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意見具申 伏見宮御一流(旧皇族)男系男子を当主とする宮家を再興させるべき 伏見宮御一流の皇統上の格別の由緒について(その二)

カテゴリー「東京都労務管理批判」の219件の記事

2023/06/03

昨日は自己申告面談

 本日は、自己申告で上司と面談をし、コンプライアンス上、疑問視される慣行を数多挙げ、都議会議員に陳情することを表明した。一つは、積極的なシャワー利用を呼び掛ける組合役員がいて、勤務時間中の洗身入浴について最高裁判例は労働時間に含まれないとしている以上、勤務時間中のシャワーは労務管理をきちんとすべきと述べた。そもそも浴室は労働衛生上の施設で、重筋労働をやっているわけではないのにガスや水道代を節約するために、職場で済ましてしまおうとする輩が許せないのは、組合に業務管理されている管理職が、おまえこそ汗臭くした働いているのがけしからんと、この問題を指摘したことなどを理由に強制配転されたことがあるので遺恨がある。
 庁内管理規程で保険の勧誘は禁止事項なのに保険会社の勧誘を認めていることについては、十年前かに苦情を言っているが、施設管理権の発動がなされないことはぬるすぎるとも述べた。
 今年は有言実行する。

2019/12/20

本日、東京都水道局事業所で1時間ストライキ

  東京都水道局の各事業所では令和元年12月20日全水道東水労(全労協系・旧社会党左派系の組合)がおよそ6年ぶりに8時30分より1時間の時限ストライキ(同盟罷業)を決行した。これは地公労法11条1項が禁止する違法行為である。判例は公務員法制の争議行為禁止の合憲性を肯定するにあたり、制約原理を「勤労者を含む国民全体の共同利益」としているので公的関心事であるが、東京都ではストが決行されても、機関責任が問われるだけで、水道局では本部中闘が処分の対象となるだけである。過去に支部長の訓告処分はあるが、これは懲戒処分でなく人事記録にのるだけのもの。水道局では私が知る範囲ではストライキ決行時において管理職はいっさい就労命令や、集会の中止命令もせず、集会の演説者やピケに立った者など、指導的役割を果たしたり、率先助勢した者の現認検書を作成したりしないので、現場で違法行為を慫慂しあおる行為があっても処分はしないのである。組織の指示にしたがっただけのスト参加者は処分対象にできないというのはかつてプロレイバー学説であったが、 全逓東北地本役員免職事件最小判昭53・7・18 が「争議行為は集団的行動であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも、多言を要しない」と説示しているように、プロレイバー学説は40年以上前に否定されている。ゆえに当局の争議行為対応は組合によって業務指揮権や施設管理権が掣肘されている不健全な在り方であり、ガバナンス、コンプライアンス上問題があるので、小池都知事と場合によっては都議会議員にも意見具申する予定。自分は仕事が遅いので今回は名誉挽回のため、速攻で進めたい。
 
  平成20年以降の東京都水道局で決行された1時間ストの例
  
1 平成20年3月19日の1時間のストライキ
 
2 平成22年12月10日の1時間ストライキ
  懲戒処分は23年2月3日付の全水道東水労中闘5名の最大16日間の停職処分(22年12月10日の1時間ストライキと17日の勤務時間執務室内職場集会を理由とする)と各支部長に対する訓告(12月10日の1時間ストライキ)
              
3  平成26年1月24日1時間ストライキ
  26年2月5発令懲戒処分は都知事選告示(細川、舛添、宇都宮氏等が立候補)の翌日で、新知事が決まってからでもよさそうたが、きわめて早い処分である。
 処分は1月24日の1時間ストを理由とする本部中闘の懲戒処分(停職18日2人、停職16日1人、停職7日1人、ほかに下水道局2人)
 
最大16日、18日ときているので次は20日か。これはそれなりに重いともいえるが、処分対象が限定されている、現場は何もやっても処分されない安心感をもたせていることが問題なのである。

2019/08/04

公務員及び公企体職員等の争議行為の合憲性判断の変遷と争議行為及び関連する組合活動の刑事事件主要判例の検討(その2)

(承前)


(二)判例法理で明確に否定されたプロレイバー学説に依拠した労務管理をすべきではない

 

2.主なプロレイバー学説


組合側は、プロレイバー学説によって企業の業務指揮権や施設管理権を掣肘することにより職場を支配しようとする。しかし以下の学説は判例によって明確に否定されているから組合の言い分を聞く必要は全くない。


 2-1.争議行為時に業務運営=業務命令ができないという説について

  
(要旨)
 組合側の論理として闘争時に職場を支配するため、管理者が業務命令することは労働基本権の趣旨に反し不当と主張することがありうる。プロレイバー学説では、争議行為は業務の正常な運営を阻害する行為という性格側面を持つとし、したがって争議時にも平常時と同様操業の自由が法的保障を受けるとすれば、操業の妨害を通じて要求貫徹を図る争議権の構造を否定し、操業妨害の効果を減殺させる争議対抗行為を、使用者に争議権が保障されていないのに認めることになるという理屈が根拠になっている。
 しかし 最高裁は、朝日新聞小倉支店解雇事件・最大判昭27・10・22民集6-9-857等初期の判例から争議時において操業=業務の運営が使用者の自由であることを否定しておらず、決定的には山陽電軌事件・最二小決昭53・11・15刑集32-8-1855において「ストライキ中であっても業務の遂行自体を停止しなければならないものではなく、操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができる」と操業を維持する使用者の権利を明示したので、争議行為時に業務運営=業務命令ができないという組合側の主張に同調する理由はない。

(1)最高裁判例はストライキ中の操業も使用者の自由であり刑法上保護されるとする

 平常時における操業=業務の運営が使用者の自由に属することはいうまでもないが、争議時において操業=業務の運営が使用者の自由が認められているかについて、学説は見解が分かれ、多数説は操業の自由を否定する立場(プロレイバー学説)で、争議中の操業は、市民的自由権ではあっても争議権との対抗の中では権利性を失い、法律上の特別の保護を受けることのない事実行為ないし自由放任行為にすぎないとする。
 片岡曻「使用者の争議対抗行為」労働法実務体系6 106頁、本多淳亮「争議中の操業について」労働法16 100頁、浅井清信 労働法論208、近藤正三「争議中の操業と施設管理権」浅井還暦労働争議法論がこのような立場である。
 しかし、判例は早くから操業の自由を肯定してきた。最高裁判例では、朝日新聞社西部本社事件(朝日新聞小倉支店解雇事件)最大判昭27・10・22 民集6-9-857(組合員外の者の作業を暴行脅迫をもって妨害するような行為は、同盟罷業の本質と手段方法を逸脱したものと判示)、羽幌炭礦鉄道事件・最大判33・5・28刑集12-8-1694(争議続行決議に反対して脱退した組合員が結成した第二組合に加わった労働者+非組合員による操業に対する実力ピケにつき威力業務妨害罪の成立を認めた)、横浜駐留軍事件・最二小判昭33・6・20刑集12-10-2250(非組合員+争議に加わらなかった組合員に対する就業の妨害につき威力業務妨害罪の成立を認める)等が挙げられる。
 最高裁はさらに山陽電気軌道事件・最二小決昭53・11・15刑集32-8-1855においてストライキ対抗措置としての操業行為は完全に法的保護の対象となると説示した。事案は昭和36年春闘に際し、私鉄総連系の私鉄中国地方労働組合山陽電軌支部組合(約500名)のストライキが必至の情勢になったところから、会社側は第二組合の山陽電軌労組員(約800名)によるバス運行を図るため、支部組合のスト突入に備え、第三者の管理する建物等を選び、営業の終わった貸し切り車等から順次回送する方法で数カ所に車両を分散し、保全管理したため、労使で車両の争奪戦となり、多数人による暴力を伴う威力を用いて会社が回送中又は路上に駐車中のバスを奪つて組合側の支配下に置きあるいは多数の威力を示して会社が取引先の整備工場又は系列下の自動車学校に預託中のバスを搬出しようとして建造物に侵入した本件車両確保行為につき、上告審決定は威力業務妨害罪、傷害罪、建造物侵入罪の成立を認めた原判決を是認した(なお山陽電軌は後にサンデン交通と改称)。
 決旨は「使用者は、労働者側の正当な争議行為によって業務の正常な運営が阻害されることは受忍しなければならないが、ストライキ中であっても業務の遂行自体を停止しなければならないものではなく、操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができると解すべきであり‥‥使用者が操業を継続するために必要とする業務は、それが労働者側の争議手段に対する対抗措置として行われたものであるからといつて、威力業務妨害罪によって保護されるべき業務としての性格を失うものではない」と説示し、ストライキ中の操業が法的に保護されることは、組合側の計画していた争議行為に対抗するためにとられた措置であるという理由で業務性を失うことはないと明示したことでこの問題は決着がついているのである。

 

 

(2)最高裁判例は業務命令によりスト参加者の代務を行う者の業務も刑法上保護されるとする


 上記の判例は争議権が認められている私企業の事案である。一方、公務員は争議行為が禁止されているのに、プロレイバー学者や組合側が争議中の業務命令を認めないと強気に主張していた理由は、全逓東京中郵事件・最大判昭41・10・26、都教組勤評事件・最大判昭44・4・2刑集23-5-305等が、公務員の組合にも争議行為を正当業務と認めたとの解釈を可能にしたためである。
 しかしながら、重要なことは、公労法違反の争議行為にも刑事免責が適用されるとした東京中郵判決の判例が維持されている時点でも、争議行為に対抗して代替業務者に業務命令することにより操業を維持することについて業務性を認め刑法上保護している判例が多数存在することである。動労糸崎駅事件・最一小決昭51・4・1刑事裁判資料230号215頁や、動労鳥栖駅事件・最三小決昭50・11・21判時801号がそうである。
 昭和38年12月13日、動労は全国7拠点(函館・盛岡・尾久・田端・稲沢第二・糸崎・鳥栖各機関区)で19時より2時間 勤務時間内職場集会(事実上の時限スト)を決行した。尾久、糸崎、鳥栖のマスピケの裁判例が知られている。

 国鉄は本件闘争に備えあらかじめ同じ動労の指導機関士を確保して代替乗務を命じており、代務の乗務員を職場大会(スト)に参加させるための動労によるマスピケについて威力業務妨害罪の成立を認めている。つまり、動労組合員である指導機関士が動労のスト指令に従わず、国鉄当局の業務命令によって、スト参加者の代替乗務員として列車を運転することは刑法上保護される業務とされており、争議行為時の業務命令は不当なものではないことは明らかである。

 ここでは動労鳥栖駅事件をピックアップする。門司鉄道管理局は、動労が時限ストを実施する情報に接し、機関車乗務員が勤務につかない場合に備え、管内から26名の指導機関士を集め、これを業務命令で代替乗務員として鳥栖駅に出張させること、現地対策本部を設置して門鉄局運輸部長を本部長にあて、鉄道公安職員合計約200名を動員し、警備に当らせること等を決定し、対策本部長は、19時から21時までに勤務すべき機関車乗務員が動労側によって市内某所の旅館に軟禁されていること、および鳥栖より乗務する長崎発京都行急行「玄海」号の機関車乗務員(当時は鳥栖でSLから電気機関車に付け替え発車する)が当日出勤していない旨の報告を受けるや、前述26名の指導機関士の一人であるS機関士(門司機関区所属の指導機関士であるが、動労組合員である)に対し、機関車(発機)を運転するよう命令し、対策本部長が先頭に立つて、同機関士が動労組合員らによつて連れ去られないように、数十名の鉄道公安職員に擁護させながら同機関士を誘導し、機留線にある発機に乗車させたのである。
 Sの運転する急行「玄海」号が定刻19時30分より五十数分遅延して発車しようとするや、組合員数百名と共に同列車進路前方の線路上軌条両外側の枕木付近にスクラムを組んで立ち並び、且つ、かけ声を発して気勢をあげ、その発車を阻止する行為等を指揮した動労中央執行委員と、動労西部地方評議会議長につき、威力業務妨害罪の成立を認めた福岡高判昭49・5・25判時770を上告審決定は是認している。
 このように国鉄当局は、時限ストに拱手傍観していない。ストに備え代替乗務員を確保し業務命令を発し、警備と実力ピケ排除のため鉄道公安職員を動員して、列車運行業務を遂行する労務管理は正当なものとされたとみてよい。

 

 

(3)最高裁判例は、公務員が争議行為に参加する場合、上司の就労命令等に従わないと、上司の職務上の命令違反として懲戒処分できるとしている以上、争議時に職務命令ができないなどということはない


 さらに神戸税関事件・最三小判昭52・2・20は、昭和36年の勤務時間内くい込み集会、繁忙期の怠業、超過勤務拒否等の争議行為等に指導的な役割を果たした全税関神戸支部幹部三名の懲戒免職処分を適法としたものであり、刑事事件の全司法仙台事件 最大判昭44・4・2刑集23-5-685を判例変更した全農林警職法事件・最大判昭48・4・25刑集27-4-547の判旨(争議行為の禁止とは違法とされるものとされないものを区別し、さらに違法とされる争議行為についても違法性の強いものと弱いものを区別したうえ、刑事制裁を科せられるのはそのうち違法性の強い争議行為に限るとする判断を否定)にそって、争議行為は全面的に違法とする前提なので、操業の自由の問題に踏み込まずとも、税関当局のとった勤務時間内職場集会に対して事前の警告や、集会当日も懸垂幕の掲出とともに、携帯マイクにより就労命令を行っていることが適法であることを前提として、上司の職務上の命令に従う義務違反としての懲戒処分を是認しているので、就労命令違反の懲戒処分を認めている以上、争議行為中は業務命令できないとする説は完全に退けたことになるのである。
 
 
 

2019/07/28

公務員及び公企体職員等の争議行為の合憲性判断の変遷と争議行為及び関連する組合活動の刑事事件主要判例の検討(その1)

 これは地方公営企業を念頭において労務管理において準拠すべき刑事判例の時系列的メモである。一般論をいうだけなので面白味はない。どのようなケースで刑事制裁が可能かを検討するための資料。懲戒処分も重要だが別途テーマとするので、刑事事件が中心である。引用参考文献は文末に示すが、この記述形式のヒントになったのは中村秀次「刑法総論に関する裁判例資料-違法性及び違法性阻却-」『熊本ロージャーナル』4号2010年である。下書きの域を脱していない。
 「一はじめに」は民事事件も含めた総論である。
一. はじめに
(一)正当な行為とはいえない組合活動を放置すべきではない
 
   我が国では労組法1条2項で労働組合の団体交渉その他の行為で正当なものについて刑法35条の適用(刑事免責)を認めている。
 また労組法7条1項は使用者が労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすることを不当労働行為として組合活動を保護している。
 問題は何が正当な行為かである。それは労働委員会命令、救済命令取消訴訟等の判例や学説に委ねられているけれども、様々な組合活動類型、争議戦術につき今日まで膨大な判例の蓄積があり判例法理の安定的維持によって、正当な組合活動の範疇はおよそ想定しうるものとなったといってよい。
 組合活動が正当な行為の範疇になければ受忍する理由はなく、企業秩序を乱す行為を放置する必要はない。放置されるならそれは馴れ合いであり癒着であって、昭和50年代に最高裁によって案出された企業秩序定立維持権等を発動して是正されるべき事柄である

 
(二)判例法理で明確に否定されたプロレイバー学説に依拠した労務管理をすべきではない
1. プロレイバー学説は1973~1979年の最高裁判例で主要な学説が明確に排除された
 わが国では労働法学者の多数が階級的・戦闘的労働運動を支援する目的の有害なプロレイバー学説(労働基本権によって所有権・財産権の侵害は正当化され市民法秩序は超克されるべきとする)という反市民法的ないかがわしい学説を流布してきた。労働組合は受忍義務説に依拠して無許可組合活動や、今日では違法性が阻却されない他者の権利を侵害する行為を行い、職場に顕著に有害な影響を与え続けてきた。
 学説は下級審にも影響を与え、特に東大の藤木英雄教授の可罰的違法性論はプロレイバー刑法学説というべきものだが、東大教授ゆえ司法に甚大な影響を与えた。
 全逓東京中郵事件・最大判昭41・10・26は可罰的違法性論を適用したもので、公労法の争議行為禁止を合憲としながら、公労法違反の争議行為にも刑事免責が適用されるという先例に反する判断を示したうえ、強い違法性のあるもの、相当悪質なものでない限り違法性が阻却され処罰できないとしたため、田中角栄幹事長ら自民党筋より非難され、以降、昭和42年頃から右派ジャーナリズムが労働・公安事件での偏向裁判をとりあげて司法部が非難され、その要因として「容共団体」青法協の影響力が指摘された。
 昭和44年に裁判所非難はピークiに達する。佐藤首相は司法の左傾化是正を意図して、最高裁長官に木村篤太郎元司法大臣の推薦により東京中郵事件で反対意見に回った石田和外を起用した。
 直後の都教組勤評事件・最大判昭44・4・2刑集23-5-305、全司法仙台事件・最大判昭44・4・2刑集23-5-685の判旨は、公務員の争議行為のうち違法とされるものとされを区別し、さらに違法とされる争議行為についても違法性の強いものと弱いものとを区別したうえ、刑事制裁を科されるのはそのうち違法性の強いものに限られるものとし、あるいは、あおり行為等につき、争議行為の企画、共謀、説得、慫慂、指令等を争議行為にいわゆる通常随伴するものとして、これを刑事制裁から除くというものであるが、この争議行為通常随伴行為不可罰論は、争議行為が公務員の組合の正当業務であるのような心証を与えたことにより、公務員のストライキは公然化した。
 この時点で反対意見は奥野健一、草鹿浅之介、石田和外(長官)、下村三郎、松本正雄の5人の裁判官にすぎなかったが、最高裁は次第に秩序重視派の裁判官が増加し、石田長官退官直前の昭和48年に多数派が形成されて潮目が変わった。石田和外長官は退官後も英霊に応える会会長、元号法制化実現国民会議議長(今日の「日本会議」の前身の一つ)として存在感のある人物だったが、最大の功績は労働事件で左傾化した司法判断の是正に道筋をつけたことにある。
 以後の7~10年間がプロレイバー学説を否定する判例のラッシュとなり、司法は正常化していった。とくに昭和50年代に最高裁が案出した企業秩序論により職場の秩序維持が可能になったことは意義がある。この時期の重要判例をあえて4つに絞れば以下のとおり。
 
 (1) 国労久留米駅事件・最大判昭48・4・25刑集27-3-418
 
 信号所を占拠し駅長の管理を排除するマスピケ事犯で建造物侵入罪と公務執行妨害罪の成立を認めたものだが、下級審が争議行為に付随する犯罪構成要件該当行為に可罰的違法性論を適用して安易に無罪とする悪しき傾向を否定する判断方式を示したことで、社会史的な転換点となった。
 この久留米駅事件方式の特徴はピケッティングを争議行為そのものと明確に区別し、争議行為に際して行われた行為と位置づけたことで、公労法違反の争議行為に刑事免責を適用されるとした東京中郵判決を争点から外したうえ、あえて判例変更しないことによって私企業一般の先例としたのである。
 久留米駅事件方式の引用により無罪の原判決を破棄自判し有罪とした判例として、他組合員への断続的暴行、逮捕連行行為につき日本鉄工所事件・最二小判50・8・27刑集29-7-442、包囲型ピケッティングの逮捕連行行為につき光文社事件最三小判昭50・11・.25刑集29-10-929、六分間テレビの生放送中に労働歌等の騒音を混入させる業務妨害につき毎日放送事件・最一小判昭51・5・6刑集30-4-519等多数ある(マスピケ事犯で同様に無罪から有罪となった国鉄の判例も多いがここでは省略する)。
 最高裁は、リーディングケースの山田鋼業事件最大判昭25・11・15刑集4-11-2257と朝日新聞西部支社事件・最大判昭27-10-22民集6-9-8において争議行為は労務提供拒否という不作為を本質とし、したがって、これに随伴する行為も消極的行為の限度にとどまるべきであり、それを越えて使用者側の業務を妨害するような意図及び方法での積極的な行為は許されないとの見解を確立し、ピケッティングと犯罪の成否については羽幌炭礦事件・最大判昭33・5・28刑集12-8-169が同趣旨の判断基準を示した。
 したがって最高裁は、プロレイバー学説の争議行為は不作為にとどまるものでなく業務阻害権であるという主張をいっさい認めていないが、下級審は可罰的違法性論を採用することによりピケッティングに物理的阻止や有形力行使を認め、組合に戦闘力を付与していた。
 この矛盾を解消したのが、久留米駅判決で、ここに至って物理的阻止や有形力行使する組合活動を「正当な行為」から概ね除外することを示唆する判断基準を確立したのである。
 臼井滋雄最高検検事[1977a]は、久留米駅事件方式確立の結果、「最高裁判例においてはピケッテイングの正当性の限界につき,消極的性格の行為の限度にとどまるべきであるという見解が堅持され、いわゆる平和的説得の限度を越えたピケッテイングが犯罪構成要件に該当するときは、犯罪の成立を阻却するごく特殊な事情が存在する場合は格別、原則として違法性が阻却されないものとされている」とするが的確な批評だろう。
 
 (2) 神戸税関事件・最三小判昭52・2・20民集31-7-1101
 
 国家公務員が争議行為を行った場合、争議行為を禁止した国公法98条5項(現98条2項)に違反するだけでなく、98条1項(法令又は上司の職務上の命令に従う義務)、101条1項(職務専念義務)、人事院規則14-13(現17-2、7条2項・組合活動により勤務中における他の職員の勤務を妨げてはならない義務)にも違反し、かつ国公法82条1号(法令違反)同3号(国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行)にも該当するものとして懲戒処分できると判示した。
 要するに公務員の争議行為について服務規程違反として懲戒処分できないとするプロレイバー学説を否定した。
 むろんこの判例は、都教組勤評事件・最大判昭44・4・2刑集23-5-305及び全司法仙台事件・最大判昭44・4・2刑集23-5-685の判旨を全面的に否定した、全農林警職法事件・最大判昭48・4・25刑集27-4-547及び岩教組学力調査事件・最大判昭51・5・21刑集30-5-1178を踏まえてのもので、同判例は、争議行為禁止の合憲性を肯定するにあたり、制約原理を「勤労者を含む国民全体の共同利益」とした。これは全逓東京中郵判決・都教組判決・全司法仙台判決が「国民生活全体の利益」の保障という内在的制約論とは明らかに異なるものであり、懲戒処分に抑制的になる理由は何もなくなったということである。
 
 (3) 全逓名古屋中郵事件最大判昭52・5・4刑集31-3-182
 
 全逓中央本部・同愛知地区本部の幹部が名古屋中郵局庁舎内で集配課外務員多数に職場大会参加を説得慫慂した行為に郵便法違反幇助罪と建造物侵入罪の成立を認めた。東京中郵判決を判例変更して公労法違反の争議行為に刑事免責は適用されないとし、混乱した裁判実務を収拾した。
 この判例によって違法争議行為における犯罪の成立範囲が確定(単純参加者を処罰の範囲外とする)し、争議行為に付随する行為の刑事法上の評価の判断方式も確定(久留米駅事件方式の総括・明確化)した[臼井滋雄1977b]。
 
 (4) 国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54・10・30民集33-6-647
 春闘における、ロッカーへのビラ貼付行為に対する戒告処分を是認した。狭い意味ではいわゆる施設管理権の指導判例だが、集団的労働関係でもっとも重要な判例という評価[大内伸哉]もある。その卓越した意義を要約すれば以下の5点である。
① プロレイバー学説(受忍義務説・違法性阻却説)を明確に排除し、企業施設内における無許諾の組合活動は労働組合の正当な行為に当たらないとした。
② すでに富士重工業原水禁運動調査事件・最三小昭52・12・13民集31-7-103によって最高裁によって案出されていたが、使用者の企業秩序定立維持権という判例法理を確立。企業秩序を侵害する行為について(1)規則制定権(2)業務命令権(中止・解散・退去命令)(3)企業秩序回復指示・命令権(4)懲戒権があることを明確にした。
③ 労働組合に個々の労働者の権利の総和を超える権能を認める団結法理の否認
④ 抽象的危険説の採用。抽象的な企業秩序の侵害のおそれのみで、施設管理権の発動を認めていること(具象的な企業の能率阻害を要件としない)
⑤ 「利用の必要性が大きいことのゆえに‥‥‥労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない」と述べ、「組合活動の必要性」は無許諾の組合活動を正当化する理由にならず、法益権衡論ないし法益調整的アプローチを明確に排除した。一部の左派の最高裁判事や中られるような特段の事情」論に法益権衡論の調整的アプローチに違法性阻却の枠組みを主張することがあったが、最高裁は明確に退けており(池上通信機事件・最三小昭63・7・19判時1293・日本チバガイギー事件・最一小平元・1・19労判533)、今日まで「特別事情論」に風穴を開けられることなく、判例は安定的に維持されている。
 なお、最高裁は国鉄の懲戒処分の法的性質を私法上の行為と判示(国鉄中国支社事件・最一小判昭45・2・28民集28-1-66)しているので、本件は私企業一般の先例なのであり、官公庁の庁舎管理権とは一線を画している。
 一方、現業国家公務員について、長野郵政局長事件・最二小判昭49・7・19民集28-5-897 が、勤務関係は公法関係と判示している。
 地方公営企業については、名古屋市水道局事件・最一小判昭56・6・4労判367号57頁が勤務関係を公法関係と判示しており、懲戒処分は行政処分であって、私法上の労働関係とされている三公社の先例が直ちに適用されるのかという疑問が生じるところではある。
  しかしながら全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58・12・30判時1102号140頁(郵便局舎内の無許可組合集会に対する解散の通告、監視等を不当労働行為に当たらないと判示)が是認した原判決東京高判昭55・4・30労民31-2-544は「企業主体が国のような行政主体である場合と、また私人である場合とで異なるものではない」と述べ企業秩序論が汎用できると説示しており、国労札幌地本事件・最三小判昭54・10・30を引用していることから、この判例法理は勤務関係が公法関係である職場の判断枠組にも適用されている。
 この趣旨から地方公営企業にも企業秩序論の判例法理に準拠した判断をとることができるとみてよいだろう。
 加えて、近年、地方自治体の庁舎管理権につき呉市立中学校事件・最三小判平18・2・7の判例法理を引用した地方自治法238条4項7項(旧4項)の目的外使用許可の裁量処分に関する判例が蓄積しているが、大阪市組合事務所使用不許可処分事件・大阪高判平27・6・2判時2282号28頁は、労働組合等が当然に行政財産を組合事務所として利用する権利を保障されてはいないと説示し、これは、企業の物的施設を行政財産に言い換えただけで、その論拠となる先例として、国労札幌地本事件最三小判昭54・10・30民集33-6-676、同判例を引用する済生会中央病院事件最二小判平元・1・12・11民集43-12-1786、オリエンタルモーター事件最二小判平7・9・8判時1546号130頁を参照指示していることから、地方自治法238条4項7項の目的外使用許可の裁量処分においても私企業の施設管理権の先例を無視した判断はとられていないのであって、それに準拠した判断をとることができるのは明らかである。
(つづく)

参考文献
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1976「地方公務員の争議行為禁止と刑事罰-全逓中郵事件判決以降の判例の系譜から見た岩教組事件判決の意義」『法律のひろば』29巻8号
1977a「ピケッティングの正当性の限界」『法律のひろば』30巻4号
1977b 「五・四名古屋中郵事件大法廷判決について-公企体職員の違法争議行為と刑事罰」『警察学論集』30巻7号
1977c 「公務員等の争議行為をめぐる刑事判例の動向--名古屋中郵事件判決までの軌跡 」『法律のひろば」30巻8号
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1980 「企業の施設管理権と組合活動--昭和54年10月30日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」法律のひろば33(1)1980
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1992「最高裁における『企業秩序論』」季刊労働法157号
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1980 「組合活動としてのビラ貼りと施設管理権--国鉄札幌駅事件を素材として」法曹時報32巻7号

2019/02/10

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その8

(承前)

 

四 組合旗掲出、掲揚・横断幕・立看板設置・タクシーバレード等

 

(一)総論

 

1.国労札幌地本判決の判断枠組による判例

 

 旗上げ行為、組合旗設置について私企業の判例として●平和第一交通事件・福岡地判平3・1・16や、●社団法人全国社会保険協会連合会(鳴和病院)事件があるが、国労札幌地本事件・最三小判昭54103の判断枠組が引用され、組合旗設置を正当な組合活動ということはできず、組合旗の撤去、処分警告書の交付等を不当労働行為にあたらないとする。

 しかし、懲戒処分については、●全国一般労働組合長崎地本・支部(光仁会病院・組合旗)事件(損害賠償請求訴訟)長崎地判平18・11・16が、組合が抗議活動として組合旗を病院正門の左右と公道に面した位置に計5本を設置した行為に対して、病院は撤去を求めたが、組合は約3ヶ月半にわたり設置しつづけたために、施設管理権及び所有権を侵害する違法行為として分会長に対して停職3か月(その間、賃金不支給、本件病院敷地内立入禁止)の懲戒処分を科したという事案で、組合旗設置行為による信用毀損の損害を認めたうえ、停職3ヶ月の量定も重すぎることはないと判示したが、控訴審福岡高判平20625は信用毀損の損害は認めつつ懲戒処分は権利の濫用として無効とした

 一方、同事案の救済命令取消請求訴訟である国・中労委(医療法人光仁会)事件東京地裁平21・2・18は、懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないとしながら、懲戒事由である本件組合旗設置に比して、著しく過重なものであるということができ、組合活動に対する嫌悪を主たる動機として、その下部組織の分会長に対し、懲戒事由に比して過重な処分を科したものと認め、労組法7条3号の不当労働行為に当たると判示し、控訴審東京高判平21・8・19も原審の判断を維持している。

 従って著しく過重な量定の懲戒処分であると、組合活動に対する嫌悪が主たる動機と認定されたときに、支配介入とみなされるから、処分の量定が重すぎるのは安全運転といえない。

 

2.官庁の庁舎管理権判例

 

 ●北見郵便局懲戒免職事件・札幌高判昭54・3・29は、 郵政省庁舎管理規程によると、庁舎管理者の許可なく広告物またはビラ、ポスター、旗、幕その他これに類するものを掲示、掲揚または掲出したときは、その撤去を命じ、これに応じないときは庁舎管理者はみずから撤去することができる旨規定されていて、当局が全逓旗、横断幕および立看板の撤去を正当な業務とし、撤去作業を妨害した行為が国家公務員法99条に違反し、同法82条1号、3号に該当するとした。従って郵政省庁舎管理規程のような明文規定があることが望ましい。


 

 (二)主な組合旗・横断幕等に関する判例

  

○北見郵便局事件・札幌地判昭50226判時771号3頁

  本件は庁内デモ行進中に管理者をデモに巻き込み傷害を与えたことを理由とする懲戒免職処分が、過酷に失し懲戒権の濫用として違法としたが、組合旗等の撤去については、正当な職務行為であり、撤去作業を妨害した行為は、これを違法なものと評価せざるを得ないとする。

 北見郵便局の庁舎管理者である同郵便局長の許可を受けることなく、通用門の両側の鉄柵に全逓旗が各2本ずつ計4本、入口に立看板が1枚立てられ、図書室前の鉄柵に横断幕2枚張られた。郵便局長は組合書記局に撤去するよう命じたが応じず、管理職により撤去作業を始めたところ、原告ら組合員が妨害行為をしたことが懲戒事由の一つとされておりそれ自体は違法であるとしている。 郵政省庁舎管理規程によると、庁舎管理者の許可なく広告物またはビラ、ポスター、旗、幕その他これに類するものを掲示、掲揚または掲出したときは、その撤去を命じ、これに応じないときは庁舎管理者はみずから撤去することができる旨規定されている(六条、一二条)。全逓旗、横断幕および立看板はいずれも北見郵便局長の事前の許可を得ないで掲出されたものであり、原告はその撤去命令に従なかったのであるから、同局長はみずからこれを撤去することができると説示する。

 

●北見郵便局懲戒免職事件・札幌高判昭54・3・29判時940号114頁

 スト指導その他を理由とする懲戒免職を違法とした一審を破棄し適法とする。庁舎管理者の許可を得ないで掲出された組合旗、横断幕及び立看板を管理者側が撤去しようとするのは正当な職務行為であり、右撤去作業を妨害した行為が国家公務員法99条(信用失墜行為の禁止)に違反し、同法82条1号、3号に該当するとした。

 

○国鉄松山電気区・松山地判昭61・12・17労判488号25頁

 組合旗を撤去した電気支区長に対して暴言、暴行に及んだ国労愛媛支部書記長の懲戒免職を解雇権の濫用として無効とする

 

●ミツミ電機事件・東京高判昭63・3・31判タ682号132頁

 争議中の集会、デモ、泊込み、ビラ貼付、赤旗掲揚等を理由として組合役員になされた懲戒解雇を是認。

 

●ミツミ電機事件・東京高判昭63・3・31判タ682号132頁

 争議中の集会、デモ、泊込み、ビラ貼付、赤旗掲揚等を理由として組合役員になされた懲戒解雇を是認。

 

○国鉄松山電気区事件・高松高判平元・5・17労判540号52頁

 棄却、組合旗を撤去した電気支区長に対して暴言、暴行に及んだ国労愛媛支部書記長の懲戒免職を解雇権の濫用として無効とした原審を支持。

 

●平和第一交通事件・福岡地判平3・1・16労経速1423号3頁

 組合旗の撤去、処分警告書の交付等を不当労働行為とした労委命令を取消し、施設管理権の行使として是認された例であるが、国労札幌地本事件最高裁判決を引用したうえ「組合が掲揚した組合旗は、昭和六一年六月一〇日ころにはその数が二〇本に及び、原告事務所の美観を著しく損ない、通行人や乗客に奇異な印象を与えるものであることが認められ、、‥‥、組合が依然として組合旗等の掲揚を中止しないために、やむをえず掲揚されていた組合旗等を自力で撤去し、無断で組合旗を掲揚していた組合員に対し、再発防止のための責任追及及び処分の警告を発したものであって‥‥必要な施設管理権の行使であって、組合が企業内組合として団結を示すために掲揚することが必要であることを十分考慮に入れても、それゆえに組合が原告の施設を使用できる当然の権利を有するものではなく、原告が組合の組合旗掲揚を受忍する義務もないというべきである。」と説示。

 

●ミツミ電機事件・東京地八王子地判平6・10・6・24労働判例67445頁

 組合の行った座り込み・デモ・ビラ貼付・赤旗掲揚・立て看板等を理由とする、組合委員長の解雇を是認。

 

●社団法人全国社会保険協会連合会(鳴和病院)事件 東京地判平8・3・6労判69381頁号 

 組合旗撤去は不当労働行為に当たらないとする中労委命令を支持。

 「本件組合旗は、縦約数十センチメートル、横約一メートルで、掲揚場所も正面玄関のほぼ真上に当たる屋上であり、歩道から鳴和病院構内に入る地点からも、また、道路を隔てた向かい側からも見通せる非常に目につきやすい位置に掲揚されたことを認めることができる。‥‥使用者は、施設管理権を有しているのであるから、施設の使用を制限することは、これが施設管理権の濫用と認められる特段の事情がない限り適法であって、施設の使用」と説示。と到底認めることができない。」

 

●大和交通事件・大阪高判平11・6・29労働判例773号50頁

(タクシーパレード事案)

 労働組合が違法な争議行為を行ったことを理由とする組合執行委員長の懲戒解雇の効力が争われた事案において、原判決を取り消し、組合執行委員長の懲戒解雇を有効とする。ストの規模、本件ピケの態様に照らせば、その違法性が強いとしたうえで、タクシーパレード(平成八年四月一九日午後四時に奈良市内の猿沢池に集合した上、被告のタクシー10台、他のタクシー会社13台、その他他宣伝カー等4台で、使用者の許可なく、タクシーの後部窓に「‥‥賃金改善せよ」等の文字を記載した布をテープで張り付け、同日四時一〇分ころから四時五〇分ころまでの間、猿沢池から奈良陸運支局までの奈良市内を走行するパレードを行った)についてもその間、乗客の利用を拒否して足を奪い、公共交通機関として業務を妨害し、タクシー事業者においてもっとも重要な財産である営業車両を業務と関係のないことに持ち出したことに鑑みれば、料金を納入したからとしいって違法性が阻却されるとはいえないと述べ、施設管理権を侵害し、従業員の就業時間中の職務専念義務、組合活動禁止義務に違反し、控訴人の名誉、信用を害する違法な組合活動と断じた。

 

●全国一般労働組合長崎地本・支部(光仁会病院・組合旗)事件長崎地判平18・11・16

 全国一般労組長崎地本長崎合同支部(医療法人光仁会)事件とは平成16年、長崎市にある精神科専門の医療法人光仁会病院(精神病床561床、従業員271名=当時)と全国一般労組長崎地本長崎合同支部(長崎地区の中小企業・商店など労働者が職種・企業を越えて組織された組合、組合員数221人、光仁会病院の組合の分会は61名)との間で夏期賞与支給をめぐって4回の団体交渉が行われたが妥結に至らなかったことから、分会長及び組合員らは、抗議行動として、赤地に白抜き文字で「団結」「全国一般」「長崎地本」などと記された組合旗を病院正門の左右両側に及び公道に面した位置に計5本を設置した。これに対して病院は再三にわたり撤去を求めたが組合は正当な組合活動であるとして応じず、約3ヶ月半にわたり設置しつづけたために、病院は、組合旗設置行為が施設管理権及び所有権を侵害する違法行為として分会長に対して停職3ヶ月の懲戒処分を科したという事案で、病院側が組合旗設置行為の違法を前提に、原告医療法人が被告らに対し損害賠償を求めた甲事件及び丙事件と、懲戒処分の無効を前提に、被告が原告医療法人に対し賃金請求をするとともに、被告組合支部及び被告が原告医療法人に対し損害賠償を請求する乙事件の3事件が併合審理され、被告組合支部と分会長の請求を棄却し、医療法人側の損害賠償請求を一部認容した。

 判断枠組として昭和54年最判(国労札幌地本事件)が引用され、本件事実関係によれば、本件組合旗設置行為は、約三か月半も継続したものであり、しかも、四本の組合旗は公道に面した場所に掲揚され、残り一本の組合旗も正門を入ってすぐの場所に掲揚されていて、組合旗の大きさ、色彩、記載された文字等に照らすと、これらを見る者の視覚を通じて、組合活動を展開している旨の訴えかけを行う効果を十分に有していたものと認められる。そのため、本件組合旗設置行為により軽視することのできない信用毀損の損害を被ったのであって、被告組合支部はその執行委員会の決定に基づき、違法な本件組合旗設置行為に及んだのであるから、民法七〇九条による不法行為責任を負うものである。また、分会長は、違法な本件組合旗設置行為を実際に実行した主体の一人であり、その個人責任が否定されることにはならず、民法七〇九条による不法行為責任を負うものである。

 原告が、病院施設に掲揚された組合旗を目にした医療従事者、患者及びその家族、近隣住民、金融機関、行政機関等から、悪しき評価を受け、本件組合旗設置行為によりその信用を害されたのは明らかである。原告は、精神に障害を負った患者の治療を行うための精神科の病院を経営しているため、その静謐な環境と相反する本件組合旗設置行為に対する一般の評価も厳しくなったものと考えられ、本件組合旗設置行為による信用毀損の損害が認められる。本件組合旗設置行為による原告光仁会の損害額は、合計275万5千円とした。また懲戒処分の内容として、三か月の停職処分が重すぎるということはできないと判示した。

 

□全国一般労働組合長崎地本・支部(光仁会病院・組合旗)事件・福岡高判平20625労判1004号134頁

 本件、組合旗設置行為は違法であるから、不法行為責任を負う。また正当な組合活動とはいえず、就業規則上の懲戒事由に該当するが、使用者の敵対的行動や団体交渉に対する消極的態度に反発したことにも起因し、当該懲戒処分は組合やその活動に対する敵意の発現であったとも考えられ、組合員に対する停職処分は、行為内容と対比してあまりに均衡を失し、社会通念上合理性を欠き無効とする。(TKC参照)

 

(判文の要所)

「本件のように、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権利を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動には当たらないものと解するのが相当である(昭和54年最判参照)。

イ そして、控訴人丁原ら組合員は、被控訴人の許諾を受けることなく、光仁会病院の病院施設に本件組合旗を設置したものであるから、被控訴人が本件組合旗の設置を許さないことをもって権利の濫用であるということがいえない限り、本件組合旗設置行為等は、被控訴人の施設管理権を侵害し企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動ということはできず、違法というべきである。‥‥‥本件組合旗設置行為等は違法であって、不法行為を構成するというべきである。そして、控訴人丁原は控訴人組合の決定に基づいて本件組合旗を設置したものであるから、同控訴人らが不法行為責任を負うことは明らかであり、また、控訴人組合本部についても、同控訴人は控訴人組合の上部組織であって、実質的にも指揮監督関係にあったものと認められるから、民法715条に基づく責任(使用者責任)を負うというべきである。

 本件懲戒処分のような、使用者の懲戒権の行使には裁量が認められているのであるが、これがその原因となった行為との対比においてはなはだしく均衡を失し、社会通念に照らして合理性を欠くなど裁量の範囲を超えてなされた場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である(最高裁昭和49年2月28日判決・民集28巻1号66頁、最高裁昭和50年4月25日判決・民集29巻4号456号参照)。

 これを本件についてみると、本件組合旗の設置は正当な組合活動とはいえないのであるから、‥‥約108日間の長期間にわたって本件組合旗を撤去しなかったものであって、‥‥その情状は決して軽くはないというべきである。 

 しかしながら、控訴人組合が本件組合旗設置を決意したのは、被控訴人の控訴人組合に対する敵対的行動や団体交渉に対する消極的態度に反発したことにも起因するものであったこと、本件組合旗の設置期間が長期に及んだのは、被控訴人が、本件組合旗の設置に対抗して、本件ビラを配布したり本件日の丸等を設置し、さらに、その間に行われた団体交渉にも消極的な態度で臨んだことにも起因していること、本件懲戒処分は、3か月間にわたって賃金を支給せず、かつ光仁会病院の敷地内にも立入りができないという厳しい処分であるにもかかわらず、被控訴人の理事会においては、今まで組合旗が設置してなされた組合活動に懲戒権が行使されたことはないことや、光仁会病院における過去の懲戒権行使の事例について検討した形跡はなく、ただ、本件組合旗の設置期間が108日間であったから3か月の停職にするという薄弱な理由で本件懲戒処分を決定していること、労働協約の一括しての解約通告においても、被控訴人において事前にその必要性の有無等を真摯に検討したことをうかがわせる資料はないこと、被控訴人は、本件ビラに控訴人組合を揶揄するような内容の記載をし、従業員からも組合側が設置したと誤解されるような横断幕を設置し、また、本件懲戒処分直後から光仁会病院の正門にガードマンを配置して控訴人丁原の立入りを阻止しており、これらの行動と本件組合旗設置前からの被控訴人の敵対的態度とを併せると、被控訴人には控訴人組合やその組合活動に対する敵意がうかがわれ、本件懲戒処分はその発現であったとも考えられること、以上の事実を総合して考えると、本件懲戒処分は、本件組合旗設置行為等の行為内容と対比してあまりに均衡を失するものといわざるを得ず、社会通念上合理性を欠くというべきである。したがって、本件懲戒処分は権利の濫用として無効である。‥‥ 

 なお、本件組合旗の設置による信用毀損等の無形の損害として、8月5日に取引銀行の担当課長が、翌6日に医療技術者養成学校の関係者が、9月30日に保健所の担当者が、10月25日に常勤医師が、同月28日には取引銀行の担当者が、それぞれ被控訴人の関係者に苦言を呈したり、被控訴人を敬遠するなどの状況になり、病院の信用が毀損されたことは明らかであるとし、損害は150万円をもって相当と認めた。

 

 

◯国・中労委(医療法人光仁会)事件東京地裁平21・2・18労判981号38頁

 本件は前掲と同じく、組合旗設置行為が施設管理権及び所有権を侵害する違法行為として分会長に対して停職3ヶ月の懲戒処分を科した事案で、この懲戒処分と平成16年10月12日付け団体交渉の申入れに応じなかったことが、中労委によって、不当労働行為(労組法7条3号、同2号所定のもの)に当たるとされ、救済命令を発せられたことから、医療法人側がこれを不服として取消しを求めた事案である。

 昭和541030日最判(国労札幌地本事件)の判断枠組を引用して、本件組合旗設置を正当な組合活動ということはできず、原告がこれにつき懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないとしながら、原告は団体交渉において、賃金ないし一時金の支払に関する態度を変遷させた上、団体交渉申入れに応じないまま、一方的に組合員の降格処分を公表したばかりか、長崎県労委に対して降格人事に関する救済申立てを行うなど、客観的に労使対立が鮮明になっている状況において、一方的に労働協約を解約し、本件組合旗設置が始まるや、補助参加人を揶揄するようなビラを作成して配布し、組合旗に対抗する形で横断幕及び立看板を設置しており、これに対して補助参加人が反発することは事の成り行き上いわば自然といえる面がある。加えて本件懲戒処分は、3か月間にわたる停職を命じ、相当に重い処分である。しかも停職期間中は、組合活動等のため本件病院の敷地内に立ち入ることも許されないというものであり、組合活動に与える影響も大きいと考えられる。過去にも補助参加人による組合旗設置が行われていたところ、それに対して懲戒処分がされた例はなく、本件懲戒処分は、懲戒事由である本件組合旗設置に比して、著しく過重なものであるということができ、組合活動に対する嫌悪を主たる動機として、その下部組織の分会長に対し、懲戒事由に比して過重な処分を科したものと認め、労組法7条3号の不当労働行為に当たるとする。

 また本件事前団体交渉拒否については、特定の組合員に対する懲戒処分に関する事項も、労働者の労働条件その他の労働者の待遇に関する基準についての事項として義務的団交事項に該当すると解されるところ、本件においては、原告における懲戒処分の基準が必ずしも明確でなかったのであって、団体交渉の必要性が高かったこと等誠実に対応したものとはいい難く、本件事前団体交渉拒否は、労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして、中労委の救済命令を支持した。

 

◯国・中労委(医療法人光仁会)事件・東京高判平21・8・19労判1001号94頁

 平21・2・18判決の控訴審。 当裁判所も、本件組合旗設置を正当な組合活動ということはできず‥‥懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが、本件懲戒処分(停職3か月、その間、賃金不支給、本件病院敷地内立入禁止)は、懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くものであり、また‥‥、甲野理事長に交替した後の労使関係においては控訴人の補助参加人(組合)に対する嫌悪を十分に推認できるのであるから、本件懲戒処分は‥‥組合活動に対する嫌悪を主たる動機として、補助参加人の下部組織の分会長であるBに対して著しく過重なものとして科されたものと認めるのが相当であり、本件懲戒処分は労組法7条3号の不当労働行為に当たるものと判断する。」

「(2)本件事前団体交渉拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか

 組合員に対する懲戒処分の基準及び手続は、労働条件その他の待遇に関する事項であり、義務的団体交渉事項に該当するところ、前記認定の事実関係からすると、本件病院敷地内に組合旗を設置したことを理由とする懲戒処分については、処分の基準が不明確であり、同様の処分の先例もなかったのであるから、懲戒処分に関して事前協議を行う旨の労使協定が存在しなくても、控訴人は補助参加人(組合)からの本件事前団体交渉の申入れに応じなければならない義務があり、いかなる懲戒処分をするかがまだ決定していないことや懲戒処分後に団体交渉に応じることをもって団体交渉拒否を正当化することはできない」

 

●フジビグループ分会組合員ら(富士美術印刷)事件・東京高判平2874労判114916頁は、会社を解雇された控訴人)らが、被控訴人の本社敷地内や周辺、取引先等にビラを配布し、幟を本社周辺に掲示して拡声器で宣伝し、横断幕を本社屋上のフェンスや壁に掲示すするなどした行為により、被控訴人の名誉・信用の法的利益を侵害されたなどとして、控訴人らに対し、損害賠償金の支払いを求め、請求を一部認容した原審の判断を維持。

 

 

2019/02/07

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その7)

三、 ビラ配り

 

 (一)総論

 

 ビラ配りも、国労札幌地本判決の判断枠組が適用される。したがって近年の西日本旅客鉄道(動労西日本)事件東京高判平27325別冊中央労働時報1506号78のように「ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性から直ちにビラ配布行為が許容されることにならない」し、企業施設構内のビラ配りは、就業規則により事前許可のないビラ配りを禁止でき、配布の時間や態様を規制できるのは当然のことである。

 しかし、ビラ配りは正当な行為とされる余地のないビラ貼りと違って、懲戒処分を無効とする判例も少なくない。

 目黒電報電話局事件・最三小判昭521213の「実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、就業規則違反になるとはいえない」という判断枠組を引用して正当な行為とする判例が倉田学園(大手前高(中)校・五三年申立)事件・最一小判平6・12・24労民集48巻8号1496頁等いくつかあるほか、懲戒解雇のような重い処分は無効とされるケースが少なくないので、その点注意を要する。

 したがって、就業規則で無許可ビラ配りを禁止しても、組合側は、それが実質的に企業秩序を乱すおそれがなく、事業場の規律を乱さない時間帯及び配布の態様であることを主張することによって無許可ビラ配を正当化する余地が残されている。

 

 

1.行為態様・場所・時間について

 

()半強制的なビラ受け取りを促す態様、狭い入口でのビラ配り

 

 ●日本エヌ・シー・アール出勤停止事件・東京高判昭52714が、出勤してくる従業員を巾約1.6mの工場内通路の片側ないし両側にならんで迎え、出勤者一名に対し通路手前にならんだ者から順次一名が差し出し、出勤者が受け取らなければ、次に並んだ者が続いてその出勤者の前にビラを差し出し、雨天のため従業員が雨具等を所持していたこともあって、混乱がないではなかったという状況でのビラ配布を理由とする懲戒処分を是認していることから、出勤者の入口で縦隊となった半強制的にビラを受け取らせるような態様は禁止できると考える。

 

()就業中の従業員のいる時間帯

 

 ●日本工業新聞社事件・東京地判平22930が、原告合同労組が無許可で配布した機関紙を、会社が回収し、制限した行為は、施設管理権の行使として許容される範囲内であり、配布に事前許可を求めることが支配介入にあたらないと判示したが、事案は平成6年2月1日午後6時過ぎ、Sビル5階の会社内を含む3か所において、会社の従業員のほか産経新聞編集局及び夕刊フジ編集局の従業員等に対し、原告の組合機関紙を約500部配布したこと(、その配布時間帯には、多数の会社の従業員ほか上記各編集局の従業員等が就業中であったこと、Eら会社役員は、Aら3名による会社内での同組合機関紙の配布行為を制止しようとしたが、Aら3名は、それに従わず、その配布を実行したこと等の事案であることから、就業中の従業員のいる時間帯はビラ配りを禁止できると考える。

また●西日本旅客鉄道岡山駅(動労西日本)事件東京高判平27325別冊中央労働時報1506号75頁「本件ビラ配布について、手渡し等による交付の態様自体は、比較的平穏な方法で行われたものと認めることができるものの、配布時間の点においては、配布を受けた相手方社員には手待ちによる業務中の者があって、その全員が休憩時間中又は業務終了後であったとは認められず、職場規律及び職場秩序を乱すおそれがないとまでは認められないものといわざるを得ない」として訓告処分を是認している。

(3)就業時間外・休憩時間

 

 目黒電報電話局事件・最三小判昭521213の「就業規則に形式的に各規定に違反するようにみえる場合であっても、実質的に企業秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右諸規定の違反になるとはいえない」という判断枠組によって懲戒処分を無効とした判例がいくつかある。

 

 ○倉田学園(大手前高(中)校・五三年申立)事件・最一小判平6・12・24労民集48巻8号1496頁が、就業時間前の通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯にビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであるなど判示の事実関係の下においては、右のビラの配布は、学校内の職場規律を乱すおそれがないため、正当な組合活動とされている。

 同趣旨の判例として政治活動であるが、○明治乳業福岡工場事件・最三小判・昭58・11・1、組合ビラでは◯アヅミ事件・大阪地決昭62・8・21、○JR東海(組合ビラ配布等)事件・東京地判平22325、○エスアールエル事件・東京地判平24227TKC掲載がそうである。

 しかし、就業時間外・休憩時間であることからビラ配りが容認されるものではないことも明らかである。●三菱重工事件・東京地判昭58・4・28は労働協約違反として許されないとしており、政治活動事案だが、●日本アルミニウム建材事件・東京高判昭61819休憩時間での配布であっても、就業規則所定の「事業場の規律を乱したとき」に当たるとしている。●国労兵庫支部鷹取分会事件・神戸地決昭63・3・22労働判例517号52頁は「ビラ配布等に利用する場合には、休憩時間中であっても、利用の態様如何によっては使用者の施設の管理を妨げる虞れがあり、他の社員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては企業の運営に支障を及ぼし、企業秩序が乱される虞れがあるから、使用者がその就業規則で労働者において企業施設をビラ配布等に利用するときは事前に使用者の許可を得なければならない旨の規定を置くことは、休憩時間の自由利用に対する合理的な制約であると解すべき」としているとおりである。

 

(4)敷地の境界、敷地外のビラ配り

 

○住友化学名古屋製造所事件・最二小判昭541214は就業時間外に会社の敷地内ではあるが事業所内ではない、会社の正門と歩道との間の広場(公開空地)でのビラ配りに対する懲戒処分を無効にしている。○不当労働行為に対す

る損害賠償請求事件・広島地判平261030は、近隣の商業施設でのビラ配布を違法ではないとしている。

 しかし●関西電力社宅事件・最一小判昭5898は就業時間外、社宅でのビラ配布、●中国電力事件・広島高判平元・1023は地域住民に配布した事案で●東急バス事件・東京地判平2923TKCも駅前でのビラ配布であるがビラの内容に基づいて、懲戒処分を是認している。

 

(5)内容

 

 ●関西電力社宅事件・最一小判昭5898は、大部分事実に基づかず、又は事実を歪曲して誇張し、会社を誹謗中傷するものであり、従業員の企業に対する不信感を醸成し、企業秩序を乱すおそれがあるとして、譴責処分を是認している。同趣旨の判例は少なくないが、一方○福岡西鉄タクシー事件・福岡地判平15130 ビラは記載内容において不正確、不適切、誇張にわたる面はあるものの、過度に挑発的な表現を用いて、ことさらに職場秩序を乱す意図を感じさせる程度には至っておらず、一部に事実の裏付けのある記載もあり、組合員に注意を喚起しようとした目的自体は不当とは言い難いとして懲戒解雇を無効とする。○やまばと会員光園事件・山口地判下関支部平21127ビラの内容は、被告の名誉、信用を毀損するものであるが、本件ビラ配布の目的は全体としては被告における職員及び組合の苦しい現状を地域住民に知らしめ組合活動に理解と支援を求めるものと評価することができ、正当な組合活動、同様な趣旨の判例も少なくないので、内容に基づく懲戒の見極めはプロの意見も聴く必要があるかもしれない。

 

(6)就業規則の明文規定

 

 ◯明治乳業福岡工場事件・最三小判昭58・11・1は組合支部長の地位にある従業員が昼の休憩時間に食堂において赤旗号外や共産党の参議院議員選挙法定ビラを食堂において、手渡しまたはと食卓に静かに置くという態様のビラ配りについて工場内の秩序を乱すことのない特別の事情が認められる場合は就業規則違反とみなすことができないという判断をしているが、本件は、就業規則や労働協約で政治活動を禁止していなかったので、ビラ配りの問題として扱われた。しかし、●日本アルミニウム建材事件・東京高判昭61819労働協約で「社内においては一切の政治的活動を行わない」と規定しているために、休憩時間に「赤旗」「日本共産党」等を引用した印刷物等を配布したこを理由とする出勤停止処分が是認されている。

 従って、就業規則の記載の有無は大きいのである

 

 

(二)各論

 

1.ビラ配り等に対する警告、懲戒処分が不当労働行為は懲戒事由として有効とした判例、ビラ配り妨害禁止の仮処分申請の却下、損害賠償請求を認容する判例(組合活動のみならず政治活動を含む)

 

●日本ナショナル金銭登録機懲戒解雇事件・東京地判昭421025労民集18巻5号1051頁

 休憩時間中のアカハタ号外配布を理由とする組合支部委員長に対する懲戒解雇は不当労働行為に当たらない。労働基準法第三四条第三項が休憩時間を自由に利用させることを使用者に命じているのは、労働者に義務を課するなどしてその休憩を妨げることを禁じたものであつて、労働者が休憩時間中いかなる行為をも自由にできることを保障したものではない。従って、労働者は休憩時間中法の禁ずる行為をすることができないのは勿論、使用者がその事業場の施設及び運営について有する管理権にもとづいて行う合理的な禁止には従わなければならないと判示。企業内政治活動禁止のリーディングケース。

 

●日本ナショナル金銭登録機ビラ配り・出勤停止処分事件・横浜地判昭4829労民集24112

 

 使用者の再三の警告にもかかわらず、無許可で、工場通用口において、出勤してくる従業員に対し組合活動としてビラを配布する行為を継続したことを理由としてした出勤停止処分を有効とする。

 

 「‥‥大磯工場においては、昭和四〇年四月一二日以前は同工場入口においてビラを手渡すといつた配付方法がとられていなかつたこと、支部のとった配付方法に対し被告会社は配付につき被告会社の許可をとるよう再三申入れ警告をなしていること、配付場所の通路が狭いため従業員の出勤に混乱を生ずることは皆無ではなく、特に雨天の日には混乱を生ずる場合のあつたこと、「おはようみなさん」の配付については被告会社はビラボツクスを設置して配付方法を考えていること等の事実が明らかであつて‥‥原告らの行為を正当な組合活動として肯定しうる特段の事由は認められない。 ‥‥本件懲戒処分を課したことは被告会社の有する適法な懲戒権の範囲内にある‥‥」と判示。

 

●横浜ゴム事件・東京高裁判決昭48・9・28労働法律旬報851号

 横浜ゴム労組上尾支部執行委員2名が、施設内における三ないし四回の『アカハタ』の配布・勧誘行為が就業規則所定の企業内政治活動を禁止状況に違反すること。さらに勤務時間中に勤務につかなく、注意されたことに対して棒を振り上げ反抗した、あるいはあやまって器具を損壊したという三~四年前の就業規則違反を理由とする懲戒解雇処分に対して、地位保全の仮処分申請を提起したもので、一審は懲戒処事由としてはささいな事実であり実害もなかったとして無効とする判決であったが、控訴審では懲戒解雇を有効とした。

「企業と雇傭契約を締結した者(従業員)は職場の規律を守り、誠実に労務を提供すべき契約上の義務を負うものであり、企業の施設又は構内において労務の提供と無関係な政治活動を自由に行い得るものとすれば、もともと高度の社会的利害の対立、イデオロギーの反目を内包する政治活動の性質上、従業員の間に軋轢を生じせしめ、職場の規律を乱し、作業能率を低下させ、労務の提供に支障をきたす結果を招くおそれが多分にあるから、使用者が企業の施設又は構内に限ってこれらの場所における従業員の政治活動を禁止することには合理的な理由があるというべき‥‥」

 

●日本エヌ・シー・アール出勤停止事件・東京高判昭52714労働関係民事裁判例集28巻5・6号411頁

 使用者の警告制止にもかかわらず無許可で使用者の所有ないし占有する工場の敷地内において従業員に対し組合活動としてビラ)を配布する行為を継続したことを理由としてなされた出勤停止処分を有効とする。

 

 事案は大磯工場(2007年閉鎖)構内における就業時間前のビラ配りである。

 「大磯工場では従業員のうち相当多数が国鉄平塚駅前から被控訴会社大磯工場構内まで乗り入れる通勤バス三台に一台約七〇名宛分乗して午前七時三五分頃から午前七時五五分頃までの間に三回に分れ順次到着出勤するので従業員が前叙のように通路巾の狭い各通用口を長い一列縦隊となって通過することが多く、ビラを受け取らない出勤者には次ぎから次ぎにと胸元前方にビラが差し出され通行に渋滞を来しかねないこともあって、出勤者のうち職制でない従業員の多数は一応ビラを受け取っていた。しかし、前叙のとおりNCR労組が結成されていたこともあり、従業員に手渡された「おはようみなさん」が其の場に捨てられ、散乱することも多かつた」

「出勤してくる従業員を巾約一・六メートルの工場内通路の片側ないし両側にならんで迎え、出勤者一名に対し通路手前にならんだ者から順次一名が出勤者の前に「おはようみなさん」を差し出し、出勤者が受け取らなければ、次にならんだ者が続いてその出勤者の前にビラを差し出し、雨天のため従業員が雨具等を所持していたこともあって、混乱がないではなかった」 といった態様である。

 判決は「あくまで組合ビラ配布は自由であるという独自の立場に固執し、被控訴会社の協議に応ぜず、指示に従わず、前叙のとおり一過的にもせよ、繰りかえし大磯工場の敷地建物の機能を害した各控訴人の所為は相当でなく、これを正当な組合活動であると認むべき特段の事由は認められない。そして、‥‥本件懲戒処分は被控訴会社の適法な懲戒権の範囲内にあり、他意はないと認められるから、控訴人らの不当労働行為の主張もまた採用し難い」と判示した。

 

●目黒電報電話局事件・最三小判昭521213民集317974

 日本電電公社目黒電報電話局施設部試験課勤務の職員Xが、昭和42年6月16日から22日まで「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書かれたプレートを着用して勤務したところ、これを取り外すよう上司から再三注意を受けた。同月23日Xはこの命令に抗議し、ワッペン・プレートを胸につけることを呼びかける目的で、「職場の皆さんへの訴え」と題したビラ数十枚を、休憩時間中に職場内の休憩室と食堂で手渡しまたは机上におくというという方法で配布した。

 電電公社は上記プレート着用行為が就業規則の五条七項「職員は、局所内において、選挙活動その他の政治活動をしてはならない」に違反する。ビラ配布行為は五条六項「職員は、局所内において、演説、集会、貼紙、掲示、ビラの配布その他これに類する行為をしようとするとき、事前に別に定める管理責任者の許可を受けなければならない」に違反し懲戒事由に該当するとして、Xを戒告処分に付したが、その効力について争われた事件である。一、二審は原告の主張を認容し、戒告処分を無効としたが、最高裁は破棄自判して一、二審の判断を覆した。

「一般私企業においては、元来、職場は業務遂行のための場であって政治活動その他従業員の私的活動のための場所ではないから、従業員は職場内において当然には政治活動をする権利を有するというわけのものでないばかりでなく、職場内における従業員の政治活動は、従業員相互間の政治的対立ないし抗争を生じさせるおそれがあり、また、それが使用者の管理する企業施設を利用して行われるものである以上その管理を妨げるおそれがあり、しかも、それを就業時間中に行う従業員がある場合にはその労務提供業務に違反するにとどまらず他の従業員の業務遂行をも妨げるおそれがあり、また、就業時間外であっても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのあることがあるなど、企業秩序の維持に支障をきたすおそれが強いものといわなければならない。したがつて、一般私企業の使用者が、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許されるべきであり‥‥‥‥局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であっても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあって、その内容いかんによっては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるのであるから、これを局所管理者の許可にかからせることは、前記のような観点に照らし、合理的な制約ということができる。」

 また「特別の事情説」という就業規則違反の客観性を確保する判断枠組を示し「形式的には就業規則第一四条に違反することは明らかである。しかし、もともと就業規則は使用者が企業経営の必要上従業員の労働条件

を明らかにし職場の規律を確立することを目的として制定するものであって、とくに右第一四条は、その体裁、目的からして会社内の秩序風紀の維持を目的としたものであるから、形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が会社内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのを相当とする。」というものだが、「本件ビラの配布は、休憩時間を利用し、大部分は休憩室、食堂で平穏裡に行われたもので、その配布の態様についてはとりたてて問題にする点はなかつたとしても、上司の適法な命令に抗議する目的でされた行動であり、その内容においても、上司の適法な命令に抗議し、また、局所内の政治活動、プレートの着用等違法な行為をあおり、そそのかすことを含むものであつて、職場の規律に反し局所内の秩序を乱すおそれのあつたものであることは明らかであるから、実質的にみても、公社就業規則五条六項に違反し、同五九条一八号所定の懲戒事由に該当するものといわなければならない。」とする。

 

 ●大日本印刷事件・東京地判昭591221判例時報1139号129頁

 夏季一時金交渉の大詰段階で、競業他社の妥結額について誤った情報を記載したビラ(共産党支部ニュース)を作成し、これを就業時間外に会社の近くで配布したことを理由としてなされた解雇を無効としたが、出勤停止を有効とした。

 

●関西電力社宅ビラ配布事件・大阪高判昭53629労働関係民事裁判例集2

9巻3号371頁、裁判所ウェブサイト

 

 就業時間外に会社社宅にビラを配布したことに対してなされた譴責処分の効力が争われたところ、事案のビラの内容は全体として会社を中傷誹謗するものであり、本件ビラ配布は懲戒事由に該当するとした。

 

●岩手女子高校事件・仙台地判58・3・31労判413号75頁

 校門前での生徒への組合文書配布に対する警告書交付は不当労働行為に当たらない。

●三菱重工事件・東京地判昭58・4・28労民集34巻3号279頁労判4

10号46頁

 昼休み中の無許可集会・ビラ配布は労働協約に違反し許されない。

 

●関西電力社宅・最一小判昭5898判例時報1094号121頁、裁判所ウェブサイト

 労働者の配布したビラの内容が、大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲して使用者を非難攻撃し、全体として使用者を中傷誹議するもので、右ビラの配布により労働者の使用者に対する不信感を醸成して企業秩序を乱し、又はそのおそれがあつたときは、右ビラの配布は、就業時間外に職場外において職務遂行に関係なく行われたものであつても、就業規則に定める懲戒事由の一つである「その他特に不都合な行為があつたとき」にあたり、使用者が、これを理由に懲戒として労働者を譴責したことにつき、裁量権の範囲を逸脱したものとは認められない。

 

●岩手女子高校事件・仙台高判昭60・6・28労判校門付近における、父兄に私学助成運動に対する賛同と署名を呼びかける文書を、登校してくる生徒に配布する行為に対して、学校長名義で、就業規則に違反するので以後同様の行為があった場合は処分する旨の警告書を発したことは不当労働行為に当たらない。

 

●日本アルミニウム建材事件・東京高判昭61819労働関係民事裁判例集3

7巻4・5号342頁

 

 労働協約に「会社は組合員の政治的活動並びに公職就任の自由を認める。但し組合員は労働時間中及び社内においては一切の政治的活動を行わない。」などと規定されている企業において、昼の休憩時間中に、会社施設内で、「選挙期間中でも自由にできる政治活動」又は「選挙期間中だれにでもできる選挙運動」と題し、「赤旗」、「日本共産党」等を引用した印刷物等を配布したことが、就業規則所定の「事業場の規律を乱したとき」に当たるとして、右の行為をした従業員に対し、3日の出勤停止処分をしたことに、懲戒権の濫用はないとした事例

 

●国労兵庫支部鷹取分会事件・神戸地決昭63・3・22労働判例517号5

2頁

(ビラ配り妨害排除のための組合による仮処分申請却下)

 鷹取工場内の休憩所において、債権者が発行するビラその他の印刷物の配布を行うことに対し、ビラを取りあげたり、懲戒処分をほのめかす等して配布行為を妨害したり、右配布行為者に対し、配布行為を行ったことを理由に懲戒及び不利益取扱いをしてはならないとする仮処分申請を却下。

 ビラ配布等に利用する場合には、休憩時間中であっても、利用の態様如何によっては使用者の施設の管理を妨げる虞れがあり、他の社員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては企業の運営に支障を及ぼし、企業秩序が乱される虞れがあるから、使用者がその就業規則で労働者において企業施設をビラ配布等に利用するときは事前に使用者の許可を得なければならない旨の規定を置くことは、休憩時間の自由利用に対する合理的な制約であると解すべきであり(最高裁判所昭和五二年一二月一三日判決、同昭和五四年一〇月三〇日判決参照)、従って、前記就業規則の規定が有効であることはいうまでもない。このことは、そのビラ配布等が債権者の組合活動として行われるものであること、債権者が債務者の企業内組合であることを考慮に入れても、同様である。 

 以上の見地に立って本件をみるに、本件仮処分申請は、休憩時間中、前記詰所における組合活動としてのビラ配布の妨害禁止及びこれを理由とする懲戒や不利益取扱いの禁止を求めるものであって、限られた局面においてではあっても、右のような就業規則の適用を一般的、抽象的に排除することに帰するから、このような結果を仮処分によって実現することは許されないというべきである。

 

●中国電力事件・広島高判平元・1023判例時報1345号128頁

 

「島根原発の社員は地元の魚は食べません」「その放射能がみなさんの頭の上に降ってきます」などの記載を含むビラを配布したことを理由とする組合役員の懲戒処分につき、本件ビラにはその主要部分について虚偽事実の記載があり懲戒処分を支持す。

 

●倉田学園大手前高松高等学校事件・東京地判平2・4・9労働判例・重要労働判例総覧91年版33頁

 始業時間前の職員室における組合ビラ配布を理由とした前執行委員長に対する訓告及び戒告処分は不当労働行為に当たらない。

 

●倉田学園大手前高松高等学校・最一小判平2・12・25労判600号9号

 上告棄却。始業時間前の職員室における組合ビラ配布を理由とした前執行委員長に対する訓告及び戒告処分は不当労働行為に当たらない。

 

●倉田学園(大手前高(中)校)五三年申立)事件・高松高判平3・2・29

最高裁判所民事判例集48巻8号1651頁

 

 無許可で職場ニュースを配布したことを理由とする組合ニュースを配布した

ことを理由とする組合幹部の懲戒処分は不当労働行為に当たらないとした。

 

●宮城県教委(仙台市立通町小学校)事件・仙台地判平3327労働判例588号53頁

 本件は、成田空港二期工事反対闘争に参加し逮捕された事案での懲戒免職処分を是認したものだが、原告が昭和50年6月18日「10・20三里塚で中曽根を倒そう」等の見出しで10・20集会への参加を呼びかける「三里塚ニユース(No3)」という謄写版ずりのビラ他の教職員が退勤した午後五時四五分ころ、通町小学校の職員室において、個人名を書いた封筒に本件ビラを入れて全職員の机上に配布し、翌一九日本件ビラの配布を知った同小学校校長は、午前八時三〇分頃から職員室で行われた朝の打合せで、本件ビラが教育の場にふさわしくないものであると指摘し、全職員には原告に返還等するか廃棄するようにとの処置を指示し、原告に対しては配布した本件ビラの回収を命じたが、原告は応じなかったことを、職務命令に従う義務違反とする懲戒事由を是認している。

  控訴審仙台高判平4827労働判例618号27頁も原判決を維持。

 

●JR東日本(国労高崎地本)事件・東京高判平5210労働関係民事裁判例集

44巻1号95頁

 

 出向先の会社の門前で出向制度を批判する演説、ビラ配布等の情報宣伝活動をした組合員らに対し使用者がした出勤停止の懲戒処分につき、労働組合側が出向先企業に向けて情報宣伝活動を行うこと自体は許されるとしても、その内容、方法、態様等は、出向先企業に対し不当に不安動揺を与えたり、出向先企業の出向元企業に対する信頼を失わせ、もって出向元企業の出向制度の円滑な実施に不当な影響をもたらすようなものではないことが要求され、交渉の対象となる出向制度自体の破壊につながるおそれのある行動をすることは、特段の事情のない限り労働組合の正当な活動の範囲内にはないとし懲戒処分は著しく重く不相当なものとはいえないとして、不当労働行為に当たらないとした。

 

●大阪相互タクシー・相互不動産事件・大阪地決平6415労働経済判例速報1

543号21頁

 

 使用者代表者が参加する予定の寺院の落慶法要の日に、労働組合が当該寺院の参道で行う予告をしている宣伝活動等の組合活動の禁止の仮処分を求めたケースで、寺院周辺地域内であえて面会を実現しようとつきまとう等のことは許されないから、その限度で組合活動を禁止する仮処分命令を発することができるとした。

 

●東京医療生活協同組合執行文付与の訴請求事件・東京地判平6128判例タイムズ851号286頁

 

 原告は、原告を債権者、被告らを債務者として、債務者が債権者所有の土地建物に立ち入ることや同所においてビラ配りをすることなどを禁じ、これに違反した場合には債権者に対して1日につき金20万円を支払うことを命じる仮処分決定正本による債務名義を有しているところ、債務者が右決定に違反する行為をしているとして、原告が、被告に対し、本件決定正本につき、強制執行のため、原告に執行文を付与することを求めた事案において、本件決定により禁止される行為は、禁止区域及び禁止行為態様は客観的に定められていて明確であり、禁止表現内容についても明らかであるので、被告らの表現行為が、その行為態様及び場所において本件決定により禁止されたものに当たるか否かは容易に判断することができ、表現行動を広範に事前抑制し、被告らの表現行動を著しく侵害するものではないなどとして、訴えを認容した事例。

 

 

●東京医療生活協同組合立入禁止等請求事件・東京地判平7911労働判例682号37頁

 

 職員の解雇撤回を求めて病院内で行われた、ビラ配り、連呼、ゼッケン着用旗掲示などの活動について、病院側が差止請求を認容。

 

●延岡学園事件・宮崎地方裁判所延岡支部平10617労判752号60頁

 

 学校法人の教員(組合員)が校内でリボンを着した行為及び生徒に争議行為に係る文書を配布した行為は、組合と右法人間の協定及び勤務規定に違反する行為であり、教員に対する懲戒解雇は不当労働行為に当たらないとした。

 

●上原学術研究所事件・大阪地判平11217労働判例763号52頁

 

 原告財団の従業員である分会長らが組合の要求を訴えるビラを作成して配付等したが、理事長への面会強要や自宅周辺での街頭宣伝活動をしたこと等であったため、それらの組合の行為は原告財団らを誹謗中傷するものであるとして、分会長らと組合を相手方として損害賠償とビラ配付等の差止めを求めたイ事件では損害賠償を認めたが、前述の組合の行為等を理由とする懲戒処分が組合の弱体化を企図してなされた違法なものであるとして損害賠償を求めたロ事件においては、懲戒処分の真の意図が分会の弱体化にあったとして、損害賠償請求を認めた。

 

●区立中学校教諭分限免職事件・東京地判平21611

 

 本件戒告処分、本件各研修命令及び本件分限免職処分の違憲性、違法性を主張して、本件戒告処分及び本件分限免職処分の各取消並びに本件各研修命令の無効確認等を求めた事案において、原告が、教師という立場で、特定の者を誹謗する記載のある本件資料を授業の教材として作成、配布することは、公正、中立に行われるべき公教育への信頼を直接損なうものであり、教育公務員としての職の信用を傷つけるとともに、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であり、懲戒事由該当性が認められるとした。

 

●日本工業新聞社事件・東京地判平22930労働経済判例速報2088号3頁

 

 原告合同労組が補助参加人会社施設内において無許可で配布した機関紙を、補助参加人会社が回収し、あるいは制限した行為は、施設管理権の行使として許容される範囲内であり、配布に事前許可を求めることが支配介入にあたるとは言えないし、訴外企業内労組との関係で中立保持義務に違反するとも認められないから、配布妨害の禁止等を求める救済命令申立てを棄却した中労委命令は適法であるとした。

 

●明治大学情宣活動禁止等請求事件・東京地判平241213判例タイムズ13

91号176頁

 

 元明大生協従業員らは、今後予定されている明治大学の入学試験日において、各校舎付近で、拡声器を用いて演説を行い、受験会場に向かう受験生に対して大学を糾弾する旨のビラを配布するなどの情報宣伝活動を行うことが予想され、大学の本件差止め請求は、明治大学の入学試験日において、各校舎の半径200m以内での情報宣伝活動等大学の行う業務の平穏を害する一切の行為の差止めを求める限度で理由があるとした。

 

JR西日本岡山駅(動労西日本)事件東京地判平26825労働判例1104号26頁

 

 組合員は、本件ビラ配布以前においても、会社に許可を得ないまま、施設内のホワイトボードにビラを貼付して厳重注意を受けたり、その他、本件ビラ配布以外にも30回ほど会社に無許可で施設内におけるビラ配布を行っていたものであって、本件訓告は労組法7条1号の不当労働行為に該当しない

 

JR西日本岡山駅(動労西日本)事件東京高判平27325別冊中央労働時報1506号78

 訓告処分が会社の合理的裁量を逸脱する不当に重いものではないと原判決を維持

 

 1審被告は、本件ビラ配布について、社員の職務専念上又は業務上支障をきたしたり、職場秩序を乱したりするおそれのほとんどない場所で行われ、とりわけ、岡山駅2階営業事務室内個人用小ロッカー前通路及び同駅2階男子ロッカー室(休養室)については、営業区域に隣接しながらも明確に区別され、業務を遂行する場所のように社員に緊張感を持つことが求められる場所とは明らかに異なるものであって、業務との関係性は希薄であり、その配布の態様は、相応の配慮がされ、会社の業務運営に支障を及ぼさないような平穏なものである上、本件ビラの内容も、組合の情報や主張の伝達を図るものであって、職場秩序を乱すおそれがあると評価されるようなものでないことからすれば、職場秩序を乱すおそれがあるとはいえない特別の事情があったものであり、また、組合は.会社から組合掲示板が貸与されず、組合の情報伝達活動や組織拡大の呼びかけの手段がほぼビラ配布に限られ、ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性があった旨を主張する。

 しかし、本件ビラ配布については、職場規律及び職場秩序を乱すおそれがないとまでは認められず、上記特別の事情があるとは認められないこと、ビラ配布による情報伝達等の組合活動の必要性から直ちにビラ配布行為が許容されることにならない‥‥」

 

●東急バス事件・東京地判平2923TKC

 

 駅のバスターミナルにおいて本件ビラを配り、被告の信用を失墜させたとして、被告から、平均賃金の1日分の2分の1を減給する旨の懲戒処分を受けたところ、本件ビラの配布は懲戒事由に当たらないし、これを理由とする懲戒処分は不当労働行為に該当し無効であると主張して、被告に対し、雇用契約に基づき、減額された賃金及び遅延損害金の支払いを求めるとともに、無効な懲戒処分が不法行為に当たると主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料等の支払いを求めた事案において、「安全運転にも支障をきたしかねない事態です。会社はこのような状況を知りながら、何ら改善の手段をとらず、このような状況を黙認していました。」等の記載が事実に反するか、事実を誇張又はわい曲して記載したものと認められる等のことから、懲戒処分は有効であり、不法行為法上の違法も認められないとして、原告の請求をいずれも棄却。

 

●豊中市教委事件・大阪地判平30326TKC

 

 職務命令を受けていたにもかかわらず、同職務を離れ、同校の敷地内で、校長の許可を得ることなく、原告自身が卒業式に参加できないことや君が代に反対であること等を記したビラを保護者に配布したり、式場の外側から繰り返し叫んだことなどを理由に、市教委から1か月間給料月額の10分の1を減給する旨の懲戒処分を受けたことについて、同処分が違法であると主張して、被告(豊中市)に対し、その取消しを求めた事案において、市教委の判断に、懲戒権者としての裁量権の逸脱・濫用があるということはできないとして、原告の請求を棄却した事例。

 

 

2.ビラ配り等を理由とする懲戒処分等を無効とした判例

 

 

○山恵木材解雇事件・東京地判昭40428民集25巻4号529頁

 

 本件ビラ貼り、配布はストライキ中の組合活動として正当な行為であり、解雇を不当労働行為として無効とする。

 

○東洋ガラス通常解雇事件・横浜地川崎支決昭43・2・27労民集19巻1号労民集19巻1号161頁

 自己の休憩時間中に、作業中の同僚に対し交通料金値上反対および国鉄による米軍のジェット燃料輸送反対の署名を依頼したことによる解雇が、権利の濫用として無効とする。使用者は元来労働者に休憩時間を自由に利用させなければならないものであるから、職場規律保持上これに制限を加えるのはやむを得ないとしても必要の限度内にとどまるべきであり、重い咎めをうけるべき筋合のものではない。」

 

○日本ナショナル金銭登録機懲戒解雇事件・東京高判昭4433労民集20巻

2号227頁

 

  休憩時間中に事業場内の食堂においてアカハタ号外を従業員多数に対し配布した行為を理由とする懲戒解雇を無効とする。具体的危険説の判例。控訴人は赤旗号外を3050枚位、昼休みに蒲田工場の食堂内で食事中の組合員または非組合員たる従業員多数に対し平穏に無料で配付し、任意に受取られたもので、その受領、閲読、保存または廃棄についても何ら強制的なものがなく、政治活動としては最も平穏、軽微なものであって、その内容が共産党の主義主張であっても、自他の休息、疲労回復を妨げ、その他被控訴人会社の生産に直接影響するものでないとし、政治活動をしたことにならないとする。

 

○住友化学名古屋製造所事件・最二小判昭541214判時956号114頁

 

 就業時間外に本件ビラを配布したものであり、また、その配布の場所は、会社の敷地内ではあるが事業所内ではない、会社の正門と歩道との間の広場であって、当時一般人が自由に立ち入ることのできる格別会社の作業秩序や職場秩序が乱されるおそれのない場所であるビラ配布行為は施設管理権を不当に侵害するものでないとして懲戒処分を無効とした原審の判断を是認。

 

○大和タクシー外二社事件・広島地判昭57・2・17労判387号カード

 

 本社及びLPGスタンドのある場所の路上での宣伝、ビラ配布に対する管理職の妨害行為と、就業時間中の組合活動に対する警告書の交付を不当労働行為とする。

 

○西日本重機事件・最一小判昭58・2・24労判408号50頁

 

 始業時の直前、昼休みのビラ配布に対する警告書の交付を不当労働行為とする。

 

○明治乳業福岡工場事件・最三小判・昭58・11・1判時1100号151

頁裁判所ウェブサイト

 休憩時間中に工場内食堂で就業規則等に違反して行なわれた赤旗選挙号外・日本共産党法定ビラ配布に対する戒告処分を「企業施設の管理に支障をきたし企業秩序を乱すおそれ」はないとして無効とした原審を支持。

(横井大三判事の反対意見あり)

 

 ○あけぼのタクシー事件・福岡高判昭5938労働関係民事裁判例集35巻

2号79頁

ビラの内容、営業車への書込闘争を理由としてなされた組合委員長、書記長に対する懲戒解雇を不当労働行為とした労働委員会命令を維持した原判決を支持。

 

○八重洲無線事件・東京地判昭60318例時報1147号150頁

 

◯日本チバガイギー事件・東京地判昭60・4・25労民集36巻2号237頁

 本件で配布されたビラは誹謗、中傷し職場秩序を乱すものではなく、配布された時間も早朝、就業時間前であり、配布場所も業務に支障を生じるような場所ではではなかった。ビラ配布によってその場で喧噪や混乱状態を生じたという事情も認められないことから、本件ビラ配布の警告は、権利の濫用であると認められる特別の事情がある場合に該当し、組合活動に対する支配介入とした。控訴審東京高判昭60・12・24労民集36巻6号785頁でも一審の判断維持

 

◯大鵬薬品事件・徳島地判昭61・10・31労判485号36頁

 会社構内で、上部団体の支援を受けて集会を開き、これと合わせて駐車場や正門出入口付近で帰宅する従業員を対象に組合への参加を呼びかけること等を内容とするビラを配布するというものであったが、このとき集会やビラ配布の現場には原告の課長等の管理職が多数これを包囲するようにして、監視の目を光らせた。そのため帰宅する従業員のなかにはビラの受取りを躊躇する者もあり、駐車場や正門出入口でのビラ配布では十分な活動の実効をあげ得な

いと判断した組合は、三回目のビラ配布活動を行うころから、配布の時間を正午から午後一時までの休憩時間帯とし、場所を従業員食堂の出入口からその内部、さらには休憩室・娯楽室へと切り換えていったという事案での管理職による警告書交付が不当労働行為に当たるとした労委命令を支持。

 

○アヅミ事件・大阪地決昭62・8・21労判503号25号

 また本件ビラ配布行為は、昼休みきわめて平穏な態様でなされ、内容や表現もとりたてて問題と取れたてて問題とすべき部分はないのだから、形式的には就業規則違反であっても企業秩序・風紀をみだすおそれのない特別の事情(目黒電報電話局事件判決の判断枠組)が認められ、懲戒事由に該当しないとする。

 

○倉田学園(大手前高(中)校・53年申立)事件・高松地判昭62・8・27労民集48巻8号1605頁、倉田学園(大手前高(中)校・57年申立)

事件・高松地判昭62・8・27労判509号69頁

 無許可で職場ニュースを配布したことを理由とする組合幹部の懲戒処分は権利の濫用であり、正当な組合活動として、不当労働行為を認めた労委命令を支持する。

 

◯博多第一交通事件・福岡地決平263労働判例564号38頁

 

 組合が配布したビラの内容は、不適切もしくは不穏当な箇所が存したのではないかとの疑念も存在するが、会社と組合間の一連の労使紛争は、主に会社側の組合員に対する強引かつ執拗ないやがらせや脱退工作に端を発するものであること、また、本件ビラの配布は、会社の幹部による組合の切り崩しに対して組合の組織を防衛することを目的として行なわれたものであることなどから、本件ビラの配布行為は適法といえ、この行為を理由としてなされた組合執行委員長の解雇は、使用者に許された懲戒権行使の範囲を著しく逸脱したものというべきであり、解雇権の濫用となり無効である。

 

◯国鉄清算事業団(JR九州)事件・福岡地小倉市判平21218労働判例575号11頁

 

「国労では、毎年六月に全国大会、八ないし九月に中央大会、一〇ないし一二月に支部大会、一二月に分会大会が開かれ、右各大会の代議員を選ぶために選挙が行われていること、右代議員選挙のため運動としては各職場を回って数分の間にビラを配布し、演説を行うという形式をとってきたこと、昭和五七年ころ以降国鉄では職場規律の確立、総点検が言われ、また、第二てこの入口には「勤務者以外許可なく入室を禁ずる。」旨の張り紙があるが、手待ち時間など勤務時間中に、オルグ隊が第二てこ中継運転室及び門操下りに入っても、管理者にオルグ活動を制止されたことはなかったこと‥‥国鉄は、国労が従来の慣習の是正に反協力的であったり、、国鉄再建策としての分割民営化にあくまで反対し、そのため抗議行動をしてきたことに対して差別的ともみられる強硬な姿勢をとり、国労の指令を守る国労組合員に対して懲戒処分をするほか、管理者らをしてその組合活動を実質的に妨害してきた‥‥中継運転室及び門操下りで本件オルグ活動を行うにあたって施設管理者の許可を得ていないものの、オルグ活動を行っても職場秩序を乱したと認められない特別の事情があるというべきである。

  

◯住友学園・大阪地判平6・11・13労判674号22頁労判674号・22

 学校批判のビラ配布を理由とする懲戒解雇を解雇権の濫用として無効とする。

「本件ビラは、入試説明会に来校した生徒(中学三年生)にも配付されたものと一応認められるから‥‥教育的配慮に欠けるとの謗りは免れない。‥‥債権者からは、学園改革のための緊急避難的行為であるとの反論はあろうが、生徒にまで配付するというのは行き過ぎである。

‥‥本件ビラ配付は、その内容が正確性に欠ける点や配付方法が教育的配慮に欠ける点において一応は懲戒事由に当たるといえるが、その程度はさほど重大であるとは思われない‥‥・」

 

○住吉学園事件・大阪地決平61122労働判例674号22頁

 

 ビラの内容が多少不正確であっても程度は軽微として、ビラ配布によってなされた解雇を無効する。

 

○倉田学園(大手前高(中)校・五三年申立)事件・最一小判平6・12・2

4労民集48巻8号1496頁)

 一部破棄自判、一部破棄差戻。

 私立学校の職員室内で、教職員が使用者の許可を得ないまま組合活動としてビラの配布をした場合において、右ビラが労働組合としての日ごろの活動状況等を内容とするもので、違法不当な行為をあおり又はそそのかすこと等を含むものではなく、右配布の態様も、就業時間前の通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯にビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであるなど判示の事実関係の下においては、右のビラの配布は、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものとして、使用者の許可を得ないで学校内でビラの配布等をすることを禁止する旨の就業規則に違反しない。

 

 

○医療財団法人みどり十字事・福岡地小倉支判平7425労働判例680号6

9頁

 

 ビラ配布によってなされた解雇を無効。

 

◯四日市北郵便局事件・津地方裁判所四日市支部平7519労判682号91頁

 

 管理職らが郵政労組員らに対し、ビラ配布の妨害、給与の貯金口座振込強要、挨拶をしないことを口実とした降格・退職の強要などを行ったことにつき慰謝料請求を認容。

 

 

○中労委(倉田学園学園事件)・東京地判平9・2・27労民集48巻1・2号20頁裁判所ウェブサイト

 

 労働組合による無許可ビラ配布を理由とした組合執行委員長等に対する警告書の交付、組合員に対する労務担当者の発言、会議室の無許可使用を理由とした組合執行委員長に対する警告書の交付及び使用者の退職勧奨行為につき、いずれも組合の弱体化を意図して行われたものであるなどとして、労働組合法7条3号の支配介入に当たるとした。

 

○中央タクシー事件・徳島地判平101016TKC掲載

 

 被告会社の女性従業員の仮処分事件の裁判支援活動に伴って、原告組合委員長らが、被告代表者の名誉を毀損するビラ等を駅前等で配付したことを就業規則違反として解雇および出勤停止処分を受けたことに対して、ビラ配付は正当な組合活動であるとして、懲戒処分を無効とした。

 

○全日本運輸一般労働組合千葉地域支部事件・東京高判平111124判例時報1712号153頁

 

 被告(被控訴人)らが原告(控訴人)の取引先に対して、具体的事実を摘示して原告が不当労働行為を行った旨を明らかにした要望書を送付した行為によって、原告の名誉・信用が毀損されたとして、不法行為に基づく損害の賠償を求めたところ、棄却されたため、原告が控訴した事案において、表現内容の真実性、表現方法の相当性、表現活動の動機、態様、影響等を総合すると、被告らの送付行為は、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲のもので、違法性はないから、不法行為に当たるとはいえないとして、控訴を棄却。

 

 

○福岡西鉄タクシー事件・福岡地判平15130労働判例848号56頁

 

 タクシー乗務員として被告に勤務していた原告が、ビラを被告従業員に配布したことによる懲戒解雇の効力を争った事案において、本件ビラは記載内容において不正確、不適切、誇張にわたる面はあるものの、過度に挑発的な表現を用いて、ことさらに職場秩序を乱す意図を感じさせる程度には至っておらず、一部に事実の裏付けのある記載もあり、組合員に注意を喚起しようとした目的自体は不当とは言い難いことからすれば、本件ビラの配布は被告就業規則の懲戒解雇事由に該当しないとした。

 

○福岡西鉄タクシー事件・福岡高判平15121労働判例867号12頁

 

 本件ビラ配布が懲戒解雇事由に当たらないと原判決を維持。

 

○東急バス(チェック・オフ停止等)事件・東京地判平18614労働判例923号68頁

 被告は、東急バス労組に対しては、日常的に被告職場内で情宣活動(ビラ配布、掲示板使用等)を行うことを認め、春闘時などには、各職場(営業所)において組合旗や横断幕を使用した職場集会を行うことを容認しているが、原告組合に対しては、ビラ配布等について警告書を発して処分をほのめかし、施設内情宣活動を禁止している‥‥、東急バス労組に対する便宜供与の程度と比較すると、組合員数(弁論の全趣旨によれば、東急バス労組には約一六〇〇名の被告従業員の大半が加入しているが、原告組合に加入する被告従業員は十数名程度であると認められる)の差を考慮しても、その取扱いの差に合理的な理由があるとは解されず‥‥他労働組合と比べて極端な差別的取扱いといわざるを得ない郵便物受取り上の便宜供与につき複数の労働組合を極端に差別することは不当労働行為に当たるから、差別的取り扱いを受けた労働組合は会社に対して、不法行為を理由とする損害賠償を請求できる。

 

○やまばと会員光園事件・山口地判下関支部平21127労働判例1002号68頁

 

 社会福祉法人である被告から懲戒解雇された原告が、解雇は不当労働行為であるなどとしてその効力を争った事案で、本件ビラの内容は、被告の名誉、信用を毀損するものであるが、本件ビラ配布の目的は、全体としては被告における職員及び組合の苦しい現状を地域住民に知らしめ、組合活動に理解と支援を求めるものと評価することができ、その他の一切の事情を考慮すれば、本件ビラの配布は、正当な労働組合活動として社会通念上許容される範囲内のものとして違法性が阻却されるか、そうでないとしても、その違法性の程度は、懲戒解雇に値するほどに重大なものではないとして、本件解雇は解雇権の濫用とする。

 

 

JR東海(組合ビラ配布等)事件・東京地判平22325別冊中央労働時報1395号42頁

 東海旅客鉄道株式会社が、その管理者による呼出に応じなかった被告補助参加人分会の書記長に対し、1日半にわたり無許可ビラ配布の事情聴取を行い、その中で、顛末書の提出を求め、さらに、就業規則の書き写しを命じた行為等がいずれも労働組合法7条3号の不当労働行為に当たると判断され、その旨等を記載した文書の交付を命ずる救済命令を発せられた原告が、同命令の取消しを求めた事案において、上記事情聴取、顛末書の提出及び本件就業規則総則服務規程の書き写しを命じたことは、被告補助参加人らの組合運営への支配介入に当たるというべきであり、本件事情聴取における管理職の対応、認識等に照らすと、当該支配介入に係る不当労働行為意思も認めうるから、上記原告の行為は、労働組合法7条3号の不当労働行為に該当する等として、原告の請求を棄却した事例。

 

○エスアールエル事件・東京地判平24227TKC掲載

 会社が、ストライキに参加した組合員について無断欠勤扱いをし、次期雇用契約の期間を通常の有期雇用契約の4分の1に短縮したことは、労働組合法7条1号の不利益取扱いに該当するとしたものだが、平成20年3月19日、日野ラボの構内に立ち入り、組合ビラを配布した件につき、「ビラ配布による組合活動の重要性にかんがみると、当該ビラ配布により使用者の「秩序風紀を乱すおそれ」があると認められない場合には、当該ビラ配布は、上記「労働組合の正当な行為」に該当するものと解されるところ(最高裁昭和52年12月13日第三小法廷判決・民集31巻7号974頁、最高裁平成6年12月20日第三小法廷判決・民集48巻8号1496頁)、本件組合役員3名は、時間、場所、配布の態様等について一定の配慮をしてビラ配布を行ったことがうかがわれる上、そのビラ配布により原告の業務に具体的な支障が発生した事実も認められない。しかも配布ビラは他の従業員(とりわけ夜間勤務のスタッフ社員)に向け、ストライキに対する理解を求めることを目的としたものであり、原告においても、ビラの配布自体は制止してはいるものの、構内からの退去は求めていない。以上に加え、従前、原告はビラ配布に対して懲戒処分を行った経緯がないことなどを併せ考慮すると本件組合役員3名の上記ビラ配布は、原告検体受付課の「秩序風紀を乱すおそれ」がないもので、上記「労働組合の正当な行為」に該当する」と判示。

 

 

○不当労働行為に対する損害賠償請求事件・広島地判平261030裁判所ウェブサイト

 本件分会の組合員らは、平成22年9月18日及び同年10月17日、マックスバリュやアクロス等の商業施設において、「P2社長は組合つぶしをやめろ!」「会社は組合と誠実に交渉せよ」等と記載されたビラを配布した。

平成22年10月15日、ストライキに入った平成22年11月4日、乗務停止処分及び無線配車停止処分を通知した、報復の意図や組合活動を萎縮させようと意図するものと推認され、原告組合に対する支配介入に該当する。

組合が配付したビラには、「時給530円はひどすぎる」、「組合つぶしに走るB1社長」、「やくざを使って脅す」などの記載がなされている。

 この「時給530円」や「組合つぶし」といった表現は、やや誇張した部分はあるものの、虚偽の事実を記載したとまでは認められない。

 また、「やくざを使って」という表現については、少なくとも、会社がそのような行為をしたと被告補助参加人が信じることに相当の理由があると認められる。

 以上のとおり、被告補助参加人の組合員が配布したビラの内容は、真実あるいは真実と信じるについて相当の理由があると認められ、仮に原告の名誉又は信用を侵害する場合であっても、相当性の範囲内にあると認められる。

 本件ビラ配布行為については、P店管理事務所から原告に抗議があったことは認められる。しかし、被告補助参加人の組合員は、ビラ配布に当たっては、P店等の敷地内に侵入しないように注意を払っており、拡声器等を使用することなく、商業施設の平穏を乱すような態様で行われたとは認められない。

 したがって、本件ビラ配布行為は、組合活動としての正当性を失わせるほどに違法な態様で行われたものではなく、社会通念上許容された範囲内で行われたものと認められる。

 

2019/02/02

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その6)

二、ビラ貼り

 

(一)総論

 

(要旨)

 企業の許諾なしにビラ貼りをすることは、正当な組合活動とはならないことを明らかにした国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030は決定的な意義があり、ビラ貼りは争議前であれ、争議中であれ結論に違いはないと解される[河上和雄1980]。従ってビラ貼りを正当な組合活動と言えないこともないとした下級審判例は大阪高判昭58・3・30以降見当たらず、1980年代以降、国労札幌地本判列の判断枠組に従って懲戒処分は是認され、撤去費用の損害賠償請求、ビラ貼り禁止の仮処分申請の認容が通例となっている。

 従って、刑事事件についても無許諾ビラ貼りは正当な組合活動ということはできず、労組法1条2項の適用はなく、組合活動なるが故に違法性が阻却されるという理論構成をとれない[河上和雄1980]のであるから、建造物損壊罪や器物損壊罪の構成要件に該当すれば同罪が成立するとみてよいだろう。

 また建造物侵入罪については、ビラ貼り目的で特定郵便局に侵入した事案で、全逓釜石支部大槌郵便局事件・最二小判昭5848刑集37巻3号215頁が、管理者側に有益な先例といえる。

 

(二)各論

 

1. 国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030に至るまでの判例の進展

 

 我が国の労働運動では大衆闘争の一環として団結力の高揚、要求のアピール、示威活動としてビラ貼り戦術は広範に行われ、プロレイバー労働法学は、団結権、争議権の行使の具体的内容であるとして支持していた。

 もっとも、昭和54年以前ビラ貼りと関連して30件近くの懲戒処分の効力が争われた下級審判例があるけれども、多くの場合特別の理論を述べることなく、貼られたビラの枚数、場所、貼り方、内容等諸般の事情を考慮して直ちに正当な組合活動か否かを判断し、最終的な懲戒処分の効力はともかく、3分の2の判例が正当な組合活動ではないとしており、学説の司法への影響はさほど大きくなかった[山口浩一郎1980]。

 とはいえ最高裁は刑事事件で、東邦製鋼事件・最三小決昭47328判時667号95頁と関扇運輸事件・最一小決昭47・4・13判時667号103頁は、ビラ貼りが、建造物損壊罪の構成要件に該当するとしながら、正当な争議行為であるとして違法性を阻却し無罪とする原審の判断を是認している。

 しかしながらこの種の可罰的違法性論は国労久留米駅事件最大判昭48425刑集273418によって否定されたのである。

 ビラ貼り事件で転換点といえるのが春闘仙台駅(仙台鉄道管理局)ビラ剥がし事件・最二小判昭48・5・25刑集27巻5号1115頁という石田コート末期の名判決で、列車車体に貼られたビラを剥がす総務課職員の行為について「もとより日本国有鉄道の本来の正当な事業活動に属し、作業の方法態様においても特段の違法不当は認められない特別違法な点は認められない」とし正当な事業活動としてビラ自力撤去を認めたのである。

 また商大自動車教習所事件・中労委命令昭50618労経速892号は、大阪地労委の救済命令がビラ撤去通告や自力撤去が組合活動を阻害し支配介入にあたるとするのは一面的にすぎるとし、労働委員会がはじめて自力撤去を是認した事例である[山口浩一郎1980]。

 続いて動労甲府支部ビラ貼り損害賠償請求事件・東京地判昭50715労民集26巻4号567頁という中川徹郎チームの名判決は、ビラ約3500枚を鉄道管理局庁舎内の壁、扉、窓ガラス等に糊によってはり付けた事案で。使用者の所有権や施設管理権「管理及び運営の目的に背馳し「業務の能率的正常な運営を一切排除する権能」を強調する一方、使用者が無断ビラ貼りを「受忍」すべきいわれはないとして、労働事件で初めてビラ貼りの損害賠償責任を認めた点で画期的な判決と評価する。

 掲示板掲示物撤去事案だが、全逓損害賠償請求事件・東京地判昭54・2・27労民集30巻1号202頁は労働組合の郵便局庁舎内掲示板に掲示した「闘争宣言」「佐藤反動内閣打倒!」等の文書等の撤去行為を適法としたものであるが、「庁舎管理権者は、庁舎の使用方法が庁舎設置の本来の目的に反するときは相当な方法により自らそのような状態を排除することができる」と説示している。

 

2. 国労札幌地本ビラ貼り戒告事件最三小判昭541030

 

 国労札幌地本事件とは大略して次の通りである。

 国労は昭和44年春闘に際して各地方本部に対してビラ貼付活動を指令した。原告らは支部・分会の決定を受けて「合理化反対」「大幅賃上げ」等を内容とする春闘ビラ(ステッカー)を勤務時間外に国鉄札幌駅の小荷物、出札、駅務、改札、旅客などの各係事務室内、同駅輸送本部操連詰所および点呼場に、札幌運転区検修詰所に備え付けの自己又は同僚組合員の使用するロッカーに、セロテープ、紙粘着テープによって少ない者は2枚、最も多い者は32枚貼付した(原告以外の組合員も含めて総計310個のロッカーに五百数十枚のビラを貼った)。原告らは貼付行動の際、これを現認した助役ら職制と応酬、制止をはねのけた。

 この行為が掲示板以外での掲示類を禁止した通達に違反し、就業規則に定めた「上司の命令に服従しないとき」等の懲戒事由に該当するとして、戒告処分に付し、翌年度の定期昇給一号俸分の延伸という制裁を課したため、原告らは戒告処分の無効確認を請求して訴えたものである。

 原判決は、組合が積極的に要求目標を掲げて団体行動を行なう場合において必要な情宣活動を行なうためには組合掲示板だけを使用しても不十分であるとし、居住性は勿論、その美観が害われたものとは認めがたいこと、業務が直接阻害されあるいは施設の維持管理上特別に差支えが生じたとは認め難いこと等の諸般の事情を考え合すとビラ貼付行為は、正当な組合活動として許容されると判示したが、最高裁は破棄自判し原告の請求を終局的に退けた。

 「貼付されたビラは当該部屋を使用する職員等の目に直ちに触れる状態にあり、かつ、これらのビラは貼付されている限り視覚を通じ常時右職員等に対しいわゆる春闘に際しての組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼすものとみられるのであって、‥‥本件ロッカーに本件ビラの貼付を許さないこととしても、それは、鉄道事業等の事業を経営し能率的な運営によりこれを発展させ、もって公共の福祉を増進するとの上告人の目的にかなうように、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保する、という上告人の企業秩序維持の観点からみてやむを得ない‥‥上告人の権利の濫用であるとすることはできない。‥‥‥剥離後に痕跡が残らないように紙粘着テープを使用して貼付され、貼付されたロッカーの所在する部屋は旅客その他の一般の公衆が出入りしない場所であり‥‥本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されるものでなかつた等の事情‥‥‥は、‥‥判断を左右するものとは解されない‥‥。従って被告人らのビラ貼付行為は‥‥‥上告人の企業秩序を乱すものとして、正当な組合活動であるとすることはできず」上司が「中止等を命じたことを不法不当なものとすることはできない」と判示する。

 要するにビラは視覚的に組合活動に関する訴えかけを行う効果があり、企業秩序維持をみだすおそれがあるという抽象的論理で施設管理権は発動できるのであり、具象的に業務阻害がないことで、ビラ貼りを正当化できないことを示している。法益衡量的な判断は必要ないのであって、企業秩序維持の観点から使用者が許諾しない意思を明確にもち、就業規則を具備さえすれは、この判決によって、ビラ貼りが正当な組合活動とされる余地はなくなったとみてよいのである。

 最高裁は国労札幌地本のビラ貼りを「春闘の一環として行われた組合活動」と認定しているが、河上和雄によれば、争議前のものであれ、争議中のものであれ結論に違いはないと解すべきと評する。

 最高裁は全逓名古屋中郵事件・最大判昭525・4民集313182において、民事、刑事を通じて一元的に違法性を理解する立場をとっているため、国労札幌地本事件は懲戒処分の事案であったが、使用者の許諾なきビラ貼りは、刑事的にも正当な組合活動とはいえないのであって、労組法1条2項の適用はなく、従って組合活動なるがゆえに違法性が阻却されるという論理構成はとれないものとしたと評している。

 そうすると東邦製鋼事件・最三小決昭47328判時667号95頁と関扇運輸事件。最一小決昭47・4・13判時667号103が、ビラ貼りが、建造物損壊罪の構成要件に該当するとしながら、正当な争議行為であるとして違法性を阻却し無罪とした判例は、先例としての意義を失ったものと理解してよい。

 ビラ貼りについては、懲戒処分の有効性が争われた事案のほか、損害賠償請求、ビラ貼付禁止の仮処分申請(仮処分決定異議申立)、刑事事件と多岐にわたるが、下級裁判所の多くは先例である昭和54年10月30日最高裁判決の論旨に従い、無許諾のビラ貼りを正当な組合活動ではないと判断しており、正当な組合活動とみなされる余地は今日においてはないといって差し支えないと思う。

 ビラ貼りを正当な組合活動と言えないこともないとした下級審判例は大阪高判昭58・3・30桜井鉄工所事件以降ほぼないのではないか。従ってビラ貼りについては今日ではそれを認めている企業・官庁があれば、施設管理権が組合によって掣肘されており正常な業務運営とはみなせない。次に事案別の判例傾向を示す。

 

3. 懲戒処分等

 

 ここでは国労事件を除いて主として懲戒処分等を有効とした判例を示す。国労札幌地本判決は、特に目黒電報電話局事件・最三小判昭521213の「実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、就業規則違反になるとはいえない」という判断枠組を引用していないが、ビラ貼りが組合活動に関する訴えかけを行う効果を及ぼす以上、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため禁止することはやむをえないとし、特別の事情論は認められない趣旨を述べているので、この判断枠組は格別問題にならないので、懲戒処分が適法とされて当然なのである。

 

●九建日報社救済命令取消事件・福岡地判昭43・8・30労民集19巻4号1092頁は、合同労働組合の分会長である従業員が、「日緯条約を粉砕しよう」というポスター一枚及び「日韓条約批准阻止、小選挙区制反対」「憲法じゆうりんに抗議する福岡県民集会」云々の記載のあるポスター11枚を会社の社屋一階入口左側便所の壁面に貼付し、会社の再三にわたる撤去ならびに指定場所へのはりかえの指示、命令を拒否したため、会社が2度にわたり出勤停止処分に付したにもかかわらず、出勤停止期間中会社の指示、制止を無視して連日出社し、就労を強行したことを理由とした諭旨解雇を是認する。

●東京郵政局事件・東京地判昭46・3・18判時624号87頁は、ビラを撤去しようとした課長代理を突いて転倒させた郵政職員に対する減給処分、貼付行為についても戒告処分を適法としたが、次のように説示する。

「全逓労働組合もしくはその組合員が、組合活動としてならば庁舎管理者の許可を受けないでもビラの貼付等のため庁舎を当然に使用し得るとなすべき実定法上の根拠はなく、たとえ組合活動としてなされる行為であっても、それが庁舎管理権を不当に害するが如きものは、もとより許されないところであるといわなければならない。

 郵便局庁舎などは、郵政大臣の管理に係る行政財産であって(国有財産法第三条、第五条)、その本来の目的である国の営む郵便事業の達成のために供用されるべきもので、庁舎管理者の許可ある場合を除いては、何人も右目的以外のために使用することは許されないものである。郵政省就業規則第一三条第七項の規定は、郵便局庁舎などをその本来の使用目的に供することによって国の営む郵便事業の達成に資する目的から郵便局庁舎などに勤務する職員に対する服務規律として当該郵便局庁舎などにおける演説、集会、ビラの貼付等の行為を、その目的、内容、態様の如何に拘わらず、全面的に禁止、規制せんとするものであることが明らかである。」

●北九州市若松清掃事務所事件・福岡地判昭56・8・24訟務月報28巻1号109は 事務室の窓ガラス、壁等に約50枚のビラを貼付した行為を理由とする戒告処分を是認。

●朝日新聞社西部本社事件・福岡高判昭57・3・5労民集33巻2号231頁は 約1か月間にわたり総数約1万8000枚のビラを見学者通路の壁、正面玄関のガラス扉、社屋の外壁等に貼付した行為は正当な組合活動として許容されず、組合支部委員長に対する停職3日間の懲戒処分が不当労働行為に当たるとした救済命令を違法として取消した

●麹町郵便局事件・東京高判昭58・7・20判時1049号75頁は、郵便局庁舎にステッカーを貼付した行為は、郵政省就業規則に違反し訓告処分を適法とする。最二小判昭60・6・17労判456号は上告棄却。

●和進会阪大病院事件・京都地判昭59・7・5労判439号44頁は、新規採用された3人のアルバイトを退職に追い込むため、組合員をあおり、そそのかすなどして右3名に対し共同絶交行為(村八分)や専用掲示板以外の食堂・売店・喫茶室等の入口に無許可で貼付することを指示した組合長の解雇を是認。

●戸塚郵便局事件・横浜地判昭59・10・25労民集37巻4・5号407頁は、郵便局庁舎の窓ガラス、コンクリート塀等にビラ125枚糊付けして貼付したうえスプレー塗料による落書が、建造物を損壊したという公訴事実により起訴休職処分された事案で、一審無罪にもかかわらず処分を取消さなかったことは違法ではないとした。東京高判昭61・10・28労民集37巻4・5号401頁

●ミツミ電機事件・東京高判昭63・3・31判例タイムズ682号132頁は、春闘時の長期ストとピケにかかわる幹部責任追及としての懲戒解雇の効力が争われた、一審と異なり懲戒解雇を正当化した。会社は、争議中の集会、デモ、泊まり込み、ビラ貼付・赤旗掲揚も懲戒解雇の理由となっており、争議中の組合によって行われた会社の物的施設の無断利用が、正当な組合活動として是認する余地はなく、その利用を拒否したことが使用者の権利濫用には当たらないとされた。

●エッソ石油(出勤停止処分)事件・名古屋地判平6・10・17労判664号18頁は、

約一年間にわたり1万枚のビラを強力接着剤で貼付、ゼッケン着用、店内デモ、ピケによる入退場阻止等の行為をしたことを理由とする出勤停止処分を適法とする。

●ミツミ電機事件・東京地八王子地判平6・10・24労働判例67445頁は組合の行った座り込み・デモ・ビラ貼付・赤旗掲揚・立て看板等を理由とする、組合委員長の解雇を是認する。

○九州女子学園事件・福岡地小倉地判平5・8・9労判71477

 原告らの煙突闘争・リボン闘争・ビラ貼付・プラカード闘争・ビラ配布につきその態様・期間に照らして行き過ぎで違法であり、正当な組合活動といえないとしつつも、処分歴もなく懲戒解雇はいささか酷であるとして解雇権の濫用として無効とする。

●医療法人南労会事件・大阪地判平9・4・30労経速1641号3頁は、 ビラ貼付のほか暴言、誹謗中傷、脅迫、強要につきその行為の内容、態様、頻度等に鑑みるとき、その情状は極めて重いので、本件懲戒解雇を相当とする。

●七福交通事件東京地判平10・3・3労判738号38頁は営業用自動車へのステッカー貼付その他の理由による懲戒解雇を有効とする。

 

 

4. 損害賠償請求

 下記の通り、ビラの撤去清掃費用の損害賠償請求が認められている

  

●動労甲府支部ビラ貼り損害賠償請求事件・東京地判昭50715労民集26巻4号567頁は、ビラ約3500枚を鉄道管理局庁舎内の壁、扉、窓ガラス等に糊によってはり付けた事案で、労働事件で初めてビラ貼りの損害賠償責任を認めた。

●帝国興信所岐阜支店事件・岐阜地判昭56・2・23判時1005号167頁は国労札幌地本事件最三小判昭541030の判断枠組を引用し、支店事務所のビラ貼りは管理権の侵害として撤去費用の請求を是認した。

●大久保製壜所事件・東京地判昭58・4・28判時1082号134頁は会社の建物等にビラを貼付したことについて、ビラ撤去費用の損害賠償責任を肯定した

●エッソ石油事件・東京地判昭63・3・22判時1273号132頁は全国石油産業労働組合協議会 スタンダード・ヴァキューム石油労働組合エッソ本社支部の本件ビラ貼付行為により貼付されたビラを剥離、徹去し、また、マジックインキや墨による落書を消去した費用の損害賠償請求を認めた。

●総評全国一般東京ユニオン・神谷商事事件・東京地判平6・4・28判時1493号139頁、総計17万1700枚の正面玄関、1階エレベーターホール等のビラ貼付の損害賠償を認める。

 

5.仮処分申請

 

 下記の通りビラ貼付禁止の仮処分の申請を認容する判例がある

 

●エッソ・スタンダード石油事件・東京地決昭56・12・25労民集32巻6号988頁は本社ビルに1ヶ月の間5万7千枚のビラの貼付された事案で、建物の美観や来客の信用を失うという理由からビラ貼付禁止の仮処分の申請が認められた。

●日東運輸事件・大阪地決昭60・5・16労判454号44頁は全日本港湾労働組合関西地本が抗議行動の一環として、コンテナ輸送トラクター等の車体にビラを貼付した事案で、不当な組合活動としたうえで、48台の車両につきビラ貼付禁止の仮処分申請を認めた。

●エッソ石油事件・東京地判昭62・12・23労判509号7頁はビラ貼り禁止の仮処分決定の異議申立を却下したもので、「ビラは貼付されている限り視覚を通じ常時従業員等に対する組合活動に関する訴えかけを行う効果」に言及している。

●灰孝小野田レミコン・洛北レミコン事件・東京地判昭63・1・14労判515号53頁はコンクリートミキサー車へのビラ貼付禁止の仮処分申請を認容。

 

6. 建造物損壊罪・器物損壊罪

 

 (要旨)

 東海電通局事件や東北電通局事件のようにビルの外壁に大量のビラを貼付すると建造物損害罪が成立し、ガラスの全面を覆ってしまうと器物損壊罪が成立するが、室内に60枚程度のビラ貼りは、軽犯罪法133号相当にすぎない。

 刑事事件では、東海電通局事件・最三小決昭41・6・10刑集20巻5号374頁が、全電通東海地本役員らによる東海電気通信局庁舎に3回にわたり糊で貼付した所為は、ビラの枚数が1回に約4500枚ないし約2500枚という多数であり、建造物の効用を減損するものとして、建造物損壊罪の成立を認めており、金沢タクシー事件・最一小判昭43・1.18刑集22巻1号32頁はビラ貼により建造物損壊罪、器物損壊罪の成立を認め、平和タクシー争議事件・最三小判昭46323刑集25巻2号239頁は、ビラの貼られた状況がガラスの殆んど全面をおおっている以上、窓ガラスとしての効用を著しく滅却し、器物損壊罪が成立するという原審の判断を維持している。

 東北電通局事件・仙台高判昭55124 判タ420号148頁は、「全電通東北地方本部」等と青、赤字に白抜き印刷した縦37.3㎝・横12.5㎝のビラ及び、手書きの13×18.8㎝のビラ、合計約5501枚を、ドアガラス、窓ガラス、タイル張り壁面その他、建物1Fの東西南北四面と地下の一部にわたりぐるりと貼られ、玄関や通用口のガラス扉にはびっしりと集中的に貼りめぐらされ、その他の部分にはやや乱雑に貼られた事案で、本件建物は実用建築物ではあるが、新築後間もない近代的ビルとして市街地に相応の美観と威容を備えており、大量のビラ貼りにより、その美観と威容が著しく侵害されたものと認められ、刑法260条にいう建造物の損壊をもたらしたとする。

 しかし、国鉄小郡駅事件・最三小判昭391124刑集18巻9号610頁は駅長室内や入口等64枚のビラをメリケン粉製の糊で貼りつけた行為は建造物損壊罪・器物損壊罪が成立しないとした原審の判断を是認したうえ、軽犯罪法1条33号の罪に変更した点についても、起訴の当時すでに公訴の時効は完成していたとする。建造物侵入罪以外は無罪としている。

 

7. 建造物侵入罪

 全逓釜石支部大槌郵便局事件・最二小判昭5848刑集37巻3号215頁は有益な判例である。

 事案は、1973年春闘において全逓岩手地本釜石支部が、計画どおり大槌郵便局(特定局)にビラ貼りを行うこととし、昭和48416日午後9時半頃、被告人支部書記長、支部青年部長両名は他の6名とともに、同日午後930分ころ、施錠されていなかつた通用門と郵便発着口を通り、宿直員M(分会長だった)に「おうい来たぞ。」と声をかけ、土足のまま局舎内に立ち入った。被告人ら庁舎内の各所や庁舎外の一部に、ビラ合計約1000枚を貼りつけた。一方、管理権者たるN局長は、同月17日朝、釜石局駐在のA東北郵政局労務連絡官から、全逓が他局でビラ貼りをしているから注意するよう警告され、局長代理と交替で局舎の外側から見回ることし、同日午後10時過ぎ、ビラが貼られているのを発見、若干のやりとりの後、1045分頃被告人らは退出したというもので、建造物侵入罪で起訴された。

 二審仙台高判昭55318刑集37巻3号304頁は本罪の「侵入」とは「当該建造物の事実上の管理支配を侵害し、当該建造物内の事実上の平穏を害すること」であるところ、本件は宿直員が入室を許諾していること、郵便局長も特段の措置をとらず、立入拒否の意思が外部に表明されていなかったことから、建造物侵入罪の構成要件に該当しないとして原判決を維持して無罪とした。

  しかし上告審は「刑法130条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである」として破棄差戻した。

 (差戻控訴審仙台高判昭61・2・3で有罪。被告人両名に罰金八千円)

 

 上告審判決は、立ち入りの目的等につき次のように言及する。「ビラ貼りは‥‥庁舎施設の管理権を害し、組合活動の正当性を超えた疑いがあるから、管理権者としては、このような目的による立入りを受忍する義務はなく、これを拒否できる‥‥‥本件においては、被告人らの本件局舎内への立入りは管理権者である右局長の意思に反するものであり、被告人らもこれを認識していたものと認定するのが合理的である。局舎の宿直員が被告人らの立入りを許諾したことがあるとしても、右宿直員は管理権者から右許諾の権限を授与されていたわけではないから、右宿直員の許諾は右認定に影響を及ぼすものではない。‥‥」

 この趣旨からすると、ビラ貼りに限らず、管理権を侵害する組合活動を規則違反と明示するか、管理権者が容認していないと合理的に判断される場合には、建造物侵入罪は成立することになる。

 

8.使用者の自救行為について

  河上和雄[1980]は、春闘仙台駅(仙台鉄道管理局)事件・最二小判昭48・5・25刑集27巻5号1115頁が正当な事業活動としてビラ自力撤去を認めており、自救行為というより事業活動として正当という観点からビラの自力撤去を認めるのが判例の傾向とする。

 しかし、組合側はビラ等が財物だと主張することがある。これに対し自救行為の理論によって撤去行為に違法性がないと言う論理構成をとらざるをえない場合も想定はしている。

 とはいえ、河上は「通常のビラの場合、それを使用者の許諾なしに物的施設に貼った段階で所有権が消滅する(所有権の放棄を擬制するか、或いは民法242条、243条の付合の理論となろうか。)と解するのが正しいであろう。その意味で多くの場合、ビラの自力撤去が法的に問題とされることはない‥‥」とする。

 

引用・参考

河上和雄

1980 「企業の施設管理権と組合活動--昭和541030日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」法律のひろば3311980

古川陽二

2001「一〇・三〇判決以降の施設管理権と組合活動に関する判例動向」労働法律旬報1517/18 

山口浩一郎

1980 「組合活動としてのビラ貼りと施設管理権--国鉄札幌駅事件を素材として」法曹時報327

 

2019/01/27

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その5)

第4 組合活動類型ごとの検討

 

一 組合集会

 

1 .総論


(要旨)

 ○施設構内の無許可組合集会が正当な組合活動とされることは、5つの最高裁判例が否定している以上ありえない。中止・解散命令・監視・警告書交付は適法なので躊躇する理由はない。

 ○法益権衡論の調整的アプローチは明確に否定されている

 ○懲戒処分とするには就業規則を具備しているうえ、「実質的に企業秩序を乱すおそれ」という抽象的危険説にもとづく説明ができけば違法とされることはまずない。

 ○例外的に施設利用拒否を支配介入としたり、過度に重い不利益処分の事例で違法とする判例もあるが、あくまでも企業秩序の維持を理由とするもので、適切な量定であれば懲戒処分が無効とされることはない

 

 

1.最高裁5判例は無許可集会を明確に正当な行為でないと判示

 

 

 

 最高裁の5判例(●全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58・12・20、●池上通信機事件・最三小判昭63・7・19、●日本チバガイギー事件・最小一判平元・1・19、●済生会中央病院事件・最二小判平元・1・29民集43巻12号1786頁、●オリエンタルモーター事件・最二小判平7・9・8判時1546号130頁)は、決定的な意義があり、 国労札幌地本判決の判断枠組により、企業施設内(屋外含む)の勤務時間内、勤務時間外も含めて、無許諾の組合集会は正当な組合活動ではないから、施設利用の拒否、解散命令、監視、警告書交付等は不当労働行為に当たらないと判示しており、労働委員会等が主張する法益権衡の諸般の事情を勘案する調整的アプローチを明確に排除しているので、有益な先例である。特に最高裁が理論的説示をしている済生会中央病院事件とオリエンタルモーター事件は指導的判例の位置づけである。

 

 

 

2.懲戒処分とする場合に注意を要すること

 

 

 

 ただ、注意を要するのは、上記の最高裁5判例は、懲戒処分事案ではなく、無許可集会強行しただけの理由で懲戒処分に処す例はさほど多くないため、懲戒処分事案の先例も検討しておく必要がある。いずれも就業規則等がよく整備されている事業所の判例といえる。

 

 無許可集会強行、無許可入構強行を懲戒処分事由として判列としては、最高裁判例で●米軍立川基地事件・最三小判昭491129集民113号235頁があるほか、国労札幌地本判決の枠組を引用した級審判例では、●東京城東郵便局事件・東京地判昭59・9・6労判442号、●JR東海鳥飼基地無許可入構(懲戒解雇)事件 ・大阪地判平12・3・29がある。

 

 施設管理権の侵害というよりは争議行為の慫慂の事案だが●熊本地方貯金局事件 熊本地判昭和63・7・18 労判523号27頁が、ストライキの前日午後0時35分ころから局玄関前広場において、全逓組合員約500名が無許可集会を行った際‥‥局管理者の解散命令を無視してあいさつを行った後、団結ガンバローを三唱の音頭をとった等が、全逓熊本地方貯金局支部支部長(郵政事務官)に減給1/10(6か月)の懲戒事由の一つとなっている。

 

 無許可集会を実行したうえ、違法争議行為に参加すれば当然懲戒処分事由となることはいうまでもない。

 

 もっとも、懲戒処分事由とするには、目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭521213民集317974の「実質的に秩序をみ乱すおそれのない特別の事情」が認められれば懲戒処分は無効とするという判断枠組をクリアする必要もある。

 

 この判断枠組は、抽象的危険説を採用しているので、企業秩序・風紀を乱すおそれという抽象的な説明ができればよく、具象的な業務阻碍がなくてもよいのであるから、クリアするのは容易である。

 

 東京城東郵便局事件のように公労法17条1項で争議行為を禁止されていた郵政省現業の事例で、ストライキが予定され闘争を行っている状況で、組合集会を許可することは、違法行為を助長するおそれがあるので「特別の事情」は認められていない。このことは、地公労法18条1項が適用される地方公営企業も同じことである。

 

 職務専念義務違反もしくは他者の職務専念義務を妨げるおそれのある場所において、勤務時間中(済生会中央病院判決)もしくは、勤務時間中の労働者と、そうでない労働者が混在する時間帯の集会(日本チバガイギー事件)であれ先例は「特別の事情」を認めていない。

 

 一方、例外的に施設利用拒否や無許可集会に対する不利益処分が違法とされた事例としては、◯総合花巻病院事件・最一小判昭60 523のように組合の利用申し入れを拒否したことはなかったにもかかわらず、突然不許可としたのは、組合が上部団体に加盟したことを嫌悪しこれを牽制、阻止するためと認定され、支配介入とされている。◯アヅミ事件・大阪地決昭62・8・21労判503号25号は他の労組やサークル活動と異なる処遇のうえ懲戒免職のような重い処分である。○金融経済新聞社事件・東京地判平15・5・19労判858の役付(営業局参事・次長心得)を解く降格処分としたケースで違法とされている。

 

 とはいえ、この種の例外を過大評価する必要もないのであって、慎重な立場をとるとしても、中止・解散命令や監視、警告を躊躇する理由はなく、ただ、実際に懲戒処分事由とするのは、明らかに企業秩序をみだすおそれのあった無許可企業施設利用にしぼり、過重にならない量定の処分なら安全運転といえると思う。 

 

 

 

(二)各論

 

 

 

1.勤務時間中の無許可集会-正当な組合活動とされる余地なし

 

 

 

●済生会中央病院事件・最二小判平元・1・29民集43巻12号1786頁は、原審の勤務時間中を含む無許可職場集会に対する警告書交付を不当労働行為とした部分について破棄自判した判例だが、「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。」としたうえで「病院が本件職場集会(‥‥)に対して本件警告書を交付したとしても、それは、ひっきょう支部組合又はその組合員の労働契約上の義務に反し、企業秩序を乱す行為の是正を求めるものにすぎないから、病院(上告人)の行為が不当労働行為に該当する余地はない」と断言した。

 

 

 

 

 

2.違法行為を助長するおそれにより集会を不許可とすることは適法であり、集会開催強行は懲戒事由になる 

 

 

 

●東京城東郵便局事件・東京地判昭59・9・6労判442号45頁

 

 時間帯からみて勤務時間中の集会の範疇といえなくもないが、それは全く問題にもなっていない。

 

 本件は不許可集会強行、欠勤、管理職らに対する暴行を懲戒理由とする郵政職員2名に対する免職処分の取消が訴求された事案で処分を適法としたものである。

 

 昭和4252日、全逓中央本部からの指導により、合理化反対闘争等に向けての団結を強めるため、各課単位で集会を開催することを決定し、これに基づき、郵便課、保険課等で順次集会が開催され、集配課分会においても右の集会を開催するため、同月9日、同課分会執行委員名義で局長に対し、いずれも組合業務を目的として城東局会議室を同月11日及び12日の両日使用したい旨の庁舎使用許可願を提出したか、局長はストライキ体制確立後の組合への便宜供与を認めない東京郵政局の指示に従って許可しなかった。にもかかわらず同月11日午後後47分から516分ころまで、同会議室において、集配課員約四〇名による職場集会が強行された。

 

 裁判所の判断は、不許可集会の強行について、国労札幌地本判決を引用して、全逓本部によるスト決行体制確立、業務規制闘争突入指令発令後の、郵便局内での組合集会開催のための施設の利用を許諾することは、公労法171項違反の違法行為を助長する結果となるおそれが大きいと当局側が判断したことについては、相当な理由があるとして、事案の会議室使用不許可に権利濫用と認めるべき特段の事情はないと判示した。

 

 

 

3.休憩時間・就業時間外等の組合集会等で正当な行為とされなかった事例

 

 

 

●米軍立川基地事件・最三小判昭491129集民113号235頁

 

●三菱重工事件・東京地判昭58・4・28労民集34巻3号279頁労判410号46頁

 

 昼休み中の無許可集会・ビラ配布は労働協約に違反し許されないと判示。

 

●全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58・12・20判時1102号140頁は、休憩室あるいは予備室を利用した職場集会に対する解散命令及び監視行為は不当労働行為に当たらないとする原審の判断を支持したものだが、解散命令が行われた集会というのは以下の2件である。

 

 

 

 集配課休憩室-休憩時間中の全逓組合員約780名が昭和40510日午後035分ごろから

 

 年賀区分室-67515分ごろから545分ごろまで。611日午後020分~055分ごろまで

 

 

 

 いずれも、休憩時間か就業時間外の時間帯だが、年賀区分室の集会について職制は勤務時間中の者がいるかを監視しており、勤務時間のシフトで勤務時間中の者もいる時間帯といえる。最高裁は、休憩時間の集会の解散命令を是認しているのである。

 

 

 

●池上通信機事件・最三小判昭63・7・19判時1293号173頁

 

 

 

 組合集会のための食堂の無許可使用に対する社内放送の利用による中止命令、警告書の交付、集会開催の妨害などを不当労働行為に該当しないとした事例(出典:日本評論社:法律時報臨時増刊「判例回顧と展望」)

 

 本件は昭和5459日、会社の食堂使用不許可通告の後、組合は午後 5 時半過ぎから組合集会を川崎工場食堂で開催しようとしたが、会社側に阻まれ、結局実質的な合同集会は開かれなかった。また、食堂内にいた組合員に対しても会社側は 20 分おきくらいにスピーカーにより集会中止命令をだして集会を妨害した等の事案なので就業時間外の組合集会である。

 

 

 

●日本チバガイギー事件・最小一判平元・1・19労働判例533号17頁

 

 本件は組合が本部社屋一階の食堂を午後5時から使わせてほしいと申入れた。しかし、会社は、工場部門の終業時刻は午後5時であるものの、本部の終業時刻は午後545分であるから、それまでは本部への来客もあり、また、本部の会議室として食堂を使用することもあるので、午後6時以降の使用しか認められないと回答した。そこで、食堂の使用が業務上どうしても都合が悪いのであれば、屋外での報告集会の開催を認めてほしいと申入れた。これに対して会社は、屋外集会であっても本部の従業員の執務に影響する等、施設管理上の理由から屋外集会の開催を拒否した事案で、本件食堂の使用制限及び屋外集会開催の拒否が施設管理権を濫用したものとはいえず、不当労働行為には当たらないとした原審の判断を維持。

 

 本件の集会参加者は勤務時間外だが、本部棟は勤務時間中という状況での集会開催不許可を適法とした事案である。

 

 

 

●国鉄清算事業団(東京北等鉄道管理局)事件・東京高判平429労判61729

 

 東京駅構内における国労の非番者無許可集会の現認・警告メモ、写真撮影を不当労働行為に当たらないとした公労委命令を支持した原判決維持。

 

 

 

●オリエンタルモーター事件・最二小判平7・9・8判時1546号130頁裁判所ウェブサイト

 

 使用者が、労働組合の結成通知以来約九箇月にわたり、組合からの許可願の提出があれば業務に支障のない限り従業員食堂の使用を許可していたところ、就業時間後食堂で行われていた組合の学習会の参加者の氏名を巡回中の守衛が記録したことに反発した組合執行委員長らが右記録用紙を守衛から提出させたことを契機として、組合による食堂使用を拒否したのに対し、組合が、使用者が食堂に施錠するまで五箇月近くの間、無許可で食堂の使用を繰り返し、その間、使用者は食堂の使用に関し施設管理者の立場からは合理的理由のある提案をしたが、これに対する組合の反対提案は組合に食堂の利用権限があることを前提とするかのような提案であったなど判示の事実関係の下においては、使用者が組合に対し組合集会等のための食堂の使用を許諾しない状態が続いていることは、不当労働行為に当たらないとしたもので、就業時間外の組合活動の事案といってよい。

 

 

 

●JR東海鳥飼基地無許可入構(懲戒解雇)事件 ・大阪地判平12・3・29労判790

 

大阪第三車両所に勤務し、JR東海労組の組合員であったX1(組合大三両分会書記長)及びX2(同分会副会長)が、組合員約三〇名とともに、ストライキの決行日の早朝に、企業施設内に入構しようとしたところ、就業規則の規定(争議行為中の関係組合員の会社施設内への立入り禁止等)に基づいてその入構を拒否され、退去命令が出されたが、警戒員らの抑止を実力で排除して入構し、退去通告に従わず、約三〇分間にわたって施設内に滞留し、暴行を働き、暴言を吐くなどしたため、懲戒解雇されたがことから(Xら以外の組合員の一部は勤停止及び戒告処分)、本件懲戒解雇は無効であるとして雇用契約上の地位確認及び賃金支払を請求した事案で、請求を棄却(「被告は明示に業務と関係のない原告らの入構を拒否しているし、原告らの入構目的が組合活動を行うことであったとしても、会社施設内における無許可での組合活動は禁じられているのであるから、入構が正当な組合活動の一環であったともいえず、これを拒否した被告の措置が施設管理権を濫用するものとは到底言い難い」とする。

 

 

 

 

 

4.例外的に集会使用拒否等が不当労働行為とされた事例及び無許可集会の実施等を理由とする処分を無効とした事例

 

 

 

○総合花巻病院事件・最一小判昭60 523労働委員会関係裁判例集20164頁 

 

 6年余の間、病院は、毎年多数回にわたり、その都度の許可をもって、組合の執行委員会および総会のため、講堂、磨工室、地下の手術室等の病院施設の無償利用を認め、組合の利用申し入れを拒否したことはなかったにもかかわらず、突然不許可としたのは、組合が上部団体の医労協に加盟したことを嫌悪しこれを牽制、阻止することためであった、組合運営に対する支配介入にあたるとした原審の判断を是認している。

 

 病院長は院長室に組合委員長、書記長、副委員長などを呼び、医労協に加盟しないよう説得、依頼し、書記長には出産祝を名目に一万円、副委員長に新築祝を名目に二万円を供与した事実があった。

 

 

 

○アヅミ事件・大阪地決昭62・8・21労判503号25号

 

 本件は、研修命令拒否、職場放棄、配転命令拒否等を理由としてされた懲戒解雇を無効とした判例だが、懲戒事由のひとつが、アヅミ労組を脱退し結成された全大阪産業労組アヅミ分会が1回目は使用不許可の指示に反して、2回目は無断で食堂を使用したという事案であるが、食堂は、アヅミ労組やその他のサークルが、事前の届け出をなすことにより、比較的自由に使用されており、本件は勤務時間外かつ食堂の営業時間外に行われる10名前後の集会であるなにもかかわらず、正当な組合と認めていないという理由で不許可とするのは権利の濫用にあたる。また集会が正当な組合活動であるとも判示する。

 

 

 

○国産自動車交通事件・最三小判・平6・6・7労働法律旬報NO.1349は施設管理権に言及することなく、タクシー労働者を組織する「新協力会」が賃金のスライドダウンに反対するため無許可で会社構内(空地)を約三時間半にわたって占拠して開催した臨時大会(出番者も多数参加)に対して、会社が幹部を懲戒解雇した事案で、違法な争議行為あるいは組合活動ではないとして、解雇を無効とした東京高裁平成3年9月19日判決(前記『労働法律旬報』所収)の判断を是認している。高裁の判断は、本件は就労を予定していた者(出番者)も多数参加したことから、実質ストライキであり、構内を無断で使用したことは責任を免れないとしても、それにより大会開催によるストライキが違法にはならないというもの

 

 

 

○中労委(倉田学園学園事件)・東京地判平9・2・27労民集48巻1・2

 

号20頁裁判所ウェブサイト

 

 小会議室の利用に対する警告書の多数回の交付や使用者の退職勧奨行為等につき、いずれも組合の弱体化を意図して行われたものであるなどとして、労働組合法7条3号の支配介入に当たるとした。「‥‥原告が許可制にあくまで固執したのには、組合に対する否認的態度ないし不信感がその根底にあることはK理事等の発言から十分に窺い知ることができるのであり、組合も、職場集会開催にあたっては、当日又は前日に届出をし、その回数も月二ないし三回で、利用時間も始業時刻前又は終業時刻後の約二時間で、集会内容も団体交渉内容の報告等であったというのであり、その間、非組合員の入室を拒否したこともなければ、小会議室の本来の使用目的である職員の娯楽、懇談等の障害になるとの非組合員からの苦情が寄せられたことも認められないし、また、教育上好ましくない結果が生じたとか、学園業務の阻害になったとの事情も認められないというのであるから、組合に譲歩の余地のあることは勿論であるが、原告にも譲歩の余地がないとはいえない。このような状況下で原告が組合に対し、就業規則違反を理由に本件警告書を多数回に亘り交付したということは、被告の認定・判断しているとおり組合の弱体化を企図した行為であり、不当労働行為に該当すると判断されてもやむを得ない‥‥」

 

 

 

〇金融経済新聞社事件・東京地判平15・5・19労判858

 

 休憩時間中の無許可集会強行、始末書提出拒否を理由とする役付(営業局参事・次長心得)を解く降格処分を無効としたのである。

 

 

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その4)

(承前)

九 施設管理権にかかわる事案であるにもかかわらず国労札幌地本判決が引用されず組合等の主張が認められた例

 

○総合花巻病院事件・最一小判昭60 523労働委員会関係裁判例集20164

 

 6年余の間、病院は、毎年多数回にわたり、その都度の許可をもって、組合の執行委員会および総会のため、講堂、磨工室、地下の手術室等の病院施設の無償利用を認め、組合の利用申し入れを拒否したことはなかったにもかかわらず、突然不許可としたのは、組合が上部団体の医労協に加盟したことを嫌悪しこれを牽制、阻止することためであった、組合運営に対する支配介入にあたるとした原審の判断を是認している。

 病院長は院長室に組合委員長、書記長、副委員長などを呼び、医労協に加盟しないよう説得、依頼し、書記長には出産祝を名目に一万円、副委員長に新築祝を名目に二万円を供与した事実があった。

 

○国産自動車交通事件・最三小判・平6・6・7労働法律旬報NO.1349はタクシー労働者を組織する「新協力会」が賃金のスライドダウンに反対するため無許可で会社構内(空地)を約三時間半にわたって占拠して開催した臨時大会(出番者も多数参加)に対して、会社が幹部を懲戒解雇した事案で、違法な争議行為あるいは組合活動ではないとして、解雇を無効とした東京高裁平成3年9月19日判決(前記労働法律旬報所収)の判断を是認している。高裁の判断は、本件は就労を予定していた者(出番者)も多数参加したことから、実質ストライキであり、構内を無断で使用したことは責任を免れないとしても、それにより大会開催によるストライキが違法にはならないとする。

 しかし一方でミツミ電機事件・東京高判昭63・3・31判例タイムズ682号132頁は、本件春闘時の長期ストとピケにかかわる幹部責任追及としての懲戒解雇の効力が争われた事件で、一審と異なり懲戒解雇を正当化した。会社は、争議中の集会、デモ、泊まり込み、ビラ貼付・赤旗掲揚も懲戒解雇の理由となっており、地位保全処分命令の取消をめた訴訟であるが、争議中の組合によって行われた会社の物的施設の無断利用が、正当な組合活動として是認する余地はなく、その利用を拒否したことが使用者の権利濫用には当たらないとしている。

 

〇金融経済新聞社事件・東京地判平15・5・19労判858

 休憩時間中の無許可集会、始末書提出拒否を理由とする役付(営業局参事・次長心得)を解く降格処分を無効とした。

 

 

 

 

第三 B系統 地方自治法238条の47項号(旧4項)の目的外使用許可の裁量処分の判断枠組 

 

一 呉市立中学校教研集会使用不許可事件 最三小判平18.2.7の判断枠組の意義

 

 呉市立中学校教研集会使用不許可事件 最三小判平18.2.7 民集602401頁(使用不許可処分を違法とする)は、広島県教組が広島県教研集会会場として呉市立二河中学校の施設の使用を申し出、校長が、職員会議を開いた上、支障がないとして、いったんは口頭で使用を許可する意思を表示した後に、市教委が、過去の右翼団体の妨害行動を例に挙げて使用させない方向に指導し、自らも不許可処分をするに至ったというものだが、組合側が不当に使用を拒否されたとして損害賠償を求めた事案で、一審、二審とも県教組が勝訴、最高裁は本件不許可処分を裁量権の濫用と認定し上告を棄却したというものだが、最高裁が初めて、学校施設の目的外使用の諾否の判断の性質、司法審査のありかたを明らかにした。

 同判決は裁量処分の権利濫用の有無について、従来の重大な事実誤認や社会通念からの顕著な逸脱という社会通念審査(最小限審査)に加えて、「判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くことがないかを検討」する判断過程合理性審査[本田滝夫2007]を採用し、審査密度を濃くした審査方法を示したことが注目され、指導的判例の位置づけになっている。

 しかも同判決の判断過程審査方式は、学校施設のみならず、公立の福祉施設や、市庁舎の職員組合に対する便宜供与にいたるまで判断枠組として引用されているので影響力が大きい。

 というのも学校施設は地方自治法238条の4第7項(旧4項)にいう行政財産であり、したがって、公立学校施設をその設置目的である学校教育の目的に使用する場合には、同法244条の規律に服することになるが、これを設置目的外に使用するためには、同法238条の4第7項(旧4項)に基づく許可が必要であるが、これは、これは地方自治体及び地方公営企業の庁舎も同じことだからである。

  判批[本田滝夫2007]は判旨を6項目に分けているが、学校教育特有の項目を除くと以下の5項目とみなすことができる。

  

判旨1 学校教育上支障がなくても不許可とする管理者の裁量を認める

 

  目的外使用の許可は「学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかであるが、そのような支障がないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく、行政財産である学校施設の目的及び用途と目的外使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるものである。」

 

判旨2 裁量権の濫用として違法となるかどうかは、社会通念審査+判断過程合理性審査による

 

 「管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり、その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として3違法となるとすべきものと解するのが相当である。」

 

判旨3 職員団体の使用の必要性が大きいからといって管理者に受忍義務はないとする国労札幌地本ビラ貼り事件・最三小判昭54103と類似の説示。

 

 「教職員の職員団体は、教職員を構成員とするとはいえ、その勤務条件の維持改善を図ることを目的とするものであって、学校における教育活動を直接目的とするものではないから、職員団体にとって使用の必要性が大きいからといって、管理者において職員団体の活動のためにする学校施設の使用を受忍し、許容しなければならない義務を負うものではないし、使用を許さないことが学校施設につき管理者が有する裁量権の逸脱又は濫用であると認められるような場合を除いては、その使用不許可が違法となるものでもない。」

 

 厳密に言えば地方自治法238条の4第7項(旧4項)の目的外使用許可の判断枠組みは一般私企業の指導判例である国労札幌地本判決とはかなり違う。同判決は「当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては‥‥正当な組合活動として許容されるところであるということはできない。」という特段の事情論であるが、風穴は開けられていないし、行政裁量のような、判断過程合理性審査はとらないのであるから、一般私企業の施設管理権とは一線を画しているが、受忍義務はないという趣旨は同じということである。

  

判旨4 従前の運用と異なる取扱についての判断枠組

 

 「従前、同一目的での使用許可申請を物理的支障のない限り許可してきたという運用があったとしても、そのことから直ちに、従前と異なる取扱いをすることが裁量権の濫用となるものではない。もっとも、従前の許可の運用は、使用目的の相当性やこれと異なる取扱いの動機の不当性を推認させることがあったり、比例原則ないし平等原則の観点から、裁量権濫用に当たるか否かの判断において考慮すべき要素となったりすることは否定できない。」

 

判旨5 事実関係に過大考慮・過小考慮定式を当てはめる判断枠組

 

 「本件不許可処分は、重視すべきでない考慮要素を重視するなど、考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており、他方、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。」

 

 本件使用不許可が裁量権の濫用という結論に導いたのが以下のように、判断過程合理性審査における過大考慮・過小考慮定式を当てはめたことにある。

 

(1)当然考慮すべき事項を十分考慮していない

 

A 教研集会は教育特例法19条、20条(平成15年改正で21条・22条)の趣旨にかなう自主研修であることを考慮してない

 

 「教育研究集会は、被上告人の労働運動としての側面も強く有するもの‥‥教員らによる自主的研修としての側面をも有しているところ、その側面に関する限りは、自主的で自律的な研修を奨励する教育公務員特例法19条、20条[平成15年改正で21条・22条・引用)の趣旨にかなうものであり‥‥使用目的が相当なものである」

 

 コメント-これが本件を裁量権の濫用とする決め手ともいえる。一審広島地判平14.3.28民集602443号は、市教委に積極的に研修の場として学校施設を確保すべき配慮義務があるとし、本件を、目的外使用の問題ではなく、設置目的に沿った使用の問題と捉えているような行論を展開している[安藤高行2010]。こまの、最高裁も教研集会に好意的だった一審の論理構成に引きずられた感がしないでもない。

 新進気鋭の行政法学者の仲野武志[2007]は、教研集会には教職員の人事、労働条件等の分科会もあり、純粋に労働運動として性格が表れており、自主的研修としての性格と、労働運動としての性格を別個の対象事実として捉え、労働運動としての性格を重視したとしても適正な考慮であるはずと批判的な見解を示している。ている。

 

 

B 学校施設でなく他の公共施設を利用する場合利便性に大きな差違があることを考慮してない。

 

 「教育研究集会の中でも学校教科項目の研究討議を行う分科会の場として、実験台、作業台等の教育設備や実験器具、体育用具等、多くの教科に関する教育用具及び備品が備わっている学校施設を利用することの必要性が高いことは明らかであり、学校施設を利用する場合と他の公共施設を利用する場合とで、本件集会の分科会活動にとっての利便性に大きな差違があることは否定できない。」

 

(2)重視すべきでない考慮要素を重視している(過大考慮)

 

A 右翼団体の妨害行動は過大考慮である

 

 「過去‥‥学校に右翼団体の街宣車が来て街宣活動を行ったことがあったという‥‥しかしながら、本件不許可処分の時点で、本件集会について具体的な妨害の動きがあったことは認められず(‥‥実際には右翼団体等による妨害行動は行われなかった‥‥)、本件集会の予定された日は、休校日である土曜日と日曜日であり、生徒の登校は予定されていなかったことからすると、仮に妨害行動がされても、生徒に対する影響は間接的なものにとどまる可能性が高かった」

 

B 教研集会の政治的性格は過大考慮である

 

「教育研究集会の要綱などの刊行物に学習指導要領や文部省の是正指導に対して批判的な内容の記載が存在することは認められるが、いずれも抽象的な表現にとどまり、本件集会において具体的にどのような討議がされるかは不明であるし、また、それらが本件集会において自主的研修の側面を排除し、又はこれを大きくしのぐほどに中心的な討議対象となるものとまでは認められないのであって、本件集会をもって人事院規則14-7所定の政治的行為に当たるものということはできず、また、これまでの教育研究集会の経緯からしても、上記の点から、本件集会を学校施設で開催することにより教育上の悪影響が生ずるとする評価を合理的なものということはできない。」

る。

 

 コメント-仲野武志[2007]はこの説示についても、人事院規則14-7第6項の犯罪構成要件にならない限り使用目的の相当性の考慮対象事項になせないと解されるが、そのような絞り込みの根拠は必ずしも明確でないと疑問を呈し、全体として過大考慮・過小考慮の判定の根拠は脆弱だとする。最高裁は不許可処分を違法とする論理の脆弱性を補強するために、従前の運用と異なる取扱から「推認」された「動機の不当性」(処分は、県教委等の教育委員会と被上告人との緊張関係と対立の激化を背景として行われたことを指すものと思われる)を補強論理としているが、これがなければこの判例は批判を免れることができなかったと述べているが同感である。

 

 私は、最高裁が行政財産の目的外使用不許可の司法審査で、過大考慮・過小考慮定式を加えたことに批判的な見方をとる。

 なぜならば、この審査方式の先例が神戸市立工業高等専門学校においてエホバの証人のが剣道実技履修の拒否のため原級留置となったため退学処分とされた事案で、処分は、裁量権の範囲を超える違法なものした最二小判平8・3・8民集50巻3号469頁である。

 これは信教の自由や教育を受ける権利という人権にかかわる深刻な問題で、違憲判断にしてもよさそうな事案、密度の濃い司法審査であるのは当然であってそれに対して本件は管理者が広範な裁量権を有する庁舎管理権の事案で同列の問題とはいえないからである。

 とはいえ、最高裁の先例として確立している以上、行政財産の目的外使用不許可は、過大考慮・過小考慮定式による判断過程の合理性審査に耐えられる判断でなければならないことになったとえるのだ。

 以下下級審判例を検討することとするが、結論を先に言えば、教研集会使用不許可が違法とされたことは、決して裁判所が組合活動に好意的になったことを意味しないし、過大考慮・過小考慮定式による判断過程審査が、教研集会以外で組合側に有利に働くことはあまりないと考えられる。

 

二 教研活動以外の組合集会や労働組合への便宜供与で大多数の判例は目的外使用不許可を適法としている

 

 地方自治法238条の47項号(旧4項)の組合活動等の目的外使用の使用相当性、それなりに判例は蓄積している。呉市立中学校教研集会使用不許可事件・最三小判平18.2.7以降、教研集会の不許可処分は違法とされているが、呉市立中学校判決以前のものも含め、組合集会等、教研集会以外は殆ど使用不許可処分を適法としているといってよい。

 もっとも近年の組合事務所使用不許可(大阪高判27・6・2)や分会会議といった日常的な組合活動ですら使用不許可処分を適法(大阪地判平291220)とした事例は、大阪市独自の条例(組合への便宜供与を禁止した大阪市労使関係に関する条例第12条)を適用した判断だが、広島県の判例は、そのような条例がなくとも教職員組合の定期総会や、人事委員会報告集会のような組合集会の学校施設使用不許可処分を適法としており、呉市立中学校判決以前の判例のため、その判断枠組にもとづくものではないが、呉市立中学校判決の判断過程審査方式をとったとしても結論はかわらないだろう。

 教研集会以外、唯一例外的に組合活動へ便宜供与拒否を違法としたのは、福岡県教職員組合鞍手直方支部事件・福岡高判平16120判例タイムズ1159号149頁であるが、組合加入勧誘のオルグ活動を目的とした分会会議の施設利用の拒否という事案があるくらいである。

 

1.地方自治法238条の47項号(旧4項)の目的外使用不許可を適法とした判例

 

 大阪市教職員組合分会会議使用不許可事件・大阪地判平291220が大阪市労使関係条例のもとでは、ふだんの組合簾活動である分会会議ですら不許可を適法としている、もっともこれは大阪市の条例のもとでのものである。しかし、条例がなくても広島県高教組「人事委員会報告説明会」県立高校体育館使用拒否事件・広島地判平14328がストライキの実施の賛否を問う批准投票が実施等を理由として、広島県高教組定期総会学校施設使用不許可事件 広島地判平1729がストライキを視野に入れた活動方針等を理由として使用不許可を適法としている。

 

●鹿児島県立大島高校等6カ所の学校施設目的外使用不許可事件(鹿高教組主催ミュージカル公演不許可)事件・福岡高裁宮崎支部判昭60.3.29判タ574

 本件鹿高教組主催ミュージカルの「ああ野麦峠」公演が主任制形骸化闘争としてなされた主任手当拠出運動の一環であり‥‥本件公演の会場として本件学校施設の使用を許可することは主任制度をめぐる‥‥教職員間の対立、緊張を一層昂め、紛争が激化増大して学校運営に支障をきたし‥‥ミュージカル公演は学校教育の目的上明らかに支障がないとはいえないので、不許可処分は憲法に違反しないと述べ、裁量権の濫用にもあたらないとする。

 

●広島県高教組「人事委員会報告説明会」県立高校体育館使用拒否事件・広島地判平14328、裁判所ウェブサイト(公立高校施設利用不許可)

 広島県高教組が毎年開催している「人事委員会の報告」集会を県立高校で開催しようとして、同校体育館の使用を申し入れが拒否された事案。

 当該集会では、組合員にストライキの実施の賛否を問う批准投票が実施されることになっており、集会の内容に一部、争議行為を禁止する公務員法371項の規定に抵触するものが存在することが明らかで、施設管理上、学校教育上の支障に該当するとして、不許可行為は適法であるとしたが、不許可を文書で通知する義務に違反した点を違法とし、教育長の責任を認め10万円の賠償を命令した。

 なお、この判例は、呉市立学校教研集会の使用不許可が裁量権を逸脱したと判示した広島地判平14.3.28民集602443号と同じ裁判体が同日に判決を下したものである。

  

●福岡県教職員組合鞍手直方支部事件・福岡地判平14625判例タイムズ1159号154頁

 原告県教職員組合A支部のB小学校分会が、そのオルグ活動(組合加入勧誘)のためB小学校施設の使用許可を同小学校校長に求めたところ、校長がこれを拒否したため、校長の本件不許可処分は裁量権を逸脱した違法な処分であるとして、損害賠償を求めた事案で、本件不許可処分に裁量権の逸脱はないとして、請求を棄却した事例。ただし控訴審は違法とする

 

●広島県高教組定期総会学校施設使用不許可事件 広島地判平1729-裁判所ウェブサイト

(公立高校の施設利用不許可)

 高校の体育館で定期総会を開催するための使用許可申請の校長による不許可処分を適法とした。

 広島県高教組の支部である原告がそれぞれの事務局のある高校の体育館で定期総会を開催するための使用許可申請の校長による不許可処分を適法とした。その理由の要所は以下のとおりである。

 本件各大会が開催された平成14年4月20日は土曜日で部活動その他への影響はなかった、施設管理上の支障は特に認められない。しかしながら、本件各大会を学校施設で開催することは学校教育上の支障を来すといわざるを得ない。

 第1に、本件各大会の内容は第49回各大会と大略同じであるところ、第49回定期大会(府中地区)ではストライキを視野に入れた組合活動が提言された上、ストライキの方針であったが最終的に不満を残しつつもストライキを回避するに至った経緯が詳細に報告され、第49回定期総会(三次地区)では、高教組がストライキを配置し、諸要求実現のために戦う方針であると組織決定され、「確定闘争は職場闘争の集大成です。だからこそ日常的な職場闘争をさらに強化していくことが、最大の課題だと思います。」と提言されている。もっとも地公法37条1項は地方公務員の争議行為を禁止しているのであって、争議行為を視野に入れた活動方針を示すだけでは、直ちに地公法37条1項に反するものではない。しかしながら、ストライキ権が確立されたことの報告や、ストライキを視野に入れた活動方針、「ストライキを基軸とした通年的な戦いを堅持」などの内容からすれば、生徒、父兄等が公教育に対して不信を抱くことは想像に難くなく、学校教育上の支障を肯定する事情として考慮するのが相当である。

 第2に、主任制に反対し、学校組織の見直しと確立を提言している第49回各大会の内容には、学校教育法施行規則65条1項、22条の3第1項に抵触するものが含まれていたと認められる。

 第3に、卒業式等での国旗掲揚等を強制すべきではないとの立場を明確にし、強制阻止に向けた活動を展開すべきであると提言されているところ、文部省告示である学習指導要領に反している以上、生徒、県民等が公教育への不信を抱くことは否定できない。

 第4に、、第49回定期大会(府中地区)において、次回の参議院選挙で新社会党から立候補する予定の者を組織推薦し支援することが決定されたこと、第49回定期総会(三次地区)においも同様に決定されたことが報告されたが、公教育においては政治的中立性が求められるのであって学校教育上の支障を肯定する事情として考慮すべきである。

 

●広島県高教組教研集会使用不許可事件・広島高判昭18125判時1937号95頁

(公立学校の施設利用拒否)

 教研集会開催目的の県立高等学校の教室や体育館等の使用申請について不許可を適法とする。

 

○●大阪市労連、市職、市従、学給労等組合事務所使用不許可事件・大阪高判27・6・2判時2282号28頁(原判決変更。平成24年の使用不許可処分のみ違法、平成25・26年の不許可処分は適法)

◯●大阪市労組・大阪市労働組合総連合組合事務所使用不許可事件・大阪高判27・6・26判時2278号32頁(原判決変更。平成24年の使用不許可処分のみ違法、平成25・26年の不許可処分は適法)

 一審判断を一部変更。平成24年の目的外使用申請不許可では、前年度の許可満了の3ヶ月前に、何らの前触れもなく不許可の方針を表明した処分であるので違法とするが、大阪市労使関係に関する条例の規定及び行政事務スペースの欠如を理由としてなされた平成25年、26年の不許可処分を適法とする。同条例12条を労働組合等に対する便宜供与はほぼ例外なく行われないものと解したうえ、条例制定には十分に理由があり、支配介入には当たらず、憲法28条にも違反しない。又労組法上は、最小限の広さの事務所の供与を許容しているが使用者の義務ではなく奨励するものでもないとし、被控訴人らは、本件事務室部分を権原なく占有しているというべきであって明渡請求は理由がある、この間の相当使用料額は1か月17万6830円となることが認められ、明渡済みまでの使用料相当損害金を支払う義務を負うと判示した。

 

●枚方市組合事務所使用料徴収処分取消請求事件・大阪地判平28328掲載TKC

 市長が職員会館における組合事務所の使用料を徴収することとしたことにつき、裁量権を逸脱又は濫用したものとは認められないとする。「公有財産の使用に関する受益者負担の要請が強まっており‥‥市議会等において、組合事務所の無償使用についての質疑がなされ、住民監査請求もなされるなど‥‥関心が高まり、大阪府下においても組合事務所の使用料を徴収する自治体が増加しつつあったことなどといった‥‥゜状況下において、市長が、原告による組合事務所の‥‥使用料の減免申請に対し、組合事務所が収益を目的としない使用に当たるものの、「市長が特に必要と認めるもの」に当たらないとした判断は‥‥相応の合理性が認められる。」

 

●大阪市教職員組合分会会議使用不許可事件・大阪地判平291220判タ1452号131頁(大阪市労使関係に関する条例第12条にもとづく組合分会会議の施設利用不許可を適法とする)

 教職員組合、延べ44回にわたり学校施設の目的外使用許可を申請したところ、各校長は、大阪市労使関係に関する条例第12条「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は、行わないものとする。」にもとづき各校長は、同申請をいずれも不許可とした不許可処分につていて無形損害が生じたと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項につき損害賠償請求した事案で、件各校長に裁量権の逸脱及び濫用があったとはいえないとして原告の請求を棄却。

 「労働組合等が、憲法28条及び各種法令によって、当然に使用者の所有し又は管理する施設を組合活動のために利用する権利を保障されているということはできず、使用者において、労働組合等による上記利用を受忍しなければならない法的義務を負うと解すべき理由はないのであって、このことは、従前、組合活動のための施設利用の許可が繰り返し行われてきたという事情があったとしても、変わるものではない」と説示し、国労札幌地本事件最三小判昭541030、済生会中央病院事件最二小判平元・11211、オリエンタルモーター事件最二小判平798を引用する。

 

  2.地方自治法238条の47項号(旧4項)の目的外使用不許可を違法とした判例

 

 大阪市庁舎の組合事務所使用不許可事件・大阪高判27・6・2は、前年度の許可満了の3ヶ月前に、何らの前触れもなく不許可の方針を表明した平成24年度のみ違法とされ、大阪市労使関係に関する条例の規定及び行政事務スペースの欠如を理由としてなされた平成25年、26年の不許可処分を適法としており、従って組合活動で目的外使用不許可を違法としているのは下記のとおり主として教研集会なのである。これは最高裁判例がある以上追従していくほかない。

 ただ例外的に福岡県教職員組合鞍手直方支部事件・福岡高判平16120組合加入勧誘のオルグ活動を目的とする分会会議用不許可を裁量権の濫用としているが、校長が不許可とした動機として、事前に4人の教職員が勧誘の対象とされていることを知り組合勧誘の会議に応じたくない職員への配慮があり、この動機は本来当事者の問題であるのに組合の組織化に干渉している心証がもたれている事例である。 

 

○呉市立中学校教研集会使用不許可事件・広島地判平14.3.28民集602443

○呉市立中学校教研集会使用不許可事件・広島高判平15918民集60巻2号471頁、裁判所ウェブサイト

 教職員組合が第49次広島県教育研究集会の会場として、呉市立中学校の体育館等の学校施設の使用を申し出、いったん、中学校校長から口頭で、これを了承する返事を得たのに、その後、不当にその利用を拒否されたとして、国家賠償法1条、3条に基づき、損害賠償を求めた事案。棄却

 「教育研究集会は、被控訴人の労働運動という側面を強く有するものであるが、過去48回にわたって行われた教育研究集会は、1回を除いて、学校施設を利用して開催されてきたことを考慮すると、県教委及び各市町村の教育委員会も、教育研究集会の教員などによる自主研修としての側面を尊重し、その便宜を図ってきたものであると認めることができ、以上の経過及び教育公務員特例法19条、20条の趣旨に照らすと、各教育委員会としては、被控訴人が教育研究集会を行える場を確保できるよう配慮する義務があったものといえる。」

  

○福岡県教職員組合鞍手直方支部事件・福岡高判平16120判例タイムズ1159号149頁裁判所ウェブサイ

  控訴人県教職員組合A支部のB小学校分会が、組合加入勧誘のオルグ活動のためB小学校施設の使用許可を同小学校校長に求めたところ、校長がこれを拒否したため、校長の本件不許可処分は裁量権を逸脱した違法な処分であるとして、損害賠償を求めた事案の控訴審で、使用者は教職員以外の外部の者を含むものではないこと、使用目的が控訴人の組合活動の一環たる分会会議であり、憲法28条の趣旨からもその団結権が尊重されるべきであること、被控訴人は、A校長が本件許可申請についてこれを不許可とした理由の一として、事前に組合加入勧誘の対象者がC、D、E及びFの4名であることを聞き及んでおり、その中には、当日休暇を取ろうか、出席を断ったら気まずくなるだろうかと動揺している者、授業に関して生徒及びその保護者との間のトラブルで神経をすり減らすような関係が続いで悩んでいる者、妊娠障害で苦しみ、特別休暇を繰り返している者がいたため、校長としては正常な授業を維持するためには授業と直接関係のないことで教員らにこれ以上の精神的負担をかけさせないように配慮する必要があったし、激しい組合加入勧誘がなされることも予想されたので、上記対象者の精神的負担を軽減させたり、組合加入勧誘による学校内での組合員と非組合員との気まずい人間関係が生じることを危惧しなければならなかった旨主張したが、そもそも上記主張のような組合加入勧誘に関連する行為についての事情ないし危惧は、それ自体、基本的には勧誘者ないし組合とその勧誘対象者各自の個々的対応に委ねられるべき性質のものであり、控訴人傘下の分会会議のために学校の施設の使用を不許可とする根拠としては薄弱であるといわざるを得ないなどとして、校長の行なった不許可の裁量判断は不合理で、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱、濫用として違法であるとして、原判決を変更し、請求を一部認容した事例。 

  

○呉市立中学校教研集会使用不許可事件・広島地判平14.3.28民集602443

 

○呉市立中学校教研集会使用不許可事件・最三小判平1827 民集60巻2号401頁、裁判所ウェブサイト

 

  教職員組合が第49次広島県教育研究集会の会場として、呉市立中学校の体育館等の学校施設の使用を申し出、いったん、中学校校長から口頭で、これを了承する返事を得たのに、その後、不当にその利用を拒否されたとして、国家賠償法1条、3条に基づき、損害賠償を求めた事案。棄却。

 公立学校の学校施設の目的外使用を許可するか否かは、原則として、管理者の裁量にゆだねられており、学校教育上支障がない場合であっても、行政財産である学校施設の目的及び用途と当該使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により許可をしないこともできる。 公立学校の学校施設の目的外使用を許可するか否かの管理者の判断の適否に関する司法審査は、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものである。

 

 公立小中学校等の教職員によって組織された職員団体がその主催する教育研究集会の会場として市立中学校の学校施設を使用することの許可を申請したのに対し、市教育委員会が同中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き、児童生徒に教育上悪影響を与え、学校教育に支障を来すことが予想されるとの理由でこれを不許可とする処分をした場合につき、〔1〕教育研究集会は、上記職員団体の労働運動としての側面も強く有するものの、教員らによる自主的研修としての側面をも有していること、〔2〕前年の第48次教育研究集会まで1回を除いてすべて学校施設が会場として使用されてきていたこと、〔3〕上記申請に係る集会について右翼団体等による具体的な妨害の動きがあったことは認められず、上記集会の予定された日は休校日である土曜日と日曜日であったこと、〔4〕教育研究集会の要綱などの刊行物に学習指導要領等に対して批判的な内容の記載は存在するが、いずれも抽象的な表現にとどまり、それらが自主的研修の側面を大きくしのぐほどに中心的な討議対象となるものとまでは認められないこと、〔5〕当該集会の中でも学校教科項目の研究討議を行う分科会の場として学校施設を利用する場合と他の公共施設を利用する場合とで利便性に大きな差違があることは否定できないこと、〔6〕当該中学校の校長が職員会議を開いた上で支障がないとし、いったんは口頭で使用を許可する意思を表示した後に、市教育委員会が過去の右翼団体の妨害行動を例に挙げて使用させない方向に指導し、不許可処分をするに至ったことなど判示の事情の下においては、上記不許可処分は裁量権を逸脱したものである。

(民集の要約から引用)

 

○都立王子養護学校事件・東京地判平18.6.23判タ1239169頁(都障労組の教研集会の使用不許可処分を違法とする)

 

◯大阪市労組組合事務所使用不許可事件・大阪地判平26910判時2261号128頁

(組合事務所使用不許可を違法と目的外使用許可処分の義務付けと国家賠償請求を認める)控訴審は一部変更

 

◯大阪市立西九条小学校等教研集会使用不許可処分事件・大阪地判平261126判時2259号114頁(使用不許可処分を違法と国家賠償法上の違法も認める)

 

○大阪市立西九条小学校等教研集会使用不許可処分事件・大阪高判平271013判時2296号30頁(大阪市側敗訴部分一部取消、使用不許可処分は違法だが国家賠償法上の違法、過失は認められない)

 

 

3.大阪市庁舎組合事務所使用不許可事件・大阪高判27・6・2の意義

 

 近年の呉市立学校事件の判断枠組によった高裁判例の理論的説示でもっとも重要な判例といえる。大阪市庁舎組合事務所使用不許可事件・大阪高判27・6・2は、組合寄りだった一審の一部変更判決だが、実質大阪市側の勝訴である。

労働組合等の便宜供与を禁止する大阪市労使関係条例を憲法28条。14条、地方自治法、労組法に違反しないとしたうえで、大阪市庁舎内の組合事務所の平成2526年度使用不許可を適法とし、占有している部分の明け渡しと、使用料相当の損害金の支払いを命じた。

 本件は、4つの事件からなる。

第1事件・平成24年度の組合事務所使用不許可処分を団結権等の侵害とし国家賠償法条の損害賠償金の支払いを求めるもの。第2事件が不許可処分後も組合事務所として占有している事務室部分について明け渡しを求めるとともに不法行為に基づき使用料相当損害金の支払いを求めるもの。第3・4事件が、大阪市労使関係条例制定後の平成25・26年度の組合事務所使用不許可処分を団結権等の侵害とし国家賠償法条の損害賠償金の支払いを求め、加えて第4事件は許可処分の義務づけを求めた。

 原審は第1、3、4事件の不許可処分を取り消し、許可処分を義務づけ、無形損害を認め、第2事件は却下。労働組合等の便宜供与を禁止する大阪市労使関係条例を適用違憲とする。

 高裁は第1事件のみ原審の判断を維持し、第3~4事件は地裁の判断を否定、同条例を合憲であり、労組法や地公法にも違反しない「適正かつ健全な労使関係の確保を図るため」「法的権利とはされていない労働組合に対する便宜供与を一律に禁止するのは不相当とはいえない」として、組合事務所を退去させ行政事務スペースを確保する必要を認め、使用不許可処分を適法としたうえ、第2事件も地裁の判断占有部分の明け渡しと使用料相当の損害金の支払いを命じた。

 

 コメント-団結権等の支障の有無・程度をも考慮すべき要素としているのは、原審、高裁も同じだが、原審(地裁判決)には「団結権等を侵害するおそれがないか配慮しなければならない」という言辞があり、最高裁が認めてはいない配慮義務に言及したのは組合に寄りすぎる説示といえる。

 高裁は、労組法は便宜供与を受ける権利を組合に付与するものではないし、問題となるのは、組合を嫌悪し、弱体化する意図、不当労働行為であるが、原審がH市長に団結権を侵害する意図が継続的にあったとするのに対し、高裁は、H市長は労使癒着の構造を改め、市民感覚に会うように是正を求めたのであって、組合を嫌悪し、支配介入する意図までは認められないとする。

 ただし、第1事件についてのみ市長が3ヶ月前に何の前触れもなく不許可の方針を示し、事務方の説明も詳細に亘るものではなく、あまりに性急だったとして、社会通念に反し違法としたのである。

 これは私の見解だが、本件は行政庁の庁舎管理に関する事案だが、高裁判決は大筋で、一般私企業の施設管理権判例の判例法理とのアナロジーで行政庁の裁量を語ってよいことを示しており、それゆえ、行政財産の先例(地方自治法238条の4第7項の目的外使用不許可処分)である呉市立中学校事件の判断枠組みのみならず、札幌地本事件最三小判昭541030民集336676(ビラ貼り戒告処分を適法とする)、済生会中央病院事件最二小判平元・11211民集43-12-1786(無許可集会警告を適法とする)、オリエンタルモーター事件最二小判平798判時1546130頁(無許可食堂利用拒否を適法とする)といった私企業の代表的な先例を引用している。これらの先例は、団結権等との法益権衡による調整的アプローチを否定しており、許諾のない労組の勝手な施設利用は正当な組合活動でないと判示するものである。

 原審のような、団結権等への配慮云々という判断枠組は先例に反する。もしも原審の判断が維持されたとするならば、不許諾施設利用は、労働基本権によって正当化されないとする一般私企業の判例法理と著しく乖離したものとなった。

 この点、高裁は最高裁の先例に沿った無難な判断をとった。団結権等に支障を及ぼす支障の有無・程度をも考慮すべき要素とすることについて原審同様に認めるとしても、オリエンタルモーター事件最二小判平798が説示する「使用者が労働組合による企業施設の利用を拒否する行為を通して労働組合の弱体化を図ろうとする場合に不当労働行為が成立し得ることはいうまでもない」(総合花巻病院事件・最一小判昭60 523労働委員会関係裁判例集20164頁という先例にもとづくと考えられる)のと同様の趣旨と理解してよいだろう。 

 

 結論として、呉市立中学校教研集会使用不許可事件 最三小判平18.2.7の判断枠組では自主研修としての教研集会は許可されなければならないだろうが、その他の大多数の組合活動を許可するか否かは、管理者の裁量権の範囲とみてよいのである。

 私の考えは大阪市のように日常的な分会会議のような便宜供与まで認めないのはやり過ぎに思うが、少なくとも、他の職員の職務専念への集中を妨げたり、休憩時間の自由利用を妨げたり、その後の作業能率を低下させるおそれがある組合活動、実際の就労現場に接近した組合活動はむろんのこと、ストライキを前提とした闘争スケジュールが明確になった時点で、組合活動の会議室利用、構内の集会利用などの便宜供与は中止命令してよいと考える。これはスト決行体制確立、業務規制闘争突入指令発令後の便宜供与を禁止する郵政省の方針を是認した東京城東郵便局事件・東京地判昭59・9・6労判442号45頁という先例もあることであり、地方自治法238条の47項号(旧4項)の目的外使用不許可の判断過程審査にも耐えられるので相当なものと判断できるからである。

 

引用・参考

安藤高行

2010「近年の人権判例(6)」『九州国際大学論集』1632010年(ネット公開)

石橋洋

1987「企業内政治活動・ビラ配布の自由と企業秩序 : 目黒電報電話局事件・明治乳業事件判決を素材として」季刊労働法142 1987

河上和雄

1980 「企業の施設管理権と組合活動--昭和541030日最高裁第三小法廷判決について(最近の判例から)」法律のひろば3311980

川神裕 呉市立中学校教研集会学校施設使用不許可事件最三小判平18.2.7 『最高裁判所判例解説民事篇平成18年度(上)』法曹会206頁 

菊池高志

1983「労働契約・組合活動・企業秩序 『法政研究』49(4) 1983

黒原智宏

2008 「公立学校施設の目的外使用の不許可処分と司法審査-呉市公立学校施設使用不許可国家賠償請求事件上告審判決」『自治研究』84巻10号

高木紘一

1978「政治活動の禁止と反戦プレートの着用-目黒電報電話局事件」ジュリスト666

中嶋士元也

1992「最高裁における『企業秩序論』」季刊労働法157

竹下英男・水野勝・角田邦重

1974「企業内における政治活動の自由-横浜ゴム事件・東京高裁判決をめぐって-」労働法律旬報850 

土田伸也

「学校施設使用許可と考慮事項の審査」別冊ジュリスト211『行政判例百選Ⅰ』第6版、2012年

仲野武志

2007「公立学校施設の目的外使用の拒否の判断と管理者の裁量権」判時1956号177頁

本田滝雄

2007「公立学校施設の目的外使用不許可処分と司法審査」ジュリスト1332

三井正信

2009 「労働契約法と企業秩序・職場環境(1) <論説> 」広島法学332

皆川治廣

2008 「判例解説 学校使用不許可処分損害賠償事件」『法令解説資料総覧』295号

山本隆司

2010「判例から探究する行政法第23回行政裁量(1)」法学教室359

渡辺章

2011『労働法講義 下 労使関係法・雇用関係法Ⅱ』信山社2011 

 

2019/01/20

地方公営企業に適用できる施設管理権(庁舎管理権)や行政財産の目的外使用許可の裁量等の判例法理(その3)


(二)「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」とされた事例
(追加挿入)
  *目黒電報電話局判決の判断枠組引用せずとも「実質的に秩序風紀を乱すおそれ」が認定されたとしては事例は以下のとおり
 
   
7  休憩時間の自由利用を妨げ、作業能率の低下のおそれ

  「就業時間外であつても休憩時間中に行われる場合には他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後における作業能率を低下させるおそれのある」目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13民集31-7-974、同趣旨のものとして大日本エリオ事件・大阪地判平元・4・13労判538号6頁「本件署名活動は施設内において、しかもその趣旨説明、説得を伴っていたことから、被告の施設管理権、秩序維持権を侵害したうえ、休憩中の他の従業員の由に休憩する権利をも相当程度妨げたと推認され、これをもって正当な組合活動であったということは到底できない」と説示し譴責処分を適法とする。
8 違法な行為をあおり、そそのかすことを含むもの

 ビラの内容につき「違法な行為をあおり、そそのかすことを含むものであつて、職場の規律に反し局所内の秩序を乱すおそれ」目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13民集31-7-974。
 ビラではなく、集会について同趣旨のものとして東京城東郵便局事件・東京地判昭59・9・6労判442号45頁がスト決行体制確立、業務規制闘争突入指令発令後の、郵便局内での組合集会開催のための施設の利用を許諾することは、違法*行為を助長する結果となるおそれが大きいと当局側が判断したことについては、相当な理由があるとして、事案の会議室使用不許可に権利濫用と認めるべき特段の事情はないと判示し、不許可集会強行、欠勤、管理職らに対する暴行を理由とする郵政職員2名に対する懲戒免職処分を有効とする。
 *注意すべき点として、最高裁の無許可集会(施設利用)等の5判例は、全逓新宿郵便局事件・最三小判昭58・12・20、池上通信機事件最三小判昭63・7・19、日本チバガイギー事件・最一小判平元・1・19、済生会中央病院事件最二小判平元・1・12・11、オリエンタルモーター事件・最二小判平7・9・8は、施設利用の拒否、無許可集会に対する監視、解散命令、警告書交付は不当労働行為に当たらないとしたもので懲戒処分事案ではない。
 全逓新宿郵便局事件の休憩室や予備室の無許可集会については郵政省の就業規則第二一条で「組合事務室以外の庁舎の一時的な使用を申し出たときは、庁舎使用許可願を提出」することになっており、最高裁が是認した控訴審判決は、郵政省の就業規則第二一条にもとづき「一般の庁舎の目的外使用の場合と全く同様に、許可願を提出して承認を受けた上でなければ、該集会のために休憩室を使用することはできない」等説示するが、組合の休憩室の排他的使用によつて、非組合員等の休憩時間の自由利用を妨げるとか、予備室の集会は勤務時間中の者とそうでない者が混在する時間帯のものだが、勤務中の職員の離脱を促す影響といった実質的に秩序をみだすおそれについては何の言及もない。
 これは、懲戒処分事案でないためと思われるが、たんに許可願を提出していないだけでは形式的規則違反にすぎず、処分を行う場合は抽象的でよいが理由づけが必要ではないかと思われる。
 類似した事案では、前記東京城東郵便局事件・東京地判昭59・9・6のほか全逓長崎中央郵便局事件・長崎地判昭59・2・22労判441号カードが、中止命令されているにもかかわらず、施設内の無許可職場集会強行は懲戒処分事由となっている。
 
七 休憩時間中、就業時間外の組合活動-管理権を侵害し、企業秩序をみだすおそれのある組合活動は規制できる

(施設内における休憩時間中の行動を規制しても労働基準法第34条第3項違反にはならない)
 リーディングケースは●米軍立川基地出勤停止事件・東京高判昭40・4・27労民集16巻2号317頁で、全駐労組合員10名が、米軍の許可なく休憩時間中に基地内の食堂、休憩室その他の場所で職場報告会等の組合活動を行ったことを理由とする出勤停止処分を適法とした。使用者は、労働基準法第34条第3項の規定により、労働者に対して休憩時間を自由に利用させる義務を負うが、使用者がその事業施設に対する管理権を有する以上、右権利の行使として施設内における労働者の休憩時間中の行動を規制しても、それが労働による疲労の回復と労働の負担軽減を計ろうとする休憩制度本来の目的を害せず、かつ右管理権の濫用とならないかぎり、違法ということはできないと判示。
 ●日本ナショナル金銭登録機懲戒解雇事件・東京地判昭42・10・25労民集18巻5号1051頁も同趣旨の判断を示している。
 最高裁判例は2つあり、●米軍立川基地事件・最三小判昭49・11・29集民113号235頁は 「一般に労働者は、休憩時間中といえども、その勤務する事業所又は事務所内における行動については、使用者の有する右事業所等の一般的な管理権に基づく適法な規制に服さなければならない‥‥‥もつとも、労働者は、通常、休憩時間中も勤務場所における滞留を余儀なくされるものであるから、使用者の管理権に基づく労働者の行動規制も無制限であることをえず、管理上の合理的な理由がないのに不当な制約を課する場合には、あるいは労働基準法の前記規定に違反するものとして、あるいは管理権の濫用として、その効力を否定せられることもありうるというべきであるが、管理権の合理的な行使として是認されうる範囲内における規制であるかぎりは、これにより休憩時間中における労働者の行動の自由が一部制約せられることがあつても、有効な規制として拘束力を有し、労働者がこれに違反した場合には、規律違反として労働関係上の不利益制裁を課せられてもやむをえない」と判示した。
 続いて●目黒電報電話局反戦プレート事件・最三小判昭52・12・13民集31-7-974が「休憩時間の自由利用といつてもそれは時間を自由に利用することが認められたものにすぎず、その時間の自由な利用が企業施設内において行われる場合には、使用者の企業施設に対する管理権の合理的な行使として是認される範囲内の適法な規制による制約を免れることはできない。また、従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律に基づく制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない‥‥局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であっても、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあつて、その内容いかんによつては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるのであるから、これを局所管理者の許可にかからせることは、前記のような観点に照らし、合理的な制約ということができる。」としており、同事件は政治活動の事案だが、その判旨が組合活動なも及ぶことは既に述べたとおりで、休憩時間の組合活動についても施設管理権を侵害し、企業秩序みだすおそれのある行動は規制したとしても、労働基準法第34条第3項としならないことは明白であるといえる。 
 本件は、政治活動事案だが、組合活動も同判決の判旨が適用されるのは明らかなことである。
 同趣旨の下級審判例として、●国労兵庫支部鷹取分会事件・神戸地決昭63・3・22労働判例517号52頁のほか、●大日本エリオ事件・大阪地判平元・4・13労判538号6頁は「本件署名活動はその趣旨説明、説得を伴っていたことが認められる。そして、休憩時間中においては他の労働者が休憩時間を自由に利用する権利を有していることが尊重されなければならないから、これを妨げる行為を当然にはなしえないと解すべき」としている。
八 正当な組合活動ではなく懲戒事由となることを認めたにもかかわらず懲戒処分が不当労働行為とされた例


 ○国・中労委(医療法人光仁会)事件・東京高判平21・8・19労判1001号94頁( 平21・2・18東京地判の控訴審) 「 当裁判所も,本件組合旗設置を正当な組合活動ということはできず‥‥懲戒処分を行うこと自体は不相当とはいえないが,本件懲戒処分(停職3か月,その間,賃金不支給,本件病院敷地内立入禁止)は,懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠くものであり,また‥‥,甲野理事長に交替した後の労使関係においては控訴人の補助参加人(組合)に対する嫌悪を十分に推認できるのであるから,本件懲戒処分は‥‥組合活動に対する嫌悪を主たる動機として,補助参加人の下部組織の分会長であるBに対して著しく過重なものとして科されたものと認めるのが相当であり,本件懲戒処分は労組法7条3号の不当労働行為に当たるものと判断する。」
 懲戒事由(本件組合旗設置)に比して著しく過重であって相当性を欠く場合は、たとえ正当な組合活動でなくも不当労働行為となることがあるので注意したい。

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