民法731条改正、737条及び757条の廃止に反対し、修正案を提案するパート2 要旨長文バージョンと本文の目次
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(*要約)
一.16・17歳女子の婚姻資格剥奪は結婚し家庭を築き子どもを育てる権利という幸福追求に不可欠な権利、婚姻の自由(憲法二四条や一三条と密接な関連のある法的利益)の重大な侵害であり、憲法違反の疑いも濃厚である
(一) 再婚禁止期間違憲訴訟大法廷判決の違憲判断基準について
(*婚姻の自由の直接的制約は中間審査基準を示唆、つまり正当な立法目的と具体的な手段との間に実質的関連性がなければ違憲の疑いが濃いといえる)
(二)権利を剥奪するにあたって正当な立法目的は何一つない
1.成人年齢と法定婚姻適齢を一致させ、成年擬制や未成年者の親の同意要件をなくすのが世界的趨勢という説明は虚偽であり、16歳を婚姻適齢とし、成人擬制や未成年者の親の同意要件を定める婚姻法は英国や北米などで一般的である
(*とくにアメリカ合衆国では州法統一運動の統一婚姻離婚法のモデルが16歳を親の同意要件により婚姻適齢とし、16歳未満でも補充要件で裁判上の承認など救済できる制度となっており、このため米国では16歳を基準とする州が大多数であり、過半数の州では年齢に制限なく婚姻を可能としている、また米国では45州が18歳を成人年齢としているが、未成年も婚姻可能なので、我が国の成年擬制と同じ未成年者解放制度がある。そういう事実を隠して婚姻適齢を18歳にするのは当然などと主張するのは非常に汚いやりかただ)
2.「社会生活が複雑化・高度化した現時点でみれば、婚姻適齢は、男女の社会的・経済的成熟度に重きを置いて定めるのが相当」とは正当な立法目的とはいえない
(1)社会的・経済的成熟度を強調して婚姻年齢を引き上げるのは、憲法24条1項の含意する「婚姻の自由」の理念に反する
A 合意主義の歴史的由来と婚姻の自由
(*憲法24条1項の合意主義の法制史的淵源は、ローマ法の無式合意主義諾成婚姻理論とそれを継受した古典カノン法に由来する。それは社会的経済的利害関係を捨象し婚姻の要件にしないことを特徴とするものであり、婚姻は、自由でなければならぬMatrimonia debent esse libera(Marriages ought to be free)というローマ法の法諺も由来は同じことであるから合意主義婚姻理論=婚姻の自由といってもよい。従って社会的・経済的成熟を口実にした結婚の権利剥奪は、婚姻の自由の理念に本質的になじまない性格のもので、正当な立法目的とはいえない)
B 婚姻の自由の法源に照らして、社会的経済的成熟の要求は不当である
(婚姻の自由の根拠は以下に述べる新約聖書・秘跡神学・ローマ公教要理である。また結婚と幸福追求と結び付けた思想的淵源はミルトンの離婚論の結婚観である)
a) コリント前書7章2節、9節(姦淫を避けるための結婚、淫欲の治療薬remedium concupiscentiaeというだけで結婚してよい
(*初期スコラ学者が強調した教説だが聖書的根拠が明確なため現代でもカトリック教会の婚姻の理由付けの一つとなっており、西洋文明2000年の忽せにできない価値観である)
b)秘跡神学
c)ローマ公教要理(相互の扶助の場として夫婦の共同体への自然的欲求というだけで結婚してよい)
d)ミルトンの提唱した近代個人主義的友愛結婚(孤独からの救済・慰めと平穏と生きる力を得るための結婚 。happy conversationこそ結婚の目的)
(*以上の婚姻の自由の根拠となる思想は、本質的に個人の心理的充足を第一義とし、社会的・経済的条件で婚姻を制約することを否定するものであるから、社会的経済的成熟の要求という立法目的は不当だと断定できる)
(2)憲法13条の幸福追求権は社会的・経済的成熟度を口実として奪われるべきではない
(*直接的な法源とはならないが合衆国最高裁は1967年に「結婚の自由は、自由な人間が幸福を追求するのに不可欠で重要な個人の権利の一つとして、長らく認められてきた。結婚は『人間の基礎的な市民的権利』の一つである‥‥」 Loving v. Virginia, 388 U.S. 1 (1967)と宣言しており、米国では婚姻の直接的制約は憲法違反の疑いが濃いのである)
(3)16・17歳女子が婚姻適応能力を有する社会的・経済的成熟に達していないという具体的根拠は何もない
A 社会生活が複雑化・高度化した現時点で16・17歳女子は婚姻適応能力を失ったという見解に論理性はない
a)古より我が国においては16・17歳女子は結婚するに相応しい成熟した年齢とされ、その婚姻適応力に疑問の余地はない
b)高度産業社会となるから晩婚化が必然という前提での議論の過ち
(*初婚年齢や未婚率について歴史人口学では前近代のヨーロッパが晩婚型の社会で明らかにしており、高度産業社会と晩婚化は無関係)
c)高校教育修了程度の社会的・経済的成熟の要求は全く論理性がない
(*結婚のために義務教育以上の教育を政府が要求するのは不当であり、就労が可能であるから中卒でも稼得能力はある)
(三)「社会的・経済的成熟」の要求と16・17歳の婚姻資格はく奪とは実質的(合理的)関連性がない
(*仮に配偶者の一方の稼得能力が乏しいとしても、そもそも結婚は夫婦の相互扶助の共同体であるから婚姻生活は成立するので、当事者との双方とも不確定概念である社会的・経済的成熟を要求することは高すぎるハードルであり、婚姻適応能力とは実質的関連性がない)
(四)「社会的・経済的成熟」を要求する真意はジェンダー論ないしマルクス主義フェミニズムの公定化であり、特定のイデオロギーの偏重であり、婚姻生活の国民の私的自治を否定するものである
(*結婚生活の性的分業については私的自治にかかわる問題で政府の干渉は許されない、特定のイデオロギーで規格化された婚姻形とするための政策は全体主義的といえる)
二 実情に詳しい野田愛子氏(故人)の賢明な意見が不当にも無視された
(*女性初の高裁長官となった野田愛子氏は、家裁など実務経験が豊富で、16・17歳女子婚姻資格剥奪にはかなり問題があることを指摘し反対していた)
三 法律婚制度の安定性を揺るがす
四 想定される当局側の私の意見に対する反論
(*近年児童婚を人権侵害とするキャンペーンが世界的に影響力を増しているが、婚姻の自由の抑制こそ人権だという主張は偏っている。こうした団体の突き上げはきっぱり拒否すべきである)
政府案に反対し修正案を提案する理由【本文】目次
一 男女とも18歳とする1996年法制審議会民法部会の答申の改正理由に全く論理性がない
(一) 法制審議会答申のいう婚姻適齢 「18歳が世界的趨勢」というのは全くの偽情報であり、法制審議会は国会・国民をだましている
1.先進国等において16歳が婚姻適齢とされている立法例
(1) 英国
(2) アメリカ合衆国
A 要旨
B 男女とも16歳を婚姻適齢としている州が多い経緯
a)統一婚姻・離婚法モデル
b)ERAの批准過程
C 年間5万8千人が18歳未満で結婚しているという現実
(3)カナダ
(4)ドイツ(2016年までの法)
2.参考例としての教会法
3.アメリカ合衆国の大多数の州で年少者の婚姻可能性を否定しない理由は何か
(1) 憲法上の基本的権利である結婚し家庭を築く自由
A 実体的デュープロセス
B 1923年マイヤー対ネブラスカ判決の卓越性
C 1967年ラビング対ヴァージニア判決(結婚を人間の基礎的な市民的権利と宣言)
(2)バレンス・パトリエ権限による介入は論理性がない
(3)成熟した未成年者の法理(米国でも未成年の結婚は成人擬制と同じ制度がある)
(4)文明史的コンテキスト(結婚は自由でなければならないという法諺、性欲の鎮静剤としての結婚の意義という教会法の理念の継承)
4 仏独型の改革でなく英米型の法思考が望ましい
(1)仏独・イスラム圏からの移民対策による婚姻適齢令引上げの愚
(2)ニューヨーク州婚姻適齢引上げの問題点
(3)早婚を非難する人権団体はジェンダー論者で結婚よりも女性の経済的自立を望ましいとする偏った思想である
(4)ニューハンブシャー州議会は男14歳、女13歳の婚姻適齢を維持
(二)16・17歳女子は社会的・経済的に未熟な段階とし、当該年齢での婚姻が当事者の福祉に反するという決めつけは根拠薄弱である
1. 相互扶助共同体の形成が幸福追求に不可欠なものという認識に乏しい政治家・官僚
2.高校卒業程度の社会的・経済的成熟の要求という理由は論理性が全くない
(1)高卒程度でないと婚姻適応能力を欠くというのは論理性はない
(2)0.21%だから国民の幸福追求権を否定してよいとはいえない
3. 野田愛子氏(故人)の意見が不当にも無視された
4.社会的・経済的成熟の要求は結局不当な主観的判断といえる
(1)漠然不明確な婚姻の自由抑制理由
(2)社会的・経済的に成熟しなければ結婚してはいけないというのも偏った思想である
(3)もともと婚姻適齢に自由主義的だった我が国の伝統に反する
二 成人擬制を廃止し、婚姻適齢を成人年齢に一致させることの不合理
(一)45州の成人年齢が18歳であるアメリカ合衆国にも婚姻による成年擬制制度がある
(二)伝統的には成人年齢と成熟年齢を分けていた
(三)16歳で大人扱いするスコットランド法
(四)16歳未満がchildで16・17歳のyaungと明らかに区別するイングランド法
(五)成人年齢でなにもかも一元化するのは不合理
(六)法律家だけでなく、発達心理学的見地、精神医学、人間学的洞察の必要性
(七)18歳未満の第二級市民化のおそれ
(一)16・17歳女子に求婚し結婚した偉人たち
1.ジョン・ミルトンの初婚の女性メアリー・パウエル16歳〔17歳とも〕
2.コトン・マザーの初婚の女性アビゲイル・ フィリップス16歳
3.エマーソンの初婚の女性エレン・ルイザ・タッカー〈17歳で婚約、18歳で結婚〉
4.ジョン・マーシャル・ハーラン判事の妻マルビナ・シャンクリン16歳で求婚
(二)我が国の婚姻慣習・習俗からみて女子18歳は不当に高すぎる年齢だ
(婚姻適齢は13歳、娘盛りは14~17歳とみなすのが妥当)
1 令制男15歳・女13歳は広義の自然法として評価する見解があり、徳川時代まで婚姻適齢としての意義を有していた
2「女の盛りなるは、十四五六歳‥‥」という有名な今様がある
3 民間習俗では裳着、鉄漿つけ(お歯黒)、十三参り、十三祝等が女子の婚姻資格を取得する通過儀礼
4 江戸三美人の年齢
5 江戸文学における美人の年齢
6 明治前期の東京は早婚で離婚率も高かった
7 明治期東京において娘盛りとは15歳から17歳であったという決定的証拠
(三)婚姻の自由の抑制と憲法問題
1 再婚禁止期間違憲訴訟の判断基準に照らしても違憲の疑いがある
2幸福追求に不可欠な結婚の権利の縮小にはきわめて慎重な態度をとるべき
(1)慰めと平和を得るための結婚の否定は正しいか
(2)夫婦の相互扶助による共同体への自然的欲求の否定は正しいか
(3)結婚が幸福追求権と無関係というのはマルキストかアナーキストに近づいている
四 男女平等以上に、ジェンダー論やマルクス主義の結婚観を公定化し、国民の私的自治を否定する立法目的は粉砕されるべきである
(一)圧力団体の要求に応えることが主たる立法目的になっている
(二)婚姻適齢改正の底意はジェンダー論ないしマルクス主義フェミニズムの公定イデオロギー化である
(三)法的平等の達成とジォンダー論やマルクス主義フェミニズムの公定化は違う
(四)ジェンダー論の過ち-婚姻家族の破壊
(五)マルクス主義フェミニズムの過ち-神聖な私有財産の否定、個別家政の廃棄、家族死滅論
1 父権制の攻撃とは私有財産制の攻撃である
2 エンゲルスが婚姻家族を「妻の公然もしくは隠然たる家内奴隷制」と非難するのは反文明思想である。
3 私有財産制の止揚によって真に人格的愛情による結婚が出現するという虚構
五 【附属論文】結婚は自由でなければならない 婚姻法制史
〔古典カノン法を基軸とする西洋文明の婚姻理念を継承すべきであり、婚姻の自由を抑制する婚姻適齢引上げに 強く反対である]
(1)古典カノン法の何が自由なのか
A 古典カノン法とは
B 当事者の相互的な婚姻誓約だけで婚姻が成立(無式合意主義諾成婚姻理論)
C 家父ないし両親・領主の同意要件を明確に否定(親族とのコンセンサスの排除)
D 婚姻適齢はローマ法を継受したが成熟は年齢を補うという理論によりさらに緩和した
(2)結婚が自由でなければならない理由
A 聖書的根拠(淫行を避けるための手段としての結婚)
B 副次的理由
(3)古典カノン法が近代まで生ける法だった英国における自由な結婚の歴史
(4)近代個人主義友愛結婚の源流は古典カノン法にあり、現代人の結婚観を規定したものであるから、自由な結婚の理念は継承されなければならない
(1)明治民法施行前、そもそも婚姻適齢法制がなくても何の問題もなかったし、婚姻適齢を引上げる正当な理由は何一つない
(2)婚姻適齢法制の文明基準-2000年以上続いているローマ法の男14歳女12歳 (3)親や領主の同意要件を否定し未成年者の婚姻を肯定する教会法が婚姻成立要件では人類史上もっとも自由主義的な立法である
(4)秘密婚を容認する古典カノン法が近代まで継続したイギリス(結婚は自由でなければならない、それは現代人の結婚観の基本となった)
(1)ローマ法
(2)キリスト教とセクシャリティ(カノン法成立の背景と現代人の結婚観の基本)
A 新約聖書における三種類の全く異なった思想
a)婚姻と通常の社会関係を否定する反(脱)社会思想(イエスの急進的使信)
b)仮言命法による結婚の消極的是認(真正パウロ-コリント前書7章)
c)結婚を肯定し家庭訓を説く(第二パウロ書簡と第一ペトロ書)
B 独身優位主義の確定とその決定的な意義
C 情欲の鎮和剤remedium concupiscentiaeとしての結婚目的は決定的で、婚姻の自由のもっとも重要な根拠である
D コリント前書「情欲の緩和」が近代個人主義的友愛結婚の思想的源流でもある
(3)教会の管轄権となった婚姻と、秘跡神学の進展
(4)古典カノン法の成立
(5)秘密婚をめぐる軋轢、世俗権力との抗争
(6)トレント公会議で要式主義へ転化したが親の同意要件は一貫して否定
(7)フランス-教会婚姻法から離反(婚姻法の還俗化の嚆矢)
(8)イギリス-宗教改革後も無式合意主義(古典カノン法)が生ける法として継続
A 古典カノン法が近代まで生ける法だったイギリスの特筆すべき法文化
B 秘密婚の隆盛(17世紀より18世紀前半のイギリス)
C 1753年ハードウィック卿法による婚姻法の還俗化
D グレトナ・グリーン結婚(18世紀中葉から19世紀中葉)-それでも自由な 結婚が有効だった
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