カテゴリー「経営・労働・人事管理」の7件の記事

2008/07/02

エコならウォルマートですよね

 ウォルマートの「店舗で消費するエネルギーは、通常の小売店の約半分で済んでいる。これは一般家庭200世帯のエネルギー消費量を節約している」http://www.gpn.jp/torikumi/overseas/wm.htmlことになる。「白熱電球を電力消費が4分の1以下の電球型蛍光灯に交換するキャンペーンを展開している。今年のアースデイ(4月22日)では、シカゴ周辺の店舗で43万個の電球型蛍光灯を無料配布した」http://greenerw.exblog.jp/5332119/とあります。「2005年に、自社の運送用トラックの燃料効率を25%改善するという目標を立て、現実には2005年以降に15%の改善を達成」http://www.eco-online.org/ab-eco-news/2007/11/19-120146.php「4年以内には、店舗の冷暖房効率を現在より25-30%高くし、排気放出量を30%減少させたい意向。太陽熱や風力発電、排気オイルを燃料にするボイラー、断熱性の高いフロア、布製ダクトを利用した高効率エアコン・システム」http://hci.blog.ocn.ne.jp/hciweb/2006/12/post_2b3e.html。「2007年9月、同社は衣料用洗剤に関しては、濃縮型しか取り扱わないことを決定、今年5月までに、ウォルマートと系列のサムズ全店で実現する予定になっている。同社ではこれにより、4億ガロン以上の水、9500万ポンド以上のプラスチック樹脂、1億2500万ポンド以上の段ボールを節約できるとしている。ウォルマートが販売する衣料用洗剤のシェアは全米の25%を占めており、この決断が業界に与える影響は大きいと見られている」http://socal-innovation.net/index.php/Other/Other-0803-1.html
 ウォルマートがエコに力を入れているのは、反ウォルマート勢力の攻撃をかわす意図もたぶんにあると思われますが、ウォルマートは24時間営業やってますよ。
24時間営業のなにが悪いのか、上田、松沢、石原といった連中が、みみっちい一斉電気消灯みたいなばかげたことやってなんの意味があるんだといいたい。

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2007/06/23

高業績業務システムと90年代以降の仕事遂行方法

 アメリカでは、90年代にドラマチックなダウンサイジングを続け、目立ったレイオフやリストラクチュアリングがあった。仕事の遂行方法も50~60年代のありようとは変化した。
 MITのポール・オスターマン教授(註1)によると、アメリカの企業が80年代から90年代の競争的課題に対応した重要な方法のひとつが、高業績業務システムであるという。つまり従来のシステムは、職場は厳密な分業と狭い範囲で設計された専門的な職務で編成され、意思決定や評価は監督者の手中にあったが、品質を改善し、顧客のニーズ応えることができないため、権限、裁量を下層部の従業員に移し、官僚的な階層を排除し、仕事の定義をフレキシブルにするのが高業績業務システムである。
オスターマンは具体的には、QCサークル/ラインを離れた問題解決グループ、ジョブ・ローテーション、自己管理型業務チーム、総合的品質管理、2つ以上(多数)の業務活動、具体的な企業名では、サウスウエスト航空(パイロットでも時には手荷物業務を行う)、ベルサウスのチーム方式、NUMMI、GMのフリモント工場を挙げているが、オスターマン教授の全米事業所調査によると1997年の調査では基幹従業員の半数が高業績業務活動のある企業の割合はQCサークル/ラインを離れた問題解決グループが57.4%、2つ以上の業務活動が70.7%に達していることからみて、アメリカでは高業績業務システムは90年代のリストラクチュアリングで相当に浸透しているのである。

 佐藤健司(註2)は高業績業務システムとヒューマンリソースマネジメントを結びつけた議論を展開し、新しいスキル獲得のための教育訓練、メール・グループウェア・ネットワークによる組織横断的で十分な情報共有・社内コミュニケーション、クロスファンクショナルチーム、エンパワーメントの組み入れ、煩わしいプロセスの簡素化、水平的な組織、節約型賃金分配制度、従業員持株制度、利益分配制度、チーム別業績給、能力給、インセンティブ報酬システム、雇用保障、献身的で生産性の高い従業員層を確保するための業務環境支援といったことも高業績業務システムだとしている。

ただ佐藤の議論は資源ベース型の企業の特徴とごっちゃになっている感がないでもないが、オスターマン教授と同じく、従業員のアイディアや創造性の活用がコミットメントを強めること。管理監督者が減ってコスト削減となること、ピーアプレッシャーが生産性向上となることを経営者は肯定的に評価していることを述べている。

 上記の事例はいわゆるフルタイム労働者のことをいっている。しかし私が思うには、ウォルマートのパート労働者も高業績業務システムだと思う。ウォルマートが現場主義で時給ワーカーのデパートメントマネージャーの裁量が大きい組織であることは既に述べたとおり。パート労働者はただタイムカードをパンチして箱から商品を出して陳列してといった与えられた作業をやるだけの時給ワーカーでなく、商人でもあるだ。デパートメントマネージャーをヘッドにしたストア・ウィジン・ア・ストアという戦略ユニットがある。これはQCサークルの応用ともいわれているが本部は徹底的にサポートする。数値は時給ワーカーにも公開していて、時給ワーカーでもエンパワーメントの思考をするようになっている。ウォルマートの現場人員は、自らの店舗を自らの頭で考え改善していくのだ(註3)。 
 高業績とはこういうことという見本のようだ。しかも低いレーバーコストで高いパフォーマンスなのである。そういう意味でもやっぱりウォルマートは偉大な企業だと思う。

 高橋俊介によるとアメリカの大企業は80年代から職務等級制度はそのままで、目標管理制度を組み合わせる成果主義を取り入れた。90年代になると職務等級制度の序列構造自体が問題視され、新しい成果主義の潮流となる。大企業は組織のフラット化、MBA取得者が幅をきかせるスタッフ官僚制の打破、顧客満足度の重視から官僚的体質の組織を解体され、職務等級がブロードバンド化され。職務評価を廃止してコンピタンシー(コンピタンシーという概念が多義的で難しいが、成果に結びつく能力全部を含む、行動特性、思考特性などと訳され、主体的ジョブデザイン行動やネットワーキング行動を含む)の重視、市場給与相場の重視、ハイテク企業や金融業界は職務等級なしで市場給与相場比較のみとなった(註4)。
 評価の仕方も行動評価やチームワークを重視し、管理監督者だけでなく、同僚・部下・顧客など360度多面評価を行う企業は97年で、フォーチュン500社の半数まで普及している。これは顧客ロイヤリティ経営、顧客満足度重視によるものである(註5)。もはやジョブコントロールなど時代錯誤、たんなるヒラメ人材は360度評価で生き残れなくなっているというべきだろう。

(註1)P・オスターマン著、伊藤・佐藤・田中・橋場訳『アメリカ・新たなる繁栄へのシナリオ』ミネルヴァ書房(京都)2003年
(註2)佐藤健司「高業績業務システムの展開と人的資源管理」伊藤・田中・中川編著『現代アメリカ企業の人的資源管理』税務経理協会2005年
(註3)鈴木敏仁『誰も書かなかったウォルマートの流通革命』商業界2003年
(註4)高橋俊介『成果主義』 東洋経済新報社、1999
(註5)高橋俊介『ヒューマン・リソース・マネジメント』ダイヤモンド社2004年

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2007/06/18

『パブリックスの「奇跡」』について(4)

 パブリックスの特徴のもう一つは、従業員利益分配制度と持ち株制度である。つまりパブリックスはウェルフェア・キャピタリズムの経営手法を採用しているともいえる。ウェルフェア・キャピタリズム(産業温情主義ともいう)とは非組合型労使関係が浸透した1920年代の労務管理手法のひとつであリ、全米製造業協会の反労働組合の保守主義的な政策、レイバーインジャンククションで労働組合を抑え、アメリカンプラン(クローズドショップを雇用機会の自由を妨げる非アメリカ的なものとして徹底的に排除する)のオープンショップ運動とは対照的に、体系的管理運動、福利厚生事業や、雇用安定、内部昇進、労働組合に代わる従業員代表制などで労働組合主義を排除していく経営手法の系譜のことである。
 この点は古い経営手法といってよいと思う。つまり利益分配制とは会社の業績が良ければボーナスで従業員に分配するやり方だが、非組合企業が採用する手法のひとつで、もともと賃金問題から労働者の目をそらすことから始まったともいわれる。持ち株制度は1920年代には資本家と労働者に友好的な関係を構築し、ストライキの脅威をなくし、共産化を阻止する実用的な手段として賞賛されていたものだった。但しパブリックスで従業員持ち株制度をはじめたのが1958年からとされている。現在パブリックスの50~60%は従業員の持ち株といわれている。但し株式を売却する市場はない。会社が買い戻す先買権を有している。著者は従業員のやる気を刺激していると論じているが、会社への忠誠度を高めるための制度のように思える。
 パブリックスの管理職の給与は明らかに高い、従業員の提案についても金銭的報償で応えている、気前の良い給与と充実した福祉で、組合の組織化を阻止する非組合企業の手法は古臭いやり方で感心しないが、それでも非公開企業で株主から文句を言われる筋合いはないし、業績が良いから問題はない。フロリダという購買力のある環境で古い手法でも安泰なのは恵まれているともいえる。
 ウェルフェアキャピタリズムは別名雇用官僚制ともいわれるように、官僚制が肥大化する悪弊も見られるわけである。この点、パプリックスは州外に進出するまで60年もかかっており、本部体制がスリムなフラットな組織で企業哲学を経営者と従業員が共有する企業文化構築に成功したため、悪弊が見られないのだろう。

参考文献

スチュアート・D・ブレンデス、伊藤健市訳『アメリカン・ウェルフェア・キャピタリズム』関西大学出版部2004年

平尾・伊藤・関口・森川編著『アメリカ大企業と労働者-1920年代労務管理史研究』北海道大学出版会
1998年

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2007/06/13

『パブリックスの「奇跡」』について(3)

 ということは、たぶんパブリックスには職務記述書はないのだろう。社内的に役職を笠に着た対人関係を構築しない方ということも著者は記しているが、従業員にフレンドリーで官僚主義的でない社風が成功している事例といえるだろう。 もっとも私は、職務記述書による管理を否定するものではない。よくアメリカでは、人に職務をつけるのでなく、職務に人をつけるとよくいわれますが、それ自体は理解できるし公正な在り方のようにも思います。日本的雇用慣行はフレキシブルな面もあるが人に仕事を与えるとかつけるやり方は後述するように恣意的になりがちで良くない面もあるから。
 高橋俊介(註1)によるとアメリカでは「職務記述書」はIT業界では使われなくなったが、古い業界では今でも使われていると言います。これは、それぞれのポストについてこの仕事はこういうことをやる。必要な能力は何である云々といったことが、4~5枚びっしり書かれていて、職務記述書により難易度、部下の数など職務評価していくやり方。特に1964年公民権法タイトル7で人種・民族・宗教・性による差別が禁止されたため、差別リスクが大きくなり、その対応策として、ジョブサイズを科学的に評価したポイントファクター型職務等級制度が普及したのだという。
 この制度では職務記述書の難易度、ジョブサイズからこれは253点とか182点とポイント化し、ポイントにより賃金から、自室の有無、机の大きさ、飛行機のクラス、ホテルのランクまであらゆることが決まる。人事院が昔やろうとした職階制というのも類似したものだろう。
 高橋は、この制度の欠点としてヒラメ人材、官僚的で内向きの組織になる。激しい変化に対応できない。職務分析し記述書を作成する人事課の仕事自体がコストになるといったことを挙げている。
 要するに従来の職務記述書管理のやり方では、ダイナミズムは生まれないし変化に対応できない。それで80年代から目標管理で自発性や意欲を引き出し、目標達成度を賞与や賃金にリンクする成果賃金が広がった。日本では90年代後半から民間から普及していったものである。
 一方、職務記述書とは対極的な業界もある。例えばIT企業で著名なサンマイクロシステムズの社風(註2)ですが、長時間勤務で永遠に終わらない仕事を抱え込むことを耐えられない人間は振るい落とされるハードワーク主義とみなされてますが、「全員がコピーとり、ホチキス留めから高度な判断までなんでもこなす」「ちゃんとしたプロセスを踏むことは反体制的とみなされる」「人を押しのけてもよいオープンな環境」「みんなプロセスを非常に嫌ってほとんどやりたい放題」「何かやる際にほとんど制約はないし、どうやってよいかという指針もない。中心になって影響を及ぼしたい人間にとっては最適の場所」とされている。
 要するに良い意味での放任主義ですが、本当にやる気のある人材はポストやジョブサイズにこだわらず仕事をしたいのであって、細かく職務を規定しないほうが活力になるようである。

(註1)高橋俊介『ヒューマン・リソース・マネジメント』ダイヤモンド社2006年
(註2)カレン・サウスウィック著山崎訳『サン・マイクロシステムズ-世界的ハイテク企業の痛快マネジメント』早川書房2000年

続く

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2007/06/11

『パブリックスの「奇跡」』について(2)

 ブラントンの方針は、パブリックスの全従業員の仕事は、「お客様を喜ばせる」ことだから、それ以外の職務を規定する必要はないというものである。
 著者はわかりやすい事例としてニューヨークタイムズの1995年4月25日の記事を引いている。これはアメリカの北東部のスーパーより、南東部のスーパーの方が経営状況もサービスも良い事実を分析した記事である。ジャムの瓶が落ちて売り場にこぼれたとき、グランド・ユニオンでは、清掃はメンテナンス担当の仕事であるので、他の担当はどんなに手が空いてもモップがけはしない。パブリックスではどの部門の床であれ気づいた人が掃除をする。なぜならば、パブリックスの従業員は「お客様を喜ばせる」ことが職務だから当然のことである。他部署で問題が生じた時に力を貸すのは当たり前というわけだ。組合セクターのようなジョブコントロールがないこと、役割分担を固めないことにより命令や指示がなくても自発的、積極的に貢献することが許される。組織もフラットで官僚主義的でない良さがある。

参考 

http://www.publix.com/

アメリカ流通業研究サークル 「アメリカ食品小売業プロフィール」

http://www.seisenkobo.co.jp/doc/us-retailer.htm

続く

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2007/06/10

『パブリックスの「奇跡」』について(1)

 太田美和子『パブリックスの「奇跡」-顧客満足度№1企業の「当たり前」の経営術』PHP研究所2006年を読みました。パブリックスとはフロリダ州レイクランドを本拠とする、リージョナル食品スーパーマーケットチェーンで、フロリダを中心に合衆国南東部のジョージア、サウスカロライナ、アラバマ、テネシーで876店舗を展開する。組合不在企業で非上場企業でもある。パプリックスの創業は1930年と古く、1968年にはフロリダでウィンディキシー、フードフェアに続く三位のシェアだったが、右肩上がりで成長し続け、90年代より州外に進出した。2006年にはフロリダ南部で一位56%のシェアを誇る。
  僅か5州で展開するリージョナルチェーンなので食品スーパーでは全米で6位ではあるが、13年連続顧客満足度全米№1、地元では「清潔・親切・清算が速い」ことから圧倒的に支持されている優良企業だ。

全米食品小売(生鮮・グロ-サリー取扱)売上げランキング
1位 ウォルマート・ストアーズ 988億ドル
2位 クローガー       584億ドル
3位 アルバートソンズ    363億ドル
4位 セイフウェイ      327億ドル
5位 アホールドUSA       289億ドル               
6位 パブリックス・スーパー・マーケッツ185億ドル
7位 デルハイツ・アメリカ  165億ドル
8位 H.Eバット・グローサリー104億ドル
9位 スーパーバリュ     86億ドル
10位 ウィンディキシー   71億ドル
(太田 前掲書207頁-『プログレッシブ・グローサー』誌による)
 上記の表は古く、2006年に9位のスーパーバリュが3位のアルバートソンズを買収しています。  http://www.worldtimes.co.jp/news/bus/kiji/2006-01-24T072717Z_01_NOOTR_RTRJONC_0_JAPAN-200659-1.html .. 
 ところで2003年10月11日から5ヶ月近く南カリフォルニアの大手スーパーマーケット・チェーン3社で国際食品商業労組(UFCW)に所属する組合従業員〔アルバートソンズ、セイフウエイ(ボンズ、パビリオンズを経営)、クローガー(ラルフズを経営)〕のストライキがありました。852店舗、59000人の労働者による141日間のストライキは、アメリカスーパーマーケット業界史上、最も長期に及ぶものとなった、このストライキ自体、反ウォルマートの宣伝も兼ねていた訳である。http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2004_4/america_01.htm 
 しかしアメリカの小売業の組織率は4%台で低い。アメリカを代表するリテーラーといえば一昔前ならシアーズ・ローバック、今はウォルマートであるが、非組合企業である。非食品小売や外食産業はアンチ労働組合なので組織化されることはまずない〔アメリカでは排他的交渉代表制がとられ、適正な交渉単位において3割以上の署名を得て組合代表選挙により過半数の労働者の支持を得た労働組合のみが団体交渉権を取得できるシステム〕。
 ただ100年以上の歴史のあるグローサリーストアから発展した食品雑貨スーバーには組合がある。しかし食品小売でも組織化されているのは22%である。パブリックスのような非組合食品小売も結構多いのである。労組や左翼の反ウォルマート運動はウォルマートが非食品ディスカウントストアから食品スーパーを兼ねるスーパセンター業態に発展し食品スーパーと競合関係に入ったことがきっかけであることは既に陳べたとおりである。
 パプリックスは食品で非組合なので、攻撃対象になったこともあった。ジョージア州ではクローガーに次ぐ二位のシェアであるが、新店舗オープンの度に食品商業労組(UFCW)に購買ボイコット運動をやられたけれども、パプリックスの従業員が幸せそうだったのでUFCWのデモはいつの間にか退散したのだという。
 パプリックスは企業文化がしっかりしているし、従業員が愛社精神に溢れ福利厚生も充実しているので、特に組合対策をやらなくても心配のない企業と見て良いだろう。
 著者はオープンドアーポリシーで自由闊達に意見の言える社風、従業員にフレンドリーな企業文化に言及しているが非組合セクターなら当たり前のことである。技能・能力より人柄、つまりハードワークに耐え、チームワークを重視し会社への忠誠を期待できる人を採用するやり方や管理職は全て内部昇進ということにも言及されているが、それ自体日本的雇用慣行に良く似ているともいえる。親子・兄弟・夫婦で家族ぐるみ従業員のケースが多いというが、良き時代のコダックのような家族主義的雰囲気にも似ているとも思った。『ファミリーナイト』や『カーニバル』のような社内行事はサウスウエスト航空の社風にも若干似ているとも思った。以上のことは格別特徴的といえる事柄ではない。
 パブリックスに特徴的なこと。高業績の秘訣は従業員はコミットメントや士気が高さにあるとされている。ハードワーカーでもある。クリンリネスの良さはパブリックスの特徴だが、棚の拭き掃除ひとつにしても精魂込め気合が入っている。ハードワークを楽しめる社風である。パブリックスではレジで袋詰めした袋を車まで従業員が運ぶサービスを何十年もやっている。荷物を運んでもチップは一切受け取らない方針だが客は無理矢理チップを握らせることが多いという。客が店に満足している証拠だ。もっとも非公開企業だから企業哲学が浸透しているという面もあるだろう。競合店よりより良い店、お客に買い物を楽しんでもらうという企業哲学が従業員に浸透している。競合のウィンディキシーでもそれをやっているのでこのサービスをやめるわけにはいかないだろう。
 著者によると以外なことではあるが、アメリカのス-パーは袋詰係がいるのが普通だという。日本ではレーバーコストを理由に大手スーパーはセルフサービスが当たり前たが、少なくとも袋詰めをやってくれる点は、アメリカのほうがサービスが良いのでは。フロリダではその上に車にまで運んでくれるのだ。
 ではパブリックスが、従業員のコミットメントを引き出すその急所は何か。それは120頁以下にある「緩やかな組織づくり」にあると思う。企業文化の基盤を固めた三代目社長ブラントン(1973年社長就任)は『パブリックスは、今まで、各人の特定の職務を示す書類を持ったことはありません』と述べている。要するに職務記述書がないということのようだ。つまりポストモダニズムマネジメントを先取りしていた企業であるということである。

続く

川西正彦

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2007/02/18

ウォルマート絶対支持論(1)

 ウォルマート(WAL-MART アーカンソー州ベントンヴィルに本拠のある)絶対支持宣言をやっておきたいと思います。
 誤解がないように初めに言っておきますが、これは国際食品商業労組(UFCW)やトラック運転者を中心とする「チームスターズ」等労働組合や左翼の反ウォルマート運動に対するウォルマートの明確な支持という意味であって、競合他社に対する支持ということではないです。左翼ジャーナリズムの宣伝とは逆に、ウォルマートが善、国際食品商業労組(UFCW)や「チームスターズ」が悪という図式で私の意見を述べたいと思います。

川西正彦

 ウォルマートは、単に世界一の小売業というだけでなく。民間企業で世界一の売上げを誇る(2002~2005、2006は原油高でエクソンモービルが1位でウォルマートは2位だがほとんど差はない)、全産業のなかで最強・最大の企業です。ウォルマートに関する本を5~6冊読みましたが、なるほど世界一に君臨するにふさわしい偉大な企業であることがわかりました。そこで、 ウォルマートの卓越した企業文化、反労働組合ポリシー、オープンドアポリシーなど非組合企業によくみられる従業員にフレンドリーな政策、ポストモダニズムマネージメント、上層部のハードワーク主義の勤労のエートス、ローコスト経営を賞賛したいと思います。
*昨年の夏、全世界のウォルマートでは初めて、中国のある店舗で組合が組織化されたというニュースを読みましたが、中国で非組合企業批判が強まっていたニュースを読んでいたので予想外のことではないですが、大変遺憾ではあるが中国で商売をやる以上妥協もやむをえないかもしれない。これは些細なことですから気にしていません。実質的に組合不在企業であることに変わりはないです。
 裏返していえば、労働組合が組織されている企業における働き方がコントロールされるモデル(つまり団体交渉や労使協議で、賃金・時間・作業条件・業務遂行方法等を決定し、労働者は組合の職務統制に服し、決められた条件以上には働かない、融通をきかせることもなく、労働者はひたすら交渉や労使合意で獲得した権利を労働組合の権力を背景に自己主張することが基本の職場)に対する反テーゼとして、ウォルマートのようなコミットメント型の従業員関係の企業文化を礼賛したいわけです。要するに結論はノンユニオニズムとポストモダニカルマネージメントに行き着くわけですが、私は組合不在企業には全て好意的ですからウォルマート以外の企業も順次とりあげていきたいと思いますが、まず世界一の企業から論評したいというのが趣旨です。

 ウォルマートの躍進で多くの競合他社を経営不振に陥らせたといわれます。しかしそんなことは非難されるべきことではありません。
 ディスカウントストア第2位のKマートは業績が悪化し2002年に連邦破産法11条(チャプターイレブン)を申請するに至りました。
*Kマートが不振となった要因についてhttp://www.urban.ne.jp/home/take/kmart.htm参照してください。もっともKマートは会社更生手続によって生まれた新会社 Kmart Holdings Corporation が投資家エドワード・ランバートの下で再生され、積極策がとられ2004年11月にシアーズ・ローバックの買収を発表、報道では110億ドルともいわれる。形としてはKマートがシアーズを買収したのだが、2005年に持株会社の名称を Sears Holdings Corporation としてKマートとシアーズがぶらさがる形になっている。
 ウォルマートの二代目のCEOデビッド・グラスの評価が非常に高い。それは旧来のディスカウントストアから拡充されたスーパーセンターに転換し飛躍的業績アップになったからである。1992年以降、スーパーセンター業態でウォルマートが本格的に食品市場に参入したことにより、多くの店舗が閉鎖に追い込まれたとされている。
 2004年4月の『海外労働情報』アメリカhttp://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2004_4/america_01.htmは次のように記されてます。「UFCWによると、1992年以来、ウォルマートの進出により閉鎖に追い込まれたスーパーマーケットは、13000店を超える‥‥カリフォルニア州を中心に営業していた大手スーパーマーケット「レイリー」が、ウォルマート進出により地区18店舗全てが閉鎖に追い込まれ、1400人の労働者を解雇せざるを得なくなった。レイリーの従業員の時間当たりの賃金水準が、家族の医療保険と年金保障を含めて時間当たり約15ドルであるのに対し、ウォルマートは約9ドルである。人件費の差がそのまま商品価格と顧客の獲得数に影響を及ぼしており、地元スーパー経営者の脅威となっている」
 小原博の昨年の著書(註1)によると、1992年以降、ウォルマートは20社強の食品スーパーを経営破綻させた。2005年には中南部に展開するスーパー大手のウィン・ディキシーを破産法の申請に陥らせた(なおアメリカ流通業研究サークルによるとhttp://www.seisenkobo.co.jp/us-ratil-club.htmlウィン・デキシーは2004年度には1000店舗以上を閉鎖したが、2005年2月に経営が破綻。連邦破産法11条による管理下で事業再生を進め、昨年11月連邦破産裁判所は、ウィン・デキシー社の事業再生計画を承認している)。また2005年カテゴリーキラー玩具大手のトイザらスが破綻しhttp://www.nintendo-inside.jp/news/159/15962.html報道によると57億ドルで投資会社に身売りしたが、これはウォルマート影響現象とされてます。
 

 だからといってウォルマートが多くの競合他社を経営破綻させたことを非難する理由は何もないです。この点については流通アナリストの鈴木敏仁氏が同氏の米国流通情報サイトで面白いコラムを書いてます。「スターバックスとウォルマート」http://www.retailweb.net/2006/01/post_53.html「実はスタバも、店員の労働組合結成の動きをつぶしている、健康保険加入資格を得るに十分な時間働かせていない、といった批判を労働組織から受けているんですね‥‥スタバがローカルのコーヒーショップをなぎ倒してきたことはまぎれもない事実で、この点においてはウォルマートとなんらかわりはない」ウォルマートだけが非難される筋合いなど全くないわけです。
 

 波形、中島編著『「ウォルマート」に勝つ店づくり』経営情報出版社(平成14年)を読みましたが、業態開発によってウォルマートに対抗することは可能です。ノースカロライナの地元企業が6社も載っていたので嬉しくなりました。ここでは3社だけ紹介しておきたいと思います。
 

 まずノースカロライナ州シャーロットに本拠のあるファミリーダラーhttp://www.familydollar.com/です。44州で6200店舗を展開してます。同業態のバラエティストアとしては均一価格販売のパイオニアであるテネシーに本拠のあるダラーゼネラルの方が大きく、そちらは8000店舗に達してますが、この業態は低価格、低コスト経営でウォルマートに対抗できる業態とみなされてます。ウォルマートの顧客層の58%が世帯年収4万ドル未満とされるが、生活必需品のニーズに貧富の差はさほどなく金持ちもケチなのでウォルマートで買い物をする。だからウォルマート顧客層は広いのである(註2)。対してファミリーダラーはターゲットを年収2万5千ドル未満の低所得層に絞り込んでいる。近隣立地で、家庭用品、実用衣料を数段階の低価格で売り、生活必需品を全て買ってもらおうという戦略だ。誤解がないように言っておくと、均一価格店として有名な日本のダイソーとはマーチャンダイジングが本質的に違います。ダイソーは自社企画商品が7~8割をしめ意外性・面白さを醸成して宝探し的魅力で客を吸引するユニークな手法ですが(註3)、アメリカのダラーストアはもっと基本的で購買頻度の高い商品が中心です。
 

 次にノースカロライナ州マシューズに本拠のあるハリスティーターhttp://www.harristeeter.com/Default.aspx リージョナル食品スーパーですが、ノースカロライナを中心に155店舗を展開、5年前の実績で、ノースカロライナのウォルマート110店舗に対し、108店舗を展開しているので大善戦です。人気の理由はとてもきれいで雰囲気の良い店舗、質の高い商品と低価格、すぐ食べられる惣菜、24時間営業(註4)。ハリスティーターの例から、食品スーパーも特徴を出せばウォルマートに対抗出来ることを示してます。
 

 次にノースカロライナ州シャーロットに本拠のあるアパレル製造小売のカトhttp://www.catofashions.com/index.cfmですが、中間層向けのカジュアルなジュニア、ヤング婦人服・靴・アクセサリー専門です。31州で1000店舗を展開している。コストダウンのため売り上げの8割をしめるプライベート・ラベルはアジア、アフリカで製造し、デバートより3割~7割の割安感で若い女性客を吸引している(註5)。ウォルマートに勝てる洗練されたデザインと低価格ならやっていけることを示しています。
 このようにウォルマートとの競争で十分対抗できる経営体質の企業もけっして少なくないのであり、ウォルマートをことさら悪者にする必要はないでしょう。

 ウォルマートは、もともとで競争相手のないド田舎の小さな町に出店した隙間産業だった。しかもアメリカの中心部、中南部の保守的な州を中心に展開していた。いわゆるノンユニオンステート(組合の組織率が低い勤労権州)、あるいはレッドステート(ブッシュが確実に勝てる保守基盤の州)という言い方もありますが、この範囲に留まる限り、軋轢が生じることはなかったと考えられる。軋轢が生じ、ウォルマート批判が強まったのは、ウォルマートの進出が労働組合や民主党リベラルの影響力の強い州、いわゆるユニオンステート、ブルーステートのメガロポリスに達したことによるものと推定できる。

 もっとも社会倫理観の地域特性の差違を過度に強調しすぎるのは問題があります。直接的要因は食品市場に本格参入したことでしょう。競合他社が組合不在の非食品リテーラーの場合は、組合との利害対立にはならない。しかし、スーバーセンター業態で本格的に食品市場に参入したことで組合が組織化されている食品系スーパーマーケットと競合関係となった。レーバーコストの高い競合他社はローコストのウォルマートの経営方式に太刀打ちできるはずがなく、労働組合との利害対立は明白になったと思われます。
 

 アメリカの小売業と労働組合組織率ですが、流通アナリストの鈴木敏仁氏はリアルタイム・リテールのコラム「資本主義とグローバリズムその2」で次のように解説してます。http://premium.nikkeibp.co.jp/retail/column/suzuki2/02/index.shtml「(アメリカの組合組織率は)小売業界は4.5%に過ぎない‥‥(小売・外食の組織率が低いのは)新興のチェーンストア企業がそろってアンチ組合というスタンスをとっていることにも理由を求めることができるだろう。ウォルマートはもとより、ホームデポ、コストコといった大手小売チェーン、マクドナルドを中心とした大手外食チェーンなどのほとんどは組合結成を許していない‥‥この小売業界4.5%のほとんどを占めているのがUFCWである‥‥北米140万人の会員のうち、100万人弱がスーパーマーケット労働者で、その実は食品労働者組合というよりも、スーパーマーケット店員のためにあるといっても過言ではない」とされ、アメリカの小売業では「100年近い歴史を持つグローサリーストアのみ例外的に小売業界で労働組合を持っている」ということである。

つづく
(註1)小原博「ウォルマート」マーケティング史研究会編『現代アメリカのビッグストア』同文館出版2006
(註2)鈴木敏仁『誰も書かなかったウォルマートの流通革命』株式会社商業会発行2003 26頁
(註3)木綿良行「ダラーゼネラル」マーケティング史研究会編『現代アメリカのビッグストア』同文館出版2006
(註4)波形克彦/中島利行編著『「ウォルマート」に勝つ店づくり』経営情報出版社2003 137頁以下
(註5)波形克彦/中島利行編著『「ウォルマート」に勝つ店づくり』経営情報出版社200359頁以下

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