国鉄時代のリボン着用禁止の根拠となったのは、職務専念義務(国鉄法322項の「職員は、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない。」)のほか服装整正規定がある。

 鉄道営業法第22条は「旅客及公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ」と規定し、この規定の趣旨を受けて、安全の確保に関する規程第14条、職員服務規程第9条、営業関係職員の職制及び服務の基準第14条、服制及び被服類取扱基準規程第2条、第9条等の定めがなされ、現業に従事する職員に対し、制服(作業服を含む)を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられており、服制及び被服類取扱基準規程では、現場職員の制服等の制式と着装方を定め、これを職員に貸与するものとし(第3条)、かつ「被服類には、腕章、キ章及び服飾類であって、この規程に定めるもの及び別に定めるもの以外のものを着用してはならない」(第9条第3項)と規定していた。

 国鉄法の職務専念義務は、私企業の労働契約上の誠実労働義務にもあてはまることはすでに述べたとおりである。また国鉄中国支社事件判決・最一小昭49228民集28166において国鉄の懲戒処分は、行政処分でなく、私法上の行為と判示しているので、国鉄においては公労法171項で争議行為が禁止されていたことを除いて、国鉄判例は私企業においても先例となるのである。

 青函地本事件札幌高裁判決は次のように説示する。

 「‥‥被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、したがって‥‥勤務の間中、組合員相互に本件リボンの着用を確認し合い、これを着用していない組合員には着用を指導していたものであつて、本件リボンの着用が精神的に被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものでなかったとは到底認めることはできない。‥‥組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものというべきであり、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでなかつたことは明らかである。よって、被控訴人らが勤務時間中本件リボンを着用したことは、職務専念義務に違反するものである」 

 「国鉄職員のうち旅客及び公衆に対する職務を行なう者については、鉄道営業法第二二条によって、制服の着用が義務づけられており、また、直接右法条に該当しない者であっても、現業に従事する者について、公共の福祉の増進を目的とする国鉄の職員としての公正中立と品位を保持し、旅客公衆に対し国鉄職員であることの識別を可能ならしめ、かつ不快感を与えることを防止し、その職務が旅客公衆の身体、財産の安全にかかわるものとして、特に強く要請される職場規律の保持を確保するために、制服を着用すべきものとすることが必要であるから‥‥現業に従事する職員に対し制服を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられていることは、十分合理的な根拠を有するのであり、そして、右制服に、定められた服飾類以外の物を着用することを禁止することも、制服の性質、趣旨よりすれば、これを不合理な規制ということはできない。‥‥また、本件リボンは、前記のとおり組合活動として着用されたもので、その内容は組合の要求を記載したものであるところ、‥‥被控訴人ら国鉄職員がこれを着用して勤務していることに対し旅客公衆の中には不快感を抱く者があることは十分予想される。被控訴人らは、そのような不快感は反組合的感情で保護するに値しないと主張するが、しかし、その不快感が、本件リボンの内容である国労の要求内容に対する不満にあるのではなく、被控訴人らが職務に従事しながら本件リボンを着用して組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安によるものであるときは、国鉄が公共の福祉の増進を目的とする公法人で、その資本は全額政府が出資していることを考えると、右の趣旨の旅客公衆の不快感は十分理由があるものであつて、これを単なる反組合的感情にすぎないものということはできない。さらに、本件リボンと職場の規律、秩序の関係についても、本件リボンが前記のとおり国労の要求を記載したもので、これを着用することによって国労の団結をはかるものであるところ、国鉄内には、国労のほか、これと対立関係にある鉄道労働組合があることは顕著な事実であり、本件リボンの着用が鉄労組合員その他組合未加入者に心理的な動揺を与え、‥‥国労の組合員の中にも指令に反し本件リボンを着用しなかつた者が相当数あつたことが認められるが、これらの者にも精神的な重圧となったことも十分考えられ、勤務時間中の本件リボンの着用は、その勤務の場において、不要に職場の規律、秩序を乱すおそれのあるものというべきである。‥‥よつて、本件リボンの着用は、控訴人の服装に関する定めに違反するものであり、法律及び控訴人の規程の遵守を求める法律に反する違法のものである。」

 むろん、リボンとワッペンに相異はある。私鉄総連の春闘ワッペンには、具体的な要求項目の記載はない。ワッペンの記載は、民鉄協会と合同して行っている「公共交通利用促進」というスローガン、西暦と「春闘」、私鉄総連の英訳の頭文字、電車やバスのデザインである。

 しかし「春闘」とは2月ころから労働組合が一斉に賃上げ等を要求する闘争を意味することは明らかであり、ワッペンは直径78㎝はあり目につきやすいという点ではリボンと比較しても遜色はない。

 旅客公衆は「春闘」という文字をみて、使用者に対する団結示威というだけでなく、乗客にも春闘への連帯を訴えかける教宣活動と受けとめるの。したがって、旅客公衆が「職務に従事しながら‥組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安」を抱くことは、国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529の説示と基本的には同じことというべきである。 国鉄の複数組合と、民鉄では事情が異なるかもしれないが、その部分を除き、民鉄と国鉄の就業規則が異なる点を留保したとしても国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529の説示するところは春闘ワッペンを同列に論じてよいと考える。

 

 

 (2)国労バッジ事件判例はJR各社の就業規則違反として組合バッジ着用を理由とする不利益処分を適法としており、バッジよりも大きくて目立つ春闘ワッペンを規制できないということは絶対にありえない

 

A JRにおいて組合バッジ着用禁止をめぐる紛争が起きた経緯と終息

 

 初めに国労バッジ事件とはなんであったかについて一応説明しておく。

  国労バッジを着用し、上司の指示の取り外し命令に従わなかったことを理由とする不利益取扱が不当労働行為に該当するか否かが争われた救済命令取消訴訟が多数ある。

 これは国労がJR発足以前から、組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示していたのに対し、JR各社は昭和624月発足以来就業規則や賃金規定を根拠として着用規制を徹底して行ったことによる紛争である。

 国鉄時代には、動労、鉄労など国労以外の他の労働組合も、組合バッジを作成し、組合員に配付しており、各労働組合の組合員は、組合バッジを着用していたが、JR発足の昭和624月には、国労以外の他の労働組合の組合員のほとんどは組合バッジを外したのである。

  国労バッジとは実は大きさで2種類ある。通常着用していたのは、縦1.1㎝、横1.3㎝の四角形で、黒地に金色のレールの断面と国の英訳の頭文字をとった「NRU」の文字をデザインしたものである。

 これと別に布製のワッペン式大型バッジがあり、通称「くまんばち」と呼ばれ、デザインはほぼ同様であるが、縦2.6㎝、横28㎝と大きく、主に闘争時などを中心に着用された。国鉄当局は、これをワッペンの一種であるとして、国鉄末期から規制を行っている。国鉄鹿児島自動車営業所事件 最三小判平5611判時1446151頁(管理者に準ずる地位にある職員が組合員バッジの取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令を適法とする)が昭和60年の国鉄時代の事案だが、布製の「くまんばち」の事案であるから、本件はワッペンに関する判例とみなすべきである。

 しかし大多数の国労バッジ判例は小型の組合バッジの事案なにのである。

 

 以下、ここでは主としてJR東日本(神奈川・国労バッジ)事件・東京高判平11224判時1665号130頁裁判所ウェブサイト(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意または訓告処分、55名に対し夏季手当5%減額の措置をとったことが不当労働行為に当たるかが争われた)の判文より引用する。

 国労は、分割民営化反対等を主張し、昭和59810日に2時間ストライキを実施したほか、昭和60年に入ってワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年913日、闘争に参加した約59200人の国労所属組合員に対して戒告、訓告等の処分をした。さらに、国労は、昭和61410日から12日まで、国鉄の分割民営化方針等に抗議して、ワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年530日、闘争に参加した約29000人の国労組合員に対し、戒告又は訓告の処分をした。

 このことから、国鉄末期にワッペンの規制を行っていたことが明らかである。

 国鉄は、昭和61113日、「労使共同宣言(第一次)」の締結を各組合に提案した。諸法規を遵守すること、リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整えること、必要な合理化は、労使が一致協力して積極的に推進すること‥‥が掲げられていた。この提案に対し、鉄労、動労及び全施労は受諾したが、国労は、拒否した。

 しかし小型の組合バッジは取締の対象にはなっていなかった。

 国鉄総裁は昭和613月に八次にわたる職場規律の総点検の集大成とし職員管理調書の作成を通達しているが、勤務態度に関することとして「服装の乱れ」という項目があり、「リボン・ワッペン、氏名札、安全帽、安全靴、あご紐、ネクタイ等について、指導された通りの服装をしているか。」を評定事項としているが、組合バッジについては言及されていない。

  国労は昭和615月には組合員約163000名(組織率683パーセント)を有する国鉄内最大の労働組合であったが、昭和622月には約647000(同292パーセント)、さらに、同年4月には約440000と急激に減少させた。組合バッジを組合団結のシンボルとする国労組合員は、国労の組織防衛上の見地からその着用を続けていた。東京地本は、昭和611031日、闘争指令を発し、その中で、当面の闘いとして、「国労バッチの完全着用をはかること。」などの指令を出し、さらに、昭和62331日、各支部執行委員長に対し、「国労バッチは全員が完全に着用するよう再度徹底を期すこととする。」などの指示を出している。

 一方、JR東日本発足時には、東鉄労(動労、鉄労、国労脱退者の一部を糾合)の組合員は国鉄時代の慣行をやめ鉄道労連のバッジを着用しなかった。会社発足の困難な途上において労使がいらざる紛争の種を作るべきではないとして、所属組合員が就業時間中に組合バッジを着用することがあれば、強力に指導して外させる方針だったという。

 JR東日本の調査によれば、62年4月の組合バッジ着用者は、5645名(全体の88%)、同年5月の調査で2798名(同44%)であり、そのほとんどが国労組合員であった。

 JRの就業規則は昭和62323日に制定されたが以下の3ヶ条が、組合バッジ着用を禁止する根拠になっている。

 

第3条の1 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。

第20条の3

 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。

第23条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。

 

 また賃金規程(昭和六三年八月人達第一二号による改正前のもの。)には、期末手当の額の減額に関連する規定があり、減額に係る成績率については、5%減の事由として減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者と定められている。これに関して作成される期末手当減額調書には、業績(問題意識、成果)、態度(執行態度、協調性等)、処分の有無、服装(組合バッジ着用等の注意回数等)について記入することとされている。

 なお、昭和62423日付けのJR東日本と国労東日本鉄道本部との労働協約では,経営協議会及び団体交渉など原告から承認を得た場合のほか,勤務時間中の組合活動を行うことはできないことを約定している(同協約第6条)

 国鉄の東日本旅客鉄道株式会社設立準備室の小柴次長は、昭和62323日、東日本地区各機関総務(担当)部長(次長)に対し、「社員への「社員証」「社章」「氏名札」の交付等について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、JR発足に当たって全社員に交付すべき社員証、社章及び氏名札は、勤務箇所長から直接社員一人一人に手渡しで交付すること、組合バッジを着用している場合には、組合バッジを外させるとともに、社章を着用させることを指示した 

 つまり、使用者側は、JR発足時から組合バッジ着用を認めない方針だった。これは国鉄末期の点検項目にもなかったことである。以下、筆者の感想であるが、JRの就業規則はよくできていて、組合バッジ着用は、職務専念義務違反、服装規定違反、無許可組合活動の3ヶ条に違反するのみならず、服装指導の回数によって、期末手当5%減額事由となる賃金規定があるため、バッジを取外さなければ、いわゆるボーナスが減額されてもやむをえないような設計に初めからなっていたといえるのではないか。

 民鉄の実態から比較すれば厳しいあり方といえるだろうが、職務専念義務の徹底は、国鉄末期の職場規律の乱れに対する国会や世論の批判を受けてのものと理解することもできる。

  人事部勤労課長は、昭和62420日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「社章、氏名札着用等の指導方について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、「組合バッヂ着用者に対しては、服装違反である旨注意を喚起して、取り外すよう注意・指導すること。その際の注意等に対する言動を含めた状況を克明に記録しておくこと。繰り返し注意・指導を行ったにもかかわらず、これに従わない社員に対しては、「就業規則」、「社員証、社章及び氏名札規程」に違反するとして厳しく対処することとし、人事考課等に厳正に反映させることとされたい。」と指示した。これを受けて、東京圏運行本部の総務部人事課長及び勤労課長は、関係現業機関の長に対し、翌21日、同旨の事務連絡を行い、さらに、同月28日、「服装等の整正状況のは握について」と題する事務連絡を行って、決められた服装をしない社員の整正状況について個人別把握を行うよう指示した。さらに、人事部勤労課長は、同年521日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、更に強力に注意・指導の徹底を行い、直ちに改善されるよう取り組むべきことを指示した。

 このように、組合バッジの取り外し指導は徹底して行われていたのである。

 国労が労使協調路線へ方針を転換したのは平成87月以降であり、平成11年年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結した。平成1811月包括和解によりバッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げている。JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件 東京地判平24117労判106718頁によれば、JR東日本は組合バッジ着用者に対する処分を年2回程度の割合で実施していった。被処分者は、平成3年9月の処分で2000人を割り込み、平成8年9月の処分で1000人を割り込み,平成14年3月には314人(全従業員の0.4%)になっていた。平成143月末以降は、組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり、国労は、組合バッジ着用に関し、機関決定違反として統制処分をするまではしないが、支持はしなくなったとする。平成157月以降国労バッジ着用者は1人となった。その者も退職したので、少なくともJR東日本では現在では組合バッジの着用者はいないとみてよいだろう。

 つまり、会社側が企業秩序を定立するため、しかるべき就業規則を制定し、ワッペン・リボンはもちろんのこと、小型の組合バッジであれ、企業秩序遵守義務に反するものとして、徹底して禁止することができるということは、JRの労務管理の実績で証明されたことなのである。

 

 B  国労バッジ事件主要判例が示すように、組合バッジ着用は就業規則違反の限定解釈の判断枠組で実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められてないので、春闘ワッペンも同じことである

 

 国労バッジ判例はいくつかの類型に分けることがであるが、第1の類型が主要判例といえるもので、以下の7例が、第1の類型組合バッジ着用を理由とする不利益取扱が不当労働行為には当たらず適法との判断を下している。

JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・ 東京地判平71214判時1556141

JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388

JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・最三小判平10717労判74415

JR西日本(大阪)国労バッジ事件・東京地判平241031別冊中央労働時報143420

JR東日本(神奈川)国労バッジ・出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718

 ここでは代表的な判例である東京高判平91030(組合バッジ着用を理由とする厳重注意、夏季手当5%減額、賃金規定の昇給欠格条項該当措置は不当労働行為に当たらないとした)を引用する。理論的説示は概ね完璧に近く、最高裁に支持されているため 代表的な判例としてよいのである。平成20年代の判例は、後述する第2類型も含めて、この判決を踏襲した理論的説示をしている。

 要点だけ述べれば組合バッジ着用はJRの前記就業規則3条、20条、23条に違反する。

 就業規則に違反することは明らかであるが、先例である目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974は不利益処分の客観的合理性を確保するため就業規則の限定解釈をする判断枠組を示しているのでこの審査をバスしないと就業規則違反とはならないことになっている。

 目黒局判決の判断枠組は「‥‥秩序風紀の維持を目的としたものであることにかんがみ、形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときには、右規定の違反になるとはいえないと解するのが、相当である」というものである。

 東京高判平91030も「文言上形式的には本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である」と目黒局判決の判断枠組を引用してその審査を行っているが、以下のとおり実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情はないと判定するのである。

 「本件組合バッヂ着用行為は、‥‥組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、‥‥職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという‥‥職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。」

 要するに、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用いていないことは職務専念義務に違反し企業秩序を乱しているということ、他の社員が職務に集中できないおそれ、注意力を散漫にするおそれがあること(抽象的危険)により実質的に企業秩序をみだしていると認定した目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の説示とほぼ同じ趣旨である。

 後段の部分については、私鉄総連の春闘ワッペンは、複数組合のあるJRと違う環境であり少数組合の国労とは違って殆どすべての社員を着用していることから、国労バッジ事件と同列状況が違うとの反論がありうるが、すべての非管理職社員が着けているとしても、自ら着用することが組合活動を意識しながら職務を行うことで職務専念義務に反しているだけではなく、目立つものであるから、就業時間中に他の社員の春闘バッジが目に入ることでも、団結意思の相互確認、闘争参加意識、春闘を意識することとなり、組合員間の連帯を高め闘争に向けて士気の鼓舞する意味と作用を有するともいえるから、注意力のすべてを職務遂行に向けることを妨げるおそれがあり、組合の指示にしたがって着用しているかを相互に確認する行為がなされるだけでも、就業時間中に注意力を散漫にするおそれがあるといえるのであり、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められることはありえない。

 ちなみに目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213以降の企業橘序論判例は、抽象的危険説をとり、具体的業務阻害がないことを理由に組合活動が正当化されることはないことを明示している。

 つまりワッペンを禁止するのに具象的な業務阻害を説明する必要はない。2014年2月15日午前0時半すぎに、東急東横線元住吉駅で、大雪の影響で電車が追突し乗客65人が負傷した事故があった。2月15日というとだいたい春闘ワッペンを着用しだす時期である。事故の原因については究明されていることであり、その時、運転指令室や乗務員がワッペンを着けていたかどうかは知らない。仮に着けていたとしても春闘ワッペンを意識した雑念が事故と関係しているという根拠はないから無関係だろう。しかし、ワッペンはたんに抽象的な理由、それが目に触れるため他の社員の職務専念義務を妨げるおそれがあるというだけでも企業秩序をみだすものとして禁止できるのである。

 

 C 労組法73号の支配介入にあたるとする国労バッジ判例も存在するが、労組法71項の不当労働行為にあたらず、就業規則違反として禁止できることは認めている

 

 国労バッジ判例の第2の類型は、組合バッジ着用は就業規則違反として禁止できるとしたうえで、あるいは、不利益措置は労組法1条の不当労働行為にあたらないとしたうえで、労組法73号の支配介入にあたるとするものである。

 JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイト(国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意または訓告処分、55名に対し夏季手当5%減額の措置をとったことが不当労働行為に当たるかが争われた)は、国労バッジ着用について「国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。‥‥本件組合バッジの着用は、本件就業規則三条一項、二〇条三項及び二三条に違反するものであった。したがって、控訴人が本件組合員らによるこれら本件就業規則違反をとがめて本件就業規則等にのっとり懲戒その他の不利益処分を行う権限を有することは、明らかである」としている点は、前記JR東海(新幹線支部)国労バッジ事件・東京高判平91030と同趣旨といえるので、実はこの判例も、服装闘争を規制する側に有益な判例なのである。

 しかしながら「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので、一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても、それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには、その使用者の行為は、これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」と述べ、「敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し」バッジ取外しの指示・指導等は「執拗かつ臓烈なもので,平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり」「就業規則の書き写しの作業などは,嫌がらせ」であり、「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入、労組法7条3号)にあたるとする。

 具体的に何を支配介入の論拠としているかだが、国労に対する敵意と嫌悪感を露骨に示す言動として、松田常務取締役の会社に対する反対派(国労)を断固として排除する旨の発言。住田社長の東鉄労との一企業一組合が望ましいとして、国労を攻撃し、このような迷える子羊を救って東鉄労の仲間に迎え入れていただきたいとして、東鉄労の組合員らに対し、国労組合員の国労からの脱退、東鉄労への加入を促す働き掛けを期待する発言など多くの根拠が示されている。

 この判断によれば、労働組合の正当な行為ではないから、直ちに不当労働行為にあたらないということにはならず、労組法7条3号の支配介入にあたることがありうることを示している。

 なるほど、国鉄の末期頃まで国労以外の組合員も組合バッジを付けていた。国鉄末期の八次に及ぶ職場規律の総点検でも組合バッジは問題にされていない。

 原判決東京地判平987判タ957114 (次節の第3類型)によれば動労委員長時代の松崎東鉄労委員長が「駄目な労働組合には消滅してもらうしかなく、駄目な組織はイジメ抜く」旨述べていたことと関連して、機関紙による組合バッジ着用呼び掛けにもかかわらず、東鉄労の組合員が組合バッジを着用しないことについては、原告と東鉄労との間で事前の話し合いが行われ、東鉄労が労使協調関係を維持するとともにこれを誇示し、あるいは国労の対決路線を際立たせる意図の下に、組合バッジ不着用を決定したことが窺われるとの見方が示されている。

 この趣旨からすると会社と多数組合が示し合わせて、少数組合を弱体化し追い詰める手段として組合バッジの取り締まりを行ったという図式になる。

 もっともJR東日本神奈川事件とは第一次から第四次まであり、JR東日本(神奈川)国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718頁は不当労働行為にあたらないとしているし、JR東日本(神奈川)国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538頁は上記に引用したような脈絡で支配介入は認めていないから、労組法7条3項の支配介入にあたるかは裁判体によって異なった判断をとっている理解するほかない。

 仮に、JR東日本(神奈川)第一次国労バッチ事件・東京高判平11224に説得力があるとしても、引用した支配介入の根拠とされるものは、JR東日本の労務管理の特殊な事情であるから、一般論として使用者側に服装規制を委縮させるような性格のものではない。

 またJR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538頁甲事件も前記第一次神奈川事件高裁判決と同類型ともいえる判例で、組合バッジ着用に対する不利益処分(労組法71号)の不当労働行為は認められないとする一方、平成143月以降の国労バッジ着用行為に対する極端な厳罰化は,国労バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた原告が,国労執行部の方針転換を認識するに至り、これを機に国労内少数派の勢力を減殺し,国労執行部の方針に加担したものと認められるので労対組法73号の支配介入にあたるとするものである。

 

 2つの高裁判決(JR東日本(神奈川)第一次国労バッジ事件・東京高判平11224判時1665130頁と、JR東日本(神奈川)国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538頁)は決して労働組合に有利な判断を示したものではない。

 とくに後者は直近の高裁判決として注目してよい。これは原判決東京地判平25328別冊中央労働時報144317頁の判断を一部補正のうえ支持したものであるが、甲事件、乙事件とも労組法71項(不利益取扱い)にあたらないとする一方、甲事件について

73項(支配介入)にあたり不当労働行為にあたるとするものである。

 東京高判平251128は労組法71項の不当労働行為にあたらないとする説示は次のように述べている

 

「(2)不利益取扱い(労組法7条1号)の成否(正当性の有無)

 労組法7条1号の不当労働行為は,組合活動のうち,「正当な行為」について成立するので,以下,その正当性について検討する。

ア 就業規則との関係

 国鉄では,職場規律の乱れや巨額の赤字が問題となり,職場規律の乱れを是正するための措置が講じられるとともに,分割民営化による改革が進められることになる中で、JR東日本は、そのような状況にあった国鉄の事業の一部を引き継いで設立されたものであって、乱れていた職場規律等を正し、これを厳正に維持して、職場での事業執行の態勢を根本的に立て直すことが強く求められていたことや、JR東日本が行う鉄道事業は、多くの利用者の日常生活、社会経済活動に不可欠な公共性の高い事業であり,日々、不特定多数の利用者の生命、身体の安全に直結する性質の事業であることから、時刻表に沿った運転業務を安全かつ確実に遂行することができるように、従業員の職務専念義務を規定して適正な職務遂行を求め、これを服装面から規制することによって就業時間中の組合活動を原則として禁止するなどの就業規則を定めたことは,十分に合理性が認められるというべきである。

 そして,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,職務専念義務について定める就業規則3条1項,社員の服装の整正について定める同20条3項,勤務時間中の組合活動を禁止する同23条にそれぞれ違反し,原則として,その正当性が否定されるものであると認められる。

イ 正当性に関する補助参加人らの主張について

 補助参加人らは,〔1〕国労バッジ着用は労務提供義務と矛盾なく両立し,業務阻害性はなく,職務専念義務,服装整正義務に違反するとはいえない,〔2〕国労バッジ着用の組合活動としての必要性等を考慮すれば,国労バッジ着用行為には正当性があると主張するので,以下検討する。

(ア)補助参加人らの主張〔1〕について

 本件就業規則3条1項に定める職務専念義務は,社員は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

 そして,労働契約においては,労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労務契約の重要な要素となっているから,職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり,その行為が服装の整正に反するものであれば,就業規則20条3項に違反するといわなければならないし,また,それが組合活動としてされた場合には,そのような勤務時間中の組合活動は就業規則23条に違反するものといわなければならない。

 P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労組合員の中でも国労バッジ着用を止める者が大多数となっていく中で,国労内少数派として着用を継続したものと認められるが,国労執行部ないしは原告に対し,国労内少数派としての意思を表明し,また国労内における多数派に対し,少数派との対立を意識させるものといえ,また同時に,国労組合員のうち,JR東日本による不利益処分を回避するために自らの意思で国労バッジの着用を取り止めた者に対して,不利益処分に屈せず,依然として国労執行部の上記方針に抗議し,反対の意思を表明するために国労バッジを着用している者がいることを示すとともに,任意に国労バッジの着用を断念した者を暗に非難し,精神的な負担をも感じさせる効果を併せ持つものであって,当該組合員が職務に精神的に集中することを妨げるおそれがあるものであるから,かかる行為は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反し,また服装整正にも反するものとして,企業秩序を乱すものといわざるを得ない。

 補助参加人らは,国労バッジ着用に業務阻害性はないと主張するが,上記就業規則違反が成立するためには,現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当であり,補助参加人らの主張は採用することができない。‥‥‥‥

ウ 小括

 以上により,補助参加人らによる国労バッジ着用行為は,就業規則3条1項,20条3項,23条に反し,実質的に企業秩序を乱すおそれのない事情も認めることができず,正当性を認めることができない。

 よって,本件各処分等について,労組法7条1号の不当労働行為は認められない。」

 

 平成25年の判例でもBで引用した第1類型の判例と同じ説示をしており、JRとほぼ同様な就業規則を備えてさえいれば、春闘ワッペンが労働組合の正当な行為とされる余地はないことは明らかである。

 

 甲事件が労組法73項の支配介入と判断されたのは、社会通念上,許容される加重の範囲を逸脱して不相応に厳しい内容であって,行為と処分との均衡を失っているものと認められるときは,その加重された処分は社会的に許容されるものではないとしたうえで、以前の処分と比較して量定、頻度において極端に加重されており、均衡を欠き、他の非違行為に対する処分との不均衡だったためである。類似した判例としては、国・中労委(医療法人光仁会)東京高判平21119労判100194頁がある。組合分会長が106日間にわたって病院正門の左右に計4~5本、赤地に白抜きで「団結」等と記された組合旗を無許可で設置した事案だが、組合旗設置を正当な組合活動ということはできず懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが、停職3か月、その間、賃金不支給、本件病院敷地内立入禁止という懲戒処分は、懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くものであり、組合活動に対する嫌悪を主たる動機としてなされたものとして不当労働行為(労組法7条3号の支配介入)に該当するとした。

 要するに、就業規則違反の組合活動については、使用者に受忍義務はないし、懲戒処分に付すことができるが、懲戒事由と比較して著しく過重だった場合は、組合活動に対する嫌悪を主たる動機とみなされ支配介入とそれることがあるということである。

 しかしその点を留意して、適切な量定の不利益処分は否定していないということであるから、JR東日本(神奈川)国労バッチ減給処分等事件という最新の判例は、服装闘争を規制する側にとって有益なものといえる。

 

D 国労バッジ事件等でバッジ着用等が正当な行為とした判例も少数あるが、いずれも地裁判例であり控訴審でその判断は否定されている。

 

 予想される、労働組合側の反論として、国労バッジ判例には、正当な行為とした判例もある反論もありうるが、再反論すれば、全体からすれば少数であり、地裁の判断で、控訴審では否定されていることである。

 まず、JR西日本(国労広島地本)国労バッジ事件・ 広島地判平51012判タ851201頁は、「組合バッジの着用行為は、形式的には就業規則二〇条に違反するものの、保護されるべき正当な組合活動である」とした。これを第3の類型と分類してもよい。 しかし控訴審の広島高判平10430判タ977124頁裁判所ウェブサイト一部破棄自判、一部棄却で、目黒局判決のような厳格な職務専念義務論を否定しつつも「職務専念義務違反とならない例外に該当する場合とはいえない。‥‥組合バッジ着用行為を本件減率査定事由としたことから直ちにそのことが不当労働行為に該当するとはいえないが、それは他の事情との衡量のなかで相対的に考慮されなければならないものと解すべきである」とやや曖昧な判断を示しつつ、組合バッジの着用行為はそれのみでは減率の理由として相当でないとしているが、大型バッジを着用して勤務した行為は小型のバッジについて述べた以上に減率事由となるとしている。大型バッジとは布製のもので、通称「くまんばち」と呼ばれ、縦2.6cm、横2.8㎝と大きく、これは主に何らかの闘争時などを中心に着用された。この大型バッジについては、国鉄当局がワッペンとみなして規制していたものであり、少なくともワッペン状のものは正当な行為としていない含意がある。

 広島高裁の判断は、これまで引用してきた東京高裁の判断と比較するとぬるく、異色の判例だが、少なくとも地裁が説示した組合の正当な行為とした点は是認していない。

 次に第3の類型といえるのは、JR東日本神奈川国労バッチ事件・東京地判平987判タ957114 であるが、組合バッジ着用を理由とする厳重注意、訓告処分、夏季手当減額等を不当労働行為とした神奈川県地労委の救済命令を是認し、組合バッジの着用は、就業規則に違反せず、組合活動としての正当性を認めている。ただし、不当労働行為は7条1項ではなく7条3項(支配介入」に該当するとしている。

 しかし控訴審の東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイトは、棄却結論において一審の判断を維持したとされるが、既に引用したとおり、本件組合バッジの着用行為を正当な行為とし説示していない。本件就業規則203項、23条及び31項にそれぞれ違反するものであり、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとは到底いえないとし、本件就業規則違反をとがめて懲戒その他の不利益処分を行う権限を有することは、明らかであるとしたうえで、しかしながら国労を嫌悪し,組合員を脱退させ弱体化させようとの意図の下にそれを決定的な動機としてバッジの取り外し、指導を行ったものとして不当労働行為(支配介入・労組法7条3号)にあたるとした判例である。

 その他の国労バッジ事件判例の多くは、組合バッジの着用行為は就業規則違反として禁止できるとしていることは既に述べたとおりである。

 もっとも本荘保線区国労ベルト事件・ 秋田地判平21214労判69028頁か、羽越本線出戸駅信号場構内で作業を行っていた国労組合員が、上着を脱いだ状態で、バックルに国労マークの入ったベルトを着用していたところ、ベルトを取り外すよう命じられ、さらに就業規則の書き写し等を内容とする教育訓練を命じた事案であるが、ベルトの着用は、就業規則三条の職務専念義務に違反するものではないとしたうえで、本件教育訓練はしごきであって、正当な業務命令の裁量の範囲を明らかに逸脱した違法があるとし、二十万円の慰謝料を認めた。

 控訴審仙台高判秋田支部平41225労判69013頁も原審を維持、上告審最二小判平8223労判69012頁も棄却している。しかし国労マークのバックルのあるベルトと、団結示威行為で「春闘」と記載されているワッペンと同列に扱える事案とはいえない。

 このほか神戸陸運事件 神戸地判平9930労判72680頁は本件腕章着用乗務行為は、労務を誠実に遂行する義務に違反するものでなく、正当な組合活動の範囲内の行為とし、腕章着用等を理由に乗務を拒否(労務受領拒否)したことを不当労働行為と認め、バックペイ等を命じた地労委の救済命令を適法としている。しかし私鉄総連ワッペンを着用の事案は労務受領拒否の事案と異なるし、同様の事案で違法とする判例も多い。神田郵便局腕章事件 東京地判昭49527労民集253236頁勤務中に赤地に白く「全逓神田支部」と染め抜いた腕章を着用した行為は就業規則に違反し、職務専念義務に違反する。取外し命令を拒否したことを理由としてされた郵便課窓口係から同課通常係への担務変更命令が適法としたうえで、担務変更命令を無視して職務放棄をしたことによる減給処分を適法と判示し、控訴審東京高判昭51225訟務月報223740頁も原審の判断を支持。三井鉱山賃金カット事件・福岡地判昭46315労民集222268は「不当処分反対、三川通勤イヤ!」「抵抗なくして安全なし」等と書きつけた組合員のゼッケンの着用が、就業時間中の会社構内における情宣等を禁止する労働協約の条項に違反し、正当な組合活動とはいえないと判示した。沖縄全軍労事件・那覇地判昭51421労民集272228は在日米軍基地の従業員が赤布の鉢巻を着用して労務を提供することは、雇用契約上の債務の本旨に従った履行の提供とはいえないとして賃金カットを適法と認めた。控訴審福岡高那覇支判昭53413労民集292253も一審を支持している。

 いずれにせよ、JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388頁以下引用した多くの判例が労働組合の正当な行為とはみなしていないのだから、十分再反論可能である。

2018/09/02

私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその8完)

 3)結論

国労バッジ判例の評価と私鉄総連春闘ワッペン問題への応用

 

.判例の類別

 

 データベース上、国労バッジ事件等で検出されるのは下記のとおりである、実際にはもっと多くの判例があるはずで、例えばJR東日本神奈川事件は第1次~第4次まであるとされている。

 

A△国鉄鹿児島自動車営業所事件・ 鹿児島地判昭63627判時1303143頁裁判所ウェブサイト

B△国鉄鹿児島自動車営業所事件・ 福岡高裁宮崎支判平元・918判タ725115頁裁判所ウェブサイト

C●国鉄鹿児島自動車営業所事件・最三小判平5611判時1466151頁裁判所ウェブサイト

D○本荘保線区国労ベルト事件・秋田地判平21214労判69028

E○本荘保線区国労ベルト事件・ 仙台高判秋田支部平41225労判69013

F○本荘保線区国労ベルト事件・最二小判平8223労判69012

G○JR西日本(国労広島地本)事件)・ 広島地判平51012判タ851201

H●JR西日本(国労広島地本)事件・広島高判平10430判タ977124頁裁判所ウェブサイト

I●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・ 東京地判平71214判時1556141

J●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388

K●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・最三小判平10717労判74415

L〇JR東日本神奈川第一次国労バッチ事件・東京地判平987判タ957114

M△JR東日本神奈川第一次国労バッチ事件・東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイト

N△JR東日本神奈川第一次国労バッチ事件・最一小決平111111労働判例77032

О●JR西日本大阪国労バッチ事件・東京地判平241031別冊中央労働時報143420

P●JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718

Q△JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京地判平25328別冊中央労働時報144317

R△JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538

S△JR東日本国労神奈川国労バッチ減給処分等事件 最一小決平27122

 

 上記の判例を類別すると次のとおりである  

 

1類型

 

 組合バッジ等の着用は就業規則等に違反し、労働組合の正当な行為とはいえず、取外し命令、厳重注意、訓告、夏期期末手当の減額等の使用者の措置は適法であり不当労働行為にはあたらない

 

 JR東海新幹線支部国労バッジ事件がI(地裁)、J(高裁)、K(最高裁)この判断で一貫している(J判決は、最高裁が不当労働行為に該当しないとした原審の判断は、正当として是認するとしているので重要)。最近の判例であるОのJR西日本大阪国労バッチ事件の地裁判決、PのJR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件の地裁判決がJ判決をほぼ踏襲した理論的説示しており、有益である。

 上記は小型バッジの事案だが、Cの最高裁国鉄鹿児島自動車営業所事件判決は、大型布製バッジ(ワッペンに近い)の事案で、この類型にあてはまる。

 

2類型

 

 組合バッジ等の着用は就業規則等に違反し、労働組合の正当な行為とはいえず、厳重注意、訓告、夏期期末手当の減額といった使用者の措置自体を禁止するものではないが、国労を嫌悪し,組合員を脱退させ弱体化させようとの意図の下にそれを決定的な動機としてバッジの取り外し、指導を行ったものとして不当労働行為(支配介入・労組法7条3号)にあたるとする。

 

 MのJR東日本神奈川第一次国労バッチ事件高裁判決がこの判断を示した。QとRのJR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件地裁、高裁判決は、Mの論理構成を精緻化し、バッジ着用に対する不利益処分(労組法71号)の不当労働行為は認められないとする一方、平成14年3月以降の国労バッジ着用行為に対する極端な厳罰化は,国労バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた原告が,国労執行部の方針転換を認識するに至り、これを機に国労内少数派の勢力を減殺し,国労執行部の方針に加担したものと認められるので労組法7条3号の支配介入にあたるとするものである。

 この判断によれば、労働組合の正当な行為ではないから、直ちに不当労働行為にあたらないということにはならず、労組法7条3号の支配介入にあたることがありうることを示している。ただし、PのJR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件の地裁判決は、同じJR東日本のケースだか、不当労働行為にあたらないとしており、支配介入にあたるかどうかは判断が分かれている。

 具体的に何を支配介入の論拠としているかだが、Mの高裁判決によれば、国労に対する敵意と嫌悪感を露骨に示す言動として、松田常務取締役の会社に対する反対派(国労)を断固として排除する旨の発言。住田社長の東鉄労との一企業一組合が望ましいとして、国労を攻撃し、このような迷える子羊を救って東鉄労の仲間に迎え入れていただきたいとして、東鉄労の組合員らに対し、国労組合員の国労からの脱退、東鉄労への加入を促す働き掛けを期待する発言など多くの根拠が示されている。Lの地裁判決では動労委員長時代の松崎東鉄労委員長が「駄目な労働組合には消滅してもらうしかなく、駄目な組織はイジメ抜く」旨述べていたことと関連して、機関紙による組合バッジ着用呼び掛けにもかかわらず、東鉄労の組合員が組合バッジを着用しないことについては、原告と東鉄労との間で事前の話し合いが行われ、東鉄労が労使協調関係を維持するとともにこれを誇示し、あるいは国労の対決路線を際立たせる意図の下に、組合バッジ不着用を決定したことが窺われるとの見方が示されている。

 しかしながら、上記引用した支配介入の根拠とされる事柄はJR東日本に特殊な事情といえるもので、バッジ着用に対する不利益処分が労組法71項の不当労働行為にはあたらないことを比較的最近の判例であるPとRが示している以上この類型の判例も使用者側に有益であることは、第1類型とさほどかわらないとみてよいと思う。

 

3類型 

組合バッジの着用は形式的には就業規則違反であっても正当な労働組合活動であり不利益処分は不当労働行為にあたる

 

 GのJR西日本(国労広島地本)事件)の地裁判決と、LのJR東日本神奈川第一次国労バッチ事件の地裁判決がそうであるが、組合活動の正当な行為とした点はいずれも高裁判決で否定されているのであるから、少なくともJRの就業規則のもとでは正当な組合活動とはされないことは明らかである。

 

 その他の類型にもあるが、大筋では、第1類型、第2類型に絞って考えてよいと思うので、JRの就業規則のもとでは、判例はバッジ着用は正当な組合活動とはみなされず、不利益処分それ自体は違法とはされないことを明らかにしていると言い切ってさしつかえない。

 

. 組合バッジ着用に対する取りはずし命令、不利益処分の根拠、就業規則違反の判定について

 

(ア)就業規則 (これはJR各社共通と考えられる)

 (服務の根本基準)

第三条 社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。

2(略)

(服装の整正)

第二〇条 制服等の定めのある社員は、勤務時間中、所定の制服等を着用しなければならない。

2 社員は、制服等の着用にあたっては、常に端正に着用するよう努めなければならない。

3 社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。

(勤務時間中等の組合活動)

第二三条 社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。

(懲戒の基準)

第一四〇条 社員が次の各号の一に該当する行為を行った場合は、懲戒する。

(1)法令、会社の諸規程等に違反した場合

(2)上長の業務命令に服従しなかった場合

(3)職務上の規律を乱した場合

(4)ないし(12)(略)

(懲戒の種類)

第一四一条 懲戒の種類は次のとおりとする。

(1)ないし(3)(略)

(4)減給 賃金の一部を減じ、将来を戒める。

(5)戒告 厳重に注意し、将来を戒める。

2 懲戒を行う程度に至らないものは訓告する。

(二)原告の賃金規程のうち、期末手当の額の減額に関連する規定は、次のとおりとなっている(昭和六三年八月人達第一二号による改正前)。

(調査期間)

第一四二条 調査期間は、夏季手当については前年一二月一日から五月三一日まで、年末手当については六月一日から一一月三〇日までとする。

(支給額)

第一四三条 期末手当の支給額は、次の算式により算定して得た額とし、基準額については、別に定めるところによる。

基準額×(1-期間率±成績率)=支給額

(成績率)

第一四五条 第一四三条に規定する成績率は、調査期間内における勤務成績により増額、又は減額する割合とする。

2(略)

3 成績率(減額)は、調査期間内における懲戒処分及び勤務成績に応じて、次のとおりとする。

ア 出勤停止 一〇/一〇〇減

イ 減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者五/一〇〇減

(三)また、賃金規程のうち、昇給号俸からの減号俸に関連する規定は、次のとおりとなっている。

(昇給の所要期間及び昇給額)

第二二条 昇給の所要期間は一年とし、その昇給は、四号俸(以下「所定昇給号俸」という。)以内とする。(略)

2(略)

(昇給の欠格条項)

第二四条 昇給所要期間内において、別表第八に掲げる昇給欠格条項(以下「欠格条項」という。)に該当する場合は、当該欠格条項について定める号俸を昇給号俸から減ずる。(略)

2(略)

別表第八(第二四条)昇給欠格条項

1(略)

2懲戒処分

処分一回につき 所定昇給号俸の一/四減

(略)

3 訓告

二回以上 所定昇給号俸の一/四減

4 勤務成績が特に良好でない者 所定昇給号俸の一/四以上減

 「勤務成績が特に良好でない者」とは、平素社員としての自覚に欠ける者、勤労意欲、執務態度、知識、技能、適格性、協調性等他に比し著しく遜色のある者をいう。

 

 期末手当の支給額は、本件賃金規程一四三条及び一四五条の規定に基づき、成績率により増額又は減額されるが、減額については、懲戒処分(減給、戒告)及び訓告のほか、勤務成績が考慮されるところ、勤務成績については、減率適用者調書が作成され、その中で、厳重注意を含む賞罰、服装違反の注意回数、業績、態度等について具体的に記載されている。

 

(イ)労働協約

 各労働組合との間に、同内容の労働協約を締結しているが、労働協約六条には、組合員(専従を除く。)は、会社から承認を得た場合を除き、勤務時間中に組合活動を行うことはできない旨の定めがある。

 

 (ウ)労働契約上の義務

 J判決は「労働者は、就業時間中は使用者の指揮命令に服し労務の提供を行う義務を負うものであって、勤務時間中の組合活動は、原則として右義務に違反する」という一般論に言及し「勤務時間中に組合活動を行うことはできない旨の定めがある労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素である」とも述べている。

 

 判例は、組合バッジ着用が就業規則の3条、20条、23条いずれも違反するとする。J、M、О、P判決は、3条の「全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」を職務専念義務を定めたものとしたうえで「たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならない」と厳格に解釈されており、特に引用はされていないが、国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529判時7046頁、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974という先例を踏襲した解釈をしているのであり、これだけ判例の蓄積がある以上、JRでなくても、同様の就業規則を定めれば、同様の解釈となることは明らかである。

 就業規則で職務専念義務の明文規定がなくても、労働契約上の誠実労働義務という観点から厳格な職務専念義務の解釈はできるだろうが、就業規則に明文がないことは、労働組合側につけいる隙を与えることとなり、より安全策としてはJRのように就業規則でも明示しておくことが無難とはいえる。

 なお、後述する東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558頁では東急電鉄の就業規則八条「従業員は、会社の諸規程および上長の指示にしたがい、……誠実にその義務を遂行しなければならない。」が引用され、これについて同判決は「労働者は誠実に職務に従事すべき義務を負うことは、労働契約の性質から当然のことである。したがつて、労働者が勤務時間中にその職務と関係のない行為を行うことは原則として右義務に違反することとなり、この場合に右義務違反が成立するためには必ずしも現実に職務の遂行が阻害されるなどの実害が発生することまでは要しないものというべきである。そして、被告会社の前記就業規則八条の定めも、このことを明らかにしたものと解される。」と判示しており、誠実労働義務の規定から厳格な職務専念義務があると解釈されている。

 ところで就業規則は 「それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との問の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習」が成立しているとされ「その法的規範性」が認められる(秋北バス事件・最大判昭43.12.25民集22133459頁)。上記の3条服務の根本基準、20条服装の整正、23条勤務時間中等の組合活動等の就業規則は、鉄道事業が、国民の社会経済生活に不可欠のものであって公共性の極めて高い事業であるとともに、不特定多数の利用客の生命、身体及び財産の安全に深く関わるものであるから、公共事業にふさわしい労務の提供と企業秩序の乱れから利用客の生命、身体及び財産の安全を脅かすような事態の発生することを防止するだけでなく、特に付け加えれば服装の整正は、車掌や駅係員のように客面に立つ社員の場合、快適な鉄道利用を求める乗客に不快感や違和感をもたれることがない意味も含めて、社員に適正な職務遂行を求める意味で合理的な労働条件であることはいうまでもない。国労バッジ事件判例はJRの就業規則が合理的な労働条件であることを承認している。

 また、最高裁は、昭和50年代に企業秩序定立権という判例法理を案出し、富士重工業原水禁運動調査事件・最三小昭521213民集3171037は、「労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う」と判示した。企業秩序の定立とは就業規則や労働協約等によって定立されるものであると一般的には解されている。

 国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676は、「企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため‥‥企業秩序を定立し‥‥その構成員に対してこれに服することを求めうべく‥‥規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもつて定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる」とした。本件はいわゆる施設管理権の指導判例であるが、使用者が許諾しない企業施設内組合活動は、必要性が大きいこと、具体的な業務阻害がないことをもって正当化されないこと、受忍義務説を否定し法益権衡的な調整的アプローチはとらないことを明確にした判例法理である。

 企業秩序定立権の射程は広く、施設管理権にとどまるものではない。関西電力社宅ビラ配布事件・最一小判昭5898判時1094121頁裁判所ウェブサイトは、「労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種制裁罰である懲戒を課することができる」と判示しているとおりである。関西電力事件判決は企業秩序論が包括的広範にわたることを示している。

 もっとも、労働者に企業秩序遵守義務があるといっても、フジ興産事件最二小判平151010判時1840144頁が、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定め、適用を受ける労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判示している以上、就業規則を根拠としない懲戒処分は無理がある。 

 この点、組合バッジ事件での適正手続上の問題は、JRの場合、就業規則がしっかりしているので完全にクリアしている、しかも賃金規定で期末手当については、服装違反の注意回数が勤務成績に考慮され。減額の対象となることも明文となっており申し分ないといえる。

 ところで、就業規則違反として、不利益処分が適法とされるには、J判決等が「形式的に右各規定に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右諸規定の違反になるとはいえない」という目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の判断枠組を示しているようにこれをクリアする必要がある。

 J判決(JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388)は「文言上形式的には本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である」としたうえで「本件組合バッヂは,そこに「NRU」の文字がデザインされているにすぎず、具体的な主義主張が表示されているわけではない。しかし、本件組合員等の本件組合バッヂ着用行為は、‥‥組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、‥‥職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという‥‥職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。」としていて、実質的に企業秩序をみだすものと認定されている。

 要するに、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用いていないことは職務専念義務に違反し企業秩序を乱しているということ、他の社員が職務に集中できないおそれ、注意力を散漫にするおそれがあること(抽象的危険がある)により実質的に企業秩序をみだしていると認定しており、これは大筋で抽象的危険説を採用した目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の説示とほぼ同じ趣旨である。

 具体的な業務阻害は要件ではないのであるから、JR就業規則3条、20条、23条と同様の就業規則を備えていれば、これだけ判例が蓄積している以上会社が認めていないワッペンやバッジを着用した場合、実質的に違反しない特別の事情が認められることはまずありえないといってよい。

 縦1.1㎝、横1.3㎝という小さな組合バッジですら注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあると裁判所が判定している以上、直径78cmとずっと大きく原色で目立つワッペンが同様に判定されないなどということはありえない。

(なお、上記の目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の判断枠組を引用して、形式的な違反であって実質的に違反しない特別な事情が認められ懲戒処分を無効とした判例として、明治乳業福岡工場事件・昭58111判時1100511頁と、倉田学園(大手前高(中)校・53年申立)事件・最三小判平61220民集4881496があり、いずれもビラ配りの事案である。明治乳業福岡工場事件は昼の休憩時間に食堂において赤旗号外や共産党の参議院議員選挙法定ビラを手渡しまたは食卓に静かに置くという態様のビラ配りであった。本件は政治活動ともいえるが、就業規則で政治活動を禁止していないためたんにビラ配りの問題として扱われ、工場内の秩序を乱すことのない特別の事情が認められたけれども政治活動の禁止規定があれば違った判断になったとも考えられ、就業規則で明文規定を設けることの重要性を指摘できる。

また倉田学園事件は就業時間前に職員室において、ビラを二つ折りにして、机の上に置いたというもので、業務に支障を来していないこと、ビラの内容も団体交渉の結果や活動状況で違法・不当な行為をそそのかす内容が含まれていないため、無許可で職場ニュースを配布したことを理由とする組合幹部の懲戒処分は就業規則上の根拠を欠く違法な懲戒処分と判示した。なお企業秩序論は、勤務時間外や休憩時間における企業施設内組合活動を規制できるので上記2判例は例外的判例といえる。

ちなみに休憩時間、就業時間外の無許可集会について中止命令を是認している判例としては国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030を引用した以下のような判例があるが、JRの就業規則23条は「社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」としており、勤務時間中のみならず会社施設内の無許可組合活動を禁止しており、ぬかりないものとなっている。

●全逓新宿郵便局事件最三小判決昭581210労判421

 休憩時間の無許可組合集会の中止命令。監視は不法労働行為にあたらない。

●三菱重工業事件東京地判昭58428労判410

 昼休時間中の食堂前広場における無許可集会は正当な組合活動として許容されないと判示。

●東京城東郵便局事件東京地判昭5996労判442

 闘争指令下の集会であることを理由に休憩時間等の休憩室、予備室、会議室における無許諾組合集会会議室の使用を認めないことは、権利の濫用とは認められず、解散命令に従わず、無許可集会強行に積極的な役割を果たすことは懲戒理由に該当する。

●日本チバガイギー事件最一小判平元・19労判533

 工場は就業時間外だが本部棟が就業時間内の時間帯において食堂利用及び屋外集会開催不許可を不当労働行為に当たらないとする原判決を是認。

●国鉄清算事業団(東京北等鉄道管理局)事件東京地判平373労判594

東京駅構内遺失物取扱所裏における非番者無許可集会の警告・メモ・写真撮影は不当労働行為に当たらないと判示。

● 熊本地方貯金局事件 熊本地判昭和63718 労判52327)

 

 

 以上のことから、国労バッジ判例とくに最高裁によって支持されているJR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388頁等を根拠として、就業規則を前提としてワッペン闘争を抑止できることは明白なものとなっており、これを私鉄総連春闘ワッペン問題に応用することができると考える。

 

 

. 私鉄総連ワッペン問題への応用と企業秩序論のウイークポイント

 

 既に述べたように国鉄は昭和60年、61年の国労のワッペン闘争に対しては大量処分を行っている。昭和62年のJR発足以降は、小型組合バッチの取りはずし等、服装指導も徹底された(この点については会社によって温度差はあったかもしれないが)。JRの就業規則3条、20条、23条や賃金規定は、ワッペンやバッジ着用を完全に禁止できる実質を備えていたのである。

 国労は平成11年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結して方針を転換し、平成14年3月末以降は、組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり、この頃からバッジ着用を組織的としては支持しなくなったとみられている。平成18年11月には、包括和解によりバッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げているから、バッジやワッペンの問題は解決済みといってよいだろう。

 ところが対照的に民鉄はそうではない。服装に対してルーズなのである。私は各社の就業規則は調査してないが、下記の労働判例で東京急行電鉄の事例が引用されているので、民鉄の就業規則の問題はある程度指摘できると思う。

 

(ア)東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558頁から昭和54年当時東急はワッペン・バッジを許容していたことは明らか

 

  要旨

(昭和54年10月30日バス会社の整備作業に従事する従業員がいわゆる狭山裁判の不当を訴える内容の縦10センチメートル、横14センチメートルの硬質プラスチック製のプレートを制服の左胸部に着用してした就労申入れを拒否した会社の措置につき、右就労申入れは、債務の本旨に従った労務の提供であると解することはできず、また、同人は、上司らからその取外しを説得されたにもかかわらず、右会社の措置はやむを得ない正当なものであるとして、右従業員の不就労時間中の賃金請求を棄却した事例)

 

 要所抜粋

 原告は、本件当日、被告会社自動車部淡島営業所に出社して所定の制服(作業服)に着替えた上、上着の左胸部に本件プレートをピンで留めて着用し、同営業所事務室で午前九時から始まる点呼に臨んだ。原告が着用していた本件プレートは、縦一〇センチメートル、横一四センチメートルの硬質プラスチック製透明ケースの中に「対権力差別糾弾実力闘争で狭山再審棄却を阻止せよ、狭山差別裁判粉砕、石川氏奪還、狭山スト・職場放棄で決起せよ、労働者狭山スト共闘、労活評東急班」と大きく記載した紙片を入れたものであり、その形状はおおむね別紙図面記載のとおりであつた。(中略)

 就業規則八条は「従業員は、会社の諸規程および上長の指示にしたがい、……誠実にその義務を遂行しなければならない。」と定め、九条は、「従業員は、勤務時間中所定の社員章または制服制帽を着用しなければならない。」と定め、九六条一項は、「従業員は、安全管理者その他関係者の指示にしたがい、別に定める安全作業心得を守り、常に職場を整理整頓し災害防止に努めなければならない。」と定めており、また、自動車部係員服務規程六条は、「自動車部係員は、所定の制服を着用し、常に服装に注意するとともに、懇切丁寧な態度をもつて、旅客および公衆に接しなければならない。」と定めているほか、就業規則九六条一項の規定に基づく自動車部安全作業心得四条六項は、服装の整備として「腰に手拭を下げたり、その他不要のものを身につけないこと。」と定めている(以上の各規定が存在することは当事者間に争いがない。)。なお、被告会社におけるバス整備作業員の制服の着用状況については、公衆の目から離れた場所で行われ、かつ、安全上も支障のない作業の場合には、夏季に上長の裁量により制服の上着を脱ぐことが黙認されることもあつたが、これ以外の場合には、勤務時間中は制服の着用が励行されていた。

三 労務提供及び就労拒絶の適否

 以上の認定事実に基づいて、本件プレートを着用しての就労の申入れが、労働契約上、債務の本旨に従った労務の提供といえるかどうか、この申入れを拒絶した被告会社の措置が正当かどうかについて検討する。

1 労働者は誠実に職務に従事すべき義務を負うことは、労働契約の性質から当然のことである。したがつて、労働者が勤務時間中にその職務と関係のない行為を行うことは原則として右義務に違反することとなり、この場合に右義務違反が成立するためには必ずしも現実に職務の遂行が阻害されるなどの実害が発生することまでは要しないものというべきである。そして、被告会社の前記就業規則八条の定めも、このことを明らかにしたものと解される。

 また、就業規則九条、自動車部係員服務規程六条は、公共の交通機関としての被告会社の事業遂行に当たり、従業員に制服の着用を義務づけることにより、このような業務に従事する者としての品位の保持、職場規律の維持を図り、もつてその対外的信頼を確保するとともに、交通の安全に寄与するとの趣旨に出たものと解される。したがつて、これらの規定によって直接に義務づけられているのは制服を着用することであつて、これらの規定がそれ以上に所定の制服以外のものは一切着用してはならないとする趣旨のものとまでは解し得ないとしても、制服の着用によって得られる右効用を減殺するものを付加着用することは、これらの規定に反するものといわなければならない。

 更に、就業規則九六条一項は、災害防止の見地から、災害を発生させるおそれのある行為を禁じているのであつて、同項の規定に基づいた自動車部安全作業心得四条六項が「腰に手拭を下げたり、その他不要のものを身につけないこと。」と規定しているのは、この趣旨を具体化し、所定の制服以外に安全を阻害し災害を招来するおそれのあるものの着用を禁じているものと解されるから、このようなおそれのあるものを所定の制服の上に着用することは、これらの規定に反することになるのは明らかである。‥‥本件プレートの着用が原告の職務と無関係なものであることは明らかであるところ、プレートを着用して就労することは、就労を行いつつ、同時に、プレートに表示された一定の表現活動を継続して行うことにその意義及び目的があるのであるから、単に、プレートを着用すればそれで一切の行為が完了し、爾後は着用者の提供する労務に欠けるところがないものとはいい難く、むしろ、着用者においては、就労中に職務とは関係のない自己の表現活動を行うことから、必然的にプレートを着用しつつ就労していることを常に意識せざるを得ないものである。したがつて、プレートの着用によって直接には職務遂行に障害が生じないとしても、着用者は職務上の注意力の集中を欠くといわなければならないから、誠実に職務に従事すべき義務に違反するものということができる。

 また、本件プレートは硬質プラスチック製であって、縦一〇センチメートル、横一四センチメートルというプレートとしては著しく大きなものであるうえ、その着用方法もピンで制服上着の左胸部に留めたというにすぎないのであるから、これを着用することは、その記載内容とも相まって制服着用の効用を減殺することは否定できず、更に、これを着用した上で作業に従事するときは、作業内容及び作業姿勢のいかんによっては作業に支障を来すおそれもあることは前記認定のとおりであり、その結果、原告自身あるいはその同僚に対する事故を誘発するおそれもないとはいえない。したがつて、本件プレートの着用は、前記の各服装関係規定にも抵触するものである。

 本件プレート着用行為は、以上のように労働契約や就業規則で定められた義務に違反するが、これに加えて、本件プレートが表示する内容は、いわゆる狭山裁判に関するものであつて、それ自体被告会社の支配可能な領域外の事柄であるばかりか、その文言中には職場の同僚に対して職場放棄を呼び掛ける趣旨の記載もあり、その形状がプレートとしては著しく大きなものであることをも併せ考慮すれば、原告が本件プレートを着用して就労するときは、職場の同僚の注意をこれに引き付けてその職務に対する注意力を低下させ、また、職場内に違和感を醸成して職場秩序を乱すおそれがあつたものということができる。

(中略)

 原告は、本件プレートの着用は正当な組合活動として行われたものである旨主張する。

 しかし、前記認定事実によれば、原告は、部落解放問題に対する自己の個人的見解に基づいて自らの判断で本件プレートの着用を行ったものであるから,これは労働組合としての活動ではないことが明らかであるし、仮に、組合活動の意味を広くとらえ、これをも組合活動に当たると解したとしても、勤務時間中に組合活動をすることが当然に許容され、この場合に賃金も当然に支給されるべきであるとする理由はないから、この点に関する原告の主張は失当である。

2 次に、原告は、勤務時間中にワツペン、プレート等を着用して就労することは、被告会社においてこれを許容しており、労働者の慣行的権利として承認されている旨主張する。 

 そして、いわゆる春闘の期間中に、東急労働組合の組合員がワツペン、バツジを着用して就労したことがあることは当事者間に争いがない。しかし‥‥右のワツペン及びバツジの着用については、東急労働組合から被告会社に対して着用の旨の連絡及びこれについての配慮方の要請があり、被告会社においてその形状、大きさ、材質等からみて安全上支障がないことなどを確認のうえ、これを容認しているにすぎないことが認められる。

 次に、腕章、ネームプレート及びリボンを撮影した写真であることに争いがない‥‥会社は従業員に対し、就労中に自動車検査員の腕章や検査主任者のネームプレートを着用させ、年末年始の安全総点検期間などには全員にその趣旨のリボンを着用させていることが認められる。しかし、右各証拠によれば、これらの着用は、東京陸運局や社団法人日本自動車整備振興会等からの指導により、被告会社が職務の遂行に必要かつ有意義なものとして着用を命じたものであること、これらの腕章、ネームプレート等は、その材質が柔らかいビニール製や布製であったり、あるいは、その形状が本件プレートに比して小さなものであつて、着用した際の作業に対する支障の程度も本件プレートに比して僅少なものであることが認められ、本件プレートの着用とはその性質を異にするものである。


                 ***

 

 

 この事件は昭和54年であるから40年以上前のものである。判例から、本件はバス部門であるが、大手私鉄の就業規則の緩さを国鉄やJRとの比較で指摘できる。

 東急の自動車部係員服務規程六条は、「自動車部係員は、所定の制服を着用し、常に服装に注意するとともに、懇切丁寧な態度をもつて、旅客および公衆に接しなければならない。」と定めているほか、就業規則九六条一項の規定に基づく自動車部安全作業心得四条六項は、服装の整備として「腰に手拭を下げたり、その他不要のものを身につけないこと。」とあるだけである。

 服務規程六条は文面上、制服の着用の指示しているだけであって、判決書は、「所定の制服以外のものは一切着用してはならないとする趣旨のものとまでは解し得ない」としており、プレート着用者に反論の余地を与えてしまっている。

 JRの就業規則20条における「勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない」との規定、旧国鉄の服制及び被服類取扱基準規程における、現場職員の制服等の制式と着装方を定め、これを職員に貸与するものとし(第三条)、かつ「被服類には、腕章、キ章及び服飾類であって、この規程に定めるもの及び別に定めるもの以外のものを着用してはならない」(第九条第三項)と規定していることと比較して明らかにルーズである。 

 にもかかわらず、本件プレートを服務規程六条違反としているのは、プレートが縦10センチメートル、横14センチメートルの硬質プラスチック製で著しく大きいものであるため、「制服の着用によって得られる右効用を減殺するものを付加着用することは、これらの規定に反するものといわなければならない。」という巧妙な反論が用意されていたためである。

 この趣旨だと、もっと小さなバッジ等であれば制服着用の効用を減殺しないとのり再反論が成り立つので、この規則は労務管理上組合に配慮したものと推測できる。

 さらにこの判決書では「東急労働組合の組合員がワッペン、バツジを着用して就労したことがあることは当事者間に争いがない。しかし‥‥右のワツペン及びバツジの着用については、東急労働組合から被告会社に対して着用の旨の連絡及びこれについての配慮方の要請があり、被告会社においてその形状、大きさ、材質等からみて安全上支障がないことなどを確認のうえ、これを容認しているにすぎないことが認められる。」とあり、ワッペンは組合からの配慮方の要請にもとづき容認しているというのである。

 東急以外の会社もそうであるのか、この判文では不明だが、会社はワッペンの取り外し命令はしていない。この問題についての組合とはなあなあの関係というか、あえて対立を回避している労務管理との心証をもつし、鉄道部門の服務規定が引用されていないので不明だが、自動車部と同様の規定だとすると、就業規則でもワッペン着用を禁止していないのかもしれない。

 なお、鉄道営業法22条「旅客及公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ」とあり客面に立つ鉄道係員は、制服着用を義務づけている、この条文からただちに業務外の徽章の着用禁止を引き出す解釈はやや強引に思えるので、やはり就業規則で、会社が認めていない腕章、胸章等の着用を禁止する必要があるだろうが、それをしていない可能性が高い。

 もっとも、この事件は、企業秩序論の判例法理が定着する以前のものであり、プロレイバー学説がまだ影響を持っていた時期であるが、昭和54年当時少なくとも東急は、バッジもワッペンも許容していたことは明らかである。その後どうなったかはわからないが、今年も春闘ワッペンが着用されている以上、当時の労務管理とさほどかわらないものとも推測できるのである。いずれにせよ、当該大手私鉄については、就業規則、労働協約、労務管理いずれも問題がありそうだ。

 

(イ)企業秩序論のウイークポイント

 

 さんざん述べてきたように、判例は一般にリボン、腕章、ワッペン着用を勤務時間中の組合活動として正当な行為にあたらないとしており(例外もあるが下級審判例で少数)、使用者には受忍義務はない。労働契約上の誠実労働義務(=職務専念義務)に反し違法とする見解もかなり有力である。

また昭和50年代に、最高裁が企業秩序論の判例法理を案出したため、従業員には企業秩序遵守義務があることが明らかになった。したがってリボンやワッペン等の着用はたんに職務専念義務違反というだけでなく、他の社員の職務への集中を妨げるおそれ、注意力を散漫にするおそれがある以上、共同作業秩序をみだしており、この脈絡では正当化される余地はないというべきである。

 私が問題にしているのは小型の組合バッジではない、直径78cmあり、原色などで目立つ春闘ワッペンであるからなおさら正当化の余地はない。

 ところが最高裁が案出し判例法理、企業秩序論には一つだけ死角というか弱点がある。それは組合が強い場合、使用者側の権利を掣肘して、就業規則の制定や、中止命令をさせない体制、使用者側が正当な行為とは一般には評価されない組合活動も受忍してしまうと機能しないということである。

国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676は、受忍義務説を明確に否定した判例なのだが、就業時間中であれ休憩時間その他であれ、企業施設内の組合活動は使用者が許諾しているか労働協約で認められている場合を除いて、使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いて、中止命令や懲戒処分ができるというものである。

 企業秩序の定立とは就業規則や労働協約ということになるが、組合との対立回避、もめごとを避けるため、あるいは相手のメンツ重んじて、共同作業秩序は犠牲にするとい判断を使用者側がとる場合、あえて、無許可集会、演説行為の禁止、ビラ貼りの禁止、会社で認められた以外の胸章、腕章着用禁止などの規則を制定せず、企業秩序をみだす組合活動があっても放置する。組合側に懲戒処分とならないように配慮する労務管理がありうるのである。要する企業には受忍義務はないが、諸般の事情からあえて受忍してしまうという選択肢である。 

 企業秩序定立権があってもそれを発動しないことで、一般には正当な行為とされないことも認める。大手私鉄各社もこのように労働組合に業務指揮権、企業秩序定立権を掣肘されている不健全な労務管理がなされているのではないかと私は疑っている。

 労働組合側は会社が許容していることにより春闘ワッペン着用を正当化し、誠実労働義務といっても、雇用契約関係において労働者が負う義務とは基本的に使用者の指揮命令に服することなのだから、格別取り外し命令がない以上、使用者の指揮に従って就労しており、違法ではないと主張するだろう。

まず鉄道会社に苦情を出しても、少数のお客様は春闘ワッペンが不快だと仰るかもしれない。職務に従事しながら春闘ワッペンを着用して組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信をもたれるかもしれないが、あなたのような一部の利用者に不信をもたれたところで、企業としての評価が下がることはない。現実にワッペン着用放置を批判するマスメディアは存在しない。少数の利用者にクレームに配慮することよりも、会社としては労働組合との円滑な関係を維持するためそのメンツを重んじることのほうが、よほど有益なことなので、こうした問題で対立することは避けたいから、第三者から企業秩序定立権を掣肘されているといわれようが、これからも春闘ワッペンによる勤務時間中の団結示威を認めていきたいと言うかもしれない。しかも近年は官製春闘となり、安倍政権も春闘による賃上げを支持していることであるから安倍政権への忖度から春闘ワッペンを許容せざるをえないと言うかもしれない。自民党が連合にすり寄った政策をやっている以上、政治家から文句をいわれることはないとして、高を括っているのかもかもしれない。

国労は、昭和六一年四月一日において組合員数一六万五四〇三人、組織率六八・六パーセントであったが、昭和六二年二月一日には組合員数六万二一六五人、組織率二七・三パーセント、同年四月一日には組合員数四万四〇一二人に減少した。

国労バッジ事件は少数組合に対するもので私鉄総連とは違うというかもしれない。

 

()結論

 

しかし、もし会社側がそうした物言いをするのであれば、旅客、公衆をばかにした話である。利用客のなかで連合などの組織労働者は一部である。春闘に連帯したくない利用客も多数いるはずだ。組合の闘争による賃上げでなく成果主義により昇進、昇給を望む勤労者もいれば、コンスピラシー、取引自由の制限としての労働組合自体を嫌う私のような立場は少数だとしても、本来組合の費用と便益で行うべき団結示威と一般利用客に対する教宣活動を就業時間中に行うことは人の褌で相撲を取る便乗行為そのものである、不快に思って当然なことなのだ。乗客の多くは口に出さなくても何かおかしいとは感じているはず。

目黒電報電話局事件・最三小判昭521213民集317974公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した。

大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659新村正人調査官判解は目黒電報電話局事件判決について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」としているが、これが法律家の標準的見解であり、通説でもある。

 菊池高志[1983]によれば、目黒電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべきとしており、この見方が有力なのであり、先に述べた国労バッジ判例や東京急行電鉄自動車部淡島営業所事件・東京地判昭60826労民集3645558頁でもそのように判示されている。

 真面目な多くの勤労者は、こうした判例法理にもとづいて就業時間中は注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事すべく職務に精励しているのに、通勤時間中に春闘ワッペンによる団結示威をみせつけることを許容しているのは、市民法秩序への挑戦であり、大手私鉄当該各社は遵法精神に基づいてまじめに職務に専念して働いている勤労者に対して、嘲け笑う態度を示すものともいえるのである。

 しかも車掌や駅係員は車内放送やマイク放送で乗客にマナー違反を注意したり、定時運行に協力させたり、各種の指示を出す。もちろん駆け込み乗車を注意したりするのは安全対策上のことであり、係員の仕事だからそれ自体を否定するわけではないが、自らは春闘ワッペンを着用して、世間一般では正当な組合活動ではない、企業秩序遵守義務に反する、誠実労働義務違反とされる行為をしておきながら、人様には言うことをきけといわんばかりの注意、指図をするのは、乗客側からすれば合点がいかない事柄なのである。

 人様に指図する前にまず襟を正せといいたくもなるのである。

 東京メトロ永田町駅の係員も春闘シーズンはワッペンを着用していた。最高裁や国会といった国家中枢の最寄り駅でありながら、一般には正当な行為とはされず、職務専念義務違行為たる春闘ワッペン着用で団結示威をみせつけ、人の褌で相撲をとる便乗行為を憚りなくおこなっている。最高裁の職員はそれをみて不信に想っているだろう。秩序を重んじる立場からは市民法秩序への挑戦そのものに思える。やめされるべきなのである。

 会社の政策を変えて貰うしかない。JR並に就業規則・賃金規定を整備し、労務管理を厳ししく行うことを要求する。JRに見倣えなどというのは、民鉄の矜恃もあるからできないというかもしれないが、この際やってもらうしかない。このまま悪慣行が是正されずずるずると既成事実化するとはなにがなんでも阻止すべきなのだ。

 もとより、私は自由企業体制の観点から労使関係や労務管理について、政府や第三者が干渉することには反対である。労務管理は経営者の裁量によるものであり、株主でもないのに文句をいう筋合いはないし、私鉄は国鉄のように公共の福祉を目的とする公法人ではない。

しかし鉄道事業は,国民の社会経済生活に不可欠の公共性の極めて高い事業であるとともに,乗務員、駅係員の職務は不特定多数の利用客の生命、身体及び財産の安全に深くかかわるものであるから、職務規律が強く求められ、その労務の提供のあり方と企業秩序の乱れについては関心をもたれて当然なのであって、旅客・公衆の立場から従業員の職務専念義務の履行、服装の整正について相応の労務管理が求めてよいと考える。

とくに東京メトロは国と東京都が株主の公的資本会社でもあるから、国会や都議会で問題提議してよいはず。国民や都民は議員を通じて労務管理に注文を出してよいと考える。したがってまず東京メトロを突破口としてこの問題を解決していきたいと考える。

 


 

〔付録 国鉄・JR 国労バッジ事件判例一覧〕

 

△国鉄鹿児島自動車営業所事件・鹿児島地判昭63627判時1303143頁裁判所ウェブサイト

 

 (管理者に準ずる地位にある職員が国労バッジ(大型布製)の取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令につき、勤務中はバッチを外すべきことを命じうるが、7・8月という暑さの中、10日間もの間長時間にわたり広さ1200平方メートルの営業所構内の降灰除去作業を1人で行わせたことにつき、右作業命令は、組合員バッチの離脱命令に従わなかったことに対して懲罰的に発せられたもので、業務命令権行使の濫用であって違法とし十万円の慰謝料も認める。控訴)

 

 

△国鉄鹿児島自動車営業所事件・ 福岡高裁宮崎支判平元・918判タ725115頁裁判所ウェブサイト

  控訴棄却、上告

 

 

●国鉄鹿児島自動車営業所事件・最三小判平5611判時1466151頁裁判所ウェブサイト

 

( 原判決破棄自判。自動車営業所の管理者に準ずる地位にある職員が、取外し命令を無視して組合員バッジの着用をやめないため、同人を通常業務である点呼執行業務から外し、営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令は、右作業が職場環境整備等のために必要な作業であり、従来も職員が必要に応じてこれを行うことがあったなど判示の事情の下においては、違法なものとはいえないとした。本件降灰除去作業は、当時鹿児島市民全体が一般的に負担していた作業内容等と比較しても、具体的作業量からみて労働契約に基づく付随的業務としての環境整備作業の範囲を越えるものではない。懲罰的、報復的目的を認定することは失当)

 

 

○本荘保線区国労ベルト事件・ 秋田地判平21214労判69028

 

(羽越本線出戸駅信号場構内で作業を行っていた国労組合員が、上着を脱いだ状態で、バックルに国労マークの入ったベルトを着用していたところ、ベルトを取り外すよう命じ就業規則の書き写し等を内容とする教育訓練を命じた事案であるが、本件ベルトの着用は、広い意味における組合活動としての一面があることは否定できないけれども、具体的な主義主張を表示するものではなく、単に国労組合員であることを表示するものに過ぎず、ベルトの着用は、就業規則三条の職務専念義務に違反するものではないとしたうえで、本件教育訓練はしごきであって、正当な業務命令の裁量の範囲を明らかに逸脱した違法があるとし、20万円の慰謝料を認めた)

 

 

○本荘保線区国労ベルト事件・仙台高判秋田支部平41225労判69013

 

(棄却。本件ベルトは、社会通念上その形状、意匠等の点で格別一般人に嫌悪感、不快感を与えたり、奇異な感を抱かせるようなものではなく、‥‥被控訴人に対して本件ベルトの着用を禁止する合理的理由は見い出し難い。上告)

 

 

○本荘保線区国労ベルト事件・最二小判平8223労判69012

 

棄却

 

 

○JR西日本(国労広島地本)]事件・広島地判平51012判タ851201

 

 ( 国労の組合バッジは、いずれも小さく目立たないものであり、また、具体的な主義主張が表示されているものでもないから、その着用行為は、原告らの労働を誠実に履行すべき義務と支障なく両立し、被告の業務を具体的に阻害することのない行為であって、原告らの職務専念義務に違背するものではなく、更に、就業規則二三条‥‥が禁止する勤務時間中の組合活動にも該当しない」から、組合バッジ着用等を理由として夏季一時金の減率査定(5%カット)を行ったことが考課査定権の濫用に当たる。 組合バッジの着用行為は、形式的には就業規則二〇条に違反するものの、保護されるべき正当な組合活動であると認められるのであり、これを本件減率査定の理由としたことは、勤務成績の査定の根拠として合理性を欠くものであり、更に、正当な労働組合活動をした組合員を不利益に取り扱うものとして、不当労働行為意思が存在するものと推認するのが相当である。

 

 

●JR西日本(国労広島地本)事件・広島高判平10430判タ977124頁裁判所ウェブサイト

 

(要旨)

 原判決を取消し,一部を除き請求を棄却。組合バッジを着用することは職務専念義務違反とならない例外に該当する場合とはいえない。組合バッジの着用行為のみを夏季期末手当減率の理由とした者以外の減率査定には合理性が認められ,裁量権の濫用とはいえないとした)

三 組合バッジ着用行為を減率事由とすることの不当労働行為該当性の有無

(一)‥‥本件組合バッジは、縦約一・一センチメートル、横約一・三センチメートルの大きさであり、四角形の金属版の表面には黒地に金色でレールマークと「MRU」のローマ字が表示されていることが認められる(なお、以下「組合バッジ」と称するときは右大きさのバッジを指し、この大きさを越えるバッジについては個別に判断する。)。したがって、右組合バッジは小さく目立たないもので、また具体的な主義主張が表示されているものでもない。

‥‥国鉄時代において、国労以外の労働組合も組合員がそれぞれの組合のバッジを着用していたが、国鉄が。‥‥全職場一律に組合バッジにつきその取り外しを指導したり着用を理由に処分したことはなかったとの前記認定を左右するものではない。

 ‥‥国鉄時代において、国鉄改革の一環として職場規律の問題が重要な課題として重視された時期でさえも、組合バッジの着用が職場規律の問題と関連するものとして指摘されたことはなく、八次に及ぶ職場規律の総点検においても組合バッジの着用状況が調査項目として取り上げられたことはなかったことが認められる。

3 組合バッジ着用に関する就業規則等の規定は次のとおりである。

 ‥‥一審被告の就業規則二〇条三項は、「社員は勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」と規定していることが認められるところ、前記一審原告らの着用していた国労の組合バッジは、いずれも右の規定にいう「胸章、腕章等」に該当すると解される。

 ‥‥就業規則二三条は、「社員は会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」と規定していることが認められ、‥‥一審被告と国労との間で昭和六二年四月三〇日に締結された労働協約の六条は勤務時間中の組合活動は会社から承認を得た場合のほかはできない旨規定しているところ、一審原告らは、前記争いのない事実に記載のとおり、国労組合員として積極的に組合活動を行っていたものであり、組合バッジの着用行為は、組合員間の連帯感を高め国労組合員としての団結を維持しようとする目的のもとになされていたものと推認されるから、組織防衛的意味合いからなされたとしても、国労組合員としての組合活動の一種であると認められ、したがって文言上は右就業規則二三条及び労働協約六条で禁止された組合活動に相当するものと解される。

 次に‥‥就業規則三条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務に専念しなければならない」と規定していることが認められる。

4 そこで本件組合バッジの着用が右各規定に違反するか否かを検討する。

(一)就業規則は労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者の意見を聴くものの、使用者が一方的に制定するものであるから、就業規則の解釈にあたっては、単にその文言によってのみではなく、その規則制定の趣旨を勘案したうえで、憲法をはじめ労働にかかわる法律等各種の法令に適合するように解釈すべきである。

(二)本件組合バッジが就業規則二〇条三項所定の「胸章、腕章等」に該当すると解され、その着用が同二三条及び労働協約六条で規制されている組合活動と解されることは前記のとおりである。そこで、就業規則三条についてみるに、一般に労働者は、労働契約を締結することにより、所定の勤務時間中は使用者の指揮命令に服して稼働すべき職務専念義務を負うから、同条はこの趣旨を規定したものというべきであるところ、職務に専念するということは、労務提供を誠実に履行することを意味しており、労務提供を誠実に行うに必要な限度でその身体的活動あるいは精神的活動を集中することが求められているのであるが、他方、勤務時間中全ての身体的、精神的活動を勤務のみに集中し、職務以外のことに一切注意を向けてはならないというような、全人格的な従属関係まで求められていると解することはできないことはいうまでもない。

 しかしながら、本件組合バッジは一審被告のみならず、その社員である他組合員もその存在を周知していたこと、及び一審原告中本件組合バッジを着用した者が自己の所属する組合の組織維持を期して着用したことは弁論の全趣旨により認められるところであり、そのような職場において右の意図をもって本件組合バッジを着用することは職場内に組合意識を持込み当該組合の存在を主張する結果をもたらすことは明らかであるばかりでなく、他組合員を刺激し職場に無用の混乱を惹起することを一審被告において危惧することは使用者として当然の配慮であるといわざるをえない。このような中で本件組合バッジを着用することは右の職務専念義務違反とならない例外に該当する場合とはいえない。

 前記のとおり、本件組合バッジは小さく目立たないもので、また具体的な主義主張が表示されているものでもなく、これまでその着用について利用客から苦情が寄せられたことはなく,また、前記のとおり職場において社員間の対立や混乱が現実化したことはなかったことは右認定判断を左右し得ないものというべきである。

5 一審被告が従来の国鉄時代の反省に立って新会社の運営をするにつき、職場規律を重点項目としたこと自体は当然のこととして是認できることであるが、組合バッジの着用は、国鉄改革の論議の中で具体的には取上げられず、かつ国鉄時代には問題にされなかった項目であり、かつその規制は団結権の制限に関わる事項であるから、これを理由に本件減率査定事由とすることは慎重でなければならない。それゆえ、組合バッジ着用行為を本件減率査定事由としたことから直ちにそのことが不当労働行為に該当するとはいえないが、それは他の事情との衡量のなかで相対的に考慮されなければならないものと解すべきである。 

四 各一審原告に対する減率査定の裁量権逸脱の有無

 (略)

〔組合バッジの着用行為はそれのみでは減率の理由として相当でないとしているが、大型バッジを着用して勤務した行為は小型のバッジについて述べた以上に減率事由となるとしている〕。

[以上の理由により、一審原告15名の本件減率査定には、合理性が認められるから裁量権の濫用に該当せず、不当労働行為にも当たらないが、一審原告8名の本件減率査定には、いずれにも合理性が認められないから裁量権の濫用に該当する]とした。

 

 

●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・ 東京地判平71214判時1556141

 

 要旨

(組合バッヂを着用していた労働者に対して厳重注意や訓告、夏期手当の減額支給等の措置が不当労働行為であるとして東京都地労委が救済命令を発したので、原告JR東海がその取り消しを求めた事案において、再三の注意・指導を無視して組合バッヂを着用していた組合員等に対し厳重注意をしたことには何らの問題とされるところはなく、夏期手当の減額支給等の措置は、原告の裁量権の範囲を超えた措置であったということはできず、不当労働行為意思によるものとは認められないとして、救済命令を取り消した。)

 

 要所抜粋

 本件就業規則二〇条は社員の服装の整装について定め、この三項は社員の勤務時間中の又は原告施設内での原告の認める以外の胸章、腕章等の着用を禁じているところ、同条の解釈として、同条の禁止対象となるのは右胸章等の着用によって職場規律の紊乱又は業務阻害が現実に発生する場合あるいはこの具体的な発生のおそれのある場合に限られるとの解釈をすることは相当ではなく、右胸章等の着用自体がこのような発生のおそれがある場合であるとしてこれらを例示的に列挙して禁じているものと解すべきである。本件就業規則二三条は、社員に対し原告が許可した以外の勤務時間中の又は原告施設内での組合活動を禁じているところ、同条の解釈として、同条の禁じている組合活動は正当でない組合活動であって、正当な組合活動は同条の禁じるところではないとの解釈は妥当でなく、正当でない組合活動は勿論のこと、正当な組合活動も同条の禁じるところと解すべきである。‥‥本件組合バッヂ着用行為は、本件就業規則三条に違反するとともに、本件就業規則二三条及び二〇条三項にも違反することは明らかである。

 

 

●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・東京高判平91030判時1626388

 

 要旨

(棄却。勤務時間中に組合バッヂを着用する行為は、それが労働組合員であることを顕示して組合員相互間の組合意識を高め、使用者及び他の労働組合に所属する社員との対立を意識させ、注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであったと認められる等判示の事実関係の下においては、当該行為により職務の遂行が阻害される等の具体的な実害が発生しないとしても、企業秩序の維持に反するものであり、職務専念義務、勤務時間中の組合活動の禁止、服装の整正義務を定める就業規則の各規定に違反するとし、厳重注意や夏期手当の減額支給等の措置は不当労働行為に当たらないとした。上告)

 

 要所・抜粋

 本件就業規則は、企業経営の必要上従業員の労働条件を明らかにするとともに、企業秩序を維持・確立することを目的とするものであるが、その解釈・適用に当たっては、前記憲法の趣旨に従い、団結権と財産権との調和と均衡が確保されるようにされなければならないところ、右各規定の目的に鑑みれば、形式的に右各規定に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右諸規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である(最高裁判所昭和四七年(オ)第七七七号、同五二年一二月一三日第三小法廷判決・民集三一七号九七四頁参照)〔引用者註目黒電報電話局事件〕。

 したがって、本件組合員等の本件組合バッヂ着用行為が、文言上形式的には本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当であるが、そのような特別の事情が認められない限り、右各規定違反になるものといわなければならない。

(二)(1)そこで、次に、本件において、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情があると認められるか否かについて検討するに、一般私企業において、従業員は、労働契約を締結して、労務提供のために企業に入ることを許されたものであるから、労働契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、かつ、企業秩序に服する態様において、勤務時間中行動することが認められているものであるところ、被控訴人の場合‥‥国鉄時代には、職場規律が弛緩し、ヤミ協定、悪慣行が存在していたことから、新会社においては、同じ轍を踏まないため、設立までには、これらを是正し、違法行為に対しては厳正な処分を行い、職務専念義務を徹底させることが求められていたのであり、このような是正措置の上に立って、新会社の運営が行われることが要請されていたものである‥‥。

(2)したがって、本件就業規則三条一項の「社員は、被控訴人事業の社会的意義を自覚し、被控訴人の発展に寄与するために、自己の本分を守り、被控訴人の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない。」という規定は、社員の職務専念義務という観点からは、社員は、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

 そして、労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり、その行為が服装の整正に反するものであれば、本件就業規則二〇条三項に違反するといわなければならないし、また、それが組合活動としてされた場合には、そのような勤務時間中の組合活動は本件就業規則二三条、労働協約六条に違反するものといわなければならず、また、右規定違反が成立するためには、現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当である。

(三)(1)本件についてこれをみるに‥‥本件組合バッヂの形状は、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルで、黒字の金属板に、金色の線路の断面図が描かれたものに「NRU」の文字(国鉄労働組合を英訳した「NATIONAL RAILWAY UNION」のイニシャル)がデザインされたものであり‥‥本件組合バッヂは、国労に加入した際、国労手帳とともに組合員に無償で支給され、国鉄時代には、国労の指令等がなくとも、国労所属組合員は、自発的にこれを制服等の胸や襟に着用していたことが認められる。

 このように本件組合バッヂは,そこに「NRU」の文字がデザインされているにすぎず、具体的な主義主張が表示されているわけではない。しかし、本件組合員等の本件組合バッヂ着用行為は、前示のとおり、組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、被控訴人の社員としての職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという被控訴人社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。 

 また、本件組合バッヂの着用行為は、国鉄の分割民営化に反対する東京地本が昭和六二年三月三一日に出した「国労バッヂは全員が完全に着用するよう再度徹底を期することとする。」などを内容とする指示第一六〇号に従ってされたものであることに照らせば、使用者及び分割民営化に賛成した他の労働組合の組合員に対して、国労の団結を示そうとする意味があるものというべきであり、これにより、国鉄改革法に従って新会社の運営を推進しようとする使用者及び分割民営化に賛成した他の労働組合の組合員との対立を意識させ、そのことによってこれらの者が注意力を職務に集中することを妨げるおそれのあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったというべきである。

 このような次第であるから‥‥、前記各規定に違反するというためには、現実に職務遂行が害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないのであって、本件組合バッヂを着用した者が、顧客と接触の多い車掌であるか、あるいは、運転所、保線所、電気所など接客頻度の低い部署に所属する者であるかによっては、その違反の情状に差異が生じ得ることはあっても、前記各規定の違反の成否に差異を生じるものではないといわなければならない。本件組合バッヂの着用により現実の職務遂行に支障を生じるものではないから、本件組合バッヂの着用は前記各規定に違反するものではない旨の控訴人及び控訴人補助参加人等の主張は採用することができない。

 ‥‥本件就業規則は、従来の国鉄とは異なる新しい企業秩序の維持・確立に向けて、すべての社員を対象として制定されたものであって、‥‥本件就業規則及び右事務連絡が国労及び国労所属組合員にねらいを定めたものであったと認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。控訴人補助参加人等の右主張も採用することはできない。

8‥‥本件措置をもって、被控訴人が国労を嫌忌するがゆえに、国労の組織を弱体化させるために支配介入した不当労働行為であると認めることはできず、他に本件措置が労働組合法七条三号所定の不当労働行為に該当すると認定するに足りる証拠はない。 

 

 

 ●JR東海新幹線支部国労バッジ事件・最三小判平10717労判74415

 

(棄却、国労バッジ着用に対する厳重注意および夏期手当の5%減額の措置を支配介入の不当労働行為に該当するという都労委の救済命令を取り消した原審判断を維持する)

 

 「所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、本件措置が不当労働行為に該当しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

 

 

 〇JR東日本神奈川国労バッチ事件・東京地判平987判タ957114

 

(要旨)

 組合バッジ着用を理由とする厳重注意、訓告処分、夏季手当減額、業務外し等の不当労働行為とした神奈川県地労委の救済命令取消請求訴訟で、本件バッジ着用が、形式的には就業規則に抵触するが、リボン、ワッペンと異なり抗議意思や要求が表示されていたわけではなく、また特段の身体的・精神的活動を必要とするものでないため、労務提供義務の誠実な履行を妨げるおそれがなく、職務専念義務に違反しないこと、及び、本件処分や減額措置は組合員らが受ける不利益がきわめて大きいため国労に対する特別の意図があったとの疑いを払拭できず、原告が嫌悪する国労所属の本件組合員らに対する不利益な取扱いを通じて国労に打撃を与え、その勢力を減殺し、組織を弱体化させることを主たる動機として行ったものであり不当労働行為意思が認められるとして労委命令を相当とする

 

要所・抜粋

(一)労働者は、所定の勤務時間中は使用者の指揮命令に服して労務を提供すべき義務を負うから、勤務時間中の組合活動は、原則として右義務に違反するものとして正当性を有しないが、勤務時間中の組合活動であっても、労働者の労務の提供に支障を与えず、使用者の業務の運営に障害を生じさせるものでない場合には、例外的に正当性を肯定するのが相当である。

 これを本件組合員らによる本件組合バッジの着用についてみるに、本件組合バッジは、その着用者が国労組合員であることを表象するとともに、これを着用することによって着用者に国労への帰属意識を持たせ、国労組合員の団結意思を確認し、団結心を高める心理作用を営むものといえるから、本件組合員らが勤務時間中に本件組合バッジを着用した行為は、形式的には、就業規則二三条所定の勤務時間中の組合活動に該当するといわざるを得ない。

(二)そこで、勤務時間中の組合活動に該当する本件組合員らによる本件組合バッジの着用が、例外的に正当性を肯定すべき場合に該当するか、否かについて検討する。

(1)本件組合バッジの形状は先に見たとおり小さくて目立たないものであり、具体的な主義主張や要求事項が表示されているわけではなく、レールの断面を図案化した絵柄に国労を表すNRUのイニシャルが付されたものにすぎない。その着用は、組合員が着用している制服の襟又は胸にバッジが付いているという静的状態であって、国労への帰属意識、団結意思の確認、団結意思を高める心理作用とはいっても、それらが本件組合バッジによって象徴されるというにすぎず、そのための特段の身体的又は精神的活動を必要とするものではないから、職務に対する精神的集中を妨げるものとはいえない。しかも、本件組合バッジが国労の組合員であることを表象するものであることが一般に周知されていたことを示す証拠もないから、本件組合員らがこれを着用して業務に就いたとしても、物理的にも社会的にもその労務の提供を妨げたり、疎かにし又は誤らせる虞を生じさせるようなものではない。すなわち、本件組合バッジの着用は、本件組合員らの労務提供義務の履行と支障なく両立するものと認められるのであるから、その着用自体が原告の業務の運営に障害を生じさせるものとはいえない。したがって、本件組合員らによる本件組合バッジの着用は、例外的に正当性を認められる場合に該当するものと解するのが相当である。

 就業規則三条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」として、社員の職務専念義務を規定している。右の職務専念義務は、原告と社員との間の労働契約に基(ママ)くものであるから、労働契約上要請される労務提供を誠実に履行する義務を意味すると解するのが相当である。そして、その専念義務の具体的内容は、当該具体的な労務提供義務を誠実に履行する上で必要な限度において考慮すべきであって、勤務時間中における職務以外の身体的活動及び精神的活動であっても、およそ右の義務に違反しないとされるものがあることは否定できないのであるから、身体的であると精神的であるとを問わず、社員は勤務時間中すべての活動力を職務のみに集中し、職務以外のことには一切注意力を向けてはならないというような、いわば全人格的な従属関係を肯認することはできない。右にいう職務専念義務の違反が認められるためには当該活動が労務提供義務の誠実な履行を妨げ、又は疎かにする客観的な虞がある場合でなければならないと解するのが相当である。したがって、職務以外の社員の身体的、精神的活動であっても、労務提供義務の履行としてなすべき身体的、精神的活動と矛盾なく両立し、かつ、業務を阻害する客観的な虞のない場合には、職務専念義務に違反するものということはできない。

 これを本件についてみるに‥‥、本件組合バッジの着用は、本件組合員らの労務提供義務の誠実な履行と矛盾なく両立するものといえるし、原告の業務を阻害する客観的な虞があるとはいえないから、本件組合員らが本件組合バッジを着用したことが就業規則三条一項の職務専念義務に違反するということはできない。

4 不当労働行為の成否について

(2)鉄道労連が、昭和六二年四月一日付け機関紙において「着けよう鉄道労連バッジ」と組合員に呼び掛けたのに鉄道労連下部組織の東鉄労の組合員が着用しなかったことや、本件処分に関して松崎東鉄労委員長が昭和六二年六月二〇日号の「公益レポート」のインタビュー記事で「……権利だからといって無茶なことをするのは良くないという点で、私たちは会社側と話をしてきた経緯もありますから……」等と述べていることに、動労委員長時代の松崎東鉄労委員長が「駄目な労働組合には消滅してもらうしかなく、駄目な組織はイジメ抜く」旨述べていたことを併せ考えると、機関紙による着用呼び掛けにもかかわらず、東鉄労の組合員が組合バッジを着用しないことについては、原告と東鉄労との間で事前の話し合いが行われ、東鉄労が労使協調関係を維持するとともにこれを誇示し、あるいは国労の対決路線を際立たせる意図の下に、組合バッジ不着用を決定したことが窺われるのである。

(3)原告は、就業規則によって全社員に対して一律に組合バッジの着用を禁止したにもかかわらず、本件組合員らがこれに応じなかったことから、本件措置がとられたにすぎないと主張する。しかしながら、原告は、協調関係にある東鉄労(住田社長は、前記のとおり、東鉄労とは手を携えてやっていきたいと思うとまで述べている。)が、原告の意向に同調して組合バッジを着用しなくなり、組合バッジを着用しているのが国労組合員のみとなったことを十分認識していたことは、右の事実から明らかというべきである。

(八)以上に認定、判断したところを総合して考察すると、原告は、原告の方針にことごとく反対して原告に敵対する国労を嫌悪しており、その解体ないしは弱体化を望んでいたところ、原告が本件組合員らに対して行った本件措置を含む一連の措置は、原告が嫌悪する国労所属の本件組合員らに対する不利益な取扱いを通じて国労に打撃を与え、その勢力を減殺し、組織を弱体化させることを主たる動機として行ったものと認めるのが相当であるから、国労(参加人ら組合)に対する支配介入行為というべきであり、労働組合法七条三号所定の不当労働行為に該当する。

 

 

△JR東日本神奈川国労バッチ事件・東京高判平11224判時1665130頁裁判所ウェブサイト

 

 要旨

(棄却、国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意、訓戒処分、55名に対し夏季手当5%減額の措置を不当労働行為とする。国労バッジの着用は、就業規則の服装整正規定違反、就業時間中の組合活動禁止規定違反、職務専念義務規定違反であり企業秩序を乱すものであるとし、取外し命令、懲戒、不利益処分を禁止するものではない。しかしながら「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても,それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」と述べ、「敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し」バッジ取外しの指示・指導等は「執拗かつ臓烈なもので,平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり」「就業規則の書き写しの作業などは,嫌がらせ」であり、「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入)に該当するとした。)

 

 要所・抜粋

 参加人らは、就業規則の秩序維持条項による組合活動規制に関しては、就業規則の文言の形式的該当性とは別に、企業秩序を現実に阻害するなど、当該規則の達成すべき目的に実質的に違反するような行為かどうかという基準によって合理的判断を行うべきであるとし、本件就業規則二〇条三項は、同条一項の規定とあいまって、労務提供のために必要かつ合理的な服装整正を目的とする条項であるから、着用した際に目立たず、所属組合を抽象的な線路のマークと組合名の頭文字の組合せで示すのみの本件組合バッジは、右規則の趣旨に実質的に反するものではなく、また、本件組合バッジの着用は、伝統的な言葉の意味からすれば、組合活動とはいえず、仮にこれを組合活動と呼んだとしても、業務に支障を生じさせたり、職場の秩序を乱すものではないので、本件就業規則二三条に実質的に違反するものではなく、さらに、本件組合バッジは着用者にとって組合に所属する自己の同一性を表すものにすぎず、その着用は職務への専念を妨げるものではないので、本件就業規則三条一項に違反するものでもないと主張するので、以下これらの点について検討する。

(一)本件就業規則二〇条は、社員の服装の整正について定め、同条三項は、「社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」と規定しているところ、本件組合バッジが右の「会社の認める以外の胸章、腕章等」に該当することは明らかである。

 もっとも、右規定は、服装の整正によって職場内の秩序風紀の維持を目的としたものであるから、形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である。そして、前記認定のとおり、本件組合バッジは、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルの四角形で、この中にレールの断面と国労の頭文字である「NRU」の文字が表示されているというものであり、具体的な主義主張が直接表示されているわけではない。しかし、前記認定の事実によれば、国鉄の分割民営化の過程で、国労は、一貫してこれに反対する方針を採り、控訴人及び分割民営化に賛成する他の組合と対立する状況にあり、本件組合員らによる本件組合バッジの着用は、国労から多くの組合員が脱退し、国労が弱体化、孤立化していく中で、東京地本から繰り返し出される着用の指示の下でされたものであるから、本件組合バッジ自体に具体的な主義主張の記載ないし表示がされていなくても、本件組合員らは、これを着用することによって、その着用者が国労の組合員であることを顕示して同僚の国労組合員との結束を高めるとともに、国労組合員であっても自らの意思で本件組合バッジを着用していない他の社員に心理的影響を与え、さらに、国労組合員以外の者に対して国労の団結を示そうとして、本件組合バッジを着用したものと認められるのであって、このような事情を考慮すると、本件組合バッジの着用につき職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとは到底いえない。

(二)本件就業規則二三条は、「社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」と規定しているところ、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は、国鉄の分割民営化の過程で国労から多くの組合員が脱退していく中で、国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、組合活動というべきであり、右規定に違反するというべきである。

 また、前記(一)で述べたところと同様に、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとはいえない。

(三)本件就業規則三条は、服務の根本基準について定め、同条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定している。これは、社員がその就業時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないこと、すなわち職務以外のことを就業時間中に行ってはならないことを意味するものである。ところで、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は‥‥国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。

 なお、参加人らは、本件組合バッジの着用によって現実の職務遂行に支障を生じないので、本件組合バッジの着用は右規定に違反するものではないと主張するが、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきであり、参加人らの右主張は、採用することができない。

 以上のとおりであるから、参加人らの主張は採用することができず、本件組合員らの本件組合バッジの着用行為は、本件就業規則二〇条三項、二三条及び三条一項にそれぞれ違反するものであるというべきである。

三 不当労働行為の成否について

 ‥‥労働組合の多くが労働協約の改訂や再締結、更には労使共同宣言の締結を行って労使協調関係を強めていく中で、国労は、これらを拒否し、国鉄当局との対立関係を強めていたこと、(三)このような姿勢をとる国労に対し、国鉄ないし控訴人の幹部は、敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し、特に‥‥松田常務取締役においては、会社に対する反対派(国労)を断固として排除する旨発言し、また、控訴人の住田社長においては、東鉄労との一企業一組合が望ましいとして、国労を攻撃し、このような迷える子羊を救って東鉄労の仲間に迎え入れていただきたいとして、東鉄労の組合員らに対し、国労組合員の国労からの脱退、東鉄労への加入を促す働き掛けを期待する発言もしていたこと、(四)‥‥国鉄は、職員管理調書の作成に当たり、動労組合員の労働処分歴は記載されないような取扱いをし、人材活用センターへ主に国労組合員を配置し、国労及び動労に対して提起されていた前記二〇二億円の損害賠償請求訴訟について動労に対する訴えのみを取り下げるなど、国労を孤立化させることになる施策を進め、分割民営化に当たっての国鉄の承継法人への採用に当たっても、不採用者の多くが国労組合員であったこと、(五)‥‥本件組合バッジ取り外しの指示・指導等は、組織的に行われ、その具体的な方法・態様も‥‥(三)‥‥執拗かつ熾烈なもので、平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり、特に、本件組合バッジの取り外しを拒否した国労組合員に対して命じた本件就業規則の書き写しの作業などは、嫌がらせ以外の何物でもないといわざるを得ないものであり‥‥(六)しかも‥‥国労組合員に対し、上司等から、組織的と思われる態様で、国労からの脱退の勧奨がされたこと‥‥。

 そして、これらの事実を合わせ考えるならば、控訴人が本件組合員らに対して本件組合バッジの取り外しを指示・指導等した行為及び本件組合バッジを着用していたことを理由に本件組合員らに対してした本件措置は、控訴人が‥‥国労を嫌悪し、国労から組合員を脱退させて、国労を弱体化し、ひいてはこれを控訴人内から排除しようとの意図の下に、これを決定的な動機として行われたものと認めざるを得ず、したがって、控訴人の右一連の行為は、国労(参加人ら)に対する労働組合法七条三号にいう不当労働行為(支配介入)に該当するものといわなければならない。

 

 

△JR東日本神奈川国労バッチ事件・最一小決平111111労働判例77032

 

 本件は、民訴法三一八条一項の事件に当たらないとして不受理

 

 

●JR西日本大阪国労バッチ事件・ 東京地判平241031別冊中央労働時報143420

 

 要旨

(国労バッチ着用を理由とする平成12年、13年の訓告と同年の夏季手当減額を不当労働行為とした大阪府労働委員会の救済命令につき、会社側は不服として中労委に再審査申し立てしたところ、初審命令を取り消したので、原告側が中労委の処分を取り消しを求めた事案で、東京地裁は本件組合バッジの取外しの注意・指導は,労働組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図を決定的動機として行われたものであると認めることはできず,の不当労働行為に当たるということはできないとして、原告の請求を棄却)

 

 要所抜粋

オ 参加人設立後の国労組合員の組合バッジの着用を巡る労使の状況

 国労は,昭和62年から平成5年頃までの間,参加人による国労組合員の組合バッジ着用の服務規律違反に起因した勤務成績不良に基づく昇給又は一時金の減額等が不利益取扱いの不当労働行為に当たるとして,救済命令の申立てを行う方針であったが,平成6年度以降,上記の不利益取扱いの不当労働行為を主張して救済命令の申立てをしておらず,平成8年2月頃当時になると,国労内部においても,組合バッジの着用は組織的に行うものというよりも,個人闘争の意味合いで着用しているのが現状であるとの認識が広がっていた。

 そのような中,参加人は,平成8年10月に株式上場を控え,上場企業にふさわしい職場規律の確立と企業秩序の遵守に努める必要があるとの判断の下,更なる職場規律の是正の徹底を図ることとし‥‥文書を示して,職場規律の是正に係る参加人の取組の趣旨のほか,組合バッジ着用に対する注意・指導を強化する期間を設定すること,厳重注意を受けても引き続き注意・指導を受けた者に対しては「訓告」を発令することなどを説明した。‥‥

 

 その一方で‥‥国労が平成11年3月18日の臨時全国大会において国鉄分割民営化による国鉄改革を承認する旨を決議した結果,大阪配属事件を含む西日本本部の下部組織である労働組合と参加人との間に係属していた多くの不当労働行為救済命令申立事件は,平成12年3月から平成13年4月までの間にすべて和解によって解決した。

カ 国労による四党合意の受入れ

 自由民主党,公明党,保守党及び社会民主党の4党は,国労に対し,平成12年5月30日,下記内容の四党合意を提示し,国労本部は,同日,その受入れを決定した。もっとも,国労組合員のうちJR各社に不採用とされた国労闘争団のメンバーは,国労本部の四党合意の受入れに反対したものの,国労は,平成12年7月1日以降3回にわたる全国大会を経て,平成13年1月27日,四党合意の受入れを盛り込んだ方針案を採択するに至った。

 ‥‥厳重注意を受けた者の数は,平成8年3月に388名に上っていたものの,同年12月には77名まで減少し,平成12年3月には厳重注意を受けた者3名,訓告処分を受けた者11名(合計わずかに14名)となり,平成13年3月には更に厳重注意を受けた者4名,訓告処分を受けた者5名(合計9名)に減少した。

(2)判断

 ア 不利益取扱いの不当労働行為の成否について

(ア)参加人の就業規則3条1項が,「社員は,会社事業の社会的意義を自覚し,会社の発展に寄与するために,自己の本分を守り,会社の命に服し,法令・規程等を遵守し,全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定して従業員に職務専念義務を課し,その具体化として,同20条3項が,「社員は,勤務時間中又は会社施設内で会社の認める以外の胸章,腕章等を着用してはならない。」と規定し,同23条が,「社員は,会社が許可した場合のほか,勤務時間中に又は会社施設内で,組合活動を行ってはならない。」と規定しているのは,前提事実(3)ア(ア)記載のとおりであるところ,勤務時間内における原告の本件組合バッジの着用が,形式的にいえば,就業規則3条1項,20条3項,23条に違反し,勤務時間中の組合活動を禁止した労働協約6条にも違反するものであることは明らかである。

 もっとも,就業規則は,企業経営の必要上,従業員の労働条件を明らかにするとともに,企業秩序を維持・確立することを目的とするものであるところ,その解釈・適用に当たっては,憲法28条が労働者に労働基本権を保障する一方,憲法29条が使用者に財産権を保障していることの趣旨にかんがみ,団結権と財産権との調和と均衡を図るべきであるから,形式的に上記各規定に違反するようにみえる場合であっても,実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは,上記各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である(最高裁判所昭和52年12月13日第三小法廷判決・民集31巻7号974頁参照)〔目黒電報電話局事件〕。

(イ)これを本件についてみるに,原告が勤務時間中に着用していた本件組合バッジが,縦1.2cm,横1.3cm四方の長方形の金属板状のものであり,黒地に金色のレールの断面図と「NRU」の文字(「国鉄労働組合」を英訳したNational Railway Unionの頭文字)とがテザインされており,裏側にあるピンを衣類に刺し,留具でピンを留めて着用する形状のもの‥‥,本件組合バッジは,必ずしも大きく目立つものではなく,国労の主義・主張が具体的に記載されているわけでもない。しかしながら,上記‥‥(1)で認定した国労と国鉄又は参加人を含むJR各社との労使対立の歴史の中では,国労の組合バッジの着用は,国労組合員が組合員であることを対外的に示すとともに,組合員相互間の団結・連帯の意識の向上という思想を外部に表明するための象徴的行為であるということができる。その後,国労と国鉄分割民営化と同時に設立されたJR各社とが,平成8年8月以降労使協調路線を打ち出し,平成11年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結し,平成12年3月以降中労委に係属していた不当労働行為救済命令申立事件を和解で終結するとともに,国労が四党合意の受入れを決議する中,国労の組合バッジの着用の意味合いは,労使協調路線を採用した国労執行部に対する抗議の意志の表明を含むものに変容したということができるが,原告の本件組合バッジの着用は,自らが国労組合員であることを対外的に示すとともに,その思想を共有する組合員との間の団結・連帯の意識を向上させ,一定の思想を外部に表明する行為であることには,変わりがないというべきである。

 他方で,一般私企業において,従業員は,労働契約を締結して労務提供のために企業に入ることを許されたのであるから,労働契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において,かつ,企業秩序に服する態様において,勤務時間中に行動することが認められているものであるところ,分割民営化前の国鉄においては,職場規律が弛緩し,ヤミ協定,悪慣行が横行し,企業秩序が乱れていたため,分割民営化による国鉄改革の必要性が叫ばれる中,事業を承継した参加人においては,これを是正するため,違法行為に対しては厳正に対処し,職務専念義務を徹底させることが求められていたということができる。そうすると,国労の組合バッジの勤務時間中の着用は,参加人の従業員としての職務の遂行には直接関係のない行為であることが明らかであるし,当該行為の趣旨・意味合いを考えた場合,勤務時間中,職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反するばかりでなく,ほかの従業員の意識が当該組合バッジに注がれることによって,勤務時間中に心理的影響を受けるおそれもあるというべきである。しかも,‥‥原告の従事した車両の検査修繕作業においては,事故防止のために所持品の落下に細心の注意を注ぐ必要があり,作業に不必要な物を現場に持ち込むことが禁止されていたことを認めることができる。

(ウ)以上によれば,本件組合バッジの着用は,企業秩序を乱すおそれのある行為であるといわざるを得ないから,実質的にみても,就業規則に違反するものというべきである。

 したがって,就業規則違反を理由とする本件各訓告は違法ではなく,本件各訓告等は,不利益取扱いの不当労働行為には当たらない。(原告は,組合バッジ着用を禁止する就業規則が国労の解体を意図するものとして,その制定自体が不当労働行為であるとも主張する。しかしながら,組合バッジ着用の禁止が国労の解体を意図するものであると認めることはできない。また,そもそも参加人が行う鉄道事業は,国民の社会経済生活に不可欠の公共性の極めて高い事業であるとともに,不特定多数の利用客の生命,身体及び財産の安全に深くかかわるものであるから,公共事業にふさわしい労務の提供と企業秩序の乱れから利用客の生命,身体及び財産の安全を脅かす事態の発生することを防止するという観点から,従業員の職務専念義務を規定して適正な職務遂行を求め,これを服装の面から規制するとともに,勤務時間中の組合活動を原則として禁止することには,十分な合理性が認められるというべきである。しかも,参加人の就業規則の制定に当たっては,労働組合の意見聴取手続も経由されている。以上によれば,上記就業規則の制定自体が不当労働行為に当たるということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。)。

イ 支配介入の不当労働行為の成否について

(ア)使用者の人事上の措置が,従業員の就業規則違反を理由としてされたものであっても,労働組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものであると認められるときは,例外的に,その使用者の行為を全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たると解するのが相当である。

(イ)これを本件についてみるに,本件各訓告は,就業規則違反を理由とするものであり,懲戒処分に至らない人事上の措置にとどまるものであるし,それが,厳重注意よりも重く期末手当の減額を伴うものであったとしても,参加人が,平成8年10月の株式上場を控え,職場規律の是正の徹底を図るという背景事情の下,組合バッジの取外しの注意・指導に一向に従わず,厳重注意を繰り返し受けていた違反者につき,より重い訓告を選択することを決定したことには,相応の合理性があり,決定に至る手続も適正であったことを認めることができる。また,厳重注意,訓告に至るまでの注意・指導は組織的かつ厳格に実施されており,何ら恣意性はうかがわれない一方,訓告に当たっては,昇給欠格要件に該当することを回避するように配慮するなど謙抑的運用が図られていた上,厳重注意・訓告後の苦情申告の手続も用意されていたということができる。そして,訓告を受けた場合に期末手当が減額されることは,就業規則上の関係規定に基づくものであって,それが,金額・方法等に照らして不相当であるということもできない。

(ウ)以上によれば,本件各訓告等が,労働組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図を決定的動機として行われたものであると認めることはできないし,ほかにこれを認めるに足りる証拠はないから,本件各訓告等は,支配介入の不当労働行為にも当たらないというべきである。

 

 

●JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件・東京地判平24117労判106718

 

要旨

(救済命令取消請求訴訟。中労委は国労バッジ着用を続けたことを理由とする(1〕平成20年1月26日付けで5日間の,〔2〕同年10月31日付け及び〔3〕平成21年9月29日付けで各10日間の各出勤停止処分を不当労働行為にあたるとして救済命令を発令したが、一部取り消す。就業規則違反行為は約15年にもおよんで再三反復継続していたことからすれば業務に対する支障がない行為ではあるがそれに対する処分の加重性には合理的理由があり,さらに国労は昭和62年の会社発足以来組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示し,組織としても不当労働行為救済申立てを行うなどしてきたが,平成14年3月末以降は,組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり,平成18年11月には,バッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げているのであって、平成15年7月以降は国労バッジ着用者が○○のみとなり,本件各処分の対象となった平成19年ころには,既にその組合活動としての色彩が後退し,個人的行為の側面が強いなどとして不当労働行為には当たらないとした。)

 

 要所抜粋

 ‥‥JR東日本の就業規則3条において,「社員は,会社事業の社会的意義を自覚し,会社の発展に寄与するために,自己の本分を守り,会社の命に服し,法令,規程等を遵守し,全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」‥‥社員は,勤務時間中,その注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事するという厳格な職務専念義務を負うことを定めたものであると解され,上記のような国鉄時代の職場規律の状況や国鉄改革の経緯等にかんがみれば,このような厳格な職務専念義務を定めることにも合理的な理由があるというべきである。

 なるほど,本件バッジは,そこに「NRU」と国労を示す文字がデザインされているにすぎず,その大きさは約1センチ四方のものであって,具体的な主義主張が記載されているわけでもない。しかし,前記のとおり,国労バッジは,国労東京地本が昭和62年に全組合員に着用の徹底を指示していたものであり‥‥‥国労組合員であることを顕示して組合員相互の団結・連帯の意識を高めるものである。そして,国労バッジには,これを着用していない他の国労組合員に対しても,当該着用者が国労組合員であることを顕示して訴えかける心理的効果を有する側面があるのは否定できないことからすれば,同バッジの着用は,実質的に組合活動としての意味を有し,上記の意味での職務専念義務に違反するものであって,それが身体的活動としての労務提供に格別支障を生じさせないことを考慮しても,企業秩序を乱すおそれがない特段の事情があるとはいえない。

ウ 以上の点に加えて,本件各処分の対象となった時期(平成19年4月16日以降)には,既に,就業規則で定められたもの以外は組合バッジに限らず着用しないという服装整正に関する職場規律が確立していたといい得ること,それにもかかわらず,P10は,平成22年2月の退職時まで国労バッジの着用を継続したこと等の諸事情にかんがみれば,本件において,P10の国労バッジ着用を正当な組合活動と認めることはできない。

 

(3)支配介入の成否について

ア 以上のとおり,P10の国労バッジ着用は,就業規則3条1項,20条3項及び23条に違反するものであるから,原告JR東日本が,P10の国労バッジ着用について就業規則等に則り懲戒その他の不利益処分を行い得ることは明らかである。

 しかし,使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といえる面があるとしても,当該組合活動に対して行われた懲戒処分が同活動の態様等に比して著しく過重なものであって,当該処分が使用者の当該組合に対する嫌悪の念に発していると認められるなど,それが労働組合に対する団結権の否認又は労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときは,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たる場合があり得るというべきである。

 (中略)

ア ‥‥本件各処分(出勤停止5日または10日であって,賃金等の減額のみならず夏季手当15%の減額を伴う重い処分である。)が,原告JR東日本の国労に対する嫌悪の念に発したものであるとする見方も成り立ち得る余地はあろう。

イ しかし,原告JR東日本は,国労組合員等の組合バッジの着用について,昭和62年4月の設立当初から一貫して厳正に処分する姿勢を示し,実際に違反者に対し訓告等の処分を繰り返し行っていたものであり,平成14年3月28日の本件警告文の掲出は,時期的に四党合意に関し与党からの三党声明が出された時期(平成14年4月26日)と近接しているものの,設立当初からの基本的な方針に沿う,その延長線上の行動であったということができる。原告JR東日本設立以降,本件警告書掲出までの間でみても,P10らの国労バッジ着用による就業規則違反行為は約15年間にわたり多数回に及ぶもので,かつ,同人らが何ら態度を変える様子もなく違反行為を反復,継続していたことからすれば,その処分量定を加重していくこと自体には合理的な理由があるものであって,過重な処分がなされたことのみを理由に,直ちに,本件各処分が不当労働行為意思の発現であると認めることはできない。

 また,P10や原告P1ら8名が,国労内部において四党合意に反対し,これを受諾する国労執行部の姿勢を批判していたことは事実であるが,国労バッジの着用と四党合意に対する反対姿勢との間には直接の関連性はなく(国労バッジが四党合意反対運動の象徴となっていたわけでもなく,本件全証拠に照らしても,両者の結び付きを窺わせる事情は認められない。),‥‥四党合意に反対するP10らの存在を嫌悪して国労バッジ着用に関しあえて過重な処分を行ったとする被告国の主張に直ちに左袒することは困難である。

 そして‥‥P10の違反行為自体が軽微であるとはいい難いし,原告JR東日本には,他にも再三の注意指導にもかかわらず出勤遅延を繰り返した従業員に対し,順次量定を加重し,出勤停止処分をするに至った事例もあること‥‥に照らしても,重い処分を受けたからといって,それが直ちに不当労働行為意思の発現であると認めることはできない。

エ さらに,当初は組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示し,組織としても不当労働行為救済申立てを行うなどしてきた国労が,平成14年3月末以降は,組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり,平成18年11月には,バッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げていること‥‥,国労は,組合バッジ着用に関し,機関決定違反として統制処分をするまではしないが,支持はしないという態度であること,平成15年7月以降は国労バッジ着用者がP10のみとなり,P10が再就職して国労バッジの着用を止めた後,その活動を引き継いで行おうとする動きもなかったこと等にかんがみれば,P10のバッジ着用行為に組合活動としての保護が与えられるのは前記のとおりであるとしても,遅くとも本件各処分の対象となった平成19年ころには,既にその組合活動としての色彩が後退し,P10の個人的行為の側面が強くなっていたことは否定できないところである。

オ 以上の諸事情を考慮すれば,前記ア記載の事情を考慮しても,本件各処分から原告JR東日本の支配介入の意思が推認されるとはいえず,本件各処分が支配介入に当たるということはできない。

 

 国(中労委)が控訴

 

 

●JR東日本神奈川国労バッチ事件・東京高判25327別冊中央労働時報144550

 

(棄却。本件は、職場規律確立の一環として、所属組合にかかわらず就業規則に違反する勤務時間中の組合バッジ着用の禁止を指示、徹底し、バッジ処分を行ったものであり、本件警告文の掲出及び処分量定の加重の目的は、職場規律の確立、維持にあることに変わりはなく、国労や国労内少数派を嫌悪して処分を行ったものではない。国労内少数派を嫌悪して本件警告文の掲出や国労バッジの着用に関しあえて過重な処分をしたとは認められない。)

 

 

△JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京地判平25328別冊中央労働時報144317

 

 要旨

(救済命令取り消し訴訟、棄却。平成12年5月30日になされた四党合意について,国労は,平成13年1月27日,これを受諾し,さらに,平成14年3月末ころ,国労バッジ着用処分について,組織として救済申立てをしない方針に転換した。国労の上記方針の転換の時期と相前後する平成14年3月28日,原告は本件警告書の掲出を行い,国労バッジ着用行為に対し,従前行っていた1年度2回の訓告よりも処分を加重する旨を通告した。 6名はその後の調査期間(平成14年4月から同年6月まで)経過後も国労バッジ着用行為を続けたため,これを止めるまで減給以上の処分を受けた。

 本件警告書掲出前にされていた処分と,掲出後にされた処分は,後者の方が格段に大きな経済的不利益をもたらすものと認められるが,この極端な厳罰化は,組合バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた会社が,組合執行部の方針転換を認識するに至り,これを機に,組合内少数派の組合活動を一掃しようとの意図に基づき行ったものであると推認することができることから,組合内少数派の勢力を減殺し,組合執行部の方針に加担したものと認められ,支配介入を構成し不当労働行為が成立するとした)。

 

 要所抜粋。

 

 原告は,昭和62年4月7日,各機関に対し,各現業機関の社員を対象に同月1日から7日までにおける社章,氏名札及び組合バッジの常態的な着用状況についての調査・報告を指示した。上記調査結果によると,1303か所の現業機関の6万4105名中,正規の服装をしていた者が5万8376名(91.1%),組合バッジ着用者が5645名(8.8%)であり,そのうち国労組合員が5634名を占めていた。

 原告は,昭和62年4月20日,各機関に対し,組合バッジ着用者に対し,服装整正違反であることの注意喚起をし,繰り返し注意・指導を行ったにもかかわらず,組合バッジを外さない社員に対しては,人事考課等に厳正に反映するなど厳しい対象を行うことを指示した。また,同年5月28日,原告は各機関に対し,服装違反者に対する方針を示し,現場の実態について完全に把握し,厳正な対処の準備を図るよう指示し,この後も,一貫して組合バッジ着用について,その取り外しを指導,注意し続けていた。

 そして,昭和62年6月,原告は組合バッジ着用者に対し,初めて服装整正違反を理由として4883名に対して厳重注意処分ないし訓告処分を発令して以降,本件警告書掲出前の平成13年9月まで,概ね年2回,組合バッジ着用行為に対する処分を行った。被処分者数は,平成3年9月には2000名を割り込み,平成9年3月には1000名を割り込み,平成13年9月には345名(全体の0.5%)となっていた。

(2)本件警告書について

ア 本件警告書の内容等

 平成14年3月28日に掲出された本件警告書は,「例外的一部の社員」が,「(中略)組合バッジを着用するなどの就業規則違反を繰り返し,中には数十回の訓告を受けながらなお是正することのない社員も見受けられる」とし,今後,なおこのような違反行為をあえてする社員に対しては,「さらに厳正な処分を行わざるを得ない」ことを警告している。4 争点(4)本件警告書の掲出後,P1ら9名に対し服装整正違反を理由に訓告,減給処分及び出勤停止処分をしたことは不当労働行為(労組法7条1号,3号)に該当するか。)について

(1)国労バッジ着用行為は,労働組合の組合活動といえるか

ア 国労による国労バッジ着用指示等

 国労の東京地方本部は,昭和62年3月31日,国労バッジ着用指示をし,昭和62年以降,原告による国労バッジ着用行為に対する処分につき,組合として,第1次ないし第4次国労バッジ事件にかかる救済申立てを東京都労委や神奈川県労委等に行うなどした。

 第1次国労バッジ事件は,神奈川県労委が救済申立てを認容する救済命令を発し,平成11年11月11日に,最高裁判所の上告不受理決定により確定した。

イ 国労の,国労バッジ着用行為についての方針転換

 平成12年5月30日に四党合意がなされた後,国労内では,四党合意の受入れを巡って議論がなされたが,平成13年1月27日,四党合意を受諾するに至った。

 国労は,さらに,国労バッジ着用に関する集会を開き,これ以上国労バッジ着用で不利益を被ることを避けたいと意見表明し,国労バッジを外そうという議論が行われ,本件警告書掲出時である平成14年3月末ころ,国労は,国労バッジ着用行為に対する処分について,組織として救済申立てをしない方針に転換した。

 そして,従前国労が労働委員会に申し立てていた国労バッジ着用行為に対する処分についての救済命令申立事件については,P1ら9

(ア)‥‥国労は,国労バッジ着用について,昭和62年当初に着用を指示し,原告が国労バッジ着用行為に対する処分を行ったことについて神奈川県労委等に救済申立てを行うなどしたものの,その後,平成11年には第1次国労バッジ事件が終局を迎え,平成13年ころには,国労の集会で国労バッジを外そうという議論がなされ,平成14年の本件警告書掲出後の国労バッジ着用処分については,組織として救済申立てを行っておらず,平成18年包括和解に至っているのであるが,これを全体としてみると,国労としては,遅くとも平成14年ころには,国労バッジ着用について積極的に支持をすることはなく,原告との係争についても,これを回避する方針に転換したものと認められる。

(ウ)‥‥平成14年から平成20年ころまでの,国労バッジ着用に対する国労の方針としては,これを積極的には支持しないものの,組合としての統制処分を行うこともなく,昭和62年当初の指示を撤回することもなく,結局,個人の判断に委ねる状況であったと認められる。

(エ)そして,P1ら9名は,上記のとおり国労内少数派として四党合意,三党声明に対し救済申立てを行うなどの活動をしていたのであるが,国労バッジ着用に関する国労の方針が,個人の判断に委ねられるという状況のもとで,P1ら9名としては,昭和62年当初の国労の着用指示に従い,一貫して国労バッジ着用を継続し,国労内少数派組合員として,少数派同志の仲間意識を高め,国労内執行部に対する批判的な行動として,また,国労の自主的,民主的運営を志向するものとして国労バッジ着用行為を継続したものと認められる。

(オ)したがって,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労の組合内少数派の組合活動として行われたものと認められる。 

オ 小括

 したがって,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,不当労働行為制度の保護の対象となる組合活動に該当する。

(2)不利益取扱い(労組法7条1号)の成否(正当性の有無)

 労組法7条1号の不当労働行為は,組合活動のうち,「正当な行為」について成立するので,以下,その正当性について検討する。

ア 就業規則との関係

 国鉄では,職場規律の乱れや巨額の赤字が問題となり,職場規律の乱れを是正するための措置が講じられるとともに,分割民営化による改革が進められることになる中で,原告は,その国鉄の事業の一部を引き継いだのであるから,原告が,かかる設立の経緯を踏まえ,職場規律を確立して企業秩序を維持するために,職務専念義務,服装の整正,勤務時間中の組合活動の禁止等を定める就業規則を制定したことには,十分な合理性が認められる。

 そして,P1ら9名の国労バッジ着用行為は,職務専念義務について定める就業規則3条1項,社員の服装の整正について定める同20条3項,勤務時間中の組合活動を禁止する同23条にそれぞれ違反し,原則として,その正当性が否定されるものであると認められる。

イ 正当性に関する補助参加人らの主張について

 補助参加人らは,〔1〕国労バッジ着用は労務提供義務と矛盾なく両立し,業務阻害性はなく,職務専念義務,服装整正義務に違反するとはいえない,〔2〕国労バッジ着用の組合活動としての必要性等を考慮すれば,国労バッジ着用行為には正当性があると主張するので,以下検討する。

(ア)補助参加人らの主張〔1〕について

 本件就業規則3条1項に定める職務専念義務は,社員は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

 そして,労働契約においては,労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労務契約の重要な要素となっているから,職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり,その行為が服装の整正に反するものであれば,就業規則20条3項に違反するといわなければならないし,また,それが組合活動としてされた場合には,そのような勤務時間中の組合活動は就業規則23条に違反するものといわなければならない。

 P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労組合員の中でも国労バッジ着用を止める者が大多数となっていく中で,国労内少数派として着用を継続したものと認められるが,国労執行部ないしは原告に対し,国労内少数派としての意思を表明し,また国労内における多数派に対し,少数派との対立を意識させるものといえ,また同時に,国労組合員のうち,自らの意思により国労バッジを着用していない者に対しても心理的影響を与え,当該組合員が職務に精神的に集中することを妨げるおそれがあるものであるから,かかる行為は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反し,また服装整正にも反するものとして,企業秩序を乱すものといわざるを得ない。

 補助参加人らは,国労バッジ着用に業務阻害性はないと主張するが,上記就業規則違反が成立するためには,現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当であり,補助参加人らの主張は採用することができない。

ウ 小括

 以上により,補助参加人らによる国労バッジ着用行為は,就業規則3条1項,20条3項,23条に反し,実質的に企業秩序を乱すおそれのない事情も認めることができず,正当性を認めることができない。

 よって,本件各処分等について,労組法7条1号の不当労働行為は認められない。

(3)支配介入(労組法7条3号)の成否

ア 支配介入の成否の判断基準

 使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても,それが労働組合の結成に対する嫌悪の意図や労働組合の団結権ないしその自主的運営を否定する意図を決定的な動機として行われたと認められるときには,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入(労組法7条3号)に該当するというべきである。そこで,以下,本件における支配介入の成否を検討する。

イ 原告と国労との間の国労バッジ着用処分をめぐる係争の推移

 国労が,国労バッジ着用処分に対する救済申立てを,東京都労委,神奈川県労委,埼玉県労委及び千葉県労委等に行い,このうち,第1次国労バッジ事件については,平成11年11月11日,最高裁判所の上告不受理決定により確定し,その余の事件については,平成18年包括和解により終了した。

ウ P1ら9名の組合活動,国労内での位置づけ等

 そして,P1ら4名等は,四党合意及び三党声明に対して,不当労働行為救済申立てを行い,本件警告書掲出後の国労バッジ着用処分について,国労が組織として救済申立てをしない中,個人として救済申立てを行い,また,平成18年包括和解の際も,和解に反対し,当事者としてP1ら9名を追加するよう申し立てるなど,P1ら9名の組合活動は,一貫して国労執行部に反対するものであった。

エ 原告発足後の組合バッジ着用行為に対する処分の推移

 原告は,原告発足時から,組合バッジ着用について調査し,服装整正違反であることを注意喚起し,取り外すよう注意,指導してきた。原告は,昭和62年6月,組合バッジ着用者4883名(原告の全従業員の5.9%)に対して,服装整正違反として初めて厳重注意処分ないし訓告処分を発令した。その後,処分内容が訓告処分に加重された後も,平成3年3月の処分時までは被処分者が2000名を上回っていたが,同年9月の処分時には2000名を下回り,平成8年9月の処分時には1000名を,平成12年3月の処分時には500名をそれぞれ下回るなど,被処分者数(すなわち,それぞれの処分時まで組合バッジ着用行為を継続していた者)は減少を続け,本件警告書掲出直前の平成14年3月の被処分者数は314名(原告の全社員比率0.4%)まで減少していた。(甲4,乙83~93,乙107)

 本件警告書掲出後の平成14年4月1日以降も,127名(対全社員比0.2%)が組合バッジ着用を継続したが,そのうち101名は同年6月までに組合バッジ着用を止めたため,平成14年7月の,上記警告書掲出後初めての処分の際も,処分内容を訓告のまま据え置かれ,この際に,処分内容を減給に加重された者は,同年7月1日以降も組合バッジ着用を継続した26名(対全社員比0.04%)にとどまった。

オ 本件警告書掲出前後の処分の均衡

 ここで,減給処分や出勤停止処分の不利益の程度について検討する。

 本件警告書掲出前にされていた同一年度2回の訓告処分では,期末手当において成績率各5/100減,定期昇給において昇給号俸1/4減となるものの,月額給与の不利益はなかった。これに対して,本件警告書掲出以後にされた減給処分は,期末手当(夏季又は年末)において成績率10/100減,定期昇給において1回の処分で昇給号俸1/4減,月額給与は1回の処分につき平均賃金日額の1/2減となった。さらに,出勤停止処分では,期末手当(夏季又は年末)において成績率15/100減,定期昇給において1回の処分で昇給号俸2/4減,月額給与は出勤停止処分の日数分の減となった。なお,定期昇給は,同一年度内に減給処分4回又は出勤停止処分2回以上の処分を受ければ昇給されないこととなる。

 以上のとおり,本件警告書掲出前にされていた処分と,掲出後にされた処分は,後者の方が格段に大きな経済的不利益をもたらすものと認められ,組合バッジ着用行為を継続したことによる処分の加重であることを考慮してもなお,本件警告書掲出以前の処分と比較して量定,頻度において極端に加重されており,均衡を欠くものと認められる。

カ 他の処分との不均衡等

 原告では,本件警告書掲出後に,氏名札を着用しない現業の従業員に対し,1度訓告処分にし,その後再度氏名札不着用が認められたため,戒告処分を2度行った例があると認められるが(証人P32・12,25,26頁)が,本件警告書掲出後であるにもかかわらず,初回の戒告後の氏名札不着用に対して,処分量定を加重することなく再度戒告処分にしており,同時期の組合バッジ着用処分との均衡を欠いているといえる。

 さらに,原告と同様,国鉄の分割・民営化により発足したJR西日本は,原告と概ね同内容の就業規則等を定め,昭和62年から組合バッジ着用行為に対する処分を行ってきたところ,平成9年度から平成18年度まで,各年度内1回のみの訓告処分にとどめ,処分量定の加重も行わなかったと認められ‥‥,組合バッジ着用行為は,その行為態様に大きな差がでることは考えにくいことを考慮すると,他社の処分であるとはいえ,同じ組合バッジ着用行為に対する処分としては,差が大きいというべきであり,この点でも,均衡を欠いているといえる。

キ 国労執行部による国労バッジ着用行為についての方針転換との時期的附合性

 ‥‥国労執行部は,平成14年3月末ころ,国労バッジ着用処分については,以後,組織として救済申立てをしないとの方針に転換したが,本件警告書の掲出がなされたのは,かかる国労執行部の方針転換の時期と極めて近接していることが認められる。

ク 評価

(ア)組合バッジ着用行為に対する処分の経緯をみると,本件警告書掲出前にされていた処分と,掲出後にされた処分とでは,後者がその量定,頻度において極端に加重されていることが認められ,かかる処分は,原告における氏名札不着用に対する処分や,原告の同業他社における組合バッジ着用行為に対する処分と比較しても,明らかに過重であるというべきである。この点,被処分者において,平成14年に至るまで繰り返し処分を受けてきたにもかかわらず,なお,組合バッジ着用行為を継続する行為が職場規律の確立に反する面も無視できないところであるが,平成14年3月の処分時点での組合バッジ着用者数は,原告発足当初からみても,また原告の全社員数との比較においても既に大幅に減少しており,加えて,組合バッジ着用を継続していた者の着用の態様も,従前と変わらないと認められるのであるから,平成14年3月の時点で,特に処分量定,頻度を加重しなければならない特段の事情,必要性はなかったものと認められる。

 そうであるにもかかわらず,上記時期に本件警告書の掲出を行い,以後の国労バッジ着用継続者に対して,経済的不利益が大きい量定,頻度で処分を行っており,かかる処分の加重は,当時のP1ら9名の国労バッジ着用継続の態様だけでは合理的に説明することができないといわざるを得ない。

(イ)そして,原告による本件各処分は,国労の国労バッジ着用を積極的に支持しないとの方針転換の時期と極めて近接しているところ,国労執行部の国労バッジ着用に関する方針転換については,原告は,従前,国労を申立人とする不当労働行為救済申立事件の被申立人という立場から,国労が組織として国労バッジ着用処分について不当労働行為救済申立てを行わなくなったこと等を通じて容易に認識することができたことがうかがわれ,実際,本件警告書掲出前に,原告は,国労バッジ着用についての国労内の方針が転換したことを認識していたことが認められる。

(ウ)そうすると,原告の平成14年3月以降の国労バッジ着用行為に対する極端な厳罰化は,国労バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた原告が,国労執行部の方針転換を認識するに至り,これを機に,国労内少数派の組合活動を一掃しようとの意図に基づき行ったものであると推認することができるというべきである。

(エ)そして,原告による本件各処分は,国労内少数派の勢力を減殺し,国労執行部の方針に加担したものと認められるのであり,国労内における国労バッジ着用についての方針等について,支配介入があったものと認められ,不当労働行為(労組法7条3号)が成立する。

 

 

△JR東日本神奈川国労バッチ減給処分等事件・東京高判平251128別冊中央労働時報145538

棄却

 

△JR東日本国労神奈川国労バッチ減給処分等事件 最一小決平27122

(棄却、不受理)

2018/08/22

私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその7)

承前

 

3)国労バッジ事件とはなんだったのか

 

  国労バッジ着用を理由とする、本来業務外し、厳重注意、訓告処分、夏季手当減額、出勤停止が不当労働行為にあたるかが争われた判例が多数あるのは、JR各社が、昭和62年発足以来着用規制を徹底したためである。JRの就業規則はよくできている。

三条(服務の根本基準)

 社員は、原告事業の社会的意義を自覚し、原告の発展に寄与するために、自己の本分を守り、原告の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない(一項)。

二〇条(服装の整装)

 制服等の定めのある社員は、勤務時間中、所定の制服等を着用しなければならない(一項)。

社員は、勤務時間中に又は原告施設内で原告の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない(三項)。

二三条(勤務時間中等の組合活動)

 社員は、原告が許可した場合のほか、勤務時間中に又は原告施設内で、組合活動を行ってはならない。

 組合バッジ着用はたんに上記に違反するだけでなく、期末手当の支給額は、賃金規程一四三条及び一四五条の規定により、成績率により増額又は減額されるが、減額については、懲戒処分(減給、戒告)及び訓告のほか、勤務成績が考慮されるところ、勤務成績については、減率適用者調書が作成され、その中で、厳重注意を含む賞罰、服装違反の注意回数、業績、態度等について具体的に記載されている。

 要するに、服装違反の注意回数はボーナス査定にひびく制度設計にはじめからなっているのである。

 にもかかわらず国労は、JR発足以前から、組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示し,組織としても不当労働行為救済申立てを行ってきたのである。

 国労が方針を転換したのは平成8年7月以降労使協調路線へ変更してからである。平成11年3月18日の臨時全国大会において国鉄分割民営化による国鉄改革を承認する旨を決議し、平成11年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結した。
 自由民主党,公明党,保守党及び社会民主党の4党は,国労に対し,平成12年5月30日,四党合意を提示し,国労本部は,同日,その受入れを決定した。もっとも,国労組合員のうちJR各社に不採用とされた国労闘争団のメンバーは,国労本部の四党合意の受入れに反対したものの,国労は,平成12年7月1日以降3回にわたる全国大会を経て,平成13年1月27日,四党合意の受入れを盛り込んだ方針案を採択するに至った。

 国労は、平成14年3月末以降は,組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり、平成18年11月には、バッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げている。国労は,組合バッジ着用に関し,機関決定違反として統制処分をするまではしないが、支持はしないこととなった。JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件 東京地判平24117労判106718頁によれば平成15年7月以降国労バッジ着用者は1人となった。その者も退職したので、現在では組合バッジの着用規制は完全なものとなっていると考えられる。

 

 

 ここで問題となっている国労バッジとは実は大きさで2種類あるのである通常着用していたのは、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルの四角形で、黒地に金色のレールの断面と「NRU」の文字をデザインしたものであり、「NRU」は「国鉄労働組合」を英訳した「National Railway Union」の頭文字をとったものである。

 これと別にワッペン式大型バッジがあり、通称「くまんばち」と呼ばれ、デザインは本件組合バッジとほぼ同様であるが、縦二・六センチメートル、横二・八センチメートルと大きく、これは主に何らかの闘争時などを中心に着用された。この大型バッジについては、国鉄当局は、本件組合バッジと区別し、ワッペンの一種であるとして、国鉄末期に規制を行った。

 国鉄鹿児島自動車営業所事件 最三小判平5611判時1446151頁(管理者に準ずる地位にある職員が組合員バッジの取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令が違法とはいえないとされた事例 )が昭和60年の事案だが、縦約二六ミリメートル、横約二八ミリメートル布製であり、「くまんばち」の大きさに相当する。

 

 着用規制の経過等については、下記の3判例の判決書から抜粋する。

 

 

 

. JR東海新幹線支部国労バッジ事件 東京高判平91030判時1626号38頁

(厳重注意や夏期手当の減額支給等の措置は不当労働行為に当たらないとした判決)

 

 運輸大臣は、昭和五七年三月四日、国鉄に対し、「‥‥総点検を実施し、調査結果に基づき厳正な措置を講じることが必要である」旨指示した。これを受けて、‥‥国鉄は、昭和六〇年九月までの間に八次にわたり職場規律の総点検を行ったが、いずれの総点検においても組合バッヂの着用状況についての調査項目はなかった。

 

 国労は、分割民営化反対等を主張し、昭和五九年八月一〇日、二時間のストライキを実施したほか、昭和六〇年春ころ、ワッペン着用闘 争を行った。国鉄当局は、ワッペン着用闘争について、同年九月一一日、五万九二〇〇人の国労所属組合員に対して処分

 

 国鉄は、昭和六一年一月一三日、動労、全施労及び鉄労との間で、「労使共同宣言(第一次)」を締結した。‥‥諸法規を遵守すること、リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整えること‥‥などが掲げられていた。‥‥国労は、その締結を拒否した。

 

 国鉄は、昭和六一年三月五日‥‥職員管理調書を作成するよう通達を発した。‥‥評定事項として、業務知識、技能、責任感、協調性、職場の秩序維持、服装の乱れ、勤務時間中の組合活動等二一項目について記入することとされていたが、組合バッヂについては触れられていなかった。

 

 国労は、昭和六一年一〇月九、一〇日に伊豆修善寺において臨時全国大会を開催したが、雇用と組織を守るために「大胆な妥協」をし、分割民営化の推進を内容とする「労使共同宣言」の締結を提案した執行部案は否決され、引き続き国鉄の分割民営化に反対する方針が確認された。

 

 動労、鉄労は、昭和六二年二月二日、日本鉄道労働組合、鉄道社員労働組合などとともに鉄道労連を結成した。

 国労は、昭和六一年四月一日において組合員数一六万五四〇三人、組織率六八・六パーセントであったが、昭和六二年二月一日には組合員数六万二一六五人、組織率二七・三パーセント、同年四月一日には組合員数四万四〇一二人に減少した。

 国労を脱退した者は、同年二月二八日、鉄道産業労働組合を結成したり、鉄労、動労などに加入するなどした。

 

 本件就業規則の制定等

 国鉄は、昭和六一年一二月三日、本社内に東海旅客鉄道株式会社設立準備室を設置し、この準備室において、本件就業規則の原案を作成し‥‥(六二年)四月一日の始業時刻に社員個人用の本件就業規則の抄録が配布され‥‥社達第一号により本件就業規則を施行するとともに、総達第九号により本件賃金規定を施行した後、労働組合の意見聴取を経て、本件就業規則を所轄労働基準監督署に届け出た。

 期末手当の支給額は、本件賃金規程一四三条及び一四五条の規定に基づき、成績率により増額又は減額されるが、減額については、懲戒処分(減給、戒告)及び訓告のほか、勤務成績が考慮されるところ、勤務成績については、減率適用者調書が作成され、その中で、厳重注意を含む賞罰、服装違反の注意回数、業績、態度等について具体的に記載されている。

‥‥昭和六二年四月、各労働組合との間に、同内容の労働協約を締結したが、労働協約六条には、組合員(専従を除く。)は、被控訴人から承認を得た場合を除き、勤務時間中に組合活動を行うことはできない旨の定めがある。

 

 (国労)東京地本は、昭和六一年一〇月三一日、指令第六号により、その時点では国鉄改革法案が衆議院を通過し、参議院の審議に入った段階であったが、この段階での当面のたたかいとして、「国労バッヂの完全着用を図ること」などを指令し、また、昭和六二年三月三一日、指示第一六〇号により、「国労バッヂは全員が完全に着用するよう再度徹底を期することとする。」などの指示を出した。

 

 国鉄時代には、国労以外の他の労働組合も組合バッヂを作成し、組合員に配布しており、各労働組合の組合員は、組合バッヂを着用していたが、被控訴人が発足した同年四月には、国労以外のほとんどの他の労働組合の組合員は、組合バッヂを外しており、同月下旬には、組合バッヂを着用していたのは、国労所属組合員のみという状況であったが、国労所属組合員であるという連帯感を互いに確認し合って、仲間意識、組合意識を高め、国労のもとに団結するシンボルとして着用されていた。

 

組合バッヂ着用規制の経過

(1)東海旅客鉄道株式会社設立準備室の山田室長は、昭和六二年三月二六日、関係各人事、厚生(担当)課長に宛てて、「社章の着用について」と題する事務連絡を行い、その中で、社章を同年四月一日の始業時から、勤務時間中は全社員着用することなどのほか、組合バッヂ等の着用はさせないことを連絡し、この指示を受けた新幹線総局は、同月三〇日、労働課長名で各長に宛てて、本件就業規則二〇条三項で組合バッヂの着用を禁止していることを全社員に同日以降掲示等により周知徹底させることを指示し、各長は、各職場に、組合バッヂの着用の禁止とこれに従わない場合の懲戒の対象となることを掲示した。

 

 さらに、同準備室青柳名で、同年三月三一日、関係各総務担当課長に対し、「社章、氏名札及び組合バッヂ等の着用状況報告について」と題する事務連絡を行い、同年四月一日に勤務を開始する現業社員の、社章、氏名札及び組合バッヂ等の着用状況を報告するよう求めた。

 そして、被控訴人は、同月九日に各機関の総務担当課長に対し、同月一〇日に各総務担当課(科)長及び各庶務助役に対し、それぞれ総務課長名で、「特に着用を認める胸章、腕章等について」と題する事務連絡を行い、勤務時間中又は会社施設内において着用することができる胸章、腕章等の範囲を明示し、組合バッヂが含まれないことが示された。

 ‥‥昭和六二年四月一三日、総務部勤労課長から各人事(担当)課長に宛てて、また、新幹線運行本部長から現場長に宛てて、「組合バッヂ着用者等に対する注意・指導について」と題する事務連絡を行い、勤務時間中に組合バッヂを着用している社員に対しては、本件就業規則三条第一項、二〇条三項、二三条に違反する行為であることを通告し、直ちに取り外すよう注意・指導を繰り返すこと、注意・指導に際しては、社員個別に行い、その状況を克明に記録すること、それにもかかわらず取り外さない場合には、本件就業規則違反として懲戒処分もあり得ることを通告すること、社章・氏名札不着用者に対しても、同様に注意・指導を徹底すること、これを行わない現場長、助役は労働契約不履行となることなどを連絡した。(以下略)

 

.JR東日本(神奈川・国労バッジ)事件・東京高判平11224判時1665号130頁裁判所ウェブサイト

(組合バッジ着用を理由とする訓告、厳重注意の処分、夏季手当の減額支給措置を不当労働行為とする)

 

 運輸大臣は、昭和五七年三月四日、国鉄に対し、いわゆるヤミ手当や突発休、ヤミ休暇、現場協議の乱れ等の悪慣行などについては、誠に遺憾なことであり、これら全般について実態調査を行う等総点検を実施し、調査結果に基づき厳正な措置を講じることが必要である旨の指示をし、これを受けて、国鉄総裁は、同月五日、各機関の長に対し、職場規律の総点検及び是正を指示する通達を発した。この総点検は、国鉄の全現業機関四八三一箇所を対象として行われたが、‥‥国鉄は、いわゆる悪慣行、ヤミ協定の即時解消、現場協議の乱れの抜本的正、現場管理者のバックアップ体制の確立、職場管理体制の充実等について緊急に全力を挙げて取り組むこととした。その後、国鉄は、昭和六〇年九月までに八次にわたる職場規律の総点検を行い、その結果に基づき、問題点の是正・改善等に取り組んだ(なお、いずれの総点検においても、組合バッジの着用状況についての調査項目はなかった。

 

 国労は、分割民営化反対等を主張し、昭和五九年八月一〇日に二時間のストライキを実施したほか、昭和六〇年に入ってワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年九月一三日、右闘争に参加した約五万九二〇〇人の国労所属組合員に対して戒告、訓告等の処分をした。さらに、国労は、昭和六一年四月一〇日から一二日まで、国鉄の分割民営化方針等に抗議して、ワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年五月三〇日、右闘争に参加した約二万九〇〇〇人の国労組合員に対し、戒告又は訓告の処分をした。

 

 国鉄は、昭和五九年七月一九日、国労、鉄労、動労、全施労及び全動労に対し、組合分会と現場責任者との間で職場単位で行われてきた現場協議制度が悪しき労使関係を生み出してきたとして、同年一一月三〇日に有効期間が満了する「現場協議に関する協約」の改訂案を提示し、同日までに交渉がまとまらなければ右協約を再締結しない旨を通告した。この結果、鉄労、動労及び全施労は、右改訂案どおりの協約を締結したが、国労及び全動労と国鉄との交渉は決裂し、国労及び全動労について右協約は失効した。

 また、国鉄は、昭和六〇年一〇月二四日、国労に対し、国労が派遣や休職などのいわゆる余剰人員対策に対して非協力の態度をとっていることを理由に、同年一一月三〇日で期限切れとなる「雇用の安定等に関する協約」について再締結しない旨通告し、両者間では、同年一二月一日以降無協約の状態となった。一方、国鉄は、動労、鉄労及び全施労との間で、同年一一月三〇日、期限を昭和六二年三月三一日として右協約を再締結した。

 さらに、国鉄は、昭和六一年一月一三日、「労使共同宣言(第一次)」の締結を各組合に提案した。‥‥諸法規を遵守すること、リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整えること、点呼妨害等企業人としてのモラルにもとる行為の根絶に努めること、必要な合理化は、労使が一致協力して積極的に推進すること‥‥が掲げられていた。この提案に対し、鉄労、動労及び全施労は受諾したが、国労は、拒否した。

 国鉄総裁は、昭和六一年三月五日、各機関の長に対し、八次にわたる職場規律の総点検の集大成として、職員個々の実態把握を統一的に行うため職員管理調書を作成するよう通達を発した。この職員管理調書は、同年四月二日時点の職員(管理職を除く。)について、昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までを調査対象期間として作成されたが、一般処分、労働処分等を含む七項目の特記事項のほか、評定事項として業務能力、知識等に関すること及び勤務態度に関することについて記入することとされていた(労働処分については、昭和五八年七月二日に処分通知を行った「五八・三闘争」から記入することとされたが、動労は昭和五七年一二月以降争議行為を行わなくなり、動労組合員に対する最後の処分通告は昭和五八年三月二六日であるため、動労組合員の労働処分歴は右調書には記載されないことになった。)。右の評定事項の勤務態度に関することの中の「服装の乱れ」の項目は、「リボン・ワッペン、氏名札、安全帽、安全靴、あご紐、ネクタイ等について、指導された通りの服装をしているか。」というものであり、組合バッジについては言及されていなかった(なお、「勤務時間中の組合活動」の項には、ワッペン着用、氏名札未着用については「服装の乱れ」の項で回答することとの注意書がある。)。

 

 国労は、昭和六一年一〇月九日、一〇日の両日、伊豆修善寺で臨時全国大会を開催したが、雇用と組織を守るために分割民営化反対をやめて労使共同宣言を締結するという国鉄当局との「大胆な妥協」を目指す執行部案は否決され、引き続き国鉄の分割民営化に反対していく方針が確認された。

 他方、鉄労、動労、日本鉄道労働組合(同年一二月一九日に真国鉄労働組合と全施労が統合され、組合員約一万名で結成された。)及び鉄道社員労働組合(昭和六二年一月二三日に組合員約三万名で結成された。)は、同年二月二日、新会社における一企業一組合の実現を目指し、鉄道労連を結成した。

 また、国労を脱退した旧主流派によって各地域ごとに結成された鉄道産業労働組合(鉄産労)は、同月二八日、その連合組織として鉄産総連を結成した。

 以上のような状況の下で、昭和六一年五月には組合員約一六万三〇〇〇名(組織率六八・三パーセント)を有する国鉄内最大の労働組合であった国労は、その組合員を昭和六二年二月には約六万四七〇〇名(同二九・二パーセント)、さらに、同年四月には約四万四〇〇〇名と急激に減少させた。なお、昭和六一年五月当時の他組合の組合員数は、動労が約三万一三五〇名(組織率一三・一パーセント)、鉄労が約二万八八七〇名(同一二・一パーセント)、全施労が約一五九〇名(同〇・七パーセント)であったが、昭和六二年二月には、鉄道労連が約一二万六〇〇〇名(同五五パーセント)、鉄産総連が約二万一〇〇〇名(同九パーセント)という状況となっていた。

3 就業規則の制定等

 控訴人の就業規則(以下「本件就業規則」という。)は、国鉄本社内に設置された東日本旅客鉄道株式会社設立準備室がその原案を作成し、昭和六二年三月二三日に控訴人の創立総会を経て制定された。同年四月一日には、いずれの現業機関においても各詰所にこれが備え付けられて社員が自由に閲覧し得る状態におかれ、‥‥控訴人は、各労働組合の意見聴取を経て、同年五月中旬ころまでに右就業規則を所轄労働基準監督署に届け出た。

 控訴人の賃金規程(昭和六三年八月人達第一二号による改正前のもの。以下同じ。)

のうち、期末手当の額の減額に関連する規定は‥‥減額に係る成績率については、一〇〇分の五減の事由として減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者と定められている‥‥これに関して作成される期末手当減額調書には、業績(問題意識、成果)、態度(執行態度、協調性等)、処分の有無、服装(組合バッジ着用等の注意回数等)について記入することとされている。

4 組合バッジの着用状況等

(一)本件組合バッジは、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルの四角形で、黒地に金色のレールの断面と「NRU」の文字をデザインしたものであり、「NRU」は「国鉄労働組合」を英訳した「National Railway Union」の頭文字をとったものである。国労の組合バッジは、国労結成後間もない昭和二三年に制定され、昭和四一年に組合結成二〇周年を記念して、現在のデザインに変更された。本件組合バッジは、国労に加入した際、国労手帳とともに組合員に無償で支給され、国鉄時代には、国労組合員は、国労からの指令等がなくても、自発的にこれを制服や作業服の胸や襟等に付けて着用していた。

 国鉄における職員の服装の整正については、就業規則六条に「職員は、服装を端正にし、常に職員としての規律と品位を保つように努めなければならない。」及び「職員は、総裁(又はその委任を受けた者)の定めるところに従って、制服等を着用し業務に従事しなければならない。」と定められ、また、「服制及び被服類取扱基準規程」の一六条に「被服類には、腕章、キ章、服飾等であって、この規程に定めるもの及び別に定めてあるもの以外のものを着用してはならない。」と定められていたので、国鉄が着用を認めたもの以外のキ章に当たるとして本件組合バッジの着用を禁止することも可能であったが、国労以外の労働組合の組合員もそれぞれ組合バッジを着用しており、国鉄当局がその取り外しを指導したり、着用を理由に処分したことはなかった(なお、国労のワッペン式大型バッジは、通称「くまんばち」と呼ばれ、デザインは本件組合バッジとほぼ同様であるが、縦二・六センチメートル、横二・八センチメートルと大きく、これは主に何らかの闘争時などを中心に着用された。この大型バッジについては、国鉄当局は、本件組合バッジと区別し、ワッペンの一種であるとして、国鉄末期に規制を行った。)

 

 

 国鉄分割民営化の過程で‥‥国労から多くの組合員が脱退していく中で、本件組合バッジを組合団結のシンボルとする国労組合員は、国労の組織防衛上の見地からその着用を続けていた。東京地本は、昭和六一年一〇月三一日、闘争指令を発し、その中で、当面の闘いとして、「国労バッチの完全着用をはかること。」などの指令を出し、さらに、昭和六二年三月三一日、各支部執行委員長に対し、「国労バッチは全員が完全に着用するよう再度徹底を期すこととする。」などの指示を出すに至り、本件組合員らは、就業時間中に本件組合バッジを継続的に着用した。

 

 

 国鉄分割民営化の過程で‥‥国労から多くの組合員が脱退していく中で、本件組合バッジを組合団結のシンボルとする国労組合員は、国労の組織防衛上の見地からその着用を続けていた。東京地本は、昭和六一年一〇月三一日、闘争指令を発し、その中で、当面の闘いとして、「国労バッチの完全着用をはかること。」などの指令を出し、さらに、昭和六二年三月三一日、各支部執行委員長に対し、「国労バッチは全員が完全に着用するよう再度徹底を期すこととする。」などの指示を出すに至り、本件組合員らは、就業時間中に本件組合バッジを継続的に着用した。‥‥。

 国鉄時代には、動労、鉄労など国労以外の他の労働組合も、組合バッジを作成し、組合員に配付しており、各労働組合の組合員は、組合バッジを着用していたが、控訴人が発足した昭和六二年四月には、国労以外の他の労働組合の組合員のほとんどは組合バッジを外しており(鉄道労連は、同月一日付け機関誌に「着けよう鉄道労連バッジ」との呼び掛けを掲載したが、鉄道労連の下部組織の東鉄労組合員はこれを着用しなかったし、東鉄労としては、会社発足の困難な途上において労使がいらざる紛争の種を作るべきではないとして、所属組合員が就業時間中に組合バッジを着用することがあれば、強力に指導して外させる方針であった。)、同月下旬ころには、控訴人の社員で組合バッジを着用していたのは、ほぼ国労組合員のみというに等しい状況であった。

 

組合バッジ着用規制と本件処分に至る経緯

 

 国鉄の東日本旅客鉄道株式会社設立準備室の小柴次長は、昭和六二年三月二三日、東日本地区各機関総務(担当)部長(次長)に対し、「社員への「社員証」「社章」「氏名札」の交付等について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、控訴人発足に当たって全社員に交付すべき社員証、社章及び氏名札は、勤務箇所長から直接社員一人一人に手渡しで交付すること、組合バッジを着用している場合には、組合バッジを外させるとともに、社章を着用させることを指示した。右指示に従い、勤務箇所長は、社員に対し、同年四月一日又はその前後にされた社章等の交付の際、組合バッジを取り外すよう指導した。

 

 控訴人の人事部勤労課嶋副長は、昭和六二年四月七日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「社章及び氏名札等の着用状況調査について」と題する事務連絡を行い、各現業機関の社員を調査対象として同月一日から同月七日までの間の社章、氏名札及び組合バッジの常態的な着用状況の報告を求め、特に、組合バッジ着用者数については、系統別に組合別人員数を計上することを求めた。さらに、同副長は、同月二三日、調査期間を同年五月七日から同月一三日までとして同様の調査及び報告を求める「社章、氏名札等の着用状況調査について(第2次)」と題する事務連絡を行った。右二回の調査の結果報告によると、組合バッジ着用者は、第一次調査で五六四五名(全体の八・八パーセント)、第二次調査で二七九八名(同四・四パーセント)であり、そのほとんどが国労組合員であった。

(三)控訴人の人事部勤労課長は、昭和六二年四月二〇日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「社章、氏名札着用等の指導方について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、「組合バッヂ着用者に対しては、服装違反である旨注意を喚起して、取り外すよう注意・指導すること。その際の注意等に対する言動を含めた状況を克明に記録しておくこと。繰り返し注意・指導を行ったにもかかわらず、これに従わない社員に対しては、「就業規則」、「社員証、社章及び氏名札規程」に違反するとして厳しく対処することとし、人事考課等に厳正に反映させることとされたい。」と指示した。これを受けて、東京圏運行本部の総務部人事課長及び勤労課長は、関係現業機関の長に対し、翌二一日、同旨の事務連絡を行い、さらに、同月二八日、「服装等の整正状況のは握について」と題する事務連絡を行って、決められた服装をしない社員の整正状況について個人別把握を行うよう指示した。さらに、控訴人の人事部勤労課長は、同年五月二一日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「服装違反者に対する注意・指導の徹底について」と題する事務連絡を行い、「依然として管理者の注意・指導に従わず、服装違反を繰り返している社員が見受けられることは甚だ遺憾である。」として、更に強力に注意・指導の徹底を行い、直ちに改善されるよう取り組むべきことを指示した。

 控訴人の人事部長は、昭和六二年五月二八日、関係各機関の総務部長等に対し、「服装違反者に対する方針について」と題する事務連絡を行い、「未だ多数の者がこれら管理者の注意・指導に従わず、社章、氏名札を着用せず、組合バッヂ等を着用して勤務に就いていることは誠に遺憾であるといわざるをえない。」として、「これら服装違反者に対して、従前の注意・指導を踏まえて一層の改善をはかるべく、さらに強力に取り組まれたい。」と指示した。その中で、同人事部長は、「社章、氏名札の未着用及び組合バッヂ等を着用して勤務した者に対しては、厳正に対処せざるを得ないことをここに警告する。」旨の警告文の案文を示して、これを参考に「各現場での点呼、掲示等により社員に対して周知徹底を図り、改善の実をあげるとともに、貴職におかれては現場の実態について完全に把握し、厳正な対処の準備を図られたい。」と指示した。これを受けて、東京圏運行本部総務部長は、同日、各現業機関の長に対し、「服装違反者に対する方針について」と題する事務連絡を行い、その中で、右案文と同内容の東京圏運行本部長名による警告文案を示し、これを参考として会社の右方針の周知徹底を図るべきこと等を指示し、翌二九日、各現業機関において、右文案どおりの警告文が掲示された。

 以上のような経緯を経て、控訴人は、昭和六二年六月一二日、本件組合バッジを着用していた本件組合員らのうち原判決別紙組合員目録1記載の者に対し、本件処分を行い、

さらに、同年の夏季手当について、本件組合員らに対し、賃金規程一四五条三項に定める成績率(減額)の対象者に該当するとして、本件減額措置を行った。

 

 

ウ JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止処分事件 東京地判平24117労判106718

 

(エ)包括和解をめぐる動き

a 中労委は,平成16年9月16日及び平成17年1月21日,中労委に係属していた国鉄の分割・民営化と会社発足に伴う職員の配属発令並びにその後の兼務・配転等発令に関連する事件13件について和解勧告を行い,国労と原告JR東日本は,これを受諾して和解が成立した(甲2)。

b 中労委は,平成17年10月31日,中労委に継続していた昇進試験に関連する事件9件についても和解勧告を行い,国労と原告JR東日本は,これを受諾して,都労委係属事件14件を含む合計23件について和解が成立した

 さらに,P10及び原告P1ら8名は,同月5日,国労中央本部及び東日本本部に対し,原告JR東日本の不当労働行為体質は何一つ変わっていないにもかかわらず労働委員会係争事件を全面的に取り下ろす今回の和解は原告JR東日本への全面屈服にほかならないなどとする抗議文を提出したが,中央本部及び東日本本部ともに回答しなかった。

d 中労委は,平成18年11月6日,国労組合員の会社への採用問題を除き,出向・配転等に関連する事件30件,バッジ処分事件11件及びその他不利益取扱い等に関連する事件2件の合計43件の抗争事件について和解勧告を行い,国労及び原告JR東日本は,これを受諾して,出向・配属等の不当労働行為が争われた都労委ほか3県労委の係属事件6件,バッジ処分の都労委係属事件10件及びその他の不利益取扱い等の都労委係属事件2件を含む合計61件について和解が成立した。

 これにより,P10及び原告P1ら8名並びにその他国労組合員による個人申立て事件を除き,国労と原告JR東日本との間の労働委員会における係争事件は全て終結した。

(4)前提事実及び上記認定事実等を基に検討する。

ア 前提事実(4)ア記載のとおりの国労バッジの形状及びその着用が身体的活動としての労務提供に格別支障を生じさせないことからすれば,その違反行為の内容に照らし本件各処分の量定については異論を差し挟む余地もないではない。加えて,前記のとおり,国労が,昭和62年3月末に国労バッジ着用指示を出していたこと,原告JR東日本と国労とが分割民営化を巡って対立してきた経緯があること等に照らせば,国労バッジ着用行為に対する本件各処分(出勤停止5日または10日であって,賃金等の減額のみならず夏季手当15%の減額を伴う重い処分である。)が,原告JR東日本の国労に対する嫌悪の念に発したものであるとする見方も成り立ち得る余地はあろう。

イ しかし,原告JR東日本は,国労組合員等の組合バッジの着用について,昭和62年4月の設立当初から一貫して厳正に処分する姿勢を示し,実際に違反者に対し訓告等の処分を繰り返し行っていたものであり,平成14年3月28日の本件警告文の掲出は,時期的に四党合意に関し与党からの三党声明が出された時期(平成14年4月26日)と近接しているものの,設立当初からの基本的な方針に沿う,その延長線上の行動であったということができる。原告JR東日本設立以降,本件警告書掲出までの間でみても,P10らの国労バッジ着用による就業規則違反行為は約15年間にわたり多数回に及ぶもので,かつ,同人らが何ら態度を変える様子もなく違反行為を反復,継続していたことからすれば,その処分量定を加重していくこと自体には合理的な理由があるものであって,過重な処分がなされたことのみを理由に,直ちに,本件各処分が不当労働行為意思の発現であると認めることはできない。

 当初は組織的な組合活動としてバッジ着用行為を指示し,組織としても不当労働行為救済申立てを行うなどしてきた国労が,平成14年3月末以降は,組織として不当労働行為救済申立てを行うことはなくなり,平成18年11月には,バッジ事件を含む合計61件の不当労働行為救済申立事件を取り下げていること,国労は,組合バッジ着用に関し,機関決定違反として統制処分をするまではしないが,支持はしないという態度であること,平成15年7月以降は国労バッジ着用者がP10のみとなり,P10が再就職して国労バッジの着用を止めた後,その活動を引き継いで行おうとする動きもなかったこと等にかんがみれば,P10のバッジ着用行為に組合活動としての保護が与えられるのは前記のとおりであるとしても,遅くとも本件各処分の対象となった平成19年ころには,既にその組合活動としての色彩が後退し,P10の個人的行為の側面が強くなっていたことは否定できないところである。

オ 以上の諸事情を考慮すれば,前記ア記載の事情を考慮しても,本件各処分から原告JR東日本の支配介入の意思が推認されるとはいえず,本件各処分が支配介入に当たるということはできない。

(5)以上のとおり,原告JR東日本が本件各処分を行う決定的な動機が,四党合意の受入れに反対するP10及び原告P1ら8名の国労内少数派の存在を嫌悪したことにあると認めることはできないから,本件各処分を支配介入行為であると認めることはできない。

2018/08/19

私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその6)

承前

 

2.国鉄・JR判例の検討

 

 ここでは、私鉄と同業種といえる国鉄、JRにおけるリボン闘争、組合バッジ等事件の判例を分析して、私鉄総連春闘ワッペン問題を攻略するにあたって有効な手法とは何かを明らかにしていきたい。

 

(1)国労青函地本リボン闘争事件

 

 本件リボン闘争とは、国労が昭和45年春闘に際し三月中旬ころから全国各支部に闘争指令を発し、右指令に基づき青函地本は同月二〇日ころよりリボン闘争を含む職場点検闘争に入ることを各職場分会に指令した。

 これにより国鉄青函局管内では国労組合員が同年三月二〇日から五月八日にわたって「大巾賃上げを斗いとろう、16万5千人合理化紛砕」と書いた黄色のリボン(縦10㎝横3.5㎝)制服に着用して勤務に就いた。

 当局は再三に亘って取り外しを指示したが、従わなかった組合員延べ492名を訓告処分に付し、このうち54名が国鉄総裁を相手取って訓告処分無効確認と損害賠償請求の訴訟を起こしたものである。

 一審はリボン着用を正当な組合活動として訓告処分を無効としたが、控訴審ではリボン闘争を違法とする逆転判決となった。

 

 

ア 国労青函地本リボン闘争事件 函館地判昭47519判時66821

 

(ア)要旨

  

 一審函館地裁は、訓告処分を無効とし、訓告1回につき2500円の慰藉料の支払を命じた(一部認容、一部却下)。リボン闘争は、職務専念義務にも服装規定にも違反しないと判示した。

 

(イ)国鉄側の反論 抜粋

 

 二 反論の一(勤務中のリボン着用行為等の違法性)

1 日本国有鉄道法第三二条は、日本国有鉄道職員の服務の基準として「職員は、その職務を遂行するについては誠実に法令および日本国有鉄道の定める業務上の規程に従がわなければならず、又、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない」旨を規定し、国家公務員法第九六条第一項、第九八条第一項、第一〇一条第一項とほゞ同様のことを規定している。

 原告らは、本件の勤務中のリボン着用行為は組合員の連帯意識と団結強化をはかるとともに、団結を示威する組合活動である旨主張しているが、このことは原告らが勤務時間中組合活動をしたことを自認し、又、組合の被告に対するデモンストレーシヨンないし示威運動をしたことを認めるものである。

 原告らが執務をとりながら他方示威運動等の組合活動をすることは、職務に専念していることにならないばかりか、次に述べる服制についての法律や日本国有鉄道の定める規程にも違反するものである。

 すなわち、被告日本国有鉄道の職員に対しては、その勤務中の服装について種々の規定(安全の確保に関する規程第一四条、職員服務規程第九条、営業関係職員の職制及び服務の基準第一四条、服制及び被服類取扱基準規程第三条・第九条、鉄道営業法第二二条等)が設けられ、現場の職員に対し制服(作業服を含む。)を着用し、服装を整えて勤務することを命じている。

 法律又は被告日本国有鉄道が、その職員に対し、服装上の規制をなす目的ないしその必要性は

(一) 国鉄の性格が公共の福祉を増進することを目的としているため、その職員も公共の福祉のために勤務し、公正中立かつ品位を保持して執務することが必要であるため(日本国有鉄道法第一条、就業規則第四条)。

(二) 職員が職務を執行する場合、旅客公衆に対し、国鉄職員であることを識別させると共に、不快感をあたえないため(鉄道営業法第二二条)。

(三) 職員が執務する場合、制服を着用し服装を整えることによって、或は又定められた作業服を着用することによって職務に対する認識心構えができ、そのため注意力が集中され、それにより列車・自動車の運転、船舶の運行の安全が確保されると共に、自己の身体の安全をも保持できるため(安全の確保に関する規程第一四条、運転取扱基準規程第一八条)

等である。

 したがつて、日本国有鉄道の職員のうち、制服の定のある職員は正規の服装を整えて執務することが、被告日本国有鉄道に対する職務を遂行するについての義務となっているものであり、職員がこの義務を履行することによって職場の規律が維持されるもので、リボン、ゼツケン、腕章、はち巻をつける等正規外の服装をして就労することは右労働義務の本旨に従った履行とはならないものであるばかりでなく、職場の規律を紊し、被告日本国有鉄道の業務の正常な運営を妨げることになるものである。

 

三 反論の二(本件訓告は原告らの権利を何ら侵害していない)

 原告らは、「被告職制の右行為は原告らの正当な憲法上の権利を故意又は重大な過失によって侵害したものである」と主張しているが、労働者の団結権、団体行動権が憲法上保障されているといつても、それにより、直接労使間の具体的な権利義務関係が発生するものではなく、国家が勤労者に対して、積極的に関与、助力して、その実現をはかる責務のあることを明らかにしたものである。

 しかも、憲法上保障されている労働者の団結権、団体行動権といえども絶対無制限のものではなく、使用者の有している権利と妥当な調和を保ちつつ、その範囲内においてなるべく保障しようという趣旨のものであつて、団結権や団体行動権が保障されている民間企業の労働者においても、就労義務と組合活動とは厳格に区別せられるべきものであつて、団結権、団体行動権が保障されているからといつて、組合活動の名の下になにをしても許されるというものではない。

 しこうして、いつたん、就労状態に入った以上、使用者の労務指揮権にしたがつて、誠実にその義務を履行すべきであって、使用者の労務指揮権の行使によって、組合活動が事実上阻止される結果となるとしても、これを以て、直ちに団結権の侵害とか団結権保障の精神にもとるものとして違法視すべき事柄ではない。

 まして、公労法により、団体行動権の制限を受けている日本国有鉄道の職員である原告らが、既述の法律や業務運営の必要上設けた諸規程に違反した故をもつて、上司より注意を受けたり、訓告を受けたことが、直ちに原告らの団結権を侵害したものということはできない。

四 反論の三(本件リボン着用は職場内慣行になっていない)

 

(ウ)判決書・抜粋

 

1 職務専念義務違反について

 ‥‥労働者の職務専念義務とは、使用者から要請されている一定の精神的ないし肉体的活動力を完全に提供すべき義務を意味するにすぎないと解すべきであるから、ある行為がこの義務に違反するかどうかは、それが勤務時間中の組合活動か否かによって一律に決せられるべきものではなく、当該行為の性質内容を具体的に検討したうえ、労働者が当該行為をなすことによってその精神的ないし肉体的活動力を完全に提供しなかつたことになるのかどうかによって判断すべきである。従って勤務時間中の組合活動であっても、右の意味で労働力を完全に提供していると評価されるときには、何ら職務専念義務に違反していないというべきである。

 ‥‥しかして、右リボンの着用はこれを制服等に付けることによって一切の有形的行為を終了しその後は格別の行為を必要としないものであるから、該リボンに記載された文言の内容にかゝわらず当該職種に要請される労務に精神的、肉体的に全力を集中することが可能であり、職務専念義務と両立し得ないものと解することはできない。

 ‥‥原告らが勤務時間中本件リボンを着用したことにより職務の遂行上注意力が散漫となり支障をきたしたものと認めるに足りる証拠はない。

 ‥‥本件リボンに記載されている文言が、労働者ないし労働組合の要求として不当なものであるとは認め得ないし、また、原告らの職種、本件リボンの形状およびその着用態様に照らすと、本件リボンを着用することによって原告らの服装がそれ自体で社会通念上異状ないし不快なものとなるとは言い難い。そうであるならば、労働者ないし労働組合が、団結権ないし団体行動権に基づいて、団結示威ないし連帯感強化行為として本件リボンを着用したこと自体を違法ないし不当な組合活動ということはできず、本件リボン着用行為は、それ自体としては正当な組合活動であつたと評価される。

 ‥‥本件リボンの着用によりこれら輸送の安全を害し、その正常な運営を阻害し或いは職場の公共性に支障をきたしたものと思料される特段の事情も認め難いところである。

 ‥‥本件リボンを着用したことは職務専念義務に反するものとは認め難いものといわなければならない。‥‥

2 服装違反について

(二)‥‥使用者が労働者の服装に関してなす規制は、労働者の労務提供義務の履行の態様を定めたものと解されるから、服装の規制が許されるのは、それが使用者の業務の遂行上合理的な理由がある場合に限られるのである。そして、合理的な理由の有無は、使用者の業務の性質や内容および当該労働者の職務内容について十分考慮して判断すべきことはもちろんであるけれども、このような点を考慮してもなおなんらの合理的な理由がないのに服装の規制をなすことは許されない。被告の前記「服制及び被服類取扱基準規程」第九条第三項も叙上の見地から解釈すべきであって、右規定があるからといつて他に何ら正当な理由なく、それが着用することを命じられていないとの理由によって社会通念上相当と認められる服飾類の着用を禁止することは許されない。‥‥。

(三) 被告は右服装の規制をなす目的ないし必要性について

‥‥国鉄職員であることの識別について考えると、本件リボン着用によって国鉄職員であることの識別に支障を来すものとは考えられない。また、旅客公衆に対する「不快感」の点についてみると、前記のような原告らの職務の内容、本件リボンの形状、大きさ、内容からみて通常の健全な社会的感覚を有する者に本件リボンの着用が不快感を与えるものとは考えられない。もつとも、多数の旅客公衆の中には不快感を抱く者がいるであろうことは否定できないけれども、その不快感は労働組合やその活動に対する個人的悪感情を原因とするものであろうと考えられる。しかしそのような現代の正常な労働法感覚に反する悪感情からくる不快感はなんら考慮すべきではない。

 第三に諸々の「安全の確保」については、ただ注意力の集中の点で問題となりうるが、これが余りにも抽象的な危険性であることは、さきに職務専念義務違反の判断において述べたとおりであり、これをもつて本件リボンの着用を禁止することは許容し難い。

 その他本件リボン着用行為によって被告の業務の遂行に支障を来したことを認めるに足りる証拠はない。

 以上のように考えると、社会通念、現代人の労働法的知識および感覚ならびに経験則に照らしても、本件リボン着用行為が被告が主張する服装の規制をなす目的ないし必要性に背馳しているとは認められず、本件リボン着用行為が服制違反になるものとしてこれを規制する合理的理由を見出すことができない。

3 職場の規律違反又は職務命令違反との関係

 (略)

4 むすび

 以上、本件リボンの着用が憲法、公労法等によって保障される団結権、団体行動権に基づくさゝやかな組合活動であることを思えば、これが格別の支障を生ずると認め難い本件においてはこれを正当なものとして許容すべきものというべきである。

七 本件訓告処分の効力

 本件リボン着用行為が法律および被告の定めた諸規程に違反しているとは認められないこと、被告が原告らに対し本件リボンの着用を禁止したことに合理的理由があつたとは認められないことおよび原告らの本件リボン着用行為が正当な組合活動と認められることは前記のとおりである。‥

 

 国鉄は控訴した

 

イ. 国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529判時7046 

 

(ア)要旨

  原判決中控訴人の敗訴部分を取消、被控訴人の請求をいずれも棄却する逆転判決。リボン着用は職務専念義務に違反し、鉄道営業法第22条及び国鉄の服装に関する定めに違反し違法であり、取外し命令に従わない職員の訓告処分を適法とした。リボン闘争を違法とする判断枠組を示したリーディングケースである。

 

 

(イ)判決書・抜粋

 

 1 職務専念義務違反について

 日本国有鉄道法第三二条第二項は、「職員は、全力をあげて職務の遂行に専念しなければならない。」と規定する。その趣旨は、日本国有鉄道の職員は、勤務中は、法令等による特別の定めがある場合を除き、その精神的、肉体的活動力の全てを職務の遂行にのみ集中しなければならず、その職務以外のために、精神的、肉体的活動力を用いることを許さないとするものである。そして、これが法律に特に明記されているのは、右の趣旨の職務専念義務が、国鉄職員としての基本的な義務であり、国鉄職員が右義務を適正に果すことによって、はじめて、国鉄の目的である鉄道事業等の能率的な経営による公共の福祉の増進(日本国有鉄道法第一条参照)が可能となるからである。

 国鉄職員が勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、通常はこれによって当然に職務に対する注意力がそがれるから、かかる行為または活動をすることは、原則として職務専念義務に違反するものであり、ただ、その行為または活動が職務専念義務に違反しない特別の事情がある場合、すなわち、その行為または活動が職員の職務に対する精神的、肉体的活動力の集中をなんら妨げるものでないと認められる特別の事情がある場合に限り、その行為または活動は違法の評価を免れることができる。そして、かかる特別の事情の存否は、その行為または活動の性質、態様等を総合して判断すべきものであるが、特別の事情があるとするためには、その行為または活動が職員の職務に対する精神的、肉体的活動力の集中を妨げないことが確定される必要があり、その行為または活動が職員の右活動力の集中を妨げるおそれが存するときは、特別の事情があるということはできない。このように、職員の行為または活動が職務専念義務に違反するかどうかは、それが職務の遂行と関係があるかどうか、その行為または活動が職務に対する精神的、肉体的活動力の集中を妨げないものであるかどうかによって決せられるものであり、その行為または活動によって、具体的に業務が阻害される結果が生じたか否かは、右の判断とは直接関係がないものというべきである。

 そこで、右の見地から、被控訴人らの本件リボンの着用が職務専念義務に反するものであるかどうかを検討する。

 ‥‥被控訴人ら組合員は、本件リボンを着用することにより、国労の要求を明らかにし、これを支持する意思をあらためて自己確認するとともに、組合員の団結を固め、使用者に対する示威と国民一般に対する教宣活動とすることを目的としたものであることが認められる。右事実によれば,本件リボンの着用は、組合活動としてなされたものであり、被控訴人らの職務の遂行とまつたく無関係であることは明白であるから、本件リボンの着用によって、職務に対する精神的、肉体的活動力の集中がなんら妨げられなかつたと認められない限り、被控訴人らが本件リボンを勤務時間中に着用したことは、職務専念義務に違反するものといわねばならない。

 被控訴人らは、本件リボンの着用は労働義務の履行ないし円満な労務提供の義務の履行に実質的、具体的な支障がなく、そのおそれもないと主張する。本件リボンの着用行為は、有形的な行為としては、これを制服等につけることによって、その一切を終了するものであり、物理的には被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものではない。しかし、前記のとおり、被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、したがつて‥‥勤務の間中、組合員相互に本件リボンの着用を確認し合い、これを着用していない組合員には着用を指導していたものであつて、本件リボンの着用が精神的に被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものでなかつたとは到底認めることはできない。かえつて前記のような本件リボン着用の経緯、態様よりすれば、被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものというべきであり、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでなかつたことは明らかである。 

 よって、被控訴人らが勤務時間中本件リボンを着用したことは、職務専念義務に違反するものである。

2 服装違反について

 国鉄職員の服装については、鉄道営業法第二二条は「旅客及公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ」と規定し、この規定の趣旨を受けて、安全の確保に関する規程第一四条、職員服務規程第九条、営業関係職員の職制及び服務の基準第一四条、服制及び被服類取扱基準規程第三条、第九条等の定めがなされ、被控訴人らのような現業に従事する職員に対し、制服(作業服を含む。以下同じ。)を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられていることは、当事者間に争いがない。‥‥控訴人の服制及び被服類取扱基準規程では、現場職員の制服等の制式と着装方を定め、これを職員に貸与するものとし(第三条)、かつ「被服類には、腕章、キ章及び服飾類であって、この規程に定めるもの及び別に定めるもの以外のものを着用してはならない」(第九条第三項)と規定して、本件リボンのようなものの着用を禁じている。

 国鉄職員は、「その職務を遂行するについて、誠実に法令及び日本国有鉄道の定める業務上の規程に従わなければならない」(日本国有鉄道法第三二条第一項)のであり、被控訴人らの本件リボンの着用は、前記法律及び規程、なかんずく服制及び被服類取扱基準規程第九条第三項に反することが明白であるから、違法なものといわねばならない。

 被控訴人らは、使用者が労働者の服装について規制することができるのは、業務の遂行上その規制をすべき合理的な理由がある場合に限られるところ、本件リボンについては、その着用を禁止しなければならない合理的な理由はないと主張する。しかし、前記のとおり、国鉄職員のうち旅客及び公衆に対する職務を行なう者については、鉄道営業法第二二条によって、制服の着用が義務づけられており、また、直接右法条に該当しない者であっても、現業に従事する者について、公共の福祉の増進を目的とする国鉄の職員としての公正中立と品位を保持し、旅客公衆に対し国鉄職員であることの識別を可能ならしめ、かつ不快感を与えることを防止し、その職務が旅客公衆の身体、財産の安全にかかわるものとして、特に強く要請される職場規律の保持を確保するために、制服を着用すべきものとすることが必要であるから、控訴人の前記の諸規程において、被控訴人ら現業に従事する職員に対し制服を着用し、服装を整えて勤務することが命ぜられていることは、十分合理的な根拠を有するものであり、そして、右制服に、定められた服飾類以外の物を着用することを禁止することも、制服の性質、趣旨よりすれば、これを不合理な規制ということはできない。しかも、これを実質的に考察しても、旅客公衆は、国鉄職員であることとその職員の職務の内容を職員の制服と制服に着用された腕章、徽章等によって識別するのであるから、国鉄職員が着用するリボン、プレート等はその職務に関するものと考えることは当然であり、したがつて、国鉄職員が制服の上に職務と無関係のリボン、プレート、腕章等の記号を着用するときは、いたずらに誤解、混乱を招くおそれがあるから、これを禁止することについては十分の根拠があるものである。また、本件リボンは、前記のとおり組合活動として着用されたもので、その内容は組合の要求を記載したものであるところ、‥‥被控訴人ら国鉄職員がこれを着用して勤務していることに対し旅客公衆の中には不快感を抱く者があることは十分予想される。被控訴人らは、そのような不快感は反組合的感情で保護するに値しないと主張するが、しかし、その不快感が、本件リボンの内容である国労の要求内容に対する不満にあるのではなく、被控訴人らが職務に従事しながら本件リボンを着用して組合活動をしているその勤務の仕方に対する不信、不安によるものであるときは、国鉄が公共の福祉の増進を目的とする公法人で、その資本は全額政府が出資していることを考えると、右の趣旨の旅客公衆の不快感は十分理由があるものであつて、これを単なる反組合的感情にすぎないものということはできない。さらに、本件リボンと職場の規律、秩序の関係についても、本件リボンが前記のとおり国労の要求を記載したもので、これを着用することによって国労の団結をはかるものであるところ、国鉄内には、国労のほか、これと対立関係にある鉄道労働組合があることは顕著な事実であり、本件リボンの着用が鉄労組合員その他組合未加入者に心理的な動揺を与え、‥‥国労の組合員の中にも指令に反し本件リボンを着用しなかつた者が相当数あつたことが認められるが、これらの者にも精神的な重圧となったことも十分考えられ、勤務時間中の本件リボンの着用は、その勤務の場において、不要に職場の規律、秩序を乱すおそれのあるものというべきである。以上の次第で、本件リボンの着用を禁止すべき合理的な理由がないとの被控訴人らの主張は採用できない。

 よつて、本件リボンの着用は、控訴人の服装に関する定めに違反するものであり、法律及び控訴人の規程の遵守を求める法律に反する違法のものである。

3 職場内慣行について

 ‥‥控訴人がリボン闘争を容認したことはなく、本件のようなリボンの着用が職場内慣行となっていたと認める余地はない。

 よつて、この点の被控訴人らの主張は失当である。

4 むすび

 以上詳述したとおり、被控訴人らの本件リボンの着用は、職務専念義務に違反し、服装に関する定めにも違反する、違法のものである。

 被控訴人らは、本件リボンの着用は、団結権、団体行動権の行使としてなされた正当な組合活動であると主張する。本件リボンの着用が組合活動として行なわれたことは前記のとおりであるが、これが被控訴人らの基本的義務である職務専念義務に違反するものであり、かつ控訴人の服装に関する定めにも違反するものであってしかも、認定事実のとおり、被控訴人らは、一ケ月以上もの長期間、職務の時間の間中本件リボンの着用を継続していたものであるから、本件リボンの着用は、被控訴人らの団結権、団体行動権の行使として許容される限度を超えるものといわねばならず、被控訴人らの主張は採用できない。

四 本件訓告処分の適否

 ‥‥懲戒の基準に関する協約第一条第一号の「日本国有鉄道に関する法規又は令達に違反した場合」及び第三号の「上司の命令に服従しない場合」に該当することは明白であり、被控訴人らの訓告処分は、いずれも適法である。

 被控訴人らは、本件訓告処分は、労働組合法第七条第一号に違反し無効であると主張するが、被控訴人らの本件リボンの着用が正当な組合活動に当らないことは前記のとおりである‥‥

 

2). 国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529に示された厳格な職務専念義務論は、近年の国労バッジ事件判例で踏襲されている

 

ア、厳格な職務専念義務論の行方

 

  国労青函地本リボン闘争事件 札幌高判昭48.529はリボン闘争を違法とするリーディングケースであり、「日本国有鉄道法第三二条第二項‥その趣旨は‥‥国有鉄道の職員は、勤務中は、法令等による特別の定めがある場合を除き、その精神的、肉体的活動力の全てを職務の遂行にのみ集中しなければならず、その職務以外のために、精神的、肉体的活動力を用いることを許さないとするものである。‥‥勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、通常はこれによって当然に職務に対する注意力がそがれるから、かかる行為または活動をすることは、原則として職務専念義務に違反する‥‥その行為または活動によって、具体的に業務が阻害される結果が生じたか否かは、右の判断とは直接関係がないものというべき」と判断枠組を示したうえで、「本件リボンの着用行為は、有形的な行為としては、これを制服等につけることによって、その一切を終了するものであり、物理的には被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものではない。しかし、前記のとおり、被控訴人らは、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、したがつて‥‥勤務の間中、組合員相互に本件リボンの着用を確認し合い、これを着用していない組合員には着用を指導していたものであつて、本件リボンの着用が精神的に被控訴人らの活動力の職務への集中を妨げるものでなかつたとは到底認めることはできない。‥‥本件リボンを着用することにより、組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものというべきであり、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでなかつたことは明らかである。」

 この厳格な職務専念義務論は、 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974によって採用され、公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した。これは最高裁判例なので決定的な意義があった。

 

 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659の新村正人調査官判解は目黒電報電話局事件判決について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」としているが、これが法律家の標準的見解であり、通説でもある。

 

 例えば 菊池高志[1983]によれば、目黒電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべきとしており、この見方が有力なのである。

 ちなみに国鉄中国支社事件判決・最一小昭49228民集28166において日本国有鉄道法31条1項に基づく懲戒処分は、行政処分ではなく、私法上の行為としているから、国鉄職員懲戒処分の判例についても、公労法17条1項の争議行為が禁止されている点は別として異なるとはいえ、私企業一般の先例となりうる。

 

 ところが、大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、リボン闘争について最高裁が初めて判断を下し、本件リボン着用を就業時間中の組合活動として、労働組合の正当な行為にあたらないとし「原審の判断が結論において正当」としながら、最高裁自身の理由を示さず目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974を先例として引用なかったのである。

 引用せずとも同判決を踏襲した判断とみるのが有力ではあるが、理論的説示がなかったために、玉虫色的解釈を可能とし、定着していたリボン闘争違法論をやや混迷化させた印象を与えている。

 しかしながら、このことによって厳格な職務専念義務論の私企業への適用判断が行方不明になったわけではない。

 企業秩序論の無許可集会事案であるが、済生会中央病院事件最二小判平元・1211民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」と判示しているように、大筋で最高裁は一般私企業、組合活動においても、目黒電報電話局判決を引用せずとも踏襲している判断を示しているといえるのである。

 

 また、大成観光事件最高裁判決以降、純粋な組合活動事案で厳格な職務専念義務論をとっている下級審判例はけっこうある。ここでは6判例を引用しておく。

 

 

△国鉄鹿児島自動車営業所事件 鹿児島地判昭63627判時1303143頁裁判所ウェブサイト

 

「国鉄職員は国家公務員法の適用を受けないものの、公務員とみなされ(日本国有鉄道法三四条)、使用者たる国民に対してその勤務時間中は職務に専念すべき義務があり(同法三二条二項)、その肉体的、精神的活動を職務の遂行にのみ集中しなければならないものであるから、組合員バッチの着用が右職務専念義務に反するものである場合は、使用者としても、組合員に対して勤務中はバッチを外すべきことを命じうる」

 

●西福岡自動車学校腕章事件 福岡地判平7920労判695号133頁裁判所ウェブサイト

 

「組合活動である本件腕章着用闘争が労働組合の正当な行為であったか否かについて検討すると、一般に、労働者は労働契約に基づき、就業時間中その活動力をもっぱら職務の遂行に集中させるべき職務専念義務を負うものであって、就業時間中に組合活動を行うことはその具体的態様にかかわらず右職務専念義務に反するものであるから、使用者の明示・黙示の承諾や労使慣行が成立しているなど特別の事情がない限り、労働組合の正当な行為にはあたらないものと解するのが相当である」

 

 

●JR東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030判時162638

 

「本件就業規則三条一項の「社員は、被控訴人事業の社会的意義を自覚し、被控訴人の発展に寄与するために、自己の本分を守り、被控訴人の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない。」という規定は、社員の職務専念義務という観点からは、社員は、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。‥‥そして、労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり、‥‥本件組合バッヂ着用行為は、前示のとおり、組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、被控訴人の社員としての職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという被控訴人社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。 また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない」

 上記説示では、職務遂行に支障がなくても違反とも述べている。注目すべきは、わざわざ「労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっている」と述べ、職務専念義務をたんに、JR東日本就業規則3条1項の就業規則に反しているという観点だけではないことを示しているという点でパーフェクトに近い説示といえるだろう。

 判決の要旨は、勤務時間中に組合バッヂを着用する行為は、それが労働組合員であることを顕示して組合員相互間の組合意識を高め、使用者及び他の労働組合に所属する社員との対立を意識させ、注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであったと認められる等判示の事実関係の下においては、当該行為により職務の遂行が阻害される等の具体的な実害が発生しないとしても、企業秩序の維持に反するものであり、職務専念義務、勤務時間中の組合活動の禁止、服装の整正義務を定める就業規則の各規定に違反するとし、厳重注意や夏期手当の減額支給等の措置は不当労働行為に当たらないとした。

 なお上告審最二判平10・7・17労判744号15頁は「原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない」として棄却している。

 

△JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件・東京高判平11224判時1665号130頁裁判所ウェブサイト

 

「本件就業規則三条は、服務の根本基準について定め、同条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定している。これは、社員がその就業時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないこと、すなわち職務以外のことを就業時間中に行ってはならないことを意味するものである。ところで、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は、国鉄の分割民営化の過程で国労から多くの組合員が脱退していく中で、国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。

 なお、参加人らは、本件組合バッジの着用によって現実の職務遂行に支障を生じないので、本件組合バッジの着用は右規定に違反するものではないと主張するが、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきであり、参加人らの右主張は、採用することができない」

 この判決は上記説示部分は、JR東海(新幹線支部)R東海(国労東京地本新幹線支部)国労バッジ事件 東京高判平91030とほぼ同じといってよいが結論は異なる。

 国労バッジ着用を理由とする863名に対し厳重注意、訓戒、55名に対し夏季手当5%減額の措置を不当労働行為とする。国労バッジの着用は、就業規則の服装整正規定違反、就業時間中の組合活動禁止規定違反、職務専念義務規定違反であり企業秩序を乱すものであるとし、取外し命令、懲戒、不利益処分を禁止するものではない。しかしながら「使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので,一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても,それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには,その使用者の行為は,これを全体的にみて,当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである」と述べ、「敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し」バッジ取外しの指示・指導等は「執拗かつ臓烈なもので,平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり」「就業規則の書き写しの作業などは,嫌がらせ」であり、「厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し,組合から組合員を脱退させて,国労を弱体化し,ひいては‥‥排除しようとの意図の下にこれを決定的な動機として行われたもの」として不当労働行為(支配介入)に該当するとした。

 本件は、類似の事案で、JR東海新幹線支部判決が不当労働行為に該当しないと判示ししたのと食い違った結論を示している。本件JR東日本(神奈川地労委・国労バッジ)事件東京高判平11224の上告審最一小決平111111労働判例770号32頁は不受理なので、最高裁はどちらかというと不当労働行為にあたらないとするJR東海新幹線支部判決の判断に好意的と理解することはできると思う。

 

 

●JR西日本大阪国労バッチ事件 東京地判平241031別冊中央労働時報143420

 

「(ア)参加人の就業規則3条1項が,「社員は,会社事業の社会的意義を自覚し,会社の発展に寄与するために,自己の本分を守り,会社の命に服し,法令・規程等を遵守し,全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定して従業員に職務専念義務を課し,その具体化として,同20条3項が,「社員は,勤務時間中又は会社施設内で会社の認める以外の胸章,腕章等を着用してはならない。」と規定し,同23条が,「社員は,会社が許可した場合のほか,勤務時間中に又は会社施設内で,組合活動を行ってはならない。」と規定しているのは,‥‥勤務時間内における原告の本件組合バッジの着用が,形式的にいえば,就業規則3条1項,20条3項,23条に違反し,勤務時間中の組合活動を禁止した労働協約6条にも違反するものであることは明らかである。

 もっとも,就業規則は,企業経営の必要上,従業員の労働条件を明らかにするとともに,企業秩序を維持・確立することを目的とするものであるところ,その解釈・適用に当たっては,憲法28条が労働者に労働基本権を保障する一方,憲法29条が使用者に財産権を保障していることの趣旨にかんがみ,団結権と財産権との調和と均衡を図るべきであるから,形式的に上記各規定に違反するようにみえる場合であっても,実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは,上記各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である(最高裁判所昭和52年12月13日第三小法廷判決・民集31巻7号974頁参照)。

(イ)これを本件についてみるに,原告が勤務時間中に着用していた本件組合バッジが,縦1.2cm,横1.3cm四方の長方形の金属板状のものであり,黒地に金色のレールの断面図と「NRU」の文字(「国鉄労働組合」を英訳したNational Railway Unionの頭文字)とがテザインされており,裏側にあるピンを衣類に刺し,留具でピンを留めて着用する形状のものであることは,前提事実(4)ア記載のとおりであり,本件組合バッジは,必ずしも大きく目立つものではなく,国労の主義・主張が具体的に記載されているわけでもない。しかしながら,上記(1)で認定した国労と国鉄又は参加人を含むJR各社との労使対立の歴史の中では,国労の組合バッジの着用は,国労組合員が組合員であることを対外的に示すとともに,組合員相互間の団結・連帯の意識の向上という思想を外部に表明するための象徴的行為であるということができる。その後,国労と国鉄分割民営化と同時に設立されたJR各社とが,平成8年8月以降労使協調路線を打ち出し,平成11年9月に勤務時間中に組合活動を行うことを禁止する旨の労働協約を締結し,平成12年3月以降中労委に係属していた不当労働行為救済命令申立事件を和解で終結するとともに,国労が四党合意の受入れを決議する中,国労の組合バッジの着用の意味合いは,労使協調路線を採用した国労執行部に対する抗議の意志の表明を含むものに変容したということができるが,原告の本件組合バッジの着用は,自らが国労組合員であることを対外的に示すとともに,その思想を共有する組合員との間の団結・連帯の意識を向上させ,一定の思想を外部に表明する行為であることには,変わりがないというべきである。

 他方で,一般私企業において,従業員は,労働契約を締結して労務提供のために企業に入ることを許されたのであるから,労働契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において,かつ,企業秩序に服する態様において,勤務時間中に行動することが認められているものであるところ,分割民営化前の国鉄においては,職場規律が弛緩し,ヤミ協定,悪慣行が横行し,企業秩序が乱れていたため,分割民営化による国鉄改革の必要性が叫ばれる中,事業を承継した参加人においては,これを是正するため,違法行為に対しては厳正に対処し,職務専念義務を徹底させることが求められていたということができる。そうすると,国労の組合バッジの勤務時間中の着用は,参加人の従業員としての職務の遂行には直接関係のない行為であることが明らかであるし,当該行為の趣旨・意味合いを考えた場合,勤務時間中,職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反するばかりでなく,ほかの従業員の意識が当該組合バッジに注がれることによって,勤務時間中に心理的影響を受けるおそれもあるというべきである。しかも,後記‥‥で判示するとおり,原告の従事した車両の検査修繕作業においては,事故防止のために所持品の落下に細心の注意を注ぐ必要があり,作業に不必要な物を現場に持ち込むことが禁止されていたことを認めることができる。

(ウ)以上によれば,本件組合バッジの着用は,企業秩序を乱すおそれのある行為であるといわざるを得ないから,実質的にみても,就業規則に違反するものというべきである。

 したがって,就業規則違反を理由とする本件各訓告は違法ではなく,本件各訓告等は,不利益取扱いの不当労働行為には当たらない。」

 

 

●JR東日本神奈川国労バッチ出勤停止事件 東京高判25327別冊中央労働時報1445号50頁

 

 「補助参加人らは,〔1〕国労バッジ着用は労務提供義務と矛盾なく両立し,業務阻害性はなく,職務専念義務,服装整正義務に違反するとはいえない,〔2〕国労バッジ着用の組合活動としての必要性等を考慮すれば,国労バッジ着用行為には正当性があると主張するので,以下検討する。

(ア)補助参加人らの主張〔1〕について

 本件就業規則3条1項に定める職務専念義務は,社員は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

 そして,労働契約においては,労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労務契約の重要な要素となっているから,職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり,その行為が服装の整正に反するものであれば,就業規則20条3項に違反するといわなければならないし,また,それが組合活動としてされた場合には,そのような勤務時間中の組合活動は就業規則23条に違反するものといわなければならない。

 P1ら9名の国労バッジ着用行為は,国労組合員の中でも国労バッジ着用を止める者が大多数となっていく中で,国労内少数派として着用を継続したものと認められるが,国労執行部ないしは原告に対し,国労内少数派としての意思を表明し,また国労内における多数派に対し,少数派との対立を意識させるものといえ,また同時に,国労組合員のうち,自らの意思により国労バッジを着用していない者に対しても心理的影響を与え,当該組合員が職務に精神的に集中することを妨げるおそれがあるものであるから,かかる行為は,勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い,職務にのみ従事しなければならないという従業員としての職務専念義務に違反し,また服装整正にも反するものとして,企業秩序を乱すものといわざるを得ない。

 補助参加人らは,国労バッジ着用に業務阻害性はないと主張するが,上記就業規則違反が成立するためには,現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当であり,補助参加人らの主張は採用することができない。」

 

 国労バッジとは,縦1.2cm,横1.3cm四方の長方形の金属板状のものであり,黒地に金色のレールの断面図と「NRU」の文字(「国鉄労働組合」を英訳したNational Railway Unionの頭文字)とがテザインされたものである。

 国労側の主張にみられるようにリボンやワッペンとは違って闘争的色彩はそれ自体はないようにも思えるし、たんに組合所属をあらわすたけという見方はありうる。

 また私鉄総連の春闘ワッペンのように目測で直径78cm、2018年のように赤色の原色を用いて目立つようなものではないといえる。

 私鉄の多くは、各労働組合の組合員らが、就業時間中に当該組合所属を表示する組合バッジや私鉄総連の定めた統一組合バッジを着用していることがあり、これに対して会社側はその着用を禁止していないということも国労側の主張にみられるが、小さなバッジまで徹底して禁止するJRの労務管理は私鉄との対比ではかなり厳しいともいえなくもない。

 しかし、上記の判例のように小さなバッジですら企業秩序をみだすものとして禁止でき、離脱命令、懲戒も可能であることを示しているが、企業秩序定立権の判例法理の趣旨からすればで当然のことともいえる。

 平成24年の東京地裁や平成25年の東京高裁といった比較的近年の判例が厳格な職務専念義務論を判示していることは、心強く思える。いずれも具体的乗務阻害がなくとも、それを着用していることが旅客の安全な輸送、鉄道の業務それ自体に支障がないということによって、正当化されることはないことも述べているのである。

2018/08/15

私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその5)

3)大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659をどう評価すべきか

 

前回 

 

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承前

キ 結論(まとめ)

 

その1 本件リボン闘争を争議行為ではなく就業時間中の組合活動とした意義は有益である

 

 法廷意見はその理由を何も説示していないが、新村正人調査官判解が詳しく解説しており、原審のいう使用者に対する団結示威の作用、機能を直ちに争議行為とする根拠はないと述べている。最高裁はリボン闘争が類型的に争議行為に当たらないとする見解に好意的とも言っている。リボン闘争を争議行為としてとらえ正当性の限界を確定する理論的作業は困難というほかなく、積極的に解することはまずないのではないか。そうするとストライキと併用するケースを別として、労働組合側がリボン闘争は争議行為であるとして労組法8条の適用があると主張しても認められることはまずないといえる。

 リボン闘争が一般的に就業時間中の組合活動であるとすると、済生会中央病院事件最二小判平元・1211民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」勤務時間中の無許可集会に対する警告書交付は「労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎない」ので不当労働行為にあたらないと判示しており、この趣旨からすると無許可集会とリボン闘争を別異に解する理由もないから厳格な職務専念義務論にこだわらなくても企業秩序論的脈絡から封じることが可能と考える。

 

その2 判例法理上、目黒電報電話局事件判決の厳格な職務専念義務論が引用されてなくても同判決を踏襲もしくは依拠した判決と評価すべきであるが、しかし法廷意見に引用と理論的説示がない以上、労働組合側に反論の余地を与えており、実務的には企業秩序論に依拠してリボン闘争に対峙していく手法が堅実

 

 大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659は、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974を引用することもなく、最高裁自身の理由を述べずに本件リボン闘争を組合活動の正当な行為にあたらないとしているが、目黒電報電話局事件判決を踏襲ないし依拠した判断とみるのが判例法理上の必然である。とすれば大筋で原審の一般的違法性を是認した判決とみなすのが妥当である。

 

 目黒電報電話局事件・最三小判昭521213民集317974公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した。

 新村正人調査官判解は目黒電報電話局事件判決について「‥‥右事案におけるプレートの着用は組合活動として行われたものではないが、その判旨の趣旨を推し及ぼすと、同様に職務専念義務を肯定すべき私企業においてリボン闘争が就業時間中の組合活動としておこなわれたときは、労働組合の正当な行為とはいえないことになる。‥‥本件リボン闘争が組合活動として行われたものとの前提に立つ限り、その正当性を否定することは、判例理論上必然のことといってよい」としているが、これが法律家の標準的見解であり、通説でもある。

 例えば 菊池高志[1983]によれば、目黒電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべきとしており、この見方が有力なのである。

(上記の見解に反対し、あくまでもこれは政治活動事案、公共部門の実定法の解釈で事案を異にするとして先例拘束性を認めない伊藤正己補足意見はプーレイバー的左派的な少数意見にすぎないが、裁判長の環昌一も目黒局事件判決では、反戦プレート着用を懲戒処分理由とは認めない見解を補足意見で示していることから、4人のち2人という半数の判事が左派で目黒局事件判決に批判的な立場のため先例拘束性を無視したので同判決は引用されなかったと推測できる。)

 

 しかし、いかに調査官解説が、目黒局判決は組合活動にも私企業にも適用されるのは判例法理上必然といっても、2判事の抵抗で法廷意見に引用と理論的説示がない以上、本件事案は正当な組合活動ではないとするものの、原審のリボン闘争の一般的違法性を是認していないとの解釈も一理あるため、リボン闘争を正当化する余地もあるとした伊藤正己補足意見に依拠してプロレイバー側に反論の余地を与えてしまっており、実務的には厳格な職専義務論だけでリボン闘争を封じこめることは少し厳しいように思える。目黒局判決を引用させなかった2判事の抵抗は不当に思えるが、実務的にはこのことによりリボン闘争を完封させないようにした影響は残念ながらある。

 実際、多くの判例が目黒局判決の判断枠組を引用しているが、比較的多いのが、形式的な就業規則違反では懲戒処分できないとする部分であり、職務専念義務論を引用する判例は少なく教員が国旗掲揚に抗議するため青いリボンを着用した国立ピースリボン事件・東京地判平18726裁判所ウェブサイトや、「OBJECTION HINOMARU KIMIGAYO」等と印刷したトレーナーを着用した都立南大沢学園養護学校事件・東京地判平29522TKCぐらいで、いずれも地方公務員法違反の事案である。 

 もちろん私は、使用者の私法上の権利を侵害する受忍義務説を否定し、リボン闘争を違法と判示した、本件一審東京地判昭50311の中川幹郎チーム判決、同じく国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48529の意義を高く評価し職場の規律秩序の正常化に寄与した意義を認めるが、厳格な職専義務=労働契約上の誠実労働義務の線だけで押し切る一本調子的な議論はそれなりの抵抗があるため、伊藤正己補足意見の主張の多くを否定し、今日まで安定的に維持されている企業秩序論の判例法理な依拠した手法で服装闘争に対峙していくのが堅実と考える。

 またフジ興産事件最二小判平151010判時1840144頁が、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定め、適用を受ける労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判示している以上、いずれにせよ就業規則等によって企業秩序を定立する必要がある。

 

その3 単独少数意見にすぎない伊藤正己補足意見が影響力を持っているのは異常である。主張の多くが企業秩序論の最高裁判例によって否定されていることから論外のトンデモ説といえる。

 

○「使用者の業務を具体的に阻害することのない行動は、必ずしも職務専念義務に違背するものではない」というが

 企業秩序論の判例法理は抽象的危険説で、具体的危険説は完全に否定されている。下記の最高裁判例は業務を具体的に阻害することのないことから経営内の無許可組合活動を正当化できないことを明らかにしている。

 

 既に引用した目黒電報電話局事件判決のほか

◇国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676

「本件ビラ貼付により‥‥業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等の事情のあることは‥‥いまだもつて上記の判断を左右するものとは解されない」

◇済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786

 無許可集会の警告書交付が病院の業務に直ちに支障が生ずるものではないことなどを理由に不当労働行為とした原判決を破棄自判

◇オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130

「組合がそれを使用することによる上告人の業務上の支障が一般的に大きいとはいえないこと‥‥などの事情を考慮してもなお‥‥、上告人の食堂使用の拒否が不当労働行為に当たるということはできない。 

 

○「職務専念義務に違背する行動にあたるかどうかは、使用者の業務や労働者の職務の性質・内容、当該行動の態様など諸般の事情を勘案して判断されることになる」と法益権衡的な諸般の事情を勘案する調整的アプローチを主張するが、企業秩序論判例はこれを明確に否定している。

 

◇日本チバガイギー事件最一小判平元・119労判5337頁3号

 労働組合の食堂使用および敷地内屋外集会開催の不許可が不当労働行為に当たるかが争われた。中労委の上告趣意書が法益権衡論である。上告趣意は「労働者の団結権、団体行動権保障の趣旨からする施設利用の組合活動の必要性と、その施設利用により使用者が蒙る支障の程度との比較衡量により、両者の権利の調和を図ることが要請される。そして、使用者の施設管理権行使が右の調和を破るときには、権利の濫用があるといわなければならない」とする。この法益調整比較衡量は国労札幌地本判決が否定したプロレイバー学説の受忍義務説にかぎりなく近づいていく意味で判例法理の否定といってもよい。

 最高裁は集会不許可を「業務上ないし施設管理上の支障に藉口」するもので不当労働行為にあたる中労委の判断を違法とする原判決を維持し、「本件食堂の使用制限及び屋外集会開催の拒否が施設管理権を濫用したものとはいえず、したがって、右使用制限等が労働組合法七条三号所定の不当労働行為に当たらないとした原審の判断は、正当として是認することができ」るとして中労委の上告を棄却しているので調整的アプローチを否認したのである。

 

◇オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130

 組合執行委員長らによる守衛への暴言、脅迫を契機として業務に支障のない限り食堂の集会利用等の使用を承認してきた慣行を変更し不許可とした事案につき、東京地判平2221労判559号は不当労働行為に当たらないとして、中労委の救済命令を違法として取消した。ところが、控訴審東京高判裁平成21121労判583号は、それでは組合活動が著しく困難となるとして、不当労働行為に当たるとした。控訴審の判断が法益権衡論である。

 これに対し上告審最高裁第二小法廷判決は控訴審の判断を覆し、これまで業務に支障のない限り使用を認めてきたとしても、それが食堂の使用について包括的に許諾していたということはできないし、食堂の無許可使用を続けてきた組合の行為は正当な組合活動に当たらないとした。さらに条件が折り合わないまま、施設利用を許諾しない状況が続いていることをもって不当労働行為には当たらないとしたことから、調整的アプローチはとらないことを維持した判例といえる。

 

○「就業時間中において組合活動の許される場合はきわめて制限されるけれども、およそ組合活動であるならば、すべて違法の行動であるとまではいえない」とする見解も否定されている

 

 先に引用した済生会中央病院事件最二小判平元・1211民集43-12-1786が、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。」「労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない」としているので、就業時間中の無許可組合活動が正当化される余地はなくなったといえる。

 

  上記引用した判例はすべて無許可集会等いわゆる企業施設の利用に関する判例で、リボン闘争とは事案を異にするとの反論があるかもしれないが、関西電力事件・最一小判昭589.8判時1094121頁は電力会社従業員が就業時間外に会社社宅にビラを配布したことに対してなされた譴責処分の効力が争われたところ、労働者には労働契約上労務提供義務とともに企業秩序を遵守すべき義務があるから、職場外の職務の遂行に関わらない労働者の行為であっても企業秩序に関係を有する場合、使用者が懲戒を課し規制の対象とすることも許されると判示しているように、施設管理権に限定することなく、企業秩序論の射程は広い。

 指導判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676が「思うに、企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであつて、企業は、その構成員に対してこれに服することを求め」ることができるとしており、ここでいう企業秩序とは、人的要素と物的施設の両者を総合した範疇であるから、ロッカーに貼るビラと同様、従業員の身体に着用するリボンや、ワッペンも企業秩序定立維持の観点から禁止できることは当然のことと考える。

 

 

その4 本件は原審の一般違法性を是認せず、特別違法性だけを認めたという解釈は難点があり、是認できないが、仮にそうだとしても有益な面がないわけではない。

 

 花見忠[1982]は、判旨にあらわれた限りでは、この判例を一般違法についての判断まで是認した趣旨と読むことはやや無理で、特別違法の観点からする判断、「一流ホテルにおける従業員の接客勤務態度に対する要請からみて『就業時間中に行われた組合活動』として正当な行為には当たらないとしたもの」との見解である。

 なるほど、原審の一般的違法性を是認したとの説示はない、しかし法益権衡論的な諸般の事情を勘案する調整的アプローチをとることはありえない。組合活動判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676がそれを否定しているので、先例と矛盾するからである。

 原審のホテル業務に関連した特別違法性の説示は諸般の事情を勘案するアプローチではなく、一般違法性だけでも十分であるのに、一般違法性を補強し、ダメ押しする論理として展開されているのであって、就業時間中のリボン闘争でも適法とされる場合があることを示唆する伊藤補足意見とは本質的に異なる。

 とはいえ、一般的違法性の是認は判文では不確定としつつも、少なくとも原審の特別違法性の論点を是認していることは間違いないとする趣旨なら、そのような解釈であっても有益な面はある。

 というのは原審のいう特別違法性「リボン闘争は、労使が互いに緊張していることをまあたりに現前させるので、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てる」という、左派の伊藤正己判事ですら認めているのであるが、ホテル業に限らず、従業員が客面に出るサービス提供業務一般に広くいえることであって、鉄道事業にもあてはまる。

 例えば、大手私鉄の主要路線では、有料着席ライナーを運行するようになったが、京王ライナーでは、空気清浄機が具えられたうえ、しばしの間お寛ぎください云々とのアナウンスが流れるのである。ところが着席状況を確認するため、車掌が各車両を見回るが、春闘シーズンには、私鉄総連のワッペンを着用し客にみせつけている。

 春闘ワッペンをみせつけて、第三者である乗客に春闘との連帯を訴えかける行為は、有料着席ライナーの指定席券を買った乗客が求める「休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁なことといえる」のであって、原審の説示した特別違法性は、他業種にも広く該当するといえるからである。

2018/08/12

私鉄総連春闘ワッペン闘争の法的評価(下書きその4)

3)大成観光リボン闘争事件最三小判昭57413民集36-4-659をどう評価すべきか

 

目次

ア、はじめに

(ア)多数意見の何が問題か

(イ)訴訟経過

A 事件の概要

B 東京都地労委命令昭47919

C 東京地判昭50311

D 東京高判昭5289

(ウ)最高裁自身の理由が示されていない意味

A 左派2判事の存在

B 企業秩序論に批判的な判事が半数では理論的説示は不可能

イ、論点1「誠意に労務に服すべき労働者の義務」に言及しなかった問題点

ウ、論点2 目黒電報電話局事件最高裁判決が引用されていない問題

エ、論点3 リボン闘争の一般的違法性を是認しておらず未解決の部分を残しているという判例批評は妥当か

オ、論点4 本件リボン闘争を争議行為ではなく、組合活動とみなした理由

カ、論点5 伊藤正己補足意見は単独少数意見にすぎず、主張の多くが最高裁判例で否認されているにもかかわらず過大評価されている

引用・参考文献

 

ア、はじめに

 

(ア)多数意見の何が問題か

 

裁判長環昌一、横井大三、伊藤正己、寺田治郎各裁判官全員一致の法廷意見の主要部分は以下の通り。

https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/han/h00209.html

 

 「‥‥本件リボン闘争について原審の認定した事実の要旨は、参加人組合は、昭和四五年一〇月六日午前九時から同月八日午前七時までの間及び同月二八日午前七時から同月三〇日午後一二時までの間の二回にわたり、被上告会社の経営するホテルオークラ内において、就業時間中に組合員たる従業員が各自「要求貫徹」又はこれに添えて「ホテル労連」と記入した本件リボンを着用するというリボン闘争を実施し、各回とも当日就業した従業員の一部の者(九五〇ないし九八九名中二二八ないし二七六名)がこれに参加して本件リボンを着用したが、右の本件リボン闘争は、主として、結成後三か月の参加人組合の内部における組合員間の連帯感ないし仲間意識の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という効果を重視し、同組合自身の体造りをすることを目的として実施されたものであるというのである。

 そうすると、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件リボン闘争は就業時間中に行われた組合活動であって参加人組合の正当な行為にあたらないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。‥‥」

 

 本件はリボン闘争について最高裁が初めて判断を下し、これを就業時間中の組合活動として、労働組合の正当な行為にあたらないとし「原審の判断が結論において正当」とした(上告棄却)。

 とにかく減給・けん責処分を不当労働行為とした東京都地労委の救済命令を取消した原審の判断を最高裁が維持したのだから、法的にも実務的にも労働組合側に厳しい判決とはいえるが、「原審の判断が結論において正当」というときはその前に最高裁自身の理由を示すのが通例であるが、本件判旨はそれがない。

 このため、判文を読むかぎりでは原審の一般的違法性を是認したのか、伊藤正己補足意見のように顧客に不快感や嫌悪感を与え、ホテルの品格を損なうという本件の特殊事情を重視したものかは不明である。

 使用者は就業時間中の組合活動である限り大筋でリボン闘争を受忍する義務はない、否定的な判断を示したとも受け取ることができるが、理論的説示がないためリボン闘争について未解決の部分を残したとする評価もある。このためにそれぞれの立場で都合がよいように玉虫色的に解釈される傾向があるという問題がある。

 しかし、この判決から35年以上経過しても私鉄総連などワッペン闘争は行われており、これを法的に評価する場合、この先例をどう評価するかはかなり重要であるから、多数意見に最高裁自身の理論的説示がなかった意味を吟味し今日的観点から再評価したいというのが本稿の趣旨である。

 

(イ)訴訟経過

 

A 事件の概要

 

 昭和4510月、ホテルオークラ(従業員約1200人)の従業員で組織するホテルオークラ労働組合(組合員約300人)が結成三か月後、賃上げ闘争の一環として、2回にわたってリボン闘争を行った。

リボンは直径56センチの花形に長さ6センチ幅2センチの白地に「要求貫徹」「ホテル労連」という文字を黒や朱色で印刷されていたもの。第1回のリボン闘争は106日から8日午前7時まで、リボン着用者は約226名(客面に出た者約25名)、7日は276名(客面に出た者約59名)であった。

 会社はリボンを外すよう説得し、担務変更などの対抗策を講じたが、組合は無視しリボン闘争を強行したため、組合三役らの6名の幹部責任を問い、就業規則にもとづいて減給処分とした。

第2回のリボン闘争は、処分撤回の目的で団交決裂後の1028日午前7時から30日午後12時まで実行され、リボン着用者は28256名(客面に出た者は約50名)、29243名(同じく約49名)だった。119日賃金紛争は妥結し、11 日再び組合三役を譴責処分とした。

 

  

B 東京都地労委命令昭47919不当労働行為事件命令集47348

https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/mei/m00332.html

 

ホテルオークラ労働組合及びホテル労連は、減給及び譴責処分を労組法71号及び3号に違反するとして東京都地労委に救済を申し立て、東京都地労委は、労組法71号の不当労働行為に該当するとして、処分の取り消し、減給分の賃金の支払いを命じた。

命令の内容は、リボン闘争は、組合の団結を誇示し、団体交渉を有利に導くための日常的業務阻害行為であり、争議行為の一類型に存することは疑いないから、従業員の平常時に関する規律である就業規則をこれに適用することは誤りとした。またリボン着用者は出勤者のおよそ四分の一、しかも客面にでた者はその五分の一程度であり、会社と組合役員との間に若干の紛争があったとはいえ、この事態が勤務秩序を不当に乱したとは認められないとしている。

  

 C 東京地判昭50311民集364681判時77696

https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/han/h00003.html

 

 会社側は救済命令を不服として東京地裁に行政訴訟を提起した。

東京地裁判決はリボン闘争による団結示威の機能領域の異別という視点から、組合活動の面と争議行為の面とにわけて考察したうえ、「いわゆる組合活動の面においても、争議行為の面においても、労働組合の正当な行為ではありえないというべき」と断じ、救済命令を取消した。

 労働側が殆ど勝てないため地獄の東京地裁民事19部と恐れられた中川幹郎裁判官チームの有名な判決である。

 

 (判決理由の要約)

 

○組合活動としてのリボン闘争の一般的違法性

 

 労働者の連帯感を昂揚し、その士気を鼓舞するための集団示威は労働組合が自己の負担及び利益においてその時間及び場所を設営しておこなうべきもので、勤務時間の場で労働者がリボン闘争による組合活動に従事することは、人の褌で相撲を取る類の便乗行為であるというべく、経済的公正を欠く。労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下でのリボン闘争は、誠意に労務に服すべき労働者の義務に違背し違法であり、使用者はそれを受忍する理由はない。

 

○争議行為としてのリボン闘争の一般的違法性

 

 使用者の指揮命令に従って業務を遂行しつつ、それに乗じて団結の示威を行うことは、心理上の二重機能的メカニズム、一面従順、他面反噬という精神作用を分裂させて二重人格の形成を馴致する虞れがあり、労働人格の尊厳を損なう性質のものであるのに加え、リボン闘争に対して使用者が、賃金カット、ロックアウトで対抗するのは困難であって、労使間の公平の原則に悖るため、争議行為としても違法であり、使用者が受忍する理由もない。

 

○特別違法性

 

 リボン闘争は、労使が互いに緊張していることをまあたりに現前させるので、客がホテルサービスに求めている休らい、寛ぎ、そして快適さとはおよそ無縁であるばかりでなく、徒らに違和、緊張、警戒の情感を掻き立てることなり、ホテルの品格、信望につき鼎の軽重を問われ、客の向背を左右することは必定。ホテル業の使用者において忍受しなければならない理由はさらにない。

 

 労働委員会は不服として控訴した。

 

D 東京高判昭5289民集364702

 https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/han/h00077.html

 

 控訴棄却、若干付加訂正したが一審の判断を維持。 労働委員会が不服として上告した。

 

 

(ウ)最高裁自身の理由が示されていない意味

 

 

A 左派2判事の存在

 

 4判事の結論は一致したとしても、その判断にいたる理由がまとまらなかったのは、先例である目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213の判旨を批判している左派(非主流派)の2判事(弁護士出身の環昌一、学者出身の伊藤正己各判事)の存在を指摘できる。

 2判事は下記のような重要な労働事件で補足意見や反対意見を記し、プロレイバー学説に近い発言をしており、最高裁の主流派の考え方とは明らかに違う。

 仮に横井大三(高検検事長出身)、寺田治郎(高裁長官出身)各判事が主流派で先例拘束性に基づいて判断したとしても、22ではまとまらなかったということは容易に推測できる。

 

a)裁判長 環昌一判事の司法判断の傾向-左派、プロレイバー

 

 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の補足意見はビラの配布行為が、勤務時間内における組合活動をあおる行為にあたるものであることは否定しないとして戒告処分を適法とする一方、反戦プレート着用を懲戒処分理由としては公社就業規則の懲戒処分事由のいずれにも該当しないとしており、多数意見の論理構成を批判している。

○全逓名古屋中郵事件最高裁大法廷判決昭525・4民集313182 反対意見

 公労法17条1項の争議行為禁止規定に違反する争議行為は、刑事免責されないと判示して、東京中郵判決を判例変更した画期的判例だが、環判事は、五現業及び三公社の職員の争議行為も正当なものは刑事法上違法性が阻却されるという反対意見を述べている。

○神戸税関懲戒処分事件最三小判昭521220民集31-7-1101 反対意見

 公務員の争議行為を理由とする懲戒免職等を最高裁が初めて是認した指導判例であるが、環判事は賛同し難いとしている。

○全逓プラカード懲戒事件最三小判昭551223民集347959 反対意見

 郵便集配を職務とする国家公務員が、勤務時間外にメーデーに参加し、「アメリカのベトナム侵略に加担する佐藤内閣打倒‥‥」と記載された横断幕を掲げて行進したことを理由とする戒告処分を合憲適法とした判決で伊藤正己判事は多数意見であるが、環判事は懲戒処分を違法であるとの反対意見である。

 

b)伊藤正己判事の司法判断の傾向-プロレイバーに近い、嫌らしい意見を書く

 

○目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974

 本件補足意見は、同判決を批判するものであり、先例と認めていない。職務専念義務について厳格な理論を執拗に批判しているうえ、同判決のプレート着用が政治活動にあたること、実定法で職務専念義務の規定されている公共部門の職場における活動であつたことにおいて、本件とは事案を異にするので先例ではないとしているが、この見解は、先例無視、謝った解釈であることは後述する。

 

○広島営林署事件最三小判昭62320判時1228 補足意見  

 林野職員の約4時間のストライキ参加に対し1か月10分の1の減給処分を適法とした判決だが、伊藤補足意見は、同盟罷業の単純参加行為に対し、減給処分をもって臨むことが、その行為の違法性の程度に比して権衡を失していないか、いささか疑念の余地がないとする。

 

○池上通信機事件最三小判昭63・7・19判時1293 補足意見

 組合集会のための食堂の無許可使用に対する社内放送の利用による中止命令、警告書の交付をいわゆる施設管理権の指導判例である国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676の判例法理にもとづき不当労働行為に当たらないとした原審を維持した判決である。

 伊藤正己補足意見は国労札幌地本判決の判断法理である『権利の濫用と認められるような特段の事情』に法益権衡的な違法性阻却の判断枠組みを設定し、風穴を開けようとする試みを行ったのがこの補足意見であるが[渡辺章2011、これは判例法理を変質させる性格のプロレイバー寄りの少数意見にすぎず、このような見解はその後も採用されたことはない。

 

「労働組合又はその組合員が当該施設を利用して行う組合活動が常に正当性がないということはできず‥‥特段の事情があるかどうかについては、硬直した態度で判断するのではなく、当該施設の利用に関する合意を形成するための労使の努力の有無、程度が勘案されなければならないことはもちろんであるが、さらに、いわゆる企業内組合にあっては当該企業の物的施設を利用する必要性が大きい実情を加味し、労働組合側の当該施設を利用する目的(とくにその必要性、代替性、緊急性)、利用の時間、方法、利用者の範囲、労働組合によって当該施設が利用された場合における使用者側の業務上の支障の有無、程度等諸般の事情を総合考慮して判断されるべきものであると考える」

 

類似の意見を中労委、下級審が試みているが、それは受忍義務説を否定した国労札幌地本判決の意義を否定するに等しく、先例の判断枠組に依拠しながら例外的な部分を拡張して、判例法理を換骨奪胎していこうという非常にいやらしい意見なのである。

 この考え方は下記の最高裁判例によりよって明確に棄却されており、この補足意見は破綻したといえる。

日本チバガイギー事件最一小判平元・119労判5337頁3号

済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786

オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130

 

○北九州市病院局事件最三小判平元・425判時1336128

 

 市長部局、教育委員会の1時間職場離脱、市立二病院(門司・八幡)の1日の同盟罷業を企画し遂行したことを理由とする市職執行委員長兼病院労組執行委員長の懲戒免職、その他組合幹部3名の停職六月を裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものではなく適法とするものであるが、伊藤正己判事は、市立病院の24時間ストについて日曜休日なみの診療体制が維持されていたとして懲戒免職が違法性の程度と対比して著しく均衡を失し違法との反対意見・補足意見を記している。

 その他北九州市事件最三小判平元6・20労判552の4判決に補足意見及び反対意見を記している。

 

 上記に示すように最高裁非主流派が半数をしめる小法廷では、理論的説示は不可能である。仮に非主流派の言い分を通せば先例と矛盾することになるからである

 

 

  B 企業秩序論に批判的な判事が半数では理論的説示は不可能

 

 昭和5289日の控訴審から、上告審判決昭和57413日まで5年近く経過しているが、その間に重要な判例法理の進展があった。最高裁が案出した企業秩序論の判例法理である

 富士重工原水禁事情聴取事件最三小判昭521213民集31-7-1037、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974、国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676である。

 とくに目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974は類似事案であり、国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030民集336676は、企業施設内の無許可組合活動に受忍義務はないと言いきった判例である

 本件原審も受忍義務説を否定しており、そもそもプロレイバー学説の受忍義務説を初めて否定したのが、中川幹郎チームの動労甲府ビラ貼り事件・東京地判昭和50715判時784なのである。

 原判決は、プロレイバー学説にみられる使用者の私法上の権利と労働基本権の法益権衡ないし調整論や、それにもとづく受忍義務説を明確に排除し、市民法(私法上の権利)・秩序重視を打ち出してきている点で、最高裁の企業秩序論と類似性、親近性があるといえる。 

 それゆえ、最高裁判例法理の進展を踏まえ本件上告審でも企業秩序論に関連づけた説示があってもよかったはずである。

 原判決は、就業規則に言及することもなく、労働組合の自主的対抗性の観点の理論的説示と、労働契約上の誠意に労務に服すべき義務に反するとして一刀両断にリボン闘争を違法としている。私はこれを名判決だと思うが、今日的観点では、就業規則を無視した議論は成り立たず(例えばフジ興産事件最二小判平151010判時1840144頁は、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定め、適用を受ける労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判示)、やや強引な印象を否めない。

 企業秩序論は一刀両断に違法とする論理とは異なり、企業が定立した企業秩序に実質的に反しているか否かで経営内の組合活動その他の正否を画定するものである。

 企業は、従業員に対し企業秩序に服することを求める権利があり、それは就業規則や労働協約に拠って定立され、企業秩序を乱した行為をした場合。実質的に就業規則等に反していれば具体的な業務阻害がなくても、法益権衡論による総合的事情を勘案する必要もなく、正当な行為な行為とみなさないというものである。

 この趣旨からすると、本件懲戒処分に適用された就業規則は、「第68条(2)この規則、会社の諸規程、諸通達に違反したとき、(3)勤務中会社の指定した服装以外のものを着用したとき」は出勤停止、減給に処する。但し情状により譴責に止めることがあるとするものであり、仮に客面に出ずとも、リボン着用が特殊は雰囲気かもしだしそれをみた他の従業員の職務への集中を妨げ、注意を散漫にするおそれ等の抽象的な理由等、あるいは不要に、職場の規律秩序風紀を乱すおそれがある、この規則が正常かつ能率的な業務運営を維持するために必要等の理由で、本件は形式的な就業規則違反でなく、実質的に規則に反し秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情は認められないのであるから、企業秩序論の判例法理から懲戒処分も是認できるし、正当な組合活動とはみなされないと評価されるのであって、そのような説示も可能であったか、そのような先例を引用した説示がいっさいないのは、既にのべたとおり2裁判官が、先例を認めない非主流派の立場にあるからである。

 

イ、論点1「誠意に労務に服すべき労働者の義務」に言及しなかった問題点

 

 本件最高裁判決がわかりにくい理由は、原審が「労働者が使用者の業務上の指揮命令に服して労務の給付ないし労働をしなければならない状況下でのリボン闘争は、誠意に労務に服すべき労働者の義務に違背し違法」としているのに、原審の判断を維持しつつも誠実労働義務に反し違法と言い切らない点にある。

 しかしながら、左派の伊藤正己補足意見も、原審の特別違法性の部分は是認し、リボン闘争は、「労働者の職務を誠実に履行する義務」と両立しないと述べており、結論は同じなのであるから、誠実労働義務の内容について不一致だったので言及がなかったとみてよい。

 

○実定法上の職務専念義務と労働契約上の誠実労働義務は同一内容とするのが通

 

 リボン闘争の先行する下級審判例(国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48529労民集243257、神田郵便局腕章事件・東京地判昭49527労民集25323、全逓灘郵便局事件・大阪高判昭51130労民集2711、全建労事件・東京地判昭52725行裁集2867680等)と、目黒電報電話局事件判決は、下記の通り実定法上(国家公務員法96条、日本国有鉄道法第32条第2項、日本電信電話公社法第324)の職務専念義務違反としている。

 

●国労青函地本リボン闘争事件・ 札幌高判昭48529労民集243257

 本件はリボン闘争を違法とするリーディングケースで、国鉄職員が勤務時間中に職務の遂行に関係のない行為または活動をするときは、具体的な業務阻害がなくても、職務に対する精神的・肉体的活動の集中を妨げない特別の事情がある場合を除いて国鉄法32条2項の職務専念義務に違反するとしたうえで、本件リボンを着用することにより、勤務に従事しながら、青函地本の指令に従い、国労の組合員として意思表示をし、相互の団結と使用者に対する示威、国民に対する教宣活動をしていたものであり、組合活動を実行していることを意識しながら、その職務に従事していたものであるから、その精神的活動力のすべてを職務の遂行にのみ集中していたものでないことは明らかであり、職務専念義務違反とした。

 

 目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974

 数日間継続して、作業衣左胸に、青地に白字で「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書いたプレートを勤務時間中に着用した行為に対する戒告処分を適法としたもの。

 判決理由は、局所内の政治活動を禁止する就業規則にたんに形式的に違反するだけではなく、実質的にみても局所内の秩序をみだすと判定し処分を是認しているが、職務専念義務論は、プレート着用が職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱しているから、実質的に就業規則違反になるという脈絡で展開されており、直接職務専念義務違反として処分を適法としている下級審判例と異なるが、その内容は、国労青函地本リボン闘争事件の判旨を踏襲しており、同じといえる。

 つまりプレート着用が公社就業規則5条2項の局所内の政治活動を禁止した規定に違反する行為とした。ただし、この就業規則は局所内の秩序風紀の維持を目的としたものであることにかんがみ、形式的に右規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に局所内の秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないという判断枠組を示したうえで、大筋以下の2点で実質的に局所内の秩序を乱すもしくは乱すおそれがあるので、就業規則違反として懲戒事由となると結論する。

 

a)職務と無関係な同僚への訴えかける行動は、職務の遂行と無関係な行動であり、職務に専念すべき局所内の規律秩序を乱している

b)他の職員の注意力を散漫にし、あるいは職場内に特殊な雰囲気をかもし出し、よって他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあることは局所内の秩序維持に反する。


 a)について同判決は、公社法三四条二項が「職員は、全力を挙げてその職務の遂行に専念しなければならない旨を規定しているのであるが、これは職員がその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないことを意味するものであり、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきである。」と判示した。

 菊池高志[1983]によれば目黒電報電話局判決は「勤務中は‥‥職務以外のことは行ってはならないのが職務専念義務であると言う。そうである以上、職務専念義務違反の判断は、職務以外の行為があったという事実さえ認められれば目的、態様、行為の及ぼす影響などは改めて吟味を要旨はないこととなる」とするが、これが普通の解釈である

 

 国労青函事件札幌高裁判決や、目黒電報電話局事件上告審判決が示した職務専念義務論が、私企業の労働契約上の誠実労働義務と同一内容といえるかについては議論があるが、通説は同一内容とみなす。

「職務専念義務」あるいは「誠意に労務に服すべき義務」というにしても、法的に考えるならば、両者の義務は職場規律を遵守し、就業時間中仕事以外のこといっさいかんがえてはならない義務として使用されており、「誠意に労務を提供する義務」は職務専念義務と同一内容をもつものと考えられる[石橋洋1982]

 加えて最高裁は、国鉄中国支社事件判決・最一小昭49228民集28166において日本国有鉄道法31条1項に基づく懲戒処分は、行政処分ではなく、私法上の行為としているから、国鉄職員懲戒処分の判例は、公労法17条1項の争議行為が禁止されている点は異なるとはいえ、私企業一般の先例なのである。

 目黒電信電報電話局事件判決は直接には公社法所定の職務専念義務に関する判断であるが、判決は「公社と職員との関係は、基本的には一般私企業における使用者と従業員との関係と本質を異にするものではなく、私法上のものである」としており、公社職員の職務専念義務も雇用契約関係における被用者一般の義務とその本質を異にするものではないと捉えられているから、私企業一般の先例なのである。

 とすれば、職務専念義務の判断も特殊公社法上の解釈として示されたものではなく、雇用契約関係において労働者が負う義務に関する一般的理解として述べられたものと解するべき[菊池高志1983]という見方が有力なのである。

 とりわけ目黒局事件判決は最高裁判例であり無視できず、本件上告審においても、通説に従って雇用契約上の誠意に労務に服すべき労働者の義務において、被用者はその勤務時間及び勤務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならず、誠実労働義務違反というには現実に職務の遂行が阻害されるなど実害の発生を必ずしも要件としないとなぞった説示してもよいのに、それをしていないのは目黒電報電話局事件判決に批判的なプロレイバー2裁判官の存在であることは既に述べたとおりである。(次節の論点に続く)

 しかし職務専念義務=誠実労働義務を、本件上告審判決が説示しなかったことによって、目黒局事件判決等の論理構成が否定されたわけではもちろんない。裁判官の構成の特殊な事情で先例を引用しなかっただけといえる。

 目黒電報電話局事件判決は政治活動事案だが、下記の通り組合活動も含めて多くの判例がその判断枠組を引用しており、指導的判例として評価してよいのである。その引用のされ方は、必ずしも使用者側の立場ではない。形式的な就業規則違反では懲戒処分できないとい判断枠組もよく引用されているのが特徴である。

 もっとも職務専念義務の説示自体の引用は少ない、教員が国旗掲揚に抗議するため青いリボンを着用した国立ピースリボン事件や「OBJECTION HINOMARU KIMIGAYO」等と印刷したトレーナーを着用した都立南大沢学園養護学校事件といった公立学校教員の事件くらいである。これは、私企業では企業秩序論から、無許可組合活動を禁止できるので、非現業公務員を除いて厳格な職専義務論にこだわる必要性が少なくなったという事情によるものだろう。

 

 

○目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974を引用している判例

 

明治乳業福岡工場事件・最三小判昭58・11・1判時1100号511頁(政治活動)

電電公社帯広電報電話局事件・最一小判昭61・3・13労判470号(職員の精密検診)

倉田学園(大手前高(中)校・53年申立)事件・最三小判平6・12・20民集48-8-1496(ビラ配り)

JR東海(国労バッジ新幹線支部)事件・東京高判平9・10・30判時1626号38頁(組合バッジ)

大和交通事件・大阪高判平11・6・29労判773号50頁(タクシーパレード)

金融経済新聞社(賃金減額)事件・東京地判平15・5・9労判858号117頁(休憩時間中の集会)

国立ピースリボン事件・東京地判平18726裁判所ウェブサイト

産業能率大学教員解雇事件・東京地判平2224TKC

エスアールエル事件・東京地判平24227TKC(ビラ配り)

JR西日本(国労バッジ訓告処分)事件・東京地判平241031 別冊中央労働時報1434号20頁

JR東日本国労バッジ事件・東京地判平